説明

光学用成形体

【課題】本発明の目的は、光弾性複屈折が低く、透明性・色相・強度が良好で、かつ延伸配向させた場合に負の配向複屈折性を示す光学用成形体を提供するものである。
【解決手段】
下記共重合体(A)を含有する樹脂組成物であって、JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで測定したメルトマスフローレイト(MFR)が0.1〜3g/10分の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする光学用成形体。
共重合体(A):スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、構成する単量体の比率がスチレン系単量体単位70〜10質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30〜90質量%である共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管型テレビモニターに代わる薄型液晶表示素子や、エレクトロルミネッセンス素子などが開発され、透明樹脂材料をベースとした光学部品が軽量性、生産性及びコストの面から多用される状況にある。
【0003】
この分野にはメタクリル樹脂が広く使用されているが、メタクリル樹脂は、透明性や低複屈折等の光学特性が良好な反面、フィルム用途には強度が低いためロール状に巻き取れない等の課題があった。一方、光学フィルム用途にはトリアセチルセルロース(以下「TAC」)のフィルムが広く使用されてきたが、TACフィルムは溶液キャスト法で生産するため生産コストがかかり、安価な光学フィルムの出現が望まれている。
また最近では、外部からの応力に対し複屈折の発生しない様な、光弾性複屈折の低い光学フィルムが要望されている。
さらに、位相差フィルム用途ではポリカーボネートや非晶性の環状ポリオレフィンよりなる正の配向複屈折性を有するフィルムのみが使用されてきたが、正と負の配向複屈折性を有するフィルムを両方用いることで、工程の簡略化や生産性の向上を図れるため、負の配向複屈折性を示す光学フィルムの出現が待たれている。一方、負の配向複屈折性を示す光学フィルムとしては、例えば以下のようなものが知られているが、色相やコストの問題から、実用化には至っていない。
【特許文献1】特開2004−315788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光弾性複屈折が低く、透明性・色相・強度が良好で、かつ延伸配向させた場合に負の配向複屈折性を示す光学用成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)下記共重合体(A)を含有する樹脂組成物であって、JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで測定したメルトマスフローレイト(MFR)が0.1〜3g/10分の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする光学用成形体。共重合体(A):スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、構成する単量体の比率がスチレン系単量体単位70〜10質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30〜90質量%である共重合体。
(2)前記樹脂組成物が、前記共重合体(A)99.9〜90質量部とブタジエン系共重合体0.1〜10質量部からなることを特徴とする(1)に記載の光学用成形体。
(3)前記ブタジエン系共重合体が、下記ブタジエン系共重合体(B)、(C)から選ばれた1種以上からなることを特徴とする(1)または(2)に記載の光学用成形体。
共重合体(B):スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体であって、構成する単量体単位の比率がスチレン系単量体単位50〜20質量%、ブタジエン系単量体単位50〜80質量%である共重合体。但し、共重合体(A)と共重合体(B)の屈折率差の絶対値が0.005以下である。
共重合体(C):ブタジエン系ゴムの存在下でスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られた共重合体であって、構成する単量体単位の比率がスチレン系単量体単位35〜55質量%、ブタジエン系単量体単位5〜15質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位60〜30質量%である共重合樹脂。但し、共重合体(A)と共重合体(C)の屈折率差の絶対値が0.005以下である。
(4)前記樹脂組成物が、共重合体(A)〜(C)の合計100質量部に対して、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物から選ばれた1種以上の耐熱性安定剤0.01〜2質量部を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項記載の光学用成形体。
(5)光学用成形体が、光学フィルム用基材であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の光学用成形体。
(6)前記光学フィルム用基材が、光弾性定数が−2×10−12〜2×10−12/Paであることを特徴とする(5)に記載の光学用成形体。
(7)前記光学フィルム用基材を用いてなる光学フィルムであることを特徴とする(5)または(6)に記載の光学用成形体。
(8)前記光学フィルムが、位相差フィルムまたは反射防止フィルムであることを特徴とする(7)に記載の光学用成形体。
