説明

光学箱ハウジング

【課題】優れた制振・静音化性能を示し、寸法精度、剛性に優れ、さらには耐熱性、難燃性に優れる光学箱ハウジングを提供すること。
【解決手段】本発明の光学箱ハウジングは、樹脂組成物を成形して得られる光学箱ハウジングであって、前記樹脂組成物が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分と鱗片状無機フィラーとを含有し、前記樹脂組成物における鱗片状無機フィラーの含有量が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、40〜110質量部であり、前記樹脂組成物が下記(a)〜(c)の特性を有する。(a)損失係数(η)が0.03以上。(b)線膨張係数の異方性が1.6以下。(c)曲げ弾性率が5000MPa以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学箱ハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターは、レーザー光を感光ドラム上に走査することによって印刷を行う。この印刷における重要な役割を果たす部品として光学箱がレーザービームプリンターに設けられている。光学箱の中には、高速回転する回転多面鏡であるポリゴンミラーやレンズ類等が組み込まれている。これらポリゴンミラーやレンズ類によってレーザー光が所定の位置に走査される。したがって、この光学箱のハウジングには、レーザー光が所定の位置に走査されるように、寸法精度と剛性とが要求され、さらにポリゴンミラーの回転に起因する振動を抑制するための制振性が要求されている。
【0003】
近年、プリンターの印刷速度の向上が求められている。プリンターの印刷速度の向上のためには、光学箱に設置されているポリゴンミラーを高速で回転させることが必須である。ポリゴンミラーの回転の高速化に伴って、それに起因する光学箱の振動の低減や光学箱の振動により発生する音の低減もより高いレベルでの性能が求められている。一方で、大型ポスターなどに対応するためのプリンターの大型化や、カラープリンターの場合には通常各色ごとに設けられていた光学箱を一体化させるためなどの目的で、光学箱自体の大型化が求められている。光学箱の大型化に伴い、光学箱のハウジングにはこれまで以上の寸法精度や剛性も要求されるようになってきている。したがって、近年のプリンターの高速化と光学箱の大型化という要求に伴って、光学箱のハウジングとしては、より高いレベルでの制振性、寸法精度、剛性が求められている。
【0004】
光学箱の振動を低減する方法としては、光学箱に重りを取り付ける方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
またOA機器のシャーシ部品に制振性を有したポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂組成物を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−298241号公報
【特許文献2】特開平11−140298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術によると、形状に制約がある場合があり、コストアップにもつながるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されている技術は、OA機器のシャーシ部品に関するものであり、光学箱という高いレベルでの特性を示すには至っていない。一例としてガラス繊維を配合した材料や非強化の材料が例示されているが、光学箱のハウジング用としては、寸法精度、剛性の面でも課題を有している。
【0009】
上述したように、従来の技術において、制振・静音化性能、寸法精度、剛性を高いレベルで満足する樹脂組成物は得られておらず、上述のプリンターの高速化や光学箱の大型化に対応し得る光学箱のハウジングの開発要求が高まっている。
【0010】
そこで本発明においては、優れた制振・静音化性能、寸法精度、剛性を有し、さらには耐熱性、難燃性にも優れ、プリンターの高速化や光学箱の大型化に対応し得る光学箱のハウジングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、非晶性熱可塑性樹脂と鱗片状フィラーとを特定量含有し、特定の物性(特定温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)、線膨張係数の異方性、および曲げ弾性率)が所定の数値範囲である樹脂組成物を用いることにより、優れた制振・静音化性能、寸法精度、剛性を有する光学箱ハウジングとすることができ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
〔1〕
樹脂組成物を成形して得られる光学箱ハウジングであって、
前記樹脂組成物が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分と鱗片状無機フィラーとを含有し、
前記樹脂組成物における鱗片状無機フィラーの含有量が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、40〜110質量部であり、
前記樹脂組成物が下記(a)〜(c)の特性を有する、光学箱ハウジング;
(a)23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03以上、
(b)樹脂の流動方向の線膨張係数と、樹脂の流動と直角方向の線膨張係数との比(流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数)で示される異方性が1.6以下、
(c)ISO178による23℃での曲げ弾性率が5000MPa以上。
