説明

光学用ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】位相差フィルムなど光学基材に好適である耐熱性、波長分散性に優れた光学用ポリエステル樹脂に関し、重縮合時の過剰留出物を抑制した、製造安定性、品質安定性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】エステル交換反応前に全モノマー成分を仕込みエステル交換反応を経たのち重縮合してポリエステルを製造する方法において、チタン化合物を触媒としてエステル交換反応を行い、高耐熱、逆分散性ポリエステル樹脂を製造することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルム等の光学基材に好適な成形加工性と耐熱性、波長分散性等の物性を兼ね備えた光学用ポリエステル樹脂の製造方法である。詳しくは、エステル交換反応触媒にチタン化合物を使用することにより反応性の低い共重合成分が十分に反応するため、重合時の未反応物の飛散が抑制され、所望の特性が得られると共に、架橋反応などの副反応が起こりにくいため、位相差フィルムにしたときに波長分散性に優れたフィルムを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
光学用素子は古くから透明性に優れ複屈折が小さいガラスが多く用いられてきた。しかし成形性に劣り軽量化が困難なため、最近では成形性、軽量性に優れ特性制御も容易な高分子材料がディスク基板、レンズ、ケーブル、各種ディスプレイ用フィルム等に特性に応じて使用されている。
【0003】
そのなかで位相差フィルムやプリズムシートなどの機能光学フィルムは、ポリメチルメタクリレート(以下PMMA)やポリカーボネート(以下PC)、環状ポリオレフィン(以下COC)から構成され液晶ディスプレイなどに利用されている。しかし一般的に、PMMAは吸湿による寸法変化等が大きく、PCは溶融粘度が非常に大きいため成形加工が困難であり、COCは高コストでありフィルム成形も容易でない。
【0004】
例えば位相差フィルムは、複屈折を有することにより、X軸方向、Y軸方向とも同位相の入射光が、位相差フィルムを通過するとX軸方向とY軸方向の出射光に位相のズレを与える機能を有するフィルムを指し示し、たとえば液晶ディスプレイにおいて位相差フィルムは視野角補償、色補償、直線偏光の円偏光への変換、反射防止などの用途に用いられている。反射型および透過型液晶ディスプレイでは偏光板と位相差フィルムを組み合わせ、円偏光板として用いられている。円偏光板は、入射した無偏光の光を円偏光に変換する働きを持つ。ここで円偏光板に用いる位相差フィルムは全ての波長λ(nm)に対し波長の4分の1の位相差であることがよいが、これを1枚で満足するフィルムを得ることは困難であった。
【0005】
COCを用いた場合は、1枚以上の位相差フィルムと偏光板とを位相差フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸が特定の角度となるように積層する必要があり(特許文献1)、構成部材コストおよび貼合コストが大きく、ディスプレイの薄膜化、軽量化には限界がある。
【0006】
また、フルオレンなどのカルド基を有するモノマーをPCに共重合し、可視光領域において広帯域で、1枚で1/4波長に近い位相差が得られる熱可塑性フィルムが開示されている(特許文献2)。しかしこれらの樹脂は、溶融粘度が高いため、溶液流延法により製膜する必要があり、生産性が悪く、また用いる溶媒が環境に悪影響を与えるなどの問題があった。
【0007】
そこで溶融製膜性に優れるポリエステルフィルムとしてフルオレンを共重合したポリエステルフィルムが提案されている(特許文献3)。しかし本方法でも耐熱性、低光弾性係数などの特性を満足するには不十分で、さらに脂環族ジオールなど剛直成分を導入する必要がある。
【0008】
しかしフルオレンポリエステルの重合特性としてはフルオレンは嵩高いため重合反応性が悪く、さらに重合反応性が悪い脂環族など高分子量モノマーを共重合する場合には十分な分子量のものが得られない、反応の長時間化に伴い着色する、重合時に大量の未反応留出物が発生するといった問題が顕在化する。ここで重合時に未反応留出物が発生する場合には、生成物の組成が安定しないばかりか重合装置の真空ラインの汚染、詰まりを引き起こす。
【0009】
また、重合反応性の悪いモノマーを反応させるために触媒活性を上げると架橋反応など副反応が起こるが、我々の検討の結果、位相差フィルムなど延伸配向により位相差、波長分散性を制御する場合に樹脂の架橋があると延伸配向が阻害されるので位相差が低下し、波長分散性についても逆分散性が失われたり、小さくなることがわかっている。
【0010】
脂環族ポリエステルの製造方法に関する提案において、過剰留出物の抑制、架橋、ゲル化抑制に関するものとしては直接重合法において、まず環状アセタール骨格を有するモノマー以外の共重合成分でオリゴマーを製造した後、環状アセタール骨格を有するモノマーを添加し、チタン触媒下でエステル交換させ、その後高分子化をはかるという方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、該製造方法では環状アセタール骨格を有するジオールを効率良く反応できず、高分子化工程である重縮合反応において環状アセタール骨格を有するジオール成分が飛散するなどの問題が生じ、安定した生産が困難である。また、反応が多段であることもプロセス上、好ましくない。
【0011】
フルオレンポリエステルの製造方法についても過剰留出物の抑制に関する提案がされているが(特許文献5)主に重縮合工程に関する提案であり、エステル交換反応に関する提案はなく、本発明のエステル交換反応に関する提案と組み合わせることでさらに過剰な留出物の抑制をはかることができる。
【特許文献1】特開平5−2108号公報
【特許文献2】特開2005−156685号公報
【特許文献3】特開2006−215064号公報
【特許文献4】特開2006−226521号公報
