説明

光学絞り

【課題】印加電圧に応じて透過光量を調節すると共に、低電圧駆動および高速応答化を実現することが可能な光学絞りを提供する。
【解決手段】光学絞り1は、対向配置された下部基板10と上部基板11との間に、下部基板10の側から、下部電極12と、絶縁膜13と、この絶縁膜13上の領域を複数のサブ領域に区画する隔壁14と、透明な極性液体層15と、各サブ領域ごとに設けられると共に着色された無極性液体層16と、上部電極17とが設けられ、これらが封止層18によって封止されている。下部電極12と上部電極17との間に電圧が印加されると、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が変化し、極性液体層15は絶縁膜13との接触面積を増大するように変形する。この極性液体層15の変形によって、区画された各サブ領域内で、無極性液体層16は、絶縁膜13との接触面積を縮小するように変形(移動)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電的に濡れ性を制御するエレクトロウェッティング現象を利用した光学絞りに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラなどに搭載される光学絞りは、一般に直径が数mm程度(主に直径2〜8mm)であり、角のある黒色シャッタ板を開閉させて光量を調節する。このため、カメラ内部に駆動装置を内蔵する必要があり、大掛かりとなる。また、シャッタ板の角に起因する光芒やシャッタ板形に起因する回折像が写真に写ってしまい、スムーズな光量調節が困難である。
【0003】
そこで、静電的に濡れ性を制御して液体の変形や変位を発生させるエレクトロウェッティング現象を用いた表示技術が、上記のような光学絞りの分野に応用されている。例えば、図25(A)に示したようなカメラの光学絞り200が提案されている(特許文献1,2参照)。この光学絞り200では、一対の基板201,202のそれぞれの対向面に電極203,208が設けられており、電極203上には絶縁膜204が形成されている。また、絶縁膜204と電極208との間には、着色された極性液体層206と、透明な無極性液体層207が封止されている。このような構成において、電極間に電圧が印加されると、極性液体層206の濡れ性が変化して、透明な無極性液体層207が変形し、光が透過するようになる(図25(B))。これにより、シャッタ板を機械的に開閉させて光量調節を行う場合と比べて、装置全体の小型化を実現できると共に、液体を変形させて透過光量を調節するため、滑らかな光量調節が可能となる。
【特許文献1】特開2007−209112号公報
【特許文献2】特開2001−228307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2のような構成では、40V程度の高電圧駆動が必要であり、また、電圧に対する応答速度が遅いという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、印加電圧に応じて透過光量を調節すると共に、低電圧駆動および高速応答化を実現することが可能な光学絞りを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学絞りは、表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、第1の電極の絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、絶縁膜上に立設され、この絶縁膜上の領域を複数のサブ領域に区画する隔壁と、隔壁によって区画された各領域において、絶縁膜が形成された第1の電極と第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、一方が透明で他方が不透明の極性液体および無極性液体とを備えたものである。なお、絶縁膜は、無電界下において、極性液体よりも無極性液体に対して親和性が大きいものである。
【0007】
本発明の光学絞りでは、第1および第2の電極間に電圧が印加されると、その電圧の大きさに応じて、絶縁膜の極性液体に対する濡れ性が変化し、極性液体は絶縁膜に対する接触面積を増大(縮小)するように変形する。これにより、絶縁膜上に配置された無極性液体は、絶縁膜に対する接触面積を縮小(増大)するように変形(移動)する。ここで、絶縁膜上の領域が隔壁によって複数のサブ領域に区画されていることにより、印加電圧に応じて、無極性液体はそれぞれ各サブ領域内で変形する。よって、単一の表示領域内で単一の無極性液体を変形させる場合に比べて、個々の無極性液体の変形量(移動量)が小さくなる。
【0008】
また、上記隔壁は、絶縁膜の表面に沿って格子状に設けられ、さらに第1の電極が複数のサブ電極に分割されていることが好ましい。これにより、面内の中央部に向けて極性液体、端部に向けて無極性液体がそれぞれ変形し易くなる。
【0009】
例えば、複数のサブ電極のうち一のサブ電極が面内の中央部に設けられ、他のサブ電極が一のサブ電極を取り囲んで順次同心形状となるように設けられていることが好ましい。これにより、各サブ電極を個別に駆動することができるようになり、面内の中央部から端部にかけて極性液体および無極性液体の存在する領域、すなわち開口領域(透過領域)を順次変化させることができる。
【0010】
もしくは、各サブ電極が、隔壁によって分割されたサブ領域ごとに設けられていることが好ましい。これにより、サブ領域ごとに個別に駆動することができるようになり、より緻密に開口領域を変化させることができる。
【0011】
また、上記隔壁は、絶縁膜の表面に沿って放射状に、例えば絶縁膜上の領域を4つのサブ領域に区画するように設けられていることが好ましい。これにより、隔壁によって区画された各サブ領域内で、面内の中央部に向けて極性液体、端部に向けて無極性液体がそれぞれ変形し易くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学絞りによれば、絶縁膜が形成された第1の電極と第2の電極との間に、一方が透明で他方が不透明の極性液体および無極性液体を設け、絶縁膜上の領域を隔壁によって複数のサブ領域に区画したので、単一の表示領域内で単一の無極性液体層を変形させる場合に比べて、個々の無極性液体層の変形量(移動量)を小さくすることができる。よって、印加電圧に応じて透過光量を調節すると共に、低電圧駆動および高速応答化を実現することができる。
【0013】
また、隔壁を絶縁膜の表面に沿って格子状となるように設け、さらに第1の電極を複数のサブ電極に分割すれば、印加電圧や駆動する領域を変化させることによって、開口サイズを高速に調節することができる。もしくは、隔壁を絶縁膜の表面に沿って放射状となるように設ければ、簡易な構成で開口サイズを高速に調節することができる。よって、例えばカメラの開口絞りとしてスムーズな光量調節が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る光学絞り1の概略構成を表す断面図である。光学絞り1は、静電的に濡れ性を制御するエレクトロウェティング現象を利用して、液体の変形ならびに変位を発生させることで透過光量を調節する装置である。この光学絞り1には、対向配置された下部基板10と上部基板11との間に、下部基板10の側から順に、下部電極(第1電極)12、絶縁膜13、隔壁14および上部電極(第2電極)17が設けられている。また、絶縁膜13と上部電極17との間には、極性液体層15と無極性液体層16とが封止層18によって封止されている。
【0016】
下部基板10および上部基板11は、ガラスや透明樹脂などの透明性を有する材料により構成されている。特に、光量調節を行うことに鑑みて透明性の高い材料が好ましい。また、充分な耐熱性を有し、平面方向の寸法安定性の高い材料が好ましい。さらに、装置全体の薄型化のために、できるだけ薄型の基板とすることが好ましい。
【0017】
例えば、透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリサルフォン(PS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン等の高分子材料が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含むプラスチック基板が用いられる。具体的には、ポリイミド(PI)基板(例えば、ネオプリムL(商品名:三菱ガス化学製)、耐熱温度:285℃、光透過率90%(厚さ100μm))、フッ素樹脂基板(耐熱温度:250℃)、ポリエーテルスルホン(PES)基板(例えば、スミライトFS(商品名:住友ベークライト株式会社製)、耐熱温度:180℃、光透過率88%(厚さ550nm))、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板(耐熱温度:160℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板(耐熱温度:140℃)などが挙げられる。
【0018】
下部電極12および上部電極17は、透明性を有する電極材料、例えば、In23(酸化インジウム)とSnO2(酸化スズ)との混合物(ITO:酸化インジウムスズ)、SnO2、In23などにより構成されている。この他にも、ITO、SnO2もしくはIn23に、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)などをドーピングしたもの、例えばフッ素−ドープ酸スズ(FTO)が用いられる。また、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO(酸化亜鉛)や、ZnOにアルミニウム(Al)をドープしたAZO、ZnOにガリウム(Ga)をドープしたGZO、ZnOにインジウム(In)をドープしたものなどが用いられる。また、下部電極12は、複数のサブ電極に分割されている。この下部電極12の具体的な構成については後述する。
【0019】
絶縁膜13は、下部電極12と上部電極17との構造的に絶縁するためのものである。ここで、絶縁膜13は、無電界下において、極性液体層15よりも無極性液体層16に対して親和性が大きい材料によって構成されている。例えば、フッ素原子を含有する分子材料が好適である。さらに、誘電率の大きな材料を用いることが好ましい。この絶縁膜13の膜厚は、絶縁強度の観点からは厚い方が好ましく、誘電率を大きくする観点からは薄い方が好ましい。
【0020】
このような絶縁膜13の具体的な材料としては、フルオロアルキル系高分子が挙げられ、例えば、ビニリデンフッ素共重合体、ヘキサフルオロイソブチレン含有高分子、エチレン共重合体、パーフルオロジメチルジオキソール共重合体、液晶性シクロブタンなどが挙げられる。その一例を、化1(1,1,2,4,4,5,5,6,7,7-decafluoro-3-oxa-1,6-heptadiene)に示す。
【0021】
【化1】

【0022】
隔壁14は、絶縁膜13上にパターン形成され、絶縁膜13上の領域を複数のサブ領域に区画するようになっている。すなわち、この隔壁14により、光学絞り1の領域Pは、複数のサブ領域PSに分割される。この隔壁14の具体的な構成については後述する。
【0023】
極性液体層15および無極性液体層16は、絶縁膜13と上部電極17との間に互いに混じり合うことなく2層に分かれて存在している。このとき、無極性液体層16は、絶縁膜13上に、隔壁14によって区画されたサブ領域PSごとに配置されている。一方、極性液体層15は、例えば、隔壁14と複数の無極性液体層16を覆うように、領域P全体にわたって存在している。
【0024】
極性液体層15は、無極性液体層16と交じり合わない材料により構成されている。また、電圧に対する応答速度の観点から低粘度であることが好ましい。極性液体層15の構成材料としては、例えば、純水、塩化カリウムや塩化ナトリウムなどの電解質を溶かした水溶液、分子量の小さなアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール)などが挙げられる。
【0025】
無極性液体層16は、極性液体層15と交じり合わない材料により構成されている。また、電圧に対する応答速度の観点から低粘度であることが好ましい。無極性液体層16の構成材料としては、ベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ドデカン、n−ヘキサデカン、ウンデカン等の炭化水素系材料、キシレン、メシチレン、ブチルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレンなどのうち少なくとも一種を含むものが挙げられる。なお、本実施の形態における図1〜図9およびその説明では、無極性液体層16として、鎖状構造の炭化水素系材料、例えばn−ドデカンなどの直鎖型炭化水素材料を用いた構成を例に挙げて説明する。
【0026】
本実施の形態では、極性液体層15は、光透過(透明)性を有し、例えば可視光に対して透明となっている。一方、無極性液体層16は、遮光(不透明)性を有し、例えば可視光に対して黒色となるように着色されている。すなわち、無極性液体層16は、上述の材料に加えて可視光に対して黒色となる染料や顔料などの色素を含有している。このような色素としては、上記のような無極性溶媒に良く溶け(または分散し)、例えば450nm、550nmおよび650nm付近に吸収帯を有する材料やこれらの材料を組み合わせたものが用いられる。その一例を化2に示す。
【0027】
【化2】

【0028】
封止層18は、粘着性のシリコーンテープなどのシール剤であり、極性液体層15の漏れを防ぐと共に、下部基板10と上部基板11との間の距離、すなわちセルギャップを一定間隔に保持するためのものである。なお、この封止層18の外側に、さらに光硬化型もしくは熱硬化型などの接着層が設けられていてもよい。
【0029】
また、光学絞り1には、図示しない制御部が設けられている。制御部には、例えば電源部と、電圧のオン状態、オフ状態を切り替えるためのスイッチ部とが設けられ、上述した下部電極12と上部電極17との間に任意の大きさの電圧を印加することができるようになっている。このような光学絞り1は、例えば小型カメラの開口絞りやシャッタとして好適に用いられ、その領域Pの直径は、数mm程度、例えば2mm〜8mmである。
【0030】
次に、図2および図3を参照して隔壁14および下部電極12の具体的な構成について説明する。
【0031】
図2は、隔壁14の平面構成を表す模式図である。このように、隔壁14は、絶縁膜13の表面に沿って、マトリクス状(格子状)に設けられている。そして、このマトリクス状の隔壁14によって区画された領域のそれぞれに無極性液体層16が配置されるようになっている。但し、隔壁14の最も外側の壁(外壁)によって囲まれる領域Pは円形状となっている。
【0032】
また、隔壁14の材料としては、CH基を含有する分子からなる材料を用いるのがよい。例えば、アクリル系樹脂や、化3に示したようなエポキシ系樹脂などの高分子材料が好適である。また、極性液体層15に溶解したり反応したりしないことが好ましい。具体的には、光硬化型のエポキシ樹脂(SU−83035:化薬マイクロケム株式会社製)が用いられる。
【0033】
【化3】

【0034】
図3は、下部電極12の平面構成を表す模式図である。下部電極12は、その全体の平面形状が例えば円形状となっている。また、4つのサブ電極12A,12B,12C,12Dに分割され、それぞれ個別に駆動することができるようになっている。各サブ電極は、隔壁14のパターン、すなわちサブ領域PSの位置、平面形状および個数などに拘らず、任意のパターンで設けられている。例えば、表示面内において、サブ電極12Aは中央に配置され、このサブ電極12Aを囲うようにサブ電極12Bが配置され、このサブ電極12Bを囲うようにサブ電極12Cが配置され、このサブ電極12Cを囲うようにサブ電極12Dが配置されている。なお、図3におけるI−I線での矢視断面図が図1における下部電極12に対応している。但し、図1では、簡便化のため、サブ電極12Cとサブ電極12Dとの境界付近の領域のみ示している。
【0035】
次に、図4〜図8を参照して、上記のような光学絞り1の製造方法について説明する。
【0036】
まず、下部基板10上に下部電極12を形成する。例えば、図4に示したように、上述した材料よりなる下部基板10上に、上述した材料よりなる透明電極材料を例えばスパッタリング法により成膜する。なお、同様にして、上述の材料よりなる上部基板11上に、上部電極17を形成する(図示せず)。
【0037】
次いで、下部電極12を例えばフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、図3に示したような複数のサブ電極に分割する。この際、まず図5(A)に示したように、成膜した下部電極12上に、例えばポジ型のフォトレジスト膜110を、例えばスピンコート法により塗布形成したのち、フォトレジスト膜110表面を、所定の開口パターンを有するフォトマスク111を用いて露光する。こののち、現像処理を施すことにより、パターニングされたフォトレジスト膜110を形成する(図5(B))。続いて、パターニングされたフォトレジスト膜110側の面を、例えばウェットエッチングしたのちフォトレジスト膜110を除去することにより、パターニングされた下部電極12を形成する(図5(C))。
【0038】
次いで、図6に示したように、パターニングした下部電極12の全面を覆うように、上述した材料よりなる絶縁膜13を、例えばスピンコート法、ディップコート法、蒸着法などにより成膜する。この際、絶縁膜13の表面に撥水処理を施すようにしてもよい。
【0039】
次いで、形成した絶縁膜13上に隔壁14をパターン形成する。まず、図7(A)に示したように、絶縁膜13上に、光硬化型の樹脂層14−1を形成する。この際、例えば上述したようなエポキシ樹脂に、例えば化4に示したようなスルホニウム塩を光酸発生剤として加えるようにしてもよい。
【0040】
【化4】

【0041】
続いて、図7(B)に示したように、例えば、所定の間隔で開口が設けられたマスク112を用いて、形成した樹脂層14−1に光照射を行う。この際、図2に示したようなマトリクス状の隔壁14を形成する場合には、例えば一方向に延在する複数の開口部が一定間隔で設けられたマスクを用いて一度光照射を行ったのち、このマスクを面内方向に90°回転させて再び光照射を行うようにすればよい。あるいは、マスクとして、透明基板上に正方形状の遮光部を所定の間隔をおいてマトリクス状に配置したものを用いるようにすれば、1回の光照射でマトリクス状の隔壁パターンを形成することができる。そして、上記のようにして光照射を行ったのち、加熱処理、現像処理などを施すことにより、所望のパターンの隔壁14を得る(図7(C))。なお、形成した隔壁14の表面に、低圧水銀ランプなどにより親水化処理を施すようにしてもよい。
【0042】
次いで、図8に示したように、隔壁14をパターン形成した絶縁膜13上に、例えば上述したような色素を溶解させた無極性液体を、隔壁14によって区画されたサブ領域ごとに注入し、絶縁膜13上の各サブ領域を無極性液体で被覆する。これにより、サブ領域ごとに無極性液体層16を形成する。こののち、全ての無極性液体層16を覆うように、上述した材料よりなる極性液体を注入することにより極性液体層15を形成する。
【0043】
最後に、無極性液体層16および極性液体層15が形成された下部基板10と、上部電極17が形成された上部基板11とを、極性液体層15と上部電極17とが対向するように重ね合わせ、封止層18によって封止する。以上により、図1に示した光学絞り1を完成する。
【0044】
次に、本実施の形態の光学絞り1の作用、効果について説明する。
【0045】
まず、光学絞り1の基本的な作用について説明する。図9(A),(B)は、極性液体層15および無極性液体層16の変形の様子を表す模式図であり、図9(A)は電圧を印加していない状態(V=0)、図9(B)は電圧を印加した状態(V=V1)を示す。但し、ここでは一つのサブ領域PSについてのみ示している。
【0046】
光学絞り1では、図9(A)に示したように、電圧を印加していない状態では、隔壁14によって囲まれたサブ領域PS内で、可視光に対して黒色となるように着色された無極性液体層16は絶縁膜13の全面を覆い、この無極性液体層16の上層に極性液体層15が配置された状態で安定している。よって、電圧を印加していない状態では、入射光の光路は無極性液体層16によって遮断され、透過光量はほぼ0(ゼロ)となる。なお、無極性液体層16が直鎖型炭化水素材料により構成されている場合には、無極性液体層16の表面形状は極性液体層15の側に凸となる。
【0047】
一方、図9(B)に示したように、図示しない制御部の制御によって電源20より下部電極12と上部電極17との間に電圧が印加されると、両電極間に電界が発生する。これにより、絶縁膜13内において電界方向へ分極電荷が発生し、絶縁膜13の表面に電荷が蓄積され、いわゆる電荷二重層状態となる。このとき、極性液体層15は極性を有しているので、電荷の存在により、絶縁膜13の近傍へクーロン力によって引き寄せられる。すなわち、印加する電圧が大きくなるにつれて、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が大きくなる。これにより、極性液体層15は、絶縁膜13との接触面積を増大させるように変形する。一方、無極性液体層16は、無極性であるがゆえにクーロン力は発生しない。このため、無極性液体層16は、変形する極性液体層15に押し出されて絶縁膜13上の一部の領域に集まるように移動する。すなわち、無極性液体層16は、絶縁膜13との接触面積を縮小させるように変形する。なお、このとき、無極性液体層16が直鎖型炭化水素材料により構成されている場合には、直鎖型炭化水素の凝集力が比較的強いため、無極性液体層16は塊となって移動しやすい。
