説明

光学用粘着テープまたはシートおよびその製造方法

【課題】優れた耐黄変性を発揮できる新規な光学用粘着テープまたはシートおよびその製造方法の提供。
【解決手段】透明性の粘着層10を有する光学用粘着テープまたはシート100であって、前記粘着層10が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤を用いて重合されたアクリル系粘着剤からなること(条件1)、熱分解ガスのガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)の測定において残存する前記アゾ系重合開始剤に帰属される主ピーク強度に対する前記ヒンダートフェノール系酸化防止剤に帰属する主ピーク強度の比率が0.4以下であること(条件2)、80℃、90%RH、500時間による湿熱保存後のL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数(b*)が1.0以下であること(条件3)、といった少なくとも3つの条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話や携帯ゲーム機、デジタルカメラなどの画面パネル、表面保護シート、光学シートや透明電極シートを接着するため、あるいはエアーギャップ用の光透過性に優れた光学用粘着テープまたはシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、携帯電話や携帯ゲーム機、デジタルカメラなどの画面パネルには強度および光透過性(透明性)に優れたガラス板が使用されている。そして、これら携帯用電子機器は落下や衝突などの衝撃を受け易いことから、例えば、その画面パネルを構成するガラス板の表面には、破損した際の飛散を防止するためのハードコートフィルムが、透明な両面粘着テープによって貼り付けられている。また、タッチパネル用途ではポリカーボネート支持体とITO電極フィルムの貼り合わせにも使用される。
【0003】
従来この種の両面粘着テープとしては、例えば以下の特許文献1〜3などに示すように基材フィルムの両面に粘着剤が塗布された両面粘着テープや、アクリル系共重合体を主成分とする透明な粘着剤層のみから構成された基材レスタイプの両面粘着テープまたはシートが広く用いられている。
【0004】
これら従来の両面粘着テープは、使用条件や経年劣化などによってその粘着層が黄色く着色(黄変)してしまい、画面パネルの光透過率を悪化させ、視認性の低下や表示色の劣化を引き起こす場合がある。
【0005】
そのため、例えば以下の特許文献4では、この粘着剤層を構成する組成物として、(a)水酸基含有ビニル単量体と、(b)カルボキシル基含有ビニル単量体を主成分とするアクリル系共重合体と、(c)メルカプト基含有シラン化合物とを主成分とする粘着剤組成物を用いることで、耐黄変性を向上させた粘着シートを提案している。
【0006】
また、以下の特許文献5では、この粘着剤層を構成する組成物として、(a)アクリル酸アルキルエステルと、(b)分子内に水酸基を有する単量体と、(c)分子内にカルボキシル基、アミド基、アミノ基のいずれかの官能基を有する単量体とを有する単量体混合物を主成分とする粘着剤組成物を用いることで、耐黄変性を向上させた光学部材用粘着シートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−255877号公報
【特許文献2】特開2006−348236号公報
【特許文献3】特開2005−23169号公報
【特許文献4】特開2004−59711号公報
【特許文献5】特開2004−91499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これら従来の粘着シートは通常の環境下ではある程度の耐黄変性を発揮できるが、高温、高湿度の過酷な環境下で長時間使用した場合には、黄変が避けられない。特に基材レスタイプの両面粘着テープの粘着剤層の厚さは、多くの場合、20μm(粘着剤付着量に換算して約20g/m)以上と厚いため、薄膜では気にならないレベルの黄変でも、目立ちやすくなる。
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、優れた粘着特性や透明性などを発揮できると共に耐黄変性に優れた新規な光学用粘着テープまたはシートおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、有機高分子材料の経年変化による黄変の原因の一つとして、有機高分子材料中に添加される無色のヒンダードフェノール系の酸化防止剤が、黄色のキノン系物質に変化するためであることが知られている。本発明者らは、この点に着目し、アクリル系共重合体を主成分とする透明な粘着剤層のみから構成された基材レスタイプの両面粘着テープの黄変の原因について、以下のように推定した。
【0010】
まず、アクリル系共重合体を主成分とする透明な光学用粘着剤にはアクリル系共重合体(アクリル共重合体の材料モノマーも含む)の酸化劣化、あるいは、粘着剤に添加される物質(色素などの着色剤)の変性を防止するためにBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)に代表される無色のヒンダードフェノール系の酸化防止剤が添加されることが多い。
【0011】
また、アクリル系共重合体を合成するために、重合開始剤として、重合活性、コストの観点からAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)に代表されるアゾ系重合開始剤が使用されることが多く、これは重合時間や重合温度や添加量をコントロールしても100%熱開裂されることはなく、重合後の粘着剤中にどうしても未反応の重合開始剤が残存する。
