光学的内部情報計測装置
【課題】測定対象体の検出内部情報を取り出す際の深さ分解能を向上させることで計測精度を向上させ、且つ、光量効率を上げることができる内部情報計測装置を提供する。
【解決手段】光学的内部情報計測装置としての黄疸計は、測定ヘッドHdにおいて、被測定者の体表に平行に接触させる面を計測基準面FPに形成した計測窓WMの法線NLから傾斜した方向に、LED21,22から投光を行う。この光が体内の長光路LRおよび短光路SRを経由して体外へ出た複数の反射光を、受光素子PD1、PD2で個別に検出して、体内脂肪層PIのビリルビン濃度を算出する。斜め入射によって長光路LRと短光路SRとの深さ分布をシャープにすることが容易となり、深さ分解能が向上する。また、入射光の指向性を利用して光量効率を上げることができる。
【解決手段】光学的内部情報計測装置としての黄疸計は、測定ヘッドHdにおいて、被測定者の体表に平行に接触させる面を計測基準面FPに形成した計測窓WMの法線NLから傾斜した方向に、LED21,22から投光を行う。この光が体内の長光路LRおよび短光路SRを経由して体外へ出た複数の反射光を、受光素子PD1、PD2で個別に検出して、体内脂肪層PIのビリルビン濃度を算出する。斜め入射によって長光路LRと短光路SRとの深さ分布をシャープにすることが容易となり、深さ分解能が向上する。また、入射光の指向性を利用して光量効率を上げることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄疸計などに利用される光学的内部情報計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、測定対象となる対象体の表面から対象体内部に光を入射して対象体の内部情報を精度良く計測する技術の開発が進められている。とりわけ、生体内部情報を非侵襲計測する技術に関しては、高精度計測に対する要望が非常に高まっている。生体内部情報を得る方法として、生体内部で拡散伝搬した光が生体の散乱係数および吸収係数に依存することを利用して、光を生体内に入射して内部で散乱された光を検出し解析することで、散乱係数および吸収係数などを求め、これらの係数から生体内部の特定成分の濃度や絶対量などの値を算出する方法が一般的に用いられている。
【0003】
例えば、2光路測定方式の黄疸計では、生体に向けて光を照射し、生体内を異なる光路を通って出射した光を2カ所から検出し、その検出した光の特定波長の光量比から皮下脂肪内のビリルビン濃度を算出することが知られている。また、パルスオキシメータでは、生体に向けて赤色光と赤外光とを交互に発光し、生体内を通って出射した各光量比から酸素飽和度が算出される。
【0004】
特許文献1では、ランバードベールの法則を応用した計測原理を用い、皮下脂肪内のビリルビン濃度を非接触で計測できる経皮的ビリルビン濃度計測装置が提案されている。このような従来装置では、2光路測定方式を用いて生体内部の任意の位置範囲の内部情報を得るにあたって、皮膚面に対して垂直に投光している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−279398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許技術1の装置構造では、皮膚表面のメラニン色素の多い人の場合において十分な計測精度が得られているとは言えないため、さらに精度の高い内部情報を得たいという要望は高まっている。計測精度が悪い理由としては、真皮や表皮などの皮膚表面の情報を取り除いた血液中のビリルビンが存在する皮下組織部分のみの内部情報を取り出す必要があるが、十分な精度で皮下脂肪情報のみを取り出せていないことが言える。また、皮膚内部のような内部情報が不均一である場合、ある所定の深さの層の内部情報を的確に精度良く計測できる深さ分解能が必要とされるが、特許文献1の装置構造では発光部と光検出部の距離関係を高い精度で設計しなければならなく、設計誤差により深さ分解能が得られなかったり、得たい部分の内部情報が得られなかったりするため、十分な計測精度が得られなかったと言える。
【0007】
また、生体内部情報を計測する際は生体に害を与えない程度の低光量での計測が望まれるため、検出光量を効率的に確保することが重要である。しかしながら、従来、皮下組織部分の情報を得るために生体への光の入射光軸と受光素子の光軸は、生体に対して垂直に設定しており、皮下組織部分で軸が交差しないため、光量ロスが高い構造をしている。具体的には、散乱吸収体である皮膚の場合、平均自由行程は約2mm程度であり、光量は距離に対して指数関数的に減少する。そのため、皮膚に影響を与えない程度の光を入射しても、受光素子において充分な光量の出力を得るための精度向上が望まれるが、光量と精度との兼ね合いにおいて、現在の技術では満足できていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内部情報を取り出す際の深さ分解能を向上させることで計測精度を向上させ、且つ、光量効率を上げることができる光学的内部情報計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、測定対象となる対象体の表面から前記対象体内に光を入射させ、前記対象体の内部を通って出射した光を検出して前記対象体の内部情報の計測を行う光学的内部情報計測装置であって、前記対象体の表面に平行となる計測基準面の法線に対して所定の角度をもって斜めから前記対象体に向けて投光する投光手段と、前記計測基準面を介して前記対象体の内部の異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光するように設置され、前記それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段と、前記複数の信号を用いて前記対象体の内部情報を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段から照射される光束を絞る絞り手段をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記複数の信号を複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記投光手段からの距離が異なる複数の位置をそれぞれの受光端とする複数個の受光素子によって、時間順次に前記複数の信号をそれぞれ検出する順次光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に前記複数の信号を検出する順次的光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段、となっていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段が、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光経路切替手段が投光位置を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切り替え手段、を有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光経路切替手段が投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切り替え手段、を有することを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項1ないし請求項9の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記計測基準面は、前記光学的内部情報計測装置の測定ヘッドの端面に規定されるとともに、前記計測基準面には計測窓が形成されており、前記投光手段が前記測定ヘッドに形成された投光室内に配置された発光素子、を有するとともに、前記受光手段が前記測定ヘッドに形成された複数の受光室内にそれぞれ配置された複数の受光素子、を有しており、前記複数の受光室が、前記計測窓に沿って前記投光室から異なる距離に配置されていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、請求項10に記載の光学的内部情報計測装置において、前記計測窓は、前記投光室に形成された投光窓と、前記複数の受光室のそれぞれに形成された複数の単位受光窓と、を単一平面内に有しており、各単位受光窓は、当該単位窓から前記投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、請求項1ないし請求項11の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記発光手段は、複数の波長の光を発光し、前記受光手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて前記異なる経路を通って出射した光を受光し、前記パラメタ算出手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて得た前記複数の信号に基づいて、前記内部情報パラメタを算出することを特徴とする。
【0021】
また、請求項13の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段は、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする。
【0022】
また、請求項14の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段は、時分割で複数の波長の光を投光し、前記受光手段は、受光した光を時分割することにより、前記複数の波長の光を分離することを特徴とする。
【0023】
また、請求項15の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段は、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、前記受光手段は、受光した光を前記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする。
【0024】
また、請求項16の発明は、請求項1ないし請求項15の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記対象体は、検査対象となる生体であり、前記内部情報パラメタは、前記生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1ないし請求項16の発明によれば、計測基準面の法線に対して斜めに投光するように構成することによって、この計測基準面を対象体表面に平行にして計測を行うことによって対象体表面の法線に対して斜めに計測光が入射する。その結果、対象体内部を通って受光手段に至る異なる経路のそれぞれの深さ分布がシャープとなり、深さ分解能が向上する。深さ分解能を上げることができる。このため、対象体の所望の範囲における内部情報を精度よく求めることが可能となる。
【0026】
また、計測光を斜めから入射させることで、対象体表面に沿った方向(横方向)への光路長を基準としたときの、計測光の深さ方向への光路長の比(光路長の縦横比)が小さくなる。その結果、複数の受光端の位置のズレ量に対する深度誤差量が小さくなり、誤差耐性が高まる。
【0027】
また、計測光を斜めから入射させることによって、入射光軸を対象物内部の被計測領域に指向させることが容易となり、垂直に入射させる場合と比べて、光量の利用効率を高めることができる。
【0028】
請求項2の発明によれば、光束を絞ることで、指向性を高めることができるため、さらに光量効率を増加させることができる。
【0029】
請求項5の発明によれば、受光手段が、投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に複数の信号を検出するため、受光素子の数を減少できる。
【0030】
請求項7ないし請求項9の発明によれば、投光手段における投光経路切替手段が、投光位置あるいは投光方向を時間順次に切り替えて異なる経路を実現するため、発光素子の数を減少できる。
【0031】
請求項11の発明によれば、各単位受光窓が、投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されているため、検出光量の低下を防止しつつ深さ分解能を向上できる。
【0032】
請求項13の発明によれば、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することで、複数の波長の光を交互に発光することなく、複数の波長の光を同時に対象体に入射することが可能となるため、時間の短縮を図ることができる。
【0033】
請求項15の発明によれば、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、受光した光を当該複数の変調周波数でそれぞれ復調することで、複数の波長の光を交互に発光することなく、複数の波長の光を同時に対象体に入射することが可能となるため、時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】光検出領域に関して従来技術との比較を示す図である。
【図2】光検出領域に関して従来技術との比較を示す図である。
【図3】深さ分解能に関して従来技術との比較を示す図である。
【図4】深さ分解能に関して従来技術との比較を示す図である。
【図5】2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響について説明する図である。
【図6】2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響について説明する図である。
【図7】光量効率に関して従来技術との比較を示す図である。
【図8】光量効率に関して従来技術との比較を示す図である。
【図9】本発明に係る光学的内部情報計測装置を使用して構成した黄疸計の外観を示す図で、(a)は全体斜視図、(b)測定ヘッドの底面図であり、(c)はその縦断面図である。
【図10】本実施形態に係る黄疸計の測定ヘッドの模式図である。
【図11】本実施形態に係る黄疸計の電気的構成要素を示すブロック図である。
【図12】本実施形態に係る黄疸計の測定動作手順について示すフローチャートである。
【図13】投光手段と受光手段との様々な組み合わせを例示する図である。
【図14】複数の波長の光の投受光に関する変形例を示す図である。
【図15】複数の波長の光の投受光に関する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<1.実施形態の計測原理>
以下では本発明の光学的内部情報計測装置の実施形態として黄疸計を開示するが、その黄疸計の詳細な説明に入る前に、本実施形態の前提となる黄疸計の計測原理を従来の黄疸計の計測原理と比較しながら説明する。なお、ここで一例とする従来の黄疸計とは、特許文献1のビリルビン濃度計測装置における黄疸計であり、新生児の皮下組織に存在するビリルビンによる黄色味の度合いを、青色波長および緑色波長の2波長域の光学濃度差として捉える装置である。
【0036】
まず、本実施形態の黄疸計と従来の計測原理とで共通する点を説明する。
【0037】
一般的に吸光度から生体内部物質の濃度を求める際は、ランバートベールの法則(Lambert-Beer Law)を用いる。ある試料内に含まれる被測定物質の濃度を計測したい場合、物質が顕著に吸収する波長の光を試料に入射し、資料内で反射した光を検出してその光量を特定すれば、光が試料内を通った距離(厚さに相当)と光吸収率とに基づいて被測定物質の濃度を求めることができる。ランバードベールの法則式は、吸収率(吸光度)A、吸収係数α、厚さL及び被測定物質の濃度Cを用いると、下記式(1)のように表現される。
【0038】
A=αLC …(1)
上記式(1)より、吸光度Aは被測定物質のモル吸収係数αとモル濃度Cと物質厚さLとの積で決まることがわかる。
【0039】
そして、ビリルビンのモル吸収係数αと物質厚さLとを既知として、計測した吸光度Aからランバートベールの法則に従い、ビリルビン濃度Cを求める装置として黄疸計を構成可能である。
【0040】
ところで、皮下組織部分での光の吸収係数αを求めるためには、皮下組織部分への入射光量と皮下組織部分からの反射光量とを知る必要がある。そのためには、特定の皮下組織部分領域(被測定領域)を経由する第1光路での光吸収と、当該被測定領域を経由しない第2光路での光吸収との2つの基礎情報を使用し、それらの比に基づいて、被測定領域だけについての光の吸収係数αを求めることができる。これが2光路測定方式の基本的な考え方である。
【0041】
