説明

光学補償フィルム、その製造方法、並びにそれを用いた偏光板及び液晶表示装置

【課題】支持体と配向膜との接着性が改善された、耐久性に優れた光学補償フィルムを提供する。
【解決手段】支持体、その上に、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層をこの順で有する光学補償フィルムであって、前記支持体が、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなり、該フィルムが、環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類の少なくとも一種を主成分として含み、前記配向膜が、前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理面又は大気圧プラズマ処理面に接触して配置されていること、および、前記液晶組成物が、ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有し、前記光学異方性層が、前記配向膜上で、前記液晶組成物を重合により硬化して形成された層であることを特徴とする光学補償フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償フィルム、その製造方法、並びに該光学補償フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置の光学補償フィルムとして、ポリマーフィルムを支持体として、その上に液晶組成物から形成した光学異方性層とを有する光学補償フィルムが種々提案されている。さらに、耐久性が改善された光学補償フィルムとして、光弾性係数及び透湿度が所定の範囲のポリマーフィルムを支持体として有する光学補償フィルムも提案され(例えば、特許文献1)、支持体として、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムが利用可能であることが記載されている。
ところで、液晶組成物からなる光学異方性層を有する光学補償フィルムを作製する際は、ポリマーフィルムの表面に配向膜を形成し、該配向膜の配向制御能を利用して、光学異方性層を形成するのが一般的である。即ち、支持体であるポリマーフィルムと光学異方性層との間に、配向膜が形成されるのが一般的である。この配向膜には、光学異方性層との密着性、支持体が損傷を受けない程度の低温での製膜性、支持体を溶解しない塗布溶媒への溶解性等の観点から、ポリビニルアルコール等、比較的親水性が高いポリマーが利用されるため、疎水性が比較的高い環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの中には、配向膜との密着性が低いものが多く存在する。
なお、密着性改善のために、ポリマーフィルムと配向膜との間に密着改良層を形成した光学補償シートが提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特表2005−520209号公報
【特許文献2】特開平7−333433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、環状ポリオレフィン類ポリマーフィルムを支持体として有する光学補償フィルムにおいて、支持体と配向膜との接着性を改善し、耐久性に優れた光学補償シートを提供すること、並びにそれを用いた偏光板及び液晶表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 支持体、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層をこの順で有する光学補償フィルムであって、
前記支持体が、環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類の少なくとも一種を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなり、且つ、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理を施された処理面を有し、前記配向膜が、前記支持体の前記処理面に接触して配置され、前記液晶組成物が、ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有し、及び前記光学異方性層が、前記配向膜上で、前記液晶組成物を重合により硬化して形成された層であることを特徴とする光学補償フィルム。
[2] 前記配向膜の膨潤度が、1〜2であることを特徴とする[1]の光学補償フィルム。
(但し、膨潤度とは、配向膜を形成する際に用いる塗布組成物を溶解する塗布溶媒中、最も高い含率で含まれる溶媒中に、光学補償フィルムを浸漬した前後での配向膜の膜厚の比((膨潤後の配向膜膜厚)÷(膨潤前の配向膜膜厚))を表す。)
[3] 前記配向膜が、前記支持体の前記処理面に塗布された硬化性組成物を、加熱下で電離放射線を照射することによって硬化させて形成された層であることを特徴とする[1]又は[2]の光学補償フィルム。
[4] 前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムが、ヘテロ原子を含む置換基を少なくとも一つ有する環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの光学補償フィルム。
【0005】
[5] 前記ラジカル重合開始剤が、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの光学補償フィルム:
【化1】