【0048】
ここで、絶縁膜13に対する極性液体層15の濡れ性の変化は、以下の式(1)〜(3)によって説明することできる。但し、γLVを液体と基体との界面張力、γSVを固体と気体との界面張力、γSLを固体と液体との界面張力、γEWを電界の強さによる界面張力、ε0を真空の誘電率、εrを絶縁膜13の比誘電率、Vを印加電圧の大きさ、dを下部電極11と上部電極17との間の距離(電極間ギャップ)とする。これら式(1)〜(3)により、極性液体層15の絶縁膜13に対する接触角θは、電圧Vの大きさに応じて変化することがわかる。よって、印加電圧の大きさに応じて、極性液体層15の界面形状、すなわち濡れ性が変化する。
γLVcosθ=γSV−γSL+γEW ………(1)
γEW=d×σL2/2×ε0×εr ………(2)
σL=ε0×εr×V/d ………(3)
【0049】
上述したように、電圧を印加することによって、絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が大きくなり、無極性液体層16は、絶縁膜13との接触面積を縮小するように変形する。これにより、サブ領域PSの表示面において、可視光に対して黒色となる領域が小さくなるため、領域P全体として光の透過領域が大きくなる。また、印加する電圧の大きさに応じて、極性液体層15の絶縁膜13に対する濡れ性が変化するため、これに伴って無極性液体層16の変形量も変化する。
【0050】
次に、光学絞り1における隔壁14の作用について説明する。光学絞り1では、領域Pが、隔壁14によって複数のサブ領域PSに分割される。
【0051】
ここではまず、図25(A)に示したような従来例に係る光学絞り200について説明する。この光学絞り200は、領域P内の絶縁膜204上に環状の隔壁208が形成され、この環状の隔壁208によって囲まれる領域内に、無極性液体層207、極性液体層206がこの順に設けられ、封止層209によって基板間に封止されている。このような光学絞り200では、一対の電極203,208の間に電圧が印加されると、極性液体層206の濡れ性が変化して、無極性液体層207が絶縁膜204上で変形する(図25(B))。このとき、光学絞り200では、極性液体層206が黒色となるように着色されており、無極性液体層207が透明となっている。このため、無極性液体層207が上部の電極208に接するように変形することにより、光が透過される。従って、従来の光学絞り200においても、印加する電圧の大きさによって、絶縁膜204上の無極性液体層207が変形(移動)することにより、透過光量が調節される。
【0052】
ところが、このような従来の光学絞り200では、領域P全体で、極性液体層206と無極性液体層207とが1:1の個数比で設けられているため、光量の調節は単一領域内で単一の無極性液体層207を変形させることによって行われる。このため、領域P全域の平面積が直径数mmとなる光学絞りにおいては、無極性液体層207の変形量(移動量)が大きくなる。この結果、駆動電圧が高くなり、電圧に対する応答速度が遅くなってしまう。
【0053】
これに対し、本実施の形態の光学絞り1では、隔壁14によって、領域Pが複数のサブ領域PSに区画され、各サブ領域PS内において無極性液体層16を変形させて光量の調節を行うため、個々の無極性液体層16の変形量(移動量)は相対的に小さくなる。
【0054】
以上のように、光学絞り1によれば、絶縁膜13と上部電極17との間に、極性液体層15と無極性液体層16とを設けるようにしたので、印加電圧の大きさに応じて絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性を変化させ、無極性液体層16を変形(移動)させることができる。このとき、極性液体層15が可視光に対して透明で、無極性液体層16が可視光に対して黒色となるように着色されているので、極性液体層15および無極性液体層16のそれぞれの形状を変化させることにより透過光量の調節が可能となる。ここで、絶縁膜13上の領域を隔壁14によって複数のサブ領域に区画するようにしたので、このサブ領域ごとに無極性液体層16を設けるようにしたので、単一の領域内で単一の無極性液体層を変形させる場合に比べて、個々の無極性液体層16の変形量(移動量)を小さくすることができる。よって、印加電圧に応じて透過光量を調節すると共に、低電圧駆動および高速応答化を実現する。また、これによりスムーズな光量調節が可能となる。
【0055】
また、従来のように、単一領域内で光量調節を行う場合には、直径数mm程度の光学絞りでは、重力の影響を受け易いため、極性液体層と無極性液体層との比重を一致させることが必要である。このため、極性液体層と無極性液体層との材料の選定が困難である。これに対し、本実施の形態では、複数のサブ領域PSに区画されているため、表面張力の釣り合いによって重力の影響を受けにくくすることができる。よって、各サブ領域PSの直径が例えば2mm程度以下になるように区画されている場合には、極性液体層15と無極性液体層16との比重の調整は不要となる。
【0056】
また、隔壁14を、絶縁膜13の表面に沿ってマトリクス状に設けるようにすれば、領域Pを複数のサブ領域PSに微細に区画し易くなる。このとき、区画数が多い程、各サブ領域内での無極性液体層の変形量を小さくすることができるので、低電圧駆動および高速応答化を実現し易くなる。
【0057】
また、下部電極12を図3に示したようなサブ電極12A,12B,12C,12Dに分割すれば、例えば、サブ電極ごとに電圧のON、OFFを切り替えたり、また、サブ電極ごとに印加電圧の大きさを変化させることができる。このような下部電極12を用いて、マトリクス状の隔壁14によって細分された複数のサブ領域PSを駆動させることにより、例えば、図10(A)〜(E)に示したように、開口(透過領域)のサイズを調節することが可能となる。但し、図10(A)は電圧をいずれのサブ電極にも印加していない状態、図10(B)はサブ電極12Aのみ、図10(C)はサブ電極12A,12B、図10(D)はサブ電極12A,12B,12C、図10(E)は全てのサブ電極に電圧を印加した場合の光学絞り1の領域P全体の開口の様子を示したものである。このように、開口20とこれを囲む遮光領域16Aとの大きさを変化させ、開口サイズを調節することができるようになる。また、領域Pの任意の位置、例えば中央部と周辺部とで透過率が異なるように光量を調節することも可能となる。
【0058】
次に、本実施の形態の光学絞り1の変形例について説明する。
【0059】
(変形例1)