また、被測定物質であるビリルビンによって吸収されない波長の光を参照光として使用し、光路上のビリルビン以外の物質による光吸収の影響を除去するという規格化を行う。
【0042】
測定光として青色光を使用し、参照光として緑色光を使用した場合、2光路測定方式での黄疸計に用いられているランバートベールの法則を応用した濃度算出式は、下記式(2)および(3)のように表現される。
【0043】
εb(λb)×C×ΔL=Z …(2)
Z= log { Ε1(λg)/Ε1(λb) } − log { Ε2(λg)/Ε2(λb) } …(3)
ただし、
Εb(λb) …青色波長λbについての検出光の光量;
εb(λb) …青色波長λbについてのビリルビン吸光係数;
C …ビリルビン濃度;
ΔL…有効光路長差=L1−L2;
L1…第1光路(長光路)の有効光路長;
L2…第2光路(短光路)の有効光路長;
Ε1(λb) …第1光路における青色波長領域の光量測定データ;
Ε2(λb) …第2光路における青色波長領域の光量測定データ;
Ε1(λg) …第1光路における緑色波長領域の光量測定データ;
Ε2(λg) …第2光路における緑色波長領域の光量測定データ
である。
【0044】
式(3)を書き換えると下記の式(4A)〜(4D)となる。式(4A)は、ビリルビン以外の原因によって生じる緑色光の減衰率(Kg)に、ビリルビンによる光減衰率Fを乗算したものが、ビリルビンを含んだ総合的な青色光の減衰率(Kb)であるということ表現しており、式(4D)は式(2)を指数関数表現したものに相当する。
【0045】
Kb = Kg × F …(4A)
Kb = E1 (λb) / Ε2(λb) …(4B)
Kg = Ε1 (λg) / Ε2(λg) …(4C)
F = exp { −εb(λb)×C×ΔL} …(4D)
黄疸計で人体の額部や頬部などの顔面を測定する場合は、表皮は約0.2ミリ、真皮は約2.0ミリ、皮下組織は約2.0ミリであるため、ミリオーダーの深さ分解能精度が要求される。黄疸計は新生児黄疸の検査に多用されるが、新生児を検査対象とする場合は特に深さ分解能精度に対する要請が強い。
【0046】
続いて、本実施形態の黄疸計の原理のうち、従来の黄疸計の原理とは相違する点を下記に説明する。
【0047】
従来の黄疸計では光源からの光を皮膚表面に垂直に入射させるが、本実施形態の黄疸計では、光源からの光を皮膚表面に対して斜め方向に入射させるように構成する。具体的な装置構成は後述するが、このような斜め入射がこの実施形態の主たる特徴である。
【0048】
まず、皮膚表面からの光の入射角θを、皮膚表面の法線方向から計った角度として定義する。
【0049】
図1(a)は、従来の垂直入射(入射角θ=0)にした場合の光の入射範囲と検出光の取り出し範囲との関係(光路交差関係)を模式的に示す図であり、図1(b)は、本実施形態に係る斜め入射の場合(すなわち入射角θ>0)の場合の光路交差関係を示した図である。それぞれにおいて、皮膚表面T0上の位置Pinが光の投光位置であり、2つの位置P1,P2が光の検出位置である。また、境界面T1は、表皮領域と脂肪層領域との境界を示す。また、図1(a)の従来装置では、入射光軸Loinの両側に検出光軸Loso,Loloが位置しており、入射光軸だけでなく検出光軸もほぼ垂直であるタイプを示しているが、他の場合でも以下の原理は同様である。
【0050】
図1(a)の従来装置では、皮膚面に垂直な入射光軸Loinを中心とした錐状の領域が人体への光の入射範囲である。また、皮膚面に垂直とされた長光路の検出光軸Loloを中心とする錐状の領域が第1の受光素子による光検出可能範囲であり、皮膚面に垂直とされた短光路の検出光軸Losoを中心とする錐状の領域が第2の受光素子による光収集範囲である。それぞれの領域が錐状の領域となるのは、光源からの光入射および各受光素子による光検出の双方がそれぞれ持つ指向性によるものである。
【0051】
したがって、光源からの光のうち、光源から遠い第1の受光素子が位置P1で観測する光は、光入射錐と第1の光検出錐とが重なる領域Solで反射された光であり、光源に近い第2の受光素子が位置P2観測する光は、光入射錐と第2の光検出錐とが重なる領域Sosでの光反射である。なお、ここでは光の「反射」を「散乱」を含む用語として用いる。そして、光の反射量は光の吸収量と相補的関係にあるから、この装置は、間接的に2つの領域Sol,Sosでの光吸収のそれぞれを観測していることになる。
【0052】
一方、図1(b)で示されるように、本実施形態では、入射光軸Lninが皮膚面の法線方向(一般的には、測定対象体表面に垂直な方向)に対してゼロではない有限の角度θをなす斜め入射となっており、この入射光軸Lninを中心とした傾斜錐状の領域が人体への光の入射範囲である。また、この実施形態では、長光路および短光路のそれぞれの2つの検出光軸Lnlo,Lnsoもまた、皮膚面の法線方向に対してゼロではない有限の角度(−φ1),(−φ2)をなすように、入射光軸Lninとは逆方向にそれぞれ斜めに傾けている。なお、入射光軸を、皮膚面の法線方向に対して斜め入射に設定した場合、2つの検出光軸は、法線方向に対してゼロであっても、皮下組織部分で交軸を持つため、同様の効果が得られる。これらの角度は、φ1=φ2であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0053】
そして入射光軸Lninを中心とした傾斜錐状の領域が人体への光の入射範囲であり、検出光軸Lnlo,Lnsoのそれぞれを中心とした傾斜錐状の領域が、第1と第2の受光素子のそれぞれの光収集範囲である。これらの領域が錐状となるのは、光源からの光入射および各受光素子による光検出の双方に指向性を持たせていることに起因する。
【0054】
したがって、この実施形態の第1の受光素子で観測する光は、光入射錐と第1の光検出錐とが重なる領域Snlで反射された光であり、第2の受光素子で観測する光は、光入射錐と第2の光検出錐とが重なる領域Snsでの光反射である。これによって、この装置は、間接的に2つの領域Snl,Snsでの光吸収のそれぞれを観測していることになる。
【0055】
図1(a)と図1(b)とを比較する。図1(a)において、深さ分解能を向上させようとすれば、短光路の測定領域Sosの体積重心と、長光路の測定領域Solの体積重心との差を小さくする必要がある。ところが、そのためには2つの受光素子の間の横方向(皮膚面に平行な方向)の距離すなわち位置P1と位置P2との間隔を小さくする必要があるが、そうすると2つの領域Sol,Sosが重ならない部分、すなわちそれらの固有領域Rol,Ros(図2(a)参照)の体積重心の差が小さくなり、2つの受光素子の検出光量の違いが小さくなる。受光素子による光量検出にも誤差があるから、そのような微弱な検出光量の違いを正確にとらえることができなくなり、結果的に深さ分解能は向上しない。
【0056】
図1(b)の実施形態においても、深さ分解能を向上させるには、短光路の測定領域Snsの体積重心と、長光路の測定領域Snlの体積重心との差をある程度は小さくする。そのために2つの受光素子の間の横方向の距離も小さくなるが、従来装置とは異なり、実施形態の場合には、2つの領域Snl,Snsが重ならない部分、すなわちそれらの固有領域Rnl,Rns(図2(b)参照)の重心の差は図2(a)の従来装置ほどには小さくならない。それは、図2(a)では固有領域Rol,Rosのいずれもが類似形状の縦長領域(皮膚面に垂直な方向に長い領域)であるために、深さ方向におけるそれらの体積重心差が小さくなるのに対して、図2(b)では固有領域Rnl,Rnsの形状と位置とが相互にかなり異なっており、それぞれの深さ分布がシャープとなっていて、深さ方向におけるそれらの体積重心の差が出やすいためである。
【0057】
図2で示されるように、2つの受光素子の間の横方向の距離を小さくしたときの検出光量の差(|Rol-Ros|、|Rnl-Rns|)は、|Rol-Ros|<|Rnl-Rns|の関係が常に成り立つ。なぜなら、図2(b)では固有領域Rnl,Rnsの幾何学的形状が、図2(a)の固有領域Rol,Rosと比べてかなり異なるためである。したがって、検出光量の差が、図2(b)の|Rnl-Rns|の方が大きいために、誤差の影響が小さくなり、深さ分解能が向上する結果となる。
【0058】
入射光軸および検出光軸の交差深さの観点からこの違いを見たのが図3である。だたし、この図3での従来装置は、実施形態との比較を容易にするため、受光位置P1,P2が投光位置Pinの片側に配置されて検出光軸も傾斜しているタイプを例示している。この図3に示すように、垂直入射(θ=0)の場合の交差点Qol,Qosの深さの差Doと比較して、斜め入射の場合の交差点Qnl,Qnsの深さの差Dnは小さくなり、これは2つの受光素子間の横方向の距離が同一であっても、斜め入射の場合の方が、深さ分解能が高い(Dn<Do)ことを示している。
【0059】
図3のように各受光素子の位置P1、P2と投光位置Pinとを従来と同じにして光の入射軸だけを傾けると、計測している深さが従来とは異なってくるが、これについては、図4に示すように受光側の角度を調整する(具体的には受光軸の傾きを小さめにする)ことにより、短光路の交差点Qnsを表皮領域の中に位置させつつ、長光路の交差点Qnlを脂肪層の中に位置させることができるので、計測深さの問題は生じない。あるいは、受光素子P1の受光軸の傾きを図4の一点鎖線のように設定すれば、交差点Q’nlは、従来と深さがほぼ一致することになり、より良好な結果が得られる。
【0060】
また、実施形態の配置では、2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響も相対的に小さくなるが、その理由これについては図5を参照する。光の入射光軸Sinを対角線とし、2つの受光素子の位置P1,P2を2辺の位置とする矩形V0を考える。この矩形V0では、受光素子間の横距離rに対して、図5より、
tanθ = r /D …(5A)
すなわち、
D = r / tanθ …(5B)
の関係にある。ただし、深さ幅Dは、矩形の対角点の深さ方向の差である。
【0061】
式(5B)より、受光素子間の位置に誤差Δrが生じたときに、深さ幅Dに生じる誤差ΔDは、
ΔD = Δr / tanθ …(6)
となる。
【0062】
ただし、2つの受光素子のそれぞれの位置誤差はランダムであるから、それぞれの受光素子の位置誤差ΔPで考え、2つの受光素子の誤差方向が逆である場合をも考慮すれば、平均して、受光素子間の位置誤差Δrは、
Δr = 0.5 × ΔP …(7)
程度であるから
ΔD = 0.5 × ΔP / tanθ …(8)
と書くこともできる。簡単化のため、以下では式(6)を使用する。
【0063】
入射光軸の傾き角度θが大きいとき(図5)にはtanθの値も大きくなるから、その逆数(1/ tanθ)は小さな値となり、位置誤差Δrによる深さ幅の誤差ΔDへの影響は小さい。
【0064】
ところが、 入射光軸の傾き角度θが小さいとき(図6)には、tanθの値が小さくなるから、その逆数(1/ tanθ)は大きな値となり、位置誤差Δrによる深さ幅の誤差ΔDへの影響は大きくなる。なお、ここで考えた簡易モデルでは、角度θがほぼゼロであると(1/ tanθ)は無限大となるが、実際には他の種々の因子によって有限の値である。
【0065】
これは、計測光を斜めから入射させることで、対象体表面に沿った方向(横方向)への光路長を基準としたときの、計測光の深さ方向への光路長の比(光路長縦横比=ΔD/Δr)が小さくなり、その結果、複数の受光端の位置のズレ量に対する深度誤差量が小さくなることを示している。したがって従来装置と比較して実施形態の装置では、誤差耐性が高まる。
【0066】
また、実施形態の装置では、利用する光の光量ロスも小さくすることができる。図7に示すように、従来装置では入射光軸Loinが垂直であるため、入射光軸Loinを中心とする入射光錐と、検出光軸Loを中心とする検出光錐との交差部分に相当する被測定領域TGは、入射光軸Loinから離れた位置となる。これに対して実施形態のように入射光軸Loinを傾けると、入射光軸Loinを被測定領域TGに向けることができる。
【0067】
一般に、発光素子はその投光軸の方向に最大の発光強度を有し、それから角度的に離れるに従って発光強度は減少する。したがって、従来装置では、図8に光量効率E0として示すように、入射光錐の横断面の光量分布の非最大部分が使用されるが、実施形態では、図8に光量効率Enとして示すように、入射光錐の横断面の光量分布の最大部分を利用できる。
【0068】
このように、実施形態では、被測定領域TGに向けた指向性を持たせることで、光分布幅Wを狭くし、光量ロスを抑えることができる。
【0069】
以上のように、この発明の実施形態では、光を斜め入射させることによって深さ分解能と計測精度とを向上させることができる。また、入射光軸が被測定領域を通るように発光素子の指向性を設定することによって、光量効率を増加させることもできる。
【0070】
以下では、実施形態の装置の具体的構成と動作について説明する。
【0071】
<2.実施形態の具体的構成と動作>
<2−1.黄疸計の概要および構成>
図9(a)は、この発明の実施形態である黄疸計10の外観を示す全体斜視図である。また、図9(b)は、測定ヘッドHdの底面図であり、図9(c)はその縦断面図である。
【0072】
黄疸計10は、図9(a)に示すようにハンディタイプの黄疸計であって、測定者(医師など)の手の平に収まる大きさのケーシング11を有しており、このケーシング11内部に、後述する電気的構成要素(図11参照)が配置されている。また、ケーシング11の上面後端側には、測定結果、すなわち皮下脂肪に沈着するビリルビン濃度を可変表示する液晶ディスプレイからなる表示部12が設けられている。さらに、ケーシング11の側面後端側には電源スイッチ11aが配置され、図9(a)中には図示しないリセットスイッチ45(図11参照)が設けられている。
【0073】
また、ケーシング11の先端側には、直方体状の測定ヘッドHdが、矢印ARで示すようにケーシング11に対して出退自在に設けられている。この測定ヘッドHdは、ばね部材などの付勢手段(不図示)によりケーシング11に対して突出方向(矢印のAR側)に付勢されており、測定者が被測定者の人体の一部分、例えば頭部の額部分に押し付けて軽く押圧すると、上記付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHdがケーシング11内に押し込まれ、後述する第1波長領域光源(青色LED)21および第2波長領域光源(緑色LED)22(図9(c)参照)が発光するように構成されている。
【0074】
そして、測定ヘッドHdが押し込まれて青色LED21および緑色LED22(図9(c)および図10参照)が発光すると、青色LED21および緑色LED22からの青色光および緑色光が、図9(b)に示す測定ヘッドHdの投光窓W0から時間順次に射出され、測定対象となる被測定者の額部(測定の対象体)に入射するとともに、前述したように体内で散乱した光束が測定ヘッドHdの受光窓W1,W2を介して、ケーシング11内部に入射するようになっている。
【0075】
測定ヘッドHdの具体的な構造として、図9(b)及び図9(c)で示されるように、計測窓WMは、測定ヘッドHdの端面に相当する平坦面FPに規定されている。この実施形態における計測基準面は、この平坦面FPである。計測窓WMは、投光室R0からの光の出口となる投光窓W0と、2つの受光室R1,R2のそれぞれへの光の入口となる単位受光窓W1,W2とを単一平面内(計測基準面FP内)に有しており、各単位受光窓W1,W2は、当該単位窓W1,W2から投光窓W0に向かう方向を短軸とし、それに直交する方向を長軸とする長形に形成されている。具体的には、単位受光窓W1,W2は、楕円、長円、長方形などであってよい。これらの受光室R1,R2が、計測窓WMに沿って投光室R0から異なる距離に配置されている。
【0076】
受光窓W1,W2が、投光窓W0に向かう方向を短軸とする形状を持っているのは、投光窓W0に向かう方向の幅を小さくすることにより幾何学的な深さ分解能を向上させることができる一方で、それに直交する方向の幅を大きくすることにより、受光量の減少を抑制して信号のS/N比を高く維持できるためである。
【0077】
また、図9(c)に示されるように、測定ヘッドHdは、投光手段として、測定ヘッドHdに形成された投光室R0内に配置された複数の発光素子、すなわち、第1波長領域(青色波長領域)の第1の光を発生する第1光源としての青色LED21および第2波長領域(緑色波長領域)の第2の光を発生する第2光源としての緑色LED22を、複数の光源の並列配置として有している。測定ヘッドHdは、さらに、受光手段として、測定ヘッドHdに形成された2つの受光室R1,R2の略上端部にそれぞれ配置された複数の受光素子、すなわち、第1受光素子PD1(短光路用の光電変換素子)および第2受光素子PD2(長光路用の光電変換素子)を有している。
【0078】
