説明

光学用易接着性ポリエステルフィルム及び光学用積層ポリエステルフィルム

【課題】蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し、かつ、ハードコート層との密着性、高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れ、易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の低下が少ない光学用易接着性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし、(A)/(B)の質量比が10/90〜95/5である樹脂組成物に、前記の樹脂成分に対しフッ素系界面活性剤を0.1〜4.0質量%含有させ、塗布、乾燥した後、少なくとも一方向に延伸された塗布層を積層してなることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル、液晶表示板(LCD)、テレビやコンピューターのブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、表面電界ディスプレイ(SED)、電子ペーパー等の表示画面の前面に装着して、外光の写り込み、ぎらつき、虹彩状色彩等を抑制することができる、反射防止性を付与した反射防止フィルムの基材として用いられる、光学用易接着性ポリエステルフィルム及び該フィルムの塗布層の少なくとも片面にハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、コンピューター、テレビ、液晶表示装置等のディスプレイ、装飾材等の前面には、透明プラスチックフィルムからなる基材に、電子線、紫外線または熱硬化系の樹脂からなるハードコート層を積層させたハードコートフィルムが使用されている。また、基材の透明プラスチックフィルムとしては、透明な二軸配向ポリエステルフィルムが一般的に用いられ、基材のポリエステルフィルムとハードコート層との密着性を向上させるために、これらの中間層として易接着層を設けられる場合が多い。
【0003】
前記のハードコートフィルムには、温度、湿度、光に対する耐久性、透明性、耐薬品性、耐擦傷性、防汚性等が求められている。また、ハードコートフィルムには、ディスプレイや装飾材などに用いられることから、視認性や意匠性が要求されている。そのため、任意の角度から見たときの反射光によるぎらつきや虹彩状色彩等を抑えるため、ハードコート層の上層に、高屈折率層と低屈折率層を相互に積層した多層構造の反射防止層を設けることが一般的に行われている。
【0004】
しかしながら、ディスプレイや装飾材などの用途では、近年、さらなる大画面化(大面積化)及び高級性が求められ、それにともなって特に蛍光灯下での虹彩状色彩(干渉縞)の抑制に対する要求レベルが高くなってきている。また、蛍光灯は昼光色の再現性のため3波長形が主流となってきており、より干渉縞が出やすくなっている。さらに、反射防止層の簡素化によるコストダウン要求も高くなってきている。そのため、ハードコートフィルムのみでも干渉縞をできるだけ抑制することが求められている。
【0005】
ハードコートフィルムの虹彩状色彩(干渉縞)は、基材のポリエステルフィルムの屈折率(例えば、PETでは1.62)とハードコート層の屈折率(例えば、アクリル樹脂では1.49)との差が大きいため発生すると考えられている。この屈折率差を小さくして干渉縞の発生を防止するために、ハードコート層に金属酸化物微粒子を添加することにより、ハードコート層の屈折率を高くする方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、ハードコート層への金属酸化物微粒子の添加により、ハードコート層本来の機能である透明性、耐薬品性、耐擦傷性、防汚性等が低下する。また、係るハードコート層の上にさらに反射防止層を設けた場合は、ハードコート層の屈折率の変化に合わせた、反射防止層の最適化が必要になる。
【0006】
また、ハードコート層の干渉縞を抑制する他の方法として、フィルムの局所的な厚みのバラツキに着目し、易接着フィルムを製造した後、該フィルムにカレンダー処理を行ってフィルムの局所的な厚みのバラツキを小さくする方法が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、前記方法はフィルム単独で干渉縞を評価しており、ハードコート層を積層した際の界面の屈折率の差に基づく干渉縞に関しては何ら検討がされていないし、さらに工程も増加するため生産性の点で問題がある。
【0007】
また、ハードコートフィルムを構成する層の厚さ斑に着目し、干渉縞の面積比を規定した発明が開示されている(例えば、特許文献3を参照)。しかしながら、厚さ斑の程度や低減方法が明細書中に具体的に記載されていない。例えば、各層の厚さ斑を低減するためには、各層の厚みを厳密に制御することが必要であり、生産性または歩留まりの点から問題がある。
【0008】
さらに、フィルム自体の裏面反射率に着目して、裏面反射率を抑えて、特定の硬度のハードコート層を積層する方法も開示されている(例えば、特許文献4を参照)。しかしながら、特許文献4に記載の方法では、ハードコートフィルムのハードコート層の反対面に特定屈折率と特定厚みを有するコート層を設け、かつ裏面反射率を0.1%以下となるように制御しなければならない。そのため、裏面までを含めたフィルムの設計が必要である。しかも、フィルム製造時に裏面反射率が常に0.1%以下となるように、裏面反射率を測定しながら、裏面反射率が範囲外となる場合には条件変更を行うなど裏面反射率の制御が煩雑である。
【0009】
本発明のように、水系塗布液を二軸延伸ポリエステルフィルムに塗布する場合、塗布面の均一性は極めて重要である。塗布面が不均一であると、密着性にバラツキが発生する等の不具合が起こる。さらに、本発明のように、塗布層に干渉縞を抑制する機能を付与した場合には光学的な欠点となる。塗布面の均一性のため、通常は溶剤組成の調整や界面活性剤等の添加剤が使用される。界面活性剤としてフッ素系を使用する方法は開示されている(例えば、特許文献5を参照)。しかしながら、界面活性剤が塗布層を構成する樹脂との相溶性が悪い場合、塗布層の表面にブリードアウトして密着性低下の原因となる。そのために、塗布面の均一性と密着性とのバランスを考慮しながら、界面活性剤の種類や塗布液中の含有量を適正化することが重要である。それでも、経時または温度、湿度の環境変化により、塗布層表面にブリードアウトして密着性を低下させる問題点がある。さらに、本発明では、塗布層を構成する樹脂組成物の屈折率を、塗布層に形成する機能層と二軸延伸ポリエステルフィルムとの両者の屈折率のほぼ中間となるように制御して干渉縞を抑制する方法を採用する場合、比較的低屈折率の界面活性剤を塗布液に含有させることは、塗布層自体の屈折率を低下させる原因となるため、屈折率の調整がより困難になる。
【0010】
