説明

光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の新規な結晶およびその製造方法

【課題】光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の新規な結晶およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記B晶をpH3〜9の水中で加熱する工程を含む下記A晶の製造方法。
A晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
B晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の新規な結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸は、医薬品原体またはその中間体として開発されている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の製造方法としては、例えば、特許文献2記載の方法や非特許文献1記載の方法が知られている。
特許文献2記載の方法では、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和晶析する方法により、また、非特許文献1記載の方法では、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の水酸化ナトリウム水溶液に希塩酸を添加して中和晶析する方法により、それぞれ光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得ている。非特許文献1には、前記結晶をさらにメタノール中で加熱することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−506407号公報
【特許文献2】特開2007−332129号公報(実施例9)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of the Chemical Society,Perkin Transactions 2,1997年,763−768頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の新規な結晶およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
〔2〕 下記B晶をpH3〜9の水中で加熱する工程を含む下記A晶の製造方法。
A晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
B晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
〔3〕 前記工程が、前記B晶を50℃〜90℃に加熱する工程である前記〔2〕記載の製造方法。
〔4〕 下記B晶をpH3〜9の水中で加熱することを特徴とする
該B晶を下記A晶に変換する方法。
A晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
B晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
〔5〕 前記B晶を50℃〜90℃に加熱する前記〔4〕記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の新規な結晶およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶の代表的なX線回折パターンを示す。
【図2】Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶の代表的なX線回折パターンを示す。
【図3】実施例1に準じて得られた結晶の示差走査熱量分析チャートを示す。
【図4】比較例1に準じて得られた結晶の示差走査熱量分析チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶について説明する。以下、当該結晶を、「光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のA晶」または単に「A晶」ということがある。
【0012】
本発明において、「回折ピークを有する」とは、最も強い回折ピークのピーク強度を100%としたとき、3%以上のピーク強度(相対強度)を有することを意味し、「実質的に回折ピークを有しない」とは、最も強い回折ピークのピーク強度を100%としたとき、3%未満のピーク強度(相対強度)であることを意味する。
【0013】
A晶のCu−Kα波長のX線回折測定における代表的なX線回折パターンを図1に示す。また、図1に示すX線回折パターンにおいて、A晶が有する回折ピークを与える回折角2θおよび回折ピークの相対強度を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、A晶は、Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に実質的に回折ピークを有しない。
【0016】
これに対して、Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を、「光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のB晶」または単に「B晶」ということがある。
【0017】
B晶のCu−Kα波長のX線回折測定における代表的なX線回折パターンを図2に示す。また、図2に示すX線回折パターンにおいて、B晶が有する回折ピークを与える回折角2θおよび回折ピークの相対強度を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2に示すように、B晶は、Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に実質的に回折ピークを有しない。
【0020】
このように、Cu−Kα波長の粉末X線回折測定により、A晶はB晶と明確に識別することができる。そして、上述の特許文献2および非特許文献1記載の方法により得られる光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶は、B晶に該当する。