黄疸計10では、測定ヘッドHdの計測窓WMを規定する計測基準面FPを、被測定者の皮膚面に略平行に接触させて使用する。このため、計測窓WMを規定する計測基準面FPの法線と、被測定者の皮膚面の法線とはほぼ一致する。以下、この法線を「基準法線」と呼ぶことにする。
【0079】
黄疸計10の使用中には計測窓Wが形成される計測基準面FPの法線と皮膚面の法線とは略一致するからそれらの区別にあまり意味はないが、使用中ではない黄疸計10を単独で見たときには発光方向と皮膚面との方向関係は特定できないから、黄疸計10自身の構成としては、計測窓Wを規定する計測基準面FPの法線が「基準法線」として定義される。一般に、この発明における「計測基準面」は、計測を行う際に対象体の表面に平行とされる面として定義されるが、計測基準面は物理的な面として形成されていてもよく、仮想的に想定される面であってもよい。
【0080】
また、青色LED21および緑色LED22の設置位置に対して投光窓W0の中心は横方向にずれている。そして、青色LED21および緑色LED22は、それらの発光光軸が基準法線から傾斜するように、投光室R0の天井面に傾けて取り付けてある。
【0081】
これにより、青色LED21および緑色LED22から投光窓W0を通って測定ヘッドHdから被測定者の体内に入る光の光軸は、基準法線NLから傾斜していることになる。つまり、投光光軸は、計測窓WMの法線NLから傾斜しているだけでなく、被測定者の皮膚面の法線からも傾斜している。この光軸は図1(b)などで説明した入射光軸Lninに対応することになり、入射角θがゼロでない有限の値(たとえばθ=5度以上の角度)となっている。当然ではあるが、θ<90度という条件も満たしている。
【0082】
また、測定ヘッドHdの、第1受光素子PD1および第2受光素子PD2のそれぞれ中心は、単位受光窓W1,W2の中心から横方向にずれている。これによって図1(b)で説明した2つの検出光軸Lnlo,Lnsoの光軸も、基準法線NLから有限の角度(−φ1),(−φ2)でそれぞれ傾斜している。これらによって、既述した好ましい光学配置が実現されている。
【0083】
また、投光手段は、LED21(第1波長領域光源)およびLED22(第2波長領域光源)から照射される光束を絞る絞り手段として、投光窓W0と、この投光窓W0に配置された集光光学素子としてのフレネルレンズLCとを備えている。被験者の体内での照射光束を略平行光とする場合には、フレネルレンズLCはコリメータとしても機能させることもできる。
【0084】
また、図9では図示を省略しているが、単位受光窓W1,W2には、防塵用の平板透明ガラスで覆われていることが好ましい。受光素子PD1,PD2についても集光を行いたい場合には、単位受光窓W1,W2を覆う平面ガラスのかわりにフレネルレンズを設けてもよい。
【0085】
図10は、測定ヘッドHdの光学的配置を模式的に示しており、この図10では測定ヘッドHdの投光室R0や受光室R1,R2は省略されている。また、フレネルレンズLCは各LED21,22のそれぞれに付設された個別のレンズとして概念的に描かれている。図9で見たように、投光室R0の投光窓W0の中心が各LED21,22から横方向にずれた位置とされ、さらにフレネルレンズLCが設けられている。各LED21,22からの発光光軸がそれぞれ基準法線NLから傾いている。
【0086】
後述するように各LED21,22は時間順次に発光するが、任意の一方のLEDからの発光期間に着目すると、当該LEDから斜め方向に照射された光のうち第1受光素子PD1によって検出される光は、短光路SRを通った光であって、被測定者の額の表面部位PSすなわち皮膚領域を検出領域DSとしている。
【0087】
以上をまとめると、この黄疸計10は、測定対象となる対象体(被測定者)の表面(皮膚表面)から対象体内に光を入射させ、対象体の内部の異なる経路を通って出射した複数の信号を検出して対象体の内部情報(ビリルビン濃度)の計測を行う光学的内部情報計測装置として構成されている。
【0088】
そして、この光学的内部情報計測装置(黄疸計10)は、計測を行う際に対象体(被測定者)の表面(皮膚面)に平行となる計測基準面(計測窓WMが形成された平坦面FP)の法線に対して所定の角度θをもって斜めから対象体に向けて投光する投光手段(LED21、22と投光室R0との組み合わせ)と、計測基準面(平坦面FP)を介して対象体内部からの異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光し、それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段(第1受光素子PD1,PD2と受光室R1,R2との組み合わせ)とを備える。
【0089】
また、発光手段は、複数の波長の光(青色光,緑色光)を発光し、受光手段は、当該複数の波長の光のそれぞれについて異なる経路を通って出射した光をそれぞれ受光するようになっている。
【0090】
そして、この実施形態では、第1受光素子PD1,PD2や受光室R1,R2の水平方向の位置は変化しないため、投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段となっており、受光手段においては、投光手段からの距離が異なる2つの位置をそれぞれの受光端(単位受光窓W1,W2)とする2つの受光素子(LED21、22)で時間順次に(すなわち後述するように時系列的に)検出する順次光検出手段を備えるものとなっている。
【0091】
<2−2.黄疸計の電気的構成要素>
図11は、本実施形態に係る黄疸計10の電気的構成要素を示すブロック図である。黄疸計10は、CPUなどからなる制御部40と、青色LED21および緑色LED22を駆動する光源駆動部41と、上述したように付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHd(図9参照)がケーシング11内に押し込まれると自動的にオンにされる測定スイッチ42とを備えている。この黄疸計10はまた、A/D変換器541,542と、測定結果をクリアして次回の測定を実行できる状態に戻すためのリセットスイッチ45と、制御部40の制御プログラムや予め設定された固定データなどを記憶するROM46と電気信号データなどを一時的に保管するRAM47とを備えている。このRAM(記憶手段)47は、内蔵電源(不図示)によって、そのメモリ内容が消去されないようになっている。また、記憶手段として、バックアップ電源を有するRAM47に代えて、EEPROMなどの書き換え可能な不揮発性メモリを備えるようにしてもよい。
【0092】
制御部40は、発光制御手段としての機能を有し、光源駆動部41と電気的に接続されており、上述したように、付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHd(図9参照)がケーシング11内に所定位置まで押し込まれると、測定スイッチ42が自動的にオンにされ、それに応じて制御部40から光源駆動部41に発光指示信号が送出され、光源駆動部41が青色LED21および緑色LED22を時間順次に発光させる。
【0093】
本実施形態においては、投光手段である青色LED21および緑色LED22が時間順次に発光してそれぞれの波長での光測定が時間順次に行われる。このため、この実施形態は、異なる複数の波長の発光と、それに基づく測定とが時分割方式で行われることになる。
【0094】
短光路SR(図10参照)を通った光束を受光する第1受光素子PD1は、A/D変換器541を介して制御部40と電気的に接続されており、第1受光素子PD1からは、受光光量I1 (λb),I1 (λg)を表現する信号レベルを持った電気信号S1 (λb),S1 (λg)が制御部40に出力される。また、長光路LR(図10参照)を通った光束を受光する第2受光素子PD2は、A/D変換器542を介して制御部40と電気的に接続されており、第2受光素子PD2からの受光光量I2 (λb),I2 (λg) を表現する信号レベルを持った電気信号S2 (λb),S2 (λg)が制御部40に出力される。
【0095】
ここで、本実施形態においては、受光手段の第1受光素子PD1および第2受光素子PD2は、投光手段の時分割発光に対応して、受光した光を時分割することにより、それぞれの波長の光の成分を分離する。
【0096】
そして、制御部40は、複数の信号S1 (λb),S1 (λg), S2 (λb),S2 (λg)を用いて被験者の内部情報パラメタとしてのビリルビン濃度を算出するパラメタ算出手段としての機能を有し、その算出結果(演算結果)を表示部12に表示する。表示内容はビリルビン濃度の数値とともに、またはそれに代えて、ビリルビン濃度が正常(健常)範囲にあるかどうかを示す診断補助情報を含んでいてもよい。このようなビリルビン濃度の情報は、生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタの例となっている。
【0097】
<2−3.黄疸計の基本動作>
以下では、黄疸計10の測定動作について図12のフローチャートを参照しながら説明する。それらの動作は、測定者によるスイッチ操作を除き、制御部40に記憶された制御プログラムに従って、制御部40内部または制御部40の制御下で実行される。
【0098】
ステップS1では、測定者によりケーシング11の側面手前側に設けられた電源スイッチ11aがオフ状態からオン状態に切り換えられる(図9(a)参照)。
【0099】
ステップS2では、リセットスイッチ45が押されて測定可能な状態にされ、黄疸計10の測定ヘッドHdが被測定者の一部、例えば額部分に押し当てられる。そして、測定ヘッドHdが付勢手段の付勢力に逆らいながらケーシング11内に後退するように押し込まれる(図9(a)及び図11参照)。
【0100】
ステップS3では、所定量だけ押し込まれて測定スイッチ42がオンになり制御部40に伝達されると、測定が開始される(図11参照)。
【0101】
ステップS4では、まず、制御部40からの指令で光電駆動部41は、青色LED(第1波長領域光源)21を発光させ投光窓W0からその光を放出させる。これによって青色波長領域の光束が被測定者の体内に照射され、被測定者の皮膚内部で散乱した散乱光が、受光窓W1から入射するとともに、受光窓W2から入射する(図9及び図11参照)。
【0102】
ステップS5では、受光窓W1からの入射光が、第1受光素子PD1によって受光され、A/D変換器541を介して受光光量を表現する電気信号S1 (λb)が制御部40に出力され、受光窓W2からの入射光は、第2受光素子PD2によって受光され、A/D変換器542を介して受光光量を表現する電気信号S2 (λb)が制御部40に出力されて、それぞれRAM47に格納される(図9及び図11参照)。青色LED21は、この測定が完了すると消灯される。
【0103】
ステップS6では、制御部40からの指令で光電駆動部41は、緑色LED(第2波長領域光源)22を発光させ、緑色波長領域の光束が被測定者の皮膚に照射され、被測定者の皮膚内部で散乱した散乱光が、受光窓W1から入射するとともに、受光窓W2から入射する(図9及び図11参照)。
【0104】
ステップS7では、受光窓W1からの入射光は、第1受光素子PD1によって受光され、A/D変換器541を介して受光光量を表現する電気信号S1 (λg)が制御部40に出力され、受光窓W2からの入射光は、第2受光素子PD2によって受光され、A/D変換器542を介して受光光量を表現する電気信号S2 (λg)が制御部40に出力されて、それぞれRAM47に格納される(図9及び図11参照)。緑色LED22は、この測定が完了すると消灯される。
【0105】
ステップS8では、各LED21,22の発光動作の回数nが予め設定された回数Nだけ行われたか否かが判定され、まだ設定回数Nだけ行われていなければ(n<N:ステップS8のNo)、ステップS4に戻って、ステップS4からステップS7のループが繰り返される。この繰返しは、複数回の測定結果の統計処理(たとえば平均化処理)によって、より正確な測定結果を得るためのものである。
【0106】
一方、各LED21,22の発光動作の回数nが予め設定された回数Nだけ行われていれば(n=N:ステップS8のYes)、その設定回数Nのデータの平均値を用いて上述した計測原理にしたがってビリルビン濃度算出の演算が行われ(ステップS9)、測定結果が表示部12に表示される(ステップS10)。
【0107】
以上の黄疸計10を用いた計測では、既述した理由によって、深さ方向の測定分解能が向上するため、ビリルビン濃度の測定(したがって黄疸の診断)を正確に行うことができる。また、測定精度が高いことから、光源からの発光量を過剰に増大させる必要がない。
【0108】
さらに、黄疸計10を用いて経時観察を行った場合にも、被測定者のビリルビン濃度の時間変化を、従来装置を用いるよりも精度良く黄疸の状況を検出することができる。このため、経過観察をより正確に行うことも可能となる。
【0109】
<3.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な変形が可能である。以下の変形例では逐一説明しないが、各変形例とも、既述した実施形態と同様に計測基準面が規定されるとともに、計測のための光の斜め入射は、当該計測基準面の法線から傾いている入射とされている。
【0110】
<3−1. 投光手段および受光手段に関する変形例>
本発明の実施形態では、投光手段の位置が固定であり、受光手段においては時間順次に複数の波長の光を検出する場合を説明してきたが、これに限られず、後記の各組合せのタイプが可能である。ここで、それらの具体的構成例を述べる前に以下のタイプ名を定義する。ただし、上記の実施形態のように複数の波長の光(青色光と緑色光など)を用いる場合については、それぞれの波長の光についてどのような投光タイプや受光タイプを使い分けることができるが、ひとつの装置では複数の波長の光について同じ投受光タイプとすることが好ましい。
【0111】
まず、投光手段は下記の投光タイプに分類される。
(1)投光タイプA(固定):
既述した実施形態と同様に、投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段を備える。
【0112】
(2)投光タイプB(位置可変):
LED21,22を横方向に移動可能に構成し、それらを移動させるための駆動素子または駆動機構を設けておく。そして、長光路と短光路とを同時に(並列的に)実現するのではなく、LED21,22の横方向の移動によって、それらを時間順次に実現させる。
【0113】
すなわち、この場合の投光手段は、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段を備え、当該投光経路切替手段が、「投光位置」を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切替手段を有することになる。
【0114】
(3)投光タイプC(方向可変):
投光タイプCでは、LED21,22を横方向に移動するのではなく、それらからの「投光方向」を時間順次に変化させるように構成する。すなわち、この場合の投光手段は、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段を備える。そして、当該投光経路切替手段が、投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切替手段を有する。
【0115】
(4)投光タイプD(位置方向可変):
この投光タイプDでは、LED21,22を横方向に移動させるとともに、投光方向も変化させるように構成する。このタイプDは、タイプBおよびタイプCの組み合わせであるとも言える。
【0116】
次に、受光手段は下記の受光タイプに分類される。
【0117】
(1)受光タイプE(固定):
上記の実施形態と同様に、青色LED21からの青色光、および緑色LED22からの緑色光のそれぞれを、受光素子PD1,PD2で並列的に検出する。すなわち、この場合の受光手段は、複数の信号のそれぞれを複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段を備える。
【0118】
(2)受光タイプF(可変):
受光素子またはそれに光を導く受光ガイドを可動とすることによって、少数の受光素子で異なる経路についての受光を直列的に行う。すなわちこの場合の光検出手段は、受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に複数の信号を検出する順次的光検出手段を備える。
【0119】
以上の定義に基づいて、投光手段と受光手段との実際的な組み合わせとして下記7つのタイプが存在する。
【0120】
(1)第1タイプ: 投光A(固定) + 受光E(固定)
(2)第2タイプ: 投光A(固定) + 受光F(可変)
(3)第3タイプ: 投光B(位置変化) + 受光E(固定)
(4)第4タイプ: 投光C(方向変化) + 受光E(固定)
