説明

光学用成形体用樹脂組成物及びその製造方法、光学用成形体

【課題】高耐熱性・高透明性・低複屈折率である樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、樹脂(A)と樹脂(B)とからなる相溶体と、ポリカーボネートとからなる光学用成形体用樹脂組成物であって、樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートの配合割合は、樹脂(A)37〜47%と、樹脂(B)13〜23%と、ポリカーボネート35〜45%であり、樹脂(A)は、スチレン単量体単位40〜60%、無水マレイン酸単量体単位0〜10%、及びN−フェニルマレイミド単量体単位55〜40%からなる共重合体樹脂であり、樹脂(B)は、アクリロニトリル単量体単位15〜35%、スチレン単量体単位85〜65%からなる共重合体樹脂である、光学用成形体用樹脂組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用成形体用樹脂組成物及びその製造方法、光学用成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性・透明性に優れた樹脂組成物として、特許文献1に記載のように、側鎖にイミド基を有する重合体と、ポリカーボネートと、芳香族ビニル共重合体とからなる樹脂組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−207346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、このような樹脂組成物は、車両のヘッドランプ等のランプ類、密閉型照明具、計器板等に利用されることが意図されている。このような用途に利用される場合、耐熱性及び透明性が重要であり、複屈折性は重要ではなかった。
しかし、高精度が要求される光学用成形体への応用を検討したところ、特許文献1に記載の樹脂組成物は、複屈折性が高いため、上記用途への適用が難しいことが分かった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高耐熱性・高透明性・低複屈折率である樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、樹脂(A)と樹脂(B)とからなる相溶体と、ポリカーボネートとからなる光学用成形体用樹脂組成物であって、樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートの配合割合は、樹脂(A)37〜47%と、樹脂(B)13〜23%と、ポリカーボネート35〜45%であり、樹脂(A)は、スチレン単量体単位40〜60%、無水マレイン酸単量体単位0〜10%、及びN−フェニルマレイミド単量体単位55〜40%からなる共重合体樹脂であり、樹脂(B)は、アクリロニトリル単量体単位15〜35%、スチレン単量体単位85〜65%からなる共重合体樹脂である、光学用成形体用樹脂組成物が提供される。
【0006】
本発明の特に優れている点は、高透明性と低複屈折率を両立させている点である。樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートは、それぞれ固有の屈折率と複屈折率を有しており、高透明性を実現すべく樹脂内での屈折率差が小さくなるように樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートを配合すると複屈折率が大きくなってしまったり、逆に樹脂全体の複屈折率を小さくすべく樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートを配合すると樹脂内での屈折率差が大きくなってしまったりするという問題があり、高透明性・低複屈折率を有する樹脂組成物を得ることは容易ではない。
【0007】
本発明者らは、このような状況において、以下の知見を得た。
(1)樹脂(A)と樹脂(B)が相溶しやすく容易に相溶体になること、また、これに対して、ポリカーボネートは、樹脂(A)や樹脂(B)とは容易に相溶しないこと。
(2)ポリカーボネートは、屈折率が樹脂(A)より小さく、樹脂(B)より大きいこと。
(3)ポリカーボネートは、正の固有複屈折率を有し、樹脂(A)及び樹脂(B)が負の固有複屈折率を有すること。
【0008】
そして、上記知見に基づき、樹脂(A)と樹脂(B)の配合比率を適切に調節して相溶体を形成すれば、相溶体の屈折率とポリカーボネートの屈折率を一致させることができること、及びこの相溶体とポリカーボネートとを固有複屈折率が打ち消し合うように配合すれば固有複屈折率を極めて小さくすることができるという知見を得た。
【0009】
そして、上記知見に基づき、樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートが上記配合割合になるように、相溶体とポリカーボネートを混合することによって、高耐熱性・高透明性・低複屈折率である樹脂組成物を得ることに成功し、本発明の完成に到った。この樹脂組成物を用いれば、高品質の光学用成形体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の光学用成形体用樹脂組成物について、詳細に説明する。本明細書において、組成物の配合割合を示す「%」は、質量%を意味する。
【0011】
本発明の光学用成形体用樹脂組成物は、樹脂(A)と樹脂(B)とからなる相溶体と、ポリカーボネートとからなる光学用成形体用樹脂組成物であって、樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートの配合割合は、樹脂(A)37〜47%と、樹脂(B)13〜23%と、ポリカーボネート35〜45%であり、樹脂(A)は、スチレン単量体単位40〜60%、無水マレイン酸単量体単位0〜10%、及びN−フェニルマレイミド単量体単位55〜40%からなる共重合体樹脂であり、樹脂(B)は、アクリロニトリル単量体単位15〜35%、スチレン単量体単位85〜65%からなる共重合体樹脂である。
【0012】
<1.樹脂(A)>
樹脂(A)は、スチレン単量体単位(SM)40〜60%、無水マレイン酸単量体単位(MAH)0〜10%、及びN−フェニルマレイミド単量体単位(NPMI)55〜40%からなる共重合体樹脂である。この共重合体樹脂は、例えば、スチレンと無水マレイン酸を共重合して得られた共重合体に対してアニリンを適量反応させることによって得ることができる。
【0013】
スチレン単量体単位は40%未満の場合、組成物の強度や屈折率が共に低くなり、60%を超えると組成物の耐熱性が低下する。無水マレイン酸単量体単位は10%を超えると熱安定性が悪くなり熱加工により組成物の成形品を得る際、外観不良を生じやすくなる。N−フェニルマレイミド単量体単位は50%を超えると組成物の耐熱性は向上するが強度が極端に低くなり、40%未満の場合、耐熱性が十分でない。
【0014】
スチレン単量体単位の含有量は、好ましくは51〜47%、無水マレイン酸単量体単位の含有量は、好ましくは1〜7%であり、N−フェニルマレイミド単量体単位の好ましい含有量は、100%からこれら二成分の含有量を引いた値になる。
【0015】
樹脂(A)の屈折率は、ポリカーボネートの屈折率(1.585)よりも大きく、1.586〜1.595であり、好ましくは1.589〜1.594である。
なお、本発明において、屈折率は、アタゴ社製アッベ式屈折率計(DR−M2)を用いて、実施例に記載の成形品にて測定する。
【0016】
樹脂(A)の固有複屈折率は、−0.064〜−0.043であり、好ましくは−0.056〜−0.051である。
なお、本発明において、固有屈折率は、位相差測定装置(王子計測社機器製KOBRA−WR)を用いて、実施例に記載の成形品にて測定し、前記屈折計で求めた測定波長590nmでの屈折率値を用いて成形品のリタデーション(以下「Re」、単位:nm)を測定する。
【0017】
樹脂(A)の重量平均分子量(以下Mw)は、好ましくは10万〜17万、さらに好ましくは12万〜15万の範囲である。Mwが17万を越えると得られたフィルムの透明性やフィルム成形性に劣るものとなる場合があり、Mwが10万未満であるとそのフィルム成形性やフィルム強度に劣る場合がある。
なお、本発明において、Mwは、GPCにて測定されるポリスチレン換算のMwであり、下記記載の測定条件で測定する。
装置名:SYSTEM−21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED−Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製し、Mwはポリスチレン換算値である。
【0018】
<2.樹脂(B)>
樹脂(B)は、アクリロニトリル単量体単位(PAN)15〜35%、スチレン単量体単位85〜65%からなる共重合樹脂である。この共重合体樹脂は、アクリロニトリルとスチレンを共重合させることによって得ることができる。アクリロニトリル単量体の割合が15%未満の場合組成物の耐熱性が低下し、35%を超えるとゲル生成など品質に問題がある。アクリロニトリル単量体の含有量は、好ましくは23〜33%である。
【0019】
樹脂(B)の屈折率は、ポリカーボネートの屈折率(1.585)よりも小さく1.570〜1.585であり、好ましくは1.572〜1.582である。
【0020】
樹脂(B)の固有複屈折率は、−0.087〜−0.072であり、好ましくは−0.084〜−0.074である。
【0021】
