説明

光学物品の製造方法と得られた物品

【課題】紫外線吸収剤が偏光した光学物品に導入されることができ、系の偏光特性に変化を生じさせず、偏光した物品が備えることがある別のコーティングとの接着の問題を生じない方法を提供する。
【解決手段】本発明は、偏光した光学物品、とりわけ偏光した眼科用レンズの製造方法に関し、光学物品の構成基材に、光劣化を生じ易い少なくとも1つの染料を含む重合性コーティングを塗布し;及び、そのコーティングの中に紫外線吸収剤を吸入によって導入する連続した工程を少なくとも含む。また、本発明は、こうした方法によって得ることができる光学物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所与の条件下で紫外線吸収剤をその物品に吸収させる工程を含む、偏光した光学物品、とりわけ、偏光した眼科用レンズの製造方法に関する。また、本発明は、とりわけ本方法にしたがって得られる偏光した光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
含浸や吸収として知られる方法によって、光学レンズの中に染料や紫外線吸収剤のような物質を導入することは公知である。
【0003】
特許文献1は、光学ガラス上にコーティングされたラテックスポリマーマトリックス(特に、所望により架橋されたポリウレタン)からなる薄膜を含浸する方法を開示している。含浸溶液は、スピンコーティングによって薄膜に施され、染料のような添加剤を含有する。このような方法は、薄い色のついたコーティングを有する眼科用レンズを得ることを可能にする。
【0004】
特許文献2は、紫外線吸収剤と、その紫外線吸収剤によって生じるレンズ着色を補償する染料を含む溶液で、レンズの基材を含浸する方法を開示している。この含浸方法は、90℃で15分間にわたって行われる。
【0005】
更に、特許文献3は、2つの連続する溶液を用いるプラスチックレンズの基材を含浸する方法を開示しており、第1の溶液は、染色助剤と、必要に応じて分散剤と組み合わせた状態で紫外線吸収剤(目とレンズ材料を紫外線から保護する)を含んでなり、第2の溶液は、染料を含んでなる。
【0006】
上記の特許出願に記載の発明は、紫外線吸収剤を、光学物品の中に、より詳しくは、その物品の構成基材の中に導入することを可能にした。しかしながら、これらの発明は、紫外線による光劣化を生じ易い染料の保護には、常に適切だということではない。こうした反応を生じ易い染料には、芳香族単位を含む二色性染料やフォトクロミック色素が挙げられ、これらのいくつかは、紫外線に敏感である。こうした二色性染料は、例えば、偏光した眼科用レンズのようなものを含む、液晶を含む物品の中に偏光性を導入する目的で、液晶と組み合わせて使用され得る。
【0007】
近年、水のような反射面から生じる反射によって起こる眩しさを制限することにより、視覚的的確性が非常に改良された点に関する限り、偏光レンズに多大な発展がなされた。このことは、より良好なコントラストと奥行知覚をもたらす。
【0008】
とりわけ、変更機能を基材に与えるためには、二色性染料を含む偏光機能を有する液晶ポリマー(LCP)と「鎖状感光性ポリマー(LPP)」層との二層コーティングを使用することが知られている。こうしたコーティングは、例えば、液晶ディスプレイスクリーンに使用されるが、光学物品にも使用されうる(特許文献4、5及び6)。より具体的には、LPP層は、一度、直線偏光紫外線の作用下で重合されると、それ自身で構造化し、液晶分子の編成と特定方向にそった二色性染料の配向をもたらす材料からなる。
【0009】
眼科用レンズのような光学物品上にこうした二層コーティングを用いることは、偏光性、とりわけ高性能の偏光性をそのレンズに与えることを可能にする。このため、可視スペクトルにおいて80%〜6%の相対透過率(Tv)を有すると共に、偏光フィルムを結合又はラミネートすることによって得られる偏光レンズについて一般に観察されるよりも高く、通常、100を上回る値のコントラスト比を有する眼科用レンズを得ることを可能にする。鎖状感光性ポリマー(LPP)と液晶ポリマー(LCP)のコーティングは、有機基材上にスピンコーティングによって積層させることができる。この方法は、生産ラインに完全に組み込まれ、特に、どのような種類の基材からでも眼科用レンズを製造することを可能にする。この方法は、レンズの中心厚さを変化させないため、高い屈折率(n=1.6〜1.67又は1.74)の基材を含むレンズの製造に特に首尾よく適し、特に高屈折率材料について求められる最適化に向いている。
【0010】
