説明

光学物品用プライマー組成物及び光学物品

【課題】 高屈折率を有する光学基材、特にプラスチックレンズにおいて、優れた耐衝撃性、耐擦傷性、密着性及び高屈折率を有するプライマーコート層を、不均一性、白濁等の外観不良を生ずることなく、プラスチックレンズ素材に左右されることなく形成でき、良好な保存安定性を有する光学物品用プライマー組成物を提供する。
【解決手段】 光学物品用プライマー組成物は、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂、分子量が100〜4000であるポリエチレングリコール、無機酸化物微粒子、水及び水溶性有機溶媒を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート由来の骨格を有するウレタン樹脂及び無機酸化物微粒子を含んでなる新規な光学物品用プライマー組成物、及び光学基材、特に、プラスチックレンズの表面上において前記プライマー組成物を硬化させることによって形成した高屈折率のプライマーコート層を含む新規な光学物品に関する。本発明は、光学基材の表面上の前記プライマーコート層の上に、さらに、無機酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物を含んでなるハードコート組成物を硬化させることによって形成したハードコート層を有する新規な光学物品(積層体)に関する。さらに、本発明は、光学基材の表面上に形成された前記プライマーコート層の上に、フォトクロミック性を有するフォトクロミックコート層が形成されてなる新規な光学物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
光学基材、特に、プラスチックレンズの表面は、プラスチックレンズを形成する合成樹脂(プラスチックレンズ素材)の耐擦傷性が低いため、そのままでは傷つき易く、通常は、レンズ表面にハードコート層が形成されている。一般に、ハードコート層を積層する場合、耐擦傷性は改善されるものの、プラスチックレンズの耐衝撃性が低下することが知られている。さらに、プラスチックレンズ表面からの反射光を抑制するために、前記ハードコート層上には、無機酸化物を蒸着することによって、反射防止コート層が積層されている。しかし、ハードコート層に加えて、反射防止コート層を積層する場合、得られるプラスチックンズの耐衝撃性は、より一層低下し、より割れ易くなることが知られている。そのため、このような耐衝撃性を向上させることを目的として、一般に、プラスチックレンズとハードコート層との間に、プライマーコート層を介在させることが検討されてきた。また、高屈折率のプラスチックレンズについては、積層するプライマーコート層の屈折率が重要である。これは、プラスチックレンズの屈折率とプライマーコート層の屈折率との差により干渉縞が生ずるためである。
【0003】
高屈折率プラスチックレンズ用のプライマー組成物としては、ウレタン樹脂を用いたものが一般的に知られている。具体的には、(i)ウレタン樹脂に無機酸化物微粒子を混合したもの(特許文献1参照)、(ii)ウレタン樹脂に、無機酸化物微粒子及びオルガノアルコキシシランの加水分解物を混合したもの(特許文献2参照)、さらに、(iii)ウレタン樹脂に、無機酸化物微粒子及びウレタン形成用モノマー及び/又はオリゴマーを混合したもの(特許文献3参照)等が知られている。
【0004】
これらのプライマー組成物は、特定のプラスチックレンズ素材に対しては、良好な密着性を提供すると共に、耐衝撃性を向上させることができるが、プラスチックレンズ素材の種類によっては、十分な密着性を提供できないとの問題点があった。また、これらプライマー組成物は、いずれも、無機酸化物微粒子をウレタン樹脂と混合して使用するため、形成されるプライマーコート層が白濁するとの問題点があった。
【0005】
特に、特許文献1に記載のプライマー組成物では、上記問題点に加えて、プライマーコート層の硬化に長時間を要し、操作性、生産性が劣るとの問題点もあった。この問題点の原因は、使用するウレタン樹脂自体の特性及びプライマー組成物に添加される有機溶媒にあると考えられる。
【0006】
特許文献2に記載されたプライマー組成物では、プラスチックレンズ素材の種類によっては密着性が十分ではない、プライマーコート層が白濁するとの問題点(無機酸化物微粒子をウレタン樹脂と混合して使用することによる)に加えて、オルガノアルコキシシランの加水分解物を使用するため、長期間の使用に耐えうる保存安定性の点でも課題があった。
【0007】
特許文献3に記載されたプライマー組成物は、ウレタン樹脂及び無機酸化物微粒子に加えて、第3の構成成分としてウレタン形成用モノマーを含有している。プライマーコート層の形成に当たっては、このウレタン形成用モノマーを硬化させる必要がある。硬化処理は、プラスチックレンズの表面に当該プライマー組成物を塗布した後、形成されたプライマーコート層について、高温において行われる。このため、耐熱性が低いプラスチックレンズに対して使用する場合には、レンズが熱変形する、着色する等の問題点があった。また、反応性のウレタン形成用モノマーを使用しているため、プライマー組成物の保存安定性が十分でないとの課題があった。
【0008】
近年、プラスチックレンズの耐衝撃性を改良するプライマー組成物については、環境問題の観点から、ウレタン樹脂の水分散体が使用されている。しかし、水分散体を使用する場合には、プラスチックレンズに対するぬれ性についての問題(ぬれ性が低い)、レンズ表面に形成される塗膜の平滑性等の外観についての問題があった。このような問題を解消するように、プライマー組成物のぬれ性を向上させ、塗膜の平滑性を向上させるために、有機溶媒を添加することが行われているが、生成されるプライマー組成物自体の保存安定性が低下するなど、新たな問題が生じている。
【0009】
また、プラスチックレンズ等の光学製品においては、レンズにフォトクロミック特性(太陽光、水銀灯の光のような紫外線を含む光が照射されると速やかに色を変へ、光の照射を止めて、暗所に置かれると元の色に戻る可逆作用)を持たせるために、プラスチックレンズの表面に、フォトクロミック化合物を含んでなるフォトクロミックコート層を形成することが行われている。フォトクロミックコート層は、プラスチックレンズ上に、フォトクロミック化合物及び重合性単量体を含むフォトクロミックコーティング剤を塗布した後、硬化させることにより形成される(以下、このようなフォトクロミックコート層を形成する方法を、単に、「コーティング法」と表示する場合もある)。
【0010】
従来のコーティング法では、プラスチックレンズ上に、直接、フォトクロミックコート層が形成されていた。近年、フォトクロミックコート層とプラスチックレンズとの密着性をより高めるため、プラスチックレンズ上にプライマーコート層を設けた後、フォトクロミックコート層を形成する方法が採用されている。具体的には、フォトクロミックコート層用のプライマーコート層を形成するために、湿気硬化性ポリウレタン樹脂を含むプライマー組成物(特許文献4)又はウレタン樹脂エマルジョンを含むプライマー組成物(特許文献5)を使用することが知られている。しかし、これらのプライマー組成物では、プラスチックレンズとフォトクロミックコート層との密着性を高めることができるが、一方では、以下の課題もあった。
【0011】
すなわち、特許文献4に記載されている方法では、湿気硬化性ポリウレタン樹脂及び/又は前駆体と、沸点が70℃以上で、かつ、溶解度パラメータが8以上である溶媒とを含んでなるプライマー組成物が使用される。しかし、例えば、ポリカーボネートからなるプラスチックレンズにプライマーコート層を形成する場合、プライマー組成物を構成する溶媒がプラスチックレンズの表面を過剰に溶解させることがあった。それを防止するためには、別途、プラスッチクレンズの表面に新たな防止用膜を形成しなければならず、操作性についての課題があった。また、このプライマー組成物は無機酸化物微粒子を含有するものであるが、無機酸化物微粒子を混合することが困難であるため、屈折率が低いという課題があった。
【0012】
特許文献5に記載されている方法では、ウレタン樹脂が分散媒中にコロイド分散したエマルジョンからなるプライマー組成物が使用される。このプライマー組成物の使用により、プラスチックレンズとフォトクロミックコート層との間の十分な密着性を達成することができる。しかし、無機酸化物微粒子を混合する場合、得られるプライマーコート層が白濁するとの課題があった。
【0013】
上述のように、コーティング法によりフォトクロミック性プラスチックレンズを製造する際に使用されるプライマー組成物について、各種の素材からなるプラスチックレンズに適用でき、プラスチックレンズとフォトクロミックコート層との良好な密着性を提供すると共に、形成されるフォトクロミック性プラスチックレンズに対して良好な耐衝撃性を付与できるプライマー組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−338883号公報
【特許文献2】日本国特許第2896546号
【特許文献3】特開2009−67845号公報
【特許文献4】国際公開WO04/078476号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO08/001875号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、光学基材(特に、プラスチックレンズ)の耐衝撃性を向上させると共に、塗膜(コート層)が均一な平滑性を有し、白濁等の外観不良を生じることがなく、光学基材との密着性に優れ、高屈折率を有し、さらには、それ自体、優れた保存安定性を有する光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【0016】
特に、本発明の目的は、光学基材上に、前記プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含んでなるハードコート層を積層した場合に、優れた耐擦傷性、耐衝撃性を発揮し、光学基材とプライマーコート層との間の屈折率差によって生じる干渉縞を低減させる光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【0017】
さらに、本発明の目的は、光学基材上に、プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、フォトクロミックコート層を形成した場合に、光学基材とフォトクロミックコート層との良好な密着性を提供すると共に、優れた耐衝撃性を提供できる光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、得られる光学物品の外観を改善し、耐衝撃性、耐擦傷性、密着性等の性能が従来のものよりも優れ、高屈折率を有し、かつ、プライマー組成物自体の保存安定性を高めるためには、プライマー組成物の構成成分として、特定の構造(物性)を有するウレタン樹脂、ポリエチレングリコール、無機酸化物微粒子、水及び水溶性有機溶媒を使用する必要があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
さらに、前記構成成分を含んでなるプライマー組成物は、光学基材と、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコート層との密着性も改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明の第1の目的は、
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(単に「A成分」と表記する)、
(B)分子量が100〜4000であるポリエチレングリコール(単に「B成分」と表記する)、
(C)無機酸化物微粒子(単に「C成分」と表記する)、
(D)水(単に「D成分」と表記する)、及び
(E)水溶性有機溶媒(単に「E成分」と表記する)
を含み、A成分100質量部当たり、B成分1〜100質量部、C成分10〜200質量部、D成分150〜2000質量部及びE成分150〜800質量部であることを特徴とする光学物品用プライマー組成物を提供することである。
【0021】
