説明

光学用粘着剤組成物

【課題】タッチパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、気泡は発生せず、厚膜の粘着剤層を1回の塗工で形成することが可能な粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】粘着剤用樹脂が有機溶剤中に固形分20質量%以上に溶解されてなる光学用粘着剤組成物において、上記粘着剤用樹脂が、重量平均分子量が15万〜150万のアクリル樹脂であり、上記有機溶剤が、下記低沸点溶剤a1〜10質量%と、下記中沸点溶剤b10〜60質量%と、下記中高沸点溶剤c10〜50質量%と、下記高沸点溶剤d5〜30質量%からなることを特徴とする光学用粘着剤組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルやプラズマディスプレイパネルなどにおける光学部材同士の貼り合わせに用いる厚膜塗工可能な粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両搭載用、屋外計器用およびパソコンなどのディスプレイまたはテレビなどの表示装置の軽量化および薄型化により、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要はますます増加傾向にある。特に最近では、銀行などの金融機関のATMや自動販売機、携帯電話、携帯情報端末、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、電子辞書、コピー機、ファックス、カーナビなどデジタル情報機器には、液晶表示装置を用いたタッチパネルが多く使用されている。
【0003】
タッチパネルは、表示装置と位置入力装置を組み合わせた電子部品であり、外部から受けた画像情報を液晶ディスプレイに表示するとともに、触れられた画面位置情報を感知し、外部へ情報信号として出力する機能を有する。タッチパネルの位置入力装置には主に抵抗膜法、静電容量法、電磁誘導法、光学法、音響法などの制御方式がある。一般的な制御方式である抵抗膜方式は、フィルムやガラスなどのパネルに酸化インジウム(以下、ITOと記載)膜などの透明導電層を貼り合わせた電極同士を、その間にスペーサーを設けるようにして、上下に配置した構造を有している。これをパネルの上から指やペンでタッチすることで、加圧された部分の上部および下部の透明導電層が電気的に接触し、タッチした部分の検知ができる。
【0004】
上記の抵抗膜方式のタッチパネルにおいて、フィルムやガラスなどのパネルに透明導電層を貼り合わせる場合や、透明導電層をLCDなどの表示装置や機能性シートに貼り合わせる場合に光学用粘着剤が用いられる。また、上部および下部に配置された透明導電層同士の貼り合わせにも用いられ、最近では、静電容量方式においても透明導電層同士の貼り合わせにも光学用粘着剤が用いられる。さらに、透明導電層を用いるその他の光学部材として、エレクトロルミネッセンスディスプレイもあり、これらの用途にも光学用粘着剤が用いられる。
【0005】
上記の通り、タッチパネル用途に使用される光学用粘着剤は、透明導電層とパネルとの貼り合わせや、透明導電層同士の貼り合わせなどに用いられるため、透明性や耐候性などの光学的性能が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−118499号公報
【特許文献2】特開2009−79203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の抵抗膜方式のタッチパネルには、タッチした際の柔軟性やタッチ感を出すためにタッチパネル上部透明導電層と上部に設けるパネルとを貼り合わせる際に、一定の厚みを持たせた粘着剤層を用いる。また下部透明導電層とLCDパネルとの間にはギャップを設ける場合があるが、このギャップを粘着剤層に変更することでギャップ間の反射が少なくなり、LCDのコントラストが向上する。さらに静電容量方式の場合も上部透明導電層と下部透明導電層の間を粘着剤層にするため、従来よりも厚い100μm以上の粘着剤層が求められるようになっている。
【0008】
100μm以上の粘着剤層にする場合、25μmや50μmの粘着剤層を重ね貼りする手法もあるが、工程数が多くなりコストもかかり、さらに貼り合わされることで透明性に劣るなどの問題点もあった。一方で、1回の塗工で100μm以上の厚膜の粘着剤層を形成しようとすると、塗工乾燥の際に発泡してしまい、塗膜に気泡が発生してしまうなど、光学用としての性能を満たせず、厚塗りすることができないという課題があった。
【0009】