前述のように、これらの二層偏光コーティングに存在する二色性染料は、紫外線に対して敏感であり、一般に、偏光性能を減少させ、とりわけコントラスト比(CR)の低下、透過率(Tv%)とカラー変化(ΔE)の増加をもたらす。これは、強い日射条件で使用されるべき偏光レンズには受け入れられない。
【0011】
層の重合の前に紫外線吸収剤をLCP溶液(液晶、二色性染料及び溶媒の混合物)に混和することは、液晶の編成を妨げる恐れがあり、その結果、二色性染料の乏しい配向をもたらし、弱い偏光性能に帰着する恐れがある。二色性染料の効果的な保護は、紫外線吸収剤をこうした危険性が、まさに現実化するような割合で添加することを求めるものである。
【0012】
この溶液は、したがって、必須条件とは相容れない。
【特許文献1】国際公開公報02/059054号パンフレット
【特許文献2】特開平11−052101号公報
【特許文献3】特開平09−145901号公報
【特許文献4】米国特許第5602661号
【特許文献5】米国特許出願2005/0151926
【特許文献6】EP153990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、紫外線吸収剤が偏光光学物品に導入されることができ、上記の障害がなく、より詳しくは、系の偏光特性に変化を生じず、偏光した物品が備えることがある別のコーティングとの接着の問題を生じない方法を提供する必要がある。
【0014】
本発明者は、所与の条件下での光学物品の吸収が、このニーズを満たすことができることを新たに見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象は、したがって、偏光した光学物品、とりわけ偏光した眼科用レンズの製造方法であり、少なくとも、連続した
光学物品の基材に、光劣化を生じ易い少なくとも1つの染料を含む重合性コーティングを施す工程と
そのコーティングに紫外線吸収剤を導入するとを含み、
(a)光劣化を生じ易い少なくとも1つの染料を含む重合性コーティングが、鎖状の感光性ポリマー(LPP)の第1層と少なくとも1つの二色性染料を含む液晶ポリマー(LCP)の第2層を含んでなる二層コーティングであり、
(b)紫外線吸収剤は、吸収によってそのコーティングに導入され、その吸収は、
(b1)紫外線吸収剤と少なくとも1つの分散剤を含む水溶液の中に、10秒間〜2分間にわたりその物品を浸漬し、その溶液を80℃〜99℃の温度に保持し、
(b2)その物品を低級アルコールで洗浄する、工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のもう1つの対象は、上記の方法によって得られる偏光した光学物品である。
【0017】
本発明のさらなる対象は、偏光した光学物品、とりわけ偏光した眼科用レンズであり、
基材;
鎖状の感光性ポリマー(LPP)の第1層と少なくとも1つの二色性染料を含む液晶ポリマー(LCP)の第2層を含んでなる二層コーティング;及び
その二層コーティングの中に少なくとも部分的に存在する紫外線吸収剤;を含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本出願において、特定の用語の定義は、以下のように理解される。
「光学物品」は、器具、視覚の光学レンズ、バイザー、及び眼科用レンズを意味すると理解され、
「眼科用レンズ」は、目を保護するため及び/又は視覚を修正するために、とりわけ眼鏡フレームに装着するレンズを意味すると理解され、これらのレンズは、無焦点、単一焦点、二重焦点、三重焦点、多重焦点の各レンズから選択され、
「基材」は、光学レンズ、より詳しくは、眼科用レンズの基本的で本質的な透明材料を意味すると理解される。この材料は、1つ又はそれ以上のコーティング、特に偏光コーティングを含む積層体の支持体として役立つ。
「コーティング」は、層、膜又は塗装を意味すると理解され、基材、及び/又はその上に積層されるもう1つのコーティングに接触するものであり、薄い着色、反射防止、汚れ防止、耐衝撃、耐擦過、偏光、及び帯電防止の各コーティングから選択することができる。
【0019】
また、用語「低級アルコール」は、エタノールやイソプロパノールのような2〜4の炭素原子を有するモノアルコールを意味すると理解され、特にイソプロパノールである。
【0020】
