説明

光学素子

【課題】薄型化を図る上で有利な光学素子を提供する。
【解決手段】第1の端面壁4202の内面の全域にわたって第1の液体44に対する濡れ性が第2の液体46に対する濡れ性よりも高い第1の膜54が形成されている。第2の端面壁4206の内面の全域に第2の液体46に対する濡れ性が第1の液体44に対する濡れ性よりも高い第2の膜56が形成されている。第1の液体44に電圧印加がなされていない状態において、第2の液体46が第2の膜56に対して扁平に広がった状態で第1の液体44が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて透過する光量の調整を行う光学素子10が提案されている(特許文献1参照)。
この光学素子10では、図13に示すように、厚さ方向において互いに対向する端面壁12と、両端面壁12を接続する側面壁14とを有する密閉された容器16と、容器16に封入された有極性または導電性を有する第1の液体20と、容器16に封入され第1の液体20よりも透過率が高い第2の液体22とを備えている。
そして、第1の液体20と第2の液体22として互いに混合しない性状のものを用い、かつ、第1の液体20と第2の液体22として互いに比重の等しいものを用い、容器16内に空気などを混入せずにそれら第1の液体20と第2の液体22のみを封入すると、容器16を回転させても揺らしても第1の液体20と第2の液体22のみを容器16に封入した当初の状態が維持され、界面24が端面壁12にほぼ平行した状態が維持される。
図中符号28は第1の液体20に電圧を印加するための電極、30は電極28を覆う絶縁膜である。
そして、前記電圧印加手段によって第1の液体20に電圧を印加することにより電気毛管現象によってそれら第1の液体20と第2の液体22の界面24を図13に実線と破線で示す間にわたって変形させ、これにより端面壁12を通り容器16の厚さ方向に延在する光の透過路18を形成させるように構成されている。
具体的には、印加電圧が零の状態では光の透過方向と直交する方向の全域に図13に実線で示すように第1の液体20が延在することで光の透過を阻止、あるいは、減少させ、印加電圧を上昇させると図13に破線で示すように第2の液体22を両方の端面壁12に接触することで透過路18が形成され、印加電圧を調整することで第2の液体22と一方の端面壁12との接触面積を増減させ透過路18の大きさを調整するようにしている。
【特許文献1】特開2001−228307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような光学素子10をデジタルカメラなどの撮像装置に搭載する場合、撮像装置の小型化を図る上で光学素子10の厚さ方向(光の透過方向)の寸法を如何に薄くするかが重要となっている。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、薄型化を図る上で有利な光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を達成するため、本発明は、厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器と、前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体と、前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体と、前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され、前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成される光学素子であって、前記第1の端面壁の内面の全域にわたって前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、前記第2の端面壁の内面の全域に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され、前記電圧印加手段は、前記第1の端面壁に設けられた第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され、前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、第2の端面壁の内面の全域に第2の液体に対する濡れ性が第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成されているので、第1の液体に電圧印加がなされていない状態において、第2の液体が第2の膜に対して扁平に広がった状態で第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在するため、収容室の厚さ方向(光の透過方向)の寸法を可及的に削減することができ、光学素子の薄型化を図る上で有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、本発明の光学素子が用いる電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)の原理について説明する。