【0021】
Cu−Kα波長のX線回折測定は、粉砕した結晶を試料として用い、例えばRigaku社製Mini Flex II ゴニオメーターを用いて下記の条件下で行うことができる。
・X線: Cu/30kV/15mA
・フィルター: Kβ フィルター
・発散スリット: 1.25°
・受光スリット: 0.3mm
・散乱スリット: 1.25°
・サンプリング幅: 0.02°
・走査範囲: 2.00〜40.00°
・積算回数: 1
・スキャンスピード: 2.0°/分
・走査軸: 2θ/θ
・θ オフセット: 0°
【0022】
A晶の示差走査熱量(以下、DSCと称する。)を測定した場合、200℃〜210℃の範囲内に吸熱ピークを示し、370℃〜390℃の範囲内に発熱ピークを示す。これに対して、B晶のDSCを測定した場合、180℃〜190℃の範囲内に吸熱ピークを示し、345℃〜365℃の範囲内に発熱ピークを示す。このように、DSCを測定することによっても、A晶はB晶と明確に識別することができる。
【0023】
DSCの測定は、例えばSII Nano Technology社製EXTER6000型の示差走査熱量計を用いて下記の条件下で行うことができる。
・測定温度範囲: 25〜500℃
・昇温速度: 10℃/分
・容器: SUS密封
・試料量: 約0.4〜約0.7mg
・リファレンス: α―アルミナ 約0.6mg
・雰囲気ガス流量: 乾燥窒素、約70mL/分
【0024】
A晶は、DSC測定において、B晶と比較して高い吸熱ピークおよび高い発熱ピークを示すことから、B晶と比較してより一層熱安定性に優れるという効果が発現される。したがって、A晶は、B晶と比較してより一層保存安定性にも優れると予想される(例えば「固体医薬品の安定性評価と微少熱量計の応用」、Netsu Sokutei 第31巻、第2号、80−86頁参照)。
【0025】
A晶の水100gに対する25℃での溶解度は、0.7g〜1.1gの範囲内(0.9±0.2g)である。これに対して、B晶の水100gに対する25℃での溶解度は、1.8g〜2.2gの範囲内(2.0±0.2g)である。このように、水への溶解度を測定することによっても、A晶はB晶と明確に識別することができる。
【0026】
水を含む混合物から取り出したA晶を、減圧下、50℃で乾燥する場合、A晶に残存する水分量は例えば0.5%未満、または例えば0.2%未満である。これに対して、水を含む混合物から取り出したB晶を、減圧下、50℃で乾燥する場合、B晶に残存する水分量は例えば0.5%〜2%の範囲内である。水分量は、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定することができる。A晶は、B晶と比較して、その乾燥が容易である。
【0027】
A晶を構成する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸は、(S)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸であってもよいし、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸であってもよい。
【0028】
A晶を構成する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の化学純度は、A晶を基準として好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。鏡像体過剰率は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸は、(S)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸が過剰であってもよいし、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸が過剰であってもよい。
【0029】
次いで、A晶の製造方法について説明する。かかる製造方法は、B晶をpH3〜9の水中で加熱する工程(以下、「本工程」ということがある。)を含む。B晶をpH3〜9の水中で加熱することにより、B晶をA晶に変換することができる。
【0030】
本工程において、(S)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のB晶を用いた場合には、(S)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のA晶が得られ、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のB晶を用いた場合には、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のA晶が得られる。
【0031】
B晶を構成する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の化学純度は、B晶を基準として好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上であり、鏡像体過剰率は好ましくは95%以上であり、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。
【0032】
すでに説明したとおり、B晶は、特許文献2または非特許文献1に記載される公知の方法により、あるいは当該公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、例えば、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液を無機塩基と混合して中和晶析する方法、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の水酸化ナトリウム水溶液を鉱酸と混合して中和晶析する方法、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の水酸化ナトリウム水溶液を鉱酸と混合して中和晶析し、得られた結晶をメタノール等のアルコール溶媒中で加熱する方法が挙げられ、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液を無機塩基と混合して中和晶析する方法が好ましい。これらの方法において、無機塩基または鉱酸と混合して中和晶析を行う前に、活性炭処理を施してもよい。
