説明

光学装置

【課題】非球面レンズを使用せず、低コストで良好な結合効率を得ることができる光学装置を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の光学装置1は、光源30と、光源30から出射された光束を集光するボールレンズ10と、ボールレンズ10の球面収差を補正する光学面20aが設けられた平板状の光学素子20と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで良好な結合効率を得ることができる光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを伝送媒体、半導体レーザを光源として、光通信は広く普及している。光通信において、通信端末からの電気信号は光信号に変換されて送信され、伝送媒体を経て受信された光信号が電気信号に復元される。送信用や中継用の入出力部もしくは受信用の入出力部等は光モジュールとして一体化された光学装置が用いられている。
【0003】
このような光学装置では、光源の半導体レーザと光ファイバを取り付ける受光部との間にコリメートレンズや集光レンズなどの光学素子を用い、高い結合効率で半導体レーザからのビームを光ファイバに結合させる。このような光学装置に適用する目的で、たとえば特許文献1に鏡筒付きレンズの製造方法が開示されている。特許文献1では、集光レンズとして最適な形状にレンズ素材をプレス成形するとともに、光学素子での反射損失を低減するための光学機能膜を設ける製造方法が記載されている。
【0004】
一般的に、半導体レーザの発光部の大きさは数μm程度、伝送媒体である光ファイバのコア径は10μm程度である。したがって、良好な結合効率を得るためには、光学装置の組み立てにおいて、発光部、光ファイバを取り付ける受光部、および必要な光学素子を、正確に位置合わせする必要がある。そこで、光学装置の組み立てを容易にするため、特許文献2のように、コリメートレンズと集光レンズとして球レンズ(ボールレンズ)を基板上に配置した光モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−258084号公報
【特許文献2】特開2002−341189号公報
【特許文献3】特表2006−525889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光源からの発散角が大きいと、ボールレンズの球面収差により集光点のスポット径が大きくなって、光ファイバへの結合効率が低下してしまう。そのため、発散角の大きい光源を用いた光学装置では、コリメートレンズや集光レンズとして、光学面が光軸に回転対称の非球面レンズを用いて球面収差を補正する必要があった。
【0007】
非球面レンズの製作には、ガラス母材を加熱軟化させ、金型を用いプレス成形して、レンズ表面を非球面形状にする工程が必要である。このため、複雑な非球面形状に金型の転写面を精密加工する必要があり、製作コストが高いという問題があった。
【0008】
そこで、特許文献3では、球面レンズ(ボールレンズ)に非球面レンズ用のポリマー樹脂を一体化させた非球面ハイブリッドレンズの製造方法が開示された。しかし、非球面レンズ用にポリマー樹脂を用いた場合は高温、高湿の環境下で、変形、吸湿による焦点ズレが発生するという問題がある。このため、非球面ハイブリッドレンズであっても、高精度な収差・焦点位置などの光学性能と安定性が必要とされる場合は、光学ガラスをプレス成形する必要があるため、製作コストが高いことに変わりなかった。
【0009】
したがって球面収差を補正して良好な結合効率が得られるように、光学ガラスの非球面レンズを使用しなければならず、高温、高湿の環境下でも長期間に亘って高精度で安定な光学装置は高価であった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、特に、低コストで良好な結合効率を得ることができる光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学装置は、光源と、前記光源から出射された光束を集光するボールレンズと、前記ボールレンズの球面収差を補正する光学面が設けられた平板状の光学素子と、を有する、ことを特徴とする。
【0012】
