説明

光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法

【課題】
光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを効果的に製造すること。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(式中、RはC1−C8を表す。)
で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルを、一般式(2)
【化2】


(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルに不斉的に還元する能力を有する、アルスロバクター属、シュードモナス属、ハンセヌラ属、ヤマダジーマ属、キャンディダ属、コリネバクテリウム属、クロエッケラ属、ピキア属及びコマガタエラ属に属する微生物群の中から選ばれた微生物又はその処理物を前記一般式(1)で示されるエステルに接触させることを特徴とする光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法等に関する。一般式(2)で表される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルは種々の医薬品、例えば、血糖及び血中脂質低下作用を有する糖尿病治療薬(例えば、特許文献1参照)等の有効成分の重要合成中間体である。
【背景技術】
【0002】
従来、一般式(2)で示される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを製造するには、p−メトキシフェネチルマグネシウムブロマイドと光学活性クリシド酸エステルとより化学合成する方法(例えば、特許文献1参照)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−37761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光学活性グリシド酸エステルの原料である光学活性セリンが工業的に高価である等の問題点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、かかる状況の下鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0006】
本発明は、
1.一般式(1)
【0007】
【化1】

(式中、RはC1−C8を表す。)
で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルを、一般式(2)
【0008】
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルに不斉的に還元する能力を有する、アルスロバクター(Arthrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、キャンディダ(Candida)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クロエッケラ(Kloeckera)属、ピキア(Pichia)属及びコマガタエラ(Komagataella)属に属する微生物群の中から選ばれた微生物又はその処理物を一般式(1)で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルに接触させることを特徴とする光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法(以下、本発明製造方法と記すこともある。);
2.前記微生物が、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus )、シュードモナス・ニトロレヂュセンス(Pseudomonas nitroreducens)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta )、シュードモナス・ピッケッティ(Pseudomonas picketti) 、シュードモナス・オキサラティクス(Pseudomonas oxalaticus) 、シュードモナス・キャリオフィリ(Pseudomonas caryophylli )、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ヤマダジーマ・ファリノーサ(Yamadazyma farinosa )、キャンディダ・エルノビイ(Candida ernobii)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・メタノリカ(Candida methanolica)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、コリネバクテリウム・ヒドロカルボクラスタス(Corynebacterium hydrocarboclastus) 、クロエッケラ・アフリカーナ(Kloeckera africana)、ピキア・メンブラナファシエンス(Pichia membranaefaciens)又はコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)であることを特徴とする前項1記載の製造方法;
3.前項1又は2記載の製造方法により製造された光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを回収することを特徴とする光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを効果的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一般式(1)で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステル、及び、一般式(2)で示される2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルにおいて、Rで示されるC1−C8アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基を挙げることができる。
【0011】
