説明

光学補償フィルムとその製造方法

【課題】液晶表示装置に備え長時間使用した場合でも、屈折率楕円体の光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性の変化が殆どなく、表示ムラが発生しにくい光学補償フィルムを提供する。また、その製造方法を提供する。
【解決手段】傾斜配向処理を施された光学補償フィルムの製造方法であって、(1)溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比を特定範囲内とし、かつ、(2)前記工程を経て製膜された原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程において、当該温度勾配を特定範囲内とすること、により傾斜配向処理を施すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学軸をフィルム面方向から傾斜させた光学補償フィルムとその製造方法に関する。すなわち、TN型液晶表示装置用光学補償フィルムとして適した光学補償フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置においては、光学補償のために各種位相差フィルムが使用されており、例えば、ツイストテッドネマティック(Twisted Nematic:ねじれネマティック:以下「TN」と称す。)型液晶表示装置用光学補償フィルムは、視野拡大のために光学軸がフィルム面方向から傾斜している部分がフィルム面内に必要であることが知られている。このため、支持体フィルム上に液晶化合物をコーティングし、ラビング処理することで液晶分子の方向をフィルム面方向から傾斜させ、光学軸をフィルム面方向から傾斜させたものが一般に市場に提供されている。
【0003】
しかしながら、当該TN型液晶表示装置用光学補償フィルムは、その構成及び製造方法が複雑であり、生産性が悪く、高コストであるという問題がある。
【0004】
このため、生産性に優れ、液晶層を必要としないシンプルな樹脂フィルムの光学軸をフィルム面方向から傾斜させた光学フィルムである光学補償フィルムが提案されている(例えば特許文献1〜3参照。)。
【0005】
しかし、これらの方法では光学軸をフィルム面方向から傾斜させる達成手段が、フィルムを周速が異なる。
【0006】
二本のローラ間に挟んで、当該フィルムの面方向にせん断力を加えることによって、フィルムに歪み変形を与え、光学軸をフィルム面方向から傾斜させるため、ローラとフィルムのスリップによってフィルム表面に微細な擦り傷が生じ、液晶表示装置に用いると、擦り傷が、輝点欠陥として目立つという欠点があった。また、ローラとフィルムの摩擦力が安定せず、せん断力のコントローラが難しく、結果としてフィルム面方向から傾斜させる光学軸のコントローラが難しいという欠点がる。このようなばらつきの問題を改良するために特許文献4に記載のように表面硬度の異なる二本のローラを使用する方法などが提案されている。しかしながら、このような光学軸がフィルム面方向から傾斜している光学補償フィルムを液晶表示装置に備え長時間使用した場合、屈折率楕円体の光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性が変化し、表示ムラが発生しやすいという新たな課題が見出された。この課題は従来技術ではどのような方法を用いても改良できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−222213号公報
【特許文献2】特開平7−333437号公報
【特許文献3】特開2007−38646号公報
【特許文献4】特開2002−365428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、光学軸がフィルム面方向から傾斜している光学補償フィルムを液晶表示装置に備え長時間使用した場合でも、屈折率楕円体の光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性の変化が殆どなく、表示ムラが発生しにくい光学補償フィルムを提供すること及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.傾斜配向処理を施された光学補償フィルムの製造方法であって、(1)溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比n(但し、n=(V1−V2)/V1;V1、V2:一対のローラの周速、V1>V2)を、0.01〜0.05の範囲内とし、かつ、(2)前記工程を経て製膜された原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程において、当該温度勾配を、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内とし、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内とすること、により傾斜配向処理を施すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0011】
2.ウェブ及び原反フィルムに傾斜配向処理を施すことにより製造された光学補償フィルムであって、当該光学補償フィルムの面の法線方向を0°、当該法線と当該光学補償フィルムのリターデーション値の測定軸との角度を測定角度θ(0°を含む。)、当該測定角度θにおけるリターデーション値をR(θ)、当該R(θ)が最小値又は最大値を示す測定角度θを傾斜角度βとしたときに、(1)前記測定軸の方向から測定したリターデーション値R(θ)が、前記0°におけるリターデーション値を中心として、測定角度が+側と−側とで、そのリターデーション値の変化が非対称となり、前記傾斜角度βが5〜85°の範囲であり、かつ(2)当該光学補償フィルムを温度90℃での相対湿度が0%RHである環境下に1000時間保存した後の前記傾斜角βの変化率が、0.5〜1%の範囲内であることを特徴とする光学補償フィルム。
【0012】
3.前記原反フィルムが、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムであり、当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たすことを特徴とする前記2に記載の光学補償フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記手段により、液晶表示装置に備え長時間使用した場合でも、屈折率楕円体の光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性の変化が殆どなく、表示ムラが発生しにくい光学補償フィルムを提供することができる。また、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学補償フィルムにおける、リターデーション値の測定角度とリターデーション値との関係を示すグラフ
【図2】光学補償フィルムの屈折率楕円体を示す概念図
【図3】フィルムに対する駆動ローラと追随回転ローラの作用効果を示す概念図
【図4】本発明に係る駆動ローラと追随回転ローラの配置例を示す模式図
【図5】本発明で好ましい予熱ローラを用いた圧延処理装置の模式図
【図6】TN型液晶表示に本発明の光学補償フィルムを用いた構成例である。
【図7】偏光板の液晶のツイスト角、ラビング軸および透過軸との関係を示す概念図
