光学的分析装置、光学的分析方法
【課題】分析する試料に含まれる抗原や抗体の濃度が、低濃度から高濃度まで広い範囲で定量性の高い検出を可能とする。
【解決手段】光学的分析装置10は、試料分析用ディスク100に設けられたグルーブ107またはランド108によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二、第三のトラックに対してレーザ光を照射し、反射光を取得するピックアップ部12、ピックアップ部12により取得した、第一から第三のトラックの反射光を同時に検出する反射光検出部128、反射光検出部128によって検出された第一のトラックにおける反射光の変動、および第二または第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、試料分析用ディスク100上に固定化された標識用ビーズ110に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部18を備える。
【解決手段】光学的分析装置10は、試料分析用ディスク100に設けられたグルーブ107またはランド108によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二、第三のトラックに対してレーザ光を照射し、反射光を取得するピックアップ部12、ピックアップ部12により取得した、第一から第三のトラックの反射光を同時に検出する反射光検出部128、反射光検出部128によって検出された第一のトラックにおける反射光の変動、および第二または第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、試料分析用ディスク100上に固定化された標識用ビーズ110に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部18を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な方法により血液等の生体試料に含まれる抗原もしくは抗体などの生体高分子を分析するための光学的分析装置、光学的分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患の診断や健康診断における疾病の早期発見などを目的として、血液等に含まれる生体試料から抗原や抗体を検出する免疫検査法(イムノアッセイ)が様々な場面で用いられている。免疫検査法(イムノアッセイ)とは、生体試料に含まれる特定の抗原(または抗体)と特異的に結合する抗体(または抗原)に測定が可能な標識をつけ、両者が反応した結果を定量することで試料に含まれる抗原(または抗体)の濃度を求め疾患の判定を行う方法である。
【0003】
この方法は比較的感度が高く、操作方法が簡単であることから様々な標識方法が開発された。例えば標識に放射性同位元素を使ったRIA法(ラジオイノムアッセイ)や酵素を利用したEIA法(エンザイムイムノアッセイ)、蛍光標識を使ったFIA法、化学発光を使ったCLIA法などがある。
【0004】
中でも酵素を利用した方法のひとつであるELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)はマイクロプレートを用いた検査方法が広く一般に普及して利用されている。マイクロプレートを使った方法は、96穴プレートと汎用のマイクロプレートリーダーを用いて多数の検体を一度に測定することが可能で、コストが比較的安価である。また、放射性物質を使うRIA法と比べ、使用する場所の制限が少ないといったメリットがある。しかしながら、プレートに抗体を固定する前処理、抗体と抗原を反応させる反応時間、反応しなかった標識を洗い流すB/F(bond/free)分離、標識の酵素反応などそれぞれに数十分から数時間を要し、トータルの検査時間は数時間から1日程度かってしまうという問題がある。
【0005】
このため検査時間を短縮するために、微細加工の技術を利用してマイクロプレートの各ウェルでの操作手順を数センチ角のチップ上に置き換えた分析用チップ(Lab on a chip)も開発されている。抗体の固定や専用の試薬をチップ上に準備し、一般的なELISA法の前処理をあらかじめチップに施しておくことで処理時間を短縮する。また、抗原−抗体反応を数十マイクロメートルから数ミリメートルの狭い流路の中で行うことで反応時間を短縮している。これは、各検査用に専用の分析チップとすることで、検査時間を数十分に短縮することが可能としている。従来、患者の検体を採取した後、検査室に送り結果が出るまでに長い時間がかかっていた検査が、心筋マーカーなど一部の検査においては、診察室や患者のベッドサイドでの検査、いわゆるPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスト)が可能な機器が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−533606号公報
【特許文献2】特表2006−521558号公報
【特許文献3】特表2002−530786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2には、多検体を同時に検査が可能というマイクロプレートの利点と、短い時間で検査結果が得られる分析用チップの利点を合わせた特徴を持つ分析デバイスとして、円盤型の分析デバイスが提案されている。具体的には、円盤状のデバイスに複数のマイクロチャネル構造を設け、試料に含まれる物質を反応させるための固相物質が流路の一部に充填されている。蛍光色素等の標識をレーザにより励起して得られる蛍光の強度を光検出器によって検出することにより測定が行われる。また特許文献3には、ディスクを使用した方法で、光ディスクの構造を利用した方法が開示されている。光ディスクのトラック形状が形成されている面と同一の面に生体試料や粒子を付着させ、光ピックアップを用いて信号の変化を検出する方法が示されている。
【0008】
特許文献1および特許文献2の方法は、ディスク上に設けられた流路に試料を展開し試薬と反応した結果を蛍光強度や吸光度の変化として検出し、試料に含まれる抗原や抗体の量を測定している。検出方法としてはウェルプレートを用いた方法と原理的に同じであり、溶液中に含まれる標識物質の濃度を蛍光や吸光度で測定している。そのため、定量的な測定が出来る濃度範囲が狭く、濃度の高い試料については数段階に希釈した複数のサンプルを用意する必要があった。一方、低濃度の試料を感度良く検出する方法として特許文献3では光ディスクのフォーカス面にラッテックスビーズや磁気ビーズを結合させて検出する方法が示されているが、光ディスク上のグルーブまたはランドに結合されたビーズが不特定な位置に配置された場合の出力の変化に対しての検出が不十分であり、表面上の反射率のばらつきやごみ、キズ等の影響を受け易く、正確な検出が難しいという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、分析する試料に含まれる抗原や抗体の濃度が、低濃度から高濃度まで広い範囲で定量性の高い検出が可能な、光学的分析装置、光学的分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る光学的分析装置(10)は、試料分析用ディスク(100)に設けられたグルーブ(107)またはランド(108)によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、その反射光を取得するピックアップ部(12)、前記ピックアップ部(12)により取得した、前記第一のトラック、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックからの反射光を同時に検出する反射光検出部(128)、前記反射光検出部(128)によって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部(18)、を備えることを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る光学的分析装置(10)は、第1の発明において、前記試料検出部(18)は、前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記反射光検出部(128)による前記試料分析用ディスク(100)の半径方向における読み取り方向とは反対の方向において前記第一のトラックに隣接する前記第二のトラックまたは前記第三のトラックにおける反射光の変動によって、前記料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る光学的分析装置(10)は、第1または第2の発明において、前記第一のトラックは前記グルーブ(107)によって構成されるトラックであり、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックは前記ランド(108)によって構成されるトラックであることを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係る光学的分析装置(10)は、第3の発明において、前記反射光検出部(128)は、前記第二のトラックまたは前記第三のトラックに対して、トラック上の読み取り位置がトラックの中心である場合と、トラック上の読み取り位置をトラック中心から所定量ずらした状態における反射光を検出し、前記試料検出部(18)は、トラックの中心における反射光の変動およびトラックの中心から所定量ずらした状態での反射光の変動によって、前記料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする。