(5)第5タイプ: 投光D(位置・方向変化)+ 受光E(固定)
(6)第6タイプ: 投光B(位置変化) + 受光F(可変)
(7)第7タイプ: 投光C(方向変化) + 受光F(可変)
図13は、これらの各タイプに対応した種々の配置を示しており、図示されている順次で説明すると以下のようになっている。
【0121】
〔 図13(a)の配置 〕
・配置例(a1):
この配置は、既述した実施形態に近い要素配置であり、上記の第1タイプに属する。ただし、第1受光素子PD1と第2受光素子PD2との受光光軸は、基準法線とほぼ平行となっている。これは、図9の単位受光窓W1,W2のそれぞれの中心位置が、受光素子PD1,PD2に対向する位置になるよう配置することで実現される配置である。
【0122】
受光素子PD1,PD2の半導体受光素子はそれ自身が指向性を有していないため、受光用レンズ(不図示)や開口絞りを設けて、指向性を持たせることで、受光素子PD1,PD2の受光範囲の重なりは小さくなり、深さ分解能は向上する。
【0123】
〔 図13(b)の配置 〕
・配置例(b1):
この配置では、受光手段に1つの受光素子PD1(またはPD2)だけを設けてその受光端の位置は固定とする。これに対して投光手段を構成するLEDは、LED21、22及びLED21’、22’のそれぞれ2つずつ設けられ、水平方向に異なる位置にLED21,22(またはLED21’、22’)の1対ずつが固定されている。この配置は第1タイプに属する。
【0124】
・配置例(b2):
一方、LED21、22(またはLED21’、22’)を一対だけ設け、水平方向に伸びたガイドに沿って小型モータや圧電アクチュエータでその一対のLED21、22(またはLED21’、22’)を水平移動させることにより、時間順次に短光路および長い光路を実現できる。この場合の配置は、第3タイプに属する。
【0125】
〔 図13(c)の配置 〕
・配置例(c1):
この配置は、受光側の配置は図13(b)と同様であるが、投光方向と投光位置とを可変としており、第5タイプに属する。LED21、22及びLED21’、22’の対は、揺動可能に枢支されて小型モータや圧電アクチュエータで駆動されることによりその投光方向を変化させるとともに、同様の駆動手段によりLED21、22及びLED21’、22’の対を水平方向にも並進移動させる機構を設けて投光位置も変化させる。LED21、22及びLED21’、22’の対の水平移動方向と傾斜変化方向とは、LED21、22及びLED21’、22’のそれぞれの光軸の傾斜角が大きくになるときに、LED21、22及びLED21’、22’と受光素子PD1(PD2)との水平間隔を広げる方向への水平移動を行うように定める。それにより、水平移動と傾斜角度変化とのそれぞれが小さくても、検出深度の所望の変化を確保できる。したがって、測定ヘッドHdをコンパクトに構成できる。
【0126】
また、この場合には、図10と同様にLED21、22(またはLED21’、22’)のそれぞれにレンズを取り付けることにより、LED21、22(またはLED21’、22’)からの投光方向が変化しても、レンズによる集光機能がLED21、22(またはLED21’、22’)の方向変化によって変動しないようにすることが好ましい。
【0127】
〔 図13(d)の配置 〕
・配置例(d1):
この配置では、投光側の配置は図13(c)と同様に投光方向可変の配置とし、受光側では2つの受光素子PD1,PD2を共通のひとつの受光室(ボックス)BXの天井面に、水平方向に相互に離間して取り付けてある。したがってこの配置は、第4タイプに属する。受光素子PD1(またはPD2)からの投光方向が基準法線方向から大きく傾いたときに、皮膚領域に相当する浅い検出領域DSを経由した光は、受光室BXの下面の単一窓を通して受光素子PD1によって検出される。
【0128】
これに対して、受光素子PD1(またはPD2)からの投光方向の傾きが小さいときに、皮下脂肪層に相当する深い光検出領域DPを経由した光は、受光室BXの下面の単一窓を通して受光素子PD2によって検出される。
【0129】
指向性をより高めるためには、上記単一窓にフレネルレンズなどの集光光学手段を設けることが好ましい。
【0130】
〔 図13(e)の配置 〕
・配置例(e1):
この配置では、LED21,22を、それらの発光方向が水平方向となるように固定的に取り付けてレンズを配置する。水平方向に移動する反射板を設け、当該反射板を第1の反射板位置RF1および第2の反射板位置RF2との間で水平方向に移動させる。このような異なる反射板位置RF1,RF2に反射板があるときにLED21,22からの光をそれぞれ反射板で反射させることで、短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができる。この反射板は、LED21,22からの光の光軸を水平方向に移動させる光軸水平変換手段として機能する。
【0131】
受光手段においては、固定された単一の受光素子PD1(またはPD2)を用いて、時間順次に受光を行うことができる。すなわち、第1期間では短光路SRの光を、第2期間では長光路LRの光を単一の受光素子で検出する。異なる波長の複数の信号を用いるときには各波長に関してひとつずつの受光素子を割り当てて、図の紙面を貫く方向に隣接配置することによって波長ごとの検出が可能である。この場合の配置は第3タイプとなる。
【0132】
・配置例(e2):
反射板の移動と同期して、受光素子PD1(PD2)を水平移動させる機構を設ければ、異なる水平位置で短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができるため、それらを平均化することによって測定精度を高めることもできる。ただし、反射板の移動速度および受光素子PD1(PD2)の移動速度は、相互に異なるようにする。この様な態様にすることで、短光路SRの検出領域DSの深さおよび長光路LRの検出領域DPの深さを変更して測定が可能となる。この場合の配置は第6タイプとなる。
【0133】
・配置例(e3):
LED21、22と反射板とは固定しておき、受光素子PD1(PD2)を水平移動させる機構を設けることもできる。この場合の配置は第2タイプとなる。
【0134】
〔 図13(f)の配置 〕
・配置例(f1):
この配置では投光方向を可変とする。すなわちLED21,22との下にシャッターSTを設け、このシャッターSTを駆動手段によって矢印OCのように移動させて選択的に開閉させることにより、投光角度を時間順次に変化させることができる。
【0135】
受光手段においては、固定された単一の受光素子PD1(またはPD2)を用いて、時間順次に受光を行うことができる。この場合の配置は第4タイプとなる。
【0136】
・配置例(f2):
シャッターSTの開閉と同期して、受光素子PD1(PD2)を矢印mvの方向に水平移動させる機構を設ければ、異なる水平位置で短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができるため、それらを平均化することによって測定精度を高めることもできる。この場合の配置は第7タイプとなる。
【0137】
<3−2. 複数の波長の光の投受光に関する変形例>
本発明の実施形態における投光手段および受光手段では、複数の波長の光の投受光を並列的あるいは時分割で行ったが、これに限られず、例えば、下記のような方法で複数の波長の光の成分を分離する装置であってもよい。
【0138】
第1の方法としては、受光手段が、受光した光の波長フィルタリングを行うことで複数の波長の光の成分を分離することが可能である。すなわち、長光路および短光路のうちの一方のみを示した図14に示すように異なる波長領域を持つ光源を複数種類用いる代わりに、図14に示すように、波長領域の広い光源から対象体の斜め方向に光を入射させ、検出した光を、導光素子(光ファイバやミラーなど)を用いて、異なる波長領域のみを透過させる複数のフィルタ(一般には波長選択手段)に与える。そしてそれらのフィルタで相互分離された複数の波長の検出光を受光素子で検出してもよい。ダイクロイックミラーなども利用可能である。長光路および短光路のうちの他方も同様に構成できる。
【0139】
第2の方法としては、投光手段では、図15に示すように、複数の異なる変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ振幅変調してそれらを合成部で合成し、合成した光を導光素子から投光する。受光手段では、受光した光を導光素子から複数の復調器に導き、上記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、当該複数の波長の光の成分を分離することが可能である。すなわち、各々の波長光に対して空間周波数変調法を用いて所定の周波数成分を持たせて同時に入射させ、それらを復調して複数種類の波長成分の検出をしてもよい。長光路および短光路のうちの他方も同様である。
【0140】
これらの方法を採用することで、異なる波長領域光源に対して順次に計測を行うことなく、異なる複数の波長をもつ光を同時に対象体内に入射させることが可能となり、測定時間の短縮に繋がる。具体的に本実施形態の例では、第1波長領域光源21を発光した後、第2波長領域光源22を発光する(図12のステップS4からステップS7)というように、時分割して各々の波長領域光源を順次に発光する必要があったが、上記第1の方法の採用した装置では、単一の広波長幅光源の発光だけですみ、また上記第2の方法を採用した装置では、第1および第2波長領域光源21,22を同時発光することができる。このたため、ステップS4からステップS7の1回のループに掛かる時間も半分で済み、ステップS8の設定回数Nに達するまでの繰返しの要する時間も半分に短縮されることになる。
【0141】
<3−3. その他の変形例>
※ 本発明の実施形態では、入射角θを少なくとも5度より大きな値として採用したが、入射角θは1度≦θ≦45度の範囲であることが好ましく、特に、5度≦θ≦30度の範囲が好ましい。
【0142】
※ 本発明の実施形態では、光源から照射される光束を絞る絞り手段として、投光窓と集光光学素子との組み合わせを用いたが、光源が充分な指向性を持っている場合は光束を絞る手段がなくてもよい。
【0143】
※ 本発明の実施形態では、ビリルビン濃度計測に活用される黄疸計について説明してきたが、光源の波長範囲、受光素子(光センサ)の間隔、及び、演算方法を変化させることで、内部計測範囲や計測物質を変えて、さまざまな生体の内部情報を計測することが可能である。たとえば、赤色光と赤外光とを使用した反射型のパルスオキシメータにもこの発明は適用可能である。
【0144】
医学検査機器に適用する場合には、内部情報パラメタは、上記のビリルビン濃度や酸素飽和濃度など、生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタに相当する。
【0145】
さらに、計測の対象体は生体に限られず、例えば、容器中の食料品の含有成分を光学的に検知するなどの幅広い分野での内部情報計測に活用できる。
【0146】
※ 実施形態では短光路および長光路の2光路を用いているが、3つ以上の光路を設定し、それら3つ以上の光路の光を検知することによって、複数の深さでの検査値を得ることも可能である。
【0147】
使用する波長についても、3波長以上であってもよく、参照波長を必要としない用途では1波長だけであってもよい。
【符号の説明】
【0148】
10 黄疸計
21 青色LED(第1波長領域光源)
22 緑色LED(第2波長領域光源)
40 制御部
FP 計測基準面
NL 基準法線
PD1 第1受光素子
PD2 第2受光素子
WM 計測窓
W0 投光窓
W1,W2 単位受光窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄疸計などに利用される光学的内部情報計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、測定対象となる対象体の表面から対象体内部に光を入射して対象体の内部情報を精度良く計測する技術の開発が進められている。とりわけ、生体内部情報を非侵襲計測する技術に関しては、高精度計測に対する要望が非常に高まっている。生体内部情報を得る方法として、生体内部で拡散伝搬した光が生体の散乱係数および吸収係数に依存することを利用して、光を生体内に入射して内部で散乱された光を検出し解析することで、散乱係数および吸収係数などを求め、これらの係数から生体内部の特定成分の濃度や絶対量などの値を算出する方法が一般的に用いられている。
【0003】
例えば、2光路測定方式の黄疸計では、生体に向けて光を照射し、生体内を異なる光路を通って出射した光を2カ所から検出し、その検出した光の特定波長の光量比から皮下脂肪内のビリルビン濃度を算出することが知られている。また、パルスオキシメータでは、生体に向けて赤色光と赤外光とを交互に発光し、生体内を通って出射した各光量比から酸素飽和度が算出される。
【0004】
特許文献1では、ランバードベールの法則を応用した計測原理を用い、皮下脂肪内のビリルビン濃度を非接触で計測できる経皮的ビリルビン濃度計測装置が提案されている。このような従来装置では、2光路測定方式を用いて生体内部の任意の位置範囲の内部情報を得るにあたって、皮膚面に対して垂直に投光している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−279398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許技術1の装置構造では、皮膚表面のメラニン色素の多い人の場合において十分な計測精度が得られているとは言えないため、さらに精度の高い内部情報を得たいという要望は高まっている。計測精度が悪い理由としては、真皮や表皮などの皮膚表面の情報を取り除いた血液中のビリルビンが存在する皮下組織部分のみの内部情報を取り出す必要があるが、十分な精度で皮下脂肪情報のみを取り出せていないことが言える。また、皮膚内部のような内部情報が不均一である場合、ある所定の深さの層の内部情報を的確に精度良く計測できる深さ分解能が必要とされるが、特許文献1の装置構造では発光部と光検出部の距離関係を高い精度で設計しなければならなく、設計誤差により深さ分解能が得られなかったり、得たい部分の内部情報が得られなかったりするため、十分な計測精度が得られなかったと言える。
【0007】
また、生体内部情報を計測する際は生体に害を与えない程度の低光量での計測が望まれるため、検出光量を効率的に確保することが重要である。しかしながら、従来、皮下組織部分の情報を得るために生体への光の入射光軸と受光素子の光軸は、生体に対して垂直に設定しており、皮下組織部分で軸が交差しないため、光量ロスが高い構造をしている。具体的には、散乱吸収体である皮膚の場合、平均自由行程は約2mm程度であり、光量は距離に対して指数関数的に減少する。