光学物品、とりわけ眼科用レンズの基材には、無機系と有機系がある。限定されるものではないが、本発明の範囲の中で使用され得る有機基材について、光学と眼科に通常使用される基材を説明する。例えば、以下に挙げる種類の基材は好適に用いられる。ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)/ポリカーボネートコポリマー、ポリオレフィン類とりわけポリノルボルネン類、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)のポリマーとコポリマー、(メタ)アクリルのポリマーとコポリマー、とりわけビスフェノールAから誘導される(メタ)アクリルのポリマーとコポリマー、チオ(メタ)アクリルのポリマーとコポリマー、ウレタンとチオウレタンのポリマーとコポリマー、エポキシのポリマーとコポリマー、及びエピサルファイドのポリマーとコポリマーが挙げられる。好ましくは、本発明は、基材がポリ(チオ)ウレタンである眼科用レンズに特に良好である。
【0021】
本発明による方法の第1工程は、二層コーティングの塗布を含む。このコーティングは、基材上に積層された1つ以上の感光性ポリマー又は光配向性ポリマーの層を有し、その上に1つ以上の液晶ポリマーの層が積層される。
【0022】
このコーティングの適用は、以下の一般的な連続工程を含む方法によって行うことができる。
(1)少なくとも1つの鎖状感光性ポリマーの溶液を調製し、
(2)光配列層を形成するために、その溶液を基材に塗布し、
(3)偏光子の存在下でその光配列ポリマーに紫外線を照射し、それを構造化し、
(4)少なくとも1つの二色性染料を含む液晶溶液を調製し、
(5)その溶液をその構造化した光配列層に塗布し、
(6)紫外線源を用いて液晶層を架橋させる。
【0023】
液晶及び/又は鎖状感光性ポリマーの溶液は、スピンコーティング、ディップコーティング、又はスプレーによって塗布することができる。スピンコーティングによる塗布は、本発明において好ましい。
【0024】
このタイプの二層コーティングは、とりわけ欧州特許出願1593990号に記載されている。
【0025】
鎖状感光性ポリマー層は、桂皮酸誘導体類、カルコン類又はクマリン類の反応基を有するアクリル又はメタクリルポリマー、デンドリマー又はポリイミドからなる。これらの材料は、アセトン又はジクロロメタンのような溶媒中で、あるいはメチルエチルケトン/シクロペンタノンのような溶媒混合物中で供給することができる。光重合工程は、任意の工程である溶媒蒸発工程の後に行うことができ、偏光紫外線に暴露することによって行うことができる。
【0026】
液晶ポリマーと二色性染料は、シクロヘキサノンのような溶媒、あるいはアニソール/アセトン、アニソール/酢酸エチル、又はアニソール/シクロペンタノンのような混合溶媒中で供給することができる。液晶と二色性染料の混合物からなるコーティングを(任意の乾燥工程の後)、光重合用の紫外線照射にさらすことができる。
【0027】
二色性染料は、重合性又は非重合性染料であるが、好ましくは、重合性である。好ましい二色性染料は、高い二色比、高い減衰係数、及び良好な溶解性を有する。それらは、アゾ、ペリレン、アントラキノン、又はフェノキサジン染料であることができる。アゾ染料とアントラキノン染料は、本発明の範囲の中で使用される液晶ポリマーと特に適合するため好ましい。
【0028】
本発明者は、この偏光系が、架橋後に低いガラス転移点を有するにもかかわらず(Tg約20℃)、二色性染料の配向に特に影響を及ぼすことなく、80℃を上回る温度で紫外線吸収剤の溶液によって吸収し得ることを実証した。このことは、吸収工程の前後でのコントラスト比の測定によって容易に実証される。即ち、この系においては、約95℃の高い吸収温度を用いることが可能であり、このことが、紫外線吸収剤を偏光系の中に迅速に拡散することを可能にし、したがって、30秒間の吸収後に380nmに近いUVカットオフが得られる。しかも、その架橋構造のおかげで、上記の偏光系は、例えば、水酸化ナトリウムとアルコールの存在下で二層の耐磨耗コーティングを施すときのような、次に続く光学物品の処理の際に紫外線吸収剤の脱離を防止し、したがって、物品に良好な耐薬品性を与える。
【0029】
このようにして得られるコーティングは、一般に、1μm〜20μm(マイクロメータ)、好ましくは、3μm〜8μmの厚さを有する。本発明による方法の第2工程は、少なくとも1つの紫外線吸収剤を偏光光学物品の中に含浸することを含む。
【0030】