【0014】
〔2〕
前記鱗片状無機フィラーが、ガラスフレーク、マイカおよびタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記〔1〕に記載の光学箱ハウジング。
【0015】
〔3〕
前記非晶性熱可塑性が、ポリカーボネート系樹脂またはポリフェニレンエーテル系樹脂である前記〔1〕または〔2〕に記載の光学箱ハウジング。
【0016】
〔4〕
前記樹脂組成物における樹脂成分が、ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部と、下記水添共重合体:10〜30質量部とを含有する前記〔1〕または〔2〕に記載の光学箱ハウジング;
〔水添共重合体〕
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた制振・静音化性能を示し、寸法精度、剛性に優れ、さらに耐熱性、難燃性にも優れた光学箱ハウジングが提供できる。本発明の光学箱ハウジングは、プリンターの高速化、光学箱の大型化のいずれにも適用できる優れた光学箱ハウジングである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。
【0019】
本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0020】
《光学箱ハウジング》
本実施形態の光学箱ハウジングは、樹脂組成物を成形して得られる光学箱ハウジングであって、前記樹脂組成物が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分と鱗片状無機フィラーとを含有し、前記樹脂組成物における鱗片状無機フィラーの含有量が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、40〜110質量部であり、前記樹脂組成物が下記(a)〜(c)の特性を有する。
(a)23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が、0.03以上、
(b)樹脂の流動方向の線膨張係数と、樹脂の流動と直角方向の線膨張係数との比(流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数)で示される異方性が1.6以下、
(c)ISO178による23℃での曲げ弾性率が5000MPa以上。
【0021】
(樹脂組成物の特性)
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、上記(a)〜(c)の3つの特性を同時に有する。このような特性を有する樹脂組成物を用いることによって初めてプリンターの高速化、光学箱の大型化のいずれにも適用できる優れた光学箱を提供することが可能となる。
【0022】
<損失係数>
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)(以下、単に「損失係数」とも記す。)が0.03以上である。
【0023】
損失係数の値は、具体的には、JIS G0602−1993に記載されている方法に従い、以下のようにして求めることができる。まず、試験片として127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片を作製する。23℃の条件下で、片端固定定常加振法により短冊試験片を電磁加振させ、その応答速度を読み、伝達関数を得る。次に、その2次共振ピークの絶対値から3dB下がった点での周波数を読み、半値幅法により損失係数を求めることができる。短冊試験片として、樹脂組成物の成形体を、上記の形状(127mm×12.7mm×3.2mm)に切削したものを用いることもできる。
【0024】
樹脂組成物の損失係数が0.03以上であると、得られる光学箱ハウジングにおいて、優れた制振・静音化性能を発揮し、光学箱の振動および光学箱から発生する騒音の低減化を図ることができる。より好ましい樹脂組成物の損失係数の値は0.04以上である。樹脂組成物の損失係数の上限は、特に限定されないが、例えば、0.1以下である。
【0025】
樹脂組成物の損失係数を0.03以上とする方法としては、例えば、樹脂組成物中にエラストマー成分を配合する方法、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂を配合する方法や、あるいは成形体を発泡させる方法が挙げられる。エラストマー成分としては、例えば、後述の水添共重合体が挙げられる。
【0026】
<線膨張係数およびその異方性>
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、樹脂の流動方向の線膨張係数と、樹脂の流動と直角方向の線膨張係数との比(流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数)で示される異方性(以下、単に「線膨張係数の異方性」とも記す。)が1.6以下である。
【0027】
線膨張係数は、ASTM1号ダンベル試験片を成形し、該試験片を用いて、ASTM D−696に準拠した熱機械分析法(TMA法)により測定することができる。具体的には、以下のようにして線膨張係数を測定することができる。まず、樹脂組成物から射出成形によりASTM1号ダンベル試験片を作成する。作成したASTM1号ダンベル試験片の中央部から切り出した試験片3mm×3mm×10mmを、熱機械分析装置(TMA)を用いて−35℃から毎分5℃で65℃まで昇温して長さの変移量から線膨張係数を測定することができる。試験片として、樹脂組成物の成形体を、上記の形状(3mm×3mm×10mm)に切削したものを用いることもできる。
【0028】