【特許文献5】特開2008−81656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決した、耐熱性、波長分散性に優れた光学用ポリエステル樹脂、特に位相差フィルムに好適な光学用ポリエステル樹脂を製造する場合において、重合時の昇華物を抑制し、架橋反応など副反応を抑制した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】

上記課題を解決するため、本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)[請求項1]脂環族ジカルボン酸もしくはその誘導体を含む全モノマー成分をエステル交換反応器に仕込み、エステル交換反応を経た後に重縮合してポリエステルを製造する方法において、チタン元素として5ppm以上、100ppm以下のチタン化合物、およびチタン化合物以外の金属元素として200ppm以下の金属化合物を添加してエステル交換反応せしめ、次いで重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5ppm以上、500ppm以下添加して重縮合反応することにより下記特性(1)、(2)を満足する光学用ポリエステル樹脂を製造することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
ガラス転移温度が100℃以上・・・(1)
位相差の波長分散性が負・・・(2)
(2)モノマー成分であるジオール成分として化学式(1)で表せる環式ジオールのジオール残基を有することを特徴とする(1)の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
は同一、または異なる炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜3の整数を示す。
は同一、または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜4の整数を示す。
(3)チタン元素を含むチタン化合物がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基または水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していることを特徴とする(1)または(2)記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(4)アルコキシ基がβ−ジケトン系官能基、ヒドロキシカルボン酸系官能基およびケトエステル系官能基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする(3)記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(5)チタン化合物以外の金属元素がアルカリ土類金属、Zn、Co、またはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む金属化合物であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(6)3価のリン化合物を0.005〜1.0重量%重縮合反応前に添加することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(7)脂環族ジカルボン酸もしくはその誘導体成分が2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチルであり、全ジカルボン酸成分中5〜100モル%添加することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(8)ジオール成分としてスピログリコールを全ジオール成分中5〜80モル%添加することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法で得たポリエステル樹脂
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐熱性に優れ、光弾性係数が小さく、位相差フィルムとしたときに優れた波長分散性を示す光学用ポリエステル樹脂の安定した製造方法を提供することができる。すなわち重合時の昇華物が少なく、製造安定性、製品の品質安定性に優れた製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリエステルの製造方法はエステル交換反応から重縮合反応を経て製造される方法において、スピログリコールをはじめ高分子量脂環族成分を効率よく反応させる目的と架橋反応抑制のためにエステル交換反応において反応活性の高いチタン触媒を用いてエステル交換反応を行うことを特徴とする。本発明においてはエステル交換触媒にチタン元素として5ppm以上、100ppm以下のチタン化合物を添加する必要がある。100ppmを越える場合は添加するチタン元素が増えることにより熱安定性が劣り、ゲル化や黒色異物化が促進される傾向にある。一方、5ppm未満の場合は、エステル交換反応が十分完結しなかったり、反応時間が遅延することや重縮合反応において未反応物が真空回路に飛散し、目標のポリエステルが得られない。好ましいチタン元素の添加量は7〜70ppm、より好ましくは10〜50ppmである。チタン触媒は重縮合反応においても活性を有するが、一般的にアンチモン触媒、ゲルマニウム触媒等の重縮合触媒と比較し触媒の酸性度が低く、環状アセタール骨格を有するモノマーを使用した場合に、特に他の触媒金属種で顕著である開環、多官能化、ひいては架橋などの副反応が進行しにくい。ここで、重縮合触媒として活性を有するチタン元素をエステル交換反応触媒として使用することにより、後工程の架橋などの副反応を誘起する金属元素からなる重縮合触媒濃度を低減することができる。
【0019】
また、本発明のポリエステルの製造方法における、エステル交換反応においてチタン元素化合物は高温活性触媒であるために助剤として、チタン元素化合物以外の金属元素化合物を加えることも好ましく、その添加量は200ppm以下であり、好ましくは150ppm以下、より好ましくは100ppm以下である。200ppmを越える場合、添加する金属量が増えることから耐熱性に劣る傾向にありゲル化が促進される。
【0020】
