説明

光学素子及び光ヘッド装置

【課題】レンズシフトによる収差の影響が小さく、小型で、安価で、信頼性の高い光学素子を提供する。
【解決手段】光を透過する基板と、前記基板の表面に形成された凹凸部と、を有する光学素子において、前記光学素子における波面収差をフリンジゼルニケ多項式で展開した場合におけるフリンジゼルニケ多項式の第8の項の係数をqとし、第11の項の係数をpとした場合に、0<|p/q|≦1となるものであることを特徴とする光学素子を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ヘッド装置では、光ディスクの記録再生を行なうために、各波長の光を回折限界近くまで絞って集光している。回折限界に近い集光スポットを得るためには、光学系の収差を小さな値とすることが求められる。このため、光ヘッド装置に用いられる各光学部品においては、収差に対して高い精度が求められるとともに、各光学部品が配置される位置や組立工程においても高い精度が求められている。
【0003】
光ディスクの収差には、光学部品の精度や組立の際における配置される位置の誤差に起因した光学系の光軸のずれや、光ディスクに対するチルト(傾き)によって発生する非点収差やコマ収差がある。これらの収差は、同一の光学設計がなされた光ヘッド装置であっても、製造工程において発生する様々な要因等により異なる場合がある。よって、このような収差の違いを抑制するためには、光学部品の精度の向上や組立工程においてより精密な組立を行なう必要がある。
【0004】
ところで、光ディスクの規格としては、波長が785nm、開口数(NA)が0.45のCD(Compact Disc)や、波長が660nm、開口数(NA)が0.6のDVD(Digital Versatile Disc)や、波長が405nm、開口数(NA)が0.85の「Blu−ray」(登録商標:以下BD)といった複数の種類の規格が存在している。このような光ディスクに対応した光ヘッド装置において、BD用等の高いNAの対物レンズを用いる場合には、DVD用やCD用等の低いNAの対物レンズを用いる場合よりも、より高い精度で光学部品の製造や組立を行なう必要がある。
【0005】
また、1つの光ヘッド装置において、異なる規格の複数の光ディスクに対応して記録再生を行なうために、複数の対物レンズを1つのレンズホルダに設置したものを用いる場合がある。このような場合においては、一方の光学系を調整すると対物レンズのレンズホルダの位置がほぼ固定されてしまうため、他方の光学系の調整の際に、他の光学系の対物レンズにおける位置の調整を十分に行なうことができずに、光ヘッド装置の組立が行なわれている。
【0006】
この場合、他方の光学系において光軸のずれが生じ、光ディスクにレーザ光を集光する際に収差が発生する場合がある。このような光ヘッド装置の組立工程において発生した収差を補正する方法としては、光ヘッド装置に収差補正素子として液晶パネルを備え、液晶パネルに電圧を印加して入射する光の位相を変化させる方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
ところで、光ヘッド装置においては、光ディスクにおける情報記録面の情報ピット列に追従させるためトラッキングサーボがかけられているが、この際、光ヘッド装置の対物レンズが情報ピット列の配列方向と垂直方向に移動するレンズシフトが発生する。一般に収差は、ある座標を中心としたものであり、その座標の中心に変化が生じた場合、別の収差が発生する。従って、収差補正素子によって特定の収差が発生している場合には、対物レンズのレンズシフトによって光軸が変化すると、特定の収差の発生量が変化し、また、意図しない収差が発生してしまう。特許文献1に記載されている収差補正素子では、このような収差の変化を抑制するために、収差補正素子を5つの領域に分割し、各々の領域において発生する位相差が所定の値となるようにしている。尚、上述した、収差の変化は、収差補正素子を設置する際、収差補正素子の中心と光ヘッドの光学系の光軸とがずれることによっても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−48725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている収差補正素子においては、収差補正をする液晶パネルを含む光ヘッド装置の位置を固定して一定量の収差を補正する場合に、常に特定の電圧を印加して液晶の配向を保つ必要がある。このため、光学部品に液晶素子を駆動するための電気的な配線や駆動回路を組み込まなければならず、光学系が大型化してしまう。また、収差補正量を一定に保つために常に安定した電圧を供給しなければならず、このための駆動回路が複雑になる等の問題点を有している。更に、収差補正素子として液晶を用いた場合、液晶は温度変化による屈折率変動が大きいため、信頼性に欠けるという問題もある。よって、温度変化を補償する回路等を組み込むことにより対応する方法が考えられるが、この場合には、外部に温度センサが必要になるため、コストが増大し回路が複雑化するといった問題点を有していた。
【0010】
また、特許文献1に記載されている収差補正素子は、特定の方向にレンズシフトが発生した場合についてのみレンズシフトの影響を低減することが可能であるが、特定の方向以外の方向におけるレンズシフトに関しては、レンズシフトの影響を低減することができるか否か定かではない。
【0011】
本発明は、上記点に鑑みたものであり、液晶を含む素子を使用することなく、また、レンズシフトによる収差の影響が小さく、小型で、安価で、信頼性の高い収差補正素子としての機能を有する光学素子及び光ヘッド装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、光を透過する基板と、前記基板の表面に形成された凹凸部と、を有する光学素子において、前記光学素子における波面収差をフリンジゼルニケ多項式で展開した場合におけるフリンジゼルニケ多項式の第8の項の係数をqとし、第11の項の係数をpとした場合に、0<|p/q|≦1となるものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記凹凸部は、3段以上の凹凸を有するものであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記凹凸部は、透明部材の表面に凹凸形状が形成されているものであって、前記基板の上に形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記凹凸部の表面には媒質部が形成されており、前記凹凸部を形成している材料の屈折率と、前記媒質部を形成している材料の屈折率とは、第1の波長においては等しく、第2の波長においては異なっているものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記基板又は凹