説明

光学特性測定装置および光学特性測定方法

【課題】本発明は、取得したスペクトルから基板上に形成した膜の複数の測定点に対する光学定数を唯一の値として求めることができる光学特性測定装置および光学特性測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、光源10と、検出器40と、データ処理部50とを備えている。データ処理部50は、モデル化部と、解析部と、フィッティング部とを備えている。複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一であるとして所定の演算を行ない、算出した膜の膜厚および光学定数を膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40で取得した波長分布特性の波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一で、解析部で算出した膜の膜厚および光学定数が正しい値であることを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性測定装置および光学特性測定方法に関し、基板上に形成した膜の膜厚および光学定数(屈折率n、消衰係数k)を求めることができる光学特性測定装置および光学特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置やフラットパネルディスプレイを製造する際、基板上に複数の膜を形成する必要がある。形成した膜の膜厚および光学定数を測定するためには、たとえば、特許文献1(特開2000−65536号公報)に開示してある反射分光膜厚計を用いる。反射分光膜厚計は、白色光源から出射した光を、ハーフミラーにより反射して、レンズにより基板で照射させる。さらに、反射分光膜厚計は、基板からの反射光を、レンズを通して、ハーフミラーを通過させて分光器に導き、分光器で分光された後、CCDなどの撮像素子を使用した検出器でスペクトルを検出する。反射分光膜厚計は、検出したスペクトルを処理することで、膜の膜厚および光学定数を測定することができる。
【0003】
また、たとえば、特許文献2(特開2004−138519号公報)に開示してある分光エリプソメータを用いて、形成した膜の膜厚および光学定数を測定することもできる。分光エリプソメータは、光源ユニットから偏光光を基板に向けて出射し、基板からの反射光を受光ユニットで受光して反射光の偏光状態のスペクトルを取得して、形成した膜の膜厚および光学定数を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−65536号公報
【特許文献2】特開2004−138519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示してある分光膜厚計や、特許文献2に開示してある分光エリプソメータで取得したスペクトルのみから膜の複数の測定点に対する唯一の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を求めるには、必要な情報が不足しており、取得したスペクトルから光学定数を唯一の値として求めることができなかった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、取得したスペクトルから基板上に形成した膜の複数の測定点に対する光学定数を唯一の値として求めることができる光学特性測定装置および光学特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面に従う光学特性測定装置は、光源と、分光測定部と、モデル化部と、解析部と、フィッティング部とを備える。光源は、基板上に少なくとも1層の膜を形成した被測定物に対して所定の波長範囲をもつ測定光を照射する。分光測定部は、被測定物で反射された光または被測定物を透過した光に基づいて、反射強度または透過強度の波長分布特性を取得する。モデル化部は、同一材料の膜から複数の波長分布特性を取得し、取得した各々の波長分布特性から算出するパラメータと、膜の膜厚および光学定数とを少なくとも含む複数の膜モデル式を生成する。解析部は、モデル化部で生成した複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一であるとして所定の演算を行ない、膜の膜厚および光学定数を算出する。フィッティング部は、解析部で算出した膜の膜厚および光学定数を膜モデル式に代入して得られる波形と、分光測定部で取得した波長分布特性の波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一で、解析部で算出した膜の膜厚および光学定数が正しい値であることを判定する。
【0008】
好ましくは、解析部は、所定の演算に非線形最小二乗法を用いる。
好ましくは、波長分布特性から算出するパラメータは、膜の反射率または透過率である。
【0009】
好ましくは、分光測定部は、被測定物で反射された光に基づいて、偏光反射強度の波長分布特性を取得し、波長分布特性から算出するパラメータは、位相差Δおよび振幅比Ψである。
【0010】
好ましくは、モデル化部は、膜の裏面反射係数寄与率をさらに含む膜モデル式を生成する。
【0011】
本発明の別の局面に従う光学特性測定方法は、基板上に少なくとも1層の膜を形成した被測定物に対して所定の波長範囲をもつ測定光を照射し、被測定物で反射された光または被測定物を透過した光に基づいて、反射強度または透過強度の波長分布特性を、同一材料の膜から複数取得する。さらに、光学特性測定方法は、取得した各々の波長分布特性から算出するパラメータと、膜の光学定数とを含む複数の膜モデル式を生成し、生成した複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一であるとして所定の演算を行ない、膜の膜厚および光学定数を算出する。そして、光学特性測定方法は、算出した膜の膜厚および光学定数を膜モデル式に代入して得られる波形と、取得した波長分布特性の波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一で、算出した膜の膜厚および光学定数が正しい値であることを判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、取得したスペクトルから基板上に形成した膜の複数の測定点に対する光学定数を唯一の値として求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に従うデータ処理部の概略のハードウェア構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1に従うデータ処理部の演算処理構造を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置が測定対象とする試料の断面模式図の一例である。