【0033】
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液における水の量は、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩1重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜20重量部の範囲内、より好ましくは1重量部〜5重量部の範囲内である。
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の水酸化ナトリウム水溶液における水の量は、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸1重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜20重量部の範囲内、より好ましくは1重量部〜10重量部の範囲内である。
【0034】
中和晶析は、好ましくはpH3〜9の範囲内、より好ましくはpH4〜8の範囲内にpHを調整することにより行うことができる。
pHを調整する際に用いられる無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸化物、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素化物が挙げられ、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。無機塩基は、1種を用いることもできるし、2種以上を用いることもできる。無機塩基は、水と混合して用いてもよい。
pHを調整する際に用いられる鉱酸としては、塩酸、硫酸、燐酸等が挙げられ、好ましくは塩酸である。鉱酸は、1種を用いることもできるし、2種以上を用いることもできる。鉱酸は、水と混合して用いてもよい。
【0035】
pHを調整する際の温度は、B晶の収率を向上させる点で好ましくは0℃〜40℃の範囲内であり、より好ましくは10℃〜30℃の範囲内である。
【0036】
中和晶析により得られる混合物に、濾過、デカンテーション等の固液分離処理を施すことでB晶を取り出した後、本工程を行うこともできるし、中和晶析により得られる混合物からB晶を取り出さずに本工程を行うこともできる。固液分離処理としては、濾過が好ましい。固液分離処理における温度は、好ましくは0℃〜40℃の範囲内、より好ましくは10℃〜30℃の範囲内である。取り出したB晶に、水等による洗浄処理を施した後または洗浄処理を施さずに、乾燥処理を行うこともできる。乾燥処理は、常圧下または減圧下、好ましくは20℃〜80℃の範囲内で行われる。
中和晶析により得られる混合物からB晶を取り出さずに本工程を行うことが、作業効率の点で好ましい。
【0037】
B晶は、有機酸の水溶液で精製処理することにより、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の鏡像体過剰率を向上させることができる。有機酸の水溶液は、後述する有機酸を水に溶解することにより調製される。
【0038】
精製処理に用いる有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のカルボン酸が挙げられ、酢酸が好ましい。
【0039】
有機酸の水溶液中の有機酸の濃度は、0.2重量%〜3重量%の範囲内であることが好ましく、0.5重量%〜2重量%の範囲内であることがより好ましい。有機酸の水溶液中の有機酸の濃度が0.2重量%未満である場合には、精製の効果が低くなる傾向にあり、3重量%を超える場合には収率が低下する傾向にある。精製処理に用いる水の量は、精製処理に付すB晶1重量部に対して、好ましくは1重量部〜8重量部の範囲内である。
【0040】
B晶の精製処理は、具体的には、上述した有機酸の水溶液中にB晶を懸濁させる方法、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液を無機塩基と混合して中和晶析し、そこへ有機酸を添加する方法、光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の水酸化ナトリウム水溶液を鉱酸と混合して中和晶析し、そこへ有機酸を添加する方法等により行うことができる。精製処理の温度は、好ましくは0℃〜40℃の範囲内、より好ましくは20℃〜30℃の範囲内である。精製処理の時間は、例えば30分間〜10時間の範囲内である。
【0041】
精製処理に付したB晶を含む混合物に、濾過、デカンテーション等の固液分離処理を施すことでB晶を取り出した後、本工程を行うこともできるし、精製処理に付したB晶を混合物から取り出さずに本工程を行うこともできる。固液分離処理としては、濾過が好ましい。固液分離処理における温度は、好ましくは0℃〜40℃の範囲内、より好ましくは10℃〜30℃の範囲内である。取り出したB晶に、水等による洗浄処理を施した後または洗浄処理を施さずに、乾燥処理を行うこともできる。乾燥処理は、常圧下または減圧下、好ましくは20℃〜80℃の範囲内で行われる。
精製処理に付したB晶を混合物から取り出さずに本工程を行うことが、作業効率の点で好ましい。
【0042】
本工程における水の量は、B晶1重量部に対して、好ましくは1重量部〜20重量部の範囲内、より好ましくは2重量部〜10重量部の範囲内である。水は単独で用いることもできるし、水に混和性の有機溶媒と混合して用いることもできる。水に混和性の有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール等の炭素数3以下のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル溶媒、アセトニトリル、アセトン、メチルセロソルブ等が挙げられる。水に混和性の有機溶媒は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。水に混和性の有機溶媒を用いる場合、該有機溶媒の使用量は、水1重量部に対して1重量部未満であることが好ましい。
【0043】
本工程における水のpHは、pH3〜9の範囲内であり、収率を向上させる点で、好ましくはpH4〜8の範囲内である。
