説明

光学素子および投射型液晶表示装置

【課題】低い反射率、高い偏光度、および、高い透過率を併せ持つ両面が低反射性の光学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の光学素子は、基材1と、前記基材1上に形成された積層体で構成される複数の金属突起物と、を備え、前記積層体は、前記基材1上の第一吸収性材料でなる第一吸収性材料層10、前記第一吸収性材料層10上の偏光性材料でなる偏光性材料層11、および、前記偏光性材料層11上の第二吸収性材料でなる第二吸収性材料層12を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および光学素子を用いた投射型液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の微細加工技術の発達により、光の波長レベルのピッチを有する微細パターンを形成することができるようになってきた。このような非常に小さいピッチの微細パターンを有する部材や製品は、特に光学分野や半導体分野などにおいて利用範囲が広く、有用である(非特許文献1)。
【0003】
例えば、金属等で構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなるワイヤグリッドは、そのピッチが入射光の波長(例えば、可視光の場合、400nmから800nm)に比べて十分に小さい場合(例えば、2分の1以下)には、導電体線が伸びる方向に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線が伸びる方向に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光子として使用できる。このワイヤグリッド偏光子は、透過しない光を反射し、再利用することができるので、光の有効利用の観点からも望ましいものである。
【0004】
このようなワイヤグリッド偏光子としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。特許文献1に開示されるワイヤグリッド偏光子は、入射光の波長より小さいグリッド周期で配置された金属ワイヤを備えている。特許文献1に開示されるワイヤグリッド偏光子は、金属線と平行な偏光成分(TE波)を反射し、金属線と垂直な偏光成分(TM波)を透過する偏光特性を有し、ビームスプリッタとして使用される。
【0005】
このようなワイヤグリッド偏光子における金属ワイヤ形状と光学形状との関係が、特許文献2や特許文献3などに開示されている。特許文献2には、金属ワイヤの断面積が増加すると、消光比が増加することや、金属ワイヤの幅がグリッド周期幅に対して所定の大きさ以上となることにより透過率が減少することが示されている。また、特許文献3には、金属ワイヤの長手方向に直交する断面形状がテーパ形状の場合には、広い帯域において透過率、偏光度の波長分散性が少なく、高消光比特性が得られることが示されている。
【0006】
また、特許文献4には、金属ワイヤ上に誘電体のワイヤを積層したワイヤグリッド偏光子が例示されている。
【0007】
上述のようなワイヤグリッド偏光子以外の他の偏光子としては、吸収型二色性偏光子が広く使用されている。吸収型二色性偏光子は、光の吸収異方性を有する化合物(ヨウ素、二色性色素)を塗布した高分子フィルムを延伸することで得られる。
【0008】
これまで、プロジェクター装置などの投射型液晶表示装置では、光学装置内部での迷光がコントラスト比の低下を招くため、偏光分離部品には反射の少ない吸収型二色性偏光子が用いられてきた。しかしながら、吸収型二色性偏光子は、高温高湿環境における耐久性において、ワイヤグリッド偏光子に劣る(非特許文献2)。
【0009】
この問題に対し、ワイヤグリッド偏光子を上述の光学装置に用いるために、その反射を抑制する技術が提案されている。例えば、金属ワイヤに吸収性の材料であるクロムを使用し、非透過光の反射を軽減させたワイヤグリッド偏光子(特許文献5、特許文献6)や、光吸収性薄膜層を設けたワイヤグリッド偏光子(特許文献7、特許文献8)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−502708号公報
【特許文献2】特表2003−508813号公報
【特許文献3】特開2005−172844号公報
【特許文献4】特表2008−523422号公報
【特許文献5】特開2004−309903号公報
【特許文献6】再表2006−064693号公報
【特許文献7】特開2006−330616号公報
【特許文献8】特許第4425059号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本女子大学紀要 理学部 第14号(2006年)
【非特許文献2】FPDの光学材料 月刊ディスプレイ10月号別冊(2007) テクノタイムズ社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
確かに、特許文献5や特許文献6に開示されるワイヤグリッド偏光子では、金属ワイヤにアルミニウムを用いる場合と比べ、反射を低減することが可能である。しかしながら、特許文献5や特許文献6に開示されるワイヤグリッド偏光子では、金属ワイヤにアルミニウムを用いる場合と比べ、偏光度は劣る。これは、クロムの光遮光性(消光性)が、アルミニウムの光遮光性(消光性)より低いためである。ここで、吸収型二色性偏光子、アルミニウムを用いたワイヤグリッド偏光子、クロムを用いたワイヤグリッド偏光子、の比較表を表1に示す。