【図5】試料と膜の膜厚dおよび光学定数n,kとの関係を模式的に示した図である。
【図6】本発明の実施の形態1に従う光学特性測定方法に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図7】従来の光学特性測定装置で試料を測定して得られた結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置で試料を測定して得られた結果を示すグラフである。
【図9】測定点ごとに光学定数n,kが異なる試料を測定して得られた結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置で金属薄膜を形成した試料を測定して得られた結果を示すグラフである。
【図11】光学特性測定装置で測定する試料の層構成を示した概略図である。
【図12】本発明の実施の形態2に従う光学特性測定装置の概略構成図である。
【図13】本発明の実施の形態2に従う光学特性測定方法に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図14】本発明に従う光学特性測定装置で評価する残差ΔYと、各試料の残差との関係を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明を繰返さない。
【0015】
(実施の形態1)
<装置構成>
図1は、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置100の概略構成図である。
【0016】
本実施の形態1に従う光学特性測定装置100は、顕微分光膜厚計であり、代表的に、単層または積層構造の被測定物(試料)における各層の膜厚を測定することが可能である。なお、本実施の形態1に従う光学特性測定装置100は、顕微分光膜厚計に限定されるものではなく、マクロ分光膜厚計であってもよい。また、マクロ分光膜厚は、反射率を測定する構成に限定されるものではなく、光源からの光を角度を付けて試料に入射して反射率を測定する構成や、透過率を測定する構成であっても良い。
【0017】
具体的には、光学特性測定装置100は、試料に光を照射し、当該試料で反射された反射光の波長分布特性(以下「スペクトル」とも称す。)に基づいて、試料を構成する膜の膜厚および光学定数(屈折率n、消衰係数k)を測定可能である。なお、反射光のスペクトルに代えて、試料を透過した光のスペクトル(透過光のスペクトル)を用いてもよい。
【0018】
本明細書では、試料として、基板上に少なくとも1層の膜を形成したものを対象とする場合について例示する。試料の具体的な一例としては、Si基板、ガラス基板、サファイア基板などの基板に、樹脂薄膜を形成してあるような積層構造の基板などである。
【0019】
図1を参照して、光学特性測定装置100は、測定用光源10、ビームスプリッタ20、対物レンズ30、検出器40、データ処理部50、観察用カメラ60、ステージ70を備える。試料は、ステージ70上にセットしてある。
【0020】
測定用光源10は、試料の反射率スペクトルを取得するために、所定の波長範囲をもつ測定光を発生する光源であり、紫外帯域は重水素ランプ(190nm〜450nm)や可視近赤外帯域はハロゲンランプ(400nm〜2000nm)や紫外可視帯域はキセノンランプ(300nm〜800nm)などが用いられる。測定用光源10としては、代表的に紫外から近赤外までの波長を発生可能な重水素ランプとハロゲンランプを組み合わせた混合光源が用いられる。
【0021】
ビームスプリッタ20は、測定用光源10で生成される測定光を反射することで、その伝播方向を図面下向きに変換する。また、ビームスプリッタ20は、図面上向きに伝播する試料からの反射光を透過させる。試料に所定のレチクル像が投射されるように、フォーカス合せ用レチクルのマスク(図示せず)を、測定用光源10からビームスプリッタ20までの光路に設けてある。レチクル像は、その表面に何らの模様(パターン)も形成されていない試料(代表的に、透明なガラス基板など)に対しても、ユーザによる焦点合わせを容易化するためのものである。なお、レチクル像の形状はいずれであってもよいが、一例として同心円状や十字状のパターンなどを用いることができる。
【0022】
対物レンズ30は、図面下向きに伝播する測定光を集光するための集光光学系である。すなわち、対物レンズ30は、試料またはその近接した位置で結像するように測定光を収束させる。また、対物レンズ30は、所定の倍率(たとえば、10倍,20倍,30倍,40倍など)を有する拡大レンズであり、試料の光学特性を測定する領域を対物レンズ30に入射する光のビーム断面に比較してより微小化できる。
【0023】
また、対物レンズ30から試料に入射した測定光および観察光は、試料で反射され、図面上向きに伝播する。この反射光は、対物レンズ30に透過した後、ビームスプリッタ20を透過して検出器40まで到達する。
【0024】
検出器40は、分光測定器であり、ビームスプリッタ20を透過した反射光から反射率スペクトルを測定し、その測定結果をデータ処理部50へ出力する。より詳細には、検出器40は、図示していないが、スリットと、回折格子(グレーティング)と、検出素子と、カットフィルタと、シャッタとを含む。
【0025】
スリットと、カットフィルタと、シャッタと、回折格子とは、反射光の光軸上に配置される。スリットは、ビームスプリッタ20を透過して検出器40に入射する反射光の面積を制限するために使用される。これにより回折格子に入射する反射光の面積が制限され、各波長成分への分解精度を上げることができる。カットフィルタは、ビームスプリッタ20を透過して検出器40に入射する反射光に含まれる測定範囲外の波長成分を制限するための光学フィルタであり、特に測定範囲外の波長成分を遮断する。シャッタは、検出素子をリセットするときなどに、検出素子に入射する光を遮断するために使用される。シャッタは、代表的に電磁力によって駆動する機械式のシャッタからなる。
【0026】