これにより、ボールレンズと球面収差を補正する光学面が設けられた平板状の光学素子とを用いて、球面収差が補正された光学装置を低コストで実現できる。球面収差が補正されているので、光ファイバ等への結合効率を良好にすることができる。
【0013】
したがって、低コストで良好な結合効率を得ることができる。
【0014】
さらに、前記光学素子は回折格子面が設けられた回折型の光学素子であることが好ましい。平板の一方の面に回折格子面を形成することにより、低コストで高精度の球面収差補正が可能になり、また、ポリマー樹脂を用いていないため、高温、高湿の環境下でも安定した光学装置とすることができる。
【0015】
前記光学素子と前記ボールレンズとは空隙を介して対向していることが好適である。こうすれば、光学装置の組み立てにおける位置調整が可能であり、量産性に優れている。
【0016】
また、前記ボールレンズと前記光学素子とを保持する鏡筒を備え、前記ボールレンズは前記鏡筒内に固定され、前記光学素子は前記鏡筒に気密に固定されていることが好ましい。こうすれば、鏡筒付きレンズを用いて気密封止構造の光学装置とすることができるので、長期間に亘って半導体レーザの劣化を防止できる。
【0017】
本発明の光学装置は、光源と、前記光源から出射された光束を平行光にする第1のボールレンズと、前記第1のボールレンズの球面収差を補正する平板状の第1の光学素子と、前記第1の光学素子を透過した前記平行光を集光する第2のボールレンズと、前記第1の光学素子と前記第2のボールレンズとの間に配置されて前記第2のボールレンズの球面収差を補正する平板状の第2の光学素子と、を有することを特徴とする。
【0018】
これにより、ボールレンズと球面収差を補正する平板状の光学素子とを用いて、球面収差が補正された光学装置を低コストで実現できる。また、球面収差が補正されているので、光ファイバ等への結合効率を良好にすることができる。さらに、第1のボールレンズを透過した光束が平行光であるので、ビームスプリッタや光アイソレータの光学装置への挿入を容易にできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学装置によれば、ボールレンズと球面収差を補正する光学面が設けられた平板状の光学素子とを用いて球面収差を補正しているので、低コストで良好な結合効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態の光学装置を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態の光学装置における平板状の光学素子の模式断面図である。
【図3】ボールレンズの球面収差を説明する断面図であり、(a)は球面収差を補正していない焦点位置、(b)は球面収差を補正した焦点位置、を示す模式図である。
【図4】第1の実施形態の光学装置における平板型の光学素子の変形例を示す模式断面図である。
【図5】第2の実施形態の光学装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について図面に沿って説明する。なお、説明が分かりやすいように、図面は寸法を適宜変更している。図1は、第1の実施形態の光学装置1を示す断面図、図2は光学装置1における平板状の光学素子20の模式断面図である。これらの図に示すように、本実施形態における光学装置1は、ボールレンズ10と、平板状の光学素子20と、を含み構成されている。ここで、本明細書における「平板状」とは、たとえば平板面から加工された光学面を有している形状であり、全体として「ほぼ平板に近い形状」を保持している状態である。
【0022】
ボールレンズ10は光学ガラスを球状に加工したレンズである。平板状の光学素子20は図2に示すような回折格子面20aを有する光学ガラス板である。また、光源30は光通信用の光信号を発信する半導体レーザである。図1に示すように、本実施形態ではステンレス鋼を加工した鏡筒40にボールレンズ10と平板状の光学素子20とが固定され、光源30を保持する基板(図示しない)と鏡筒40に形成されている鍔部40aとが溶接接合されて光学装置1を構成している。光学装置1には図示しない光ファイバの端面が接続され、光ファイバの端面に相当する受光部60に向かって光源30からのビームが集光している。
【0023】