【0014】
第5の発明に係る光学的分析方法は、試料分析用ディスク(100)に設けられたグルーブ(107)またはランド(108)によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、各トラックからの反射光を同時に検出する反射光検出ステップ、前記反射光検出ステップによって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出ステップ、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学的検査装置によれば、光ディスクの情報を再生する光学ピックアップ及び光ディスクドライブと同様の構成の装置で検出が可能であり、装置の小型化、低価格化が可能となる。また、標識用ビーズをディスク上のグルーブまたはランドのいずれにおいても配置位置の制約を受けずに1つずつ高速に精度良く計数することが出来るので、低濃度から高濃度の試料まで定量的に測定する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光学的検査装置の構成ブロック図
【図2】本発明に係る光学的検査装置のピックアップ部の構成概念図
【図3】試料分析用ディスクの構成概念図
【図4】試料分析用ディスクにおけるトラック領域の断面模式図
【図5】試料分析用ディスクの断面構造とビーズの読み取り状態を表した模式図
【図6】試料分析用ディスク上における試料の反応を示す模式図
【図7】本発明に係る光学的検査装置における試料分析用ディスク上での光束照射を表した模式図
【図8】本発明に係る光学的検査装置における試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズの読み取り状態を表した模式図
【図9】試料分析用ディスクにおける標識用ビーズの固定化位置を表した模式図
【図10】本発明に係る光学的検査装置による、試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズをデトラックによる読み取り状態を表した模式図
【図11】本発明に係る光学的検査装置における試料分析の流れを表すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
最初に本発明における光学的検査装置の構成を、図1および図2により説明する。図1は、本発明における光学的検査装置の構成ブロック図であり、図2は本発明における光学的検査装置のピックアップ部の構成を説明した図である。
【0018】
光学的検査装置10は、スピンドルモータ11、ピックアップ部12、サーボ信号検出部13、サーボ回路14、メインRF信号検出部15、アドレス検出部16、サブRF信号検出部17、標識用ビーズ検出部18、制御部19、メモリ部20を備える。読み取り装置1の構成は、上記以外にも必要に応じて他の要素を備えてもよい。
【0019】
また、ピックアップ部12は、図2(a)に示すように、対物レンズ121、波長板122、偏光プリズム123、回折格子124、集光レンズ125、レーザ発振器126、検出レンズ127、光検出部128を備える。
【0020】
図1において、標識用ビーズ110が配置された試料分析用ディスク100は、スピンドルモータ11によって回転制御可能に設置され、所定の回転数で回転する。試料分析用ディスク100は、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等と同じ直径の円盤形状であり、素材もポリカーボネートなど同様な素材を用いる。
【0021】
試料分析用ディスク100は、別途説明するが、回転による遠心力によって内周に滴下された試料を外周方向に展開し、流路内で抗原−抗体反応による標識用ビーズ110が結合し、試料分析用ディスク100の所定位置に標識用ビーズ110が固定化される。
【0022】
このような試料分析用ディスク100の所定箇所に対し、光スポットを照射し、その反射光を検出するピックアップ部12が、試料分析用ディスク100の半径方向に移動可能に設置されている。試料分析用ディスク100からの反射光はピックアップ部12における光検出部128で電気信号に変換され、変換された信号の一部はサーボ信号検出部13に送られる。
【0023】
サーボ信号検出部13は、ピックアップ部12からの信号から試料分析用ディスク100上に照射する光スポットのFE(フォーカスエラー)信号を生成する。また、試料分析用ディスク100上のトラックに対するTE(トラッキングエラー)信号を生成する。
【0024】
サーボ信号検出部13において生成されたFE信号およびTE信号は、サーボ回路14に送られ、ピックアップ部12における対物レンズ121を2方向に駆動する電磁アクチュエータを制御し、光スポットに対し適切なフォーカス制御及びトラッキング制御を行う。
【0025】
また、ピックアップ部12からの信号のうち第1受光部130Aからの信号は、メインRF信号検出部15に送られる。メインRF信号検出部15では、ピックアップ部12から送られた第1受光部130Aによる4つの信号を広帯域のアンプにより加算し増幅してメインRF信号を生成する。
【0026】
メインRF信号検出部15で生成されたメインRF信号はアドレス検出部16に送られる。試料分析用ディスク100には、標識用ビーズ110が固定化されるグルーブ107及びランド108で形成されるトラックがスパイラル状または同心円状に成型されている。このトラック位置を示すアドレス情報がさらに試料分析用ディスク100には備えられている。例えば、このアドレス情報はトラックの一部を断絶し、そこにアドレスに相当する変調成分が得られるような複数の長さのピットを成型することにより設定ができ、トラックごとの認識信号として取り出せる構造となっている。
【0027】
アドレス検出部16では、メインRF信号からアドレス用ピットによる信号変化を検出して復調することによりアドレス情報を生成する。さらにメインRF信号は標識用ビーズ検出部18にも送られる。
【0028】
また、ピックアップ部12からの信号のうち第2受光部130Bからの信号は、サブRF信号検出部17に送られる。サブRF信号検出部17では、ピックアップ部12から送られた第2受光部130Bによる2つの信号を広帯域のアンプにより加算し増幅してサブRF信号を生成する。サブRF信号検出部17で生成されたサブRF信号も標識用ビーズ検出部18に送られる。
【0029】
標識用ビーズ検出部18では、メインRF信号またはサブRF信号の変化から試料分析用ディスク100に固定化されている標識用ビーズ110を検知する。
【0030】
アドレス検出部16により生成されたアドレス情報は、標識用ビーズ110をカウントしているトラックの位置情報として制御部19に送られる。また標識用ビーズ検出部18においてグルーブ107またはランド108上に固定化された標識用ビーズ110を検出した信号も制御部19に送られ、現在計測しているトラックにおける標識用ビーズ110の数をカウントし、そのトラック情報と共にメモリ部20に記憶される。
【0031】
制御部19は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)により構成される。制御部10は、図示しない操作部による操作に応じた各種制御、光検出部9により出力された検出信号に基づく各種制御等を行う。
【0032】
次に、ピックアップ部12の構成について図2を用いて説明する。光源は、レーザ発振器126を用いている。レーザ発振器126は、レーザダイオードにより構成される。レーザ発振器126から出射されるレーザ光の波長は、標識用ビーズ110の大きさにより適切なものを用いるが、例えば直径が約140nmの標識用ビーズ110を使用する場合には、レーザ光の波長が400nm程度の青紫色レーザを出射するレーザダイオードを使用するのが望ましい。レーザ発振器126は、例えばBlu-ray(BD)ディスクの再生用と同一の波長405nmの半導体レーザ発振器を用いることができる。
【0033】
レーザ発振器126より出射されたレーザ光は、集光レンズ125により平行な光束となる。さらに回折格子124を通過し3本の光束に分けられ、偏光プリズム123を通過する。
【0034】
偏光プリズム123を通過したレーザ光は、波長板122を通過することにより、直線偏光の状態から円偏光に変換され、対物レンズ121により試料分析用ディスク100上に、第1の読み取りスポット150A、第2の読み取りスポット150B、および第3の読み取りスポット150Cからなる3つの読み取りスポットを照射する。
【0035】
対物レンズ121のNA(Numerical aperture:開口数)も標識用ビーズ110の大きさにより適切なものを選択する。例えば、同様に直径が約140nmの標識用ビーズ110を使用する場合には、NAが0.85程度の対物レンズ121を用いることが望ましい。
【0036】
また、第1から第3の読み取りスポットが、試料分析用ディスク100上のグルーブ107およびランド108上に適切に照射されるために、回折格子124は回転調整が施されている。
【0037】
試料分析用ディスク100からの反射光は、波長板122を通過する際に円偏光から往路とは偏光面が90度回転した直線偏光となって、偏光プリズム123で反射し、検出レンズ127を通過して光検出部128で受光される。
【0038】
検出レンズ127は、集光レンズと半円筒型レンズなどの組み合わせによりフォーカスエラーを生成する仕組みとなっている。試料分析用ディスク100上のトラックまたはアドレス用ピット、標識用ビーズ110の検出が球面収差により十分な品質で検出できない場合には集光レンズ125に別の複数のレンズを追加して(図示せず)球面収差補正を行うことにより改善することもできる。