図2は電気毛管現象の原理説明図であり、(A)は電圧印加前の状態を示す図、(B)は電圧印加後の状態を示す図である。
図2(A)に示すように、基板1の表面上に第1の電極2が形成され、この電極2の表面に絶縁膜3が形成されている。
この絶縁膜3の表面に有極性または導電性を有する第1の液体4が位置しており、第1の液体4には第2の電極5が電気的に接続されている。
図2(A)に示すように、第1の電極2と第2の電極5との間に電圧Eが印加されていない状態では、第1の液体4は表面張力によってその表面が上方に凸のほぼ球面をなしている。このときに絶縁膜3の表面と、第1の液体4が絶縁膜3に接触している部分における液面の角度θ、すなわち接触角θをθ0とする。
ところが、図2(B)に示すように、第1の電極2と第2の電極5との間に電圧Eが印加された状態では、絶縁膜3の表面に例えばプラス電荷が帯電することで第1の液体4を構成する分子に電界(静電気力)が作用する。これにより、第1の液体4を構成する分子が引き寄せされることで、第1の液体4の絶縁膜3に対する濡れ性が良くなり、接触角θはθ0よりも小さなθ1となる。また、接触角θは電圧Eの値が大きくなるに従って小さくなる。
このような現象を電気毛管現象という。
【0007】
次に、本実施の形態の光学素子40について説明する。
図1は光学素子40の構成を示す断面図である。
図1に示すように、光学素子40は、容器42と、第1の液体44と、第2の液体46と、電圧印加手段を含んで構成されている。
容器42は、厚さ方向において互いに対向する第1の端面壁4202、第2の端面壁4204と、これら第1、第2の端面壁4202、4204を接続する側面壁4206とを有し、それら第1、第2の端面壁4202、4204を接続する側面壁4206とにより密閉された収容室42Aを有している。
本実施の形態では、第1、第2の端面壁4202、4204は同一径を有する円板状を呈し、側面壁4206は第1、第2の端面壁4202、4204の外径と同じ寸法の外径を有する円筒状を呈し、収容室42Aは扁平な円柱状を呈している。
また、第1、第2の端面壁4202、4204および側面壁4206は、絶縁性を有する材料で形成され、さらに、第1、第2の端面壁4202、4204は光を透過する透明な材料で形成されている。
第1、第2の端面壁4202、4204を構成する材料として、例えば、透明で絶縁性を有する合成樹脂材料あるいは透明なガラス材料を用いることができる。
第1の端面壁4202の内側には第1の液体44に電圧を印加するための第1の電極48(正極電極)が形成されており、本実施の形態では、第1の電極48は第1の端面壁4202の全域にわたって円板状に形成されている。
第2の端面壁4204の内側には第2の液体46に電圧を印加するための第2の電極50(負正極電極)が形成されており、本実施の形態では、第2の電極50は第2の端面壁4204の全域にわたって円板状に形成されている。
第2の電極50の内側には第2の電極50の全域を覆うように絶縁層52が円板状に形成されている。
【0008】
第1の電極48の内側全域には、光を透過する透明な第1の膜54が形成されている。本実施の形態では、第1の膜54は、第1の電極48の内側全域に加えて、第1の電極48の外周から側面壁4206の内面全周にわたって連続して形成されている。
第1の膜54は、第1の液体44に対する濡れ性が第2の液体46に対する濡れ性よりも高くなるように構成されたものであり、言い換えると、第1の膜54に対する第1の液体44の接触角は、第1の膜54に対する第2の液体46の接触角よりも小さい値となるように構成されている。
第1の膜54は、親水性を有する膜(親水膜)であり、例えば親水性ポリマーや界面活性剤を側面壁4204の内面に塗布することで形成することができる。なお、第1の膜54としては、従来公知の様々な材料を採用可能である。
【0009】
第2の電極50の内側全域には、光を透過する透明な第2の膜56が形成されている。