そのため、皮膚に影響を与えない程度の光を入射しても、受光素子において充分な光量の出力を得るための精度向上が望まれるが、光量と精度との兼ね合いにおいて、現在の技術では満足できていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内部情報を取り出す際の深さ分解能を向上させることで計測精度を向上させ、且つ、光量効率を上げることができる光学的内部情報計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、測定対象となる対象体の表面から前記対象体内に光を入射させ、前記対象体の内部を通って出射した光を検出して前記対象体の内部情報の計測を行う光学的内部情報計測装置であって、前記対象体の表面に平行となる計測基準面の法線に対して所定の角度をもって斜めから前記対象体に向けて投光する投光手段と、前記計測基準面を介して前記対象体の内部の異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光するように設置され、前記それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段と、前記複数の信号を用いて前記対象体の内部情報を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段から照射される光束を絞る絞り手段をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記複数の信号を複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記投光手段からの距離が異なる複数の位置をそれぞれの受光端とする複数個の受光素子によって、時間順次に前記複数の信号をそれぞれ検出する順次光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段が、前記投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に前記複数の信号を検出する順次的光検出手段、を備え、前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段、となっていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段が、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光経路切替手段が投光位置を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切り替え手段、を有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光経路切替手段が投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切り替え手段、を有することを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項1ないし請求項9の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記計測基準面は、前記光学的内部情報計測装置の測定ヘッドの端面に規定されるとともに、前記計測基準面には計測窓が形成されており、前記投光手段が前記測定ヘッドに形成された投光室内に配置された発光素子、を有するとともに、前記受光手段が前記測定ヘッドに形成された複数の受光室内にそれぞれ配置された複数の受光素子、を有しており、前記複数の受光室が、前記計測窓に沿って前記投光室から異なる距離に配置されていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、請求項10に記載の光学的内部情報計測装置において、前記計測窓は、前記投光室に形成された投光窓と、前記複数の受光室のそれぞれに形成された複数の単位受光窓と、を単一平面内に有しており、各単位受光窓は、当該単位窓から前記投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、請求項1ないし請求項11の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記発光手段は、複数の波長の光を発光し、前記受光手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて前記異なる経路を通って出射した光を受光し、前記パラメタ算出手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて得た前記複数の信号に基づいて、前記内部情報パラメタを算出することを特徴とする。
【0021】
また、請求項13の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記受光手段は、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする。
【0022】
また、請求項14の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段は、時分割で複数の波長の光を投光し、前記受光手段は、受光した光を時分割することにより、前記複数の波長の光を分離することを特徴とする。
【0023】
また、請求項15の発明は、請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、前記投光手段は、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、前記受光手段は、受光した光を前記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする。
【0024】
また、請求項16の発明は、請求項1ないし請求項15の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、前記対象体は、検査対象となる生体であり、前記内部情報パラメタは、前記生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1ないし請求項16の発明によれば、計測基準面の法線に対して斜めに投光するように構成することによって、この計測基準面を対象体表面に平行にして計測を行うことによって対象体表面の法線に対して斜めに計測光が入射する。その結果、対象体内部を通って受光手段に至る異なる経路のそれぞれの深さ分布がシャープとなり、深さ分解能が向上する。深さ分解能を上げることができる。このため、対象体の所望の範囲における内部情報を精度よく求めることが可能となる。
【0026】
また、計測光を斜めから入射させることで、対象体表面に沿った方向(横方向)への光路長を基準としたときの、計測光の深さ方向への光路長の比(光路長の縦横比)が小さくなる。その結果、複数の受光端の位置のズレ量に対する深度誤差量が小さくなり、誤差耐性が高まる。
【0027】
また、計測光を斜めから入射させることによって、入射光軸を対象物内部の被計測領域に指向させることが容易となり、垂直に入射させる場合と比べて、光量の利用効率を高めることができる。
【0028】
請求項2の発明によれば、光束を絞ることで、指向性を高めることができるため、さらに光量効率を増加させることができる。
【0029】
請求項5の発明によれば、受光手段が、投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に複数の信号を検出するため、受光素子の数を減少できる。
【0030】
請求項7ないし請求項9の発明によれば、投光手段における投光経路切替手段が、投光位置あるいは投光方向を時間順次に切り替えて異なる経路を実現するため、発光素子の数を減少できる。
【0031】
請求項11の発明によれば、各単位受光窓が、投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されているため、検出光量の低下を防止しつつ深さ分解能を向上できる。
【0032】
請求項13の発明によれば、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することで、複数の波長の光を交互に発光することなく、複数の波長の光を同時に対象体に入射することが可能となるため、時間の短縮を図ることができる。
【0033】
請求項15の発明によれば、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、受光した光を当該複数の変調周波数でそれぞれ復調することで、複数の波長の光を交互に発光することなく、複数の波長の光を同時に対象体に入射することが可能となるため、時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】光検出領域に関して従来技術との比較を示す図である。
【図2】光検出領域に関して従来技術との比較を示す図である。
【図3】深さ分解能に関して従来技術との比較を示す図である。
【図4】深さ分解能に関して従来技術との比較を示す図である。
【図5】2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響について説明する図である。
【図6】2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響について説明する図である。
【図7】光量効率に関して従来技術との比較を示す図である。
【図8】光量効率に関して従来技術との比較を示す図である。
【図9】本発明に係る光学的内部情報計測装置を使用して構成した黄疸計の外観を示す図で、(a)は全体斜視図、(b)測定ヘッドの底面図であり、(c)はその縦断面図である。
【図10】本実施形態に係る黄疸計の測定ヘッドの模式図である。
【図11】本実施形態に係る黄疸計の電気的構成要素を示すブロック図である。
【図12】本実施形態に係る黄疸計の測定動作手順について示すフローチャートである。
【図13】投光手段と受光手段との様々な組み合わせを例示する図である。
【図14】複数の波長の光の投受光に関する変形例を示す図である。
【図15】複数の波長の光の投受光に関する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<1.実施形態の計測原理>
以下では本発明の光学的内部情報計測装置の実施形態として黄疸計を開示するが、その黄疸計の詳細な説明に入る前に、本実施形態の前提となる黄疸計の計測原理を従来の黄疸計の計測原理と比較しながら説明する。なお、ここで一例とする従来の黄疸計とは、特許文献1のビリルビン濃度計測装置における黄疸計であり、新生児の皮下組織に存在するビリルビンによる黄色味の度合いを、青色波長および緑色波長の2波長域の光学濃度差として捉える装置である。
【0036】
まず、本実施形態の黄疸計と従来の計測原理とで共通する点を説明する。
【0037】
一般的に吸光度から生体内部物質の濃度を求める際は、ランバートベールの法則(Lambert-Beer Law)を用いる。ある試料内に含まれる被測定物質の濃度を計測したい場合、物質が顕著に吸収する波長の光を試料に入射し、資料内で反射した光を検出してその光量を特定すれば、光が試料内を通った距離(厚さに相当)と光吸収率とに基づいて被測定物質の濃度を求めることができる。ランバードベールの法則式は、吸収率(吸光度)A、吸収係数α、厚さL及び被測定物質の濃度Cを用いると、下記式(1)のように表現される。
【0038】
A=αLC …(1)
上記式(1)より、吸光度Aは被測定物質のモル吸収係数αとモル濃度Cと物質厚さLとの積で決まることがわかる。
【0039】
そして、ビリルビンのモル吸収係数αと物質厚さLとを既知として、計測した吸光度Aからランバートベールの法則に従い、ビリルビン濃度Cを求める装置として黄疸計を構成可能である。
【0040】
ところで、皮下組織部分での光の吸収係数αを求めるためには、皮下組織部分への入射光量と皮下組織部分からの反射光量とを知る必要がある。そのためには、特定の皮下組織部分領域(被測定領域)を経由する第1光路での光吸収と、当該被測定領域を経由しない第2光路での光吸収との2つの基礎情報を使用し、それらの比に基づいて、被測定領域だけについての光の吸収係数αを求めることができる。これが2光路測定方式の基本的な考え方である。
【0041】
また、被測定物質であるビリルビンによって吸収されない波長の光を参照光として使用し、光路上のビリルビン以外の物質による光吸収の影響を除去するという規格化を行う。
【0042】
測定光として青色光を使用し、参照光として緑色光を使用した場合、2光路測定方式での黄疸計に用いられているランバートベールの法則を応用した濃度算出式は、下記式(2)および(3)のように表現される。
【0043】
εb(λb)×C×ΔL=Z …(2)
Z= log { Ε1(λg)/Ε1(λb) } − log { Ε2(λg)/Ε2(λb) } …(3)
ただし、
Εb(λb) …青色波長λbについての検出光の光量;
εb(λb) …青色波長λbについてのビリルビン吸光係数;
C …ビリルビン濃度;
ΔL…有効光路長差=L1−L2;
L1…第1光路(長光路)の有効光路長;
L2…第2光路(短光路)の有効光路長;
Ε1(λb) …第1光路における青色波長領域の光量測定データ;
Ε2(λb) …第2光路における青色波長領域の光量測定データ;
Ε1(λg) …第1光路における緑色波長領域の光量測定データ;
Ε2(λg) …第2光路における緑色波長領域の光量測定データ
である。
【0044】
式(3)を書き換えると下記の式(4A)〜(4D)となる。式(4A)は、ビリルビン以外の原因によって生じる緑色光の減衰率(Kg)に、ビリルビンによる光減衰率Fを乗算したものが、ビリルビンを含んだ総合的な青色光の減衰率(Kb)であるということ表現しており、式(4D)は式(2)を指数関数表現したものに相当する。
【0045】
Kb = Kg × F …(4A)
Kb = E1 (λb) / Ε2(λb) …(4B)
Kg = Ε1 (λg) / Ε2(λg) …(4C)
F = exp { −εb(λb)×C×ΔL} …(4D)
黄疸計で人体の額部や頬部などの顔面を測定する場合は、表皮は約0.2ミリ、真皮は約2.0ミリ、皮下組織は約2.0ミリであるため、ミリオーダーの深さ分解能精度が要求される。黄疸計は新生児黄疸の検査に多用されるが、新生児を検査対象とする場合は特に深さ分解能精度に対する要請が強い。
【0046】
続いて、本実施形態の黄疸計の原理のうち、従来の黄疸計の原理とは相違する点を下記に説明する。
【0047】
従来の黄疸計では光源からの光を皮膚表面に垂直に入射させるが、本実施形態の黄疸計では、光源からの光を皮膚表面に対して斜め方向に入射させるように構成する。具体的な装置構成は後述するが、このような斜め入射がこの実施形態の主たる特徴である。
【0048】
まず、皮膚表面からの光の入射角θを、皮膚表面の法線方向から計った角度として定義する。
【0049】
図1(a)は、従来の垂直入射(入射角θ=0)にした場合の光の入射範囲と検出光の取り出し範囲との関係(光路交差関係)を模式的に示す図であり、図1(b)は、本実施形態に係る斜め入射の場合(すなわち入射角θ>0)の場合の光路交差関係を示した図である。それぞれにおいて、皮膚表面T0上の位置Pinが光の投光位置であり、2つの位置P1,P2が光の検出位置である。また、境界面T1は、表皮領域と脂肪層領域との境界を示す。また、図1(a)の従来装置では、入射光軸Loinの両側に検出光軸Loso,Loloが位置しており、入射光軸だけでなく検出光軸もほぼ垂直であるタイプを示しているが、他の場合でも以下の原理は同様である。
【0050】
図1(a)の従来装置では、皮膚面に垂直な入射光軸Loinを中心とした錐状の領域が人体への光の入射範囲である。また、皮膚面に垂直とされた長光路の検出光軸Loloを中心とする錐状の領域が第1の受光素子による光検出可能範囲であり、皮膚面に垂直とされた短光路の検出光軸Losoを中心とする錐状の領域が第2の受光素子による光収集範囲である。それぞれの領域が錐状の領域となるのは、光源からの光入射および各受光素子による光検出の双方がそれぞれ持つ指向性によるものである。
【0051】
したがって、光源からの光のうち、光源から遠い第1の受光素子が位置P1で観測する光は、光入射錐と第1の光検出錐とが重なる領域Solで反射された光であり、光源に近い第2の受光素子が位置P2観測する光は、光入射錐と第2の光検出錐とが重なる領域Sosでの光反射である。なお、ここでは光の「反射」を「散乱」を含む用語として用いる。そして、光の反射量は光の吸収量と相補的関係にあるから、この装置は、間接的に2つの領域Sol,Sosでの光吸収のそれぞれを観測していることになる。
【0052】
一方、図1(b)で示されるように、本実施形態では、入射光軸Lninが皮膚面の法線方向(一般的には、測定対象体表面に垂直な方向)に対してゼロではない有限の角度θをなす斜め入射となっており、この入射光軸Lninを中心とした傾斜錐状の領域が人体への光の入射範囲である。また、この実施形態では、長光路および短光路のそれぞれの2つの検出光軸Lnlo,Lnsoもまた、皮膚面の法線方向に対してゼロではない有限の角度(−φ1),(−φ2)をなすように、入射光軸Lninとは逆方向にそれぞれ斜めに傾けている。なお、入射光軸を、皮膚面の法線方向に対して斜め入射に設定した場合、2つの検出光軸は、法線方向に対してゼロであっても、皮下組織部分で交軸を持つため、同様の効果が得られる。これらの角度は、φ1=φ2であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0053】
そして入射光軸Lninを中心とした傾斜錐状の領域が人体への光の入射範囲であり、検出光軸Lnlo,Lnsoのそれぞれを中心とした傾斜錐状の領域が、第1と第2の受光素子のそれぞれの光収集範囲である。これらの領域が錐状となるのは、光源からの光入射および各受光素子による光検出の双方に指向性を持たせていることに起因する。
【0054】
したがって、この実施形態の第1の受光素子で観測する光は、光入射錐と第1の光検出錐とが重なる領域Snlで反射された光であり、第2の受光素子で観測する光は、光入射錐と第2の光検出錐とが重なる領域Snsでの光反射である。これによって、この装置は、間接的に2つの領域Snl,Snsでの光吸収のそれぞれを観測していることになる。
【0055】
図1(a)と図1(b)とを比較する。図1(a)において、深さ分解能を向上させようとすれば、短光路の測定領域Sosの体積重心と、長光路の測定領域Solの体積重心との差を小さくする必要がある。ところが、そのためには2つの受光素子の間の横方向(皮膚面に平行な方向)の距離すなわち位置P1と位置P2との間隔を小さくする必要があるが、そうすると2つの領域Sol,Sosが重ならない部分、すなわちそれらの固有領域Rol,Ros(図2(a)参照)の体積重心の差が小さくなり、2つの受光素子の検出光量の違いが小さくなる。受光素子による光量検出にも誤差があるから、そのような微弱な検出光量の違いを正確にとらえることができなくなり、結果的に深さ分解能は向上しない。