前記光学物品用プライマー組成物において、A成分が、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂の水分散体であることが好ましい。
【0022】
本発明の第2の目的は、光学基材上に、前記光学物品用プライマー組成物を硬化させることによって得られたプライマーコート層を有する光学物品を提供することにある。
【0023】
第2の目的の光学物品において、前記光学基材がフォトクロミック光学基材であり、特に、フォトクロミック光学基材が、光学基材上において、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化させることによって得られたフォトクロミックコート層を有するものである場合に、優れた効果を発揮する。
【0024】
本発明の第3の目的は、前記第2の目的の光学物品のプライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させることによって得られたハードコート層を有する積層体を提供することにある。
【0025】
本発明の第4の目的は、光学基材上において前記第1の目的の光学物品用プライマー組成物から形成されたプライマーコート層上に、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化させることによって得られたフォトクロミックコート層を有する第一積層物品を提供することにある。
【0026】
本発明の第5の目的は、前記第4の目的の第一積層物品のフォトクロミックコート層上に、前記第1の目的の光学物品用プライマー組成物から形成されたプライマーコート層を有する第二積層物品を提供することにある。
【0027】
本発明の第6の目的は、前記第5の目的の第二積層品のプライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させることによって得られたハードコート層を形成した第三積層体を提供することにある。
【発明の効果】
【0028】
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材、特に、プラスチックレンズとハードコート層との密着性を高めることができ、ハードコート層付き光学基材(光学物品)の耐衝撃性を向上させることができる。ハードコート層の上に、さらに反射防止コート層を積層する場合にも、得られるプラスチックンズは、充分な耐衝撃性を有しており、割れに対する抵抗性を示し、充分に実用に供され得るものである。さらに、本発明の光学物品用プライマー組成物は高屈折率であるため、高屈折率レンズに塗布する場合にも、光学基材と、形成されるプライマーコート層との間の屈折率の差によって生ずる干渉縞を低減できる。加えて、プライマー層の白濁が少なく、外観も良好のプライマーコート層を形成できる。また、本発明の光学物品用プライマー組成物は優れた保存安定性を有する。
【0029】
本発明の光学物品用プライマー組成物を塗布し、硬化させることによって得られるプライマーコート層を有する光学物品は、ハードコート層のみを積層した光学物品と比較して、優れた耐衝撃性を有し、ハードコート層の密着性が高い。しかも、本発明の光学物品用プライマー組成物を使用する場合、耐擦傷性、外観にも優れ、さらに、高屈折率である高品質なハードコート層付き光学基材を得ることができる。
【0030】
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材がフォトクロミック光学基材である場合に優れた効果を発揮する。中でも、フォトクロミック光学基材が、光学基材上にフォトクロミックコート層が形成されてなるものである場合に、特に優れた効果を発揮する。なお、この場合、少なくとも、フォトクロミックコート層上に本発明の光学物品用プライマー組成物からなるプライマーコート層が形成される。
【0031】
さらに、本発明の光学物品用プライマー組成物は、フォトクロミックコート層と光学基材との密着性を改善できる。このような用途に使用する場合には、光学基材上に、本発明のプライマー組成物よりなるプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上にフォトクロミックコート層を形成する。
【0032】
以上のとおり、本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材とハードコート層との密着性、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性、及びフォトクロミックコート層とハードコート層との密着性を改善することができる。しかも、これら形態を有する光学物品の耐衝撃性をも改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の積層体を製造する一態様の工程図である。
【図2】本発明の積層体を製造する他の態様の工程図である。
【図3】本発明の第三積層体を製造する一態様の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の光学物品用プライマー組成物は、
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(単に「A成分」と表記する)、
(B)分子量が100〜4000であるポリエチレングリコール(単に「B成分」と表記する)、
(C)無機酸化物微粒子(単に「C成分」と表記する)、
(D)水(単に「D成分」と表記する)、及び
(E)水溶性有機溶媒(単に「E成分」と表記する)
を含み、A成分100質量部当たり、B成分1〜100質量部、C成分10〜200質量部、D成分150〜2000質量部及びE成分150〜800質量部であることを特徴とする。
なお、「光学物品用プライマー組成物」とは、光学基材、特に、プラスチックレンズ上に塗布されるものであり、得られる光学物品の耐衝撃性を改善するものである。光学物品用プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、光学基材と下記に詳述するハードコート層又はフォトクロミックコート層との間に形成され、光学基材に対するハードコート層又はフォトクロミックコート層の密着性を高めることができる。特に、ハードコート層付き光学基材の耐衝撃性を改善することができる。
【0035】
本発明の光学物品用プライマー組成物を構成する各成分について説明する。
ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(A成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(A成分)を含む。なお、本発明において、使用するウレタン樹脂の形状、性状は、このウレタン樹脂が水及び溶媒中に分散してなるプライマー組成物を形成できるものであれば、特に制限されない。中でも、プライマー組成物の調製の容易性、ウレタン樹脂の入手の容易性を考慮すると、ウレタン樹脂が予め水に分散されているウレタン樹脂水分散体の使用が好ましい。
【0036】
A成分のウレタン樹脂は、ポリカーボネート由来の骨格を有するため、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応物からなる。一般的に、ウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、ポリアルキレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテル・エステルポリオール等が用いられているが、光学基材、特に、プラスチックレンズを構成する各種プラスチックレンズ素材との密着性及び耐衝撃性を向上させる効果を考慮すると、ポリカーボネートポリオールを使用することが重要である。つまり、本発明においては、ポリカーボネート由来の骨格を有するウレタン樹脂を使用することにより、優れた効果を発揮できる。
【0037】
ポリカーボネートポリオールとしては、公知のものを何ら制限なく使用することができるが、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)等のポリ(アルキレンカーボネート)類等が挙げられる。
【0038】
ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4‐ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5‐ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4‐ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物;1,3,3-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-、2,4’-又は2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート又はそれらの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシナネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物を挙げることができる。
【0039】
本発明で使用するウレタン樹脂は、前記ポリカーボネートポリオールと前記ポリイソシアネートとから構成されるが、その他、イオウ又はハロゲン基1種又は2種以上を含む、ポリイソシアネート、ビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなどの変性体を含むものであってもよい。
【0040】
本発明で使用するウレタン樹脂は架橋構造を含むものが好ましい。分子鎖中に架橋構造を含むウレタン樹脂を用いることにより、プライマーコート層上に、ハードコート層を形成するためのハードコート組成物を塗布した際に、プライマーコート層の該ハードコート組成物に対する耐溶出性を高めることができ、積層体の製造時間を短縮できる。また、得られた積層体は、外観が優れ、耐衝撃性の良好なものとなる。
【0041】
本発明のプライマー組成物におけるA成分のウレタン樹脂は、伸び率が200%以上、1000%以下であるものである。伸び率が200%未満の場合には、プライマーコート層を有する光学物品の耐衝撃性が不十分となる。これは、得られるプライマーコート層の柔軟性が低くなるためと考えられる。また、伸び率が1000%を超える場合には、得られる光学物品の性能が低下するため、好ましくない。これは、得られるプライマーコート層が柔らかくなり過ぎるためと考えられる。特に、プライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させてハードコート層を形成する場合、ハードコート層の耐擦傷性が低下すると共に、得られる積層体(ハードコート層付き光学基材)の耐衝撃性が低下するため、好ましくない。
【0042】
また、フォトクロミックコート層と光学基材との密着性を改善する用途(第一、第二、及び第三積層物品等を製造する用途)について、ウレタン樹脂の伸び率が上記範囲を満足しない場合には、密着性を十分に改善することができため、好ましくない。
【0043】
得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を考慮すると、ウレタン樹脂の伸び率は、好ましくは200%以上、1000%以下であり、より好ましくは250%以上、900%以下である。
【0044】
ウレタン樹脂の伸び率は、以下の方法により測定した値である:
ウレタン樹脂水分散体を使用した場合の測定方法について説明する。先ず、ウレタン樹脂を含む水分散体を、乾燥後のウレタン樹脂の膜厚が約500μmになるような量でシャーレ等の容器に取り分け、室温で24時間乾燥後、80℃で6時間、さらに120℃で20分間乾燥させ、ウレタン樹脂のフィルムを作製する。次いで、このウレタン樹脂フィルムを幅15mm、長さ200 mmの大きさに切断した後、中央部に50mm間隔で標点を記したサンプルを作製する。このサンプルを引っ張り試験機に取り付け、試験機のつかみの間隔を100 mmとし、200 mm/分の速さでサンプルを破断するまで引っ張ることによって伸び率を測定する。測定温度は23℃である。なお、プライマー組成物に含まれるウレタン樹脂の伸び率も、上記方法に従い、ウレタン樹脂のフィルムを作製して測定することができる。