ボールレンズ10はどの方向も等価であるため、光軸にレンズの中心が一致するようにすれば、角度ずれ等の心配が無い。また、レンズとしては比較的安価である。このため、受光面積が大きいフォトダイオード等の受光素子側の集光レンズとして使用されている。また、コリメート光を光ファイバに結合する集光レンズとして使用されることも多い。しかしながら、ボールレンズ10は球面であるため、球面収差を無視することができない。
【0024】
図2に平板状の光学素子20の断面を模式図で示す。ボールレンズ10と対向した面に、光軸に回転対称の回折溝が加工されて、この面がボールレンズ10の球面収差を補正する回折格子面20aになっている。光学素子20の他方の面は平板加工面20bである。回折格子面20aはLSI(Large−Scale Integration)やMEMS(Microelectromechanical system)で使用されている微細加工技術によって量産することができるので、ガラスレンズをプレス成形する場合に比べて低コスト化が可能である。また、光学ガラス平板を用いて、その一方の面に回折格子面20aを形成することにより、低コストで、かつ、高精度の球面収差補正が可能になるので、高温、高湿の環境下でも安定な光学特性を得ることができる。
【0025】
回折格子面20aは、同心円状の格子周期構造で、周辺ほど格子周期(格子ピッチ)が小さくなっている。また、格子形状は位相関数に沿った格子ピッチの鋸歯形状になっている。格子部の厚みは数μm、格子ピッチは数百μmから数μmの幅で徐々に変わっている。回折格子では、格子ピッチが小さい方が、回折する量(回折角)が大きく、格子ピッチを変えることによって光の進行方向をコントロールすることができる。したがって、位相関数から計算した格子ピッチで同心円状の格子周期構造を形成することによって、非球面レンズと同じ効果が得られ、球面収差の補正が可能となる。
【0026】
図3はボールレンズの球面収差を説明する断面図であり、(a)は球面収差を補正していない焦点位置、(b)は球面収差を補正した焦点位置、を示す模式図である。図3(a)はボールレンズ10の球面収差によって焦点位置が一致していない状態を表している。点光源から拡散したビームをボールレンズ10で集光する場合、相対的に光軸から離れた位置を通過した光は相対的に短い焦点位置(P1)に集光し、相対的に光軸に近い位置を通過した光は相対的に遠い焦点位置(P2)に集光して、焦点位置が分布する球面収差を生じる。
【0027】
このため、集光点に光ファイバの端面を位置させる場合に、P1やP2のどの位置であってもスポット径が拡がってしまう。光ファイバのコア径は10μm程度であるので、スポット径が拡がってしまうと、結合効率が低下してしまう問題があった。
【0028】
図3(b)に示すように、ボールレンズ10と対向して、ボールレンズ10の球面収差を補正する回折格子面20aが設けられた平板状の光学素子20を配置すれば、相対的に光軸から離れた位置を通過した光はより遠くに焦点位置(P1’)が移動し、相対的に光軸に近い位置を通過した光の焦点位置(P2’)とほぼ一致するように球面収差を補正することができる。
【0029】
このように、ボールレンズ10を出射したビームに対して、回折格子面20aを形成した回折型の光学素子20が球面収差を補正するので、光学素子20を出射したビームは球面収差をほとんどもたずに集光される。したがって、低コストのボールレンズ10と回折格子面20aが設けられた光学素子20とを用いて、球面収差が補正された光学装置にすることができる。こうすれば、スポット径は拡がらないので、光ファイバへの結合効率を良好にすることができる。
【0030】
したがって、低コストで良好な結合効率を得ることができる。
【0031】
光源30からのビームの発散角が大きいとボールレンズ10に入射するビームの拡がりが大きくなるので、球面収差の影響が大きくなる。本実施形態は、回折格子面20aが設けられた光学素子20を用いて収差補正することによって球面収差が補正された光学装置にすることができるので、発散角の大きい光源30に対して効果的である。
【0032】
本実施形態に用いた回折型の光学素子20は以下のように製造することができる。
【0033】
