説明

光学用の材料組成物およびそれを用いた光学素子

【課題】適当な異常分散性を有するとともに、加工が容易である光学用の材料組成物および光学素子を提供する。
【解決手段】酸化スズの微粒子と、1分子中に芳香環、縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環から選ばれる官能基の少なくとも1つと1個以上の重合性官能基の両方を有する有機化合物と、重合開始剤とを含む材料組成物の硬化物において、アッベ数νd、F線とg線の異常分散度ΔθgFとしたとき、10≦νd≦40かつ0.010≦ΔθgF≦0.075である材料組成物およびその硬化物を用いた光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を形成するに適した光学用の材料組成物およびその硬化物を用いた光学素子に関するものであり、特に異常分散性を有する材料組成物と前記材料組成物の硬化物からなる光学レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話をはじめとする撮像モジュール等に用いられる光学系の小型化、高性能化が大きな課題となっている。そこでこれらの光学系では様々な収差を補正するため、非球面レンズや異常分散ガラスからなるレンズを多用するようになってきた。異常分散ガラスは色収差の低減、特に2次スペクトルの補正に用いられている。異常分散性をもつ光学材料は、光学機器の光学系の小型化、高性能化ができるため非常に有用な光学材料である。
【0003】
従来、異常分散ガラスとしては、弗リン酸系、B23―Al23―PbO系、SiO2― B23―ZrO2―Nb25系などの光学ガラスが知られている。これらの異常分散ガラスをレンズなどの光学素子として用いるには研削および研磨加工が必要となる。
近年、低融点な異常分散ガラスが開発され、高温で押圧成形することによって光学素子を得ることが可能となってきた。また、紫外線硬化樹脂あるいはN−ポリビニルカルバゾールに、無機酸化物ナノ微粒子であるTiO2を分散させた異常分散性を有する光学材料が提案されている。(たとえば、特許文献1)
【0004】
また、従来の異常分散ガラスでは、所望の形状の光学素子を得るには研削および研磨加工が必要であり、加工に時間がかかるので量産にはむかない、あるいは加工工程においてガラスが柔らかいため、欠けたり表面が変色するなど加工性に問題があった。
一方、高温で押圧成形可能な低融点な異常分散ガラスでは、高温での成形中に失透やにごりを生じることがあった。また特許文献1に提案されている光学材料では、異常分散性があまりにも大きいため光学系において過剰な補正になりやすく、効果的に適用できるところが制限される、また用いている樹脂および無機酸化物ナノ微粒子の着色が大きく透明性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−145823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、適当な異常分散性を有するとともに、加工が容易である光学用の材料組成物および光学素子を提供することを課題とするものであって、適当な異常分散性を有し、加工性も良好な光学用の材料組成物およびその硬化物を用いた光学素子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酸化スズ(IV)の微粒子(A)と、1分子中に芳香環、縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環から選ばれる官能基の少なくとも1つと1個以上の重合性官能基の両方を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)とを含む材料組成物の硬化物において、アッベ数νd、F線とg線の異常分散度ΔθgFとしたとき、10≦νd≦40 かつ 0.010≦ΔθgF≦0.075である材料組成物である。
また、前記の材料組成物の硬化物において、アッベ数νd、f線とg線の異常分散度ΔθgFとしたとき、10≦νd≦40 かつ 0.010≦ΔθgF≦0.075である材料組成物の硬化物からなる光学素子である。
光学基材の表面に、光硬化反応によって光学用の材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子である前記の光学素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学用の材料組成物を硬化した硬化物は、光学素子として要求される適当な異常分散性を有するとともに、材料組成物を成形型に充填して重合することによって得られた成形体、あるいは他の光学基材の表面に光硬化反応によって形成した光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、金属酸化物のなかでも、高屈折率でありながら、異常分散性が特異な酸化スズ(IV)に着目し、酸化スズ(IV)微粒子とともに、特定の重合性化合物を用いることによって、硬化によって得られる光学素子が、適当な異常分散性を有し、加工性も良好なものであることを見出したものである。
【0010】
酸化スズ(IV)微粒子は、下記の化学式1で表されるスズコキシドあるいはその加水分解物を重合させたもの、あるいはスズ化合物の水溶液から液相で製造したものを用いることができる。
化学式1 R1aSn(OR24-a
ただし、R1は有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、あるいはシクロアルキル基、R2は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、aは0または1を挙げることができる。
【0011】
ここで、R1 のアルキル基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタクロロエチル基などを挙げることができる。アリール基としてはフェニル基、スチリル基などを挙げることができる。好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0012】
また、R2 のアルキル基またはアリール基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、フェニル基などを挙げることができる。
aは0または1である。より好ましくは酸化スズ(IV)の特性を効率的に発揮するa=0である。
【0013】
スズアルコキシドあるいはその加水分解物の具体例としては、テトラエトキシスズ、テトライソプロポキシスズ、テトラ−n−ブトキシスズ、メチルトリエトキシスズ、フェニルトリメトキシスズあるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0014】