従って本発明の目的は、タッチパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、気泡が発生せず、厚膜の粘着剤層を1回の塗工で形成することが可能な粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、粘着剤用樹脂が有機溶剤中に固形分20質量%以上に溶解されてなる光学用粘着剤組成物において、上記粘着剤用樹脂が、重量平均分子量が15万〜150万のアクリル樹脂であり、上記有機溶剤が、下記低沸点溶剤a1〜10質量%と、下記中沸点溶剤b10〜60質量%と、下記中高沸点溶剤c10〜50質量%と、下記高沸点溶剤d5〜30質量%とからなり(溶剤a〜dの合計を100質量%とする)、溶剤a〜dの平均沸点が100℃以上であり、かつ溶剤a〜dの平均蒸気圧が5,000Pa以上であることを特徴とする光学用粘着剤組成物を提供する。
【0011】
・低沸点溶剤a:沸点が30℃以上70℃未満で蒸気圧が15,000〜60,000Pa
・中沸点溶剤b:沸点が70℃以上100℃未満で蒸気圧が8,000〜15,000Pa
・中高沸点溶剤c:沸点が100℃以上140℃未満で蒸気圧が800〜8,000Pa
・高沸点溶剤d:沸点が140℃以上250℃未満で蒸気圧が1〜800Pa
(上記における沸点は1気圧での値、蒸気圧は20℃での値である)
【0012】
上記本発明においては、100μm以上の厚膜塗工時のヘイズ値が1.0以下であること;溶剤組成が、粘着剤層を形成したときに、該粘着剤層に溶剤が実質的に残留しない組成であること;アクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー単位100質量部と水酸基またはカルボキシル基を含有する共重合可能なモノマー単位0.1〜10質量部とを含むことが好ましい。
【0013】
また、上記本発明においては、アクリル樹脂が、芳香族モノマー単位および/またはジアルキル置換アクリルアミドモノマー単位を含むこと;架橋剤、粘着付与樹脂、シランカップリング剤および酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、また、本発明の粘着剤組成物は特に限定されるものではないが、タッチパネル用として特に有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タッチパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、気泡が発生せず、厚膜の粘着剤層を1回の塗工で形成することが可能な粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の明細書および特許請求の範囲における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0016】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤用樹脂が有機溶剤中に固形分20質量%以上に溶解されてなり、特に上記有機溶剤の組成に特徴がある。
本発明で使用する粘着剤用樹脂は、分子量が15万〜150万のアクリル樹脂であり、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー(以下、単にモノマーAとする)と、水酸基またはカルボキシル基を含有する共重合可能なモノマー(以下、単にモノマーBとする)を主モノマーとする共重合体である。
【0017】
前記モノマーAとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。
【0018】
前記モノマーBとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどの水酸基含有モノマーが挙げられ、また、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチルアクリレートなどのカルボキシル基含有モノマーも挙げられる。これらのモノマーBはいずれも粘着剤の分野において公知であり、公知のものであれば、いずれも本発明で使用することができる。
【0019】
モノマーBの好ましい使用量は、モノマーAを100質量部としたときに、モノマーBが0.1〜10質量部である。前記モノマーBの使用割合が0.1質量部未満であると、共重合体を架橋剤で架橋させたときに、架橋後の共重合体のゲル分率が低く、粘着剤層の耐久性が劣り、粘着剤層の剥がれが発生したり、粘着剤層に発泡が生じたりする。一方、前記モノマーBの使用割合が10質量部を超えると、耐久性試験において粘着剤層が剥がれ易くなるため好ましくない。