【0039】
光検出部128を構成する受光部130は、図2(b)に示す構成となっており、中央の4分割にした第1の受光部130Aに、第1の読み取りスポット150Aの反射光が照射され、上下の2分割にした第2の受光部130Bおよび第3の受光部130Cには、それぞれ第2の読み取りスポット150Bおよび3の読み取りスポット150Cの反射光が照射される。
【0040】
メインRF信号検出部15によって検出されるメインRF信号、およびサブRF信号検出部17によって検出されるサブRF信号は、受光部130を構成するそれぞれの受光部の分割セル出力の総和で生成され、FE信号及びTE信号は、それぞれの受光部の分割セル出力による演算によって生成される。この演算はサーボ信号検出部13で行われ、FE信号の演算は、受光部130における分割セルの記号で表すと(A+C)−(B+D)の演算で生成され、TE信号は〔(A+D)−(B+C)〕−k・〔(E−F)+(G−H)〕(kは係数)の演算で生成される。
【0041】
次に、本発明の光学的分析装置10によって読み取る、試料分析用ディスク100の構造について、図3から図4を用いて説明する。
【0042】
試料分析用ディスク100は、内周側に複数の注入孔101を、試料分析用ディスク100の中心に対して回転対象に備えられる。注入孔101は、試料を滴下させるための孔であり、その容積は検査に必要な試料を計量する大きさになっている。
【0043】
また、注入孔101の各々からは滴下された試料が流れる流路102が、試料分析用ディスク100の中心から見て放射状に備えられる。さらに、流路102の各々に接続され、試料分析用ディスク100の外周部に位置する検出領域104が備えられる。また、流路102の一部には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0044】
さらに、試料分析用ディスク100の外周部には、検出領域を含むように、光ディスクの信号面と同様の構造である、スパイラル状のグルーブ107が形成されるトラック領域105が備えられる。トラック領域105にグルーブ107が形成されていることにより、試料分析用ディスク100の読み取り面には、図4に示すように、溝となるグルーブ107とランド108とが存在する。
【0045】
図5は、試料分析用ディスク100の断面構造と標識用ビーズ110の読み取り状態を表した模式図である。試料分析用ディスク100の内周側には、深さ100μmから500μmの流路102が形成されており、分析対象の試料が通過する流路102の一部に特定の抗体が修飾された標識用ビーズ110が充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0046】
試料分析用ディスク100を回転させると、注入孔101より滴下された試料は遠心力により抗原−抗体反応のための流路102に導かれる。流路102につながるビーズ充填部103には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されている。
【0047】
標識用ビーズ110は直径が100nmから1μm程度の大きさのポリマー粒子、または内部にフェライト等の磁性材料を含む磁気ビーズ等を用いる。また、金コロイドなどの金属微粒子やシリカビーズ等を用いることも可能である。標識用ビーズ110の直径は、検出に利用する読み取り装置1の光学系により検出に最適な大きさが決定し、読み取り装置1には、既存の光ディスクのドライブ、特に光ピックアップに利用されている部品を利用することが出来るという利点がある。
【0048】
現在一般に普及している光ディスクの読み取り装置の中で、もっとも高解像度のものはBlu-ray Disc(BD)で波長405nmのレーザ光を開口数(NA)0.85の対物レンズでディスク上にスポットを集光させることが出来る。ディスクの信号の最短ピット長は約0.14μmである。したがって、BDの光学系を利用する場合には、標識用ビーズ110の直径が約140nm程度の大きさまで信号として検出することが出来る。
【0049】
また、標識用ビーズ110の表面には試料に含まれる抗原200と特異的に結合する抗体210をあらかじめ結合させておく。抗体210の種類には様々なものがあり、例えばB型肝炎の検査の場合には血液中に含まれるHBs抗原と特異的に結合するHBsAgモノクローナル抗体を修飾しておく。修飾する抗体210の種類は検出する抗原200の種類にあわせ特異的に結合するものを選択する。
【0050】
流路102中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と試料が混合されると、試料に含まれる抗原200が標識用ビーズ110の表面に修飾された抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200の複合物が形成される。
【0051】
この段階で溶液中には試料に含まれる抗原200の量に応じて、抗原200と抗体210が反応した複合物の標識用ビーズ110と、抗原200と反応していない標識用ビーズ110が一定の割合で存在している。さらに試料分析用ディスク100の遠心力により、流路102で反応した溶液を外周部の検出領域104に展開させる。
【0052】
検出領域104は、流路102の底面が接する面が、光ディスクの信号面と同様に、スパイラル状のグルーブ構造となっている。
【0053】
これらの検出領域104には、標識用ビーズ110の表面に修飾したものと同じ種類の抗体210がシランカップリング等の方法で固定されている。検出領域104に展開された溶液に含まれている抗原200、すなわち流路102の中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と反応した複合物は、さらに検出領域104に固定されている抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200、固相化抗体によるサンドイッチ型の複合物を形成し、検出領域104の基板上に固定化される。抗原200と反応していない標識用ビーズ110は、検出領域104にとどまらず、遠心力によりさらにディスク外周送られ、検出領域104の外に排出される。また、複数設けられている検出領域104には、場所を特定するためのアドレス情報が記録されている。
【0054】
次に、試料分析用ディスク100を用いた試料の分析について、図6に基づき説明する。
【0055】
図6は試料分析用ディスク100上で、抗原200と抗体210が反応した後の複合物の構成を模式的に表した図である。この反応は、ウェルプレートで行われるのと同様の抗原−抗体反応を利用したサンドイッチ法による原理により、試料に含まれる抗原200に計測可能な標識である標識用ビーズ110が付けられた状態で、検出領域104に固定されていることになる。サンドイッチ法は検出対象の絶対量に対して出力がリニアに得られることから定量測定が行いやすい方法として多く用いられている。固定化の方法はこれに限らず、競合法など他の方法を用いることも出来る。
【0056】
次に、試料分析用ディスク100のトラックと読み取りスポットの関係を説明する。図7は、試料分析用ディスクのトラックを形成するグルーブ107(G)とランド108(L)に、第1の読み取りスポット150A(B1)、第2の読み取りスポット150B(B2)及び第3の読み取りスポット150C(B3)が照射されている様子を示した図である。
【0057】
中心に配置されている第1の読み取りスポット150Aを基準としてフォーカスサーボ及びトラッキングサーボがディスクトラックに対して行われる。トラッキングは、第1の読み取りスポット150Aにおいて、グルーブ107を基準とする場合とランド108を基準とする場合のどちらも可能であるが、本実施例ではグルーブ107を基準にトラッキングを行う場合について説明する。ただし、ランド108を基準とした場合も基本は同一である。
【0058】
グルーブ107を基準としてトラッキングを行う場合、グルーブ107に対してトラッキングが調整されると、第1の読み取りスポット150Aはグルーブ107に位置することとなり、第2の読み取りスポット150Bおよび第3の読み取りスポット150Cは、第1の読み取りスポット150Aを挟んで隣接するランド108に位置することとなる。
【0059】
本実施例における計測は、通常1トラックごとに計測を行う。このため、同心円状のトラックが形成されている試料分析用ディスク100の場合には、トラッキングがかけられると、そのまま同一のトラックをトレースすることになる。そこで次のトラックを計測するときにはトラッキングサーボを一時解除してキックパルス信号を入れることにより隣のトラックへジャンプする。
【0060】
この場合でも第1の読み取りスポット150Aは、グルーブ107を基準に制御されるため、図7におけるB1'、B2'およびB3'の位置でトレースを行うことになる。
【0061】
トラックがスパイラル状に形成されている場合には順次トラックを移行するため、1回転中に1度逆方向のキックパルスを付加することによりキックバックして1トラックを連続してトレースすることができる。
【0062】
ここで、図8の様に標識用ビーズ110が試料分析用ディスク100上に固定化されている場合、各読み取りスポットは各標識用ビーズ110上をトレースする。そのときメインRF信号(SB1)およびサブRF信号(SB2、SB3)の出力は図8に示すように、標識用ビーズ110の配置されているタイミングで変化する。これらメインRF信号およびサブRF信号の出力電圧が、所定の閾値以下となったときを、標識用ビーズ検出部18によりカウントすることで、標識用ビーズ検出部18は、標識用ビーズ110の数量を正確に計測することができる。