素材となる光学ガラス平板として、Schott社製の商品名D263Tの厚さ0.5mmのガラス平板を用い、微細加工技術が可能な大きさ、たとえば直径150mmとした。この光学ガラス平板の一方の面に感光性レジストを用いたフォトリソグラフィ法によって所定のパターンのレジストマスクを作成した。次に、RIE(Reactive Ion Etching)法によってエッチング加工して回折溝を形成した。必要に応じてフォトリソグラフィ法とエッチング加工を繰り返して回折格子面20aを形成してから、保護膜を塗布して光学装置1に適用する大きさ(たとえば2mm角)に切り出した後、保護膜を除去洗浄して、平板状の光学素子20を得た。この方法は光学素子を1個ずつ加工する場合に比べて量産性に優れているため、低コスト化が可能である。また、光学ガラス平板を用いているので、高精度の球面収差補正が可能である。
【0034】
また、光学装置1は以下のようにして製造した。
【0035】
ステンレス鋼を加工した鏡筒40にボールレンズ10を低融点ガラスによる封着によって取り付け、真空蒸着装置を用いて、ボールレンズ10の両面に反射防止膜を蒸着した。つぎに、ボールレンズ10と回折格子面20aが所定の空隙を介して対向するように、鏡筒40に光学素子20を低融点ガラスによる封着によって気密に取り付けて固定した。なお、光学素子20は必要に応じて、あらかじめ反射防止膜を形成しておくことが好ましい。また、低融点ガラスによる封着の替わりに、UV樹脂等による接着を用いることができる。
【0036】
最後に、光源30を取り付けた基板を、鏡筒40の鍔部40aと溶接によって接合して光学装置1を構成した。
【0037】
光源30の発光波長が1310nmの光モジュールとして、光ファイバへの結合効率を調べた。ボールレンズ10にはSchott社製の商品名LASFN9の直径1.8mmのものを用いた。この波長での屈折率は1.8174であった。また、光学素子20にはSchott社製の商品名D263Tの厚さ0.5mmのガラス平板を用い、片面に回折格子面20aを形成した。光源30の発光点とボールレンズ10の空隙を0.5mmになるように配置し、ボールレンズ10と光学素子20との空隙は0.2mmとした。このときに最適な球面収差補正となるように、回折格子面20aの格子部の厚み(上面から加工最深面までの深さ)は2.57μm、格子ピッチ(光軸から最初の最深面、または最深面から次の最深面)は光軸から径方向に順に、249μm、31.8μm、21.4μm、14.5μm、10.4μm、7.9μmの幅に形成された。この実施例での回折溝は、図2に示すように、1周期毎に8段の階段状である。このとき、光学素子20と光ファイバの空隙は2.207mmに位置調整した。光源30の半導体レーザのNAが0.22、光ファイバのNAが0.09のものを取り付けた場合に、結合効率は97.23%が得られた。一方、比較のため、光学素子20を挿入しない場合の結合効率は最大でも66.44%であり、球面収差の補正によって結合効率を大きく向上できることが確認された。
【0038】
同様に、ボールレンズ10に(株)住田光学ガラス製の商品名K−PSFN202の直径2.0mmのもので実施した。この場合の屈折率は1.9654であった。光源30の発光点とボールレンズ10の空隙を0.4216mmになるように配置し、ボールレンズ10と光学素子20との空隙は0.2mmとした。このときに最適な球面収差補正となるように、回折格子面20aの格子部の厚みは2.57μm、格子ピッチは光軸から径方向に順に、245μm、42.7μm、24.7μm、17.2μm、13.1μmの幅に形成された。回折溝は1周期毎に8段の階段状である。このとき、光学素子20と光ファイバの空隙は2.186mmに位置調整した。光源30の半導体レーザのNAが0.22、光ファイバのNAが0.09のものを取り付けた場合に、結合効率は98.35%が得られた。これに対し、光学素子20を挿入しない場合の結合効率は最大でも73.15%であった。
【0039】
なお、光通信に適用する場合の結合効率を評価するために光ファイバを用いたが、本実施形態は光ファイバに限定されるものではない。
【0040】
本実施形態では、平板状の光学素子20とボールレンズ10とは空隙を介して対向している。こうすれば、光学装置1の組み立てにおける位置調整が可能であり、ボールレンズ径の寸法ばらつきに対して微調整できるので、量産性に優れている。
【0041】
また、光源30を取り付けた基板を、鏡筒40の鍔部40aと溶接によって接合しているので、光源30を気密封止構造とすることができる。実用的には、溶接接合する際にアルゴンガス等の不活性ガスを封入する。こうすれば、長期間に亘って酸化による劣化を防止できる。
【0042】
なお、ボールレンズ10と対向して、球面収差を補正する回折格子面20aが配置されていることが好ましい。こうすれば、空気以外の媒体が介在せず、ボールレンズ10の収差補正に適した回折格子面20aの光学設計が容易である。また、光学素子20の他方の面は平板加工面であることが好ましい。光学的な平板のままでよいので、低コストであり、製造工程での量産性も優れている。また、鏡筒40に取り付ける際の光軸合わせには、光学素子20の側面を基準面とする方法や、光学素子20にアライメントマークを設けておく方法を採用することができる。
【0043】
図4は光学素子20の変形例である。図2に示す回折格子面20aは回折型(位相型)であったが、図4に示す光学素子20は屈折型のレンズ面20cが設けられている。球面収差を補正する光学面としての屈折型のレンズ面20cはフレネルレンズと同様な同心円状の幾何学形状である。図2に示す階段状の回折溝に比べて、図4に示すレンズ面20cをフォトリソグラフィ法とエッチング加工によって形成することは難しいが、平板状の光学素子20としての球面収差補正は同等である。
【0044】
<第2の実施形態>
図5は第2の実施形態の光学装置2を示す断面図である。本実施形態においては、光源31の側に配置されたボールレンズ11に加えて、光ファイバ71側に配置されたボールレンズ12及びフォトダイオード等の受光素子50の側に配置されたボールレンズ15を有している。また、ボールレンズ11の球面収差を補正する平板状の第1の光学素子21及びボールレンズ12の球面収差を補正する平板状の第2の光学素子22を有して、光学装置2が構成されている。
【0045】
ここで、ボールレンズ11はコリメートレンズとして配置されている。光源31から出射された光束はボールレンズ11に入射し、平行光となって光学素子21に向かって出射される。光学素子21はボールレンズ11と対向する面に回折格子面21aが形成されていて、ボールレンズ11の球面収差を補正している。
【0046】
一方、光ファイバ71側に配置されたボールレンズ12は光学素子22を透過した平行光を光ファイバ71の端面に集光している。このとき、ボールレンズ12の球面収差を光学素子22に設けた回折格子面22aが補正している。これにより、光ファイバ71の端面に集光した光束のスポット径が球面収差によって拡がることを抑制できるので、結合効率を良好にすることができる。
【0047】
また、光学装置2は光ファイバ71から出射される光束を受光素子50に結合させることができる。光ファイバ71から出射される光束の波長と光源31の波長とを異なる組み合せにすることで、送信と受信を1本の光ファイバ71と1個の光学装置2でおこなう1芯双方向光モジュールにできる。
【0048】
本実施形態において、平板状の第1の光学素子21と第2の光学素子22との間で平行光が得られる。アイソレータ51とビームスプリッタ52が挿入され、光ファイバ71から出射された光束がボールレンズ15に入射するとともに、光源31への戻り光を防止している。ボールレンズ15を透過した光束は波長選択フィルタ53を介して受光素子50に集光する。なお、受光素子50の受光面積は相対的に大きいので、ボールレンズ15の球面収差によるスポット径の拡がりに影響されない。
【0049】
ボールレンズ11を透過した光束が平行光であるので、アイソレータ51やビームスプリッタ52を挿入したことによる収差の発生を抑制することができる。したがって、アイソレータ51やビームスプリッタ52を挿入しても、結合効率を良好にすることができる。
【0050】
光源31の発光波長が1310nmの光モジュールとして、光ファイバへの結合効率を調べた。ボールレンズ11にはSchott社製の商品名LASFN9の直径1.8mmのものを用いた。この波長での屈折率は1.8174であった。また、光学素子21にはSchott社製の商品名D263Tの厚さ0.5mmのガラス平板を用い、片面に回折格子面21aを形成した。光源31の発光点とボールレンズ11の空隙を0.1005mmになるように配置し、ボールレンズ11と光学素子21との空隙は0.2mmとした。このときに最適な球面収差補正となるように、回折格子面21aの格子部の厚みは2.57μm、格子ピッチは光軸から径方向に順に、359μm、62.5μm、51.6μm、50.6μmの幅に形成された。回折溝は1周期毎に8段の階段状である。