式中、Xはハロゲン原子を表し;Yは−CX3、−NH2、−NHR’、−NR’2又は−OR’を表し;R’はアルキル基又はアリール基を表し;Rは、−CX3、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、又は置換アルケニル基を表す。
【0006】
[6] 前記液晶組成物が、ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの光学補償フィルム。
[7] 前記液晶組成物が、棒状液晶化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの光学補償フィルム。
[8] 偏光膜と、[1]〜[7]のいずれかの光学補償フィルムとを少なくとも有する偏光板。
[9] [8]の偏光板を少なくとも一つ有する液晶表示装置。
[10] TNモード又はOCBモードであることを特徴とする[9]の液晶表示装置。
[11] 環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなる支持体、その上に、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層を、この順で有する光学補償フィルムの製造方法であって、
(1)環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面をコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理する工程、
(2)環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面上に配向膜を形成する工程、
(3)ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有する液晶組成物を重合により硬化して光学異方性層を前記配向膜上に形成する工程
を、この順序で含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
[12] 前記(2)の工程が、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面に硬化性組成物を塗布し、加熱下で電離放射線を照射することによって硬化させて、配向膜を形成する工程であることを特徴とする[11]の方法。
[13] 前記(2)工程の前に、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面を除塵することを特徴とする[11]又は[12]の方法。
[14] 前記(3)工程の前に、配向膜のラビング処理面を除塵することを特徴とする[11]〜[13]のいずれかの方法。
[15] 超音波を利用して除塵することを特徴とする[13]又は[14]の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを支持体として有する光学補償フィルムにおいて、支持体と配向膜との接着性を改善し、耐久性に優れた光学補償シートを提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の光学補償フィルムを用いることによって、環境湿度等に依存した性能低下が生じ難く、且つ耐久性に優れた偏光板及び液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[光学補償フィルム]
本発明は、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなる支持体と、配向膜と、液晶組成物からなる光学異方性層とを、この順で有する光学補償フィルムに関する。本発明では、支持体として用いられている比較的疎水性の高い環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面を、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理し、該処理面に接触させて比較的親水性が高い材料からなる配向膜を形成している。その結果、本発明の光学補償フィルムは、支持体である環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムと配向膜との接着性が改善されていて、支持体/配向膜界面の剥離等の不良が発生し難く、耐久性に優れる。
また、本発明で使用する環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを支持体として用いた場合、上記のように支持体/配向膜界面の剥離を改良しても、従来製品に使用されていた配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層を積層すると、これまで問題にならなかった配向膜/光学異方性層間での剥離が発生する問題が新たに発生した。本発明では、光学異方性層を形成する組成物中にハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有させることで配向膜/光学異方性層間での剥離も同時に改善することができ、従って耐久性に優れた光学補償フィルムを得ることができる。
この様に、本発明の光学補償フィルムは、透湿度が低い環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを支持体として用いることの長所とともに、支持体/配向膜界面及び配向膜/光学異方性層界面の剥離等の不良が発生しない、即ち、耐久性に優れているという長所を有する。
【0009】
以下、支持体、配向膜及び光学異方性層の作製に使用可能な材料及び方法等について、詳細に説明する。
(支持体)
本発明の光学補償フィルムは、支持体として、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを有する。本発明において、支持体として用いられる環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの作製には、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含む付加(共)重合体環状ポリオレフィン及び必要に応じて下記一般式(II)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィン、又は下記一般式(III)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体が好ましく使用される。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
式中、mは0〜4の整数を表す。R1〜R6は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、X1〜X3、Y1〜Y3は水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、−(CH2nCOOR11、−(CH2nOCOR12、−(CH2nNCO、−(CH2nNO2、−(CH2nCN、−(CH2nCONR1314、−(CH2nNR1314、−(CH2nOZ、−(CH2nW、又はX1とY1あるいはX2とY2あるいはX3とY3から構成された(−CO)2O、(−CO)2NR15を示す。なお、R11、R12、R13、R14及びR15は、水素原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基;Zは炭化水素基又はハロゲンで置換された炭化水素基;WはSiR16p3-p(R16は炭素数1〜10の炭化水素基、Dはハロゲン原子、−OCOR16又は−OR16、pは0〜3の整数を示す)、nは0〜10の整数を示す。
【0014】
前記式中、R3、R4、X2、及びY2のうち少なくとも2つが互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、また、該単環又は多環が二重結合を有していてもよい。R5、R6、X3、及びY3のうち少なくとも2つが互いに結合して単環又は多環を形成していてもよく、また、該単環又は多環が二重結合を有していてもよい。
【0015】
支持体と配向膜との接着性を改善するためには、X2、X3、Y2及びY3はそれぞれ独立に、水素原子、又は−(CH2nCOOR11及び−(CH2nOCOR12からなる群より選ばれる官能性置換基であることが好ましい。
【0016】
1〜X3、Y1〜Y3の置換基に分極性の大きい官能基を導入することにより、フィルムの厚さ方向レターデーション(Rth)を大きくし、面内レターデーション(Re)の発現性を高めることができる。Re発現性の大きなフィルムは、製膜過程で延伸することにより高いRe値を示す。
【0017】
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号、特開平7−196736号、特開昭60−26024号、特開昭62−19801号、特開2003−1159767号あるいは特開2004−309979号等に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより製造される。本発明に用いるノルボルネン系重合体において、R5〜R6は水素原子又は−CH3が好ましく、X3及びY3は水素原子、Cl又は−COOCH3が好ましく、その他の基は適宜選択される。このノルボルネン系樹脂は、JSR(株)からアートン(Arton)GあるいはアートンFという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250あるいはゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
【0018】
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−7732号公報、特表2002−504184号公報、US2004229157A1号明細書あるいは国際公開第2004/070463A1号パンフレット等に開示されているものを用いることができる。また、ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合することによって得られる。さらには、必要に応じ、エステル基を有するノルボルネン系多環状不飽和化合物と、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレンのような不飽和オレフィン;アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの不飽和化合物とを付加重合することもできる。このノルボルネン系付加(共)重合体としては、市販品を用いることもできる。具体的には、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)の異なる例えばAPL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)あるいはAPL6015T(Tg145℃)などのグレードがある。ポリプラスチック(株)よりTOPAS8007、同6013、同6015などのペレットが発売されている。更に、Ferrania社よりAppear3000が発売されている。
【0019】
前記開環重合した後、水素添加して得られる環状ポリオレフィン系ポリマー及び付加重合して得られる環状ポリオレフィン系ポリマーのいずれも、側鎖にヘテロ原子を含む置換基を有するものと有さないものが存在し、いずれも好ましく使用できる。側鎖にヘテロ原子を有さない、即ち、完全に炭化水素のみで構成された環状ポリオレフィン系ポリマー(例えば、ゼオノア、アペル、TOPAS等)は、後述する放電処理による配向膜との接着性改良効果が比較的大きく、より安定的に高い接着性を維持でき、接着性改良の観点では好ましく用いられることがわかった。一方、側鎖にヘテロ原子を含む環状ポリオレフィン系ポリマー(例えば、アートン、Appear3000等)は、比較的接着性改良効果では劣るものの、実用上、問題ないレベルまで改良することが可能であり、光学特性等、その他の要求で、側鎖にヘテロ原子を含む環状ポリオレフィン系ポリマーを選択しても問題なく用いることができる。
【0020】
