説明

光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体及びその製造方法。

【課題】医農薬の合成中間体として有用な新規光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体及びその製造方法の提供。
【解決手段】下記式(1)等


で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体を、光学活性トリフルオロチルtert−ブチルスルフィンイミンと1−メトキシ−3−トリフルオロシリルオキシ−1,3−ブタジエンを反応させ、次いで酸で処理することにより得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体及びその製造方法に関する。光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体は医・農薬の製造中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来より、本発明の光学活性N−tert−ブトキシスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンは知られていない。
【0003】
類似化合物としては、光学活性N−(α−メチルベンジル)−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体を光学活性トリフルオロメチル α−メチルベンジルイミンと1−メトキシ−3−トリメチルシリルオキシ−1,3−ブタジエンのヘテロ・ディールス・アルダー反応により得る方法または光学活性N−tert−ブトキシカルボニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体をN−tert−ブトキシカルボニル−4−ピペリドンから得る方法は知られている(特許文献1)。
【0004】
さらに、光学活性N−(α−メチルベンジル)−2−ジフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体を光学活性ジフルオロメチル α−メチルベンジルイミンと1−メトキシ−3−トリメチルシリルオキシ−1,3−ブタジエンのヘテロ・ディールス・アルダー反応により得る方法が知られている(非特許文献1)。
【0005】
一方、光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンアミドは不斉導入剤として有用で、不斉アルキル化反応で光学活性4−アミノ−5,5,5−トリフルオロメチル−1−ブテン等が得られることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4445753号公報。
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T;Yamazaki, et. al., Tetrahedron Asymmetry, 5(6), 1029-1040(1994)。
【非特許文献2】Y;Kikugawa, et. al., J. Fluorine Chem., 131(2010), 477-486。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の特許文献1に記載されているトリフルオロメチル α−メチルベンジルイミンと1−メトキシ−3−トリメチルシリル−1,3−ブタジエンの反応により光学活性N−(α−メチルベンジル)−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体を得る方法は、ジアステレオ選択性の記載はないが、ジアステレオマーの分離が必要であることが記載されており、ジアステレオ選択性が低いと考えられる。また、光学活性N−tert−ブトキシカルボニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体をN−tert−ブトキシカルボニル−4−ピペリドンから得る方法は、ラセミ体を得る方法で、何らかの光学分割が必須である。
【0009】
一方、非特許文献1に記載の光学活性N−(α−メチルベンジル)−2−ジフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン誘導体を光学活性ジフルオロメチル α−メチルベンジルイミンと1−メトキシ−3−トリメチルシリルオキシ−1,3−ブタジエンのヘテロ・ディールス・アルダー反応により得る方法は、ジアステレオ選択性が最大でも81/19と低く、ジアステレオマーの分離が必須である。
【0010】
さらに、非特許文献2には、tert−ブチルスルフィンアミドは不斉導入剤として有用であることが記載されているが、ヘテロ・ディールス・アルダー反応に有効であることは記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミンを用いたヘテロ・ディールス・アルダー反応について鋭意検討を行ったところ、高いジアステレオ選択性で、新規な光学活性N−(tert−ブチルスルフェニル)−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
[項1] 下記式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
または下記式(2)
【0015】
【化2】

【0016】
で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体。
【0017】
[項2] 下記式(3)
【0018】
【化3】

