光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系
【課題】 高い反射防止性を維持しながら完全反射条件下での白曇り現象を改善できる光学用部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 基材上に、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材において、前記中間層は基材表面に対して傾斜している複数の柱状構造体で形成され、かつ前記複数の柱状構造体の間隙に空孔を有する光学用部材。基材表面に斜方蒸着により複数の柱状構造体からなる中間層を形成する工程と、前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成し、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程を有する光学用部材の製造方法。
【解決手段】 基材上に、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材において、前記中間層は基材表面に対して傾斜している複数の柱状構造体で形成され、かつ前記複数の柱状構造体の間隙に空孔を有する光学用部材。基材表面に斜方蒸着により複数の柱状構造体からなる中間層を形成する工程と、前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成し、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程を有する光学用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止性を有する光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系に関する。さらに、可視領域から近赤外領域で高い反射防止性を得るのに適した光学用部材及びそれを用いた光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の波長以下の微細周期構造を有す反射防止構造体は、適切なピッチ及び高さの微細周期構造を形成することにより、広い波長領域ですぐれた反射防止性を示すことが知られている。その中で、微細構造を形成する方法としては、可視光領域の波長以下の粒径の微粒子を分散した膜の塗布などが知られている。
また、微細加工装置(電子線描画装置、レーザー干渉露光装置、半導体露光装置、エッチング装置など)によるパターン形成によって微細周期構造を形成する微細加工方法が知られている。前記微細加工方法は、微細周期構造のピッチや高さの制御が可能である。また、前記微細加工方法は、すぐれた反射防止性を有する微細周期構造を形成出来ることが知られている。
それ以外の方法として、基材上に、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトの凹凸構造を成長させて反射防止効果を得る方法も知られている。この方法は、液相法(ゾルゲル法)により製膜した酸化アルミニウムの膜を温水浸漬処理により、表層をベーマイト化して板状結晶膜を形成して反射防止膜を得る方法である。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−202649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、優れた反射防止性を示す反射防止膜が望まれている中で、従来の技術においては下記の課題がある。
例えば、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する光学用部材においては、完全反射、強度光照射下という光入射条件において白く曇る現象が確認される場合がある。表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成するために、酸化アルミニウムのアモルファス膜を水蒸気処理あるいは温水浸漬処理する。この処理により形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造に、ある周期が発生し、この周期的な凹凸構造が、全反射の光入射条件において白く曇る現象を引き起こしてしまう。
本発明は、この様な背景技術の課題について鑑みてなされたものであり、高い反射防止性を維持しながら全反射条件下での白曇り現象を改善できる光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する光学用部材は、中間層の上に、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は空隙を有することを特徴とする。
【0006】
上記の課題を解決する光学用部材の製造方法は、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決する光学用部材の製造方法は、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、前記基材の表面に対して傾斜した方向から蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決する光学系は、上記の光学用部材を用いた光学系である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い反射防止性を維持しながら全反射条件下での白曇り現象を改善できる光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光学用部材の第一の実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の光学用部材の第二の実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明の光学用部材における柱状構造体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図4】本発明における斜方蒸着法の説明図である。
【図5】本発明における板状結晶層を形成する工程を示す概略図である。
【図6】白色度の測定方法を示す図である。
【図7】蒸着角度と白色度の関係を示す図である。
【図8】蒸着角度と表面粗さRaの関係を示す図である。
【図9】蒸着角度と反射率の関係を示す図である。
【図10】蒸着角度と屈折率の関係を示す図である。
【図11】ガス流量と白色度の関係を示す図である。
【図12】ガス流量と白色度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の光学用部材の第一の実施態様を示す概略図である。本実施形態に係る光学用部材10は、基材1上に、中間層2と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3がこの順序で積層された構成からなる。前記中間層2は、少なくとも酸化アルミニウム層3との界面に空隙を有している。
【0013】
本発明においては、中間層2の上に、酸化アルミニウムを含むアモルファス層を積層し、次に焼成する、あるいは、蒸着によりアルミニウムを含むアモルファス層あるいは酸化アルミニウムを含むアモルファス層を形成することにより、アルミニウムを含む膜を形成する。その後、アルミニウムを含む膜を水蒸気あるいは温水に接触させる温水処理工程でアモルファス層の溶解再析出現象から、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3を形成する。このような成膜プロセスの中で、中間層2の空隙21の存在が、酸化アルミニウム層を形成するために加えられる温度等によって発生する酸化アルミニウム層の応力を緩和する。その結果、前記表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層の波長領域の周期性が改善できるものと考えられる。中間層2は、島状あるいは柱状構造で、粒界を有し、その粒界が、基板表面から板状結晶層3に向かって連続的に存在していてもよい。中間層2が極めて薄い場合は、柱状構造体の高さが低くなり、島状の薄膜となっていてもよい。
【0014】
(基材)
本発明の光学用部材で使用される基材としては、ガラス、プラスチック基材、ガラスミラー、プラスチックミラー等が挙げられる。
【0015】
ガラスの具体例として、アルカリ含有ガラス、無アルカリガラス、アルミナケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウム系ガラス、ランタン系ガラスを挙げることができる。
【0016】
プラスチック基材の代表的なものとしては、ポリエステル、トリアセチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂のフィルムや成形品;不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂など各種の熱硬化性樹脂から得られる架橋フィルムや架橋した成形品等が挙げられる。
【0017】
また、基材1は、特に限定されるものではなく、例えば凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、非球面レンズ、自由曲面レンズ、プリズムなどの形状の光学用部材の基材でも良い。
【0018】
(酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層)
本発明における、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3は、反射防止機能を有しており反射防止膜として用いられる。
【0019】