第2の膜56は、第2の液体46に対する濡れ性が第1の液体44に対する濡れ性よりも高くなるように構成されたものであり、言い換えると、第2の膜56に対する第2の液体46の接触角は、第2の膜56に対する第1の液体44の接触角よりも小さい値となるように構成され、例えば、0度以上から30度以下の範囲である。
これは、一般的なフッ素系樹脂からなる撥水膜に対する第2の液体46の接触角よりも小さい角度となっている。
第2の膜56は、親油性を有する膜であり、例えば、シリコンを主成分とする材料を焼き付けることで、あるいは、非結晶フッ素樹脂からなる材料を蒸着することで形成することができる。なお、第2の膜56としては、従来公知の様々な材料を採用可能である。
【0010】
容器42の外部には出力電圧が可変の電源58が設けられ、電源58の正電圧出力端子が第1の電極48に電気的に接続され、電源58の負電圧出力端子が第2の電極50に電気的に接続されている。
第1の電極48、第2の電極50、電源58によって前記電圧印加手段が構成されている。
【0011】
第1の液体44は、有極性または導電性を有し容器42に封入されている。
第2の液体46は、第1の液体44と互いに混合しないものであり容器42に封入されている。
また、第1の液体44と第2の液体46は実質的に等しい比重を有しかつ第1の液体44の透過率は第2の液体46の透過率よりも低くなるように形成されている。
本実施の形態では、第2の液体46はシリコンオイルで構成され、第1の液体44は、純水とエタノールとエチレングリコールとを混合し比重および屈折率を上記のシリコンオイルと実質的に等しく調節することで構成されている。
また、第2の液体46がシリコンオイルであり、第2の膜56が前述したシリコンを主成分とする材料を焼き付けることで形成され、あるいは、非結晶フッ素樹脂からなる材料である場合には、第2の液体46の第2の膜56に対する濡れ性は非常に高いものとなり、したがって、第2の液体46の第2の膜56に対する接触角は非常に小さいものとなり、例えば、0度以上20度以下の範囲となる。
なお、第1の液体44および第2の液体46については後で詳述する。
【0012】
第1の液体44が位置する第1の端面壁4202内面に位置する第1の液体44箇所の全域は、第1の膜54を介して第1の電極48に臨んだ状態となり、かつ、第2の液体46が位置する第2の端面壁4206内面に位置する第2の液体46の箇所の全域は、第2の膜56、絶縁膜52を介して第2の電極50に臨んだ状態となる。
したがって、電源58から第1の電極48、第2の電極50に電圧が印加されると、第1の液体44に電圧が印加されることになる。
【0013】
次に、光学素子40の動作について説明する。
図1に示すように、電源58から第1の電極48、第2の電極50に電圧が印加されない状態(E=0V)では、第1、第2の液体44、46の界面60の形状は第1、第2の液体44、46の表面張力、第2の膜56上の界面張力のバランスによって決定される。
したがって、第2の膜56に対する第1の液体44の接触角と第2の液体の接触角との差が大きいほど、第2の膜56上において第2の液体46はより扁平に広がり、第1の液体44と第2の液体46の界面60の形状が平坦面に近い曲面となる。
また、第1の液体44は、第1の端面壁4202上の第1の膜54から側面壁4204上の第1の膜54を覆うように位置している。
したがって、第1の液体44のうち側面壁4204と第2の端面壁4206の境界付近の環状の箇所に位置する第1の液体44は、第2の膜56に直接接するが、第2の液体46は側面壁4204に接しない状態となる。
そのため、第1の液体44が第2の膜56に接触した環状部分は、第2の液体46を介在させることなく、第2の膜56、絶縁膜52を挟んで第2の電極50に対向している。
この際、第1の液体44が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在することにより容器40の厚さ方向に進行する光は遮断された状態となる。
【0014】
次に、電源58から第1の電極48、第2の電極50に電圧Eが印加されると、電気毛管現象により、界面60が第2の液体46から第1の液体44に向かって凸状の曲面(球面)となるように変形し、界面60の中央が第1の端面壁4202に近づき、第1の液体44の厚さの寸法は中央が最も小さく(薄く)、中央から収容室42Aの外周に離れるに従って厚さの寸法が大きく(厚く)なる。
この際の第1の液体44の第2の膜56に対する接触角は90度よりも小さなものとなり、側面壁4206(第2の膜56)の部分では第1の液体44が側面壁4206に沿って第2の液体46に進入している。