【表1】

【0013】
特許文献5や特許文献6に開示されるようなクロムを用いたワイヤグリッド偏光子においても、金属ワイヤの断面積を大きくすることで、ある程度の偏光度を確保することはできる。しかしながら、金属ワイヤの高さを高くする(厚くする)と、金属ワイヤの加工性や、金属ワイヤの自立性が低下してしまう。また、クロムなど、アルミニウムよりも反射率が低い材料を高く設置すると、ワイヤグリッド偏光子の透過率T(TM)が低下してしまう。このように、特許文献5や特許文献6に開示されるようなワイヤグリッド偏光子の実用性は低い。
【0014】
また、特許文献7に開示されるワイヤグリッド偏光子では、反射を低減することはできるが、同時に偏光度と透過率も低下するため、やはり偏光子としての実用性は低い。特許文献8の実施形態1及び2に示される構造は、簡単ではあるが、可視光領域での反射抑制効果が低い。また、特許文献8の実施形態3に示される構造は、TE光の反射抑制に優れているが、多数の層による積層構造であるため、製造コストが高く、またスループットの点でも劣る。
【0015】
本発明は係る点に鑑みてなされたものであり、低い反射率、高い偏光度、および、高い透過率を併せ持つ両面が低反射性の光学素子を提供することを目的の一とする。または、このような光学素子を用いた投射型液晶表示装置を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光学素子は、基材と、前記基材上に形成された積層体で構成される複数の金属突起物と、を備え、前記積層体は、前記基材上の第一吸収性材料でなる第一吸収性材料層、前記第一吸収性材料層上の偏光性材料でなる偏光性材料層、および、前記偏光性材料層上の第二吸収性材料でなる第二吸収性材料層を含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第一吸収性材料層と、偏光性材料層と、第二吸収性材料層との積層体を用いることによって、低い反射率、高い偏光度、および、高い透過率を併せ持つ両面が低反射性の光学素子を提供することができる。
【0018】
本発明の光学素子において、前記第一吸収性材料の屈折率と消衰係数、および前記第二吸収性材料の屈折率と消衰係数は、屈折率をn、消衰係数をkとして、それぞれ、下記式(1)を満たす。
−11.33n+1 ≦ −k (1)
【0019】
この構成によれば、第一吸収性材料層と、第二吸収性材料層とによって低い反射率が実現される。
【0020】
本発明の光学素子において、前記偏光性材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム混合材料のいずれか一であっても良い。
【0021】
この構成によれば、アルミニウムの有する消衰係数が6.8(波長555nm)と大きいため、十分な消光比T(TM)/T(TE)を得ることができる。これにより、偏光度を高く保つことができる。
【0022】
本発明の光学素子において、前記金属突起物の前記基材表面に垂直な方向の高さは、300nm以下であっても良い。
【0023】
この構成によれば、金属突起物の高さを抑制できるため、金属突起物の自立性を維持し、金属突起物が倒れる恐れを低減できる。また、隣接するワイヤ同士が接して透過率が低下する恐れを低減できる。
【0024】
本発明の光学素子において、隣接する前記複数の金属突起物の間隔が、200nm以下であっても良い。
【0025】
この構成によれば、可視光領域から近赤外線領域における偏光子の特性を良好に保つことができる。
【0026】
本発明の光学素子において、前記第一吸収性材料層及び前記第二吸収性材料層の、前記基材表面に垂直な方向の高さは、前記偏光性材料層の、前記基材表面に垂直な方向の高さよりも低くても良い。
【0027】
この構成によれば、吸収性材料層の高さが偏光性材料層の高さより低くなるため、透過率T(TM)を高く保つことができる。
【0028】
本発明の光学素子において、前記第一吸収性材料層の高さ及び前記第二吸収性材料層の高さは、それぞれ、前記偏光性材料層の高さの3/4未満であっても良い。
【0029】
この構成によれば、透過率T(TM)を十分に高く保つことができる。
【0030】
本発明の光学素子において、前記第一吸収性材料及び前記第二吸収性材料は、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、ゲルマニウムのいずれか一を主原料とする材料であっても良い。
【0031】
この構成によれば、吸収性が高い材料によって第一吸収性材料層や第二吸収性材料層が構成されるため、反射率R(TE)を低くすることできる。
【0032】
本発明の光学素子において、前記金属突起物が金属ワイヤであることがある。
【0033】
本発明の投射型液晶表示装置は、光源と、前記光源からの光を偏光分離する上述の光学素子と、前記光学素子により偏光された光を透過又は反射する液晶表示素子と、前記液晶表示素子を透過又は反射した光をスクリーンに投射する投射光学系と、を具備することを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、光学素子の反射率R(TE)が低いため、光学装置内部での迷光の発生を抑制し、コントラスト比の低下を抑制することができる。また、吸収型二色性偏光子などと比較して高温高湿環境における耐久性に優れるため、信頼性の高い投射型液晶表示装置が実現される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、金属突起物として、第一吸収性材料層と、偏光性材料層と、第二吸収性材料層との積層体を用いることによって、低い反射率、高い偏光度、および、高い透過率を併せ持つ光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の模式図である。