【0063】
各読取りスポットの大きさは、レーザ発振器126によるレーザ光の波長と対物レンズ121のNAにより決定され、使用する標識用ビーズ110の径との相対的な関係を適切に設定する。このため、メインRF信号およびサブRF信号出力電圧の変化は、光が全反射する場合の最大値と反射光が無くなる最低値の幅に対して十分大きくとることができるため、1個の標識用ビーズ110を的確に計測することが可能である。
【0064】
また、特定のトラックをトレース中に第2の読み取りスポット150Bおよび第3の読み取りスポット150Cによる出力が得られるが、実際には次のトラックにジャンプして読み取るときに、前のトラックの計測における第3の読み取りスポット150Cによる出力と、トラックジャンプ後の計測における第2の読み取りスポット150Bによる出力とが、同一のランド108をトレースすることとなるため、第2の読み取りスポット150Bもしくは第3の読み取りスポット150Cのどちらか一方での計測でよい。
【0065】
どのトラックでカウントしたかはアドレス検出部16で判断され、ある計測トラックにおけるグルーブ107及びランド108に配置された標識用ビーズ110のカウント数が、制御部19で精度良く計算されることになる。
【0066】
グルーブ107およびランド108上に標識用ビーズ110が固定化される場合、グルーブ107に固定化される標識用ビーズ110は、グルーブ107の幅が標識用ビーズ110の直径より少し大きく設定されていれば読取りスポットの中心に対して標識用ビーズ110の中心もほぼ一致した状態で読取ることになる。しかし、ランド108に固定化される場合は標識用ビーズ110の位置を制約するものが無く、ランド108の中心に対して標識用ビーズ110の中心がずれる可能性がある。
【0067】
各読取りスポットはトラッキングサーボにより制御されているため、読み取り各スポットとランド108の中心は一致した状態となる。図9は、ランド108に固定化された標識用ビーズ110の、グルーブ107およびランド108の位置関係を示した図である。
【0068】
例えば図9の様に、グルーブ107内に固定化された標識用ビーズ110は、グルーブ107の幅で規制されて、グルーブ107の中心に配置される。しかし、ランド108上に固定化された標識用ビーズ110は、ランド108の中心に配置されることもあれば、中心からずれた位置に配置されることもある。
【0069】
このため、読み取りスポットの中心に対する標識用ビーズ110の中心が一致した場合にRF信号の変化が最大となり、中心からのずれに従って変化は少なくなっていく。このため、図9に示すように、ランド108上の2つの標識用ビーズ110を検知したときのRF信号変化は異なり、ある閾値を基準としてカウントする場合のカウント誤差が生じる可能性が発生する。
【0070】
そこで、読み取りスポットのトラッキングサーボに任意量のオフセット電圧を加え、トラック上の読み取りスポットがトラック中心に対してデトラックする手段を設けた。デトラックを行うことにより、読み取りスポットの中心とランド108上に固定化された標識用ビーズ110の中心が一致する状態を設定し、その出力信号を検知することによって、RF信号の変化量を最大にすることができる。
【0071】
図10(A)は、グルーブ107およびランド108からなるトラックを上から見たときの概念図であり、例えばランド108上に標識用ビーズ110がランド108の中心であるBead2の位置に固定化された状態、ランド108の中心から図面の上側にずれたBead1の位置に固定化された状態、ランド108の中心から図面の下側にずれたBead3の位置に固定化された状態において、第2の読み取りスポット150Bを、プラス方向(図面の上方向)およびマイナス方向(図面の下方向)にデトラックさせてトレースしたときの出力の様子を図10(B)に示す。
【0072】
図10(B)において、デトラックさせない通常の状態では、ランド108を中心に位置しているBead2の位置で最大振幅を示し、次にズレ分の少ないBead1、一番ズレの大きいBead3の順に振幅が小さくなる。この時の閾値を図10(B)の2点破線に示すように設定すると、デトラックさせないトレースではBead2だけがカウントされる。
【0073】
仮にこの閾値を最大出力レベル近傍とすることにより、全ての出力をカウントする値に設定してしまうと、最大出力レベルの変動や反射率の誤差等により誤カウントの可能性が高くなってしまう。
【0074】
さらに、プラス方向のデトラックの状態では、Bead1が最大振幅を示し、次にBead2、さらにBead3の順に振幅が小さくなる。逆にマイナス方向のデトラックの状態では、Bead3、Bead2、Bead1の順に振幅が小さくなる。この様にデトラックの状態で標識用ビーズ110の位置に従って最大振幅を得られるため、出力とデトラック状態を調べ、閾値を設定することにより正確なカウントを行うことができる。
【0075】
図11は、標識用ビーズ110のカウントを行うときの流れを示したフローチャートである。まず、所定のトラックをトレースするトラッキングサーボをONとする(ステップS1)。トラックがスパイラル形状の場合には、スチルパルスを付加して所定のトラックを連続してトレースできるようにする。
【0076】
次に、所定のトラックにおいて、デトラックさせない通常状態で振幅出力1を計測する(ステップS2)。次いで、デトラックを+方向に発生させ、振幅出力2を計測する(ステップS3)。さらに、デトラックを−方向に発生させ、振幅出力3を計測する(ステップS4)。
【0077】
次に、計測した振幅出力1〜3の値から閾値を算出し設定する(ステップS5)。また、プラス方向およびマイナス方向に対するデトラック量も設定される。次いで、デトラックしない通常状態で閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N1を得る(ステップS6)。次いで、設定されたデトラック+状態において同様に閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N2を得る(ステップS7)。次いで、設定されたデトラック−状態において同様に閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N3を得る(ステップS8)。最後に、得られたカウント数N1〜3を加算してランド108上に固定化された標識用ビーズ110の数を得ることができる。
【0078】
以上の様に、複数の読み取り用スポットを使って検出領域のトラックに配置された標識用ビーズ110をグルーブ107内はもちろん、ランド108上に自由に固定化された場合においても正確にカウントすることができ、生体試料に含まれる抗体または抗原の詳細な定量化が可能となる。また。カウントの精度を向上させることにより、低濃度の抗体または抗原についても把握することが可能となり、検査能力、応用範囲の拡大を図ることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:光学的分析装置、11:スピンドルモータ、12ピックアップ部、13:サーボ信号検出部、14:サーボ回路、15:メインRF信号検出部、16:アドレス検出部、17:サブRF信号検出部、18:標識用ビーズ検出部、19:制御部、20:メモリ部、121:対物レンズ、122:波長板、123:偏光プリズム、124:回折格子、125:集光レンズ、126:レーザ発振器、127:検出レンズ、128:光検出部、130:受光部、130A:第1受光部、130B:第2受光部、130C:第3受光部、200:抗原、210:抗体
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な方法により血液等の生体試料に含まれる抗原もしくは抗体などの生体高分子を分析するための光学的分析装置、光学的分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患の診断や健康診断における疾病の早期発見などを目的として、血液等に含まれる生体試料から抗原や抗体を検出する免疫検査法(イムノアッセイ)が様々な場面で用いられている。免疫検査法(イムノアッセイ)とは、生体試料に含まれる特定の抗原(または抗体)と特異的に結合する抗体(または抗原)に測定が可能な標識をつけ、両者が反応した結果を定量することで試料に含まれる抗原(または抗体)の濃度を求め疾患の判定を行う方法である。
【0003】
この方法は比較的感度が高く、操作方法が簡単であることから様々な標識方法が開発された。例えば標識に放射性同位元素を使ったRIA法(ラジオイノムアッセイ)や酵素を利用したEIA法(エンザイムイムノアッセイ)、蛍光標識を使ったFIA法、化学発光を使ったCLIA法などがある。
【0004】
中でも酵素を利用した方法のひとつであるELISA法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)はマイクロプレートを用いた検査方法が広く一般に普及して利用されている。マイクロプレートを使った方法は、96穴プレートと汎用のマイクロプレートリーダーを用いて多数の検体を一度に測定することが可能で、コストが比較的安価である。また、放射性物質を使うRIA法と比べ、使用する場所の制限が少ないといったメリットがある。しかしながら、プレートに抗体を固定する前処理、抗体と抗原を反応させる反応時間、反応しなかった標識を洗い流すB/F(bond/free)分離、標識の酵素反応などそれぞれに数十分から数時間を要し、トータルの検査時間は数時間から1日程度かってしまうという問題がある。