本発明の環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムは、ポリマーを溶解可能な溶媒中に溶解して、キャストフィルムとする溶液製膜;又は溶媒を含まない状態で加熱することでポリマーを融解してキャストフィルムとする溶融製膜;のいずれによっても製造することができる。溶融製膜では、得られるフィルムの光学異方性が小さいこと、製造ラインが比較的小規模で済むので初期投資を低く押さえられること、溶媒を揮発させる工程がないので環境への負荷が小さい、というメリットを有するが、製膜速度では溶液製膜に劣るため、コストが高くなるデメリットがあり、目的に応じて適宜選択する必要がある。また、溶融製膜では、未延伸の状態で長手方向及び厚み方向のいずれの方向にも光学異方性を有さない、等方性のフィルムが得られ;一方、溶液製膜では、未延伸でも面配向が進むため、厚み方向に光学異方性を有するフィルムが得られる;という特徴がそれぞれある。いずれの方法で製造された環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムも、製膜後に、所望の光学特性を発現するよう、延伸、緩和、延伸緩和等の処理をすることが好ましい。例えば、溶融製膜したゼオノアを、二軸延伸することによって、NZファクターが1〜2程度の二軸性を付与することができる。この二軸性のフィルムは、TNモードLCD用の光学補償フィルムに用いることができる。また、Appear3000をメチレンクロライドに溶解して溶液製膜したフィルムを、テンター延伸することにより、Nzファクターが4〜7程度の二軸性を付与することができる。この二軸性のフィルムは、OCBモードLCD用の光学補償フィルムに用いることができる。
【0021】
なお、支持体として用いられる環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの厚みは、特に制限はないが、薄型化と充分な支持性との両立の観点から、30〜200μm程度であるのが好ましく、40〜120μm程度であるのがより好ましい。
【0022】
本発明では、前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面に、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理を施す。コロナ放電処理も大別すると大気圧プラズマ処理に含まれるが、ここでは、コロナ放電によるプラズマ領域に、直接被処理体を曝すものをコロナ放電処理と呼称し、一方、プラズマ領域と被処理体表面が離れているものを大気圧プラズマ処理と呼称する。コロナ放電処理は、工業的な実用例が豊富で低コストである反面、処理体表面の物理的ダメージが大きいというデメリットがある。一方、大気圧プラズマ処理は、実用例は比較的少なく、コストもコロナ処理よりは高い反面、処理体表面のダメージが小さく、比較的処理強度を高く設定可能であるというメリットがある。従って、使用するポリマーフィルムのダメージと処理後の接着性の改善レベルとの関係によって、両者の内で好ましい方の処理法を選択すればよい。
【0023】
これらの処理を施されたポリマーフィルムの処理面は、親水化する。配向膜との接着性改善の指標として、処理面における水の接触角を利用してもよい。具体的には、処理面の水の接触角は55°以下であるのが好ましく、50°以下であるのがより好ましい。処理面の水の接触角が前記範囲であると、配向膜との接着性が改善され、剥離等の不良が生じ難くなる。下限値については特に制限はないが、ポリマーフィルムを破損することがないように設定することが好ましい。なお、接触角の測定は、JIS R 3257(1999)に従って行なうことができる。コロナ放電処理及び大気圧プラズマ処理は、それぞれ、接触角が前記範囲となる様に、処理条件が決定される。変動させる処理条件としては、何れの処理法においても、印加電圧、周波数、雰囲気ガス種、処理時間等がある。
これらの処理の詳細については、高分子表面改質(近代編集社)P.88〜、高分子表面の基礎と応用(下)(化学同人)P.31〜、大気圧プラズマの原理・特徴と高分子フィルム・ガラス基板の表面改質技術(技術情報協会)等にそれぞれ記載があり、その内容を参照することができる。
【0024】
前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理を施された表面(以下、「処理面」という場合がある)については、除塵した後に、配向膜を形成するのが好ましい。除塵方法については特に制限されない。超音波を利用する超音波除塵が好ましい。超音波除塵については、特開平7−333613号公報等に詳細な記載があり、参照することができる。
【0025】
(配向膜)
本発明の光学補償フィルムでは、配向膜は、前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理(以下、これらをまとめて「放電処理」という場合がある)を施された処理面に接触して配置される。前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムと配向膜との接着性をより改善するために、硬化性組成物を前記処理面に塗布し、処理面上で硬化させて配向膜を形成するのが好ましい。特に、支持体として、コロナ放電処理を施した環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを利用する態様では、配向膜の材料によっては接着性をより改善する必要がある場合があり、かかる態様において、硬化性組成物を利用して配向膜を形成する前記形成方法は、特に有効である。勿論、支持体として、大気圧プラズマ処理を施した環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを利用する態様においても、上記配向膜の形成方法を利用すれば、接着性がより改善されるので好ましい。
【0026】
以下、硬化性組成物から形成する配向膜について、詳細に説明する。
前記配向膜の形成に利用可能な硬化性組成物としては、熱及び/又は電離放射線下で硬化する組成物が好ましい。その例には、ポリビニルアルコール系ポリマーと、2官能アルデヒドとを少なくとも含有する組成物が含まれる。該組成物を、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの処理面に塗布した後、加熱すると、ポリビニルアルコール系ポリマーが2官能アルデヒドによって架橋されて、硬化膜が形成される。架橋反応は酸の存在下で促進されるので、前記硬化性組成物中に酸を添加するのが好ましい。前記ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、未変性ポリビニルアルコール;OH基が変性された変性ポリビニルアルコール;及びポリビニルアルコールから誘導される繰り返し単位とともに、それ以外の繰り返し単位を有するポリビニルアルコール誘導体;のいずれであってもよい。中でも、特開平10−218938号公報に記載のポリマーNo.1〜No.24のように、側鎖に(メタ)アクリロイル基等の不飽和基を有するものは、上記加熱による硬化とともに、紫外線等の電離放射線の照射により、更に架橋構造を形成することができ、接着性が更に改善されるため、より好ましい。特に、特開平10−218938号公報に記載のポリマーNo.1〜No.5に記載されたものが好ましく用いられる。また、使用可能な2官能アルデヒドの例にはグルタルアルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド等が含まれ、中でも、グルタルアルデヒドが好ましい。また、使用可能な酸の例には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、サリチル酸、クエン酸、クエン酸ハーフエステル等が含まれ、クエン酸ハーフエステルが好ましい。
これらの好ましい例、硬化性組成物中の各成分の好ましい含有割合等については、特開平10−218938号公報に記載があり、その内容を参照することができる。
【0027】
前記硬化性組成物を、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの処理面に塗布する際の塗布方法の例には、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法及びダイコーティング法が含まれる。塗布液の調製には溶媒が用いられるが、溶媒としては、水、又は水と低級アルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒が好ましい。硬化させる前に、溶媒を除去するために、加熱乾燥するのが好ましく、乾燥と同時に硬化を進行させてもよい。硬化時には、加熱又は電離放射線(好ましくはUV光)を照射することが好ましく、加熱及び電離放射線照射の双方、即ち加熱下で電離放射線を照射することによって、行なうことがより好ましい。硬化反応時の温度は、室温以上であるのが好ましく、より具体的には、60〜180℃程度が好ましく、100〜140℃程度がより好ましい。また、硬化反応時に照射する電離放射線(好ましくはUV光)の単位面積当りの照射エネルギーは、20〜5000mJ/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。
【0028】
硬化性組成物から形成された架橋構造を含む配向膜は、架橋前の塗布組成物を溶解する塗布溶媒中に最も高い含率で含まれる溶媒に対する膨潤度が低くなるので、配向膜の前記溶媒に対する膨潤度の低下は配向膜の架橋反応の進行の指標となる。本発明により、配向膜の架橋反応が進む程、配向膜と環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムとの接着性が向上することが分かった。これは配向膜中においてポリマーフィルムとの界面近傍の応力が集中する部位(WBL層:Weak Boundary Layer)が強化されるためと推定されるが、詳しくは不明である。配向膜の膨潤度は、1.0〜2.0であるのが好ましく、1.0〜1.5であるのがより好ましい。配向膜の膨潤度が前記範囲であると、配向膜と環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムとの接着性が改善され、実用上目標とする接着性が達成できる。
なお、配向膜の膨潤度は、実施例中に後述する方法により測定することができる。
【0029】
配向膜の表面はラビング処理が施されているのが好ましい。ラビング処理は、定法に従って行なうことができる。ラビング処理によってラビング面に塵が残留する場合があるので、光学異方性層を形成する前に、ラビング処理面を除塵するのが好ましい。除塵方法については特に制限はないが、上記と同様、超音波除塵が好ましい。
【0030】
配向膜の厚みについては特に制限はないが、薄型化と充分な配向能の発揮の観点から、一般的には、0.01〜5μmであることが好ましく、0.05〜2μmであることがさらに好ましい。
【0031】
(光学異方性層)
本発明の光学補償フィルムは、配向膜上に、液晶組成物から形成された光学異方性層を有する。前記光学異方性層は、液晶組成物を配向膜上に配置し、その配向を制御し、その配向状態を固定することで形成される。そのためには、前記液晶組成物は、重合性であるのが好ましい。前記配向膜と前記光学異方性層との接着性を高めると、全体の耐久性がより改善されるのが好ましい。前記配向膜と前記光学異方性層との接着性を改善するには、前記光学異方性層を、ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下(原子数1〜8)の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤の少なくとも一種を含有する重合性液晶組成物を利用して形成するのが好ましい。より具体的には、前記所定のラジカル重合開始剤を含有する重合性液晶組成物を、配向膜の表面に塗布した後、配向膜表面上で重合により硬化させて形成するのが好ましい。前記重合開始剤を用いると、配向膜と光学異方性層との接着性が改善される。これは、嵩が小さいラジカルは、配向膜界面まで拡散される結果、配向膜と光学異方性層との界面でも化学結合が生成し、また配向膜表面附近が硬化し、その結果、接着性が改善すると推定される。前記ラジカル重合開始剤から発生するハロゲンラジカルとしては、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のラジカルが挙げられるが、特にクロルラジカルが好ましい。水素原子を除く原子の数8以下の炭化水素ラジカルは、ハロゲン化炭化水素ラジカル等の置換基を有する炭化水素ラジカルであってもよく、例としては、メチルラジカル、エチルラジカル、プロピルラジカル、ブチルラジカル、フェニルラジカル、トリルラジカル、クロロフェニルラジカル、ブロモフェニルラジカル、ベンゾイルラジカル等が挙げられる。
【0032】
さらに、前記ラジカル重合開始剤は、100mJ/cm2のエネルギー量で30%以上分解するものであることが好ましい。前記ラジカル重合開始剤の例を以下に記すが、以下の例に限定されるものではない。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
また、下記式(1)で表される化合物も、上記条件を満足する嵩の小さいラジカルを発生するので、重合開始剤として好ましく用いられる。
【0036】
【化7】