酸化アルミニウム層3の表面は凹凸形状となっていて、アルミニウムを含む膜あるいは酸化アルミニウムを含む膜(アモルファス状態で、「アルミニウムを含む膜」とも記す。)を温水または水蒸気に接触させることより、アルミニウムを含む膜の表層が解膠作用等を受け、膜の表層に析出、成長して板状の結晶となる。「酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層」とは、アモルファス状態のアルミニウムを含む膜を温水または水蒸気に接触させることより、アルミニウムを含む膜の表層が解膠作用等を受け、膜の表層に析出、成長して、表面に板状の結晶による凹凸構造が形成された層のことである。形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造は、主にアルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物または酸化アルミニウムの水和物の結晶からなり、特に好ましい結晶としてはベーマイトがある。アルミニウムを含む膜3を温水に接触する方法は、温水に浸漬する方法、温水を流水もしくは霧状にしてアルミニウムを含む膜3に接触させる方法などが挙げられる。以下、アルミニウムを含む膜を温水に接触させ形成される結晶を、酸化アルミニウムの結晶、あるいは酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶、あるいは酸化アルミニウムを成分として含有する板状の結晶、あるいは板状結晶、あるいは酸化アルミニウムベーマイトと称することにする。また、アルミニウムを含む膜3を温水に接触させることを温水処理すると称することにする。
【0020】
アルミニウムを含む膜をゾルゲル法で作成する場合、前駆体ゾルの原料には、Al化合物の単独、或いはAl化合物とともにZr、Si、Ti、Zn、Mgの各々の化合物の少なくとも1種の化合物とを用いることができる。
【0021】
化合物として、例えばAl2O3、ZrO2、SiO2、TiO2、ZnO、MgOの原料としては、各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。
【0022】
成膜性の観点から、特にZrO2、SiO2、TiO2の原料としては金属アルコキシドを用いるのが好ましい。また、蒸着によってアルミニウム膜あるいは酸化アルミニウム膜を成膜することもできる。このような前駆体ゾルを成膜した膜あるいは蒸着によって成膜された膜を、アルミニウムを含む膜、酸化アルミニウムを主成分とする膜、あるいは酸化アルミニウムを主成分とするアモルファス膜、と称する。
【0023】
アルミニウムを含む膜を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する方法は、例えば、特開2006−259711号公報、特開2005−275372号公報等に記載されている方法を用いることができる。
【0024】
(中間層)
本実施形態における中間層2は、基材1上に設けられた少なくとも一層の膜で、基材1に密着して基材1と酸化アルミニウム層3との間に積層され、複数の空隙21を有している。アルミニウムを含む膜の成膜プロセスにおける熱による膜応力を緩和できる構造であることが好ましい。
【0025】
本発明における中間層2は、複数の空隙21を有し、空隙21は、酸化アルミニウム層の成膜時の高温プロセスを経て、発生する応力を効果的に緩和できる構造である。
【0026】
走査型電子顕微鏡の断面観察からも空隙の存在が観察される。さらに、空隙を確認する方法としては、欠陥の顕在化処理などの処理を適宜施すことによって観察することも可能である。具体的には、適宜希釈したHFに浸漬することで、欠陥の選択エッチング処理を行い、より微細な、空隙の存在を観察することも可能である。
【0027】
本発明の中間層の膜厚は、反射防止機能のための光学特性の観点と、熱プロセスによる膜応力緩和の観点から、1nmから200nm、より好ましくは2nmから100nmが望ましい。
【0028】
さらに、中間層は、酸化アルミニウム層3と基材1の各屈折率に対して、中間層の屈折率及び膜厚を適宜調整することで、光線有効部の反射率を最小にするような屈折率調整機能を有することが好ましい。これにより、基材から空気との界面の間で屈折率が連続的に減少することとなり、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層と中間層の屈折率の効果とあいまって高い反射防止性能を発現できる。
【0029】
本発明における中間層は、SiO2を含む膜からなることが好ましい。中間層のSiO2を含む膜は、SiO2を主成分とする非晶質酸化物皮膜が好ましく、異種成分としてTiO2、ZrO2などの酸化物を単独であるいは組み合わせて含有してもよい。中間層に含有されるSiO2の含有量は10mol%以上、好ましくは15mol%以上から100mol%である。
【0030】
次に、本発明の光学用部材の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の製造方法は、基材上に、中間層と酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材の製造方法であり、下記の2つの工程を有することを特徴とする。
(1)基材表面に蒸着法により中間層を形成する工程。
(2)前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成する。あるいは前記中間層の上にアルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜する。その後、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程。
【0032】
(中間層を形成する工程)
本発明における中間層を形成する工程は、基材上に不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させることで空隙を形成する。これは、真空蒸着の圧力が上昇することで、気相での蒸着粒子の衝突確率が増加し、粒子のエネルギーが減少し基板上での表面拡散が減少するなどの作用で、膜形成が基板表面の水平方向よりも、厚さ方向に膜の成長が進行するためである。さらに蒸着堆積する膜の中にも気相中に導入する不活性ガス原子が取り込まれるなどして、膜構造のミクロな密度を低下させる作用を有する。
【0033】
アルミニウムを含む膜との界面に少なくともこの空隙が形成されることにより、高温プロセスにより形成されるアルミニウムを含む膜に発生する内部応力を緩和できる構造となる。
【0034】
本実施形態の中間層を形成するためには好適に真空蒸着法を用いることができる。蒸着源にSiO2、TiO2、ZrO2を用いることが可能であり、これらの蒸着源を単独または、混合して適宜組成を調整し用いることも可能である。蒸着手段としては電子ビーム蒸着法、抵抗加熱法などであり、蒸着材料の状態、パウダー、粒状、ペレットなどサイズや状態に併せて最適な手段を選択することが可能である。
【0035】
本実施形態の中間層の蒸着方法は蒸着材料に加えて、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガス、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気など気体状のものを用いることが可能である。
【0036】
ガスの導入手段としては、真空装置の配置は、蒸着源と基板の間に設置し、蒸着材料の蒸着材料の軌道の中に導入することが導入効率の点で好ましい。真空蒸着装置の中に設置されていれば、ガスの拡散と基材上の膜質の均一性を配慮しながら適宜設置可能である。そのためにガスの噴き出しの部材の形状をシャワー状にしても構わない。真空容器の真空度を計測する真空ゲージで蒸着中の圧力をモニターし、真空度を制御しながら蒸着材料を蒸着することで、中間層を作製することが可能である。また、蒸着プロセスの中で、蒸着圧力を時間的または空間的に変化させる手法を加えても構わない。
【0037】
蒸着中の導入ガス流量を変化させること、排気コンダクタンスバルブのコンダクタンスを変化させること、蒸着レートを変化させることで、作製する中間層の膜厚方向の内部応力に変化をつけることも可能である。真空度の制御は蒸着材料の蒸気圧曲線、蒸着レート、排気ポンプの排気能力、排気コンダクタンスバルブの排気速度調整機能を持たせることで適宜制御可能である。これらの各制御因子を適宜調整することで、蒸着粒子の気相でのエネルギーを低下させることが可能で基材表面に付着する粒子のエネルギーを抑制し、膜形成の表面拡散を減速し、中間層を基材の表面に対して垂直な複数の柱状にすることも可能である。
【0038】
本実施形態の中間層の空隙率は、1%以上50%以下が好ましい。50%をこえると、膜強度が不足し、また光学特性が変動しやすい。
【0039】
本実施形態の空隙率は、以下のように求めるものとする。
(1)不活性ガスを導入せずに蒸着して作製した薄膜の屈折率n(0)をエリプソ測定で求める。
(たとえば、SiO2膜で、Ar=0ccの場合屈折率は1.46である。)
(2)空隙の部分は空気とみなし、屈折率n=1を用いる。
(3)不活性ガスを導入して得られる本実施形態の中間層の屈折率n(Ar=X)をエリプソ測定で求める。
(4)(1)(2)(3)で求めた屈折率を用い、一般的な有効媒質近似法EMA法で空隙率を算出する。
(5)さらに、(1)の空隙率を0%として、本実施形態の中間層の空隙率を算出する。
【0040】
(板状結晶層を形成する工程)
図5は、本発明における酸化アルミニウム層を形成する工程を示す概略図である。
【0041】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、中間層2を形成した基材1を、回転ステージ7にセットする工程(a)と、該中間層上にアルミニウムを含む膜4を形成する工程(b)と、これを焼成する工程(c)、こののち、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行われる。
【0042】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、アルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜によりアルミニウムを含む膜を形成した後、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行なうこともできる。
【0043】
(第二の実施形態)
図2は、本発明の光学用部材の第二の実施態様を示す概略図である。上記第一の実施形態と重複する部分については、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。本発明に係る光学用部材10は、基材1上に、中間層2と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3がこの順序で積層された構成からなる。前記中間層2は、基材表面13に対して傾斜している複数の柱状構造体11で形成されている。前記複数の柱状構造体11の間隙には空孔15を有する。複数の柱状構造体11は、斜方蒸着法により形成され、14は蒸着方向を示す。
【0044】