図11(A)は、変形例1に係る隔壁21の平面構成を表す模式図である。図11(B)は、下部電極22の平面構成を表す模式図である。本変形例では、これら隔壁21の平面構成と下部電極22の平面構成以外は、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成となっている。
【0060】
隔壁21は、上記隔壁14と同様に、絶縁膜13の表面に沿ってマトリクス状に設けられている。但し、隔壁21の外壁によって囲まれる領域は正方形状となっており、この正方形状の領域が領域Pに対応している。そして、このマトリクス状の隔壁21によって区画される領域のそれぞれに無極性液体層16が配置されるようになっている。また、隔壁21の材料としては、上述した隔壁14と同様のものを用いられる。
【0061】
下部電極22は、その平面形状が正方形となっており、4つのサブ電極21A,21B,21C,21Dに分割されている。また、図3に示した下部電極12と同様に、中央に配置されたサブ電極21Aを囲うように、同心状にサブ電極21B,21C,21Dが設けられ、各サブ電極ごとに個別に駆動することができるようになっている。
【0062】
なお、上記第1の実施の形態および変形例1では、下部電極が中央部から周辺部にかけて4つのサブ電極に分割された構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、2つや3つもしくは5つ以上に分割された構成であってもよい。また、下部電極の平面形状は、隔壁の外壁の平面形状(すなわち領域Pの平面形状)と同一でなくともよい。例えば、円形状の領域Pに対して正方形状の下部電極を用いるようにしてもよく、正方形状の領域Pに対して円形状の下部電極を用いるようにしてもよい。また、隔壁の外壁や下部電極の平面形状は、円形や正方形に限定されず、矩形状や正多角形状などであってもよい。
【0063】
(変形例2)
図12(A)は、変形例2に係る隔壁14の平面構成を表す模式図である。図12(B)は、下部電極32の平面構成を表す模式図である。本変形例では、この下部電極32の平面構成以外は、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成となっている。よって、上記第の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0064】
下部電極32は、その全体の平面形状が正方形となっており、複数のサブ電極32Aにマトリクス状に分割されている。また、各サブ電極32Aは、それぞれ隔壁14によって区画されるサブ領域PSごとに設けられており、サブ電極32Aごとに個別に駆動することができるようになっている。
【0065】
このように、下部電極は、隔壁14によって区画されるサブ領域PSごとに設けられるようにしてもよい。これにより、上記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができると共に、サブ領域ごとに駆動することができるため、任意の領域に開口を形成することができると共に、よりきめ細やかな開口サイズの調節が可能となる。
【0066】
なお、本変形例では、各サブ電極が、隔壁14によって分割されるサブ領域に対して1:1の個数比で設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、一つのサブ電極に対して複数のサブ領域が割り当てられるような構成であってもよい。
【0067】
(変形例3)
また、上記のような光学絞り1の変形例3として、無極性液体層27として環状構造の炭化水素系材料、例えば、p−キシレンなどの芳香族炭化水素(aromatic hydrocarbons)を用いた構成について説明する。図13は、変形例3に係る光学絞りの概略構成を表す断面図である。本変形例では、無極性液体層27の構成材料以外は、上記第1の実施の形態の光学絞り1と同様の構成となっている。よって、上記第1の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0068】
このように、無極性液体層27として芳香族炭化水素材料を用いた場合、電圧を印加していない状態(V=0)では、無極性液体層27の表面形状は、絶縁膜13の側に凸となる(図13,図14(A))。一方、下部電極12と上部電極17との間に、電圧を印加した状態(V=V1)では、絶縁膜13上の全面を覆っていた無極性液体層27が、サブ領域PSの中央付近からちぎれるようにして隔壁14の近傍へ移動する(図14(B))。これは、上記のような芳香族炭化水素の凝集力が比較的弱いためと考えられる。このように、無極性液体層の構成材料により、電圧無印加時の表面形状や電圧印加による挙動が異なるものの、光学絞りとしてはほぼ同等の効果を得ることができる。
【0069】
次に、上記のような光学絞り1の具体的な実施例について説明する。
【0070】
(実施例1−1)
実施例1−1として、図13に示した変形例3に係る光学絞りを、領域P全域の大きさ(セルサイズ)をφ8(直径8mm)として、実際に作製した。まず、厚み0.7mmの無アルカリ性のガラスからなる下部基板10上に、表面抵抗が100Ω/mm2のITO膜(下部電極12)を形成し、フォトリソグラフィ法により下部電極12のパターニングを行った。この際、下部電極12上へポジ型感光性レジストをスピンコートしたのち、光照射および現像処理によってレジストをパターニングし、その表面を、混酸(18wt%−HCl,10wt%−HNO3,72wt%−H2O) によりエッチングした。
【0071】
次いで、パターニングした下部電極12の表面に、化1で表される材料を6wt%含有したパーフルオロトリブチルアミン溶液をスピンコートして、厚み500nmの絶縁膜13を下部電極12を覆うように形成した。続いて、絶縁膜13上に、化3で表されるエポキシ樹脂を、化4のスルホニウム塩(光酸発生剤)を用いて光カチオン重合により硬化させた。この際、エポキシ : シクロペンタノン : スルホニウム塩 : プロピレンカーボネート=9:16:1:1の重量比で混合した溶液をスピンコートして成膜したのち、光照射処理、加熱処理、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートによる現像処理を施すことにより、絶縁膜13上に図2に示したような隔壁14を形成した。なお、隔壁14は、図15のFE−SEMによる写真からわかるように、面内方向において、ピッチを230μm、幅を10μmとなるように形成した。
【0072】
次いで、隔壁14を形成した面を、低圧水銀ランプにより185nmと254nmの光を照射し、隔壁14表面の親水化を行った。こののち、手動又は機械により、n−ドデカンとp−キシレンとの混合液に対し、化2に示したような黒色の色素を溶解させたものを、絶縁膜13上の隔壁14によって区画された領域ごとに注入し、無極性液体層27を形成した。そして、この無極性液体層27の表面へ極性液体層15として水を注入したのち、上部電極17が形成された上部基板11を貼り合わせ、封止層18により、全体の厚み(セルギャップ)が125μmとなるように封止した。
【0073】
(実施例1−2)