【0012】
このようなアクリル系共重合体を主成分とする透明な粘着剤の溶液を基材に塗工して乾燥し、粘着テープを作製した場合、例えば、BHTとAIBNが粘着剤層中に共存した状態で存在する。この粘着テープが、特に高温多湿下で保存された場合、図3に示すように、残存するAIBNが熱分解し、ラジカルを発生し、このラジカルにより共存するBHTが経時的に黄色のスチルベンキノン(SBQ)に変成し、粘着剤層が黄変すると推定した。
【0013】
特に基材レスタイプの両面粘着テープの粘着剤層の厚さは、多くの場合、十分な粘着力、被着体の段差に対する追従性、クッション性等の確保を考慮して、20μm(粘着剤付着量に換算して約20g/m)以上と厚く設計されるため、薄膜では気にならないレベルの黄変でも、目立ちやすくなる。
【0014】
そこで、本発明者らは、この推定原因を基に、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特に光学用粘着剤においては、酸化劣化等を防止する上でBHT等の無色のヒンダードフェノール系の酸化防止剤の添加は多くの場合は必須となるため、もう一方のAIBN等のアゾ系重合開始剤を粘着剤溶液を塗布して熱乾燥する際に、熱分解して粘着剤層の系外に出来るだけ飛散させて排出すれば、BHT等の無色のヒンダードフェノール系酸化防止剤のキノン系物質への変成量を低減することが出来、特に、高温多湿環境下の長期保存においても黄変を目視では目立たない程度まで抑制出来ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、前記課題を解決するために第1の発明は、
透明性の粘着層を有する光学用粘着テープまたはシートであって、前記粘着層が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤を用いて重合されたアクリル系粘着剤からなること(条件1)、熱分解ガスのガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)の測定において残存する前記ヒンダートフェノール系酸化防止剤に帰属する主ピーク強度に対する前記アゾ系重合開始剤に帰属する主ピーク強度の比率が0.4以下であること(条件2)、80℃、90%RH、500時間による湿熱保存後のL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数(b*)が1.0以下であること(条件3)、といった少なくとも3つの条件を満足することを特徴とする光学用粘着テープまたはシートである。
【0016】
このような特性を有する本発明の光学用粘着テープまたはシートによれば、透明な両面粘着テープまたはシートとして優れた粘着特性や透明性などを発揮できることは勿論、優れた耐黄変性を発揮できるため、長期の使用や過酷な高温多湿環境下での使用によっても簡単に黄変することがない。
【0017】
また、条件2において、熱分解ガスのガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)の測定において残存する前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤に帰属される主ピーク強度に対する前記アゾ系重合開始剤に帰属する主ピーク強度の比率を0.4以下と規定したのは、0.4を超えると残存するヒンダートフェノール系酸化防止剤が残存する前記アゾ系重合開始剤と反応して黄色のキノン系物質であるSBQ(スチルベンキノン)が多量に生成され、透明粘着剤層が黄変してしまうからである。
【0018】
また、条件3において、80℃、90%RH、500時間による湿熱保存後のL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数(b*)が1.0以下であると規定したのは、この指数(b*)が1.0を超えると、光透過性に影響を与えるような明らかな黄変現象がみられるからである。
【0019】
また、第2の発明は、
第1の発明において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、およびアゾ系重合開始剤がAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)であることを特徴とする光学用粘着テープまたはシートである。
【0020】
また、第3の発明は、
透明性の粘着層を有する光学用粘着テープまたはシートの製造方法であって、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤で重合したアクリル系粘着剤に架橋剤を添加してから剥離フィルム上に塗工する粘着剤塗工ステップと、当該粘着剤塗工ステップで塗工した前記アクリル系粘着剤を前記アゾ系重合開始剤の分解温度以上で乾燥して前記粘着層を形成する乾燥ステップと、を含むことを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法である。
【0021】
そして、本発明でいう前記アゾ系重合開始剤の分解温度以上とは、具体的には第5の発明に規定するように110℃以上をいう。
【0022】
また、第4の発明は、
第3の発明において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、およびアゾ系重合開始剤がAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)であることを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法である。