【0056】
図1(b)の実施形態においても、深さ分解能を向上させるには、短光路の測定領域Snsの体積重心と、長光路の測定領域Snlの体積重心との差をある程度は小さくする。そのために2つの受光素子の間の横方向の距離も小さくなるが、従来装置とは異なり、実施形態の場合には、2つの領域Snl,Snsが重ならない部分、すなわちそれらの固有領域Rnl,Rns(図2(b)参照)の重心の差は図2(a)の従来装置ほどには小さくならない。それは、図2(a)では固有領域Rol,Rosのいずれもが類似形状の縦長領域(皮膚面に垂直な方向に長い領域)であるために、深さ方向におけるそれらの体積重心差が小さくなるのに対して、図2(b)では固有領域Rnl,Rnsの形状と位置とが相互にかなり異なっており、それぞれの深さ分布がシャープとなっていて、深さ方向におけるそれらの体積重心の差が出やすいためである。
【0057】
図2で示されるように、2つの受光素子の間の横方向の距離を小さくしたときの検出光量の差(|Rol-Ros|、|Rnl-Rns|)は、|Rol-Ros|<|Rnl-Rns|の関係が常に成り立つ。なぜなら、図2(b)では固有領域Rnl,Rnsの幾何学的形状が、図2(a)の固有領域Rol,Rosと比べてかなり異なるためである。したがって、検出光量の差が、図2(b)の|Rnl-Rns|の方が大きいために、誤差の影響が小さくなり、深さ分解能が向上する結果となる。
【0058】
入射光軸および検出光軸の交差深さの観点からこの違いを見たのが図3である。だたし、この図3での従来装置は、実施形態との比較を容易にするため、受光位置P1,P2が投光位置Pinの片側に配置されて検出光軸も傾斜しているタイプを例示している。この図3に示すように、垂直入射(θ=0)の場合の交差点Qol,Qosの深さの差Doと比較して、斜め入射の場合の交差点Qnl,Qnsの深さの差Dnは小さくなり、これは2つの受光素子間の横方向の距離が同一であっても、斜め入射の場合の方が、深さ分解能が高い(Dn<Do)ことを示している。
【0059】
図3のように各受光素子の位置P1、P2と投光位置Pinとを従来と同じにして光の入射軸だけを傾けると、計測している深さが従来とは異なってくるが、これについては、図4に示すように受光側の角度を調整する(具体的には受光軸の傾きを小さめにする)ことにより、短光路の交差点Qnsを表皮領域の中に位置させつつ、長光路の交差点Qnlを脂肪層の中に位置させることができるので、計測深さの問題は生じない。あるいは、受光素子P1の受光軸の傾きを図4の一点鎖線のように設定すれば、交差点Q’nlは、従来と深さがほぼ一致することになり、より良好な結果が得られる。
【0060】
また、実施形態の配置では、2つの受光素子の相互距離の誤差による測定結果への影響も相対的に小さくなるが、その理由これについては図5を参照する。光の入射光軸Sinを対角線とし、2つの受光素子の位置P1,P2を2辺の位置とする矩形V0を考える。この矩形V0では、受光素子間の横距離rに対して、図5より、
tanθ = r /D …(5A)
すなわち、
D = r / tanθ …(5B)
の関係にある。ただし、深さ幅Dは、矩形の対角点の深さ方向の差である。
【0061】
式(5B)より、受光素子間の位置に誤差Δrが生じたときに、深さ幅Dに生じる誤差ΔDは、
ΔD = Δr / tanθ …(6)
となる。
【0062】
ただし、2つの受光素子のそれぞれの位置誤差はランダムであるから、それぞれの受光素子の位置誤差ΔPで考え、2つの受光素子の誤差方向が逆である場合をも考慮すれば、平均して、受光素子間の位置誤差Δrは、
Δr = 0.5 × ΔP …(7)
程度であるから
ΔD = 0.5 × ΔP / tanθ …(8)
と書くこともできる。簡単化のため、以下では式(6)を使用する。
【0063】
入射光軸の傾き角度θが大きいとき(図5)にはtanθの値も大きくなるから、その逆数(1/ tanθ)は小さな値となり、位置誤差Δrによる深さ幅の誤差ΔDへの影響は小さい。
【0064】
ところが、 入射光軸の傾き角度θが小さいとき(図6)には、tanθの値が小さくなるから、その逆数(1/ tanθ)は大きな値となり、位置誤差Δrによる深さ幅の誤差ΔDへの影響は大きくなる。なお、ここで考えた簡易モデルでは、角度θがほぼゼロであると(1/ tanθ)は無限大となるが、実際には他の種々の因子によって有限の値である。
【0065】
これは、計測光を斜めから入射させることで、対象体表面に沿った方向(横方向)への光路長を基準としたときの、計測光の深さ方向への光路長の比(光路長縦横比=ΔD/Δr)が小さくなり、その結果、複数の受光端の位置のズレ量に対する深度誤差量が小さくなることを示している。したがって従来装置と比較して実施形態の装置では、誤差耐性が高まる。
【0066】
また、実施形態の装置では、利用する光の光量ロスも小さくすることができる。図7に示すように、従来装置では入射光軸Loinが垂直であるため、入射光軸Loinを中心とする入射光錐と、検出光軸Loを中心とする検出光錐との交差部分に相当する被測定領域TGは、入射光軸Loinから離れた位置となる。これに対して実施形態のように入射光軸Loinを傾けると、入射光軸Loinを被測定領域TGに向けることができる。
【0067】
一般に、発光素子はその投光軸の方向に最大の発光強度を有し、それから角度的に離れるに従って発光強度は減少する。したがって、従来装置では、図8に光量効率E0として示すように、入射光錐の横断面の光量分布の非最大部分が使用されるが、実施形態では、図8に光量効率Enとして示すように、入射光錐の横断面の光量分布の最大部分を利用できる。
【0068】
このように、実施形態では、被測定領域TGに向けた指向性を持たせることで、光分布幅Wを狭くし、光量ロスを抑えることができる。
【0069】
以上のように、この発明の実施形態では、光を斜め入射させることによって深さ分解能と計測精度とを向上させることができる。また、入射光軸が被測定領域を通るように発光素子の指向性を設定することによって、光量効率を増加させることもできる。
【0070】
以下では、実施形態の装置の具体的構成と動作について説明する。
【0071】
<2.実施形態の具体的構成と動作>
<2−1.黄疸計の概要および構成>
図9(a)は、この発明の実施形態である黄疸計10の外観を示す全体斜視図である。また、図9(b)は、測定ヘッドHdの底面図であり、図9(c)はその縦断面図である。
【0072】
黄疸計10は、図9(a)に示すようにハンディタイプの黄疸計であって、測定者(医師など)の手の平に収まる大きさのケーシング11を有しており、このケーシング11内部に、後述する電気的構成要素(図11参照)が配置されている。また、ケーシング11の上面後端側には、測定結果、すなわち皮下脂肪に沈着するビリルビン濃度を可変表示する液晶ディスプレイからなる表示部12が設けられている。さらに、ケーシング11の側面後端側には電源スイッチ11aが配置され、図9(a)中には図示しないリセットスイッチ45(図11参照)が設けられている。
【0073】
また、ケーシング11の先端側には、直方体状の測定ヘッドHdが、矢印ARで示すようにケーシング11に対して出退自在に設けられている。この測定ヘッドHdは、ばね部材などの付勢手段(不図示)によりケーシング11に対して突出方向(矢印のAR側)に付勢されており、測定者が被測定者の人体の一部分、例えば頭部の額部分に押し付けて軽く押圧すると、上記付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHdがケーシング11内に押し込まれ、後述する第1波長領域光源(青色LED)21および第2波長領域光源(緑色LED)22(図9(c)参照)が発光するように構成されている。
【0074】
そして、測定ヘッドHdが押し込まれて青色LED21および緑色LED22(図9(c)および図10参照)が発光すると、青色LED21および緑色LED22からの青色光および緑色光が、図9(b)に示す測定ヘッドHdの投光窓W0から時間順次に射出され、測定対象となる被測定者の額部(測定の対象体)に入射するとともに、前述したように体内で散乱した光束が測定ヘッドHdの受光窓W1,W2を介して、ケーシング11内部に入射するようになっている。
【0075】
測定ヘッドHdの具体的な構造として、図9(b)及び図9(c)で示されるように、計測窓WMは、測定ヘッドHdの端面に相当する平坦面FPに規定されている。この実施形態における計測基準面は、この平坦面FPである。計測窓WMは、投光室R0からの光の出口となる投光窓W0と、2つの受光室R1,R2のそれぞれへの光の入口となる単位受光窓W1,W2とを単一平面内(計測基準面FP内)に有しており、各単位受光窓W1,W2は、当該単位窓W1,W2から投光窓W0に向かう方向を短軸とし、それに直交する方向を長軸とする長形に形成されている。具体的には、単位受光窓W1,W2は、楕円、長円、長方形などであってよい。これらの受光室R1,R2が、計測窓WMに沿って投光室R0から異なる距離に配置されている。
【0076】
受光窓W1,W2が、投光窓W0に向かう方向を短軸とする形状を持っているのは、投光窓W0に向かう方向の幅を小さくすることにより幾何学的な深さ分解能を向上させることができる一方で、それに直交する方向の幅を大きくすることにより、受光量の減少を抑制して信号のS/N比を高く維持できるためである。
【0077】
また、図9(c)に示されるように、測定ヘッドHdは、投光手段として、測定ヘッドHdに形成された投光室R0内に配置された複数の発光素子、すなわち、第1波長領域(青色波長領域)の第1の光を発生する第1光源としての青色LED21および第2波長領域(緑色波長領域)の第2の光を発生する第2光源としての緑色LED22を、複数の光源の並列配置として有している。測定ヘッドHdは、さらに、受光手段として、測定ヘッドHdに形成された2つの受光室R1,R2の略上端部にそれぞれ配置された複数の受光素子、すなわち、第1受光素子PD1(短光路用の光電変換素子)および第2受光素子PD2(長光路用の光電変換素子)を有している。
【0078】
黄疸計10では、測定ヘッドHdの計測窓WMを規定する計測基準面FPを、被測定者の皮膚面に略平行に接触させて使用する。このため、計測窓WMを規定する計測基準面FPの法線と、被測定者の皮膚面の法線とはほぼ一致する。以下、この法線を「基準法線」と呼ぶことにする。
【0079】
黄疸計10の使用中には計測窓Wが形成される計測基準面FPの法線と皮膚面の法線とは略一致するからそれらの区別にあまり意味はないが、使用中ではない黄疸計10を単独で見たときには発光方向と皮膚面との方向関係は特定できないから、黄疸計10自身の構成としては、計測窓Wを規定する計測基準面FPの法線が「基準法線」として定義される。一般に、この発明における「計測基準面」は、計測を行う際に対象体の表面に平行とされる面として定義されるが、計測基準面は物理的な面として形成されていてもよく、仮想的に想定される面であってもよい。
【0080】
また、青色LED21および緑色LED22の設置位置に対して投光窓W0の中心は横方向にずれている。そして、青色LED21および緑色LED22は、それらの発光光軸が基準法線から傾斜するように、投光室R0の天井面に傾けて取り付けてある。
【0081】
これにより、青色LED21および緑色LED22から投光窓W0を通って測定ヘッドHdから被測定者の体内に入る光の光軸は、基準法線NLから傾斜していることになる。つまり、投光光軸は、計測窓WMの法線NLから傾斜しているだけでなく、被測定者の皮膚面の法線からも傾斜している。この光軸は図1(b)などで説明した入射光軸Lninに対応することになり、入射角θがゼロでない有限の値(たとえばθ=5度以上の角度)となっている。当然ではあるが、θ<90度という条件も満たしている。
【0082】
また、測定ヘッドHdの、第1受光素子PD1および第2受光素子PD2のそれぞれ中心は、単位受光窓W1,W2の中心から横方向にずれている。これによって図1(b)で説明した2つの検出光軸Lnlo,Lnsoの光軸も、基準法線NLから有限の角度(−φ1),(−φ2)でそれぞれ傾斜している。これらによって、既述した好ましい光学配置が実現されている。
【0083】
また、投光手段は、LED21(第1波長領域光源)およびLED22(第2波長領域光源)から照射される光束を絞る絞り手段として、投光窓W0と、この投光窓W0に配置された集光光学素子としてのフレネルレンズLCとを備えている。被験者の体内での照射光束を略平行光とする場合には、フレネルレンズLCはコリメータとしても機能させることもできる。
【0084】
また、図9では図示を省略しているが、単位受光窓W1,W2には、防塵用の平板透明ガラスで覆われていることが好ましい。受光素子PD1,PD2についても集光を行いたい場合には、単位受光窓W1,W2を覆う平面ガラスのかわりにフレネルレンズを設けてもよい。
【0085】
図10は、測定ヘッドHdの光学的配置を模式的に示しており、この図10では測定ヘッドHdの投光室R0や受光室R1,R2は省略されている。また、フレネルレンズLCは各LED21,22のそれぞれに付設された個別のレンズとして概念的に描かれている。図9で見たように、投光室R0の投光窓W0の中心が各LED21,22から横方向にずれた位置とされ、さらにフレネルレンズLCが設けられている。各LED21,22からの発光光軸がそれぞれ基準法線NLから傾いている。
【0086】
後述するように各LED21,22は時間順次に発光するが、任意の一方のLEDからの発光期間に着目すると、当該LEDから斜め方向に照射された光のうち第1受光素子PD1によって検出される光は、短光路SRを通った光であって、被測定者の額の表面部位PSすなわち皮膚領域を検出領域DSとしている。
【0087】
以上をまとめると、この黄疸計10は、測定対象となる対象体(被測定者)の表面(皮膚表面)から対象体内に光を入射させ、対象体の内部の異なる経路を通って出射した複数の信号を検出して対象体の内部情報(ビリルビン濃度)の計測を行う光学的内部情報計測装置として構成されている。
【0088】
そして、この光学的内部情報計測装置(黄疸計10)は、計測を行う際に対象体(被測定者)の表面(皮膚面)に平行となる計測基準面(計測窓WMが形成された平坦面FP)の法線に対して所定の角度θをもって斜めから対象体に向けて投光する投光手段(LED21、22と投光室R0との組み合わせ)と、計測基準面(平坦面FP)を介して対象体内部からの異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光し、それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段(第1受光素子PD1,PD2と受光室R1,R2との組み合わせ)とを備える。
【0089】
また、発光手段は、複数の波長の光(青色光,緑色光)を発光し、受光手段は、当該複数の波長の光のそれぞれについて異なる経路を通って出射した光をそれぞれ受光するようになっている。
【0090】
そして、この実施形態では、第1受光素子PD1,PD2や受光室R1,R2の水平方向の位置は変化しないため、投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段となっており、受光手段においては、投光手段からの距離が異なる2つの位置をそれぞれの受光端(単位受光窓W1,W2)とする2つの受光素子(LED21、22)で時間順次に(すなわち後述するように時系列的に)検出する順次光検出手段を備えるものとなっている。
【0091】
<2−2.黄疸計の電気的構成要素>
図11は、本実施形態に係る黄疸計10の電気的構成要素を示すブロック図である。黄疸計10は、CPUなどからなる制御部40と、青色LED21および緑色LED22を駆動する光源駆動部41と、上述したように付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHd(図9参照)がケーシング11内に押し込まれると自動的にオンにされる測定スイッチ42とを備えている。この黄疸計10はまた、A/D変換器541,542と、測定結果をクリアして次回の測定を実行できる状態に戻すためのリセットスイッチ45と、制御部40の制御プログラムや予め設定された固定データなどを記憶するROM46と電気信号データなどを一時的に保管するRAM47とを備えている。このRAM(記憶手段)47は、内蔵電源(不図示)によって、そのメモリ内容が消去されないようになっている。また、記憶手段として、バックアップ電源を有するRAM47に代えて、EEPROMなどの書き換え可能な不揮発性メモリを備えるようにしてもよい。
【0092】