また、実施例1−2として、図10(A),(B)に示したような隔壁21および下部電極22を有する光学絞りを作製した。この際、領域P全体の平面形状を12mm×12mmの正方形とすると共に、隔壁21の外壁および下部電極24の平面形状を正方形としたこと以外は、上記実施例1−1と同様の材料および手順で作製した。なお、絶縁膜13上の領域を区画する隔壁21のピッチおよび幅についても、上記実施例1−1と同様に図15に示した寸法となるようにした。
【0074】
上記のようにして作製した実施例1−1および実施例1−2に係る光学絞りについて、電圧を印加しない状態における透過率曲線を図16に示す。このように、電圧を印加しない状態(黒表示時)では、特に波長350nmから650nmの領域において吸収率が高く、十分に黒色(遮光状態)を表現できていることがわかる。
【0075】
また、下部電極と上部電極との間に、+20Vと−20Vとを交互に繰り返す矩形波電圧(以下、単に±20Vの矩形波電圧という)を印加すると、電圧印加前には領域Pの透過領域の全域を覆っていた各無極性液体層27は、直ちにサブ領域PSの隅へ追いやられ、十分に透明(透過状態)を表現できていることが視覚的に観察された。
【0076】
次いで、印加電圧を、±20Vと0Vとを交互に繰り返す矩形波電圧とすると、領域P全体では、黒色と透明とが高速に切り替わることが確認された。すなわち、電圧の切り替えに対して、光学絞りの開閉動作が高速に行われることが示された。また、上述した結果から、実施例1−1,1−2に係る光学絞りでは、透明から黒色、および黒色から透明を切り替えるための駆動電圧が約20Vであることがわかる。
【0077】
また、印加電圧を、±20Vの矩形波電圧とした場合に、電圧印加前後の無極性液体層27のセルサイズに対する存在比率から応答速度を算出した。その結果を図17に示す。但し、領域Pの透過領域全体の面積に対して、無極性液体層27の占める面積が最小となる時(すなわち、透過面積が最大となる透明時)と、最大となる時(すなわち、透過面積が最小となる黒色時)との切り替えに要する時間を応答速度とする。この結果、応答速度は、いずれも5ms(ミリ秒)以下となり、実用上十分な応答速度であった。また、無極性液体層27の大きさが最小の場合と最大の場合との比率は、約90%にもなった。
【0078】
また、印加電圧を、0Vから40Vまで変化させた場合の波長600nm付近の透過率の変化を図18に示す。但し、印加電圧は0Vから10V,20V,30V,40Vと10V単位で順次変化させた。このように、印加電圧が増大するに従って透過率が徐々に上昇し、印加電圧40Vでは、約60%まで上昇することがわかった。
【0079】
また、印加電圧を、±20Vと0Vとを交互に1Hzで5万回繰り返す矩形波電圧としたところ、電圧印加前後において、無極性液体層27の変化率やスペクトル形状にほとんど変化がなく、実用上十分に優れた耐久性を有していることが確認された。
【0080】
また、印加電圧を、±0Vから±20Vにかけて徐々に増加するような矩形波電圧とすると、領域P全体の色合いが黒色に近い状態から透明に近い状態へ徐々に変化することが確認された。また逆に、±20Vから±0Vと、徐々に低減するような矩形波電圧とすると、透明に近い状態から黒色に近い状態へ徐々に変化することが確認された。すなわち、印加する電圧の大きさにより色調を調節することができ、NDフィルタのようなグレー表示を行うことが可能であることがわかる。
【0081】
次に、上記実施例1−2の光学絞りについて、下部電極22に対して、サブ電極ごとに個別駆動を行った。具体的には、いずれのサブ電極にも電圧を印加していない状態から、まず、中央部に配置されたサブ電極22Aに電圧を印加したのち、サブ電極22B、サブ電極22C、サブ電極22Dと、中央部から周辺部に向けて、順次電圧を印加するようにした。この際、各サブ電極に印加する電圧は、±20Vの矩形波電圧とした。また、同様に、全てのサブ電極に電圧を印加した状態から、まず、サブ電極22Dに印加する電圧を0にしたのち、サブ電極22C、サブ電極22B、サブ電極22Aと、周辺部から中央部に向けて、順次印加電圧が0となるようにした。なお、各サブ電極の外縁部の一辺の長さはそれぞれ、サブ電極22Aで3.83mm、サブ電極22Bで6.71mm、サブ電極22Cで9.59mm、サブ電極22Dで12mmとなるようにした。
【0082】
このように、下部電極22をサブ電極22A,22B,22C,22Dに分割し、電圧印加0の状態において、中央部に配置されたサブ電極22Aから順次電圧を印加していくと、開口(光が透過する領域)面積は、0から3.83mm×3.83mm、6.71mm×6.71mm、9.59mm×9.59mm、12mm×12mmと、徐々に大きくなることが確認された。また、逆に、下部電極22全域に電圧を印加している状態において、周辺部に配置されたサブ電極22Dから順次電圧を0となるようにすると、開口面積は、12mm×12mm、9.59mm×9.59mm、6.71mm×6.71mm、3.83mm×3.83mm、0と、徐々に小さくなることが確認された。
【0083】
よって、下部電極を複数のサブ電極に分割することで、各サブ電極ごとに個別駆動が可能となり、これによって、光学絞りの開口のサイズを調節可能であることがわかる。また、サブ電極ごとに印加する電圧の大きさを変化させることもでき、これにより領域Pの任意の領域で任意の色調表示を行うことも可能となる。
【0084】
(比較例1)
次に、上記実施例1−1,1−2の比較例1として、図25(A),(B)に示したような従来の光学絞り200(セルサイズ:φ8)を作製した。この際、まず、実施例1−1と同様にして下部基板201上に下部電極203、絶縁膜204を形成したのち、隔壁205を、面内方向において環状となるように形成した。なお、形成した隔壁205の表面は、実施例1−1と同様にして親水化を行った。
【0085】
次いで、シリコンオイルを、絶縁膜204上の隔壁205によって囲まれる円形の領域内に注入することにより無極性液体層207を形成した。さらにその表面へ、黒色顔料(親水性カーボンブラック)が溶解した水を注入することにより、極性液体層206を形成した。ここで、無極性液体層207(シリコンオイル)と極性液体層206(水)との比重を同一にするために、水に塩化物イオンを溶解させた。この上に、上部電極208が形成された上部基板202を重ね合わせ、封止層209によって全体の厚みが125μmとなるように封止することにより光学絞り200を作製した。
【0086】
このようにして作製した光学絞り200において、下部電極203と上部電極208との間に電圧を印加した。この際、印加電圧を、0Vから±20Vの矩形波電圧へ変化させても、ほとんど無極性液体層207に変化は確認されず、図25(A)に示したような状態のままであった。そこで、両電極間に±40Vの矩形波電圧を印加すると、無極性液体層207が中央部に集まるように変形し、図25(B)に示したような状態となった。また、この際、応答速度はいずれも10s(秒)程度であった。
【0087】
また、印加電圧を、0Vから40Vまで変化させた場合の波長600nm付近の透過率の変化を測定した。この結果、電圧を印加していない状態の透過率は数%であったが、印加電圧を40Vとした状態では透過率が30%となった。また、光学絞り200では、絶縁膜204の表面の一部において絶縁破壊が起こっていることが確認された。これは、比重調整のために水へ溶解させた塩化物イオンが電解質として機能したためと考えられる。
