説明

光学素子及び有機EL装置

【課題】 ダークスポット等の非発光欠陥を目立たなくすることが可能な光学素子及びその光学素子を備えた有機EL装置を提供する。
【解決手段】 有機EL装置は、有機ELパネル10の前面に多数の錐体からなる錐体群を有する光学素子20を設けたものである。光学素子20の錐体群は、第一の傾斜角を有する第一の傾斜面と、第一の傾斜面と同一の方位で第二の傾斜角を有する第二の傾斜面と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の錐体群を有する光学素子及びその光学素子を備えた有機EL装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機EL装置が種々提案されており、例えば特許文献1,特許文献2に開示されている。有機EL装置は、自発光であること、薄型化が可能なこと、高効率であること等から、ディスプレイや照明用の光源として利用が進められている。その中でも照明や大型のセグメント表示等に用いられる発光面積が大きな有機EL装置は、低消費電力化が重要であり、その一手法として有機EL素子で発生した光の光取出し面からの放射割合(光取出し効率)を向上させるための手法が種々開発されている。取出し効率向上の手法としては、例えば光取出し側にマイクロレンズや凹凸構造を設けるものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−59641号公報
【特許文献2】特開2004−241130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機EL装置には、有機EL素子の一部が略円形に発光しなくなるダークスポットという非発光欠陥が生じることがあり、このダークスポットは経時的に拡大するため、ある程度大きくなった段階で容易に目視できるようになり、商品性が著しく低下してしまうという問題を有していた。
特に、発光面積が大きい有機EL装置では、面積の増加に伴って、有機EL素子に欠陥が発生する確率が高くなるため、輝度や光量等の機能面の不良よりも非発光欠陥の有無が歩留りを左右していた。
【0005】
本願発明者の実験によれば、正常部と欠陥部の輝度差が30%以内であれば欠陥が商品性に大きな影響を与えないことから、非発光欠陥の輝度差が30%以下になれば商品性の低下は防ぐことができる。
【0006】
取出し効率向上構造を持たない有機EL装置の場合、非発光欠陥はそのまま利用者から目視できるため輝度差は100%である。一方、錐体からなる取出し効率向上構造を持つ素子の場合、有機EL装置から放射された光線は錐体の斜面で屈折され、斜面の方位と角度に応じた方向へと放射される。
【0007】
従って、非発光欠陥は錐体の一面を通じて分割投影された像として利用者に視認されることになり、像全体の輝度差は取出し効率向上構造を持たない場合に比べて低下する。
【0008】
非発光欠陥が錐体の一面を通じて視認されることから非発光欠陥部の輝度差を30%以内とするためには、欠陥が投影される錐体面の総面積が像全体を包括した面積の30%以内になること、つまり、同一の方位と角度を持つ面の割合が30%以下であることが必要である。しかし、平面を隙間なく埋められる多角形の底面を持つ錐体、すなわち三角錐、四角錐、六角錐は何れもがこの要件を満たさない。
【0009】
この状況を図9及び図10に基づいて説明する。有機EL装置は、有機ELパネル10の前面に、複数の錐体91を有する光学素子90を設けたものである(図9参照)。図10(b)は、有機EL装置を正面から見た場合である。有機ELパネル10が発した光は錐体91の表面で屈折されるため、像は錐体91の1面を通して視認されることになり、投影面の割合は25%となる。この状態であれば、割合が30%以下という前記要件を満たしている。
【0010】
しかし、この割合は見る方向によって変化し、図10(c)に示したように、有機EL装置を斜め方向から見た場合は、割合が50%にまで上昇し、30%以下という要件を満たさなくなる。同様に、三角錐,六角錐では両方とも正面は16.7%であるが、斜めからでは33.3%となり、どちらも30%以下という要件を満たさない。
【0011】
以上は正多角形の底面を持つ多面体の場合であるが、正多角形以外の場合でも少なくてもある方向で投影面の割合は30%以上になり商品性の低下を避けられない。
【0012】
本発明は、ダークスポット等の非発光欠陥を目立たなくすることが可能な光学素子及びその光学素子を備えた有機EL装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、請求項1に記載のように、多数の錐体からなる錐体群を有する光学素子であって、前記錐体群は、第一の傾斜角を有する第一の傾斜面と、前記第一の傾斜面と同一の方位で第二の傾斜角を有する第二の傾斜面と、を備えているものである。