(9)前記光学フィルムが、延伸処理を施されたフィルムであることを特徴とする(7)または(8)に記載の光学用成形体。
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光学用成形体は、透明性・色相・強度が良好で、かつ光弾性複屈折が低いことから、位相差フィルム、偏光膜保護フィルム、視野角向上フィルム、偏光フィルムや反射防止フィルム等の光学フィルムのベースフィルムに適しており有用である。配向させた場合に負の配向複屈折性を示すため、特に位相差フィルムに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
共重合体(A)は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位で主に構成される。また、ブタジエン系共重合体は、ブタジエン系単量体単位を含む共重合体であって、好ましくは、共重合体(B)あるいは共重合体(C)である。共重合体(B)は、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体であって、スチレン系単量体単位とブタジエン系単量体単位で主に構成される。共重合体(C)は、ブタジエン系ゴムの存在下でスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られた共重合樹脂であって、スチレン系単量体単位、ブタジエン系単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位で主に構成される。
【0008】
スチレン系単量体単位としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等の単位を挙げることができるが、好ましくはスチレンである。これらのスチレン系単量体単位は、単独でもよいが二種以上であってもよい。
【0009】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−メチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート等のアクリル酸エステル等の単位を挙げることができるが、好ましくはメチルメタクリレートである。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位は単独で用いてもよいが二種以上であってもよい。
【0010】
ブタジエン系単量体単位としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の単位を挙げることができるが、好ましくは1,3−ブタジエンである。これらのブタジエン系単量体単位は、単独でもよいが二種以上であってもよい。
【0011】
さらに、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単位、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドを共重合体(A)、あるいは共重合体(B)、あるいは共重合体(C)の各共重合体100質量部に対して10質量部未満であれば含んでもよい。
【0012】
共重合体(A)は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られた共重合体である。重合の方法は特に制限はないが、有機過酸化物を使用したラジカル共重合が好ましく、また共重合体(A)の製造プロセスとしては、少量の溶剤を使用した塊状連続重合プロセスが好ましい。懸濁重合や乳化重合のプロセスで得る方法は十分な透明性が得られない場合がある。
重合時添加する有機過酸化物としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル−3,3−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知のものが使用できる。有機過酸化物の添加量はスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対し、0.001〜5質量部が好ましい。
溶剤としてはブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、あるいは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素などが使用でき、溶剤の添加量はスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対し、5〜20質量部が好ましい。
また、重合時、4−メチル−2,4−ジフェニルペンテン−1、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等の公知の分子量調整剤を添加しても差し支えない。
重合温度は、好ましくは80〜170℃、さらに好ましくは100〜160℃である。
【0013】
共重合体(A)を構成する単量体単位の比率は、スチレン系単量体単位70〜10質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30〜90質量%である。好ましくはスチレン系単量体単位60〜20質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位40〜80質量%、より好ましくはスチレン系単量体単位58〜42質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位42〜58質量%である。