【0020】
上記本発明で用いるアクリル樹脂は、さらに、芳香族モノマー単位を含有し得る。芳香族モノマーとは、構造中に芳香族基を含むモノマーであり、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これら芳香族モノマーを共重合することによって粘着剤層の屈折率を上昇させることができるだけでなく、光学部材間の全反射を少なくして、粘着剤層の透過率を上昇させるなどの効果が得られる。芳香族モノマーの使用量は、前記モノマーA100質量部あたり1〜40質量部の範囲が好ましい。
【0021】
また、本発明で用いるアクリル樹脂は、さらに、ジメチルメタクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどのジアルキル置換アクリルアミドモノマー単位を含有し得る。これらアクリルアミドモノマーを共重合することによって光学用粘着剤としての耐久性を向上させる効果が得られる。上記アクリルアミドモノマーの使用量は、前記モノマーA100質量部あたり1〜10質量部の範囲が好ましい。
【0022】
上記モノマーA、Bおよびその他のモノマーを共重合して得られるアクリル樹脂の重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)は15万〜150万である。アクリル樹脂の重量平均分子量が15万未満であると、形成される粘着剤層の耐久性が不十分となる。一方、アクリル樹脂の重量平均分子量が、150万を超えると粘度調整のための溶剤量が粘着剤中に増えてしまい、必然的に粘着剤の蒸発残分が低くなり、厚塗り塗工乾燥時に発泡しやすくなるので好ましくない。
【0023】
本発明で使用するアクリル樹脂は、溶液重合でも乳化重合の何れでも製造できるが、溶液重合が好ましい。重合方法としては、例えば、ラジカル共重合、イオン共重合、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合などが挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
本発明の溶液重合に使用可能な溶剤としては、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類、ハロゲン炭化水素類、ケトン類、アミン類、アルコール類、エーテル類、エステル類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、トリメット酸エステル類、リン酸エステル類、ピロメット酸エステル類、セバシン酸エステル類などが挙げられる。特に好ましい溶剤は、後述の低沸点溶剤a、中沸点溶剤b、中高沸点溶剤cおよび高沸点溶剤dの何れか、或いはこれらの混合溶剤であり、これらの溶剤中で溶液重合することで、重合溶液がそのまま粘着剤組成物の原料として使用できる。
【0025】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、アクリル樹脂の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0026】
本発明の主たる特徴は、前記のアクリル樹脂を特定の混合溶剤に溶解した点にある。該混合溶剤は、低沸点溶剤aと中沸点溶剤bと中高沸点溶剤cと高沸点溶剤dとの混合溶剤である。
低沸点溶剤aは、1気圧における沸点が30℃以上70℃未満であって、20℃における蒸気圧が15,000〜60,000Paのものであり、例えば、モノエチルアミン、アリルクロライド、エチルエーテル、アセトン、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、n−ヘキサン、イソプロピルエーテル、ジクロルメタン、メタノールなどが挙げられ、好ましくは、アセトン、酢酸メチル、n−ヘキサン、メタノールなどが挙げられる。
【0027】
低沸点溶剤aの使用量は、溶剤a〜dの合計を100質量%としたときに、1〜10質量%であり、好ましくは5〜10質量%である。低沸点溶剤aの使用量が1質量%未満であると粘着剤中の溶剤の沸点を下げることができず、低沸点溶剤としての役目を果たすことができない。一方、低沸点溶剤aの使用量が10質量%を超えると粘着剤中の溶剤の沸点を下げすぎてしまい、厚塗り塗工乾燥時に発泡しやすくなる。
【0028】
中沸点溶剤bとしては、1気圧における沸点が70℃以上100℃未満であって、20℃における蒸気圧が8,000〜15,000Paのものであり、例えば、トリクロルエチレン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、2−ブタノール、メチルエチルケトンなどが挙げられ、好ましくは、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0029】