【0014】
また、本発明は、請求項2に記載のように、前記第一,第二の傾斜面について投影面の面積割合が全体の30%以下であるものである。
【0015】
また、本発明は、請求項3に記載のように、前記錐体の形状が複数種類であるものである。
【0016】
また、本発明は、請求項4に記載のように、前記錐体群は、同一の底面形状を有する前記錐体からなるものである。
【0017】
また、本発明は、請求項5に記載のように、前記錐体は、三角錐、四角錐または六角錐であるものである。
【0018】
また、本発明は、請求項6に記載のように、前記錐体の底辺の長さが100μm以下であるものである。
【0019】
また、本発明は、請求項7に記載のように、有機ELパネルの前面に多数の錐体からなる錐体群を有する光学素子を設けた有機EL装置であって、前記光学素子の前記錐体群は、第一の傾斜角を有する第一の傾斜面と、前記第一の傾斜面と同一の方位で第二の傾斜角を有する第二の傾斜面と、を備えているものである。
【0020】
また、本発明は、請求項8に記載のように、前記第一,第二の傾斜面について投影面の面積割合が全体の30%以下であるものである。
【0021】
また、本発明は、請求項9に記載のように、前記錐体の形状が複数種類であるものである。
【0022】
また、本発明は、請求項10に記載のように、前記錐体群は、同一の底面形状を有する前記錐体からなるものである。
【0023】
また、本発明は、請求項11に記載のように、前記錐体は、三角錐、四角錐または六角錐であるものである。
【0024】
また、本発明は、請求項12に記載のように、前記錐体の底辺の長さが100μm以下であるものである。
【0025】
また、本発明は、請求項13に記載のように、前記錐体の底辺の長さが、前記有機ELパネルの発光波長の3倍以上であるものである。
【発明の効果】
【0026】
複数の傾斜角を有する錐体群を有する光学素子を設けたことにより、ダークスポット等の非発光欠陥を目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一実施形態を示す断面図。
【図2】同上実施形態を示す正面図及び側面図。
【図3】同上実施形態を示す説明図。
【図4】本発明の第二実施形態を示す正面図及び側面図。
【図5】本発明の第三実施形態を示す正面図及び側面図。
【図6】本発明の第四実施形態を示す正面図及び側面図。
【図7】本発明の第五実施形態を示す正面図及び側面図。
【図8】本発明の第六実施形態を示す正面図及び側面図。
【図9】従来例を示す正面図及び側面図。
【図10】同上従来例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の一実施形態を説明する。図1乃至図3は、第一実施形態を示すものである。光学素子20の第一,第二の四角錐21,22は微細なものであるが、理解を助けるため、図2及び図3においては、第一,第二の四角錐21,22を大きく図示している。
【0029】
有機EL装置は、有機ELパネル10の前面に光学素子20を貼着したものである。有機ELパネル10は、基板11に透明電極12,有機層13,金属電極14を順次形成し、封止板15を設けたものである。
【0030】
光学素子20は、第一の四角錐21と、第二の四角錐22とを有している。第二の四角錐22の頂角は、第一の四角錐21の頂角よりも大きくなっている。第一の四角錐21と、第二の四角錐22とは、交互に配設されている。第一の四角錐21の底面と、第二の四角錐22の底面とは、同一形状になっている。
【0031】
第一の四角錐21と、第二の四角錐22とは、頂角が異なるため同じ方位を向く第一,第二の四角錐21,22でも、傾斜面23,24の傾斜角が異なる。従って、基板11側から同一角度で入射した光線でもその屈折角度が異なり、基板11からの射出角度も異なる。これを射出側から見ると同じ射出角を持つ光線の入射角が異なっていなければならないことになり、同一の射出角を持つ面の欠陥からの距離が異なる(図3(a)参照)。
【0032】
これにより、一つの方向から見た場合には、第一の四角錐21と第二の四角錐22とでは異なった位置の第一,第二の四角錐21,22から欠陥像が投影されてくることとなり、欠陥像の投影される範囲が広がる。つまり、欠陥像を包括する面の範囲が広がるのに対し、欠陥が投影されてくる第一,第二の四角錐21,22の総数は一定であるので、包括面内の欠陥像の割合は減少し欠陥部の輝度差が低減される。
【0033】
第一実施形態の場合は、傾斜面23,24の傾斜角が2種類であるから投影される像の位置が2種類となり、輝度差は従来例の1/2の25%となり商品性の低下を防ぐことができる。
【0034】