【0019】
で表される(R)−トリフルオロメチル(tert−ブチルスルフィンイミン)または下記式(4)
【0020】
【化4】

【0021】
で表される(S)−トリフルオロメチル(tert−ブチルスルフィンイミン)と下記式(5)
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるジエンを反応させ、次いで酸で処理することを特徴とする項1に記載の式(1)または式(2)で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体の製造方法。
[項3] ルイス酸存在下、反応を行うことを特徴とする項2に記載の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、医農薬の合成中間体として有用な、高光学純度のトリフルオロメチル基を含有する光学活性2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンの簡便な製造方法が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明の式(1)に表される化合物は(6R,1'S)−N−tert−ブチルスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンである。また、式(2)に表される化合物は(6S,1'R)−N−tert−ブチルスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンである。
【0027】
本発明の式(3)または式(4)に表される光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドは、2,2,2−トリフルオロアセトアルデヒドと光学活性tert−ブチルスルフィンアミドとの反応により容易に調製可能な化合物である。
【0028】
本発明の式(5)で表されるジエンは1−メトキシ−3−トリメチルシリルオキシ−1,3−ブタジエンで、市販されており、購入可能な化合物である。
【0029】
本発明の式(1)または式(2)で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体を製造するには、式(3)または式(4)で表される光学活性トリフルオロメチル(tert−ブチルスルフィンイミン)と式(5)で表されるジエンを反応させ、次いで酸で処理すればよいが、反応速度及び選択性を向上させる目的でルイス酸を添加することが好ましい。
【0030】
本発明の製造に適用可能なルイス酸としては具体的には、例えばボロントリフルオリド−エーテル錯体、ボロントリフルオリド−アセトニトリル錯体、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、クロロジメトキシアルミニウム、クロロジエトキシアルミニウム、塩化チタン(IV)、テトラメトキシチタン(IV)、テトラエトキシチタン(IV)、テトライソプロポキシチタン(IV)、クロロトリイソプロポキシチタン(IV)、塩化鉄(III)、塩化銅(II)、塩化亜鉛、塩化ジルコニウム(IV)、テトラメトキシジルコニウム(IV)、テトラエトキシジルコニウム(IV)、塩化スカンジウム、臭化スカンジウム、トリメトキシスカンジウム、トリエトキシスカンジウム、スカンジウムトリフラート、塩化イットリウム、臭化イットリウム、トリメトキシイットリウム、トリエトキシイットリウム、イットリウムトリフラート、塩化ランタン、臭化ランタン、トリメトキシランタン、トリエトキシランタン、ランタントリフラート、塩化セリウム、臭化セリウム、トリメトキシセリウム、トリエトキシセリウム、セリウムトリフラート、塩化サマリウム(III)、臭化サマリウム(III)、トリメトキシサマリウム(III)、トリエトキシサマリウム(III)、サマリウム(III)トリフラート、塩化ユーロピウム、臭化ユーロピウム、トリメトキシユーロピウム、トリエトキシユーロピウム、ユーロピウムトリフラート、塩化ガドリウム、臭化ガドリウム、トリメトキシガドリウム、トリエトキシガドリウム、ガドリウムトリフラート、塩化イッテルビウム、臭化イッテルビウム、トリメトキシイッテルビウム、トリエトキシイッテルビウム、イッテルビウムトリフラート等があげられる。
【0031】
本発明の製造に適用可能なルイス酸の使用量としては、反応に具する光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドに対して0.01〜1.5モル量の範囲であるが、通常触媒として0.05〜0.2モル量を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造に使用する1−メトキシ−3−トリフルオロシリルオキシ−1,3−ブタジエンの使用量は、該化合物の純度にもよるが、通常、1.0〜5.0モル量の範囲で、好ましくは1.5〜3.0モル量の範囲である。
【0033】
本発明の製造に適用可能な溶剤としては、反応に不活性なものであればあらゆるものが適用可能であるが、具体的には、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(以下THFと略す)等のエーテル系溶剤、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶剤等があげられるが、THF等のエーテル系溶剤が好ましい。使用量としては反応に具する光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドに対して3〜100重量倍量、好ましくは5〜50倍量使用する。
【0034】
本発明の製造における反応温度及び時間は、ルイス酸の種類、ルイス酸の使用量、溶剤の種類、溶剤の使用量により異なるが通常、−80〜40℃の温度範囲で、反応時間は1〜48時間の範囲である。
【0035】