本発明において、中間層2は、複数の柱状構造体からなる構造体であり、基材表面13から板状結晶層3にわたって、複数の柱状構造体11の間隙には空孔15が存在する構造となっている。
【0045】
本発明においては、中間層の上に、酸化アルミニウムを含むアモルファス層を積層し、次に焼成する、あるいは、蒸着によりアルミニウムを含むアモルファス層あるいは酸化アルミニウムを含むアモルファス層を形成することにより、アルミニウムを含む膜を形成する。その後、アルミニウムを含む膜を、温水処理工程でアモルファス層の溶解再析出現象から、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する。このような成膜プロセスの中で、中間層2の空孔15の存在が成膜プロセス温度による膜の応力緩和を可能とする。その結果、前記表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層の波長領域の周期性が改善できるものと考えられる。
【0046】
(中間層)
本実施形態における中間層2は、基材1上に設けられた少なくとも一層の膜で、基材1に密着して基材1と酸化アルミニウム層3との間に積層され、複数の柱状構造体11を有し、酸化アルミニウムの結晶の成膜プロセスにおける熱による膜応力発生を緩和できる構造であることが好ましい。
【0047】
本実施形態における中間層2は、複数の柱状構造体11の間隙には空孔15を有し、空孔15は基材表面13から板状結晶層3に向かって連続して存在し、板状結晶の成膜高温プロセスを経て、発生する応力を効果的に緩和できる構造である。
【0048】
走査型電子顕微鏡の断面観察からも空孔の存在が観察される。さらに、空孔を確認する方法としては、欠陥の顕在化処理などの処理を適宜施すことによって観察することも可能である。具体的には、適宜希釈したHFに浸漬することで、欠陥の選択エッチング処理を行い、より微細な、空孔の存在を観察することも可能である。
【0049】
このような空孔は中間層の表面観察から、ピットとして観察することが可能である。図3は、断面に柱状構造体を有する中間層の表面のSEM像である。図3の写真から、本発明の中間層の表面には、空孔として明らかなピット(穴状の欠陥)が観察される。
【0050】
さらに中間層の膜厚を変化させることで、ごく薄い中間層では空孔が基板から発生していることが分かる。膜厚の厚い中間層の表面観察でも表面観察でピットが存在することから、基材から表面に向かって空孔が存在することを確認することができる。
【0051】
本発明の中間層の膜厚は、反射防止機能のための光学特性の観点と、熱プロセスによる膜応力緩和の観点から、1nmから200nm、より好ましくは2nmから100nmが望ましい。
【0052】
さらに、中間層は、酸化アルミニウム層3と基材1の各屈折率に対して、中間層の屈折率及び膜厚を適宜調整することで、光線有効部の反射率を最小にするような屈折率調整機能を有することが好ましい。これにより、基材から空気との界面の間で屈折率が連続的に減少することとなり、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層と中間層の屈折率の効果とあいまって高い反射防止性能を発現できる。
【0053】
本発明における中間層は、SiO2を含む膜からなることが好ましい。中間層のSiO2を含む膜は、SiO2を主成分とする非晶質酸化物皮膜が好ましく、異種成分としてTiO2、ZrO2などの酸化物を単独であるいは組み合わせて含有してもよい。中間層に含有されるSiO2の含有量は10mol%以上、好ましくは15mol%以上から100mol%である。
【0054】
図2に示す様に、複数の柱状構造体は基材表面に対して同一方向に傾斜しており、基材表面13と柱状構造体の軸12との間の傾斜角度αが40°以上80°以下、好ましくは45°以上80°以下であることが望ましい。
【0055】
次に、本実施形態の光学用部材の製造方法について説明する。
【0056】
本実施形態の光学用部材の製造方法は、基材上に、中間層と酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材の製造方法であり、下記の2つの工程を有することを特徴とする。
(1)基材表面に斜方蒸着法により複数の柱状構造体からなる中間層を形成する工程。
(2)前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成する。あるいは前記中間層の上にアルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜する。その後、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程。
【0057】
(中間層を形成する工程)
本発明における中間層を形成する工程は、基材上に斜方蒸着法により複数の柱状構造体を形成する。斜方蒸着法はSiO2を主成分とする蒸着物質を基材表面に堆積させる。
【0058】
斜方蒸着法は、図4に示すように、基材法線17と蒸着方向14との間の角度を蒸着角度θと定義する。蒸着角度θは、80°未満、好ましくは75°以下が望ましい。
【0059】
斜方蒸着法により、SiO2パウダーを蒸着源として基材上に得られるSiO2膜の断面構造を図3に示す。図3においては、蒸着角度θと形成される中間層の断面構造の柱状構造体の傾斜角度αは、蒸着角度0°では柱状構造体の傾斜角度は認められず、蒸着角度60°、80°で、それぞれの柱状構造体の傾斜角度αはそれぞれ、68°、45°である。また、図3の走査型電子顕微鏡の断面写真から、空孔が観察される。空孔は、図3の断面写真中のコントラストで暗く見える部分であり、白く見える柱状構造体の間に存在し、基材表面から柱状構造体表面に向かっている。
【0060】
図3において、蒸着角度θが大きくなるにしたがい、中間層の柱状構造体の基板表面からの傾斜角度αも大きく傾くことが分かる。また、空孔の傾斜は蒸着角度で制御できることが分かる。
【0061】
(基材の温度)
蒸着法、スパッタ法、CVD法では、基材の温度を上げることで前駆体の表面拡散を助長させることが可能であり、再蒸発温度の範囲で適宜設定することが好ましい。また、基材温度の増大は、膜構造の緩和を可能とし、斜方蒸着で形成される空孔の隙間は狭くなる傾向になる。
【0062】
基材温度はこのような空孔の隙間を適宜調調整しながら、膜応力の緩和できる範囲で適宜選択することが可能である。また、基材の耐熱性を配慮して適宜基材温度を設定することができる。本発明における中間層の作製方法は、スパッタ法、蒸着法、CVD法などの気相成長法で作成することが可能であり、蒸着角度を適宜傾斜させることで、断面構造に柱状構造体を形成する。
【0063】
本発明における中間層を形成する蒸着法、スパッタ法には、反応性蒸着法、反応性スパッタ法などの手法を用いることが可能である。
【0064】
CVD法では、基板バイアス印加でイオン化している前駆体の基材への運動エネルギーを制御することが可能である。この制御でイオン化した前駆体の表面拡散を助長することも可能である。
【0065】
成膜空間の内圧を適宜設定することで、各成膜法のプラズマ状態を制御しイオン化された前駆体の運動エネルギーの制御が可能であり、これらのパラメーターを組み合わせることで、表面拡散の優れた均一製膜が可能である。
【0066】
蒸着法、スパッタ法では、前駆体のエネルギーを、蒸着源16又はスパッタ源とは別のイオンソース源から供給するイオンビームのエネルギーアシスト作用で、前駆体の運動エネルギーを制御することが可能であり、基材表面の拡散を助長し、均一製膜を可能とする。本発明の蒸着方法においては、蒸着源は固定配置する。
【0067】
さらに、本発明においては、蒸着角度θが0°に固定保持されないようにするために、基材を回転治具に取り付けて、蒸着方向軸に対して回転対称になるように回転させても構わないし、さらに、基材を自転、公転させた遊星回転させて、蒸着させても構わない。
【0068】
蒸着角度が蒸着のプロセスの中で0°に保持され続けなければ構わない。
【0069】
(酸化アルミニウム層を形成する工程)
図5は、本発明における酸化アルミニウム層を形成する工程を示す概略図である。
【0070】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、中間層2を形成した基材1を、回転ステージ7にセットする工程(a)と、該中間層上にアルミニウムを含む膜4を形成する工程(b)と、これを焼成する工程(c)、こののち、温水槽に浸漬し、前記酸化アルミニウムを主成分とする膜4を温水と接触させ、表面に凹凸構造を有する酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層を形成する工程(d)の各工程により行われる。
【0071】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、アルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜によりアルミニウムを含む膜を形成した後、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行なうこともできる。
【0072】
(白色度の評価)
白色度の簡易測定方法を図6に示す。同図において、基材1の裏面から、光源のハロゲンランプ19を、光強度を適宜設定し、照射角度を全反射条件になる角度とするように設置する。白色度の測定は基材表面側にて、撮影用の一般的なカメラ18にて撮影を行う。撮影条件は露光の絞り、シャッター速度などの露光条件を適宜設定し固定する。撮影後の輝度プロファイルを2値化し、その積分値を白色度と定義する。
【0073】
先に説明した光学用部材、すなわち中間層は斜方蒸着法で作製される柱状構造体の基材からの傾斜角度αと蒸着角度の関係を図7に示す。
【0074】
柱状構造体の基材からの傾斜角度αは、断面SEM写真から基材表面から表面に直線的に成長している複数の構造体の傾斜角度を測定することで、算出可能である。さらに、統計処理などの平均値を算出し、傾斜角度αと定義することも可能である。
【0075】
図7に蒸着角度と白色度の結果を併せて示す。
【0076】
蒸着角度が0°の時の白色度を1として規格化した。同図に示すように、蒸着角度が80°未満の範囲では白色度は0.8と低い。蒸着角度θが80°では白色度0.94と高い。このように、蒸着角度θが80°未満で0°以外では白色度が改善できていることが分かる。蒸着角度θが80°以上では、白色度の低下がみられる。
【0077】
