説明

光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法

【課題】光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる精製方法を提供する。
【解決手段】光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールと炭素数1から4の低級アルコールを含む混合物を塩基の存在下にアラルキルハライドと反応させ、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを選択的に得、該アラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を行うことにより、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる。本発明は、生物学的手法を利用する1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元の精製方法として好適に採用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの代表的な製造方法として、特許文献1と2が挙げられる。これらの文献は、いずれも1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元を開示し、特許文献1に記載の方法は生物学的手法、特許文献2に記載の方法は化学的手法を利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/006650号
【特許文献2】特表2009−544653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載の方法は、共に高い不斉誘起を達成しており、1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元という反応面においては十分に満足できるものであった。しかしながら、特許文献1に記載の方法は生物学的手法のため、副生するエタノール、未反応の1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)および反応溶媒の水が混入し、蒸留精製を何度繰り返しても完全に取り除くことが困難であった(本発明の比較例1も参照)。また、特許文献2に記載の方法は野依らにより開発された光学活性ルテニウムホスフィン錯体の存在下に水素化する方法の改良法であるが、該文献には、この技術分野での一般的な反応溶媒であるイソプロパノールを用いると、目的物の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールとの沸点が近いため、蒸留精製により目的物を容易に単離することができないとの記載がある。
【0005】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールは医薬中間体として利用されるため、類似の反応性を有するアルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール等)や無水反応に悪影響を与える水等が含まれると、原薬中の不純物や低収率の原因となり好ましくない。
【0006】
よって、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる精製方法が強く望まれており、本発明の目的はこの様な精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールと炭素数1から4の低級アルコールとの水酸基の酸性度の違いを利用することにより、酸性度の高い前者を優先的にアラルキル化できることを見出した(スキーム1を参照。実施例1では11.5倍優先、実施例2では11.0倍優先)。具体的には、塩基の存在下にアラルキルハライドと反応させることにより行う。生成物の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルと未反応の炭素数1から4の低級アルコールとの物性は大きく異なるため[例えば、分配係数(有機層vs.水層)、沸点等]、前者を選択的に得ることができる。よって、引き続いて得られた該アラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を行うことにより、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる。
【化1】

【0008】
精製前の混合物に含まれる炭素数1から4の低級アルコールは、エタノールが好ましく、効率良く取り除くことができる。さらに1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水が含まれていても、エタノールと共に効率良く取り除くことができる。これらの不純物は不斉還元の生物学的手法の不純物と合致するため、この様な製造方法の精製方法として好適に採用することができる。
【0009】
また、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得る反応は、無機塩基の水溶液を用いて有機層との二相系反応として行うことが好ましく、炭素数1から4の低級アルコールのアラルキルエーテルに比べて生成比を格段に上げることができる。
【0010】
さらに、得られた光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを分別蒸留することが好ましく、格段に純度の高い該アラルキルエーテルを得ることができる。
【0011】
次に、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を、反応溶媒として炭素数5から12のアルコールを用いて行うことが好ましく、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを容易に回収することができる。
【0012】
最後に、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置は、R体およびS体に同様に適用することができ、医薬中間体として両方の光学異性体を供給することができる。
【0013】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明8]を含み、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる精製方法を提供する。
【0014】
[発明1]
一般式[1]:
【化2】

【0015】
[式[1]中、Meはメチル基を表し、*は不斉炭素を表す。該不斉炭素の絶対配置はR体またはS体である。]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールと炭素数1から4の低級アルコールを含む混合物を塩基の存在下に、一般式[2]:
【化3】

【0016】
[式[2]中、Arは芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはハロゲン原子を表す。]
で示されるアラルキルハライドと反応させ、一般式[3]:
【化4】