凸部の表面には、反射防止膜が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、光源と、前記光源より出射された光を集光し光ディスクに照射する対物レンズと、前記光ディスクからの反射光を検出する光検出器と、前記光源から出射された光の光路に設置された前記記載の光学素子と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記光源は複数であり、複数の前記光源は相互に異なる波長の光を出射するものであって、複数の前記光源の波長に対応し、複数の対物レンズを有しており、複数の前記対物レンズは、共通のレンズホルダに固定されているものであって、前記光源からの光路の一方または双方に前記光学素子が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明における光学素子では、液晶を含む素子が使用されておらず、また、レンズシフトによる収差の影響を小さくすることができるため、光学素子及びこの光学素子を用いた光ヘッド装置を小型で、安価で、信頼性の高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態における光学素子の説明図
【図2】第1の実施の形態における他の光学素子の構造図(1)
【図3】第1の実施の形態における他の光学素子の構造図(2)
【図4】第1の実施の形態における光学素子の凹凸部の説明図
【図5】第1の実施の形態における光学素子に照射される光束の光軸の説明図
【図6】第2の実施の形態における光ヘッド装置の構造図
【図7】第3の実施の形態における光ヘッド装置の構造図
【図8】第4の実施の形態における光ヘッド装置の構造図
【図9】実施例1における光学素子の構造の説明図
【図10】実施例1における光学素子の波面収差の説明図
【図11】実施例2における光学素子の構造の説明図
【図12】実施例2における光学素子の波面収差の説明図
【図13】実施例3における光学素子の構造の説明図
【図14】実施例3における光学素子の波面収差の説明図
【図15】実施例4における光学素子の構造の説明図
【図16】実施例4における光学素子の波面収差の説明図
【図17】実施例5における光学素子の構造の説明図
【図18】実施例5における光学素子の波面収差の説明図
【図19】実施例6における光学素子の構造の説明図
【図20】実施例6における光学素子の波面収差の説明図
【図21】実施例7における光学素子の構造の説明図
【図22】実施例7における光学素子の波面収差の説明図
【図23】実施例8における光学素子の構造の説明図
【図24】実施例8における光学素子の波面収差の説明図
【図25】比較例1における光学素子の説明図
【図26】比較例1における光学素子の波面収差の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
〔第1の実施の形態〕
図1に基づき、本実施の形態における光学素子について説明する。図1(a)は本実施の形態における光学素子の上面図であり、図1(b)は図1(a)における一点鎖線1A−1Bにおいて切断した断面図である。本実施の形態における光学素子10は、収差を補正するための収差補正素子であり、光を透過する基板11の表面に凹凸部12が形成されているものである。凹凸部12には、表面に3段以上の凹凸が階段状に形成されており、例えば、図1に示す場合では、7段の凹凸の階段状に形成されている。本実施の形態における光学素子には、光束が照射され光学素子において光スポット21が形成されるが、レンズシフトが生じていない場合には、図1(a)に示されるように、本実施の形態における光学素子の略中心となる点Oに、照射される光束の光軸(光スポット21の中心)が位置するように照射される。尚、レンズシフトが生じた場合には、光束の光軸は光学素子の面内において移動する。本実施の形態における光学素子では、光スポット21となる光束を照射することにより、凹凸部12における凹凸形状により生じた光路差により所定の収差が発生する。この発生した収差により、例えば、光スポット21の光軸が点Oより移動することにより生じた収差を補正することができるものである。
【0023】
図1においては、本実施の形態における光学素子10は、凹凸部12が7段の階段状に形成されている場合について示しているが、3段以上の段数であればよく、また、階段状ではなく、なめらかな曲線状に形成したものであってもよい。凹凸部12は、基板11と同様に光を透過する材料により形成されており、基板11を形成している材料と同一の材料により形成したものであってもよく、また、基板11を形成している材料と異なる材料により形成したものであってもよい。また、凹凸部12は、有機物、無機物、有機無機の混合材料のいずれを用いてもよく、多層膜を積層形成することにより形成したものであってもよい。具体的に、凹凸部12の形成方法としては、射出成形による方法、インプリント法、フォトリソグラフィとエッチングを交互に繰り返し行なうことによる加工方法等が挙げられる。
【0024】
また、図2に示されるように、本実施の形態における光学素子10aは、2枚の基板11、14の間に、凹凸部12と凹凸部12の形状に対応した形状の媒質部13を設けた構造のもの、即ち、2枚の基板11、14の間に、凹凸部12と凹凸部12における凹凸を埋め込むように形成した媒質部13とにより形成された構造のものであってもよい。この場合、凹凸部12を形成している材料の屈折率と媒質部13を形成している材料の屈折率とが、ある波長(第1の波長)では一致し、他のある波長(第2の波長)では異なるような材料を用いることにより、波長選択性を有する光学素子とすることができる。このような光学素子では、ある波長(第1の波長)では収差補正素子として機能する透明板となるが、他のある波長(第2の波長)では収差補正素子として機能する。
【0025】
また、図3に示されるように、本実施の形態における光学素子10bは、基板11に凹凸部12が形成されているもののいずれか一方の面、又は、両面に、反射防止膜15、16を形成したものであってもよい。尚、光学素子は、基板11は単一の基板の場合を示しているが、同様の収差補正機能を有するものであれば、複数の基板に凹凸部を有するものであってもよい。
【0026】
次に、本実施の形態における光学素子によって発生する収差について説明する。光学素子10に入射する光束の光軸を原点とした場合、光学素子10に形成された凹凸部12により、座標(x、y)において、L(x、y)となる光路差が生じる。尚、xy座標は図1(a)に示されるように設定されているものとする。図4に示すように、凹凸部12の高さの最大値をhとし、点O(0、0)における高さをd、点(x、y)における高さをdとし、凹凸部12における屈折率をn、凹凸部12の周りの媒質、例えば、空気の屈折率をnとすると、点(x、y)における点Oに対する光路差L(x、y)は、数1に示す式で表わされる。
【0027】
【数1】

