説明

光学物品用プライマー組成物及び光学物品

【課題】 光学基材上に、優れた外観、密着性を有し、光学基材の耐擦傷性、耐衝撃性を改善するプラーマーコート層を形成でき、それ自体、優れた保存安定性を有する光学物品用プライマー組成物であって、ハードコート層用及びフォトクロミックコート層用のプライマーコート層を形成するための両方の用途で使用されるプライマー組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、特定の伸び率を有するウレタン樹脂、(B)分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒及び(C)水を含み、A成分100質量部に対して、B成分が5〜100質量部、C成分が150〜550質量部であり、質量比(B成分/C成分)が0.01以上、0.20以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート由来の骨格を有するウレタン樹脂を含んでなる新規な光学物品用プライマー組成物、及びプラスチックレンズ(光学基材)の表面上において前記プライマー組成物を硬化させることによって形成されたプライマーコート層を含む新規な光学物品に関する。本発明は、光学基材の表面上の前記プライマーコート層の上に、さらに、無機酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物を含んでなるハードコート組成物を硬化させることによって形成されたハードコート層を有する新規な光学物品(積層体)に関する。さらに、本発明は、光学基材の表面上に形成された前記プライマーコート層の上に、フォトクロミック性を有するフォトクロミックコート層が形成されてなる新規な光学物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズの表面は、レンズを形成する合成樹脂の耐擦傷性が低いため、そのままでは傷つき易く、通常は、レンズ表面にハードコート層が形成されている。一般に、ハードコート層を積層する場合、耐擦傷性は改善されるものの、プラスチックレンズの耐衝撃性が低下することが知られている。さらに、プラスチックレンズ表面からの反射光を抑制するために、前記ハードコート層上には、無機酸化物を蒸着することによって、反射防止コート層が積層されている。しかし、ハードコート層に加えて、反射防止コート層を積層する場合には、得られるプラスチックンズの耐衝撃性は、より一層低下し、より割れ易くなることが知られている。そのため、このような耐衝撃性を向上させることを目的として、一般に、プラスチックレンズとハードコート層との間に、プライマーコート層を介在させることが検討されてきた。
【0003】
このようなプラスチックレンズ用のプライマー組成物としては、ウレタン樹脂を用いたものが一般的に知られている(特許文献1及び2参照)。
しかし、これらのウレタン樹脂を含んでなるプライマー組成物は、達成される密着性が、プラスチックレンズを構成する合成樹脂(レンズ基材)の種類によって左右され、密着性が十分ではない場合を生ずる。さらに、一般的なハードコート層によって達成されるよりも、さらに高い耐擦傷性を得るために、より高硬度のハードコート層を積層しても、耐衝撃性が十分に向上しないという問題点があった。
【0004】
例えば、特許文献1に記載されているアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコール類、ポリ(アルキレンアジペート)類、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリブタジエングリコール類、ポリ(アルキレンカーボネート)類又はシリコーンポリオールから選ばれる活性水素含有化合物とポリイソシアネートとから得られるポリウレタン樹脂を含んでなるプライマー組成物を使用した場合には、レンズ基材の種類によっては、密着性が十分ではない場合があった。また、高温でプライマーコート層を硬化させるために、耐熱性が低いプラスチックレンズでは、熱変形や、着色等が問題となる場合があった。さらに、プライマー組成物がトルエンなどの有機溶媒を含有するため、プラスチックレンズを溶解する、作業環境に臭気を発生させる等の問題もあった。
【0005】
また、特許文献2に記載されている、多官能性イソシアネートと、アニオン性ジオール、ポリエーテルジオール及びポリエステルジオールからなる群から選ばれるポリオールとの縮合によって生成されるポリウレタンの水性分散液からなるプライマー組成物を使用する場合には、レンズ基材の種類によっては、密着性が十分ではない場合があった。さらに、より高硬度のハードコート層を積層する際には、耐衝撃性が十分に向上しない場合があった。
【0006】
近年、プラスチックレンズの耐衝撃性を改良するプライマー組成物としては、環境問題の点から、ウレタン樹脂の水分散体が使用されている。しかし、水分散体を使用する場合には、プラスチックレンズに対するぬれ性が低く、レンズ表面に形成される塗膜の平滑性等の外観についての問題があった。このような問題の解消に当り、プライマー組成物のぬれ性を向上させ、塗膜の平滑性を向上させるために、有機溶媒を添加することが行われているが、形成されるプライマー組成物自体の保存安定性が低下するなど、新たな問題が生じている。
【0007】
一方、プラスチックレンズ等の光学製品においては、レンズにフォトクロミック特性を持たせるために、光学基材の表面に、フォトクロミック化合物を含んでなるフォトクロミックコーティング層を形成することが行われている。このフォトクロミックコーティング層とは、プラスチックレンズ上に、フォトクロミック化合物及び重合性単量体を含むフォトクロミックコーティング剤を塗布した後、硬化させることにより形成される(以下、このようなフォトクロミックコート層を形成する方法を、単に、「コーティング法」と表示する場合もある)。
【0008】
コーティング法においては、フォトクロミック化合物及び特定の重合性単量体を含むフォトクロミックコーティング剤を使用することにより、プラスチックレンズ上に、直接、フォトクロミックコート層を形成することができる。近年、フォトクロミックコート層とプラスチックレンズとの密着性をより高めるため、プラスチックレンズ上にプライマーコート層を設けた後、フォトクロミックコート層を形成する方法が採用されている。具体的には、フォトクロミックコート層用のプライマーコート層を形成するために、湿気硬化性ポリウレタン樹脂を含むプライマー組成物(特許文献3)又はウレタン樹脂エマルジョンを含むプライマー組成物(特許文献4)を使用することが知られている。しかし、これらのプライマー組成物では、プラスチックレンズとフォトクロミックコート層との密着性を高めることができるが、一方では、以下の課題もあった。
【0009】
すなわち、特許文献3に記載されている方法では、例えば、ポリカーボネートからなる光学基材にプライマーコート層を形成する場合、プライマー組成物を構成する溶媒が光学基材表面を過剰に溶解させることがあった。それを防止するためには、別途、光学基材の表面に、新たな防止用膜を形成しなければならず、操作性についての課題があった。
【0010】
また、特許文献4に記載されている方法では、この種のプライマー組成物の使用により、プラスチックレンズとフォトクロミックコート層との間の十分な密着性を達成することができる。しかし、形成されたプライマーコート層は、フォトクロミックコート層を有するプラスチックレンズの耐衝撃性を改善する効果については、必ずしも寄与することはなく、このようなプラスチックレンズの耐衝撃性を改善するための使用には、他の手段が必要である。このような課題は、プライマー組成物において使用するウレタン樹脂の構造によるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国特許第2956887号
【特許文献2】日本国特許第3269630号
【特許文献3】国際公開WO04/078476号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO08/001875号パンフレット
【0012】
上述のように、プラスチックレンズ表面にハードコート層又はフォトクロミックコート層を形成する際の、プラスチックレンズ表面とハードコート層又はフォトクロミックコート層との間にプライマーコート層を形成するために使用されるプライマー組成物であって、レンズ基材に左右されることなく、良好な密着性を提供すると共に、ハードコート層(場合により、さらに反射防止コート層を含む)が形成される場合だけでなく、フォトクロミックコート層が形成される場合にも使用でき、ハードコート層及び/又はフォトクロミックコート層を有するプラスチックレンズの耐衝撃性を向上させることができ、加えて、プラスチックレンズ表面に形成される塗膜の平滑性等の良好な外観を提供するプライマー組成物が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ハードコート層及び/又はフォトクロミックコート層を有する光学基材の耐衝撃性を向上させるだけでなく、塗膜(コート層)が均一な平滑性を有し、外観不良を生じることがなく、光学基材との密着性に優れ、さらには、それ自体の保存安定性に優れた、ハードコート層用及びフォトクロミックコート層用の両方の用途で使用できる光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【0014】
特に、本発明の目的は、光学基材上に、プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物の加水分解物より形成されるハードコート層を積層した場合に、優れた耐擦傷性、耐衝撃性を発揮する光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【0015】
さらに、本発明の目的は、光学基材上に、プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、フォトクロミックコート層を形成した場合に、光学基材とフォトクロミックコート層との良好な密着性を提供すると共に、優れた耐衝撃性をできる光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、得られる光学物品の外観を改善し、従来のものよりも優れた耐衝撃性、耐擦傷性、密着性等の性能を達成し、かつプライマー組成物自体の保存安定性を高めるためには、特定の溶媒を組み合わせ、かつ特定の構造(物性)を有するウレタン樹脂を使用する必要があることを見出し、本発明に至った。さらに、上記組み合わせのプライマー組成物は、レンズ基材と、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミックコート層との密着性及び耐衝撃性をも改善できることも見出し、本発明に至った。
【0017】
本発明の第1の目的は、
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(単に「A成分」と表記する)、
(B)分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒(単に「B成分」と表記する)、及び
(C)水(単に「C成分」と表記する)
を含む光学物品用プライマー組成物であって、A成分100質量部に対して、B成分が5〜100質量部、C成分が150〜1000質量部であり、質量比(B成分/C成分)(単に「質量比(B/C)」と表記する)が0.01以上、0.20以下であることを特徴とする光学物品用プライマー組成物を提供することにある。
【0018】
前記光学物品用プライマー組成物は、さらに、(D)分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒(単に「D成分」と表記する)を含み、質量比((B+D成分)/C成分)(単に「質量比((B+D)/C)」と表記する)が0.03以上、0.50以下である光学物品用プライマー組成物である。