【図8】光学補償フィルムの製膜工程の模式図
【図9】傾斜配向処理工程を示す模式図
【図10】活性光線照射後に連続して加熱処理する工程を示した概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光学補償フィルムの製造方法は、傾斜配向処理を施された光学補償フィルムの製造方法であって、(1)溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比n(但し、n=(V1−V2)/V1;V1、V2:一対のローラの周速、V1>V2)を、0.01〜0.05の範囲内とし、かつ、(2)前記工程を経て製膜された原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程において、当該温度勾配を、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内とし、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内とすること、により傾斜配向処理を施すことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項3までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0016】
本発明の上記製造方法によって製造された光学補償フィルムは、ウェブ及び原反フィルムに傾斜配向処理を施すことにより製造された光学補償フィルムであって、当該光学補償フィルムの面の法線方向を0°、当該法線と当該光学補償フィルムのリターデーション値の測定軸との角度を測定角度θ(0°を含む。)、当該測定角度θにおけるリターデーション値をR(θ)、当該R(θ)が最小値又は最大値を示す測定角度θを傾斜角度βとしたときに、(1)前記測定軸の方向から測定したリターデーション値R(θ)が、前記0°におけるリターデーション値を中心として、測定角度が+側と−側とで、そのリターデーション値の変化が非対称となり、前記傾斜角度βが5〜85°の範囲であり、かつ(2)当該光学補償フィルムを温度90℃での相対湿度が0%RHである環境下に1000時間保存した後の前記傾斜角βの変化率が、0.5〜1%の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明においては、前記原反フィルムが、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムであり、当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たす態様であることが好ましい。
【0018】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。
【0019】
(原反フィルム)
本願において、「原反フィルム」とは、本発明の光学補償フィルムとしての光学特性、例えば、屈折率楕円体の率光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性を付与するための処理(「傾斜配向処理」ともいう。)を施す前のフィルムをいう。
【0020】
本発明に係る原反フィルムを構成するための素材としては、後述する従来公知の種々の樹脂を用いることができる。
【0021】
本発明の光学補償フィルムは、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムを用いて製造されたものであることが好ましい。この場合、当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たす態様であることが好ましい。なお、後述する樹脂種の選択、組成の調整、ハードコート層の塗設等により、当該関係式を満たすたす範囲内に制御することができる。
【0022】
本発明において用いることができる樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であっても良いが、取り扱い性の観点より、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、例えば、セルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、および脂環式オレフィンポリマーなどを挙げることができる。この中でも、熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂、及びアクリル樹脂が好ましい。また、特開2004−212971号公報に記載されている光弾性係数が60×10−8cm/N以上であるポリマー材料である、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびポリエステルイミド樹脂も好ましく用いることができる。以下、特に好ましい樹脂について説明をする。
【0024】
〈セルロースエステル樹脂〉
本発明に用いることができるセルロースエステル樹脂は、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0025】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0026】
混合脂肪酸エステルの置換度として、更に好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂であることが好ましい。
【0027】
式(I) 2.6≦X+Y≦3.0
式(II) 1.0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.9≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦0.9であることが好ましい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0028】
更に、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、更に好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0029】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
【0030】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0031】
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。pHが6未満の場合、残留有機酸が加熱溶融時にセルロースの劣化を促進させる恐れがあり、pHが7より高い場合、加水分解が促進する恐れがある。また、電気伝導度が100μS/cm以上の場合、残留イオンが比較的多く存在するため、加熱溶融時にセルロースを劣化させる要因になると考えられる。
【0032】
〈ポリカーボネート樹脂〉
本発明では、種々の公知のポリカーボネート樹脂も使用することができる。本発明においては、特に芳香族ポリカーボネートを用いることが好ましい。当該芳香族ポリカーボネートについて特に制約はなく、所望するフィルムの諸特性が得られる芳香族ポリカーボネートであれば特に制約はない。
【0033】