共重合体(A)を構成する単量体単位の比率が、スチレン系単量体単位70質量%を越え、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位10質量%未満であると、光弾性複屈折の絶対値が大きくなるため好ましくない。またスチレン系単量体単位10質量%未満、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位90質量%を越えると、光弾性複屈折の絶対値が大きくなり、配向複屈折の絶対値が小さくなるため好ましくない。
【0014】
共重合体(B)は、スチレン系単量体とブタジエン系単量体を重合して得られたブロック共重合体である。重合の方法は特に制限はないが、有機リチウム化合物を使用したアニオン重合が好ましく、また共重合体(B)の製造プロセスとしては、溶剤を使用した溶液重合プロセスが好ましい。
有機リチウム化合物は、分子中に1個以上のリチウム原子が結合した化合物であり、例えばエチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムのような単官能有機リチウム化合物や多官能有機リチウム化合物等が使用できる。有機リチウム化合物の添加量としてはスチレン系単量体とブタジエン系単量体の合計100質量部に対し、0.001〜5質量部が好ましい。
溶剤としてはブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、あるいは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素などが使用できるが、溶剤の添加量はスチレン系単量体、ブタジエン系単量体の合計100質量部に対し、50〜200質量部が好ましい。
また、重合時、テトラヒドロフラン(THF)等の公知のランダム化剤を添加しても差し支えない。
重合温度は、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃である。
【0015】
共重合体(B)は少なくとも1個以上のスチレン系単量体からなる重合体ブロックと少なくともブタジエン系単量体を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体である。ここでブタジエン系単量体を主体とする重合体ブロックとは、ブタジエン系単量体の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上の重合体ブロックである。ブタジエン系単量体を主体とする重合体ブロック中に共重合されているスチレン系単量体は重合体ブロック中に均一に分布していても、又テーパー状に分布していても良い。
【0016】
共重合体(B)を構成する単量体単位の比率は、好ましくはスチレン系単量体単位50〜20質量%、ブタジエン系単量体単位50〜80質量%、さらに好ましくは、スチレン系単量体単位48〜32質量%、ブタジエン系単量体単位52〜68質量%である。
共重合体(B)を構成する単量体単位の比率が、スチレン系単量体単位50質量%を越え、ブタジエン系単量体単位50質量%未満であると、光弾性複屈折の絶対値が増加するため好ましくない場合がある。またスチレン系単量体単位20質量%未満、ブタジエン系単量体単位80質量%を越えると、透明性が低下して好ましくない場合がある。
【0017】
共重合体(C)は、ブタジエン系ゴムの存在下、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られた共重合樹脂である。このような3元系の樹脂の製造方法としては、ブタジエン系ゴムをスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体に溶解した状態で連続的に塊状重合する方法(以下連続塊状重合法)、ブタジエン系ゴムをスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体に溶解した状態で塊状重合を行い、転相によりゴム粒子が形成した段階で懸濁重合する方法(以下塊状懸濁重合法)やブタジエン系ゴムラテックスにスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合しながら乳化グラフト重合する方法(以下乳化重合法)等いくつかの方法が知られているが、好ましくは連続塊状重合法である。塊状懸濁重合法や乳化重合法では十分な透明性が得られず、得られた共重合樹脂の濁りが出やすく特に光路の長い導光板等に使用すると光の減衰が大きく問題となる場合がある。
連続塊状重合法においては、重合時、エチルベンゼン、トルエン等の溶剤をスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対して好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは5〜20質量部使用することができる。溶剤の使用により重合時の粘度が下がり重合制御性が向上し、また得られる共重合樹脂の物性が安定する場合がある。
重合温度は、好ましくは80〜170℃、さらに好ましくは100〜160℃である。
また重合時、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、エチル−3,3−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブチレート等の公知の重合開始剤を添加することが好ましく、半減期温度の異なる2種以上を用いることが耐衝撃性の観点からさらに好ましい。
重合開始剤の添加量はスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計100質量部に対し、好ましくは0.005〜5質量部、さらに好ましくは0.01〜1質量部である。該範囲外の場合は透明性と耐衝撃性のバランスが劣る場合がある。