図8に示すように、表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定評価すると、表面粗さRaが大幅に低下していることがわかる。これは、蒸着角度θが80°以上では表面粗さRaが増大することで、酸化アルミニウム層3に波長領域の周期性が発生し、これによる白曇りが悪化すると考えられる。
【0078】
本発明に光学系とは、上記の光学用部材を用いたことを特徴とし、本発明光学系の具体例としては、カメラ用のレンズ群が挙げられる。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
本実施例は中間層の形成に、真空蒸着の斜方蒸着プロセスを用いた。図5に示すプロセスに従い順に説明する。
【0080】
(1)中間層の蒸着
図4の真空装置を用いて、基板ホルダーにSi基材をセットした。基材の温度は150℃とした。蒸着源16にSiO2パウダーを用い、電子ビーム蒸着でSiO2を蒸着した。蒸着角度θを60°にセットし斜方蒸着を行い、中間層(斜方蒸着膜)を得た。膜厚は50nmであった。
【0081】
(2)アルミニウムを含む膜の塗工
図5(a)に示す装置を用いて、中間層(斜方蒸着膜)2を積層した基材1を、真空チャック式の回転ステージ7に載せた。図5(b)に示すように、酸化アルミニウムを含有する塗布液5を適量滴下し、約3000rpmで30秒間程度回転させた。
【0082】
ここでは、スピン塗工条件を約3000rpmで30秒間程度としたが、これに限定するものではなく、所望の膜厚を得るために塗工条件を変えても構わない。また、スピンコート法に限らず、ディップコート法、スプレーコート法などを用いても良い。
【0083】
(3)焼成プロセス
次に、図5(c)に示す100℃以上の温度のオーブン8で30分間以上かけて焼成した。
【0084】
(4)温水処理
焼成の後、図5(d)に示す温水処理槽9に浸漬し、板状結晶膜を形成した。温水処理槽9の温水は、60℃以上100℃以下の範囲とし、温水中に5分乃至24時間浸漬し、引き上げた後、乾燥させた。
【0085】
以上の工程により得られた光学用部材は、図2に示すように、基材1及び中間層2の上に花弁状透明アルミナ膜で板状結晶層3が形成された。
【0086】
このようにして作製された光学用部材の表面および断面をFE−SEMで観察した。平均ピッチ400nm以下、平均高さ50nm以上の花弁状のアルミナ膜で板状結晶層が形成され、優れた反射率特性を示した。
【0087】
以下に光学用部材の評価を示す。
【0088】
(白色度評価)
図6に示すように、実施例1で得られた光学用部材を、ハロゲンランプを完全反射する入射角度にセットした。光学用部材からの透過光をカメラ撮影し、その輝度プロファイルの積分値を波長積算し、白色度を算出した。後述する比較例1として示した、蒸着角度0°として作製した光学部材と比較し、蒸着角度0°の白色度を1として、相対的に数値化した。その結果、白色度は0.8と低い値であった。
【0089】
また、必要に応じて基板の測定評価も行い、光学用部材の測定値との相対比をとって白色度と定義することも可能である。
【0090】
また、本発明の光学用部材の反射率特性は図9に示すように、低反射特性を示している。
【0091】
(比較例1)
本比較例では、図4の斜方蒸着の蒸着角度θを0°に固定し、中間層2のSiO2膜の厚さを50nmとして作製する。この蒸着角度θが0°では、図3に示すように、断面構造に空孔は見らない。
【0092】
また、白色度は、実施例1と同様の方法で測定し、図7に示すように蒸着角度0°の白色度は1とした。このように白色度は実施例1の方が優れていることがわかった。図9に示すように、本比較例においては、低反射特性は実現できるものの、白曇りを改善することは難しい。
【0093】
(実施例2)
本実施例では、アルミニウムを含む膜を蒸着法で作製し、その他の工程は実施例1と同じように行なった。
【0094】
(1)中間層の蒸着
図4に示す真空装置を用いて、基板ホルダーにSi基板をセットした。基材の温度は150℃とした。蒸着源4にSiO2パウダーを用い、電子ビーム蒸着でSiO2を蒸着した。
蒸着角度を60°にセットし斜法蒸着を行なった。膜厚は50nmとした。
【0095】
(2)アルミニウムを含む膜の作製
基材1を真空装置の中の基板ホルダーに蒸着源に凹面を正対させてセットした。基材のホルダーは自転の回転機能を有し、その回転数をスピード30rpmに設定した。基材の温度は室温とした。蒸着源にペレット状アルミを用い、予め、電子ビーム蒸着でアルミを溶融しておき、次に適宜電子銃のパワーを調整しながら電子ビーム蒸着法で基材上にアルミニウム膜を製膜した。アルミニウム膜は所望の膜厚を製膜したのち、真空装置を大気に戻し、基材1を取り出した。
【0096】
(3)温水処理
図5(4)に示す温水処理槽9に浸漬し、酸化アルミニウム層を形成した。温水処理槽9の温水は、60℃以上100℃以下の範囲とし、温水中に5分乃至24時間浸漬し、引き上げた後、乾燥させた。
【0097】
以上の工程により、完成した光学部材は図2に示すように、基材1及び中間層2の上に表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウム層3が形成される。
【0098】
このようにして作製される光学部材の表面および断面をFE−SEMで観察すると花弁状のアルミナ膜で板状の酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成され、優れた反射率特性を示した。
【0099】
(光学部材の評価)
(白色度評価)
実施例1と同様にして白色度評価を実施し、白色度を評価した。
本発明の光学部材の反射率特性は、実施例1同様に低反射特性を示した。
【0100】
(比較例2)
本比較例では、図4の斜方蒸着の蒸着角度を0°に固定し、中間層2のSiO2膜を50nm作製した。比較例1同様に、この蒸着角度が0°では、図3に示すように断面構造に粒界は見られなかった。また白色度を、実施例1、比較例1と同様の測定を実施した。その結果実施例2に比べ白色度が高いことが分かった。実施例2では低反射特性及び白曇り低減の効果がみられたが、比較例2では低反射特性は実現できるものの、白曇り低減の効果が得られなかった。
【0101】
(実施例3)
実施例3は中間層にTiO2蒸着膜を斜方蒸着法で製作するものである。
斜方蒸着機は実施例1と同様、予めTiO2を溶融させておき、蒸着時には同時に酸素ガスを導入した。(導入手段は不図示)蒸着角度を60°から80°で変化させた時の屈折率の変化を図10に示す。このように作製したTiO2膜をSEM観察すると柱状構造すなわち、カラム構造が観察できた。
【0102】
さらに、実施例1と同様にアルミナ板状結晶層を積層し光学部材を作製した。このようにして得られた、光学用部材の白色度を実施例1と同様に評価したところ、蒸着角度が高いもので白色度の改善が見られた。本実施例では、基材は高い屈折率のLAH系材料を用いたことで、良好な反射率特性の光学部材を得た。
【0103】
(比較例3)
本比較例では、TiO2膜は、斜方蒸着法を用いずに、蒸着角度0度で作製した。その他は実施例3と同様に行なった。
白色度は実施例3の光学部材よりも高い値であった。
【0104】
(実施例4)
本実施例では、中間層はSiO2蒸着でArを20cc及び30cc導入してSiO2膜を中間層として反射防止膜を作製した。酸化アルミニウム層の作製は実施例1と同様とした。
【0105】
実施例1と同様に、作製した各光学用部材の白色度観察を行った。Ar流量が0のとき(比較例4)の白色度と比較し、Ar流量が0の時を1として、比較し数値化した。その結果を図11に示す。Ar流量が20ccおよび30ccの時の白色度は0.85及び0.77となり、Ar流量が0の時と比べて白色度が改善できることが確認できた。
【0106】
(比較例4)
本比較例は、Arガスを導入せず、中間層SiO2膜を蒸着した。その他は実施例4と同様に行なった。作製した光学用部材の白色度は1であり、実施例4の光学部材よりも白色度が高く、白曇り低減の効果は得られなかった。
【0107】
(実施例5)
本実施例では、中間層をTiO2蒸着膜で蒸着時にArを15cc導入してTiO2膜の中間層を作製した。さらに、酸化アルミニウム層を実施例1と同様に作製した。
【0108】
作製した各光学用部材の白色度観察を実施例1と同様に行ったところ、白色度が改善できることが確認できた。図12でAr流量が0ccの時(比較例5)の白色度と比較し、Ar流量が0ccの時の白色度を1として、比較し数値化した。その結果、Ar流量が15ccの時の白色度は0.97と低く、白色度が改善できたことが分かった。
【0109】
(比較例5)
実施例5に対し、中間層をTiO2蒸着膜でArを導入せず作製したときの、白色度は1であり、実施例5の光学部材よりも高く白曇り低減の効果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の光学用部材は、安定した反射防止性を長期間維持できるので、反射防止機能を必要とするレンズ等の光学系に利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 基材
2 中間層
3 酸化アルミニウム層
4 アルミニウムを含む膜
5 塗布液
7 回転ステージ
8 オーブン
9 温水処理槽
11 柱状構造体
12 柱状構造体の軸
13 基材表面
14 蒸着方向
15 空孔
16 蒸着源
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止性を有する光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系に関する。さらに、可視領域から近赤外領域で高い反射防止性を得るのに適した光学用部材及びそれを用いた光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光領域の波長以下の微細周期構造を有す反射防止構造体は、適切なピッチ及び高さの微細周期構造を形成することにより、広い波長領域ですぐれた反射防止性を示すことが知られている。その中で、微細構造を形成する方法としては、可視光領域の波長以下の粒径の微粒子を分散した膜の塗布などが知られている。
また、微細加工装置(電子線描画装置、レーザー干渉露光装置、半導体露光装置、エッチング装置など)によるパターン形成によって微細周期構造を形成する微細加工方法が知られている。前記微細加工方法は、微細周期構造のピッチや高さの制御が可能である。また、前記微細加工方法は、すぐれた反射防止性を有する微細周期構造を形成出来ることが知られている。