【0005】
このため検査時間を短縮するために、微細加工の技術を利用してマイクロプレートの各ウェルでの操作手順を数センチ角のチップ上に置き換えた分析用チップ(Lab on a chip)も開発されている。抗体の固定や専用の試薬をチップ上に準備し、一般的なELISA法の前処理をあらかじめチップに施しておくことで処理時間を短縮する。また、抗原−抗体反応を数十マイクロメートルから数ミリメートルの狭い流路の中で行うことで反応時間を短縮している。これは、各検査用に専用の分析チップとすることで、検査時間を数十分に短縮することが可能としている。従来、患者の検体を採取した後、検査室に送り結果が出るまでに長い時間がかかっていた検査が、心筋マーカーなど一部の検査においては、診察室や患者のベッドサイドでの検査、いわゆるPOCT(ポイント・オブ・ケア・テスト)が可能な機器が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−533606号公報
【特許文献2】特表2006−521558号公報
【特許文献3】特表2002−530786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2には、多検体を同時に検査が可能というマイクロプレートの利点と、短い時間で検査結果が得られる分析用チップの利点を合わせた特徴を持つ分析デバイスとして、円盤型の分析デバイスが提案されている。具体的には、円盤状のデバイスに複数のマイクロチャネル構造を設け、試料に含まれる物質を反応させるための固相物質が流路の一部に充填されている。蛍光色素等の標識をレーザにより励起して得られる蛍光の強度を光検出器によって検出することにより測定が行われる。また特許文献3には、ディスクを使用した方法で、光ディスクの構造を利用した方法が開示されている。光ディスクのトラック形状が形成されている面と同一の面に生体試料や粒子を付着させ、光ピックアップを用いて信号の変化を検出する方法が示されている。
【0008】
特許文献1および特許文献2の方法は、ディスク上に設けられた流路に試料を展開し試薬と反応した結果を蛍光強度や吸光度の変化として検出し、試料に含まれる抗原や抗体の量を測定している。検出方法としてはウェルプレートを用いた方法と原理的に同じであり、溶液中に含まれる標識物質の濃度を蛍光や吸光度で測定している。そのため、定量的な測定が出来る濃度範囲が狭く、濃度の高い試料については数段階に希釈した複数のサンプルを用意する必要があった。一方、低濃度の試料を感度良く検出する方法として特許文献3では光ディスクのフォーカス面にラッテックスビーズや磁気ビーズを結合させて検出する方法が示されているが、光ディスク上のグルーブまたはランドに結合されたビーズが不特定な位置に配置された場合の出力の変化に対しての検出が不十分であり、表面上の反射率のばらつきやごみ、キズ等の影響を受け易く、正確な検出が難しいという問題があった。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、分析する試料に含まれる抗原や抗体の濃度が、低濃度から高濃度まで広い範囲で定量性の高い検出が可能な、光学的分析装置、光学的分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る光学的分析装置(10)は、試料分析用ディスク(100)に設けられたグルーブ(107)またはランド(108)によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、その反射光を取得するピックアップ部(12)、前記ピックアップ部(12)により取得した、前記第一のトラック、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックからの反射光を同時に検出する反射光検出部(128)、前記反射光検出部(128)によって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部(18)、を備えることを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る光学的分析装置(10)は、第1の発明において、前記試料検出部(18)は、前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記反射光検出部(128)による前記試料分析用ディスク(100)の半径方向における読み取り方向とは反対の方向において前記第一のトラックに隣接する前記第二のトラックまたは前記第三のトラックにおける反射光の変動によって、前記料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る光学的分析装置(10)は、第1または第2の発明において、前記第一のトラックは前記グルーブ(107)によって構成されるトラックであり、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックは前記ランド(108)によって構成されるトラックであることを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係る光学的分析装置(10)は、第3の発明において、前記反射光検出部(128)は、前記第二のトラックまたは前記第三のトラックに対して、トラック上の読み取り位置がトラックの中心である場合と、トラック上の読み取り位置をトラック中心から所定量ずらした状態における反射光を検出し、前記試料検出部(18)は、トラックの中心における反射光の変動およびトラックの中心から所定量ずらした状態での反射光の変動によって、前記料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする。
【0014】
第5の発明に係る光学的分析方法は、試料分析用ディスク(100)に設けられたグルーブ(107)またはランド(108)によって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、各トラックからの反射光を同時に検出する反射光検出ステップ、前記反射光検出ステップによって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク(100)上に固定化された標識用ビーズ(110)に結合した生体高分子の数量を検出する試料検出ステップ、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学的検査装置によれば、光ディスクの情報を再生する光学ピックアップ及び光ディスクドライブと同様の構成の装置で検出が可能であり、装置の小型化、低価格化が可能となる。また、標識用ビーズをディスク上のグルーブまたはランドのいずれにおいても配置位置の制約を受けずに1つずつ高速に精度良く計数することが出来るので、低濃度から高濃度の試料まで定量的に測定する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光学的検査装置の構成ブロック図
【図2】本発明に係る光学的検査装置のピックアップ部の構成概念図
【図3】試料分析用ディスクの構成概念図
【図4】試料分析用ディスクにおけるトラック領域の断面模式図
【図5】試料分析用ディスクの断面構造とビーズの読み取り状態を表した模式図
【図6】試料分析用ディスク上における試料の反応を示す模式図
【図7】本発明に係る光学的検査装置における試料分析用ディスク上での光束照射を表した模式図
【図8】本発明に係る光学的検査装置における試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズの読み取り状態を表した模式図
【図9】試料分析用ディスクにおける標識用ビーズの固定化位置を表した模式図
【図10】本発明に係る光学的検査装置による、試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズをデトラックによる読み取り状態を表した模式図
【図11】本発明に係る光学的検査装置における試料分析の流れを表すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
最初に本発明における光学的検査装置の構成を、図1および図2により説明する。図1は、本発明における光学的検査装置の構成ブロック図であり、図2は本発明における光学的検査装置のピックアップ部の構成を説明した図である。
【0018】
光学的検査装置10は、スピンドルモータ11、ピックアップ部12、サーボ信号検出部13、サーボ回路14、メインRF信号検出部15、アドレス検出部16、サブRF信号検出部17、標識用ビーズ検出部18、制御部19、メモリ部20を備える。読み取り装置1の構成は、上記以外にも必要に応じて他の要素を備えてもよい。
【0019】
また、ピックアップ部12は、図2(a)に示すように、対物レンズ121、波長板122、偏光プリズム123、回折格子124、集光レンズ125、レーザ発振器126、検出レンズ127、光検出部128を備える。
【0020】
図1において、標識用ビーズ110が配置された試料分析用ディスク100は、スピンドルモータ11によって回転制御可能に設置され、所定の回転数で回転する。試料分析用ディスク100は、例えばCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等と同じ直径の円盤形状であり、素材もポリカーボネートなど同様な素材を用いる。
【0021】
