説明

光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸及び光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステルの製造方法

【課題】水によって加水分解されやすいβ−アミノ酸エステルの自己加水分解を抑制し、単離取得が困難とされる光学活性N−置換−β−アミノ酸を、収率、選択性、操作性等が向上する、(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸及び逆の立体絶対配置のエステル体の工業的な製造方法を提供する。
【解決手段】加水分解酵素の存在下、有機溶媒中にて、水と、一般式(I)


(式中、Pは、保護基を示す。Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示し、Rは、アルキル基を示す。)で示されるN−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)の片方のエナンチオマーのみを選択的に反応させて、光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸を生成させるとともに、未反応の光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)から、同時に光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸と光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステルとを得る方法に関する。これら光学活性N−置換−β−アミノ酸及びそのエステルは、公知の還元方法によって、生理活性ペプチドやラクタム系抗生物質等の医・農薬品の原料又は合成中間体として有用な光学活性β−アミノ酸及びそのエステルに容易に誘導出来る化合物である(例えば、非特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、加水分解酵素を用いて、β−アミノ酸エステル類(ラセミ体混合物)から、同時に光学活性(R又はS)−β−アミノ酸類と光学活性(S又はR)−β−アミノ酸エステル類とを得る方法としては、Candida antarcticaを起源とするリパーゼ、水及びトリエチルアミンの存在下、3−ベンジルオキシカルボニルアミノブタン酸エチルエステル(ラセミ体混合物)を1,4−ジオキサン中で片方のエナンチオマーのみを選択的に加水分解させて、光学活性(S)−3−アミノブタン酸エチルエステル及び光学活性(R)−3−アミノブタン酸を得る方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、この方法では、反応時間が極めて長い上に、目的物の光学純度を高めるために、第三成分として基質と等量のトリエチルアミンを添加しなければならない等の問題があり、工業的な製造方法としては不利であった。
また、本発明に含まれる窒素上の置換基がアラルキル基類であるβ−アミノ酸アルキルエステル類の加水分解反応については、何ら記載されていなかった。
【0003】
従来、加水分解酵素を用いて、N−置換−β−アミノ酸エステル類(ラセミ体混合物)から、同時に光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸及び(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸エステル類を得る方法として、N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル類(ラセミ体混合物)を水中あるいは、水−有機溶媒二相系中で、片方のエナンチオマーをカンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼで加水分解させて、光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸と光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステルを得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、この方法では、生成物である光学活性N−置換−β−アミノ酸が水溶性である場合には、反応終了後、水溶液から100%回収することは困難である。また基質によっては多量の水の存在下で、基質の自己加水分解反応により光学純度の低下を招くという問題があった。なお、E値は、速度論的光学分割の選択性の指標として幅広く利用されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Current Medicinal Chemistry,6,955(1999)
【非特許文献2】Tetrahedron Asymmetry,8,37(1997))。
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,104,7294(1982)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2003/085120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)のエナンチオ選択的な加水分解反応による光学活性N−置換−β−アミノ酸の製造は、通常、加水分解酵素の存在下、水を主とする溶媒中にて、多量の水と、ラセミ体のN−置換−β−アミノ酸エステルを反応させる方法によって行われている。何故なら、基質であるラセミ体のN−置換−β−アミノ酸エステルの加水分解反応においては、水の量が多いほど、反応が促進すると考えられていたからである。本発明者らは、先に述べた課題解決の為に鋭意検討を行ったところ、加水分解酵素の存在下、有機溶媒中にて、水と、N−置換−β−アミノ酸エステル(ラセミ体混合物)を反応させることにより、水によって加水分解されやすい基質(N−置換−β−アミノ酸エステル)の、光学純度の低下を招く自己加水分解をほぼ完全に抑制し、かつ一般に水溶性であるために単離取得が困難とされる光学活性N−置換−β−アミノ酸を完全に回収出来る、従来技術に比べて、収率、選択性、操作性等が向上する、工業的な製造方法としてより優位である新規な反応系を見出すに到った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、加水分解酵素の存在下、有機溶媒中にて、水と、一般式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Pは、保護基を示す。Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示し、Rは、アルキル基を示す。)