線膨張係数の異方性は、流動方向の線膨張係数と流動直角方向の線膨張係数との比(流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数)である。
【0029】
ここで、流動方向の線膨張係数とは、樹脂組成物の射出成形時にゲートから金型内に樹脂が射出されて流動する方向となる流動方向のサンプルを用いて測定した線膨張係数を意味する。また、流動直角方向の線膨張係数とは、前記樹脂の流動方向と直角の方向のサンプルを用いて測定した線膨張係数を意味する。
【0030】
樹脂組成物の線膨張係数の異方性は、1.6以下であり、好ましくは、1.4以下である。樹脂組成物の線膨張係数の異方性の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0以上である。樹脂組成物の線膨張係数の異方性が1.6以下であると、反りの少ない、優れた寸法精度を有した光学箱ハウジングを得ることができる。
【0031】
樹脂組成物の線膨張係数の異方性を1.6以下にする方法としては、例えば樹脂組成物中に繊維状のフィラーを配合しない方法を挙げることができる。
【0032】
<曲げ弾性率>
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、ISO178による23℃での曲げ弾性率(以下、単に「曲げ弾性率」とも記す。)が5000MPa以上である。
【0033】
曲げ弾性率は、ISO178の規定に従って、23℃の温度条件で測定することができる。試験片としては、樹脂組成物から射出成形して得ることができ、また樹脂組成物の成形体を所定の形状に切削したものを用いることもできる。
【0034】
樹脂組成物の曲げ弾性率は、5000MPa以上であり、6000MPa以上であることが好ましい。樹脂組成物の曲げ弾性率の上限は、特に限定されないが、例えば、15000MPa以下である。樹脂組成物の曲げ弾性率が5000MPa以上であると、大型形状にも対応が可能な剛性を有した光学箱ハウジングを得ることができる。樹脂組成物の曲げ弾性率を5000MPa以上とする方法としては、樹脂組成物中にフィラーを配合する方法を挙げることができる。
【0035】
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、上記損失係数、線膨張係数の異方性、および曲げ弾性率を同時に満たす。上述の通り、樹脂組成物の損失係数を上げるために、樹脂組成物中にエラストマー成分を配合する方法、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂を配合する方法や材料を発泡させる方法を行うと、一般には樹脂組成物の曲げ弾性率が低下する傾向にある。ここで樹脂組成物の曲げ弾性率を上げるために、一般的に用いられる方法として樹脂組成物中にガラス繊維等の繊維状の無機フィラーを配合する方法を行うと、樹脂組成物の線膨張係数の異方性が大きくなってしまう。これら相反する3つの特性を同時に満足する材料はこれまで提案されていなかった。
【0036】
(樹脂組成物)
本実施形態の光学箱ハウジングは、以下に示す特定の樹脂組成物を成形することによって得ることができる。該樹脂組成物は、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分と鱗片状無機フィラーとを含有する。以下、当該樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0037】
<非晶性熱可塑性樹脂>
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物中の樹脂成分は、非晶性熱可塑性樹脂を含む。樹脂組成物中の樹脂成分が非晶性樹脂を含むことにより、得られる光学箱ハウジングに高い制振性と高い寸法精度(線膨張係数の異方性)とを付与することが出来るようになる。
【0038】
樹脂成分中の非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、40〜100質量部であることが好ましく、60〜100質量部であることがより好ましく、80〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ゴム補強のポリスチレン樹脂(ハイインパクト−ポリスチレン樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(以下「ABS樹脂」とも記す。)等のスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイ、ポリカーボネート樹脂/ポリブチレンテレフタレート樹脂アロイ等のポリカーボネート系樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリプロピレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリフェニレンサルファイド樹脂アロイ等のポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。
【0040】
非晶性熱可塑性樹脂としては、特に、耐熱性、寸法精度、難燃性の観点から、ガラス転移温度が高く、比較的難燃化が容易である樹脂が望ましく、ポリカーボネート系樹脂またはポリフェニレンエーテル系樹脂であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイまたはポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイであることがより好ましい。更に軽量化も可能となるという観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂アロイ、ポリフェニレンエーテル樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイまたはポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂/ハイインパクト−ポリスチレン樹脂アロイが特に好ましい。