試料分析用ディスク100は、別途説明するが、回転による遠心力によって内周に滴下された試料を外周方向に展開し、流路内で抗原−抗体反応による標識用ビーズ110が結合し、試料分析用ディスク100の所定位置に標識用ビーズ110が固定化される。
【0022】
このような試料分析用ディスク100の所定箇所に対し、光スポットを照射し、その反射光を検出するピックアップ部12が、試料分析用ディスク100の半径方向に移動可能に設置されている。試料分析用ディスク100からの反射光はピックアップ部12における光検出部128で電気信号に変換され、変換された信号の一部はサーボ信号検出部13に送られる。
【0023】
サーボ信号検出部13は、ピックアップ部12からの信号から試料分析用ディスク100上に照射する光スポットのFE(フォーカスエラー)信号を生成する。また、試料分析用ディスク100上のトラックに対するTE(トラッキングエラー)信号を生成する。
【0024】
サーボ信号検出部13において生成されたFE信号およびTE信号は、サーボ回路14に送られ、ピックアップ部12における対物レンズ121を2方向に駆動する電磁アクチュエータを制御し、光スポットに対し適切なフォーカス制御及びトラッキング制御を行う。
【0025】
また、ピックアップ部12からの信号のうち第1受光部130Aからの信号は、メインRF信号検出部15に送られる。メインRF信号検出部15では、ピックアップ部12から送られた第1受光部130Aによる4つの信号を広帯域のアンプにより加算し増幅してメインRF信号を生成する。
【0026】
メインRF信号検出部15で生成されたメインRF信号はアドレス検出部16に送られる。試料分析用ディスク100には、標識用ビーズ110が固定化されるグルーブ107及びランド108で形成されるトラックがスパイラル状または同心円状に成型されている。このトラック位置を示すアドレス情報がさらに試料分析用ディスク100には備えられている。例えば、このアドレス情報はトラックの一部を断絶し、そこにアドレスに相当する変調成分が得られるような複数の長さのピットを成型することにより設定ができ、トラックごとの認識信号として取り出せる構造となっている。
【0027】
アドレス検出部16では、メインRF信号からアドレス用ピットによる信号変化を検出して復調することによりアドレス情報を生成する。さらにメインRF信号は標識用ビーズ検出部18にも送られる。
【0028】
また、ピックアップ部12からの信号のうち第2受光部130Bからの信号は、サブRF信号検出部17に送られる。サブRF信号検出部17では、ピックアップ部12から送られた第2受光部130Bによる2つの信号を広帯域のアンプにより加算し増幅してサブRF信号を生成する。サブRF信号検出部17で生成されたサブRF信号も標識用ビーズ検出部18に送られる。
【0029】
標識用ビーズ検出部18では、メインRF信号またはサブRF信号の変化から試料分析用ディスク100に固定化されている標識用ビーズ110を検知する。
【0030】
アドレス検出部16により生成されたアドレス情報は、標識用ビーズ110をカウントしているトラックの位置情報として制御部19に送られる。また標識用ビーズ検出部18においてグルーブ107またはランド108上に固定化された標識用ビーズ110を検出した信号も制御部19に送られ、現在計測しているトラックにおける標識用ビーズ110の数をカウントし、そのトラック情報と共にメモリ部20に記憶される。
【0031】
制御部19は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)により構成される。制御部10は、図示しない操作部による操作に応じた各種制御、光検出部9により出力された検出信号に基づく各種制御等を行う。
【0032】
次に、ピックアップ部12の構成について図2を用いて説明する。光源は、レーザ発振器126を用いている。レーザ発振器126は、レーザダイオードにより構成される。レーザ発振器126から出射されるレーザ光の波長は、標識用ビーズ110の大きさにより適切なものを用いるが、例えば直径が約140nmの標識用ビーズ110を使用する場合には、レーザ光の波長が400nm程度の青紫色レーザを出射するレーザダイオードを使用するのが望ましい。レーザ発振器126は、例えばBlu-ray(BD)ディスクの再生用と同一の波長405nmの半導体レーザ発振器を用いることができる。
【0033】
レーザ発振器126より出射されたレーザ光は、集光レンズ125により平行な光束となる。さらに回折格子124を通過し3本の光束に分けられ、偏光プリズム123を通過する。
【0034】
偏光プリズム123を通過したレーザ光は、波長板122を通過することにより、直線偏光の状態から円偏光に変換され、対物レンズ121により試料分析用ディスク100上に、第1の読み取りスポット150A、第2の読み取りスポット150B、および第3の読み取りスポット150Cからなる3つの読み取りスポットを照射する。
【0035】
対物レンズ121のNA(Numerical aperture:開口数)も標識用ビーズ110の大きさにより適切なものを選択する。例えば、同様に直径が約140nmの標識用ビーズ110を使用する場合には、NAが0.85程度の対物レンズ121を用いることが望ましい。
【0036】
また、第1から第3の読み取りスポットが、試料分析用ディスク100上のグルーブ107およびランド108上に適切に照射されるために、回折格子124は回転調整が施されている。
【0037】
試料分析用ディスク100からの反射光は、波長板122を通過する際に円偏光から往路とは偏光面が90度回転した直線偏光となって、偏光プリズム123で反射し、検出レンズ127を通過して光検出部128で受光される。
【0038】
検出レンズ127は、集光レンズと半円筒型レンズなどの組み合わせによりフォーカスエラーを生成する仕組みとなっている。試料分析用ディスク100上のトラックまたはアドレス用ピット、標識用ビーズ110の検出が球面収差により十分な品質で検出できない場合には集光レンズ125に別の複数のレンズを追加して(図示せず)球面収差補正を行うことにより改善することもできる。
【0039】
光検出部128を構成する受光部130は、図2(b)に示す構成となっており、中央の4分割にした第1の受光部130Aに、第1の読み取りスポット150Aの反射光が照射され、上下の2分割にした第2の受光部130Bおよび第3の受光部130Cには、それぞれ第2の読み取りスポット150Bおよび3の読み取りスポット150Cの反射光が照射される。
【0040】
メインRF信号検出部15によって検出されるメインRF信号、およびサブRF信号検出部17によって検出されるサブRF信号は、受光部130を構成するそれぞれの受光部の分割セル出力の総和で生成され、FE信号及びTE信号は、それぞれの受光部の分割セル出力による演算によって生成される。この演算はサーボ信号検出部13で行われ、FE信号の演算は、受光部130における分割セルの記号で表すと(A+C)−(B+D)の演算で生成され、TE信号は〔(A+D)−(B+C)〕−k・〔(E−F)+(G−H)〕(kは係数)の演算で生成される。
【0041】
次に、本発明の光学的分析装置10によって読み取る、試料分析用ディスク100の構造について、図3から図4を用いて説明する。
【0042】
試料分析用ディスク100は、内周側に複数の注入孔101を、試料分析用ディスク100の中心に対して回転対象に備えられる。注入孔101は、試料を滴下させるための孔であり、その容積は検査に必要な試料を計量する大きさになっている。
【0043】
また、注入孔101の各々からは滴下された試料が流れる流路102が、試料分析用ディスク100の中心から見て放射状に備えられる。さらに、流路102の各々に接続され、試料分析用ディスク100の外周部に位置する検出領域104が備えられる。また、流路102の一部には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0044】
さらに、試料分析用ディスク100の外周部には、検出領域を含むように、光ディスクの信号面と同様の構造である、スパイラル状のグルーブ107が形成されるトラック領域105が備えられる。トラック領域105にグルーブ107が形成されていることにより、試料分析用ディスク100の読み取り面には、図4に示すように、溝となるグルーブ107とランド108とが存在する。
【0045】
図5は、試料分析用ディスク100の断面構造と標識用ビーズ110の読み取り状態を表した模式図である。試料分析用ディスク100の内周側には、深さ100μmから500μmの流路102が形成されており、分析対象の試料が通過する流路102の一部に特定の抗体が修飾された標識用ビーズ110が充填されているビーズ充填部103が備えられる。
【0046】
試料分析用ディスク100を回転させると、注入孔101より滴下された試料は遠心力により抗原−抗体反応のための流路102に導かれる。流路102につながるビーズ充填部103には、試料に含まれる特定の抗原に対して結合する抗体が修飾された標識用ビーズ110が規定量充填されている。
【0047】
標識用ビーズ110は直径が100nmから1μm程度の大きさのポリマー粒子、または内部にフェライト等の磁性材料を含む磁気ビーズ等を用いる。また、金コロイドなどの金属微粒子やシリカビーズ等を用いることも可能である。標識用ビーズ110の直径は、検出に利用する読み取り装置1の光学系により検出に最適な大きさが決定し、読み取り装置1には、既存の光ディスクのドライブ、特に光ピックアップに利用されている部品を利用することが出来るという利点がある。
【0048】