【0045】
伸び率の計算式は下記のとおりである。
伸び率(%)=(破断時の標点間距離−試験前の標点間距離)/(試験前の標点間距離)×100
【0046】
A成分のウレタン樹脂は、上記方法で測定される伸び率が200%以上、1000%以下であると同時に、100%モジュラスが1.5〜18N/mm2であることが好ましい。この100%モジュラスは、伸び率と同時に測定されるものであり、ウレタン樹脂フィルム(サンプル)が、試験前の長さ(試験前の標点間距離)の2倍(伸び率100%)になったときの応力を指す。ウレタン樹脂の100%モジュラスが上記範囲を満足することにより、得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を向上する。
【0047】
A成分のウレタン樹脂は、伸び率が上記範囲を満足すれば特に制限されるものではないが、ガラス転移点(Tg)が0℃未満であることが好ましく、−5℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。Tgが0℃未満であるウレタン樹脂を使用することにより、光学物品、積層体、第一積層物品等の耐衝撃性、密着性をより改善することができる。また、ウレタン樹脂のTgの下限も、特に制限されるものではないが、ウレタン樹脂の生産性、得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を考慮すると、−100℃以上であることが好ましく、−70℃以上であることがより好ましく、−50℃以上であることがさらに好ましい。
【0048】
ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により測定した値である:
伸び率の測定に供したウレタン樹脂フィルムと同様のサンプルを使用する。SII社製動的粘弾性測定装置(DMS 5600)を用いて、測定サンプルのガラス転移温度を測定する。測定条件は、変形モード:引張り、昇温速度:5℃/分、測定周波数:10Hz、測定温度範囲:−100℃〜200℃である。なお、プライマー組成物に含まれるウレタン樹脂のTgも、上記方法に従い、ウレタン樹脂のフィルムを作製して測定することができる。
【0049】
上述のとおり、本発明では、プライマー組成物の製造の容易性を考慮すると、ウレタン樹脂として、予め水分散体としたものを使用することが好ましい。水分散体を使用する場合、この水分散体におけるウレタン樹脂は、平均粒径が50nmを超え、140 nm以下であることが好ましい。平均粒径が140 nmを超える場合、光学基材に対するぬれ性の改善を目的として低級アルコールを添加する際に、プライマー組成物自体の保存安定性が低下する傾向にある。これは、ウレタン樹脂が低級アルコールに対して膨潤し易いため、低級アルコールの添加によって粘度が増加して、プライマー組成物が不安定になるためと考えられる。一方、平均粒径が50nm以下では、ウレタン樹脂水分散体自体の製造が難しくなる。水分散体におけるウレタン樹脂の平均粒径が前記範囲を満足することにより、下記に詳述する有機溶媒と組み合わせた際、平滑性がよく、均一な塗膜(プライマーコート層)を形成でき、外観に優れる光学物品が得られる。また、プライマー組成物の保存安定性が改善される。
【0050】
水分散体におけるウレタン樹脂の平均粒径は、ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱粒度分布測定装置LS 230にて測定した値である。該装置を使用し、波長750 nmのレーザーを用いた光回折により、ウレタン樹脂の粒径を測定する。なお、本発明における平均粒径は、該方法により測定した体積平均値である。
【0051】
水分散体におけるウレタン樹脂の濃度(ウレタン樹脂固形分濃度)は、使用する目的等に応じて適宜決定することができるが、20〜60質量%であることが好ましい。この濃度範囲を満足するウレタン樹脂水分散体を使用することにより、取扱が容易となり、得られるプライマー組成物におけるウレタン樹脂の濃度を容易に調整できる。
【0052】
上記のような要件を満足するウレタン樹脂水分散体は、市販のものを使用することができる。具体的には、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス」シリーズ、日華化学株式会社製「ネオステッカー」、「エバファノール」シリーズ等が例示される。
【0053】
分子量が100〜4000であるポリエチレングリコール(B成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、B成分として、分子量が100〜4000であるポリエチレングリコールを含有してなる。
B成分は、プライマー組成物において、ウレタン樹脂への無機酸化物微粒子の分散安定性を向上させ、得られるプライマーコート層の白濁を抑制する効果を発揮するものである。
好適なB成分を例示すれば、平均分子量180〜220のポリエチレングリコール、平均分子量300のポリエチレングリコール、平均分子量360〜440のポリエチレングリコール、平均分子量560〜640のポリエチレングリコール、平均分子量1000のポリエチレングリコール、平均分子量1500のポリエチレングリコール、平均分子量2000のポリエチレングリコール、平均分子量3400のポリエチレングリコール、平均分子量4000のポリエチレングリコール等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上の混合物として使用される。
B成分は、その機能(すなわち、ウレタン樹脂に対する無機酸化物微粒子の分散安定性を向上させ、形成されるプライマーコート層の白濁を抑制する)を考慮すると、上記ポリエチレングリコールの中でも、分子量が200〜3400であることが好ましく、分子量200〜2000であることがより好ましい。
【0054】
無機酸化物微粒子(C成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物では、無機酸化物微粒子(C成分)を使用している。C成分を配合することにより、形成されるプライマーコート層の屈折率を向上させて、光学基材の屈折率との差によって生ずる干渉縞を低減できると共に、ハードコート層の耐擦傷性をより向上できる。
C成分は、プライマーコート層の屈折率を高める目的で配合されるものであるため、使用する無機酸化物微粒子は、Ti、Zr、Sn、Sb及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む無機酸化物又は複合無機酸化物からなる微粒子であることが好適である。複合無機酸化物の場合には、前記の元素以外に、Si、Al、Fe、In、Au、W等を含んでいてもよい。
複合無機酸化物は、酸化チタン0〜80質量%、酸化ジルコニウム1〜25質量%、酸化スズ0〜80質量%、五酸化アンチモン0〜20質量%、酸化タングステン0〜10質量%、二酸化ケイ素0〜25質量%の各範囲であることが好ましい。
C成分の無機酸化物微粒子の粒径は、電子顕微鏡(TEM)により観察される1次粒子径が1〜300 nm程度であることが好適である。
このような粒径の無機酸化物微粒子は、通常、分散媒として水又は有機溶媒(特にアルコール系溶媒)に分散させたゾルとして使用に供され、一般に、コロイド分散させることによって、粒子が凝集することが防止される。例えば、本発明では、光学物品用プライマー組成物中に均一に分散させるとの観点から、無機酸化物微粒子を、水溶性有機溶媒又は水に分散させたゾルの形で光学物品用プライマー組成物中に配合する。
C成分の分散媒として使用される水溶性有機溶媒としては、イソプロパノール、エタノール、メタノール、エチレングリコール等のアルコール溶媒が好適であるが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルアセトアミド等を使用することもできる。
本発明では、C成分は、水又は水溶性有機溶媒に分散されたゾルの状態、具体的には、無機酸化物微粒子又は複合無機酸化物微粒子の水性ゾル又は水溶性有機溶媒ゾルとして、他の各成分と混合されることが好ましい。
無機酸化物微粒子を分散させたゾル溶液のpHは、光学物品用プライマー組成物中に均一に分散させるとの観点から、5.0〜10.0の範囲であることが好ましく、5.5〜9.0の範囲であることがより好ましい。このpH値は、サンプル液を蒸留水で10倍希釈して、HORIBA製pHメータ D-51で測定した値である。
複合無機酸化物微粒子のゾルとしては、市販のものを使用することができ、例えば、日産化学工業株式会社製 HXシリーズ、HITシリーズ、HTシリーズが挙げられる。その中でも、より屈折率が高く、A成分中への分散安定性を考慮すれば、HTシリーズが好適である。
【0055】
水(D成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は水(D成分)を含むものである。
D成分としての水には、プライマー組成物の調製において、A成分としてウレタン樹脂水分散体を使用する場合、ウレタン樹脂水分散体において分散媒と使用されている水も含まれる。また、C成分として無機酸化物微粒の水性ゾルを使用する場合には、水性ゾルの分散媒として使用されている水も含まれる。
水を使用することによって、プライマー組成物の保存安定性が向上し、作業環境が改善される。この効果は、プライマー組成物がディップコーティング法によるプライマーコート層の形成に使用される場合、プライマー組成物を、長期間にわたって、ディップコート槽内に保管することが必要になるため、特に有用である。
【0056】
水溶性有機溶媒(E成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、水溶性有機溶媒(E成分)を含むものである。水溶性有機溶媒は、プライマー組成物のぬれ性を改善するものである。
E成分としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、トリメチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、ヘキシレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキシレングリコール、ペンタエリスリトール、1,5-ペンタンジオールグリセリン、グリセリンモノアセタート等の分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジオキサン等のエーテル類;ジアセトンアルコール等のケトン類等が挙げられる。中でも、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒等が挙げられる。特に、プライマー組成物の光学基材へのぬれ性を向上させ、ハジキを抑制する効果を発揮させ、さらに、プライマー組成物の保存安定性を保持するためには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジアセトンアルコールが好適である。これらのE成分は単独で又は2種類以上の混合として使用される。
【0057】
各成分の配合量
A成分、B成分及びC成分の配合割合
本発明の光学物品用プライマー組成物は、(A)ウレタン樹脂、(B)ポリエチレングリコール、(C)無機酸化物微粒子を含むものである。
これら成分の配合量は、形成されるプライマーコート層の屈折率、外観、光学物品の耐衝撃性、光学基材とハードコート層又はフォトクロミックコート層との密着性等を考慮すると、以下の配合割合とすることが好ましい。
すなわち、A成分(水分散体を使用する場合には、ウレタン樹脂水分散体を濃縮、乾燥して得られる固形分:ウレタン樹脂の質量)100質量部に対して、B成分を1質量部以上、100質量部以下、C成分を10質量部以上、200質量部以下とすることが好ましい(以下、この固形分に対する各成分の配合割合を示す場合、ウレタン樹脂に対する配合割合として記載する場合もある)。B成分が1質量部未満では、ウレタン樹脂(A成分)への無機酸化物微粒子(C成分)の分散安定性が達成されず、100質量部を越える場合には、屈折率、及び耐衝撃性を低下させる。一方、C成分が10質量部未満では、得られるプライマー組成物が充分に高い屈折率を有することができず、200質量部を越える場合には、白濁を生ずることになる。