【0041】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネートや、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネート樹脂は、いかなる製造方法によって製造されたものでもよい。界面重縮合でポリカーボネート樹脂を製造する場合は、通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。また、ポリカーボネート樹脂は、3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族もしくは脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0042】
また、ポリカーボネート樹脂には、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を含むことが可能である。ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、AS樹脂またはABS樹脂の含有量は、5〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。このような配合範囲のポリカーボネート系樹脂を含む樹脂組成物は、耐熱性、難燃性が良好となる傾向にある。
【0043】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂]
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を有する単独重合体、あるいは共重合体を含む。
【0044】
【化1】

【0045】
【化2】

(一般式(1)および(2)中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は各々独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜9のアリール基またはハロゲン原子を表す。但し、R5およびR6は同時に水素ではない。)
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−14−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテルポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0046】
ポリフェニレンエーテル共重合体とは、一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を主たる繰返し単位とする共重合体である。その例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールおよびo−クレゾールとの共重合体等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。日本国特許昭63−301222号公開公報等に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等を部分構造として含んでいるポリフェニレンエーテルは特に好ましい。
【0047】
ポリフェニレンエーテルの還元粘度(単位dl/g、クロロホルム溶液、30℃測定)は、好ましくは0.25〜0.6の範囲、より好ましくは0.35〜0.55の範囲である。
【0048】
ポリフェニレンエーテル系樹脂として、ポリフェニレンエーテルの一部または全部が不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリフェニレンエーテルを用いることができる。この変性ポリフェニレンエーテルは、日本国特許平2−276823号公開公報(米国特許5159027号、35695号)、日本国特許昭63−108059号公開公報(米国特許5214109号、5216089号)、日本国特許昭59−59724号公開公報等に記載されている。変性ポリフェニレンエーテルは、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下において、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその誘導体を溶融混練して反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテルと、不飽和カルボン酸やその誘導体とをラジカル開始剤存在下または非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
【0049】
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸などや、これらジカルボン酸の酸無水物、エステル、アミド、イミドなど、さらにはアクリル酸、メタクリル酸などや、これらモノカルボン酸のエステル、アミドなどが挙げられる。また、飽和カルボン酸であるが、変性ポリフェニレンエーテルを製造する際の反応温度でそれ自身が熱分解し、本実施形態で用いる誘導体となり得る化合物も用いることができる。具体的にはリンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
<鱗片状無機フィラー>