前記光学物品用プライマー組成物において、A成分が、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂の水分散体であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の目的は、光学基材上に、前記光学物品用プライマー組成物を硬化させることによって得られたプライマーコート層を有する光学物品を提供することにある。
【0020】
第2の目的の光学物品において、前記光学基材がフォトクロミック光学基材であり、特に、フォトクロミック光学基材が、光学基材上において、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化させることによって得られたフォトクロミックコート層を有するものである場合に、優れた効果を発揮する。
【0021】
本発明の第3の目的は、光学基材上に形成された前記プライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させることによって得られたハードコート層を有する積層体を提供することにある。
【0022】
本発明の第4の目的は、光学基材上に形成された前記プライマーコート層上に、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化させることによって得られたフォトクロミックコート層を有する第一積層物品を提供することにある。
【0023】
本発明の第5の目的は、前記第一積層物品のフォトクロミックコート層上に、本発明のプライマー組成物から形成されたプライマーコート層を有する第二積層物品を提供することにある。
【0024】
本発明の第6の目的は、前記第二積層品のプライマーコート層上に、前記ハードコート層を形成した第三積層物品を提供することにある。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材(特に、プラスチックレンズ)とハードコート層との密着性を高めることができる。さらに、このハードコート層付き光学物品の耐衝撃性を向上させることができる。また、本発明の光学物品用プライマー組成物は、優れた保存安定性を有している。
本発明の光学物品用プライマー組成物を硬化させて得られるプライマーコート層を有する光学物品は、ハードコート層のみを積層した光学基材と比較して、優れた耐衝撃性を有し、ハードコート層の密着性が高い。しかも、本発明の光学物品用プライマー組成物を使用することにより、耐擦傷性、外観にも優れる高品質なハードコート層付き光学基材を得ることができる。
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材がフォトクロミック光学基材である場合に優れた効果を発揮する。中でも、フォトクロミック光学基材が、光学基材上にフォトクロミックコート層が形成されたものである場合に、特に優れた効果を発揮する。なお、この場合、フォトクロミックコート層上に、少なくとも光学物品用プライマー組成物より得られるプライマーコート層が形成される。
さらに、本発明の光学物品用プライマー組成物は、フォトクロミックコート層と光学基材との密着性を改善できる。このような用途に使用する場合には、光学基材上に、本発明のプライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、プライマーコート層上にフォトクロミックコート層を形成する。
以上のように、本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材とハードコート層との密着性、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性、及びフォトクロミックコート層とハードコート層との密着性を改善することができる。しかも、これら形態を有する光学物品の耐衝撃性をも改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の積層体を製造する一態様の工程図である。
【図2】本発明の積層体を製造する他の態様の工程図である。
【図3】本発明の第三積層体を製造する一態様の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳述する。
本発明による光学物品用プライマー組成物は、
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂、
(B)分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒、及び
(C)水
を含み、A成分100質量部に対して、B成分が5〜100質量部であり、C成分が150〜1000質量部であり、質量比(B/C)が0.01以上、0.20以下である。
なお、光学物品用プライマー組成物とは、プラスチックレンズのような光学基材上に塗布されるものであり、得られる光学物品の耐衝撃性を改善するものである。光学物品用プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、光学基材と下記に詳述するハードコート層又はフォトクロミックコート層との間に形成され、両者の密着性を高めることができる。特に、ハードコート層付き光学基材の耐衝撃性を改善することができる。
【0028】
本発明の光学物品用プライマー組成物の各成分について説明する。
ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(A成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(A成分)を含む。本発明のプライマー組成物は、ウレタン樹脂が水及び溶媒に分散した分散体であるが、その調製に当たって使用するウレタン樹脂の形状、性状は、特に制限される。中でも、プライマー組成物の調製のし易さ、ウレタン樹脂の入手のし易さを考慮すると、A成分のウレタン樹脂として、予め水に分散されたウレタン樹脂水分散体を用いて、プライマー組成物を製造することが好ましい。
A成分のウレタン樹脂は、ポリカーボネート由来の骨格を有するため、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとの反応物からなる。一般的に、ウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、ポリアルキレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテル・エステルポリオールなどが用いられているが、プラスチックレンズを構成する各種レンズ基材への密着性及び耐衝撃性を向上させる効果を考慮すると、ポリカーボネートポリオールを使用することが重要である。つまり、本発明においては、ポリカーボネート由来の骨格を有するウレタン樹脂を使用することにより、優れた効果を発揮できる。
ポリカーボネートポリオールとしては、公知のものを何ら制限なく使用することができるが、中でも、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)等のポリ(アルキレンカーボネート)類等が好適である。
【0029】
ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4-ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物;1,3,3-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-、2,4’-、又は2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート又はそれらの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシナネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物を挙げることができる。
【0030】
本発明で使用するウレタン樹脂は、前記ポリカーボネートポリオールと前記ポリイソシアネートとから構成されるが、その他、イオウ、又はハロゲン基を1種又は2種以上含むポリイソシアネート、ビュウレット、イソシアヌレート、アロファネート、カルボジイミドなどの変性体を含むものであってもよい。
【0031】
本発明で使用するウレタン樹脂は架橋構造を含むものが好ましい。分子鎖中に架橋構造を含むウレタン樹脂を用いることにより、プライマーコート層上に、ハードコート層を形成するためのコーティング組成物を塗布した際に、プライマーコート層の該コーティング組成物に対する耐溶出性を高めることができ、積層体の製造時間を短縮できる。また、得られた積層体は、外観が優れ、耐衝撃性の良好なものとなる。
【0032】
本発明のプライマー組成物におけるA成分のウレタン樹脂は、伸び率が200%以上、1000%以下であるものである。伸び率が200%未満の場合には、プライマーコート層を有する光学物品の耐衝撃性が不十分となる。これは、得られるプライマーコート層の柔軟性が低くなるためと考えられる。また、伸び率が1000%を超える場合には、得られる光学物品の性能が低下するため好ましくない。これは、得られるプライマーコート層が柔らかくなり過ぎるためと考えられる。特に、プライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させてハードコート層を形成する場合、ハードコート層の耐擦傷性が低下すると共に、得られる積層体(ハードコート層付き光学基材)の耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0033】
また、フォトクロミックコート層と光学基材との密着性を改善する用途(第一、第二、及び第三積層物品等を製造する用途)において、ウレタン樹脂の伸び率が上記範囲を満足しない場合には、十分に密着性を改善することができため好ましくない。
得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を考慮すると、ウレタン樹脂の伸び率は、好ましくは200%以上、1000%以下であり、より好ましくは250%以上、900%以下である。
【0034】
なお、ウレタン樹脂の伸び率は、以下の方法により測定した値である:
ウレタン樹脂が水に分散した水分散体を使用する場合の測定方法について説明する。先ず、ウレタン樹脂を含む水分散体を、乾燥後のウレタン樹脂の膜厚が約500μmになるように、シャーレ等の容器に取り分け、室温で24時間乾燥後、80℃で6時間、さらに120℃で20分間乾燥させ、ウレタン樹脂のフィルムを作製する。次いで、このウレタン樹脂フィルムを幅15mm、長さ200 mmの大きさに切断した後、中央部に50mm間隔で標点を記したサンプルを作製する。このサンプルを引っ張り試験機に取り付け、試験機のつかみの間隔を100 mmとし、200 mm/分の速さでサンプルを破断するまで引っ張ることで伸び率を測定する。測定温度は23℃である。なお、プライマー組成物に含まれるウレタン樹脂の伸び率も、上記方法に従い、ウレタン樹脂のフィルムを作製して測定することができる。
伸び率の計算方法は、下記の通りである。
伸び率(%)=((破断時の標点間距離−試験前の標点間距離)/(試験前の標点間距離))×100
【0035】
A成分のウレタン樹脂は、上記方法で測定される伸び率が200%以上、1000%以下であると同時に、100%モジュラスが1.5〜18N/mm2であることが好ましい。この100%モジュラスは、前記伸び率と同時に測定されるものであり、ウレタン樹脂フィルム(サンプル)が、試験前の長さ(試験前の標点間距離)の2倍(伸び率100%)になったときの応力を指す。ウレタン樹脂の100%モジュラスが上記範囲を満足することにより、得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を向上する。
【0036】
A成分のウレタン樹脂は、伸び率が上記範囲を満足すれば特に制限されるものではないが、ガラス転移点(Tg)が0℃未満であることが好ましく、−5℃以下であることがより好ましく、−10℃以下であることがさらに好ましい。Tgが0℃未満であるウレタン樹脂を使用することにより、光学物品、積層体、第一積層物品等の耐衝撃性、密着性をより改善することができる。また、ウレタン樹脂のTgの下限も、特に制限されるものではないが、ウレタン樹脂の生産性、得られる光学物品、積層体、第一積層物品等の性能を考慮すると、−100℃以上であることが好ましく、−70℃以上であることがより好ましく、−50℃以上であることがさらに好ましい。