pHの調整は、酸および/または塩基を添加することにより行うことができる。酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸、塩酸、硫酸、燐酸等の無機酸が挙げられ、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素化物等が挙げられる。塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩が存在していてもよい。
【0044】
種晶としてA晶を添加することもできる。添加する種晶の量は、B晶1重量部に対して、好ましくは0.0005〜0.2重量部の範囲内、より好ましくは0.001〜0.1重量部の範囲内である。
【0045】
加熱温度は、好ましくは40℃〜100℃の範囲内、より好ましくは50〜90℃の範囲内である。加熱時間は、好ましくは5分間〜24時間の範囲内、より好ましくは10分〜15時間の範囲内である。
【0046】
本工程は、例えば、B晶と水との混合物を所定の温度に加熱した後、そこへ酸および/または塩基を添加することにより、得られる混合物中の水をpH3〜9に調整する方法、B晶と水との混合物に酸および/または塩基を添加することにより、得られる混合物中の水をpH3〜9に調整した後、混合物を加熱する方法により行なわれる。
【0047】
本工程により得られる混合物を、必要に応じて冷却処理に付した後、濾過、デカンテーション等の固液分離処理を行うことで、A晶を取り出すことができる。固液分離処理としては、濾過が好ましい。固液分離処理における温度は、水の凝固点から沸点までの範囲内で選択することができるが、好ましくは0℃〜70℃の範囲内であり、より好ましくは10℃〜60℃の範囲内である。取り出したA晶に、洗浄処理を施すこともできる。洗浄処理には、例えば水を用いることができる。取り出したA晶に、洗浄処理を施した後または洗浄処理を施さずに、乾燥処理を行うこともできる。乾燥処理は、常圧下または減圧下、好ましくは20℃〜80℃の範囲内で行われる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0049】
<合成例1> 4−クロロ−β−ニトロスチレンの合成
酢酸1066.8gに4−クロルベンズアルデヒド200.14g(1.356モル)とベンジルアミン153.4g(1.429モル)とを加えて溶解した。この溶液を78℃に加温し、そこへニトロメタン325.7g(5.336モル)を78〜80℃で2時間50分かけて滴下した後、約79℃で40分間攪拌した。次いで、約50℃で水1016gを2時間25分かけて滴下した。混合物を1時間50分かけて約10℃まで冷却し、6〜10℃で1時間50分攪拌した。結晶を濾過し、水1016.2gで洗浄した。約50℃で湿結晶をトルエン572.8gに溶解した。分液して水層を除き、水330.8gで洗浄した。トルエン層803.24gをHPLCにより分析したところ、4−クロロ−β−ニトロスチレンが253.8g含まれていた。収率は97.1%であった。
【0050】
<合成例2> (S)−2−エトキシカルボニル−4−ニトロ−3−フェニル酪酸エチルの合成
窒素雰囲気下、4−クロロ−β−ニトロスチレン(1492g、8.1mol)を含むトルエン溶液3730gと、国際公開2005/000803号パンフレットに記載された方法で製造した(R,R)−trans−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]−3−[2−(N,N−ジメチルアミノ)シクロヘキシル]チオ尿素34g(0.0082モル)をトルエン100gに溶解した溶液とを混合した。得られた混合物にマロン酸ジエチル3905g(24.4モル)を約20℃で添加した。24時間後、反応混合物を減圧下濃縮し、(S)−2−エトキシカルボニル−4−ニトロ−3−フェニル酪酸エチル2598gを含むトルエン溶液5648gを得た。収率は93%であった。得られたトルエン溶液の一部を取り出し、HPLCによって、(S)−2−エトキシカルボニル−4−ニトロ−3−フェニル酪酸エチルが得られたことを確認した。
【0051】
<合成例3> (3S,4R)−4−(4−クロロフェニル)−2−オキソピロリジン−3−カルボン酸エチルの合成
窒素雰囲気下、2−プロパノール7144gに、合成例2で得られた(S)−2−エトキシカルボニル−4−ニトロ−3−フェニル酪酸エチル2597g(7.55モル)を含むトルエン溶液5646g、展開ニッケルPL9T(川研ファインケミカル製)519gを加え、0.5MPa(ゲージ圧)の水素圧下、約70℃で反応させた。反応終了後、ニッケル触媒を濾別し、濾液を減圧濃縮した。濃縮物に1,2−ジクロルベンゼン3392gを加えた。この溶液をHPLCにより分析したところ、(3S,4R)−4−(4−クロロフェニル)−2−オキソピロリジン−3−カルボン酸エチルは1618g含まれていた。
【0052】
<合成例4> (R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の合成 合成例3で得られた(3S,4R)−4−(4−クロロフェニル)−2−オキソピロリジン−3−カルボン酸エチル1618gを含む1,2−ジクロルベンゼン溶液7035gに水2425gと35%塩酸3236gとを加え、約100℃で24時間攪拌した。得られた反応混合物を冷却した後、分液した。水層に1,2−ジクロルベンゼン3392gを加えて洗浄し再度分液した。得られた水層を加熱還流した後、70〜90℃でトルエン8417gを加えた。内溶液の温度が110℃になるまで共沸脱水して水分を留去し、次いで内温が111℃になるまでトルエンを留去した。水143gおよびアセトニトリル2494gを加えて冷却し、約20℃で1時間攪拌した。混合物を濾過した後、水63gとアセトニトリル2494gとの混合液で洗浄し、乾燥することにより、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩1361gを得た。下記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.4%であった。
【0053】
(HPLC光学純度分析条件)
・カラム: CROWNPAK CR(+)(4.6mm×250mm)
・移動相: HClO4でpHを2に調整した水
・流量: 2.0mL/分
・カラム温度: 40℃