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物は、鱗片状無機フィラーを含有する。前記樹脂組成物における鱗片状無機フィラーの含有量は、上述した非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、40〜110質量部であり、60〜100質量部であることが好ましい。また2種類以上の鱗片状フィラー併用をして配合することも可能である。
【0051】
鱗片状無機フィラーを含有することにより、寸法精度の向上、および剛性向上を同時に満足するという効果が得られる。
【0052】
鱗片状無機フィラーとしては、ガラスフレーク、マイカおよびタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。ガラスフレークの形状としては、鱗片状のもので、樹脂成分中に配合後および成形品中における長径が、好ましくは1000μm以下、より好ましくは1〜500μmの範囲であり、且つアスペクト比(長径/厚み)が、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは30以上のものが好適である。該ガラスフレークは、市販されているものをそのまま用いることができるが、樹脂成分中に配合する際に適宜粉砕して用いてもよい。上記ガラスフレークは、樹脂成分との親和性を改良する目的で、例えばシラン系やチタネート系等の種々のカップリング剤で処理したガラスフレークを使用できる。
【0053】
なお、ガラスフレークの長径およびアスペクト比は、ガラスフレークの顕微鏡観察後、画像解析を行うことにより測定できる。
【0054】
また、マイカについては、鱗片状のもので、スゾライト・マイカ(登録商標)が好適に使用できる。マイカとしては、樹脂成分中に配合後および成形品中における長径が、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは200μm以下のものが好適で、重量平均アスペクト比(マイカの平均直径/平均厚み)が、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは100以上のもが剛性賦与の点で良い。前記マイカは、樹脂成分との親和性を改良するため、カップリング剤で表面処理したマイカが特に良好に使用できる。
【0055】
なお、マイカの長径および重量平均アスペクト比は、マイカの顕微鏡観察後、画像解析を行うことにより測定できる。
【0056】
更にタルクの重量平均粒径は、20μm以下であることが好ましい。タルクの重量平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0057】
<樹脂組成物を構成するその他の材料>
本実施形態の光学箱ハウジングは、前述の通り、樹脂組成物にエラストマー成分を配合することにより樹脂組成物の損失係数を向上させることができ、高い制振性を有する。一方で、同時に高い剛性や寸法精度を付与する観点からは、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分として、以下の水添共重合体が含まれていることが好ましい。
【0058】
〔水添共重合体〕
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる、非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体(以下、単に「水添共重合体」とも称す。)。
【0059】
水添共重合体の量は、前記樹脂組成物における樹脂成分が、非晶性熱可塑性樹脂70〜90質量部と、上記水添共重合体10〜30質量部とを含有する(ただし、非晶性熱可塑性樹脂及び水添共重合体の合計を100質量部とする。)ことが好ましい。
【0060】
特に、非晶性熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル系樹脂である場合には、樹脂成分として上記水添共重合体を含有させると、制振性の向上の効果が大きくなり、さらに難燃性も付与しやすくなる。
【0061】
ポリフェニレンエーテル系樹脂および上記水添共重合体の含有量に関しては、本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物の損失係数の向上を図り機械的強度とのバランスを良好なものとする観点から、ポリフェニレンエーテル系樹脂70〜90質量部、水添共重合体10〜30質量部であることが好ましく、より好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂75〜90質量部、水添共重合体10〜25質量部、さらに好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂80〜90質量部、水添共重合体10〜20質量部である。
【0062】
〔難燃剤〕
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物には、難燃性を向上させるために、樹脂成分として難燃剤が含有されていることが好ましい。難燃剤としては、通常の熱可塑性樹脂に添加される難燃剤を使用できるが、ハロゲンを含まない有機リン系の難燃剤を添加することが好ましい。
【0063】
有機リン系の難燃剤としては、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物などが挙げられる。
【0064】
リン酸エステル化合物は、難燃性を向上するのに添加されるものであり、難燃剤として一般的に用いられる有機リン酸エステルであればいずれも用いることができる。
【0065】
リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルフォスフェート、トリスノニルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるがこれらに制限されることはない。さらに上記以外にリン系難燃剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、およびビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、フェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、および芳香族縮合リン酸エステル化合物などが挙げられる。
【0066】
これらの中、加工時のガス発生が少なく、熱安定性などに優れることから芳香族縮合リン酸エステル化合物が好適に用いられる。
【0067】
本実施形態に用いる難燃剤として、好ましいのは、下記一般式(I)または下記一般式(II)で示されるリン酸エステル系化合物(縮合リン酸エステル)である。特に好ましいのは、下記一般式(I)で示されるリン酸エステル系化合物(縮合リン酸エステル)である。
【0068】
【化3】

【0069】
【化4】

(一般式(I)および(II)中、Q1、Q2、Q3およびQ4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R11およびR12は各々メチル基を表し、R13およびR14は各々独立に水素原子またはメチル基を表し、nは1以上の整数であり、n1およびn2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3およびm4は各々独立に0から3の整数を示す。)
上記一般式(I)および(II)で示される縮合リン酸エステルは、それぞれの分子において、nは1以上の整数、好ましくは1から3の整数である。
【0070】
上記一般式(I)および(II)で示される縮合リン酸エステルにおいて、好ましい縮合リン酸エステルは、式(I)におけるm1、m2、m3、m4、n1およびn2がゼロであって、R13およびR14がメチル基である縮合リン酸エステル、または式(I)におけるQ1、Q2、Q3、Q4、R13およびR14がメチル基であり、n1およびn2がゼロでありm1、m2、m3およびm4が1から3の整数の縮合リン酸エステルであって、nの範囲が1から3の整数、特にnが1であるリン酸エステルを50質量%以上含有するものが好ましい。
【0071】
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物は、一般に市販されており、例えば、大八化学工業(株)のCR741、CR733S、PX200、(株)ADEKAのFP600、FP700、FP800などが知られている。
【0072】
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物で特に好ましいのは、熱安定性の観点から、酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)の芳香族縮合リン酸エステル化合物である。
【0073】
また、ホスファゼン化合物としては、フェノキシホスファゼンおよびその架橋体が好ましく、特に好ましいのは、熱安定性の観点から、酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)のフェノキシホスファゼン化合物である。
【0074】
難燃剤の含有量は、必要な難燃性レベルにより異なるが、樹脂成分100質量部中、5〜30質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜25質量部の範囲である。難燃剤の含有量が、5質量部以上であると、樹脂組成物の難燃性が優れ、30質量部以下であると、樹脂組成物の難燃性が充分であり、30質量部を超えると樹脂組成物の耐熱性を低下させる。
【0075】
なお、本実施形態においては、上述の水添共重合体および難燃剤は、樹脂成分として含めるものとする。
【0076】
〔その他の添加剤〕
本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物には、上述した各種材料の他、必要に応じて、通常の熱可塑性樹脂に添加される各種添加剤、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、染料、顔料等を含有させてもよい。
【0077】
(樹脂組成物の調製方法)
本実施形態に用いる樹脂組成物は、原料成分を押出機で溶融混練することにより得られることが好ましい。溶融混練の条件は、用いる樹脂種によって適宜調整可能であるが、本実施形態に用いる押出機は、異方向回転または同方向回転の二軸押出機が好適である。押出機は押出機の途中に材料を添加できる装置(サイドフィード)を備えていることが好ましく、これが複数備えていることがより好ましい。
【0078】
本実施形態に用いる樹脂組成物の原料成分の配合方法としては、非晶性熱可塑性樹脂を押出機の上流から添加し、鱗片状無機フィラーを第1サイドフィードから添加する方法が好ましい。この方法により、鱗片状無機フィラーの粉砕を抑えることができ、樹脂組成物の剛性低下を防止することができる。
【0079】
また、溶融混練時の樹脂温度を290〜330℃の範囲に調整できるように、バレル温度やスクリュー回転数、吐出量などを調整することが好ましい。このような方法で溶融混練することにより、混練性を高め、かつ樹脂の劣化を抑えることができ、本実施形態の光学箱ハウジングを形成する樹脂組成物を得ることができる。
【0080】
《本実施形態の光学箱ハウジングの製造方法》
本実施形態の光学箱ハウジングは、上述した樹脂組成物を用いて、従来公知の方法により成形できる。
【0081】
例えば、射出成形、インジェクションプレス成形、ガスインジェクション成形、コンプレッション成形等の公知の方法により成形できる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0083】