【0037】
式中、Xはハロゲン原子を表し;Yは−CX3、−NH2、−NHR’、−NR’2又は−OR’を表し;R’はアルキル基又はアリール基を表し;Rは、−CX3、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、又は置換アルケニル基を表す。嵩の小さいラジカルの発生が多く、且つ有機溶剤への溶解時に経時安定性に優れているという観点から、Yは−CX3、Rはアリール基及び置換アリール基であることが好ましい。また、Rが二重結合を含む基であるのがより好ましい。
【0038】
前記ラジカル重合開始剤として使用可能な、前記式(1)で表される化合物の例には、特開2006−251374号公報の[0082]〜[0084]に例示されている、下記の化合物No.22〜44が含まれる。特に特開2006−251374号公報中の、下記例示化合物No.41は、本発明において配向膜として好ましく用いられる、ポリビニルアルコール系ポリマーへの拡散性が高く、光学異方性層のみならず、配向膜の内部の不飽和基の架橋反応も促進する効果があると推定され、特に好ましく用いられる。
【0039】
【化8】

【0040】
【化9】

【0041】
【化10】

【0042】
前記硬化性液晶組成物は、少なくとも一種の液晶化合物を含有する。該液晶化合物としては、棒状液晶化合物又は円盤状液晶化合物(ディスコティック液晶化合物)が好ましい。
棒状液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。これらの棒状液晶化合物の固定は、棒状液晶化合物の末端構造に重合性基を導入(後述の円盤状液晶と同様)し、この重合・硬化反応を利用して行われている。具体例としては、重合性ネマチック棒状液晶化合物を紫外線硬化した例が特開2006−209073号公報に記載されている。また、上述の低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。高分子液晶化合物は、以上のような低分子液晶化合物に相当する側鎖を有するポリマーである。高分子液晶化合物を用いた光学補償シートについては、特開平5−53016号公報等に記載がある。
【0043】
ディスコティック液晶化合物については、様々な文献(C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page1794(1985);J.Zhang et al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page2655(1994))に記載されている。ディスコティック液晶化合物の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
ディスコティック液晶化合物を重合により固定するためには、ディスコティック液晶化合物の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。従って、重合性基を有するディスコティック液晶化合物は、下記式(A)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0044】
(A) D(−L−P)n
式中、Dは円盤状コアであり;Lは二価の連結基であり;Pは重合性基であり;そして、nは4〜12の整数である。
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LP(又はPL)は、二価の連結基(L)と重合性基(P)との組み合わせを意味する。
【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
【化16】

【0051】
【化17】

【0052】
【化18】

【0053】
【化19】

【0054】
前記光学異方性層の作製に用いられるディスコティック液晶化合物としては、特開2006−76992号公報明細書中の段落番号[0052]、特開2007−2220号公報明細書中の段落番号[0040]〜[0063]に記載の化合物が好ましく、例えば、下記一般式(D16)で表される化合物が好ましい。これらのディスコティック液晶化合物は、高い複屈折性を示すので好ましい。下記一般式(D16)表される化合物の中でも、特に、ディスコティックネマチック相を示す化合物が好ましい。
【0055】
【化20】

【0056】
また、前記ディスコティック液晶化合物の好ましい例には、特開2005−301206号公報に記載の化合物も含まれる。
【0057】
また、特開2007−102205号公報に記載されているような液晶化合物は、液晶セル中の液晶化合物の複屈折波長分散により近い複屈折波長分散を有するため、好ましく用いることができる。特に好ましい骨格を以下に示す。
【0058】
【化21】

【0059】
式(A)中、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−及び−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−及び−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(P)に結合する。ALはアルキレン基又はアルケニレン基、ARはアリーレン基を意味する。なお、アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基は、置換基(例、アルキル基)を有していてもよい。
【0060】
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−S−AL−
L21:−S−AL−O−
L22:−S−AL−O−CO−
L23:−S−AL−S−AL−
L24:−S−AR−AL−
【0061】
式(A)中の重合性基(P)は、重合反応の種類に応じて決定する。重合性基(P)の例を以下に示す。
【0062】
【化22】