本発明を限定するものではないが、本発明による方法に使用される紫外線吸収剤の例は、ベンゾトリアゾール類とりわけヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニル−S−トリアジンのようなトリアジン類、ヒドロキシベンゾフェノン類、及びシュウ酸アニリド類から選択される。紫外線吸収剤は、好ましくは、ベンゾフェノン族とベンゾトリアゾール族の吸収剤から選択される。これらの吸収剤は、本発明において問題とする範囲において、紫外線に敏感な染料が、最も重大な光劣化を生じる波長の紫外線を吸収するために特に適する。
【0031】
好適に使用される紫外線吸収剤は、CYASORB(登録商標)UV−24、CYASORB(登録商標) UV−1164L、CYASORB(登録商標) UV−1164A、CYASORB(登録商標) UV−2337、CYASORB(登録商標) UV−531、CYASORB(登録商標) UV−5411、及びCYASORB(登録商標) UV−9であり、いずれもCytec社から市販されている。
【0032】
本発明において使用可能なこの他の紫外線吸収剤は、BASF社から入手可能なUVINUL(登録商標)300、UVINUL(登録商標)3008、UVINUL(登録商標)3040、UVINUL(登録商標)3048、UVINUL(登録商標)3049、及びUVINUL(登録商標)3050である。
【0033】
紫外線吸収剤のさらなる例は、Ciba社から入手可能なTINUVIN(登録商標)1130、TINUVIN(登録商標)292、TINUVIN(登録商標)5151、TINUVIN(登録商標)99−2、TINUVIN(登録商標)384−2、TINUVIN(登録商標)3050、TINUVIN(登録商標)5055、及びTINUVIN(登録商標)5060である。
【0034】
紫外線吸収剤のさらなる例は、Clariant社から入手可能なSANDUVOR(登録商標)3041、SANDUVOR(登録商標)3051、SANDUVOR(登録商標)3063、SANDUVOR(登録商標)3070、及びSANDUVOR(登録商標)3225である。
【0035】
本発明においてCYASORB(登録商標) UV−24が特に好ましく、これは2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンである。
【0036】
水系含浸溶液は、ドデシルベンゼンスルホン酸のような分散剤を含む。この分散剤は、その含浸溶液中で紫外線吸収剤の凝集が生成するのを防止する。
【0037】
含浸溶液中での紫外線吸収剤の量は、光学物品上に存在する偏光性コーティングの迅速な含浸を可能にするのに十分多く、含浸溶液中での凝集の生成をもたらさない程度に十分少ないことが必要である。光学物品の迅速な含浸は、重要な条件である。実際上は、光学物品の浸漬時間が長すぎる(2分間を超える)と、光学物品の構成基材の表面からコーティングが脱離することが観察される。
【0038】
本発明の方法は、紫外線吸収剤を少なくとも部分的に偏光性二層コーティングの中に導入することを可能にする。
【0039】
この目的において、浸漬浴中の光学物品の浸漬時間は10秒間〜2分間である。これは、最適化された耐光劣化性を有する光学物品を得る一方で、同時に、良好な審美的特性、含浸処理をされていない偏光した物品について得られるものと同等のコントラスト比、及びこの二層の光学物品及びこの二層上に積層され得るコーティングの光学物品双方に対する良好な磨耗特性を得るのに最適な時間である。約30秒間の浸漬時間が特に好ましい。
【0040】
また、含浸浴の温度は、80℃〜99℃の範囲であり、好ましくは90℃〜96℃、より好ましくは94℃である。含浸浴は水溶液である。
【0041】
上記の偏光性コーティングに加え、本発明によって製造される光学物品は、1つ以上のコーティング、例えば、耐摩耗性コーティング、プライマー層に施すことができるような二層コーティング、着色コーティング、酸素バリアコーティング、例えば四層を有する反射防止コーティング、疎水性・疎油性の汚れ防止コーティング、又は帯電防止コーティングを備えることができる。これらのコーティングの1つ以上を、二層の偏光性コーティングの積層前に基材に直接、あるいは、その二層コーティングの上に積層させることができる。
【0042】
プライマー層は、使用されると、それが積層される物品の耐衝撃性を改良し、また、耐摩耗性層の結合を改良する。プライマー層は、光学分野、とりわけ眼科の分野において通常使用される任意のプライマー層であることができる。典型的に、これらのプライマー、とりわけ耐衝撃性プライマーは、(メタ)アクリルポリマー、ポリウレタンポリエステル、又はエポキシ/(メタ)アクリレートコポリマーに基づくコーティングである。
【0043】