実施例および比較例において使用した成分を示す。
【0084】
〔(1)非晶性熱可塑性樹脂〕
<i>ポリフェニレンエーテル樹脂
極限粘度が0.52(30℃、クロロホルム中)であるポリ2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル。
【0085】
<ii>ハイインパクト−ポリスチレン樹脂
PSJポリスチレンH9405(PSジャパン社製)。
【0086】
<iii>ポリスチレン樹脂
PSJポリスチレン685(PSジャパン社製)。
【0087】
<iv>ポリカーボネート樹脂
パンライトK−1300(帝人化成社製)。
【0088】
〔(2)水添共重合体〕
水添共重合体は、下記のように、所定の共重合体に対して水素添加を行うことにより製造した。
【0089】
<水添触媒の調製>
水添反応に用いる水添触媒は、下記のようにして製造した。
【0090】
窒素置換した反応容器において、乾燥および精製処理を施したシクロヘキサン2リットルを仕込み、ビス(η−シクロペンタジエニル)−ジ−p−トリルチタニウム40ミリモルと、分子量が約1,000の1,2−ポリブタジエン(1,2−ビニル結合量約85%)150グラムとを溶解した。
【0091】
その後、反応容器にn−ブチルリチウム60ミリモルを含むシクロヘキサン溶液を添加して、室温で5分反応させた。
【0092】
直ちに、反応容器にn−ブタノール40ミリモルを添加して攪拌することにより、水添触媒を得た。
【0093】
<水添共重合体の作製>
内容積が10リットルの攪拌装置およびジャケットを具備する槽型反応器を用いて、水添共重合体を下記のようにして製造した。
【0094】
シクロヘキサン10質量部を槽型反応器に仕込んで温度80℃に調整した。
【0095】
その後、槽型反応器にn−ブチルリチウムを全モノマー(槽型反応器に投入するブタジエンモノマーおよびスチレンモノマーの総量)の重量に対して0.076質量%、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンをn−ブチルリチウム1モルに対して0.4モル添加した。その後、槽型反応器にモノマーとしてスチレン11質量部を含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を約6分間かけて添加し、槽型反応器の内温を約80℃に調整しながら30分間反応を行った。
【0096】
次に、ブタジエン33質量部とスチレン56質量部とを含有するシクロヘキサン溶液(モノマー濃度22質量%)を、60分間かけて一定速度で連続的に槽型反応器に供給した。この間、槽型反応器の内温は、約80℃になるように調整し、ブロック共重合体を得た。
【0097】
得られたブロック共重合体のスチレン含有量は67質量%であり、スチレン重合体ブロックの含有量は11質量%、ブタジエン部のビニル結合量は18質量%であった。
【0098】
次に、得られたブロック共重合体に、使用したn−ブチルリチウム1モルに対してジメチルジクロロシラン0.6モル添加し、10分間カップリング反応を行った。
【0099】
次に、上述した水添触媒をブロック共重合体の重量に対してチタンとして100重量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。
【0100】
水添反応終了後にメタノールを添加し、次に、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートをブロック共重合体の重量に対して0.3質量%添加し、水添共重合体を得た。
【0101】
得られた水添共重合体の、重量平均分子量は20万、水添率は99%、tanδ(損失正接)のピーク温度は10℃であった。
【0102】
なお、水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、水添ブロック共重合体の水添率は、核磁気共鳴装置により測定し、水添ブロック共重合体のtanδ(損失正接)のピーク温度は、粘弾性測定解析装置により測定した。また、得られた水添ブロック共重合体について示差走査熱量測定(DSC測定)を行った結果、結晶化ピークは無かった。
【0103】
〔(3)鱗片状無機フィラー〕
<i>ガラスフレーク
マイクログラスフレカREFG−302(日本板硝子製)。
【0104】
<ii>マイカ
スゾライト・マイカ200KI(株式会社クラレ社製)。
【0105】
<iii>タルク
ハイトロンA(竹内化学工業社製)。
【0106】
〔(4)繊維状無機フィラー〕
ガラス繊維
RES03−TPO15(日本板硝子社製)。
【0107】
〔(5)難燃剤〕
芳香族燐酸エステル系難燃剤
CR741(大八化学製)。
【0108】
〔実施例1〜5、比較例2〜4〕
(樹脂組成物ペレットの調製)
下記表1に示す配合組成に従い、各成分を温度290〜320℃、スクリュー回転数500rpmに設定した二軸押出機(「ZSK−40」、WERNER&PFLEIDERE社製)を用いて溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0109】
(樹脂組成物評価用のテストピースおよび平板成形品の作製)
得られた樹脂組成物ペレットを用いて、シリンダー温度280〜300℃、金型温度60〜80℃の条件で、射出成形を行い、各試験項目にて規定された形状のテストピース(試験片)および150mm×150mm×2mmの平板成形品(平板の幅方向の中央部、上端から10mmの部分にφ2mmのピンゲート)を作製した。
【0110】
〔比較例1〕
