説明

光学活性含フッ素オキセテンの製造方法

【課題】重要な医農薬中間体に成り得る光学活性含フッ素オキセテンを、安定に単離することができる実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる光学活性含フッ素オキセテンの製造方法は、含フッ素α−ケトエステルと内部アルキンとを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下に反応させることを特徴とするものである。
本発明の製造方法を採用することにより、比較的少ない不斉触媒量でも、光学活性含フッ素オキセテンを高い位置選択性で、さらに高い立体選択性(高い光学純度)で収率良く得ることができる。さらに、得られた光学活性含フッ素オキセテンは、種々の有用な中間体に変換することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性含フッ素オキセテンの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とする光学活性含フッ素オキセテンは、重要な医農薬中間体に成り得るものである。
【0003】
従来技術として、トリフルオロピルビン酸メチルとエトキシアセチレンの[2+2]環化付加反応が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、含フッ素α−ケトエステルとシリルアセチレンを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させた後、加水分解することにより、光学活性含フッ素アルキニル化生成物を製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
さらに、含フッ素α−ケトエステルとアシルアルケニルエーテルを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の存在下に反応させることにより、光学活性含フッ素オキセタンを製造する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−195736号公報
【特許文献2】特開2010−222345号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tetrahedron(英国),2003年,第59巻,第9号,p.1389−1394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明で対象とする光学活性含フッ素オキセテンは新規化合物であり、これまで、該オキセテンに関連する製造方法は一切知られていない。
【0009】
非特許文献1では、反応中間体として含フッ素オキセテンの存在が類推されているだけであり、不安定なため実際は単離することができない。また、光学活性体の製造を想定したものでもない。
【0010】
特許文献1および2では、求核剤としてシリルアセチレンやアシルアルケニルエーテルが用いられているが、本発明ではこれらと異なる内部アルキンを用いている。
【0011】
さらに、得られる生成物も構造上明らかに異なっている(光学活性含フッ素アルキニル化生成物、光学活性含フッ素オキセタン vs.光学活性含フッ素オキセテン)。
【0012】
また、プロパルギル位に水素原子を有するアルキンでは、カルボニル−イン反応が起こることが知られているが、本発明で用いる内部アルキンにもこの様なアルキンが含まれており、2,3−アレノールの副生が危惧されるところである。
【0013】
このような状況下において、重要な医農薬中間体に成り得る光学活性含フッ素オキセテンを、安定に単離することができる実用的な製造方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す光学活性含フッ素オキセテンの製造方法等、具体的には[発明1]〜[発明5]を提供するものである。
【0015】
[発明1]
一般式[1]:
【化1】

[式[1]中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。]
で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]:
【化2】

【0016】
[式[2]中、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。]
で示される内部アルキンとを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下に反応させることにより、一般式[3]:
【化3】

【0017】
[式[3]中、Rf、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテンを製造する方法。
【0018】
[発明2]
一般式[4]:
【化4】

【0019】
[式[4]中、Rはメチル基またはエチル基を表す。]
で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[5]:
【化5】

【0020】
[式[5]中、Rは芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基を表し、Rはハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。]
で示される内部アルキンとを、光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体の存在下に反応させることにより、一般式[6]:
【化6】

【0021】
[式[6]中、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテンを製造する方法。
【0022】
[発明3]
光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体が、光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体であることを特徴とする、発明1または2に記載の方法。
【0023】
[発明4]
一般式[3]:
【化7】

【0024】
[式[3]中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテン。
【0025】
[発明5]
一般式[6]:
【化8】