それ以外の方法として、基材上に、アルミニウムの水酸化酸化物であるベーマイトの凹凸構造を成長させて反射防止効果を得る方法も知られている。この方法は、液相法(ゾルゲル法)により製膜した酸化アルミニウムの膜を温水浸漬処理により、表層をベーマイト化して板状結晶膜を形成して反射防止膜を得る方法である。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−202649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、優れた反射防止性を示す反射防止膜が望まれている中で、従来の技術においては下記の課題がある。
例えば、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する光学用部材においては、完全反射、強度光照射下という光入射条件において白く曇る現象が確認される場合がある。表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を形成するために、酸化アルミニウムのアモルファス膜を水蒸気処理あるいは温水浸漬処理する。この処理により形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造に、ある周期が発生し、この周期的な凹凸構造が、全反射の光入射条件において白く曇る現象を引き起こしてしまう。
本発明は、この様な背景技術の課題について鑑みてなされたものであり、高い反射防止性を維持しながら全反射条件下での白曇り現象を改善できる光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する光学用部材は、中間層の上に、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は空隙を有することを特徴とする。
【0006】
上記の課題を解決する光学用部材の製造方法は、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決する光学用部材の製造方法は、中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、前記基材の表面に対して傾斜した方向から蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決する光学系は、上記の光学用部材を用いた光学系である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い反射防止性を維持しながら全反射条件下での白曇り現象を改善できる光学用部材、その製造方法及びそれを用いた光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光学用部材の第一の実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の光学用部材の第二の実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明の光学用部材における柱状構造体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図4】本発明における斜方蒸着法の説明図である。
【図5】本発明における板状結晶層を形成する工程を示す概略図である。
【図6】白色度の測定方法を示す図である。
【図7】蒸着角度と白色度の関係を示す図である。
【図8】蒸着角度と表面粗さRaの関係を示す図である。
【図9】蒸着角度と反射率の関係を示す図である。
【図10】蒸着角度と屈折率の関係を示す図である。
【図11】ガス流量と白色度の関係を示す図である。
【図12】ガス流量と白色度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0012】
(第一の実施形態)
図1は、本発明の光学用部材の第一の実施態様を示す概略図である。本実施形態に係る光学用部材10は、基材1上に、中間層2と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3がこの順序で積層された構成からなる。前記中間層2は、少なくとも酸化アルミニウム層3との界面に空隙を有している。
【0013】
本発明においては、中間層2の上に、酸化アルミニウムを含むアモルファス層を積層し、次に焼成する、あるいは、蒸着によりアルミニウムを含むアモルファス層あるいは酸化アルミニウムを含むアモルファス層を形成することにより、アルミニウムを含む膜を形成する。その後、アルミニウムを含む膜を水蒸気あるいは温水に接触させる温水処理工程でアモルファス層の溶解再析出現象から、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3を形成する。このような成膜プロセスの中で、中間層2の空隙21の存在が、酸化アルミニウム層を形成するために加えられる温度等によって発生する酸化アルミニウム層の応力を緩和する。その結果、前記表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層の波長領域の周期性が改善できるものと考えられる。中間層2は、島状あるいは柱状構造で、粒界を有し、その粒界が、基板表面から板状結晶層3に向かって連続的に存在していてもよい。中間層2が極めて薄い場合は、柱状構造体の高さが低くなり、島状の薄膜となっていてもよい。
【0014】
(基材)
本発明の光学用部材で使用される基材としては、ガラス、プラスチック基材、ガラスミラー、プラスチックミラー等が挙げられる。
【0015】
ガラスの具体例として、アルカリ含有ガラス、無アルカリガラス、アルミナケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウム系ガラス、ランタン系ガラスを挙げることができる。
【0016】
プラスチック基材の代表的なものとしては、ポリエステル、トリアセチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂のフィルムや成形品;不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、架橋型ポリウレタン、架橋型のアクリル樹脂、架橋型の飽和ポリエステル樹脂など各種の熱硬化性樹脂から得られる架橋フィルムや架橋した成形品等が挙げられる。
【0017】
また、基材1は、特に限定されるものではなく、例えば凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、非球面レンズ、自由曲面レンズ、プリズムなどの形状の光学用部材の基材でも良い。
【0018】
(酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層)
本発明における、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3は、反射防止機能を有しており反射防止膜として用いられる。
【0019】
酸化アルミニウム層3の表面は凹凸形状となっていて、アルミニウムを含む膜あるいは酸化アルミニウムを含む膜(アモルファス状態で、「アルミニウムを含む膜」とも記す。)を温水または水蒸気に接触させることより、アルミニウムを含む膜の表層が解膠作用等を受け、膜の表層に析出、成長して板状の結晶となる。「酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層」とは、アモルファス状態のアルミニウムを含む膜を温水または水蒸気に接触させることより、アルミニウムを含む膜の表層が解膠作用等を受け、膜の表層に析出、成長して、表面に板状の結晶による凹凸構造が形成された層のことである。形成される酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造は、主にアルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物または酸化アルミニウムの水和物の結晶からなり、特に好ましい結晶としてはベーマイトがある。アルミニウムを含む膜3を温水に接触する方法は、温水に浸漬する方法、温水を流水もしくは霧状にしてアルミニウムを含む膜3に接触させる方法などが挙げられる。以下、アルミニウムを含む膜を温水に接触させ形成される結晶を、酸化アルミニウムの結晶、あるいは酸化アルミニウムを主成分とする板状の結晶、あるいは酸化アルミニウムを成分として含有する板状の結晶、あるいは板状結晶、あるいは酸化アルミニウムベーマイトと称することにする。また、アルミニウムを含む膜3を温水に接触させることを温水処理すると称することにする。
【0020】
アルミニウムを含む膜をゾルゲル法で作成する場合、前駆体ゾルの原料には、Al化合物の単独、或いはAl化合物とともにZr、Si、Ti、Zn、Mgの各々の化合物の少なくとも1種の化合物とを用いることができる。
【0021】
化合物として、例えばAl2O3、ZrO2、SiO2、TiO2、ZnO、MgOの原料としては、各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。
【0022】
成膜性の観点から、特にZrO2、SiO2、TiO2の原料としては金属アルコキシドを用いるのが好ましい。また、蒸着によってアルミニウム膜あるいは酸化アルミニウム膜を成膜することもできる。このような前駆体ゾルを成膜した膜あるいは蒸着によって成膜された膜を、アルミニウムを含む膜、酸化アルミニウムを主成分とする膜、あるいは酸化アルミニウムを主成分とするアモルファス膜、と称する。
【0023】
アルミニウムを含む膜を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する方法は、例えば、特開2006−259711号公報、特開2005−275372号公報等に記載されている方法を用いることができる。
【0024】
(中間層)
本実施形態における中間層2は、基材1上に設けられた少なくとも一層の膜で、基材1に密着して基材1と酸化アルミニウム層3との間に積層され、複数の空隙21を有している。アルミニウムを含む膜の成膜プロセスにおける熱による膜応力を緩和できる構造であることが好ましい。
【0025】
本発明における中間層2は、複数の空隙21を有し、空隙21は、酸化アルミニウム層の成膜時の高温プロセスを経て、発生する応力を効果的に緩和できる構造である。
【0026】
走査型電子顕微鏡の断面観察からも空隙の存在が観察される。さらに、空隙を確認する方法としては、欠陥の顕在化処理などの処理を適宜施すことによって観察することも可能である。具体的には、適宜希釈したHFに浸漬することで、欠陥の選択エッチング処理を行い、より微細な、空隙の存在を観察することも可能である。