また、重合時、4−メチル−2,4−ジフェニルペンテン−1、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等の公知の分子量調整剤を添加しても差し支えない。
【0018】
共重合体(C)を構成する単量体単位の比率は、好ましくはスチレン系単量体単位35〜55質量%、ブタジエン系単量体単位5〜15質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位60〜30質量%、さらに好ましくはスチレン系単量体単位38〜53質量%、ブタジエン系単量体単位5〜15質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位57〜32質量%である。
共重合体(C)を構成する単量体単位の比率が、スチレン系単量体単位35質量%未満、ブタジエン系単量体単位5質量%未満、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位60質量%を越えると、強度が低く、光弾性複屈折の絶対値が増加するため好ましくない場合がある。また、スチレン系単量体単位55質量%を越え、ブタジエン系単量体単位15質量%を越え、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位60質量%未満であると、光弾性複屈折の絶対値が増加するため好ましくない場合がある。
【0019】
共重合体(A)を含有する樹脂組成物は、JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで測定したメルトマスフローレイト(MFR)が0.1〜3g/10分、好ましくは0.1〜2.5g/10分、さらに好ましくは0.2〜2g/10分である。
MFRが3g/10分を越えると、強度が低くなり、また配向複屈折が小さくなる場合もあり、好ましくない。また、MFRが0.1g/10分未満であると、フィルム化が困難となり、好ましくない。
MFRの測定は、東洋精機製作所社製メルトインデックサ(F−F01)を使用して行った。
【0020】
共重合体(A)の重量平均分子量(以後Mwと表す。)は、特に制限はないが7万〜20万、より好ましいのは10万〜17万である。共重合体(B)のMwは、特に制限はないが7万〜25万、より好ましいのは9万〜20万である。共重合樹脂(C)のMwは、特に制限はないが7万〜20万、より好ましいのは10万〜17万である。なお、本発明のMwはGPCにて測定されるポリスチレン換算のMwであり、下記記載の測定条件で測定した。
装置名:SYSTEM−21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED−Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製し、重量平均分子量はポリスチレン換算値で表した。
【0021】
共重合体(A)と共重合体(B)の屈折率差の絶対値は、好ましくは0.005以下であり、さらに好ましくは、0.004以下である。また、共重合体(A)と共重合体(C)の屈折率差の絶対値は、好ましくは0.005以下であり、さらに好ましくは、0.004以下である。
共重合体(A)と共重合体(B)の屈折率差の絶対値、および、共重合体(A)と共重合体(C)の屈折率差の絶対値が、0.005を越えると、透明性が低下し好ましくない場合がある。
【0022】
共重合体(C)中のゴム粒子径は、特に限定するものではないが0.1〜1.0μmの範囲が好ましく、より好ましいのは0.1〜0.5μmである。 なお、ゴム粒子径とは、樹脂の超薄切片法透過型電子顕微鏡写真より、写真中のゴム粒子約3000個の粒子径Di(円相当径)を測定し、次式[数1]により得られる平均粒子径とする。
【数1】

【0023】
共重合体(C)のトルエン不溶分は、特に限定するものではないが8〜30質量%の範囲が好ましく、より好ましいのは12〜25質量%である。なお、トルエン不溶分は以下の様に測定するものとする。
試料0.35gを精秤(a)しトルエン35mlに温度25℃で24時間かけて溶解させた後、溶解液を事前に質量(b)を測定した容量50mlの遠心管に移し、最大遠心半径10.7cmのアングルローターを用いて、温度10℃以下、14000rpmで40分間遠心分離し、非沈殿物をデカンテーションにより取り除き、温度70℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、乾燥後の遠心管の質量(d)を測定し、下式[数2]によりトルエン不溶分を算出する。
【数2】

【0024】
共重合体(C)の膨潤指数は8〜20が好ましく、より好ましいのは9〜17である。なお、膨潤指数は以下の様に測定するものとする。試料0.35gを精秤(a)しトルエン35mlに温度25℃で24時間かけて溶解させた後、溶解液を事前に質量(b)を測定した容量50mlの遠心管に移し、最大遠心半径10.7cmのアングルローターを用いて、温度10℃以下、14000rpmで40分間遠心分離し、非沈殿物をデカンテーションにより取り除いた後、乾燥前の遠心管の質量(c)を測定する。温度70℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、乾燥後の遠心管の質量(d)を測定し、下式[数3]により膨潤指数を算出する。
【数3】

【0025】
光学用成形体は、耐熱安定剤を含むと好ましい場合がある。
耐熱安定剤としては、その効果を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物などの耐熱安定剤が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。その配合量は、共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)の合計100質量部に対して0.01〜2質量部が好ましく、より好ましいくは0.01〜1質量部である。
