説明

光学薄膜

【課題】 高い面外位相差を有し、かつ位相差の波長依存性が小さい光学薄膜を提供する。
【解決手段】 フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子5.3〜25重量部を含有し、膜面内の直交する2つの軸をx軸、y軸とし、これと直交する面外方向をz軸とした場合のそれぞれの屈折率(nx、ny、nz)の関係がnz>nx≧nyまたはnz>ny≧nxの関係にあり、膜面外の複屈折として下記式1により示される薄膜の面外複屈折(ΔP)の絶対値が0.0060以上で、波長分散性として薄膜に対する斜め40度方向からの入射光としてそれぞれ450nm、550nmの下記式2により示される面外位相差(Rth)の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学薄膜。
ΔP=((nx+ny)/2−nz) (式1)
Rth=ΔP×d (式2)
(式中、dは光学薄膜の厚さを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学薄膜に関するものであり、より詳しくは複屈折の制御を必要とする液晶ディスプレイ(以下、LCDと称する)の位相差フィルムなどの光学補償フィルム用に使用できる光学薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDはマルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話、コンピュータ用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。LCDには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられる。特にLCDを正面や斜めから見た場合のコントラストや色調を補償するために位相差フィルムが使用されており大きな役割を果たしている。位相差フィルムとしては従来からあるポリカーボネートや環状ポリオレフィンなどの正の複屈折性を示すものと耐熱性や実用性を除けばアクリル系樹脂やスチレン系樹脂などがある。
【0003】
ポリマー材料の複屈折の正負は以下のように説明される。
【0004】
ポリマー材料からなるフィルム中においてポリマー分子鎖の配向方向に平行な方向の屈折率が大きくなる性質を正の複屈折性、ポリマー分子鎖と直交する方向の屈折率が大きくなる性質を負の複屈折性を言い、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンは正の複屈折性を、アクリル系樹脂やスチレン系樹脂は負の複屈折性を示すことが知られている。
【0005】
多くのポリマー材料はポリカーボネートなどのように正の複屈折性を示すものであり、負の複屈折性を有するものはアクリル系樹脂やスチレン系樹脂などの僅かなものに限られるが、耐熱性が低く、位相差量の安定性が乏しいこと位相差フィルムとして実用上の課題があり、現状用いられていない。
【0006】
負の複屈折性を示すポリマー材料を用いて光学フィルムを作製することで、従来にない位相差フィルムが得られることから、スーパーツイストネマチック型液晶ディスプレイ(STN−LCD)、垂直配向型液晶ディスプレイ(VA−LCD)、面内配向型液晶ディスプレイ(IPS−LCD)および反射型液晶ディスプレイ(反射型LCD)などのディスプレイの視野角特性の補償用位相差フィルムや偏光板の視野角補償フィルムとして有用であり、負の複屈折性を有する位相差フィルムに対する市場の要求は強い。
【0007】
そこで正の複屈折性を有するポリマーを用いたフィルムの厚さ方向の屈折率を高めたフィルム製造方法が提案されている(例えば特許文献1〜4)。その1つは正の複屈折性を示すポリマーからなるフィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを貼合した後、加熱することで熱収縮フィルムを収縮させることで正の複屈折性を示すポリマーからなるフィルムでありながらフィルムの厚さ方向の屈折率を大きくする方法(例えば特許文献1〜3参照)である。また、正の複屈折性を示すポリマーからなるフィルムに電場を印加しながら面内に一軸延伸させるなどの方法によりフィルムの厚さ方向の屈折率を大きくする方法(例えば特許文献4参照)が提案されている。
【0008】
しかし、特許文献1〜4において提案された方法は、製造工程が非常に複雑になるため生産性が著しく劣る課題がある。また位相差の均一性などの制御も従来延伸による制御と比べても著しく難しい。
【0009】
特に、正の複屈折性を示すポリマー材料としてポリカーボネートを使用した場合にはガラス転移温度以下における光弾性係数が非常に大きく僅かな応力によって位相差量が変化することから安定性に課題がある。更に位相差量の波長依存性が大きい課題も抱えている。
【0010】
そこでフマル酸ジエステル系樹脂からなるフィルムが提案されている(例えば特許文献5参照)。特許文献5で得られる光学補償フィルムは、フィルムの厚さ方向の屈折率が大きくなり、ある程度の面外位相差量を有しているが、更に優れたポリマー材料によるフィルムの高性能化および薄膜化が求められる。
【0011】
特許文献6においては負の複屈折性を有する無機粒子をポリマー材料に添加してフィルム製膜し、このフィルムを延伸することで負の複屈折性を発現する報告がなされている。しかし製膜後の延伸によって発現する位相差性能の大きさは十分とは言えず、製膜のみによって発現する複屈折特性についての記載はない。また、製膜のみによって発現する位相差特性とその高性能化あるいは薄膜化するための方法についての記載もない。
【0012】
そこで高性能化および更に薄膜化することができる高い面外位相差量を有する負の複屈折性を示す光学薄膜やフィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許2818983号公報
【特許文献2】特開平5−297223号公報
【特許文献3】特開平5−323120号公報
【特許文献4】特開平6−88909号公報
【特許文献5】特開2008−112141号公報