現在一般に普及している光ディスクの読み取り装置の中で、もっとも高解像度のものはBlu-ray Disc(BD)で波長405nmのレーザ光を開口数(NA)0.85の対物レンズでディスク上にスポットを集光させることが出来る。ディスクの信号の最短ピット長は約0.14μmである。したがって、BDの光学系を利用する場合には、標識用ビーズ110の直径が約140nm程度の大きさまで信号として検出することが出来る。
【0049】
また、標識用ビーズ110の表面には試料に含まれる抗原200と特異的に結合する抗体210をあらかじめ結合させておく。抗体210の種類には様々なものがあり、例えばB型肝炎の検査の場合には血液中に含まれるHBs抗原と特異的に結合するHBsAgモノクローナル抗体を修飾しておく。修飾する抗体210の種類は検出する抗原200の種類にあわせ特異的に結合するものを選択する。
【0050】
流路102中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と試料が混合されると、試料に含まれる抗原200が標識用ビーズ110の表面に修飾された抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200の複合物が形成される。
【0051】
この段階で溶液中には試料に含まれる抗原200の量に応じて、抗原200と抗体210が反応した複合物の標識用ビーズ110と、抗原200と反応していない標識用ビーズ110が一定の割合で存在している。さらに試料分析用ディスク100の遠心力により、流路102で反応した溶液を外周部の検出領域104に展開させる。
【0052】
検出領域104は、流路102の底面が接する面が、光ディスクの信号面と同様に、スパイラル状のグルーブ構造となっている。
【0053】
これらの検出領域104には、標識用ビーズ110の表面に修飾したものと同じ種類の抗体210がシランカップリング等の方法で固定されている。検出領域104に展開された溶液に含まれている抗原200、すなわち流路102の中で抗体210が修飾された標識用ビーズ110と反応した複合物は、さらに検出領域104に固定されている抗体210と結合し、標識用ビーズ110、抗体210、抗原200、固相化抗体によるサンドイッチ型の複合物を形成し、検出領域104の基板上に固定化される。抗原200と反応していない標識用ビーズ110は、検出領域104にとどまらず、遠心力によりさらにディスク外周送られ、検出領域104の外に排出される。また、複数設けられている検出領域104には、場所を特定するためのアドレス情報が記録されている。
【0054】
次に、試料分析用ディスク100を用いた試料の分析について、図6に基づき説明する。
【0055】
図6は試料分析用ディスク100上で、抗原200と抗体210が反応した後の複合物の構成を模式的に表した図である。この反応は、ウェルプレートで行われるのと同様の抗原−抗体反応を利用したサンドイッチ法による原理により、試料に含まれる抗原200に計測可能な標識である標識用ビーズ110が付けられた状態で、検出領域104に固定されていることになる。サンドイッチ法は検出対象の絶対量に対して出力がリニアに得られることから定量測定が行いやすい方法として多く用いられている。固定化の方法はこれに限らず、競合法など他の方法を用いることも出来る。
【0056】
次に、試料分析用ディスク100のトラックと読み取りスポットの関係を説明する。図7は、試料分析用ディスクのトラックを形成するグルーブ107(G)とランド108(L)に、第1の読み取りスポット150A(B1)、第2の読み取りスポット150B(B2)及び第3の読み取りスポット150C(B3)が照射されている様子を示した図である。
【0057】
中心に配置されている第1の読み取りスポット150Aを基準としてフォーカスサーボ及びトラッキングサーボがディスクトラックに対して行われる。トラッキングは、第1の読み取りスポット150Aにおいて、グルーブ107を基準とする場合とランド108を基準とする場合のどちらも可能であるが、本実施例ではグルーブ107を基準にトラッキングを行う場合について説明する。ただし、ランド108を基準とした場合も基本は同一である。
【0058】
グルーブ107を基準としてトラッキングを行う場合、グルーブ107に対してトラッキングが調整されると、第1の読み取りスポット150Aはグルーブ107に位置することとなり、第2の読み取りスポット150Bおよび第3の読み取りスポット150Cは、第1の読み取りスポット150Aを挟んで隣接するランド108に位置することとなる。
【0059】
本実施例における計測は、通常1トラックごとに計測を行う。このため、同心円状のトラックが形成されている試料分析用ディスク100の場合には、トラッキングがかけられると、そのまま同一のトラックをトレースすることになる。そこで次のトラックを計測するときにはトラッキングサーボを一時解除してキックパルス信号を入れることにより隣のトラックへジャンプする。
【0060】
この場合でも第1の読み取りスポット150Aは、グルーブ107を基準に制御されるため、図7におけるB1'、B2'およびB3'の位置でトレースを行うことになる。
【0061】
トラックがスパイラル状に形成されている場合には順次トラックを移行するため、1回転中に1度逆方向のキックパルスを付加することによりキックバックして1トラックを連続してトレースすることができる。
【0062】
ここで、図8の様に標識用ビーズ110が試料分析用ディスク100上に固定化されている場合、各読み取りスポットは各標識用ビーズ110上をトレースする。そのときメインRF信号(SB1)およびサブRF信号(SB2、SB3)の出力は図8に示すように、標識用ビーズ110の配置されているタイミングで変化する。これらメインRF信号およびサブRF信号の出力電圧が、所定の閾値以下となったときを、標識用ビーズ検出部18によりカウントすることで、標識用ビーズ検出部18は、標識用ビーズ110の数量を正確に計測することができる。
【0063】
各読取りスポットの大きさは、レーザ発振器126によるレーザ光の波長と対物レンズ121のNAにより決定され、使用する標識用ビーズ110の径との相対的な関係を適切に設定する。このため、メインRF信号およびサブRF信号出力電圧の変化は、光が全反射する場合の最大値と反射光が無くなる最低値の幅に対して十分大きくとることができるため、1個の標識用ビーズ110を的確に計測することが可能である。
【0064】
また、特定のトラックをトレース中に第2の読み取りスポット150Bおよび第3の読み取りスポット150Cによる出力が得られるが、実際には次のトラックにジャンプして読み取るときに、前のトラックの計測における第3の読み取りスポット150Cによる出力と、トラックジャンプ後の計測における第2の読み取りスポット150Bによる出力とが、同一のランド108をトレースすることとなるため、第2の読み取りスポット150Bもしくは第3の読み取りスポット150Cのどちらか一方での計測でよい。
【0065】
どのトラックでカウントしたかはアドレス検出部16で判断され、ある計測トラックにおけるグルーブ107及びランド108に配置された標識用ビーズ110のカウント数が、制御部19で精度良く計算されることになる。
【0066】
グルーブ107およびランド108上に標識用ビーズ110が固定化される場合、グルーブ107に固定化される標識用ビーズ110は、グルーブ107の幅が標識用ビーズ110の直径より少し大きく設定されていれば読取りスポットの中心に対して標識用ビーズ110の中心もほぼ一致した状態で読取ることになる。しかし、ランド108に固定化される場合は標識用ビーズ110の位置を制約するものが無く、ランド108の中心に対して標識用ビーズ110の中心がずれる可能性がある。
【0067】
各読取りスポットはトラッキングサーボにより制御されているため、読み取り各スポットとランド108の中心は一致した状態となる。図9は、ランド108に固定化された標識用ビーズ110の、グルーブ107およびランド108の位置関係を示した図である。
【0068】
例えば図9の様に、グルーブ107内に固定化された標識用ビーズ110は、グルーブ107の幅で規制されて、グルーブ107の中心に配置される。しかし、ランド108上に固定化された標識用ビーズ110は、ランド108の中心に配置されることもあれば、中心からずれた位置に配置されることもある。
【0069】
このため、読み取りスポットの中心に対する標識用ビーズ110の中心が一致した場合にRF信号の変化が最大となり、中心からのずれに従って変化は少なくなっていく。このため、図9に示すように、ランド108上の2つの標識用ビーズ110を検知したときのRF信号変化は異なり、ある閾値を基準としてカウントする場合のカウント誤差が生じる可能性が発生する。
【0070】
そこで、読み取りスポットのトラッキングサーボに任意量のオフセット電圧を加え、トラック上の読み取りスポットがトラック中心に対してデトラックする手段を設けた。デトラックを行うことにより、読み取りスポットの中心とランド108上に固定化された標識用ビーズ110の中心が一致する状態を設定し、その出力信号を検知することによって、RF信号の変化量を最大にすることができる。
【0071】
図10(A)は、グルーブ107およびランド108からなるトラックを上から見たときの概念図であり、例えばランド108上に標識用ビーズ110がランド108の中心であるBead2の位置に固定化された状態、ランド108の中心から図面の上側にずれたBead1の位置に固定化された状態、ランド108の中心から図面の下側にずれたBead3の位置に固定化された状態において、第2の読み取りスポット150Bを、プラス方向(図面の上方向)およびマイナス方向(図面の下方向)にデトラックさせてトレースしたときの出力の様子を図10(B)に示す。
【0072】
