説明

光学素子及びその製造方法

【課題】高度に配向制御された同心円状のミクロ相分離構造を有する高分子フォトニック結晶を備える光学素子を簡便で安価な方法で作製可能な光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光学素子の製造方法は、互いに対向する板状部材10の主面10a及び板状部材20の主面20aの間に、高分子ブロック共重合体と、光重合開始剤と、当該高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーとを含有するポリマー溶液を介在させた状態で、主面10a及び主面20aに垂直な回転軸A2を中心として板状部材10及び板状部材20を相互に逆方向に回転させる配向性付与工程と、配向性付与工程の後、ポリマー溶液に光を照射することにより光重合性モノマーを重合させて、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が回転軸A2を中心として同心円状に配向した高分子フォトニック結晶を得る光重合工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及びその製造方法に関する。特に、高分子フォトニック結晶を備えた光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、屈折率の異なる物質が光の波長程度で周期構造を形成することで、特定の波長の光を完全に遮断するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)が発生し、特定の光の透過性をその結晶構造に応じて制御することが知られている。特許文献1,2では、イオンビーム露光によって作製された同心円状凹凸パターン基板上にスパッタリング法によって多層膜を形成することで得られる、同心円状の屈折率周期構造を有するフォトニック結晶について提案されている。
【0003】
特許文献1,2では、同心円状に屈折率周期構造を形成することで、フォトニック結晶面内で異なる偏光透過特性を有するフォトニック結晶偏光フィルタについて開示されているが、特許文献1,2の方法では大掛かりなパターン露光装置、スパッタリング装置が必要である。
【0004】
前記のような大掛かりな装置が必要なトップダウン法によるフォトニック結晶作製法に対して、特許文献3では、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造を利用したボトムアップによるフォトニック結晶について提案されている。
【0005】
特許文献3では、高分子ブロック共重合体の自己組織化を利用することで、大掛かりな装置を必要とせず、非常に規則性の高い単結晶のミクロ相分離構造を形成させる方法について開示されているが、フォトニック結晶を光学素子として利用する場合に光学特性を大きく左右するミクロ相分離構造の配向性について制御されていない。更に、特許文献3で開示されている作製方法では、溶媒を多量に含むゲル状であり、構造安定性に問題が有る。
【0006】
高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造をフォトニック結晶として利用する場合の前記高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造の配向制御について、ずり流動場を印加することで配向制御が可能であることが古くから知られている。例えば、非特許文献1〜3では、ずり速度がミクロ相分離構造の配向性に与える影響について検討されている。しかしながら、フォトニック結晶として利用可能なほどミクロ相分離構造周期が大きなものではなく、また、その配向性もフォトニック結晶光学素子として利用するには不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4427026号公報
【特許文献2】国際公開第2008/010316号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/047514号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromolecules 1995、28、P.3008−3011
【非特許文献2】Journal of Physics:Condensed Matter 2001、13、R643−R671
【非特許文献3】Polymer Journal 37,12,900−905(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フォトニック結晶を光学素子として利用する場合、フォトニック結晶の屈折率周期構造を高度に配向制御することが光学素子の光学特性の向上に重要な課題であり、さらに、このようなフォトニック結晶を利用した光学素子を大掛かりな装置を用いることなく製造する方法の模索は工業的に非常に重要な課題である。