【0027】
本発明の中間層の膜厚は、反射防止機能のための光学特性の観点と、熱プロセスによる膜応力緩和の観点から、1nmから200nm、より好ましくは2nmから100nmが望ましい。
【0028】
さらに、中間層は、酸化アルミニウム層3と基材1の各屈折率に対して、中間層の屈折率及び膜厚を適宜調整することで、光線有効部の反射率を最小にするような屈折率調整機能を有することが好ましい。これにより、基材から空気との界面の間で屈折率が連続的に減少することとなり、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層と中間層の屈折率の効果とあいまって高い反射防止性能を発現できる。
【0029】
本発明における中間層は、SiO2を含む膜からなることが好ましい。中間層のSiO2を含む膜は、SiO2を主成分とする非晶質酸化物皮膜が好ましく、異種成分としてTiO2、ZrO2などの酸化物を単独であるいは組み合わせて含有してもよい。中間層に含有されるSiO2の含有量は10mol%以上、好ましくは15mol%以上から100mol%である。
【0030】
次に、本発明の光学用部材の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の製造方法は、基材上に、中間層と酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材の製造方法であり、下記の2つの工程を有することを特徴とする。
(1)基材表面に蒸着法により中間層を形成する工程。
(2)前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成する。あるいは前記中間層の上にアルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜する。その後、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程。
【0032】
(中間層を形成する工程)
本発明における中間層を形成する工程は、基材上に不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させることで空隙を形成する。これは、真空蒸着の圧力が上昇することで、気相での蒸着粒子の衝突確率が増加し、粒子のエネルギーが減少し基板上での表面拡散が減少するなどの作用で、膜形成が基板表面の水平方向よりも、厚さ方向に膜の成長が進行するためである。さらに蒸着堆積する膜の中にも気相中に導入する不活性ガス原子が取り込まれるなどして、膜構造のミクロな密度を低下させる作用を有する。
【0033】
アルミニウムを含む膜との界面に少なくともこの空隙が形成されることにより、高温プロセスにより形成されるアルミニウムを含む膜に発生する内部応力を緩和できる構造となる。
【0034】
本実施形態の中間層を形成するためには好適に真空蒸着法を用いることができる。蒸着源にSiO2、TiO2、ZrO2を用いることが可能であり、これらの蒸着源を単独または、混合して適宜組成を調整し用いることも可能である。蒸着手段としては電子ビーム蒸着法、抵抗加熱法などであり、蒸着材料の状態、パウダー、粒状、ペレットなどサイズや状態に併せて最適な手段を選択することが可能である。
【0035】
本実施形態の中間層の蒸着方法は蒸着材料に加えて、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガス、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気など気体状のものを用いることが可能である。
【0036】
ガスの導入手段としては、真空装置の配置は、蒸着源と基板の間に設置し、蒸着材料の蒸着材料の軌道の中に導入することが導入効率の点で好ましい。真空蒸着装置の中に設置されていれば、ガスの拡散と基材上の膜質の均一性を配慮しながら適宜設置可能である。そのためにガスの噴き出しの部材の形状をシャワー状にしても構わない。真空容器の真空度を計測する真空ゲージで蒸着中の圧力をモニターし、真空度を制御しながら蒸着材料を蒸着することで、中間層を作製することが可能である。また、蒸着プロセスの中で、蒸着圧力を時間的または空間的に変化させる手法を加えても構わない。
【0037】
蒸着中の導入ガス流量を変化させること、排気コンダクタンスバルブのコンダクタンスを変化させること、蒸着レートを変化させることで、作製する中間層の膜厚方向の内部応力に変化をつけることも可能である。真空度の制御は蒸着材料の蒸気圧曲線、蒸着レート、排気ポンプの排気能力、排気コンダクタンスバルブの排気速度調整機能を持たせることで適宜制御可能である。これらの各制御因子を適宜調整することで、蒸着粒子の気相でのエネルギーを低下させることが可能で基材表面に付着する粒子のエネルギーを抑制し、膜形成の表面拡散を減速し、中間層を基材の表面に対して垂直な複数の柱状にすることも可能である。
【0038】
本実施形態の中間層の空隙率は、1%以上50%以下が好ましい。50%をこえると、膜強度が不足し、また光学特性が変動しやすい。
【0039】
本実施形態の空隙率は、以下のように求めるものとする。
(1)不活性ガスを導入せずに蒸着して作製した薄膜の屈折率n(0)をエリプソ測定で求める。
(たとえば、SiO2膜で、Ar=0ccの場合屈折率は1.46である。)
(2)空隙の部分は空気とみなし、屈折率n=1を用いる。
(3)不活性ガスを導入して得られる本実施形態の中間層の屈折率n(Ar=X)をエリプソ測定で求める。
(4)(1)(2)(3)で求めた屈折率を用い、一般的な有効媒質近似法EMA法で空隙率を算出する。
(5)さらに、(1)の空隙率を0%として、本実施形態の中間層の空隙率を算出する。
【0040】
(板状結晶層を形成する工程)
図5は、本発明における酸化アルミニウム層を形成する工程を示す概略図である。
【0041】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、中間層2を形成した基材1を、回転ステージ7にセットする工程(a)と、該中間層上にアルミニウムを含む膜4を形成する工程(b)と、これを焼成する工程(c)、こののち、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行われる。
【0042】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、アルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜によりアルミニウムを含む膜を形成した後、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行なうこともできる。
【0043】
(第二の実施形態)
図2は、本発明の光学用部材の第二の実施態様を示す概略図である。上記第一の実施形態と重複する部分については、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。本発明に係る光学用部材10は、基材1上に、中間層2と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層3がこの順序で積層された構成からなる。前記中間層2は、基材表面13に対して傾斜している複数の柱状構造体11で形成されている。前記複数の柱状構造体11の間隙には空孔15を有する。複数の柱状構造体11は、斜方蒸着法により形成され、14は蒸着方向を示す。
【0044】
本発明において、中間層2は、複数の柱状構造体からなる構造体であり、基材表面13から板状結晶層3にわたって、複数の柱状構造体11の間隙には空孔15が存在する構造となっている。
【0045】
本発明においては、中間層の上に、酸化アルミニウムを含むアモルファス層を積層し、次に焼成する、あるいは、蒸着によりアルミニウムを含むアモルファス層あるいは酸化アルミニウムを含むアモルファス層を形成することにより、アルミニウムを含む膜を形成する。その後、アルミニウムを含む膜を、温水処理工程でアモルファス層の溶解再析出現象から、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する。このような成膜プロセスの中で、中間層2の空孔15の存在が成膜プロセス温度による膜の応力緩和を可能とする。その結果、前記表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層の波長領域の周期性が改善できるものと考えられる。
【0046】
(中間層)
本実施形態における中間層2は、基材1上に設けられた少なくとも一層の膜で、基材1に密着して基材1と酸化アルミニウム層3との間に積層され、複数の柱状構造体11を有し、酸化アルミニウムの結晶の成膜プロセスにおける熱による膜応力発生を緩和できる構造であることが好ましい。
【0047】
本実施形態における中間層2は、複数の柱状構造体11の間隙には空孔15を有し、空孔15は基材表面13から板状結晶層3に向かって連続して存在し、板状結晶の成膜高温プロセスを経て、発生する応力を効果的に緩和できる構造である。
【0048】
走査型電子顕微鏡の断面観察からも空孔の存在が観察される。さらに、空孔を確認する方法としては、欠陥の顕在化処理などの処理を適宜施すことによって観察することも可能である。具体的には、適宜希釈したHFに浸漬することで、欠陥の選択エッチング処理を行い、より微細な、空孔の存在を観察することも可能である。
【0049】
このような空孔は中間層の表面観察から、ピットとして観察することが可能である。図3は、断面に柱状構造体を有する中間層の表面のSEM像である。図3の写真から、本発明の中間層の表面には、空孔として明らかなピット(穴状の欠陥)が観察される。
【0050】
さらに中間層の膜厚を変化させることで、ごく薄い中間層では空孔が基板から発生していることが分かる。膜厚の厚い中間層の表面観察でも表面観察でピットが存在することから、基材から表面に向かって空孔が存在することを確認することができる。
【0051】
本発明の中間層の膜厚は、反射防止機能のための光学特性の観点と、熱プロセスによる膜応力緩和の観点から、1nmから200nm、より好ましくは2nmから100nmが望ましい。
【0052】