【0051】
光ファイバ71側に配置されたボールレンズ12には商品名LASFN9の直径4.5mmのものを用いた。光学素子22は光学素子21と同様に片面に回折格子面21aが設けられており、ボールレンズ12の球面収差を補正するように、格子部の厚みは2.57μm、格子ピッチは光軸から径方向に順に、534μm、150μm、26.8μmの幅に形成された。回折溝は1周期毎に8段の階段状である。光学素子21と光学素子22との間隔は任意でよいが、2mmとした。
【0052】
アイソレータ51やビームスプリッタ52は挿入していない上記の素子配置で、光源31の半導体レーザのNAが0.22、光ファイバ71のNAが0.09を用いた場合に、最適位置での結合効率は99.49%が得られた。一方、比較のため、光学素子21及び光学素子22を挿入しない場合の結合効率は最大でも93.83%であった。このようにして、球面収差の補正によって結合効率を向上できることが確認された。
【0053】
したがって、低コストのボールレンズ11、12と回折格子面21a、22aが設けられた光学素子21、22とを用いて、球面収差が補正された光学装置にすることができる。球面収差が補正されているので、光ファイバ71等への結合効率を良好にすることができる。さらに、ボールレンズ11を透過した光束が平行光であるので、アイソレータ51やビームスプリッタ52の挿入を容易にできる。
【0054】
本実施形態においても、集光点が光ファイバ71の端面であることに限定されないことは言うまでもない。
【0055】
第1の実施形態および第2の実施形態において、光学ガラス平板の一方の面に回折格子面を形成していたが、他方の面についてもレンズ作用を有する面に加工してもよい。しかしながら、それに伴うコストの増加を考慮すると、他方の面についても回折格子面を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0056】
1、2 光学装置
10、11、12、15 ボールレンズ
20、21、22 光学素子
20a、21a、22a 光学面(回折格子面)
20b 平板加工面
20c 光学面(レンズ面)
30、31 光源(半導体レーザ)
40 鏡筒
40a 鍔部
50 受光素子(フォトダイオード)
51 アイソレータ
52 ビームスプリッタ
53 波長選択フィルタ
60 受光部
71 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源から出射された光束を集光するボールレンズと、前記ボールレンズの球面収差を補正する光学面が設けられた平板状の光学素子と、を有することを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記光学素子は回折格子面が設けられた回折型の光学素子であることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記光学素子と前記ボールレンズとは空隙を介して対向していることを特徴とする請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記ボールレンズと前記光学素子とを保持する鏡筒を備え、前記ボールレンズは前記鏡筒内に固定され、前記光学素子は前記鏡筒に気密に固定されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学装置。
【請求項5】
光源と、前記光源から出射された光束を平行光にする第1のボールレンズと、前記第1のボールレンズの球面収差を補正する平板状の第1の光学素子と、前記第1の光学素子を透過した前記平行光を集光する第2のボールレンズと、前記第1の光学素子と前記第2のボールレンズとの間に配置されて前記第2のボールレンズの球面収差を補正する平板状の第2の光学素子と、を有することを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72883(P2013−72883A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209401(P2011−209401)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】