【0010】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、高度に配向制御された同心円状のミクロ相分離構造を有する高分子フォトニック結晶を備え、従来に比して光学特性を向上させることが可能な光学素子を提供することを目的とする。また、本発明は、このような光学素子を簡便で安価な方法で作製可能な光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ミクロ相分離構造を有する高分子フォトニック結晶を備えた光学素子において、ミクロ相分離構造がランダム配向している状態では高分子フォトニック結晶の対向する主面において光学特性が異なり、このような高分子フォトニック結晶を用いた場合には光学素子としての光学特性が充分でないことを見出した。これに対し本発明者は、ミクロ相分離構造の配向性を高分子フォトニック結晶における対向する主面において対称となるように調整することで光学素子としての光学特性が向上することを見出し、さらに、溶液状態のミクロ相分離構造の配向性を高分子フォトニック結晶の対向する主面において対称となるように調整した上で、特定の固定方法によって当該ミクロ相分離構造を固定することにより、著しく光学特性を向上させることができることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明に係る光学素子は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有し且つ高分子ブロック共重合体を含有する高分子フォトニック結晶を備え、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が、第1の主面及び第2の主面に垂直な軸を中心として同心円状に配向し且つ高分子フォトニック結晶の厚さ方向の中心を基準として対称に形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る高分子フォトニック結晶の光学素子では、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が第1の主面及び第2の主面に垂直な軸を中心として同心円状に配向しているため、同心円状に配向した屈折率周期構造に基づきフォトニック結晶としての光学特性を発現できる。そして、本発明に係る高分子フォトニック結晶の光学素子では、ミクロ相分離構造が高分子フォトニック結晶の厚さ方向の中心を基準として対称に高分子フォトニック結晶に形成されているため、第1の主面側と第2の主面側とで光学特性を均質化することが可能である。これにより、従来に比してフォトニック結晶としての光学特性を向上させることができる。
【0014】
高分子ブロック共重合体の重量平均分子量は、800,000(g/mol)以上であることが好ましい。この場合、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造を更に良好に得ることができる。
【0015】
高分子フォトニック結晶は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の光重合性モノマーを含む組成物を重合させて得られる高分子化合物を更に含有することが好ましい。
【0016】
高分子フォトニック結晶は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の可塑剤を更に含有してもよい。
【0017】
本発明に係る光学素子の製造方法は、互いに対向する第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、高分子ブロック共重合体と、光重合開始剤と、当該高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーとを含有する溶液を介在させた状態で、第1部材の主面及び第2部材の主面に垂直な回転軸を中心として第1部材及び第2部材を相互に逆方向に回転させる第1工程と、第1工程の後、溶液に光(活性光線)を照射することにより光重合性モノマーを重合させて、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が回転軸を中心として同心円状に配向した高分子フォトニック結晶を得る第2工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る光学素子の製造方法では、第1工程において、第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、高分子ブロック共重合体を含む溶液を介在させた状態で、第1部材の主面及び第2部材の主面に垂直な回転軸を中心として第1部材及び第2部材を相互に逆方向に回転させることにより、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が溶液状態において回転軸を中心として同心円状に配向し且つ高分子フォトニック結晶の厚さ方向の中心を基準として対称に形成される。そして、第2工程において、溶液中の光重合性モノマーを重合させることにより、第1工程で得られたミクロ相分離構造の配向状態を保持しつつミクロ相分離構造を固定化して高分子フォトニック結晶を得ることができる。このような高分子フォトニック結晶を備える光学素子では、第1部材の主面側に位置する高分子フォトニック結晶の主面と、第2部材の主面側に位置する高分子フォトニック結晶の主面とで光学特性を均質化することが可能であり、従来に比して光学特性を向上させることができる。
【0019】
高分子ブロック共重合体の重量平均分子量は、800,000(g/mol)以上であることが好ましい。この場合、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造を更に良好に得ることができる。高分子ブロック共重合体の含有量は、溶液の全質量基準で3〜30質量%であることが好ましい。
【0020】
光重合性モノマーは、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