で示されるN−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)の片方のエナンチオマーのみを選択的に反応させて、一般式(II)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸を生成させるとともに、一般式(III)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される未反応の光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(なお、一般式(II)の化合物とは逆の立体絶対配置を有する。)を得ることを特徴とする、光学活性β−アミノ酸及び光学活性β−アミノ酸エステルの製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、簡便な方法によって、N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)から、高収率及び高選択的に、同時に光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸と光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステルとを得る、工業的に好適な光学活性β−アミノ酸及び光学活性β−アミノ酸エステルの製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の反応では、例えば、下記の一般式(IV)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、P、R及びRは、前記と同義である。なお、(II)と(III)は逆の立体絶対配置を有する。)
で示されるように、加水分解酵素の存在下、水と前記の一般式(I)で示されるN−置換−β−アミノ酸アルキルエステルのラセミ体混合物(以下、化合物(I)と称することもある。)の片方のエナンチオマーのみを有機溶媒中で選択的に反応させて、一般式(II)で示される光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸(以下、化合物(II)と称することもある。)を生成させるとともに、一般式(III)で示される未反応の光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(以下、化合物(III)と称することもある。)を得ることが出来る。なお、化合物(II)と化合物(III)は逆の立体絶対配置を有する。
【0019】
化合物(I)のPは保護基を示すが、保護基とは、アミノ基のような反応性の高い特性基を一時的に保護する目的で使われる原子団である(例えば、化学大辞典,東京化学同人社,1354頁)。
【0020】
前記保護基としては、具体的には、例えば、ベンジル基、4−ニトロフェニルメチル基、4−メトキシフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等のアラルキル基;メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基等のアルコキシ置換アルキル基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;アセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基等のアシル基(アセタール化されていても良い);テトラヒドロピラニル基等の環内に酸素原子を含むシクロアルキル基;9−フルオレニルメトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基等のヒドロカルビルオキシカルボニル基が挙げられるが、好ましくはアラルキル基、更に好ましくはベンジル基である。
【0021】
化合物(I)のRは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示す。
【0022】
前記アルキル基とは、(3)「置換基を有していないアルキル基」又は(4)「置換基を有するアリール基」である。(3)の「置換基を有していないアルキル基」としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-オクチル基、更に好ましくはメチル基、エチル基である。(4)「置換基を有するアルキル基」の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基等の炭素数1〜4のアルコキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);シアノ基;ニトロ基等が挙げられるが、好ましくはフッ素原子、塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基である。このような置換基を有するアルキル基としては、具体的には、フルオロメチル基、クロロメチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、アミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、2−クロロエチル基、2,2−ジクロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−シアノエチル基が挙げられるが、好ましくはフルオロメチル基、クロロメチル基、ヒドロキシメチル基、アミノメチル基、ジメチルアミノメチル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基である。