中でも、無機酸化物微粒子の分散安定性、耐衝撃性を考慮すると、ウレタン樹脂100質量部に対して、B成分は、1質量部以上、80質量部以下であることがより好ましく、さらに、5質量部以上、70質量部以下であることが好ましい。また、C成分は、20質量部以上、170質量部以下であることがより好ましく、さらに、25質量部以上、150質量部以下であることが好ましい。プライマー組成物自体の保存安定性及び白濁抑制の効果をより充分に発揮させるためには、B成分及びC成分は、質量比(B/C)が0.01以上、1.00未満の範囲を満足することが好ましく、0.10以上、0.70以下の範囲を満足することがさらに好ましい。
B成分及びC成分が上述の範囲をそれぞれ満たすことにより、無機酸化物微粒子のウレタン樹脂への分散安定性を向上させ、耐衝撃性を十分に向上し、さらに、プライマーコート層の屈折率をも十分に向上させることが可能となる。
【0058】
(D)水の配合量
本発明によれば、水(D成分)は、ウレタン樹脂(A成分)100質量部に対して、150質量部以上、2000質量部以下で使用される。150質量部未満の場合には、保存安定性が充分ではなく、2000質量部を越える場合には、平滑なプライマーコート層を形成するのが困難となるため好ましくない。本発明の光学物品用プライマー組成物は、上記範囲で水を配合することにより、保存安定性をより高めることができる。そのため、プライマーコート層の形成が、プライマー組成物をディップコーティングよって塗布することによって行われる場合、プライマー組成物を長期間ディップコート槽内に保管することが必要になるため、特に有用である。
さらに、本発明の光学物品用プライマー組成物を適用する用途に応じて、使用する水の配合量を上記範囲の中で調整することが好ましい。
具体的には、ハードコート層を積層するために使用される本発明の光学物品用プライマー組成物では、水の配合量は、ウレタン樹脂100質量部に対して、150質量部以上、2000質量部以下である。この場合、水の配合量が上記範囲を満足することにより、保存安定性が高くなり、さらに、ハードコート層とのぬれ性が改善されるため、ハジキがなく、さらに、液垂れ等の外観不良の発生を抑制できる。より好ましくは300質量部以上、1700質量部以下の範囲であり、さらに好ましくは500質量部以上、1500質量部以下の範囲である。
一方、プライマー組成物が、フォトクロミックコート層を積層する際のプライマーコート層を形成するために使用されるものである場合(第一積層物品に使用する場合)、プライマー組成物における水の配合量は、ウレタン樹脂100質量部に対して、150質量部以上、1000質量部以下であることが好ましく、より好ましくは150質量部以上、500質量部以下の範囲である。この場合、水の使用量が上記範囲を満足することにより、保存安定性が高くなり、かつ、所定の膜厚を有し、平滑であるプライマーコート層を容易に形成することができる。
水の配合量には、ウレタン樹脂水分散体中の水及び無機酸化物微粒子の水性ゾル中の水の量も含まれる。
【0059】
(E)水溶性有機溶媒の配合量
本発明によれば、水溶性有機溶媒(E成分)は、ウレタン樹脂(A成分)100質量部に対して、150〜800質量部の質量割合で使用される。150質量部未満の場合には、プライマー組成物の光学基材(特に、プラスチックレンズ)に対するぬれ性が低下し、ハジキ等の不良が発生する。一方、800質量部を越える場合には、形成されるプライマー層について、液垂れ等の外観の不良が発生したり、プライマー層の乾燥性の低下等を引き起こし、耐衝撃性、耐擦傷性が低下するため、好ましくない。
プライマー組成物のぬれ性を改善し、外観が良好なプライマーコート層を形成し、耐衝撃性、耐擦傷性の低下を起こさないためには、A成分100質量部に対するE成分の質量割合は、より好ましくは200〜750質量部であり、さらに好ましくは200〜700質量部である。
E成分の量には、C成分である無機酸化物微粒子の分散媒として用いられる水溶性有機溶媒の量も含まれる。
【0060】
その他の任意成分
本発明による光学物品用プライマー組成物には、得られるプライマーコート層の平滑性を向上させるという目的から、レベリング剤を添加することが好適である。レベリング剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できるが、好適なものを例示すれば、シリコン系、フッ素系、アクリル系、ビニル系等を挙げることができる。該レベリング剤は、プライマー組成物中に10〜10000 ppm、特に、50〜5000 ppmの量で存在するような量で添加される。
【0061】
本発明の光学物品用プライマー組成物の製造方法
本発明の光学物品用プライマー組成物は、A成分、B成分、C成分、D成分及びE成分、さらに、必要であれば、他の任意成分を加え、混合することによって製造される。これら各成分を混合する順序は、特に制限されるものではない。混合は公知の方法によって実施される。本発明の好適な1具体例によれば、無機酸化物微粒子のウレタン樹脂中への分散安定性を向上させ、白濁を抑制しつつ、得られるプライマー組成物の保存安定性を向上させるために、上述の所定の配合量の(B)ポリエチレングリコールと(C)無機酸化物微粒子の水性ゾル又は有機溶媒ゾル分とを、10〜40℃の温度において、30分〜48時間混合し、得られた混合物を、上述の所定の配合量の(A)ポリウレタン樹脂の水分散体及び必要であれば、上述の所定の配合量を達成するように残りの(D)水及び(E)水溶性有機溶媒成分と、10〜40℃の温度において、30分〜48時間混合することによって、光学物品用プライマー組成物を製造することが好ましい。
プライマー組成物は、各成分が上述の配合割合を満足する量的関係で混合されればよいが、光学物品用プライマー組成物の固形分濃度が、3質量%以上、35質量%以下となることが好ましい(光学物品用プライマー組成物全体を100質量%とした際、固形分が3質量%以上、35質量%以下となることが好ましい)。光学物品用プライマー組成物の固形分濃度が、この範囲を満足することにより、形成されるプライマーコート層の膜厚を調整することが容易になり、耐衝撃性、さらには、密着性の向上が容易となる。
光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善する用途に用いる場合(第一積層物品用に使用する場合)、光学物品用プライマー組成物の固形分濃度を、15質量%以上、35質量%以下とすることが好ましい。この範囲を満足することにより、プライマーコート層の膜厚を調整し易く、得られる第一積層物品が優れた性能を発揮する。
光学物品用プライマー組成物の固形分濃度は、該プライマー組成物の配合割合から換算できるし、該プライマー組成物を濃縮、乾燥することにより求めることができる。
【0062】
次に、本発明の光学物品用プライマー組成物を使用する光学基材について説明する。
光学基材
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材、特に、プラスチックレンズの耐衝撃性を改善するために使用することができる。プラスチックレンズ素材(樹脂)を例示すれば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル又はメタクリル(単に「(メタ)アクリル」と表示する)系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂及びチオエポキシ系樹脂等を挙げることができる。
【0063】
フォトクロミック光学基材
本発明の光学物品用プライマー組成物は、樹脂の中でも、(メタ)アクリル系樹脂との密着性がよく、特に、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂に対しての密着性がよい。このような(メタ)アクリル系樹脂は、自由空間が大きいため、フォトクロミック化合物を含有した場合、優れたフォトクロミック特性を有する(メタ)アクリル系樹脂(フォトクロミック材)となる。本発明の光学物品用プライマー組成物は、このようなフォトクロミック材に好適に使用できる。
さらに、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂は、上記のとおり、自由空間が大きいため、フォトクロミック化合物を多く含むこともできる。そのため、該組成物にフォトクロミック化合物を加えたフォトクロミック硬化性組成物をコーティングし、フォトクロミックコート層を形成した光学基材に対しても、本発明のプライマー組成物は好適に使用することができる。また、本発明のプライマー組成物は、その表面上に、フォトクロミック硬化性組成物をそのまま硬化させて得られるフォトクロミック光学基材にも適用できる。
なお、以下の説明では、前記フォトクロミック硬化性組成物を、使用法に応じて、2種類に分ける。光学基材上に、フォトクロミック硬化性組成物を塗布し、硬化させることによって、フォトクロミックコート層を形成する場合の該硬化性組成物を「フォトクロミックコーティング剤」とする。また、フォトクロミック硬化性組成物を、そのまま硬化させてフォトクロミック光学基材を形成する場合の該硬化性組成物を、「キャスト用フォトクロミック硬化性組成物」とする。
【0064】
3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートを具体的に例示すれば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートが挙げられる。また、繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートとしては、平均分子量536のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量736のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量536のポリプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量258のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量308のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量272のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、平均分子量536のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、2,2-ビス[4-メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-アクリロキシ(ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0065】
3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物には、他の重合性単量体を加えてもよく、例えば、グリシジルメタクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリレートを加えることもできる。
【0066】
このような重合性単量体とフォトクロミック化合物とを組み合わせることにより、フォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物を得ることができる。
使用できるフォトクロミック化合物としては特に制限されず、公知の化合物を使用できる。例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、国際公開WO94/22850号パンフレット、国際公開WO96/14596号パンフレット、国際公開WO01/60811号パンフレット、米国特許4913544号公報、及び米国特許5623005号公報などに記載されているフォトクロミック化合物を使用することができる。また、使用するフォトクロミック化合物の量は、フォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物の用途に応じて適宜決定される。
【0067】