上記溶液は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の可塑剤を更に含有してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高度に配向制御された同心円状のミクロ相分離構造を有するフォトニック結晶を備え、従来に比して光学特性を向上させることが可能な光学素子を提供することができる。さらに、本発明によれば、このような光学素子を簡便で安価な方法で作製可能な光学素子の製造方法を提供することができる。これにより、大面積の高分子フォトニック結晶を備えた光学素子を容易に製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学素子の一部を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光学素子の製造方法の一工程を模式的に示す図面である。
【図3】結晶の両側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムの2次元超小角X線散乱パターンを示す図面である。
【図4】結晶の片側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムの2次元超小角X線散乱パターンを示す図面である。
【図5】結晶の両側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムにおける一次ピークの散乱強度の方位角依存性を示す図面である。
【図6】結晶の片側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムにおける一次ピークの散乱強度の方位角依存性を示す図面である。
【図7】フィルムの厚さ方向の位置と一次ピークにおける方位角方向の半値全幅との関係を示す図面である。
【図8】偏光透過スペクトルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る光学素子及びその製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(光学素子)
図1は、本実施形態に係る光学素子の一部を示す斜視図である。本実施形態に係る光学素子1は、例えば偏光フィルタである。光学素子1は、互いに対向する主面(第1の主面)3a及び主面(第2の主面)3bを有する高分子フォトニック結晶3を備える。高分子フォトニック結晶3は、例えば円形のフィルム状を呈している。
【0026】
「フォトニック結晶」とは、異なる屈折率を有する物質を光の波長程度の大きさのユニットで周期的に配列した構造体のことである。この周期構造によって、特定の波長の光を完全に遮断するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)が発生し、特定の光の透過性をその結晶構造に応じて制御することができる。
【0027】
高分子フォトニック結晶3は、高分子ブロック共重合体を含有している。「高分子ブロック共重合体」とは、例えば、モノマーAから形成されたポリマー鎖と、モノマーBから形成されたポリマー鎖など、二種以上のポリマー鎖が結合した共重合体をいう。
【0028】
本実施形態において使用される高分子ブロック共重合体としては、例えば、ポリスチレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(エチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(プロピルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ペンチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(デシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ドデシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(メチルアクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルアクリレート)、ポリスチレン−b−ポリブタジエン、ポリスチレン−b−ポリイソプレン、ポリスチレン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリイソプレン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリビニルピリジン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリビニルピリジン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリビニルピリジン−b−ポリブタジエン、ポリビニルピリジン−b−イソプレン、ポリブタジエン−b−ポリビニルナフタレン、ポリビニルナフタレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリビニルナフタレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)等の2元ブロック共重合体、ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)等の3元ブロック共重合体等が挙げられる。なお、高分子ブロック共重合体は、構成成分間で屈折率が異なれば上記に限ることはない。
【0029】