樹脂(B)のMwは、好ましくは11万〜20万、さらに好ましくは13万〜17万の範囲である。Mwが20万を越えると樹脂組成物のフィルム成形性や得られるフィルムの透明性が劣るものとなる場合があり、Mwが11万未満であると樹脂組成物のフィルム成形性やフィルム強度に劣るものとなる場合がある。
【0022】
樹脂(A)と樹脂(B)は、高い相溶性を有しており、樹脂(A)と樹脂(B)を一緒に溶融混練することによって、相溶体が形成される。相溶体の屈折率及び固有複屈折率は、樹脂(A)と樹脂(B)の間の値(配合割合に応じた値)になる。ポリカーボネートの屈折率は、樹脂(A)より小さく樹脂(B)より大きいので、樹脂(A)と樹脂(B)の配合割合を適切に設定することによって、相溶体の屈折率をポリカーボネートの屈折率の屈折率と一致させることができる。相溶体とポリカーボネートは異なる相になるので屈折率に差異があると透明性が悪化するが、樹脂(A)37〜47%と樹脂(B)13〜23%を配合して相溶体を形成すると屈折率が一致して透明性の悪化を防ぐことができる。
【0023】
<3.ポリカーボネート>
ポリカーボネートは、屈折率が1.585、固有複屈折率が0.100である。樹脂(A)及び樹脂(B)の固有複屈折率は負の値であり、ポリカーボネートの固有複屈折率が正の値であるので、樹脂(A)及び樹脂(B)とポリカーボネートの配合割合を適切に設定することによって、樹脂全体の固有複屈折率を極めて小さくすることができる。具体的には樹脂(A)37〜47%と樹脂(B)13〜23%の配合で形成された相溶体とポリカーボネート35〜45%とを混ぜ合わせることによって樹脂全体の固有複屈折率を極めて小さくすることができる。
ポリカーボネートの粘度平均分子量は、特に限定されないが、例えば1.5万〜3万である。粘度平均分子量が1.5万未満では組成物の強度が低下し、3万を超えると組成物の成形性が悪くなる。
【0024】
<4.樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、高耐熱性・高透明性・低複屈折率という光学用成形体の材料として、極めて優れた物性を有している。
【0025】
樹脂組成物は、射出成形体、シート、フィルム等公知の成形体で使用できるが、好ましくは、厚さ10〜300μmのフィルムで使用することが好ましい。厚さ10〜300μmのフィルムを得る方法には特に制限はないが、フィルム押出機を用いて溶融押出する方法が好ましい。
【0026】
本発明のフィルムは、位相差フィルム、反射防止フィルム、液晶保護フィルム等、公知の光学フィルム用途に使用することができる。
【0027】
<5.混練方法>
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートの3つを同時に混練することによっても一応は製造することができるが、その場合、樹脂(A)と樹脂(B)が適切に相溶しない場合がある。その場合、樹脂内での屈折率の差異が大きくなってしまい、透明度が低下してしまう。そこで、樹脂(A)と、樹脂(B)とを混練して相溶体を作成する第1混練工程と、前記相溶体とポリカーボネートとを混練する第2混練工程を備える方法によって製造することが好ましい。この場合、樹脂(A)と樹脂(B)とからなる相溶体が確実に形成され、その相溶体とポリカーボネートとが混練されるので、特性が均一な高品質な樹脂組成物が得られる。
【実施例】
【0028】
(樹脂Aの製造例)
攪拌機を備えたオートクレーブ中にスチレン60質量部、α−メチルスチレンダイマー0.05質量部、メチルエチルケトン100質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換後85℃に昇温し、無水マレイン酸40質量部とベンゾイルパーオキサイド0.15質量部をメチルエチルケトンに溶解した溶液を8時間に渉って連続的に添加した。添加後更に3時間、温度を85℃に保った。ここで得られた共重合体溶液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6部を加え140℃で7時間反応させた。反応液をベント付き2軸押出機に供給し、脱揮してマレイミド系共重合体を得た。C−13NMR分析より酸無水物基のイミド基への転化率は80モル%であった。このマレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸イミド誘導体としてのN−フェニルマレイミド単位を46質量%、スチレン単位47質量%、無水マレイン酸単位7質量%とを含む共重合体であり、重量平均分子量は14万であった。また固有複屈折率は−0.051であった。
【0029】
(樹脂Bの製造例)