回折格子は、入射する反射光を分光した上で、各分光波を検出素子へ導く。具体的には、回折格子は、反射型の回折格子であり、所定の波長間隔毎の回折波が対応する各方向に反射するように構成される。このような構成を有する回折格子に反射波が入射すると、含まれる各波長成分は対応する方向に反射されて、検出素子の所定の検出領域に入射する。なお、この波長間隔が検出器40における波長分解能に相当する。回折格子は、代表的にフラットフォーカス型球面グレーティングからなる。
【0027】
検出素子は、試料の反射率スペクトルを測定するために、回折格子で分光された反射光に含まれる各波長成分の光強度に応じた電気信号を出力する。検出素子は、紫外可視領域に感度をもつフォトダイオードアレイなどからなる。
【0028】
データ処理部50は、検出器40によって取得された反射率スペクトルに対して、本発明に係る特徴的な処理を行うことで、試料を構成する膜の膜厚および光学定数を測定する。なお、データ処理部50の処理の詳細については後述する。そして、データ処理部50は、測定した試料を構成する膜の膜厚をはじめとする光学特性を出力する。
【0029】
一方、ビームスプリッタ20を透過した反射光の一部が観察用カメラ60へ入射する。観察用カメラ60は、反射光によって得られる反射像を取得する撮像部であり、代表的にはCCD(Charged Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどからなる。なお、観察用カメラ60は、代表的に可視帯域に感度をもつものであり、所定の測定範囲に感度をもつ検出器40とは異なる感度特性をもつ場合が多い。そして、観察用カメラ60は、反射光によって得られる反射像に応じた映像信号を表示部(図示せず)へ出力する。表示部は、観察用カメラ60からの映像信号に基づいて反射像を画面上に表示する。ユーザは、この表示部に表示される反射像を目視して、試料に対する焦点合わせや測定位置の確認などを行なう。表示部は、代表的に液晶ディスプレイ(LCD)などからなる。なお、観察用カメラ60および表示部に代えて、ユーザが反射像を直接的に目視できるファインダーを設けてもよい。
【0030】
ステージ70は、試料を配置するための試料台であり、その配置面は平坦に形成される。このステージ70は、一例として機械的に連結された可動機構(図示せず)によって、3方向(X方向・Y方向・Z方向)に自在に駆動される。可動機構は、代表的に3軸分のサーボモータと、各サーボモータを駆動するためのサーボドライバとを含んで構成される。そして、可動機構は、ユーザまたは図示しない制御装置などからのステージ位置指令に応答してステージ70を駆動する。このステージ70の駆動によって、試料と後述する対物レンズ30との間の位置関係が変更される。
【0031】
<データ処理部の構成>
図2は、本発明の実施の形態1に従うデータ処理部50の概略のハードウェア構成を示す模式図である。
【0032】
図2を参照して、データ処理部50は、代表的にコンピュータによって実現され、オペレーティングシステム(OS:Operating System)を含む各種プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)200と、CPU200でのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するメモリ部212と、CPU200で実行されるプログラムを不揮発的に記憶するハードディスク部(HDD:Hard Disk Drive)210とを含む。また、ハードディスク部210には、後述するような処理を実現するためのプログラムが予め記憶されており、このようなプログラムは、フレキシブルディスクドライブ(FDD)216またはCD−ROMドライブ214によって、それぞれフレキシブルディスク216aまたはCD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)214aなどから読み取られる。
【0033】
CPU200は、キーボードやマウスなどからなる入力部208を介してユーザなどからの指示を受取るとともに、プログラムの実行によって測定される測定結果などをディスプレイ部204へ出力する。各部は、バス202を介して互いに接続される。
【0034】
<演算処理構造>
本実施の形態1に従うデータ処理部50が、試料を構成する膜の膜厚および光学定数を測定するために、検出器40によって取得された反射率スペクトルに対して行なう演算処理について説明する。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態1に従うデータ処理部50の演算処理構造を示すブロック図である。図3に示すブロック図は、CPU200がハードディスク部210などの予め格納されたプログラムをメモリ部212などに読み出して実行することで実現される。
【0036】
図3を参照して、データ処理部50(図1)は、モデル化部501と、解析部502、フィッティング部503とをその機能として含む。
【0037】
モデル化部501は、検出器40(図1)から出力される実測された反射率スペクトルR(λ)から試料に係るパラメータを算出し、算出したパラメータに基づいて、試料における膜モデル式(関数)を決定する。
【0038】
<演算処理の原理>
膜モデル式を説明する前に、まず、試料に測定光を照射した場合に観測される反射光について、数学的および物理的に検討を行う。
【0039】
図4は、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置100が測定対象とする試料の断面模式図の一例である。
【0040】
図4を参照して、試料OBJは、基板層上に薄膜層を形成した2層構造である。そして、光学特性測定装置100からの照射光は、図面上側から試料OBJに入射するものとする。すなわち、測定光は、最初に薄膜層へ入射するものとする。
【0041】
理解を容易にするために、試料OBJに入射した測定光が基板層と薄膜層との界面で反射して生じる反射光について考える。以下の説明では、添え字iを用いて各層を表現する。すなわち、空気や真空などの雰囲気層を添え字「0」、試料OBJの薄膜層を添え字「1」、基板層を添え字「2」とする。また、各層における複素屈折率N、膜厚d、入射角φにそれぞれ添え字iを用いて、複素屈折率N、膜厚d、入射角φと表す。
【0042】
図4に示す薄膜層に、入射角φで光が入射した場合、入射した光は、屈折率の異なる雰囲気層と薄膜層との界面、薄膜層と基板層との界面のそれぞれで反射し、薄膜層内で光が何度も往復し干渉をおこす。そのため、図4に示す薄膜層の反射率、透過率、位相差Δおよび振幅比Ψは、式(1)のように表せる。
【0043】
【数1】