高分子ブロック共重合体の重量平均分子量の下限値は、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造が良好に得られる観点から、800,000(g/mol)以上が好ましく、1,000,000(g/mol)以上がより好ましく、1,100,000(g/mol)以上が更に好ましい。上記重量平均分子量の上限値は、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造が更に良好に得られる観点から、3,000,000(g/mol)以下が好ましく、2,500,000(g/mol)以下がより好ましく、2,000,000(g/mol)以下が更に好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算の重量平均分子量として得ることができる。
【0030】
高分子フォトニック結晶3は、シリンダー状のミクロ相分離構造5を含んでいる。「ミクロ相分離構造」とは、高分子ブロック共重合体の異種のポリマー鎖が互いに混じり合うことなく相分離し、これにより秩序だったミクロドメイン構造を作り、このミクロドメイン構造が周期的に配置した集合体をいう。
【0031】
「ミクロドメイン構造」は、高分子ブロック共重合体の組成等に応じて、様々な形態を示す。例えば、2つのブロック鎖が層状に交互に並んだ構造のラメラ状のもの、一方のポリマー鎖からなるマトリックス中に、他方のブロック鎖が円柱状に存在する構造のシリンダー状、球形に存在する球状、網の目構造になったジャイロイド状の構造等に分類される。
【0032】
高分子フォトニック結晶3では、ミクロ相分離構造5のシリンダー状ミクロドメイン構造7が主面3a及び主面3bに垂直な中心軸A1を中心として同心円状に配向している。なお、本実施形態の光学素子1に含まれるミクロ相分離構造5の形態及び繰り返し周期は図1に示されるものに限定されるものではない。
【0033】
また、ミクロ相分離構造5は、高分子フォトニック結晶3の厚さ方向の中心面Pを基準として面対称(鏡面対称)に形成されている。すなわち、高分子フォトニック結晶3の厚さ方向の中心面Pから主面3aにかけてのミクロ相分離構造5の配向状態と、中心面Pから主面3bにかけてのミクロ相分離構造5の配向状態とは略同一である。なお、中心面Pは、高分子フォトニック結晶3の厚さ方向の中心を通り且つ当該厚さ方向に直交する平面に相当する。
【0034】
配向状態が略同一であるとは、シリンダー状ミクロドメイン構造7の隣接間隔、直径などが中心面Pを基準とした対称位置において互いに略同一であることを意味する。配向状態の対称性の指標として、第1部材及び第2部材の回転方向と平行方向からX線を入射した際に得られる超小角X線散乱パターン(図3及び図4)の一次ピーク強度の方位角依存性(図5及び図6)の半値全幅を厚み方向に対して評価した際、中心位置を基準として対称であり、その中心位置を基準とした対称位置における半値全幅の値の差が20%以内であることが好ましい。
【0035】
高分子フォトニック結晶3は、高分子ブロック共重合体以外の構成成分として、高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーを単量体成分として含む組成物を光重合開始剤の存在下で光重合させて得られる光硬化性樹脂(高分子化合物)を含んでいる。上記光重合性モノマーとしては、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。上記光重合性モノマーとしては、単官能性モノマー又は多官能性モノマーのいずれでもよく、例えばカルボキシエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレートなどの単官能モノマー、ジエチレングリコールアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングレコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、4,4′−ジアクリロイルオキシスチルベン、ジエチレングリコールメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートなどの多官能モノマーが該当する。上記光重合性モノマーとしては、多官能モノマーが好ましく、例えばジシクロペンタニルアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート等がより好ましい。上記光重合性モノマーは単独で使用しても良く、あるいは、2種類以上を混合して使用しても良い。光硬化性樹脂の含有量は、高分子フォトニック結晶3の全質量基準で40〜90質量%が好ましい。
【0036】
また、高分子フォトニック結晶3は、可塑剤等、他の成分を含有させることができる。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物、ポリエステル等から選ばれた少なくとも1種の可塑剤が挙げられる。高分子フォトニック結晶3がこれらの可塑剤を含有することにより、ミクロ相分離構造の規則性を向上することができる。可塑剤の含有量は、高分子フォトニック結晶3の全質量基準で5〜50質量%が好ましい。
【0037】
高分子フォトニック結晶3の厚さの下限値は、配向制御を更に良好に行うことが可能であり、更に良好な光学特性が得られる観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.1mm以上が更に好ましい。高分子フォトニック結晶3の厚さの上限値は、配向制御を更に良好に行うことが可能であり、更に良好な光学特性が得られる観点から、1.00mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.6mm以下が更に好ましい。
【0038】