次に、これらフォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物を使用したフォトクロミック光学基材について説明する。
キャスト用硬化性組成物から形成したフォトクロミック光学基材
このフォトクロミック光学基材は、公知の方法で製造される。キャスト用硬化性組成物に、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等の添加剤を加えることもできる。このようなキャスト用硬化性組成物を、例えば、所望の光学基材の形状に適合する形状の凹部を有する鋳型に注入し、公知の方法で硬化させることにより、フォトクロミック光学基材を製造することができる。
【0068】
フォトクロミックコーティング剤を使用して調製されるフォトクロミック光学基材
このフォトクロミック光学基材も、公知の方法に従って製造される、フォトクロミックコーティング剤に、必要に応じて、シリコン系、フッ素系の界面活性剤(レベリング剤)、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等の添加剤を加えることもできる。
光学基材は、プライマーコート層を持たない、又は公知のプライマー組成物、例えば、特許文献3に記載されているような湿気硬化型ウレタン樹脂より形成されるプライマー層を有していてもよい。
【0069】
フォトクロミックコーティング剤から形成されるフォトクロミックコート層は、例えば、プライマーコート層が形成されている光学基材上に、フォトクロミックコーティング組成物を塗布し、硬化させることによって形成される。硬化の方法は特に限定されないが、光重合開始剤が配合されているフォトクロミックコーティング剤を用いて、紫外線等の光を照射して硬化させる方法が好適に使用できる。
紫外線等の光照射によって硬化させる場合には、公知の光源を何ら制限なく使用することができ、光照射時間はフォトクロミックコート層の膜厚等により適宜決定される。
フォトクロミックコーティング剤を、プライマーコート層が形成されている光学基材上に塗布する場合、特に前処理を行う必要はなく、プライマーコート層を硬化(乾燥)させ、冷却した後、フォトクロミックコーティング組成物を塗膜すればよい。
フォトクロミックコーティング組成物を、プライマーコート層が形成された光学基材に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティング等の方法が挙げられる。中でも、塗膜の均一性の観点から、スピンコーティングを採用することが好ましい。
【0070】
次に、光学基材上に、本発明の光学物品用プライマー組成物からプライマーコート層を形成する方法について説明する。
プライマーコート層の形成方法
本発明の光学物品用プライマー組成物を光学基材上に塗布し、該プライマー組成物を硬化(乾燥)させることによって、光学基材上に形成されたプライマーコート層を有する光学物品を製造することができる。
本発明の光学物品用プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、光学基材、特に、プラスチックレンズの光学特性を低下させることがない。そのため、プライマーコート層が積層されたプラスチックレンズは、そのままで光学物品としても使用することができる。さらに、プライマーコート層上で、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させることによってハードコート層を積層することにより、優れた耐衝撃性と耐擦傷性とを有する光学物品(積層体)とすることもできる。
【0071】
本発明の光学物品用プライマー組成物を光学基材上に塗布するに当たり、密着性を向上させることを目的として、光学基材の表面を前処理しておくことが好ましい。前処理としては、有機溶剤による脱脂処理、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理又はUVオゾン処理等を挙げることができる。中でも、光学基材とプライマーコート層との密着性を向上させる観点から、有機溶剤による脱脂処理、アルカリ処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理又はUVオゾン処理、或いはこれらを組み合わせた処理を行なうのが好適である。
【0072】
光学物品用プライマー組成物を光学基材に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティング等の方法が挙げられる。中でも、生産性、塗膜の均一性の観点から、ディップコーティングを採用することが好ましい。
【0073】
上記方法により光学基材上に塗布された光学物品用プライマー組成物は、最終的に、その中に含まれる溶剤が除去される。塗布終了後、光学基材上のプライマー組成物を加熱し、溶剤を除去して、プライマーコート層を形成させることが好ましい。加熱温度は、特に限定されないが、加熱による光学基材の変形、変色を防止するという観点から、室温〜120℃、特に、室温〜100℃の範囲であることが好適である。加熱時間は、特に限定されないが、通常、1分〜1時間の範囲であり、生産性の観点から20分以下であることが特に好適である。
【0074】
本発明の光学物品用プライマー組成物は、上述のとおり、光学物品の耐衝撃性を改良する用途と、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善する用途の両方の用途を有する。プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、各用途によって、好適な厚みが異なる。先ず、耐衝撃性を改良する用途に使用する場合について説明する。
【0075】
耐衝撃性改良の用途に使用するプライマーコート層(光学物品の製造)
光学物品の耐衝撃性を改良する用途の場合には、上述のように、光学基材上に、本発明の光学物品用プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、下記に詳述するハードコート層を形成する。
この光学物品を製造する際の工程図を、図1、図2に示した。これらの図を参照すると、光学基材1上に、本発明のプライマー組成物を塗布し、乾燥させることによって、プライマーコート層2を形成する。光学基材として、フォトクロミック光学基材1'(光学基材上にフォトクロミックコート層4が形成されたもの)を使用する場合には、光学物品は、図2のような方法で製造される。この場合には、フォトクロミックコート層4上に、本発明の光学物品用プライマー組成物を上記方法に従って塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2を形成する。
このようにして製造された光学物品には、通常、プライマーコート層2上に、さらに、ハードコート層3が形成される。このような光学物品の場合、プライマーコート層2の膜厚は、0.1μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。プライマーコート層の膜厚が上記範囲を満足することにより、耐衝撃性が向上すると共に、ハードコート層3を形成することによって、耐擦傷性の低下、クラック発生などの問題を低減できる。
【0076】
光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善する用途に使用するプライマーコート層(第一積層物品及び第二積層物品の製造)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を高めることもできる。
この用途に本発明のプライマー組成物を使用して得られる第一積層物品の製造工程の概略を図3に示した。図3を参照すると、光学基材1上に、本発明のプライマー組成物を上述の方法に従って塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2’を形成する(光学物品を製造する)。次いで、上記フォトクロミック光学基材で説明したフォトクロミックコーティング剤を該プライマーコート層2’上に塗布し、フォトクロミック光学基材を製造する方法と同様の方法でフォトクロミックコート層4を形成する(第一積層物品を製造する)。
この際、プライマーコート層2’の厚みは、好ましく0.5μm以上、20.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上、15.0μm以下である。
第一積層物品は、光学基材とフォトクロミックコート層との間の優れた密着性を有すると共に、フォトクロミックコート層を形成したことによる耐衝撃性の低下に伴うクラック発生などの問題が低減されている。
また、光学基材としては、上述のキャスト用硬化性組成物から形成したフォトクロミック光学基材を使用できるが、色調の調整を容易にするためには、フォトクロミック化合物を含まない光学基材を使用することが好ましい。フォトクロミックコート層4の厚みは、特に制限されるものではないが、優れた効果を発揮するためには10〜80μmであることが好ましい。
【0077】
上述のようにして得られた第一積層物品は、そのまま使用することもできるが、眼鏡レンズ用途に使用する場合には、さらに耐衝撃性を改善するために、プライマーコート層を形成することが好ましい。このような態様の積層物品(第二積層物品)の製造工程を図3に示した。
図3を参照すると、この第二積層物品では、第一積層物品のフォトクロミックコート層4上に、さらに、本発明のプライマー組成物を塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2を形成している。この場合、プライマーコート層2の厚みは、耐衝撃性を改善するためには、0.1μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。
上述のとおり、プライマーコート層2が形成された第二積層物品は、それ自体を眼鏡レンズ等に使用することもできるが、より好ましくは、プライマーコート層2上に、さらに、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させて得られるハードコート層3を形成することが好ましい(第三積層物品)。
【0078】
次に、ハードコート層について説明する。
ハードコート層用のハードコート組成物
本発明によれば、プライマーコート層上において、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させることによって形成されるハードコート層を、さらに、積層させることができる。ハードコート層の形成に使用される無機酸化物微粒子としては、前述のシリカゾル及び複合無機酸化物微粒子を何ら制限なく使用することができる。無機酸化物微粒子の配合量は、無機酸化物の種類、最終的に得られるハードコート層について望まれる物性、目的に応じて、適宜、決定されるが、一般的には、最終的に形成されるハードコート層に占める無機酸化物微粒子の割合が20〜80質量%、特に40〜60質量%となるような決定される。なお、ハードコート層の質量は、ハードコート組成物を120℃で3時間加熱した後に残った固体成分の質量を秤量することにより求めることができる。
【0079】
加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、無機酸化物粒子のバインダーとしての機能を有し、ハードコート層中でマトリックスとなる透明な硬化体を形成するものであり、重合可能な有機ケイ素化合物が使用される。有機ケイ素化合物は、官能基であるアルコキシル基を有するものであり、前述の公知の加水分解性基含有有機ケイ素化合物を何ら制限無く使用できる。有機ケイ素化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。有機ケイ素化合物は、その少なくとも一部が加水分解した形、又はその部分加水分解物が縮合した部分縮合物の形で使用に供される。本発明では、特にプラスチックレンズとの密着性、架橋性の観点から、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシラン又はこれらの部分加水分解物、又は部分縮合物等が好適に使用される。
【0080】