制御部40は、発光制御手段としての機能を有し、光源駆動部41と電気的に接続されており、上述したように、付勢手段の付勢力に逆らって測定ヘッドHd(図9参照)がケーシング11内に所定位置まで押し込まれると、測定スイッチ42が自動的にオンにされ、それに応じて制御部40から光源駆動部41に発光指示信号が送出され、光源駆動部41が青色LED21および緑色LED22を時間順次に発光させる。
【0093】
本実施形態においては、投光手段である青色LED21および緑色LED22が時間順次に発光してそれぞれの波長での光測定が時間順次に行われる。このため、この実施形態は、異なる複数の波長の発光と、それに基づく測定とが時分割方式で行われることになる。
【0094】
短光路SR(図10参照)を通った光束を受光する第1受光素子PD1は、A/D変換器541を介して制御部40と電気的に接続されており、第1受光素子PD1からは、受光光量I1 (λb),I1 (λg)を表現する信号レベルを持った電気信号S1 (λb),S1 (λg)が制御部40に出力される。また、長光路LR(図10参照)を通った光束を受光する第2受光素子PD2は、A/D変換器542を介して制御部40と電気的に接続されており、第2受光素子PD2からの受光光量I2 (λb),I2 (λg) を表現する信号レベルを持った電気信号S2 (λb),S2 (λg)が制御部40に出力される。
【0095】
ここで、本実施形態においては、受光手段の第1受光素子PD1および第2受光素子PD2は、投光手段の時分割発光に対応して、受光した光を時分割することにより、それぞれの波長の光の成分を分離する。
【0096】
そして、制御部40は、複数の信号S1 (λb),S1 (λg), S2 (λb),S2 (λg)を用いて被験者の内部情報パラメタとしてのビリルビン濃度を算出するパラメタ算出手段としての機能を有し、その算出結果(演算結果)を表示部12に表示する。表示内容はビリルビン濃度の数値とともに、またはそれに代えて、ビリルビン濃度が正常(健常)範囲にあるかどうかを示す診断補助情報を含んでいてもよい。このようなビリルビン濃度の情報は、生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタの例となっている。
【0097】
<2−3.黄疸計の基本動作>
以下では、黄疸計10の測定動作について図12のフローチャートを参照しながら説明する。それらの動作は、測定者によるスイッチ操作を除き、制御部40に記憶された制御プログラムに従って、制御部40内部または制御部40の制御下で実行される。
【0098】
ステップS1では、測定者によりケーシング11の側面手前側に設けられた電源スイッチ11aがオフ状態からオン状態に切り換えられる(図9(a)参照)。
【0099】
ステップS2では、リセットスイッチ45が押されて測定可能な状態にされ、黄疸計10の測定ヘッドHdが被測定者の一部、例えば額部分に押し当てられる。そして、測定ヘッドHdが付勢手段の付勢力に逆らいながらケーシング11内に後退するように押し込まれる(図9(a)及び図11参照)。
【0100】
ステップS3では、所定量だけ押し込まれて測定スイッチ42がオンになり制御部40に伝達されると、測定が開始される(図11参照)。
【0101】
ステップS4では、まず、制御部40からの指令で光電駆動部41は、青色LED(第1波長領域光源)21を発光させ投光窓W0からその光を放出させる。これによって青色波長領域の光束が被測定者の体内に照射され、被測定者の皮膚内部で散乱した散乱光が、受光窓W1から入射するとともに、受光窓W2から入射する(図9及び図11参照)。
【0102】
ステップS5では、受光窓W1からの入射光が、第1受光素子PD1によって受光され、A/D変換器541を介して受光光量を表現する電気信号S1 (λb)が制御部40に出力され、受光窓W2からの入射光は、第2受光素子PD2によって受光され、A/D変換器542を介して受光光量を表現する電気信号S2 (λb)が制御部40に出力されて、それぞれRAM47に格納される(図9及び図11参照)。青色LED21は、この測定が完了すると消灯される。
【0103】
ステップS6では、制御部40からの指令で光電駆動部41は、緑色LED(第2波長領域光源)22を発光させ、緑色波長領域の光束が被測定者の皮膚に照射され、被測定者の皮膚内部で散乱した散乱光が、受光窓W1から入射するとともに、受光窓W2から入射する(図9及び図11参照)。
【0104】
ステップS7では、受光窓W1からの入射光は、第1受光素子PD1によって受光され、A/D変換器541を介して受光光量を表現する電気信号S1 (λg)が制御部40に出力され、受光窓W2からの入射光は、第2受光素子PD2によって受光され、A/D変換器542を介して受光光量を表現する電気信号S2 (λg)が制御部40に出力されて、それぞれRAM47に格納される(図9及び図11参照)。緑色LED22は、この測定が完了すると消灯される。
【0105】
ステップS8では、各LED21,22の発光動作の回数nが予め設定された回数Nだけ行われたか否かが判定され、まだ設定回数Nだけ行われていなければ(n<N:ステップS8のNo)、ステップS4に戻って、ステップS4からステップS7のループが繰り返される。この繰返しは、複数回の測定結果の統計処理(たとえば平均化処理)によって、より正確な測定結果を得るためのものである。
【0106】
一方、各LED21,22の発光動作の回数nが予め設定された回数Nだけ行われていれば(n=N:ステップS8のYes)、その設定回数Nのデータの平均値を用いて上述した計測原理にしたがってビリルビン濃度算出の演算が行われ(ステップS9)、測定結果が表示部12に表示される(ステップS10)。
【0107】
以上の黄疸計10を用いた計測では、既述した理由によって、深さ方向の測定分解能が向上するため、ビリルビン濃度の測定(したがって黄疸の診断)を正確に行うことができる。また、測定精度が高いことから、光源からの発光量を過剰に増大させる必要がない。
【0108】
さらに、黄疸計10を用いて経時観察を行った場合にも、被測定者のビリルビン濃度の時間変化を、従来装置を用いるよりも精度良く黄疸の状況を検出することができる。このため、経過観察をより正確に行うことも可能となる。
【0109】
<3.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な変形が可能である。以下の変形例では逐一説明しないが、各変形例とも、既述した実施形態と同様に計測基準面が規定されるとともに、計測のための光の斜め入射は、当該計測基準面の法線から傾いている入射とされている。
【0110】
<3−1. 投光手段および受光手段に関する変形例>
本発明の実施形態では、投光手段の位置が固定であり、受光手段においては時間順次に複数の波長の光を検出する場合を説明してきたが、これに限られず、後記の各組合せのタイプが可能である。ここで、それらの具体的構成例を述べる前に以下のタイプ名を定義する。ただし、上記の実施形態のように複数の波長の光(青色光と緑色光など)を用いる場合については、それぞれの波長の光についてどのような投光タイプや受光タイプを使い分けることができるが、ひとつの装置では複数の波長の光について同じ投受光タイプとすることが好ましい。
【0111】
まず、投光手段は下記の投光タイプに分類される。
(1)投光タイプA(固定):
既述した実施形態と同様に、投光手段が、固定光路での投光を行う固定投光手段を備える。
【0112】
(2)投光タイプB(位置可変):
LED21,22を横方向に移動可能に構成し、それらを移動させるための駆動素子または駆動機構を設けておく。そして、長光路と短光路とを同時に(並列的に)実現するのではなく、LED21,22の横方向の移動によって、それらを時間順次に実現させる。
【0113】
すなわち、この場合の投光手段は、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段を備え、当該投光経路切替手段が、「投光位置」を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切替手段を有することになる。
【0114】
(3)投光タイプC(方向可変):
投光タイプCでは、LED21,22を横方向に移動するのではなく、それらからの「投光方向」を時間順次に変化させるように構成する。すなわち、この場合の投光手段は、投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段を備える。そして、当該投光経路切替手段が、投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切替手段を有する。
【0115】
(4)投光タイプD(位置方向可変):
この投光タイプDでは、LED21,22を横方向に移動させるとともに、投光方向も変化させるように構成する。このタイプDは、タイプBおよびタイプCの組み合わせであるとも言える。
【0116】
次に、受光手段は下記の受光タイプに分類される。
【0117】
(1)受光タイプE(固定):
上記の実施形態と同様に、青色LED21からの青色光、および緑色LED22からの緑色光のそれぞれを、受光素子PD1,PD2で並列的に検出する。すなわち、この場合の受光手段は、複数の信号のそれぞれを複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段を備える。
【0118】
(2)受光タイプF(可変):
受光素子またはそれに光を導く受光ガイドを可動とすることによって、少数の受光素子で異なる経路についての受光を直列的に行う。すなわちこの場合の光検出手段は、受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に複数の信号を検出する順次的光検出手段を備える。
【0119】
以上の定義に基づいて、投光手段と受光手段との実際的な組み合わせとして下記7つのタイプが存在する。
【0120】
(1)第1タイプ: 投光A(固定) + 受光E(固定)
(2)第2タイプ: 投光A(固定) + 受光F(可変)
(3)第3タイプ: 投光B(位置変化) + 受光E(固定)
(4)第4タイプ: 投光C(方向変化) + 受光E(固定)
(5)第5タイプ: 投光D(位置・方向変化)+ 受光E(固定)
(6)第6タイプ: 投光B(位置変化) + 受光F(可変)
(7)第7タイプ: 投光C(方向変化) + 受光F(可変)
図13は、これらの各タイプに対応した種々の配置を示しており、図示されている順次で説明すると以下のようになっている。
【0121】
〔 図13(a)の配置 〕
・配置例(a1):
この配置は、既述した実施形態に近い要素配置であり、上記の第1タイプに属する。ただし、第1受光素子PD1と第2受光素子PD2との受光光軸は、基準法線とほぼ平行となっている。これは、図9の単位受光窓W1,W2のそれぞれの中心位置が、受光素子PD1,PD2に対向する位置になるよう配置することで実現される配置である。
【0122】
受光素子PD1,PD2の半導体受光素子はそれ自身が指向性を有していないため、受光用レンズ(不図示)や開口絞りを設けて、指向性を持たせることで、受光素子PD1,PD2の受光範囲の重なりは小さくなり、深さ分解能は向上する。
【0123】
〔 図13(b)の配置 〕
・配置例(b1):
この配置では、受光手段に1つの受光素子PD1(またはPD2)だけを設けてその受光端の位置は固定とする。これに対して投光手段を構成するLEDは、LED21、22及びLED21’、22’のそれぞれ2つずつ設けられ、水平方向に異なる位置にLED21,22(またはLED21’、22’)の1対ずつが固定されている。この配置は第1タイプに属する。
【0124】
・配置例(b2):
一方、LED21、22(またはLED21’、22’)を一対だけ設け、水平方向に伸びたガイドに沿って小型モータや圧電アクチュエータでその一対のLED21、22(またはLED21’、22’)を水平移動させることにより、時間順次に短光路および長い光路を実現できる。この場合の配置は、第3タイプに属する。
【0125】
〔 図13(c)の配置 〕
・配置例(c1):
この配置は、受光側の配置は図13(b)と同様であるが、投光方向と投光位置とを可変としており、第5タイプに属する。LED21、22及びLED21’、22’の対は、揺動可能に枢支されて小型モータや圧電アクチュエータで駆動されることによりその投光方向を変化させるとともに、同様の駆動手段によりLED21、22及びLED21’、22’の対を水平方向にも並進移動させる機構を設けて投光位置も変化させる。LED21、22及びLED21’、22’の対の水平移動方向と傾斜変化方向とは、LED21、22及びLED21’、22’のそれぞれの光軸の傾斜角が大きくになるときに、LED21、22及びLED21’、22’と受光素子PD1(PD2)との水平間隔を広げる方向への水平移動を行うように定める。それにより、水平移動と傾斜角度変化とのそれぞれが小さくても、検出深度の所望の変化を確保できる。したがって、測定ヘッドHdをコンパクトに構成できる。
【0126】
また、この場合には、図10と同様にLED21、22(またはLED21’、22’)のそれぞれにレンズを取り付けることにより、LED21、22(またはLED21’、22’)からの投光方向が変化しても、レンズによる集光機能がLED21、22(またはLED21’、22’)の方向変化によって変動しないようにすることが好ましい。
【0127】
〔 図13(d)の配置 〕
・配置例(d1):
この配置では、投光側の配置は図13(c)と同様に投光方向可変の配置とし、受光側では2つの受光素子PD1,PD2を共通のひとつの受光室(ボックス)BXの天井面に、水平方向に相互に離間して取り付けてある。したがってこの配置は、第4タイプに属する。受光素子PD1(またはPD2)からの投光方向が基準法線方向から大きく傾いたときに、皮膚領域に相当する浅い検出領域DSを経由した光は、受光室BXの下面の単一窓を通して受光素子PD1によって検出される。
【0128】
これに対して、受光素子PD1(またはPD2)からの投光方向の傾きが小さいときに、皮下脂肪層に相当する深い光検出領域DPを経由した光は、受光室BXの下面の単一窓を通して受光素子PD2によって検出される。
【0129】
指向性をより高めるためには、上記単一窓にフレネルレンズなどの集光光学手段を設けることが好ましい。
【0130】
〔 図13(e)の配置 〕
・配置例(e1):
この配置では、LED21,22を、それらの発光方向が水平方向となるように固定的に取り付けてレンズを配置する。水平方向に移動する反射板を設け、当該反射板を第1の反射板位置RF1および第2の反射板位置RF2との間で水平方向に移動させる。このような異なる反射板位置RF1,RF2に反射板があるときにLED21,22からの光をそれぞれ反射板で反射させることで、短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができる。この反射板は、LED21,22からの光の光軸を水平方向に移動させる光軸水平変換手段として機能する。
【0131】
受光手段においては、固定された単一の受光素子PD1(またはPD2)を用いて、時間順次に受光を行うことができる。すなわち、第1期間では短光路SRの光を、第2期間では長光路LRの光を単一の受光素子で検出する。異なる波長の複数の信号を用いるときには各波長に関してひとつずつの受光素子を割り当てて、図の紙面を貫く方向に隣接配置することによって波長ごとの検出が可能である。この場合の配置は第3タイプとなる。
【0132】
・配置例(e2):
反射板の移動と同期して、受光素子PD1(PD2)を水平移動させる機構を設ければ、異なる水平位置で短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができるため、それらを平均化することによって測定精度を高めることもできる。ただし、反射板の移動速度および受光素子PD1(PD2)の移動速度は、相互に異なるようにする。この様な態様にすることで、短光路SRの検出領域DSの深さおよび長光路LRの検出領域DPの深さを変更して測定が可能となる。この場合の配置は第6タイプとなる。
【0133】
・配置例(e3):
LED21、22と反射板とは固定しておき、受光素子PD1(PD2)を水平移動させる機構を設けることもできる。この場合の配置は第2タイプとなる。
【0134】
〔 図13(f)の配置 〕
・配置例(f1):
この配置では投光方向を可変とする。すなわちLED21,22との下にシャッターSTを設け、このシャッターSTを駆動手段によって矢印OCのように移動させて選択的に開閉させることにより、投光角度を時間順次に変化させることができる。
【0135】
受光手段においては、固定された単一の受光素子PD1(またはPD2)を用いて、時間順次に受光を行うことができる。この場合の配置は第4タイプとなる。
【0136】
・配置例(f2):