【0023】
また、第5の発明は、
第3および4の発明において、前記乾燥ステップにおける乾燥処理は、前記粘着層を乾燥温度110℃以上140℃以下で所定時間乾燥することを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法である。
【0024】
ここで、乾燥温度を110℃以上と規定したのは、前記の通り、前記アゾ系重合開始剤の分解温度が約100℃(95〜105℃)であるからである。また、上限を140℃以下と規定したのは、140℃を超えると乾燥処理中に剥離フィルムが変形したりするおそれがあるからである。望ましくは120℃〜130℃の範囲である。
【0025】
このような本発明の製造方法によれば、第1の発明に示すような優れた粘着特性や透明性などを発揮でき、かつ耐黄変性に優れた光学用粘着テープまたはシートを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光学用粘着テープまたはシートは、透明な両面粘着テープまたはシートとして優れた粘着特性や透明性などを発揮できることは勿論、優れた耐黄変性を発揮できるため、高温、高湿度といった過酷な環境下における長期の使用によっても黄変することがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る光学用粘着テープおよびシート100の実施の一形態を示す拡大断面図である。
【図2】粘着層10の熱分解ガスをガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)によって測定したクロマトグラムの図である。
【図3】アクリル系粘着剤中に添加されている無色のヒンダードフェノール系の酸化防止剤(BHT)とアゾ系重合開始剤(AIBN)とが反応して黄色のキノン系物質(SBQ)が生成される状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の一形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る光学用粘着テープまたはシート100の実施の一形態を示す拡大断面図である。
【0029】
図示するように、この光学用粘着テープまたはシート100は、透明性の粘着層10を有し、その両面に剥離フィルム20,21で保護した構造となっている。
この粘着層10は、例えば厚さが約25μm程度であって、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤を用いて重合された透明なアクリル系粘着剤から構成されている(条件1)。
【0030】
そして、この粘着層10は、優れた粘着特性と透明性を有すると共に、後述するようにさらに熱分解ガスのガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)の測定において残存する前記ヒンダートフェノール系酸化防止剤に帰属する主ピーク強度に対する前記アゾ系重合開始剤に帰属する主ピーク強度の比率が0.4以下であること(条件2)、および80℃、90%RH、500時間による湿熱保存後のL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数(b*)が1.0以下であること(条件3)といった特性を有している。
【0031】
図2は、この粘着層10の熱分解ガスをガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)によって測定したクロマトグラムの結果を示したものである。
図2においては、実施例1、実施例2および比較例1といった3種類の測定結果が示されているが、実施例1および2が本発明の光学用粘着テープまたはシート100の粘着層10に係るものであり、比較例1が従来の光学用粘着テープまたはシートの粘着層に係るものである。
【0032】
図示するように、本発明に係る実施例1および2のいずれも残存するヒンダートフェノール系酸化防止剤(BHT)に帰属する主ピーク強度に対するアゾ系重合開始剤(AIBN)に帰属する主ピーク強度の比率が0.4以下となっている。これに対し、比較例1では、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(BHT)に帰属する主ピーク強度に対するアゾ系重合開始剤(AIBN)に帰属する主ピーク強度の比率が0.4を超えているのがわかる。
【0033】
剥離フィルム20,21は、例えば厚さが約50μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)などのフィルムから構成されている。そして、一方の剥離フィルム20が重剥離性、他方の剥離フィルム21が軽剥離性となっているため、例えば軽剥離性側の剥離フィルム21側を先に剥がしてその粘着層10の片面を図示しない携帯電子機器のガラス板側に貼り付けた後、重剥離性の剥離フィルム20を剥がしてその粘着層10の他面に図示しないハードコートフィルムを貼り付ける。
【0034】
これによって、携帯電子機器のガラス板の光透過性を殆ど犠牲にすることなく、そのガラス板上にハードコートフィルムなどをしっかりと貼り付けることができる。
【0035】
このような特性を有する本発明の光学用粘着テープまたはシート100によれば、後述する実施例からも明らかなように透明な両面粘着テープまたはシートとして優れた粘着特性や透明性などを発揮できることは勿論、優れた耐黄変性を発揮できるため、長期の使用および高温、高湿度下といった過酷な環境での使用によっても簡単に黄変することがない。