図4は、第二実施形態を示す図である。光学素子30は、第一の四角錐31と、第二の四角錐32とを有している。第一の四角錐31と、第二の四角錐32とは、形状が異なり、交互に配設されている。第一,第二の四角錐31,32は、同一の方位で傾斜角が異なる傾斜面33,34を有している。第一の四角錐31の底面と、第二の四角錐32の底面とは、同一形状になっている。
【0035】
図5は、第三実施形態を示す図である。光学素子40は、第一の四角錐41と、第二の四角錐42とを有している。第一の四角錐41と、第二の四角錐42とは、形状が異なり、交互に配設されている。第一,第二の四角錐41,42は、銅一の方位で傾斜角が異なる傾斜面43,44を有している。第一の四角錐41の底面と、第二の四角錐42の底面とは、同一形状になっている。
【0036】
第二,第三実施形態のように、第一の四角錐31,41と第二の四角錐32,42とを非対称として、その頂点位置を変えた場合も、第一実施形態と同様に、同じ方位の傾斜面43,44の傾斜角が2種類あるために欠陥部の輝度差は25%に減少する。四角錐以外の場合も同様の考え方で、同じ方位の傾斜面の傾斜を複数にすることで輝度差を30%以下にできる。
【0037】
図6は、第四実施形態を示す図である。光学素子50は、第一の六角錐51と、第二の六角錐52と、第三の六角錐53とを有している。第一の六角錐51,第二の六角錐52,第三の六角錐53は、夫々、頂角が異なっている。第一,第二,第三の六角錐51,52,53は、同一の方位で傾斜角が異なる傾斜面54,55,56を有している。第一の六角錐51の底面と、第二の六角錐52の底面と、第三の六角錐53の底面とは、同一形状になっている。
【0038】
図7は、第五実施形態を示す図である。光学素子60は、第一の三角錐61と、第二の三角錐62とを有している。第一の三角錐61と、第二の三角錐62とは、頂角が異なっており、交互に配設されている。第一,第二の三角錐61,62は、同一の方位で傾斜角が異なる傾斜面63,64を有している。第一の三角錐61の底面と、第二の三角錐62の底面とは、同一形状になっている。
【0039】
図8は、第六実施形態を示す図である。光学素子70は、多数の錐体71からなる錐体群を有している。錐体71は、上部と下部で異なる傾斜角の傾斜面72,73を有しており、その面は各々について投影面の面積割合が全体の30%以下になる様に設定されている。
【0040】
本発明は、非発光欠陥部の正常部との輝度差を減らすには取出し効率向上構造の錐体の形状を複数種類へ増やすことが有効であることに着目してなされたものである。
【0041】
非発光欠陥部の輝度差を低減するためには欠陥が投影される面の割合を減らすことが必要であり、そのためには面の種類を増やすことが有効である。しかし、平面を隙間なく埋められる多角形の種類は限られており任意に設定することは出来ないため角錐の面数を増やすことは容易にはできない。
【0042】
ただし、同一底面形状の多角錐でも、角錐毎に面の方位や傾斜角を変えることにより面の種類を増やすことが可能であり、このような多角錐を用いることで非発光欠陥部の輝度差を低減することが可能になる。
【0043】
そこで、本発明は、傾斜面23,24,33,34,43,44,54,55,56,72,73を複数設けることで欠陥像を分散させてその輝度差を低減しようとするものである。錐体の傾斜面の傾斜角を複数とする方法としては異なる傾斜角の傾斜面からなる複数種類の錐体を用いる他に、一つの錐体で部分的に面の傾斜を変えても良い。この場合、傾斜面の面積比を任意に設定可能だが、欠陥部の輝度差を30%以下とするための各傾斜面の面積は、三角錐および六角錐の場合は同方位の面の面積の合計の90%以下(0.3/(1/3))、四角錐の場合は60%(0.3/1/2)以下となる。
【0044】
また、取出し効率向上構造の形成方法によっては、高歩留低コストに形成するのに錐体の先端を尖らせずに先端を切り取った切頭錐体とすることが効果的な場合がある。その場合も、切頭錐体の切頭面を一面と見てその面積を錐体底面積の30%以下とすることが好適である。
【0045】
以上説明したように、本発明は光の屈折という幾何光学的な特性を利用するものであるため、干渉や回折などの波動光学的な影響が強く現れるとその効果が減少する。一般的に構造の寸法が波長の3倍程度より小さくなると波動光学的な影響が大きくなるといわれることから、辺の長さを発光波長の3倍以上とすることで光学的な干渉の影響を抑え、より良好に像の分散を行うことができる。
【0046】
さらに錐体の辺長が大きくなると欠陥が投影された1側面そのものが容易に視認される様になる為、錐体の1面は容易に視認できない程度の大きさであることが望ましく、より望ましくは100μm以下である。
【0047】