さらに、電圧Eが増大し第1の電圧E1となると、図3に示すように、界面60の凸状の曲面(球面)の湾曲の傾斜が大きくなり、界面60の中央が第1、第2の端面壁4202(第1の膜54)に接触する。
これにより、第1の端面壁4202(第1の膜54)上で界面60が接触している領域には、第1の液体44が存在しなくなり、収容室42Aの中央に(第1、第2の端面壁4202、4206の中央に)第2の液体46のみが存在する領域62が形成され、この領域62により第1、第2の端面壁4202、4206を通り容器42の厚さ方向に延在する光の透過路64が形成される。
【0015】
第1の電圧E1よりも大きい値の第2の電圧E2が電源58から第1の電極48、第2の電極50に印加されると(E2>E1)、図4に示すように、界面60の凸状の曲面(球面)の湾曲の傾斜がさらに大きくなる。
そして、収容室42Aの中央に(第1、第2の端面壁4202、4206の中央に)形成された第2の液体46のみが存在する領域62の直径が拡大され、光の透過路64の直径が拡径される。
したがって、電源58から第1の電極48、第2の電極50に印加される電圧を調整することで、第2の液体46のみが存在する領域62の直径を拡大および縮小させることができ、光の透過路64の直径を拡径および縮径する絞り動作を行うことができる。
【0016】
本実施の形態によれば、第1の端面壁4202の内面の全域にわたって第1の液体44に対する濡れ性が第2の液体46に対する濡れ性よりも高い第1の膜54が形成され、第2の端面壁4206の内面の全域に第2の液体46に対する濡れ性が第1の液体44に対する濡れ性よりも高い第2の膜56が形成されている。
そのため、第1の液体44に電圧印加がなされていない状態において、第2の液体46が第2の膜56に対して扁平に広がった状態で第1の液体44が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在するため、第1の端面壁4202と第2の端面壁4206の間の寸法、すなわち、収容室42Aの厚さ方向(光の透過方向)の寸法を可及的に削減することができ、光学素子40の薄型化を図る上で有利となる。
【0017】
また、本実施の形態によれば、第1の液体44に印加する電圧を低減する上で有利となる。
すなわち、エレクトロウェッティング現象は、絶縁膜52にチャージされる電荷の量により第1の液体44、第2の液体46の界面形状が変化する現象であり、言い換えれば、電荷の量により第2の液体46の接触角を変化させることができる現象である。
電荷と第2の液体の接触角とは相対関係にあるので、電圧を印加しない状態での接触角が大きいほど、第2の液体の接触角をさらに増大させるために必要な電圧も高くなり、電圧を印加しない状態での接触角が小さいほど、第2の液体の接触角をさらに増大させるために必要な電圧も低いもので済む。
したがって、本実施の形態のように、電圧を印加しない状態での第2の液体46の第2の膜に対する接触角θ1が非常に小さいため、印加すべき電圧が低くて済み、また、低い接触角で第2の液体46を第1の端面壁4202に接触させることが可能となるので低電圧化が図れ、電力消費量を低減する上で有利となる。
【0018】
また、本実施の形態によれば、第1の液体44側の第1の端面壁4202上に第1の膜54を形成したので、第1の液体44が第1の膜54に対して良く濡れる。したがって、第2の液体46が第1の端面壁4202にいったん接触した後で第1の端面壁4202から離れる際に、第1の膜54から第2の液体46が離間しやすくなり、絞りの動作速度の高速化を図る上で有利となる。
また、第2の液体46が位置する第2の端面壁4206上に第2の膜56を形成したため、第1の液体44が第2の膜56の箇所まで位置した場合には、第2の膜56上で第1の液体44の液面が円滑に動きやすいので、絞りの動作速度の高速化を図る上で有利となる。
【0019】
なお、本実施の形態では、第1の電極48を第1の端面壁4202の全域にわたって形成した場合について説明したが、第1の電極48は、該電極48に電圧を印加した際に、第1の液体44に電圧を印加させて第1の液体44、第2の液体46の界面形状を変化させることができればよい。
したがって、必ずしも第1の電極48を第1の端面壁4202の全域にわたって形成する必要はなく、第1の液体44、第2の液体46の界面形状の変化によらず常時第1の液体44に面している第1の端面壁4202の部分、例えば、第1の端面壁4202の外周部分にのみ形成するようにしてもよい。
このように第1の電極48を第1の端面壁4202の外周部分のみに形成した場合には、第1の端面壁4202の前記外周部分を除く中心部分、すなわち、光の透過路64上に第1の電極48が存在しないので光学的に有利となる。