【0036】
従って、このような本発明に係る光学用粘着テープまたはシート100を、携帯電話や携帯ゲーム機、デジタルカメラなどの画面パネル、表面保護シート、光学シートや透明電極シートを接着するため、あるいはエアーギャップ用の光学用粘着テープまたはシートとして用いることにより、耐久性(粘着特性)や光透過性は勿論、耐黄変性に優れた画面パネルを提供することができる。
【0037】
次に、本発明で使用される材料、製造方法の詳細について説明する。
本発明の光学用粘着テープに使用される粘着剤には、公知の透明なアクリル系の粘着樹脂を使用することができる。その中でも、アクリルモノマーの反復ユニットとして炭素数2〜14のアルキル基を有するアクリル酸エステルに由来する反復ユニットを含有するアクリル系共重合体が、耐光性および耐熱性の点から好ましい。例えば、n−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、エチルアクリレート等に由来する反復ユニットを含むアクリル系共重合体が挙げられる。
【0038】
さらに反復ユニットとして、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの極性基を有するアクリル酸エステルやその他のビニル系単量体に由来する反復ユニットを0.01
〜15質量部の範囲で含有するのが好ましい。アクリル系共重合体は、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等によって共重合させることにより得ることができる。アクリル系共重合体の平均分子量は、40万〜140万が好ましく、更に好ましくは、60万〜120万である。
【0039】
本発明の光学用粘着テープに使用されるアクリル系共重合体の合成において使用されるアゾ系重合開始剤としては、例えば、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビスジフェニルメタン、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2−シアノ−2−プロピラゾホルムアミド、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリル酸)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などが挙げられる。
【0040】
これらアゾ系重合開始剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、上記アゾ系重合開始剤の中でも、重合活性に優れ、また、安価であることから、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
アゾ系重合開始剤の添加量としては、重合前のモノマー100質量部に対して、0.05〜5質量部を添加するのが好ましい。
【0041】
また、粘着剤は、凝集力を高め、また、耐熱性等を付与するために、アクリル重合体にカルボキシ基および/またはヒドロキシ基を有する単量体単位を含有させた上で、カルボキシ基および/またはヒドロキシ基と反応する架橋剤を含有することが好ましい。
このような架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、金属キレート化合物、ブチル化メラミン化合物などが挙げられる。
【0042】
これら架橋剤の中でも、アクリル重合体を容易に架橋できることから、イソシアネート化合物、エポキシ化合物が好ましい。
イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0043】
エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、テトラグリシジルキシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これら架橋剤の含有量は、所望とする粘着物性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0044】
また、粘着剤は、粘着力を向上させるために粘着付与剤を添加しても良い。粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂(C5系石油樹脂、C9系石油樹脂)、脂環族系石油樹脂、脂環族系水添石油樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、不均化ロジンエステル、水添ロジンエステルや脂環族系水添石油樹脂(脂環族系飽和炭化水素樹脂ともいう)が好ましい。
【0045】
粘着付与樹脂の添加量としては、アクリル系共重合体100質量部に対して10〜60質量部を添加するのが好ましい。接着性を重視する場合は、20〜50質量部を添加するのが好ましい。
【0046】
また、本発明の光学用粘着テープに使用される粘着剤に添加される酸化防止剤としては、一般にラジカル連鎖停止剤と呼ばれる一次酸化防止剤と、過酸化物分解剤として作用する二次酸化防止剤とに分類される。一次酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤などが挙げられる。二次酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
【0047】
本発明における粘着剤の酸化防止剤は、少なくともヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むものである。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、比較的少ない添加量で効果を発現出来るので好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、アクリル系共重合体100質量部に対して0.05〜2.0質量部であることが好ましい。
【0048】
酸化防止剤の含有量が0.05質量部未満であれば、高温及び湿熱環境下にて長時間に亘って使用した際の粘着剤の酸化防止効果がなく、2.0質量部を超えると、可視光の透明性低下や粘着性低下が起こる。
【0049】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の市販品としては、ノクラック200(BHT)、ノクラックM−17、ノクラックSP、ノクラックSP−N、ノクラックNS−5、ノクラックNS−6、ノクラックNS−30、ノクラックPBK、ノクラックNS−7、ノクラックDAH(いずれも、大内新興化学工業株式会社の商品名)、アデカスタブAO−20、AO−30、AO−40、AO−50(イルガノックス−1076と同じ)、AO−60(イルガノックス1010と同じ)、AO−70(イルガノックス245と同じ)、AO−80、AO−330(イルガノックス1330と同じ)、AO−611、AO−612、AO−613、AO−616、AO−635、AO−658、A−15、AO−18、AO−328、AO−37、AO−51(いずれも、株式会社アデカの商品名)、イルガノックス245、イルガノックス259、イルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス1081、イルガノックス1135、イルガノックス1222、イルガノックス1330、イルガノックス3114、イルガノックス3790(いずれもチバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社)が例示できる。
【0050】
特に、ノクラック200、ノクラックNS−5、ノクラックNS−6、ノクラックNS−30、ノクラックPBK、ノクラックSP−N、アデカスタブAO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80、AO−330、イルガノックス245、イルガノックス259、イルガノックス1010、イルガノックス1330、イルガノックス3114、イルガノックス3790の使用が望ましい。
【0051】
粘着テープまたはシートの製造方法としては、例えば、剥離フィルムの剥離剤層上に上述した粘着剤を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した後、粘着剤層に剥離フィルムを貼合して両面粘着テープまたはシートを得る方法などが挙げられる。
【0052】
剥離フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの各種プラスチックフィルムにシリコーン等の剥離剤を塗布して剥離剤層を形成したものや、ポリオレフィン系のフィルム単体などが挙げられる。
粘着剤の塗布方法としては、例えば、メイヤーバーコータ、ロールコータ、ナイフコータ、コンマコータ、グラビアコータ、リップコータ、カーテンコータ、ダイコータ等を用いた塗布方法が挙げられる。
【0053】
粘着剤の塗布量は10〜250g/mであることが好ましく、20〜100g/mであることが特に好ましい。粘着剤の塗布量が10g/m未満であれば、充分な粘着力や被着体の段差に対する追従性やクッション性が確保できず、長時間使用した場合に浮きや剥がれが生じやすい。一方、粘着剤の塗布量が250g/mを越えると、粘着剤溶液を剥離フィルムの上に塗布し乾燥する際に、粘着剤層に発泡が生じたり、溶剤が十分に乾燥できずに粘着特性が低下するといった問題が生じる。
【実施例1】
【0054】
次に、本発明に係る具体的実施例を説明する。
(実施例1)
アクリル酸ブチル97.8質量部、メタクリル酸メチル2.0質量部及びアクリル酸2ヒドロキシエチル0.2質量部を、酢酸エチル100質量部で希釈し、重合開始剤として、2,2’−アゾイソブチロニトリル(AIBN,分解温度103℃)0.1質量部を加え、窒素雰囲気下で、70℃で攪拌しながら10時間加熱還流した後、酸化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.05質量部加え、固形分約50%のアクリル共重合体溶液を得た。
【0055】
次いで、当該アクリル共重合体100質量部に対して、粘着付与剤として、不均化ロジングリセリンエステル(荒川化学工業(株)製スーパーエステルA100)を20質量部、重合ロジンペンタエリスリトールエステル(荒川化学工業製ペンセルD135)を10質量部、架橋剤としてポリイソシアネート(DIC(株)製バーノックDN980)を1.0質量部添加し、酢酸エチルで希釈し、固形分濃度40%の粘着剤を得た。
【0056】
厚さ38μmの剥離PETフィルム上に、上記粘着剤を乾燥後の付着量が25g/mになるように塗工し、乾燥炉の前半部において光学的なムラ、欠陥が発生しないように60〜90℃で初期乾燥をした後、乾燥炉の後半部において110℃で3分間乾燥させた。次いで、粘着剤層の表面に、厚さ38μmの剥離PETフィルムを貼合して、粘着シートを得た。
(実施例2)
粘着剤塗工後の乾燥炉の後半部における乾燥条件を110℃で2分間に変更した以外は、実施例1と全く同様にして粘着シートを得た。
(比較例1)
粘着剤塗工後の乾燥炉の後半部における乾燥条件を80℃で3分間に変更した以外は、実施例1と全く同様にして粘着シートを得た。
【0057】
作製したすべての粘着シートについて、JIS Z 0237及びJIS Z 1528に準じて粘着特性を測定した結果、いずれも粘着力4.0N/10mm(対ステンレス板)、タック9(角度30°)、保持力<0.1mm(40℃,荷重9.8N,24時間後のズレ)と、ほぼ同等の数値を示した。
【0058】
作製したすべての粘着シートについて、粘着層を少量分取し、熱抽出/熱分解GCMS分析(装置:JMS-1000GC K9)を行った。50℃から200℃まで昇温速度10℃/分にて加熱した際の加熱抽出物のクロマトグラムにおいて、アゾ系重合開始剤に帰属するピークがみられたため(図2のR.T=11.3分付近)、すべての粘着シートにおいて、アゾ系重合開始剤が微量ずつ分解・飛散せずに残っていることが確認された。
【0059】
その残存量を、BHTに帰属するピーク(図2のR.T=18.7分付近)との強度比で表した結果を表1に示す。
作製したすべての粘着シートについて、可視光透過率、全光線透過率、ヘイズ及びL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数b*を測定した結果を表1に示す。また、当該粘着シートを加熱条件下(80℃)及び湿熱条件下(80℃×90%RH)に500時間保存後に同測定した結果も併せて示す。
【0060】
【表1】

表1の結果より、GCMSのクロマトグラムにおけるAIBN/BHTのピーク強度比が0.42と粘着剤にAIBNが多量に残存している場合(比較例1)、その他に黄変物質を含有していなくても、実用を想定した過酷な高温あるいは高温多湿下の保存試験において、AIBNが熱分解して発生するラジカルにてBHTが変成し、テープが黄変(b*1.44)してしまうことが確認出来た。
【0061】
一方、粘着剤にAIBNが残存していても、テープ作製時に、AIBN/BHTのピーク強度比が0.4未満となるよう、乾燥時に充分熱を加えてAIBN量を分解・飛散して減少させた場合(実施例1、2)、実用を想定した過酷な高温あるいは高温多湿下の保存試験においても、黄変を抑制(b*1.0未満)出来ることが確認出来た。
【符号の説明】
【0062】
100…光学用粘着テープまたはシート
10…粘着層
20…(重剥離性)剥離フィルム
21…(軽剥離性)剥離フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性の粘着層を有する光学用粘着テープまたはシートであって、前記粘着層が以下の3つの条件を満足することを特徴とする光学用粘着テープまたはシート。
条件1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤を用いて重合されたアクリル系粘着剤からなること。
条件2:熱分解ガスのガスクロマトグラフ質量分析計による測定において残存する前記ヒンダートフェノール系酸化防止剤に帰属する主ピーク強度に対する前記アゾ系重合開始剤に帰属する主ピーク強度の比率が0.4以下であること。
条件3:80℃、90%RH、500時間による湿熱保存後のL*a*b*表色系で表されるクロマティクネス指数(b*)が1.0以下であること。
【請求項2】
請求項1に記載の光学用粘着テープまたはシートにおいて、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、およびアゾ系重合開始剤がAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)であることを特徴とする光学用粘着テープまたはシート。
【請求項3】
透明性の粘着層を有する光学用粘着テープまたはシートの製造方法であって、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有する、アゾ系重合開始剤で重合したアクリル系粘着剤に架橋剤を添加してからこれを剥離フィルム上に塗工して粘着層を形成する粘着剤塗工ステップと、
当該粘着剤塗工ステップで塗工した粘着層を前記アゾ系重合開始剤の分解温度以上で乾燥する乾燥ステップと、を含むことを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光学用粘着テープまたはシートの製造方法において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤がBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、およびアゾ系重合開始剤がAIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)であることを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光学用粘着テープまたはシートの製造方法において、
前記乾燥ステップにおける乾燥処理は、前記アクリル系粘着剤を乾燥温度110℃以上140℃以下で所定時間乾燥することを特徴とする光学用粘着テープまたはシートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168688(P2011−168688A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33323(P2010−33323)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000194332)マクセルスリオンテック株式会社 (46)
【Fターム(参考)】