【0044】
なお、Rは偏光のP成分の複素反射係数、Rは偏光のS成分の複素反射係数、Tは偏光のP成分の複素透過係数、Tは偏光のS成分の複素透過係数である。
【0045】
これらの複素反射係数R,Rおよび複素透過係数T,Tは、以下の計算により求めることができる。まず、複素屈折率Nは、屈折率nと消衰係数kとを用いて、式(2)のように表すことができる。
【0046】
【数2】

【0047】
屈折率の異なる界面では光の反射及び透過がおこり、屈折率の異なるi層と、i+1層の間の各界面において、偏光のP成分,S成分の振幅反射率(Fresnel係数)は、式(3)のように表せる。
【0048】
【数3】

【0049】
同様に、偏光のP成分,S成分の振幅透過率(Fresnel係数)は、式(4)のように表せる。
【0050】
【数4】

【0051】
入射角φは、以下のようなSnellの法則(Nsinφ=Nsinφ)によって、最上層の雰囲気層(0層)における入射角から計算できる。
【0052】
光が干渉可能な膜厚をもつ層内では、式(3)で表される反射率で反射する光が層内を何度も往復する。そのため、隣接する層との界面で直接反射した光と層内を多重反射した後の光との間ではその光路長が異なるため、位相が互いに異なったものとなり光の干渉が生じる。このような、各層内における光の干渉効果を示すために、i層の層内における光の位相角βを導入すると、式(5)のように表わすことができる。
【0053】
【数5】

【0054】
ここで、dはi層の膜厚を示し、λは入射光の波長を示す。
式(2)〜式(5)を用いて、雰囲気層、薄膜層、基板層の3層からなる試料OBJにおける偏光のP成分,S成分の複素反射係数R,Rは、式(6)と表わすことができる。
【0055】
【数6】

【0056】
ここで、γは裏面反射係数寄与率を示し、基板層のような厚い層の裏面側から光が反射してくる割合を表わす。なお、裏面反射係数寄与率を省略する場合、γ=1とすればよい。
【0057】
また、同様に、P成分,S成分の複素透過係数T,Tは、式(7)と表わすことができる。
【0058】
【数7】

【0059】
式(1)に、式(6)および式(7)を代入することで、反射率、透過率、位相差Δおよび振幅比Ψをそれぞれ膜モデル式として表わすことができる。
【0060】
以上のように、膜モデル式は、前述した入射角φ、入射光の波長λ、複素屈折率N、膜厚d、裏面反射係数寄与率γを用いて、反射率、透過率、位相差Δおよび振幅比Ψなどを表わす関係式である。
【0061】
さらに、光学特性測定装置100で算出する膜の光学定数(屈折率n,消衰係数k)については、Cauchyモデル、Forouhi-Bloomerモデル、EMAモデル、Lorentzモデル、Tauc-Lorentzモデル、Drudeモデルなど膜モデル式が知られている。
【0062】
具体的に、Cauchyモデルを用いて光学定数を表わした膜モデル式は、式(8)のように表わすことができる。
【0063】
【数8】

【0064】
ここで、C,C,Cは、膜モデル式の変数である。
また、Forouhi-Bloomerモデルを用いて光学定数を表わした膜モデル式は、式(9)のように表わすことができる。
【0065】
【数9】

【0066】
ここで、hはプランク定数、cは真空中での光の速度、g(E)はkの積分値、C,C,C,C,Cは、膜モデル式の変数である。なお、nを求める式は、式(10)に示すKramers-Kronigの関係式により積分することでkを求める式から導かれる。
【0067】
【数10】

【0068】
ここで、Pはコーシー積分の主値、ωは周波数である。
図3に戻って、モデル化部501は、測定点ごとに取得したスペクトルから、測定点ごとに膜モデル式を生成する。たとえば、1枚の基板から5点測定する場合や、5枚の基板のそれぞれに対して1点測定する場合、モデル化部501は、測定点ごとに取得した5つのスペクトルから、測定点ごとに5つの膜モデル式を生成する。
【0069】
次に、解析部502は、モデル化部501で生成した複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一であるとして非線形最小二乗法の演算を行ない、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出する。なお、非線形最小二乗法は、例示であって、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出することができる演算であれば他の演算方法であっても良い。
【0070】
非線形最小二乗法とは、測定したスペクトルデータYmと膜モデル式から算出したスペクトルデータYcの残差ΔYの二乗和が最小になるパラメータ(膜の膜厚dおよび光学定数n,k)を算出する方法である。実際の演算では、式(11)に示すように、行列式を解くことでパラメータの変化量を求めることができる。
【0071】
【数11】

【0072】
従来、非線形最小二乗法に用いる行列式は、生成した膜モデル式ごとに式(12)のように作成し、演算を行なっていた。
【0073】
【数12】

【0074】
ここで、式(12)は、Cauchyモデルを用いているので光学定数n,kがC,C,Cの変数として表わされている。
【0075】
しかし、解析部502は、モデル化部501で生成した複数の膜モデル式を連立させるので、非線形最小二乗法に用いる行列式を、複数の膜モデル式を合成した式(13)のように作成し、演算を行なう。
【0076】
【数13】

【0077】
ここで、式(13)も、Cauchyモデルを用いているので光学定数n,kがC,C,Cの変数として表わされている。なお、式(13)は、膜モデル式fに偏微分パラメータが存在しないため、偏微分パラメータの項(たとえば、f11をdで偏微分する項)が“0”となる。
【0078】
さらに、解析部502は、光学定数n,kが同一であるとして式(13)を演算する。つまり、変数C,C,Cが、式(14)に示す関係を有しているとする。
【0079】
【数14】

