説明

光学素子とその製造方法

【課題】入射する光の表面反射を防止しつつ、効率的に屈折率変化を発生させる。
【解決手段】基材2と、該基材2の表面に、入射する光の波長以下のピッチPで配列された複数の柱状部3と、該柱状部3間の隙間5に充填された該柱状部3とは屈折率の異なる媒体6と、基材2の表面2a、柱状部3の先端面3aまたは媒体6の表面のうちいずれか1つ以上により構成される光の入射面の全面を覆う位置に配置された、柱状部3の屈折率とは異なる屈折率を有する膜状部4とを備え、膜状部4が、干渉作用による反射防止機能を発揮する膜厚寸法を有し、柱状部3と媒体6との体積比が基材2の表面に沿う方向に変化する光学素子1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に、入射する光の波長以下の周期で配列された横断面形状一定の複数の柱状部を有し、該柱状部の横断面形状が基材の表面に沿う方向に変化するサブ波長構造を有する光学素子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、上記サブ波長構造を有する光学素子において表面反射を防止するために、各柱状部の横断面形状を先端に向かって連続的に先細に形成した錐状の柱状部を有する光学素子も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−61905号公報
【特許文献2】特開2007−47701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の光学素子によれば、柱状部の先端面および基材の表面において屈折率が急激に変化するので、入射する光が反射して利用効率が低下するという不都合がある。
一方、特許文献2の光学素子では、柱状部を先端に向かって先細になる錐状に形成している。この形状では、柱状部の先端面においては屈折率が滑らかに変化し、入射する光は反射しないが、各柱状部の基端側の隙間に露出する基材の表面においては屈折率が急激に変化し、入射する光が反射してしまうという不都合がある。また、柱状部を錐状に形成する特許文献2の光学素子では、先端に近づくほど、基材の表面に沿う方向の横断面積の変化が小さくなっているため、柱状部によって発生される基材の表面に沿う方向の屈折率の変化の効果が弱められてしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、入射する光の表面反射を防止しつつ、効率的に屈折率変化を発生させることができる光学素子とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、基材と、該基材の表面に、入射する光の波長以下のピッチで配列された複数の柱状部と、該柱状部間の隙間に充填された該柱状部とは屈折率の異なる媒体と、前記基材の表面、前記柱状部の先端面または前記媒体の表面のうちいずれか1つ以上により構成される前記光の入射面の全面を覆う位置に配置された、前記柱状部の屈折率とは異なる屈折率を有する膜状部とを備え、前記膜状部が、干渉作用による反射防止機能を発揮する膜厚寸法を有し、前記柱状部と前記媒体との体積比が前記基材の表面に沿う方向に変化する光学素子を提供する。
【0007】
本発明によれば、基材の表面に配列された複数の柱状部とその隙間に充填された媒体とにより、サブ波長構造が構成され、入射する光が回折を生じることなく透過できる。そして、この柱状部と媒体との体積比を基材の表面に沿う方向に変化させることにより、透過する光の波面を変調することができる。
【0008】
この場合において、入射する光は、基材の表面、柱状部の先端面または媒体の表面のうちいずれか1つ以上により構成される光の入射面の全面を覆う位置に配置された膜状部を通過する際に、膜状部の表裏面における反射が干渉作用によってキャンセルされ、表面反射が防止される。入射面全面に設けた膜状部によって表面反射を防止するので、反射防止のために錐状の柱状部を採用する必要がなく、柱状部の高さ方向全体にわたって柱状部と媒体との所望の体積比を確保し、基材の表面方向に沿う屈折率変化を効率的に発生させることができる。
【0009】
上記発明においては、前記柱状部が、前記基材の表面の法線方向に略一定の断面形状を有することが好ましい。
このようにすることで、柱状部の高さ方向全体にわたって柱状部と媒体との略一定の体積比を確保し、基材の表面方向に沿う屈折率変化を最も効率的に発生させることができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記膜状部が、前記柱状部と前記媒体との体積比の前記基材の表面に沿う方向への変化に応じて設定された膜厚寸法を有することが好ましい。