【0063】
【化23】

【0064】
【化24】

【0065】
【化25】

【0066】
【化26】

【0067】
【化27】

【0068】
重合性基(P)は、不飽和重合性基(P1、P2、P3、P7、P8、P15、P16、P17)又はエポキシ基(P6、P18)であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基(P1、P7、P8、P15、P16、P17)であることが最も好ましい。
式(A)中、nは4〜12の整数である。具体的な数字は、円盤状コア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとPの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0069】
前記液晶組成物中、液晶化合物は組成物の全量(溶媒を含む場合は固形分)に対し、50質量%〜99.9質量%であるのが好ましく、70質量%〜99.9質量%がより好ましく、80質量%〜99.5質量%がよりさらに好ましい。
【0070】
(その他の添加剤)
上記の液晶化合物と共に、液晶性組成物中には、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶化合物の配向性等を向上させることができる。これらの素材は液晶化合物と相溶性を有し、配向を阻害しないことが好ましい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性もしくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0071】
液晶化合物とともに使用するポリマーは、塗布液を増粘できることが好ましい。ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶化合物の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましい。
【0072】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、フッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば、特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物、特開2005−062673号公報の段落番号[0069]〜[0126]記載の化合物が挙げられる。特に好ましい例として、特開2005−292351号公報明細書中の段落番号[0054]から[0109]に記載のフルオロ脂肪族基含有ポリマーが挙げられる。
【0073】
光学異方性層は、上記成分を含む液晶性組成物を、配向膜の表面(好ましくは、ラビング処理面)上に塗布し、液晶相−固相転移温度以下で配向させ、その後、UV照射によって、重合反応を進行させて、液晶化合物をその配向状態に固定することにより形成することができる。液晶組成物の塗布は、公知の方法(例、バーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。液晶相−固相転移温度としては70℃〜300℃が好ましく、特に70℃〜170℃が好ましい。液晶化合物の重合反応としては、光重合反応が行われる。液晶化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましく、照射エネルギーは、20〜5000mJ/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよく、加熱条件に特に制限はないが、液晶化合物の配向度を低下させないために、120℃程度以下であることがより好ましい。
【0074】
前記光学異方性層の厚さは、0.5〜100μmであることが好ましく、0.5〜30μmであることが更に好ましい。
【0075】
[光学補償フィルムの製造方法]
本発明は、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなる支持体、その上に、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層を、この順で有する光学補償フィルムの製造方法にも関する。なお、本発明の製造方法に用いる液晶組成物は、ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有する。
本発明の光学補償フィルムの製造方法の一態様は、
(1)環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面をコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理する工程、
(2)環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面上に配向膜を形成する工程、
(3)配向膜上に液晶組成物からなる光学異方性層を形成する工程
を、この順序で含むことを特徴とする、光学補償フィルムの製造方法である。
【0076】
本態様では、前記(2)の工程が、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面に硬化性組成物を塗布し、熱及び/又は電離放射線下で硬化して、配向膜を形成する工程であるのが好ましい。また、前記(2)工程の前に、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの前記処理面を除塵する、及び/又は前記配向膜のラビング処理面を除塵するのが好ましい。除塵は、超音波を利用して行うのが好ましい。
【0077】
本発明の光学補償フィルムの製造方法の他の態様は、
(1) 環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類の少なくとも一種を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面を、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理する工程、
(2) 環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの前記処理面に硬化性組成物を塗布する工程、
(3) 硬化性組成物を乾燥する工程、
(4) 乾燥された硬化性組成物に熱及び/又は電離放射線供与下で、硬化して硬化膜を形成する工程、
(5) 硬化膜の表面をラビング処理して配向膜を形成する工程、
(6) 配向膜のラビング処理面を除塵する工程、
(7) 除塵後のラビング処理面上に、液晶組成物から光学異方性層を形成する工程、を、この順序で含むことを特徴とする、光学補償フィルムの製造方法である。
【0078】
また、本発明の光学補償フィルムの製造方法の他の態様は、
(1) 環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類の少なくとも一種を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面を、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理する工程、
(2) 環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの前記処理面を除塵する工程、
(3) 除塵された処理面にポリマー層を形成する工程、
(4) ポリマー層の表面をラビング処理して、配向膜を形成する工程、
(5) ラビング処理面を除塵する工程、
(6) 除塵後のラビング処理面上に、液晶組成物から光学異方性層を形成する工程、を、この順序で含むことを特徴とする、光学補償フィルムの製造方法である。
【0079】
[光学補償フィルムの光学特性評価]
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション(nm)及び厚さ方向のレターデーション(nm)を表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、又は測定値をプログラム等で変換して測定するかできる。
【0080】
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(10)及び式(11)よりRthを算出することもできる。
【0081】
【数1】

式中、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値をあらわす。
また式中、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。
【0082】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)が算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:
セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
また、本明細書において、測定波長を特に付記しない場合は、波長550nmにおけるRe及びRthであるとする。
【0083】
[偏光板]
本発明は、偏光膜と、本発明の光学補償フィルムとを少なくとも有する偏光板にも関する。本発明の偏光板の一例は、偏光膜の一方の表面の保護フィルムとして、本発明の光学補償フィルムを有する偏光板である。保護フィルムとして用いる場合は、支持体である環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの裏面(配向膜が形成されていない側の面)を、本発明の表面処理と同様の親水化処理をしてから偏光膜の表面に貼り付けるのが好ましい。本態様では、Re、Rthの湿度変化に対する変動が小さい環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムが、偏光膜と液晶セルとの間に貼り付けられているので、環境湿度による表示特性(色味や視野角等)の変動が大幅に軽減される。
偏光膜には、例えば、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素にて染色し、延伸を行うことによって得られる偏光膜などが用いられる。
偏光膜の他方の表面にも保護フィルムが貼り付けられているのが好ましく、かかる保護フィルムとしては、セルロースアシレートフィルムや環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム等が用いられる。
【0084】
[液晶表示装置]
本発明の光学補償フィルム及び偏光板は、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
(支持体1の準備)
側鎖にヘテロ原子として酸素原子を含む下記の繰り返し単位を含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム、アートン(JSR製)、をジクロロメタンに溶解して溶液製膜した後にFITZ延伸機((株)市金工業社製)にて幅方向に延伸、長手方向に緩和して、幅1500mm、長さ3000m、膜厚80μm、幅方向に遅相軸を有し、面内レターデーションReが80nm、厚み方向レターデーションRthが60nmの二軸性フィルムを準備した。続いて、その一方の表面を、コロナ放電処理した(電極:VETAPONE社製、Corona-Plus、ジェネレーター:CP1C、出力:900Watt・min./m2、フィルム搬送速度:6m/分)。コロナ放電処理面の水の接触角を、JIS R 3257(1999)に従って測定したところ、50°であった。このコロナ放電処理後の環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体1として用いた。
【0087】
【化28】

【0088】
(配向膜1の形成)
支持体1のコロナ放電処理面を超音波除塵した。除塵後に、コロナ放電処理面に、下記の組成の配向膜形成用硬化性組成物1を、#24のワイヤーバーで24mL/cm2のウエット塗布量で塗布して、温度100℃で2分間乾燥し、その後、温度130℃で2.5分間加熱し、続いて、300mJ/cm2の照射量のUV光を照射して、硬化膜を形成した。この硬化膜の厚さは、1.0μmであった。
・配向膜形成用硬化性組成物1
下記式の変性ポリビニルアルコール 40質量部
水 728質量部
メタノール 228質量部
グルタルアルデヒド 2質量部
クエン酸 0.08質量部
クエン酸モノエチルエステル 0.29質量部
クエン酸ジエチルエステル 0.27質量部
クエン酸トリエチルエステル 0.05質量部
【0089】
【化29】