【0080】
これにより、解析部502は、式(13)の行列式を解くことが可能となり、パラメータの変化量を求めて、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出する。
【0081】
図5は、試料と膜の膜厚dおよび光学定数n,kとの関係を模式的に示した図である。図5(a)では、同じ材料の膜を形成した試料1,試料2,試料3のそれぞれに対してに膜モデル式を生成し、非線形最小二乗法に用いて膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出していた。そのため、試料1,試料2,試料3のそれぞれに、値の異なる膜の光学定数n,kが算出され、唯一の値として膜の光学定数n,kを求めることができなかった。
【0082】
本発明に係る方法では、図5(b)に示すように、同じ材料の膜を形成した試料1,試料2,試料3は、膜の光学定数n,kが同一であるとして、まとめて非線形最小二乗法に用いて膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出している。そのため、同じ材料の膜の光学定数n,kが、唯一の値として求めることができる。
【0083】
図3に戻って、フィッティング部503は、解析部502で算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40(図1)で取得したスペクトルの波形とのフィッティングを行なう。フィッティング部503は、両波形のフィッティングを行なうことにより、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一で、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kが正しい値であることを判定することができる。
【0084】
逆に、フィッティング部503は、解析部502で算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形が、取得したスペクトルの波形とフィットしなければ、膜の光学定数n,kが同一でない、または膜モデル式自体が異なると判定することができる。
【0085】
つまり、フィッティング部503は、膜の光学定数n,kが同一であるか否か、膜モデル式が正しいか否かを検証し、解析部502で算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kの精度を高めることができる。
【0086】
<測定方法>
次に、フローチャートを参照して、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定方法について説明する。
【0087】
図6は、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定方法に係る処理手順を示すフローチャートである。
【0088】
図6を参照して、まず、光学特性測定装置100は、被測定物である試料を測定する前に、膜の光学定数が既知である基準測定物の反射強度の測定を行なう(ステップS601)。続いて、ユーザが被測定物(試料)をステージ70(図1)上に配置する(ステップS602)。
【0089】
続いて、ユーザは、表示部(図示せず)に表示される観察用カメラ60(図1)で撮影された反射像を参照しながら、対物レンズ30およびステージ70を移動させて、測定点にフォーカスを合わせる(ステップS603)。
【0090】
測定点にフォーカスを合わせた後、ユーザが測定開始指令を与えると、測定用光源10(図1)から測定光の発生が開始される。検出器40は、試料からの反射光を受光し、当該反射光に基づく反射強度スペクトルをデータ処理部50へ出力(反射強度測定)する(ステップS604)。続いて、データ処理部50のCPU200は、検出器40で検出された反射強度スペクトルをメモリ部212などに一時的に格納し、その後、反射強度スペクトルから試料の反射率を算出する(ステップS605)。
【0091】
CPU200は、算出した試料の反射率と、膜の膜厚および光学定数とを少なくとも含む膜モデル式を生成する(ステップS606)。続いて、CPU200は、全ての測定点を測定したか否かを判断する(ステップS607)。CPU200が、全ての測定点を測定していないと判断した場合(ステップS607:NO)、ユーザは、表示部(図示せず)に表示される観察用カメラ60(図1)で撮影された反射像を参照しながら、対物レンズ30およびステージ70を移動させて、次の測定点にフォーカスを合わせる(ステップS603)。
【0092】
CPU200が、全ての測定点を測定したと判断した場合(ステップS607:YES)、処理をステップS608に進める。CPU200は、複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一であるとして非線形最小二乗法にて演算を行ない、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出する(ステップS608)。
【0093】
さらに、CPU200は、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40で取得したスペクトルの波形とのフィッティングを行ない、フィッティング可能か否かを判断する(ステップS609)。CPU200は、フィッティング可能であると判断した場合(ステップS609:YES)、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一で、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kが正しいと判定する(ステップS610)。CPU200は、フィッティング可能でないと判断した場合(ステップS609:NO)、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一でない、生成した膜モデル式が異なると判定する(ステップS611)。
【0094】
次に、光学特性測定装置100で試料を測定(シミュレーション)して得られた結果について説明する。まず、図7は、従来の光学特性測定装置で試料を測定して得られた結果を示すグラフである。図7(a)に、試料1の反射率スペクトル、試料1の膜の光学定数n,kのグラフ、図7(b)に、試料2の反射率スペクトル、試料1の膜の光学定数n,kのグラフ、図7(c)に、試料3の反射率スペクトル、試料1の膜の光学定数n,kのグラフがそれぞれ示されている。なお、反射率スペクトルのグラフの横軸は波長、縦軸は反射率をそれぞれ示し、膜の光学定数n,kのグラフの横軸は波長、左側縦軸は屈折率、右側縦軸は消衰係数をそれぞれ示している。また、試料1〜試料3は、Si基板上にそれぞれ膜厚の異なる樹脂膜を形成してある。
【0095】
図7に示すように、消衰係数kは、試料1〜試料3により変化せず同じ値であるが、屈折率nは、試料1と、試料2,3とで異なるので、樹脂膜の光学定数n,kを唯一の値として算出することができない。なお、試料1の樹脂膜の膜厚は49.1nm、試料2の樹脂膜の膜厚は45.6nm、試料1の樹脂膜の膜厚は65.4nmとそれぞれ算出される。
【0096】
図7に示すように、従来の光学特性測定装置では、同じ樹脂膜であるため、本来同じ光学定数n,kとして算出されるはずにもかかわらず、異なる光学定数n,kとして算出されてしまう問題があった。
【0097】
図8は、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置100で試料を測定して得られた結果を示すグラフである。図8(a)に、試料4〜試料6の反射率スペクトル、図8(b)に、試料4〜試料6の膜の光学定数n,kのグラフがそれぞれ示されている。なお、反射率スペクトルのグラフの横軸は波長、縦軸は反射率をそれぞれ示し、膜の光学定数n,kのグラフの横軸は波長、左側縦軸は屈折率、右側縦軸は消衰係数をそれぞれ示している。また、試料4〜試料6は、Si基板上にそれぞれ膜厚の異なる樹脂膜を形成してある。
【0098】
図8に示すように、光学定数n,kは、試料4〜試料6により変化せず、樹脂膜の光学定数を示す唯一の値として算出することができる。なお、試料4の樹脂膜の膜厚は60.8nm、試料2の樹脂膜の膜厚は40.8nm、試料1の樹脂膜の膜厚は19.8nmとそれぞれ算出される。
【0099】
次に、測定点ごとに光学定数n,kが異なる試料を、光学特性測定装置100で測定(シミュレーション)した場合の結果を説明する。図9は、測定点ごとに光学定数n,kが異なる試料を測定して得られた結果を示すグラフである。図9(a)に、試料7内の5つの測定点の屈折率n、図9(b)に、試料7内の5つの測定点の消衰係数kがそれぞれ示されている。なお、屈折率nのグラフの横軸は波長、縦軸は屈折率をそれぞれ示し、消衰係数kのグラフの横軸は波長、縦軸は消衰係数をそれぞれ示している。また、試料7は、ガラス基板上にITO薄膜を形成してある。図9(a)および図9(b)に示すように、同じ試料7の同じITO薄膜であるが、測定点ごとに光学定数n,kが異なっている。
【0100】
光学特性測定装置100で試料7を測定した結果が図9(c)および図9(d)である。図9(c)は、試料7内の5つの測定点の反射率スペクトルで、図9(d)は、試料7内の5つの測定点のITO薄膜の光学定数n,kである。なお、反射率スペクトルのグラフの横軸は波長、縦軸は反射率をそれぞれ示し、ITO薄膜の光学定数n,kのグラフの横軸は波長、左側縦軸は屈折率、右側縦軸は消衰係数をそれぞれ示している。
【0101】
光学特性測定装置100で試料7を測定した場合であっても、図9(d)に示すように、ITO薄膜の光学定数n,kを唯一の値として算出することができる。しかし、算出した光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40(図1)で取得した反射率スペクトルの波形とのフィッティングを行なうと、図9(c)に示すように、両波形がフィットしない。そのため、試料7のITO薄膜の光学定数n,kは、測定点ごとに異なっていることが分かる。
【0102】
次に、従来の光学特性測定装置では測定が困難であった金属薄膜を形成した試料を、光学特性測定装置100で測定(シミュレーション)した場合の結果を説明する。
【0103】
図10は、本発明の実施の形態1に従う光学特性測定装置100で金属薄膜を形成した試料を測定して得られた結果を示すグラフである。図10(a)に、試料8〜試料12の反射率スペクトル、図10(b)に、試料8〜試料12の金属薄膜の光学定数n,kのグラフがそれぞれ示されている。なお、反射率スペクトルのグラフの横軸は波長、縦軸は反射率をそれぞれ示し、金属薄膜の光学定数n,kのグラフの横軸は波長、左側縦軸は屈折率、右側縦軸は消衰係数をそれぞれ示している。また、試料8〜試料12は、石英基板上にそれぞれ膜厚の異なるCr薄膜を形成してある。
【0104】
図10(b)に示すように、光学定数n,kは、試料8〜試料12により変化せず同じ値であるので、Cr薄膜の光学定数n,kを唯一の値として算出することができる。なお、試料8のCr薄膜の膜厚は32.0nm、試料9のCr薄膜の膜厚は20.7nm、試料10のCr薄膜の膜厚は15.5nm、試料11のCr薄膜の膜厚は10.3nm、試料12のCr薄膜の膜厚は5.2nmとそれぞれ算出される。
【0105】
以上のように、本発明の実施の形態1に係る光学特性測定装置100では、解析部502で、生成した複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一であるとして非線形最小二乗法にて演算を行ない、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出する。さらに、光学特性測定装置100は、フィッティング部503で、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40で取得したスペクトルの波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一で、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kが正しい値であることを判定する。そのため、光学特性測定装置100は、取得したスペクトルから基板上に形成した膜の光学定数n,kを唯一の値として求めることができる。また、本発明の実施の形態1に係る光学特性測定装置100では、解析部502で算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを、フィッティング部503で検証するので、より精度の高い膜の膜厚dおよび光学定数n,kを測定することができる。
【0106】
なお、前述した式(13)は、基板に薄膜を1層形成した試料で、裏面反射係数寄与率を省略した場合(γ=1)の行列式であった。しかし、本発明に係る光学特性測定装置100は、式(13)の行列式に限定されるものではなく、基板に多層の薄膜を形成した試料で、裏面反射係数寄与率を考慮した場合の行列式であっても良い。具体的に、以下の式(15)に示す行列式を用いる。なお、以下の式(15)は、後項(たとえば、f11をdで偏微分する項の次項、Δdの下段)に、多層の薄膜や裏面反射係数寄与率を考慮したパラメータを適宜追加する。
【0107】
【数15】