耐磨耗コーティングは、光学分野、とりわけ眼科用光学分野において一般に使用される任意の耐磨耗コーティングであることができる。定義によると、耐磨耗コーティングは、耐磨耗コーティングなしの同じ物品に比較して最終的な光学物品の耐摩耗性を改良するコーティングである。
【0044】
好ましい耐磨耗コーティングは、エポキシアルコキシシラン又はこれらの加水分解物の1つ以上、シリカ、及び硬化触媒を含む組成物を硬化させることによって得られる。こうした組成物の例は、国際出願WO94/10230、米国特許第4211823号、同5015523号に開示されており、また、欧州特許614957号の特に実施例3に開示されている。また、品名UV−NVとしてUltra Optics社より販売の化合物から製造される耐磨耗コーティングを使用することもできる。
【0045】
酸素バリアコーティングは、一般に、緻密な金属酸化物層又は緻密ではない金属酸化物層を含んでなり、あるいは、1〜4の異なる金属酸化物層の積層を有する系を含んでなる。
【0046】
このコーティングは、SiO、SiO、Si、TiO、ZrO、Al、MgF又はTa、あるいはこれらの混合物のような材料の単一層又は多層の膜からなる。好ましくは、この単一層の系は、二酸化ケイ素を含んでなり、10nm〜100nmの厚さを有する。この積層は、好ましくは、少なくとも2つの異なる酸化物単一層を交互に含んでなり、この酸化物は、好ましくは、ケイ素、チタン、及びジルコニウムの酸化物から選択される。積層は、好ましくは、50nm〜300nm、好ましくは、100nm〜200nmの厚さを有する。
【0047】
この酸素バリアコーティングは、当業者に周知の方法によって塗布され、一般に、次の技術の1つ、即ち、
蒸発、場合により、イオンビームが補助する蒸発、
イオンビームスパッタリング、
陰極スパッタリング、
及びプラズマにより促進される化学蒸着、にしたがった真空積層によって適用される。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を以下実施例によって説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0049】
<実施例:偏光眼科用レンズの調製>
[1.偏光コーティングの塗布]
偏光コーティングを、基材がポリチオウレタンである高屈折レンズに塗布した。好ましいポリチオールは1,2−ビス(2’−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン(MDO)であった。好ましいイソシアネートはm−キシレンジイソシアネートであった。
【0050】
手順は、欧州特許出願1593990号に記載のものと同様とした。
【0051】
(A.LPP層の調製と積層)
55℃の超音波浴中の5%水酸化ナトリウム溶液の中でレンズを洗浄した。次いで、これを水の中に浸した後、脱イオン水の中(場合により、イソプロパノールの中)に浸した。桂皮酸官能基を有するアクリルポリマーを含む2質量%溶液を、メチルエチルケトンとシクロペンタノンの混合物(10:1)中に調製した。この溶液をレンズ基材上にスピンコーティングによって塗布した。スピン速度は、500rpmで3秒間の後、2500rpmで20秒間とした。溶媒を、100℃のオーブン中で20分間にわたって加熱することによって蒸発させた。この層を100mJ/cmの線量でUV偏光子の下で照射した。
【0052】
(B.LCP層の調製と積層)
液晶分子と紫外線による劣化を受け易い二色性染料を含む溶液をシクロヘキサノン中で調製した。この溶液中に含まれる固形分は、典型的には、40質量%であった。二色性染料の量は約10質量%であった。この溶液を、LPP層の上にスピンコーティングによって積層させた(スピン速度=500rpm、25秒間)。LCP層を87℃の温度で10分間にわたって乾燥させた。溶媒蒸発の後、この層を、30J/cmの線量の紫外線の存在下で照射することによって窒素雰囲気下で架橋させた。
【0053】
[2.偏光レンズの吸収]
(A.吸収浴の調製)
1500mlの蒸留水を、磁気スターラー上に配置したガラスビーカー中で撹拌しながら94℃に加熱した。温度が90℃に達したとき、3gの分散剤(ドデシルベンゼンスルホン酸)を添加し、水の中に分散させた。次いで13.05gの紫外線吸収剤CYASORB UV−24を、分散剤を含む溶液に添加した。次いで、この混合物を約2時間にわたって撹拌・加熱した。吸入浴の温度はそのとき94℃であった。
【0054】
(B.レンズの吸収)