このように柱状部と媒体の体積比の基材の表面に沿う方向の変化に伴う、実効屈折率の変化に対応した膜寸法を設定することで、要求される反射防止条件に合わせることができ、好適な反射防止効果をもたせることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記媒体が空気であってもよい。
このようにすることで、柱状部と、該柱状部間の隙間に存在する空気との体積比によって屈折率を設定することができる。この場合、膜状部は、柱状部の先端面と基材の表面に設けられるか、柱状部の先端面に掛け渡すようにして、柱状部の先端面と空気からなる媒体の表面を覆うように設けられればよい。
【0012】
また、上記発明においては、前記媒体が固体材料からなり、前記柱状部の先端面とともに平坦な入射面を構成する位置まで充填されていることが好ましい。
このようにすることで、柱状部間の隙間が固体材料によって充填されるので、柱状部間の隙間に塵埃等が進入することを防止できる。
【0013】
また、上記発明においては、前記膜状部が、前記柱状部の先端面および前記媒体の表面を覆う平坦なフィルム状に構成されていてもよい。
このようにすることで、柱状部の先端面に掛け渡すようにフィルム状の膜状部を配置すればよいので、製造を容易にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記柱状部の先端面および前記媒体の表面を覆う透明な材質からなる平行平面板を備え、前記膜状部が、前記平行平面板の表面に設けられていてもよい。
このようにすることで、フィルム状の膜状部を単独で取り扱うことに比べて、取扱性を容易にすることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記媒体および前記膜状部が同一の材質により一体的に構成されていてもよい。
このようにすることで、媒体および膜状部を同一の材質により簡易に構成することができる。
例えば、充填後に硬化する流動性のある材質からなる媒体を柱状部間の隙間に流し込んで、柱状部の先端面をも覆うレベルまで充填し、その後硬化させることにより、簡易に構成することができる。
【0016】
また、本発明は、基材の表面に、入射する光の波長以下のピッチで複数の柱状部を形成する柱状部形成ステップと、該柱状部形成ステップにより形成された前記柱状部間の隙間に、前記柱状部と異なる屈折率を有する流動性のある媒体を流入させて、前記柱状部の先端面を被覆するまで充填する媒体充填ステップと、前記媒体を硬化させる硬化ステップとを含む光学素子の製造方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、基材の表面に形成された柱状部の隙間に、柱状部と異なる媒体を流入させて硬化させることで、入射する光が回折を生じることなく透過できるサブ波長構造の光学素子を容易に製造することができる。そして、この柱状部と媒体との体積比を基材の表面に沿う方向に変化させることにより、透過する光の波面を変調することができる。
【0018】
この場合において、媒体の屈折率と柱状部の先端面を被覆する媒体の膜厚寸法を調節することにより、この媒体を光学素子の全面にわたって配置され、干渉作用による反射防止機能を発揮する反射防止膜として機能させることができ、柱状部の高さ方向全体にわたって柱状部と媒体との所望の体積比を確保し、基材の表面方向に沿う屈折率変化を効率的に発生可能な光学素子を簡易に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、入射する光の表面反射を防止しつつ、効率的に屈折率変化を発生させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学素子を示す縦断面図である。
【図2】図1の光学素子と等価な多層構造を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図1の光学素子の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図4】(a)一次元方向に広がるサブ波長構造、(b)2次元方向に広がるサブ波長構造を有する図1の光学素子を示す斜視図である。
【図5】図1の光学素子の第2の変形例を示す縦断面図である。
【図6】図5の光学素子と等価な多層構造を模式的に示す縦断面図である。
【図7】図5の光学素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】図1の光学素子の第3の変形例を示す縦断面図である。
【図9】図1の光学素子の第4の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る光学素子1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る光学素子1は、図1に示されるように、基材2と、該基材2の一表面に配列された複数の柱状部3と、基材2の表面2aおよび柱状部3の先端面3aを被覆する膜状部4とを備えている。