【特許文献6】特開2005−156862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は高い面外位相差を有し、かつ位相差の波長依存性が小さい光学薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のフマル酸ジエステル系樹脂と特定の炭酸塩の無機粒子を含有する薄膜によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子5.3〜25重量部を含有し、膜面内の直交する2つの軸をx軸、y軸とし、これと直交する面外方向をz軸とした場合のそれぞれの屈折率(nx、ny、nz)の関係がnz>nx≧nyまたはnz>ny≧nxの関係にあり、膜面外の複屈折として特定の式により示される薄膜の面外複屈折(ΔP)の絶対値が0.0060以上で、波長分散性として薄膜に対する斜め40度方向からの入射光としてそれぞれ450nm、550nmの特定の式により示される面外位相差(Rth)の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学薄膜である。
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の光学薄膜は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子5.3〜25重量部を含有するものである。
【0018】
本発明の光学薄膜が含有するフマル酸ジエステル系樹脂は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むものである。
【0019】
ここで、炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位における炭素数1または2のアルキル基は、それぞれ独立しており、例えば、メチル基、エチル基が挙げられる。またこれらはフッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基もしくはアミノ基で置換されていてもよい。炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位としては、例えば、フマル酸ジメチル残基単位、フマル酸ジエチル残基単位が挙げられる。また、これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0020】
具体的なフマル酸ジエステル系樹脂としては、例えば、フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体等が挙げられる。
【0021】
フマル酸ジエステル系樹脂中の共重合組成の配合割合は、光学薄膜とした際の位相差特性や強度が優れたものとなることからフマル酸ジイソプロピル残基単位が50〜99モル%及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位1〜50モル%が好ましく、位相差特性や強度がより優れたものとなることからフマル酸ジイソプロピル残基単位60〜95モル%及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位5〜40モル%がさらに好ましい。
【0022】
フマル酸ジエステル系樹脂は、本発明の範囲を超えない限り、他の単量体残基単位を含有していてもよく、他の単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基単位、α−メチルスチレン残基単位等のスチレン類残基単位;(メタ)アクリル酸残基単位;(メタ)アクリル酸メチル残基単位、(メタ)アクリル酸エチル残基単位、(メタ)アクリル酸ブチル残基単位等の(メタ)アクリル酸エステル類残基単位;酢酸ビニル残基単位、プロピオン酸ビニル残基単位等のビニルエステル類残基単位;アクリロニトリル残基単位;メタクリロニトリル残基単位;メチルビニルエーテル残基単位、エチルビニルエーテル残基単位、ブチルビニルエーテル残基単位等のビニルエーテル残基単位;N−メチルマレイミド残基単位、N−シクロヘキシルマレイミド残基単位、N−フェニルマレイミド残基単位等のN−置換マレイミド類残基単位;エチレン残基単位、プロピレン残基単位等のオレフィン類残基単位;フマル酸ジn−ブチル残基単位、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基単位等の前記フマル酸ジエステル残基単位以外のフマル酸ジエステル類残基単位等より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0023】
フマル酸ジエステル系樹脂は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量が50,000〜250,000であることが好ましい。
【0024】
フマル酸ジエステル系樹脂の製造方法としては、該フマル酸ジエステル系樹脂が得られる限り如何なる方法により製造してもよく、例えば、フマル酸ジイソプロピルと炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステルをラジカル重合を行なうこと等により製造することができる。
【0025】
前記ラジカル重合は公知の重合方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれも採用可能である。
【0026】
ラジカル重合を行なう際の重合触媒としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドt−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0027】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も用いることができる。
【0028】
ラジカル重合を行なう際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には30〜150℃の範囲で行なうことが好ましい。
【0029】
本発明の光学薄膜が含有する負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子は、光学異方性を有する粒子として負の複屈折性を有し、針状又は紡錘状の粒子であり、例えば、カルサイトやアラゴナイトなどの炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ストロンチウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン等の鉱物;セラミックス等の無機化合物を挙げることができ、その中でも特に炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン等が好ましく、これらの粒子は1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