【図2】実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の作製方法の一例を示す断面模式図である。
【図3】実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の作製方法の一例を示す断面模式図である。
【図4】実施の形態に係る投射型液晶表示装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
反射による迷光を抑制するために、光学素子の金属突起物を吸収性材料のみで構成すると、偏光度が低くなってしまう。これは、吸収性材料の光遮光性(消光性)が低いためである。一方で、偏光度を向上させるために、金属突起物を高く形成して金属突起物の断面積を大きくすると、光学素子の透過率が低下してしまう。このことは、金属突起物に吸収性材料のみを用いて良好な特性を有する光学素子を作製することが困難であることを示唆するものである。
【0038】
本発明者らはこの点に着目し、吸収性材料のみで金属突起物を構成するのではなく、金属突起物中に偏光性材料を包含させることで、上記の問題を解決することができることを見出した。すなわち、本発明の骨子は、光学素子の金属突起物を、吸収性の高い材料でなる第一吸収性材料層と第二吸収性材料層との間に偏光性の高い材料でなる偏光性材料層を有する積層体によって構成することで、金属突起物が偏光性材料(例えば、アルミニウム)のみで構成される光学素子よりも低い反射率と、金属突起物が吸収性材料のみで構成される光学素子よりも高い偏光度、および、高い透過率とを実現しようとするものである。以下、発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、光学素子の内、金属突起物が金属ワイヤであるワイヤグリッド偏光子について詳説するが、本発明はこれに限定されない。
【0039】
本明細書においては、基材上に設けられた金属ワイヤが伸びる方向に対して平行に偏光している光をTE偏光とし、その反射率をR(TE)、透過率をT(TE)と定義する。また、金属ワイヤが伸びる方向に対して垂直に偏光している光をTM偏光とし、その反射率をR(TM)、透過率をT(TM)と定義する。
【0040】
図1は、実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の一例を示す模式図である。図1(a)は、ワイヤグリッド偏光子の平面模式図であり、図1(b)は、金属ワイヤが伸びる方向に垂直な断面を示す、ワイヤグリッド偏光子の部分断面模式図である。図1に示すワイヤグリッド偏光子は、基材1上に所定の間隔で設けられた複数の金属ワイヤ2でなる格子状の構造を有する。また、金属ワイヤ2は第一吸収性材料層10、偏光性材料層11、第二吸収性材料層12が積層されてなる。
【0041】
上述のような構造のワイヤグリッド偏光子において、金属ワイヤ2が設けられた面に入射した光は、金属ワイヤ2が有する構造的異方性及び光学的異方性によって、そのTE偏光成分が反射し、TM偏光成分が透過する。このため、入射した光の反射光の大部分はTE偏光となり、透過光の大部分はTM偏光となる。反射光にはTM偏光成分も若干含まれるが、R(TM)はR(TE)の1/20程度と小さいため、ほとんど無視できる。
【0042】
本実施の形態においては、偏光性材料層11を挟み込むように第一吸収性材料層10と第二吸収性材料層12を設けることにより、ワイヤグリッド偏光子に入射する光のTE偏光成分の反射を抑制している。偏光性材料のみで金属ワイヤ2を構成した場合には、金属ワイヤ2が伸びる方向に対して平行な偏光成分であるTE偏光成分の反射が大きくなるところ、吸収性材料を外側に用いてTE偏光成分を吸収させることで、TE偏光成分の反射を抑制することができるのである。
【0043】
偏光性材料層11を構成する偏光性材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、又は、アルミニウム混合材料からなることが好ましい。これは、アルミニウムの有する消衰係数が6.8(波長555nm)と大きいため、金属ワイヤ形状に加工した場合に、十分な消光比T(TM)/T(TE)を得ることができるためである。
【0044】
第一吸収性材料層10を構成する第一吸収性材料や、第二吸収性材料層12を構成する第二吸収性材料は、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、ゲルマニウムのうち、いずれか一つを主原料とする材料であることが好ましい。このような材料を用いて第一吸収性材料層10や第二吸収性材料層12を構成することにより、反射率R(TE)を低くすることできるためである。また、第一吸収性材料と第二吸収性材料は同一の材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0045】