【0023】
前記Rのアルケニル基とは、具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)が挙げられるが、好ましくはビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、更に好ましくはビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基である。
【0024】
前記Rのシクロアルキル基とは、(3)「置換基を有していないシクロアルキル基」又は(4)「置換基を有するシクロアルキル基」である。(3)の「置換基を有していないシクロアルキル基」としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基のようなシクロアルキル基が挙げられるが(なお、これらの基は、各種異性体を含む)、好ましくはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基であり、更に好ましくはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。(4)「置換基を有するシクロアルキル基」の置換基としては、具体的には、例えば、1−フルオロシクロプロピル基、2−クロロシクロプロピル基、3−フルオロシクロブチル基、メトキシシクロプロピル基、アミノシクロペンチル基、ジメチルアミノシクロヘキシル基、2−クロロシクロプロピル基、2,2−ジクロロシクロヘキシル基、2−ヒドロキシシクロブチル基、2−シアノシクロヘキシル基等が挙げられるが、好ましくはフルオロシクロプロピル基、クロロシクロブチル基である。
【0025】
前記Rのアラルキル基とは、(5)「置換基を有していないアラルキル基」又は(6)「置換基を有するアラルキル基」である。(5)の「置換基を有していないアラルキル基」としては、具体的には、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等のアラルキル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)が挙げられるが、好ましくはベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、3−フェニルプロピル基、3−フェニルブチル基である。(6)の「置換基を有するアラルキル基」の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ヒドロキシル基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基、ペンチルオキシル基、ヘキシルオキシル基、ヘプチルオキシル基、オクチルオキシル基、ノニルオキシル基、デシルオキシル基等の炭素数1〜10のアルコキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ベンジルオキシル基、フェネチルオキシル基、フェニルプロポキシ基等の炭素数7〜10のアラルキルオキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);フェニルオキシル基、ネフチルオキシル基等のアリールオキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);メトキシメトキシル基、メトキシエトキシル基等のアルコキシアルコキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、等が挙げられる。このような置換基を有するアラルキル基としては、具体的には、2−フルオロベンジル基、3−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、3,4−ジフルオロベンジル基、2,4−ジフルオロベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、3,4−ジクロロベンジル基、2−ブロモベンジル基、3−ブロモベンジル基、4−ブロモベンジル基、2,4−ジブロモベンジル基、3,4−ジブロモベンジル基、2−ヨードベンジル基、3−ヨードベンジル基、4−ヨードベンジル基、2,3−ジヨードベンジル基、3,4−ジヨードベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−エチルベンジル基、3−エチルベンジル基、4―エチルベンジル基、2−ヒドロキシベンジル基、3−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,4−ジメトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、2−エトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、2−トリフルオロメチルベンジル基、4−トリフルオロメチルベンジル基、4−ベンジルオキシベンジル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−シアノベンジル基、3−シアノベンジル基、4−シアノベンジル基、4−ジメチルアミノベンジル基、4−ホルミルアミノベンジル基、2−アセチルアミノベンジル基、3−アセチルアミノベンジル基、4−アセチルアミノベンジル基、4−ベンゾイルアミノベンジル基、2−(2−フルオロフェニル)エチル基、2−(3−フルオロフェニル)エチル基、2−(4−フルオロフェニル)エチル基、2−(3,4−ジフルオロフェニル)エチル基、2−(2,4−ジフルオロフェニル)エチル基、2−(2−クロロフェニル)エチル基、2−(3−クロロフェニル)エチル基、2−(4−クロロフェニル)エチル基、2−(2,4−ジクロロフェニル)エチル基、2−(3,4−ジクロロフェニル)エチル基、2−(2−ブロモフェニル)エチル基、2−(3−ブロモフェニル)エチル基、2−(4−ブロモフェニル)エチル基、2−(2,4−ジブロモフェニル)エチル基、2−(3,4−ジブロモフェニル)エチル基、2−(2−ヨードフェニル)エチル基、2−(3−ヨードフェニル)エチル基、2−(4−ヨードフェニル)エチル基、2−(2,3−ジヨードフェニル)エチル基、2−(3,4−ジヨードフェニル)エチル基、2−(2−トリル)