エステル交換触媒のチタン以外の金属元素としては、アルカリ土類金属、Zn,Co,Mnから選択される元素を含有することが好ましい。なお、アルカリ土類金属元素ではCaは異物を形成しやすく、Mgが好ましい。Zn,Co,MnではMnが異物や色調の点から好ましい。このなかでもMgとMnが樹脂の透明性の観点から好ましく、特にMnが好ましい。
【0021】
本発明のポリエステルの製造方法としては、架橋抑制の観点から、エステル交換反応から重縮合反応により得られるポリエステルに対して、重縮合触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素の合計が5ppm以上、500ppm添加する必要がある。500ppmを越える場合は、重縮合活性が高すぎることから架橋が促進され好ましくない。また、5ppm以下の場合は重縮合活性が十分得られないために重縮合時間の延長や十分な重合度のポリマーが得られないため好ましくない。好ましい添加量は10ppm以上250ppm以下、より好ましくは10ppm以上100ppm以下である。
【0022】
本発明のポリエステルの製造法により得られたポリエステルは、ガラス転移温度(以下、Tg)が100℃以上であることが必要である。Tgが100℃未満の場合、耐熱性が不足するためにポリエステルまたはその成形体の光学特性が経時変化しやすく好ましくない。好ましくは110℃以上である。Tgの上限は特に設けないが250℃以上では溶融温度が高くなり、製膜、延伸コストが高くなるため好ましくない。Tgを該範囲に制御するには共重合成分にデカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造のような剛直な構造の脂環構造、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、9,9−ビスフェニルフルオレン構造などの芳香族構造などを高mol比で共重合していることが好ましい。
【0023】
また、本発明のポリエステル樹脂は位相差の波長分散性が負であることを特徴とする。位相差の波長分散性について詳しくは後述するが、負であることにより、位相差フィルムとしたときに、薄膜化などの高機能化をはかることができる。ポリエステル樹脂の波長分散性を負に制御するには、他の共重合成分により異なるが、一般にフルオレン環などのカルド構造をもつ共重合成分を一定以上共重合すればよい。
【0024】
以下、本発明の光学用ポリエステル樹脂の製造方法の具体例を記述する。
【0025】
本発明の樹脂の重合方法は、公知の重合法であるジカルボン酸とジオールを誘導体とする直接重合法、ジカルボン酸ジエステルとジオールを用いるエステル交換法の中で、エステル交換法に関する。ここで、エステル交換反応を阻害しない範囲において、ジカルボン酸をジカルボン酸ジエステルを含む全ジカルボン酸誘導体成分の30mol%以下含有し、ジカルボン酸ジエステルのエステル交換反応とジカルボン酸のエステル化反応を同じ反応槽中で行う方法も好ましく適用することができる。
【0026】
本発明のポリエステルのグリコール成分としては樹脂に化学式(1)で示されるフルオレン誘導体を含有することが好ましい。ここでフルオレン誘導体は耐熱性の付与の他に樹脂を位相差フィルムとした場合の波長分散性を向上させる効果がある。位相差フィルムとは、ある波長の光が通過する時に進相軸の位相と、遅相軸の位相に差を生じさせるフィルムであり、本発明において、位相差フィルムとは、例えば1/4波長の位相差を与えるλ/4位相差フィルム、1/2波長の位相差を与えるλ/2位相差フィルムや、視野角拡大フィルム、光学補償フィルムなど位相差を与える全てのフィルムをいう。
【0027】
ここで進相軸とは光が最も早く通過する面内の方向であり、遅相軸とは、これと直交する面内の方向である。
【0028】
例えば1/4波長フィルムは、可視波長域で位相差がそれぞれの波長の1/4であることが望ましい。ここで、波長X(nm)の位相差をR(X)(nm)と記載する。例えば簡単に可視波長域のR(450)、R(550)について説明すると、反射型液晶ディスプレイの位相差フィルムとして用いる場合、位相差フィルムを複数枚積層する方法ではなく1枚で全ての可視波長域の波長の位相差を理想値に近づける広帯域位相差フィルムとするためには、下式(1)を満たすことが好ましい。
【0029】
R(450)/R(550)=(450/4)/(550/4)=0.818 ・・・(1)
これに対し、通常のポリカーボネート、環状ポリオレフィンなどは下式(2)である。位相差の波長分散に関して下式(2)の状態を順分散であるという。
【0030】
R(450)/R(550)>1 ・・・(2)
一方、理想に近い下式(3)の状態を逆分散であるという。
【0031】
R(450)/R(550)<1 ・・・(3)
構成部材の削減及び貼合コストの削減から1枚で上式(3)を満たす位相差フィルムが求められている。本出願においては逆分散を示しR(450)/R(550)=0.818の近いフィルムを波長分散性に優れたフィルムという。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂は位相差の波長分散性が負であることを特徴とする。本発明において樹脂の波長分散性が負であるとは該樹脂からなる無配向単層フィルム(膜厚500μm以下)を延伸方向の両端を保持してTg+10℃のオーブン中で1%/秒の延伸速度、2倍以上の延伸倍率で一軸延伸した時の波長分散性が負であることを意味する。
【0033】
逆分散を得るための分子設計としては、分子内で複数の位相差フィルムが重ね合わされた場合と同じ効果があればよい。本出願においては、カルド構造を有する化学式(1)を含有するポリマーが、主鎖方向および主鎖に直交する方向に2種類の位相差フィルムを重ねあわせたのと同じ効果を発現し、逆分散性を示すことが可能となる。
【0034】
ここで化学式(1)のRは同一であってエチル基であることが好ましく、m=1であることが好ましい。アルキル基の炭素数が大きい場合はTgが下がることがあるので好ましくなく、m=0の場合は重合の反応性が低下し機械的強度が低下するので好ましくない。Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基であり、nはn=0〜4であれば良いが好ましくはn=0である。n≧1の場合は重合の反応性が低下し機械的強度が低下するので好ましくない。
【0035】
上記化学式(1)で表される構造単位の誘導体としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらの中でも、光弾性係数、耐熱性、重合性の観点から9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好ましい。また、これらの成分は単独でも2種類以上用いてもよい。また、これらフルオレン誘導体の仕込み組成としては特に制限されないが、ジオール成分、ジカルボン酸誘導体成分を含む全共重合成分中の5mol%以上40mol%以下が好ましく、さらに好ましくは10mol%以上35mol%以下である。本範囲よりも小さいと耐熱性、逆分散性を発現するのに不十分で、本範囲よりも大きいと重合反応性が低下し、光弾性係数も大きくなる。また、逆分散性発現に関しては、芳香環などの2重結合原子のないモノマーの共重合比率を大きくすることが有効である。
ジオール成分はフルオレン誘導体以外は特に制約はなく、各種ジオールを使用することができる。例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、などの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール等の飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等の飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、イソソルビドなどの各種脂環式ジオールやビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコールなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。しかし特に例示したグリコール成分に限定しない。
これらの中で耐熱性の観点からモノマーユニット分子量82以上のジオールが好ましく、ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール等の飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等の飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、イソソルビドなどの各種脂環式ジオールやビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコールなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールが好ましく、中でも環式ジオールが好ましい。また光弾性係数低減、波長分散性向上(2重結合原子濃度低減)の観点から例えばシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、デカリンジメタノール等が好ましく、スピログリコールが特に好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲において2種類以上組み合わせることができ、例えばスピログリコールとエチレングリコールの組み合わせにより耐熱性、光弾性係数と延伸性を調節することができる。本発明において特に好ましい共重合組成はスピログリコールを全ジオール成分中5〜80mol%共重合するものである。5mol%未満では十分に耐熱性を付与することができず、80mol%よりも大きいと重合反応性が低下し、重合所用時間が長時間化するため、ポリマーの着色など生成ポリマーの熱劣化を招く。
【0036】
また本発明のポリエステルのジカルボン酸成分としては特に制約はなく、一般的なポリエステル樹脂の原料を用いることができる。例えば芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、およびこれらの低級アルキルエステルなどのエステル形成性誘導体が挙げられる。本発明においてはエステル交換法を適用するのでカルボン酸の低級アルキルエステルが特に好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ベンジルマロン酸などが挙げられる。鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,3−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸、などの飽和脂環式ジカルボン酸や、cis−5−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、cis−1,2、3,6−テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸などの不飽和脂環式ジカルボン酸が例示できる。またジカルボン酸以外に多官能成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸成分も用いることができる。
これらの中で耐熱性向上、光弾性係数低減の観点から2,6−デカリンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく使用され、特に2,6−デカリンジカルボン酸が好ましい。本発明の目的を損なわない範囲で、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができ、例えばテレフタル酸、2,6−デカリンジカルボン酸を併用することで光弾性係数、耐熱性、位相差を調節することができる。本発明において特に好ましい共重合組成は2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチルを全ジオール成分中5〜100mol%共重合するものである。5mol%未満では十分に耐熱性を付与することができない。
【0037】
エステル交換反応触媒、重縮合触媒には特に制限されないが各種触媒を使用することができる。
【0038】
例えばエステル交換反応触媒ではチタン化合物以外ではアルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn,Co,Mnなどの金属化合物が好ましく用いられ、特にMnは活性が強く透明性に優れる点から好ましい。また、金属化合物はポリエステルに可溶なものが好ましく、特に酢酸塩が好ましい。