本発明製造方法において用いられる触媒としての微生物の菌体又はその処理物は、一般式(1)で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルを一般式(2)で示される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルに不斉的に還元する能力を有する微生物の菌体又はその処理物であればよく、例えば、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus )等のアルスロバクター属に属する微生物、シュードモナス・ニトロレヂュセンス(Pseudomonas nitroreducens)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta )、シュードモナス・ピッケッティ(Pseudomonas picketti) 、シュードモナス・オキサラティクス(Pseudomonas oxalaticus) 、シュードモナス・キャリオフィリ(Pseudomonas caryophylli )等のシュードモナス属に属する微生物、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンセヌラ属に属する微生物、ヤマダジーマ・ファリノーサ(Yamadazyma farinosa )等のヤマダジーマ属に属する微生物、キャンディダ・エルノビイ(Candida ernobii)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・メタノリカ(Candida methanolica)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)等のキャンディダ属に属する微生物、コリネバクテリウム・ヒドロカルボクラスタス(Corynebacterium hydrocarboclastus)等のコリネバクテリウム属に属する微生物、クロエッケラ・アフリカーナ(Kloeckera africana)等のクロエッケラ属に属する微生物、ピキア・メンブラナファシエンス(Pichia membranaefaciens)等のピキア属に属する微生物、或いは、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)等のコマガタエラ属に属する微生物等の菌体又はその処理物を挙げることができる。
さらに具体的には例えば、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus)ATCC19065、シュードモナス・ニトロレヂュセンス(Pseudomonas nitroreducens)JCM2782t、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta)JCM2788t、シュードモナス・ピッケッティ(Pseudomonas picketti)JCM5969t、シュードモナス・オキサラティクス(Pseudomonas oxalaticus)IFO13593t、シュードモナス・キャリオフィリ(Pseudomonas caryophylli)IFO13591、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)ATCC26012、ヤマダジーマ・ファリノーサ(Yamadazyma farinosa)IFO193、キャンディダ・エルノビイ(Candida ernobii)ATCC20000、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)IFO1545、キャンディダ・メタノリカ(Candida methanolica)ATCC26175、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)IFO0705、コリネバクテリウム・ヒドロカルボクラスタス(Corynebacterium hydrocarboclastus)ATCC21131、クロエッケラ・アフリカーナ(Kloeckera africana)IFO0869、ピキア・メンブラナファシエンス(Pichia membranaefaciens)IFO0189、及び、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)ATCC76273の菌体又はその処理物が挙げられる。
【0012】
このような微生物の菌体又はその処理物を触媒とすることにより、一般式(1)で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルのカルボニル基を光学選択的に不斉還元できる。
【0013】
次に、本微生物の調製方法について説明する。
本微生物は、炭素源、窒素源、有機塩、無機塩等を適宜含有する各種の微生物を培養するための培地を用いて培養すればよい。
【0014】
当該培地に含まれる炭素源としては、例えば、グルコース、スクロース、グリセロール、でんぷん、有機酸又は廃糖蜜が挙げられ、窒素源としては、例えば、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、カザミノ酸、麦芽エキス、大豆粉、コーンスティプリカー(corn steep liquor)、綿実粉、乾燥酵母、硫安又は硝酸ナトリウムが挙げられ、有機塩及び無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸1カリウム、リン酸2カリウム、炭酸カルシウム、酢酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸第1鉄又は塩化コバルトが挙げられる。
【0015】
培養方法としては、例えば、固体培養、液体培養(例えば、試験管培養、フラスコ培養、ジャーファーメンター培養等)が挙げられる。
培養温度及び培養液のpHは、本微生物が生育する範囲であれば特に限定されるものではないが、例えば、培養温度は約15〜45℃の範囲、培養液のpHは約4〜8の範囲を挙げることができる。培養時間は、培養条件により適宜選択することができるが、通常、約1〜7日間である。
【0016】
本微生物の菌体は、そのまま本発明製造方法の触媒として用いることができる。本微生物の菌体をそのまま用いる方法としては、(1)培養液をそのまま用いる方法、(2)培養液の遠心分離等により菌体を集め、集められた菌体(必要に応じて、緩衝液又は水で洗浄した後の湿菌体)を用いる方法等を挙げることができる。
【0017】
また本発明製造方法の触媒として、本微生物の菌体処理物を用いることもできる。当該菌体処理物としては、例えば、培養して得られた菌体を有機溶媒(アセトン、エタノール等)処理したもの、凍結乾燥処理したもの若しくはアルカリ処理したもの、又は、菌体を物理的若しくは酵素的に破砕したもの、又は、これらのものから分離・抽出された粗酵素等を挙げることができる。さらに、菌体処理物には、前記処理を施した後、公知の方法により固定化処理したものも含まれる。固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に本発明タンパク質等を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本発明タンパク質等を閉じ込める方法)が挙げられる。
【0018】
本発明製造方法は、通常、水及び還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADPHと記す。)又は還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと記す。)の存在下に行われる。この際に用いられる水は、緩衝水溶液であってもよい。当該緩衝液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