【0026】
光学用成形体は、耐光安定剤を含むと好ましい場合がある。
耐光安定剤は、その効果を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ヒンダードアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。その配合量は、共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)の合計100質量部に対して0.01〜2質量部が好ましく、より好ましいのは0.01〜1質量部である。
【0027】
光学用成形体にはこれ以外に滑剤や可塑剤、着色剤、帯電防止剤、鉱油等の添加剤を含んでも差し支えないが、透明性を阻害する可能性もあり、その添加量は少ないかあるいは添加しないのが好ましい。
【0028】
共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)の配合、耐熱安定剤や耐光安定剤の配合は特に制限はされず、公知の方法を採用することができる。また、造粒方法も特に制限はされず、公知の方法を採用することができる。例えば、共重合体、耐熱安定剤、耐光安定剤および必要に応じて使用する添加剤をあらかじめタンブラーやヘンシェルミキサー等で均一に混合して、単軸押出機または二軸押出機等に供給して溶融混練する方法や、塊状連続重合時や脱揮処理後の段階で耐熱安定剤、耐光安定剤および必要に応じて使用する添加剤を添加・混合後に造粒する方法がある。
【0029】
光学用成形体は、例えば、射出成形体、シート、フィルム等公知の成形体が採用できるが、好ましくは、厚み10〜300μmのフィルムであって、光学フィルム用基材として用いることが好ましい。光学用成形体とする方法は公知の方法を採用することができるが、フィルム押出機を用いて溶融押出してフィルムを得ることが好ましい。
光学フィルム用基材の光弾性定数は、好ましくは−2×10−12〜2×10−12/Pa、さらに好ましくは−0.9×10−12〜0.9×10−12/Pa、である。光弾性定数が−2×10−12〜2×10−12/Paの範囲内でないと、外部応力により複屈折が発生するため、好ましくない。
光学フィルム用基材は、位相差フィルム、偏光膜保護フィルム、視野角向上フィルム、偏光フィルムや反射防止フィルム等の公知の光学フィルムに用いることができる。
光学フィルム用基材を横延伸して配向させると、負の配向複屈折が発生することから、さらに好ましい場合がある。

【実施例】
【0030】
以下、詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。

【0031】
[実験例A−1]
撹拌機を付した容積約20リットルの完全混合型反応器、容積約40リットルの塔式プラグフロー型反応器、予熱器を付した脱揮槽を直列に接続して構成した。スチレン52質量部、メタクリル酸メチル(以下MMA)48質量部、エチルベンゼン12質量部で構成される混合溶液に溶解し、さらに1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン(日本油脂社製パーヘキサC)0.03質量部、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製IRGANOX1076)を0.1質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時6kgで温度130℃に制御した完全混合型反応器に導入した。第1完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液にn−ドデシルメルカプタン(花王社製チオカルコール20)を毎時1.0g加えた後、温度130℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、流れの方向に向かって温度130℃から150℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型反応器に導入した。この反応液を予熱器で加温しながら、温度240℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体A−1を得た。Mw=17万であった。
【0032】
[実験例A−2]
スチレン41質量部、MMA59質量部とした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−2を得た。Mw=16万であった。
【0033】
[実験例A−3]
スチレン60質量部、MMA40質量部とした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−3を得た。Mw=18万であった。
【0034】
[実験例A−4]
スチレン0質量部、MMA100質量部とした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−4を得た。Mw=15万であった。
【0035】
[実験例A−5]
スチレン75質量部、MMA25質量部とした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−5を得た。Mw=19万であった。
【0036】
[実験例A−6]
オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを添加しなかった以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−6を得た。Mw=17万であった。