さらに、中間層は、酸化アルミニウム層3と基材1の各屈折率に対して、中間層の屈折率及び膜厚を適宜調整することで、光線有効部の反射率を最小にするような屈折率調整機能を有することが好ましい。これにより、基材から空気との界面の間で屈折率が連続的に減少することとなり、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層と中間層の屈折率の効果とあいまって高い反射防止性能を発現できる。
【0053】
本発明における中間層は、SiO2を含む膜からなることが好ましい。中間層のSiO2を含む膜は、SiO2を主成分とする非晶質酸化物皮膜が好ましく、異種成分としてTiO2、ZrO2などの酸化物を単独であるいは組み合わせて含有してもよい。中間層に含有されるSiO2の含有量は10mol%以上、好ましくは15mol%以上から100mol%である。
【0054】
図2に示す様に、複数の柱状構造体は基材表面に対して同一方向に傾斜しており、基材表面13と柱状構造体の軸12との間の傾斜角度αが40°以上80°以下、好ましくは45°以上80°以下であることが望ましい。
【0055】
次に、本実施形態の光学用部材の製造方法について説明する。
【0056】
本実施形態の光学用部材の製造方法は、基材上に、中間層と酸化アルミニウム層がこの順序で積層された光学用部材の製造方法であり、下記の2つの工程を有することを特徴とする。
(1)基材表面に斜方蒸着法により複数の柱状構造体からなる中間層を形成する工程。
(2)前記中間層の上に少なくともアルミニウム化合物を含有する溶液を塗布して皮膜を形成する。あるいは前記中間層の上にアルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜する。その後、前記皮膜を温水処理して前記皮膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程。
【0057】
(中間層を形成する工程)
本発明における中間層を形成する工程は、基材上に斜方蒸着法により複数の柱状構造体を形成する。斜方蒸着法はSiO2を主成分とする蒸着物質を基材表面に堆積させる。
【0058】
斜方蒸着法は、図4に示すように、基材法線17と蒸着方向14との間の角度を蒸着角度θと定義する。蒸着角度θは、80°未満、好ましくは75°以下が望ましい。
【0059】
斜方蒸着法により、SiO2パウダーを蒸着源として基材上に得られるSiO2膜の断面構造を図3に示す。図3においては、蒸着角度θと形成される中間層の断面構造の柱状構造体の傾斜角度αは、蒸着角度0°では柱状構造体の傾斜角度は認められず、蒸着角度60°、80°で、それぞれの柱状構造体の傾斜角度αはそれぞれ、68°、45°である。また、図3の走査型電子顕微鏡の断面写真から、空孔が観察される。空孔は、図3の断面写真中のコントラストで暗く見える部分であり、白く見える柱状構造体の間に存在し、基材表面から柱状構造体表面に向かっている。
【0060】
図3において、蒸着角度θが大きくなるにしたがい、中間層の柱状構造体の基板表面からの傾斜角度αも大きく傾くことが分かる。また、空孔の傾斜は蒸着角度で制御できることが分かる。
【0061】
(基材の温度)
蒸着法、スパッタ法、CVD法では、基材の温度を上げることで前駆体の表面拡散を助長させることが可能であり、再蒸発温度の範囲で適宜設定することが好ましい。また、基材温度の増大は、膜構造の緩和を可能とし、斜方蒸着で形成される空孔の隙間は狭くなる傾向になる。
【0062】
基材温度はこのような空孔の隙間を適宜調調整しながら、膜応力の緩和できる範囲で適宜選択することが可能である。また、基材の耐熱性を配慮して適宜基材温度を設定することができる。本発明における中間層の作製方法は、スパッタ法、蒸着法、CVD法などの気相成長法で作成することが可能であり、蒸着角度を適宜傾斜させることで、断面構造に柱状構造体を形成する。
【0063】
本発明における中間層を形成する蒸着法、スパッタ法には、反応性蒸着法、反応性スパッタ法などの手法を用いることが可能である。
【0064】
CVD法では、基板バイアス印加でイオン化している前駆体の基材への運動エネルギーを制御することが可能である。この制御でイオン化した前駆体の表面拡散を助長することも可能である。
【0065】
成膜空間の内圧を適宜設定することで、各成膜法のプラズマ状態を制御しイオン化された前駆体の運動エネルギーの制御が可能であり、これらのパラメーターを組み合わせることで、表面拡散の優れた均一製膜が可能である。
【0066】
蒸着法、スパッタ法では、前駆体のエネルギーを、蒸着源16又はスパッタ源とは別のイオンソース源から供給するイオンビームのエネルギーアシスト作用で、前駆体の運動エネルギーを制御することが可能であり、基材表面の拡散を助長し、均一製膜を可能とする。本発明の蒸着方法においては、蒸着源は固定配置する。
【0067】
さらに、本発明においては、蒸着角度θが0°に固定保持されないようにするために、基材を回転治具に取り付けて、蒸着方向軸に対して回転対称になるように回転させても構わないし、さらに、基材を自転、公転させた遊星回転させて、蒸着させても構わない。
【0068】
蒸着角度が蒸着のプロセスの中で0°に保持され続けなければ構わない。
【0069】
(酸化アルミニウム層を形成する工程)
図5は、本発明における酸化アルミニウム層を形成する工程を示す概略図である。
【0070】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、中間層2を形成した基材1を、回転ステージ7にセットする工程(a)と、該中間層上にアルミニウムを含む膜4を形成する工程(b)と、これを焼成する工程(c)、こののち、温水槽に浸漬し、前記酸化アルミニウムを主成分とする膜4を温水と接触させ、表面に凹凸構造を有する酸化アルミニウムを主成分とする板状結晶層を形成する工程(d)の各工程により行われる。
【0071】
酸化アルミニウム層を形成する方法は、アルミニウムを含む皮膜あるいは酸化アルミニウムを含む皮膜を蒸着により成膜によりアルミニウムを含む膜を形成した後、温水槽に浸漬し、前記アルミニウムを含む膜4を温水と接触させ、表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程(d)の各工程により行なうこともできる。
【0072】
(白色度の評価)
白色度の簡易測定方法を図6に示す。同図において、基材1の裏面から、光源のハロゲンランプ19を、光強度を適宜設定し、照射角度を全反射条件になる角度とするように設置する。白色度の測定は基材表面側にて、撮影用の一般的なカメラ18にて撮影を行う。撮影条件は露光の絞り、シャッター速度などの露光条件を適宜設定し固定する。撮影後の輝度プロファイルを2値化し、その積分値を白色度と定義する。
【0073】
先に説明した光学用部材、すなわち中間層は斜方蒸着法で作製される柱状構造体の基材からの傾斜角度αと蒸着角度の関係を図7に示す。
【0074】
柱状構造体の基材からの傾斜角度αは、断面SEM写真から基材表面から表面に直線的に成長している複数の構造体の傾斜角度を測定することで、算出可能である。さらに、統計処理などの平均値を算出し、傾斜角度αと定義することも可能である。
【0075】
図7に蒸着角度と白色度の結果を併せて示す。
【0076】
蒸着角度が0°の時の白色度を1として規格化した。同図に示すように、蒸着角度が80°未満の範囲では白色度は0.8と低い。蒸着角度θが80°では白色度0.94と高い。このように、蒸着角度θが80°未満で0°以外では白色度が改善できていることが分かる。蒸着角度θが80°以上では、白色度の低下がみられる。
【0077】
図8に示すように、表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定評価すると、表面粗さRaが大幅に低下していることがわかる。これは、蒸着角度θが80°以上では表面粗さRaが増大することで、酸化アルミニウム層3に波長領域の周期性が発生し、これによる白曇りが悪化すると考えられる。
【0078】
本発明に光学系とは、上記の光学用部材を用いたことを特徴とし、本発明光学系の具体例としては、カメラ用のレンズ群が挙げられる。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
本実施例は中間層の形成に、真空蒸着の斜方蒸着プロセスを用いた。図5に示すプロセスに従い順に説明する。
【0080】
(1)中間層の蒸着
図4の真空装置を用いて、基板ホルダーにSi基材をセットした。基材の温度は150℃とした。蒸着源16にSiO2パウダーを用い、電子ビーム蒸着でSiO2を蒸着した。蒸着角度θを60°にセットし斜方蒸着を行い、中間層(斜方蒸着膜)を得た。膜厚は50nmであった。
【0081】
(2)アルミニウムを含む膜の塗工
図5(a)に示す装置を用いて、中間層(斜方蒸着膜)2を積層した基材1を、真空チャック式の回転ステージ7に載せた。図5(b)に示すように、酸化アルミニウムを含有する塗布液5を適量滴下し、約3000rpmで30秒間程度回転させた。
【0082】
ここでは、スピン塗工条件を約3000rpmで30秒間程度としたが、これに限定するものではなく、所望の膜厚を得るために塗工条件を変えても構わない。また、スピンコート法に限らず、ディップコート法、スプレーコート法などを用いても良い。
【0083】
(3)焼成プロセス
次に、図5(c)に示す100℃以上の温度のオーブン8で30分間以上かけて焼成した。
【0084】
(4)温水処理
焼成の後、図5(d)に示す温水処理槽9に浸漬し、板状結晶膜を形成した。温水処理槽9の温水は、60℃以上100℃以下の範囲とし、温水中に5分乃至24時間浸漬し、引き上げた後、乾燥させた。
【0085】
以上の工程により得られた光学用部材は、図2に示すように、基材1及び中間層2の上に花弁状透明アルミナ膜で板状結晶層3が形成された。
【0086】
このようにして作製された光学用部材の表面および断面をFE−SEMで観察した。平均ピッチ400nm以下、平均高さ50nm以上の花弁状のアルミナ膜で板状結晶層が形成され、優れた反射率特性を示した。
【0087】
以下に光学用部材の評価を示す。
【0088】
(白色度評価)
図6に示すように、実施例1で得られた光学用部材を、ハロゲンランプを完全反射する入射角度にセットした。光学用部材からの透過光をカメラ撮影し、その輝度プロファイルの積分値を波長積算し、白色度を算出した。後述する比較例1として示した、蒸着角度0°として作製した光学部材と比較し、蒸着角度0°の白色度を1として、相対的に数値化した。その結果、白色度は0.8と低い値であった。
【0089】
また、必要に応じて基板の測定評価も行い、光学用部材の測定値との相対比をとって白色度と定義することも可能である。
【0090】
また、本発明の光学用部材の反射率特性は図9に示すように、低反射特性を示している。