また、本実施の形態では、第2の電極50を第2の端面壁4206の全域にわたって形成した場合について説明したが、第2の電極50は、該電極50に電圧を印加した際に、絶縁膜52を介して第1の液体44に電圧を印加させて第1の液体44、第2の液体46の界面形状を変化させることができればよい。
したがって、必ずしも第2の電極50を第2の端面壁4206の全域にわたって形成する必要はなく、第1の液体44、第2の液体46の界面形状の変化によらず常時第1の液体44に面している第2の端面壁4206の部分、例えば、第2の端面壁4206の外周部分にのみ形成するようにしてもよい。
このように第2の電極50を第2の端面壁4206の外周部分のみに形成した場合には、第2の端面壁4206の前記外周部分を除く中心部分、すなわち、光の透過路64上に第2の電極50が存在しないので光学的に有利となる。
【0020】
次に、本実施の形態で用いた第1の液体44および第2の液体46について説明する。
比重と屈折率とが互いに異なる3種類の液体を混合することで第1の液体44を得、本発明者は、それら3種類の液体の混合比を変えることで第1の液体44の比重および屈折率をそれぞれ大きな範囲で変えられることを見出した。
例えば、2種類の液体を用いて第1の液体44を得る場合から説明する。
2種類の液体として純水とエタノールとを用いて第1の液体44を得、それらの混合比を変える。
図5に示すように、それらの混合比を変えていくと、第1の液体44の比重と屈折率は、直線的にあるいは曲線的に変化していく。
また、2種類の液体として純水とエチレングリコールとを用いて第1の液体44を得、それらの混合比を変える。
図6に示すように、それらの混合比を変えていくと、第1の液体44の比重と屈折率は、直線的にあるいは曲線的に変化していく。
なお、純水の比重は1.0、屈折率は1.333であり、エタノールの比重は0.789、屈折率は1.361であり、エチレングリコールの比重は1.113、屈折率は1.430である。
すなわち、図7に示すように、第1の液体44が2種類の液体A(屈折率がRa、比重がSa)と、液体B(屈折率がRb、比重がSb)を混合することで構成される場合、液体A、Bの混合比を変えることで、第1の液体44の屈折率と比重は、図中座標Oで示すように、座標(Ra、Sa)と座標(Rb、Sb)を結ぶ直線上でしか調整することができない。
【0021】
これに対して、3種類の液体を用いて第1の液体44を得、それらの混合比を変える場合について説明する。
例えば、3種類の液体として純水とエタノールとエチレングリコールとを用いて第1の液体44を得、それらの混合比を変える。
図8に示すように、純水とエタノールとエチレングリコールの混合比を変えることで、純水とエタノールとエチレングリコールの3つの座標を結んだ三角形の大きな領域R内で第1の液体44の比重と屈折率を変えることが可能である。
すなわち、図9に示すように、第1の液体44が3種類の液体A(屈折率がRa、比重がSa)と、液体B(屈折率がRb、比重がSb)と、液体C(屈折率がRc、比重がSc)を混合することで構成される場合、液体A、B、Cの混合比を変えることで、第1の液体44の屈折率と比重は、図中座標Oで示すように、座標(Ra、Sa)と座標(Rb、Sb)と座標(Rc、Sc)とを結ぶ三角形の領域R内で調整することができる。
一方、図8には、市販された各種のシリコンオイルの比重および屈折率の座標が点在されている。
したがって、三角形の領域R内に点在する市販のシリコンオイルを第2の液体46として使用し、純水とエタノールとエチレングリコールとを混合し比重および屈折率を上記のシリコンオイルと実質的に等しくした第1の液体44を得ることができる。
【0022】
第1の液体44は、純水とエタノールとエチレングリコールを混合した液体に光を透過しない材料であるカーボンブラックが混合されることで形成されている。
したがって、第1の液体44は、カーボンブラックが混合されることで黒色を呈しており、0.1mm程度の厚さで光を遮光できるように形成され、光学素子の薄型化に有利となっている。
なお、光を透過しない材料としてカーボンブラックの代わりに染料などを用いてもよいことは無論である。
第1の液体44の屈折率と第2の液体46の屈折率を実質的に等しく形成すると、界面60におけるレンズ効果の発生を防止でき、絞り動作を確実に行わせる上で有利となる。
また、エタノールを水に混合して第1の液体44を形成すると、凝固点(融点)を下げることができ、寒冷地で凝固することを防止できるので、光学素子40の寒冷地での使用が可能となる。