本実施形態に係る光学素子1では、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造5が主面3a,3bに垂直な中心軸A1を中心として同心円状に配向して高分子フォトニック結晶3に形成されているため、屈折率周期構造に基づきフォトニック結晶としての光学特性を発現できる。そして、本実施形態に係る光学素子1では、ミクロ相分離構造5が高分子フォトニック結晶3の厚さ方向の中心面Pを基準として対称に高分子フォトニック結晶3に形成されているため、主面3a側と主面3b側とで光学特性を均質化することが可能である。これにより、従来に比して光学特性を向上させることができる。
【0039】
(光学素子の製造方法)
本実施形態に係る光学素子の製造方法は、例えば溶液調製工程、配向性付与工程(第1工程)、アニール工程及び光重合工程(第2工程)をこの順に備えている。
【0040】
溶液調製工程では、まず、上述した構成ポリマー鎖成分を有する高分子ブロック共重合体を重合によって得る。次に、高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーに高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を溶解させて、高分子ブロック共重合体と光重合開始剤と光重合性モノマーとを含有するポリマー溶液を調製する。ポリマー溶液には、上記可塑剤等、他の成分を含有させることができる。この溶液調製段階で高分子ブロック共重合体はミクロ相分離構造を形成している。
【0041】
ポリマー溶液中の高分子ブロック共重合体の含有量は、作製プロセスにおいて粘度を下げるために加熱する必要が無く、室温においてある程度低粘度で流動性を有するポリマー溶液とする観点から、ポリマー溶液の全質量基準で3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、7〜13質量%が更に好ましい。高分子ブロック共重合体の含有量が3質量%未満であると、ミクロ相分離構造を形成する際の偏析力が減少する傾向があり、ミクロ相分離構造の規則性が低下する傾向がある。高分子ブロック共重合体の含有量が30質量%を超えると、偏析力は増大するものの、粘度が増加するため、流動場印加による配向制御が難化する傾向がある。
【0042】
光重合開始剤は、活性光線照射により活性化しうる重合開始剤であり、活性光線照射により分子が開裂してラジカルとなり、光重合性を有するポリマー又はモノマーとラジカル重合反応を引き起こすことにより、材料を高分子量化(架橋)させてゲル化を進行させるラジカル型光重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤としては、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン等が挙げられる。光重合開始剤としては、より具体的にはIRGACURE651(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で使用しても良く、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤の含有量は、光重合性モノマーの全質量基準で0.05〜0.5質量%とすることが好ましい。
【0043】
次に、図2を用いて配向性付与工程について説明する。まず、平坦な主面を有する板状部材(第1部材)10及び板状部材(第2部材)20を準備する。板状部材10,20は、例えば円形状であり、例えば石英ガラスにより形成されている。板状部材10,20の直径は、例えば20〜100mmが好ましい。板状部材10,20の厚さは、例えば0.5〜10mmが好ましい。板状部材10,20は、形状、構成材料、大きさが互いに同一であることが好ましい。
【0044】
次に、板状部材10の主面10a上にポリマー溶液を滴下した後、板状部材10の主面10aと板状部材20の主面20aとが平行になるように、且つ、主面10aの中心点C1と主面20aの中心点C2とが対向するようにポリマー溶液上に板状部材20を配置して、板状部材10及び板状部材20間にポリマー溶液を展開させる。なお、主面10aと主面20aとが平行になるように板状部材10と板状部材20とを対向配置させた後、主面10aと主面20aとの間にポリマー溶液を注入してもよい。
【0045】
ポリマー溶液の厚さは、主面10aと主面20aとの間の距離に相当し、配向制御を更に良好に行うことが可能であり、更に良好な光学特性が得られる観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.1mm以上が更に好ましい。また、ポリマー溶液の厚さは、配向制御を更に良好に行うことが可能であり、更に良好な光学特性が得られる観点から、1.00mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.6mm以下が更に好ましい。
【0046】
次に、互いに対向する主面10aと主面20aとの間にポリマー溶液を介在させた状態で、主面10a及び主面20aに垂直な回転軸A2を中心として板状部材10,20を相互に逆方向に回転させる。すなわち、板状部材10を回転方向(第1の方向)D1に回転させると共に、回転軸A2を中心として板状部材20を回転方向D1と逆方向の回転方向(第2の方向)D2に回転させる。回転軸A2としては、主面10aの中心点C1と主面20aの中心点C2とを通過する軸を採用する。
【0047】
板状部材10,20を同一の回転軸A2を中心として相互に逆方向に回転させることにより、ポリマー溶液に対してそれぞれの板状部材10,20の回転方向に回転ずり流動場(回転定常流動場)S1,S2を印加することができる。すなわち、ポリマー溶液における板状部材10側の部分に対して回転方向D1に回転ずり流動場S1を印加することが可能であり、ポリマー溶液における板状部材20側の部分に対して回転方向D2に回転ずり流動場S2を印加することが可能である。これにより、ポリマー溶液中の高分子ブロック共重合体のシリンダー状ミクロドメイン構造が回転軸A2を中心として同心円状に配向したミクロ相分離構造が形成される。