実施例は凸錐体のみを示したが、本発明は傾斜面の傾斜角を複数設けるものであるから錐体は凸錐ではなく凹錐でも構わない。また、錐体の形状を増やすことにより欠陥像の投射位置はさらに分散され視認しにくくなるが、一般的に構造を作成することはより困難になる。
【0048】
基板の光取出し面に取出し効率向上構造を形成するのは通常の方法、例えば機械加工やエッチング、型を用いた熱または光成型法等が使用できる。或いは、基板とは別に透明材料で形成した取出し効率向上構造を作成しておいて、これを基板に貼り合せて形成することもできる。
【0049】
更に、各実施形態は発光部を形成した基板を通して光を取出すいわゆるボトムエミッション構造であるが、本発明は基板と反対側に光を取出すいわゆるトップエミッション構造にも適用できる。トップエミッション構造に適用するには素子上面に設置される対向基板あるいは保護基板と呼ばれる基板の光取出し面に光取出し効率向上構造を設置すればよい。
【符号の説明】
【0050】
10 有機ELパネル
20 光学素子
21 第一の四角錐(錐体)
22 第二の四角錐(錐体)
23 傾斜面
24 傾斜面
30 光学素子
31 第一の四角錐(錐体)
32 第二の四角錐(錐体)
33 傾斜面
34 傾斜面
40 光学素子
41 第一の四角錐(錐体)
42 第二の四角錐(錐体)
43 傾斜面
44 傾斜面
50 光学素子
51 第一の六角錐(錐体)
52 第二の六角錐(錐体)
53 第三の六角錐(錐体)
54 傾斜面
55 傾斜面
56 傾斜面
60 光学素子
61 第一の三角錐(錐体)
62 第二の三角錐(錐体)
63 傾斜面
64 傾斜面
70 光学素子
71 錐体
72 傾斜面
73 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の錐体からなる錐体群を有する光学素子であって、前記錐体群は、第一の傾斜角を有する第一の傾斜面と、前記第一の傾斜面と同一の方位で第二の傾斜角を有する第二の傾斜面と、を備えていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第一,第二の傾斜面について投影面の面積割合が全体の30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記錐体の形状が複数種類であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記錐体群は、同一の底面形状を有する前記錐体からなることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記錐体は、三角錐、四角錐または六角錐であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記錐体の底辺の長さが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
有機ELパネルの前面に多数の錐体からなる錐体群を有する光学素子を設けた有機EL装置であって、前記光学素子の前記錐体群は、第一の傾斜角を有する第一の傾斜面と、前記第一の傾斜面と同一の方位で第二の傾斜角を有する第二の傾斜面と、を備えていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項8】
前記第一,第二の傾斜面について投影面の面積割合が全体の30%以下であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項9】
前記錐体の形状が複数種類であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項10】
前記錐体群は、同一の底面形状を有する前記錐体からなることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項11】
前記錐体は、三角錐、四角錐または六角錐であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項12】
前記錐体の底辺の長さが100μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。
【請求項13】
前記錐体の底辺の長さが、前記有機ELパネルの発光波長の3倍以上であることを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−243578(P2012−243578A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112724(P2011−112724)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】