説明

光学表示装置

【課題】マスク層における光の漏れや複数のマスク層のカブリを防止することに効果的な光学表示装置を提供すること。
【解決手段】所定の意匠パターンを有しそれぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする第1及び第2のマスク層21,22を第2の透明基板18上に成膜した光学構造体に対してそれらマスク層21,22に対応した波長域に発光強度のピークを有する第1及び第2のLED13、14を配置した。第1及び第2のLED13、14の背後にはミラー15を配置した。更に第2のマスク層22と第1及び第2のLED13、14の間には第1及び第2のマスク層21,22の重複した意匠パターンの成膜部分に対応するように再帰反射層25を配置し、再帰反射層25によって反射させた可視光をミラー15によって再度反射させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の薄膜層から構成され背後から光を照射することで意匠パターンを中抜きした文字表示を行う光学構造体を備えた光学表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば携帯電話、パソコン、家電製品等の電化製品の表示面には文字、記号あるいは図形等の意匠パターンが印刷された所定の波長域の光のみを透過させる光学特性のマスク層を有する光学フィルムが配設され、可視光光源としてのバックライトで照らし出されたそれら文字等を視認させることでユーザーに機能を説明したりなんらかの入力を促すようになっている。例えば携帯電話では数字の印刷されたテンキーは基本的に電話番号の入力用のキーであり、バックライトで照らし出されたテンキーを押動するとその数字が電話番号として入力されることとなる。このような携帯電話の一例として特許文献1を挙げる。
このような意匠パターンのマスク層を複数用意して重複配置(交錯)させ、異なる色のバックライトを使用することで異なる意匠パターンを表示させる光学表示装置に関する技術が提供されている。そのような技術の一例として特許文献2を挙げる。特許文献2では異なる2種類の光源として赤色LEDと青色LEDを使用して赤色と青色のそれぞれの波長域に透過特性を有するマスク層を使用して赤色LEDと青色LEDのいずれかを点灯させて赤色あるいは青色の意匠パターンを表示させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−111836号公報
【特許文献2】特開2008−164877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、異なる意匠パターンを交錯させて配置する場合にはいくつかの問題があった。例えば、特許文献2のような赤色及び青色の意匠パターンを目視させる2層のマスク層(第1及び第2のマスク層)を考える。図4のように第1のマスク層の特性は青色の波長域の照射光を特異的に透過させ、逆に赤色の波長域の照射光は特異的に透過させないようになる。第2のマスク層ではその逆の特性となる。これらの特性の2層のマスク層を重ね合わせ、まず、光源として青色を照射光とすると第1のマスク層は透過するが、第2のマスク層では青色は意匠パターンに応じて遮蔽される。つまり、第2のマスク層の意匠パターンが目視できることとなる。一方、光源として赤色の波長光を照射光とすると逆に第1のマスク層のパターンが目視できることとなる。
ここで、第1のマスク層の特性では青色の照射光の透過率が100%近くとなり、マスクパターンの有無による光量差がなく、赤色の照射光の透過率が0%近くとなるのが理想である(第2のマスク層ではこの逆)。しかし、実際には染料などの吸収材料では波長の違いに応じてマスク層にそれほど明瞭に透過率の差を設けることは困難である。そのため、次のような問題が生じている。
例えば図5のように第1のマスク層で青色の照射光の透過を優先するように設計すると、赤色の透過率は0%とはならないため、赤色の照射光を照射させた場合に第1のマスク層から光が漏れることとなるためコントラストが弱くなって明視性や可読性が悪くなってしまう。
【0005】
一方、図6のように第1のマスク層を赤色の照射光の透過率が低くなるように設計すると(そのため一般には層を厚めに構成する)第1のマスク層から光が漏れることはなくなるが、青色の照射光に対する透過率が下がってしまうこととなり、青色を照射光とした場合に吸収が生じてしまい第1のマスク層が目視できることになる。すると、本来青色の照射光で意匠パターンが目視できることを前提としている第2のマスク層の意匠パターンと第1のマスク層とのカブリ(意匠パターンの重複)が生じてしまうこととなってしまう。