【0108】
また、光学特性測定装置100で測定する試料は、全て同じ層構成の試料である必要はなく、試料ごとに異なる層構成であっても良い。図11は、光学特性測定装置100で測定する試料の層構成を示した概略図である。図11に示す試料1は、基板上に第1層、第2層を積層した層構成で、試料2は、基板上に第1層を積層した層構成である。
【0109】
試料1の第1層は、複素屈折率N12、膜厚d12で、試料1の第2層は、複素屈折率N11、膜厚d11である。試料2の第1層は、複素屈折率N21、膜厚d21である。光学特性測定装置100は、試料1の第1層と試料2の第1層との複素屈折率Nを同一(N12=N21)として測定を行なう。
【0110】
(実施の形態2)
<装置構成>
図12は、本発明の実施の形態2に従う光学特性測定装置110の概略構成図である。
【0111】
本実施の形態2に従う光学特性測定装置110は、エリプソ分光計であり、少なくとも所定の紫外波長範囲を含む光(入射光)を試料に照射し、この入射光が試料で反射されて生じる反射光についての特定波長における分光エリプソパラメータを測定することにより、各層の膜厚などを測定することが可能である。
【0112】
具体的には、光学特性測定装置110は、試料に光を照射し、当該試料で反射された偏光反射光の波長分布特性(以下「スペクトル」とも称す。)に基づいて、試料を構成する膜の膜厚および光学定数(屈折率n、消衰係数k)を測定可能である。
【0113】
図12を参照して、光学特性測定装置110は、測定用光源10、エリプソ投光部80、エリプソ受光部90、検出器40、データ処理部50、ステージ70を備える。試料は、ステージ70上にセットしてある。
【0114】
測定用光源10は、所定の紫外波長範囲(たとえば、185nm〜400nm)を含む波長範囲の光を発生する。代表的に、測定用光源10は、キセノンランプ(Xeランプ)または重水素ランプ(D2ランプ)などの、紫外域から可視域までの波長を発生可能な白色光源で構成される。測定用光源10で発生した光は、光ファイバなどを介してエリプソ投光部80へ導かれる。
【0115】
エリプソ投光部80は、偏光プリズム81を含む。偏光プリズム81は、偏光子であり、測定用光源10で発生した光を偏光光へ変換する。変換した偏光光を試料に照射する。なお、エリプソ投光部80は、1/4λ波長板を設けて、試料に照射する光を円偏光に変換してもよい。
【0116】
エリプソ受光部90は、偏光プリズム91を含む。偏光プリズム91は、検光子であり、試料で反射されて生じる反射光を直線偏光へと変える。この直線偏光に変えられた後の反射光は、光ファイバなどを介して検出器40へ導かれる。偏光プリズム91は、は、回転モータ(図示せず)と連結されており、この回転モータの回転位置に応じた偏光方向に直線偏光を生成する。
【0117】
検出器40およびデータ処理部50は、実施の形態1に係る検出器40およびデータ処理部50とほぼ同じ構成であるので、詳細な説明を繰返さない。また、データ処理部50は、実施の形態1で説明した演算処理構造と同じ構造を有し、同様の演算処理を行なうので、詳細な説明を繰返さない。
【0118】
<測定方法>
次に、フローチャートを参照して、本発明の実施の形態2に従う光学特性測定方法について説明する。
【0119】
図13は、本発明の実施の形態2に従う光学特性測定方法に係る処理手順を示すフローチャートである。
【0120】
図13を参照して、まず、ユーザが被測定物(試料)をステージ70(図12)上に配置する(ステップS131)。
【0121】
続いて、ユーザは、エリプソ投光部80を移動させて、エリプソ投光部80からの光が試料の測定点に照射されるようにフォーカスを合わせる(ステップS132)。さらに、ユーザは、エリプソ投光部80から照射した光が、試料の測定点で反射されエリプソ受光部90で受光できるように、エリプソ投光部80およびエリプソ受光部90の入射角度を合わせる(ステップS133)。
【0122】
測定点にフォーカスを合わせ、エリプソ投光部80およびエリプソ受光部90の入射角度を合わせた後、ユーザが測定開始指令を与えると、測定用光源10(図12)から測定光の発生が開始される。検出器40は、試料からの偏光反射光を受光し、当該偏光反射光に基づく反射強度スペクトルをデータ処理部50へ出力(偏光反射強度測定)する(ステップS134)。続いて、データ処理部50のCPU200は、検出器40で検出された反射強度スペクトルをメモリ部212などに一時的に格納し、その後、反射強度スペクトルから試料の位相差Δおよび振幅比Ψを算出する(ステップS135)。
【0123】
CPU200は、算出した試料の位相差Δおよび振幅比Ψと、膜の膜厚および光学定数とを少なくとも含む膜モデル式を生成する(ステップS136)。続いて、CPU200は、全ての測定点を測定したか否かを判断する(ステップS137)。CPU200が、全ての測定点を測定していないと判断した場合(ステップS137:NO)、ユーザは、エリプソ投光部80を移動させて、エリプソ投光部80からの光が試料の次の測定点に照射されるようにフォーカスを合わせる(ステップS132)。
【0124】
CPU200が、全ての測定点を測定したと判断した場合(ステップS137:YES)、処理をステップS138に進める。CPU200は、複数の膜モデル式を連立させ、複数の膜モデル式に含まれる光学定数が同一であるとして非線形最小二乗法にて演算を行ない、膜の膜厚dおよび光学定数n,kを算出する(ステップS138)。
【0125】
さらに、CPU200は、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40で取得したスペクトルの波形とのフィッティングを行ない、フィッティング可能か否かを判断する(ステップS139)。CPU200は、フィッティング可能であると判断した場合(ステップS139:YES)、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一で、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kが正しいと判定する(ステップS140)。CPU200は、フィッティング可能でないと判断した場合(ステップS139:NO)、複数の膜モデル式に含まれる光学定数n,kが同一でない、生成した膜モデル式が異なると判定する(ステップS141)。
【0126】
以上のように、本発明の実施の形態2に係る光学特性測定装置110であっても、算出した試料の位相差Δおよび振幅比Ψと、膜の膜厚および光学定数とを少なくとも含む膜モデル式を生成し、実施の形態1と同様の処理を行なうので、取得したスペクトルから基板上に形成した膜の光学定数n,kを唯一の値として求めることができる。