【0017】
[式[3]中、Me、*およびArは上記式[1]または式[2]と同じである。]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを選択的に得、引き続いて該アラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を行うことを特徴とする、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0018】
[発明2]
精製前の前記混合物に含まれる炭素数1から4の低級アルコールがエタノールであることを特徴とする、発明1に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0019】
[発明3]
精製前の前記混合物にさらに1,1,1−トリフルオロアセトンまたは該水和物と水とが含まれることを特徴とする、発明1または2に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0020】
[発明4]
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得る反応を、無機塩基の水溶液を用いて有機層との二相系反応として行うことを特徴とする、発明1から3の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0021】
[発明5]
得られた光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを分別蒸留することを特徴とする、発明1から4の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0022】
[発明6]
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を、反応溶媒として炭素数5から12のアルコールを用いて行うことを特徴とする、発明1から5の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0023】
[発明7]
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置がR体であることを特徴とする、発明1から6の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【0024】
[発明8]
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置がS体であることを特徴とする、発明1から6の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明を採用することにより、原薬中の不純物や低収率の原因となるアルコールや水等を完全に取り除くことができ、医薬中間体として利用可能な光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる。さらに、本発明は、生物学的手法を利用する1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元の精製方法として好適に採用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法について詳細に説明する。本精製方法は、アラルキル化と脱アラルキル化の2反応から成る。本発明の目的は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールに含まれる、炭素数1から4の低級アルコール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)や水を取り除くことにあり、これら以外の不純物がさらに含まれる光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製においても、本発明の精製方法を採用して本発明の目的が達成される場合には、本発明の特許請求の範囲内にあるものとして扱う。なお、以下の説明において、一般式[1]〜一般式[3]とは、前記の通りのものである。
【0027】
初めに、アラルキル化について具体的に説明する。
【0028】
一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのMeは、メチル基を表す。
【0029】
一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの*は、不斉炭素を表す。
【0030】
一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置は、R体またはS体であり、本発明は、R体およびS体のいずれにも同様に適用することができる。光学純度は、70%ee(エナンチオマー過剰率)以上であれば良く、80%ee以上が好ましく、90%ee以上が特に好ましい。本反応を通して光学純度の低下は認められない。
【0031】
一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールは、特許文献1および2(前掲)に記載の様な生物学的および化学的手法を利用する1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元等を参考にして同様に製造することができる。本特許出願人は、生物学的手法を利用するR体およびS体の製造方法を特許出願しており(R体は特願2010−142934、S体は特願2010−030365)、本発明の精製方法と組み合わせることが好ましい。これら特許出願に係る製造方法について、本発明の説明に必要な箇所を抜粋して説明する。
【0032】
特願2010−142934では、「1,1,1−トリフルオロアセトンに、微生物としてピキア・ファリノーサ(Pichia farinosa)を培養して得られる菌体を接触させることを特徴とする、(R)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの製造方法」を開示し、代表的な実験操作を参考例1(後述)に示す。また、特願2010−030365では、「1,1,1−トリフルオロアセトンに自然界から見出された微生物を天然の状態で作用させることにより、(S)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを得る製造方法であって、係る微生物としてハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、キャンディダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、キャンディダ・マイコデルマ(Candida mycoderma)、ピキア・ナガニシィ(Pichia naganishii)、キャンディダ・サイトアナ(Candida saitoana)、クリプトコッカス・カルバタス(Cryptococcus curvatus)、サターノスポラ・ディスポラ(Saturnospora dispora)、サッカロマイセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、ピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)からなる群より選ばれる少なくとも1種の微生物を用いることを特徴とする、(S)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの製造方法」を開示し、代表的な実験操作を参考例2(後述)に示す。
【0033】
炭素数1から4の低級アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、シクロブタノールである。その中でもエタノールおよびイソプロパノールを不純物の対象とすることが好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0034】
精製前の混合物に含まれる炭素数1から4の低級アルコールの比率は、特に制限はないが、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して50モル以下であれば良く、0.01から30モルが好ましく、0.03から10モルが特に好ましい。
【0035】
精製前の混合物にさらに1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水が含まれる場合の比率は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して、それぞれ0.7モル以下、200モル以下であれば良く、それぞれ0.01から0.5モル、0.01から150モルが好ましく、それぞれ0.03から0.3モル、0.03から100モルが特に好ましい。
【0036】
一般式[2]で示されるアラルキルハライドのArは、芳香環基または置換芳香環基を表す。該芳香環基は、フェニル基、ナフチル基、アントリル基の芳香族炭化水素基である。該置換芳香環基は、上記の芳香環基の、任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基等である。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1から4の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)を意味する。その中でもフェニル基および置換フェニル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0037】
一般式[2]で示されるアラルキルハライドのXは、ハロゲン原子を表す。該ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。その中でも塩素原子および臭素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0038】
一般式[2]で示されるアラルキルハライドの使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.7モル以上であれば良く、0.8から5モルが好ましく、0.9から3モルが特に好ましい。
【0039】
塩基は、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基である。その中でも無機塩基が好ましく、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましい。これらの塩基は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0040】
塩基の使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.35モル以上であれば良く、0.4から10モルが好ましく、0.45から7モルが特に好ましい。
【0041】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得る反応を、無機塩基の水溶液を用いて有機層との二相系反応として行う場合の水の使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.03L以上であれば良く、0.04から5Lが好ましく、0.05から3Lが特に好ましい。精製前の混合物に水が含まれる場合の水の使用量は、合計が上記の所定量になる様に減ずれば良い。
【0042】
本反応は、相間移動触媒の存在下に行うことにより速やかに進行する場合がある。しかしながら、好適な反応条件を採用することにより、相間移動触媒の非存在下でも反応を良好に行うことができる(相間移動触媒は必須ではない)。
【0043】
係る相間移動触媒は、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、硫酸水素テトラ−n−ブチルアンモニウム、トリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロリド等の第四級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、トリ−n−ブチル−n−オクチルホスホニウムブロミド、テトラ−n−オクチルホスホニウムブロミド等の第四級ホスホニウム塩、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6等のクラウンエーテル等である。その中でも第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩が好ましく、第四級アンモニウム塩が特に好ましい。
【0044】
相間移動触媒を用いる場合の該使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.7モル以下であれば良く、0.0001から0.6モルが好ましく、0.0005から0.5モルが特に好ましい。
【0045】
反応溶媒は、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド、水等である。その中でもn−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドおよび水が好ましく、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよび水が特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0046】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得る反応を、無機塩基の水溶液を用いて有機層との二相系反応として行う場合の反応溶媒は、上記の反応溶媒の中の脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、ハロゲン系、エーテル系である。その中でも芳香族炭化水素系およびエーテル系が好ましく、芳香族炭化水素系が特に好ましい。
【0047】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.03L以上であれば良く、0.04から5Lが好ましく、0.05から3Lが特に好ましい。精製前の混合物に反応溶媒と同等のものが含まれる場合の反応溶媒の使用量は、合計が上記の所定量になる様に減ずれば良い。また、本反応は反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0048】
反応温度は、−30から+150℃であれば良く、−20から+125℃が好ましく、−10から+100℃が特に好ましい。
【0049】
反応時間は、36時間以内であれば良く、精製前の混合物および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの消費が殆ど停止した時点を終点とすることが好ましい。
【0050】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[3]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得ることができる。物性の差を利用して光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを選択的に得る具体的な操作は、反応終了液を分液する方法、水層を有機溶媒で抽出する方法、有機層を水で洗浄する方法、減圧濃縮する方法、回収蒸留する方法等である。有機溶媒は、上記の反応溶媒の中で水層と混和せず二相になるものを用いることができる。水には、無機酸または無機塩基の水溶液および食塩水も含まれ、無機酸は塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硝酸、硫酸等、無機塩基は上記の塩基の中の無機塩基を用いることができる。
【0051】
また、本反応では、酸性度の高い光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールが優先的にアラルキル化されるが、精製前の混合物に含まれる炭素数1から4の低級アルコールの比率が高いと、該低級アルコールのアラルキルエーテルが相当量副生する。この様な場合には、分別蒸留を行うことにより光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの高純度品を得ることができる。特に、エタノールのアラルキルエーテルとの分離は容易に行うことができる。
【0052】
さらに、未反応のアラルキルハライドが残留する場合には、アンモニア、第一級アミンまたは第二級アミン[メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等の、炭素数の合計が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)のアルキル基を有するアミン]と反応させ(アラルキルアミンへの誘導)、無機酸の水溶液で洗浄し(アラルキルアミンの除去)、食塩水で洗浄することにより、アラルキルハライドを効率的に取り除くことができる。アンモニア、第一級アミンまたは第二級アミンの使用量は、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して0.01モル以上であれば良く、0.03から7モルが好ましく、0.05から5モルが特に好ましい。無機酸は上記の無機酸を用いることができ、洗浄後の水層のpHが酸性になれば良い。食塩水には、無機酸または無機塩基の水溶液および水も含まれ、無機酸は上記の無機酸、無機塩基は上記の無機塩基を用いることができる。未反応のアラルキルハライドをこの段階で取り除くことにより、その後の脱アラルキル化後の反応系が酸性化することを回避できる。
【0053】
最後に、精製前の混合物にさらに1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水とが含まれていてもよく、これらの不純物はアラルキル化に関与しないため、上記の物性の差を利用して容易に取り除くことができる[1,1,1−トリフルオロアセトンは水の存在比率により平衡状態が異なるため、分別蒸留における1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)の沸点にはバラツキが認められる]。よって、生物学的手法を利用する1,1,1−トリフルオロアセトンの不斉還元の精製方法として好適に採用することができる。
【0054】
次に、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの脱アラルキル化について具体的に説明する。
【0055】
上記脱アラルキル化反応は、特に制限はないが、パラジウム触媒の存在下に水素(H)と反応させる方法(加水素分解)が好ましい。
【0056】
パラジウム触媒は、パラジウムスポンジ、パラジウム黒、パラジウム炭、パラジウムアルミナ、パラジウム炭酸カルシウム、パラジウム硫酸バリウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム等である。その中でもパラジウム黒、パラジウム炭、パラジウムアルミナ、パラジウム炭酸カルシウムおよび水酸化パラジウムが好ましく、パラジウム炭、パラジウムアルミナおよび水酸化パラジウムが特に好ましい。これらのパラジウム触媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。パラジウム金属(0価)または2価パラジウム(Pd2+)を担体に担持させる場合のパラジウム含量は、0.1から50重量%であれば良く、0.3から40重量%が好ましく、0.5から30重量%が特に好ましい。また、含水品を用いることもできる。さらに、取り扱いの安全性を高めるために、または金属表面の酸化を防ぐために、不活性な媒体中に保存したものを用いることもできる。含水品を用いると、得られる光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの水分含量が高くなる可能性がある。この様な場合には、下記の反応溶媒を用いて予めデカンテーション(除水)または共沸脱水を行うことが好ましい。
【0057】
パラジウム触媒の使用量は、一般式[3]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテル1モルに対して0.00001モル以上であれば良く、0.00005から0.1モルが好ましく、0.0001から0.05モルが特に好ましい。
【0058】
水素(H)の使用量は、一般式[3]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテル1モルに対して1モル以上であれば良く、大過剰の水素雰囲気下が好ましく、大過剰の加圧条件下が特に好ましい。
【0059】
大過剰の加圧条件下で行う場合の水素(H)圧は、5MPa以下であれば良く、0.01から4MPaが好ましく、0.03から3MPaが特に好ましい。
【0060】
反応溶媒は、n(1)−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、シクロペンタノール、n(1)−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n(1)−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、シクロヘプタノール、n(1)−オクタノール、n(1)−ノナノール、n(1)−デカノール、n(1)−ウンデカノール、n(1)−ドデカノール、n(1)−トリデカノール、n(1)−テトラデカノール、n(1)−ペンタデカノール、n(1)−ヘキサデカノール、n(1)−ヘプタデカノール、n(1)−オクタデカノール等の、炭素数5から18の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数3以上の場合)のアルキル基を有するアルコールである。その中でも炭素数5から12のアルコールが好ましく、n(1)−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、シクロペンタノール、n(1)−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n(1)−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、シクロヘプタノールおよびn(1)−オクタノールが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0061】
反応溶媒の使用量は、一般式[3]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテル1モルに対して0.01L以上であれば良く、0.03から20Lが好ましく、0.05から10Lが特に好ましい。また、本反応は反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0062】
反応温度は、−30から+150℃であれば良く、−20から+125℃が好ましく、−10から+100℃が特に好ましい。
【0063】
反応時間は、36時間以内であれば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の消費が殆ど停止した時点を終点とすることが好ましい。
【0064】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの高純度品を得ることができる。反応終了液をセライト濾過し、少量の上記の反応溶媒で洗浄し、濾洗液を直接、分別蒸留する後処理操作が好適である。必要に応じてモレキュラーシーブス(合成ゼオライト)、シリカゲル、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、無水塩化カルシウム等の乾燥剤により脱水することもできる。しかしながら、好適な反応条件および後処理操作を採用することにより、水分含量の格段に低い光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを得ることができる(乾燥剤による脱水は必須ではない)。
【0065】
また、一般式[2]で示されるアラルキルハライドのArに好適なフェニル基を用いると、反応終了液に量論量のトルエンが含まれる場合がある。分別蒸留において、目的物の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールとトルエンの分離は容易ではなく、目的物の精製品にトルエンが若干量含まれることがある。しかしながら、本発明の目的は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールに含まれる、炭素数1から4の低級アルコール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)や水を取り除くことにあり、トルエンはこの様な(原薬中の不純物や低収率の原因となる)不純物ではなく、原薬への変換過程において容易に取り除くことができる。よって、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製品にトルエンが若干量含まれる場合でも、本発明の目的は十分に達成することができる。
【0066】
さらに、本反応を通して光学純度の低下は認められない。
【0067】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。MeおよびPhは、それぞれメチル基およびフェニル基の略記号である。
【実施例1】
【0068】
トルエン271mL(0.333L/mol)に、下記式:
【化5】

【0069】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールとエタノールを含む混合物154g[それぞれ92.9g(814mmol、1.00eq)、8.80g(191mmol、0.235eq)含有(残り52.3gはトルエン)、光学純度98.8%ee(S体)]、水酸化カリウム水溶液[86%水酸化カリウム107g(1.64mol、2.01eq)と水250mL(0.307L/mol)から調製]とテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド26.2g(81.3mmol、0.0999eq)を加え、15℃で攪拌した。この二相系溶液に、ベンジルブロミド167g(976mmol、1.20eq)を滴下し、30℃で3時間攪拌した。反応終了液の19F−NMR分析より変換率は99.7%であった。反応終了液を分液し、水層をトルエン180mLで抽出し、有機層を合わせて水80.0mLで3回洗浄した。回収有機層に、ジエチルアミン71.0g(971mmol、1.19eq)を加え、室温で7時間40分攪拌した。ベンジルブロミド処理液を6N塩酸323mL(1.94mol、2.38eq)で洗浄し、飽和食塩水250mLで洗浄し、減圧濃縮し、回収蒸留(減圧度〜1.5kPa、留出温度〜82℃)することにより、下記式:
【化6】

【0070】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの粗生成物を247g得た。粗生成物のH−NMR分析より光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルとエタノールのアラルキルエーテルの生成比は98:2であった(精製前の混合物の比率を考慮して計算すると、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールがエタノールよりも11.5倍優先してアラルキル化されたことになる)。また、粗生成物の19F−NMR分析より内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルが166g含まれており[残り81.0gはエタノールのアラルキルエーテル2.26g(16.6mmol)とトルエン78.7g]、収率は定量的であった。粗生成物のカールフィッシャー法より水分含量は0.1%未満であった。
【0071】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルのH−NMRと19F−NMRを下に示す。
【0072】
H−NMR[基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl]、δ ppm;1.32(d、3H)、3.84(m、1H)、4.63(d、1H)、4.76(d、1H)、7.35(Ar−H、5H)。
【0073】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;83.52(d、3F)。
【実施例2】
【0074】
トルエン330mL(0.497L/mol)に、下記式:
【化7】

【0075】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール、エタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水を含む混合物400g[それぞれ75.7g(664mmol、1.00eq)、45.9g(996mmol、1.50eq)、10.0g(一水和物として、77.0mmol、0.116eq)、268g(14.9mol、22.4eq)含有、光学純度98.7%ee(S体)]、86%水酸化カリウム116g(1.78mol、2.68eq)とテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド21.3g(66.1mmol、0.0995eq)を加え、18℃で攪拌した。この二相系溶液に、ベンジルブロミド136g(795mmol、1.20eq)を滴下し、30℃で4時間45分攪拌した。反応終了液の19F−NMR分析より変換率は98.4%であった。反応終了液を分液し、水層をトルエン150mLで抽出し、有機層を合わせて水70.0mLで3回洗浄した。回収有機層に、ジエチルアミン24.3g(332mmol、0.50eq)を加え、室温で1時間攪拌した。ベンジルブロミド処理液を3N塩酸221mL(664mmol、1.00eq)で洗浄し、飽和食塩水200mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、回収蒸留(減圧度〜1.0kPa、留出温度〜69℃)することにより、下記式:
【化8】

【0076】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの粗生成物を177g得た。粗生成物のH−NMR分析より光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルとエタノールのアラルキルエーテルの生成比は88:12であった(精製前の混合物の比率を考慮して計算すると、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールがエタノールよりも11.0倍優先してアラルキル化されたことになる)。1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)に起因する生成物(または副生成物)は全く検出されなかった(0.01%未満)。また、粗生成物の19F−NMR分析より内部標準法(内部標準物質α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルが122g含まれており[残り55.0gはエタノールのアラルキルエーテル11.1g(81.5mmol)とトルエン43.9g]、収率は90%であった。粗生成物のカールフィッシャー法より水分含量は0.1%未満であった。
【0077】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルのH−NMRと19F−NMRは、実施例1と同様であった。
【実施例3】
【0078】
実施例1と2で得られた、下記式:
【化9】

【0079】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの粗生成物全量424g[それぞれ光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテル288g(68重量%)、エタノールのアラルキルエーテル13.4g(3重量%)、トルエン123g(29重量%)含有]を分別蒸留(理論段数20段、減圧度3.0kPa、留出温度82℃)することにより、上記式で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの精製品を248g得た。回収率は86%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.9%であった(エタノールのアラルキルエーテルは0.02%)。
【実施例4】
【0080】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、5.0%パラジウム炭4.30g(含水率50.8%、994μmol、0.000929eq)を加え、n(1)−ヘキサノール43.0mLで3回デカンテーションを行い除水した。実施例3で得られた、下記式:
【化10】

【0081】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの精製品218g(1.07mol、1.00eq)とn(1)−ヘキサノール1.10L(1.03L/mol)を加え、水素(H)圧を0.50MPaに設定し、35℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィー分析より変換率は100%であった。反応終了液をセライト濾過し、少量のn(1)−ヘキサノールで洗浄し、濾洗液を直接、分別蒸留(理論段数20段、減圧度50kPa、留出温度59℃)することにより、下記式:
【化11】

【0082】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製品を137g得た。精製品にはトルエンが20.0g(14.6重量%)含まれていた。回収率は96%であった。精製品のトルエンを除くガスクロマトグラフィー純度は100%であった。エタノールと1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)は全く検出されなかった(0.01%未満)。精製品のカールフィッシャー法より水分含量は0.1%未満であった。精製品のキラルガスクロマトグラフィー分析より光学純度は98.9%ee(S体)であった。
【0083】
実施例4で得られた光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製品にはトルエンが若干量含まれるが、トルエンは有機合成における一般的な反応溶媒であり、原薬中の不純物や低収率の原因とはならず、該精製品(トルエンが若干量含まれる)を医薬中間体として利用しても何ら問題を起こさない。一方で、本発明では、問題となるエタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)および水を完全に取り除くことができる。
【0084】
[比較例1]
下記式:
【化12】