本発明によれば、加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、ハードコート層のクラックを防止し、ハードコート組成物の保存安定性の低下を防止するために、無機酸化物微粒子100質量部当り、50〜500質量部、特に60〜400質量部の量で使用され、特に好ましくは、70〜300質量部の量で使用される。また、無機酸化物微粒子との合計で、15〜50質量%、好適には20〜40質量%となる量でハードコート組成物中に存在するように使用される。ここに記載した加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、含有するアルコキシ基が加水分解されていない状態のものである。
【0081】
ハードコート層形成用のハードコート組成物では、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解し、この加水分解物が無機酸化物微粒子を取り込んだ形で重合硬化(重縮合)して、マトリックスとなる硬化体を形成し、無機酸化物微粒子が緻密にマトリックス中に分散したハードコート層を形成する。硬化体形成のための加水分解性基含有有機ケイ素化合物の加水分解を促進させるために、水の配合が必要となる。
このような水の量は、無機酸化物微粒子と加水分解性基含有有機ケイ素化合物との合計質量100質量部当り、20〜80質量部、好ましくは20〜65質量部、さらに好ましくは20〜60質量部である。水の量が少な過ぎると、加水分解性基含有有機ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の加水分解が十分に進行せず、得られるハードコート層の硬度、ハードコート組成物の保存安定等の特性が低下するおそれがあり、必要以上に多すぎると、均一な厚みのハードコート膜の形成が困難となり、ハードコート膜が形成された光学基材の光学特性に悪影響を与えるおそれがある。
使用される水は酸水溶液の形で添加されても構わず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸を水溶液の形で添加することができる。中でも、ハードコート組成物の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸及び酢酸水溶液が好適に使用される。酸水溶液の濃度は、0.001〜0.5N、特に0.01〜0.1Nであることが好適である。尚、既に述べた通り、無機酸化物微粒子は、水に分散させた分散液(ゾル)の形態で使用されることがある。従って、ハードコート層用のハードコート組成物中に存在する水の量は、無機酸化物微粒子の分散液及び酸水溶液に含まれる水の量の合計として上記範囲となるように調整される。例えば、無機酸化物微粒子の分散液に含まれる水の量が、上述した水量の範囲を満足している場合には、さらに水を添加する必要はなく、また上述した水量の範囲に満たない場合には、さらに水を添加することが必要である。
【0082】
ハードコート層用のハードコート組成物には、上述した加水分解性基含有有機ケイ素化合物の加水分解物の重合硬化を促進させるために、硬化触媒を配合することもできる。硬化触媒は、それ自体公知のもの、例えば、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩、有機金属塩、各種ルイス酸が使用され、これらは単独で又は2種以上を混合して使用される。
アセチルアセトナート錯体の具体的に例示すれば、アルミニウムアセチルアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、インジウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、ニッケルアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。これらの中では、アルミニウムアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナートが好適である。
【0083】
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等を例示することができる。
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛等を例示することができる。
ルイス酸としては、塩化第二スズ、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等を例示することができる。
【0084】
ハードコート層用のハードコート組成物においては、比較的低温でも短時間で耐擦傷性の高いハードコート膜が得られるという観点から、アセチルアセトナート錯体が特に好適であり、重合触媒の50質量%以上、特に70質量%以上、最適には重合触媒の全量がアセチルアセトナート錯体であるのがよい。
上述した硬化触媒は、硬い硬化膜を得るという観点から、前記加水分解性基含有有機ケイ素化合物100質量部当たり、1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部の範囲の量で使用される。
ハードコート層用のハードコート組成物には、有機溶媒を配合することもできる。有機溶媒は加水分解性基含有有機ケイ素化合物の溶剤となり、無機酸化物微粒子の分散媒となるものであるが、このような機能を有していると同時に、揮発性を有するものであれば、公知の有機溶媒が使用できる。このような有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等の低級カルボン酸の低級アルコールエステル類;セロソルブ、ジオキサン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類;メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これら有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用される。中でも、任意的に添加される水との相溶性を有し、ハードコート組成物の硬化の際に、容易に蒸発し、平滑なハードコート膜が形成されるという観点から、特にメタノール、イソプロパノール、t-ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、アセチルアセトンを使用するのが好ましい。また、このような有機溶媒の一部は、先に述べたように、無機酸化物微粒子の分散媒として、予め該無機酸化物微粒子と混合しておくこともできる。
【0085】
有機溶媒の使用量は特に限定されないが、保存安定性と十分な耐擦傷性を得るために、通常、合計量が、加水分解性基含有有機ケイ素化合物100質量部当たり、100〜2500質量部、特に140〜1500質量部の範囲であることが好ましい。また、ここで記載する有機溶剤の使用量は、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解される際に生じるアルコールの量を考慮したものではなく、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解されていない場合の使用量である。
ハードコート層を形成するためのハードコート組成物は、上記成分を公知の方法により混合で製造できる。中でも、加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、完全に加水分解させた後に、他の成分と混合することが好ましい。
【0086】
ハードコート層の形成方法(積層体及び第三積層物品の製造)
本発明によれば、プライマーコート層が形成された光学物品又は第二積層物品に、上記ハードコート組成物よりなるハードコート層を形成することができる(積層体及び第三積層物品を製造することができる)。
図1及び図2に、光学物品のプライマーコート層2上に、ハードコート層3を形成する場合の工程図を示した(積層体の製造工程)。図3に、第二積層物品のプライマーコート層2上に、ハードコート層3を形成する場合の工程図を示した(第三積層物品の製造工程)。
本発明によれば、ハードコート層3は、光学物品又は第二積層物品のプライマーコート層2上に、ハードコート組成物を塗布し、乾燥・硬化させることによって形成される。ハードコート層3を設けることにより、優れた耐衝撃性及び耐擦傷性を有する光学物品を作製することができる。
ハードコート層用のハードコート組成物を、光学物品又は第二積層物品に形成されたプライマーコート層2上に塗布するに当たり、特に前処理を行う必要はなく、プライマーコート層2を硬化(乾燥)させ、冷却した後、ハードコート組成物を塗布すればよい。
ハードコート組成物をプライマーコート層2上に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられる。中でも、生産性、塗膜の均一性の観点から、ディップコーティングを採用することが好ましい。
【0087】
プライマーコート層2上に塗布されたハードコート組成物を熱処理して、最終的に、ハードコート組成物中に含まれる溶剤を除去(乾燥)させる必要がある。塗布されたハードコート組成物の塗膜を加熱し、溶剤を除去して、ハードコート層3を形成させることが好ましい。加熱温度は特に限定されないが、密着性、耐擦傷性及び加熱による光学基材の変形、変色の防止の観点から、90〜130℃、特に90〜110℃の範囲であることが好適である。加熱時間は、特に限定されないが、通常1時間〜5時間の範囲であり、生産性の観点から1時間〜3時間であることが特に好適である。
このようにして形成されたハードコート層3の膜厚は、1.0μm以上、4.0μm以下であることが好ましい。ハードコート層の膜厚が上記範囲を満足することにより、耐衝撃性及び耐擦傷性に優れる積層体が得られる。
中でも、本発明の光学物品用プライマー組成物は、耐衝撃性の改良効果が高いため、下記に詳述するベイヤー値が5.0以上、好ましくは5.5以上を満足する硬いハードコート層を形成する積層体に好適に適用できる。
【0088】
その他の層
本発明によれば、ハードコート層用のハードコート組成物からなるハードコート層を有する積層体及び第三積層物品には、さらに必要に応じて、ハードコート層上に、SiO2、TiO2、ZrO2等の無機酸化物からなる薄膜の蒸着、有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下に記載の実施例においてで使用した各成分、プラスチックレンズ(光学基材)を示す。
プラスチックレンズ(直径70mm、厚み1.7mm):
レンズA(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.67)
レンズB(チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.71)
レンズC(チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.74)
以上のプラスチックレンズを使用した。
フォトクロミック光学基材:
レンズD(プラスチックレンズ表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層(フォトクロミックコート層)を有するレンズ)
レンズDの作製方法:
ラジカル重合性単量体である平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート/グリシジルメタクリレートを、それぞれ、40質量部/15質量部/25質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合した。次に、このラジカル重合性単量体の混合物100質量部に対して、3質量部のフォトクロミック化合物(1)を加え、70℃で30分間の超音波溶解を実施した。その後、得られた組成物に、重合開始剤であるCGI 1870(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドとの重量比3:7混合物)0.35質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート5質量部、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]3質量部、シランカップリング剤であるγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7質量部、及びレベリング剤である東レ・ダウコーニング株式会社製シリコン系界面活性剤L-7001 0.1質量部を添加し、十分に混合することによって、フォトクロミック硬化性組成物(フォトクロミックコーティング剤)を調製した。
