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光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法
説明

光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法

【課題】高濃度かつ光学純度の高い4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを得る製造方法を提供すること。
【解決手段】
1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応によって光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法であって、酵素反応の開始後、反応液へ1,3−ジハロ−2−プロパノールを供給し、該反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持することを特徴とする、該方法。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応により4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法に関する。詳しくは、酵素反応の開始後、該反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持することを特徴とする、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応により4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造するに際し、使用される酵素として、ハロヒドリンエポキシダーゼが例示できる。ハロヒドリンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、オウレオバクテリウム(Aureobacterium)属に属する微生物が産生する酵素が知られている。
【0003】
本出願人らは、先にコリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、オウレオバクテリウム属の脱ハロゲン化酵素の作用により、1,3−ジハロ−2−プロパノールから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献1、特許文献2参照)、及びエピハロヒドリンから光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献3参照)を提案している。さらに遺伝子組換技術を利用し、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属由来のハロヒドリンエポキシダーゼ酵素遺伝子DNAを有する組換ベクターを得、この組換ベクターを導入した形質転換体を使用し3−ヒドロキシブチロニトリルを製造することに成功している(特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献1参照)。
【0004】
また本出願人らは、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N−1074由来のハロヒドリンエポキシダーゼにおいて、ランダム変異導入により改良型ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子DNAを有する組換ベクターを得、この組換ベクターを導入した形質転換体を使用し4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造することに成功している(特許文献7)。
【0005】
また、Jansenらはアグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株、マイコバクテリウム(Mycobacterium)sp.GP1、アースロバクター(Arthrobacter)sp.AD2が産生するハロヒドリンエポキシダーゼを見出している。アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株においては、その酵素の立体構造を明らかにしている(非特許文献2,3)。
【0006】
しかしながら、上述の酵素を用いた4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法においては、得られる該ニトリルの蓄積濃度は0.1mol/kg程度と生産性が低い、あるいは得られる該ニトリルの光学純度は94%e.e.程度と不十分であり、工業的に好適な方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2840722号公報
【特許文献2】特開第2001−25397号公報
【特許文献3】特許第2840723号公報
【特許文献4】特許第3073037号公報
【特許文献5】特許第3026367号公報
【特許文献6】特開2008−17838号公報
【特許文献7】WO2008/108466号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biosci.Biotech.Biochem.,58(8),1451−1457,1994
【非特許文献2】The EMBO Journal.,22(19),4933−4944,2003
【非特許文献3】J.Bacteriology 183(17),5058−5066,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生産性が高く、工業的に好適な4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応によって4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法において、酵素反応の開始後、反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持することにより、高濃度かつ高光学純度の光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応によって光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法であって、酵素反応の開始後、反応液へ1,3−ジハロ−2−プロパノールを供給し、該反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持することを特徴とする、該方法。
(2)酵素がハロヒドリンエポキシダーゼである、上記(1)に記載の方法。
(3)ハロヒドリンエポキシダーゼがコリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N−1074のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(HHEB)に由来するものである、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)ハロヒドリンエポキシダーゼが配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、反応系内に4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを高濃度かつ高光学純度で蓄積させることができる。よって、本発明は、生産性が高く、工業的に好適な光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、プラスミドpSTT002の構成図である。
【図2】図2は、表4に記載の反応プロファイルから計算される、DCP濃度の理論値の推移を示すグラフである。
【図3】図3は、表6に記載の反応プロファイルから計算される、DCP濃度の理論値の推移を示すグラフである。
【図4】図4は、表8に記載の反応プロファイルから計算される、DCP濃度の理論値の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明に係る光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法(以下、単に「本製造方法」と称す)とは、水及びハロヒドリンエポキシダーゼを含む反応溶媒中で、1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応により光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法である。
【0015】
(1)4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリル
4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質であり、特にL−カルニチンの合成原料として有用である。4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、下記一般式(1)で表される化合物のことをいう。
【0016】
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子が最も好ましい。*は不斉炭素を示し、その立体配置は(R)体、(S)体のいずれでも構わないが、(R)体が好ましい。)
【0017】
具体的には4−フルオロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ヨード−3−ヒドロキシブチロニトリルが挙げられ、好ましくは4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、4−ブロモ−3−ヒドロキシブチロニトリルである。
【0018】
また、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルとは、一方の鏡像異性体(例えばR体)が他方の鏡像異性体(例えばS体)より多く含まれている4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのこと、または、いずれか一方の鏡像異性体のみからなる4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのことをいう。なお、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルがいずれか一方の鏡像異性体のみからなる場合、光学純度100%という。
【0019】
ここで、本発明において「光学活性」とは、一方の鏡像異性体が他方の鏡像異性体よりも多く含まれている物質の状態、またはいずれか一方の鏡像異性体のみから成っている物質の状態を言う。また、「光学純度」とは、「鏡像異性体過剰率(%e.e.)」にほぼ等しいものであるとし、次式で定義する。
【0020】
光学純度≒鏡像異性体過剰率=100×(|[R]−[S]|)/([R]+[S])(%e.e.)