【0037】
[実験例A−7]
n−ドデシルメルカプタン(花王社製チオカルコール20)を毎時2.5gとした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−7を得た。Mw=15万であった。
【0038】
[実験例A−8]
n−ドデシルメルカプタン(花王社製チオカルコール20)を毎時4.0gとした以外は実験例A−1と同様に行い、共重合体A−8を得た。Mw=13万であった。

【0039】
[実験例B−1]
内容積200リットルの重合缶に65リットルのシクロヘキサンと5.0gのテトラヒドロフラン(ランダム化剤)及び3.2kgのスチレンを仕込み撹拌を行いながら30℃にて120mlのn−ブチルリチウム(10%シクロヘキサン溶液)(開始剤)を添加後、昇温を行い、80℃で40分間重合させた。次にスチレン4.8kgとブタジエン12kgを添加し、80℃で40分間重合させた。その後、重合液に過剰のメタノールを添加し重合を停止させ、溶媒除去、乾燥させて共重合体B−1を得た。Mw=11万であった。
【0040】
[実験例B−2]
初期のスチレン3.2kgを2.4kgとし、次に添加したスチレン4.8kgを3.6kgとブタジエン12kgを14kgとした以外は実験例B−1と同様に行い、共重合体B-2を得た。Mw=11万であった。
【0041】
[実験例B−3]
初期のスチレン3.2kgを4.2kgとし、次に添加したスチレン4.8kgを6.2kgとブタジエン12kgを9.6kgとした以外は実験例B−1と同様に行い、共重合体B−2を得た。Mw=11万であった。
【0042】
[実験例C−1]
撹拌機を付した容積約5リットルの第1完全混合型反応器、撹拌機を付した容積約15リットルの第2完全混合型反応器、容積約40リットルの塔式プラグフロー型反応器、予熱器を付した脱揮槽を直列に接続して構成した。スチレン−ブタジエンゴム(旭化成ケミカルズ社製アサプレン670A)12.5質量部を、スチレン52質量部、メタクリル酸メチル(以下MMA)48質量部、エチルベンゼン12質量部で構成される混合溶液に溶解し、さらに1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン(日本油脂社製パーヘキサC)0.06質量部、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製IRGANOX1076)を0.2質量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時6kgで温度108℃に制御した第1完全混合型反応器に導入した。第1完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液にn−ドデシルメルカプタン(花王社製チオカルコール20)を毎時2.5g加えた後、温度130℃に制御した第2完全混合型反応器に導入した。なお、第2完全混合型反応器の撹拌数は180rpmで実施した。次いで第2完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、この反応液にn−ドデシルメルカプタンを毎時2.5gを毎時0.5g加えた後、流れの方向に向かって温度130℃から150℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型反応器に導入した。この反応液を予熱器で加温しながら、温度240℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体C−1を得た。Mw=15万であった。
【0043】
[実験例C−2]
スチレン−ブタジエンゴムを旭化成ケミカルズ社製タフデン2000Aとし、スチレン40質量部、MMA60質量部とした以外は実験例C−1と同様に行い、共重合体C−2を得た。Mw=15万であった。
【0044】
[実施例及び比較例]
実験例で製造した共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)を、表1〜3で示した割合(質量%)でヘンシェルミキサーを用いて混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)社製 TEM−35B)にて、シリンダー温度230℃で溶融混練してペレット化し、樹脂組成物を得た。なお、実施例15では、共重合体(A)、共重合体(B)の合計100質量部に対し、ヒンダードアミン系化合物としてビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートとベンゾトリアゾール系化合物として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノールの各0.1質量部を、ヘンシェルミキサーに投入して樹脂組成物を得た。樹脂組成物のMFRを測定した。
樹脂組成物はTダイを付したフィルム押出成形機を用いてシリンダー温度230℃、ダイ温度230℃で、厚さ150μmのフィルムを押し出し、ロールに巻き取った。
得られたフィルムを、テンター横延伸機を用い、100℃で1.8倍に一軸延伸し、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの測定結果を表1〜3に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
なお、評価は下記の方法によった。
(1)透明性
ASTM D1003に基づき、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH−1001DP型)を用いて延伸フィルムのヘーズ(単位:%)を測定した。1%以下を合格とした。