【0037】
なお、上記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下の方法により測定した値である:
伸び率を測定したウレタン樹脂フィルムと同様のサンプルを使用する。SII社製動的粘弾性測定装置(DMS 5600)を用いて、測定サンプルのガラス転移温度を測定する。測定条件は、変形モード;引張り、昇温速度;5℃/分、測定周波数;10Hz、測定温度範囲;−100℃〜200℃である。なお、プライマー組成物に含まれるウレタン樹脂のTgも、上記方法に従い、ウレタン樹脂のフィルムを作製して測定することができる。
【0038】
前記の通り、本発明においては、プライマー組成物の製造のし易さを考慮すると、A成分のウレタン樹脂として、予め水分散体としたものを使用することが好ましい。水分散体を使用する場合、この水分散体におけるウレタン樹脂は、平均粒径が50nmを超え、140 nm以下であることが好ましい。平均粒径が140 nmを超える場合、光学基材へのぬれ性改良の目的で低級アルコールを添加した際に、プライマー組成物そのものの保存安定性が低下する傾向にある。これは、ウレタン樹脂が低級アルコールに対して膨潤し易いため、低級アルコールの添加により粘度が増加して、プライマー組成物が不安定になるためと考えられる。一方、平均粒径が50nm以下のものは、ウレタン樹脂の水分散体自体の製造が難しくなる。水分散体におけるウレタン樹脂の平均粒径が前記範囲を満足することにより、下記に詳述する有機溶媒と組み合わせた際、平滑性がよく、均一な塗膜(プライマーコート層)を形成でき、外観に優れる光学物品が得られるものと考えられる。また、上記平均粒径の範囲条件を満足するため、保存安定性が改善できるものと考えられる。
【0039】
水分散体におけるウレタン樹脂の平均粒径は、ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱粒度分布測定装置LS 230にて測定した値である。該装置を使用し、波長750 nmのレーザーを用いた光回折により、ウレタン樹脂の粒径を測定している。なお、本発明における平均粒径は、該方法により測定した体積平均値である。
【0040】
水分散体におけるウレタン樹脂の濃度(ウレタン樹脂固形分の濃度)は、使用する目的等に応じて適宜決定すればよいが、20〜60質量%であることが好ましい。この濃度を満足するウレタン樹脂の水分散体を使用する場合、取扱いが容易であり、得られるプライマー組成物におけるウレタン樹脂の濃度を容易に調節できる。
上記のような要件を満足するウレタン樹脂の水分散体は、市販のものを使用することができる。具体的には、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス」シリーズ、日華化学株式会社製「ネオステッカー」、「エバファノール」シリーズ、DIC株式会社製「ハイドラン」シリーズ等が例示される。
【0041】
分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7個の有機溶媒(B成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、分子内に少なくとも2つの水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒(B成分)を含む。
B成分は、プライマー組成物の光学基材へのぬれ性を向上させ、ハジキを抑制する効果を発揮させるものである。
好適なB成分を例示すれば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジオール、トリメチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、ヘキシレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキシレングリコール、ペンタエリスリトール、1,5-ペンタンジオールグリセリン、グリセリンモノアセタート等が挙げられる。中でも、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましい。
また、B成分は、ぬれ性の向上、ハジキの抑制、さらに、得られるプライマーコート層への残留性を考慮すると、沸点が110〜220℃であることが好ましい。
【0042】
A成分に対するB成分の質量割合
本発明によれば、B成分は、A成分100質量部に対して、5〜100質量部の質量割合で使用される。5質量部未満の場合には、プライマー組成物のレンズ基材(特に、プラスチック)に対するぬれ性が低下し、ハジキ等の不良が発生する。一方、100質量部以上の場合には、形成されるプライマー層の外観に液垂れ等の不良が発生したり、プライマー層の乾燥性が低下し、耐衝撃性、耐擦傷性が低下するため好ましくない。
プライマー組成物のぬれ性を改善し、外観が良好なプライマーコート層を形成し、耐衝撃性、耐擦傷性の低下を起こさないためには、A成分100質量部に対するB成分の質量割合は、より好ましくは20〜70質量部であり、さらに好ましくは20〜50質量部である。
【0043】
水(C成分)
本発明の光学物品用プライマー組成物は水(C成分)を含むものである。
水(C成分)には、該プライマー組成物を調製する際、ウレタン樹脂(A成分)の水分散体を使用する場合、水分散体において分散媒と使用されている水も含まれる。
C成分を使用することによって、プライマー組成物の保存安定性が向上され、作業環境が改善される。
【0044】
A成分に対するC成分の質量割合
本発明によれば、C成分は、A成分100質量部に対して、150〜1000質量部の質量割合で使用される。150質量部未満に場合には、プライマー組成物の保存安定性が低下するため好ましくない。一方、1000質量部より大の場合には、形成されるプライマー層の外観にハジキ等の不良が発生するため好ましくない。
プライマー組成物の保存安定性を改善し、外観が良好なプライマーコート層を形成し、耐衝撃性、耐擦傷性の低下を起こさないためには、A成分に対するC成分の質量割合は、より好ましくは250〜600質量部であり、さらに好ましくは350〜600質量部である。
フォトクロミックコート層を積層する際のプライマー組成物として使用する場合(第一積層物品の製造に使用する場合)には、所定の膜厚を有する平滑なプライマーコート層を形成すためには、C成分(水)の配合量は、A成分100質量部に対して、好ましくは150〜300質量部であり、さらに好ましく200〜250質量部である。
【0045】
B成分とC成分の質量比(B/C)
本発明のプライマー組成物におけるB成分とC成分との質量比(B/C)は、が0.01以上、0.20以下である。質量比(B成分/C成分)を、単に「質量比(B/C)」と表示することがある。質量比(B/C)が0.01未満である場合には、プライマー組成物の光学基材、特に、プラスチックに対するぬれ性が低下し、ハジキ等の不良が発生する。一方、質量比(B/C)が0.20より大である場合には、形成されるプライマーコート層の平滑性が保てず、液垂れ等の外観不良が発生し、プライマー組成物自体の保存安定性も低下する。プライマー組成物自体の保存安定性を保ち、外観が良好なプライマーコート層を形成するためには、質量比(B/C)は、好ましくは0.03〜0.15であり、より好ましくは0.04〜0.12である。
【0046】
プライマー組成物は、A成分、B成分及びC成分を公知の方法で混合することにより製造ができる。各成分を混合する順序は特に制限されるものではない。
本発明の光学物品プライマー組成物は優れた効果を発揮するが、さらに、より優れた効果を発揮するためには、A成分、B成分及びC成分以外に、さらに、D成分の分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒を配合することもできる。D成分について説明する。
【0047】
分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒を含む有機溶媒(D成分)
本発明による光学物品用プライマー組成物は、A成分、B成分及びC成分に加えて、分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒(D成分)を含有できる。
D成分を配合することにより、得られるプライマーコート層は、より平滑であり、膜厚の均一性が向上される。
好適なD成分を例示すれば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジオキサンなどのエーテル類;ジアセトンアルコールなどのケトン類等が挙げられる。中でも、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましい。これら有機溶媒は、単独で又は2種類以上の混合物として使用される。
【0048】
B成分とD成分との和に対するC成分の質量比((B+D)/C)
本発明によるプライマー組成物において、D成分を添加する場合、D成分は、B成分とD成分の和とC成分との質量比((B成分+D成分)/C:単に「質量比((B+D)/C)」と表示する)が0.03以上、0.50以下となる質量で使用される。形成されるプライマー層の平滑性及び膜厚の均一性、プライマー組成物自体の保存安定性を考慮すると、質量比((B+D)/C)は、好ましくは0.07〜0.40であり、より好ましくは0.10〜0.35である。
【0049】
その他の成分
本発明による光学物品用プライマー組成物には、得られるプライマーコート層の平滑性を向上させるという目的から、レベリング剤を添加することが好適である。レベリング剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できるが、好適なものを例示すれば、シリコン系、フッ素系、アクリル系、ビニル系等を挙げることができる。該レベリング剤は、プライマー組成物中に10〜10000 ppm、特に、50〜5000 ppmの量で存在するような量で添加される。
【0050】
本発明の光学物品用プライマー組成物の製造方法
本発明の光学物品用プライマー組成物は、A成分、B成分及びC成分を、必要であれば、これら成分に、D成分及びその他の成分を加えて混合することにより製造される。混合をより容易に実施するためには、A成分は、予め水に分散させたウレタン樹脂の水分散体の状態で使用することが好ましい。これら各成分を混合する順序は特に制限されるものではなく、公知の方法に従って混合を行う。
本発明のプライマー組成物は、各構成成分が上記の好ましい範囲を満足するような量的関係で混合することによって調製されるが、固形分の濃度が3〜30質量%となることが好ましい。中でも、耐衝撃性、耐擦傷性の向上を考慮すると、固形分濃度は、好ましくは5〜25質量%であり、さらに好ましくは7〜25質量%である。なお、この固形分濃度は、固形分を形成する物質がウレタン樹脂のみの場合は、ウレタン樹脂の濃度が固形分濃度となる。
光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善するためのプライマー組成物(第一積層物品用のプライマー組成物)では、プライマー組成物の固形分濃度は、好ましくは20〜30質量%である。この範囲を満足する場合、プライマーコート層の膜厚を調整し易く、得られる第一積層物品が優れた性能を発揮する。
なお、プライマー組成物の固形分濃度は、プライマー組成物の配合割合から換算することができ、また、プライマー組成物を濃縮、乾燥した後、秤量することによっても求められる。
【0051】
次に、本発明の光学物品用プライマー組成物を使用できる光学基材について説明する。
光学基材