【0021】
ここで、[R]及び[S]は試料中の鏡像異性体のそれぞれの濃度を示す。また、本発明において、「立体選択性」とは、ハロヒドリンエポキシダーゼが、基質から生成物を生成する際に、いずれか一方の鏡像異性体が生成する反応を優先的に触媒する性質を言う。
【0022】
(2)ハロヒドリンエポキシダーゼ
本製造方法において使用される酵素としては、ハロヒドリンエポキシダーゼが挙げられる。ハロヒドリンエポキシダーゼとは、下記一般式(2)で表される1,3−ジハロ−2−プロパノールを脱ハロゲン化水素し、下記一般式(3)で表されるエピハロヒドリンを合成する活性、及びその逆反応を触媒する活性を有する酵素(EC number:4.5.1.−)を意味する。
【0023】
【化2】

(式中、X、Xはハロゲン原子を示す。フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード−2−プロパノール等が挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。)
【0024】
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。)
【0025】
この酵素を産生する微生物としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N−1074(FERM BP−2643)、ミクロバクテリウム(Microbacterium)sp.N-4701(FERM BP-2644)、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)AD1、マイコバクテリウム(Mycobacterium)sp.GP1、アースロバクター(Arthrobacter)sp.AD2等が挙げられる。
【0026】
特に好ましい微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074(FERM BP-2643)である。
【0027】
ハロヒドリンエポキシダーゼは、例えば、GenBankに公表されており、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074由来のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(HHEB)のAccession番号はD90350である。
【0028】
コリネバクテリウム属(Corynebacterium)sp.N−1074株由来のハロヒドリンエポキシダーゼHheBについては、その遺伝子(HHEB)が2つの開始コドンを有するため、結果的に、N末端近傍の8アミノ酸残基の有無のみが異なる2種のハロヒドリンエポキシダーゼが存在することが報告されている(Biosci.Biotechnol.Biochem.,58(8),1451−1457,1994)。本明細書において、両者(上記2種のハロヒドリンエポキシダーゼ)を区別して称するときは、最初の開始コドンから翻訳されたアミノ酸配列(配列番号3)からなるHheBを「HheB(1st)」と称し、2番目の開始コドン(次に登場するメチオニン)から翻訳されたアミノ酸配列(配列番号1)からなるHheBを「HheB(2nd)」と称することとし、これらはいずれも野生型ハロヒドリンエポキシダーゼであるものとする。
【0029】
HheB(1st)をコードする遺伝子(HHEB(1st))としては、例えば配列番号7記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものが挙げられる。HheB(2nd)をコードする遺伝子(HHEB(2nd))としては、例えば配列番号5記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものが挙げられる。
【0030】
ここで、「野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ」とは、自然界の生物より分離され得るハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有する酵素を指し、由来は限定されるものではない。また、当該酵素を構成するアミノ酸配列において、意図的または非意図的なアミノ酸の欠失または他のアミノ酸による置換もしくは挿入がなく、天然由来の属性を保持したままのハロヒドリンエポキシダーゼを意味する。
【0031】
本発明の方法においては、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼ(HheB(1st)およびHheB(2nd))だけでなく、配列番号3又は配列番号1に示すアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加又は挿入を有し、かつHheB(1st)又はHheB(2nd)と同等以上の生物学的活性を有するもの、或いは配列番号3又は配列番号1に示すアミノ酸配列と実質的に同一の配列相同性を有し、かつHheB(1st)又はHheB(2nd)と同等以上の生物学的活性を有するもの(以下、「変異型HheB(1st)または変異型HheB(2nd)」ともいう)も使用することができる。
【0032】
本明細書において、「同等の生物学的活性」とは、1,3−ジハロ−2−プロパノールを脱ハロゲン化水素し、エピハロヒドリンを合成する活性、及びその逆反応を触媒する活性の強さが実質的に同一であることを指す。また、上記「1個若しくは数個」とは、10以下の整数個、例えば1〜10個程度、好ましくは1〜5個程度である。
【0033】
また「実質的に同一の配列相同性」とは、配列番号3又は配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%又は99%の配列相同性を有することをいう。
【0034】