【0039】
光学用ポリエステル樹脂の重縮合触媒にはTi,Sb,Ge化合物を重合触媒として用いることが好ましい。これらの触媒は、ポリエステル樹脂に求められる特性に応じて使い分けたり、併用してもよい。
【0040】
本発明の製造方法において、エステル交換触媒、重縮合触媒としてのチタン元素化合物の置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基の少なくとも1種であるチタン化合物が好ましく用いられる。
【0041】
具体的なアルコキシ基には、テトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。
【0042】
また、アンチモン元素のアンチモン化合物およびゲルマニウム元素のゲルマニウム化合物としては三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムなどが挙げられ、これらは単独であっても併用であっても構わない。
【0043】
本発明のポリエステルの製造方法において、架橋や黒色異物抑制のための熱安定性の観点から、エステル交換反応から重縮合反応により得られるポリエステルに対して、リン化合物0.005〜1重量%を重縮合反応前に添加することが必要であり、リン化合物量は着色防止剤として用いるエステル交換反応触媒の失活剤として用いるリン化合物中のリン化合物と耐熱安定剤のリン化合物を含むものである。1重量%を越えると重縮合反応性に劣ることや、ゲル化や黒色異物化抑制に対する顕著な効果が得られない。0.005重量%未満ではゲル化や黒色異物化抑制に対する効果が得られないため好ましくない。リン化合物の添加量は、好ましくは0.006〜0.5重量%、より好ましくは0.7〜0.3重量%である。
【0044】
前記したリン化合物については特に限定されないが、リン化合物としては、例えばリン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系化合物等を挙げることができ、中でもこれらのエステル化合物が異物形成抑制の観点から好ましい。
【0045】
また、リン元素を含有したリン化合物の耐熱安定剤を加えることにより、よりゲル化や黒色異物化に対する効果がより得られる傾向にあり好ましい。特に3価のリンを含む耐熱安定剤が好ましい。前記した3価のリンを含む耐熱安定剤としては、市販の耐熱安定剤を適用することができ、このようなリン化合物として、例えば亜リン酸エステル、ジアリール亜ホスフィン酸アルキル、ジアリール亜ホスフィン酸アリール、アリール亜ホスホン酸ジアルキル、アリール亜ホスホン酸ジアリールを挙げることができ、具体的にはトリフェニルホスファイト、トリス(4−モノノニルフェニル)ホスファイト、トリ(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス[2,4−(ビス1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、3,9―ビス(2,4−ジクミルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、フェニル−ネオペンチレングリコール−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4―ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0046】
具体的に製造法を例示するとエステル交換法において、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコール、エチレングリコールを用いる場合、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコール、エチレングリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。この際、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加することにより反応性が良好になる。これらを150℃程度で溶融後、触媒としてクエン酸キレートチタン化合物、酢酸マンガンを添加し撹拌する。150℃で、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。エステル反応終了後、トリメチルリン酸を加え、撹拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に重合温度の285℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から0.1Torr以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定の撹拌トルクとなった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へストランド状に吐出する。吐出された樹脂は水槽で急冷し、巻き取り後カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入して5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去し、ファインも取り除く。このようにして本発明の樹脂を得ることができるが、上記方法に限定されるわけではない。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂は、フィルムとしての特性向上を目的として表面形成剤、加工性改善剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、可塑剤、防曇剤、着色剤、分散剤、赤外線吸収剤等の添加剤を添加することができる。
【0048】
添加剤は無色であっても有色であっても構わないが、光学フィルムの特徴を損ねないためには無色透明であることが好ましい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆などの処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0049】