・検出器: UV220nm
【0054】
<比較例1>
特許文献2に記載される方法に従って、鏡像体過剰率99.4%の(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩80.0gを水163gに加えて溶解し、得られた溶液に活性炭0.9gを加えて約40℃で1時間攪拌した後、約40℃で混合物を濾過し、水73gで洗浄した。濾液と洗浄液とを合一して(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩の水溶液を調製し、そこへ約14重量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を約22℃で滴下して混合物のpHを7〜8に調整することにより、結晶を析出させた。即ち、中和晶析を行った。混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水17.4gで洗浄した後、50℃で減圧乾燥して(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶64.2gを得た。
【0055】
得られた結晶の一部を取り出して粉砕した後、下記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが21.0°、26.9°および29.8°に回折ピークを示した。即ち、中和晶析により得られた結晶はB晶であることが確認された。
【0056】
(粉末X線回折分析条件)
・X線: Cu/30kV/15mA
・ゴニオメーター: Mini Flex II ゴニオメーター
・フィルター: Kβ フィルター
・発散スリット: 1.25°
・受光スリット: 0.3mm
・散乱スリット: 1.25°
・サンプリング幅: 0.02°
・走査範囲: 2.00〜40.00°
・積算回数: 1
・スキャンスピード: 2.0°/分
・走査軸: 2θ/θ
・θ オフセット: 0°
【0057】
<実施例1>
比較例1で得られたB晶16gを、比較例1で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液75g(該濾液は、水、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合した。得られた混合物のpH、即ち該混合物中の水のpHは、pH7.5〜7.6であった。この混合物を約65℃に加熱し、B晶をpH7〜8の水中で1時間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水25gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率82%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.8%であった。
【0058】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが9.3°、12.7°および25.0°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0059】
<実施例2>
比較例1で得られたB晶16gを、比較例1で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液74g(該濾液は、水、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合し、そこへ3mol/L塩酸11.5gを添加して、pH3.2〜3.3の混合物を得た。得られた混合物を約65℃に加熱し、B晶をpH3〜4の水中で2時間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水25gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率47%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.9%であった。
【0060】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが9.3°、12.7°および25.0°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0061】
<合成例5>
鏡像体過剰率99.2%の(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩60.0gを水120gに加えて溶解し、得られた溶液に活性炭0.6gを加えて約40℃で攪拌した後、混合物を濾過し、水54gで洗浄した。濾液と洗浄液とを合一し、そこへ約14重量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を約25℃で滴下して混合物のpHを7〜8に調整することにより、結晶を析出させた。即ち、中和晶析を行った。得られた混合物に25℃で酢酸1.7mLを添加してpHを4〜5に調整した後、混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水14.8gで洗浄して(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶101.2gを得た。
【0062】
得られた結晶の一部を取り出し、下記のHPLC分析条件で(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸を定量分析した結果、得られた結晶中に含まれる(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の純分は43.8gであり、収率は85%であった。
【0063】
(HPLC分析条件)
・カラム: CAPCELL PAK C8 DD
(4.6mm×150mm、5μm)
・移動相: A液=0.1%リン酸水溶液
B液=アセトニトリル
・移動相グラジエント:
B液 0分−10%→20分−60%→35分−60%
→35.1分−10%→45分
・流量: 1mL/分
・カラム温度: 30℃
・検出器: UV210nm
【0064】