また本発明製造方法は、さらに疎水性有機溶媒を用いて、水と疎水性有機溶媒との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる疎水性有機溶媒としては、例えば、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−オクチルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類及びこれらの混合物が挙げられる。
また本発明製造方法は、さらに親水性有機溶媒を用いて、水と水性媒体との存在下で行うこともできる。この場合に用いられる親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類及びこれらの混合物が挙げられる。
【0019】
本発明製造方法は、通常、水層のpHが3〜10の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0020】
本発明製造方法は、通常、約0〜60℃の範囲内で行われるが、反応が進行する範囲内で適宜変化させてもよい。
【0021】
本発明製造方法は、通常、約0.5時間〜約10日間の範囲内で行われる。反応の終点は、原料化合物である5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルの添加終了後、例えば、反応液中の当該5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルの量を、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により測定することにより確認することができる。
【0022】
本発明製造方法における原料化合物である5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルの濃度は、通常、50%(w/v)の以下であり、反応系中の当該5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステル濃度をほぼ一定に保つために、当該5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルを反応系に連続又は逐次加えてもよい。
【0023】
本発明製造方法では、必要に応じて反応系に、例えば、グルコース、シュークロース、フルクトース等の糖類、又は、TritonX−100若しくはTween60等の界面活性剤等を加えることもできる。
【0024】
反応終了後、反応液を有機溶媒抽出、濃縮等の通常の後処理を行うことにより、前記5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルに対応した2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを反応液から回収すればよい。回収された2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルは、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、蒸留等によりさらに精製することもできる。
【0025】
また、本発明製造方法は、通常、NADPH又はNADHの存在下に行われる。本発明製造方法における原料化合物である5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルの還元反応の進行に伴い、当該NADPH又はNADHは、酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(以下、NADP+と記す)又は酸化型β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NAD+と記す)に変換される。変換により生じたNADP+又はNAD+は、還元型(NADPH又はNADH)に変換する能力を有するタンパク質により元のNADPH又はNADHに戻すことができるので、上記方法の反応系内には、NADP+又はNAD+をNADPH又はNADHに変換する能力を有するタンパク質を共存させることもできる。
NADP+又はNAD+をNADPH又はNADHに変換する能力を有するタンパク質としては、例えば、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素及び有機脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素等)等が挙げられる。
NADP+又はNAD+をNADPH又はNADHに変換する能力を有するタンパク質としてのグルコース脱水素酵素はNADP+又はNAD+をNADPH又はNADHに変換する際、基質としてグルコースを要するものであり、グルコースを酸化し、グルコノラクトンに変換する能力を有するタンパク質又はそのタンパク質を発現する微生物又はその処理物であってもよい。
また、NADP+又はNAD+をNADPH又はNADHに変換する能力を有するタンパク質がグルコース脱水素酵素である場合には、反応系内にグルコース等を共存させることにより当該タンパク質の活性が増強される場合もあり、例えば、反応液にこれらを加えてもよい。
また、当該タンパク質は、酵素そのものであってもよいし、また当該酵素をもつ微生物又は当該微生物の処理物の形態で反応系内に共存させてもよい。ここで処理物とは、前述にある「菌体処理物」と同等なものを意味する。
【実施例】
【0026】
以下、本発明製造方法を実施例により詳細に説明するが、本発明製造方法はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1 (原料5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルの合成)
(1)4−メトキシけい皮酸エチルの合成
4−メトキシけい皮酸250g(1400mmol)、エタノール550mL及び濃硫酸78mL(1400mmol)の混合物を10時間還流した。液体クロマトグラフィーにて反応の完了を確認した後、得られた混合物を1000mLの氷水中に注ぎ込んだ。当該混合物をトルエンで2回抽出し(1000mL、500mL)、合一した有機溶媒相を500mLの上水にて2回洗浄した後、これを500mLの5%重曹水でさらに洗浄した。得られた混合物を、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した後、これをエバポレータ-にて濃縮し、さらに真空ポンプで乾燥することにより、290.9gの4−メトキシけい皮酸エチルを得た(定量的)。