今ここで、図5及び図6で、第1のマスク層において、実際に第1のマスク層が青色の照射光で目視できない領域のしきい値を第1の飽和レベルとし、一方実際に光の漏れを感じない領域のしきい値をここでは第2の飽和レベルとする。(尚、マスク層を通過しない光(マスクパターンの無い領域を通る光)は100%の透過率であるため第1の飽和レベル以上にある。)少なくとも第1のマスク層は青色の照射光の透過率が100%とはいわないまでも第1の飽和レベル以上や第1の飽和レベルに近くなり、赤色の照射光の透過率が0%とはいわないまでも第2の飽和レベル以下や第2の飽和レベルに近くなればマスクの特性はより改善されることとなる。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、マスク層における光の漏れや複数のマスク層のカブリを防止することに効果的な光学表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1の発明では、記号あるいは図形等からなる意匠パターンをネガあるいはポジのいずれかの関係となるように中抜きしたそれぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする複数のマスク層を1枚あるいは複数枚の透明基板上に成膜した光学構造体と、複数の前記マスク層に対応した波長域に発光強度のピークを有する照射光を発生させる複数種類の可視光光源とを備えた光学表示装置において、複数の前記マスク層と前記可視光光源の間であって複数の前記マスク層の重複した前記意匠パターンの成膜部分には再帰反射層を配置するとともに、前記再帰反射層によって反射させた可視光を前記マスク層方向に再び反射させる反射手段とを備えるようにしたことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加えて、前記再帰反射層を前記透明基板上に成膜し前記光学構造体の一部としたことをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記再帰反射層と最も可視光光源側に配置された前記マスク層の間には拡散層が配置されていることをその要旨とする。
また、請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、前記マスク層の外光側には拡散層が配置されていることをその要旨とする。
また、請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、複数の前記マスク層の上層には外光によって複数の前記マスク層の意匠パターンを透視させない程度の所定の吸収率又は所定の反射率を備え、なおかつ前記可視光光源からの照射光を透過させる所定の透過率を備えた遮蔽層が配置されていることをその要旨とする。
【0007】
このような構成の光学表示装置では、各マスク層に対応する可視光光源の照射光は各マスク層の意匠パターンに応じて透過されあるいは透過されないことで可視光光源に応じて各マスク層の意匠パターンを別個に外方から看者(利用者)に目視させる。この際に複数のマスク層の重複した意匠パターンの成膜部分は各パターンにおいては光が遮蔽される部分となる。この重複した意匠パターンの成膜部分に再帰反射層を配置することで不必要に透過する光を遮断し、吸収されるべき光が反射され可視光光源方向に戻ってくることとなる。そして、それらの光は例えば可視光光源を配列したプリント基板からの反射手段によってマスク層方向に再指向させられることとなる。つまり、本来マスク層によって吸収されるべき光を反射させることで意匠パターンを抜けて意匠パターンを浮かび上がらせるための光に加算することとなるため、結果として光量が増えることとなる。イメージとしては光量全体の増加によってマスクパターンの有無による光量差が識別できなくなり、図5もしくは6における第1の飽和レベルが下がることとなり、複数のマスク層のカブリがわかりにくくなるわけである。更に、意匠パターンがポジ(文字等の記号が光で表示されるパターン)となる場合には意匠パターンの成膜部分はかなりの面積となるため、この領域の光が反射光に加算されることは光量の増加に大きく貢献し省エネ効果も期待できる。また再帰反射層は光を反射してほとんど透過しないためマスク層の濃度を厚く(濃く)しなくても遮蔽がし易くなり第2の飽和レベル以下に透過光量を下げることができる。
【0008】
ここに「再帰反射層」は複数のマスク層の重複した意匠パターン位置以外の位置に配置してはならない。その位置に配置された再帰反射層によっていずれかの可視光光源の照射光の意匠パターンに応じた透過が阻害されてしまうからである。重複している意匠パターンのすべての領域に再帰反射層を配置する必要はない。再帰反射層は透明基板上に成膜され光学構造体の一部とされることが取り扱い上有利である。