中沸点溶剤bの使用量は、溶剤a〜dの合計を100質量%としたときに、10〜60質量%であり、好ましくは30〜60質量%である。中沸点溶剤bの使用量が10質量%未満であると粘着剤中の溶剤の沸点低下や沸点上昇を引き起こしてしまい、安定した粘着剤層が得られない。一方、中沸点溶剤bの使用量が60質量%を超えると厚塗り塗工乾燥時に発泡してしまう。
【0030】
中高沸点溶剤cとしては、1気圧における沸点が100℃以上140℃未満であって、20℃における蒸気圧が800〜8,000Paのものであり、例えば、n−オクタン、キシレン、エチルシクロヘキサン、モノクロロベンゼン、シクロヘキシルアミン、メチルイソブチルカルビノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、トルエン、モノクロロ酢酸メチルなどが挙げられるが、好ましくは、n−オクタン、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエンなどが挙げられる。
【0031】
中高沸点溶剤cの使用量は、溶剤a〜dの合計を100質量%としたときに、10〜50質量%であり、好ましくは30〜50質量%である。中高沸点溶剤cの使用量が10質量%未満であると厚塗り塗工乾燥時に気泡が発生しやすくなり、一方、中高沸点溶剤cの使用量が50質量%を超えると、厚塗り塗工乾燥時の気泡は発生しにくくなるものの、十分ではない。
【0032】
高沸点溶剤dとしては、1気圧における沸点が140℃以上250℃未満であって、20℃における蒸気圧が1〜800Paのものであり、例えば、モノエタノールアミン、N−メチル−2−ピロリドン、n−ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジイソブチルケトン、アセチルアセトン、イソホロン、ダイアセトンアルコール、アセトフェノン、シクロヘキサノン、酢酸アミル、酢酸3−メトキシブチル、エチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メチル3−メトキシブタノールアセテート、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、アジピン酸ジイソノニルなどが挙げられ、特に好ましい溶剤としてはグリコールエーテル類、グリコールエステル類、アセチルアセトン、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0033】
高沸点溶剤dの使用量は、溶剤a〜dの合計を100質量%としたときに、5〜30質量%であり、好ましくは10〜25質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。高沸点溶剤dの使用量が5質量%未満であると厚塗り塗工乾燥時に発泡しやすくなる。一方、高沸点溶剤dの使用量が30質量%を超えると厚塗り塗工乾燥時の発泡は抑えられ、塗膜に気泡は発生しなくなるものの、形成された粘着剤層中の残留溶剤量が増えてしまい、粘着剤層の性能面に悪影響を及ぼす。
【0034】
以上の溶剤a〜dからなる混合溶剤の平均沸点が100℃以上になるように溶剤a〜dを混合することが必要である。混合溶剤の平均沸点が100℃未満であると厚塗り塗工乾燥時に発泡してしまい、塗膜に気泡が容易に発生してしまう。ここで「平均沸点」とは溶剤a〜dの各沸点の平均沸点であり、溶剤a〜dの各沸点をBa、Bb、Bc、Bd、溶剤a〜dの各添加量をA、B、C、Dとした時に、以下の[式1]より算出される。
[式1]
平均沸点=(Ba×A+Bb×B+Bc×C+Bd×D)/(A+B+C+D)
【0035】
また、以上の溶剤a〜dからなる混合溶剤の平均蒸気圧が5,000Pa以上になるように溶剤a〜dを混合することが必要である。混合溶剤の平均蒸気圧が5,000Pa未満であると、厚塗り塗工乾燥し、得られた粘着剤層中の残留溶剤が増えてしまい、性能面において悪影響を及ぼす。ここで「平均蒸気圧」とは溶剤a〜dの各溶剤の蒸気圧の平均であり、溶剤a〜dの各蒸気圧をVa、Vb、Vc、Vdとし、溶剤a〜dの各添加量をA、B、C、Dとした時に、以下の[式2]より算出される。
[式2]
平均蒸気圧=(Va×A+Vb×B+Vc×C+Vd×D)/(A+B+C+D)
【0036】