数1に示す式は、光路差分布を示す式であり、数1に示される光路差L(x、y)に対して、2π/λを乗じることにより、点(x、y)における光束の位相差を得ることができる。尚、λは入射する光(光束)の波長である。また、光路差L(x、y)を波長λで規格化したW(x、y)=L(x、y)/λを波面収差W(x、y)と記載する。ここで、光学素子に入射する光束の半径をrとし、ξ=x/r、η=y/rとすると、波面収差W(ξ、η)は直交関数系であるゼルニケ(Zernike)多項式によって展開することができ、ゼルニケ多項式における係数が球面収差、非点収差、コマ収差等の各収差成分の値に対応する。尚、本実施の形態においては、ゼルニケ多項式とは、フリンジゼルニケ多項式を意味するものとする。
【0028】
ここで、図5に示すように、入射する光束の光軸が、点Oに対してx方向にΔx移動した点Oとなった場合について考える。この場合、点Oを原点として、x、y座標をとると、光学素子によって発生する位相差分布はW(x+Δx、y)となる。δ=X/r、ξ=x/r、η=y/rとするとW(ξ+δ、η)となり、これをゼルニケ多項式によって展開することにより各収差成分を算出することができる。
【0029】
y方向における3次コマ収差を発生させる光学素子を例として、前述した光軸のシフトの影響について説明する。y軸方向における3次コマ収差Zは、数2に示す式で表わすことができる。尚、ρ=ξ+η、θ=atan(η/ξ)である。
【0030】
【数2】

点Oに光軸がある場合、光学素子によって生じる波面収差e(ξ、η)によりy方向の3次コマ収差Zが生じているとすると、光軸が点Oにシフトした場合の波面収差e(ξ、η)は、数3で示す式により表わされる。尚、Aは点Oにおいて発生するy軸方向の3次コマ収差成分の量を表わす係数である。また、数3におけるZ、Zは、数4に示す式で表わされるものであり、Zは45°方向の3次非点収差、Zはy方向のチルト成分である。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

従って、点Oにおいてy方向の3次コマ収差が発生する光学素子に対して、光軸が点Oとなる光束が入射した場合には、3次の非点収差成分とチルト成分が発生する。数3に示す式より、チルト成分は光軸の変動量δに対する2次の量となっているためチルト成分の発生量は小さく、一般にチルト成分は光学系の集光特性に対する影響が小さいことを考えると、Zの項が集光特性に対する影響は小さいが、非点収差成分は集光特性への影響が大きい。また、図1に示されるように、光学素子10において発生する光路差の分布が離散的なものである場合、光軸のシフトによって光軸が点Oにある場合に発生するコマ収差の量に対して、光軸が点Oにある場合に発生するコマ収差の量が変化する場合がある。このような光軸のシフトによる収差量の変動は、光学素子の設置マージンが狭くなる等の影響があり、また、光軸が可動であるような光学系に用いる場合には収差特性が変動するため好ましくない。
【0033】
このような収差特性の変動を抑制するため、本実施の形態における光学素子10では、y軸方向の3次コマ収差成分とは別に、光軸がシフトすることにより非点収差が発生するような波面収差となるように形成されている。このような波面収差の例としては、数5に示されるf(ξ、η)が挙げられる。数5に示される式において、α、β、Bは定数である。光軸が点Oの存在している場合には、波面収差f(ξ、η)となり、点Oから点Oへと光軸がシフトし、点Oに光軸が存在している場合には、数6に示される式の波面収差が発生する。数6に示される式では、45°方向において3次非点収差成分が発生しているので、光学素子に、このような波面収差f(ξ、η)を付与することにより、コマ収差がある場合において、光軸のシフトにより発生する非点収差を打ち消すことができる。尚、数6に示される式のようなチルト成分や波面収差のオフセットとなるピストン成分も発生しているが、これらの集光特性に対する影響は小さい。
【0034】
【数5】