本発明の上記光学物品用プライマー組成物は、光学基材、特に、プラスチックレンズの耐衝撃性を改善するために使用することができる。光学基材を形成する樹脂を例示すれば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル又はメタクリル(単に「(メタ)アクリル」と表示する)系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂及びチオエポキシ系樹脂等の基材を挙げることができる。これらの樹脂材は、レンズ基材としてプラスチックレンズの調製に好適に使用できる。
【0052】
フォトクロミック光学基材
本発明の光学物品用プライマー組成物は、中でも、(メタ)アクリル系樹脂との密着性がよく、特に、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂に対しての密着性がよい。このような(メタ)アクリル系樹脂は、自由空間が大きいため、フォトクロミック化合物を含有した場合、優れたフォトクロミック特性を有する(メタ)アクリル系樹脂(フォトクロミック材)となる。本発明の光学物品用プライマー組成物は、このようなフォトクロミック材に好適に使用できる。
さらに、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂は、上記の通り、自由空間が大きいため、フォトクロミック化合物を多く含むこともできる。そのため、該組成物にフォトクロミック化合物を加えたフォトクロミック硬化性組成物をコーティングし、フォトクロミックコート層を形成した光学基材に対しても、本発明のプライマー組成物は好適に使用することができる。また、本発明のプライマー組成物は、その表面上にフォトクロミック硬化性組成物をそのまま硬化させて得られる光学基材(フォトクロミック光学基材)にも適用できる。
なお、以下の説明では、前記フォトクロミック硬化性組成物を、使用法に応じて、2種類に分ける。光学基材上に、フォトクロミック硬化性組成物を塗布し、硬化させることによって、フォトクロミックコート層を形成する場合の該硬化性組成物を「フォトクロミックコーティング剤」とする。また、フォトクロミック硬化性組成物を、そのまま硬化させて光学基材を形成する場合の該硬化性組成物を、「キャスト用フォトクロミック硬化性組成物」とする。
【0053】
3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートを具体的に例示すれば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートが挙げられる。また、繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートとしては、平均分子量536のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量736のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量536のポリプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量258のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量308のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量272のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、平均分子量536のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、2,2-ビス[4-メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-アクリロキシ(ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
また、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物には、他の重合性単量体を加えてもよく、たとえば、グリシジルメタクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリレートを加えることもできる。
このような重合性単量体とフォトクロミック化合物とを組み合わせることにより、フォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物を得ることができる。
なお、上記フォトクロミック化合物は、特に制限されるものではなく、公知の化合物を使用することができる。例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、国際公開WO94/22850号パンフレット、国際公開WO96/14596号パンフレット、国際公開WO01/60811号パンフレット、米国特許4913544号公報、及び米国特許5623005号公報などに記載されているフォトクロミック化合物を使用することができる。また、使用するフォトクロミック化合物の量は、フォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物の用途に応じて適宜決定される。
【0054】
次に、これらフォトクロミックコーティング剤又はキャスト用硬化性組成物を使用したフォトクロミック光学基材について説明する。
キャスト用硬化性組成物から形成したフォトクロミック光学基材
このフォトクロミック光学基材は、公知の方法で製造される。キャスト用硬化性組成物に、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等の添加剤を加えることもできる。このようなキャスト用硬化性組成物を、例えば、所望の光学基材の形状に適合する形状の凹部を有する鋳型に注入し、公知の方法で硬化させることにより、フォトクロミック光学基材を製造することができる。
【0055】
フォトクロミックコーティング剤を使用して調製されるフォトクロミック光学基材
このフォトクロミック光学基材も、公知の方法に従って製造される、フォトクロミックコーティング剤に、必要に応じて、シリコン系、フッ素系の界面活性剤(レベリング剤)、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等の添加剤を加えることもできる。
光学基材は、プライマーコート層を持たない、又は公知のプライマー組成物、例えば、特許文献3に記載されているような湿気硬化型ウレタン樹脂より形成されるプライマー層を有していてもよい。
フォトクロミックコーティング剤から形成されるフォトクロミックコート層は、例えば、プライマーコート層が形成されている光学基材上に、フォトクロミックコーティング組成物を塗布し、硬化させることによって形成される。硬化の方法は特に限定されないが、光重合開始剤が配合されているフォトクロミックコーティング剤を用いて、紫外線等の光を照射し硬化させる方法が好適に使用できる。
紫外線等の光照射により硬化させる場合には、公知の光源を何ら制限なく使用することができ、光照射時間はフォトクロミックコート層の膜厚等により適宜決定される。
フォトクロミックコーティング剤を、プライマーコート層が形成されている光学基材上に塗布する場合、特に前処理を行う必要はなく、プライマーコート層を硬化(乾燥)させ、冷却した後、フォトクロミックコーティング組成物を塗膜すればよい。
フォトクロミックコーティング剤を、プライマーコート層が形成された光学基材に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられる。中でも、塗膜の均一性の観点から、スピンコーティングを採用することが好ましい。
【0056】
次に、光学基材上に、本発明の光学物品用プライマー組成物により形成されるプライマーコート層について説明する。
プライマーコート層の形成方法
本発明の光学物品用プライマー組成物を光学基材上に塗布し、該プライマー組成物を硬化(乾燥)させることによって、光学基材上に形成されたプライマーコート層を有する光学物品を製造することができる。
本発明の光学物品用プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、光学基材、特に、プラスチックレンズの光学特性を低下させることがない。そのため、プライマーコート層が積層されたプラスチックレンズは、そのままで光学物品としても使用することができる。さらに、プライマーコート層上で、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させることによってハードコート層を積層することにより、優れた耐衝撃性と耐擦傷性とを有する光学物品(積層体)とすることもできる。
本発明の光学物品用プライマー組成物を光学基材上に塗布するに当たり、密着性を向上させることを目的として、光学基材の表面を前処理しておくことが好ましい。前処理としては、有機溶剤による脱脂処理、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理又はUVオゾン処理等を挙げることができる。中でも、光学基材とプライマーコート層との密着性を向上させる観点から、有機溶剤による脱脂処理、アルカリ処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理又はUVオゾン処理、或いはこれらを組み合わせた処理を行なうのが好適である。
光学物品用プライマー組成物を光学基材に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティング等の方法が挙げられる。中でも、生産性、塗膜の均一性の観点から、ディップコーティングを採用することが好ましい。
【0057】
上記方法により光学基材上に塗布された光学物品用プライマー組成物は、最終的に、その中に含まれる溶剤が除去される。塗布終了後、光学基材上のプライマー組成物を加熱し、溶剤を除去して、プライマーコート層を形成させることが好ましい。加熱温度は、特に限定されないが、加熱による光学基材の変形、変色を防止するという観点から、室温〜120℃、特に、室温〜100℃の範囲であることが好適である。加熱時間は、特に限定されないが、通常、1分〜1時間の範囲であり、生産性の観点から20分以下であることが特に好適である。
本発明の光学物品用プライマー組成物は、上述のとおり、光学物品の耐衝撃性を改良する用途と、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善する用途の両方の用途を有する。プライマー組成物から形成されるプライマーコート層は、各用途によって、好適な厚みが異なる。先ず、耐衝撃性を改良する用途に使用する場合について説明する。
【0058】
耐衝撃性改良の用途に使用するプライマーコート層(光学物品の製造)
光学物品の耐衝撃性を改良する用途の場合には、上述のように、光学基材上に、本発明の光学物品用プライマー組成物からプライマーコート層を形成し、次いで、該プライマーコート層上に、下記に詳述するハードコート層を形成する。
この光学物品を製造する際の工程図を、図1、図2に示した。これらの図を参照すると、光学基材1上に、本発明のプライマー組成物を塗布し、乾燥させることによって、プライマーコート層2を形成する。光学基材として、フォトクロミック光学基材1'(光学基材上にフォトクロミックコート層4が形成されたもの)を使用する場合には、光学物品は、図2のような方法で製造される。この場合には、フォトクロミックコート層4上に、本発明の光学物品用プライマー組成物を上記方法に従って塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2を形成する。
このようにして製造された光学物品には、通常、プライマーコート層2上に、さらに、ハードコート層3が形成される。このような光学物品の場合、プライマーコート層2の膜厚は、0.1μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。プライマーコート層の膜厚が上記範囲を満足することにより、耐衝撃性が向上すると共に、ハードコート層3を形成することによって、耐擦傷性の低下、クラック発生などの問題を低減できる。
【0059】