【0022】
柱状部3は基材2の一表面に溝を形成することによって、基材2と同一の材質により、基材2と一体的に構成されている。溝の形成は、例えば、フォトリソグラフィ技術により行うことができる。
柱状部3は、入射する光の波長以下の一定のピッチPで配列されている。
【0023】
柱状部3の横断面形状は、例えば、方形であり、柱状部3は四角柱状に形成されている。
柱状部3の横断面積は、例えば、図4(b)に示されるように、中央部において最も大きく、周辺に向かって漸次小さくなるように構成されている。
【0024】
膜状部4は、入射する光の波長以下の膜厚寸法を有するとともに、柱状部3および基材2とは異なる屈折率を有する材質により構成されている。そして、膜状部4は、その膜厚寸法と、屈折率とを選択することによって、入射する光の柱状部3の先端面3aおよび基材2の表面2aにおける反射を防止する、干渉作用による反射防止膜として機能するようになっている。
膜状部4は、柱状部3の先端面3aおよび基材2の表面2aに蒸着等することによって形成することができる。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る光学素子1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る光学素子1によれば、基材2の表面2aに形成された柱状部3が、入射する光の波長以下のピッチPで配列されているので、サブ波長構造が構成され、入射する光が回折を生じることなく光学素子1を透過することができる。
【0026】
そして、この柱状部3間の隙間5に媒体として空気6を存在させることにより、この柱状部3の配列されている部分の屈折率は、柱状部3と隙間5の空気6との体積比率によって決定される実効屈折率となっている。すなわち、柱状部3が一定のピッチPで配列されているとともに、柱状部3の横断面積が光学素子1の中央部から周辺部に向かって漸次小さくなっているので、柱状部3の配列されている部分の実効屈折率も、光学素子1の中央部から周辺部に向かって基材2の屈折率から空気6の屈折率に近づくように分布するようになる。
【0027】
その結果、本実施形態に係る光学素子1は、図2に示されるような4層の多層構造と等価であるとして考えることができる。ここで、第1層7は、一定の屈折率を有する基材2の層であり、第2層8は、基材2の表面に設けられた膜状部4と柱状部3とが基材2の表面方向に沿って混在し、実効屈折率が分布する反射防止膜の層であり、第3層9は、表面方向に沿って柱状部3と空気6とが混在し、実効屈折率が分布する層であり、第4層10は、柱状部3の先端面3aの膜状部4と空気6とが基材2の表面方向に沿って混在し、実効屈折率が分布する反射防止膜の層となる。
【0028】
すなわち、本実施形態に係る光学素子1によれば、第1層7の屈折率が一定であり、第2〜4層8〜10がサブ波長構造となっているので、入射する光を回折させることなく、透過させることができる、また、全面にわたって設けられた反射防止膜によって表面における反射が防止される。
【0029】
さらに、表面方向に沿って第2〜4層8〜10の実効屈折率を分布させることにより、透過する光の波面を変調することができる。そして、サブ波長構造を横断面積一定の柱状部3によって構成することにより、柱状部3の長さ方向全長、すなわち、第3層9の厚さ方向全長にわたって、一定の実効屈折率が維持され、光の波面の変調を最も効率的に行うことができるという利点がある。
【0030】
なお、本実施形態においては、中央における実効屈折率を最も高くし、周辺に向かうに従って実効屈折率を漸次減少させているので、凸レンズのように機能させることができる。本発明はこれに限定されるものではなく、図3に示されるように、柱状部3の横断面積の分布を、上記とは逆に中央において最も小さくし、周辺に向かうにしたがって漸次増大させていくことにより、凹レンズのように機能させることにしてもよい。また、屈折率の分布は任意に設定してもよい。
【0031】
また、本実施形態に係る光学素子1としては、図4(a)に示されるように、一次元方向に広がるサブ波長構造でもよいし、図4(b)に示されるように、2次元方向に広がるサブ波長構造を採用してもよい。
また、本実施形態に係る光学素子1においては、柱状部3のピッチPが一定である場合を例示したが、これに限定されるものではなく、入射される光の波長以下であり、かつ、柱状部3と隙間5との体積比率が変動しさえすれば、表面方向に沿ってピッチPを変動させることにしてもよい。
【0032】
また、柱状部3間の隙間5に空気6を存在させる場合を例示したが、これに代えて、図5に示されるように、柱状部3および基材2とは異なる屈折率を有する固体状の媒体11によって、柱状部3の隙間5を埋めることとしてもよい。この場合には、この媒体11の表面を柱状部3の先端面3aと面一に構成し、媒体11の表面および柱状部3の先端面3aの全面を覆うように膜状部4を形成することが好ましい。