スズアルコキシドから製造する微粒子を用いる場合、縮重合反応における希釈溶剤、あるいは触媒の種類や量、反応温度、時間を適宜調整することで、粒子径にかかわる分子量や、屈折率および分散にかかわる結晶性や密度が調整可能となる。
【0015】
また、スズアルコキシドの加水分解によって製造する以外に、液相中で合成したり沈殿によって製造する方法、プラズマ、アーク等を利用した気相法、あるいは固相での合成、大粒子を固相で粉砕する粉砕法等によって製造することができる。
【0016】
酸化スズ(IV)微粒子は、液体中に分散した状態で、メタクリルプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤によって表面を処理した後に、材料組成物中に配合することが好ましい。
【0017】
酸化スズ(IV)の配合量は、光学用の材料組成物中に5質量%以上50質量%以下が好ましい。5質量%未満では十分なアッベ数および異常分散性を有する材料組成物を得ることができず、50質量%を超えて配合すると、材料組成物の流動性がなくなり、光学素子の加工が難しくなる。
【0018】
酸化スズ(IV)(A)の微粒子の大きさ(1次粒子径)は平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下であることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が15nm以下で、かつ90%粒子径が20nm以下である。ここで粒子径は動的光散乱法よって求めたもので平均粒子径とは粒子径分布の中心値を、また90%粒子径とは全粒子の90%が含まれる範囲の粒子径のことを言う。いずれの粒子径より大きい場合は透過率や光散乱が大きくなってしまう。つまり、たとえ平均粒子径が20nm以下で小さくても、粒子径分布の幅が広く30nmより大きな粒子径の粒子が全粒子の10%を超えた割合で存在してしまうと光散乱が大きくなってしまう。
【0019】
有機化合物(B)における重合性官能基は、重合してポリマーになることができる官能基であれば良い。好ましくはビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、エポキシ基、オキセタン基である。硬化のしやすさ、化合物の選択の自由度からより好ましくはビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基である。
【0020】
さらに、上記重合性官能基を有するだけでなく、分子内に芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環を有するものが特に好ましい。これらの環状構造を有する有機化合物は、分子内の特異な電子密度分布により直鎖状や飽和環状の構造を有する有機化合物とは異なるアッベ数および異常分散性を有することをつきとめた。
【0021】
具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−フェニル−フェニル(メタ)アクリレート、1−アクリロイルオキシ−4−メトキシナフタレンや10−アクリロイルオキシ−10−メチルベンジルアントロンなどの縮合多環(メタ)アクリレート、9−フルオレニルアクリレートや9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどのフルオレン環を有する(メタ)アクリレート、アリルカルバゾールなどのカルバゾール(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、3−エチル−3−(メタクリロイルオキシメチル)オキセタンや3−エチル−3−(メタクリロイルオキシメチル)オキセタンなどのオキセタン、ビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、9−アントラセンカルボン酸ビニル、2−メタクリロイルオキシエチルイソシナネートなどを挙げることができる。
【0022】
なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートの少なくもといずれか一方を含むものを意味する。これらの物質から一種、もしくは複数の成分を選択し、混合して用いてもよい。また、これらは、モノマーであっても、オリゴマーであっても良い。
【0023】
また、有機化合物(B)の含有量は、49質量%以上94質量%以下が好ましい。49質量%より少ない場合は酸化スズ(IV)(A)の含有量が多くなり光学素子の加工が難しくなり、94質量%より多い場合は酸化スズ(IV)(A)の含有量が少なくなり色収差を補正できる十分な異常分散性を有する材料組成物を得ることが難しくなる。
【0024】
また、有機化合物(B)は1分子中に1個の重合性官能基を有する有機化合物(B1)と1分子中に2個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B2)からなり、質量比(B1)/(B2)が0.1以上100以下であることが好ましい。重合性官能基の数によって重合反応の速度を調整し、得られる硬化物の硬化度や強度、耐熱性を変えることが出来る。
【0025】
硬化物は、光学素子として適当な硬化度、強度、耐熱性、耐久性を有する必要がある。硬化度や耐熱性が低すぎると、やわらかい状態なので強度が得られないし、温湿度の変化により変形し光学面の形状を保てなくなるなどの問題が出てくる。また、硬化度が必要以上に高すぎると、応力がたまりやすく、温湿度変化によりレンズが割れるなど耐久性が良くない、光学特性が不均一になる要因となったりする。
【0026】
適当な硬化度や耐熱性を有し耐久性の良い硬化物を得るには、重合性官能基の数の異なる複数種の有機化合物を配合することが有効な手段である。特に光学基材の上に積層した複合型光学素子の場合、本発明の材料組成物の硬化物と光学基材との間で強度、耐熱性、温湿度の変化による変形などの特性に差があるので、光学素子の強度、耐熱性、耐久性を確保するため質量比(B1)/(B2)は重要になってくる。
【0027】
1分子中に1個の重合性官能基を有する有機化合物(B1)は、その硬化物の高分子鎖は2次元構造を有しており、硬化物の硬化度や強度、耐熱性を低下させるが、硬化による応力を低減し、耐久性を高める効果がある。一方、1分子中に2個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B2)は、その硬化物の高分子鎖は3次元構造を有しており、硬化物の硬化度や強度、耐熱性を高める効果があり、温度変化よる変形も小さくなる。従って、レンズ材料としての実用性が得られて良い。
【0028】
光学素子として用いるのに適した特性を得るためには、質量比(B1)/(B2)が0.1以上100以下が好ましい。より好ましくは質量比(B1)/(B2)が0.25以上10以下である。100より大きい場合は硬化物の硬化度や強度、耐熱性が低くなり、0.1より小さい場合は硬化による応力が大きくなりすぎたり、温湿度変化による耐久性が悪化したりする。