上記のようにして調製した浴の中に30秒間にわたってレンズを含浸した後、レンズ表面上に存在する酸とUV吸収剤の残留物を除去する目的で、イソプロパノール浴の中で洗浄した。
【0055】
(C.UVカットオフの測定)
偏光コーティングのみのUVカットオフ(透過が1%未満となる波長)は380nmであった。このUVカットオフは、無機系の二平面表面上に積層した偏光コーティングについてスペクトロメータを用いて測定した。
【0056】
図3は、0秒、10秒、30秒の吸収時間の後に記録したUVカットオフを示す。最初の330nmのUVカットオフは、10秒間の吸収の後に345nmに、次いで30秒後に385にシフトした。
【0057】
[3.耐磨耗性と反射防止のコーティングの適用]
耐磨耗二層コーティングを以下の工程にしたがって塗布した。
先ず、品名W−240としてBaxenden社より販売のポリウレタンの水系分散物を基材として用い、米国特許第5316791号の実施例1に開示の手順にしたがってラテックスのプライマー層を得た。この第1層は、工程1に記載の偏光コーティングと工程2に記載のような光劣化保護コーティングを有するレンズ上にディップコーティングによって積層され、87℃で4分間にわたって加熱された。この層の厚さは1μmであった。
次いで、特許EP0614957の実施例3に開示の手順にしたがって得られた層を、この第1層の上に積層させた。この第2層は、組成物の全重量に対し、22%のグリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタノール中の固形分の30%に相当する62%のコロイダルシリカ、0.70%のアルミニウムアセチルアセトネート(触媒)を含んでなり、100質量%との差異は主に水であった。この層を、その溶液中にレンズをディップコーティングすることによって積層させた後、100℃で3時間にわたって重合させた。得られた層の厚さは3.5μmであった。
【0058】
次いで、交互の酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の層を含む従来の4層の反射防止コーティングを、200nmの合計積層厚さが得られるまで塗布した。
【0059】
BAK装置内で2×10−5Torrの高真空下で回転させることにより、種々の層を形成した。
【0060】
[4.サンテスト紫外線老化テスト]
サンテストを用いて行った促進老化テストにより、以下の構成を比較した。
実施例1:二層偏光コーティング、耐摩耗性二層コーティング、及び四層反射防止コーティングを含むレンズ
実施例2:吸収した二層偏光コーティング、耐磨耗性二層コーティング、及び四層反射防止コーティングを含むレンズ
【0061】
このテストの原理を以下に示す。
60キロルクスの照射を生じるサンテスト装置の中にガラスを配置した。これらは、50時間の連続的な日照老化サイクルを受けた。合計の暴露期間は50時間から200時間までであった。各々の照射サイクルの最後に、生成物の1つ以上の光特性を測定し、起こり得る変化を求めた。それらは主に、可視スペクトルにおける透過率(Tv)、コントラスト比(CR)、及びカラーパラメータの測定であった(L、a、b)。
【0062】
構成の各々について、透過率(Tv)、コントラスト比(CR)、及びカラー変化(ΔE=(ΔL+Δa+Δb1/2)を求めた。
結果を下記の表1と表2に示す。
【表1】

【表2】

【0063】
これらの表に示すように、レンズの吸収は、50時間のサンテスト後にコントラスト比CRによって測定される偏光の効率低下の抑制をもたらす。とりわけ、レンズのカラー変化ΔEが低下し、透過率Tvの増加が顕著に小さい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】Tv値とカラー(ΔE)の変化を示す。
【図2】Tv値とカラー(ΔE)の変化を示す。
【図3】UVカットオフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光した光学物品の製造方法、とりわけ偏光した眼科用レンズの製造方法であって、少なくとも、連続した、
光劣化を生じ易い、少なくとも1つの染料を含む重合性コーティングを、前記光学物品の基材に塗布する工程と、
前記重合性コーティングの中に紫外線吸収剤を導入する工程とを含み、
(a)光劣化を生じ易い、少なくとも1つの染料を含む前記重合性コーティングが、鎖状の感光性ポリマー(LPP)の第1層と少なくとも1つの二色性染料を含む液晶ポリマー(LCP)の第2層を含んでなる二層コーティングであり、
(b)前記紫外線吸収剤は、吸収によって前記重合性コーティングの中に導入され、前記吸収は、