該粒子の形状は短軸径と長軸径の比(アスペクト比)が1.5以上であることが好ましく、3以上であることがさらに好ましい。また、該粒子の長軸径の平均寸法が50〜400nmであることが好ましく、50〜300nmであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の光学薄膜における負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子は、フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、5.3〜25重量部である。5.3重量部未満であると、薄膜の位相差性能の向上効果が十分ではなく、25重量部を超えると、光学薄膜の光線透過率が大きく損なわれる。10〜25重量部であることが好ましい。
【0032】
本発明の光学薄膜は、膜面内の直交する2つの軸をx軸、y軸とし、これと直交する面外方向をz軸とした場合のそれぞれの屈折率(nx、ny、nz)の関係がnz>nx≧nyまたはnz>ny≧nxの関係にあり、薄膜面外の複屈折として下記式1により示される薄膜の面外複屈折(ΔP)の絶対値が0.0060以上で、波長分散性として薄膜に対する斜め40度方向からの入射光としてそれぞれ450nm、550nmの下記式2により示される面外位相差(Rth)の比(R450/R550)が1.1以下である。
【0033】
ΔP=((nx+ny)/2−nz) (式1)
Rth=ΔP×d (式2)
(式中、dは光学薄膜の厚さを示す。)
これより、本発明の光学薄膜は通常の40〜80μm程度のフィルムと比べてより薄膜において高い面外位相差を有する。
【0034】
本発明の光学薄膜は、式2にて示される波長550nmで測定した面外位相差(Rth)は光学薄膜の厚さ1μmあたり−6nm以上を発現する。
【0035】
本発明の光学薄膜の厚さは、塗工による薄膜形成とするため、20μm以下が好ましく、1〜20μmがさらに好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
【0036】
本発明の光学薄膜は、光学損失を抑制するため、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の光学薄膜は、負の複屈折性を示す光学異方性粒子の分散安定性を高め、製膜後の該粒子と樹脂との親和性を高めるために、界面活性剤などの分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸塩、リン酸エステル系化合物、リン酸エステル塩系化合物、カルボン酸系化合物、カルボン酸塩系化合物、アミン系化合物、アミン塩系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、アルキルアンモニウム、エポキシ樹脂、ウレタン等が挙げられ、必要に応じてこれらの1種以上を含有することが好ましく、該粒子100重量部あたり0.5〜200重量部含有することが好ましく、2〜100重量部含有することがさらに好ましい。分散剤を含有させる方法としては、例えば、該粒子を含有する溶液スラリー中に分散剤を添加して攪拌混合する方法や該粒子と樹脂とを含有する溶液に分散剤を添加して攪拌混合する方法等を挙げることができる。
【0038】
本発明の光学薄膜は、コーティング製膜の際又は光学薄膜自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤、紫外線安定剤を含有してもよい。該酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これらの酸化防止剤は1種または2種以上を併用しても良い。特に、相乗的な酸化防止作用を向上させるためにヒンダード系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用することが好ましく、例えば、ヒンダード系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部の比率で含有し、フマル酸ジエステル系樹脂100重量部当たり、0.01〜10重量部が好ましく、0.5〜1重量部添加することがさらに好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエート等が挙げられる。
【0039】
本発明の光学薄膜は、光学特性や力学的性質を操作する目的で可塑剤を含有してもよい。可塑剤は、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤等が挙げられ、これら可塑剤はそれぞれ単独または併用してもよい。
【0040】
本発明の光学薄膜は、発明の主旨を逸脱しない範囲において、その他高分子、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。
【0041】
本発明の光学薄膜の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、溶液コーティング法、溶融コーティング法等の方法により製造することができる。
【0042】
溶液コーティング法は、例えば、予め負の複屈折性を示す光学異方性の針状または紡錘状の粒子を溶剤中に分散させたものにフマル酸ジエステル系樹脂を添加して溶解せしめた溶液(ドープ液)を支持基材上に流延した後、加熱等により溶剤を除去して光学薄膜を形成する方法である。その際、ドープを支持基材上に流延する方法としては、例えば、Tダイ法、グラビアロール法、ドクターブレード法、バーコート法、ロールコーター法、リップコーター法等を用いることができる。特に工業的にはダイからドープ液をベルト状又はドラム状の支持基材上に連続して押出して塗工するTダイ法や凹凸パターンロールにドープをすくい上げて支持基材側へ転写するグラビアロール法等が最も一般的に行なわれている。
【0043】
用いられる支持基材としては、例えば、ガラス基板、積層された偏光板を構成するトリアセチルセルロース組成物などから構成されるTAC系フィルム、アクリル樹脂フィルム、環状オレフィン系フィルム、PP系フィルム等の偏光子の保護および位相差付与を目的とするフィルム等があり、ここに挙げたものに限定されず、広く塗工用の支持基材として用いることができる。また、本発明の光学薄膜と支持基材との十分な密着強度を得るために粘接着剤処理、基材表面処理などを施してもよく、公知の材料、手法を利用することができる。
【0044】