H−NMR(CDCl):δppm:1.33(t、J=7Hz、3H)、3.84(s、3H)、4.25(q、J=7Hz、2H)、6.31(d、J=16Hz、1H)、6.90(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.48(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.64(d、J=16Hz、1H)
【0028】
(2)3−(4−メトキシフェニル)−1−プロパノールの合成
4−メトキシけい皮酸エチル145.5g(700mmol)を含む1164グラムのテトラヒドロフラン溶液を0℃まで冷却した後、これに132gの水素化ホウ素ナトリウム(3500mmol)を発熱、発泡に注意しながら5回に分けて35分間かけて添加した。次いで、当該混合物を62℃まで昇温した後、これにメタノール291グラムを3時間かけて滴下した。得られた混合物を引き続き2時間保温した後、5℃以下まで冷却した。
得られた混合物を、5℃以下に冷却された3N塩酸800mL中に、15℃以下を保ちながらゆっくり加えた。全量を加えた後、さらに3N塩酸にてpHを6.9に調整した。このようにして得られた混合物をトルエンで2回抽出し(1000mL、500mL)、合一した有機溶媒相をエバポレータ-にて濃縮した後、さらに真空下蒸留精製することにより、66.7gの3−(4−メトキシフェニル)−1−プロパノールを得た(105〜110℃/0.2mmHg、57.3%)。
H−NMR(CDCl):δppm:1.81−1.91(m、2H)、2.65(t、J=7.7Hz、2H)、3.66(t、J=6.4Hz、2H)、3.79(s、3H)、6.83(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.12(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)
【0029】
(3)1−クロロ−3−(4−メトキシフェニル)プロパンの合成
塩化チオニル48g(400mmol)を65℃まで昇温した後、これに3−(4−メトキシフェニル)−1−プロパノール33.2g(200mmol)を3.5時間かけて滴下した。得られた混合物を引き続き70℃で2時間保温した後、200gの氷水中に注ぎ込んだ。当該混合物をトルエンで2回抽出し(100mL×2回)、合一した有機溶媒相を2回水洗した。得られた水先物をエバポレーターにて濃縮した後、さらに真空下蒸留精製することにより、28.77gの1−クロロ−3−(4−メトキシフェニル)プロパンを得た(91〜95℃/2.8mmHg、77.9%)。
H−NMR(CDCl):δppm:2.00−2.10(m、2H)、2.72(t、J=7.3Hz、2H)、3.52(t、J=6.6Hz、2H)、3.79(s、3H)、6.84(dd、J=2.0、6.5Hz、2H)、7.11(dd、J=2.0、6.5Hz、2H)
【0030】
(4)5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルの合成
マグネシウム3.6g(150mmol)とテトラヒドロフラン(50g)との混合物中に、ジブロモエタン100μLを注入することにより、活性化されたマグネシウムを含む混合物を得た。得られた混合物を65℃まで昇温した後、当該混合物(5.2g(136mmol)を1−クロロ−3−(4−メトキシフェニル)プロパンに3時間かけて滴下した。得られた混合物を引き続き80℃で2時間保温した後、室温まで冷却することにより、Grignard剤を調製した。
−70℃以下まで冷却されたシュウ酸ジエチル39.7g(272mmol)のテトラヒドロフラン(100g)溶液に、上記のGrignardを−50℃以下で1時間かけて滴下した後、これを−10℃まで昇温し、さらに−10℃で2.5時間保温した。得られた混合物に、3N塩酸50mLと上水50mLとを加えた。当該混合物をトルエンで2回抽出し(100mL×2回)、合一した有機溶媒相を5%食塩水50mLで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた乾燥物をエバポレータ-にて濃縮した後、バス温95℃、3mmHgで低沸点成分(主に過剰のシュウ酸ジエチル)を留去し、さらに高真空下蒸留精製することにより、28.75gの5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルを得た(128〜133℃/0.1mmHg、84.4%)。
H−NMR(CDCl):δppm:1.36(t、J=7.1Hz、3H)、1.90−1.98(m、2H)、2.61(t、J=7.5Hz、2H)、2.84(t、J=7.3Hz、2H)、3.79(s、3H)、4.30(q、J=7.1Hz、2H)、6.83(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.09(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)
【0031】
(5)5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸メチルの合成
上記と同様の方法で、5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸メチルを合成した。
H−NMR(CDCl):δppm:1.90−1.99(m、2H)、2.60(t、J=7.5Hz、2H)、2.84(t、J=7.3Hz、2H)、3.79(s、3H)、3.85(s、3H)、6.82(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.08(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)
【0032】
実施例2 (本発明製造方法による、5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルからの光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの製造例(その1))
バッフルフラスコに滅菌済み培地(1Lの水に、グルコース20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、肉エキス3g、硫酸アンモニウム0.2g、リン酸2水素カリウム1g及び硫酸マグネシウム7水和物0.5gを加えた後、pHを7.0に調整したもの)100mlを入れ、これに表1で示された各種の菌体を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離(6000×g、10分)により菌体を分離し、0.85%食塩水にて洗浄した後、乾燥させ、乾燥菌体を得た。ねじ口試験管に5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチル3mg、前記の乾燥菌体10mg、NADPH5mg、NADH5mg、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)1.35ml及び酢酸ブチル0.15mlを添加し、30℃で16時間振とうした後、反応液に酢酸エチルを2ml添加した後、遠心分離(1000×g、5分)することにより、有機層を回収した。当該有機層を下記条件で液体クロマトグラフィーによる含量分析及び光学純度分析に供試した。得られた2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの生成率および光学純度分析の結果を表1に示す。