光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を改善する用途に使用するプライマーコート層(第一積層物品及び第二積層物品の製造)
本発明の光学物品用プライマー組成物は、光学基材とフォトクロミックコート層との密着性を高めることもできる。
この用途で本発明のプライマー組成物を使用して得られる第一積層物品の製造工程の概略を図3に示した。図3を参照すると、光学基材1上に、本発明のプライマー組成物を上述の方法に従って塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2’を形成する(光学物品を製造する)。次いで、上記フォトクロミック光学基材で説明したフォトクロミックコーティング剤を該プライマーコート層2’上に塗布し、フォトクロミック光学基材を製造する方法と同様の方法でフォトクロミックコーティング層4を形成する(第一積層物品を製造する)。
この際、プライマーコート層2’の厚みは、好ましく0.5μm以上、20.0μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以上、15.0μm以下である。
第一積層物品は、光学基材とフォトクロミックコート層との間の優れた密着性を有すると共に、フォトクロミックコート層を形成したことによる耐衝撃性の低下に伴うクラック発生などの問題が低減されている。
また、光学基材としては、上述のキャスト用硬化性組成物から形成したフォトクロミック光学基材を使用できるが、色調の調整を容易にするためには、フォトクロミック化合物を含まない光学基材を使用することが好ましい。フォトクロミックコート層4の厚みは、特に制限されるものではないが、優れた効果を発揮するためには10〜80μmであることが好ましい。
上述のようにして得られた第一積層物品は、そのまま使用することもできるが、眼鏡レンズ用途に使用する場合には、さらに耐衝撃性を改善するために、プライマーコート層を形成することが好ましい。このような態様の積層物品(第二積層物品)の製造工程を図3に示した。
【0060】
図3を参照すると、この第二積層物品では、第一積層物品のフォトクロミックコート層4上に、さらに、本発明のプライマー組成物を塗布し、乾燥させることにより、プライマーコート層2を形成している。この場合、プライマーコート層2の厚みは、耐衝撃性を改善するためには、0.1μm以上、5.0μm以下であることが好ましい。
上述のとおり、プライマーコート層2が形成された第二積層物品は、それ自体を眼鏡レンズ等に使用することもできるが、より好ましくは、プライマーコート層2上に、さらに、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層3を形成することが好ましい(第三積層物品)。
【0061】
次に、ハードコート層について説明する。
ハードコート層用のコーティング組成物
本発明によれば、プライマーコート層上において、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させることによって形成されるハードコート層を、さらに、積層させることができる。ハードコート層の形成に使用される無機酸化物微粒子としては、前述のシリカゾル及び複合無機酸化物微粒子を何ら制限なく使用することができる。無機酸化物微粒子の配合量は、無機酸化物の種類、最終的に得られるハードコート層について望まれる物性、目的に応じて、適宜、決定されるが、一般的には、最終的に形成されるハードコート層に占める無機酸化物微粒子の割合が20〜80質量%、特に40〜60質量%となるような決定される。なお、ハードコート層の質量は、コーティング組成物を120℃で3時間加熱した後に残った固体成分の質量を秤量することにより求めることができる。
【0062】
加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、無機酸化物粒子のバインダーとしての機能を有し、ハードコート層中でマトリックスとなる透明な硬化体を形成するものであり、重合可能な有機ケイ素化合物が使用される。有機ケイ素化合物は、官能基であるアルコキシル基を有するものであり、前述の公知の加水分解性基含有有機ケイ素化合物を何ら制限無く使用できる。有機ケイ素化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。有機ケイ素化合物は、その少なくとも一部が加水分解した形、又はその部分加水分解物が縮合した部分縮合物の形で使用に供される。本発明では、特にプラスチックレンズとの密着性、架橋性の観点から、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシラン又はこれらの部分加水分解物、又は部分縮合物等が好適に使用される。
本発明によれば、加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、ハードコート層のクラックを防止し、コーティング組成物の保存安定性の低下を防止するために、無機酸化物微粒子100質量部当り、50〜500質量部、特に60〜400質量部の量で使用され、特に好ましくは、70〜300質量部の量で使用される。また、無機酸化物微粒子との合計で、15〜50質量%、好適には20〜40質量%となる量でコーティング組成物中に存在するように使用される。ここに記載した加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、含有するアルコキシ基が加水分解されていない状態のものである。
【0063】
ハードコート層形成用のコーティング組成物では、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解し、この加水分解物が無機酸化物微粒子を取り込んだ形で重合硬化(重縮合)して、マトリックスとなる硬化体を形成し、無機酸化物微粒子が緻密にマトリックス中に分散したハードコート層を形成する。硬化体形成のための加水分解性基含有有機ケイ素化合物の加水分解を促進させるために、水の配合が必要となる。
このような水の量は、無機酸化物微粒子と加水分解性基含有有機ケイ素化合物との合計質量100質量部当り、20〜80質量部、好ましくは20〜65質量部、さらに好ましくは20〜60質量部である。水の量が少な過ぎると、加水分解性基含有有機ケイ素化合物に含まれるアルコキシ基の加水分解が十分に進行せず、得られるハードコート層の硬度、コーティング組成物の保存安定等の特性が低下するおそれがあり、必要以上に多すぎると、均一な厚みのハードコート膜の形成が困難となり、ハードコート膜が形成された光学基材の光学特性に悪影響を与えるおそれがある。
【0064】
使用される水は酸水溶液の形で添加されても構わず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸を水溶液の形で添加することができる。中でも、コーティング組成物の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸及び酢酸水溶液が好適に使用される。酸水溶液の濃度は、0.001〜0.5N、特に0.01〜0.1Nであることが好適である。尚、既に述べた通り、無機酸化物微粒子は、水に分散させた分散液(ゾル)の形態で使用されることがある。従って、ハードコート層用コーティング組成物中に存在する水の量は、無機酸化物微粒子の分散液及び酸水溶液に含まれる水の量の合計として上記範囲となるように調整される。例えば、無機酸化物微粒子の分散液に含まれる水の量が、上述した水量の範囲を満足している場合には、さらに水を添加する必要はなく、また上述した水量の範囲に満たない場合には、さらに水を添加することが必要である。
【0065】
ハードコート層用のコーティング組成物には、上述した加水分解性基含有有機ケイ素化合物の加水分解物の重合硬化を促進させるために、硬化触媒を配合することもできる。硬化触媒は、それ自体公知のもの、例えば、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩、有機金属塩、各種ルイス酸が使用され、これらは単独で又は2種以上を混合して使用される。
アセチルアセトナート錯体の具体的に例示すれば、アルミニウムアセチルアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、インジウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、ニッケルアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。これらの中では、アルミニウムアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナートが好適である。
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等を例示することができる。
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛等を例示することができる。
ルイス酸としては、塩化第二スズ、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等を例示することができる。
ハードコート層用のコーティング組成物においては、比較的低温でも短時間で耐擦傷性の高いハードコート膜が得られるという観点から、アセチルアセトナート錯体が特に好適であり、重合触媒の50質量%以上、特に70質量%以上、最適には重合触媒の全量がアセチルアセトナート錯体であるのがよい。
【0066】
上述した硬化触媒は、硬い硬化膜を得るという観点から、前記加水分解性基含有有機ケイ素化合物100質量部当たり、1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部の範囲の量で使用される。
ハードコート層用のコーティング組成物には、有機溶媒を配合することもできる。有機溶媒は加水分解性基含有有機ケイ素化合物の溶剤となり、無機酸化物微粒子の分散媒となるものであるが、このような機能を有していると同時に、揮発性を有するものであれば、公知の有機溶媒が使用できる。このような有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等の低級カルボン酸の低級アルコールエステル類;セロソルブ、ジオキサン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類;メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。これら有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用される。中でも、任意的に添加される水との相溶性を有し、コーティング組成物の硬化の際に、容易に蒸発し、平滑なハードコート膜が形成されるという観点から、特にメタノール、イソプロパノール、t-ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、アセチルアセトンを使用するのが好ましい。また、このような有機溶媒の一部は、先に述べたように、無機酸化物微粒子の分散媒として、予め該無機酸化物微粒子と混合しておくこともできる。
有機溶媒の使用量は特に限定されないが、保存安定性と十分な耐擦傷性を得るために、通常、合計量が、加水分解性基含有有機ケイ素化合物100質量部当たり、100〜2500質量部、特に140〜1500質量部の範囲であることが好ましい。また、ここで記載する有機溶剤の使用量は、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解される際に生じるアルコールの量を考慮したものではなく、加水分解性基含有有機ケイ素化合物が加水分解されていない場合の使用量である。
ハードコート層を形成するためのコーティング組成物は、上記成分を公知の方法により混合で製造できる。中でも、加水分解性基含有有機ケイ素化合物は、完全に加水分解させた後に、他の成分と混合することが好ましい。
【0067】
ハードコート層の形成方法(積層体及び第三積層物品の製造)