この際の光学薄膜の塗布厚さは乾燥後の状態において20μm以下が好ましく、1〜20μmがさらに好ましく、5〜20μmが特に好ましい。
【0045】
溶融コーティング法は、負の複屈折性を示す光学異方性の針状または紡錘状の粒子とフマル酸ジエステル系樹脂を含有するドープ液を樹脂用の押出し成形機内で加熱し剪断を加えることで溶融せしめ、Tダイなどの狭い吐出口から押出された溶融物を支持基材上に薄膜状コーティングし、ロールやエアー等で冷却しながら連続して巻き取る成形方法である。その際に用いられる支持基材や塗布厚さは、上の記載と同じである。
【0046】
本発明の光学薄膜の製造方法で使用するフマル酸ジエステル系樹脂と負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子は、フマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子5.3〜25重量部である。5.3重量部未満であると、薄膜の位相差性能の向上効果が十分ではなく、25重量部を超えると、光学薄膜の光線透過率が大きく損なわれる。
【0047】
本発明の光学薄膜は偏光板に直接コーティングして一体化したり、予めコーティングした支持基材を偏光板と積層することで一体化した偏光板積層体として用いることもできる。
【0048】
本発明の光学薄膜は、偏光板との積層体として液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、輝度向上フィルムなどにも有用である。更に本発明により得られる光学薄膜は他の位相差フィルムとの積層をすることもできる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の光学薄膜は薄膜にて高い面外位相差を発現し、かつ位相差の波長依存性が小さいことから、液晶ディスプレイの光学補償向けとして有用である。
【実施例】
【0050】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0051】
以下、実施例の評価・測定に用いた方法を示す。
【0052】
<数平均分子量の測定>
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名C0−8011)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
【0053】
<フマル酸ジエステル系樹脂の組成の確認>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(1H−NMR)スペクトル分析より導出した。
【0054】
<溶液粘度の測定>
回転型粘度計(東機産業製、商品名TV−20型粘度計)を用いて、25℃にて測定した。
【0055】
<光学薄膜の光線透過率の測定>
JIS−K−7361−1に準拠してヘーズメーター(日本電色工業製、商品名NDH5000)により測定した。
【0056】
<光学薄膜の複屈折および位相差量の測定>
全自動複屈折計(王子計測器製、商品名KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
【0057】
ここで光学薄膜の複屈折は、製膜方向を基準として薄膜面内の2つの軸方向の屈折率をそれぞれ基準軸を遅相軸nx、これと直交する進相軸ny、薄膜厚さ方向の軸をnz、薄膜厚さをdとした場合、薄膜面内の複屈折Δnとして表される面内の平均屈折率の差の絶対値|nx−ny|として表される。薄膜の面内位相差(Re)は(nx−ny)×d、薄膜の面外複屈折(ΔP)は((nx+ny)/2−nz)、薄膜の面外位相差(Rth)は((nx+ny)/2−nz)×dとして表される。
【0058】
位相差の波長依存性は光学薄膜に対する斜め40度方向からの入射光としてそれぞれ450nm、550nmの位相差Rthの比率(R450/R550)として表される。
【0059】
合成例1(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた1Lオートクレーブにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)2g、水600g、フマル酸ジイソプロピル365g、フマル酸ジエチル35gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート3gを投入し、窒素バブリングを1時間行った後、400rpmで攪拌しながら45℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)を得た(収率:65%)。
【0060】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は132,000であった。また、1H−NMR測定により、樹脂組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%)であった。
【0061】
合成例2(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた1Lオートクレーブにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)2g、水600g、フマル酸ジイソプロピル330g、フマル酸ジエチル70gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート3gを投入し、窒素バブリングを1時間行った後、400rpmで攪拌しながら45℃で36時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジエチル共重合体)を得た(収率:75%)。
【0062】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は120,000であった。また、1H−NMR測定により、樹脂組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=84/16(モル%)であった。
【0063】
合成例3(フマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル単独重合体)の合成)
攪拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えた1Lオートクレーブにヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)1.6g、水520g、フマル酸ジイソプロピル280gおよび重合開始剤としてt−ブチルパーオキシピバレート2gを投入し、窒素バブリングを1時間行った後、400rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル単独重合体)を得た(収率:75%)。