【0035】
【数6】

数5に示される波面収差f(ξ、η)は、数7に示す式に書き直すこともできる。ここで、Z11は、数8に示されるものであり、Trefoil収差と呼ばれることがあるものである。従って、本実施の形態における光学素子は、コマ収差成分の他にTrefoil収差を含むものである。
【0036】
【数7】

【0037】
【数8】

ここで、本実施の形態における光学素子に付与されるTrefoil収差は、光学系の集光特性に影響を与えるものであり、光学素子によって発生するコマ収差よりも小さな値であることが好ましい。即ち、本実施の形態における光学素子において、波面収差を測定した場合に、Z11の収差量pとZの収差量qとの比の絶対値|p/q|が、0よりも大きく、1以下であることが好ましい。
【0038】
次に、点Oからy方向にΔyずれた点Oの場合について説明する。δ=Δy/r、点Oを原点としてx軸をとり、rで規格化された座標(ξ、η)、光軸が点Oに存在している場合に、y方向の3次コマ収差が発生しているとして、光軸が点Oにシフトした場合における波面収差W(ξ、η)は数9に示す式で表わされる。但し、数9に示す式では、δにおける2次以上の項や波面収差のピストン成分は無視している。尚、Z、Zは数10に示す式で表わされるものであり、Zはデフォーカス成分であり集光位置の変化があるが、集光特性への影響は小さい。Zはxy軸方向の非点収差成分であり、集光特性への影響が大きい。
【0039】
【数9】

【0040】
【数10】

従って、光軸がy方向にシフトする場合には、xy軸方向における非点収差成分が発生する。これを打ち消すための波面収差として、数11に示すg(ξ、η)を用いる。尚、数5に示される式において、α、β、Cは定数である。光軸が点Oに存在している場合には、波面収差g(ξ、η)が付与され、点Oから点Oに光軸がシフトし、点Oに光軸が存在している場合には、数12に示される波面収差g(ξ、η)が発生する。数12では、xy軸方向において、3次非点収差成分が発生しているため、このような波面収差g(ξ、η)を付与することにより、コマ収差がある場合において、光軸のシフトにより発生する非点収差を打ち消すことができる。
【0041】
【数11】

【0042】
【数12】

数12に示される波面収差g(ξ、η)は、数13に示す式に書き直すこともできる。ここで、Z11は、数8に示されるものであり、Trefoil収差と呼ばれることがあるものである。従って、本実施の形態における光学素子は、コマ収差成分の他にTrefoil収差を含むものである。
【0043】
【数13】

ここで、本実施の形態における光学素子に付与されるTrefoil収差は、光学系の集光特性に影響を与えるものであり、光学素子によって発生するコマ収差の量よりも小さいことが好ましい。即ち、本実施の形態における光学素子において、波面収差を測定した場合に、Zの収差量q(第8の項の係数)に対するZ11の収差量p(第11の項の係数)の比の絶対値|p/q|が、0よりも大きく、1以下であることが好ましい。
【0044】
以上より、本実施の形態における光学素子により、コマ収差を補正する場合、Trefoil成分を加えることにより、光軸のシフトに対する変動の影響を低減することができる。本実施の形態における光学素子によって発生させる波面収差としては、数14に示す式により表わすことができる。数14に示す式において、W(ξ、η)はZやZ11以外の成分を含む波面収差である。W(ξ、η)をゼルニケ多項式で展開したときの各々の係数の絶対値は、|q|よりも小さく、また、|p|よりも小さいことが好ましい。表1においては、ゼルニケ多項式(フリンジゼルニケ多項式)における第1項から第37項までを示しているが、Zがピストン成分、Zがξ方向チルト成分、Zがη方向チルト成分、Zがデフォーカス成分に各々対応している。
【0045】
【数14】