【0048】
板状部材10,20がポリマー溶液に印加する回転ずり流動場S1,S2の大きさは、互いに略同一であることが好ましい。このような観点から、板状部材10,20の回転数は互いに略同一であることが好ましい。また、板状部材10,20の回転数は、ポリマー溶液の厚さに応じて適宜選択されるが、ポリマー溶液の厚さが0.01〜1.00mmである場合には、0.1〜50rpmが好ましく、1〜25rpmがより好ましい。ポリマー溶液の温度は室温(25℃)が好ましく、流動場の印加時間は5〜120分が好ましい。
【0049】
アニール工程では、配向性付与工程において形成されたミクロ相分離構造を有するポリマー溶液をアニールして、ミクロ相分離構造の規則性を向上させる。アニール温度としては、15〜100℃が好ましい。
【0050】
光重合工程では、ポリマー溶液に活性光線(例えば紫外線)を照射することにより、ポリマー溶液中の光重合性モノマーを重合させる。これにより、配向性付与工程において形成されたミクロ相分離構造を保持しつつ簡易な方法でミクロ相分離構造を固定化することができる。
【0051】
以上により、本実施形態に係る光学素子1を得ることができる。
【0052】
本実施形態に係る光学素子の製造方法では、配向性付与工程において、互いに対向する板状部材10の主面10aと板状部材20の主面20aとの間に、高分子ブロック共重合体を含むポリマー溶液を介在させた状態で、主面10a及び主面20aに垂直な回転軸A2を中心として板状部材10及び板状部材20を相互に逆方向に回転させることにより、ミクロ相分離構造5のシリンダー状ミクロドメイン構造7が溶液状態において、回転軸A2を中心として同心円状に配向し且つ高分子フォトニック結晶3の厚さ方向の中心面Pを基準として面対称に形成される。そして、光重合工程において、ポリマー溶液中の光重合性モノマーを重合させることにより、配向性付与工程で得られたミクロ相分離構造5の配向状態を保持しつつミクロ相分離構造5を固定化して高分子フォトニック結晶3を得ることができる。このような高分子フォトニック結晶3を備える光学素子1では、板状部材10の主面10a側に位置する高分子フォトニック結晶3の主面3b側と、板状部材20の主面20a側に位置する高分子フォトニック結晶3の主面3a側とで光学特性を均質化することが可能であり、従来に比して光学特性を向上させることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、配向性付与工程において板状部材10と板状部材20とを同時に回転させることで、ポリマー溶液の両側から同時に回転ずり流動場を印加している。これに対し、板状部材10と板状部材20とを同時に回転させることなく、一方の板状部材のみを回転させた後に他方の板状部材のみを回転させた場合には、主面10a側におけるミクロ相分離構造の配向状態と主面20a側におけるミクロ相分離構造の配向状態とを均質化することができず、充分な対称性を有するミクロ相分離構造を得ることはできない。
【0054】
本発明は上述の実施形態に限られず、様々な変形態様が可能である。例えば、光学素子としては、偏光フィルムの他、例えばノッチフィルター、ダイクロイックミラー、レーザー共振器が挙げられる。また、上述の実施形態では、板状部材は円形状であるがこれに限られるものではなく、例えば矩形状であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明に関して実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(フィルム作製)
高分子ブロック共重合体:ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)(PS−b−P(t−BMA))(重量平均分子量1,500,000[g/mol]、PS:P(t−BMA)=64:36[vol%])を1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタンとフタル酸ジオクチルが質量比70:30の混合溶媒に8質量%となるように溶解させ、光重合開始剤としてイルガキュア651(チバスペシャリティケミカル社製)を1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタンの含有量に対して0.3質量%となるように溶解させた溶液を調製した。
【0057】
この溶液を円形の石英ガラス板(直径25mm、厚さ2mm)の主面上に滴下し、厚さ0.6mmのリング状スペーサを介して同様の円形の石英ガラス板で溶液をリング状スペーサの内側に配置するように上下に挟み、溶液を円形のまく状に展開させた。なお、石英ガラス板の対向する主面の間の距離は0.6mmとした。
【0058】
次に、ガラス板を回転数25rpmで10分回転させて、シリンダー状のミクロ相分離構造を形成している溶液(温度25℃)に対して回転ずり流動場を印加した。この際、片側(上側)のガラス板のみを回転させた場合と、両方のガラス板を回転させた場合の2種類の回転ずり流動場印加方法を採った。高分子ブロック共重合体を含有する溶液における回転ずり流動場を印加した領域には、高分子ブロック共重合体のシリンダー状ミクロドメイン構造が同心円状に配向したミクロ相分離構造が形成された。
【0059】