図10(B)において、デトラックさせない通常の状態では、ランド108を中心に位置しているBead2の位置で最大振幅を示し、次にズレ分の少ないBead1、一番ズレの大きいBead3の順に振幅が小さくなる。この時の閾値を図10(B)の2点破線に示すように設定すると、デトラックさせないトレースではBead2だけがカウントされる。
【0073】
仮にこの閾値を最大出力レベル近傍とすることにより、全ての出力をカウントする値に設定してしまうと、最大出力レベルの変動や反射率の誤差等により誤カウントの可能性が高くなってしまう。
【0074】
さらに、プラス方向のデトラックの状態では、Bead1が最大振幅を示し、次にBead2、さらにBead3の順に振幅が小さくなる。逆にマイナス方向のデトラックの状態では、Bead3、Bead2、Bead1の順に振幅が小さくなる。この様にデトラックの状態で標識用ビーズ110の位置に従って最大振幅を得られるため、出力とデトラック状態を調べ、閾値を設定することにより正確なカウントを行うことができる。
【0075】
図11は、標識用ビーズ110のカウントを行うときの流れを示したフローチャートである。まず、所定のトラックをトレースするトラッキングサーボをONとする(ステップS1)。トラックがスパイラル形状の場合には、スチルパルスを付加して所定のトラックを連続してトレースできるようにする。
【0076】
次に、所定のトラックにおいて、デトラックさせない通常状態で振幅出力1を計測する(ステップS2)。次いで、デトラックを+方向に発生させ、振幅出力2を計測する(ステップS3)。さらに、デトラックを−方向に発生させ、振幅出力3を計測する(ステップS4)。
【0077】
次に、計測した振幅出力1〜3の値から閾値を算出し設定する(ステップS5)。また、プラス方向およびマイナス方向に対するデトラック量も設定される。次いで、デトラックしない通常状態で閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N1を得る(ステップS6)。次いで、設定されたデトラック+状態において同様に閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N2を得る(ステップS7)。次いで、設定されたデトラック−状態において同様に閾値以下となる出力をカウントし、カウント数N3を得る(ステップS8)。最後に、得られたカウント数N1〜3を加算してランド108上に固定化された標識用ビーズ110の数を得ることができる。
【0078】
以上の様に、複数の読み取り用スポットを使って検出領域のトラックに配置された標識用ビーズ110をグルーブ107内はもちろん、ランド108上に自由に固定化された場合においても正確にカウントすることができ、生体試料に含まれる抗体または抗原の詳細な定量化が可能となる。また。カウントの精度を向上させることにより、低濃度の抗体または抗原についても把握することが可能となり、検査能力、応用範囲の拡大を図ることができる。
【符号の説明】
【0079】
10:光学的分析装置、11:スピンドルモータ、12ピックアップ部、13:サーボ信号検出部、14:サーボ回路、15:メインRF信号検出部、16:アドレス検出部、17:サブRF信号検出部、18:標識用ビーズ検出部、19:制御部、20:メモリ部、121:対物レンズ、122:波長板、123:偏光プリズム、124:回折格子、125:集光レンズ、126:レーザ発振器、127:検出レンズ、128:光検出部、130:受光部、130A:第1受光部、130B:第2受光部、130C:第3受光部、200:抗原、210:抗体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料分析用ディスクに設けられたグルーブまたはランドによって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、その反射光を取得するピックアップ部、
前記ピックアップ部により取得した、前記第一のトラック、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックからの反射光を同時に検出する反射光検出部、
前記反射光検出部によって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部、
を備えることを特徴とする、光学的分析装置。
【請求項2】
前記試料検出部は、前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記反射光検出部による前記試料分析用ディスクの半径方向における読み取り方向とは反対の方向において前記第一のトラックに隣接する前記第二のトラックまたは前記第三のトラックにおける反射光の変動によって、前記料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする、
請求項1に記載の光学的分析装置。
【請求項3】
前記第一のトラックは前記グルーブによって構成されるトラックであり、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックは前記ランドによって構成されるトラックであることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の光学的分析装置。
【請求項4】
前記反射光検出部は、前記第二のトラックまたは前記第三のトラックに対して、トラック上の読み取り位置がトラックの中心である場合と、トラック上の読み取り位置をトラック中心から所定量ずらした状態における反射光を検出し、
前記試料検出部は、トラックの中心における反射光の変動およびトラックの中心から所定量ずらした状態での反射光の変動によって、前記料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする、
請求億3に記載の光学的分析装置。
【請求項5】
試料分析用ディスクに設けられたグルーブまたはランドによって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、各トラックからの反射光を同時に検出する反射光検出ステップ、
前記反射光検出ステップによって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出する試料検出ステップ、
を備えることを特徴とする、光学的分析方法。
【請求項1】
試料分析用ディスクに設けられたグルーブまたはランドによって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、その反射光を取得するピックアップ部、
前記ピックアップ部により取得した、前記第一のトラック、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックからの反射光を同時に検出する反射光検出部、
前記反射光検出部によって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出する試料検出部、
を備えることを特徴とする、光学的分析装置。
【請求項2】
前記試料検出部は、前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記反射光検出部による前記試料分析用ディスクの半径方向における読み取り方向とは反対の方向において前記第一のトラックに隣接する前記第二のトラックまたは前記第三のトラックにおける反射光の変動によって、前記料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする、
請求項1に記載の光学的分析装置。
【請求項3】
前記第一のトラックは前記グルーブによって構成されるトラックであり、前記第二のトラックおよび前記第三のトラックは前記ランドによって構成されるトラックであることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の光学的分析装置。
【請求項4】
前記反射光検出部は、前記第二のトラックまたは前記第三のトラックに対して、トラック上の読み取り位置がトラックの中心である場合と、トラック上の読み取り位置をトラック中心から所定量ずらした状態における反射光を検出し、
前記試料検出部は、トラックの中心における反射光の変動およびトラックの中心から所定量ずらした状態での反射光の変動によって、前記料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出することを特徴とする、
請求億3に記載の光学的分析装置。
【請求項5】
試料分析用ディスクに設けられたグルーブまたはランドによって構成される第一のトラック、および前記第一のトラックを挟んで隣接する第二のトラックと第三のトラックに対してレーザ光を照射し、各トラックからの反射光を同時に検出する反射光検出ステップ、
前記反射光検出ステップによって検出された前記第一のトラックにおける反射光の変動、および前記第二のトラックまたは第三のトラックのいずれかにおける反射光の変動によって、前記試料分析用ディスク上に固定化された標識用ビーズに結合した生体高分子の数量を検出する試料検出ステップ、
を備えることを特徴とする、光学的分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−237711(P2012−237711A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108256(P2011−108256)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]