【0090】
フォトクロミック化合物(1)
【化1】

光学基材として、厚さ2.0mmのレンズA(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.67)を使用し、アセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理し、4分間流水洗浄し、40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー「タケシールPFR 402 TP-4」及び酢酸エチル(それぞれ、50質量部)を混合し、得られた混合液に、さらに、東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤 FZ-2104 0.03質量部を添加し、窒素雰囲気下において均一になるまで十分に撹拌することによって調製した液を、プライマーコート液として使用した。このプライマー液を、MIKASA製スピンコーター 1H-DX2を使用してレンズ表面にスピンコートした。ついで、レンズを室温において15分間放置することにより、膜厚7μmのプライマー層を有するレンズを作製した。
次いで、上述のように調製しておいたフォトクロミックコーティング剤約1gを、作製したプライマー層(7μm)を有するレンズの表面にスピンコートした。フォトクロミックコーティング剤の塗膜によって表面をコートしたレンズに、窒素ガス雰囲気中で、レンズ表面の405 nmにおける出力が150 mW/cm2になるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF 3000SQを使用して、3分間、光照射し、塗膜を硬化させた。その後、さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行うことでフォトクロミックコート層を有するレンズDを得た。得られるフォトクロミックコート層の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。本発明においては、フォトクロミックコート層の膜厚を40±1μmとなるように調整した。
【0091】
A成分:ウレタン樹脂の水分散体:
U1:スーパーフレックス420(第一工業製薬株式会社製、平均粒径:120 nm、伸び率:280%、Tg:−20℃、100%モジュラス:15N/mm2、固形分(ウレタン樹脂)濃度:約35質量%、水:約65質量%、ポリカーボネート由来の骨格含有、架橋性)
U2:スーパーフレックス460(第一工業製薬株式会社製、平均粒径:100 nm、伸び率:750%、Tg:−25℃、100%モジュラス:2N/mm2、固形分(ウレタン樹脂)濃度:約38質量%、水:約62質量%、ポリカーボネート由来の骨格含有、架橋性)
U3:エバファノールHA-50C(日華化学株式会社製、平均粒径:80nm、伸び率:450%、Tg:−30℃、100%モジュラス:7N/mm2、固形分(ウレタン樹脂)濃度:約35質量%、水:約65質量%、ポリカーボネート由来の骨格含有、架橋性)
A成分に該当しないウレタン樹脂水分散体:
U4:ネオレッツR-9603(楠本化成株式会社から入手、平均粒径:70nm、伸び率:10%、Tg:−10℃、固形分(ウレタン樹脂)濃度:約33質量%、水:約53質量%、ポリカーボネート由来の骨格含有、非架橋性)
U5:スーパーフレックス150(第一工業製薬株式会社製、平均粒径:150 nm、伸び率:330%、Tg:30℃、固形分(ウレタン樹脂)濃度:約30質量%、ポリエステル・エーテル由来の骨格含有、架橋性)
U6:スーパーフレックス300(第一工業製薬株式会社製、粒子径:0.15 μm、伸び率:1500%、固形分濃度:30%、ポリエステル・エーテル由来の骨格含有、架橋性)
【0092】
B成分:ポリエチレングリコール:
PEG200:平均分子量180〜220のポリエチレングリコール
PEG300:平均分子量300のポリエチレングリコール
PEG600:平均分子量560〜640のポリエチレングリコール
PEG2000:平均分子量2000のポリエチレングリコール
PEG4000:平均分子量4000のポリエチレングリコール
【0093】
C成分:無機酸化物微粒子のゾル:
SOL1:酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.6質量%、酸化アンチモン7.0質量%、二酸化ケイ素3.7質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度):30質量%、pH:8.3)
SOL2:酸化スズ12.0質量%、酸化チタニウム61.3質量%、酸化ジルコニウム14.3質量%、二酸化ケイ素12.3質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度):30質量%、pH:6.8)
【0094】
E成分:水溶性有機溶媒:
EG:エチレングリコール
EG1:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル
EG2:エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル
EG3:エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル
DAA:ジアセトンアルコール
MeOH:メタノール
TBA:t-ブタノール
【0095】
ハードコート層用のハードコート組成物の調製方法:
ハードコート組成物1の調製
有機ケイ素化合物としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン77.9g、テトラエトキシシラン23.5g、有機溶媒としてt-ブチルアルコール30.8g、ジアセトンアルコール82.0g、メタノール20.0g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製L-7001(商品名))0.3gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、水52.0g及び0.05 N塩酸26gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 5.0gを混合し、1時間撹拌した。次いで、酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.6質量%、酸化アンチモン7.0質量%、二酸化ケイ素3.7質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度):40質量%)182gを加え、さらに24時間撹拌してハードコート組成物1を得た。
【0096】
ハードコート組成物2の調製
有機ケイ素化合物としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン88.3g、有機溶媒としてt-ブチルアルコール30.8g、ジアセトンアルコール102.0g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製L-7001(商品名))0.3gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、水52.0g及び0.05 N塩酸26gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 5.0gを混合し、1時間撹拌した。次いで、酸化スズ12.0質量%、酸化チタニウム61.3質量%、酸化ジルコニウム14.3質量%、二酸化ケイ素12.3質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度):30質量%)234gを加え、さらに24時間撹拌してハードコート組成物2を得た。
【0097】
ハードコート組成物3の調製
有機ケイ素化合物としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン88.3g、有機溶媒としてt-ブチルアルコール30.8g、ジアセトンアルコール102.0g、シリコン系界面活性剤((東レ・ダウコーニング株式会社製L-7001(商品名))0.3gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、水52.0g及び0.05 N塩酸26gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 5.0gを混合し、1時間撹拌した。次いで、酸化チタニウム78.6質量%、酸化ジルコニウム1.6質量%、二酸化ケイ素19.8質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度):30質量%)234gを加え、さらに24時間撹拌してハードコート組成物3を得た。
【0098】
[実施例1]
プライマー組成物Aの調製
B成分としてPEG300 5g及びC成分としてSOL2 34g(実質的に、複合無機酸化物微粒子10.2g及びメタノール23.8gからなる)を、20〜25℃において3時間撹拌し、得られた混合物に、水(D成分)106g、ジアセトンアルコール(E成分)20g、エチレングリコール(E成分)10g、レベリング剤としてST 103 PA(東レ・ダウコーニング株式会社製)0.4gを順次添加し、さらに1時間撹拌した。最後に、ウレタン樹脂水分散体(A成分)としてU1 30g(実質的に、ウレタン樹脂10.5g及び水19.5gからなる)を加え、20〜25℃において12時間撹拌し、本発明のプライマー組成物Aを得た(表1参照)。このプライマー組成物Aは、15℃において6ヶ月間保存する場合も安定であった。プライマー組成物の保存安定性については、調製したプライマー組成物を15℃において保存し、液物性及びコーティング後のプライマーコート層の物性が初期と比較して同等か否かで評価した。配合量を表1に示した。また、A成分質量部当たりに換算した各成分の配合量、保存安定性の結果、コート膜の屈折率を表2に示した。複数のE成分においては、その合計量を換算したものを表2に示した。
【0099】
プライマーコート層及びハードコート層の形成:積層体の製造
光学基材としてレンズAを使用し、アセトンで十分に脱脂し、50℃に加熱した10質量%水酸化ナトリウム水溶液中で5分間超音波洗浄した。次いで、プライマー組成物Aを、引き上げ速度10cm/分にてディップコーティングし、80℃で10分間乾燥させることにより、屈折率1.66、膜厚1.2μmを有するプライマーコート層を形成した(光学物品の製造)。このレンズを室温まで冷却した後、ハードコート組成物3を、引き上げ速度15cm/分にてディップコーティングし、110℃において2時間で硬化させることによって、前記プライマーコート層(膜厚1.2μm)に上に膜厚2.2μmのハードコート層が形成されたプラスチックレンズ(積層体)を得た。
得られたプライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズについて、下記(1)〜(6)に示す各評価項目について評価を行った。その結果、当該プラスチックレンズは、外観1:◎、外観2:◎、スチールウール耐擦傷性:A(1kg)、B(3kg)、密着性:100/100、煮沸密着性(5時間):100/100、耐衝撃性:151gを有するものであった。結果を表3に示す。
【0100】
評価項目:
(1)外観1
プライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズの外観を、これらコート層を有するレンズに高圧水銀ランプの光を照射して、白紙上にその投影面を写し出し、目視観察することによって評価した。評価基準を以下に示す:
◎:コート膜の不均一性が、認められない
○:特に問題はないが、1〜2本程度のスジ状の不良が観察される
△:4〜9本程度のスジ状の不良が観察される