また、前記混合溶剤の溶剤組成は、本発明の粘着剤組成物から粘着剤層を形成したときに、該粘着剤層に溶剤が実質的に残留しない(溶剤臭気が残留しない)組成であることが好ましい。このような溶剤組成は、例えば、前記溶剤a〜dの組成の範囲内、平均沸点の範囲内および平均蒸気圧の範囲内で、低沸点溶剤および中沸点溶剤の配合比率を相対的に大きくすることで達成される。
【0037】
本発明の粘着剤組成物は、上記混合溶剤中に前記のアクリル樹脂を固形分濃度20質量%以上に溶解して溶液とすることで得られる。アクリル樹脂の固形分濃度が20質量%未満であると、アクリル樹脂中の溶剤成分が増えて、厚塗り塗工乾燥し、得られた塗膜が発泡しやすくなる。該溶液は、前記混合溶剤中に、別途合成した前記アクリル樹脂を溶解して調製してもよいし、前記混合溶剤中で前記アクリルモノマーを共重合して調製してもよいし、また、前記溶剤a〜dの何れかまたは複数の溶剤中にアクリル樹脂を溶解し、またはモノマーを共重合し、次いで残りの溶剤を加えて溶剤組成を前記の通りとしてもよい。
【0038】
本発明の粘着剤組成物は、さらに架橋剤、粘着付与樹脂、シランカップリング剤および酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。特に架橋剤は使用することが好ましい。
【0039】
本発明で使用する架橋剤としては、従来の1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、またはブチル化メラミン化合物などを使用することができる。好ましくはポリグリシジル化合物、ポリイソシアネート化合物、ポリアジリジン化合物、金属キレート化合物などを使用することができ、これらを、単独もしくは2種類以上の併用で使用することが可能である。
【0040】
好ましい架橋剤の使用量は、前記アクリル樹脂(固形分)100質量部に対して、0.01〜2質量部である。架橋剤の使用量が0.01質量部未満であると形成した塗膜が発泡などを起こし耐久性が悪くなり、架橋剤の使用量が2質量部を超えると形成した粘着剤層が剥がれなどを起こし耐久性が悪くなる。
【0041】
本発明で使用するシランカップリング剤としては、粘着剤の分野において公知のシランカップリング剤であれば、いずれも使用することができる。
【0042】
本発明の粘着剤組成物は、さらに粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。また、本発明の粘着剤組成物の製造方法自体は公知の方法でよく特に限定されない。
【0043】
本発明の粘着剤組成物は、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置などを用いて、シリコーン樹脂などの剥離剤を表面にコートしたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの保護フィルムの片面或いは両面に塗工し、塗工層を乾燥することにより粘着剤層を形成するのに使用する。また、必要に応じて、粘着剤層を加熱架橋または紫外線などの光による硬化をすることもできる。
【0044】
本発明の粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後の粘着剤層の厚さが、100〜200μmとなる程度であることが好ましい。上記粘着剤層の厚さを上記範囲内とすることにより、気泡の発生のない粘着剤層となる。本発明の粘着剤組成物は、100μm以上の膜厚に塗工しても、その粘着剤層のヘイズ値は1.0以下に保持することができる。
【0045】
本発明の粘着剤組成物は、種々の光学部材の貼り合わせに有効であるが、特にタッチパネルにおける各種部材の貼り合わせに有用である。中でも抵抗膜方式の場合は、透明プラスチックフィルム部材の片面にITO膜などの透明導電層を形成させた位置入力装置の下部透明導電層と、LCDパネルなどの表示装置(素子)の間などといった、タッチパネルにおける位置入力装置と表示装置(素子)の間には、従来、0.3〜1.0mmの適当なギャップが設けられていた。しかしながら、このギャップ間での反射により視認性が低下してしまうため、これを防ぐ方法として、このギャップを粘着剤層で埋めることにより反射抑制を行い視認性を向上させることが求められている。一方で、静電容量方式の場合は、上部透明導電層と導電層がパターニングされた下部透明導電層とを、直接貼り合わせる用途や、下部透明導電層とLCDパネルとの貼り合わせの用途に粘着剤層を用いる場合がある。これらの粘着剤層には高度な光学的性能が要求されるが、本発明の粘着剤組成物を用いることで、上記したような高度な光学的性能を満たすことが可能となる。
【実施例】
【0046】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0047】
<共重合体1〜13の作成>