【0127】
なお、図7に示すように、従来の光学特性測定装置では、試料によって光学定数n,kが変化した場合、各試料の光学定数n,kが本当に異なるのか、測定要因の誤差によるものなのかを判断することができなかった。
【0128】
しかし、本発明に係る光学特性測定装置100,110では、算出した膜の膜厚dおよび光学定数n,kを膜モデル式に代入して得られる波形と、検出器40で取得したスペクトルの波形とのフィッティングを行なうことで、各試料の光学定数n,kが本当に異なっているのか否かを検証することができる。つまり、光学特性測定装置100,110では、フィッティング可能な場合(残差ΔYが小さい場合)、各試料の光学定数n,kが同一であるとして、唯一の光学定数n,kが得られ、フィッティング不可能な場合(残差ΔYが大きい場合)、各試料の光学定数n,kが本当に異なっていると判断することができる。
【0129】
ここで、光学特性測定装置100,110で評価する残差ΔYは、各試料の残差の和である。図14は、本発明に従う光学特性測定装置100,110で評価する残差ΔYと、各試料の残差との関係を示した模式図である。図14では、横軸を変数、縦軸を二乗残差和として、試料A、試料Bおよび試料A+試料Bのそれぞれの残差の変化を示している。光学特性測定装置100,110で評価する残差ΔYは、試料A+試料Bの残差であり、矢印で示した試料Aの残差Aと試料Bの残差Bとの和(残差A+残差B)となる。各試料の残差の大きさの割合から、光学定数n,kの変化の大きさも定量化することができる。
【0130】
また、半導体装置などの製造ラインでは、インラインやフルオート測定などで膜厚の値を管理するために、光学定数n,kをある一つの値として決めておく必要がある。本発明に係る光学特性測定装置100,110では、複数の試料の残差の和が小さい場合の光学定数n,kを算出することになるので、たとえ光学定数n,kが異なる試料や測定点を測定した場合であっても、異なる光学定数n,kの中間値を求めることができる。そのため、光学特性測定装置100,110で測定した光学定数n,kを、インラインやフルオート測定などで膜厚の値を管理するための暫定の光学定数として用いることができる。
【0131】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0132】
10 測定用光源、20 ビームスプリッタ、30 対物レンズ、40 検出器、50 データ処理部、60 観察用カメラ、70 ステージ、80 エリプソ投光部、81,91 偏光プリズム、90 エリプソ受光部、100,110 光学特性測定装置、202 バス、204 ディスプレイ部、208 入力部、210 ハードディスク部、212 メモリ部、214 ROMドライブ、216a フレキシブルディスク、501 モデル化部、502 解析部、503 フィッティング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも1層の膜を形成した被測定物に対して所定の波長範囲をもつ測定光を照射する光源と、
前記被測定物で反射された光または前記被測定物を透過した光に基づいて、反射強度または透過強度の波長分布特性を取得する分光測定部と、
同一材料の前記膜から複数の前記波長分布特性を取得し、取得した各々の前記波長分布特性から算出するパラメータと、前記膜の膜厚および光学定数とを少なくとも含む複数の膜モデル式を生成するモデル化部と、
前記モデル化部で生成した複数の前記膜モデル式を連立させ、複数の前記膜モデル式に含まれる前記光学定数が同一であるとして所定の演算を行ない、前記膜の前記膜厚および前記光学定数を算出する解析部と、
前記解析部で算出した前記膜の前記膜厚および前記光学定数を前記膜モデル式に代入して得られる波形と、前記分光測定部で取得した前記波長分布特性の波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の前記膜モデル式に含まれる前記光学定数が同一で、前記解析部で算出した前記膜の前記膜厚および前記光学定数が正しい値であることを判定するフィッティング部と
を備える光学特性測定装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記所定の演算に非線形最小二乗法を用いる、請求項1に記載の光学特性測定装置。
【請求項3】
前記波長分布特性から算出する前記パラメータは、前記膜の反射率または透過率である、請求項1または請求項2に記載の光学特性測定装置。
【請求項4】
前記分光測定部は、前記被測定物で反射された光に基づいて、偏光反射強度の前記波長分布特性を取得し、
前記波長分布特性から算出する前記パラメータは、位相差Δおよび振幅比Ψである、請求項1または請求項2に記載の光学特性測定装置。
【請求項5】
前記モデル化部は、前記膜の裏面反射係数寄与率をさらに含む前記膜モデル式を生成する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の光学特性測定装置。
【請求項6】
基板上に少なくとも1層の膜を形成した被測定物に対して所定の波長範囲をもつ測定光を照射し、
前記被測定物で反射された光または前記被測定物を透過した光に基づいて、反射強度または透過強度の波長分布特性を、同一材料の前記膜から複数取得し、
取得した各々の前記波長分布特性から算出するパラメータと、前記膜の光学定数とを含む複数の膜モデル式を生成し、
生成した複数の前記膜モデル式を連立させ、複数の前記膜モデル式に含まれる前記光学定数が同一であるとして所定の演算を行ない、前記膜の膜厚および前記光学定数を算出し、
算出した前記膜の前記膜厚および前記光学定数を前記膜モデル式に代入して得られる波形と、取得した前記波長分布特性の波形とのフィッティングを行なうことにより、複数の前記膜モデル式に含まれる前記光学定数が同一で、算出した前記膜の前記膜厚および前記光学定数が正しい値であることを判定する、光学特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−40813(P2013−40813A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176817(P2011−176817)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000206967)大塚電子株式会社 (50)
【Fターム(参考)】