エチル基、2−(3−トリル)エチル基、2−(4−トリル)エチル基、2−(2−エチルフェニル)エチル基、2−(3−エチルフェニル)エチル基、2−(4―エチルフェニル)エチル基、2−(2−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(2−メトキシフェニル)エチル基、2−(3−メトキシフェニル)エチル基、2−(4−メトキシフェニル)エチル基、2−(2,4−ジメトキシフェニル)エチル基、2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、2−(2−エトキシフェニル)エチル基、2−(4−エトキシフェニル)エチル基、2−(2−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−ベンジルオキシフェニル)エチル基、2−(2−ニトロフェニル)エチル基、2−(3−ニトロフェニル)エチル基、2−(4−ニトロフェニル)エチル基、2−(2−シアノフェニル)エチル基、2−(3−シアノフェニル)エチル基、2−(4−シアノフェニル)エチル基、2−(4−ジメチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−ホルミルアミノフェニル)エチル基、2−(2−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(3−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−ベンゾイルアミノフェニル)エチル基、3−(2−フルオロフェニル)プロピル基、3−(4−フルオロフェニル)プロピル基、3−(4−クロロフェニル)プロピル基、3−(4−ブロモフェニル)プロピル基、3−(4−ヨードフェニル)プロピル基、3−(2−クロロフェニル)プロピル基、3−(2−メトキシフェニル)プロピル基、3−(4−メトキシフェニル)プロピル基、3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロピル基、3−(4−トリフルオロメチルフェニル)プロピル基、3−(2−トリフルオロメチルフェニル)プロピル基、3−(4−ニトロフェニル)プロピル基、3−(4−シアノフェニル)プロピル基、3−(4−アセチルアミノフェニル)プロピル基等が挙げられるが、好ましくは、
2−フルオロベンジル基、3−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−ブロモベンジル基、3−ブロモベンジル基、4−ブロモベンジル基、22−ヨードベンジル基、3−ヨードベンジル基、4−ヨードベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−ヒドロキシベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、2−トリフルオロメチルベンジル基、4−トリフルオロメチルベンジル基、4−ベンジルオキシベンジル基、2−ニトロベンジル基、3−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−シアノベンジル基、3−シアノベンジル基、4−シアノベンジル基、4−ホルミルアミノベンジル基、3−アセチルアミノベンジル基、4−アセチルアミノベンジル基、4−ベンゾイルアミノベンジル基、2−(2−フルオロフェニル)エチル基、2−(3−フルオロフェニル)エチル基、2−(4−フルオロフェニル)エチル基、2−(2−クロロフェニル)エチル基、2−(3−クロロフェニル)エチル基、2−(4−クロロフェニル)エチル基、2−(2−ブロモフェニル)エチル基、2−(3−ブロモフェニル)エチル基、2−(4−ブロモフェニル)エチル基、2−(2−ヨードフェニル)エチル基、2−(3−ヨードフェニル)エチル基、2−(4−ヨードフェニル)エチル基、2−(2−トリル)エチル基、2−(3−トリル)エチル基、2−(4−トリル)エチル基、2−(2−エチルフェニル)エチル基、2−(2−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(2−メトキシフェニル)エチル基、2−(3−メトキシフェニル)エチル基、2−(4−メトキシフェニル)エチル基、2−(2,4−ジメトキシフェニル)エチル基、2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、2−(2−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−ベンジルオキシフェニル)エチル基、2−(2−ニトロフェニル)エチル基、2−(3−ニトロフェニル)エチル基、2−(4−ニトロフェニル)エチル基、2−(2−シアノフェニル)エチル基、2−(3−シアノフェニル)エチル基、2−(4−シアノフェニル)エチル基、2−(2−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(3−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−ベンゾイルアミノフェニル)エチル基、3−(2−フルオロフェニル)プロピル基、3−(4−フルオロフェニル)プロピル基、3−(4−クロロフェニル)プロピル基、3−(4−ブロモフェニル)プロピル基、3−(4−ヨードフェニル)プロピル基、3−(2−クロロフェニル)プロピル基、3−(2−メトキシフェニル)プロピル基、3−(4−メトキシフェニル)プロピル基、3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロピル基、3−(4−トリフルオロメチルフェニル)プロピル基、3−(2−トリフルオロメチルフェニル)プロピル基、3−(4−ニトロフェニル)プロピル基、3−(4−シアノフェニル)プロピル基、3−(4−アセチルアミノフェニル)プロピル基、