【0046】
【表1】

また、上記説明においては、y方向におけるコマ収差について説明したが、x方向におけるコマ収差については、前述のZ成分をZ成分に置き換え、Z11成分をZ10成分に置き換えることにより、同様の特性を得ることができる。
【0047】
尚、本実施の形態における光学素子は、後述する光ヘッド装置以外にも、レーザ顕微鏡、レーザアニール装置、レーザ加工装置等、レーザ光を集光する様々な装置に適用することが可能である。
【0048】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における光学素子を用いた光ヘッド装置である。図6に基づき本実施の形態における光ヘッド装置について説明する。
【0049】
本実施の形態における光ヘッド装置100は、所定の波長の光を出射する光源110と、光源110からの光を平行光に変換するコリメータレンズ121と、コリメータレンズ121を出射した光を光ディスク150の方向に透過させるとともに、光ディスク150の情報記録面150aにおいて反射された信号光を偏向分離して光検出器140が設置されている方向に導くためのビームスプリッタ122と、光源110からの光を光ディスク150の情報記録面150aに集光するための対物レンズ123と、信号光を光検出器140に集光するための集光レンズ124と、光ディスク150の情報記録面150aにおいて反射された信号光を検出するための光検出器140と、収差補正素子130とを有している。尚、収差補正素子130は、第1の実施の形態における光学素子であり、本実施の形態において光学素子と記載する場合がある。
【0050】
光検出器140は、光ディスク150の情報記録面150aに記録されている情報の再生信号、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号を検出するものである。尚、本実施の形態における光ヘッド装置では、検出されたフォーカスエラー信号に基づいて、対物レンズ123を光軸方向に制御し移動させるための不図示のフォーカスサーボと、検出されたトラッキングエラー信号に基づいて、対物レンズ123を光軸に対し垂直方向に制御し移動させるための不図示のトラッキングサーボとを有している。
【0051】
光源110は、例えば、405nm波長帯の直線偏光の発散光を出射する半導体レーザにより形成されている。尚、本実施の形態における光ヘッド装置においては、光源110は、405nm波長帯の光に限定されるものではなく、例えば、660nm波長帯の光や、780nm波長帯の光、その他の波長帯の光であってもよい。また、本実施の形態においては、405nm波長帯の光とは波長が385nm〜430nmにおける光であり、660nm波長帯の光とは波長が630nm〜690nmにおける光であり、780nm波長帯の光とは波長が760nm〜800nmにおける光であるものとする。
【0052】
本実施の形態における光ヘッド装置では、第1の実施の形態における光学素子である収差補正素子130をコリメータレンズ121とビームスプリッタ122との間における光路に設置することにより、容易に、かつ、的確に光学系の収差の補正を行なうことができる。尚、本実施の形態における光ヘッド装置において、収差補正素子130が設置される位置は、コリメータレンズ121とビームスプリッタ122との間における光路に限定されるものではなく、光源110と対物レンズ123との間における光路であれば、いずれの場所においても設置することが可能である。
【0053】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態とは異なる光ヘッド装置であって、第1の実施の形態における光学素子を用いた光ヘッド装置である。図7に基づき本実施の形態における光ヘッド装置について説明する。本実施の形態における光ヘッド装置200は、複数の規格の光ディスクにおいて情報の記録及び再生を行なうことが可能なものであり、第1の光ディスク251に対応した第1の光学系210と、第2の光ディスク252に対応した第2の光学系220とを有している。本実施の形態においては、例えば、第1の光ディスク251はBDであり、第2の光ディスク252はDVD又はCDである。
【0054】
第1の光学系210は、所定の波長、即ち、BDに対応した波長の光を出射する光源211と、第1の光ディスク251の情報記録面251aからの反射光を検出するための光検出器216と、光源211から出射された光を平行光にするコリメータレンズ212と、コリメータレンズ212を出射した光を光ディスク251の方向に透過させるとともに、光ディスク251の情報記録面251aにおいて反射された信号光を偏向分離して光検出器216が設置されている方向に導くためのビームスプリッタ213と、光源211からの光を光ディスク251の情報記録面251aに集光するための第1の対物レンズ214と、信号光を光検出器216に集光するための集光レンズ215とを有している。
【0055】
また、第2の光学系220は、所定の波長、即ち、CVDまたはCDに対応した波長の光を出射する光源221と、第2の光ディスク252の情報記録面252aからの反射光を検出するための光検出器226と、光源221から出射された光を平行光にするコリメータレンズ222と、コリメータレンズ222を出射した光を光ディスク252の方向に透過させるとともに、光ディスク252の情報記録面252aにおいて反射された信号光を偏向分離して光検出器226が設置されている方向に導くためのビームスプリッタ223と、光源221からの光を光ディスク252の情報記録面252aに集光するための第2の対物レンズ224と、信号光を光検出器226に集光するための集光レンズ225とを有している。尚、第2の光学系220においては、コリメータレンズ222とビームスプリッタ223との間には、収差補正素子230が設置されている。収差補正素子230は、第1の実施の形態における光学素子であり、本実施の形態において光学素子と記載する場合がある。また、本実施の形態における光ヘッド装置は、収差補正素子は第2の光学系220のみならず、第1の光学系210にも設置した構造のものであってもよい。
【0056】
また、本実施の形態における光ヘッド装置では、第1の光学系210における第1の対物レンズ214と第2の光学系220における第2の対物レンズ224とは、共通のレンズホルダ240により固定されている。
【0057】
本実施の形態における光ヘッド装置においては、例えば、光ディスクにおける情報の記録再生を行う際に、第1の光ディスク251であるか第2の光ディスク252であるかの検知を行ない、検知された光ディスクの種類に対応して、用いる光学系を切換えて使用するものである。
【0058】
このような光ヘッド装置を製造する際には、最初に、一方の光学系(例えば、第1の光学系210)の組立を行なう。この際、一方の光学系を形成している各光学部品に光軸ずれや傾きが生じないように調整しながら精密に組立を行なう。この一方の光学系の組み立てを行うことにより、第1の対物レンズ214の位置が定まり、レンズホルダ240の位置が固定される。次に、他方の光学系(例えば、第2の光学系220)の組立を行なうが、この際、レンズホルダ240の位置は固定されているため、このレンズホルダ240に設置されている第2の対物レンズ224は、第2の光学系220における光軸に対し傾いている(角度ずれしている)場合がある。このように、第2の対物レンズ224が第2の光学系220における光軸に対し傾いている場合には、この傾きに起因してコマ収差が発生する。本実施の形態における光ヘッド装置では、第2の光学系220において収差補正素子230を設置することにより、この傾きに起因して発生したコマ収差を打ち消し、発生するコマ収差の値を低くすることができる。尚、上記以外の内容については、第2の実施の形態と同様である。