なお、本発明の光学用ポリエステル樹脂は、フィルム化した場合の形状が他の光透過性フィルムとの積層フィルムであっても構わない。また、位相差フィルムとして使用する以外にも、フィルムに2色性色素を添加し、偏光板とすることも可能である。
また本発明方法で得られたポリエステル樹脂はプリズムシートやレンズシートに使用することも好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
(1)ガラス転移温度(Tg)
下記測定器を用いて測定した。
【0052】
装置:示差走査熱量計 DSC−7型(Perkin Elmer社製)
測定条件:窒素雰囲気下
測定範囲:25〜300℃
昇温速度:20℃/分
JIS−K7121(制1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸補講に等距離にある直線と、ガラス単位の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
(2)留出物重量X
重縮合反応終了後、反応系中の総留出物重量を算出した。具体的には重合槽壁、攪拌棒、減圧ラインに付着した昇華留出物量、減圧トラップ中の液状留出物重量を合計し、仕込み組成から算出されるエステル交換用過剰成分を差し引いた重量をXとした。
(3)ポリマーの固有粘度
オルトクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(4)波長分散性 R(450)/R(550)
下記測定器を用いて測定した。
【0053】
装置:自動複屈折計 KOBRA−21ADH/DSP (王子計測機器製)
測定径:φ5mm
測定波長:400〜800nm
波長x(nm)の時の位相差をR(x)(nm)と記載した。
【0054】
また、R(450)(nm)、R(550)(nm)の値は、次式のコーシーの式を用いて算出した。式のa〜dの算出に用いた波長は480.4nm、548.3nm、628.2nm、752.7nmの4つである。
【0055】
R(λ)=a+b/λ+c/λ+d/λ
算出したR(450)(nm)、R(550)(nm)からR(450)(nm)/R(550)(nm)を算出した。
【0056】
参考例1(チタン触媒A.クエン酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(284g、1.0モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下で蒸留・留去した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、その溶液を撹拌しながらNaOHの32重量%水溶液380gを滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、8.1モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。
【0057】
参考例2(チタン触媒B.乳酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた2Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(285g、1.0モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(218g、3.51モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応混合物を15分間撹拌し、その反応フラスコに乳酸アンモニウムの85重量%水溶液252gを加え、透明な淡黄色の生成物(Ti含有量6.54重量%)を得た。
【0058】
参考例3(チタン触媒C.チタンアルコキシド化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた2Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(285g、1.0モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(496g、8.0モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節した。その反応フラスコに、NaOHの32重量%水溶液125gを滴下漏斗によりゆっくり加えて透明な黄色の液体を得た(Ti含有量5.2重量%)。
【0059】
実施例1
2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸メチル(トランス比69%、以下DDC)46.4質量部、スピログリコール(以下SPG)33.3質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下BPEF)32.0質量部、エチレングリコール(以下EG)22.6質量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、温度計、攪拌機を備えたエステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として参考例で調整したチタン化合物Aを生成ポリマー量に対するチタン金属元素換算で50ppmとなるようエチレングリコール溶液を添加し撹拌した。
【0060】
30分かけて205℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸(以下TMPA)を生成物量対比1.38ppmおよび旭電化工業(株)製ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)(以下PEP36)を生成物量対比4.5ppm含んだEG溶液を加え、5分間攪拌してエステル交換反応を停止した。
【0061】