【0091】
(比較例1)
本比較例では、図4の斜方蒸着の蒸着角度θを0°に固定し、中間層2のSiO2膜の厚さを50nmとして作製する。この蒸着角度θが0°では、図3に示すように、断面構造に空孔は見らない。
【0092】
また、白色度は、実施例1と同様の方法で測定し、図7に示すように蒸着角度0°の白色度は1とした。このように白色度は実施例1の方が優れていることがわかった。図9に示すように、本比較例においては、低反射特性は実現できるものの、白曇りを改善することは難しい。
【0093】
(実施例2)
本実施例では、アルミニウムを含む膜を蒸着法で作製し、その他の工程は実施例1と同じように行なった。
【0094】
(1)中間層の蒸着
図4に示す真空装置を用いて、基板ホルダーにSi基板をセットした。基材の温度は150℃とした。蒸着源4にSiO2パウダーを用い、電子ビーム蒸着でSiO2を蒸着した。
蒸着角度を60°にセットし斜法蒸着を行なった。膜厚は50nmとした。
【0095】
(2)アルミニウムを含む膜の作製
基材1を真空装置の中の基板ホルダーに蒸着源に凹面を正対させてセットした。基材のホルダーは自転の回転機能を有し、その回転数をスピード30rpmに設定した。基材の温度は室温とした。蒸着源にペレット状アルミを用い、予め、電子ビーム蒸着でアルミを溶融しておき、次に適宜電子銃のパワーを調整しながら電子ビーム蒸着法で基材上にアルミニウム膜を製膜した。アルミニウム膜は所望の膜厚を製膜したのち、真空装置を大気に戻し、基材1を取り出した。
【0096】
(3)温水処理
図5(4)に示す温水処理槽9に浸漬し、酸化アルミニウム層を形成した。温水処理槽9の温水は、60℃以上100℃以下の範囲とし、温水中に5分乃至24時間浸漬し、引き上げた後、乾燥させた。
【0097】
以上の工程により、完成した光学部材は図2に示すように、基材1及び中間層2の上に表面に酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成された酸化アルミニウム層3が形成される。
【0098】
このようにして作製される光学部材の表面および断面をFE−SEMで観察すると花弁状のアルミナ膜で板状の酸化アルミニウムの結晶による凹凸構造が形成され、優れた反射率特性を示した。
【0099】
(光学部材の評価)
(白色度評価)
実施例1と同様にして白色度評価を実施し、白色度を評価した。
本発明の光学部材の反射率特性は、実施例1同様に低反射特性を示した。
【0100】
(比較例2)
本比較例では、図4の斜方蒸着の蒸着角度を0°に固定し、中間層2のSiO2膜を50nm作製した。比較例1同様に、この蒸着角度が0°では、図3に示すように断面構造に粒界は見られなかった。また白色度を、実施例1、比較例1と同様の測定を実施した。その結果実施例2に比べ白色度が高いことが分かった。実施例2では低反射特性及び白曇り低減の効果がみられたが、比較例2では低反射特性は実現できるものの、白曇り低減の効果が得られなかった。
【0101】
(実施例3)
実施例3は中間層にTiO2蒸着膜を斜方蒸着法で製作するものである。
斜方蒸着機は実施例1と同様、予めTiO2を溶融させておき、蒸着時には同時に酸素ガスを導入した。(導入手段は不図示)蒸着角度を60°から80°で変化させた時の屈折率の変化を図10に示す。このように作製したTiO2膜をSEM観察すると柱状構造すなわち、カラム構造が観察できた。
【0102】
さらに、実施例1と同様にアルミナ板状結晶層を積層し光学部材を作製した。このようにして得られた、光学用部材の白色度を実施例1と同様に評価したところ、蒸着角度が高いもので白色度の改善が見られた。本実施例では、基材は高い屈折率のLAH系材料を用いたことで、良好な反射率特性の光学部材を得た。
【0103】
(比較例3)
本比較例では、TiO2膜は、斜方蒸着法を用いずに、蒸着角度0度で作製した。その他は実施例3と同様に行なった。
白色度は実施例3の光学部材よりも高い値であった。
【0104】
(実施例4)
本実施例では、中間層はSiO2蒸着でArを20cc及び30cc導入してSiO2膜を中間層として反射防止膜を作製した。酸化アルミニウム層の作製は実施例1と同様とした。
【0105】
実施例1と同様に、作製した各光学用部材の白色度観察を行った。Ar流量が0のとき(比較例4)の白色度と比較し、Ar流量が0の時を1として、比較し数値化した。その結果を図11に示す。Ar流量が20ccおよび30ccの時の白色度は0.85及び0.77となり、Ar流量が0の時と比べて白色度が改善できることが確認できた。
【0106】
(比較例4)
本比較例は、Arガスを導入せず、中間層SiO2膜を蒸着した。その他は実施例4と同様に行なった。作製した光学用部材の白色度は1であり、実施例4の光学部材よりも白色度が高く、白曇り低減の効果は得られなかった。
【0107】
(実施例5)
本実施例では、中間層をTiO2蒸着膜で蒸着時にArを15cc導入してTiO2膜の中間層を作製した。さらに、酸化アルミニウム層を実施例1と同様に作製した。
【0108】
作製した各光学用部材の白色度観察を実施例1と同様に行ったところ、白色度が改善できることが確認できた。図12でAr流量が0ccの時(比較例5)の白色度と比較し、Ar流量が0ccの時の白色度を1として、比較し数値化した。その結果、Ar流量が15ccの時の白色度は0.97と低く、白色度が改善できたことが分かった。
【0109】
(比較例5)
実施例5に対し、中間層をTiO2蒸着膜でArを導入せず作製したときの、白色度は1であり、実施例5の光学部材よりも高く白曇り低減の効果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の光学用部材は、安定した反射防止性を長期間維持できるので、反射防止機能を必要とするレンズ等の光学系に利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 基材
2 中間層
3 酸化アルミニウム層
4 アルミニウムを含む膜
5 塗布液
7 回転ステージ
8 オーブン
9 温水処理槽
11 柱状構造体
12 柱状構造体の軸
13 基材表面
14 蒸着方向
15 空孔
16 蒸着源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は空隙を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項2】
前記中間層の空隙率が1%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学用部材。
【請求項3】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は、前記基材表面に対して、垂直あるいは傾斜している複数の柱状構造体で形成され、かつ前記複数の柱状構造体の間に空隙を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項4】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする光学用部材の製造方法。
【請求項5】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、前記基材の表面に対して傾斜した方向から蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする光学用部材の製造方法。
【請求項6】
前記斜方蒸着法は、前記基材法線と蒸着方向との間の蒸着角度θが80°未満で行なうことを特徴とする請求項5に記載の光学用部材の製造方法。
【請求項7】
前記斜方蒸着法はSiO2を主成分とする蒸着物質を前記基材表面に堆積させることを特徴とする請求項5または6に記載の光学用部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の光学用部材を用いた光学系。
【請求項1】
中間層の上に、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は空隙を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項2】
前記中間層の空隙率が1%以上50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学用部材。
【請求項3】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材において、前記中間層は、前記基材表面に対して、垂直あるいは傾斜している複数の柱状構造体で形成され、かつ前記複数の柱状構造体の間に空隙を有することを特徴とする光学用部材。
【請求項4】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、不活性ガス雰囲気中で蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする光学用部材の製造方法。
【請求項5】
基材と、中間層と、表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を有し、前記中間層の上に前記酸化アルミニウム層が積層された光学用部材の製造方法であって、基材上に、前記基材の表面に対して傾斜した方向から蒸着物質を堆積させて前記中間層を形成する工程と、前記中間層の上にアルミニウムを含む膜を形成し、前記膜を温水処理して前記膜の表面に酸化アルミニウムの結晶による凸凹構造を有する酸化アルミニウム層を形成する工程とを有することを特徴とする光学用部材の製造方法。
【請求項6】
前記斜方蒸着法は、前記基材法線と蒸着方向との間の蒸着角度θが80°未満で行なうことを特徴とする請求項5に記載の光学用部材の製造方法。
【請求項7】
前記斜方蒸着法はSiO2を主成分とする蒸着物質を前記基材表面に堆積させることを特徴とする請求項5または6に記載の光学用部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の光学用部材を用いた光学系。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【公開番号】特開2012−185495(P2012−185495A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−30816(P2012−30816)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]