なお、吸収性材料を用いてアルミニウムを挟み込む構造とすることにより、以下の効果が得られる。第一に、吸収性材料層と偏光性材料層の2層からなるワイヤグリッド偏光子を作製する場合と比較して、本実施の形態のワイヤグリッド偏光子を作製する場合には、後述するレジスト材料層13aの濡れ性と接着性を向上させるための易接着処理を行う必要がなくなる。
【0046】
一般に、偏光性材料層に用いられるアルミニウムはレジスト材料の濡れ性が悪く、アルミニウム上にレジスト材料を塗布する場合にはレジスト膜に斑が生じ、不均一な塗布膜となる問題があった。このため、アルミニウム上に均一なレジスト膜を形成するためには、アルミニウムの濡れ性と接着性を向上させるための易接着処理を行う必要があった。
【0047】
本実施の形態に示すように、吸収性材料を用いてアルミニウムを挟み込む構造とすることによって、レジスト材料は第二吸収性材料層12の表面に塗布されることになる。このため、吸収性材料として、吸収性に優れ、且つ、レジスト材料の濡れ性に優れた材料を選択することによって、アルミニウムの濡れ性と接着性を向上させるための易接着処理を行う必要がなくなる。
【0048】
第二に、吸収性材料層と偏光性材料層の2層からなるワイヤグリッド偏光子を作製する場合と比較して、本実施の形態のワイヤグリッド偏光子を作製する場合には、後述する基材1への接着性を向上させるための易接着処理を行なう必要がなくなる。
【0049】
一般に、金や銀、アルミニウムなどは線膨張係数が高いため、成膜後に膜応力が発生し、剥離しやすい傾向にある。本実施の形態に示すように、吸収性材料として、線膨張係数が金や銀、アルミニウムなどよりも低い材料を選択することによって、基材1と第一吸収性材料層10との接着性を確保し、偏光性材料層11の応力を緩和させることができる。
【0050】
なお、上記の条件を満足する吸収性材料としては、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、ゲルマニウムのうち、いずれか一つを主原料とする材料が好ましい。さらに、これらの材料は後述するドライエッチング処理が可能なため、加工性においても好ましい。
【0051】
なお、金属ワイヤ2の高さを高くすると、ワイヤの断面積が増加するため、偏光度が向上する。しかしながら、金属ワイヤ2の高さを高くしすぎると、金属ワイヤ2の自立性が低下し、金属ワイヤ2が倒れる恐れが生じる。また、隣接するワイヤ同士が接して透過率が低下する恐れが生じる。そのため、金属ワイヤ2の高さは300nm以下であることが好ましく、より好ましくは280nm以下であって、さらに好ましくは250nm以下である。
【0052】
第一吸収性材料層10の基材1に対して垂直方向の高さと、第二吸収性材料層12の基材1に対して垂直方向の高さは、それぞれ、偏光性材料層11の高さよりも低いことが好ましい。吸収性材料層の高さを偏光性材料層の高さより高くした場合、T(TM)が低くなってしまうためである。具体的には、吸収性材料層の高さは偏光性材料層の高さの3/4未満が好ましく、より好ましくは、1/2以下が好ましい。また、吸収性材料層はワイヤグリッド偏光子の低反射性を実現するため、5nm以上の高さで設定することが好ましく、より好ましくは7nm以上である。
【0053】
また、金属ワイヤ2のピッチ(隣接する金属ワイヤ2どうしの間隔)は、ワイヤグリッド偏光子に入射する光の波長によって最適な値が異なる。主に可視光領域から近赤外線領域における偏光子の場合には、ピッチは、200nm以下が好ましく、より好ましくは175nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下である。
【0054】
基材1を構成する材料は、平滑面を有し、可視光領域で実質的に透明な素材であれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、ガラスや透明な無機物結晶、透明プラスチックが挙げられる。ガラスとしては、石英ガラスや、BK(硼珪クラウン)、BaK(バリウムクラウン)、LF(軽フリント)、SF(重フリント)等の既存の光学ガラスを挙げることができる。なかでも石英ガラスは、表面微細加工に適しているので好ましい。透明無機物結晶としては、サファイヤ、水晶、方解石、アルカリハライド等が挙げられる。透明プラスチックとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等の結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系等の紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0055】
ここで、本実施の形態のワイヤグリッド偏光子の作製方法の一例について記述する。図2及び図3は、ワイヤグリッド偏光子の作製方法の一例を示す断面模式図である。まず、基材1の上に第一吸収性材料でなる第一吸収性材料層10aを配置する(図2(a)参照)。第一吸収性材料層10aはスパッタリング成膜法、真空蒸着成膜法の他、イオンプレーティング法、CVD法、化学吸着、電鋳法、メッキ法、MBE法などによって設けることができる。特に、成膜の簡便性や大面積化の容易さからスパッタリング成膜法や真空蒸着法を用いることが好ましい。基材1と第一吸収性材料層10aとの接着性をさらに上げるため、基材1の表面に、例えば易接着コーティング、プライマー処理、コロナ処理、オゾン処理、高エネルギー線処理、表面粗化処理、多孔質化処理、などの易接着処理を行っても良い。
【0056】