本発明の製造に適用可能な酸としては、具体的には、例えば、1〜36重量%濃度の塩酸水溶液、1〜40重量%濃度の硫酸水溶液で、光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドと1−メトキシ−3−トリフルオロシリルオキシ−1,3−ブタジエンを所定の温度で所定の時間反応を行った後、酸を光学活性トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドに対して0.001〜0.1モル量添加し、室温に戻し、1〜8時間反応を行う。
【0036】
本発明の反応後の後処理としては、周知の処理で問題ないが、例えば、水を添加、ジクロロメタンで抽出、有機層を合わせて硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮することにより粗製物を得、必要に応じてシリカゲルカラムクロマトグラフィー等で精製しても良い。
【実施例】
【0037】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
なお絶対構造については、反応機構より決定した。
【0039】
実施例1 テトライソプロポキシチタンでの反応
攪拌子を備えた50mlのナス型フラスコを窒素置換した後、これに(S)−トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミド(261mg、1.30mmol)、1−メトキシ−3−トリフルオロシリルオキシ−1,3−ブタジエン(360mg、1.95mmol)及びTHF(6.0ml)を仕込み、攪拌しながら−80℃に冷却した後、これにテトライソプロポキシチタン(40.0mg、0.14mol)添加し、同温度で18時間反応を行った。
【0040】
18時間保持後、36%HCl(0.1ml)を添加した後、室温に戻し、同温度で2時間攪拌を行った。
【0041】
反応終了後、ジクロロメタン(3ml)で3回抽出、硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮することにより粗製物(532mg)を得た。得られた粗製物をベンゾトリフルオリドを内標準として用いた19F−NMRでの定量により、収率72%、主生成物/異性体比=91/9(mol/mol)であった。
【0042】
さらに、得られた粗製物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより精製(6R,1'S)−N−tert−ブチルスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドン(280mg、1.04mmol)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl)δppm。
19F−NMR(376MHz,CDCl)δ−81.95(d,J=7.52Hz)ppm。
Minorδ−80.86(d,J=7.52Hz)ppm。
【0043】
実施例2 (R)−トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドでの反応
実施例1と同じ反応装置を用い、(S)−トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドに替えて(R)−トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミドを用いた以外実施例1と同じ操作を行い、(6S,1'R)−N−tert−ブチルスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンを得た(収率74%、目的物/異性体比=90/10(mol/mol))。
H−NMR(400MHz,CDCl)δ1.17(s,3H)、2.13(d,1H,J=1.2Hz)、2.14(d,1H,J=3.2Hz)、4.81(d,1H,J=10.4Hz)、5.06−5.13(m,2H)ppm。
19F−NMR(376MHz,CDCl)δ−81.95(d,J=7.52Hz)ppm。
Minorδ−80.86(d,J=7.52Hz)ppm。
【0044】
実施例3〜9 各種条件での反応
実施例1と同じ反応装置で、(S)−トリフルオロメチル tert−ブチルスルフィンイミド(261mg、1.30mmol)を用い、表1中に示した条件下、反応を行った。結果を表1中に示した。なお、収量、収率、主生成物/異性体の定量は19F−NMRにより行った。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のN−tert−ブチルスルフェニル−2−トリフルオロメチル−2,3−ジヒドロ−4−ピリドンは環上の2〜5位上に立体制御をして様々な置換基が導入可能であり、光学活性含フッ素アザ糖の合成原料として用いられる有用な化合物である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

または下記式(2)
【化2】

で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体。
【請求項2】
下記式(3)
【化3】

で表される(R)−トリフルオロメチル(tert−ブチルスルフィンイミン)または下記式(4)
【化4】

で表される(S)−トリフルオロメチル(tert−ブチルスルフィンイミン)と下記式(5)
【化5】

で表されるジエンを反応させ、次いで酸で処理することを特徴とする請求項1に記載の式(1)または式(2)で表される光学活性含フッ素2,3−ジヒドロピリドン誘導体の製造方法。
【請求項3】
ルイス酸存在下、反応を行うことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−162493(P2012−162493A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24628(P2011−24628)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】