【0090】
なお、上記のコロナ放電処理装置を、配向膜を塗工する製造工程の送り出し部の近辺に配置し、上記超音波除塵機を、コロナ放電処理装置の直後に配置し、更にその後に、配向膜を塗工するコーター部を配置し、続いて乾燥ゾーン、熱硬化ゾーン、紫外線照射装置を配置し、最後に巻き取り部にてロール状態で巻き取ることで、長尺のフィルム(支持体1)上に、上記硬化膜を連続製造した。この硬化膜は、以下の通り、ラビング処理を施すことによって、配向膜1として利用した。
【0091】
(光学異方性層1の形成)
硬化膜を有するロール状態のフィルムを、光学異方性層を塗工する製造工程の送り出しに配置して送り出し、その先に配置されたラビング装置によって搬送方向に沿って逆回転にラビングロールを回転させて硬化膜の表面をラビング処理し、配向膜1とした。続いてラビング処理面を超音波除塵した。除塵後に、ラビング処理面に、下記の組成の光学異方性層形成用液晶組成物1を、#2のワイヤーバーで3.5mL/cm2のウエット塗布量で塗布して、温度120℃で1.5分間乾燥して、配向させた。その後、温度80℃にフィルム温度を保った状態で120W/cmのメタルハライドランプで照射量200mJ/cm2のUV光を照射して、重合反応を進行させて、配向状態を固定して、光学異方性層1を形成した。引き続き、巻き取り部でロールフィルム状態に巻き取った。光学異方性層1の厚さは、1.4μmであった。
得られたフィルムの光学異方性層1のみをガラス板に転写してKOBRA 21ADHにて測定波長550nmでの光学特性を測定した結果、Re=30nm、Rth=90nmであった。
・光学異方性層形成用液晶組成物1
メチルエチルケトン 102.00質量部
下記構造式に示す円盤状液晶化合物−1 41.01質量部
エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート
(V360、大阪有機 化学(株)製) 4.06質量部
セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)
0.11質量部
セルロースアセテートブチレート
(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社 製) 0.34質量部
下記構造式に示す重合開始剤 1.80質量部
下記構造式に示すフルオロ脂肪族基含有ポリマー1 0.03質量部
下記構造式に示すフルオロ脂肪族基含有ポリマー2 0.23質量部
【0092】
【化30】

【0093】
【化31】

【0094】
【化32】

【0095】
【化33】

【0096】
この様にして、支持体1、配向膜1、及び光学異方性層1からなる光学補償フィルム1を作製した。
【0097】
(接着性評価)
支持体/配向膜界面及び配向膜/光学異方性層界面の接着性を、下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
接着性評価は、JIS K 5400の8.5.2碁盤目テープ法に順じて試験片(配向膜塗布品又は光学異方性層塗布品)を作製して評価した。但し、評価にはJIS規格に指定されたセロテープ(テープ1)に加えて、日東電工製ポリエステル粘着テープNO31RH(テープ2)、剥離強制条件としてより粘着力の高いテープとして日東電工製ポリエステル粘着テープNO31B(テープ3)を使用して同様の評価を行い、接着性評価(強制)とした。
【0098】
[実施例2]
(支持体2の準備)
下記の繰り返し単位を含む環状ポリオレフィン系ポリマーAppear3000(Ferrania社製)、を実施例1と同様にしてジクロロメタンに溶解して溶液製膜した後に幅方向及び長手方向に延伸して、幅1500mm、長さ3000m、膜厚80μ、幅方向に遅相軸を有し、面内レターデーションReが30nm、厚み方向レターデーションRthが330nmの二軸性フィルムを準備し、その一方の表面を、実施例1と同様にしてコロナ放電処理した。コロナ放電処理面の水の接触角を測定したところ、40°であった。このコロナ放電処理後の環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体2として用いた。
【0099】
【化34】

【0100】
支持体1の代わりに、支持体2を用い、配向膜のラビング方向を支持体の長手方向に対して45°とした以外は、実施例1と同様にして、配向膜及び光学異方性層を形成し、光学補償フィルム2を作製した。実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例3]
(支持体3の準備)
表面処理を大気圧プラズマ処理(電極:積水化学工業(株)製、条件:雰囲気酸素濃度:3体積%(97%窒素)、周波数:30Hz、フィルム搬送速度:1m/分)とした以外は実施例1と同様にして、幅1500mm、長さ3000m、膜厚80μm、幅方向に遅相軸を有し、面内レターデーションReが80nm、厚み方向レターデーションRthが60nmの二軸性フィルムを準備した。そのプラズマ処理面の水の接触角を、上記と同様にして測定したところ、35°であった。この大気圧プラズマ処理後の環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体3として用いた。
【0102】
支持体1の代わりに、支持体3を用いた以外は、実施例1と同様にして、配向膜及び光学異方性層を形成し、光学補償フィルム3を作製した。実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
長手方向及び幅方向に延伸した以外は、実施例1と同様に支持体4を準備し(Re:0.7nm、Rth:41nm、膜厚90μm)、その後、同様に配向膜1を形成した。
(光学異方性層4の形成)
配向膜1のラビング処理面を超音波除塵した。除塵後に、ラビング処理面に、下記の組成の光学異方性層形成用液晶組成物4を、#4のワイヤーバーで塗布して、100℃で3分間乾燥して、配向させ、その後、照射エネルギー100mJ/cm2のUV光を照射して、重合反応を進行させて、配向状態を固定して、光学異方性層4を形成した。光学異方性層4の厚さは、1.2μmであった。得られたフィルムの光学異方性層のみをガラス板に転写してKOBRA 21ADHにて測定波長550nmでの光学特性を測定した結果、Reが30nm、及びRthが−80nmであった。
・光学異方性層形成用液晶組成物4
トルエン 100質量部
下記の構造のネマチック棒状液晶化合物−1 20質量部
実施例1で使用の重合開始剤 1質量部
【0104】
【化35】