次に、第一吸収性材料層10aの上に、偏光性材料でなる偏光性材料層11aを所望の膜厚で成膜し、さらにその上に第二吸収性材料でなる第二吸収性材料層12aを所望の膜厚で積層成膜する(図2(b)参照)。各層は、第一吸収性材料層10aと同様の成膜方法によって作製することができる。また、各層の膜厚は、上記の通りであって、総膜厚は300nm以下が好ましい。
【0057】
次に、第二吸収性材料の上に硬化性樹脂からなるレジスト材料を均一に塗布してレジスト材料層13aを形成する(図2(c)参照)。レジスト材料を塗布する方法は、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法、リバースコーティング法、グラビアコーティング法などから、基材1の大きさや材質に合わせて適宜選択することができる。各コーティング方法の詳細は、株式会社加工技術研究所発行・コンバーティングテクノロジー便覧(2006年)に詳細に記載されており、参考にすることができる。例えば、基材1として100mm角程度の大きさのガラス基板を用いる場合は、塗布装置の簡便さと膜厚均一性の観点からスピンコート法を選択することができる。また、基材1としてフィルム状の材料を用いる場合でも、フィルム基板を平坦な板(例えばガラス基板など)に貼り合せた状態、もしくは真空チャック方式によってフィルム基板にうねりや曲がりが生じない状態で固定すれば、スピンコート法で塗布することができる。
【0058】
また、レジスト材料層13aの接着性をさらに向上させるため、第二吸収性材料層12aの表面に、例えば、易接着コーティング、プライマー処理、コロナ処理、オゾン処理、高エネルギー線処理、などの易接着処理を行っても良い。
【0059】
次に、レジスト材料層13aを下記のいずれかの方法によってパターンニングしてパターンニングされたレジスト材料層13bを形成する(図2(d)参照)。第一の方法は、パターンが描画された金型をレジスト材料へ押し付けることによってパターンニングを行うインプリント法である。この方法によれば、微細な構造であっても高速に、且つ簡便にパターンニングすることができる。また、一度作製した金型は複数回にわたってパターンニングに使用することができる。インプリント後は、パターンの凸部を残しながら凹部の残渣をドライエッチング法によって取り除き、所望とするパターンを得ることができる。この場合、レジスト材料には、市販されているPAK−01(東洋合成工業株式会社製)などの光硬化性樹脂を用いることができる。熱インプリント法の場合には、ポリジメチルシロキサンやポリスチレンなどの熱可塑性樹脂をレジスト材料として用いることができる。
【0060】
第二の方法は、フォトリソグラフィー法によってパターンニングを行う方法である。この方法によれば一度作製したフォトマスクを複数回にわたって使用することができ、露光量を調節することによって高速にパターンニングが可能となる。パターンサイズが極めて微細になると、光の干渉によって明瞭なパターンニングが行えなくなる欠点があるが、干渉露光法などの手法によって微細形状でもパターンニングが可能となる。パターン露光後は、未露光部分を溶剤等によって除去することにより、所望とするパターンを得ることができる。この場合、レジスト材料としてフォトレジスト材料を用いる。フォトレジスト材料には、市販されているPMERシリーズ(東京応化株式会社製)などを用いることができる。
【0061】
上記以外の方法として、フォトリソグラフィー法の光により露光する方法に代えて電子線により露光する方法や、レジスト材料層13aを電子線で直接パターンニングする方法などを適用することもできるが、装置の低コスト化や処理時間の効率化の観点からは、上記方法を適用することが好ましい。
【0062】
パターンニングされたレジスト材料層13bは、ドライエッチング工程でのマスクとして用いられる。ドライエッチング工程においては、第二吸収性材料層12aと、偏光性材料層11aと、第一吸収性材料層10aと、をドライエッチングによってパターンニングし、ワイヤ形状に加工する。
【0063】
ドライエッチング工程ではまず、パターンニングされたレジスト材料層13bをマスクとして、第二吸収性材料層12aをエッチングし、パターンニングされた第二吸収性材料層12を形成する(図3(a)参照)。エッチングに用いるガスは、第二吸収性材料層12aを構成する材料に応じて適宜選択することができる。ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、ゲルマニウムを主原料とする材料層をエッチングする場合は、主にフッ素系ガスを選択することが好ましい。また、クロムを主原料とする材料層をエッチングする場合は、主に塩素系ガスを選択することが好ましい。
【0064】
次に、レジスト材料層13bおよび第二吸収性材料層12をマスクとして、偏光性材料層11aをエッチングし、パターンニングされた偏光性材料層11を形成する(図3(b)参照)。エッチングに用いるガスは、偏光性材料層11aを構成する材料に応じて適宜選択することができる。偏光性材料としてアルミニウム、アルミニウム合金、又は、アルミニウム混合材料を用いた場合は、ドライエッチングガスとして主に塩素系ガスを選択することが好ましい。
【0065】
次に、レジスト材料層13b、第二吸収性材料層12、偏光性材料層11をマスクとして、第一吸収性材料層10aをエッチングし、パターンニングされた第一吸収性材料層10を形成する(図3(c)参照)。詳細は、第二吸収性材料層12aをエッチングする場合と同様である。