×:10本以上のスジ状の不良又はハジキ模様のいずれか、もしくはスジ状不良及びハジキ模様が複合的に認められ、明らかに外観不良である
【0101】
(2)外観2
プライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズを、集光機の照射光に対して、10〜45°傾けて光を照射し、その時のレンズの白濁の程度を目視により評価した。評価基準を以下に示す:
◎:やや白濁しているものの、問題ないレベル
○:◎よりも白濁の程度が大きいが、商品価値を有するもの
×:プライマー層が明らかに白濁している
【0102】
(3)スチールウール耐擦傷性
スチールウール(日本スチールウール株式会社製、ボンスター#0000番)を使用し、1kg及び3kgの荷重で10往復プラスチックレンズの表面を擦り、傷ついた程度を目視で評価した。評価基準は次のとおりである:
A:ほとんど傷が付かない(目視で5本未満の擦傷である場合)
B:極わずかに傷が付く(目視で5本以上10本未満の擦傷がある場合)
C:少し傷が付く(目視で10本以上20未満の擦傷がある場合)
D:はっきりと傷が付く(目視で20以上の擦傷がある場合)
E:ハードコート層の剥離が生じている
【0103】
(4)密着性
プライマーコート層及びハードコート層のプラスチックレンズに対する密着性を、JIS D-0202に準ずるクロスカットテープ試験によって評価した。すなわち、カッターナイフを使い、ハードコート層表面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、ハードコート層が残っているマス目を測定した。
【0104】
(5)煮沸密着性
沸騰した蒸留水中に、試験片であるプラスチックレンズを1時間毎に浸漬した後、取り出し、水滴を拭き取り、室温で1時間放置した後、上記(4)密着性試験と同様にして密着性を評価した。密着性を保持しているプラスチックレンズに関して、煮沸時間が合計5時間になるまで試験を実施した。(4)と同様に残っているマス目を測定した。
【0105】
(6)耐衝撃性
16g、32g、50g、80g、95g、112g、138g、151g、174g、198g、225gの鋼球を、軽い方から順に、127 cmの高さから、試験片であるプラスチックレンズの中心部に落下させ、プラスチックレンズが割れるか、否かを評価した。評価結果を、プラスチックレンズが割れなかった最大鋼球質量で表した。
【0106】
[実施例2〜18]
プライマー組成物B〜Pの調製
表1に示すウレタン樹脂水分散体(A成分)、ポリエチレングリコール(B成分)、無機酸化物微粒子(C成分)、水(D成分)、有機溶媒(E成分)を使用した以外は、プライマー組成物Aと同様に操作して、プライマー組成物B〜Pを調製した。各成分の配合量を表1、表2に示した。
積層体の製造及び評価
表2に示すプライマー組成物(B〜P)、ハードコート組成物、光学基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、プライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を作製し、その評価を行った。評価の結果を表3に示した。
【0107】
[比較例1〜4]
プライマー組成物Q〜Tの調製
表1に示すウレタン樹脂水分散体(A成分)、ポリエチレングリコール(B成分)、無機酸化物微粒子(C成分)、水(D成分)、有機溶媒(E成分)を用いた以外は、プライマー組成物Aと同様に操作してプライマー組成物Q〜Tを調製した。各成分の配合量を表1、表2に示した。
積層体の製造及び評価
表2に示すプライマー組成物(Q〜T)、ハードコート組成物、光学基材を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、プライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を作製し、その評価を行った。評価の結果を表3に示した。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
実施例1〜18から明らかなように、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200〜1000%のウレタン樹脂(A成分)、ポリエチレングリコール(B成分)及び無機酸化物微粒子(C成分)を好適な比率で用いた場合には、良好な保存安定性を有するプライマー組成物を調製でき、さらに、得られるプライマーコート膜の屈折率、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性、及び耐衝撃性が良好な積層体を得ることができる。
一方、比較例1〜4に示すプライマー組成物(Q〜T)では、プライマー組成物の保存安定性、得られるプライマーコート膜の屈折率、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性、及び耐衝撃性の内、少なくとも1つ以上の物性が不十分であった。
【0112】
[実施例19]
プライマー組成物Uの調製
表3に示すウレタン樹脂水分散体(A成分)、ポリエチレングリコール(B成分)、無機酸化物微粒子(C成分)、水(D成分)、有機溶媒(E成分)を用いた以外は、プライマー組成物Aと同様に操作してプライマー組成物Uを調製した。各成分の配合量を表4、表5に示した。
【0113】
【表4】

【0114】
【表5】

【0115】
第一積層物品の製造及び評価
光学基材としてレンズAを使用し、アセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理し、4分間の流水洗浄し、40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、MIKASA製スピンコーター 1H-DX2を使用して、プライマー組成物UをレンズAの表面にスピンコートした。このレンズを室温において15分間放置することにより、膜厚7μ1mのプライマーコート層を有する光学基材(光学物品)を作製した。
次いで、前述のフォトクロミックコーティング剤(1)(レンズDの作製において使用するフォトクロミックコーティング剤)約1gを、前記プライマーコート層を有する光学基材(光学物品)の表面にスピンコートした。フォトクロミックコーティング剤の塗膜にて表面をコートしたレンズに、窒素ガス雰囲気中で、レンズ表面の405 nmにおける出力が150 mW/cm2になるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF 3000 SQを用いて、3分間、光照射し、塗膜を硬化させた。その後、さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行って、フォトクロミックコート層を有するレンズ(第一積層体)を得た。得られるフォトクロミックコート層の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。本発明においては、フォトクロミックコート層の膜厚を40±1μmとなるように調整した。
得られたプライマーコート層及びフォトクロミックコート層を有するプラスチックレンズについて、前述の(1)、(2)、(4)及び(5)に示す各評価項目について評価を行った。その結果、当該プラスチックレンズは、外観1:◎、外観2:◎、密着性:100/100、煮沸密着性(5時間):100/100を有するものであった。結果を表6に示す。
【0116】
[実施例20]
実施例19で得られたプラスチックレンズ(第一積層物品)上に、プライマー組成物A及びハードコート組成物3を使用して、プライマーコート層を形成し(第二積層物品)、形成したプライマーコート層の上に、さらにハードコート層を形成して第三積層物品を作製した。得られた第三積層物品の評価の結果を表6に示した。
【0117】
【表6】

【0118】
実施例19から明らかなように、本発明のプライマー組成物を用いてプライマーコート層を形成し、その上にフォトクロミックコート層を積層させた場合には、外観、密着性、及び煮沸密着性が良好なプラスチックレンズを得ることができる。
実施例20から明らかなように、本発明のプライマー組成物を用いてプライマーコート層を形成し、その上にフォトクロミックコート層を積層させたレンズ上に、さらに本発明のプライマー組成物を用いてプライマー層を形成し、ハードコート層を積層させた場合には、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性、及び耐衝撃性が良好なプラスチックレンズを得ることができる。
【符号の説明】
【0119】
1 光学基材
1’ 光学基材(プラスチックレンズ)
2 プライマーコート層
2’ プライマーコート層
3 ハードコート層
4 フォトクロミックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(「A成分」)、(B)分子量が100〜4000のポリエチレングリコール(「B成分」)、(C)無機酸化物微粒子(「C成分」)、(D)水(「D成分」)、及び(E)水溶性有機溶媒(「E成分」)を含み、A成分100質量部当たり、B成分1〜100質量部、C成分10〜200質量部、D成分150〜2000質量部及びE成分150〜800質量部であることを特徴とする光学物品用プライマー組成物。
【請求項2】
A成分が、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂の水分散体として使用される請求項1記載の光学物品用プライマー組成物。
【請求項3】
光学基材上に、請求項1又は請求項2記載の光学物品用プライマー組成物を塗布、硬化させて得られたプライマーコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項4】
光学基材がフォトクロミック光学基材である請求項3記載の光学物品。
【請求項5】
フォトクロミック光学基材が、光学基材上に、フォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を塗布し、硬化させることによって得られたフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層上に、請求項1又は2記載の光学物品用プライマー組成物からなるプライマーコート層を有する請求項4に記載の光学物品。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の光学物品のプライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を塗布し、硬化させることによって得られたハードコート層を有することを特徴とする積層体。
【請求項7】
光学基材上に、請求項1又は請求項2記載の光学物品用プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、前記プライマーコート層上に、さらに、フォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られたフォトクロミックコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項8】
請求項7に記載の光学物品のフォトクロミックコート層上に、さらに、請求項1又は請求項2記載のプライマー組成物から得られたプライマーコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項9】
請求項8に記載の光学物品のフォトクロミックコート層上の前記プライマーコート層上に、さらに、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むハードコート組成物を硬化させて得られるハードコート層を有することを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219619(P2011−219619A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90191(P2010−90191)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】