【0033】
このようにすることで、図6に示される多層構造と等価な光学素子1を構成することができる。この多層膜は、均一な屈折率を有する第1層12と、表面方向に沿って屈折率が分布するサブ波長構造の第2層13と、均一な屈折率を有する第3層14とを備えている。
【0034】
このように構成された光学素子1は、平面状に膜状部4を形成することができ、容易に製造することができるという利点がある。また、媒体11によって隙間5が埋められているので、塵埃等が入り込みにくいという利点もある。さらに、柱状部3が媒体11によって補強され、強度を向上することができるという利点もある。
【0035】
また、このような構成の光学素子1は、以下のようにして容易に製造することができる。
すなわち、図7に示されるように、基材2の一表面に溝を形成することによって複数の柱状部3を形成し(柱状部形成ステップS1)、柱状部3間の隙間5に、柱状部3とは異なる屈折率を有する流動性媒体11を流入させて、柱状部3の先端面3aを覆うレベルまで充填し(媒体充填ステップS2)、流動性媒体11を硬化させる(硬化ステップS3)。これにより、図6に示される多層構造と等価な光学素子1を容易に製造することができる。
【0036】
また、図8に示されるように、隙間5に空気6が充填された状態で、柱状部3の先端面3a間に掛け渡すように、全面にわたってフィルム状の膜状部4を配置することにしてもよい。
これによっても図6と同様の多層膜と等価な光学素子1を構成することができる。
【0037】
また、1枚のフィルム状の膜状部4に代えて、図9に示されるように、透明な平行平面板15の両面に反射防止膜16を形成したシート17を、柱状部3の先端面3a間に掛け渡すように、全面にわたって配置することとしてもよい。1枚のフィルム状の膜状部4を配置する場合と比較して、シート状にすることで取り扱い性を向上することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 光学素子
2 基材
2a 表面
3 柱状部
3a 先端面
4 膜状部
5 隙間
6 空気(媒体)
11 媒体
S1 柱状部形成ステップ
S2 媒体充填ステップ
S3 硬化ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の表面に、入射する光の波長以下のピッチで配列された複数の柱状部と、
該柱状部間の隙間に充填された前記柱状部とは屈折率の異なる媒体と、
前記基材の表面、前記柱状部の先端面または前記媒体の表面のうちいずれか1つ以上により構成される前記光の入射面の全面を覆う位置に配置された、前記柱状部の屈折率とは異なる屈折率を有する膜状部とを備え、
前記膜状部が、干渉作用による反射防止機能を発揮する膜厚寸法を有し、
前記柱状部と前記媒体との体積比が前記基材の表面に沿う方向に変化する光学素子。
【請求項2】
前記柱状部が、前記基材の表面の法線方向に略一定の断面形状を有する請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記膜状部が、前記柱状部と前記媒体との体積比の前記基材の表面に沿う方向への変化に応じて設定された膜厚寸法を有する請求項1または請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記媒体が空気である請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記媒体が固体材料からなり、前記柱状部の先端面とともに平坦な入射面を構成する位置まで充填されている請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記膜状部が、前記柱状部の先端面および前記媒体の表面を覆う平坦なフィルム状に構成されている請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
前記柱状部の先端面および前記媒体の表面を覆う透明な材質からなる平行平面板を備え、
前記膜状部が、前記平行平面板の表面に設けられている請求項1に記載の光学素子。
【請求項8】
前記媒体および前記膜状部が同一の材質により一体的に構成されている請求項1に記載の光学素子。
【請求項9】
基材の表面に、入射する光の波長以下のピッチで複数の柱状部を形成する柱状部形成工程と、
該柱状部形成工程により形成された前記柱状部間の隙間に、前記柱状部と異なる屈折率を有する流動性のある媒体を流入させて、前記柱状部の先端面を被覆するまで充填する媒体充填工程と、
前記媒体を硬化させる硬化工程とを含む光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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