【0105】
この様にして、支持体4、配向膜1及び光学異方性層4からなる光学補償フィルム4を作製した。実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
(支持体C1の準備)
支持体1と同様にして、環状ポリオレフィン系ポリマー、及びアートン(JSR製)を原料とした溶液を用いて溶液製膜し、その後なんら処理を行わなかった。この環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体C1として用いた。
【0107】
支持体1の代わりに、支持体C1を用いた以外は、実施例1と同様にして、配向膜及び光学異方性層を形成し、光学補償フィルムC1を作製した。実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
[比較例2]
(支持体C2の準備)
支持体2と同様、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム、Appear3000(Ferrania社製)、を原料として溶液製膜し、その後なんら処理を行わなかった。この環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体C2として用いた。
【0109】
支持体1の代わりに、支持体C2を用いた以外は、実施例1と同様にして、配向膜及び光学異方性層を形成し、光学補償フィルムC2を作製した。実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表中の評価基準は以下の通りである。
[接着性の評価基準]
A:碁盤目すべてにおいて剥離なし
B:碁盤目全マスのうち、10%以内で剥離あり
C:碁盤目全マスのうち、11〜25%以内で剥離あり
D:碁盤目全マスのうち、26〜50%以内で剥離あり
E:碁盤目全マスのうち、51%以上で剥離あり
[トータルの評価の基準]
◎:支持体/配向膜界面、配向膜/光学異方性層界面で剥離なし
○:支持体/配向膜界面、配向膜/光学異方性層界面のいずれか一方で剥離なし
×:支持体/配向膜界面、配向膜/光学異方性層界面の両方で剥離あり
【0112】
表1に示す結果から、本発明の実施例の光学補償フィルムは、コロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理を施されていない支持体を用いた比較例と比較して、トータルでの耐久性に優れていることが理解できる。
【0113】
[実施例5〜7]
光学補償フィルム1の作製と同様にして、光学補償フィルム5〜7を作製した。但し、配向膜を形成する際に、実施例5では、硬化時に130℃で2.5分間加熱し、UV照射は行なわず;実施例6では、硬化時に加熱せず、照射量300mJ/m2のUV照射のみ行い;実施例7では、100℃の乾燥のみ行い、その後の加熱もUV照射も行なわなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、光学補償フィルム5〜7を作製した。
【0114】
光学補償フィルム1と同様にして、接着性を評価した。結果を表2に示す。表2中には、実施例1で作製した光学補償フィルム1の評価結果も再度示す。
また、形成した配向膜それぞれの膨潤度を、下記の方法で測定した。結果を表2に示す。
膨潤度を測定するフィルムを、ミクロトームを用いて約200nmの切片に切削し、倍率1万倍〜3万倍でTEM観察を実施した。更に同一フィルムから同様にして切削した切片を25℃の純水中に5分間浸漬し、配向膜が膨潤した後に同倍率でTEM観察した。以上の作業を3回繰り返して、光学補償フィルムを30分間浸漬した前後での配向膜の膜厚の平均値の比((膨潤後の配向膜の平均膜厚)÷(膨潤前の配向膜の平均膜厚))を、膨潤度とした。
【0115】
【表2】

【0116】
表2に示した結果から、配向膜を硬化性組成物を利用して形成すると、支持体/配向膜界面の接着性がより改善されること、特に硬化時に加熱及びUV照射の双方を行うと、さらに接着性がより改善されることが理解できる。実施例6及び7では、最終形態では接着性に問題ないが、配向膜までの中間製品の接着性が悪く、次工程でのハンドリング中のトラブルや、配向膜まで形成した状態で長尺ロール形態で保管した後の配向膜の支持体裏面への部分的な転写等のトラブルにより、製造工程での歩留まりが悪化する可能性があり、これらも考慮すると、実施例1及び5が好ましく、実施例1が最も好ましかった。
【0117】
[実施例8]
側鎖にヘテロ原子を含まない環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム、ゼオノアZF−14(日本ゼオン(株)製)をFITZ延伸機((株)市金工業社製)にて幅方向に延伸、長手方向に緩和して、膜厚95μm、面内レターデーションReが80nm、厚み方向レターデーションRthが60nmの二軸性フィルムを準備した。その一方の表面を、実施例1と同様にしてコロナ放電処理した。コロナ放電処理面の水の接触角は40°であった。このコロナ放電処理後の環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムを、支持体9として用いた。
【0118】
支持体1の代わりに、支持体9を用いた以外は、実施例7と同様にして、配向膜及び光学異方性層を形成して光学補償フィルム8を作製し、実施例1と同様に、接着性を評価した。結果を表4に示す。
【0119】
[実施例9〜15]
実施例1と同様の方法で、光学補償フィルム9〜15を作製した。ただし、光学異方性層形成用液晶組成物1の調製時に用いた円盤状液晶化合物−1 41.01質量部の代わりに、下記表3に示す円盤状液晶化合物−2A 36.91質量部、及び円盤状液晶化合物−2B 4.10質量部を用いて調製した光学異方性層形成用液晶組成物9〜15をそれぞれ塗布し、光学異方性層9〜15を形成した。光学異方性層9〜15の厚さは、いずれも1.1μmであった。光学異方性層9〜15のみをガラス板にそれぞれ転写して、KOBRA 21ADHにて測定波長550nmでの光学特性を測定した結果、いずれもRe=30nm、Rth=90nmであった。
【0120】
【表3】

【0121】
上記実施例9〜15で作製した光学補償フィルム9〜15について、実施例1と同様にして、接着性を評価した。結果を表4に示す。尚、下記の表4には、実施例8及び9(光学補償フィルム8及び9)の結果のみを記載しているが、実施例10〜15(光学補償フィルム10〜15)はいずれも、実施例9とほぼ同様の性能を示した。
【0122】
【表4】