【0066】
本実施の形態においては、第二吸収性材料と偏光性材料と第一吸収性材料とをそれぞれドライエッチング処理している。この場合、上層側からドライエッチングが行われるので、第二吸収性材料層12a、偏光性材料層11a、第一吸収性材料層10aの順に処理される。
【0067】
このため、ドライエッチング工程において、上層は、下層のドライエッチング処理の際に、ある程度のドライエッチング耐性を有することが求められる。ドライエッチング耐性を有していない場合、下層のドライエッチング処理の際に上層もエッチングされてしまうためである。例えば、第二吸収性材料層12aをドライエッチング処理する場合は、その上層であるレジスト材料層13bが、第二吸収性材料層12aのドライエッチング処理条件に対して耐性を有することが求められる。同様に、偏光性材料層11aをドライエッチング処理する場合は、その上層である第二吸収性材料層12aが、偏光性材料のドライエッチング処理条件に対して耐性を有することが求められる。第一吸収性材料層10aをドライエッチング処理する場合も同様である。
【0068】
一方で、レジスト材料層13bは、偏光性材料層11aと第一吸収性材料層10aとをドライエッチング処理する場合には、耐性を持たなくても良い。これは、レジスト材料層13bが仮にドライエッチング耐性を有さなかったとしても、第二吸収性材料層12bがドライエッチング処理のマスクとして機能するためである。
【0069】
なお、本発明のエッチング処理はこれに限られない。例えば、上層の材料層をマスクとして、その下層に位置する2層、又は3層の材料層を同時にドライエッチング処理しても良い。つまり、上層であるレジスト材料層13bをマスクとして、下層である第二吸収性材料層12aと偏光性材料層11aとを同時にドライエッチング処理しても良い。また、上層であるレジスト材料層13bをマスクとして、下層である第二吸収性材料層12aと偏光性材料層11aと第一吸収性材料層10aとを同時にドライエッチング処理しても良い。そのためには、レジスト材料層13bにドライエッチング耐性の高い材料を用いるか、又は、パターンニングにおいてレジスト材料層13bにある程度の膜厚を保持させる必要がある。
【0070】
なお、アルミニウムやクロムを含む材料をドライエッチング処理する場合は、上記の通り塩素系ガスを用いることが好ましいが、塩素系ガスに対する高耐性の材料は多くは存在しない。このため、第二吸収性材料層12aの塩素系ガスによるエッチングを防ぐために、第二吸収性材料層12aとレジスト材料層13bとの間に、酸化シリコンなどでなるハードマスク層を設けても良い。
【0071】
厳密に言えば、ハードマスク層としての酸化シリコン層は、光学的な影響を及ぼすため相応しくないが、ハードマスク層を10nm程度の非常に薄い層にすることによって、光学的な影響を最低限として設置することができる。なお、ハードマスク層を10nm程度の薄い層としてもドライエッチング処理においては十分な耐性を与えることができる。つまり、ハードマスク層の膜厚は、好ましくは5nmから15nm以下の範囲であり、より好ましくは5nmから12nm以下の範囲であり、さらに好ましくは5nmから10nm以下の範囲である。
【0072】
レジスト材料層13bが残存している場合には、その後、レジスト材料層13bを除去する。以上の工程により、基材1上に、第一吸収性材料でなる第一吸収性材料層10、第一吸収性材料層10上の偏光性材料でなる偏光性材料層11、および、偏光性材料層11上の第二吸収性材料でなる第二吸収性材料層12を含む複数の金属ワイヤ2を備えたワイヤグリッド偏光子が作製される(図1参照)。
【0073】
上述のようにして作製されたワイヤグリッド偏光子は、例えば、投射型液晶表示装置の偏光子として用いることができる。投射型液晶表示装置は、光源20と、その光源20からの光を偏光分離するワイヤグリッド偏光子24と、そのワイヤグリッド偏光子24により偏光された光を透過又は反射する液晶表示素子23と、液晶表示素子23を透過又は反射した光をスクリーンに投射する投射光学系25とを含んで構成される。すなわち、上述のワイヤグリッド偏光子24は、投射型液晶表示装置において、光源と液晶表示素子との間に配置される(図4参照)。なお、光源20と液晶表示素子23との間には、ワイヤグリッド偏光子24の他に、ダイクロイックミラー21やミラー22などが配置される。
【0074】
本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子を用いた投射型液晶表示装置では、ワイヤグリッド偏光子の反射率R(TE)が低いため、光学装置内部での迷光の発生を抑制し、コントラスト比の低下を抑制することができる。また、本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子は、吸収型二色性偏光子などと比較して高温高湿環境における耐久性に優れるため、信頼性の高い投射型液晶表示装置が実現される。
【0075】
以上、本発明に係る光学素子の内、ワイヤグリッド偏光子について詳説した。なお、実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の金属ワイヤの形状は、略円錐形状、略角錐形状、略楕円錐形状、略円錐台形状、略角錐台形状、略楕円錐台形状等の突起形状に変更することが可能である。また、このような突起形状を有する突起物は、マスクの形状やエッチング条件を制御することによって作製することが可能である。このように、本発明は、ワイヤグリッド偏光子に限られず、例えば、モスアイ型の光学素子に適用することもできる。