【0064】
得られたフマル酸ジエステル系樹脂の数平均分子量は120,000であった。
【0065】
実施例1
負の複屈折性を示す炭酸ストロンチウムの紡錘状粒子(平均長軸径250nm、アスペクト比3.5)3.5g、分散剤としてステアリン酸0.21g、トルエンとMEKの混合溶剤(トルエン/MEK=60/40重量比)31.5gを含む混合物スラリーを薄膜旋回型ミキサー(プライミクス社製、商品名:フィルミクス56−50)を用いて攪拌混合することで炭酸ストロンチウム粒子を分散させた溶液を調製した。
【0066】
この炭酸ストロンチウム分散溶液に合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))19.6gとトルエンとMEKの混合溶剤(トルエン/MEK=60/40重量比)125.8gを加えて、ホモジナイザー(プライミクス社製、TK−ロボミクス)で溶解、分散させた溶液(ドープ液)を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム17.8重量部、分散剤1.07重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は700cPであった。
【0067】
ドープ液をスピンコーターを用いて50μmガラス基板上へ15μm厚の光学薄膜を製膜し、直ちに130℃にて10分間送風乾燥を行なった。得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00667(絶対値:0.00667)、面外位相差(Rth)は−100nmであった。
【0068】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46978、ny=1.46978、nz=1.47644であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.01であった。
【0069】
実施例2
実施例1において負の複屈折性を示す炭酸ストロンチウムの紡錘状粒子(平均長軸径250nm、アスペクト比3.5)4.67g、分散剤としてステアリン酸0.56g、合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))18.7gとしたドープ液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム25重量部、分散剤3重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)以外は同様にして評価を実施した。このドープ液の溶液粘度は870cPであった。
【0070】
このドープ液をスピンコーター(ミカサ製、商品名:1H−DX)を用いて50μmガラス基板上へ15μm厚の光学薄膜を製膜し、直ちに130℃にて10分間送風乾燥を行なった。得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00760(絶対値:0.00760)、面外位相差(Rth)は−114nmであった。
【0071】
光学薄膜の屈折率はnx=1.47847、ny=1.47847、nz=1.48607であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.01であった。
【0072】
実施例3
実施例1において合成例2のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=84/16(モル%))、数平均分子量120,000とした以外は同様にしてドープ液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム17.86重量部、分散剤1.07重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は540cPであった。
【0073】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0074】
得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00701(絶対値:0.00701)、面外位相差(Rth)は−105nmであった。
【0075】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46940、ny=1.46940、nz=1.47720であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.01であった。
【0076】
実施例4
実施例3において分散剤としてさらに(BYK−Chemie社製、商品名:DisperbyK−140)を0.35g追加してドープ液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム17.86重量部、分散剤としてステアリン酸1.07重量部、DisperbyK−140を1.79重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)以外は同様にして評価を実施した。このドープ液の溶液粘度は550cPであった。
【0077】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0078】
得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00630(絶対値:0.00630)、面外位相差(Rth)は−95nmであった。
【0079】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46889、ny=1.46889、nz=1.47522であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.02であった。
【0080】
比較例1
フマル酸ジエステル系樹脂20gと溶剤133.8gのみからなるドープ溶液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は670cPであった。
【0081】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0082】