(2)色相
色差計(日本電色工業社製Σ―80)を用いて延伸フィルムのb値(単位:なし)を測定した。1以下を合格とした。
(3)複屈折
位相差測定装置(王子計測社製KOBRA−WR)を用いて延伸フィルムのリタデーション(以下「Re」,単位:nm)を測定した。STN位相差フィルムに好ましい400〜600nmを合格とした。また、位相差顕微鏡で観察することで、配向複屈折の符号は、実施例と比較例中の全てのサンプルで負であることを確認した。
(4)光弾性複屈折
延伸する前のフィルムを重ね、20mm径の円柱金型を用い、230℃にてプレス成形することにより評価サンプル得た。この評価サンプルに応力を加えた時の複屈折値をユニオプト社製複屈折測定装置ABR-10Aを用いて測定し、光弾性定数(単位:/Pa)を算出した。外部応力による複屈折の発生が低減し、反射防止フィルムに好適な−2×10−12〜2×10−12/Paを合格とした。
(5)フィルム
フィルム押し出し時のロール巻き取りにおいて、フィルムの切断状況を1点(切断せず巻き取れた)、2点(条件変更により巻き取れた)、3点(巻き取れなかった)の3段階で評価した。2点以下を合格とした。
【0049】
本出願に係わる実施例は、透明性・色相・強度が良好で、かつ光弾性複屈折が低かった。位相差フィルム、偏光膜保護フィルム、視野角向上フィルム、偏光フィルムや反射防止フィルム等の光学フィルムのベースフィルムに適しており有用である。さらに、本出願に係わる実施例は、配向させた場合に負の配向複屈折性を示した。この結果から、位相差フィルム用途では、本願の負の配向複屈折性を有するフィルムとポリカーボネートや非晶性の環状ポリオレフィン等の正の配向複屈折性を有するフィルムとを用いることで、工程の簡略化や生産性の向上に有効であることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記共重合体(A)を含有する樹脂組成物であって、JIS K7210に基づき、温度200℃、荷重49Nで測定したメルトマスフローレイト(MFR)が0.1〜3g/10分の樹脂組成物を成形してなることを特徴とする光学用成形体。
共重合体(A):スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であって、構成する単量体の比率がスチレン系単量体単位70〜10質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30〜90質量%である共重合体。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、前記共重合体(A)99.9〜90質量部とブタジエン系共重合体0.1〜10質量部からなることを特徴とする請求項1に記載の光学用成形体。
【請求項3】
前記ブタジエン系共重合体が、下記ブタジエン系共重合体(B)、(C)から選ばれた1種以上からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学用成形体。
共重合体(B):スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体であって、構成する単量体単位の比率がスチレン系単量体単位50〜20質量%、ブタジエン系単量体単位50〜80質量%である共重合体。但し、共重合体(A)と共重合体(B)の屈折率差の絶対値が0.005以下である。
共重合体(C):ブタジエン系ゴムの存在下でスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合して得られた共重合体であって、構成する単量体単位の比率がスチレン系単量体単位35〜55質量%、ブタジエン系単量体単位5〜15質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位60〜30質量%である共重合樹脂。但し、共重合体(A)と共重合体(C)の屈折率差の絶対値が0.005以下である。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、共重合体(A)〜(C)の合計100質量部に対して、ヒンダードフェノール系化合物、ラクトン系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物から選ばれた1種以上の耐熱性安定剤0.01〜2質量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光学用成形体。
【請求項5】
光学用成形体が、光学フィルム用基材であることを特徴とする請求項1〜4に記載の光学用成形体。
【請求項6】
前記光学フィルム用基材が、光弾性定数が−2×10−12〜2×10−12/Paであることを特徴とする請求項5に記載の光学用成形体。
【請求項7】
前記光学フィルム用基材を用いてなる光学フィルムであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光学用成形体。
【請求項8】
前記光学フィルムが、位相差フィルムまたは反射防止フィルムであることを特徴とする請求項7に記載の光学用成形体。
【請求項9】
前記光学フィルムが、延伸処理を施されたフィルムであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の光学用成形体。


【公開番号】特開2007−263993(P2007−263993A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84865(P2006−84865)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】