説明

光学用透明材料

【課題】メタクリル酸メチル−スチレン共重合体の優れた機械的特性および光学的特性を損なうことなく、耐候性および低吸水性に優れた光学用透明樹脂を提供する。
【解決手段】MMA等のメタクリル酸アルキルエステル系単量体単位とスチレン等の芳香族ビニル系単量体単位とのモル比が45:55〜55:45であり、数平均分子量が5000〜300万であり、メタクリル酸アルキルエステル−芳香族ビニルの連鎖が90%以上であるメタクリル酸アルキルエステル−芳香族ビニル交互共重合体からなる光学用透明材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体の有する優れた機械的特性および光学的特性を損なうことなく耐光性および低吸水性を両立させた、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体からなる光学用透明材料に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、光学特性および成形加工性に優れているため、照明用カバー、各種ディスプレイ用スクリーンや液晶ディスプレイ用光拡散板などの光学透明材料として広く使用されている。しかしながら、共重合体の耐光性や吸水性は、共重合体中のモノマー組成により大きく変動する。即ち、スチレン含率の増加に伴い耐光性が低下し、逆に、メタクリル酸メチル含率が増加するに従い吸水性が高くなり、寸法安定性や吸水時の力学特性が劣ったものとなる。さらに、共重合体の一次構造と耐光性および吸水性との関係を見ると、耐光性および吸水性は、共重合体中のスチレン−スチレン二連子の含率およびメタクリル酸メチル−メタクリル酸メチル二連子の含率とそれぞれ強い相関関係がある。従来のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、フリーラジカル重合法で製造されていることから、共重合組成を変えても共重合体連鎖中には多くのスチレン−スチレン二連子およびメタクリル酸メチル−メタクリル酸メチル二連子が生成されるため、従来法では、耐光性および吸水性の両方を同時に向上させることはできない(非特許文献1および2参照)。
【0003】
一方、スチレン−スチレン二連子およびメタクリル酸メチル−メタクリル酸メチル二連子を含まないメタクリル酸メチル−スチレン共重合体としては、交互共重合体がある。この共重合体は、弘岡らによって既に合成例が報告されている(非特許文献3参照)が、耐光性および吸水性の面から評価をされていない。
【0004】
【非特許文献1】オプトエレクトロニクスと高分子材料、共立出版、38頁、1995年
【非特許文献2】高分子の劣化機構と安定化技術、シーエムシー出版、199頁、1997年
【非特許文献3】M.Hirooka,H.Yabuuchi,J.Iseki,Y.Nakai,J.Polym.Sci.,A−1,6,1381(1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、上記のような従来技術の限界を超えてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体の優れた機械的特性および光学的特性を損なうことなく、耐光性および低吸水性に優れた新規光学透明樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、メタクリル酸アルキルエステル単位と芳香族ビニル単位とのモル比が45:55〜55:45であり、数平均分子量が5000〜3000000であり、メタクリル酸アルキルエステル単位−芳香族ビニル単位の連鎖が90%以上であるメタクリル酸アルキルエステル−芳香族ビニル交互共重合体からなる光学用透明材料に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学用透明材料によれば、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体の優れた機械的特性および光学的特性を損なうことなく、耐光性および低吸水性に優れた新規光学透明樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いる交互共重合体の構成単位は、メタクリル酸アルキルエステル単位および芳香族ビニル単位であり、共重合体中のメタクリル酸アルキルエステル単位含率として45モル%以上55モル%以下の範囲であり、48モル%以上52モル%以下であるのが好ましい。メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルメタクリル酸シクロヘキシルなどを挙げることができ、中でもメタクリル酸メチルがガラス転移点の高い点で好ましい。芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどを挙げることができ、中でもスチレンが汎用性の点で好ましい。メタクリル酸アルキルエステル単位の含率が45モル%未満である共重合体は、モノマー連鎖中に多くの芳香族ビニル連鎖(二連子以上)が形成され、耐光性において好ましくない。また、メタクリル酸アルキルエステル単位含率が55モル%より多い共重合体は、モノマー連鎖中に多くのメタクリル酸アルキルエステル連鎖(二連子以上)が形成され、低吸水性において好ましくない。
【0009】
本発明に用いる交互共重合体は、用途、成形体の品質上の要求などにより、必要に応じて全構造単位に対して20モル%以下、好ましくは2モル%以下の範囲で他の単量体単位を含有することができる。共重合可能な他の単量体単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−へキセン、ブタジエン、イソプレン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、インデン、テトラシクロドデセン、イソブテン、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ノルボニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリルアミド、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、シクロへキシルマレイミド、フェニルマレイミド等からなる単位を挙げることができる。
【0010】