樹脂組成物ペレットに代えて、ガラス繊維30%強化ポリブチレンテレフタレート樹脂(「ノバデュラン5010GN1−30」三菱エンジニアリングプラスチック社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてテストピース(試験片)および平板成形品を作製した。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂である。
【0111】
《試験および評価》
実施例1〜5、比較例1〜4で作製したテストピース(試験片)および平板成形品を用いて、下記の方法により試験および評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0112】
〔(1)樹脂組成物の特性〕
<i>損失係数(η)
JIS G0602−1993に準拠して測定を行った。
【0113】
すなわち、23℃の条件下で、損失係数測定装置(松下インターテクノ社製)を用い、片端固定定常加振法により試験片(127mm×12.7mm×3.2mmの短冊試験片)を電磁加振させ、その応答速度を読み、伝達関数を得た。
【0114】
次に、その2次共振ピークの絶対値から3dB下がった点での周波数を読み、半値幅法から損失係数(η)を求めた。
【0115】
損失係数(η)の値が大きいほど、制振・静音化性能に優れると評価した。
【0116】
<ii>線膨張係数
ASTM D−696に準拠して熱機械分析法(TMA法)により測定した。測定温度範囲:−35〜65℃。
【0117】
具体的には、樹脂組成物を射出成形することにより得られたASTM1号ダンベル試験片の中央部から試験片3mm×3mm×10mmを切り出し、該試験片について、熱機械分析装置(TMA)を用いて−35℃から毎分5℃で65℃まで昇温して長さの変移量から線膨張係数を測定した。
【0118】
<iii>線膨張係数の異方性
流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数にて算出した。異方性の数値が小さいほど反り等の寸法精度が良好と評価した。
【0119】
<iv>曲げ弾性率
ISO178に準拠して、23℃の温度条件下で測定した。曲げ弾性率の値が大きいほど剛性に優れると評価した。
【0120】
<v>荷重たわみ温度
ISO75−1に準拠して、荷重を1.80MPaとして測定した。荷重たわみ温度が高いほど耐熱性に優れると評価した。
【0121】
<vi>難燃性
UL94に準拠して難燃性の評価を実施した。
【0122】
試験片厚みを1.6mmとした。
【0123】
〔(2)成形品の寸法精度の評価〕
150mm×150mm×2mm平板成形品の平面度の測定を行った。平面度の測定は、三次元測定器を用いて実施した。
【0124】
【表1】

前記表1に示すように、実施例1〜5においては、いずれも優れた制振・静音化性能、寸法精度、剛性、耐熱性を有していた。さらに実施例1〜4に示すように、難燃剤を添加することにより、優れた難燃性を示しており、光学箱のハウジングとして優れた性能を示すことが分かった。
【0125】
鱗片状無機フィラーを用いていない、比較例1および3においては、寸法精度(平面度)が悪く、光学箱のハウジングとしての性能を満足することは困難であることが分かった。また、フィラーを配合していない比較例2においては、剛性が低く、光学箱のハウジングとしての性能を満足しないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の光学箱ハウジングは、プリンターの構成部品として産業上利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を成形して得られる光学箱ハウジングであって、
前記樹脂組成物が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分と鱗片状無機フィラーとを含有し、
前記樹脂組成物における鱗片状無機フィラーの含有量が、非晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂成分100質量部に対して、40〜110質量部であり、
前記樹脂組成物が下記(a)〜(c)の特性を有する、光学箱ハウジング;
(a)23℃の温度条件下で、片端固定定常加振法において、半値幅法により測定した2次共振ピークの損失係数(η)が0.03以上、
(b)樹脂の流動方向の線膨張係数と、樹脂の流動と直角方向の線膨張係数との比(流動直角方向の線膨張係数/流動方向の線膨張係数)で示される異方性が1.6以下、
(c)ISO178による23℃での曲げ弾性率が5000MPa以上。
【請求項2】
前記鱗片状無機フィラーが、ガラスフレーク、マイカおよびタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の光学箱ハウジング。
【請求項3】
前記非晶性熱可塑性が、ポリカーボネート系樹脂またはポリフェニレンエーテル系樹脂である請求項1または2に記載の光学箱ハウジング。
【請求項4】
前記樹脂組成物における樹脂成分が、ポリフェニレンエーテル系樹脂:70〜90質量部と、下記水添共重合体:10〜30質量部とを含有する請求項1または2に記載の光学箱ハウジング;
〔水添共重合体〕
カップリング構造を有する、共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添共重合体であって、かつ共役ジエン単量体単位とビニル芳香族単量体単位とからなる非水添のランダム共重合体ブロックを水素添加して得られる水添ランダム共重合体ブロックを有する水添共重合体。

【公開番号】特開2013−29662(P2013−29662A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165559(P2011−165559)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】