本発明によれば、プライマーコート層が形成された光学物品又は第二積層物品に、上記コーティング組成物よりなるハードコート層を形成することができる(積層体及び第三積層物品を製造することができる)。
図1及び図2に、光学物品のプライマーコート層2上に、ハードコート層3を形成する場合の工程図を示した(積層体の製造工程)。図3に、第二積層物品のプライマーコート層2上に、ハードコート層3を形成する場合の工程図を示した(第三積層物品の製造工程)。
本発明によれば、ハードコート層3は、光学物品又は第二積層物品のプライマーコート層2上に、コーティング組成物を塗布し、乾燥・硬化させることによって、形成することができる。ハードコート層3を設けることにより、優れた耐衝撃性及び耐擦傷性を有する光学物品を作製することができる。
ハードコート層用のコーティング組成物を、光学物品又は第二積層物品に形成されたプライマーコート層2上に塗布するに当たり、特に前処理を行う必要はなく、プライマーコート層2を硬化(乾燥)させ、冷却した後、コーティング組成物を塗布すればよい。
コーティング組成物をプライマーコート層2上に塗布する方法は、特に制限されるものではなく、ディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられる。中でも、生産性、塗膜の均一性の観点から、ディップコーティングを採用することが好ましい。
【0068】
プライマーコート層2上に塗布されたコーティング組成物を熱処理して、最終的に、コーティング組成物中に含まれる溶剤を除去(乾燥)させる必要がある。塗布されたコーティング組成物の塗膜を加熱し、溶剤を除去して、ハードコート層3を形成させることが好ましい。加熱温度は特に限定されないが、密着性、耐擦傷性及び加熱による光学基材の変形、変色の防止の観点から、90〜130℃、特に90〜110℃の範囲であることが好適である。加熱時間は、特に限定されないが、通常1時間〜5時間の範囲であり、生産性の観点から1時間〜3時間であることが特に好適である。
このようにして形成されたハードコート層3の膜厚は、1.0μm以上、4.0μm以下であることが好ましい。ハードコート層の膜厚が上記範囲を満足することにより、耐衝撃性及び耐擦傷性に優れる積層体が得られる。
中でも、本発明の光学物品用プライマー組成物は、耐衝撃性の改良効果が高いため、下記に詳述するベイヤー値が5.0以上、好ましくは5.5以上を満足する硬いハードコート層を形成する積層体に好適に適用できる。
【0069】
その他の層
本発明によれば、ハードコート層用のコーティング組成物からなるハードコート層を有する積層体及び第三積層物品には、さらに必要に応じて、ハードコート層上に、SiO2、TiO2、ZrO2等の無機酸化物からなる薄膜の蒸着、有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0070】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例で使用する各成分、プラスチックレンズ(光学基材)の詳細を示す。
プラスチックレンズ(直径70mm、厚み2.0mm):
レンズA(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)
レンズB(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)
レンズC(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.67)
レンズD(ポリカーボネート樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.59)
以上の市販のプラスチックレンズを使用した。
フォトクロミック光学基材
レンズE(メタクリル系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)
レンズF(プラスチックレンズ表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層(フォトクロミックコート層)を有するレンズ)
【0072】
レンズEの作製方法:
ラジカル重合性単量体である平均分子量328のポリプロピレングリコールジメタクリレート43質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート10質量部、平均分子量394のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート5質量部、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート16質量部、グリシジルメタクリレート1質量部、α-メチルスチレンダイマー1質量部、ウレタンアクリレート(ダイセル化学工業製EBECRYL 4858)25質量部を原料とする重合性単量体組成物を調製し、この重合性単量体組成物100質量部に対し、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート0.1重量部、下記の構造式で表されるフォトクロミック化合物(1)0.03重量部、ラジカル重合開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカネート1.0重量部及び2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1重量部を添加し、均質になるまで混合して、フォトクロミック重合硬化性組成物を調製した。次いで、得られた組成物を、ガラス板とエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるガスケットとで構成された鋳型の中に注入して、注型重合を行った。重合には空気炉を用い、33℃から90℃まで17時間かけて徐々に昇温した後、90℃で2時間保持した。重合終了後、鋳型を空気炉から取り出し、放冷後、硬化体を鋳型のガラスから取り外し、その後、オーブンに入れ、110℃で3時間加熱した。このように調製したプラスチックレンズ(フォトクロミック光学基材)も、直径70mm、厚み2.0mmを有するものである。
フォトクロミック化合物(1)
【化1】

【0073】
レンズF(レンズ表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層(フォトクロミックコート層)を有するレンズ)の作製方法:
ラジカル重合性単量体である平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン/平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート/グリシジルメタクリレートを、それぞれ、40質量部/15質量部/25質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合した。次に、このラジカル重合性単量体混合物100質量部に対して、下記構造式で表されるフォトクロミック化合物(2)3質量部を加え、70℃で30分間の超音波溶解を実施した。その後、得られた組成物に重合開始剤であるCGI 1870(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドとの重量比3:7混合物)0.35質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート5質量部、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]3質量部、シランカップリング剤であるγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7質量部及びレベリング剤である東レ・ダウコーニング株式会社製シリコン系界面活性剤L-70010.1質量部を添加し、均質になるまで混合して、フォトクロミック硬化性組成物(「フォトクロミックコーティング剤」)を調製した。
フォトクロミック化合物(2)
【化2】

【0074】
光学基材として、厚さ2.0mmのレンズB(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)を使用し、レンズをアセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理し、4分間流水洗浄し、40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、プライマーコート液として、竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー「タケシールPFR 402TP-4」及び酢酸エチルを、それぞれ50質量部ずつで混合し、さらに、この混合液に対して、東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤FZ-2104 0.03質量部を添加し、窒素雰囲気下で、均一になるまで充分に撹拌することによって調製した液を使用した。このプライマー液を、MIKASA製スピンコーター 1H-DX-2を用いて、レンズB表面にスピンコートした。レンズを室温において15分間放置して、膜厚7μmのプライマー層を有するレンズ基材を作製した。
次いで、上述のフォトクロミックコーティング剤約1gを、作製したプライマー層を有するレンズ基材の表面にスピンコートした。フォトクロミックコーティング剤の塗膜により表面がコートされたレンズに、窒素ガス雰囲気中で、レンズ表面の405 nmにおける出力が150 mW/cm2になるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを用いて、3分間、光照射し、塗膜を硬化させた。その後、さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行い、フォトクロミックコート層を有するレンズFを得た。得られるフォトクロミックコート層の膜厚は、スピンコートの条件によって調整が可能であるが、フォトクロミックコート層の膜厚を40±1μmとなるように調整した。
【0075】
A成分:ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(ウレタン樹脂の水分散体として)
U1:エバファノールHA-50C(日華化学株式会社製;平均粒径80nm;伸び率450%;Tg −30℃;100%モジュラス7N/mm2;固形分(ウレタン樹脂)濃度約35質量%;水約65質量%;ポリカーボネート由来の骨格含有;架橋性)
U2:エバファノールHA-107C(日華化学株式会社製;平均粒径120 nm;伸び率900%;Tg −30℃;100%モジュラス2N/mm2;固形分(ウレタン樹脂)濃度約40質量%;水約60質量%;ポリカーボネート由来の骨格含有;架橋性)
U3:ハイドランWLS-213(DIC株式会社製;平均粒径120 nm;伸び率400%;Tg−35℃;100%モジュラス6N/mm2;固形分(ウレタン樹脂)濃度約35質量%;水約65質量%;ポリカーボネート由来の骨格含有;非架橋性)
U4:スーパーフレックス420(第一工業製薬株式会社製;平均粒径120 nm;伸び率280%;Tg −20℃;100%モジュラス15N/mm2;固形分(ウレタン樹脂)濃度約32質量%;水約65質量%;ポリカーボネート由来の骨格含有;架橋性)
A成分を含有しないウレタン樹脂水分散体
U5:ネオレッツR-9603(楠本化成株式会社から入手;平均粒径70nm;伸び率10%;Tg −10℃;固形分(ウレタン樹脂)濃度約33質量%;水約53質量%;ポリカーボネート由来の骨格含有;非架橋性)
U6:スーパーフレックス150(第一工業製薬株式会社製;平均粒径150 nm;伸び率330%;Tg 30℃;固形分(ウレタン樹脂)濃度約30質量%;ポリエステル・エーテル由来の骨格含有;架橋性)
【0076】
B成分:分子内に少なくとも2つの水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒
エチレングリコール(沸点:198℃)
プロピレングリコール(沸点:187℃)
D成分:分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒
DAA:ジアセトンアルコール(沸点169℃)
EG1:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点144℃)
EG2:エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(沸点170℃)
EG3:エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)
EG4:エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル(沸点152℃)
PG1:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)。
【0077】
ハードコート層用のコーティング組成物の調製方法
ハードコート組成物1の調製
有機ケイ素化合物として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン104.0g、テトラエトキシシラン41.0g、有機溶媒として、t-ブチルアルコール100.0g、アセチルアセトン22.5g、メタノール75.8g、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル17.0g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L-7001」)0.5gを混合した。この液に、撹拌しながら、水45.0g及び水分散シリカゾル(日産化学工業株式会社製、商品名「スノーテックスO-40」)90.0gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)4.2gを混合し、1時間撹拌して、ハードコート組成物1を調製した。ハードコート組成物1のベイヤー値は6.0であった。
【0078】
ハードコート組成物2の調製
有機ケイ素化合物として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン58.8g、メチルトリエトキシシラン47.3g、有機溶媒として、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル47.5g、アセチルアセトン25.2g、t-ブチルアルコール82.8g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L-7001」)0.25gを混合した。この液に、撹拌しながら、0.05 N塩酸25g、0.1Nテトラメチルアンモニウムクロライドメタノール溶液13.9g、メタノール分散シリカゾル198.0g、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)1.4gを順に加え、40℃で48時間攪拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III) 0.59gを混合し、ハードコート組成物2を調製した。ハードコート組成物のベイヤー値は4.0であった。
【0079】
ハードコート組成物3の調製
有機ケイ素化合物として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン77.9g、テトラエトキシシラン23.5g、有機溶媒として、t-ブチルアルコール30.8g、ジアセトンアルコール82.0g、メタノール20.0g、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L-7001」)0.3gを混合した。この液に、撹拌しながら、水52.0g及び0.05 N塩酸26gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(III)5.0gを混合し、1時間撹拌させた。次いで、酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.6質量%、酸化アンチモン7.0質量%、二酸化ケイ素3.7質量%を含む複合無機酸化物微粒子のメタノール分散ゾル(固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度)40質量%)182gを加え、さらに24時間撹拌して、ハードコート組成物2を調製した。ハードコート組成物2のベイヤー値は5.8であった。
【0080】
ベイヤー値の評価法
アルカリ処理を施したレンズA(CR 39)上にハードコート組成物をコーティングし、110℃で2時間硬化させることで、2.5μmの膜厚を有するプラスチックレンズを得た。このプラスチックレンズを、下記の方法により評価してベイヤー値を算出した。ハードコート基材のベイヤー耐擦傷性を試験する場合、一般的にベイヤー試験法(ASTM D-4060又はASTM F735-81)を用いることができる。ベイヤー試験法においては、ついた傷をハードコート基材のHazeとして測定するため、分光計を用いてHazeを測定し、下記式を用いてベイヤー値を表す方法が一般的である。一般的にベイヤー値は、4以上で硬く、8以上であれば、ガラスに匹敵するベイヤー耐擦傷性を持つと評価できる。
ベイヤー値=ΔHaze(ノンコート)/ΔHaze(ハードコート)
なお、上記式においてΔHaze(ノンコート)は、ノンコートレンズにおける試験後のHaze値から試験前のHaze値を引いた値を意味し、ΔHaze(ハードコート)は、ハードコートレンズにおける試験後のHaze値から試験前のHaze値を引いた値を意味する。
ハードコート組成物の硬化体のベイヤー耐擦傷性を測定するために使用した試験法は、直径50mmの穴2つを持つ研磨剤保持体に、2つのレンズを穴の下方から凸面を上に装着し、研磨剤として、SAINT-GOBAIN CERAMIC MATERIALS CANADA INC.から市販されているABRASIVE(アルミナ-ジルコニアからなる研磨剤)500gを使用し、研磨剤保持体に入れ、レンズの振動により、レンズ表面を研磨剤で擦ることによるものである。試験の標準としてCRノンコートレンズと、試験サンプルとしてCRハードコートレンズの2組で、毎分150ストロークの振動数で、合計2分間、4インチのストロークにて、レンズ上を研磨剤で研磨した。レンズ上に発生した傷を、(株)スガ試験機製Hazeメーターにて、ハードコートを施さないレンズ(ノンコートレンズ)及びハードコートを施したレンズ(ハードコートレンズ)について、それぞれ、試験前後のHaze値を測定し、上記式に基づいてベイヤー値を求めた。
[実施例1〜8]
【0081】
プライマー組成物P1の調製
A成分としてウレタン樹脂水分散体U1(エバファノールHA-50C)286g(分散媒として水186gを含む)、B成分の有機溶媒としてエレングリコール33g、C成分の水282g(組成物全体として、C成分は、ウレタン樹脂水分散体に分散媒として含まれる水と合わせて468gである)、D成分としてジアセトンアルコール66g及びシリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「ST 103」)1.3gを混合し、室温にて1時間撹拌し、表1に示す組成を有するプライマー組成物P1を得た。得られたプライマー組成物P1は、使用したウレタン樹脂水分散体に含まれる水と混合した水とが、B成分、D成分と混和して単一相を形成し、この単一相を分散媒として、ウレタン樹脂が分散しているものと考えられる。なお、以下の実施例、比較例で調製した全てのプライマー組成物は、このプライマー組成物P1と同じく、水が有機溶媒と混和して単一相を形成し、この単一相を分散媒として、ウレタン樹脂が分散しているものと考えられる。
プライマー組成物P1は、15℃において、6ヶ月間安定であった。プライマー組成物の安定性については、調製したプライマー組成物を15℃で保管し、液及びコーティング後の物性が、初期と比較して、同等あるか否かで評価した。
【0082】
プライマーコート層及びハードコート層の形成(積層体の製造)
光学基材としてレンズA(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を使用し、レンズAをアセトンで十分に脱脂し、50℃に加熱した5質量%水酸化ナトリウム水溶液で5分間超音波洗浄した。次いで、引き上げ速度5cm/分でのディップコーティングにて、レンズA表面にプライマー組成物P1を塗布し、70℃において5分間乾燥させることによって、膜厚1.0μmを有するプライマーコート層を形成した(光学物品の製造)。次いで、この光学物品を室温まで冷却した後、引き上げ速度15cm/分でのディップコーティングによって、光学物品上にハードコート組成物1を塗布し、110℃において2時間硬化させることによって、膜厚1.0μmのプライマーコート層及び膜厚3.0μmのハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を得た(実施例1)。
同様にして、光学基材として、レンズB(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)、レンズC(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.67)、レンズD(ポリカーボネート樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.59)、レンズE(メタクリル系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)及びレンズF(プラスチックレンズ表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層(フォトクロミックコート層)を有するレンズ)を使用し、プライマー組成物P1及びハードコート組成物1を使用し、上記方法と同様にして、膜厚1.0μmのプライマーコート層及び膜厚3.0μmのハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を得た(実施例2〜6)。
さらに、同様にして、光学基材として、レンズA(アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)及びレンズE(メタクリル系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)を使用し、プライマー組成物P1及びハードコート組成物2を使用して、膜厚0.7μmのプライマーコート層及び膜厚3.0μmのハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を得た(実施例7〜8)。
プライマーコート層及びハードコート層を有する各プラスチックレンズについて、下記(1)〜(5)の特性を評価した。その結果を表2にまとめた。
【0083】
評価項目
(1)外観
プライマーコート層及びハードコート層を有するプラスチックレンズの外観の評価は、これらコート層を有するプラスチックレンズに高圧水銀ランプの光を照射して、白紙上に投影面を写し出し、目視観察して行った。評価の基準は下記のとおりである:
◎:コート膜の不均一性が認められない
○:特に問題はないが、5枚中1枚以上に1本以下のスジ状の不良が観察される
●:特に問題はないが、5枚中1枚以上に2〜3本程度のスジ状の不良が観察される
△:5枚中3枚以上に4〜9本程度のスジ状の不良が観察される
×:10本以上のスジ状の不良、はじき模様のいずれか、もしくは複合的に認められ、
明らかに外観不良である
【0084】
(2)スチールウール耐擦傷性
スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用い、1kg及び3kgの荷重で、プラスチックレンズ表面を10往復擦り、傷ついた程度を目視評価した。評価の基準は下記のとおりである:
A:ほとんど傷が付かない(目視で5本未満の擦傷である)
B:極わずかに傷が付く(目視で5本以上10本未満の擦傷がある)
C:少し傷が付く(目視で10本以上20未満の擦傷がある)
D:はっきりと傷が付く(目視で20以上の擦傷がある)
E:ハードコート層の剥離が生じている