【特許文献1】特開平7−151902号公報
【特許文献2】特開2001−71439号公報
【特許文献3】特開2002−241527号公報
【特許文献4】特開2002−210906号公報
【特許文献5】特開2003−147105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制し、かつ、ハードコート層との密着性、高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れ、易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の低下が少ない光学用易接着性ポリエステルフィルム及び該フィルムに特定のハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、易接着層の屈折率に着目し、基材のポリエステルフィルムと易接着層との屈折率差、易接着層とハードコート層の屈折率差をそれぞれ小さくなるように、易接着層を構成する樹脂と、添加剤の種類と含有量で易接着層の屈折率を制御することにより、ハードコート層との密着性、及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)を維持しながら、蛍光灯下での虹彩状色彩を抑制でき、かつ易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の低下が少ないことを見出したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし、(A)/(B)の質量比が10/90〜95/5である樹脂組成物に、該樹脂組成物に対しフッ素系界面活性剤0.1〜4.0質量%を含有させ、塗布、乾燥した後、少なくとも一方向に延伸された塗布層を積層してなることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルムである。また、前記の易接着性ポリエステルフィルム塗布層の少なくとも片面に、電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学用易接着ポリエステルフィルムは、該フィルムの易接着層にハードコート層を積層した際に、外光の写り込み、ぎらつき、虹彩状色彩等を抑制する反射防止性に優れ、かつハードコート層との密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)および易接着層が高温高湿下に暴露されても密着性の維持性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(基材フィルム)
本発明で基材として用いる二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂より構成されるフィルムであり、主に、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートの少なくとも1種を構成成分とする。これらのポリエステル樹脂の中でも、物性とコストのバランスからポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。また、ポリエステルフィルムは二軸延伸することで、耐薬品性、耐熱性、機械的強度などを向上させることができる。
【0016】
また、前記の二軸延伸ポリエステルフィルムは、単層であっても複層であってもかまわない。これらの各層には、必要に応じて、ポリエステル樹脂中に各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0017】
また、フィルムの滑り性、巻き性、耐ブロッキング性などのハンドリング性や、耐摩耗性、耐スクラッチ性などの摩耗特性を改善するために、基材のポリエステルフィルム中に不活性粒子を一般的に含有させている。しかしながら、本発明のフィルムは光学用部材の基材フィルムとして用いるため、高度な透明性を維持しながらハンドリング性に優れていることが要求される。具体的には、光学用部材として使用する場合、透明性は易接着性ポリエステルフィルムの全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上が特に好ましい。全光線透過率は高いほど透明性に優れるが(100%が理想)、ハンドリング性は低下し、工業レベルでの生産が困難となる。したがって、全光線透過率の上限値は96%とすることが好ましい。
【0018】
そのため、基材フィルム中への不活性粒子の含有量はできるだけ少ないほうが好ましい。したがって、フィルムの表層のみに粒子を含有させた多層構成にするか、あるいは、フィルム中に実質的に粒子を含有させず、塗布層にのみ微粒子を含有させることが好ましい。
【0019】
特に、透明性の点から、ポリエステルフィルム中に不活性粒子を実質上含有させない場合は、フィルムのハンドリング性を向上させるために、無機及び/または耐熱性高分子粒子を水系塗布液中に含有させ、塗布層表面に凹凸を形成させることが重要である。なお、「不活性粒子が実質上含有されていない」とは、例えば、無機粒子の場合、蛍光X線分析で粒子に由来する元素を定量分析した際に、検出限界以下となるような含有量を意味する。
【0020】
本発明の易接着性ポリエステルフィルムにおいて、塗布層は水性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)、フッ素系界面活性剤とを主たる構成成分とし、(A)/(B)の混合比(質量比)が10/90〜95/5である樹脂組成物からなる。
【0021】
この樹脂組成物は基材フィルムの延伸工程中の熱で加熱することにより、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、またはジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)が、ポリエステル樹脂との架橋反応により均一な膜を生成する。すなわち、前記の金属キレート化合物または金属アシレート化合物は加熱処理することにより分解するため、塗布層中には塗布液に添加した状態では存在しない。
【0022】
そこで、熱処理後の塗布層中の金属元素(TiまたはZr)の含有量から、塗布液中の金属キレート化合物または金属アシレート化合物の含有量は、以下のように算出する。
(1)まず、塗布層中のキレートまたはアシレートの残渣から塗布液中に含有させたキレートまたはアシレートの種類を同定する。
(2)次いで、塗布層中の金属元素(TiまたはZr)の含有量から、塗布液中の前記の金属キレート化合物または金属アシレート化合物の含有量を算出する。
【0023】
塗布層の屈折率は、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、またはジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)の組成比を大きくすることにより、ポリエステル樹脂(A)単独の場合よりも高くすることができる。