「反射手段」とは再帰反射層と対面して光をマスク層方向に再指向させられる手段であれば特に限定されるものではない。可視光光源自体に設けるようにしても、可視光光源の周囲に設けるようにしてもよい。
【0009】
再帰反射層と最も可視光光源側に配置されたマスク層の間には可視光光源からの可視光を乱反射させる拡散層が配置されていることが好ましい。白熱電球やLEDなどの可視光光源は一般に点光源であるため、これによって可視光光源の照射光を分散させて透過光をむらなく均質化することが可能となる。
また、前記マスク層の外光側には拡散層が配置されていることが好ましい。このような構成であれば、光の拡散によってマスク層の意匠パターンにカブリがある場合にこれを目視させないような効果を与えることができる。また、外光によってマスク層の意匠パターンを見えにくくする効果もある。
また、複数のマスク層の上層には外光によって複数のマスク層の意匠パターンを透視させない程度の所定の吸収率又は所定の反射率を備え、なおかつ可視光光源からの照射光を透過させる所定の透過率を備えた遮蔽層が配置されていることが好ましい。これによって、光学表示装置において可視光光源が点灯しておらず外光のみが与えられている状態でマスク層の意匠パターンを透視させず、なおかつ可視光光源が点灯した場合には可視光光源の種類に応じた意匠パターンを遮蔽層を透過して目視させることができる。遮蔽層として、より具体的には、外光を吸収することで明度が低くなって外光による複数のマスク層の意匠パターンを透視させないような濃色を呈する濃色層であり、濃色層における所定の透過率を吸収率よりも大きく設定したものが考えられる。
また、外光を反射することで明度が高くなって外光による複数のマスク層の意匠パターンを透視させないような淡色を呈する淡色層であり、淡色層における所定の透過率を反射率よりも大きく設定したものが考えられる。
ここに、濃色層や淡色層とは特に明度の高低をいい、彩度のあるなしは問わない。濃色の代表は黒色であり淡色の代表は白色であるが、どの程度で黒であり白であるかは周囲の色や周囲の光量によって変化する相対的な概念であるため、明度0%の黒や明度100%の状態のみを意味するものではない。
【0010】
ここに、本発明のマスク層、再帰反射層、遮蔽層は数十nm〜数百μmの厚さの膜体であって、1枚あるいは複数枚の透明基板上に適宜単独あるいは重複状に成膜される。
これらの層は誘電体多層膜によって構成することが考えられる。誘電体薄膜層としては一般にはそれ自体が多層膜構造を取ることとなる。誘電体薄膜の膜数、膜素材、膜厚を設計することによって透過光(つまり反射光)を自由に制御することが可能である。多層膜の各構成膜層は金属もしくは金属窒化物もしくは金属酸化物もしくは金属フッ化物からなる膜素材であって、例えばCr(クロム)、Ni(ニッケル)、Si(シリコン)、Si3N4(窒化シリコン)TiO2(二酸化チタン)、Ta25(五酸化タンタル)、SiO2(酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)、CaF2(フッ化カルシウム)、ZrO2(酸化ジルコニュウム)らが挙げられる。
本発明では構成されるマスク層の数は特に限定されるものではない。所望の波長に対する反射性能又は透過性能を発現させるために化合物を選択し、組み合わせて誘電体光学膜を構成することが可能である。誘電体薄膜層の成膜方法に特に限定的な意味はないが一般的には蒸着法やスパッタリング法で成膜されることが好ましい。
また、これらの層はバインダー樹脂中に微粒子を分散させ所定の成膜方法(印刷、スピンコート、ディッピング、塗布、染色等)で成膜することが考えられる。バインダー樹脂としては実質的に透明であって、照射光を大きく変化させないものであれば特に限定されるものではない。例えばポリエステル、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。微粒子素材としてはシリカ粒子、顔料、染料あるいは蛍光剤等が具体的に挙げられる。
【0011】
本発明に使用される透明基板は一般にその表面に成膜可能な材質で、また可視光光源からの光を透過させる特性の材質であれば特に限定されるものではなく、例えばガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニル、ABS樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、NBR樹脂、AS樹脂等が一例として挙げられ、着色、装飾されたものでも可視光光源からの光の透過光量が確保できれば問題はない。