【0059】
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第3の実施の形態とは異なる光ヘッド装置であって、第1の実施の形態における光学素子を用いた光ヘッド装置である。図8に基づき本実施の形態における光ヘッド装置について説明する。本実施の形態における光ヘッド装置は、複数の規格の光ディスクにおいて情報の記録及び再生を行なうことが可能なものであり、第1の光ディスク351及び第2の光ディスク352に対応したものである。本実施の形態においては、例えば、第1の光ディスク351はBDであり、第2の光ディスク352はDVD又はCDである。
【0060】
本実施の形態における光ヘッド装置300は、第1の光源311、第2の光源312、ダイクロイックプリズム321、ビームスプリッタ322、コリメートレンズ323、ダイクロイックプリズム324、ミラー325、第1の対物レンズ326、第2の対物レンズ327、収差補正素子330、光検出器340を有している。
【0061】
第1の光源311は、405nm波長帯の直線偏光の発散光を出射する半導体レーザであり、第2の光源312は、660nm波長帯及び780nm波長帯の直線偏光の発散光を出射するハイブリッドタイプの半導体レーザである。また、ダイクロイックプリズム321は、405nm波長帯の光を反射し、660nm波長帯の光及び780nm波長帯の光を透過する機能を有しており、ダイクロイックプリズム324は、405nm波長帯の光を透過し、660nm波長帯の光及び780nm波長帯の光を反射する機能を有している。また、第1の対物レンズ326及び第2の対物レンズ327は、共通のレンズホルダ328により固定されている。
【0062】
第1の光源311より出射された光は、ダイクロイックプリズム321において偏向された後、更に、ビームスプリッタ322において偏向され、コリメートレンズ323により平行光とされた後、収差補正素子330に入射する。この後、収差補正素子330より出射された光は、ダイクロイックプリズム324を透過し、ミラー325において反射され、レンズホルダ328に固定されている第1の対物レンズ326により、第1の光ディスク351の情報記録面351aに集光される。第1の光ディスク351の情報記録面351aに集光された光は、情報記録面351aにおいて反射され、第1の対物レンズ326、ミラー325を介し、ダイクロイックプリズム324を透過し、収差補正素子330、コリメータレンズ323、ビームスプリッタ322を介し、光検出器340に入射する。
【0063】
また、第2の光源312より出射された光は、ダイクロイックプリズム321を透過し、ビームスプリッタ322において偏向され、コリメートレンズ323により平行光とされた後、収差補正素子330に入射する。この後、収差補正素子330より出射された光は、ダイクロイックプリズム324において反射され、レンズホルダ328に固定されている第2の対物レンズ327により、第2の光ディスク352の情報記録面352aに集光される。第2の光ディスク352の情報記録面352aに集光された光は、情報記録面352aにおいて反射され、第2の対物レンズ327を介し、ダイクロイックプリズム324において反射され、収差補正素子330、コリメータレンズ323、ビームスプリッタ322を介し、光検出器340に入射する。
【0064】
本実施の形態における光ヘッド装置においては、収差補正素子330は、3つの波長における共通の光路、即ち、コリメートレンズ323とダイクロイックプリズム324との間の光路に設置されている。
【0065】
収差補正素子330は、第1の実施の形態における光学素子であり、具体的には、図2に示される構造のものであって、波長選択性を有するものである。具体的には、図2に示す光学素子において、405nm波長帯(第1の波長)においては、凹凸部12と媒質部13との屈折率が一致しており、660nm波長帯及び785nm波長帯(第2の波長)においては、凹凸部12と媒質部13との屈折率が異なっているものである。これにより、収差補正素子330は、405nm波長帯においては収差補正素子として機能することなく透明板となり、660nm波長帯及び785nm波長帯においては収差補正素子として機能する。
【0066】
このような光ヘッド装置を製造する際には、最初に、一方の対物レンズ(例えば、第1の対物レンズ326)を通る光に対応した光学系の組立を行なう。この際、光学系を形成している各光学部品に光軸ずれや傾きが生じないように調整しながら精密に組立を行なう。この光学系を組み立てることにより、一方の対物レンズの位置が定まり、レンズホルダ328の位置が固定される。次に、他方の対物レンズ(例えば、第2の対物レンズ327)を通る光に対応した光学系の組立を行なうが、この際、レンズホルダ328の位置は固定されているため、このレンズホルダ328に設置されている第2の対物レンズ327は、光学系における光軸に対し傾いている(角度ずれしている)場合がある。このように、第2の対物レンズ327が光学系における光軸に対し傾いている場合には、この傾きに起因してコマ収差が発生する。本実施の形態における光ヘッド装置では、収差補正素子330を設置することにより、この傾きに起因して発生したコマ収差を打ち消し、発生するコマ収差の値を低くすることができる。尚、上記以外の内容については、第3の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0067】
次に、第1の実施の形態における光学素子の実施例について説明する。
【0068】
(実施例1)
実施例1における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.000235y+0.000235xy+0.0003525yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000105(mm)、h=−0.000075(mm)、h=−0.000045(mm)、h=−0.000015(mm)、h=0.000015(mm)、h=0.000045(mm)、h=0.000075(mm)となるように形成する。図9(a)は、このような凹凸部12において、x=0における断面の関数形状と実際の断面形状とを示すものである。また、図9(b)は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0069】
図10(a)は、実施例1における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図10(a)において、Zの係数はq=0.03λrmsであり、Z11の係数はp=−0.008λrmsであり、|p/q|=0.26であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図10(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図10(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0070】
(実施例2)
実施例2における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.000235y+0.00017625xy+0.0003525yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.0001225(mm)、h=−0.0000875(mm)、h=−0.0000525(mm)、h=−0.0000175(mm)、h=0.0000175(mm)、h=0.0000525(mm)、h=0.0000875(mm)となるように形成する。図11は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0071】