得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00520(絶対値:0.00520)と低く、面外位相差(Rth)は−78nmであった。
【0083】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46827、ny=1.46827、nz=1.47347であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.03であった。
【0084】
比較例2
比較例1のドープ溶液中の固形分組成として合成例3のフマル酸ジエステル系樹脂20gと溶剤133.8gを含有するドープ溶液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は1200cPであった。
【0085】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0086】
得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00270(絶対値:0.00270)と低く、面外位相差(Rth)は−41nmであった。
【0087】
光学薄膜の屈折率はnx=1.46909、ny=1.46909、nz=1.47182であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.03であった。
【0088】
比較例3
実施例1において合成例3のフマル酸ジエステル系樹脂を用いた以外は同様にしてドープ液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム17.86重量部、分散剤1.07重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は1350cPであった。
【0089】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0090】
得られた光学薄膜の光線透過率は91%、面内位相差(Re)は0nm、面外複屈折(ΔP)は−0.00570(絶対値:0.00570)と低く、面外位相差(Rth)は−87nmであった。
【0091】
このときの屈折率はnx=1.47007、ny=1.47007、nz=1.47587であり、その関係はnz>nx=nyであり、R450/R550=1.03であった。
【0092】
比較例4
実施例1において炭酸ストロンチウム7.5g、分散剤0.42g、合成例1のフマル酸ジエステル系樹脂(フマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=91/9(モル%))を17.1gとした以外は同様にしてドープ液を調製した(乾燥後の固形分組成がフマル酸ジエステル系樹脂100重量部、炭酸ストロンチウム43.86重量部、分散剤2.46重量部/溶液中の固形分濃度は13重量%)。このドープ液の溶液粘度は1500cPであった。
【0093】
このドープ液を用いて実施例1と同様にして光学薄膜15μmを形成した。
【0094】
得られた光学薄膜の光線透過率は67%と著しく低く位相差特性は評価できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジイソプロピル残基単位及び炭素数1または2のアルキル基を有するフマル酸ジエステル残基単位を含むフマル酸ジエステル系樹脂100重量部に対して、負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子5.3〜25重量部を含有し、膜面内の直交する2つの軸をx軸、y軸とし、これと直交する面外方向をz軸とした場合のそれぞれの屈折率(nx、ny、nz)の関係がnz>nx≧nyまたはnz>ny≧nxの関係にあり、膜面外の複屈折として下記式1により示される薄膜の面外複屈折(ΔP)の絶対値が0.0060以上で、波長分散性として薄膜に対する斜め40度方向からの入射光としてそれぞれ450nm、550nmの下記式2により示される面外位相差(Rth)の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学薄膜。
ΔP=((nx+ny)/2−nz) (式1)
Rth=ΔP×d (式2)
(式中、dは光学薄膜の厚さを示す。)
【請求項2】
分散剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学薄膜。
【請求項3】
負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子が、該粒子の短軸径と長軸径の比が1.5以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学薄膜。
【請求項4】
負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子が、該粒子の長軸径の平均寸法が50〜400nmであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の光学薄膜。
【請求項5】
負の複屈折性を示す針状または紡錘状の粒子が、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト又は炭酸マンガンであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の光学薄膜。
【請求項6】
光学薄膜の厚さが20μm以下であり、全光線透過率が85%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載の光学薄膜。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載の光学薄膜と偏光板が積層されており、一体化されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載の光学薄膜と偏光板およびその他の位相差フィルムが積層されており、一体化されていることを特徴とする積層フィルム。

【公開番号】特開2012−132945(P2012−132945A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282390(P2010−282390)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】