本発明は例えば、家電製品、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistants)のような電化製品の表示画面に応用することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
上記各請求項の発明では、重複したマスク層の意匠パターンの成膜部分に配置される再帰反射層によって吸収されるべき照射光を反射して意匠パターンを浮かび上がらせるための光に加算するようにしているため、意匠パターンのコントラストの向上や複数のマスク層のカブリを防止することに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例の光学表示装置をファクシミリ装置に応用した場合の説明図。
【図2】実施例の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【図3】他の実施例の光学表示装置の構造を模式的に説明する説明図。
【図4】従来の光学表示装置におけるマスク層の光学特性を説明する説明図。
【図5】マスク層の光学特性と当該マスク層を本来は透過させたくない光が透過してしまう状態を説明する説明図。
【図6】マスク層の光学特性と当該マスク層に本来は吸収させたくない光が吸収されてしまう状態を説明する説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の光学表示装置の実施例について図面に従って説明する。
(実施例1)
図1に示すように、光学表示装置10は例えば電化製品であるファクシミリ装置11に搭載されるものとする。光学表示装置10は光学フィルム12とその背後に配置された可視光光源としての青色の照射光を発光する第1のLED13(λtyp:470nm)と赤色の照射光を発光する第2のLED14(λtyp:630nm)と反射手段としてのミラー15とより構成されている。第1及び第2のLED13、14は意匠パターンに対応した位置に過不足なく照明できるように適度な間隔で複数個配置されている。光学表示装置10は第1及び第2のLED13、14の点灯状態を変更することで待機時に表示される「SLEEP」の文字(意匠パターンP1)と操作可能状態で表示される「START」の文字(意匠パターンP2)の両方の意匠パターンP1,P2を選択的に表示させることができる。
【0015】
次に、このような光学表示装置10のより詳しい構造について説明する。
光学フィルム12は図2に示すように2枚の第1及び第2の透明基板17,18を重複させた2枚構成とされている。第1の透明基板17が上層(外側)に配置されている。第1の透明基板17の下面には遮蔽層19が形成されている。遮蔽層19は特定の意匠パターンが形成されているわけではなく均一に第1の透明基板17に対して延設される膜体である。本実施例1では遮蔽層19は印刷によって成膜されている。
第2の透明基板18の上面には第1のマスク層21が形成され、下面には第2のマスク層22が形成されている。本実施例では第1及び第2のマスク層21,22は印刷によって成膜されている。尚、図2においては実際には第1及び第2のマスク層21,22が成膜されていない部分に空白の空間が存在するわけではなく、光の透過・遮蔽関係を模式的に説明するために空間があるような図示としているものである。
第1のマスク層21は透過−吸収特性を示す表1のグラフにおいて(1)の光学特性を示し、第2のマスク層22は表1のグラフ(2)の光学特性を示し、遮蔽層19は表1のグラフ(3)の光学特性を示す。
【0016】
第2のマスク層22の下面には拡散層24が配置されている。拡散層24は特定の意匠パターンが形成されているわけではなく均一に第2の透明基板18に対して第1及び第2のマスク層21,22を覆うように延設される膜体である。本実施例1では拡散層24は白インキを塗布することによって成膜されている。拡散層24の下面には再帰反射層25が配置されている。再帰反射層25は第1及び第2のマスク層21,22の意匠パターンP1,P2の重複した成膜部分に対応している。本実施例1では再帰反射層25は蒸着によって成膜されている。第1及び第2のLED13、14の背後にはミラー15が再帰反射層25と正対するように配置されている。
表2は拡散層24に使用可能なインキを比較例と共に示したものである。ここでは十分な濁りと拡散透過率を示した白インキCを採用した。再帰反射層25は表3のグラフ(1)の光学特性を示す。尚、表1及び表3において各層の光学特性は可視光域のみに特化して記入されている。
【0017】