更に好ましくは、2−フルオロベンジル基、4−フルオロベンジル基、2−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2−ブロモベンジル基、4−ブロモベンジル基、2−ヨードベンジル基、4−ヨードベンジル基、2−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、2−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、2−トリフルオロメチルベンジル基、4−トリフルオロメチルベンジル基、4−ベンジルオキシベンジル基、2−ニトロベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−シアノベンジル基、3−シアノベンジル基、4−シアノベンジル基、3−アセチルアミノベンジル基、4−アセチルアミノベンジル基、2−(2−フルオロフェニル)エチル基、2−(4−フルオロフェニル)エチル基、2−(2−クロロフェニル)エチル基、2−(4−クロロフェニル)エチル基、2−(2−ブロモフェニル)エチル基、2−(4−ブロモフェニル)エチル基、2−(2−ヨードフェニル)エチル基、2−(4−ヨードフェニル)エチル基、2−(2−トリル)エチル基、2−(4−トリル)エチル基、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(2−メトキシフェニル)エチル基、2−(4−メトキシフェニル)エチル基、2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル基、2−(2−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−トリフルオロメチルフェニル)エチル基、2−(4−ベンジルオキシフェニル)エチル基、2−(2−ニトロフェニル)エチル基、2−(4−ニトロフェニル)エチル基、2−(2−シアノフェニル)エチル基、2−(4−シアノフェニル)エチル基、2−(2−アセチルアミノフェニル)エチル基、2−(4−アセチルアミノフェニル)エチル基である。
【0026】
前記Rのアリール基とは、(1)「置換基を有していないアリール基」又は(2)「置換基を有するアリール基」である。(1)の「置換基を有していないアリール基」としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。)が挙げられるが、好ましくはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基である。(2)の「置換基を有するアリール基」の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ヒドロキシル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基等の炭素数1〜4のアルコキシル基(なお、これらの基は、各種異性体を含む。);ニトロ基等が挙げられる。このような置換基を有するアリール基としては、具体的には、2−トリル基、3−トリル基、4−トリル基、2,3−キシリル基、2,6−キシリル基、2,4−キシリル基、3,4−キシリル基、メシチル基、2−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−ヨードフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−ブトキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、2−ニトロフェニル基等が挙げられるが、好ましくは2−トリル基、4−トリル基、2,3−キシリル基、3,4−キシリル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、2−ニトロフェニル基、更に好ましくは4−トリル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、4−ニトロフェニル基である。
【0027】
化合物(I)のRは、アルキル基を示す。
【0028】
前記Rのアルキル基とは、前記Rのアルキル基と同義である。
【0029】
本発明の反応において使用する化合物(I)は、例えば、Pで示される保護基がベンジル基の場合には、β−ケトエステル類と1−アリールアルキルアミン類とを脱水縮合反応させて、相当するエナミン類を生成させた後、それを水素還元することによって容易に合成出来る(例えば、Current Medicinal Chemistry,,955(1999))。
【0030】
本発明の加水分解で使用する加水分解酵素としては、例えば、プロテアーゼ、エステラーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、好ましくは酵母又は細菌から単離可能な微生物のリパーゼ、更に好ましくはバルクホルデリア・セパシア(シュードモナス・セパシア)(Burkholderia cepacia (Pseudomonas cepacia))を起源とするリパーゼ(例えば、Amano PS(アマノエンザイム社製)等)、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)を起源とするリパーゼ(例えば、Novozym 435(ノボザイム社製)等)、特に好ましくはCandida antarcticaを起源とするリパーゼが使用される。なお、これらの加水分解酵素は、天然の形又は固定化酵素として市販品をそのまま使用することが出来、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0031】
前記の加水分解酵素は、天然の形又は固定化酵素として市販されているものを、化学的処理又は物理的処理を行った後に使用することも出来る。
【0032】
前記化学的処理又は物理的処理方法としては、具体的には、例えば、加水分解酵素を緩衝液に溶解させ(必要に応じて有機溶媒を存在させても良い)、そのまま又は攪拌して凍結乾燥する等の方法が挙げられる。なお、凍結乾燥とは、水溶液及び水分を含む物質を急速に氷点以下の温度で凍結させ、その凍結物の水蒸気圧以下に減圧して水を昇華させて除去し、物質を乾燥させる方法である(例えば、非特許文献3参照)。なお、当該処理によって、触媒活性(反応性や選択性等)を向上させることができる。
【0033】