回転ずり流動場を印加した後、余分な力が加わらないようにして25度で72時間アニールした。その後、紫外線を照射して、回転ずり流動場により配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムを得た。高分子フォトニック結晶フィルムの厚さは0.6mmであった。
【0060】
(配向性評価)
流動場印加によって配向制御されたミクロ相分離構造の規則性を大型放射光施設SPring8 ビームライン19B2の超小角X線散乱測定によって評価した。流動方向からX線を入射して散乱パターンの厚さ方向依存性を評価した。
【0061】
図3,4は、高分子フォトニック結晶フィルムの2次元超小角X線散乱パターンを示す図面である。図5,6は、高分子フォトニック結晶フィルムにおける一次ピークの散乱強度の方位角依存性を示す図面である。なお、図3,5は、結晶の両側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムの測定結果であり、図4,6は、結晶の片側から配向制御した高分子フォトニック結晶フィルムの測定結果である。図3〜6において、(a)はフィルム表面付近(流動場印加側)の測定結果であり、(b)はフィルムの厚さ方向の中心付近の測定結果である。図7は、フィルムの厚さ方向の位置と一次ピークにおける方位角方向の半値全幅との関係を示す図面である。
【0062】
図3〜7に示されるように、両方のガラス板を回転させて得られたフィルムの方が、片方のガラス板を回転させて得られたフィルムに比べて溶液に効果的に流動場を印加することができるため、方位角方向の乱れが少なく、また、フィルム厚さ方向の均質性が高いことが示された。
【0063】
(光学特性評価)
作製したフィルムの偏光透過特性を評価した。シリンダー状ミクロ相分離構造のシリンダー軸に対して電場振幅方向が垂直なTE偏光、及び、電場振幅方向が平行なTM偏光のそれぞれの偏光透過スペクトルを図8に示す。図8に示されるように、両方のガラス板を回転させて得られた高分子フォトニック結晶フィルムの方が、片方のガラス板を回転させて得られたフィルムに比べて430nm付近におけるTE偏光、TM偏光の透過率の差が大きく、偏光制御フィルタとして高い光学特性を有していることが示された。
【符号の説明】
【0064】
1…光学素子、3…高分子フォトニック結晶、3a,3b…主面、5…ミクロ相分離構造、7…シリンダー状ミクロドメイン構造、10…板状部材(第1部材)、20…板状部材(第2部材)、10a,20a…主面、30…ポリマー溶液、A1…中心軸、A2…回転軸、C1,C2…中心点、P…中心面、D1,D2…回転方向、S1,S2…回転ずり流動場。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有し且つ高分子ブロック共重合体を含有する高分子フォトニック結晶を備え、
前記高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が、前記第1の主面及び前記第2の主面に垂直な軸を中心として同心円状に配向し且つ前記高分子フォトニック結晶の厚さ方向の中心を基準として対称に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記高分子ブロック共重合体の重量平均分子量が800,000以上である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記高分子フォトニック結晶が、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の光重合性モノマーを含む組成物を重合させて得られる高分子化合物を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記高分子フォトニック結晶が、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の可塑剤を更に含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
互いに対向する第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、高分子ブロック共重合体と、光重合開始剤と、当該高分子ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーとを含有する溶液を介在させた状態で、前記第1部材の主面及び前記第2部材の主面に垂直な回転軸を中心として前記第1部材及び前記第2部材を相互に逆方向に回転させる第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液に光を照射することにより前記光重合性モノマーを重合させて、前記高分子ブロック共重合体のミクロ相分離構造が前記回転軸を中心として同心円状に配向した高分子フォトニック結晶を得る第2工程と、を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記高分子ブロック共重合体の重量平均分子量が800,000以上である、請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記光重合性モノマーが、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記溶液が、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の可塑剤を更に含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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