表1のグラフ(1)に示すように、第1のマスク層21は青色を中心とした波長群である450nm〜500nm辺りの光に対しては470nm付近をピークに平均80%程度の透過率に設定され、赤色を中心とした波長群である600nm〜750nm付近の光に対しては平均2%程度の透過率(平均98%程度の吸収率)に設定されている。つまり、第1のマスク層21は青色に対する透過率が極めて高く、赤色付近の可視光を吸収するため、この第1のマスク層21を単独目視した場合には青色を呈することとなる。
一方、表1のグラフ(2)に示すように、第2のマスク層22は青色を中心とした波長群である450nm〜500nm辺りの光に対しては平均5%以下の透過率(平均95%程度の吸収率)に設定され、赤色を中心とした波長群である600nm〜750nmの光に対しては平均90%近くの非常に高い透過率に設定されている。つまり、第2のマスク層22は赤色に対する透過率が極めて高く、青色付近の可視光を吸収するため、この第2のマスク層22を単独目視した場合には赤色を呈することとなる。
【0018】
また、表1のグラフ(3)に示すように、遮蔽層19は青色を中心とした波長群である400nm〜500nm辺りの光に対しては440nm付近をピークに平均50%程度の透過率に設定され、赤色を中心とした波長群である650nm〜750nm付近の光に対しては平均70%程度の透過率である。そして、中間の530〜600nm付近では平均20%以下の透過率(平均80%程度の吸収率)に設定されている。
つまり、遮蔽層19は青色に対しても赤色に対しても透過性能を十分備えているため、第1及び第2のLED13、14が点灯された場合には第1のマスク層21の意匠パターンP1を浮かび上がらせる青色の照射光として、あるいは第2のマスク層22の意匠パターンP2を浮かび上がらせる赤色の照射光として透過していずれも上層側から目視できることとなる。また、第1及び第2のマスク層21,22の吸収特性を合成すると紫色系となり、更にここに遮蔽層19の吸収特性、主として530〜600nm付近の緑色系の吸収特性を合成すると遮蔽層19をデフォルト状態で目視した場合にはほぼ黒に近い非常に濃色の背景から浮かび上がることとなる。本実施例1では遮蔽層19の平均透過率は約25%に設定したため第1及び第2のマスク層21,22の重なった部分の平均透過率はこれ以下とされる。
【0019】
また、表3のグラフ(1)に示すように、再帰反射層25は青色を中心とした波長群である400nm〜500nm辺りの光に対しては平均97%程度の拡散反射率に設定され、赤色を中心とした波長群である600nm〜700nm付近の光に対しても平均97%程度の拡散反射率である。そして、中間の500〜580nm付近では平均5%以下の拡散反射率に設定されている。つまり、再帰反射層25は青色の照射光も赤色の照射光もいずれも極めて高い拡散反射率で第1及び第2のLED13、14方向に反射させることとなる。この再帰反射層25で反射された光はミラー15によって再び反射されることとなる。ミラー15は特に特性は表示しないが、すべての可視光に対して100%近い反射率を有する蒸着膜が成膜されている。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
このような構成とすることで、以下のような作用・効果が奏される。
(1)第1及び第2のLED13、14のいずれかが点灯された場合には、第1のマスク層21の意匠パターンP1が青色で浮かび上がる、あるいは第2のマスク層22の意匠パターンP2が赤色で浮かび上がることとなり、いずれか一方の意匠パターンのみを目視させることができる。
(2)第1及び第2のLED13、14のいずれも点灯されない場合においては遮蔽層19によって第1及び第2のマスク層21,22が遮蔽され、外光によって意匠パターンP1,P2が目視されにくくなっている。一方、遮蔽層19は第1及び第2のLED13、14のいずれかが点灯された場合に意匠パターンP1,P2の目視を阻害することはない。
(3)第1及び第2のマスク層21,22によって吸収されるはずの青色光と赤色光は再帰反射層25によって反射され、ミラー15によって再び反射されることで再帰反射層25以外の第1及び第2のマスク層21,22を透過することとなる。特に本実施例のように意匠パターンP1,P2が文字としてポジで表現される場合には意匠パターンP1,P2の認識のための光量に加算できる光量が多いため意匠パターンのコントラストの向上や複数のマスク層のカブリの防止において有効である。
(4)拡散層24によって第1及び第2のLED13、14の光が分散されるため、意匠パターンP1,P2のコントラストがムラになることがない。
【0024】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・拡散層24を第2のマスク層22と再帰反射層25の間以外の位置に配置するようにしてもよい。特に図3に示すように、第1及び第2のマスク層21,22の上層であることが好ましい。図3では遮蔽層19の下層に配置したが、遮蔽層19の上層であってもよい。このように第1及び第2のマスク層21,22の上層に拡散層24を配置することで意匠パターンP1,P2にカブリが生じるような場合にそれも目視させないようにすることが可能となる。
