説明

光学的に純粋な2−(4−ヒドロキシフェノキシ)−プロピオン酸化合物の製造方法

【課題】工業スケールにおいて、過剰なアルキル化生成物を実質的に含まず、高度に着色された副生成物が混入せず、したがって、複雑又は高価な精製手順を全く必要としない、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の簡便な製造方法。
【解決手段】温和な還元剤の存在中で、光学的に純粋なR-ヒドロキシフェノキシプロパン酸又はその塩もしくはそのエステルを、ハイドロキノン又はその塩とS-ハロプロパン酸又はその塩との反応により製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に純粋なR-ヒドロキシフェノキシプロパン酸、又はその塩、もしくはエステルの製造方法、及び工業的スケールでの除草剤の製造におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光学的に純粋なR-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸(3)は、塩基存在下における、ハイドロキノン(2)と、Xがクロロ又はブロモであり、好適にはクロロであるS-2-ハロプロパン酸(1)との反応によって製造され得る:
【0003】
【化1】

【0004】
ハイドロキノン及びS-2-ハロプロパン酸から光学的に純粋なR-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸を製造することに関連した問題が検討され、そして関連のある従来技術は、EP352168で検討されている。特に、二酸(bis-acid)(4)を生成するハイドロキノンの過剰なアルキル化、及び高度に着色された副生物を生成するハイドロキノンの酸化の2つが、深刻な問題である。EP352168中で提案された解決方法は、錯体精製手順を行うことである。
【発明の概要】
【0005】
工業スケールにおいて、過剰なアルキル化生成物を実質的に含まず、高度に着色された副生成物が混入せず、したがって、複雑又は高価な精製手順を全く必要としない、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の簡便な製造方法が所望される。本出願人は驚くべきことに、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の製造において温和な還元剤を使用することによって、上記基準を満たして製造物が単離可能であることを見出した。
【0006】
したがって、温和な還元剤の存在下、ハイドロキノン又はその塩と、S-2-ハロプロパン酸又はその塩との反応により、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
S-2-ハロプロパン酸は、S-2-ブロモプロパン酸又はS-2-クロロプロパン酸であり、好適にはS-2-クロロプロパン酸である。
【0008】
一つの好適な実施形態において、過剰なハイドロキノンは再利用のために回収される。
【0009】
当該反応により製造されたR-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の単離が、酸性化、例えば無機酸、特に塩酸による酸性化、及びろ過によって実施されることが好適である。
【0010】
必要ならば又は所望であれば、R-2-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸は、慣用技術により、その塩又はエステルに変換され得る。
【0011】
反応のための好適な溶媒は、水、又は水混和性溶媒単独、例えば、メタノール若しくはエタノール、又は当該水混和溶媒と水との混合溶媒である。
【0012】
好適な塩基は、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムである。
【0013】
好適には当該反応は、10〜100℃、より好適には30〜70℃で実施される。
【0014】
当該反応は、大気圧で、又は1bar以下の過剰圧力で実施され得る。
【0015】
ハイドロキノンとの反応において、塩形態のS-2-ハロプロパン酸は、不足させて使用することが有利であり、通常0.25〜0.75 mol/molで、好適には0.3〜0.6mol/molで使用することが有利である。好適な塩は、アルカリ金属塩、より好適にはナトリウム塩である。
【0016】
好適には、ハイドロキノンに対して化学量論量を超える塩基が使用される。好適には、当該塩基はハイドロキノンに対して1.5〜2.5mol/mol、より好適には1.6〜2.0mol/mol使用される。
【0017】
温和な還元剤は、好適には当該方法を通して存在する。それは固体として、又は溶液として当該方法において添加され得る。段階的添加(incremental addition)が、本方法の間においてなされ得る。
【0018】
好適には、当該温和な還元剤は、中性もしくは荷電した低酸化状態の硫黄種、例えば二酸化硫黄、亜硫酸塩(sulphite)、亜硫酸水素塩(bisulphite)、亜ジチオン酸塩(hydrosulphite)、メタ亜硫酸水素塩(metabisulphite)、スルフェン酸、スルフィン酸、例えばホルムアミジンスルフィン酸、低酸化状態のリン種、例えば亜リン酸塩(phosphite)もしくは次亜リン酸塩(hypophosphite)、又はヒドラジン、ヒドラジン誘導体、又はアスコルビン酸である。
【0019】
好適である温和な還元剤は、アルカリ金属亜硫酸塩又はアルカリ金属亜硫酸水素塩であり、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム又は亜硫酸水素カリウムである。