前記緩衝液としては、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液等の無機酸塩の水溶液;酢酸ナトリウム水溶液、酢酸アンモニウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液等の有機酸塩の水溶液が挙げられるが、好ましくはリン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液、酢酸アンモニウム水溶液が使用される。なお、これらの緩衝液は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0034】
前記緩衝液の濃度は、好ましくは0.01〜2モル/L、更に好ましくは0.05〜0.5モル/Lであり、緩衝液のpHは、好ましくは4〜9、更に好ましくは7〜8.5である。
【0035】
凍結乾燥する際に使用する緩衝液の量は、加水分解酵素が完全に溶解する濃度であれば特に制限されないが、好ましくは加水分解酵素1gに対し10ml〜1000mlであり、さらに好ましくは10ml〜100mlである。
【0036】
前記加水分解酵素の使用量は、化合物(I)1gに対して、好ましくは0.1〜1000mg、更に好ましくは1〜200mgである。
【0037】
本発明の反応は、加水分解酵素の存在下、有機溶媒中にて行われる。本発明の反応中、加水分解酵素は、反応溶液中において実質的に懸濁状態で存在して反応に関与するが、僅かに溶解していても問題はない。なお、本発明における「有機溶媒中」とは、加水分解に使用する反応溶媒が有機溶媒であり、かつ反応系内から、加水分解酵素(固定化剤を含む場合もある)及び結晶として析出する生成物等を除く、有機溶媒に溶解している液体部分が相分離を起していない状態(即ち、水(後述の無機塩や有機塩を含んでいても良い)、基質及び有機溶媒が単一の相をなしている状態)を示す。
【0038】
本発明の反応において使用される水としては、通常、イオン交換水や蒸留水等の精製された水が使用されるが、水に、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機塩や、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機塩を反応系内に存在させることが望ましい。これらの無機塩及び有機塩の量は、水に対し、0.01〜10mol/Lの量で使用されることが好ましく、更に好ましくは0.1〜1mol/Lである。なお、予め前記の無機塩や有機塩を水に溶解し、緩衝液を調製して反応に使用しても構わない。
【0039】
前記水の使用量は、使用する有機溶媒の溶解度以下の量であり(溶解度を超えると液体部分の相分離が生じるため)、化合物(I)の種類によって上限は多少異なるが、好ましくは化合物(I)1モルに対して0.5〜10モル、更に好ましくは0.5〜5.0モル、特に好ましくは1.0〜3.0モル、より好ましくは1.5〜2.5モルである。なお、化合物(I)の種類にもよるが、水の使用量が、化合物(I)1モルに対して10モルを超えた場合には、例えば、光学純度を低下させる化合物(I)の自己加水分解、僅かに水が有機溶媒に溶解せずに懸濁状態(液体部分の相分離が生じた状態)になることによる反応の長時間化等の望ましくない状態が生じるため、水の使用量は有機溶媒の溶解度以下、好ましくは10モル以下に調整すべきである。
【0040】
前記有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及びシクロペンタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサン等のエーテル類;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類から選択される少なくとも一種が挙げられるが、好ましくはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル及び/又はテトラヒドロフラン、更に好ましくはn−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル及び/又はシクロペンチルメチルエーテル、特に好ましくはシクロヘキサン、トルエン及び/又はt-ブチルメチルエーテルが使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0041】
前記有機溶媒の使用量は、化合物(I)1gに対して、好ましくは2〜200mL、更に好ましくは5〜80mLである。
【0042】
本発明の反応は、界面活性剤の存在下にて行うのが望ましく、使用する界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンラウリルエーテル、ポリエチレンセチルエーテル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤;3−[(3−クロロアミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート及び3−[(3−クロロアミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート等の両性界面活性剤;ジオクチルスルホスクシネートナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンドデシルサルフェート等の陰イオン界面活性剤;セチルトリメチルアンモニウムブロマイドやセチルジメチルエチルアンモニウムブロマイド等の陽イオン界面活性剤が挙げられるが、好ましくは非イオン界面活性剤、更に好ましくはポリエチレングリコール、ポリエチレンセチルエーテル又はポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、特に好ましくはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが使用される。なお、これらの界面活性剤は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0043】
前記界面活性剤の使用量は、化合物(I)1gに対して、好ましくは10〜1000mg、更に好ましくは50〜200mgである。
【0044】