【0088】
ここで、表1に、上述した実施例1−1,1−2および比較例1における駆動電圧および応答速度についての測定結果をまとめたものを示す。このように、ほぼ同等のセルサイズの光学絞りでは、複数のサブ領域に分割することにより、駆動電圧が低くなると共に、応答速度が速くなっていることがわかる。また、極性液体層と無極性液体層との比重調整も不要であるため、絶縁破壊を引き起こす要因となる塩化物イオンなどを加える必要がなくなり、材料の選定が容易となる。
【0089】
【表1】

【0090】
[第2の実施の形態]
図19は、第2の実施の形態に係る光学絞りの隔壁23の平面構成を表すものである。図20は、下部電極24の平面構成を表す模式図である。本実施の形態では、これら隔壁23の平面構成と下部電極24の平面構成以外は、上記第1の実施の形態と同様の構成となっている。よって、上記第1の実施の形態と同一の構成要素の図示および説明を適宜省略する。
【0091】
隔壁23は、絶縁膜13上に、その表面に沿って放射状に設けられている。但し、隔壁23の外壁によって囲まれる領域は円形状となっている。また、この隔壁23によって、領域Pは4つのサブ領域PS−1,PS−2,PS−3,PS−4に区画され、各サブ領域内に無極性液体層16が配置されるようになっている。このような隔壁23の材料としては、上述した隔壁14と同様のものが用いられる。
【0092】
下部電極24は、4つのサブ領域PS−1,PS−2,PS−3,PS−4に共通の電極となっている。但し、下部電極24は、隔壁23の外壁によって囲まれた領域よりも一回り小さくなるように配置されている。すなわち、各サブ領域では、隔壁23の外壁の近傍に電極のない領域が存在する。
【0093】
第2の実施の形態の光学絞りでは、隔壁23によって領域Pが4つのサブ領域PS−1,PS−2,PS−3,PS−4に区画され、このサブ領域ごとに無極性液体層16が配置される。このような構成では、電圧を印加しない状態(V=0)では、図21(A)に示したように、領域Pの全域を覆うように無極性液体層16が存在している。一方、電圧を印加した状態(V=V1)では、透明な絶縁膜13の極性液体層15に対する濡れ性が変化し、極性液体層15は、領域Pの中央の領域で絶縁膜13に対する接触面積を増加させるように変形する(図21(B))。これにより、各サブ領域内の無極性液体層16は、絶縁膜13に対する接触面積を低減させるように変形する。よって、印加電圧に応じて、光学絞りの開口面積を変化させ、透過光量を調節することが可能となる。
【0094】
ここで、例えば図20に示したように、下部電極24を、隔壁23の外壁によって囲まれる領域よりも小さくなるようにすれば、絶縁膜13上の隔壁23の外壁近傍に電荷の蓄積されない領域を設けることができる。上述したように、絶縁膜13表面での電荷の蓄積によって極性液体層15に対する濡れ性が大きくなり、この濡れ性の大きくなった領域で極性液体層15が安定して存在するため、絶縁膜13上に電荷の蓄積されない領域があれば、無極性液体層16はその領域に必然的に追いやられる。よって、無極性液体層16を、隔壁23の外壁、すなわち領域Pの端部に向けて変形させ易くすることができる。
【0095】
なお、このとき、無極性液体層16が、例えば直鎖型炭化水素材料により構成されている場合、電圧を印加しない状態では、図22(A)に示したように、無極性液体層16の表面形状は極性液体層15の側に凸となる。一方、電圧を印加した状態では、図22(B)に示したように、下部電極24の形成されていない領域、すなわち領域Pの端部に向かう方向(図22(B)中の点線矢印の方向)に無極性液体層16が移動して開口20が形成される。
【0096】
あるいは、上述の第1の実施の形態の変形例3に係る無極性液体層27のように、無極性液体層の構成材料は芳香族炭化水素であってもよい。この場合、電圧を印加しない状態では、図23(A)に示したように、無極性液体層27の表面形状は絶縁膜13の側に凸となる。一方、電圧を印加した状態では、図23(B)に示したように、下部電極24の形成されていない領域、すなわち領域Pの端部に向かう方向(図22(B)中の点線矢印の方向)に無極性液体層27が移動して開口20が形成される。
【0097】
また、隔壁23により領域Pを放射状に区画することにより、各無極性液体層16の変形量を小さくすることができると共に、無極性液体層16を領域Pの端部(隔壁23の外壁近傍)に移動させることができる。よって、領域Pの端部を遮光領域、中央部を透過領域(開口)とすることができ、印加電圧に応じて、開口サイズを調節することが可能となる。また、区画数を比較的少なくする(例えば4つ)ことができると共に、下部電極を複数のサブ電極に分割する必要もないため、上記第1の実施の形態の光学絞り1に比べて簡易な構成となる。
【0098】
なお、本実施の形態では、隔壁23として、領域Pを放射状に4つのサブ領域に区画する構成を例に挙げて説明したが、領域Pの区画数は4つに限定されない。例えば、図24(A)に示したように、隔壁25により3つのサブ領域に区画する構成であってもよく、図24(B)に示したように、隔壁26により8つのサブ領域に区画する構成であってもよい。いずれの構成においても、各サブ領域内で無極性液体層16を隔壁の外壁に向けて変形させることができる。また、ここで説明した以外の数、例えば2,5,6,7,9,10…の所望の数に区画するようにしても、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0099】
次に、第2の実施の形態の光学絞りの具体的な実施例について説明する。
【0100】
(実施例2)
実施例2として、図19に示したような隔壁23を有する光学絞りを、上記実施例1−1と同様にして作製した。但し、セルサイズをφ4とし、隔壁23を、領域Pが放射状に4つに分割されるようにパターン形成した。なお、実施例2においても、極性液体層と無極性液体層との比重調整は不要である。また、この実施例2の比較例2として、セルサイズφ4としたこと以外は、上記比較例1と同様の手順で光学絞り200を作製した。
【0101】
これら実施例2および比較例2についての駆動電圧、応答速度についての測定結果を表2に示す。このように、φ4のセルサイズの光学絞りにおいて、領域Pを放射状に4つのサブ領域に区画することにより、駆動電圧を約20Vと低くすることができ、これによって電圧に対する応答速度を200ms以下と十分に速くすることができることが示された。
【0102】
【表2】

【0103】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、下部電極が複数のサブ電極に分割されている構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、下部電極はサブ電極に分割されていないベタ電極であってもよい。また、上部電極が複数のサブ電極に分割されていてもよい。
【0104】