光学素子40では、エタノールの凝固点は−114度であり、エチレングリコールの凝固点は−13度であり、第1の液体44の凝固点を−40度以下とすることが可能である。
【0023】
光学素子40によれば、従来と違って第1の液体44と第2の液体46としてその比重が等しいものを選択するのではなく、第1の液体44を、既存の比重が異なる3種類の液体を混合して用いるようにしたので、第1の液体の比重を、図7に領域Rで示すように、大きな範囲で変更できる。
すなわち、互いに比重が異なる2種類の液体を混合した場合には、2種類の液体の混合比を変えることで得られる第1の液体の比重は、図7に示すように、それら液体の座標を結んだ直線の範囲内でしか変えることができない。
これに対して、3種類の液体を混合した場合には、図8に示すように、純水とエタノールとエチレングリコールの3つの座標を結んだ三角形の大きな領域R内で第1の液体44の比重を変えることが可能となる。
したがって、第1の液体44の比重と第2の液体46の比重とを簡単に実質的に等しくでき、所望の特性を有する光学素子40を簡単に製造することができる。
さらに、図8、図9に示すように、比重とともに屈折率が異なる少なくとも3種類の液体、例えば、純水とエタノールとエチレングリコールを混合して第1の液体44を得るようにしたので、第1の液体44の比重と第2の液体46の比重とを簡単に実質的に等しくできるとともに、同時に、第1の液体44の屈折率と第2の液体46の屈折率とを簡単に実質的に等しくでき、レンズ効果の発生を防止する上で有利となる。
【0024】
また、光学素子40では、複数種類の液体として純水とエタノールとエチレングリコールとを用いて第1の液体44を得る場合について説明したが、使用する複数種類の液体は純水とエタノールとエチレングリコールに限定されず、既存の各種の液体を選択することが可能である。
図10は様々な種類の液体の比重および屈折率を示す図、図11は用いる各種液体の比重および屈折率の数値を示す図である。
例えば、図10に示すように、用いる液体としてA群、B群、C群、D群のものが挙げられ、各A乃至D群に用いる液体の具体名を図11に示す。
A群は、屈折率が1.32以上1.41未満で、比重が0.9以上1.2未満である。
B群は、屈折率が1.32以上1.41未満で、比重が0.6以上0.9未満である。
C群は、屈折率が1.41以上1.63未満で、比重が1.05以上1.7未満である。
D群は、屈折率が1.41以上1.6未満で、比重が0.8以上1.05未満である。
したがって、3種類の液体として、これらA群乃至D群の中から選んだ任意の3つの群のそれぞれから選んだ3種類の液体の座標を結んだ三角形の大きな領域内で、それらの混合比を変えることで比重と屈折率を変えることが可能である。
すなわち、従来公知の様々な液体を選択し、それらの混合比を変えることで比重と屈折率を簡単に変えることが可能である。
【0025】
なお、第1の液体に使用する液体の種類は3種類に限定されず、4種類以上であってもよい。
図12に示すように、第1の液体44が3種類の液体A(屈折率がRa、比重がSa)と、液体B(屈折率がRb、比重がSb)と、液体C(屈折率がRc、比重がSc)と、液体D(屈折率がRd、比重がSd)を混合することで構成される場合、液体A、B、C、Dの混合比を変えることで、第1の液体44の屈折率と比重は、図中座標Oで示すように、座標(Ra、Sa)と座標(Rb、Sb)と座標(Rc、Sc)と座標(Rd、Sd)を結ぶ四角形の領域R内で簡単に調整することができる。
この場合にも、四角形の領域R内に位置する市販のシリコンオイル(不図示)を第2の液体46として使用し、前記4種類の液体を混合し比重および屈折率を上記のシリコンオイルと実質的に等しくした第1の液体44を得ることができる。
【0026】
なお、光学素子40では、単一のシリコンオイルを第2の液体46として使用した場合について説明したが、シリコンオイル自体も屈折率や比重などの特性が異なるものが複数存在しており、所望の特性の一種類のシリコンオイルを選択し第2の液体46として使用するようにしてもよく、あるいは、特性の異なる複数種類のシリコンオイルを選択し、それらの混合比を変えて所望の屈折率および比重とした後第2の液体46として使用するようにしてもよい。
また、光学素子40では、第1の液体44に直流電圧を印加することで電気毛管現象を発生させる場合について説明したが、第1の液体44に印加する電圧は直流電圧に限定されるものではなく、交流電圧やパルス電圧、あるいは、ステップ状に増減する電圧など、どのような電圧を用いてもよく、要は第1の液体44に電気毛管現象を発生させることができればよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電圧を印加しない状態における光学素子40を示す説明図である。