H−NMR(CDCl):δppm:1.28(t、J=7.1Hz、3H)、1.59−1.86(m、4H)、2.51−2.67(m、2H)、2.76(d、J=5.7Hz、1H)、3.78(s、3H)、4.15−4.20(m、1H)、4.23(q、J=7.1Hz、2H)、6.82(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.09(dd、J=1.8、6.6Hz、2H)
(含量分析条件)
カラム:SUMIPAX ODS A−212(5μm、6mmΦ×15cm)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
20 10:90
30 1:99
30.1 80:20
流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出:290nm
【0033】
(光学異性体分析条件)
カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル化学工業社製)
移動相:ヘキサン/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:254nm
【0034】
【表1】

【0035】
実施例3 (本発明製造方法による、5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルからの光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの製造例(その2))
バッフルフラスコに滅菌済み培地(1Lの水に、グルコース20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、及び、麦芽エキス3gを加えた後、pHを6.0に調整したもの)100mlを入れ、これに表2で示された各種の菌体を植菌した。これを30℃で好気条件下、振盪培養した。培養終了後、遠心分離(6000×g、10分)により菌体を分離し、0.85%食塩水にて洗浄した後、乾燥させ、乾燥菌体を得た。ねじ口試験管に5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチル3mg、前記の乾燥菌体10mg、NADPH5mg、NADH5mg、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)1.35ml及び酢酸ブチル0.15mlを添加し、30℃で16時間振とうした後、反応液に酢酸エチルを2ml添加した後、遠心分離(1000×g、5分)することにより、有機層を回収した。当該有機層を下記条件で液体クロマトグラフィーによる含量分析及び光学純度分析に供試した。得られた2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの生成率および光学純度分析の結果を表2に示す。
(含量分析条件)
カラム:SUMIPAX ODS A−212(5μm、6mmΦ×15cm)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
20 10:90
30 1:99
30.1 80:20
流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出:290nm
【0036】
(光学異性体分析条件)
カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル化学工業社製)
移動相:ヘキサン/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:254nm
【0037】
【表2】



【0038】
実施例4 (本発明製造方法による、5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルからの光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの製造例(その3))
バッフルフラスコに滅菌済み培地(1Lの水に、グルコース20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、及び、麦芽エキス3gを加えた後、pHを6.0に調整したもの)100mlを入れたものを2本準備し、それぞれにYamadazyma farinosa IFO193株を植菌した。これを30℃で好気条件下、2日間振盪培養した。培養終了後、遠心分離(6000×g、10分)により菌体を分離し、5.4gの湿菌体を得た。
5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチル600mg、前記の湿菌体5.4g、NAD60mg、グルコース900mg、グルコース脱水素酵素(天野製薬製)9mg、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)30ml及び酢酸ブチル6mlを混合した。当該混合物を30℃で25時間攪拌した。尚、攪拌中は反応液のpHが6.8〜7.2となるように2M炭酸ナトリウム水溶液を徐々に加えた。攪拌終了後、反応液を遠心分離(1000×g、5分)することにより、有機層を回収した。当該有機層を下記条件で液体クロマトグラフィーによる含量分析及び光学純度分析に供試した。反応に用いた5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エチルの量に対して2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルは86.7%生成していた。また下記条件で当該有機層中の2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルの光学純度を測定した結果、(R)体が98 %e.e.であった。さらに当該有機層を濃縮することにより、粗(R)−2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エチルを得る。
(含量分析条件)
カラム:SUMIPAX ODS A−212(5μm、6mmΦ×15cm)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
20 10:90
30 1:99
30.1 80:20
流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出:290nm
【0039】
(光学異性体分析条件)
カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル化学工業社製)
移動相:ヘキサン/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:254nm
【0040】
実施例5 (本発明製造方法による、5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸メチルからの光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸メチルの製造例(その4))
バッフルフラスコに滅菌済み培地(1Lの水に、グルコース20g、ポリペプトン5g、酵母エキス3g、及び、麦芽エキス3gを加えた後、pHを6.0に調整したもの)100mlを入れ、これにYamadazyma farinosa IFO193株を植菌した。これを30℃で好気条件下、2日間振盪培養した。培養終了後、遠心分離(6000×g、10分)より菌体を分離し、2.8gの湿菌体を得た。
5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸メチル2mg、前記の湿菌体0.2g、NADH10mg、100mMリン酸緩衝液(pH7.0)2ml及び酢酸ブチル0.1gを混合した。当該混合物を30℃で8時間攪拌した。攪拌終了後、酢酸ブチルを1.9ml添加した後、反応液を遠心分離(1000×g、5分)することにより、有機層を回収した。当該有機層を下記条件で液体クロマトグラフィーによる含量分析及び光学純度分析に供試した。反応に用いた5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸メチルの量に対して2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸メチルは19.6%生成していた。また下記条件で当該有機層中の2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸メチルの光学純度を測定した結果、(R)体が95 %e.e.であった。さらに当該有機層を濃縮することにより、粗(R)−2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸メチルを得る。
H−NMR(CDCl):δppm:1.60−1.82(m、4H)、2.56−2.62(m、2H)、2.71(d、J=5.7Hz、1H)、3.78(s、3H)、4.17−4.23(m、1H)、6.82(dd、J=2.0、6.6Hz、2H)、7.10(dd、J=1.8、6.6Hz、2H)
(含量分析条件)
カラム:SUMIPAX ODS A−212(5μm、6mmΦ×15cm)
移動相:A液 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液 0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液
時間(分) A液(%):B液(%)
0 80:20
20 10:90
30 1:99
30.1 80:20
流量:1.0ml/分
カラム温度:40℃
検出:290nm
【0041】
(光学異性体分析条件)
カラム:CHIRALPAK AD(ダイセル化学工業社製)
移動相:ヘキサン/2−プロパノール/トリフルオロ酢酸=90/10/0.1
流量:0.5ml/分
カラム温度:40℃
検出:254nm
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを効率的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、RはC1−C8を表す。)
で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルを、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルに不斉的に還元する能力を有する、アルスロバクター(Arthrobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、ヤマダジーマ(Yamadazyma)属、キャンディダ(Candida)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クロエッケラ(Kloeckera)属、ピキア(Pichia)属及びコマガタエラ(Komagataella)属に属する微生物群の中から選ばれた微生物又はその処理物を一般式(1)で示される5−(4−メトキシフェニル)−2−オキソペンタン酸エステルに接触させることを特徴とする光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記微生物が、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus )、シュードモナス・ニトロレヂュセンス(Pseudomonas nitroreducens)、シュードモナス・ディミヌタ(Pseudomonas diminuta )、シュードモナス・ピッケッティ(Pseudomonas picketti) 、シュードモナス・オキサラティクス(Pseudomonas oxalaticus) 、シュードモナス・キャリオフィリ(Pseudomonas caryophylli )、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ヤマダジーマ・ファリノーサ(Yamadazyma farinosa )、キャンディダ・エルノビイ(Candida ernobii)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・メタノリカ(Candida methanolica)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、コリネバクテリウム・ヒドロカルボクラスタス(Corynebacterium hydrocarboclastus) 、クロエッケラ・アフリカーナ(Kloeckera africana)、ピキア・メンブラナファシエンス(Pichia membranaefaciens)又はコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により製造された光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルを回収することを特徴とする光学活性2−ヒドロキシ−5−(4−メトキシフェニル)−ペンタン酸エステルの製造方法。


【公開番号】特開2006−121962(P2006−121962A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313531(P2004−313531)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】