また、上記実施の形態等では、絶縁膜上に隔壁を形成した構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば絶縁膜上に撥水膜などが設けられていてもよい。この場合、撥水膜は、可動部分となる無極性液体層や極性液体層と接触するため、これらに対して疎水性の大きい材質であることが好ましい。また、下部電極と上部電極とを構造的に絶縁させるために、誘電率が大きい材質であることが好ましい。例えば、フッ素系のポリマーであるPVdFやPTFEなどが用いられる。
【0105】
また、上記実施の形態等では、無極性液体層がサブ領域ごとに設けられ、極性液体層が、各サブ領域PSに共通の層として設けられた構成を例に挙げて説明したが、極性液体層の構成はこれに限定されない。例えば、各サブ領域PSをそれぞれ構造的に独立させ、無極性液体層だけでなく極性液体層についてもサブ領域PSごとに設けるようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施の形態等では、下部電極の全面を覆うように絶縁膜が設けられた構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば下部電極上の隔壁に対向する領域に、ブラックマトリクスを設け、このブラックマトリクスを覆うように絶縁膜を設けるようにしてもよい。これにより、隔壁が形成された領域に入射する光が遮断され、隔壁での光の散乱などを抑制することができる。
【0107】
また、上記実施の形態等では、極性液体層を透明とし、無極性液体層を黒色となるように着色した構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、逆に極性液体層を着色して、無極性液体層を透明になるようにしてもよい。このように、どちらか一方が遮光性、他方が光透過性を有するような構成であれば、本発明と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光学絞りの概略構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した隔壁の平面構成を表す模式図である。
【図3】図1に示した下部電極の平面構成を表す模式図である。
【図4】図1に示した光学絞りの製造工程を表す断面図である。
【図5】図4に続く工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に続く工程を表す断面図である。
【図9】図1に示した光学絞りの作用を説明するための模式図である。
【図10】図1に示した光学絞りの開口の様子を表す模式図である。
【図11】第1の実施の形態の第1の変形例に係る隔壁および下部電極の平面構成を表す模式図である。
【図12】第1の実施の形態の第2の変形例に係る隔壁および下部電極の平面構成を表す模式図である。
【図13】第1の実施の形態の第3の変形例に係る光学絞りの概略構成を表す断面図である。
【図14】図13に示した光学絞りの作用を説明するための模式図である。
【図15】第1の実施例に係る光学絞りにおける隔壁の拡大写真である。
【図16】第1の実施例に係る光学絞りの波長に対する透過率を表す特性図である。
【図17】第1の実施例に係る光学絞りの応答速度を表す特性図である。
【図18】第1の実施例に係る光学絞りの印加電圧に対する波長600nmの光の透過率を表す特性図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態に係る光学絞りの隔壁の平面構成を表す模式図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態に係る光学絞りの下部電極の平面構成を表す模式図である。
【図21】本発明の第2の実施の形態に係る光学絞りの開口の様子を説明するための模式図である。
【図22】本発明の第2の実施の形態に係る光学絞りの作用を説明するための模式図である。
【図23】第2の実施の形態の変形例に係る光学絞りの作用を説明するための模式図である。
【図24】本発明の第2の実施の形態に係る隔壁の一変形例を表す平面模式図である。
【図25】比較例に係る従来の光学絞りの概略構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0109】
1,2…光学絞り、10…下部基板、11…上部基板、12,22,24,32…下部電極、12A,12B,12C,12D,22A,22B,22C,22D,32A…サブ電極、13…絶縁膜、14,21,23,25,26…隔壁、15…極性液体層、16,27…無極性液体層、17…上部電極、18…封止層、20…開口、P…領域、PS…サブ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に絶縁膜が形成された第1の電極と、
前記第1の電極の前記絶縁膜の側に対向配置された第2の電極と、
前記絶縁膜上に立設され、この絶縁膜上の領域を複数のサブ領域に区画する隔壁と、
前記隔壁によって区画された各領域において、前記絶縁膜が形成された第1の電極と前記第2の電極との間に封入されて互いに分離した状態を保つ、一方が透明で他方が不透明の極性液体および無極性液体とを備えた
ことを特徴とする光学絞り。
【請求項2】
前記無極性液体層が不透明となっている
ことを特徴とする請求項1記載の光学絞り。
【請求項3】
前記隔壁は、前記絶縁膜の表面に沿って格子状に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の光学絞り。
【請求項4】
前記第1および第2の電極のうち少なくとも一方の電極は、複数のサブ電極に分割されている
ことを特徴とする請求項3記載の光学絞り。
【請求項5】
前記第1の電極が複数のサブ電極に分割されている
ことを特徴とする請求項4記載の光学絞り。
【請求項6】
前記複数のサブ電極のうち一のサブ電極が面内の中央部に設けられ、他のサブ電極が一のサブ電極を取り囲んで順次同心形状となるように設けられている
ことを特徴とする請求項5記載の光学絞り。
【請求項7】
各サブ電極は、前記隔壁によって分割されたサブ領域ごとに設けられている
ことを特徴とする請求項5記載の光学絞り。
【請求項8】
前記隔壁は、前記絶縁膜の表面に沿って放射状に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の光学絞り。
【請求項9】
前記隔壁は、前記絶縁膜上の領域を4つのサブ領域に区画するようになっている
ことを特徴とする請求項8に記載の光学絞り。
【請求項10】
前記隔壁は親水性を有する
ことを特徴とする請求項1記載の光学絞り。
【請求項11】
前記第1の電極は、前記隔壁によって囲まれる領域の一部に、開口または切り欠きを有する
ことを特徴とする請求項1記載の光学絞り。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2009−204686(P2009−204686A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44303(P2008−44303)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】