また、得られた結晶の一部を取り出して乾燥し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが21.0°、26.9°および29.9°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はB晶であることが確認された。
【0065】
<実施例3>
合成例5で得られたB晶33g((R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の純分:14.3g)を、合成例5で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液71g(該濾液は、水、酢酸および水酸化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合し、pH4〜5の混合物を調製した。混合物を85〜87℃に加熱し、B晶をpH4〜5の水中で20分間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過し、水25gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率90%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.3%であった。
【0066】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが8.9°、12.3°および25.2°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0067】
<実施例4>
合成例5で得られたB晶33g((R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の純分:14.3g)を、合成例5で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液71g(該濾液は、水、酢酸および水酸化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合し、pH4〜5の混合物を調製した。混合物を65〜71℃に加熱し、B晶をpH4〜5の水中で1時間40分間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過し、水25gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率89%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.9%であった。
【0068】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが8.9°、12.3°および25.2°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0069】
<実施例5>
合成例5で得られたB晶33g((R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の純分:14.3g)を、合成例5で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液71g(該濾液は、水、酢酸および水酸化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合し、pH4〜5の混合物を調製した。混合物を51〜52℃に加熱し、B晶をpH4〜5の水中で10時間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過し、水25gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率85%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.9%であった。
【0070】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが9.3°、12.7°および25.0°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0071】
<実施例6>
(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩40.0gを水81gに加えて溶解し、得られた溶液に活性炭0.4gを加えて約45℃で40分間攪拌した後、混合物を濾過し、水37gで洗浄した。濾液と洗浄液とを合一し、そこへ約14重量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液を約25℃で滴下して混合物のpHを7.3に調整することにより、結晶を析出させた。即ち、中和晶析を行った。得られたB晶を含む混合物に25℃で酢酸0.3mLを添加してpHを4.8に調整した後、混合物を加熱し、B晶をpH4〜5の水中で、67℃〜70℃で1時間攪拌した。得られた混合物を50℃付近まで冷却して30分間攪拌した後、混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水61gで洗浄した。洗浄した結晶を、減圧下、53℃で乾燥して(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶30.9gを得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率90%。
上記のHPLC光学純度分析条件で分析した結果、鏡像体過剰率は99.9%であった。
【0072】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが9.3°、12.7°および25.0°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はA晶であることが確認された。
【0073】
<比較例2>