【0020】
好適である温和な還元剤は亜硫酸水素ナトリウムである。
【0021】
使用される温和な還元剤の量は、ハイドロキノンの量に対して0.01重量%〜10重量%であり、好適には0.1重量%〜5重量%、最適には0.5重量%〜2重量%である。
【0022】
当該方法は、不活性ガス、例えば窒素の使用による、酸素の非存在下で基本的に行われる。
【0023】
所望であれば当該方法は、出発原料のR-2-ハロプロパン酸をS-2-ハロプロパン酸に置き換えることによって、S-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の製造に適用することができる。
【0024】
R-2-(4-ヒドキシフェノキシ)プロパン酸は、いくつかの商業的な除草剤、例えばキザロホップ-P-エチル(quizalofop-P-ethyl)、ハロキシホップ-P-メチル(haloxyfop-P-methyl)、フルアジホップ-P-ブチル(fluazifop-P-methyl)、クロジナホップ(clodinafop)、シハロホップ-ブチル(cyhalofop-butyl)及びフェノキサプロップ-P-エチル(fenoxaprop-P-ethyl)の製造に使用される。
【0025】
従って、本発明の他の態様において、キザロホップ-P-エチル、ハロキシホップ-P-メチル、フルアジホップ-P-ブチル、クロジナホップ、シハロホップ-ブチル又はフェノキサプロップ-P-エチルの製造方法であって、以下のステップ:a)温和な還元剤の存在下における、ハイドロキノン又はその塩とS-2-ハロプロパン酸又はその塩との反応によって、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸を製造し、b)R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸と、適切なハロ-アリール又はハロ-ヘテロアリール部分を反応させて、R-2-((4-アリールオキシ又はヘテロアリールオキシ)フェノキシ)プロパン酸を製造し、及びc)ステップb)で製造された酸をエステル化して、キザロホップ-P-エチル、ハロキシホップ-P-メチル、フルアジホップ-P-ブチル、クロジナホップ、シハロホップ-ブチル又はフェノキサプロップ-P-エチルを製造すること、による前記製造方法が提供される。
【0026】
適切なハロ-アリール又はハロ-ヘテロアリール部分は、キザロホップ-P-エチルの製造においては2-ハロ-6-クロロ-キノキサリン;ハロキシホップ-P-メチルの製造においては2-ハロ-3-クロロ-5-トリフルオロメチルピリジン;フルアジホップ-P-ブチルの製造においては2-ハロ-5-トリフルオロメチルピリジン;クロジナホップの製造においては2-ハロ-5-クロロ-3-フルオロピリジン;シハロホップ-ブチルの製造においては4-ハロ-3-フルオロベンゾニトリル、及びフェノキサプロップ-P-エチルの製造においては2-ハロ-6-クロロ-ベンゾオキサゾールであり、ここでハロゲンはクロロ又はブロモである。
【0027】
R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸のステップb)の酸への変換、及びステップc)のエステルへの変換は、当業者に周知である(例えば、Advanced Organic Chemistry, Jerry March, John Wiley & Sons, 1992, p393)。
【0028】
本発明は、以下の実施例を参考として更に説明され得る。
【実施例】
【0029】
製造物の品質をHPLCで決定し、着色を以下の通り決定した。
約lOgmのR-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸をlOmlの水の中で懸濁させ、水酸化カリウム溶液でpH7に調整し、その後さらに水を加えて100mlとした。当該溶液の吸光度を、420nm及び650nmで測定し、それを吸光係数(extinction coefficient)として表した(ε、lモーラー溶液且つlcm 経路長の吸光度)。
【0030】
実施例1
亜硫酸水素ナトリウムの存在下における、ハイドロキノンを再利用しながらの、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸の製造
【0031】
ステップ1
ハイドロキノン(574g、5.22mol)を反応フラスコへ入れ、その後亜硫酸水素ナトリウム(5.74g)及び水(1014g)を加え、窒素雰囲気下とした。当該混合物を攪拌し、50℃へ加熱し、47%の水酸化ナトリウム溶液(799.5g、9.39mol)を加えた。当該溶液を65℃へ加熱し、S-2-クロロプロパン酸ナトリウム塩(544.4g、遊離酸として32.5%、1.63mol)の水溶液を加えた。当該反応混合物を65℃で4時間維持した。この期間の後、総反応重量は2937.6gであり、そのうち8.60%がR-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパンであり、252.54gの製造物に相当し、85%の収率であった。700gの水を加え、温度を45℃未満に調節した。リン酸(120g)を加えてpHを約11に調整し、その後98%の硫酸(250g)を加えてpHを6.5〜7.5へ減少させた。これらの添加の間、温度を55℃に制御した。その後、当該溶液を4回続けて638mlのメチルイソブチルケトン(MiBK)で抽出し、次のサイクルで使用するための、ハイドロキノンのMiBK溶液を得た。
【0032】
ステップ2