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、ブチルアクリレート100部、2−ヒドロキシエチルアクリレート2部とともに、n−ヘキサン(低沸点溶剤)5部、メチルエチルケトン(中沸点溶剤)30部、トルエン(中高沸点溶剤)50部、アセチルアセトン(高沸点溶剤)15部を加えた。その後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1部を加え、これを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、65℃で5時間反応させ、重量平均分子量50万のアクリル共重合体1の溶液を得た。同様にして表1に記載の単量体および溶剤組成で共重合体2〜13を得た。
【0048】

【0049】
・BA:ブチルアクリレート
・PHEA:フェノキシエチルアクリレート
・IOA:イソオクチルアクリレート
・EA:エチルアクリレート
・MA:メチルアクリレート
・HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
・4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタアクリレート
・AAc:アクリル酸
【0050】
上記表1における、重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(GEL Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。詳しくは、共重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0051】
表1中の溶剤の沸点および蒸気圧を下記の表2に示す。なお、表中の沸点及び蒸気圧の値は、「溶剤ハンドブック」記載の値で、沸点は1気圧での値、蒸気圧は20℃での値である。
【0052】

【0053】
[実施例1〜8、比較例1〜5]
表1の共重合体1(実施例1)の固形分100部に対して、コロネートL0.1部を混合して実施例1の粘着剤組成物とした。この粘着剤組成物をシリコーン樹脂コートされたPETフィルム上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶媒を除去し、粘着剤層の厚さが100μmであるシートを得た。該実施例1と同様にして、表3に記載の成分を混合して塗工することで、実施例1〜8および比較例1〜5の粘着剤組成物と、粘着剤層を形成したシートを得た。粘着剤層の厚さは表3に記載の通りである。
【0054】

【0055】
・コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製ポリイソシアネート
・テトラッドC:三菱瓦斯化学(株)製ポリグリシジル化合物
・テトラッドX:三菱瓦斯化学(株)製ポリグリシジル化合物
【0056】
[平均沸点の算出方法]
共重合体1〜13の溶液中の溶剤の平均沸点は、共重合体を合成する際に用いた、表1記載の溶剤a〜dの各添加量をそれぞれA、B、C、Dとし、表2に記載した上記溶剤a〜dの各沸点をそれぞれBa、Bb、Bc、Bdとした際に、以下の[式1]より算出される。
[式1]
平均沸点=(Ba×A+Bb×B+Bc×C+Bd×D)/(A+B+C+D)
【0057】
[平均蒸気圧の算出方法]
共重合体1〜13の溶液中の溶剤の平均蒸気圧は、共重合体を合成する際に用いた表1記載の溶剤a〜dの各添加量をそれぞれA、B、C、Dとし、表2に記載した上記溶剤a〜dの各蒸気圧をそれぞれVa、Vb、Vc、Vdとした際に、以下の[式2]より算出される。
[式2]
平均蒸気圧=(Va×A+Vb×B+Vc×C+Vd×D)/(A+B+C+D)
【0058】
<試験方法および評価基準>
[耐久性試験]
実施例および比較例における粘着剤層を形成したシートをPETフィルム上の片面にアンダーコート層、その上に非晶質ITO層、反対面にハードコート層を設けた総厚125μmのITOフィルムのハードコート層に貼り合わせ、それぞれ200mm×300mmに断裁し、フィルムセパレーターを剥離した後、ガラス基板上に貼り付け、オートクレーブ処理を行い、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルについて、それぞれ下記項目の試験を行った。
【0059】
(1)80℃
上記評価用サンプルを、80℃(DRY)の雰囲気下に500時間放置した後、発泡について目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
(2)60℃・90%RH