【図2】電気毛管現象の原理説明図であり、(A)は電圧印加前の状態を示す図、(B)は電圧印加後の状態を示す図である。
【図3】光学素子40に第1の電圧E1が印加された状態を示す説明図である。
【図4】光学素子40に第1の電圧よりも大きい値の第2の電圧E2が印加された状態を示す説明図である。
【図5】純水とエタノールの混合比と比重および屈折率の特性を示す線図である。
【図6】純水とエチレングリコールの混合比と比重および屈折率の特性を示す線図である。
【図7】2種類の液体A、Bを混合した場合の屈折率と比重の調整範囲を示す図である。
【図8】純水とエタノールとエチレングリコールの比重および屈折率を示す図である。
【図9】3種類の液体A、B、Cを混合した場合の屈折率と比重の調整範囲を示す図である。
【図10】様々な種類の液体の比重および屈折率を示す図である。
【図11】用いる各種液体の比重および屈折率の数値を示す図である。
【図12】4種類の液体A、B、C、Dを混合した場合の屈折率と比重の調整範囲を示す図である。
【図13】従来の光学素子の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
40……光学素子、42……容器、4202……第1の端面壁、4204……側面壁、4206……第2の端面壁、44……第1の液体、46……第2の液体、48……第1の電極、50……第2の電極、54……第1の膜、56……第2の膜、60……界面、64……光の透過路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器と、
前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体と、
前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体と、
前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され、
前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成される光学素子であって、
前記第1の端面壁の内面の全域にわたって前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、
前記第2の端面壁の内面の全域に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され、
前記電圧印加手段は、前記第1の端面壁に設けられた第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され、
前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在している、
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1の膜は前記第1の電極の表面を覆うように設けられ、前記第2の膜は前記第2の電極の表面を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記第2の膜と前記第2の電極との間に形成された絶縁膜を含むことを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の液体はシリコンオイルで形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項5】
前記第2の膜はシリコンを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の膜は非結晶フッ素樹脂からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2の液体が前記第2の膜に対してなす接触角が0度以上30度以下であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項8】
前記第1の液体と第2の液体の界面は、前記第1の液体に対する電圧印加の有無に拘わらず、前記第1の液体から第2の液体に向かって凸状の曲面形状が維持されることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1の液体は複数種類の液体から構成され、前記複数種類の液体は水、エタノールおよびエチレングリコールの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate