説明

光学用ポリエステルフィルム

【課題】ポリエステルフィルム上にハードコート層を設ける際に従来生じていた光学干渉を低減できる高屈折率の塗布層を有し、延伸工程における造膜性に起因する塗布層割れを解消することにより、塗布層に起因する表面ヘイズ特性に優れた光学用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた光学用ポリエステルフィルムであって、該塗布層がジオール成分として全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下の特定のフルオレン構造を有する成分を含むガラス転移温度90℃以上135℃以下のポリエステルAと、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下であるポリエステルBとを含有する光学用ポリエステルフィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学用ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくは、ポリエステルフィルム上にハードコート層を設ける際に従来生じていた光学干渉を低減できる高屈折率の塗布層を有し、かかる塗布層の透明性が高い光学用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレンジカルボキシレートなどの二軸配向フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ等の表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
液晶ディスプレイに代表される画像表示装置には、従来ガラス基板が用いられてきた。しかし近年、画像表示装置には、より一層の薄型化、軽量化、大画面化、形状の自由度、曲面表示などが求められている。そこで、重くて割れやすいガラス基板に代えて、高透明な高分子フィルム基板が検討されるようになってきている。
【0004】
一般に、エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子、特に有機EL素子のような自発光素子、電子ペーパーのような電子インクを用いた自己印字機能を有するディスプレイは湿度に対する耐久性に劣るため、フレキシブルディスプレイを作成する際にはガスバリア層の形成が不可欠である。このようなガスバリア層を形成する場合には、高分子フィルム上に直接積層する場合もあるが、微小な欠陥からガスバリア性能が低下するために、多くの場合、高分子フィルム上にハードコート層を積層したのちにガスバリア層を積層する方法が用いられている。
【0005】
一方、高分子フィルム上にハードコート層を積層した場合、ハードコート層と高分子フィルムとの屈折率の差が大きい場合には界面反射による干渉斑が生じ、ディスプレイに影響を与えることから干渉斑の低減が求められている。また、高分子フィルムとハードコート層との密着性を高めるために易接着層を介して積層することが検討されている。
【0006】
ハードコート層と高分子フィルム間で発生する界面反射を低減する方法として、例えば特許文献1において、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に設ける易接着層として高分子バインダーと微粒子の屈折率がともに1.50〜1.60の範囲のものを用いることにより、フィルムのヘイズ値を小さくし、界面反射を抑制する方法が提案されている。
【0007】
また、屈折率の高いハードコートとの界面反射抑制のために、例えば特許文献2にはポリエチレンテレフタレートフィルム上に屈折率の高い微粒子を用いた塗布層を設けることが提案されている。しかしながら、高屈折率の微粒子を添加する方法では大量に微粒子を添加しなければならず、フィルムのヘイズが高くなり、透明性の低下につながる。
【0008】
耐熱性に優れるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを樹脂材料とした二軸配向ポリエステルフィルムの場合には、ポリエステルフィルムの屈折率が1.7以上の高屈折率となるため、積層されるハードコート層との間で屈折率差が大きく、干渉斑がポリエチレンテレフタレートの時よりも生じやすいため、視認性の低下につながりやすい。このような高屈折率のポリエステルフィルム上にハードコート層を設けた場合に生じる干渉斑を低減するために、例えば特許文献3において、共押出によりポリエチレンナフタレンジカルボキシレート層の上に低融点のポリエステル層を設け、熱処理で屈折率を制御し、フィルム全体の面内方向の平均屈折率を1.70以下にする方法が提案されている。
【0009】
一方、耐熱性に優れる易接着層として、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンやナフタレンジカルボン酸を共重合成分とする共重合ポリエステルを用いた易接着層が特許文献4で提案されている。また、かかる共重合ポリエステルを含む易接着層は高い屈折率を有するため光学フィルムに使用できること、一方、水分散性が十分でないため、金属スルホネート基を有するジカルボン酸成分を共重合成分として一定量含有することが特許文献5に記載されている。
【0010】
このように、ポリエステルフィルムを高分子基材フィルムとして用いた場合、ハードコート層の屈折率に較べてポリエステルフィルムの屈折率が相対的に高いため、さらに易接着層を用いるに際して、ポリエステル基材フィルムと易接着層の界面反射を抑えることが光学干渉を解消する検討がなされており、ポリエステルフィルムと屈折率が近い易接着層として特許文献4や5に記載されているような共重合ポリエステルが検討されてきている。
【0011】
しかしながら、特許文献4や5に記載されているような共重合ポリエステル樹脂はもろく、製膜工程で易接着層を塗布した後の延伸工程での造膜性に乏しいため、塗布層の割れによる表面ヘイズ低下が生じ、その改善が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−284331号公報
【特許文献2】特開2004−54161号公報
【特許文献3】特開2004−98324号公報
【特許文献4】特開平10−110091号公報
【特許文献5】特開2009−242461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ポリエステルフィルム上にハードコート層を設ける際に従来生じていた光学干渉を低減できる高屈折率の塗布層を有し、延伸工程における造膜性に起因する塗布層割れを解消することにより、塗布層に起因する表面ヘイズ特性に優れた光学用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、塗布層を構成するバインダー成分として、フルオレン構造を有する高屈折率のポリエステルバインダ成分とともに、ガラス転移温度の低いポリエステルバインダを用いることにより、延伸工程における造膜性が向上し、延伸工程での塗布層割れが解消される結果、塗布層に起因する表面ヘイズ特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた光学用ポリエステルフィルムであって、該塗布層がジオール成分として全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下の下記式(I)で表わされるフルオレン構造を有する成分を含むガラス転移温度90℃以上135℃以下のポリエステルAと、
【化1】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素、炭素数1から4のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
ガラス転移温度が25℃以上80℃以下であるポリエステルBとを含有する光学用ポリエステルフィルムによって達成される。
【0016】
また本発明の光学用ポリエステルフィルムは、好ましい態様として、ポリエステルAとポリエステルBを合計した含有量が該塗布層の重量を基準として50重量%以上100重量%以下であり、かつポリエステルAとポリエステルBの合計量を基準としてポリエステルAの含有量が50重量%以上80重量%以下、ポリエステルBの含有量が20重量%以上50重量%以下であること、ポリエステルAがポリエステルAの全ジカルボン酸成分に対して40モル%以上99モル%以下の2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する成分を含むこと、該塗布層が塗布層の重量を基準としてさらに0.1重量%以上10重量%以下の範囲で界面活性剤を含有すること、該界面活性剤が炭素数16〜20の直鎖状不飽和脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物であること、該ポリエステルフィルムの構成成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、該塗布層の屈折率が1.60以上1.65以下であること、フィルムの表面ヘイズ値が0.1%以上1.5%以下であること、塗布層の上にさらにハードコート層が設けられていること、フレキシブルディスプレイ基板に用いられること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、特定成分の塗布層を有することでハードコート層を積層した際に干渉斑の発生を抑制でき、しかも塗布層の造膜性に優れるため、塗布層に起因する表面ヘイズ特性に優れており、例えば有機ELディスプレイや電子ペーパーなどのフレキシブルディスプレイ基板といった光学用フィルムとして用いた場合の視認性の向上に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステルフィルム>
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム(以下、基材層と称することがある)の少なくとも片面に塗布層が設けられた層構成からなる。
【0019】
以下、ポリエステルフィルムを構成する成分について説明する。
(ポリエステル)
本発明のポリエステルフィルムの主たる構成成分は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを重縮合して得られるポリエステルである。該ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが例示される。ここで主たるとは、ポリエステルフィルムの重量を基準として90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上であることを意味する。
【0020】
かかるポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、フレキシブルディスプレイなどの光学用に用いる場合には、耐熱性やガスバリア性などの観点から、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの中でもポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートがさらに好ましい。
【0021】
これらポリエステルは、ホモポリマーであっても共重合体であってもよい。共重合体である場合、主たる成分以外の共重合成分は、ポリエステルを構成する全繰返し単位の10モル%以下であることが好ましく、更に好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0022】
主たる成分以外の共重合成分として、トリメチレンジオール、テトラメチレンジオール、ヘキサメチレンジオール、ネオペンチルジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドジオール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物などのジオール成分;アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分が挙げられる。これらの化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0023】
これらの共重合成分の中でも、さらに好ましいジカルボン酸成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸のうち主成分以外の成分が挙げられる。また好ましいジオール成分として、ジエチレングリコール、トリメチレンジオール、ヘキサメチレンジオール、ネオペンチルジオール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0024】
ポリエステルは、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、ジオールとジカルボン酸をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0025】
ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40dl/g以上0.90dl/g以下であることがさらに好ましい。ポリエステルの固有粘度が下限値に満たない場合、フィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方、ポリエステルの固有粘度が上限値を超える場合、溶融粘度が高いため溶融押出が困難であるうえ、重合に長時間を要し生産性が悪くなることがある。
【0026】
(その他の成分)
本発明のポリエステルフィルムには、ポリエステル成分以外に、本発明の課題を損なわない範囲内で少量の樹脂成分を含んでもよく、その含有量は基材層の重量を基準として10重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムには、必要に応じて粒子を含有させてもよいが、透明性を良好にするために、フィルム中に含まれる粒子量は少ない方がよく、粒子を実質的に含有しないことが好ましい。粒子を用いる場合は、基材層の重量を基準として好ましくは0.0005〜0.01重量%の範囲で粒子を含むことができる。基材層の粒子含有量がかかる範囲であれば、フィルムの全光線透過率は85%を超えており、またフィルムのヘイズ値が1.0%以下となり、透明性に優れる。粒子はフィルム製膜時に添加することができる他、回収フィルム中に含まれる粒子であってもよい。
【0028】
粒子の種類は特に限定はされないが、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子が例示される。
【0029】
<ポリエステルフィルムの製膜方法>
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂組成物をフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃の温度で長手方向(以下、連続製膜方向、縦方向、MD方向と称することがある)、幅方向(以下、横方向、TD方向と称することがある)に倍率3.1倍〜4.5倍で二軸延伸することが好ましい。また長手方向の延伸倍率と幅方向の延伸倍率との差は0.5以下であることが好ましい。ここで、フィルム延伸温度の指標となるTgとは、基材層を構成するポリエステルのガラス転移温度を表わしている。
延伸は一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、長手方向、幅方向に同時に延伸してもよく、また長手方向、幅方向に逐次延伸してもよい。
【0030】
二軸延伸されたフィルムは、その後、(Tm−100)〜(Tm−5)℃の温度で1〜100秒間熱固定することが好ましく、より好ましい熱固定温度は200〜250℃、特に好ましい熱固定温度は220〜240℃である。かかる熱固定処理が施された二軸延伸フィルムに対してさらに0.5〜3%の弛緩率で熱弛緩処理を行うことにより、200℃における熱収縮率を0.1%以下にすることができる。ここで、熱固定温度の指標となるTmとは、基材層を構成するポリエステルの融点を表わしている。
このようにして得られたポリエステルフィルム基材層の屈折率は、例えばポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムである場合、フィルム面内方向において長手方向および幅方向とも1.70を超えるものである。
【0031】
<塗布層>
本発明では、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層(以下、塗膜、易接着層と称することがある)が設けられ、該塗布層は、特定のフルオレン構造を有するジオール成分を一定量含有するガラス転移温度90℃以上135℃以下のポリエステルAと、ガラス転移温度が25℃以上80℃以下であるポリエステルBとを高分子バインダーとして含有するものである。
【0032】
(ポリエステルA)
塗布層を構成するポリエステルAは、ジオール成分として下記式(I)で表わされるフルオレン構造を有する成分をポリエステルAの全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下含み、ガラス転移温度が90℃以上135℃以下のポリエステルである。
【0033】
【化2】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素、炭素数1から4のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
【0034】
前記フルオレン構造を有する成分をジオール成分の1つとして用いて得られたポリエステルAを、塗布層の高分子バインダー成分として用いることにより、塗布層の屈折率が高くなり、隣接するポリエステルフィルムと屈折率が近くなる結果、界面反射が減少して光学干渉が低減される。また当該フルオレン構造を有する成分をジオール成分の1つとして用いて用いることにより、塗布層上に設けるハードコート層の形成に用いる溶剤への耐溶剤性、例えばメチルエチルケトン溶剤に対する耐溶剤性が向上する。
【0035】
前記フルオレン構造を有するジオール成分の具体例として、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレンが挙げられる。
【0036】
これらの中でも特に9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが好ましい。9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンは、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンにエチレンオキサイドを付加して得られる。
【0037】
かかるフルオレン構造を有するジオール成分の含有量は、ポリエステルAの全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下である。なお、本発明におけるジオール成分とはポリエステルを構成するモノマー成分の化合物を示したものであり、ポリエステル中においてはジカルボン酸成分とエステル化した状態で存在している。
かかるフルオレン構造を有する成分の含有量の下限値は25モル%であることが好ましく、30モル%であることがより好ましい。一方、フルオレン構造を有する成分の含有量の上限値は、好ましくは75モル%であり、さらには70モル%である。
該フルオレン構造を有する成分の含有量が下限値に満たないと、屈折率の向上効果が小さいのに加え、非晶性が不十分なため水分散化が難しくなる。該フルオレン構造を有する成分の含有量が多いほどこの効果が大きくなるが、上限値を超えるとハードコート層との接着性が低下したり表面が粗くなる。また上限値を超えると非晶性が大きくなりすぎ、フィルムの耐ブロッキング性が低下するだけでなく、ポリエステルAの製造における重合速度が低下する。
【0038】
ポリエステルAを構成するその他のジオール成分としては、エチレングリコールが挙げられ、ポリエステルAの全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下の範囲で含有することが好ましい。かかるエチレングリコールの含有量の下限値は好ましくは35モル%であり、さらに好ましくは40モル%である。またエチレングリコールの含有量の上限値は好ましくは75モル%、さらに好ましくは65モル%である。エチレングリコールの含有量が下限値に満たないと、フィルムの耐ブロッキング性が低下することがある。一方、エチレングリコールの含有量が上限値を超えると相対的にフルオレン構造を有するジオール成分の含有量が減るため、塗布層の屈折率低下につながる。
【0039】
ポリエステルAを構成する該フルオレン構造を有する成分、エチレングリコール以外のジオール成分として、例えば1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。またモノマー成分としては添加しないものの、重合過程で生じるジエチレングリコールを含んでいてもよい。これら他のジオール成分の含有量の下限値は5モル%であることが好ましい。一方、他のジオール成分の含有量の上限値は好ましくは40モル%であり、より好ましくは20モル%、さらに好ましくは10モル%である。
【0040】
ポリエステルAに用いられるジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸に由来する成分をポリエステルAの全ジカルボン酸成分に対して40〜99モル%含有することが好ましく、さらに2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する成分であることが好ましい。ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸を用いることにより、塗布層の屈折率がさらに高くなり、隣接するポリエステルフィルムと屈折率が近くなる結果、界面反射が減少して光学干渉が低減される。特に、ポリエステルフィルムの構成成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの場合は、ポリエステルフィルムとの屈折率差を小さくする観点で、ポリエステルAのジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0041】
ナフタレンジカルボン酸に由来する成分の含有量の下限値はより好ましくは50モル%であり、さらに好ましくは60モル%、特に好ましくは70モル%である。またナフタレンジカルボン酸に由来する成分の割合の上限値はさらに好ましくは95モル%である。
ナフタレンジカルボン酸に由来する成分の含有量が下限値に満たない場合、ポリエステルフィルムの種類によっては塗布層との屈折率差がまだ十分でないことがあり、光学干渉が生じることがある。一方、ナフタレンジカルボン酸に由来する成分の含有量が上限値を超えると、親水性有機溶媒へのポリエステルAの溶解が困難となり、水分散化が難しくなることがある。
【0042】
ポリエステルAに用いられる他のジカルボン酸成分として、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸に由来する成分をポリエステルAの全ジカルボン酸成分に対して0.1〜5モル%、および他の芳香族ジカルボン酸を0〜60モル%含有することが好ましい。スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸を共重合成分として含むことにより、ポリエステルAを水分散化させやすくなる。
【0043】
スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量の下限値は、より好ましくは1モル%、さらに好ましくは2モル%、特に好ましくは3モル%である。スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が下限値に満たない場合、ポリエステルAの親水性が低下し、水分散化が十分でないことがある。一方、スルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が上限値を超えると、フィルムの親水性が大きくなる結果、耐ブロッキング性が低下することがある。
【0044】
かかるスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−ホスホニウムスルホイソフタル酸が好ましく例示される。水分散性を向上させるには、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸がより好ましく、なかでも5−ナトリウムスルホイソフタル酸が最も好ましい。
【0045】
ポリエステルAのジカルボン酸成分として、屈折率特性の観点からナフタレンジカルボン酸に由来する成分を含有し、さらにポリエステルAを水分散化させやすい点からスルホン酸塩の基を有する芳香族ジカルボン酸に由来する成分を用いることが好ましいが、これらと一緒に他の芳香族ジカルボン酸を使用してもよい。他の芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸を挙げることができる。これらのなかでイソフタル酸が特に好ましい。
【0046】
他の芳香族ジカルボン酸の割合の下限値は3モル%であることが好ましく、より好ましくは5モル%である。また、他の芳香族ジカルボン酸の割合の上限値は、好ましくは50モル%であり、より好ましくは40モル%、さらに好ましくは30モル%である。
【0047】
ポリエステルAのガラス転移温度は90℃以上135℃以下であり、好ましくは100℃以上130℃以下である。かかるガラス転移温度は、ポリエステルAの構成成分およびその含有量が上述の範囲であることによって定まる。
【0048】
ポリエステルAの屈折率は1.60以上1.65以下であることが好ましい。ポリエステルAの屈折率は、さらに1.63以上1.65以下であることが好ましい。かかる屈折率特性は、ポリエステルAのジオール成分としてフルオレン構造を有するジオール成分を有し、さらにジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分を含むことで達成される。
ポリエステルAの固有粘度は0.2〜0.8dl/gであることが好ましい。かかる固有粘度はオルトクロロフェノールを用いて35℃において測定した値である。
【0049】
ポリエステルAは公知のポリエステルの製造技術によって製造することができる。例えば上述のジカルボン酸成分またはそれらのエステル形成性誘導体を上述のジオール成分と反応せしめてモノマーもしくはオリゴマーを形成し、その後真空下で重縮合することによって所定の固有粘度のポリエステルとする方法で製造できる。その際、反応を促進する触媒、例えばエステル化もしくはエステル交換触媒、重縮合触媒を用いることができる。また必要に応じて種々の添加剤、例えば安定剤等を添加することもできる。
【0050】
(ポリエステルB)
本発明の塗膜層は、ポリエステルAに加えて一定のガラス転移温度を有するポリエステルBが含まれている点に特徴がある。塗布層を構成するポリエステルBは、25℃以上80℃以下のガラス転移温度を有するポリエステルである。
かかる温度範囲のガラス転移温度を有するポリエステルBをポリエステルAと共に用いることにより、塗布層をポリエステルフィルム上に塗布し、その後フィルムに延伸処理を施す工程温度下で塗布層が十分に軟化し、ポリエステルAのもろさを改良して塗布層の造膜性を高めることができる。そして、塗布層の造膜性を高めることで塗布層表面が平滑になり、表面散乱が小さくなるため塗布層に起因する表面ヘイズを小さくすることができる。
【0051】
ポリエステルBのガラス転移温度の下限値は、好ましくは50℃、さらに好ましくは60℃である。またポリエステルBのガラス転移温度の上限値は、好ましくは75℃である。ポリエステルBのガラス転移温度が下限値に満たない場合は、ポリエステルAに由来する耐溶剤性が低下することがある。一方、ポリエステルBのガラス転移温度が上限値を超えると、塗布層の造膜性を高める効果が発現しない。
【0052】
ポリエステルBに用いられるジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、5−Naスルホイソフタル酸などが挙げられ、中でもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
またポリエステルBに用いられるジオール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられ、その他、グリセリンやトリメチロールプロパンなどのポリヒドロキシ化合物を少量の範囲で用いてもよい。その他、ポリエステルBの全ジカルボン酸成分のうち、少量、例えば20モル%以下の範囲内であればナフタレンジカルボン酸成分などを用いてもよい。
【0053】
これらのうち、特に好ましいポリエステルBとして、テレフタル酸をポリエステルBの全ジカルボン酸成分に対して90モル%以上含み、ジオール成分としてエチレングリコールおよびビスフェノールAを用いた共重合ポリエステルが挙げられ、エチレングリコールとビスフェノールAの割合を調整することで、ポリエステルBのガラス転移温度を調整することができる。
【0054】
ポリエステルBの屈折率は1.50以上1.59以下であることが好ましく、さらに好ましくは、1.55以上1.58以下である。
ポリエステルBもポリエステルAと同様、公知のポリエステルの製造技術によって製造することができる。
【0055】
(ポリエステルAおよびポリエステルBの含有量)
ポリエステルAとポリエステルBを合計した含有量は、塗布層の重量を基準として50重量%以上100重量%以下であることが好ましく、より好ましくは60重量%以上97重量%以下、さらに好ましくは60重量%以上95重量%以下である。塗布層中に占めるポリエステルAとポリエステルBの含有量がかかる範囲にあることにより塗布層の屈折率特性と造膜性の両方を良好なものとすることができる。
【0056】
また、ポリエステルAの含有量はポリエステルAとポリエステルBの合計量を基準として50重量%以上80重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは60重量%以上75重量%以下である。
またポリエステルBの含有量は、ポリエステルAとポリエステルBの合計量を基準として20重量%以上50重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは25重量%以上40重量%以下である。
【0057】
ポリエステルAの含有量がかかる範囲にあることにより、塗布層の屈折率特性を高めつつ、同時にフィルム延伸工程での造膜性を向上させることができる。一方、ポリエステルAの含有量が下限値に満たない場合や、ポリエステルBの含有量が上限値を超える場合は、塗布層の屈折率を十分に高めることができないことがある。一方、ポリエステルAの含有量が上限値を超える場合や、ポリエステルBの含有量が下限値に満たない場合は、ポリエステルBによるフィルム延伸工程での造膜性の向上が十分ではなく、塗布層に割れが生じて表面散乱が生じ、塗布層に起因する表面ヘイズが低下することがある他、ハードコート層との密着性に乏しくなることがある。
【0058】
(その他の高分子バインダー成分)
塗布層を構成するその他の高分子バインダーとして、必要に応じてさらにアクリル樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの変性体などを添加することもできる。ポリエステルAおよびBに加えて、これらの樹脂を少量併用することにより、屈折率特性に加えてハードコート層との接着性を高めることができる。ポリエステルAおよびB以外の高分子バインダー成分を用いる場合、その含有量は塗布層の重量を基準として40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは1〜20重量%である。
【0059】
(界面活性剤)
本発明の塗布層は、さらに界面活性剤を含有することが好ましく、界面活性剤を用いる場合は、塗布層の重量を基準として0.1重量%以上10重量%以下の範囲で界面活性剤を含有することが好ましい。また界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量は0.5重量%以上7重量%以下であることがさらに好ましい。かかる範囲で界面活性剤を含有することにより、ポリエステルAの水分散性を高めることができ、塗液中のポリエステルAの粒径が小さくなり、塗布層表面の平坦性がさらに高まるため、表面ヘイズ特性をさらに良好なものとすることができる。
かかる界面活性剤として、脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、それらの界面活性剤の中でも、特に炭素数16〜20の直鎖状不飽和脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物が特に好ましく例示される。
【0060】
(粒子)
本発明の塗布層は、有機ELディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイといった光学用途の基板フィルムとして用いた場合の視認性を高めるために、塗布層中の粒子含有量は、塗布層の重量を基準として1重量%以下であることが好ましい。また粒子含有量は、より好ましくは0.001〜0.8重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%である。塗布層における粒子は滑り性付与の目的でごく少量添加するものであり、粒子含有量をかかる範囲にとどめることにより、塗布層に起因する表面ヘイズ値を低減させることができ、さらにはフィルム全体のヘイズ値を低減させることができる。
【0061】
本発明は、ポリエステルAを主たる高分子バインダー成分として用いることにより、ハードコート積層時の干渉斑を低減することができる点に特徴があり、粒子による塗布層の高屈折率化の必要がないため、滑り性を損なわない範囲内で粒子含有量を少なくすることができる。
かかる粒子は、平均一次粒子径が5〜200nmであることが好ましい。粒子の平均一次粒子径が200nmを超えると光学散乱が発生し、塗布層の透明性が低下することがある。一方、粒子の平均一次粒子径が5nm未満であると粒子同士の凝集が多くなり、二次粒子径が大きくなるため光学散乱が発生し、塗布層の透明性が低下することがある。
【0062】
粒子の種類は特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機粒子を用いることができる。
【0063】
<塗布層の形成>
本発明の塗布層は、ポリエステルAおよびBを水分散体の状態で他の塗布層成分と混合し、塗布液の状態でポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布することにより形成される。
【0064】
ポリエステル水分散体は、以下の方法で製造するのが好ましい。
ポリエステルAおよびBは、20℃で1リットルの水に対する溶解度が20g以上でかつ沸点が100℃以下、または100℃以下で水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解することが好ましい。かかる溶解度を有するポリエステルと溶媒とを用いることにより、かかるポリエステルを水分散体にすることが可能となる。有機溶媒としてはジオキサン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンを例示することができる。かかる溶液にさらに小量の界面活性剤を添加することもできる。
【0065】
ポリエステルAおよびBを溶解した有機溶媒には、ついで攪拌下、好ましくは加温高速攪拌下で水を添加し、青白色から乳白色の分散体とする。また攪拌下の水に前記有機溶液を添加する方法によっても青白色から乳白色の分散体とすることもできる。
得られた分散体から有機溶媒を分離、除去することにより、目的のポリエステル水分散体が得られる。例えば得られた分散体から、常圧または減圧下で親水性の有機溶媒を蒸去する方法により、目的のポリエステル水分散体が得られる。またポリエステルAおよびBを水と共沸する親水性の有機溶媒に溶解した場合には、該有機溶媒を蒸去する時に水が共沸するので水の減量分を考慮し、前もって多めの水に分散しておくことが望ましい。
【0066】
加えて、有機溶媒を除いた後の固形分濃度が40重量%を超えると、水に分散するポリエステルの再凝集が起こり易くなり、水分散体の安定性が低下するため、水分散体の固形分濃度は40重量%以下とすることが好ましい。一方、固形分濃度の下限は、濃度が小さすぎると乾燥に要する時間が長くなるため、0.1重量%以上とするのが好ましい。かかる範囲内でも、本発明に用いる水性塗液の固形分濃度は、さらに塗液の重量に対して20重量%以下が好ましく、特に1〜10重量%であることが好ましい。この割合が1重量%未満であると、ポリエステルフィルムへの塗れ性が不足することがあり、一方、20重量%を超えると塗液の安定性や塗布層の外観が悪化することがある。
【0067】
水性塗液のポリエステルフィルムへの塗布は、任意の段階で実施することができるが、ポリエステルフィルムの製造過程で実施するのが好ましく、更には配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布するのが好ましい。
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、更には縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向せしめた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0068】
水性塗液をフィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施してもよい。
塗液の塗布量は、塗膜の厚さが後述の範囲となるよう調整して用いられる。塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組合せて用いることができ、中でもロールコート法が好ましく、ロールコート法の中でもグラビアコート法がさらに好ましい。
なお、本発明の塗布層はハードコート層を設ける側に設けることが好ましく、フィルムの片面のみに形成しても両面に形成してもよい。
【0069】
<塗布層厚み>
本発明の塗布層の厚みは50nm以上200nm以下であることが好ましい。塗布層厚みはさらに好ましくは80nm以上150μm以下、特に好ましくは80nm以上100nm以下である。塗布層厚みがかかる範囲にあることにより、ハードコート積層時の干渉斑を低減することができ、塗布層厚みがかかる範囲からはずれる場合はポリエステルAおよびポリエステルBを含む塗布層組成を用いていても干渉斑の低減効果が十分に発現しないことがある。また、塗布層厚みが上限値を超えると表面ヘイズが大きくなることがある。
【0070】
<フィルム特性>
(塗布層の屈折率)
干渉斑抑制の観点から、塗布層の屈折率は1.60以上1.65以下の範囲であることが好ましく、さらに1.62以上1.65以下であることが好ましく、特に1.63以上1.64以下であることが好ましい。
塗布層の屈折率をかかる範囲にする具体的方法として、高屈折率のポリエステルAのジオール成分としてフルオレン構造を有するグリコール成分を用い、さらにポリエステルAのジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いること、またポリエステルAをポリエステルBとともに使用する際のポリエステルAの割合が50重量%以上であることが挙げられる。
【0071】
(表面ヘイズ)
本発明のフィルムの表面ヘイズ値は、0.1%以上3.7%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以上2.5%以下、さらに好ましくは0.1%以上1.5%以下、特に好ましくは0.1%以上1.0%以下である。本発明のフィルムの表面ヘイズは塗布層の透明性を表わす指標であり、塗布層に起因する表面ヘイズ値がかかる範囲にあることにより、例えばフレキシブルディスプレイ基板といった光学用フィルムとして用いたときに視認性が良好なものとなる。塗布層を構成する成分の特性上、塗布層に起因する表面ヘイズ値を下限値よりも小さくすることは技術的に難しく、一方、かかるヘイズ値が上限値を超える場合は光線透過率が低下し、視認性が低減する。
【0072】
表面ヘイズ値をかかる範囲にするためには、塗布層を構成する高分子バインダーとしてポリエステルAに加えてガラス転移温度の低いポリエステルBを必須成分として用いることが挙げられる。またさらに本発明の界面活性剤を塗布層に含有させることによって、表面ヘイズを良好なものとすることができる。
【0073】
(熱収縮率)
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、200℃の温度で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向のそれぞれ0.1%以下であることが好ましい。また、それぞれの方向の熱収縮率の下限は−0.1%であることが好ましい。
該熱収縮率の下限は、好ましくはフィルムの長手方向及び幅方向のいずれも−0.05%、より好ましくは−0.03%、特に好ましくは0.00%である。また該熱収縮率の上限は、好ましくはフィルムの長手方向及び幅方向のいずれも0.08%、より好ましくは0.05%、特に好ましくは0.03%である。
【0074】
熱収縮率がかかる範囲を超える場合、基板フィルムに積層させるTFT層の熱処理温度である200℃前後の温度において、例えば電子ペーパー基板を熱処理すると、パターンにアライメントずれが生じ、解像度の低下につながることがある。
熱収縮率をかかる範囲にするための具体的方法として、二軸配向ポリエステルフィルムの製膜方法に記載した延伸倍率、熱固定処理および熱弛緩処理を用いる方法が挙げられる。
【0075】
(フィルム厚み)
本発明の光学用ポリエステルフィルムの厚みは、薄型フレキシブルディスプレイに適した厚みであることが好ましく、50〜300μmの範囲であることが好ましい。フィルム厚みは、さらに好ましくは100〜200μm、特に好ましくは100〜150μmである。フィルム厚みは、携帯性や曲げやすさの点でより薄い方が好ましい。ただし、下限に満たない場合は、フレキシブルディスプレイの基板フィルムとして十分に強度を保持することが難しいことがある。
【0076】
<ハードコート層>
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、塗布層の上にさらにハードコート層が設けられることが好ましい。
該ハードコート層としては、放射線硬化系またはシラン系の樹脂を用いることができ、特に放射線硬化系の樹脂を用いたハードコート層が好ましく、そのなかでも紫外線(UV)硬化系の樹脂を用いたハードコート層が好ましい。ハードコート層の形成に用いられるUV硬化系組成物としては、ウレタン−アクリレート系、エポキシ−アクリレート系、ポリエステル−アクリレート系などのUV硬化性組成物が挙げられる。
【0077】
本発明の光学用ポリエステルフィルムの塗布層上にハードコート層を積層するには、該塗布層上にハードコート層を構成する組成物を塗布し、加熱、放射線(例えば紫外線)照射等により該組成物を硬化させればよい。ハードコート層の厚さは、特に限定されないが、1〜15μmの範囲が好ましい。
【0078】
<光学用途>
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、例えば有機ELディスプレイや電子ペーパーなどのフレキシブルディスプレイ基板として好適に用いられる。
かかる光学用途に用いる場合、本発明の光学用ポリエステルフィルムの塗布層上にハードコート層を設け、その上にさらにガスバリア層、ITOなどの透明導電層などを積層する構成が例示される。
【0079】
本発明の光学用ポリエステルフィルムをかかるディスプレイ基板として用いることにより、ポリエステルフィルムと塗布層との界面反射が低減し、ハードコート積層時の干渉斑が少ないことにより視認性が向上する。また、フィルムの表面ヘイズ値が小さく透明性に優れるため、ディスプレイにしたときの視認性を高めることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0081】
(1)塗布層の構成成分の同定および定量
高分子バインダー組成物またはフィルム上に設けられた塗布層より、H、13C−NMR測定およびGC/MS測定によって、塗布層の構成成分の同定および定量を行った。
【0082】
(2)ポリエステルのガラス転移温度
ポリエステルサンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(デュポン社製・V4.OB2000型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で200℃まで昇温させてガラス転移温度を測定した。
【0083】
(3)塗布層厚み
エポキシ包埋樹脂でフィルムを固定して断面をミクロトームで50nm厚みに切断した。これを2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)を用いて、塗布層の厚みを測定した。
【0084】
(4)フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0085】
(5)フィルムの表面ヘイズ値
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘイズ測定器(NDH−2000)を使用し、フィルム1枚のサンプル、フィルムを2枚重ねたサンプル、フィルムを3枚重ねたサンプルについて、それぞれのフィルムヘイズを測定した。フィルムヘイズを測定するにあたり、フィルムを重ねた箇所はセダー油を間に入れて塗布層ヘイズをキャンセルさせ測定した。
フィルム枚数が増えることに伴うヘイズ増分はフィルムの内部ヘイズにあたり、フィルム1枚のフィルムヘイズ値から内部ヘイズを差し引いた値より、塗布層に起因する表面ヘイズを求めた。
【0086】
(6)フィルム屈折率
得られた二軸配向ポリエステルフィルムの塗布層未塗工面について、長手方向(MD方向)、幅方向(TD方向)、フィルム厚み方向(Z方向)それぞれの屈折率をアッベ屈折率計にて測定した。なお、本発明の塗布層は厚みが薄いため、塗布層が両面に形成されている場合は、塗布層上からアッベ屈折率計を用いて測定しても塗布層の屈折率の影響を受けず、二軸配向ポリエステルフィルムの屈折率を求めることができる。
【0087】
(7)塗布層の屈折率
日本分光製エリプソメータ(M−200)にて、得られたフィルムの塗布層塗工面について、測定された位相差(デルタ)と振幅(プサイ)より、波長550nmにおける塗布層の屈折率を求めた。なお基板屈折率として(6)の方法で得られた屈折率を用いた。
【0088】
(8)耐溶剤性
フィルムサンプル上にメチルエチルケトン(MEK)をスポイトで10滴滴下し、室温下で自然乾燥させる。十分乾いたら表面を光学顕微鏡で観察し、塗布層のテクスチャーにほとんど変化のないものを○、溶剤による膨潤痕、凹凸などが見られた場合は×とした。
【0089】
(9)反射率振幅(干渉斑に関する評価)
ハードコート層を形成したポリエステルフィルムの反対面を黒色マジックで塗りつぶし、反対面の反射光を無くし、分光光度計(島津製作所製UV−3101PC)を用いて分光反射率を測定した。波長500nm〜600nmでの反射率を測定し、その反射率の振幅を下記の基準で評価した。測定された反射率の振幅が大きいほど干渉斑が発生し、ディスプレイとしての視認性が低下する。
◎: 反射率振幅≦0.5% ・・・極めて良好
○:0.5%<反射率振幅≦1.0% ・・・良好
×:1.0%<反射率振幅 ・・・不良
【0090】
[実施例1]
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル100部およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行なった。途中反応温度が170℃に達した時点でリン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間0.11〜0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加し、エステル交換反応終了後、三酸化アンチモン0.024部を添加した。
その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.61dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを得た。
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、2mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。
【0091】
このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より900℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.3倍に延伸後、その両面に表1に示す塗剤の濃度6%の水性塗液をロールコーターで均一に塗布した。続いてテンターに供給し、145℃にて横方向に3.5倍に延伸した。
得られた二軸配向ポリエステルフィルムを、250℃の温度で40秒間熱固定し、厚み125μmのポリエステルフィルムを巻き取った後、IRヒーターによる加熱ゾーンを用いて処理温度200℃、弛緩率1.0%で幅方向に弛緩処理を行い、ポリエステルフィルムを得た。なお、塗膜の厚さは0.1μmであった。得られたポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
さらに、以下の組成からなるUV硬化系組成物をロールコーターを用いて、硬化後の膜厚が5μmとなるように、塗布層上に均一に塗布し、その後、80W/cmの強度を有する高圧水銀灯で30秒間紫外線を照射して硬化させ、ハードコート層を形成した。得られた積層フィルムの特性を表1に示す。
【0092】
[塗布層組成物]
(ポリエステルA) 酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸90モル%/イソフタル酸6モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸4モル%、ジオール成分がエチレングリコール25モル%/9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン60モル%/ジエチレングリコール15モル%で構成されている(Tg=115℃)。
かかるポリエステルAは、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、イソフタル酸ジメチル5.3部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル5.4部、エチレングリコール45部および9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン78.3部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.1部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。
次いで、この反応系にイルガノックス1010(チバガイギー社製)0.5部を添加した後、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を1mmHgまで減圧して過剰なエチレングリコールを除去しつつ重縮合反応を行ない、固有粘度0.48dl/gの共重合ポリエステルAを得た。この共重合ポリエステルA20部をテトラヒドロフラン80部に溶解し、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水180部を滴下して青みがかった乳白色の分散体を得た。次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。かくして固形分濃度10wt%のポリエステル水分散体を得た。
【0093】
(ポリエステルB) 酸成分がテレフタル酸97モル%/イソフタル酸1モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸2モル%、ジオール成分がエチレングリコール60モル%/ビスフェノールA40モル%で構成されている(Tg=70℃)。
かかるポリエステルBは、テレフタル酸ジメチル100部、イソフタル酸ジメチル3部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル1部、エチレングリコール26部およびビスフェノールA14部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブトキシチタン0.1部を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃にコントロールして加熱し、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行った。