また、HHEB遺伝子としては、配列番号7又は配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドに限定されず、配列番号7又は配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、HheB(1st)又はHheB(2nd)と同等以上の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、それぞれ「変異型HHEB(1st)」および「変異型HHEB(2nd)」ともいう)を含む。ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、例えば配列番号7又は配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドと少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%又は99%の配列相同性を有する。
【0035】
前記ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記微生物からの抽出によって調製することができる。また、ハロヒドリンエポキシダーゼをコードする遺伝子をクローニングし、当該遺伝子を組み込んで作製した遺伝子組換微生物によっても生産することができる。
【0036】
酵素の抽出は常法によって実施すればよく、調製物にはハロヒドリンエポキシダーゼ以外の成分が含まれていても反応に悪影響を与えなければ特に精製する必要はない。ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を組み込んで作製した遺伝子組換微生物を培養して得られるハロヒドリンエポキシダーゼが、調製が容易なことから好ましく使用される。
【0037】
また、形質転換に用いる宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)あるいはロドコッカス(Rhodococcus)属細菌に属する微生物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、他の宿主微生物を用いることも出来る。
【0038】
前記ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する微生物を培養するための培地としては、通常これらの微生物が生育し得るものであれば何れのものでも使用できる。炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、マルトースやフルクトース等の糖類、酢酸、クエン酸やフマル酸等の有機酸あるいはその塩、またはエタノールやグリセロール等のアルコール類等を使用できる。窒素源としては、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキスやアミノ酸等の一般天然窒素源の他、各種無機、有機酸アンモニウム塩等が使用できる。その他、硫酸、塩酸、燐酸やホウ酸などの無機酸あるいはその塩、用いられる微生物が利用可能なナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどを含む無機塩、鉄、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケル微量金属塩、微生物育成促進剤としてビタミンB1、B2、C、K等のビタミン等が必要に応じて適宜添加される。本発明の微生物の培養は、通常は液体培養で行われるが、固体培養によっても行うことができる。
【0039】
培養は10〜50℃の温度で、pH2〜11の範囲で行われる。微生物の生育を促進させるために通気攪拌を行ってもよい。培養により得られた微生物は、培養液そのまま若しくは該培養物から遠心分離等の集菌操作によって得られる微生物菌体、若しくは菌体処理物(例えば、菌体破砕物、粗酵素、精製酵素)あるいは常法により固定化した菌体または菌体処理物の形で、ハロヒドリンエポキシダーゼとして利用することができる。
【0040】
(3)改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ
本発明における「改良型ハロヒドリンエポキシダーゼ」は、主として遺伝子組換技術を利用し、野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列に対して第2番目、71番目、125番目及び199番目(HheB(2nd))並びに第2番目、79番目、133番目及び207番目(HheB(1st))の4つのアミノ酸について置換変異が導入されたアミノ酸配列からなるものであり、形質転換体あたりのハロヒドリンエポキシダーゼ活性、立体選択性、生成物阻害耐性、生成物蓄積能等が向上したハロヒドリンエポキシダーゼである。
【0041】
本発明において使用される改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、具体的には、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を含む野生型ハロヒドリンエポキシダーゼのアミノ酸配列に対して以下のアミノ酸変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0042】
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の第2番目のAla,71番目のPhe,125番目のGln,および199番目のAspが、それぞれLys,Trp,Thr,およびHisに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号2)
【0043】
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列の第2番目のAla,71番目のPhe,125番目のGln,および199番目のAspが、それぞれLys,Trp,Thr,およびHisに置換されたアミノ酸配列であって、前記第2番目、71番目、125番目、および199番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
【0044】
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列の第2番目のAla,第79番目のPhe,133番目のGln,および207番目のAspが、それぞれLys,Trp,Thr,およびHisに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質(配列番号4)
【0045】
(4)配列番号3で表されるアミノ酸配列の第2番目のAla,79番目のPhe,133番目のGln,および207番目のAspが、それぞれLys,Trp,Thr,およびHisに置換されたアミノ酸配列であって、前記第2番目、79番目及び133番目のアミノ酸を除くアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質
【0046】
配列番号2記載のアミノ酸配列からなる改良型HheB(2nd)をコードする遺伝子としては、例えば配列番号6記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものが挙げられる。配列番号4記載のアミノ酸配列からなる改良型HheB(1st)をコードする遺伝子としては、例えば配列番号8記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものが挙げられる。
【0047】
本発明において使用する改良型ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記(1)〜(4)より選択されるアミノ酸変異を有するアミノ酸配列からなるものであればよい。
【0048】
なお、上記(2)および(4)において「1個若しくは数個」とは、10以下の整数個、例えば1〜10個程度、好ましくは1〜5個程度を指す。
【0049】
なお、本発明において、アミノ酸の種類を3文字または1文字のアルファベット表記で表すことがある。さらに、数字の前または前後に、3文字または1文字のアルファベットを配して表記することがあり、この場合は、アミノ酸残基の箇所及び置換前後のアミノ酸の種類を表す。すなわち、数字は、特に断りがない限り、翻訳開始コドンによりコードされるアミノ酸残基(通常はメチオニン)を1番目と定義した場合に、何番目のアミノ酸残基であるかを示すものである。また、数字の前に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換前のアミノ酸の3文字または1文字表記を表し、数字の後に表示した3文字または1文字のアルファベットは、アミノ酸置換が生じた場合の置換後のアミノ酸の3文字または1文字表記を表すものとする。例えば、125番目のグルタミン残基は「Gln125」または「Q125」と表記し、71番目のフェニルアラニン残基がトリプトファンに置換された場合は「Phe71Trp」または「F71W」と表記することがある。
【0050】
(4)シアニドドナー
シアニドドナーとは、反応液中に添加した際にシアンイオン(CN)又はシアン化水素を生じる化合物を意味し、特に制限されないが、シアン化水素(HCN)、シアン化カリウム(KCN)、シアン化ナトリウム(NaCN)、アセトンシアンヒドリン(ACH)が例示される。シアン化水素、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムが好ましく使用される。
【0051】
(5)酵素反応
本製造方法の酵素反応は、水または緩衝液へ、シアニドドナー、1,3−ジハロ−2−プロパノール及びハロヒドリンエポキシダーゼを反応系に添加することにより開始する。緩衝液としては、例えば、青酸、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o−フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、トリス緩衝液あるいはグッド緩衝液等が例示される。その内、青酸とその塩によって構成される緩衝液、トリス緩衝液が好ましい。緩衝剤由来の不純物が混入しない点で、青酸とその塩によってのみ構成される緩衝液が特に好ましい。
【0052】
上記緩衝液への、シアニドドナー、1,3−ジハロ−2−プロパノール、ハロヒドリンエポキシダーゼの投入順序については、特に制限されないが、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼが接触する前に、反応系内にシアニドドナーを存在させておくことが、反応開始時に高い反応速度を得られる点、及びエピハロヒドリンの副生を抑えることができる点で好ましい。存在させておくシアニドドナーの濃度は、反応開始時において、0.01〜1.5mol/kgが好ましく、0.8〜1.5mol/kgがより好ましい。シアニドドナーの濃度は1.5mol/kgを超えると酵素の安定性の観点から好ましくない。
【0053】
また、シアニドドナーは反応進行により消費されるため、追添加することが好ましい。その場合、反応系内に0.05mol/kg以上存在させておくよう、追添加することが好ましいが、酵素の安定性の観点から1.5mol/kgを超えないようにすることが好ましい。
【0054】
シアニドドナーの使用量は、最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの1〜2当量とすることが、反応速度の向上、及びシアニドドナーの効率的な利用の観点から好ましい。
【0055】
ここで、最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの量とは、反応開始から反応終了までに使用した1,3−ジハロ−2−プロパノールの全量のことを意味する。
【0056】
酵素反応時の温度は、0〜30℃とすることが酵素の安定性が良く、円滑に反応が進行する点から好ましい。
【0057】
反応が進行するに従い、反応液中にハロゲン化水素が生成するためpHが低下していく。よって、反応系内にアルカリを追添加することにより、系内のpHを酵素の活性が発揮される領域に調整、維持することが好ましい。そのpHは7.0以上とすることが反応の円滑な進行の点から好ましく、8.5以下とすることが副反応の抑制の点から好ましい。
【0058】
使用するアルカリとしては、ハロゲン化水素と塩を形成し、その塩の水溶液が酵素の活性が発揮されるpH領域にあるものであれば特に制限されず、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアンモニアの、水酸化物あるいは弱酸との塩が例示される。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムが好ましい。アルカリの使用形態としては、特に制限されないが、取り扱いの容易さから水溶液が好ましい。
【0059】
1,3−ジハロ−2−プロパノールは、反応開始時において0.01mol/kg以上となるように予め反応系内に存在させておくことが、反応開始時に高い反応速度を得られる点で好ましい。また、1,3−ジハロ−2−プロパノールは、反応開始時において1.5mol/kg以下、好ましくは1.0mol/kg以下、より好ましくは0.5mol/kg以下となるように予め反応系内に存在させておくことが、酵素の安定性の観点で好ましい。
【0060】
1,3−ジハロ−2−プロパノールは、反応の進行に従って追添加することが高生産性の観点から好ましく、具体的には、酵素反応の開始以降、反応液へ1,3−ジハロ−2−プロパノールを供給し、該反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持するように間欠的に追添加することが好ましい。
【0061】
ハロヒドリンエポキシダーゼの使用量は特に制限されず、反応が円滑に進行する量を使用すればよい。例えば、反応開始時において反応液1gあたり1U〜1000U使用することができる。ここで、1U(ユニット)とは、20℃,pH8.0の緩衝液中において、1,3−ジクロロ−2−プロパノールから1分間に1μmolのエピクロロヒドリンを生成することができる酵素量のことを意味する。
【0062】
反応系内の1,3−ジハロ−2−プロパノール、及び4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの濃度は、例えば高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって定量することができる。また、反応系内のシアニドドナーの濃度は、例えば滴定によって定量することができる。これらの定量結果を反応進行の指標として、追添加する1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーの量を決定することができるが、以下に示す方法で1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーの濃度をより容易に管理できる。
【0063】
つまり、反応開始以降、pHコントローラを用いてpHを一定に維持すると、生成したハロゲン化水素と理論上、等mol、すなわち反応により消費された1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーと理論上等molのアルカリが投入される。このアルカリの投入量が反応進行の指標となるので、反応系に1,3−ジハロ−2−プロパノール及びシアニドドナーを追添加する際の目安とすることができる。
【0064】
反応時間は、基質等の濃度、酵素濃度、又はその他の反応条件等によって適時選択するが、1〜120時間、好ましくは2〜48時間、より好ましくは5〜24時間で反応が終了するように条件を設定する。
【0065】
上述の方法により、光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを反応系内に0.3mol/kgを超えて蓄積させることができる。反応液中に生成、蓄積した光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは公知の方法を用いて採取及び精製することができる。例えば、反応液から遠心分離等の方法を用いて菌体を除いた後、酢酸エチルなどの溶媒で抽出を行い、減圧下で溶媒を除去することにより4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルのシロップを得ることができる。また、これらのシロップを減圧下に蒸留することによりさらに精製することもできる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)、エピクロロヒドリン(ECH)、及び4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル(CHBN)の定量は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて表1に示す分析条件で行った。
【0067】
【表1】

【0068】
反応終了液100μlを、上表記載の移動相5mlにより希釈混合した後、上表記載の分析条件により分析を行った。予め、濃度既知のDCP,ECH及びCHBN溶液を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて反応液中のDCP,ECH及びCHBN濃度を求めた。
【0069】
<生成CHBNの光学純度分析>
生成CHBNの光学純度分析は、CHBNをエステル化後、順相系HPLCにより行った。順相系HPLC分析条件を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
反応終了液約400μlに等量の酢酸エチルを加えて抽出を行った。酢酸エチル相を分取し、少量の無水硫酸マグネシウムを加えて攪拌した。酢酸エチル相を全量なすフラスコに分取してロータリーエバポレータ(東京理化機械)にセットし、50℃,250torr,60分間濃縮した。残存物に20μlのジクロロメタンと20μlのピリジン、及び20μlの(+)−α−メトキシ−α−(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(以下、(+)−MTPAと称することがある)を添加した。室温で一晩反応させた後、400μlのジイソプロピルエーテル(以下、IPEと称することがある)を添加し、1規定の塩酸を加えて抽出を行った。IPE相を分取し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を400μl加えて抽出を行った。IPE相を1.5mlチューブに分取し、アスピレータによりIPE相を揮発させた。残存物をn−ヘキサン:2−プロパノール=4:1の混合液に懸濁した後、表5に記載の分析条件により分析を行った。(R)−CHBN−(+)−MTPAエステル及び(S)−CHBN−(+)−MTPAエステルのエリア面積比から各濃度を算出し、本明細書において説明した要領(前述)でCHBNの光学純度を算出した。
【実施例1】
【0072】
改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する組換菌の作製
(1)鋳型プラスミドの作製
鋳型とするプラスミドの作製を以下の通り行った。
まず、配列番号5に示されるハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HHEB(2nd)を、配列番号9及び配列番号10に示されるプライマーを使用したPCRにより増幅した。
【0073】
反応液組成:
鋳型DNA(プラスミドpST111) 1μl
10μM プライマーDH−09(配列番号9) 1μl
10μM プライマーDH−07(配列番号10) 1μl
滅菌水 22μl
2×PrimeSTAR Max(タカラバイオ社製) 25μl
総量 50μl

温度サイクル:
98℃:10秒、55℃:5秒、72℃:4秒の反応を30サイクル

プライマー:
DH−09:GATCATGAAAAACGGAAGACTGGCAGGCAAGCG(配列番号9)
DH−07:CGCCTGCAGGCTACAACGACGACGAGCGCCTG(配列番号10)
【0074】
DH−09は33ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素BspHI認識部位(TCATGA)及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HHEB(2nd)の翻訳開始コドン以降を有し、2番目のアミノ酸に対応するコドンはAAAでリジンをコードする。
【0075】
DH−07は32ヌクレオチドからなり、その配列中に制限酵素Sse8387I兼PstI認識部位(CCTGCAGG)及びハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子HHEB(2nd)終止コドン下流領域を有する。
【0076】
また、鋳型として用いたpST111は、特公平5−317066号公報に記載されており、pST111を含む組換えベクターによる大腸菌形質転換体JM109/pST111は、受託番号「FERM BP−10922」として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成3(1991)年3月1日付けで寄託されている。
【0077】
熱サイクル処理を行ったPCR反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)により精製した後、PCR増幅産物について制限酵素BspHIとPstIで二重消化を行った。消化産物を0.7%アガロースゲル電気泳動で分離後、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むバンド(約0.8kb)をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)で精製した。一方、発現ベクターpTrc99Aを制限酵素NcoIとPstIで消化後、フェノール抽出・クロロホルム抽出・エタノール沈殿(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)))により精製した。これを、上述のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子全長を含むPCR増幅産物と混合した後、該混合液にSolution I(DNA Ligation Kit ver.2(タカラバイオ社製))を添加してライゲーション混合物を作った。この混合物を12時間、16℃でインキュベートすることでPCR増幅産物と発現ベクターpTrc99Aを結合した。
【0078】
尚、pTrc99AはCentraalbureau voor Schimmelcultures(http://www.cbs.knaw.nl)から購入できる。
【0079】
次に、後述の方法で作製した大腸菌JM109株のコンピテントセル200μlに対して上記ライゲーション反応液の全量を添加し、0℃で30分放置した。
【0080】
続いて、前記コンピテントセルに42℃で45秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC培地(20mMグルコース、2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl,2.5mM KCl,1mM MgSO,1mM MgCl)を1ml添加し、37℃にて1時間振盪培養した。培養後の培養液200μlを、LB Amp寒天培地(アンピシリン100mg/L,2%寒天を含有するLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、1%NaCl)に塗布し、37℃で一晩培養した。寒天培地上に生育した形質転換体コロニー複数個を、1.5mlのLB Amp培地(アンピシリン100mg/Lを含有するLB培地)にて37℃で一晩培養した。得られた培養液を各々集菌後、Flexi Prep(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて組換プラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000(ベックマン・コールター社製)を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされているPCR増幅産物の塩基配列を解析し、PCRにおけるエラー変異が生じていないことを確認した。PCR増幅由来DNA断片がクローニングされたプラスミドをpSTT002と命名し、当該プラスミドを含む大腸菌JM109株形質転換体をJM109/pSTT002と命名した。
【0081】
図1にpSTT002の構造を示す。pSTT002はベクターpTrc99AのNcoI−PstI部位に配列番号5記載のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(HHEB(2nd))を挿入したものである。
【0082】
なお、大腸菌JM109のコンピテントセルは以下の方法で作製した。
【0083】
大腸菌 JM109株をLB培地1mlに接種し、37℃,5時間好気的に前培養した。次に、前培養液0.4mlをSOB培地40ml(2%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、10mM NaCl,2.5mM KCl,1mM MgSO,1mM MgCl)に加え、18℃で20時間培養した。得られた培養物を遠心分離(3,700×g,10分間、4℃)により集菌した後、冷TF溶液(20mM PIPES−KOH(pH6.0),200mM KCl,10mM CaCl,40mM MnCl)を13ml加え、0℃で10分間放置し、再度遠心分離(3,700×g,10分間、4℃)して上清を除いた。得られた大腸菌菌体を冷TF溶液3.2mlに懸濁し、0.22mlのジメチルスルホキシドを加え、0℃で10分間放置した後、液体窒素を用いて凍結したものをコンピテントセルとした。
【0084】
(2)Q125T変異導入
下記の条件でPCRを行ってQ125T変異を導入した。
【0085】
反応液組成:
pSTT002 1μl
10μM プライマーDH−51(配列番号11) 1μl
10μM プライマーDH−52(配列番号12) 1μl
滅菌水 22μl
2×PrimeSTAR Max 25μl
総量 50μl

反応サイクル:
98℃:10秒、55℃:5秒、72℃:30秒を30サイクル

プライマー:
DH−51:gcagcgatgcggtacACCgaaggtgcgctggcc(配列番号11)
DH−52:ggccagcgcaccttcGGTgtaccgcatcgctgc(配列番号12)
【0086】
各反応液にDpnIを1μl添加して37℃で1時間インキュベートし、DpnI処理液2μlを用いて大腸菌JM109の形質転換を行った。得られた形質転換体からプラスミドを抽出してDNA配列を確認し、Q125Tの変異が導入されたプラスミドを得た。得られた変異導入プラスミドをpSTT118と命名した。
【0087】
(3)D199Hの導入
テンプレートとしてpSTT118,プライマーとしてDH−125およびDH−126を使用した以外は実施例1(2)と同様にしてPCR,形質転換およびプラスミド抽出を行い、Q125T+D199H変異を導入したプラスミドを作製した。
【0088】
プライマー:
DH−125:cgagagcacgcgctgctcgcgttgttcctg(配列番号13)
DH−126:cagcgcgtgctctcgggcagtcgcgagccg(配列番号14)
【0089】
得られた変異導入プラスミドをpSTT201と命名した。
【0090】
(4)F71Wの導入
テンプレートとしてpSTT201,プライマーとしてDH−49およびDH−50を使用した以外は実施例1(2)と同様にしてPCR,形質転換およびプラスミド抽出を行い、Q125T+D199H+F71W変異を導入したプラスミドを作製した。
【0091】
プライマー:
DH−49:gcccacTGGggggtgaccgtgctggag(配列番号15)
DH−50:caccccCCAgtgggcgtcgaccgcgaa(配列番号16)
【0092】
得られた変異導入プラスミドをpSTT206と命名し、当該プラスミドを含む大腸菌JM109形質転換体をJM109/pSTT206と命名した。
【実施例2】
【0093】
ハロヒドリンエポキシダーゼ発現形質転換微生物の培養
実施例1にて作製した改良型ハロヒドリンエポキシダーゼを発現する組換菌JM109/pSTT206を、1mM IPTGおよび100mg/lアンピシリンを含有するLB培地100mL×20本植菌し、37℃で20時間振盪培養した。
【0094】
培養菌体を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)を20gになるように加え、懸濁した。この菌体懸濁液0.25gを50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)100mLに加え、さらに50mMとなるように1,3−ジクロロ−2−プロパノールを加え、20℃で10分間反応した。
【0095】
HPLCにより反応液中のエピクロロヒドリンの量を測定したところ、13.5mMであった。すなわち、10分当たり1350μmolのエピクロロヒドリンが生成したことになり、この菌体懸濁液の活性は菌体懸濁液1gあたり540Uであることがわかった。
【0096】
この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
【実施例3】
【0097】
以下の表3に示す条件を初期量として、反応を行った。反応は、pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した1000mL容4つ口フラスコに、所定量の水、HCNを投入し、30% NaOHでpH8.0に調整後、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)を加え、均一に溶解するまで攪拌した。
【0098】
次いで、実施例2の菌体懸濁液75g(30.0kU)を加え、20℃,pH8.0で反応を開始した。反応開始後は、反応系内のpHを制御するために、pHコントローラーを設定し、30%NaOHにてpHのコントロールを行った。
【0099】
pHコントロールで使用したNaOHが0.19mol添加された時点からDCPの追添加を開始し、pHコントロールで使用したNaOHが0.243mol添加された時点からHCNの追添加を開始した。DCPは投入されるNaOHとほぼ等molの割合で、総計0.395mol添加した。
【0100】
なお、収率は以下の方法により算出した。
収率(%)=DCP転化率×CHBN選択率
・DCP転化率(%)=100−{(系内全量×DCP濃度)/(DCP仕込量+DCP累計追加量)}
・CHBN選択率(%)={(系内全量×CHBN濃度)/(DCP仕込量+DCP累計追加量)}×DCP転化率
【0101】
【表3】

【0102】
反応プロファイルを表4に示し、DCP濃度の理論値の推移を図2に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
反応1290分後のDCP転化率95.8%,CHBN選択率96.7%,R−CHBN光学純度97.2%e.e.であった。
【実施例4】
【0105】
以下の表5に示す条件を初期量として、反応を行った。反応は、pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した1000mL容4つ口フラスコに、所定量の水、HCNを投入し、30% NaOHでpH8.0に調整後、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)を加え、均一に溶解するまで攪拌した。
【0106】
次いで、実施例2の菌体懸濁液79.3g(31.7kU)を加え、20℃,pH8.0で反応を開始した。反応開始後は、反応系内のpHを制御するために、pHコントローラーを設定し、30%NaOHにてpHのコントロールを行った。
【0107】
pHコントロール用のNaOHが添加されはじめた時点からDCPの追添加を開始し、pHコントロール用のNaOHが0.09mol添加された時点からHCNの追添加を開始した。DCPは投入されるNaOHのmol数に対して約0.5〜1当量となるように添加した。
【0108】
【表5】

【0109】
反応プロファイルを表6に示し、DCP濃度の理論値の推移を図3に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
反応1290分後のDCP転化率95.2%,CHBN選択率96.7%,R−CHBN光学純度97.2%e.e.であった。
【0112】
<比較例1>
以下の表7に示す条件を初期量として、反応を行った。反応は、pH電極及びpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した1000mL容4つ口フラスコに、所定量の水、HCNを投入し、30% NaOHでpH8.0に調整後、1,3−ジクロロ−2−プロパノール(DCP)を加え、均一に溶解するまで攪拌した。
【0113】
次いで、実施例2の菌体懸濁液77.3g(30.9kU)を加え、20℃,pH8.0で反応を開始した。反応開始後は、反応系内のpHを制御するために、pHコントローラーを設定し、30%NaOHにてpHのコントロールを行った。
【0114】
pHコントロール用のNaOHが添加されはじめた時点からDCP及びHCNの追添加を開始した。DCP及びHCNは、投入されるNaOHとほぼ等molの割合で添加した。
【0115】
【表7】

【0116】
反応プロファイルを表8に示し、DCP濃度の理論値の推移を図4に示す。
【0117】
【表8】

【0118】
pHコントロール用のNaOHが0.162mol添加された時点(反応開始30分後)で反応の進行が停止した。
【0119】
反応1380分後のDCP転化率34.6%,CHBN選択率96.4%,R−CHBN光学純度78.8%e.e.であった。
【0120】
比較例1の結果より、反応液中のDCP濃度を0.43mol/kgを超える範囲に保持した場合には、酵素反応が早く終結し、得られる4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは少なく、光学純度も低くなることがわかる。一方、実施例3および4の結果より、反応液中のDCP濃度を0.43mol/kgを超えない範囲または0.2mol/kgを超えない範囲に保持した場合には、多くの4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルが得られ、かつ光学純度も高くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、生産性が高く、工業的に好適な光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号1:HheB(2nd)のアミノ酸配列
配列番号2:改良型HheB(2nd)のアミノ酸配列
配列番号3:HheB(1st)のアミノ酸配列
配列番号4:改良型HheB(1st)のアミノ酸配列
配列番号5:HHEB(2nd)の塩基配列
配列番号6:改良型HHEB(2nd)の塩基配列
配列番号7:HHEB(1st)の塩基配列
配列番号8:改良型HHEB(1st)の塩基配列
配列番号9:プライマーDH−09
配列番号10:プライマーDH−07
配列番号11:プライマーDH−51
配列番号12:プライマーDH−52
配列番号13:プライマーDH−125
配列番号14:プライマーDH−126
配列番号15:プライマーDH−49
配列番号16:プライマーDH−50


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジハロ−2−プロパノールとシアニドドナーとから、酵素反応によって光学活性4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法であって、酵素反応の開始後、反応液へ1,3−ジハロ−2−プロパノールを供給し、該反応液中の1,3−ジハロ−2−プロパノール濃度を0.43mol/kgを超えない範囲に保持することを特徴とする、該方法。
【請求項2】
酵素がハロヒドリンエポキシダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロヒドリンエポキシダーゼがコリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N−1074のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(HHEB)に由来するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ハロヒドリンエポキシダーゼが配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる改良型ハロヒドリンエポキシダーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−9621(P2013−9621A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143895(P2011−143895)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】