本発明の反応は、例えば、化合物(I)、加水分解酵素、水(必要ならば、無機塩や有機塩を含んでいても良い)及び有機溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは0〜80℃、更に好ましくは10〜50℃、特に好ましくは30〜45℃であり、反応圧力は特に制限されない。なお、反応中、加水分解酵素は実質的に懸濁した状態であり、また、化合物(II)の種類にもよるが、反応が進行するとともに化合物(II)が白色の固体として沈殿する場合もあるが、これらの懸濁や沈殿は、反応に何ら影響を与えない。
【0045】
本発明の反応によって得られた化合物(II)及び化合物(III)は、例えば、反応終了後、化合物(II)が析出している場合には、反応液に適当な有機溶媒(例えば、アセトニトリル、アセトン等)を加えて濾過することで化合物(II)を取得することが出来、有機層を濃縮することによって化合物(III)を取得することが出来る。又、反応終了後、化合物(II)が析出していない場合には、例えば、pHを調整して化合物(II)を水で抽出し、さらにpHを再調整して有機溶媒に抽出し、得られた有機層を濃縮することで化合物(II)を取得することが出来、化合物(II)を水に抽出する際に分離した有機層を濃縮することによって化合物(III)を取得することが出来る。なお、得られた化合物(II)及び化合物(III)は、晶析、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、更に精製することも出来る。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0047】
参考例1(3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステル(ラセミ体混合物)の合成)
メタノール750mLに、3−オキソ吉草酸メチルエステル300g(2.31mol)、ベンジルアミン247g(2.31mol)及びモリブドリン酸300mgを加え、攪拌しながら還流下(70〜80℃)2時間反応させた。反応終了後、得られた反応液にトルエン1200mLを加え、70〜80℃下、メタノールを留去した。得られた反応液を室温まで冷却した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、0℃まで冷却し、トルエン315mL、テトラヒドロホウ酸ナトリウム87.1g(2.31mol)及び酢酸505mLを加え、攪拌しながら0℃で反応させた。2時間後、水を加えて反応を停止し、48%水酸化ナトリウムを加えて中和、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。濾過後、減圧濃縮し、油状物質として、3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステル(ラセミ体混合物)480gを得た(3−オキソ吉草酸メチルエステル基準の単離収率:94.2%)。
なお、3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステル(ラセミ体混合物)の物性値は以下の通りであった。
【0048】
H−NMR(δ(ppm)、CDCl):0.92(t、3H、J=7.4Hz)、1.49(ddt、1H、J=13.8、7.4、6.5Hz)、1.57(ddt、1H、J=13.8、7.4、5.8Hz)、2.43(dd、1H、J=15.1、6.5Hz)、2.47(dd、1H、J=15.1、5.8Hz)、2.97(dddd、1H、J=6.5、6.5、5.8、5.8Hz)、3.67(s、3H)、3.78(s、2H)、7.22−7.34(m、5H)
13C−NMR(δ(ppm)、CDCl):9.9、26.9、38.7、51.0、55.6、126.9、128.1、128.4、140.6、173.1
MS(EI)m/z:221(M
MS(CI、i−C10)m/z:222(MH
【0049】
実施例1((S)−3−ベンジルアミノ吉草酸及び(R)−3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステルの合成)
水を飽和させたt−ブチルメチルエーテル890mLに、3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステル(ラセミ体混合物)89.0mg(402mmol)を加え、攪拌しながら30℃で34時間反応させた。濾過後、(S)−3−ベンジルアミノ吉草酸31.7g(3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステル(ラセミ体混合物)基準の単離収率=38.0%)を得た。
(S)−3−ベンジルアミノ吉草酸は、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ98.2%eeであった。
(R)−3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステルを常法により(R)−3−(N−ベンゾイル−N−ベンジル−アミノ)吉草酸メチルエステルに誘導して、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを使用して光学純度を測定したところ77.0%eeであった。
なお、本反応におけるE値は259であった。
【0050】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件;
光学活性3−ベンジルアミノ吉草酸
カラム:キラルCD−Ph(0.46cmΦ×25cm、株式会社資生堂製、2本直列接続)
溶媒 :アセトニトリル/水(=5/95(容量比))
リン酸二水素カリウム40mmol/L
リン酸でpH3.5に調整
流速 :0.5mL/min
温度 :30℃
波長 :220nm
【0051】
光学活性3−(N−ベンゾイル−N−ベンジル−アミノ)吉草酸メチルエステル
カラム:Chiralcel OJ−H(0.46cmΦ×25cm、ダイセル化学工業製)
溶媒:ヘキサン/イソプロピルアルコール(=8/2(容量比))
流速 :0.5mL/min
温度 :30℃
波長 :220nm
【0052】
又、(R)−3−ベンジルアミノ吉草酸メチルエステルの物性値は参考例1で示したものと同様であった。
(S)−3−ベンジルアミノ吉草酸の物性値は以下の通りであった。
【0053】