次いで、この反応系にイルガノックス1010(チバガイギー社製)0.5部を添加した後、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を1mmHgまで減圧して重縮合反応を行ない、固有粘度0.48dl/gの共重合ポリエステルBを得た。この共重合ポリエステルB20部をテトラヒドロフラン80部に溶解し、得られた溶液に10000回転/分の高速攪拌下で水180部を滴下して青みがかった乳白色の分散体を得た。次いでこの分散体を20mmHgの減圧下で蒸留し、テトラヒドロフランを留去した。かくして固形分濃度10wt%のポリエステル水分散体を得た。
【0094】
(界面活性剤) 花王株式会社製の商品名「エマルゲン420」(組成:ポリオキシエチレンオレイルエーテル)を用いた。
[UV硬化組成物]
ペンタエリスリトールアクリレート :45重量%
N−メチロールアクリルアミド :40重量%
N−ビニルピロリドン :10重量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン: 5重量%
【0095】
[実施例2]
塗布層を構成するポリエステルAのジオール成分の割合を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0096】
[実施例3]
塗布層を構成するポリエステルAのジオール成分の割合を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0097】
[実施例4]
塗布層を構成するポリエステルAとポリエステルBの割合を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0098】
[実施例5]
塗布層を構成するポリエステルAとポリエステルBの割合を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0099】
[実施例6]
塗布層を構成する界面活性剤の種類を、C16飽和アルコールに酸化エチレン及び酸化プロピレンを各同量付加させて分子量を約1500としたものに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0100】
[実施例7]
塗布層の構成成分として界面活性剤を用いなかった以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0101】
[比較例1]
塗布層を構成する高分子バインダー成分としてポリエステルBを用いなかった以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0102】
[比較例2]
塗布層を構成するポリエステルBのジカルボン酸成分の種類および割合を表1に示すとおりに変更することにより、ポリエステルBのガラス転移温度を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0103】
[比較例3]
塗布層を構成するポリエステルBのジカルボン酸成分およびジオール成分の種類および割合を表1に示すとおりに変更することにより、ポリエステルBのガラス転移温度を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムおよび積層フィルムを得た。得られた特性を表1に示す。
【0104】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の光学用ポリエステルフィルムは、特定成分の塗布層を有することでハードコート層を積層した際に干渉斑の発生を抑制でき、しかも塗布層の造膜性に優れるため、塗布層に起因する表面ヘイズ特性に優れており、例えば有機ELディスプレイや電子ペーパーなどのフレキシブルディスプレイ基板といった光学用フィルムとして用いた場合の視認性の向上に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた光学用ポリエステルフィルムであって、該塗布層がジオール成分として全ジオール成分に対して20モル%以上80モル%以下の下記式(I)で表わされるフルオレン構造を有する成分を含むガラス転移温度90℃以上135℃以下のポリエステルAと、
【化1】

(R1は炭素数2から4のアルキレン基、R2、R3、R4、及びR5は水素、炭素数1から4のアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
ガラス転移温度が25℃以上80℃以下であるポリエステルBとを含有することを特徴とする光学用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルAとポリエステルBを合計した含有量が該塗布層の重量を基準として50重量%以上100重量%以下であり、かつポリエステルAとポリエステルBの合計量を基準としてポリエステルAの含有量が50重量%以上80重量%以下、ポリエステルBの含有量が20重量%以上50重量%以下である請求項1に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルAがポリエステルAの全ジカルボン酸成分に対して40モル%以上99モル%以下の2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する成分を含む請求項1または2に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
該塗布層が塗布層の重量を基準としてさらに0.1重量%以上10重量%以下の範囲で界面活性剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
該界面活性剤が炭素数16〜20の直鎖状不飽和脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物である請求項4に記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
該ポリエステルフィルムの構成成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜5のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
該塗布層の屈折率が1.60以上1.65以下である請求項1〜6のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
フィルムの表面ヘイズ値が0.1%以上1.5%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
塗布層の上にさらにハードコート層が設けられている請求項1〜8のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
フレキシブルディスプレイ基板に用いられる請求項1〜9のいずれかに記載の光学用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−131053(P2012−131053A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282971(P2010−282971)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】