【0085】
(3)密着性
プライマーコート層及びハードコート層のプラスチックレンズに対する密着性を、JIS D-0202に準じて、クロスカットテープ試験によって評価した。すなわち、カッターナイフを使い、ハードコート層表面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り、剥離した後、ハードコート層が残っているマス目を測定した。
【0086】
(4)煮沸密着性
沸騰した蒸留水中に、試験片であるプラスチックレンズを1時間毎に浸漬した後、プラスチックレンズを取り出し、水滴を拭き取り、室温において1時間放置した後、上述の(3)密着性の評価法と同様にして、密着性を評価した。密着性を保持しているプラスチックレンズに関しては、煮沸時間が合計5時間になるまで試験を実施した。(3)密着性の評価法と同様に、残っているマス目を測定した。
【0087】
(5)耐衝撃性
16g、32g、50g、80g、95g、112g、138g、151g、174g、198g、225gの各鋼球を、軽い質量の鋼球から順に、127 cmの高さから試験対象のプラスチックレンズの中心部に落下させ、プラスチックレンズが割れるか、否かを評価した。評価結果は、プラスチックレンズが割れなかった最大鋼球の質量で表した。
[実施例9〜34]
【0088】
プライマー組成物P2〜P27の調製
表1に示すウレタン樹脂(A成分)、有機溶媒(B成分及びD成分)を使用し、実施例1〜8に記載のプライマー組成物P1の調製法と同様して、各プライマー組成物P2〜P27を調製した。各プライマー組成物の保存安定性を表1に示す。
積層体の製造及び評価
調製したプライマー組成物P2〜27、ハードコート組成物1又は2、レンズA〜Dを使用して、上述の実施例1〜8に記載の方法と同様にして、それぞれ、プライマーコート層(表2に示す厚さを有する)及びハードコート層(膜厚3.0μm)を有するプラスチックレンズ(積層体)を作製し、その評価を行った。なお、A成分として、ウレタン樹脂U3を用いたプライマー組成物P6に関しては、110℃において30分間乾燥させることによってプライマー層を形成した。評価結果を表2に示した。
[比較例1〜5]
【0089】
プライマー樹脂組成物P28〜P32の調製
ウレタン樹脂(本発明のプライマー組成物におけるA成分に相当する)、有機溶媒(B成分及びD成分に相当する)及び水(C成分に相当する)を使用して、表1に示す組成を有するプライマー組成物P28〜P32を、プライマー組成物P1と同様な方法で調製した。
積層体の製造及び評価
調製したプライマー組成物P28〜P32、ハードコート組成物1又は2、レンズA、E、Fを使用して、上述の実施例1〜8に記載の方法と同様にして、膜厚1.0μmのプライマーコート層及び膜厚3.0μmのハードコート層を有するプラスチックレンズ(積層体)を得た。なお、A成分として、ウレタン樹脂U3を用いたプライマー組成物P32に関しては、110℃において30分間乾燥させることによってプライマー層を形成した。評価結果を表2に示した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2−1】

【表2−2】

【0092】
上記実施例1〜34から明らかなように、本発明に従って、ポリカーボネート由来の骨格を有するウレタン樹脂(A成分)、分子内に少なくとも2つの水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒(B成分)、水(C成分)及び分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒(D成分)を好適な比率で用いた場合には、得られるプライマー組成物は保存安定性を有すると共に、プライマー組成物を光学基材上にレンズコーティングすることによって、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性及び耐衝撃性が良好な積層体を得ることができる。
一方、比較例1〜5に示すようなプライマー組成物を用いた場合には、保存安定性、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性及び耐衝撃性の内の少なくとも1つ以上の物性が不十分であった。
[実施例35]
【0093】
プライマー組成物P33の調製
A成分としてウレタン樹脂水分散体U1(エバファノールHA-50C)286g(分散媒として水186gを含む)、B成分の有機溶媒としてエレングリコール20g、C成分の水54g(組成物全体として、C成分は、ウレタン樹脂水分散体に分散媒として含まれる水と合わせて240gである)、D成分としてジアセトンアルコール40gを使用し、実施例1〜8に記載のプライマー組成物P1の調製法と同様して、表3に示す組成を有するプライマー組成物P33を調製した。プライマー組成物33の保存安定性を表3に示す。
第一積層物品の製造及び評価
光学基材としてレンズB(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)を使用し、レンズBをアセトンで十分に脱脂し、50℃に加熱した10質量%水酸化ナトリウム水溶液で5分間超音波洗浄した。次いで、MIKASA製スピンコーター 1H-DX2を使用して、レンズBの表面にプライマー組成物P33をスピンコートした。レンズBを70℃において10分間硬化(乾燥)することによって、膜厚7μmのプライマーコート層を有する光学物品を得た。
次いで、上述のレンズFの作製法の項において調製したフォトクロミック硬化性組成物約1gを、前記プライマーコート層を有するレンズ(光学物品)の表面にスピンコートした。レンズ表面の405 nmにおける出力が150 mW/cm2になるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを使用し、フォトクロミックコーティング剤の塗膜によって表面がコートされたレンズBに、窒素ガス雰囲気中で、3分間、光照射して、塗膜を硬化させた。その後、さらに、110℃の恒温器において、1時間加熱処理を行い、フォトクロミックコート層を有するレンズ(第一積層体)を得た。フォトクロミックコート層の膜厚はスピンコートの操作条件によって調整が可能であるが、フォトクロミックコート層の膜厚を40±1μmとした。
得られたプライマーコート層及びフォトクロミックコート層を有するプラスチックレンズBについて、実施例1〜8に記載の項目(1)、(3)及び(4)に示す各特性を評価した。その結果、得られたプラスチックレンズBは、外観:◎、密着性:100/100、煮沸密着性(5時間):100/100を有していた。結果を表4にまとめた。
[実施例36〜38]
【0094】
プライマー組成物P34〜P36の調製
表3に示すウレタン樹脂(A成分)、有機溶媒(B成分及びD成分)を使用し、実施例1〜8に記載のプライマー組成物P1の調製法と同様して、各プライマー組成物P34〜P36を調製した。各プライマー組成物の保存安定性を表3に示す。
第一積層物品の製造及び評価
調製したプライマー組成物P34〜P36を使用して、上述の実施例35に記載の方法と同様にして、それぞれ、プライマーコート層及びフォトクロミックコート層を有するレンズ(第一積層体)を作製し、その評価を行った。評価結果を表4に示した。
[実施例39〜42]
【0095】
実施例35〜38で得られたレンズ(第一積層物品)、実施例1〜8において調製したプライマー組成物1及びハードコート組成物1を使用して、各第一積層物品の上に、実施例1〜8に記載の方法と同様して、プライマー組成物1からなるプライマーコート層を形成し、さらに、このプライマーコート層の上にハードコート組成物1からなるハードコート層を形成して、レンズ表面上に、順に、プライマーコート層、フォトクロミックコート層、プライマーコート層及びハードコート層を有するレンズ(第三積層物品)を作製した。
【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
実施例35〜38の結果から理解されるように、本発明のプライマー組成物を用いてプライマー層を形成し、その上にフォトクロミックコート層を積層させる場合には、外観、密着性及び煮沸密着性が良好なプラスチックレンズを得ることができる。
実施例39〜42の結果から理解されるように、本発明のプライマー組成物を用いてプライマー層を形成し、その上にフォトクロミックコート層を積層させたレンズ上に、さらに、本発明のプライマー組成物を用いてプライマー層を形成し、加えて、ハードコート層を積層させる場合には、外観、密着性、煮沸密着性、耐擦傷性及び耐衝撃性が良好なプラスチックレンズを得ることができる。
【符号の説明】
【0099】
(1) 光学基材
(1’) 光学基材
(2) プライマーコート層
(2’) プライマーコート層
(3) ハードコート層
(4) フォトクロミックコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂(「A成分」)、(B)分子内に2個以上の水酸基を有する炭素数2〜7の有機溶媒(「B成分」)及び(C)水(「C成分」)を含み、A成分100質量部に対して、B成分が5〜100質量部、C成分が150〜1000質量部であり、質量比(B成分/C成分)が0.01以上、0.20以下であることを特徴とする光学物品用プライマー組成物。
【請求項2】
さらに、(D)分子内にエーテル結合又はカルボニル結合を有し、かつ分子内に1つの水酸基を有する炭素数3〜9の有機溶媒(「D成分」)を含み、質量比((B成分+D成分)/C成分)が0.03以上、0.50以下である請求項1記載の光学物品用プライマー組成物。
【請求項3】
A成分が、ポリカーボネート由来の骨格を有し、伸び率が200%以上、1000%以下であるウレタン樹脂の水分散体として使用される請求項1又は2記載の光学物品用プライマー組成物。
【請求項4】
光学基材上に、請求項1〜3のいずれかに記載の光学物品用プライマー組成物を硬化させて得られたプライマーコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項5】
光学基材がフォトクロミック光学基材である請求項4記載の光学物品。
【請求項6】
フォトクロミック光学基材が、光学基材上に、フォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層上にプライマーコート層を有する請求項5に記載の光学物品。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の光学物品のプライマーコート層上に、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層を有することを特徴とする積層体。
【請求項8】
光学基材上に、請求項1〜3のいずれかに記載の光学物品用プライマー組成物より得られたプライマーコート層を形成し、前記プライマーコート層上に、さらに、フォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られたフォトクロミックコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項9】
請求項8に記載の光学物品のフォトクロミックコート層上に、さらに、請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー組成物から得られたプライマーコート層を有することを特徴とする光学物品。
【請求項10】
請求項9に記載の光学物品のフォトクロミックコート層上の前記プライマーコート層上に、さらに、無機酸化物微粒子及び加水分解性基含有有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層を有することを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75929(P2013−75929A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23588(P2010−23588)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】