H−NMR(δ(ppm)、CDOD):1.01(t、3H、J=7.5Hz)、1.64(ddt、1H、J=13.9、9.1、7.5Hz)、1.92(ddt、1H、J=13.9、7.5、4.4Hz)、2.35(dd、1H、J=16.9、8.6Hz)、2.62(dd、1H、J=16.9、4.0Hz)、3.28(dddd、1H、J=9.1、8.6、4.4、4.0Hz)、4.18(d、1H、J=13.6Hz)、4.23(d、1H、J=13.6Hz)、7.41−7.50(m、5H)
13C−NMR(δ(ppm)、CDOD):10.1、24.9、35.7、58.6、130.3、130.4、130.5、130.9、178.0
MS(EI)m/z:207(M
MS(CI、i−C10)m/z:208(MH
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)から、同時に光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸と光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステルとを得る方法に関する。これら光学活性N−置換−β−アミノ酸及びそのエステルは、公知の還元方法によって、生理活性ペプチドやラクタム系抗生物質等の医・農薬品の原料又は合成中間体として有用な光学活性β−アミノ酸及びそのエステルに容易に誘導出来る化合物である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解酵素の存在下、有機溶媒中にて、水と、一般式(I)
【化1】

(式中、Pは、保護基を示す。Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を示し、Rは、アルキル基を示す。)
で示されるN−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(ラセミ体混合物)の片方のエナンチオマーのみを選択的に反応させて、一般式(II)
【化2】

(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される光学活性(R又はS)−N−置換−β−アミノ酸を生成させるとともに、一般式(III)
【化3】

(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される未反応の光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(なお、一般式(II)の化合物とは逆の立体絶対配置を有する。)を得ることを特徴とする、光学活性β−アミノ酸及び光学活性β−アミノ酸エステルの製造方法。
【請求項2】
使用する水の量が、ラセミ体混合物であるN−置換−β−アミノ酸アルキルエステル1モルに対して、0.5〜10モルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
加水分解酵素が、プロテアーゼ、エステラーゼ又はリパーゼである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
加水分解酵素が、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)を起源とするリパーゼである請求項1又は請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムから選択された無機塩並びに酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム及びクエン酸ナトリウムから選択された有機塩から選択される少なくとも1種を反応系内に存在させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
加水分解酵素が、緩衝液の存在下で凍結乾燥されたものである請求項1又は請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
緩衝液が、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液及び酢酸アンモニウム水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種の緩衝液である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
反応において、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を存在させる請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
Pが、アラルキル基である請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
有機溶媒が、エーテル類、ケトン類、エステル類、脂肪族炭化水素類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を使用する請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
加水分解反応によって生成した一般式(II)
【化4】

(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される光学活性((R)又は(S))−N−置換−β−アミノ酸と一般式(III)
【化5】

(式中、P、R及びRは、前記と同義である。)
で示される未反応の光学活性(S又はR)−N−置換−β−アミノ酸アルキルエステル(なお、一般式(II)の化合物とは逆の立体絶対配置を有する。)との混合物からそれぞれを単離する請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−161332(P2012−161332A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97936(P2012−97936)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2006−105064(P2006−105064)の分割
【原出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】