本発明に用いる交互共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算値で、5000〜3000000の範囲であり、10000〜500000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量が5000より小さい場合は、共重合体の力学特性が劣り、3000000より大きい場合には、共重合体の成形性が劣ったものとなるので好ましくない。
【0011】
本発明に用いる交互共重合体は、エチルアルミニウムセスキクロライドなどのハロゲン化アルキルアルミニウム化合物等のルイス酸存在下であれば、メタクリル酸アルキルエステルと芳香族ビニルを混合するだけでも合成できるが、合成効率を上げるため、必要に応じてラジカル重合開始剤や遷移金属化合物等を添加してもよい。本発明では、当該製造方法等で製造され、メタクリル酸アルキルエステル単位−芳香族ビニル単位の二連子連鎖が90%以上である交互共重合体を用いる。メタクリル酸アルキルエステル−芳香族ビニル交互共重合体は、NMRスペクトルによって確認することができる。
【0012】
本発明に用いる交互共重合体を製造するには、従来公知の塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法または懸濁重合法等のいずれをも採用することができるが、ルイス酸の安定性を考慮すると塊状重合法または溶液重合法を採用するのが好ましい。重合温度は、−100〜200℃の範囲から用いるルイス酸の種類などに応じて選ぶことができる。なお、本発明は、これらの合成法に限定されるものではない。
【0013】
本発明に用いる交互共重合体には、耐光性を向上させる目的で紫外線吸収剤を共重合体100質量部に対して0.005〜2質量部添加することができる。上記、紫外線吸収剤としては特に限定されるものではないが、耐光性を改良する目的からヒンダードアミン類、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸フェニル類、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、オキサルアニリド類または安息香酸フェニル系などから誘導される化合物で、その最大吸収波長が240〜380nmの範囲にある化合物が好ましいものとして挙げられる。これらのうち、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール類がより好ましい。これらの紫外線吸収剤は単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0014】
この紫外線吸収剤の配合量は、透明性樹脂100質量部に対して0.005〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。その配合割合が0.005質量部未満では、耐光性の向上が十分でなく、2質量部を越える場合には、押出成形時、ポリシングロール表面を汚すため、曇りや汚れが発生し易い。また、スリップなど運転上のトラブルが起き易くなり好ましくない。
【0015】
上記の交互共重合体からなる本発明の光学用透明材料を用いて成形物を製造する際には、射出成形法、押出成形法、プレス成形法等の公知の溶融成形法および溶液成形法などが採用可能である。上記の交互共重合体を単独で、あるいは適量の可塑剤、架橋剤、熱安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、剥離剤等と併用して、各種レンズ、導光体、光拡散板、スクリーン等の各種光学成形品を製造することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた測定方法は次の通りである。また、飽和吸水率および耐光性は、220℃,150kg/cmで熱プレス成形した板を用いた。
【0017】
(共重合体組成)
核磁気共鳴装置(日本電子社製、JNM−LAMBDA−400)により、重水素化クロロホルム中でプロトンH−NMRを測定することで求めた。
【0018】
(共重合体の分子量)
カラム(東ソー社製、TSKgelGMHHR−MおよびTSKgelG2000HHR)および示差屈折率計(東ソー社製、RI−8020)を備えたゲル浸透クロマトグラフ(東ソー社製)により、40℃、テトラヒドロフラン溶媒中で、共重合体の数平均分子量(Mn)および分子量分散度(MWD)〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕をポリスチレン換算で求めた。
【0019】
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査型熱量計(メトラー社製)DSC30を用いて、昇温速度10℃/minで測定した。
【0020】
(飽和吸水率)
真空乾燥機(70℃)で絶乾状態とした熱プレス成形板を60℃、90%RHの恒温恒湿機中に100時間放置した後の吸水率(質量%)として求めた。
【0021】
(耐光性)
熱プレス成形板をUV−condensation screeing device(東洋精機社製)中で100時間UV照射を行い、SMカラーコンピュータ(スガ試験器社製、SM−4)でL,a,bの値をそれぞれ測定した。UV照射前との比較から次式を用いて色差(ΔE)を求めた。
ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
【0022】
実施例1
窒素雰囲気下、5000ml二つ口フラスコに、トルエン(1770ml)およびメタクリル酸メチル(159ml)を加え、−78℃に冷却した。ここに、エチルアルミニウムセスキクロライドのトルエン溶液(2mol−Al/l)を385ml滴下し、室温に戻した。この溶液にn−ドデカンチオール(4g)を含むスチレン(687ml)を加えることで重合を開始し、室温で210分間反応させた。重合後、反応溶液を酸性メタノール中に投入することでポリマーを析出させ、ろ過により回収した。ポリマー収量は、34gであった。ポリマーの数平均分子量および分子量分散度は、それぞれ97,000と1.9であった。共重合体組成の割合は、MMA単位/スチレン単位=50/50であった。なお、共重合体の構造は、図1に示すようにフリーラジカル重合法で得られた共重合体(比較例3、図2)とは異なり、既報のMMA−スチレン交互共重合体のスペクトルと同一であることから、交互共重合体であることが確認される。