非特許文献1に記載される方法に従って、水中、(R)−3−(4−クロロフェニル)グルタルアミド酸6.1gと水酸化ナトリウム((R)−3−(4−クロロフェニル)グルタルアミド酸1モルに対して2.6モル)とを混合し、氷水浴による冷却下、混合物に次亜塩素酸ナトリウム((R)−3−(4−クロロフェニル)グルタルアミド酸1モルに対して1.6モル)を添加し、pHを11に調整した。混合物を室温で12時間攪拌した後、反応混合物に1mol/L塩酸を滴下して混合物のpHを7.5に調整することにより結晶を析出させた。即ち、中和晶析を行った。濾過により結晶を取り出し、取り出した結晶を還流メタノール中で処理した後、結晶を濾過、洗浄、乾燥し、結晶Iを得た。また、該結晶を取り出した際に得られた濾液にメタノールを添加し、加熱還流下で処理した後、得られた結晶を濾過、洗浄、乾燥し、結晶IIを得た。収率23%。
【0074】
結晶Iおよび結晶IIそれぞれの一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが21.1°、27.0°および29.9°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はいずれもB晶であることが確認された。
【0075】
<参考例1>
比較例1で得られたB晶16gを、メタノール76gと混合し、得られた混合物を約65℃に加熱して20時間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶をメタノール40gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率86%。
【0076】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが21.0°、26.9°および29.9°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はB晶であることが確認された。
【0077】
<参考例2>
比較例1で得られたB晶16gを、比較例1で結晶を取り出す際の濾過により得られた濾液79g(該濾液は、水、水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを主成分として含んでいる。)と混合し、そこへ約14重量%に調整した水酸化ナトリウム水溶液6.8gを添加して、pH10の混合物を得た。得られた混合物を約65℃に加熱し、B晶をpH10の水中で24時間攪拌した後、50℃まで冷却した。冷却した混合物を濾過して結晶を取り出し、取り出した結晶を水24gで洗浄した後、減圧下、50℃で乾燥し、(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶を得た。(R)−4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸塩酸塩からの収率67%。
【0078】
得られた結晶の一部を取り出し、粉砕した後、上記の粉末X線回折分析条件で分析した結果、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークはなく、回折角2θが21.0°、27.0°および29.9°に回折ピークを示した。即ち、得られた結晶はB晶であることが確認された。
【0079】
<試験例1>
実施例1に準じて得られたA晶および比較例1に準じて得られたB晶について、SII Nano Technology社製EXTER6000を用いて下記の示差走査熱量分析条件でDSCを測定した。結果を表3に示した。
表3に示したように、A晶は、B晶と比較して高い吸熱ピークおよび高い発熱ピークを示したことから、A晶は、B晶と比較して、より一層熱安定性に優れる。また、A晶は、B晶と比較してより一層保存安定性にも優れると予想される。
【0080】
(示差走査熱量分析条件)
・測定温度範囲: 25〜500℃
・昇温速度: 10℃/分
・容器: SUS密封
・試料量: 約0.4〜0.7mg
・リファレンス: α―アルミナ 約0.6mg
・雰囲気ガス流量: 乾燥窒素、約70mL/分
【0081】
【表3】

【0082】
<試験例2>
実施例1に準じて得られたA晶および比較例1に準じて得られたB晶について、水100gに対する溶解度を測定した。結果を表4に示した。
【0083】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、医薬品原体またはその中間体として有用な光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸のより一層安定性に優れる新規な結晶が得られるため、本発明は、産業上、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する
光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
【請求項2】
下記B晶をpH3〜9の水中で加熱する工程を含む下記A晶の製造方法。
A晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
B晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
【請求項3】
前記工程が、前記B晶を50℃〜90℃に加熱する工程である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
下記B晶をpH3〜9の水中で加熱することを特徴とする
該B晶を下記A晶に変換する方法。
A晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが8.7°〜9.4°の範囲内、12.2°〜12.8°の範囲内および24.8°〜25.4°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
B晶:
Cu−Kα波長の粉末X線回折測定において、回折角2θが20.8°〜21.4°の範囲内、26.7°〜27.3°の範囲内および29.7°〜30.3°の範囲内に回折ピークを有する光学活性4−アミノ−3−(4−クロロフェニル)ブタン酸の結晶。
【請求項5】
前記B晶を50℃〜90℃に加熱する請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144162(P2011−144162A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273298(P2010−273298)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】