【0076】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
[実施例1]
1)第一吸収性材料層、偏光性材料層、第二吸収性材料層の成膜
TACフィルムを基材として用い、基材の上に第一吸収性材料層としてクロム膜を30nmの厚さになるようにスパッタリング成膜(芝浦メカトロニクス社製)した後、その上に偏光性材料層としてアルミニウム膜を150nmの厚さになるようにスパッタリング成膜した。さらにその上に第二吸収性材料層としてクロム膜を厚さ30nmになるようにスパッタリング成膜した。スパッタリング成膜の条件は、印加電力200V、成膜圧力0.5Pa、Arガス流量50sccmであり、膜厚は成膜時間によって制御した。
【0078】
2)レジスト材料の塗布
TACフィルム基材の裏面(第一吸収性材料層などが成膜されていない面)とガラス基板とを貼り合せ、スピンコート法により成膜面に光硬化性レジスト材料(PAK−01;東洋合成工業株式会社製)を、厚さ100nmになるように2000rpmの回転速度で均一塗布した。その後、70度のオーブンで5分間乾燥させてレジスト材料層とした後、TACフィルム基材をガラス基板から剥離した。
【0079】
3)レジストマスク形成
ピッチ145nm、Duty0.3、パターン高さ180nmのライン&スペースパターンが描かれた樹脂モールド(パタン金型)を用意し、レジスト材料層にライン&スペースパターンが転写されるように、レジスト材料層と樹脂モールドとを重畳させて均一に加圧した(加圧力0.1MPa)。そして、この状態で、365nmの波長を含むUV光を、1000mJ/cmの光量で樹脂モールド側から照射し、レジスト材料層を光硬化させた後、樹脂モールドを剥離した。さらに、RIE装置(Reactive Ion Etching処理装置:アルバック社製)にて、酸素ガスによるプラズマでレジストパターンの凹部を選択的にエッチング除去し、レジスト材料層の凸部のみでなるレジストマスクを得た。そのときのエッチング処理条件は、酸素流量10sccm、圧力0.2Pa、印加電力50V、処理時間20秒であった。
【0080】
4)ドライエッチング処理
レジストマスク形成後、RIE装置にて、Clガスによるプラズマでクロム膜(第二吸収性材料層)、アルミニウム膜(偏光性材料層)、および、クロム膜(第一吸収性材料層)をTAC基材に対して垂直な方向へ異方的に同時にエッチング処理した。このときのドライエッチング処理条件は、処理圧力0.5Pa、印加電力100W、バイアス電力50W、アンテナ電力100Wであった。さらに、酸素ガスによるプラズマでシリコンからなる層の上部に残存したレジストマスクをエッチング処理によって除去し、ワイヤグリッド偏光子を得た。
【0081】
5)光学性能評価
上記の工程によって得られたワイヤグリッド偏光子の偏光度及び透過率を偏光光度計(日本分光社製)によって測定した結果、555nmにおける偏光度が99.76であり、透過率が40.4%であることが分かった。さらに、反射分光光度計(島津製作所社製)にて、第二吸収性材料が露出している面(表面)の反射率(光入射角度5度)を測定した結果、455nmから655nmにおける平均反射率が28.1%であった。また、基材側(裏面)の反射率を同様の方法で測定した結果、455nmから655nmにおける平均反射率が28.2%であった。
【0082】
6)形状観察
上記の工程によって得られたワイヤグリッド偏光子のパターン形状をAFM装置(キーエンス社製)によって観察した結果、ピッチ145nmで整列したワイヤ形状が確認され、倒れた部分は確認されなかった。
【0083】
[比較例1]
金属ワイヤが偏光性材料のみで構成されたワイヤグリッド偏光子との比較を行うため、下記の内容のワイヤグリッド偏光子を作製した。
ピッチ : 145nm
Duty : 0.3
偏光性材料 : アルミニウム 膜厚 150nm
作製は実施例1と同様の方法で行い、ドライエッチング処理はClガスによって行った。
【0084】
得られたワイヤグリッド偏光子の偏光度及び透過率を偏光光度計(日本分光社製)によって偏光度を測定した結果、555nmにおける偏光度が99.44であり、透過率が42.6%であることが分かった。さらに反射分光光度計(島津製作所社製)にて反射率(光入射角度5度)を測定した結果、455nmから655nmにおける平均反射率が44.6%であることが分かった。
【0085】
[比較例2]
金属ワイヤが吸収性材料のみで構成されたワイヤグリッド偏光子の比較を行うため、下記の内容のワイヤグリッド偏光子を作製した。
ピッチ : 145nm
Duty : 0.3
偏光性材料 : クロム 膜厚 150nm
作製は実施例1と同様の方法で行い、ドライエッチング処理はClとOの混合ガスによって行った。
【0086】
得られたワイヤグリッド偏光子の偏光度及び透過率を偏光光度計(日本分光社製)によって偏光度を測定した結果、555nmにおける偏光度が99.60であり、透過率が35.5%であることが分かった。さらに反射分光光度計(島津製作所社製)にて反射率(光入射角度5度)を測定した結果、455nmから655nmにおける平均反射率が27.2%であることが分かった。
【0087】
上記実施例と比較例における光学性能評価の結果を表2に示す。実施例の構成では、高偏光度および高透過率に不利なクロム、および、低反射率に不利なアルミニウムを用いているにも関わらず、低い反射率、高い偏光度、および、高い透過率が実現していることが分かる。
