説明

光学用フィルム

【課題】帯電防止性ハードコート層に特定構造の紫外線吸収剤を添加し、カール性の悪化を避けつつ十分な耐光性を有する光学フィルムを提供する。
【解決手段】透明基材フィルムの一方面に紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成されている光学用フィルムであって、ハードコート層は、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部、(B)4級アンモニウム塩系共重合体1〜20質量部、(C)2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(4−ビフェニル)−1,3,5−トリアジンと2−ヒドロキシプロパン酸エステルとの反応生成物からなる紫外線吸収剤1〜20質量部、(D)光重合開始剤0.1〜10質量部と、を含む塗布液を紫外線硬化させた厚み0.5〜10μmの層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層を備える、光学用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会において、電子ディスプレイ等の光エレクトロニクス機器はテレビジョンやパーソナルコンピュータのモニター用等として著しい進歩を遂げ、広く普及している。中でもプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称す)は電子ディスプレイパネルの大型化や薄型化に伴って注目を浴びている。
【0003】
これら電子ディスプレイパネルの表面には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やトリアセチルセルロース(TAC)等の透明機材フィルムを基材とする光学用フィルムが貼着されているが、PETやTACは絶縁特性が高い。そのため帯電しやすく、塵埃等の付着による汚れが生じ、使用する場合のみならずディスプレイ製造工程においても、帯電してしまうことにより障害が発生するといった問題があった。そこで、透明基材フィルムの上に積層されているハードコート層に、帯電防止剤を添加することが従来から行われている。例えば特許文献1では、光学用フィルムの透明性、耐久性の点から、帯電防止剤として4級アンモニウム塩系帯電防止剤が提案されている。
【0004】
また、電子ディスプレイは屋外や太陽光の当たる屋内で使用される機会が多い。その場合、光学用フィルムに使用されている透明基材フィルムやハードコート層は長時間太陽光(特に紫外線)に曝露することで劣化するため、長期の使用では透明基材フィルムとハードコート層との密着性が低下することが問題であった。そこで特許文献2では、トリアジン系紫外線吸収剤をハードコート層に添加することで、紫外線による劣化を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2010−119958号公報
【特許文献2】特開2009−294329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ハードコート層に帯電防止剤を添加していることで、帯電による塵埃付着の問題を解消している。しかし、太陽光(特に紫外線)による劣化の問題は解決されていない。
【0007】
一方、特許文献2は紫外線劣化の問題を改善するものであるが、従来のトリアジン系紫外線吸収剤では、性能的に必ずしも満足し得るものではなかった。したがって、十分な耐光性を得ようとすると、紫外線吸収剤の添加量が大きくなり、ブリードするという問題点があった。また、紫外線吸収剤の総量を確保するために、ハードコート層の膜厚を過剰に厚くすると、紫外線硬化型樹脂の硬化収縮が大きくなるため、ハードコート層を備える光学用フィルムがカールして、加工性が悪化する問題がある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的とするところは、4級アンモニウム塩系帯電防止剤を含有する帯電防止性ハードコート層に、短波長側にエネルギーの高い吸収波長を持つ特定構造の紫外線吸収剤を添加することで、その添加量の低減と薄肉化を実現でき、以ってカール性の悪化を避けつつ十分な耐光性を有する光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の光学用フィルムは、次のものである。
(1)透明基材フィルムの一方面に紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成されている、紫外線吸収性及び帯電防止性を有する光学用フィルムであって、前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層は、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部と、(B)下記一般式(1)で表される4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)と、1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)とをラジカル共重合して得られる4級アンモニウム塩系共重合体1〜20質量部と、(C)光の波長300〜350nmに吸収を持つ下記一般式(2)で表される紫外線吸収剤1〜20質量部と、(D)光の波長220〜400nmに吸収を持つ光重合開始剤0.1〜10質量部と、を含む紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた、厚みが0.5〜10μmの層であって、前記(B)4級アンモニウム塩系共重合体は、該4級アンモニウム塩系共重合体100質量部中、前記4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)を30〜70質量部、前記1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)を70〜30質量部含むことを特徴とする、光学用フィルム。
CH=C(R)COZ(CH(R・X ・・・(1)
(式中、RはHまたはCH、Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜4の炭化水素基、Zは酸素原子またはNH基、kは1〜10の整数、Xは1価のアニオンを表す。)
【化1】


(2)前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部に対してさらに(E)金属酸化物を10〜180質量部含むことを特徴とする、(1)に記載の光学用フィルム。
(3)前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の上に、該紫外線吸収性帯電防止ハードコート層よりも屈折率の低い低屈折率層が設けられていることを特徴とする、(1)または(2)に記載の光学用フィルム。
(4)前記透明基材フィルムの前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成された側とは反対の他方面に、近赤外線吸収性を有する近赤外線吸収性粘着層が設けられていることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の光学用フィルム。
なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、その下限(○○)及び上限(××)の数値を含む意味である。したがって、正確に表せば「○○以上××以下」となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、帯電防止ハードコート層に紫外線吸収剤を添加することで耐光性(紫外線吸収性)を付与でき、太陽光に暴露される環境においても、透明基材フィルムとハードコート層との密着性が低下することなく長期使用に耐え得る光学用フィルムとすることができる。
【0011】
そのうえで、紫外線吸収剤として、上記一般式(2)で表される特定構造のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を添加している。当該紫外線吸収剤は短波長側(紫外線領域)にエネルギーの高い吸収波長を持つので、少量の添加でも効率よく紫外線を吸収できる。したがって、紫外線吸収剤の添加量を低減でき、ハードコート層の膜厚も小さくできる。これにより、カール性等の悪化を防止しつつ、良好な耐光性を有する光学用フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の光学用フィルムは、テレビやモニター等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)におけるPDPに適用されるものであって、透明基材フィルムの一方の面に、少なくとも紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成されている。
【0013】
<透明基材フィルム>
光学用フィルムに用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されない。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、またはポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。これらのうち、ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性の点で好ましい。
【0014】
透明基材フィルムの厚みも特に限定されないが、一般的には25〜400μmであり、好ましくは50〜200μmである。透明基材フィルムの厚みが25μmより薄い場合や400μmより厚い場合には、光学用フィルムの製造時及び使用時における取り扱い性が低下してしまう。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤としては、例えば紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤などが挙げられる。
【0015】
<紫外線吸収性帯電防止ハードコート層>
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層は、(A)紫外線硬化型樹脂と、一般式(1)で表される4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)、及び1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)を必須の構成成分とする(B)4級アンモニウム塩系共重合体と、(C)一般式(2)で表されるヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤と、(D)光重合開始剤とを含む紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液を、紫外線硬化させた層である。紫外線吸収性帯電防止ハードコート層は、前記各成分を含む紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液に紫外線を照射して硬化することにより形成される。
【0016】
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の厚みは、少なくとも0.5〜10μmとし、好ましくは1〜6μmとする。紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の厚みが0.5μm未満では、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層中への紫外線吸収剤の添加量にも限界があるので、結果として光学フィルムにおける紫外線吸収剤の量が相対的に少なくなり、十分な紫外線吸収効果を得られない。一方、10μmを超えると、硬化時のカールを低減することができなくなる。
【0017】
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の屈折率は、1.45〜1.70程度であればよい。なお、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層には、該紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の屈折率調整剤として、必要に応じて(E)金属酸化物が含有されていてもよい。
【0018】
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層を透明基材フィルム上に設ける方法としては、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液をウェットコート法により塗布する方法であれば特に制限されず、例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
【0019】
<(A)紫外線硬化型樹脂>
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層を形成する紫外線硬化型樹脂としては、この種の光学用フィルムにおいて従来から一般的に使用されている、紫外線を照射することにより硬化反応を生じる公知の樹脂であればその種類は特に制限されない。そのような樹脂として、例えば単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂などである。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。また、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル系、及び(メタ)アクリロイルの記載も同様である。
【0020】
<(B)4級アンモニウム塩系共重合体>
4級アンモニウム塩系共重合体は、帯電防止剤として添加され、下記一般式(1)で表される4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)、及び1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)を必須の構成成分とする。
CH=C(R)COZ(CH(R・X ・・・(1)
(式中、RはHまたはCH、Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜4の炭化水素基、Zは酸素原子またはNH基、kは1〜10の整数、X−は1価のアニオンを表す。)
【0021】
<4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)>
4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)は、前記一般式(1)で表され、その構造中に4級アンモニウム塩を含有する(メタ)アクリル類であれば特に制限さない。そのような化合物として、例えば、アミノ基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0022】
一般式(1)におけるRである炭素数が1〜4の炭化水素基は、置換又は無置換のものが選択できる。Rの炭素数が5よりも大きい場合、生成される(B)4級アンモニウム塩系共重合体の疎水性が高まる結果、(B)4級アンモニウム塩系共重合体を含有する紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の吸湿性が低下し、良好な帯電防止性能を得られない場合がある。
【0023】
一般式(1)におけるRは、無置換のものが好ましく、無置換のアルキル基がより好ましい。無置換のアルキル基としては、分岐を有するもの、有しないもの、いずれをも使うことができる。無置換のアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基やエチル基等の無置換のアルキル基を有するものが入手し易いという点で好ましい。
【0024】
一般式(1)におけるZが酸素原子の4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)を形成するためのアミノ基を有する(メタ)アクリレート類の例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩などである。
【0025】
一般式(1)におけるZがNH基の4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)を形成するためのアミノ基を有する(メタ)アクリルアミド類の例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩などである。
【0026】
<1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)>
1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(b−2)としては、エチレン性不飽和基を1つ含有するモノマーであれば特に限定されない。そのような化合物として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。また、化合物(b−2)は2種類以上を併用しても良い。
【0027】
(B)4級アンモニウム塩系共重合体は、化合物(b−1)・(b−2)をラジカル共重合して得ることができる。化合物(b−1)・(b−2)の使用量は、4級アンモニウム塩系共重合体の合計100質量部中、化合物(b−1)は、帯電防止性能の観点から30〜70質量部、化合物(b−2)は、生成される(B)4級アンモニウム塩系共重合体の帯電防止性、溶解性を整える目的で70〜30質量部とする。
【0028】
(B)4級アンモニウム塩系共重合体の使用量は、(A)紫外線硬化型樹脂100重量部に対し、1〜20重量部であり、3〜10重量部がより好ましい。1重量部未満では十分な帯電防止性能を得ることができず、20重量部を超えると形成される紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の耐擦傷性が低下する。
【0029】
<(C)紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤は、光の波長300〜350nmに吸収を持ち、下記一般式(2)〔2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン〕で表される。
【化2】

【0030】
紫外線吸収剤の含有量は、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部に対して1〜20質量部であり、5〜20質量部がより好ましい。紫外線吸収剤の含有量が20質量部よりも多い場合には、硬化性組成物の紫外線による硬化性が低下する傾向があると共に、光学用フィルムの可視光線透過率が低下するおそれもある。一方、1質量部より少ない場合には、光学用フィルムの紫外線吸収性を十分に発揮することができなくなる。
【0031】
紫外線吸収剤は、波長300〜350nmに吸収を持つ上記一般式(2)で表される紫外線吸収剤を少なくとも使用していれば、その他の波長に吸収を持つ紫外線吸収剤も併用することができる。また、無機系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)や酸化防止剤などの安定剤を併用してもよい。
【0032】
無機系の紫外線吸収剤としては、公知従来のものが使用できる。例えば酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。
【0033】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、公知従来のものが使用できる。例えばデカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケートの混合物、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン)等が挙げられる。
【0034】
<(D)光重合開始剤>
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層を形成する光重合開始剤としては、光の波長220〜400nmに吸収を持つものであれば、その種類は特に限定されない。光の吸収波長が400nmを超える光重合開始剤は少なくコストが嵩むと共に、紫外線による光重合開始能の発現が不足するおそれがある。一方、光の吸収波長が220nm未満の場合、オゾンが発生しやすくなるため好ましくない。なお、光重合開始剤の最大吸収波長は、300〜350nmの範囲外であることが好ましい。光重合開始剤の最大吸収波長が300〜350nmの範囲では、紫外線が紫外線吸収剤に吸収され、光重合開始剤の光重合開始能が十分に発現しないおそれがあるからである。
【0035】
光の波長220〜400nmに吸収を持つ光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどが挙げられる。中でも、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンが好ましい。
【0036】
光重合開始剤の含有量は、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部とする。光重合開始剤の含有量が0.1質量部未満の場合には紫外線硬化型樹脂の重合硬化が不十分となり、10質量部を越える場合には、光重合開始に使用されなかった光重合開始剤が残存し、可視光線透過率が低下するなどの弊害が生じるおそれがある。
【0037】
<(E)金属酸化物>
金属酸化物は、必要に応じて紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液に含有させることにより屈折率を上昇する目的で添加するものであれば、その種類は特に制限されない。そのような金属酸化物としては、例えば酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化シラン、酸化インジウム錫などが挙げられる。金属酸化物は、微粒子状のものが好適に使用される。金属酸化物の含有量は、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部に対して10〜180質量部の範囲で、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層において求められる屈折率に応じて調整すればよい。金属酸化物の含有量が180質量部より多いときには、硬化性組成物の紫外線硬化性に支障をきたしたり、可視光線透過率が低下するなどの弊害が生じる恐れがあり、10質量部より少ないと、屈折率の調整効果が小さくなる。
【0038】
<低屈折率層>
低屈折率層は、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層よりも屈折率の低い層であり、電子ディスプレイの画像表示に影響を与える蛍光灯などの外光の反射や映り込みを防止する層である。低屈折率層は、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の上(表面側)に設けられる。
【0039】
低屈折率層を形成する材料としては、屈折率が1.20〜1.50の範囲であれば、この種の光学用フィルムにおいて低屈折率層を形成する公知の材料を用いることができる。例えば、バインダー樹脂に、積極的に屈折率を低下させる中空シリカやフッ化マグネシウム等の低屈折率無機微粒子を添加したもの、あるいはフッ素系樹脂などを用いることができる。バインダー樹脂としては、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層を形成する(A)紫外線硬化型樹脂と同様の(メタ)アクリレート等を使用できる。低屈折率層は、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層と同様の方法で、低屈折率層塗布液を塗布硬化することで形成できる。
【0040】
<近赤外線吸収性粘着層>
近赤外線吸収性粘着層は、近赤外線吸収機能と粘着機能を併せ持った層であり、プラズマディスプレイの場合、パネルから発生する強度の近赤外線を吸収する層である。近赤外線吸収性粘着層は、この種の光学用フィルムにおいて従来から一般的に使用されている公知のものを特に制限無く使用でき、例えば変性(メタ)アクリル系重合体、重合性不飽和基を有するカルボン酸成分、光重合開始剤、シラン化合物、及び近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸収性塗布液に、紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化することにより形成される。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これに限られるものではない。
【0042】
(4級アンモニウム塩系共重合体の調整)
(B)4級アンモニウム塩系共重合体は、(b−1)及び(b−2)を下記表1に示す組成のように共重合することで得た。なお、表1中に示す各具体的材料は、次の通りである。
α1:ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級
一般式(1):R1=CH3、R=CH3、Z=O、k=2、X=Cl
α2:ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4 級
一般式(1):R1=H、R=CH3、Z=NH基、k=3、X=Cl
β1:ブチルメタクリレート
β2:ベンジルメタクリレート
【0043】
【表1】

【0044】
(紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液の調製)
紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液は、(A)紫外線硬化型樹脂と、(B)4級アンモニウム塩系共重合体と、上記一般式(2)の(C)紫外線吸収剤と、(D)光重合開始剤と、(E)金属酸化物とを、下記表2〜4に示す組成のように混合し、固形分濃度が40質量部となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液を得た。なお、表2〜4中に示す各具体的材料は、次の通りである。
A1:DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)
C1:BASFジャパン株式会社製の製品名:チヌビン479〔2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン〕
C2:BASFジャパン株式会社製の製品名:チヌビン123〔デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物〕
D1:BASFジャパン株式会社製の製品名:イルガキュア184
D2:BASFジャパン株式会社製の製品名:イルガキュア907
【0045】
(低屈折率層塗布液γ1の調製)
低屈折率層塗布液γ1は、粒子径が60nmの中空シリカ微粒子60質量部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)40質量部と、光重合開始剤〔BASFジャパン株式会社製の製品名:イルガキュア907〕2質量部とを、固形分濃度が5質量部となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して得た。
【0046】
(近赤外線吸収性粘着層塗布液δ1の調製)
アクリル系共重合体〔根上工業製の製品名:パラクロンAW4500H〕586質量部、酢酸エチル890質量部、ジブチル錫ラウレート0.3質量部を仕込み、撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート〔昭和電工(株)製の製品名:カレンズMOI〕1.8質量部を酢酸エチル120質量部に溶解し、前記混合物中に温度を40℃に保持しながら滴下した。滴下終了後、反応液の滴定分析により、イソシアネート基の消失を確認するまで40℃で5時間反応を継続することにより、変性(メタ)アクリル系重合体を得た。
【0047】
次いで、前記変性(メタ)アクリル系重合体を固形分換算で85.0質量部、アクリル酸〔大阪有機化学工業(株)製の製品名:98%アクリル酸〕15.0質量部、光重合開始剤〔BASFジャパン株式会社製の製品名:イルガキュア819〕0.7質量部、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業(株)製の製品名:KBE−9007〕1.5質量部、ビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)−N,N,N´,N´−テトラキス[p−フェニレンジアミン] 2.2質量部、テトラアザポルフィリン化合物〔山本化成(株)製の商品名:PD−320〕0.18質量部、メチルエチルケトン300質量部を混合して、近赤外線吸収性粘着層塗布液を得た。
【0048】
(光学用フィルムの作製)
<実施例>
ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、各実施例用の紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液を、グラビアコート法で乾燥膜厚が1μmになるよう塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、紫外線吸収性帯電防止ハードコートフィルムを作製した。
【0049】
<比較例1>
実施例1−1において、紫外線吸収性帯電防止性ハードコート層塗布液から(C)紫外線吸収剤を抜いた以外は、実施例1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0050】
<比較例2>
実施例1−1において、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液から(B)4級アンモニウム塩系共重合体を抜いた以外は、実施例1−1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0051】
<比較例3>
実施例1−1において、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液から(B)4級アンモニウム塩系共重合体と(C)紫外線吸収剤とを抜いた以外は、実施例1−1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0052】
<比較例4>
実施例1−1において、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の膜厚を0.1μmにした以外は、実施例1−1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0053】
<比較例5>
実施例1−1において、紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の膜厚を15μmにした以外は、実施例1−1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0054】
得られた各実施例及び比較例の光学用フィルムにおいて、耐光性や物理的特性(カール性)を測定し評価した。その結果も表2〜4に示す。なお、各項目の測定方法は次の通りである。
【0055】
(I)耐光性試験
<スーパーキセノン試験>
スーパーキセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機株式会社製)を用いて、照射照度180W/m、照射光の波長300〜400nm、BPT温度63±1℃の試験条件で100時間試験を行い、試験後、JIS D0202−1998に準拠して碁盤目剥離テープ試験を行った。セロハンテープ〔ニチバン(株)製、CT24〕を用い、光学用フィルムのハードコート層、あるいは低屈折率層に密着させた後剥離した。耐光性は密着性にて判定し、100マスのうち、剥離しないマス目の数を、○○/100として表した。例えば、全く剥離しない場合は100/100、完全に剥離する場合は0/100として表した。
【0056】
(II)表面抵抗率
JISK6911−1995に準拠して、デジタル絶縁計〔東亜ディーケーケー(株)
製、SM−8220〕を用いて測定した。
【0057】
(III)カール性試験
10cm×10cmのサイズの光学用フィルムを作成し、光学用フィルムを水平面に置いた際の4隅のカール高さを測定し、下記の基準により判定する。
○:カール高さが20mm未満
△:カール高さが20mm以上50mm未満
×:カール高さが50mm以上
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
表2〜4の結果より、各実施例の光学用フィルムは、キセノンランプによる劣化が抑えられ、密着性が良好であった。また、表面抵抗率及びカール性も良好であった。これに対し比較例1の光学用フィルムは、ハードコート層に(C)紫外線吸収剤が入っていないため、耐光性が著しく悪化した。比較例2の光学用フィルムは、ハードコート層に(B)4級アンモニウム塩系共重合体が入っていないため、表面抵抗率が著しく悪化した。比較例3の光学用フィルムは、ハードコート層に(B)4級アンモニウム塩系共重合体と(C)紫外線吸収剤が入っていないため、密着性及び表面抵抗率が著しく悪化した。比較例4の光学用フィルムは、ハードコート層の膜厚の薄膜化に伴う紫外線吸収剤の含有量低下のため、十分な紫外線吸収効果を得ることができず、密着性が悪化した。比較例5の光学用フィルムは、ハードコート層の膜厚が厚すぎるため、カール性が悪化していることが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方面に紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成されている、紫外線吸収性及び帯電防止性を有する光学用フィルムであって、
前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層は、
(A)紫外線硬化型樹脂100質量部と、
(B)下記一般式(1)で表される4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)と、1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)とをラジカル共重合して得られる4級アンモニウム塩系共重合体1〜20質量部と、
(C)光の波長300〜350nmに吸収を持つ下記一般式(2)で表される紫外線吸収剤1〜20質量部と、
(D)光の波長220〜400nmに吸収を持つ光重合開始剤0.1〜10質量部と、
を含む紫外線吸収性帯電防止ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた、厚みが0.5〜10μmの層であって、
前記(B)4級アンモニウム塩系共重合体は、該4級アンモニウム塩系共重合体100質量部中、前記4級アンモニウム塩基を有する化合物(b−1)を30〜70質量部、前記1つのエチレン不飽和基を有する化合物(b−2)を70〜30質量部含むことを特徴とする、光学用フィルム。
CH=C(R)COZ(CH(R・X ・・・(1)
(式中、RはHまたはCH、Rはそれぞれ独立して炭素数が1〜4の炭化水素基、Zは酸素原子またはNH基、kは1〜10の整数、Xは1価のアニオンを表す。)
【化1】

【請求項2】
前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が、(A)紫外線硬化型樹脂100質量部に対してさらに(E)金属酸化物を10〜180質量部含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】
前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層の上に、該紫外線吸収性帯電防止ハードコート層よりも屈折率の低い低屈折率層が設けられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の光学用フィルム。
【請求項4】
前記透明基材フィルムの前記紫外線吸収性帯電防止ハードコート層が形成された側とは反対の他方面に、近赤外線吸収性を有する近赤外線吸収性粘着層が設けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光学用フィルム。


【公開番号】特開2013−20111(P2013−20111A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153626(P2011−153626)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】