攪拌機を備えたオートクレーブ中にスチレン71.5質量部、アクリロニトリル28.5質量部、第二リン酸カルシウム2.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.33質量部、t−ブチルパーオキシアセテート0.2質量部、水250質量部を仕込み、70℃に昇温し重合を開始させた。重合開始から7時間後、温度を75℃に昇温して3時間保ち、重合を完結させた。重合率は97質量%であった。得られた反応液に、5質量%塩酸水溶液200質量部を添加し析出させ、脱水、乾燥後、白色ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の組成はスチレン72質量%、アクリロニトリル28質量%、重量平均分子量は13万であった。また固有複屈折率は−0.077であった。
【0030】
(実施例1〜7及び比較例1〜3)
前記製造例で記した樹脂(A)と樹脂(B)を、表1で示した割合(質量%)でヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東芝機械社製 TEM−35B)にて、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化し、相溶体を得た。この相溶体とポリカーボネートを表1で示した割合(質量%)でヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東芝機械社製 TEM−35B)にて、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化して樹脂組成物を得た。
【0031】
(実施例8)
樹脂(A)と樹脂(B)とポリカーボネートを、表1で示した割合(質量%)でヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東芝機械社製 TEM−35B)にて、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化して樹脂組成物を得た。なおポリカーボネートは、ユーピロン(登録商標)E−2000(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量27000)を用いた。
【0032】
以上のように調整した樹脂組成物を名機社製射出成形機MDM−Iにて成形温度260℃、金型温度80℃で射出成形することにより、直径180mm、センターホー ル15mm、厚み1.2mmの光ディスク基板を得た。次に得られた光ディスク基板の特性評価を行った。その評価結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
(1)透明性
ASTM D1003に基づき、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH−1001DP型)を用いてヘーズを測定し、成形品内のヘーズ(単位:%)の最大値で示した。評価基準は以下の通りである。
◎:1%以下
○:1%より大きく、3%以下
×:3%より大きい
【0035】
(2)複屈折
「1.樹脂(A)」の項に記載の方法でリタデーション(Re)を測定し、成形品内のRe(単位:nm)の最大値で示した。評価基準は以下の通りである。
◎:20nm以下
○:20nmより大きく、50nm以下
×:50nmより大きい
【0036】
以上の通り、本発明の範囲内の樹脂組成物は、何れも高透明性・低複屈折率であった。実施例1の樹脂組成物は、特に高透明性・低複屈折率であった。樹脂三成分を同時に混合した実施例8では、透明性が若干劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と樹脂(B)とからなる相溶体と、ポリカーボネートとからなる光学用成形体用樹脂組成物
であって、
樹脂(A)、樹脂(B)、及びポリカーボネートの配合割合は、樹脂(A)37〜47%と、樹脂(B)13〜23%と、ポリカーボネート35〜45%であり、
樹脂(A)は、スチレン単量体単位40〜60%、無水マレイン酸単量体単位0〜10%、及びN−フェニルマレイミド単量体単位55〜40%からなる共重合体樹脂であり、
樹脂(B)は、アクリロニトリル単量体単位15〜35%、スチレン単量体単位85〜65%からなる共重合体樹脂である、光学用成形体用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物からなる光学用成形体。
【請求項3】
樹脂(A)と、樹脂(B)とを混練して相溶体を作成する第1混練工程と、
前記相溶体とポリカーボネートとを混練する第2混練工程とを備えた事を特徴とする、請求項1記載の光学用成形体用樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2013−107933(P2013−107933A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251840(P2011−251840)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】