上記評価用サンプルを、60℃・90%RHの雰囲気下に500時間放置した後、発泡について目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
【0060】
<評価基準>
○:シートに発泡、剥がれが確認されない。
△:シートに発泡、剥がれが僅かに確認された。
×:シートに発泡、剥がれが確認された。
【0061】
[乾燥時発泡性]
<評価方法>
乾燥後塗工厚が100μm厚になるように塗工し、80℃で5分間乾燥した後、乾燥皮膜の発泡について目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
<評価基準>
○:乾燥皮膜に発泡が確認されない。
△:乾燥皮膜に発泡が僅かに確認された。
×:乾燥皮膜に発泡が確認された。
【0062】
[残留溶剤臭気]
<評価方法>
乾燥後塗工厚が100μm厚になるように塗工し、80℃で5分間乾燥した直後の、乾燥皮膜の臭気を嗅いで、残存溶剤臭気を確認した。評価基準は下記の通りである。
<評価基準>
○:乾燥皮膜に残存溶剤臭気が確認されない。
△:乾燥皮膜に残存溶剤臭気が僅かに確認された。
×:乾燥皮膜に残存溶剤臭気が確認された。
【0063】
[ヘイズ値]
上記評価用サンプルをガラス上に貼り合わせ、日本電色工業製 NDH5000Wヘーズメーターによって、ヘイズ値を測定した。
【0064】
以下表4に評価結果を示す。

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、タッチパネルなどに使用する粘着剤組成物であって、厚塗り塗工乾燥した場合でも、気泡は発生せず、厚膜の粘着剤層を1回の塗工で形成することが可能な粘着剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤用樹脂が有機溶剤中に固形分20質量%以上に溶解されてなる光学用粘着剤組成物において、上記粘着剤用樹脂が、重量平均分子量が15万〜150万のアクリル樹脂であり、上記有機溶剤が、下記低沸点溶剤a1〜10質量%と、下記中沸点溶剤b10〜60質量%と、下記中高沸点溶剤c10〜50質量%と、下記高沸点溶剤d5〜30質量%とからなり(溶剤a〜dの合計を100質量%とする)、溶剤a〜dの平均沸点が100℃以上であり、かつ溶剤a〜dの平均蒸気圧が5,000Pa以上であることを特徴とする光学用粘着剤組成物。
・低沸点溶剤a:沸点が30℃以上70℃未満で蒸気圧が15,000〜60,000Pa
・中沸点溶剤b:沸点が70℃以上100℃未満で蒸気圧が8,000〜15,000Pa
・中高沸点溶剤c:沸点が100℃以上140℃未満で蒸気圧が800〜8,000Pa
・高沸点溶剤d:沸点が140℃以上250℃未満で蒸気圧が1〜800Pa
(上記における沸点は1気圧での値、蒸気圧は20℃での値である)
【請求項2】
100μm以上の厚膜塗工時のヘイズ値が1.0以下である請求項1に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項3】
溶剤組成が、粘着剤層を形成したときに、該粘着剤層に溶剤が実質的に残留しない組成である請求項1または2に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項4】
アクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルモノマー単位100質量部と水酸基またはカルボキシル基を含有する共重合可能なモノマー単位0.1〜10質量部とを含む請求項1〜3の何れか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項5】
アクリル樹脂が、芳香族モノマー単位および/またはジアルキル置換アクリルアミドモノマー単位を含む請求項1〜4の何れか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項6】
架橋剤、粘着付与樹脂、シランカップリング剤および酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜5の何れか1項に記載の光学用粘着剤組成物。
【請求項7】
タッチパネル用である請求項1〜6の何れか1項に記載の光学用粘着剤組成物。

【公開番号】特開2011−122013(P2011−122013A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279107(P2009−279107)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】