二酸化ゲルマニウムを生成物量対比リン元素換算で139ppm含んだエチレングリコール溶液を添加後、反応物を温度計、攪拌機、減圧装置を備えた重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から285℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ90分かけて減圧しエチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の撹拌トルクとなった時点で反応の終了とする。反応終了時は重合装置内を窒素ガスにて常温に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。吐出されたポリエステル樹脂は水槽で急冷後、カッターにてカッティングしチップとした。
【0062】
このようにしてポリエステルチップを得た。重合装置、トラップ等から回収された留出物からモノマー仕込み時のエステル交換用過剰EG22.6質量部と触媒希釈に用いたEG(これもエステル交換用過剰EG)を差し引いた留出物量Xは2.0質量部であった。
(ポリエステルの水処理)
得られたポリエステルチップは95℃のイオン交換水で満たされた水槽に投入し、5時間水処理した。水処理の終了したチップは脱水機によって水と分離した。
【0063】
仕込み組成、樹脂のTg、固有粘度、Xの結果を表1に示す。
(ポリエステルフィルムの製膜)
得られたポリエステル樹脂のチップを減圧乾燥した後、次のようなホットプレス法を用いて製膜した。金属板の上にポリイミドフィルムを重ね、そのポリイミドフィルム上に内側の枠が8cm四方である金属の枠を重ねた。金属の枠内の中央部にチップ3.5gを乗せた。さらにポリイミドフィルムと金属板を重ね、270℃で2分間予熱の後、10kgf/cmの圧力で10秒間プレスした。
【0064】
プレス終了後、フィルムを挟んだ金属板を水につけてフィルムを冷却固化し、金属枠からフィルムを切り出した。
【0065】
さらに切り出したフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、Tg+10℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。波長分散性の測定結果を表1に示す。
【0066】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0067】
実施例2
実施例1のエステル交換触媒であるチタン触媒添加量、およびリン化合物種・添加量、を変更し、リン化合物添加後の重縮合触媒としてエステル交換触媒と同じチタン化合物Aを追加添加し重合温度を260℃に変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0068】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0069】
実施例3
実施例1のエステル交換触媒であるチタン触媒種、チタン触媒添加量、およびリン化合物種、添加量を変更し、リン化合物添加後の重縮合触媒としてエステル交換触媒と同じチタン化合物Bを追加添加し重合温度を260℃に変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0070】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0071】
実施例4
実施例3のエステル交換触媒であるチタン触媒添加量を変化させた以外は実施例3と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0072】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0073】
実施例5
実施例1のモノマー組成をシクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(トランス比30%、以下CHDC)50mol%、BPEF30mol%、SPG20mol%とし、エステル交換触媒であるチタン触媒種、チタン触媒添加量、およびリン化合物種、添加量、重縮合触媒種、添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0074】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0075】
実施例6
実施例1のモノマー組成をDDC40mol%、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸(以下THPA)10mol%、BPEF30mol%、EG20mol%とし、エステル交換触媒であるチタン触媒種、チタン触媒添加量、およびリン化合物種、添加量、重縮合触媒種、添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0076】
この結果、重合時の過剰留出物量が少なく、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0077】
比較例1
実施例1のエステル交換触媒を酢酸マンガン4水塩およびKOHとし、いずれもEGスラリーで添加し、リン化合物種、添加量、重縮合触媒種、添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0078】
この結果、触媒活性が小さくなったことから実施例1と比較し重合時の過剰留出物量が多く、1軸延伸後のフィルムは逆分散性が低下した。また、SPG、BPEFの反応率が低いためかTgも低下した。
【0079】
比較例2
比較例1のエステル交換触媒のKOH添加をやめた以外は実施例1と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。触媒活性が小さくなったことから実施例1と比較し重合時の過剰留出物が多く、1軸延伸後のフィルムは逆分散性が低下し順分散であった。
【0080】
比較例3
比較例2の重縮合触媒種、添加量、重合温度を変更した以外は実施例1と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。触媒活性が小さくなったことから実施例1と比較し重合時の過剰留出物が多く、1軸延伸後のフィルムは逆分散性が低下した。また、SPG、BPEFの反応率が低いためかTgも低下した。
【0081】