【0029】
重合開始剤の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。0.05質量%未満では十分な硬化性を有する材料組成物が得られず硬化度の低い硬化物になってしまう。5質量%を超えると硬化物の透明性が低下したり、太陽光による黄変が大きくなるという問題が生じる。
【0030】
重合開始剤は、熱重合開始剤、光重合開始剤のいずれも用いることが可能であるが、光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤は加熱等の時間を要する工程が不要であって、効率的な硬化が可能であるとともに、他の光学部材との複合光学素子を製造する場合にも、加熱に伴って発生する問題による影響を受けにくい。
【0031】
光重合開始剤は、具体的には、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノンおよびベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジルおよびベンジル誘導体、ベンゾインおよびベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントンおよびチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種のみで用いても、2種以上を併用することもできる。
【0032】
また、これらの光重合開始剤の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系化合物を用いると、十分な硬化性および硬化物の透明性が得られるので特に好ましい。
【0033】
本実施形態の光学用の材料組成物には、上記の成分の他に、さらに紫外線吸収剤を添加して耐久性を向上させることができる。
【0034】
紫外吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−ターシャリーブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等サリチル酸エステル系のもの、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アセトキシエトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5,5’−ジスルホベンゾフェノン・2ナトリウム塩などベンゾフェノン系のもの、2(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’−ターシャリーブチル−5’−メチルフェニル)−5− クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーアミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリィオクチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどベンゾトリアゾール系のもの、2’,4’−ジターシャリィブチルフェニル−3,5−ジターシャリィブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどベンゾエート系のもの、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどシアノアクリレート系のもの、p−アミノ安息香酸ブチル様なアミノ安息香酸系などをあげることができる。これらの中から一種ないし複数選択し混合しても用いることができる。
【0035】
さらに、本実施形態の光学用の材料組成物には、上記の成分の他に、さらにヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン酸エステル系、あるいは硫黄系などの酸化防止剤を添加して耐久性を向上させても良い。
【0036】
本実施形態の材料組成物の調製方法としては、有機化合物(B)および重合開始剤(C)に酸化スズ(IV)の微粒子(A)を添加して、ビーズミルやボールミル、ジェットミル、ホモジナイザーなどの公知の分散装置によって全成分を均一に分散させて材料組成物を得る方法が挙げられる。分散に用いるビーズやボールなどのメディアの材質や大きさ、分散装置の条件設定で材料組成物の分散状態を調整する。この時、材料組成物の分散状態によっては異常分散性や加工性を損なわない分量であれば分散剤を添加しても良いし、一時的に溶媒も添加しても良い。ただし、この溶媒は最終的に光学素子として加工する前に除去する必要がある。
【0037】
また別の材料組成物の調製方法としては、あらかじめ酸化スズ(IV)の微粒子(A)をシラン系やチタン系などのカップリング剤からなる粒子表面修飾剤によって処理した後に公知の分散装置によって全成分を均一に分散させて材料組成物を得る方法が挙げられる。
【0038】
本実施形態において、異常分散性の度合いを表す異常分散度ΔθgFの値は、以下の方法により算出したものである。すなわち、下記の式1により、それぞれの部分分散比θgFを求め、横軸にアッベ数(νd)、縦軸に部分分散比θgFをとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうちNSL7(νd=60.5、θgF=0.5346:オハラ)およびPBM2(νd=36.3、θgF=0.5828:オハラ)を基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(νd、θgF)を直線で結び、この直線と、比較するガラスのθgFおよびνdを示す座標との縦座標の差(ΔθgF)を、異常分散性を示す度合い、すなわち異常分散度とした。
θgF=(ng−nF)/(nF−nC) 式1
(ng:g線に対する屈折率、nF:F線に対する屈折率、nC:C線に対する屈折率である)
【0039】
そして、アッベ数をνd、F線とg線における異常分散度をΔθgFとしたとき、本実施形態の樹脂組成物は、その硬化物において
10≦νd≦40 かつ 0.010≦ΔθgF≦0.075
であるのが好ましい。言い換えると、本実施形態の樹脂組成物としては、その硬化物が上記条件を満足する樹脂組成物であるのが好ましい。このようにすると、C線からg線までの広い可視光の範囲において、色収差の低減が効果的に行うことができる。
【0040】
既存の樹脂組成物の硬化物や有機化合物、光学ガラスはいずれも、部分分散比θgFを縦軸、アッベ数νdを横軸にとるグラフにおいて、アッベ数νdが40以下の領域では、一様に異常分散度が大きくなる傾向にある。光学系を設計する際に光学材料として選択できる異常分散度の範囲が狭くなるので、色収差の補正が効果的に行なえず、小型軽量化あるいは高性能化を制限しまっていた。
【0041】