【0026】
[式[6]中、Rはメチル基またはエチル基を表し、Rは芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基を表し、Rはハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテン。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、新規化合物である光学活性含フッ素オキセテンを安定に単離可能な該オキセテンの製造方法を提供することができる。
【0028】
また、本発明の製造方法を採用することにより、比較的少ない不斉触媒量でも、光学活性含フッ素オキセテンを高い位置選択性で、さらに高い立体選択性(高い光学純度)で収率良く得ることができる。
【0029】
さらに、得られた光学活性含フッ素オキセテンは、種々の有用な中間体に変換することもできる。
【0030】
この様に、本発明は、重要な医農薬中間体に成り得る光学活性含フッ素オキセテンの実用的な製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の光学活性含フッ素オキセテンの製造方法等について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、以下における一般式[1]〜[6]とは、前記の通りのものである。
【0032】
一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルのRfはパーフルオロアルキル基を表し、炭素数が1から12のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖、分枝または環式を採ることができる。
【0033】
一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルのRはアルキル基を表し、炭素数が1から12のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖、分枝または環式を採ることができる。
【0034】
含フッ素α−ケトエステルの中でも、大量規模での入手が容易である、パーフルオロアルキル基(Rf)がトリフルオロメチル基であり、かつエステル部位のアルキル基(R)がメチル基またはエチル基であるものが好ましく(具体的には一般式[4]で示される含フッ素α−ケトエステル)、光学活性含フッ素オキセテンの製造に好適である。
【0035】
一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルの使用量は、一般式[2]で示される内部アルキン1モルに対して0.2モル以上を用いれば良く、0.3から7モルが好ましく、0.4から5モルが特に好ましい。
【0036】
一般式[2]で示される内部アルキンのRおよびRはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。
【0037】
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0038】
アルキル基は、炭素数が1から12のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖、分枝または環式を採ることができる。
【0039】
芳香環基は、炭素数が1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基が挙げられる。
【0040】
核酸塩基は、アデニン残基、グアニン残基、ヒポキサンチン残基、キサンチン残基、ウラシル残基、チミン残基、シトシン残基等が挙げられる。
【0041】
核酸塩基は、核酸関連化合物の合成分野で一般的に使用される保護基で保護することができる[例えば、ヒドロキシル基(異性化後の官能基として)の保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、メトキシメチル基、アリル基等のアルキル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基等のアラルキル基等が挙げられる。また、アミノ基の保護基としては、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらに、これらの保護基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基等が置換することもできる]。
【0042】
また、核酸塩基のアミノ基または(および)ヒドロキシル基を、水素原子、シアノ基、アミノ基、アジド基、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子またはチオール基等で置換することもできる。
【0043】
アルコキシカルボニル基(COR)のアルキル部位(R)は上記と同じアルキル基が挙げられる。
【0044】
置換アルキル基、置換芳香環基、置換核酸塩基および置換アルコキシカルボニル基は、それぞれアルキル基、芳香環基、核酸塩基およびアルコキシカルボニル基の、任意の炭素原子、窒素原子、酸素原子、または(および)硫黄原子上の水素原子を、任意の数でさらに任意の組み合わせで、下記の置換基に置き換えたものである。
【0045】
係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等の低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルケニル基(低級アルキル基の隣接する2つの炭素原子から、それぞれ1つずつ水素原子を計2つ取り除いて二重結合が形成されたもの)、低級アルキニル基(低級アルキル基の隣接する2つの炭素原子から、それぞれ2つずつ水素原子を計4つ取り除いて三重結合が形成されたもの)等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の芳香環基、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピロリルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が挙げられる。
【0046】
これらの置換基の内、“不飽和基”、“芳香環基”、“芳香環オキシ基”および“脂肪族複素環基”には、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。
【0047】
これらの置換基の中には、副反応に関与するものもあるが、好適な反応条件を採用することにより、所望の反応を良好に行うことができる。
【0048】
なお、本明細書において、次の各用語は、それぞれ次に掲げる意味で用いられる。“低級”とは、炭素数が1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を意味する。“不飽和基”が二重結合(アルケニル基)の場合は、E体またはZ体の両方の幾何異性を採ることができる。
【0049】
“ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基”としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を用いることができる(2つ以上の官能基を1つの保護基で同時に保護することもできる)。
【0050】
内部アルキンの中でも、片方の置換基(R)が、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基であり、残る置換基(R)が、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基であるものが、所望の反応が位置選択的に進行するため好ましく(具体的には一般式[5]で示される内部アルキン)、光学活性含フッ素オキセテンの製造に好適である。この場合には、目的物である光学活性含フッ素オキセテンの内部アルケン部位において、酸素原子が結合した炭素原子側にR(R)が位置し、炭素原子が結合した炭素原子側にR(R)が位置する。
【0051】
「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」としては、一般式[7]:
【化9】

【0052】
[式[7]中、X−*−Xは光学活性SEGPHOS誘導体(図A)、光学活性BINAP誘導体(図B)、光学活性BIPHEP誘導体(図C)、光学活性P−Phos誘導体(図D)、光学活性PhanePhos誘導体(図E)、光学活性1,4−Et−cyclo−C−NUPHOS(図F)または光学活性BOX誘導体(図G)等を表し、YはNi、Pd、PtまたはCuを表し、ZはSbF、ClO、BF、OTf(Tf;CFSO)、AsF、PFまたはB(3,5−(CFを表す]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【0053】
または、一般式[8]:
【化17】

【0054】
[式[8]中、Rは水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、Meはメチル基を表す]で示されるBINOL−Ti錯体等が挙げられる。
【0055】
その中でも「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」が好ましく、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体」が特に好ましく、所望の反応が立体選択的に進行する。ここでは、光学活性な配位子として代表的なものを挙げており、例えば、CATALYTIC ASYMMETRIC SYNTHESIS,Second Edition,2000,Wiley−VCH,Inc.に記載されたものを適宜使用することができる。また、Zとしては、SbF、BF、OTfおよびB(3,5−(CFが好ましく、SbF、OTfおよびB(3,5−(CFが特に好ましい。
【0056】
これらの錯体は公知の方法により調製することができ(例えば、Tetrahedron Letters(英国),2004年,第45巻,p.183−185、Tetrahedron:Asymmetry(英国),2004年,第15巻,p.3885−3889、Angew.Chem.Int.Ed.(ドイツ国),2005年,第44巻,p.7257−7260、J.Org.Chem.(米国),2006年,第71巻,p.9751−9764、J.Am.Chem.Soc.(米国),1999年,第121巻,p.686−699、nature(英国),1997年,第385巻,p.613−615等)、単離した錯体は当然、それ以外に、反応系中で予め調製し単離せずに用いることもできる。これらの錯体には水やアセトニトリル等の有機溶媒が配位(溶媒和)したものを用いることもできる。
【0057】
また、一般式[9]:
【化18】

【0058】
[式[9]中、X−*−X、YおよびZは一般式[7]と同じものを表す]で示される「光学活性な配位子を有するカチオン性2核の遷移金属錯体」も、一般式[7]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」と同様に用いることができる場合がある。
【0059】
光学活性な配位子の立体化学[(R)、(S)、(R,R)、(S,S)等]としては、目的とする光学活性含フッ素オキセテンの立体化学に応じて適宜使い分けることができる。
【0060】
光学活性な配位子の光学純度としては、目標とする光学活性含フッ素オキセテンの光学純度に応じて適宜設定すれば良く、通常は95%ee(エナンチオマー過剰率)以上を用いれば良く、97%ee以上が好ましく、99%ee以上が特に好ましい。
【0061】
これらの光学活性な配位子の中でも、BINAP誘導体が両エナンチオマーを最も安価に入手することができ、かつ不斉触媒に誘導した時の活性も極めて高いため好適であり、BINAPおよびTol−BINAPが好ましく、BINAPが特に好ましい。
【0062】
「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体」の使用量は、一般式[2]で示される内部アルキン1モルに対して0.4モル以下を用いれば良く、0.3から0.00001モルが好ましく、0.2から0.0001モルが特に好ましい。
【0063】
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系等が挙げられる。
【0064】
その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系およびエーテル系が好ましく、芳香族炭化水素系およびハロゲン化炭化水素系が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0065】
また、本発明の製造方法は反応溶媒の非存在下に行うこともできる。反応溶媒を用いる場合、反応溶媒の使用量は、一般式[2]で示される内部アルキン1モルに対して0.05L以上を用いれば良く、0.1から30Lが好ましく、0.15から20Lが特に好ましい。
【0066】
反応温度は、−100から+150℃の範囲で行えば良く、−90から+125℃が好ましく、−80から+100℃が特に好ましい。
【0067】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質、不斉触媒および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)等の分析手段により反応の進行状況をモニターし、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0068】
後処理として、反応終了液に対して有機合成における一般的な操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示される光学活性含フッ素オキセテンを得ることができる。具体的には、反応終了液に含まれる不斉触媒をショートカラムで取り除き、濾洗液を濃縮することにより、比較的簡便な操作で粗生成物を得ることができる。粗生成物は必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作により、高い純度に精製することができる。
【0069】
本発明で得られる光学活性含フッ素オキセテンは、新規化合物であり、重要な医農薬中間体に成り得るものである。一般式[3]で示される光学活性含フッ素オキセテンの中でも、パーフルオロアルキル基がトリフルオロメチル基であり、エステル部位のアルキル基がメチル基またはエチル基であり、内部アルケン部位の片方(酸素原子が結合した炭素原子側)の置換基が芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基であり、残る(炭素原子が結合した炭素原子側)置換基がハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基である、光学活性含フッ素オキセテン(具体的には一般式[6]で示される光学活性含フッ素オキセテン)が好ましく、大量規模での製造が可能であり、特に重要な医農薬中間体に成り得る。なお、一般式[6]で示される光学活性含フッ素オキセテンは、前述した一般式[4]で示される含フッ素α−ケトエステルと一般式[5]で示される内部アルキンとを用いた反応により得ることができる。
【0070】
本発明で得られる光学活性含フッ素オキセテンは、日本化学会 編 第5版 実験化学講座(丸善)等を参考にして、有機合成における一般的な変換反応に付すことができる。
【0071】
実際に、後述する実施例で得られた光学活性含フッ素オキセテンを水素化、加水素分解、酸加水分解または加熱することにより、種々の有用な中間体に収率良く変換することができた(スキーム1を参照)。
【化19】

【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
塩化メチレン1.0mLに、下記式:
【化20】

【0074】
で示される(S)−BINAP−PdCl8.0mg(0.010mmol)とAgSbF7.6mg(0.022mmol)をアルゴン雰囲気下で加え、室温で30分間攪拌した(一般式[7]で示される「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体(X−*−X;(S)−BINAP、Y;Pd、Z;SbF)」が反応系中で生成)。
【0075】
この不斉触媒溶液に、下記式:
【化21】

【0076】
で示される含フッ素α−ケトエステル680mg(4.0mmol)と、下記式:
【化22】

【0077】
で示される内部アルキン376mg(2.0mmol)を−40℃で加え、−20℃で12時間攪拌した。
【0078】
反応終了液を直接、ショートカラム(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:3)に付し、「光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体」を取り除き、濾洗液を減圧濃縮し、残渣(粗生成物)をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/酢酸エチル:n−ヘキサン=1:20)で精製することにより、下記式:
【化23】

【0079】
で示される光学活性含フッ素オキセテン(精製品)を709mg得た。収率は99%であった。光学純度はキラル液体クロマトグラフィーにより98%ee(R体)であった。
【0080】
キラル液体クロマトグラフィーの測定条件を下に示す。
【0081】
カラム/CHIRALPAK AD−3、移動相/2−プロパノール:n−ヘキサン=1:99、流速/0.5mL/min、温度/15℃、検出器/UV254nm、保持時間/マイナー異性体(S体)16.2min、メジャー異性体(R体)17.7min。
【0082】
H、13Cおよび19F−NMRを下に示す。
【0083】
H−NMR(300MHz,CDCl)δ 0.93(t,J=7.5Hz,3H),1.34(t,J=7.2Hz,3H),1.33−1.60(m,4H),2.43(t,J=8.1Hz,2H),3.81(s,3H),4.35(q,J=7.2Hz,2H),6.92(d,J=9.0Hz,2H),7.46(t,J=9.0Hz,2H).
13C−NMR(75MHz,CDCl)δ 13.7,13.9,22.5,24.1,30.2,55.3,62.6,86.2(q,JC−F=33.2Hz),113.5,114.1,121.3,122.2(q,JC−F=280.4Hz),127.8,160.9,162.7,164.0.
19F−NMR(282MHz,CDCl)δ −75.9.
[実施例2]〜[実施例8]
実施例1を参考にして同様に実施例2から8を行った。
【0084】
実施例1〜8の結果を表1に纏めた。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法により得られる光学活性含フッ素オキセテンは医農薬中間体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式[1]中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。]
で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]:
【化2】

[式[2]中、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。]
で示される内部アルキンとを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下に反応させることにより、一般式[3]:
【化3】

[式[3]中、Rf、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテンを製造する方法。
【請求項2】
一般式[4]:
【化4】

[式[4]中、Rはメチル基またはエチル基を表す。]
で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[5]:
【化5】

[式[5]中、Rは芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基を表し、Rはハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。]
で示される内部アルキンとを、光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体の存在下に反応させることにより、一般式[6]:
【化6】

[式[6]中、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテンを製造する方法。
【請求項3】
光学活性な配位子を有する2価カチオン性の遷移金属錯体が、光学活性な配位子を有する2価カチオン性のパラジウム錯体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一般式[3]:
【化7】

[式[3]中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテン。
【請求項5】
一般式[6]:
【化8】

[式[6]中、Rはメチル基またはエチル基を表し、Rは芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基または置換核酸塩基を表し、Rはハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、核酸塩基、置換核酸塩基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表す。]
で示される光学活性含フッ素オキセテン。

【公開番号】特開2012−111721(P2012−111721A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263128(P2010−263128)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業育成ステージにおける「東京工業大学大学院理工学研究科教授 三上幸一」を研究リーダーとする研究課題「光学活性含フッ素化合物の工業的製造法の開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】