図12(a)は、実施例2における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図12(a)において、Zの係数はq=0.03λrmsであり、Z11の係数はp=−0.012λrmsであり、|p/q|=0.4であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図12(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図12(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0072】
(実施例3)
実施例3における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00025y+0.000125xy+0.000375yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000126(mm)、h=−0.00009(mm)、h=−0.000054(mm)、h=−0.000018(mm)、h=0.000018(mm)、h=0.000054(mm)、h=0.00009(mm)となるように形成する。図13は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0073】
図14(a)は、実施例3における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図14(a)において、Zの係数はq=0.03λrmsであり、Z11の係数はp=−0.018λrmsであり、|p/q|=0.6であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図14(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図14(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0074】
(実施例4)
実施例4における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.000297y+0.0004455yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.00014(mm)、h=−0.0001(mm)、h=−0.00006(mm)、h=−0.00002(mm)、h=0.00002(mm)、h=0.00006(mm)、h=0.0001(mm)となるように形成する。図15は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0075】
図16(a)は、実施例4における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図16(a)において、Zの係数はq=0.031λrmsであり、Z11の係数はp=−0.031λrmsであり、|p/q|=1であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図16(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図16(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0076】
(実施例5)
実施例5における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00038y+0.000095xy+0.00038yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000805(mm)、h=−0.000575(mm)、h=−0.000345(mm)、h=−0.000115(mm)、h=0.000115(mm)、h=0.000345(mm)、h=0.000575(mm)となるように形成する。図17は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0077】
図18(a)は、実施例5における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図18(a)において、Zの係数はq=0.031λrmsであり、Z11の係数はp=−0.021λrmsであり、|p/q|=0.68であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図18(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図18(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0078】
(実施例6)
実施例6における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00018y+0.00045xy+0.00027yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000175(mm)、h=−0.000125(mm)、h=−0.000075(mm)、h=−0.000025(mm)、h=0.000025(mm)、h=0.000075(mm)、h=0.000125(mm)となるように形成する。図19は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0079】
図20(a)は、実施例6における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図20(a)において、Zの係数はq=0.030λrmsであり、Z11の係数はp=0.013λrmsであり、|p/q|=0.43であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図20(b)は、y軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図20(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0080】
(実施例7)
実施例7における光学素子は、基板11となる屈折率1.456の石英基板を洗浄し、フォトリソグラフィとエッチングを交互に繰り返すことにより、基板11の表面に凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00029y+0.0002175xy+0.000435yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000133(mm)、h=−0.000095(mm)、h=−0.000057(mm)、h=−0.000019(mm)、h=0.000019(mm)、h=0.000057(mm)、h=0.000095(mm)となるように形成する。図21は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0081】
図22(a)は、実施例7における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図22(a)において、Zの係数はq=0.030λrmsであり、Z11の係数はp=−0.013λrmsであり、|p/q|=0.43であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図22(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図22(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0082】