【表2】

【0088】
[比較例3]
各吸収性材料層の高さが偏光性材料層の高さの3/4以上の場合におけるワイヤグリッド偏光子との比較を行うため、下記の内容のワイヤグリッド偏光子を作製した。
ピッチ : 145nm
Duty : 0.3
偏光性材料 : アルミニウム 膜厚 90nm
第一及び第二吸収性材料 : クロム 膜厚 75nm
作製は実施例1と同様の方法で行い、ドライエッチング処理はClガスによって行った。
【0089】
得られたワイヤグリッド偏光子の偏光度及び透過率を偏光光度計(日本分光社製)によって偏光度を測定した結果、555nmにおける偏光度が99.95であり、透過率が33.4%であることが分かった。さらに反射分光光度計(島津製作所社製)にて反射率(光入射角度5度)を測定した結果、455nmから655nmにおける平均反射率が29.4%であることが分かった。このように、吸収性材料層の高さを、偏光性材料層の高さの3/4以上とすることによって透過率が低下することが分かった。この結果から、吸収性材料層の高さは、偏光性材料層の高さの3/4未満とすることが好ましいといえる。さらに、1/2以下とするとより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る光学素子は、例えば、偏光特性に優れ、また透過率の高い両面低反射性のワイヤグリッド偏光子として用いることができる。具体的には、投射型液晶表示素子などの部材や光学分野において有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 基材
2 金属ワイヤ
10,10a 第一吸収性材料層
11,11a 偏光性材料層
12,12a 第二吸収性材料層
13a,13b レジスト材料層
20 光源
21 ダイクロイックミラー
22 ミラー
23 液晶表示素子
24 ワイヤグリッド偏光子
25 投射光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された積層体で構成される複数の金属突起物と、を備え、
前記積層体は、前記基材上の第一吸収性材料でなる第一吸収性材料層、前記第一吸収性材料層上の偏光性材料でなる偏光性材料層、および、前記偏光性材料層上の第二吸収性材料でなる第二吸収性材料層を含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第一吸収性材料の屈折率と消衰係数、および前記第二吸収性材料の屈折率と消衰係数は、屈折率をn、消衰係数をkとして、それぞれ、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
−11.33n+1 ≦ −k (1)
【請求項3】
前記偏光性材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミニウム混合材料のいずれか一であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記金属突起物の前記基材表面に垂直な方向の高さは、300nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一に記載の光学素子。
【請求項5】
隣接する前記複数の金属突起物の間隔が、200nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第一吸収性材料層及び前記第二吸収性材料層の、前記基材表面に垂直な方向の高さは、前記偏光性材料層の、前記基材表面に垂直な方向の高さよりも低いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第一吸収性材料層の高さ及び前記第二吸収性材料層の高さは、それぞれ、前記偏光性材料層の高さの3/4未満であることを特徴とする請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記第一吸収性材料及び前記第二吸収性材料は、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、ゲルマニウムのいずれか一を主原料とする材料であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一に記載の光学素子。
【請求項9】
前記金属突起物が金属ワイヤであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一に記載の光学素子。
【請求項10】
光源と、
前記光源からの光を偏光分離する請求項9に記載の光学素子と、
前記光学素子により偏光された光を透過又は反射する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子を透過又は反射した光をスクリーンに投射する投射光学系と、
を具備することを特徴とする投射型液晶表示装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−103468(P2012−103468A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251711(P2010−251711)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】