【0085】
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール、エタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水を含む混合物515g[それぞれ268g(2.35mol、1.00eq)、43.1g(936mmol、0.398eq)、26.2g(一水和物として、201mmol、0.0855eq)、178g(9.88mol、4.20eq)含有、光学純度98.7%ee(S体)]に食塩27.0g(462mmol、0.197eq)を加え、分別蒸留(理論段数30段、大気圧、留出温度72−81℃)することにより、上記式で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを9つのフラクションに分取した。回収量の合計は294gであった。9つのフラクションのエタノールおよび1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)の比率は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール1モルに対して、それぞれ0.0120−2.90、0.0100−0.0200であった。9つのフラクションのカールフィッシャー法より水分含量は7.20−11.1%であった。
【0086】
この様に、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール、エタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水を含む混合物を単に分別蒸留するだけでは、問題となるエタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)および水を完全に取り除くことはできない。
【0087】
[参考例1]
<(R)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの製造(2%(w/v))>
イオン交換水2000mL、グルコース60g、ペプトン30g、酵母エキス50g、リン酸二水素カリウム4.8g、リン酸水素二カリウム2.5gの組成からなる液体培地を調製し、容量5Lの発酵槽((株)丸菱バイオエンジ製、MDN型5L(S))に張り込み、121℃で60分間の蒸気滅菌を行った。この液体培地に同様の組成の100mLで前培養を行ったPichia farinosa NBRC 0462の1.7×10cfu/mLの懸濁液を80mL接種し、28℃、通気1vvm、攪拌500rpmで16時間培養し、1.3×10cfu/mL(湿菌重として133g/L)の懸濁液を調製した。このときのpHの調整はアンモニア水を用いて行い、6.5に調整した。培養終了後、通気を0.1vvm、攪拌を50rpmに変更し、別容器に準備した200mLのイオン交換水に1,1,1−トリフルオロアセトン50.08g、グルコース90gを溶解させたものを菌体懸濁液にオンラインの糖濃度センサー(オンラインバイオセンサ BF−410、(株)バイオット製)を用いて、グルコース濃度を0.5%に維持する様にコンピュータプログラムで自動的に懸濁液に添加した。容器に準備した基質が添加し尽くされたのちは、グルコース200gをイオン交換水300mLに溶解させたものに切り替えて同様に菌体懸濁液に添加した。微生物による基質の還元は24時間おきにモニタリングし、64時間後に収率が100%となっていることを確認した。
【0088】
反応終了後の反応液から生成した1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを回収するため、蒸留を行った。留出液を93.5mL回収し、19F−NMRの内部標準法により44.58gの1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールが含まれていることが判明した(残りの成分としては、相当量のエタノールと水等が含まれていた)。下記の分析条件により光学純度を測定し、100%ee(R体)であることを確認した。
【0089】
<分析条件>
光学純度の分析はガスクロマトグラフィー法により行った。ガスクロマトグラフィーのカラムにはBGB社製のBGB−174(30m×0.25mm×0.25mm)を用い、キャリアガスはヘリウム、圧力は100kPa、カラム温度は60〜85℃(1℃/min)〜110℃(5℃/min)、気化室・検出器(FID)温度は230℃の分析条件で得られるピークの面積により光学純度を算出した。1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのそれぞれのエナンチオマーの保持時間は、R体が22.1min、S体が23.9minであった。
【0090】
[参考例2]
<(S)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの製造(5%(w/v))>
イオン交換水2000mL、グルコース60g、ペプトン30g、酵母エキス50g、リン酸二水素カリウム4.8g、リン酸水素二カリウム2.5gの組成からなる液体培地を調製し、容量5Lの発酵槽((株)丸菱バイオエンジ製、MDN型5L(S))に張り込み、121℃で60分間の蒸気滅菌を行った。この液体培地に同様の組成の100mLで前培養を行ったHansenula polymorpha NBRC 0799の2.0×10cfu/mLの懸濁液を80mL接種し、28℃、通気1vvm、攪拌500rpmで24時間培養し、4.3×10cfu/mL(湿菌重として86g/L)の懸濁液を調製した。この時のpHの調整はアンモニア水を用いて行い、6.5に調整した。培養終了後、通気を0.1vvm、攪拌を50rpmに変更し、別容器に準備した300mLのイオン交換水に1,1,1−トリフルオロアセトン125.2g、グルコース200gを溶解させたものをオンラインの糖濃度センサー(オンラインバイオセンサ BF−410、(株)バイオット製)を用いて、グルコース濃度を2%に維持する様にコンピュータプログラムで自動的に懸濁液に添加した。微生物による基質の還元は24時間おきにモニタリングし、168時間後に収率が94.9%となっていることを確認して反応を終了した。
【0091】
反応終了後の反応液から生成した1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールを回収するため、蒸留を行った。留出液を188mL回収し、19F−NMRの内部標準法により109.2gの1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールが含まれていることが判明した[残りの成分としては、相当量のエタノール、1,1,1−トリフルオロアセトン(または該水和物)と水等が含まれていた]。前記参考例1と同様の分析条件により光学純度を測定し、98.7%ee(S体)であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の精製方法により得られる1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールは医薬中間体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式[1]中、Meはメチル基を表し、*は不斉炭素を表す。該不斉炭素の絶対配置はR体またはS体である。]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールと炭素数1から4の低級アルコールを含む混合物を塩基の存在下に、一般式[2]:
【化2】

[式[2]中、Arは芳香環基または置換芳香環基を表し、Xはハロゲン原子を表す。]
で示されるアラルキルハライドと反応させ、一般式[3]:
【化3】

[式[3]中、Me、*およびArは上記式[1]または式[2]と同じである。]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを選択的に得、引き続いて該アラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を行うことを特徴とする、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項2】
精製前の前記混合物に含まれる炭素数1から4の低級アルコールがエタノールであることを特徴とする、請求項1に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項3】
精製前の前記混合物にさらに1,1,1−トリフルオロアセトンまたは該水和物と水とが含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項4】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを得る反応を、無機塩基の水溶液を用いて有機層との二相系反応として行うことを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項5】
得られた光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルを分別蒸留することを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項6】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールのアラルキルエーテルの脱アラルキル化反応を、反応溶媒として炭素数5から12のアルコールを用いて行うことを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項7】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置がR体であることを特徴とする、請求項1から6の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。
【請求項8】
光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの不斉炭素の絶対配置がS体であることを特徴とする、請求項1から6の何れかに記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールの精製方法。

【公開番号】特開2012−102032(P2012−102032A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250513(P2010−250513)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】