下記に物性値を示す。
ガラス転移温度(Tg):100℃
色相(プレス成形板):無色透明
飽和吸水率:0.44質量%
色差(ΔE):1.91
【0023】
実施例2
窒素雰囲気下、5000ml二つ口フラスコに、トルエン(1770ml)およびメタクリル酸メチル(159ml)を加え、−78℃に冷却した。ここに、エチルアルミニウムセスキクロライドのトルエン溶液(2mol−Al/l)を385ml滴下し、室温に戻した。この溶液にn−ドデカンチオール(2g)を含むスチレン(687ml)を加えることで重合を開始し、室温で210分間反応させた。重合後、反応溶液を酸性メタノール中に投入することでポリマーを析出させ、ろ過により回収した。ポリマー収量は、32gであった。ポリマーの数平均分子量および分子量分散度は、それぞれ195,000と1.8であった。共重合体組成の割合は、MMA単位/スチレン単位=51/49であった。なお、H−NMR測定において、MMAおよびスチレンの連鎖はほとんど観測されなかった。下記に物性値を示す。
ガラス転移温度(Tg):100℃
色相(プレス成形板):無色透明
飽和吸水率:0.43質量%
色差(ΔE):1.93
【0024】
実施例3
実施例1で得られた共重合体100質量部に対して2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール0.1質量部を溶融混練した。
下記に物性値を示す。
ガラス転移温度(Tg):100℃
色相(プレス成形板):無色透明
飽和吸水率:0.44質量%
色差(ΔE):0.96
【0025】
【表1】

【0026】
比較例1
ポリスチレン(東洋スチレン社製)を熱プレスにより成形板を作成し、飽和吸水率および色差(ΔE)を測定した。結果を表2に示す。
【0027】
比較例2
(1)以下の成分を混合して分散相液を調製した。
モノマー成分:
メタクリル酸メチル 240kg
スチレン 90kg
n−オクチルメルカプタン 0.600kg
重合開始剤:パーオクタO(日本油脂社製)1.200kg
(2)次いで、以下の成分を溶解混合して連続相液を調製した。
蒸留水 600kg
ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA−217)3.910kg
ラウリル硫酸ナトリウム 0.200kg
炭酸水素ナトリウム 0.306kg
亜硝酸ナトリウム 0.392kg
容量1mの重合槽に分散相液および連続相液を投入した後、窒素雰囲気下において回転数70rpmで懸濁液を撹拌しながら、温度75℃で8時間にわたり重合を行った。重合収率(モノマー仕込み量に対するポリマー収量)は98%であった。さらに温度を130℃で6時間保持し、重合を完結させた。重合して得られた分散液を洗浄、脱水、乾燥した後、押出し機を用いてペレット形状のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(メタクリル酸メチル含有率20質量%)を得た。このメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を熱プレスにより成形板を作成し、飽和吸水率および色差(ΔE)を測定した。結果を表2に示す。
【0028】
比較例3
メタクリル酸メチルを45質量%含有するメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(TX800S,電気化学工業社製)を熱プレスにより成形板を作成し、飽和吸水率および色差(ΔE)を測定した。結果を表2に示す。また、共重合体のH−NMRスペクトルを図2に示す。
【0029】
比較例4
メタクリル酸メチルを60質量%含有するメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(TX400−300S,電気化学工業社製)を熱プレスにより成形板を作成し、飽和吸水率および色差(ΔE)を測定した。結果を表2に示す。
【0030】
比較例5
ポリメタクリル酸メチル(GH−S,クラレ社製)を熱プレスにより成形板を作成し、飽和吸水率および色差(ΔE)を測定した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例1〜3および比較例1〜5で得られた結果を飽和吸水率と色差(ΔE)との関係でプロットとすると図3が得られる。本発明の交互共重合体は、比較例1〜5のランダム共重合体と比較して耐光性および飽和吸水率が同時に向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得た交互共重合体のH−NMRスペクトルである。
【図2】比較例3で得たランダム共重合体のH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例1〜3および比較例1〜5で得られた結果を飽和吸水率と色差(ΔE)との関係でプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸アルキルエステル単位と芳香族ビニル単位とのモル比が45:55〜55:45であり、数平均分子量が5000〜3000000であり、メタクリル酸アルキルエステル単位−芳香族ビニル単位の連鎖が90%以上であるメタクリル酸アルキルエステル−芳香族ビニル交互共重合体からなる光学用透明材料。
【請求項2】
メタクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルであり、芳香族ビニルがスチレンである請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
交互共重合体が、ルイス酸存在下でのラジカル重合により製造されたものである請求項1または2に記載の共重合体。
【請求項4】
交互共重合体100質量部に対し2質量部以下の紫外線吸収剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用透明材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−248206(P2008−248206A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94809(P2007−94809)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】