・上記では説明の簡略化のために2つのマスク層の場合について説明したが、3つ以上のマスク層を有する光学表示装置に応用することも可能である。
・マスク層や光源の波長域は上記に限定されるものではない。
・透明基板15への成膜順序や成膜方法、また、透明基板17,18の枚数は適宜変更可能である。
・遮蔽層19の光学特性は上記に限定されるものではない。例えば表1のグラフ(4)のように可視光域(400〜750nmの範囲)においてフラットな特性、つまり一定した透過率に設定するようにしてもよい。青の照光量と赤の照光量の光量バランスが調整しやすくなる。また、遮蔽層19は蒸着以外に市販品の減光フィルムを用いてもよいし、スモーク色の成型材料でも構わない。また、遮蔽層19を使用せずに光学表示装置10を構成することも可能である。
・再帰反射層25の光学特性は上記に限定されるものではない。例えば表3のグラフ(2)のように可視光域(400〜750nmの範囲)において高い反射率(90%以上)でフラットな特性、つまり一定した透過率に設定するようにしてもよい。このようなフラットな特性であれば可視光光源の特性が上記以外の場合であっても容易に適用することが可能である。
・拡散層24としては上記実施例では表2の白インキCを採用したが、十分な濁りと拡散透過率があれば他のインキ(例えば白インキD)を採用することも可能である。
・遮蔽層19としては上記実施例では濃色(黒色系)としたが、白インキのような淡色系の遮蔽層とすることも可能である。
・照射用の光源はLEDやELなどの単色光源が好ましいが、電球などの光源と薄膜を組み合わせた光源を用いても良く、導光板や拡散板などを使って照射光としても良い。
・反射手段としてのミラー15の形状や配置位置は上記に限定されない。ミラー15の光学特性は上記以外に再帰反射層25と同じ特性とすることも可能である。
・遮蔽層19の上面(例えば第1の透明基板17の上面)に反射層のような他の膜を設けるようにしてもよい。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0025】
10…光学表示装置、13、14…可視光光源としての第1及び第2のLED、15…反射手段としてのミラー、17…第1の透明基板、18…第2の透明基板、21…第1のマスク層、22…第2のマスク層、、25…再帰反射層、P1、P2…意匠パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記号あるいは図形等からなる意匠パターンをネガあるいはポジのいずれかの関係となるように中抜きしたそれぞれ他のマスク層とは異なる波長域を透過領域とする複数のマスク層を1枚あるいは複数枚の透明基板上に成膜した光学構造体と、
複数の前記マスク層に対応した波長域に発光強度のピークを有する照射光を発生させる複数種類の可視光光源とを備えた光学表示装置において、
複数の前記マスク層と前記可視光光源の間であって複数の前記マスク層の重複した前記意匠パターンの成膜部分には再帰反射層を配置するとともに、前記再帰反射層によって反射させた可視光を前記マスク層方向に再び反射させる反射手段とを備えることを特徴とする光学表示装置。
【請求項2】
前記再帰反射層は前記透明基板上に成膜され前記光学構造体の一部とされていることを特徴とする請求項1に記載の光学表示装置。
【請求項3】
前記再帰反射層と最も可視光光源側に配置された前記マスク層の間には拡散層が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学表示装置。
【請求項4】
前記マスク層の外光側には拡散層が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学表示装置。
【請求項5】
複数の前記マスク層の上層には外光によって複数の前記マスク層の意匠パターンを透視させない程度の所定の吸収率又は所定の反射率を備え、なおかつ前記可視光光源からの照射光を透過させる所定の透過率を備えた遮蔽層が配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−159678(P2012−159678A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19114(P2011−19114)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】