比較例4
実施例5のエステル交換触媒を酢酸マンガン4水塩とし、EGスラリーで添加し、リン化合物種、添加量、重縮合触媒種、添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0082】
この結果、触媒活性が小さくなったことから重合時の過剰留出物量が多く、1軸延伸後のフィルムは実施例5と比較し逆分散性が低下した。
【0083】
比較例5
実施例6のエステル交換触媒を酢酸マンガン4水塩とし、EGスラリーで添加し、重縮合触媒種、添加量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0084】
この結果、触媒活性が小さくなったことから重合時の過剰留出物量が多く、1軸延伸後のフィルムは実施例1と比較し逆分散性が低下し順分散であった。
【0085】
比較例6
実施例1のエステル交換触媒量を変更した以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応および重縮合反応、製膜を行い、ポリエステル樹脂およびフィルムを得た。
【0086】
この結果、触媒活性が高すぎ樹脂がゲル化したため、1軸延伸後のフィルムは配向が進まず、実施例1と比較し逆分散性が低下し順分散であった。
なお、実施例、比較例で用いた原料の略号は以下の通りである。
CHDC:1,4−シクロヘキサンカルボン酸ジメチル
(シス体/トランス体=70/30)
DDC:2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル(トランス体69mol%以上)
THPA:cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸
BPEF:9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン
〔化学式(1)でRがエチル基、m=1、n=0に相当〕
SPG:スピログリコール
EG:エチレングリコール
TEPA:トリエチルホスホノアセテート
TMPA:トリメチルリン酸
TBT:テトラ−n−ブチルチタネート
X:重合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量
【0087】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環族ジカルボン酸もしくはその誘導体を含む全モノマー成分をエステル交換反応器に仕込み、エステル交換反応を経た後に重縮合してポリエステルを製造する方法において、チタン元素として5ppm以上、100ppm以下のチタン化合物、およびチタン化合物以外の金属元素として200ppm以下の金属化合物を添加してエステル交換反応せしめ、次いで重縮合反応触媒としてチタン元素、アンチモン元素およびゲルマニウム元素からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を各元素の合計が5ppm以上、500ppm以下添加して重縮合反応することにより下記特性(1)、(2)を満足する光学用ポリエステル樹脂を製造することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
ガラス転移温度が100℃以上・・・(1)
位相差の波長分散性が負・・・(2)
【請求項2】
モノマー成分であるジオール成分として化学式(1)で表せる環式ジオールのジオール残基を有することを特徴とする請求項1記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】

は同一、または異なる炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜3の整数を示す。
は同一、または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜4の整数を示す。
【請求項3】
チタン元素を含むチタン化合物がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基または水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していることを特徴とする請求項1または2記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
アルコキシ基がβ−ジケトン系官能基、ヒドロキシカルボン酸系官能基およびケトエステル系官能基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする請求項3記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
チタン化合物以外の金属元素がアルカリ土類金属、Zn、Co、またはMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含む金属化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
3価のリン化合物を0.005〜1.0重量%重縮合反応前に添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
脂環族ジカルボン酸もしくはその誘導体成分が2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸ジメチルであり、全ジカルボン酸成分中5〜100モル%添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
ジオール成分としてスピログリコールを全ジオール成分中5〜80モル%添加することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法で得たポリエステル樹脂。

【公開番号】特開2010−111815(P2010−111815A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286946(P2008−286946)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】