塗布層の屈折率を高くすることは、金属微粒子を含有させることでも達成することができるが、金属微粒子を含有させることにより塗布層の延伸性およびハードコート層と基材フィルム間の密着性は低下する。
【0024】
本発明で使用するポリエステル樹脂(A)は、その分子鎖に水酸基やカルボキシル基等の活性部位を導入してもよいが、特に導入しなくとも高温でエステル結合部位が可逆反応を起こすため、任意の場所で架橋反応が起こり、結果として緻密な膜が得られる。
【0025】
また、アクリル樹脂で同様な架橋性を持たせるためには、架橋性官能基を導入する必要がある。しかしながら、アクリル樹脂自体の屈折率が低いために、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、またはジルコニウムアシレート化合物を併用しても、本発明の塗布層と同様な屈折率に制御することは困難である。
【0026】
さらに、塗布層の構成成分であるポリエステル樹脂(A)は基材ポリエステルフィルムとの密着性に関与するため、水性ポリエステル樹脂(A)と前記化合物(B)との組成比(A/B;質量比)が10/90未満の場合、基材フィルムとの密着性が低下し、かつ塗布層としての延伸性が低下し、延伸時に均一にならない。そのため、光学用として必要な透明性が低下し、易接着層の上に形成させるハードコート層との密着性が問題となる。一方、水性ポリエステル樹脂(A)と前記化合物(B)との組成比(A/B;質量比)が95/5を越える場合、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物(B)による架橋が乏しくなるとともに、屈折率も低下する。そのため、高温高湿下での密着性(耐湿熱性)が低下し、かつ蛍光灯下での虹彩状色彩の抑制効果が不十分となる。
【0027】
本発明の水性ポリエステル樹脂(A)とは、水、または水溶性の有機溶剤(例えば、アルコール、アルキルセロソルブ、ケトン系、エーテル系を50質量%未満含む水溶液)、に対して溶解または分散することが可能なポリエステル樹脂を意味する。ポリエステル樹脂に水性を付与するためには、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をポリエステル樹脂の分子鎖に導入することが重要である。前記の親水性基のなかでも、塗膜物性及び密着性の点からスルホン酸基が好ましい。
【0028】
スルホン酸基をポリエステルに導入する場合、スルホン酸化合物は、ポリエステルの全酸成分中のうち、1〜10モル%とすることがより好ましい。スルホン酸基量が1モル%未満の場合、ポリエステル樹脂が水性を示さなくなり、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)との相溶性も低下するため、均一かつ透明な塗布層が得られにくくなる。また、スルホン酸基量が10モル%を超える場合には、高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に劣りやすくなる。
【0029】
さらに、前記の水性ポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が40℃以上であることが好ましい。そのため、ポリエステル樹脂(A)の酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族系を主成分とすることが好ましい。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロパングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の比較的炭素数の少ないグリコール、またはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の芳香族系が好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の原料として、ビフェニル等の剛直な成分、または臭素、イオウ等の屈折率の高い原子を有するジカルボン酸成分またはジオール成分をフィルムの物性が低下しない範囲で使用してもよい。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が40℃未満であると、高温高湿下での密着性(耐湿熱性)が不十分となりやすくなる。さらに、ポリエステル樹脂(A)の屈折率も低下するために塗布層の屈折率も低下する。その結果、蛍光灯下での虹彩状色彩の抑制が不十分となりやすくなる。
【0030】
塗布層の他の主成分は、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)である。前記の水溶性とは、水、または水溶性の有機溶剤を50質量%未満含む水溶液、に対して溶解することを意味する。
【0031】
水溶性のチタンキレート化合物としては、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、イソプロポキシ(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタンのアンモニウム塩、チタンベロキソクエン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0032】
また、水溶性のチタンアシレート化合物としては、オキソチタンビス(モノアンモニウムオキサレート)等が、また水溶性のジルコニウム化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
【0033】
前記の塗布層には、前記の主成分以外の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル樹脂、を本発明の効果に影響を与えない範囲で併用してもかまわない。また、架橋剤の併用も本発明の効果に影響を与えない範囲で特に限定されない。使用できる架橋剤としては、尿素、メラミン、ベンゾグアナミンなどとホルムアルデヒドとの付加物、これらの付加物と炭素原子数が1〜6のアルコールからなるアルキルエーテル化合物などのアミノ樹脂、多官能性エポキシ化合物、多官能性イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、多官能性アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、などが挙げられる。
【0034】
本発明において、塗布層形成のために使用する塗布液は、水性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)と、フッ素系界面活性剤および水系溶剤から主としてなる水系塗布液である。水系塗布液をポリエステルフィルム表面に塗布する際には、フィルムへの濡れ性を向上させ、塗布液を均一にコートするために、公知のアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を適量添加することが一般に行われる。しかしながら、通常のアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤は水性ポリエステル樹脂と比較すると低分子量のため、塗布層中での移動が行われ易く、塗布層の表面近傍に偏在化することにより密着性を低下させる。その点を考慮し、種々の界面活性剤を検討した中で、フッ素系界面活性剤が密着性の低下防止に有効であることを見出した。すなわち、フッ素系界面活性剤を使用することにより、塗布液中に比較的少量の添加でフィルムへの濡れ性を向上させ、塗布液を均一にコートでき、塗布層が高温高湿下でも密着性の低下が起こらないことを見出した。
【0035】
本発明に記載のフッ素系界面活性剤とは、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された炭化水素鎖を持つ化合物を指す。これらの炭化水素鎖は電解フッ素化、テロメリゼーション、オリゴメリゼーション等の既知の方法で製造される。さらに、本発明では塗布層の形成に水系塗布液を使用するために、フッ素系界面活性剤は、ある程度の水溶性または水分散性を有することが好ましく、例えば、フッ素置換された炭化水素鎖以外に親水性基を有する化合物が挙げられる。親水性基とは、スルホン酸、カルボン酸、リン酸等のアミンまたは金属塩、3級アミンのハロゲン化塩、水酸基、またはエーテル基等を指す。特に、本発明においては、アニオン性またはノニオン性基が親水性基として好ましい。
【0036】
アニオン性のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル(C4〜C12)スルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、およびアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(C7〜C20)カルボン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、およびアンモニウム塩、パーフルオロアルキルジカルボン酸カリウム塩、パーフルオロアルキル燐酸塩等が挙げられる。また、ノニオン性のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホン酸アミド、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、パーフルオロアルキルアルコキシレート、等が挙げられる。なお、フッ素系界面活性剤として、パーフルオロアルキルスルホン酸構造を有しない場合、より少量の添加量でフィルムへの濡れ性を向上させ、塗布液を均一にコートすることが可能になるため、より好ましい。
【0037】
フッ素系界面活性剤は、塗布層を構成する樹脂成分に対して、0.1〜4.0質量%を含有することが重要である。さらには、0.4〜2.0質量%がより好ましい。フッ素系界面活性剤の含有量が0.1質量%未満であると、塗布液を均一にコートすることが困難になる。また、フッ素系界面活性剤の含有量が4.0質量%を超えると、高温高湿下での密着性の低下が顕著になる。
【0038】
水系塗布液中には、ハンドリング性、帯電防止性、抗菌性などの他の機能をフィルムに付与するために、無機及び/または耐熱性高分子粒子、帯電防止剤、紫外線吸収剤、有機潤滑剤、抗菌剤、光酸化触媒などの添加剤を含有させることができる。
【0039】
塗布液に用いる溶剤は、水以外にエタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類を、全塗布液に対し50質量%未満の範囲で混合しても良い。さらに、10質量%未満であれば、アルコール類以外の有機溶剤を溶解可能な範囲で混合してもよい。但し、塗布液中のアルコール類とその他の有機溶剤との合計量は、50質量%未満とすることが好ましい。
【0040】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、前記易接着性ポリエステルフィルムの塗布層の少なくとも片面に、電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層を設けることにより得られる。
【0041】
電子線または紫外線により硬化する樹脂として、アクリレート系の官能基を有するものであり、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマーまたはプレポリマーおよび反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を含有するものが使用できる。
【0042】
但し、紫外線硬化型樹脂の場合には、前記の樹脂中に光重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチラウムモノサルファイド、チオキサントン類、また、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合して用いることができる。
【0043】
(易接着性ポリエステルフィルムの製造)
本発明の易接着性ポリエステルフィルムの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)フィルムを例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0044】
PET樹脂を十分に真空乾燥した後、押出し機に供給し、Tダイから約280℃の溶融PET樹脂を回転冷却ロールにシート状に溶融押出しし、静電印加法により冷却固化せしめて未延伸PETシートを得る。前記未延伸PETシートは、単層構成でもよいし、共押出し法による複層構成であってもよい。また、PET樹脂中に不活性粒子を実質的に含有させないことが好ましい。
【0045】
得られた未延伸PETシートを、80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍に延伸して、一軸延伸PETフィルムを得る。さらに、フィルムの端部をクリップで把持して、70〜140℃に加熱された熱風ゾーンに導き、幅方向に2.5〜5.0倍に延伸する。引き続き、160〜240℃の熱処理ゾーンに導き、1〜60秒間の熱処理を行ない、結晶配向を完了させる。
【0046】
このフィルム製造工程の任意の段階で、PETフィルムの少なくとも片面に、前記の水系塗布液を塗布する。塗布層はPETフィルムの両面に形成させてもよい。水系塗布液中の樹脂組成物の固形分濃度は、2〜35質量%であることが好ましく、特に好ましくは4〜15質量%である。
【0047】
この水系塗布液をPETフィルムに塗布するための方法は、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ダイコーター法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸コート法、カーテンコート法、などが挙げられ、これらの方法を単独で、あるいは組み合わせて塗工する。
【0048】
本発明において、塗布層は、未延伸あるいは一軸延伸後のPETフィルムに、前記水系塗布液を塗布、乾燥した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を行って形成させることが重要である。前記塗布液が塗布されたフィルムは、横延伸及び熱処理のためにテンターに導かれ、加熱される。その際、キレート化合物またはアシレート化合物は、熱架橋反応により安定な架橋塗布層を形成することができる。それに対して、二軸延伸PETフィルムを製造後、この二軸延伸PETフィルムに前記塗布液を塗布、乾燥させて形成させた塗布層の場合には、熱処理による基材フィルムの透明性の悪化、物性の変動を小さくするため、熱量を抑制せざるを得ない。そのため、熱架橋反応を行うのに熱量が不足し、均一な架橋塗布層を形成させることが困難となる。
【0049】
本発明において、最終的に得られる塗布層の塗布量は、0.02〜0.5g/m2 であることが好ましい。塗布層の塗布量が0.02g/m2 未満であると、接着性に対する効果がほとんどなくなるばかりでなく、蛍光灯下での虹彩状色彩の抑制効果が不十分となりやすくなる。一方、塗布量が0.5g/m2 を越える場合も、蛍光灯下での虹彩状色彩の抑制効果が不十分となりやすくなる。
【0050】
本発明で得られた易接着性ポリエステルフィルムの塗布層は、電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層に対して良好な接着性を有するだけでなく、光学用途以外でも良好な接着強度が得られる。具体的には、写真感光層、ジアゾ感光層、マット層、磁性層、インクジェットインキ受容層、ハードコート層、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、印刷インキやUVインキ、ドライラミネートや押し出しラミネート等の接着剤、金属あるいは無機物またはそれらの酸化物の真空蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、プラズマ重合等で得られる薄膜層、有機バリアー層等が挙げられる。
【0051】
(光学用積層ポリエステルフィルムの製造)
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムの製造方法について、PETフィルムを例にして説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0052】
前記の易接着性ポリエステルフィルムの少なくとも片面の塗布層に、前記の電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂を含むハードコート層形成用塗布液を塗布する。塗布液は特に希釈する必要はないが、塗布液の粘度、濡れ性、塗布層の厚み等に応じて、有機溶剤により希釈してもよい。ハードコート層は、前記の易接着ポリエステルフィルムの少なくとも片面の塗布層上に前記ハードコート層形成用塗布液を塗布後、必要に応じて乾燥させた後、硬化型樹脂の硬化条件に合わせて、電子線または紫外線を照射し、及び加熱することにより塗布層を硬化させることにより、ハードコート層を形成する。
【0053】
本発明において、ハードコート層の厚みは、1〜15μmであることが好ましい。ハードコート層の厚みが1μm未満であると、ハードコート層としての耐薬品性、耐擦傷性、防汚性等に対する効果がほとんどなくなる。一方、厚みが15μmを越えるとハードコート層のフレキシブル性が低下し、亀裂等が発生する可能性が増加する。
【0054】
本発明で得られた光学用積層ポリエステルフィルムは、広範囲の用途に使用できるが、特にさらにハードコート層の上に反射防止層を形成することにより、良好な反射防止フィルムとすることができる。このような反射防止層の形成には、高屈折率のZnO、TiO2 、CeO2 、SnO2 、ZrO2 等または低屈折率のMgF2 、SiO2 等の無機質材料や、金属材料を単層または多層設けることにより行われる。これらの層は、蒸着、スパッタリング、プラズマCVD等か、高屈折率または低屈折率の無機質材料や金属材料等を含有する樹脂組成物からなる塗布層を、単層または多層で形成される。
【実施例】
【0055】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は当然以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた評価方法は以下の通りである。
【0056】
(1)全光線透過率
JIS K7105に準拠し、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を使用して、フィルムの全光線透過率を求めた。
【0057】
(2)ガラス転移温度
JIS K7121に準拠し、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DSC6200)を使用して、25〜300℃の温度範囲にわたって20℃/minで昇温させ、DSC曲線から得られた補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度とした。
【0058】
(3)コート性
フィルムロールを暗室内で1m程度垂直方向に垂らして、塗布面にブロムライト(LPL社製、VIDEO LIGHT VLG301;100V、300W)を用いて、10〜40°の角度で光を当てて、塗布面の状態を観察した。観察は熟練者3名で実施し、下記の判断基準に基づいてランク分けを行い、3名の判断の多いものをランクとした。3名の評価が割れた場合には3名のランク分けの中間を該当ランクとした。
◎:塗布面が均一であり、斑等が見られない。
○:塗布面がほぼ均一であるが、数か所に斑が見られる
△:塗布面にある角度から光源を当てた場合、全面が不均一に観察される。
×:塗布面にあらゆる角度から光源を当てても全面が不均一。
【0059】
(4)密着性
JIS−K5400の8.5.1記載に準拠し、ハードコート層と基材フィルムとの密着性を求める。具体的には、下記の方法にしたがって、密着性の評価を行う。
【0060】
易接着性ポリエステルフィルムの塗布面に、下記のハードコート剤A(5質量部)にメチルエチルケトン(5質量部)を加えた溶液を、#8ワイヤバーを用いて塗布し、70℃で1分間乾燥し、溶剤を除去した。次いで、ハードコート層を塗布したフィルムを送り速度5m/分で走行させながら、高圧水銀灯を用いて照射エネルギー500mJ/cm2 、照射距離15cmの条件下で、ハードコート層面に紫外線を照射し、厚み3μmのハードコート層を有するハードコートフィルムを得た。
【0061】
〔ハードコート剤A〕
下記の(a)〜(d)の化合物を、下記の組成比で均一に混合し、ハードコート剤Aを得た。
(a)アクリル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 65質量部
(日本化薬製、D−310)
(b)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート 10質量部
(大日本インキ化学製、DTA−400)
(c)ポリエステルアクリレート(東亜合成製、M−7100) 20質量部
(d)1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 5質量部
(チバガイギー製、イルガキュア184)
【0062】
ハードコート層と基材フィルムの密着性は、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて、ハードコート層を貫通して基材フィルムに達する100個のマス目状の切り傷をハードコート層面につける。次いで、セロハン粘着テープ(ニチバン製、405番;24mm幅)をマス目状の切り傷面に貼り付け、消しゴムでこすって完全に付着させる。その後、垂直にセロハン粘着テープをハードコートフィルムのハードコート層面から引き剥がす。このセロハン粘着テープを張り付け、引き剥がす操作を同一場所で3回行い、ハードコートフィルムのハードコート層面から剥がれたマス目の数を目視で数え、下記の式からハードコート層と基材フィルムとの密着性を求める。なお、マス目の中で部分的に剥離しているものも剥がれたマス目として数える。
密着性(%)=(1−剥がれたマス目の数/100)×100
【0063】
(5)高温高湿度下での密着性
前記のフィルムを、高温高湿槽中で60℃、95RH%の環境下で100時間放置し、次いで、フィルムを25℃、50RH%で12時間放置した。
その後、前記(4)と同様の方法でハードコートフィルムを作成後、ハードコート層と基材フィルムとの密着性を求め、下記の基準でランク分けをした。
◎:100%
○:96%以上100%未満
△:80%以上96%未満
×:80%未満
【0064】
(6)耐湿熱性
前記のハードコートフィルムを、高温高湿槽中で60℃、95RH%の環境下500時間放置し、次いで、ハードコートフィルムを取りだし、室温で12時間放置した。
その後、前記(4)と同様の方法でハードコート層と基材フィルムとの密着性を求め、下記の基準でランク分けをした。
◎:100%
○:96%以上100%未満
△:80%以上96%未満
×:80%未満
【0065】
(7)干渉縞改善性(虹彩状色彩)
前記のハードコートフィルムを10cm(フィルム幅方向)×15cm(フィルム長手方向)の面積に切り出し、試料フィルムを作成した。得られた試料フィルムのハードコート層面とは反対面に、黒色光沢テープ(日東電工株式会社製、ビニルテープ No21;黒)を貼り合わせた。この試料フィルムのハードコート面を上面にして、3波長形昼白色(ナショナル パルック、F.L 15EX-N 15W)を光源として、斜め上から目視でもっとも反射が強く見える位置関係(光源からの距離40〜60cm、15〜45°の角度)で観察した。
【0066】
目視で観察した結果を、下記の基準でランク分けをする。なお、観察は該評価に精通した5名で行ない、最も多いランクを評価ランクとする。仮に、2つのランクで同数となった場合には、3つに分かれたランクの中心を採用した。例えば、◎と○が各2名で△が1名の場合は○を、◎が1名で○と△が各2名の場合には○を、◎と△が各2名で○が1名の場合には○を、それぞれ採用する。
◎:あらゆる角度からの観察でも虹彩状色彩が見られない
○:ある角度によっては僅かに虹彩状色彩が見られる
△:僅かに虹彩状色彩が観察される
×:はっきりとした虹彩状色彩が観察される
【0067】
(ポリエステル樹脂の重合)
撹拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備するステンレススチール製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート186質量部、ジメチルイソフタレート186質量部、ジメチル 5−ナトリウムスルホイソフタレート23.7質量部、ネオペンチルグリコール137質量部、エチレングリコール191質量部、およびテトラ−n−ブチルチタネート0.5質量部を仕込み、160℃から220℃まで、4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、29Paの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステル樹脂(A−1)を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂は、淡黄色透明であった。
【0068】
同様の方法で、別の組成の共重合ポリエステル樹脂(A−2、A−3、A−4)を得た。これらの共重合ポリエステル樹脂に対し、NMRで測定した組成および重量平均分子量の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1
(1)ポリエステルの水分散液の調整
撹拌機、温度計と還流装置を備えた反応器に、ポリエステル樹脂(A−1)20質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル15質量部を入れ、100℃で加熱、撹拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完全に溶解した後、水65質量部をポリエステル溶液に攪拌しつつ徐々に添加した。添加後、液を攪拌しつつ室温まで冷却して、固形分20質量%の乳白色のポリエステルの水分散液(B−1)を作成した。同様にポリエステル樹脂(A−1)の代わりにポリエステル樹脂(A−2)〜(A−4)を使用して、水分散液を作成し、それぞれ水分散液(B−2)〜(B−4)とした。
【0071】
(2)塗布液の調整
得られたポリエステル水分散液(B−1)38質量部、ヒドロキシビス(ラクタト)チタンの44質量%溶液(松本製薬(株)製、TC310)20質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにパーフルオロアルキルスルホン酸構造を有さないアニオン性フッ素系界面活性剤(株式会社ネオス製、フタージェント100)を樹脂固形分に対して0.5質量%、球状コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−1)と略記する)。
【0072】
(3)塗布層を有する易接着性ポリエステルフィルムの製造
フィルム原料ポリマーとして、固有粘度が0.62dl/gで、かつ粒子を実質上含有していないPET樹脂ペレットを、133Paの減圧下、135℃で6時間乾燥した。その後、二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、表面温度20℃に保った回転冷却金属ロール上で静電印加法により急冷密着固化させ、厚さ1400μmの未延伸PETシートを得た。
【0073】
この未延伸PETシートを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して、一軸延伸PETフィルムを得た。
【0074】
次いで、前記塗布液(C−1)をリバースロール法でPETフィルムの片面に乾燥後の塗布量が0.5g/m2 になるように塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。乾燥後、引続いてテンターで、120℃で幅方向に4.0倍に延伸し、フィルムの幅方向の長さを固定した状態で、230℃で0.5秒間加熱し、さらに230℃で10秒間3%の幅方向の弛緩処理を行ない、厚さ100μmの片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムを得た。
【0075】
(4)ハードコートフィルムの製造
前記の易接着性ポリエステルフィルムの塗布面に、下記のハードコート剤A(5質量部)にメチルエチルケトン(5質量部)を加えた溶液を、#8ワイヤバーを用いて塗布し、70℃で1分間乾燥し、溶剤を除去した。次いで、ハードコート層を塗布したフィルムを送り速度5m/分で走行させながら、高圧水銀灯を用いて照射エネルギー500mJ/cm2 、照射距離15cmの条件下で、ハードコート層面に紫外線を照射し、厚み3μmのハードコート層を有するハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0076】
〔ハードコート剤A〕
下記の(a)〜(d)の化合物を、下記の組成比で均一に混合し、ハードコート剤Aを得た。
(a)アクリル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 65質量部
(日本化薬製、D−310)
(b)ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート 10質量部
(大日本インキ化学製、DTA−400)
(c)ポリエステルアクリレート(東亜合成製、M−7100) 20質量部
(d)1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 5質量部
(チバガイギー製、イルガキュア184)
【0077】
実施例2
ポリエステル水分散液(B−2)46質量部、ヒドロキシビス(ラクタト)チタンの44質量%溶液(松本製薬(株)製、TC310)18質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにパーフルオロアルキルスルホン酸構造を有さないノニオン性フッ素系界面活性剤(株式会社ネオス製、フタージェント250)を樹脂固形分に対して1.0質量%、球状コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−2)と略記する)。この塗布液を用いて、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0078】
実施例3
ポリエステル水分散液(B−3)10質量部、ジイソプロポキシビス(トリエタノールアミナト)チタンの80質量%溶液(松本製薬(株)製、TC400)20質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにパーフルオロアルキルスルホン酸構造を有さないノニオン性フッ素系界面活性剤(3M社製、フロラード F−470)を樹脂固形分に対して1.0質量%、球状コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−3)と略記する)。この塗布液を用いて、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0079】
実施例4
ポリエステル水分散液(B−4)22質量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセナト)チタンの13質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにパーフルオロアルキルスルホン酸構造を有するノニオン性フッ素系界面活性剤(3M製、フロラード FC−170C)を樹脂固形分に対して2.0質量%、コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−4)と略記する)。この塗布液を用いて、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0080】
実施例5
ポリエステル水分散液(B−4)29質量部、ジルコニウムアセテート14質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにパーフルオロアルキルスルホン酸構造を有するアニオン性フッ素系界面活性剤(3M製、フロラード FC−95)を樹脂固形分に対して2.0質量%、コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−5)と略記する)。この塗布液を用いて、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0081】
比較例1
実施例1において、アニオン性フッ素系界面活性剤の代わりに、アニオン性界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(花王株式会社製、ネオペレックス No6Fパウダー)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0082】
比較例2
実施例1において、アニオン性フッ素系界面活性剤の代わりに、アニオン性界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(花王株式会社製、ネオペレックス No6Fパウダー)を7質量%使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0083】
比較例3
実施例1において、アニオン性フッ素系界面活性剤の含有量を0.05質量%にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0084】
比較例4
実施例1において、アニオン性フッ素系界面活性剤の含有量を5.0質量%にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0085】
比較例5
実施例2において、ノニオン性フッ素系界面活性剤の代わりに、ノニオン性界面活性剤として、RCOO(CH2CH2O)nHで示される脂肪酸EO付加系ノニオン性界面活性剤(ライオン株式会社製、エソファット0/20;Rがオレイル基で、nが10)を6質量%使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0086】
比較例6
実施例4において、ノニオン性フッ素系界面活性剤の代わりに、比較例5で用いたノニオン性界面活性剤(ライオン株式会社製、エソファット0/20)を7質量%使用したこと以外は、実施例4と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0087】
比較例7
固形分濃度が20質量%のアクリル樹脂エマルジョン(メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸/N−メチロールアクリルアミド=25/75/4/2:質量比)48質量部、チタン変性水性樹脂(松本製薬(株)製、オルガチックスWS680)6.4質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにアニオン性界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(花王株式会社製、ネオペレックス No6Fパウダー)を樹脂固形分に対して6質量%、球状コロイダルシリカ微粒子(触媒化成工業製、カタロイドSI80P;平均粒径80nm)水分散液を樹脂固形分に対しシリカとして2質量%添加し、塗布液を調製した(以下、塗布液(C−11)と略記する)。この塗布液(C−11)を用いて、実施例1と同様の方法で、片面に塗布層を有する二軸延伸PETフィルムおよびハードコートフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0088】
比較例8
実施例1において、塗布層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、未コートの二軸延伸PETフィルムを得た。この未コートフィルムの片面に、実施例1と同様の方法でハードコート層を形成させたハードコートフィルムを作成した。評価結果を表2に示す。
【0089】
比較例9
電子顕微鏡で観察した粒子径(幅/長さ)が0.01-0.02μm/0.05-0.1μmである、酸化チタン超微粒子(石原産業製、TTO−S−1)10質量部に水90質量部を加えた。次いで、分散器(AUTO CELL MASTER CM-200)を用いて、5000rpmで30分間分散し、濃度が10質量%の酸化チタン粒子の水分散液Aを作成した。
次いで、ポリエステル水分散液(B−4)30質量部、水150質量部およびイソプロピルアルコール100質量部をそれぞれ混合し、さらにアニオン性界面活性剤として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(花王株式会社製、ネオペレックス No6Fパウダー)を固形分に対して6質量%添加し、ポリエステルの水性分散液Bを調整した。前記で調整した酸化チタン粒子の水分散液Aを、ポリエステルの水性分散液Bに対し30質量部添加し、塗布液を調整した。しかしながら、前記塗布液中で酸化チタン微粒子がゲル状になって沈降したため、基材フィルムへの塗布を止めた。
【0090】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の光学用易接着ポリエステルフィルムは、該フィルムの易接着層にハードコート層を積層した際に、外光の写り込み、ぎらつき、虹彩状色彩等を抑制する反射防止性に優れ、かつハードコート層との密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れるため、タッチパネル、液晶ディスプレイ(LCD)、テレビやコンピューターのブラウン管(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、表面電界ディスプレイ(SED)、電子ペーパー等の表示画面の前面または装飾材等の表示画面の前面に装着して、外光の写り込み、ぎらつき、虹彩状色彩等を抑制する反射防止性を付与する反射防止フィルムの基材フィルムとして好適である。さらに、易接着層に被覆される機能層との密着性及び高温高湿下での密着性(耐湿熱性)に優れるため、易接着層に被覆される機能層として、光学用途で使用されるハードコート層のみならず、写真感光層、ジアゾ感光層、マット層、インキ層、接着剤層、熱硬化樹脂層、UV硬化樹脂層、金属あるいは無機酸化物の蒸着層、等の広範囲な素材を有する用途にも使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、水性ポリエステル樹脂(A)と、水溶性のチタンキレート化合物、水溶性のチタンアシレート化合物、水溶性のジルコニウムキレート化合物、または水溶性のジルコニウムアシレート化合物の少なくとも1種(B)とを主たる構成成分とし、(A)/(B)の質量比が10/90〜95/5である樹脂組成物に、前記の樹脂成分に対しフッ素系界面活性剤を0.1〜4.0質量%含有させ、塗布、乾燥した後、少なくとも一方向に延伸された塗布層を積層してなることを特徴とする光学用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記の易接着性ポリエステルフィルムは、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1記載の光学用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記の水性ポリエステル樹脂(A)が、スルホン酸金属塩基を含有する芳香族ジカルボン酸成分をポリエステルの全ジカルボン酸成分に対し1〜10モル%含有する共重合ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の光学用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記の水性ポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移温度が40℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学用易接着性ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光学用易接着性ポリエステルフィルムの塗布層の少なくとも片面に、電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂からなるハードコート層を積層してなる光学用積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−205579(P2006−205579A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21636(P2005−21636)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】