【0123】
実施例8〜15の光学補償フィルム8〜15では、支持体−配向膜界面の接着性が実施例7と比較して良好であった。
実施例8が実施例7に比べて良好であった原因の詳細は不明であるが、支持体にヘテロ原子を含まないゼオノアが、コロナ放電処理によって、より親水性基が導入されやすいことを示唆する表面解析結果が得られており、親水性の高い配向膜との接着性がより向上したためと推定される。
まとめると、表2及び表4に示した結果から、側鎖にヘテロ原子を含まない環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムは、より簡易な工程でフィルムと配向膜との接着性を改善できることが理解できる。
【0124】
さらに、実施例1で作製した光学補償フィルム1及び実施例9〜15で作製した光学補償フィルム9〜15のそれぞれについて、測定波長400nm〜700nmの範囲で、10nmごとにReを測定し、横軸に測定波長λ、及び縦軸に各波長λでのReを波長550nmのReで割った値(Re(λ)/Re(550))をそれぞれプロットし、グラフを作成した。そのグラフを図1に示す。図1には、実施例1及び9が記載されているが、実施例10〜15でも実施例9と同様の結果が得られた。図1中には、参考として、一般的なTNモード液晶セル(参考値)の各波長におけるΔn・dを波長550nmのΔn・dで割った値を、同様にプロットした曲線を示した。
図1に示した結果より、実施例9〜15の光学補償フィルム9〜15は、実施例1の光学補償フィルム1と比較して、曲線の傾き(右下がり)がより小さく、TNモード液晶セル(参考値)の曲線に近づいていることが理解できる。即ち、図1に示す結果から、光学補償フィルム9〜15は、光学補償フィルム1と比較して、Reの波長分散性が、TNモード液晶セルのΔn・dの波長分散性に近似していて、より正確な光学補償が可能であることが理解できる。
従って、固有複屈折の波長分散が比較的フラットに近い(即ち、一般的なTNモードの液晶セルの複屈折性の波長分散性と類似した)光学異方性層を形成するために、円盤状液晶化合物−2のような構造の液晶化合物を用いて光学異方性層を形成した場合であっても、良好な接着性が得られることがわかった。
【0125】
[実施例16]
<TNモード液晶表示装置での実装評価>
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。次に、実施例1、3、4、8、9〜15で作製した光学補償フィルムの支持体側を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光膜の片側に貼り付けた。光学補償フィルムの光学異方性層の遅相軸と偏光膜の透過軸とが平行になるように配置した。
市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)を前記と同様に鹸化処理し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側(光学フィルムを貼り付けなかった側)に貼り付けた。このようにして、楕円偏光板を作製した。
(TNモード液晶表示装置の作製)
TN型液晶セルを使用した20インチの液晶表示装置(シャープ製)に設けられている一対の偏光板(上側偏光板、及び下側偏光板)を剥がし、代わりに作製した上記偏光板を、光学補償フィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側及びバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。このとき、観察者側の偏光板(上側偏光板)の透過軸と、バックライト側の偏光板(下側偏光板)の透過軸とが直交するように各偏光板を配置した。
【0126】
(液晶表示装置の評価)
作製された液晶表示装置について、コントラスト視野角を評価した。
具体的には、常温常湿(25℃60%RH)の部屋で1週間放置した前記液晶表示装置を測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で色味、コントラスト比(白表示時の透過率/黒表示時の透過率)を測定した。コントラストはコントラスト比(白表示時の透過率/黒表示時の透過率)から算出した値である。コントラスト比が10以上で黒表示時の階調反転のない極角範囲を測定し、以下の基準で評価した。
実施例10〜15で作製した光学補償フィルムを用いた液晶表示装置におけるコントラスト視野角の評価は、実施例9と同様の結果となった。結果を表5に示す。
(評価基準)
[コントラスト視野角(コントラスト比が10以上で黒側の階調反転のない極角範囲)の評価基準]
◎ 上下左右で極角80°以上
〇 上下左右の内、3方向のみで極角80°以上
× 上下左右の内、2方向のみで極角80°以上
【0127】
[実施例17]
<OCBモード液晶表示装置での実装評価>
(楕円偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。次に、実施例2で作製した光学補償フィルムの支持体側を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光膜の片側に貼り付けた。光学補償フィルムの長手方向と偏光膜の吸収軸とが平行になるように配置した。
市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UF、富士フイルム(株)製)を前記と同様に鹸化処理し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側(光学補償フィルムを貼り付けなかった側)に貼り付けた。このようにして、楕円偏光板を作製した。
(OCBモード液晶セルの作製)
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた二枚のガラス基板を、ラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、液晶セルの厚さを7.2μmに設定した。液晶セルの間隙に、Δnが0.1396の液晶化合物(ZLI1132、メルク社製)を注入し、ベンド配向したOCBモード液晶セルを作製した。
【0128】
(液晶表示装置の作製)
上記ベンド配向液晶セルと上記一対の偏光板とを組み合わせて、液晶表示装置を作製した。具体的には、作製したベンド配向液晶セルの視認側透明基板及びバックライト側透明基板に、偏光板をそれぞれ貼り付けて、液晶表示装置を作製した。
なお、ベンド配向液晶セルと、一対の偏光板との配置は、光学異方性層及びベンド配向液晶セルの基板が対面し、ベンド配向液晶セルのラビング方向とそれに対向する学異方性層のラビング方向とが反平行になるようにした。
この様にして、ベンド配向液晶セルの大きさが20インチである液晶表示装置を作製した。
【0129】
(液晶表示装置の評価)
実施例16と同様にして、上記で作製したOCBモード液晶表示装置の評価を実施した。結果を下記表5に示す。なお、下記表5中、「ブランク」とは、実施例で作製した光学補償フィルムを利用していない偏光板を用いて作製した液晶表示装置である。
【0130】
【表5】

【0131】
上記表に示した結果から、TNモード液晶表示装置及びOCBモード液晶表示装置に、本発明の実施例の光学補償フィルムを用いると(特に、TNモードでは、実施例1、3、8、9〜15の光学補償フィルムを用いると、及びOCBモードでは、実施例2の光学補償フィルムを用いると)、コントラスト視野角が格段に改善されることが理解できる。また、TNモード液晶表示装置では、実施例9〜15の光学補償フィルム9〜15を用いた場合には、正面の色味及び正面コントラストが更に改善されていた。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1及び実施例9で作製した光学補償フィルム1及び9のReの波長分散特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層をこの順で有する光学補償フィルムであって、前記支持体が、環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類の少なくとも一種を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなり、且つコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理を施された処理面を有し、前記配向膜が、前記支持体の前記処理面に接触して配置され、前記液晶組成物が、ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有し、及び前記光学異方性層が、前記配向膜上で、前記液晶組成物を重合により硬化して形成された層であることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項2】
前記配向膜の膨潤度が、1〜2であることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルム。
(但し、膨潤度とは、配向膜を形成する際に用いる塗布組成物を溶解する溶媒中、最も高い含率で含まれる溶媒中に、光学補償フィルムを浸漬した前後での配向膜の膜厚の比((膨潤後の配向膜膜厚)÷(膨潤前の配向膜膜厚))として定義される。)
【請求項3】
前記配向膜が、前記支持体の前記処理面に塗布された硬化性組成物を、加熱下で電離放射線を照射することによって硬化させて形成された層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
前記環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムが、ヘテロ原子を含む置換基を少なくとも一つ有する環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
前記ラジカル重合開始剤が、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学補償フィルム:
【化1】

式中、Xはハロゲン原子を表し;Yは−CX3、−NH2、−NHR’、−NR’2又は−OR’を表し;R’はアルキル基又はアリール基を表し;Rは、−CX3、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、又は置換アルケニル基を表す。
【請求項6】
前記液晶組成物が、ディスコティック液晶化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項7】
前記液晶組成物が、棒状液晶化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項8】
偏光膜と、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学補償フィルムとを少なくとも有する偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を少なくとも一つ有する液晶表示装置。
【請求項10】
TNモード又はOCBモードであることを特徴とする請求項9に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムからなる支持体、その上に、配向膜及び液晶組成物から形成された光学異方性層を、この順で有する光学補償フィルムの製造方法であって、
(1)環状脂肪族環を含む繰り返し単位を有する環状ポリオレフィン類を主成分として含む環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムの表面をコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理する工程、
(2)環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面上に配向膜を形成する工程、
(3)ハロゲンラジカル又は水素原子を除く原子の数が8以下の炭化水素ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含有する液晶組成物を重合により硬化して、光学異方性層を前記配向膜上に形成する工程
を、この順序で含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記(2)の工程が、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面に硬化性組成物を塗布し、加熱下で電離放射線を照射することによって硬化させて、配向膜を形成する工程であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記(2)工程の前に、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルムのコロナ放電処理又は大気圧プラズマ処理された処理面を除塵することを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記(3)工程の前に、配向膜のラビング処理面を除塵することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
超音波を利用して除塵することを特徴とする請求項13又は14に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−69821(P2009−69821A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209160(P2008−209160)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】