ハイドロキノンのMiBK抽出物をその後、水酸化ナトリウム(687g、47%溶液)、亜硫酸水素ナトリウム(4.02g)及び水(1013g)の溶液で、不活性雰囲気(窒素)を維持しながら抽出した。ハイドロキノンの水層抽出物を反応フラスコに入れ、その後、新鮮なハイドロキノン(172.2g)、47%の水酸化ナトリウムの溶液(111.9g)及び亜硫酸水素ナトリウム(1.72g)を、全て窒素環境下で加えた。当該溶液を65℃に加熱し、S-2-クロロプロパン酸ナトリウム塩(544.4g、遊離塩基として32.5%、1.63mol)の水溶液をこの温度で加えた。当該反応混合物を65℃で4時間維持した。700gの水を加え、温度を45℃未満に調整した。リン酸(120g)を加えてpHを約11に調整し、その後98%の硫酸(250g)を加えてpHを6.5〜7.5へ減少させた。これらの添加の間は温度を55℃に制御した。未反応のハイドロキノンを上記の通りMiBKで抽出することにより除去し、残留水層をその後、98%の硫酸を用いてpH2±0.2に調整し、250mlのMiBKで2回抽出し、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸を抽出した。2つの抽出物を合わせて、水酸化カリウム(155.5g、85%強度(strength)のもの)及び亜硫酸水素ナトリウム(2.15g)の水(280g)溶液で洗浄した。
【0033】
R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸カリウム塩の水溶液を32%塩酸でpH1に酸性化し、温度を20℃に調整した。その後スラリーをろ過し、そして固体製造物を水で洗浄した(260gで1回洗浄し、その後230gで2回洗浄した)。洗浄後、当該製造物を乾燥させ、計量及び分析を行った。
【0034】
重量188g
強度99.4%
二酸(Bis acid)0.3%
収率63%
着色の吸光度:650nmで0.023、420nmで0.197
【0035】
以下の表は、当該発明の工程によって得られた製造物の吸光度データ、及び亜硫酸水素ナトリウムを使用しない以外は同一の方法によって得られた製造物の吸光度データである。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
温和な還元剤の存在中における、ハイドロキノン又はその塩とS-2-ハロプロパン酸又はその塩との反応による、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記S-2-ハロプロパン酸がS-2-クロロプロパン酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
過剰な前記ハイドロキノンが再利用のために回収される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記温和な還元剤が、中性もしくは荷電した低酸化状態の硫黄種、低酸化状態のリン種、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、又はアスコルビン酸である請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記温和な還元剤が、二酸化硫黄、亜硫酸塩(sulphite)、亜硫酸水素塩(bisulphite)、亜ジチオン酸塩(hydrosulphite)、メタ亜硫酸水素塩(metabisulphite)、スルフェン酸、スルフィン酸、亜リン酸塩(phosphite)、次亜リン酸塩(hypophosphite)、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、又はアスコルビン酸である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記温和な還元剤がアルカリ金属亜硫酸塩又はアルカリ金属亜硫酸水素塩である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
キザロホップ-P-エチル、ハロキシホップ-P-メチル、フルアジホップ-P-ブチル、クロジナホップ、シハロホップ-ブチル又はフェノキサプロップ-P-エチルの製造方法であって、以下のステップ:a) 温和な還元剤の存在下における、ハイドロキノン又はその塩とS-2-ハロプロパン酸又はその塩との反応によって、R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸を製造し、b) 前記R-2-(4-ヒドロキシフェノキシ)プロパン酸と、適切なハロ-アリール又はハロ-ヘテロアリール部分を反応させて、R-2-((4-アリールオキシ又はヘテロアリールオキシ)フェノキシ)プロパン酸を製造し、及びc) ステップb)で製造された酸をエステル化して、キザロホップ-P-エチル、ハロキシホップ-P-メチル、フルアジホップ-P-ブチル、クロジナホップ、シハロホップ-ブチル又はフェノキサプロップ-P-エチルを製造すること、による前記製造方法。

【公開番号】特開2011−236244(P2011−236244A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−168718(P2011−168718)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2006−530547(P2006−530547)の分割
【原出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(500371307)シンジェンタ リミテッド (141)
【Fターム(参考)】