(実施例8)
実施例8における光学素子は、基板11となるガラス基板を洗浄し、基板11の表面に真空蒸着により屈折率が1.456のSiO膜を成膜し、成膜されたSiO膜において、フォトリソグラフィとエッチングを交互に繰り返すことにより、SiO膜に凹凸部12を形成したものである。凹凸部12に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00029y+0.0002175xy+0.000435yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000133(mm)、h=−0.000095(mm)、h=−0.000057(mm)、h=−0.000019(mm)、h=0.000019(mm)、h=0.000057(mm)、h=0.000095(mm)となるように形成する。図23は、凹凸部12における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0083】
図24(a)は、実施例8における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図24(a)において、Zの係数はq=0.030λrmsであり、Z11の係数はp=−0.013λrmsであり、|p/q|=0.43であるため、0<|p/q|≦1の条件を満たしている。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図24(b)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図24(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は抑えられている。
【0084】
(比較例1)
比較例1における光学素子は、基板となるガラス基板を洗浄し、基板上にインプリント法により屈折率1.53の光を透過する樹脂を凹凸形状に加工して凹凸部を形成したものである。凹凸部に形成される凹凸形状は、相対的な高さの分布の稜線が、関数h=−0.00021y+0.000315xy+0.000315yとなるように7段の凹凸形状を形成する。具体的には、iを1〜7とした場合、h=−0.000105(mm)、h=−0.000075(mm)、h=−0.000045(mm)、h=−0.000015(mm)、h=0.000015(mm)、h=0.000045(mm)、h=0.000075(mm)となるように形成する。図25(a)は、凹凸部における凹凸形状の等高となる領域を示す平面図であり、φ3mmの範囲において、凸から凹となるに伴い黒色から白色となるように示されている。
【0085】
図25(b)は、比較例1における光学素子において、φ2mm、即ち、r=1(mm)の光束が入射した場合におけるゼルニケ多項式の係数を計算したものを示す。図25(b)において、Zの係数はq=0.03λrmsであり、Z11の係数はp=0λrmsであり、|p/q|=0である。また、Z〜Z37の係数の絶対値は、|p|または|q|よりも小さい。図26(a)は、x軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものであり、図26(b)は、y軸方向に、−0.5mm〜0.5mmの範囲で光軸のシフトが生じた場合の収差を算出したものである。図26(a)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は実施例1〜5、7、8における光学素子よりも大きく、図26(b)に示されるように、Z成分とZ成分における変動は実施例6における光学素子よりも大きい。
【0086】
尚、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0087】
10 光学素子
11 基板
12 凹凸部
13 媒質部
14 基板
15 反射防止膜
16 反射防止膜
21 光スポット
100 光ヘッド装置
110 光源
121 コリメータレンズ
122 ビームスプリッタ
123 対物レンズ
124 集光レンズ
130 収差補正素子(光学素子)
140 光検出器
150 光ディスク
150a 情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する基板と、
前記基板の表面に形成された凹凸部と、
を有する光学素子において、
前記光学素子における波面収差をフリンジゼルニケ多項式で展開した場合におけるフリンジゼルニケ多項式の第8の項の係数をqとし、第11の項の係数をpとした場合に、
0<|p/q|≦1
となるものであることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記凹凸部は3段以上の凹凸を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記凹凸部は、透明部材の表面に凹凸形状が形成されているものであって、前記基板の上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記凹凸部の表面には媒質部が形成されており、前記凹凸部を形成している材料の屈折率と、前記媒質部を形成している材料の屈折率とは、第1の波長においては等しく、第2の波長においては異なっているものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学素子。
【請求項5】
前記基板又は凹凸部の表面には、反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
光源と、
前記光源より出射された光を集光し光ディスクに照射する対物レンズと、
前記光ディスクからの反射光を検出する光検出器と、
前記光源から出射された光の光路に設置された請求項1から5のいずれかに記載の光学素子と、
を有することを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項7】
前記光源は複数であり、複数の前記光源は相互に異なる波長の光を出射するものであって、
複数の前記光源の波長に対応し、複数の対物レンズを有しており、
複数の前記対物レンズは、共通のレンズホルダに固定されているものであって、
前記光源からの光路の一方または双方に前記光学素子が設置されていることを特徴とする請求項6に記載の光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
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【図24】
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【図26】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図21】
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【図23】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−93080(P2013−93080A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235215(P2011−235215)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】