シャッターSTの開閉と同期して、受光素子PD1(PD2)を矢印mvの方向に水平移動させる機構を設ければ、異なる水平位置で短光路SRおよび長光路LRの光を時間順次に得ることができるため、それらを平均化することによって測定精度を高めることもできる。この場合の配置は第7タイプとなる。
【0137】
<3−2. 複数の波長の光の投受光に関する変形例>
本発明の実施形態における投光手段および受光手段では、複数の波長の光の投受光を並列的あるいは時分割で行ったが、これに限られず、例えば、下記のような方法で複数の波長の光の成分を分離する装置であってもよい。
【0138】
第1の方法としては、受光手段が、受光した光の波長フィルタリングを行うことで複数の波長の光の成分を分離することが可能である。すなわち、長光路および短光路のうちの一方のみを示した図14に示すように異なる波長領域を持つ光源を複数種類用いる代わりに、図14に示すように、波長領域の広い光源から対象体の斜め方向に光を入射させ、検出した光を、導光素子(光ファイバやミラーなど)を用いて、異なる波長領域のみを透過させる複数のフィルタ(一般には波長選択手段)に与える。そしてそれらのフィルタで相互分離された複数の波長の検出光を受光素子で検出してもよい。ダイクロイックミラーなども利用可能である。長光路および短光路のうちの他方も同様に構成できる。
【0139】
第2の方法としては、投光手段では、図15に示すように、複数の異なる変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ振幅変調してそれらを合成部で合成し、合成した光を導光素子から投光する。受光手段では、受光した光を導光素子から複数の復調器に導き、上記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、当該複数の波長の光の成分を分離することが可能である。すなわち、各々の波長光に対して空間周波数変調法を用いて所定の周波数成分を持たせて同時に入射させ、それらを復調して複数種類の波長成分の検出をしてもよい。長光路および短光路のうちの他方も同様である。
【0140】
これらの方法を採用することで、異なる波長領域光源に対して順次に計測を行うことなく、異なる複数の波長をもつ光を同時に対象体内に入射させることが可能となり、測定時間の短縮に繋がる。具体的に本実施形態の例では、第1波長領域光源21を発光した後、第2波長領域光源22を発光する(図12のステップS4からステップS7)というように、時分割して各々の波長領域光源を順次に発光する必要があったが、上記第1の方法の採用した装置では、単一の広波長幅光源の発光だけですみ、また上記第2の方法を採用した装置では、第1および第2波長領域光源21,22を同時発光することができる。このたため、ステップS4からステップS7の1回のループに掛かる時間も半分で済み、ステップS8の設定回数Nに達するまでの繰返しの要する時間も半分に短縮されることになる。
【0141】
<3−3. その他の変形例>
※ 本発明の実施形態では、入射角θを少なくとも5度より大きな値として採用したが、入射角θは1度≦θ≦45度の範囲であることが好ましく、特に、5度≦θ≦30度の範囲が好ましい。
【0142】
※ 本発明の実施形態では、光源から照射される光束を絞る絞り手段として、投光窓と集光光学素子との組み合わせを用いたが、光源が充分な指向性を持っている場合は光束を絞る手段がなくてもよい。
【0143】
※ 本発明の実施形態では、ビリルビン濃度計測に活用される黄疸計について説明してきたが、光源の波長範囲、受光素子(光センサ)の間隔、及び、演算方法を変化させることで、内部計測範囲や計測物質を変えて、さまざまな生体の内部情報を計測することが可能である。たとえば、赤色光と赤外光とを使用した反射型のパルスオキシメータにもこの発明は適用可能である。
【0144】
医学検査機器に適用する場合には、内部情報パラメタは、上記のビリルビン濃度や酸素飽和濃度など、生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタに相当する。
【0145】
さらに、計測の対象体は生体に限られず、例えば、容器中の食料品の含有成分を光学的に検知するなどの幅広い分野での内部情報計測に活用できる。
【0146】
※ 実施形態では短光路および長光路の2光路を用いているが、3つ以上の光路を設定し、それら3つ以上の光路の光を検知することによって、複数の深さでの検査値を得ることも可能である。
【0147】
使用する波長についても、3波長以上であってもよく、参照波長を必要としない用途では1波長だけであってもよい。
【符号の説明】
【0148】
10 黄疸計
21 青色LED(第1波長領域光源)
22 緑色LED(第2波長領域光源)
40 制御部
FP 計測基準面
NL 基準法線
PD1 第1受光素子
PD2 第2受光素子
WM 計測窓
W0 投光窓
W1,W2 単位受光窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる対象体の表面から前記対象体内に光を入射させ、前記対象体の内部を通って出射した光を検出して前記対象体の内部情報の計測を行う光学的内部情報計測装置であって、
前記対象体の表面に平行となる計測基準面の法線に対して所定の角度をもって斜めから前記対象体に向けて投光する投光手段と、
前記計測基準面を介して前記対象体の内部の異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光するように設置され、前記それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段と、
前記複数の信号を用いて前記対象体の内部情報を算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段から照射される光束を絞る絞り手段
をさらに備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記複数の信号を複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記投光手段からの距離が異なる複数の位置をそれぞれの受光端とする複数個の受光素子によって、時間順次に前記複数の信号をそれぞれ検出する順次光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に前記複数の信号を検出する順次的光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段が、
固定光路での投光を行う固定投光手段、
となっていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項7】
請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段が、
投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段、
を備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光経路切替手段が
投光位置を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切り替え手段、
を有することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項9】
請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光経路切替手段が
投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切り替え手段、
を有することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記計測基準面は、前記光学的内部情報計測装置の測定ヘッドの端面に規定されるとともに、前記計測基準面には計測窓が形成されており、
前記投光手段が
前記測定ヘッドに形成された投光室内に配置された発光素子、
を有するとともに、
前記受光手段が
前記測定ヘッドに形成された複数の受光室内にそれぞれ配置された複数の受光素子、
を有しており、
前記複数の受光室が、前記計測窓に沿って前記投光室から異なる距離に配置されていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記計測窓は、
前記投光室に形成された投光窓と、
前記複数の受光室のそれぞれに形成された複数の単位受光窓と、
を単一平面内に有しており、
各単位受光窓は、当該単位窓から前記投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記発光手段は、複数の波長の光を発光し、
前記受光手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて前記異なる経路を通って出射した光を受光し、
前記パラメタ算出手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて得た前記複数の信号に基づいて、前記内部情報パラメタを算出することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項13】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段は、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項14】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段は、時分割で複数の波長の光を投光し、
前記受光手段は、受光した光を時分割することにより、前記複数の波長の光を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項15】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段は、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、
前記受光手段は、受光した光を前記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記対象体は、検査対象となる生体であり、
前記内部情報パラメタは、前記生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタであることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項1】
測定対象となる対象体の表面から前記対象体内に光を入射させ、前記対象体の内部を通って出射した光を検出して前記対象体の内部情報の計測を行う光学的内部情報計測装置であって、
前記対象体の表面に平行となる計測基準面の法線に対して所定の角度をもって斜めから前記対象体に向けて投光する投光手段と、
前記計測基準面を介して前記対象体の内部の異なる経路を通って出射する光をそれぞれ受光するように設置され、前記それぞれの受光光量を表現した複数の信号を出力する受光手段と、
前記複数の信号を用いて前記対象体の内部情報を算出する算出手段と、
を備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段から照射される光束を絞る絞り手段
をさらに備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記複数の信号を複数個の受光素子で並列的に検出する並列的光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記投光手段からの距離が異なる複数の位置をそれぞれの受光端とする複数個の受光素子によって、時間順次に前記複数の信号をそれぞれ検出する順次光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段が、
前記投光手段からの距離が異なる複数の位置に受光位置を順次に移動させつつ、時間順次に前記複数の信号を検出する順次的光検出手段、
を備え、
前記複数の信号は、前記複数の受光素子からそれぞれ得られることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段が、
固定光路での投光を行う固定投光手段、
となっていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項7】
請求項3ないし請求項5の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段が、
投光経路を複数の投光経路の間で時間順次に切り替える投光経路切替手段、
を備えることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光経路切替手段が
投光位置を複数の投光位置の間で時間順次に切り替える投光位置切り替え手段、
を有することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項9】
請求項7に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光経路切替手段が
投光方向を複数の投光方向の間で時間順次に切り替える投光方向切り替え手段、
を有することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記計測基準面は、前記光学的内部情報計測装置の測定ヘッドの端面に規定されるとともに、前記計測基準面には計測窓が形成されており、
前記投光手段が
前記測定ヘッドに形成された投光室内に配置された発光素子、
を有するとともに、
前記受光手段が
前記測定ヘッドに形成された複数の受光室内にそれぞれ配置された複数の受光素子、
を有しており、
前記複数の受光室が、前記計測窓に沿って前記投光室から異なる距離に配置されていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記計測窓は、
前記投光室に形成された投光窓と、
前記複数の受光室のそれぞれに形成された複数の単位受光窓と、
を単一平面内に有しており、
各単位受光窓は、当該単位窓から前記投光窓に向かう方向を短軸とする長形に形成されていることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記発光手段は、複数の波長の光を発光し、
前記受光手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて前記異なる経路を通って出射した光を受光し、
前記パラメタ算出手段は、前記複数の波長の光のそれぞれについて得た前記複数の信号に基づいて、前記内部情報パラメタを算出することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項13】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記受光手段は、受光した光の波長フィルタリングによって前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項14】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段は、時分割で複数の波長の光を投光し、
前記受光手段は、受光した光を時分割することにより、前記複数の波長の光を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項15】
請求項12に記載の光学的内部情報計測装置において、
前記投光手段は、複数の変調周波数で複数の波長の光をそれぞれ変調しつつ投光し、
前記受光手段は、受光した光を前記複数の変調周波数でそれぞれ復調することによって、前記複数の波長の光の成分を分離することを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15の何れかに記載の光学的内部情報計測装置において、
前記対象体は、検査対象となる生体であり、
前記内部情報パラメタは、前記生体内部の生理的または病理的な検査値に対応するパラメタであることを特徴とする光学的内部情報計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−61232(P2012−61232A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209473(P2010−209473)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】
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