本実施形態の材料組成物からなる硬化物は、アッベ数や異常分散度の異なる酸化スズ(A)と有機化合物とのハイブリッド材料となっており、酸化スズ(IV)(A)と有機化合物の含有量を調整することで、アッベ数と異常分散度を光学系の色収差の補正を効果的に行うことができる所望な値に調整することができる。また、従来の有機化合物単独および光学ガラスでは有していないアッベ数と異常分散度を実現することも可能であり、これまでにない小型軽量あるいは高性能な光学系を実現できる。また従来の光学ガラスと同様なアッベ数と異常分散度であっても、光学ガラスでは実現できない優れた加工性を実現可能である。
【0042】
アッベ数νdが10未満ではC線からF線までの波長範囲で色収差低減の効果が過大になり好ましくない。アッベ数νdが40より大きい場合は、C線からF線までの波長範囲で色収差低減の効果が小さく好ましくない。
【0043】
また、異常分散度ΔθgFが0.010未満では既存の樹脂組成物と大きな差がなく酸化スズを含有する効果が小さいので好ましくない。異常分散度ΔθgFが0.075より大きい場合は、酸化スズ(IV)の添加量が50質量%より多く必要になり材料組成物の粘度が高くなるので光学素子の加工が難しくなり好ましくない。
【0044】
次に、本実施形態の材料組成物を利用した実施例と、利用しない比較例を示す。実施例では、本実施形態の材料組成物の硬化物を光学素子とし、この光学素子を光学系に用いている。
【0045】
図1は使用例の無限遠物点合焦時の光学構成を示す光軸に沿う断面図であり、(a)は広角端、(b)は中間焦点距離状態、(c)は望遠端での断面図である。なお、レンズ断面図に記載されているr1,r2、…における数字、及びd1,d2…における数字は、後述する数値データにおける面番号の欄の数字に対応している。
【0046】
図2は、使用例の無限遠物点合焦時における球面収差、非点収差、歪曲収差、倍率色収差を示す図であり、(a)は広角端、(b)は中間焦点距離状態、(c)は望遠端での状態を示している。また、FIYは像高を示している。
【0047】
この使用例では、物体側から5枚目のレンズに、本実施形態の材料組成物の硬化物を用いている。この使用例では、5枚目のレンズにおけるアッベ数νdは23で、異常分散度ΔθgFは0.061である。本実施形態の材料組成物(その硬化物)の適正な異常分散性によって、軸上色収差および倍率色収差が小さく抑えられ高品質な光学系を実現している。
【0048】
次に、図3に、従来例の光学系における光軸に沿う断面図を示す。また、図4に、球面収差、非点収差、歪曲収差、倍率色収差を示す。なお、従来例における収差図は、良好に各種収差が補正された状態を示している。
【0049】
図3に示す光学系のレンズ構成は、図1に示す使用例の光学系と同じである。また、焦点距離、Fナンバー、変倍比等のスペックも、図1に示す光学系と同じである。ただし、物体側から5枚目のレンズを、光学ガラスのS−NPH2(株式会社オハラ製)に変えている点が、使用例の光学系と異なる。従来例において、S−NPH2は、アッベ数νdが18.9で、異常分散度ΔθgFが0.032という値を持つ。このように、S−NPH2は上記の条件を満足しているので、適正な異常分散性を有しているといえる。そして、図4から分かるように、軸上色収差および倍率色収差が小さく抑えられ高品質な光学系であると言える。但し、レンズの厚みが、使用例に比べて厚くなっている。
【0050】
ここで、使用例の収差図(図2)と従来例の収差図(図4)を比べてみる。すると、使用例においても、従来例と遜色ない程度に収差が良好に補正されている。このように、本実施形態の材料組成物の硬化物を光学系に用いても、従来の収差が良好に補正された光学系を実現できる。
【0051】
次に、上記使用例と比較例の数値データを掲げる。なお、各数値データにおいて、rの欄は各レンズ面の曲率半径、dの欄は各レンズの肉厚または空気間隔、ndの欄は各レンズのd線での屈折率、νdの欄各レンズのアッべ数をそれぞれ表している。また、*印は非球面をそれぞれ示している。
【0052】
また、非球面形状は、光軸方向をz、光軸に直交する方向をyにとり、円錐係数をK、非球面係数をA4、A6、A8、A10としたとき、次の式で表される。
z=(y2/r)/[1+{1−(1+K)(y/r)21/2
+A4y4+A6y6+A8y8+A10y10
ここで、非球面データにおいて、Eは10のべき乗を表している。また、非球面係数が記載されていないものは、その非球面係数における値はゼロである。
【0053】
(使用例)
面データ
面番号 r d nd νd
物面 INF INF
1 26.4564 0.9000 1.84666 23.78
2* 10.0742 3.0000
3 INF 12.0000 1.80610 40.92
4 INF 0.2000
5* 34.9519 2.4000 1.80610 40.92
6 -24.2855 0.9999
7* -26.2710 0.6000 1.74320 49.34
8* 10.2309 0.9000 1.63494 23.22
9* 34.1807 11.9143
10(絞り) INF 8.6026
11* 11.4252 4.0000 1.83481 42.71
12 -7.3175 0.6000 1.80810 22.76
13 -24.0548 2.3393
14 12.3855 1.0000 1.84666 23.78
15 6.3411 1.5001
16* 11.3148 2.0000 1.49700 81.54
17 24.7330 2.7930
18 INF 1.5000 1.54771 62.84
19 INF 0.8000
20 INF 0.7500 1.51633 64.14
21 INF 1.3601
像面 INF
【0054】
非球面データ
第2面
K=-0.3690,A2=0.0000E+00,A4=2.9951E-05,A6=5.3453E-07,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第5面
K=-0.3428,A2=0.0000E+00,A4=6.9553E-06,A6=1.0625E-07,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第7面
K=-0.2849,A2=0.0000E+00,A4=-3.0138E-04,A6=4.0578E-06,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第8面
K=-0.0281,A2=0.0000E+00,A4=6.9302E-04,A6=-3.1732E-05,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第9面
K=-0.1005,A2=0.0000E+00,A4=-5.3088E-04,A6=1.1655E-05,A10=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第11面
K=0.0728,A2=0.0000E+00,A4=-2.2619E-04,A6=-4.6980E-08,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第16面
K=-1.5301,A2=0.0000E+00,A4=1.1271E-04,A6=4.0725E-06,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
【0055】
各種データ
ズーム比 3.00
広角 中間 望遠
焦点距離 5.99960 10.40020 17.99975
Fナンバー 2.8002 3.3565 4.7748
画角 31.6° 17.7° 10.3°
像高 3.320 3.320 3.320
レンズ全長 60.1593 60.1589 60.1593
BF 1.36009 1.36009 1.36009
d6 0.99985 8.01310 11.51443
d9 11.91428 4.90098 1.39971
d10 8.60265 6.26147 1.19997
d13 2.33934 1.73193 0.80014
d15 1.50009 4.50020 11.23470
d17 2.79301 2.74144 2.00025
【0056】
ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 29.87719
2 7 -17.20296
3 11 9.65903
4 14 -16.60629
5 16 39.98504
【0057】
〔硝材屈折率テーブル〕… 本使用にて使用した媒質の波長別屈折率一覧
ガラス 587.56 656.27 486.13 435.83 404.66
L10 1.547710 1.545046 1.553762 1.558428 1.562261
L5 1.634940 1.627290 1.654640 1.672908 1.689875
L11 1.516330 1.513855 1.521905 1.526214 1.529768
L9 1.496999 1.495136 1.501231 1.504507 1.507205
L2,L3 1.806098 1.800248 1.819945 1.831174 1.840781
L6 1.834807 1.828975 1.848520 1.859548 1.868911
L4 1.743198 1.738653 1.753716 1.762047 1.769040
L7 1.808095 1.798009 1.833513 1.855904 1.876580
L1,L8 1.846660 1.836488 1.872096 1.894189 1.914294
【0058】
(従来例)
面データ
面番号 r d nd νd
物面 INF INF
1 27.3626 0.9000 1.84666 23.78
2* 10.1121 3.0000
3 INF 12.0000 1.80610 40.92
4 INF 0.2000
5* 34.1036 2.4000 1.80610 40.92
6 -24.1842 0.9999
7* -19.6695 0.6000 1.74320 49.34
8 13.9199 1.3000 1.92286 18.903
9 28.1720 11.9098
10(絞り) INF 8.5816
11* 11.6806 4.0000 1.83481 42.71
12 -7.0606 0.6000 1.80810 22.76
13 -22.4815 2.3411
14 14.0648 1.0000 1.84666 23.78
15 6.7601 1.5001
16* 10.6451 2.0000 1.49700 81.54
17 21.4972 2.8264
18 INF 1.5000 1.54771 62.84
19 INF 0.8000
20 INF 0.7500 1.51633 64.14
21 INF 1.3601
像面 INF
【0059】
非球面データ
第2面
K=-0.4019,A2=0.0000E+00,A4=2.8028E-05,A6=7.9587E-07,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第5面
K=-0.3464,A2=0.0000E+00,A4=3.5796E-06,A6=1.4808E-07,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第7面
K=-0.2881,A2=0.0000E+00,A4=3.7992E-05,A6=-1.0002E-06,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第11面
K=0.0773,A2=0.0000E+00,A4=-2.2695E-04,A6=-2.0319E-07,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
第16面
K=-1.5302,A2=0.0000E+00,A4=8.9552E-05,A6=6.6136E-06,A8=0.0000E+00,A10=0.0000E+00
【0060】
各種データ
ズーム比 3.00
広角 中間 望遠
焦点距離 5.99921 10.40005 17.99950
Fナンバー 2.8002 3.2959 4.6552
画角 31.9° 17.8° 10.3°
像高 3.320 3.320 3.320
レンズ全長 60.5689 60.5692 60.5689
BF 1.36013 1.36013 1.36013
d6 0.99987 8.02133 11.51068
d9 11.90975 4.88919 1.39897
d10 8.58156 6.29409 1.20000
d13 2.34114 1.76093 0.80033
d15 1.50010 4.46452 11.24871
d17 2.82637 2.72871 2.00010
【0061】
ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 29.23916
2 7 -17.11132
3 11 9.60458
4 14 -16.40287
5 16 39.98276
【0062】
〔硝材屈折率テーブル〕… 本従来例にて使用した媒質の波長別屈折率一覧
ガラス 587.56 656.27 486.13 435.83 404.66
L10 1.547710 1.545046 1.553762 1.558428 1.562261
L11 1.516330 1.513855 1.521905 1.526214 1.529768
L9 1.496999 1.495136 1.501231 1.504507 1.507205
L2,L3 1.806098 1.800248 1.819945 1.831174 1.840781
L6 1.834807 1.828975 1.848520 1.859548 1.868911
L4 1.743198 1.738653 1.753716 1.762047 1.769040
L7 1.808095 1.798009 1.833513 1.855904 1.876580
L5 1.922860 1.909158 1.957996 1.989717 2.019763
L1,L8 1.846660 1.836488 1.872096 1.894189 1.914294
【0063】
以下に図面を参照して光学素子、および複合型光学素子について説明する。この光学素子及び複合型光学素子は、本実施形態の材料組成物の硬化物を素材としている。
図5は、光学素子を成形する成形装置の一例を示す図である。
なお、光学素子は、上述のように、本実施形態の材料組成物を重合させた硬化物のみから構成される素子である。光学素子成形装置1は、筒状の金属製胴型2、所望の光学面3aを有する金属製の上型3、所望の光学面4aを有する紫外線を透過するガラスからなる下型4、上型3を上下に駆動するための駆動ロッド5、下型4から硬化した光学素子を離型するための離型筒6を備えている。
【0064】
筒状の金属製胴型2には、材料組成物を注入するための注入口7と、過剰の材料組成物を排出するための排出口8が設けられている。駆動ロッド4は図示しない駆動源によって、金属製胴型2内で上型3を上下に摺動する。また離型リング6は金属製胴型2の内周面に接して上下に摺動する。上型3および下型4の各光学面と、金属製胴型2の内周面とで光学素子成形用の成形室9が形成されている。
【0065】
光学素子の成形は以下の手順で行う。金属製の上型3とガラス製の下型4を、光学面3a、4aが対向するように金属製胴型2内に載置する。この時、上型3を、駆動ロッド5によって第一段階の所定高さに保持する。この第一段階の所定高さは、上型3が排出口8より上部に位置する高さである。上型3をこの高さに保持することによって、成形室9を形成する。
【0066】
次に光重合開始剤を含有させた本発明の材料組成物を、注入口7より注入して成形室9内に充填していく。この時、成形室9内を負圧にしておくと、材料組成物の注入時における気泡の巻き込みや、成形室内の空気残りを防ぐことができる。また材料組成物を注入しやすい粘度になるように温度調整すると良い。排出口8から材料組成物があふれ出てきた時点で成形室9内が充填されたものと判断して、材料組成物の注入を停止する。
【0067】
注入口7を塞ぎ、上型3を下方に押圧して第二段階の高さにする。このとき、さらに過剰の材料組成物が排出口8から流出する。次に下型4の下方より、紫外線を照射し材料組成物を硬化させる。なお、紫外線照射装置は離型リング6の下方に配置されているが、図示を省略している。材料組成物の硬化にともなう収縮にあわせて、上型3を下方にゆっくりと移動させる。収縮に連動させて上型3を下降させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。材料組成物が十分に硬化した後、駆動ロッド5を上昇させて上型3を離型させる。次に離型リング6を上に移動させて、下型4から硬化物を離型させる。このようにして材料組成物の硬化物を、所望の形状を有する光学素子として取り出すことができる。
【0068】
なお、図5において、光学面3a、4aがいずれも球面であれば球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が非球面であれば非球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が回折面であれば回折レンズがそれぞれ、光学素子として製造できる。
【0069】
また、複合型光学素子は、上記の材料組成物を光学基材の表面に載置した状態で硬化させて、光学基材と当該材料組成物の硬化物とを積層させることによって製造することができる。この複合型光学素子は、光学基材と材料組成物の硬化物の界面が、球面、非球面、自由曲面あるいは回折面である複合型光学素子となる。
【0070】
複合型光学素子に用いる光学基材としては、所望の形状に加工するときに欠け、表面変色、失透やあるいは濁り等の問題が起きない通常の光学用ガラス、光学用樹脂あるいは透明セラミックスを用いることができる。光学用ガラスとしては、石英、BK7(SCHOTT)、BACD11(HOYA)、BAL42、LAH53(オハラ社)等を挙げることができる。光学用樹脂としては非晶質ポリオレフィンであるゼオネックス(日本ゼオン)、ARTON(JSR)、アペル(三井化学)等、アクリル樹脂であるアクリペット(三菱レイヨン)、デルペット(旭化成)等を挙げることができる。
【0071】
光学基材の表面に本実施形態の光学用材料組成物を塗布等の方法によって載置し、所望の形になるようにその上面に型を接触させる。この際に用いる型は、金属製でもガラス製でも良いが、光学基材の反対面から紫外線を照射して当該材料組成物を硬化させる場合は、ガラス製の型を用いる。また、金属製の型を用いた場合は、光学基材の側から紫外線を照射して材料組成物を硬化させる。
【0072】
このような方法により、例えば、図6のような複合型光学素子を製造することができる。図6で示す複合型光学素子10は、光学基材11の表面に材料組成物の硬化物13が一体に形成されている。
【0073】
以下、複合型光学素子の製造方法について説明する。
図7は、複合型光学素子の製造装置の一例を説明する図であり、光軸から左側は断面を示す。複合型光学素子の製造装置20は、支持枠(図示しない)、支持台21、受け部22および保持筒23を備えている。支持台21は、支持枠により支持されている。受け部22は筒状の形状であって、支持台21に取り付けられている。受け部22には、ベアリングを内蔵した軸受け24が設けられている。
【0074】
保持筒23は、この軸受24を介して受け部22に取り付けられており、保持筒23は、この軸受24の作用によって受け部22に対して回転自在になっている。また、保持筒23には、その内周上部に、光学基材11の外縁部を受ける環状の係合縁25が設けられている。また、保持筒23の下部には、プーリ26が−体に形成されている。
【0075】
一方、支持台21の下側には、モータ27が固定されている。モータ27の駆動軸28には、プーリ29が取り付けられている。そして、プーリ29とプーリ26の間にベルト30が巻き掛けられている。これらにより、保持筒23を回転する回転機構を構成している。
【0076】
なお、軸受24は、それぞれ押さえリング31、32によって固定されている。すなわち、押さえリング31は受け部22のねじ部22aに、また押さえリング32は、保持筒23のねじ部23aにそれぞれ螺合している。これにより、受け部22と保持筒23の間に、軸受24を固定することができる。
【0077】
また、前記支持台21の上方には、支持手段35が設けられている。支持手段35は、上部金型3を上下動して、上部金型3を所望の位置に支持する支持手段35の支持柱36は支持台21の上面に固定されており、支持柱36にはシリンダ37が設けられている。そして、シリンダ37にはシリンダロッド38が取り付けられている。さらに、シリンダロッド38の先端には、上部金型3が取り付けられている。また、保持筒23の係合縁25に光学基材11を載置した状態で、光学基材11の光軸39と上部金型3の軸が一致するように、上部金型3が支持されている。
【0078】
以上に説明した複合型光学素子の製造装置を使用した複合型光学素子の製造方法を説明する。
所望の光学特性を有するレンズからなる光学基材11を、保持筒23の係合縁25によって位置決めされるように載置する。なお、光学基材11の表面11aの材料組成物形成面には、材料組成物とガラス製の光学基材との密着性を向上させるためのカップリング処理を施しても良い。次いで、光学基材11の表面11aに、材料組成物12を吐出手段(図示しない)によって所要量を吐出する。この時、材料組成物を吐出しやすい粘度になるように温度調整しておくと良い。
【0079】
次に、シリンダ35を作動させて、上型3を下降させて、上型3の光学面3aを、光学基材11の表面11aに吐出された材料組成物12に当接させる。さらに下降を続けることで、材料組成物12は所定の形状に展延される。なお、所定の形状まで展延する前に、上型3の下降を停止させる。この状態で、モータ27を作動させて保持筒23を回転させることによって、光学基材11を少なくとも1回転させる。
【0080】
図8は、材料組成物の展延状態を説明する図である。
光学基材11の表面11aに載せられた材料組成物12に、光学基材11の光軸39と上型3の軸が一致するように上型3を押し当てて、光学基材11側を少なくとも1回転させる。このようにすることで、材料組成物12は光学基材11の表面11aと上型3との間の空間を均一に延びて材料組成物層が形成される。
【0081】
その後、再びシリンダ37を作動させて、再び上型3を下降させる。そして、材料組成物12の層が所望の厚みと直径に達して所定の形状となったところで、上型3の下降を停止し、光学基材11の下側から紫外線照射装置(図示しない)にて紫外線を照射する。
【0082】
その結果、上型3と光学基材11の間にある材料組成物が硬化し、材料組成物の硬化物13を光学基材11の表面11aに−体に形成することができる。このとき、材料組成物の硬化物13の表面には、上型3の光学面3aが転写された光学面が形成される。そして、材料組成物の硬化物13の表面から上型3の光学面3aから硬化物を離型することにより、所望の形状を有する複合型光学素子を得ることができる。
【実施例】
【0083】
実施例1
(表面処理酸化スズ(VI)粒子の調製)
有機化合物(B1)としてイソボニルメタクリレート(表1においてIBMと記載)を、有機化合物(B2)として9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(表1においてBPEPAと記載)、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(表1においてDMTCAと記載)および1分子中のエチレンオキサイドの付加モル数が2であるビスフェノールAジメタクリレート(表1においてBA2Mと記載)を、表1に記載の配合量で混合した後、酸化スズ(IV)の微粒子(A)として平均粒径15nmで90%粒子径が20nmの粒子の表1に記載の量を混合した後に、重合開始剤(C)として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(表1においてHMFPOと記載)を表1に記載の量を混合して湿式ビーズミルによって、60℃に保持してビーズ径0.05mmのビーズを用いて1時間混合し材料組成物を得た。
【0084】
(光学素子の作製)
材料組成物を、直径20mm、厚さ1mmの大きさに成形し、波長400nmにおける紫外線を照度100mW/cm2 で100秒間照射し、さらに80℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。得られた硬化物について、屈折率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFおよび異常分散度ΔθgFを以下の方法により求めた。その結果を表2に示す。
【0085】
(1)屈折率の測定
硬化物のd線、C線、F線、g線における屈折率を精密屈折率計(島津デバイス製造製KPR−200)を用いて20℃60%RHの測定環境で測定した。
(2)アッベ数νdの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、
nC、nF、ngとするとき、アッベ数νdは以下の式2から計算した。
νd=(nd−1)/(nF−nC) …式2
(3)部分分散比θgFの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、nC、nF、ngとするとき、部分分散比θgFは以下の式3から計算した。
θgF=(ng−nF)/(nF−nC)……式3
【0086】
(4)異常分散度ΔθgFの算出
上記式2および式3により、それぞれの硬化物のアッベ数νd、部分分散比θgFをもとめ、横軸にアッベ数νd、縦軸に部分分散比θgFをとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうちNSL7(νd=60.5、θgF=0.5346:オハラ)およびPBM2(νd=36.3、θgF=0.5828:オハラ)基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(νd、θgF)を直線で結び、この直線と比較する硬化物のθgFおよびνdを示す座標との縦座標の差(ΔθgF)を異常分散度とした。
すなわち、基準分散ガラス2種を結ぶ直線の関係は、アッベ数νd0と部分分散比θgF0とすると式4で示される。式2から求めた硬化物のアッベ数をνd、式3から求めた硬化物の部分分散比をθgFとすると、異常分散度ΔθgFは式5から求めた。
θgF0=−0.001989×νd0+0.6551……式4
ΔθgF=θgF−θgF0
=θgF−(−0.001989×νd+0.6551)……式5
【0087】
(複合型光学素子の作製)
材料組成物とBK7(SCHOTT製)ガラスからなる基材を図7に示した成形装置を用いて、図6に示すような形状の複合型光学素子を作製した。いずれの場合でも波長400nmでの紫外線を照度100mW/cm2 の強度で100秒間照射し、さらに、80℃で1時間加熱して、図6に示す形状の複合光学素子を作製した。
なお、図6において、基材のガラスレンズは曲率半径R1=16mm、曲率半径R2=16mm、L1=20mm、L3=5mmである。この基材上に曲率半径R3=26mm、口径L2=16mmとなるように複合型光学素子を作製した。作製した複合型光学素子について、加工性を以下の方法で評価した。
【0088】
(5)加工性の評価
加工性は、作製した複合型光学素子の材料組成物の硬化した面について、表面形状粗さ測定機(テーラーホブソン社製 フォームタリサーフ PGIプラス)にて曲率半径を測定し、目的の曲率半径R3に対しての変形量を求めた。変形量が±2μm以内であれば「良好」、それ以上の場合は「不良」とした。
【0089】
実施例2〜4
材料の配合を表1に記載の配合比に変えた点を除き実施例1と同様に調製し、実施例1と同様に光学素子の作製を行い、実施例1と同様に評価を行いその結果を表2に示した。
【0090】
実施例5
有機化合物(B1)として、10−アクリロイルオキシ−10−メチルベンジルアントロン(表1においてAMBAと記載)の表1に記載の量を用い、有機化合物(B2)として表1に記載の量を配合し、重合開始剤(C)としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(表1においてBTMPOと記載)を表1に記載の量を配合し、更に表1に記載の量の酸化スズを配合して実施例1と同様に材料組成物を調製し、実施例1と同様に光学素子の作製を行い、実施例1と同様に評価を行いその結果を表2に示した。
【0091】
実施例6
有機化合物(B1)として、1−アクリロイルオキシ-4−メトキシナフタレン(表1においてAMNと記載)とイソボニルメタクルート(表1においてIBMと記載)とを表1に記載の量を配合し、有機化合物(B2)、重合開始剤(C)、酸化スズ(IV)として表1に記載の種類と量を配合して実施例1と同様に材料組成物を調製し、実施例1と同様に光学素子の作製を行い評価を行いその結果を表2に示した。
【0092】
実施例7〜8
表1に記載の種類と量の物質を配合して実施例1と同様に材料組成物を調製し、実施例1と同様に光学素子の作製を行い、実施例1と同様に評価を行いその結果を表2に示した。
【0093】
比較例1〜2
表1に記載の種類と量の物質を配合して実施例1と同様に材料組成物を調製し、実施例1と同様に光学素子の作製を行い、実施例1と同様に評価を行いその結果を表2に示した。
【0094】
酸化スズ(IV)の微粒子(A)の含有量が60質量%である材料組成物を用いた比較例1は、酸化スズの量が多いために、高粘度で加工性が悪いものであった。
また、酸化スズ(IV)の微粒子(A)の含有量が1質量%である材料組成物を用いた比較例2では、色収差を補正できるアッベ数のものを得ることはできなかった。
【0095】
比較例3
酸化スズ(IV)の微粒子(A)の含有量が2質量%である材料組成物を用いた比較例3では、色収差を補正できるアッベ数ではない。また、有機化合物の質量比(B1)/(B2)が0であり、硬化による応力が大きいため硬化面の曲率半径の精度も悪い。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の材料組成物は、紫外線等の照射により容易に硬化物とすることができるので生産性が高く、その硬化物は十分な異常分散性を有するため、光学素子に用いることで色収差の少ない光学素子を得ることができる。また得られた光学用材料組成物は加工性に優れている。この硬化物からなる光学素子は、各種の光学機器に好適であり、光学系の色収差を小さくすることができ、また小型軽量化も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、使用例の無限遠物点合焦時の光学構成を示す光軸に沿う断面図である。
【図2】図2は、使用例の無限遠物点合焦時における球面収差、非点収差、歪曲収差、倍率色収差を示す図であり、(a)は広角端、(b)は中間焦点距離状態、(c)は望遠端での状態を示している。
【図3】図3は、従来例の無限遠物点合焦時の光学構成を示す光軸に沿う断面図ある。
【図4】図4は、従来の無限遠物点合焦時における球面収差、非点収差、歪曲収差、倍率色収差を示す図であり、(a)は広角端、(b)は中間焦点距離状態、(c)は望遠端での状態を示している。
【図5】図5は、本発明の材料組成物を重合させた硬化物のみから構成される光学素子を成形に用いる成形装置の一例を示す図である。
【図6】図6は、複合型光学素子の一例を示す図である。
【図7】図7は、複合型光学素子の製造装置の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の材料組成物の展延状態を示す図である。
【図9】図9は、異常分散度ΔθgFを示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1…光学素子成形装置、2…金属製胴型、3…上型、3a…光学面、4…下型、4a…光学面、5…駆動ロッド、6…離型筒、7…注入口、8…排出口、9…成形室、10…複合型光学素子、11…光学基材、11a…表面、12…材料組成物、13…材料組成物の硬化物、20…複合型光学素子の製造装置、21…支持台、22…受け部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ(IV)の微粒子(A)と、1分子中に芳香環、縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環から選ばれる官能基の少なくとも1つと1個以上の重合性官能基の両方を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)とを含む材料組成物の硬化物において、アッベ数νd、F線とg線の異常分散度ΔθgFとしたとき、10≦νd≦40 かつ 0.010≦ΔθgF≦0.075であることを特徴とする材料組成物。
【請求項2】
アッベ数νd、f線とg線の異常分散度ΔθgFとしたとき、10≦νd≦40 かつ 0.010≦ΔθgF≦0.075の請求項1記載の硬化物であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
光学基材の表面に、光硬化反応によって光学用の材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子であることを特徴とする請求項2記載の光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36037(P2013−36037A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174164(P2012−174164)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2008−131930(P2008−131930)の分割
【原出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】