(b1)前記紫外線吸収剤と少なくとも1つの分散剤を含む水溶液の中に、10秒間〜2分間にわたり、前記光学物品を浸漬し、前記水溶液を80℃〜99℃の温度に保持する工程、及び
(b1)前記光学物品を低級アルコールで洗浄する工程、を含む偏光した光学物品の製造方法。
【請求項2】
前記基材が、ポリカーボネート;ポリアミド;ポリイミド;ポリスルホン;ポリ(エチレンテレフタレート)/ポリカーボネートコポリマー;ポリオレフィン、とりわけポリノルボルネン;ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマー、及びコポリマー;(メタ)アクリルポリマー、及びコポリマー;チオ(メタ)アクリルポリマー、及びコポリマー;ウレタンとチオウレタンとのポリマー、及びコポリマー;エポキシのポリマー及びコポリマー;並びにエピサルファイドのポリマー、及びコポリマーからなる群より選択される請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項3】
前記基材がポリ(チオ)ウレタンである請求項2に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項4】
前記二層コーティングの塗布が、
(1)少なくとも1つの鎖状感光性ポリマーを含む溶液を調製し、
(2)光配列層を形成するために、前記鎖状の感光性ポリマーを含む溶液を基材に塗布し、
(3)偏光子の存在下で前記光配列層に紫外線を照射してそれを構造化し、
(4)少なくとも1つの二色性染料を含む液晶溶液を調製し、
(5)前記液晶溶液を、構造化した前記光配列層に塗布し、
(6)紫外線源を用いてその液晶層を架橋する、
連続した工程を含む方法によって行われる請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ヒドロキシベンゾフェノン類、及びシュウ酸アニリド類から選択される請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項6】
前記紫外線吸収剤が2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンである請求項5に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項7】
前記分散剤が、ドデシルベンゼンスルホン酸である請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項8】
前記紫外線吸収剤を含む前記水溶液中での前記光学物品の浸漬時間が30秒間である請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項9】
浸漬浴の温度が90℃〜96℃である請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項10】
前記浸漬浴の温度が94℃である請求項9に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項11】
前記光学物品は更に、必要に応じてプライマー層に塗布された耐擦過コーティング、着色コーティング、酸素バリアーコーティング、反射防止コーティング、疎水性・疎油性の汚れ防止コーティング、及び帯電防止コーティングからなる群より選択される一以上を含む、請求項1に記載の偏光した光学物品の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の偏光した光学物品の製造方法により得られる光学物品。
【請求項13】
偏光した光学物品であって、
基材;
鎖状の感光性ポリマー(LPP)の第1層と、少なくとも1つの二色性染料を含む液晶ポリマー(LCP)の第2層を含む二層コーティング;及び
前記二層コーティングの少なくとも一部に存在する紫外線吸収剤;を含む偏光した光学物品。
【請求項14】
前記偏光した光学物品が偏光した眼科用レンズである、請求項13に記載の偏光した光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−156464(P2007−156464A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318191(P2006−318191)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【Fターム(参考)】