一般に,ポリカーボネートと総称される高分子材料は,その合成手法において重縮合反応が用いられて,主鎖が炭酸結合で結ばれているものを総称するが,これらの内でも,一般に,フェノール誘導体と、ホスゲン、ジフェニルカーボネートらから重縮合で得られるものを意味する。通常、ビスフェノール−Aと呼称されている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とする繰り返し単位で表される芳香族ポリカーボネートが好ましく選ばれるが,適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで,芳香族ポリカーボネート共重合体を構成することができる。
【0034】
かかる共重合成分としてこのビスフェノール−A以外に,ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0035】
また、一部にテレフルタル酸及び/又はイソフタル酸成分を含む芳香族ポリエステルカーボネートを使用することも可能である。このような構成単位をビスフェノール−Aからなる芳香族ポリカーボネートの構成成分の一部に使用することにより芳香族ポリカーボネートの性質、例えば耐熱性、溶解性を改良することができるが,このような共重合体についても本発明は有効である。
【0036】
ここで用いられる芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、10000以上、200000以下であれば好適に用いられる。粘度平均分子量20000〜120000が特に好ましい。粘度平均分子量が10000より低い樹脂を使用すると得られるフィルムの機械的強度が不足する場合があり,また400000以上の高分子量になるとドープの粘度が大きくなり過ぎ取扱い上問題を生じるので好ましくない。粘度平均分子量は市販の高速液体クロマトグラフィ等で測定することができる。
【0037】
本発明に係る芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度は200℃以上であることが高耐熱性のフィルムを得る上で好ましく、より好ましくは230℃以上である。これらは、上記共重合成分を適宜選択して得ることができる。ガラス転移温度は、DSC装置(示差走査熱量分析装置)にて測定することができ、例えばセイコー電子工業株式会社製:RDC220にて、10℃/分の昇温条件によって求められる、ベースラインが偏奇し始める温度である。
【0038】
なお、ポリカーボネート樹脂を溶融押出し法により製膜する具体的方法については、特開2001−353767号公報の記載が参考となる。
【0039】
〈環状オレフィン樹脂〉
本発明においては、環状オレフィン樹脂を用いることも好ましい。環状オレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0040】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0041】
これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0042】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0044】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体などが挙げられる。
【0045】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0046】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0047】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0048】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0049】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90質量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの質量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学補償フィルム(光学フィルム)を得ることができる。
【0050】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定される。溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常20,000〜150,000である。好ましくは25,000〜100,000、より好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0051】
環状オレフィン樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよい。耐久性及び延伸加工性の観点から、好ましくは130〜160℃、より好ましくは135〜150℃の範囲である。
【0052】
環状オレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、緩和時間、生産性等の観点から、1.2〜3.5、好ましくは1.5〜3.0、さらに好ましくは1.8〜2.7である。
【0053】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。環状オレフィン樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、延伸フィルムの面内リターデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0054】
本発明において、環状オレフィン樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、環状オレフィン樹脂からなるフィルムへ粒子を添加しても、未添加状態からのヘイズの上昇巾が0.05%以下の範囲である量までは許容できることを意味する。特に、脂環式ポリオレフィン樹脂は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた粒子を添加した環状オレフィン樹脂フィルムを延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0055】
本発明において、環状オレフィン樹脂に荷重たわみ温度調整剤を入れることにより、上述したように優れた延伸適性を持たせ、高温下における光学特性の変化を改良した光学補償フィルムを得ることができる。
【0056】
これは、樹脂のガラス転位温度Tg(℃)と、荷重たわみ温度Tt(℃)との差が大きくなる事により、低温においてもフィルムに無理な力がかかることなく延伸ができ、その結果、リターデーションのムラが大幅に低減され、またリターデーションの熱緩和特性も改良されると考えられる。
【0057】
具体的には、TgとTtとの差が、Tg−Tt=5〜30(℃)であり、より好ましくは10〜30(℃)である。
【0058】
なお、熱可塑性フィルムには、上記の樹脂以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。高分子材料やオリゴマーとしては、セルロースエステル樹脂等と相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合する目的は、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上するために行う意味を含んでいる。
【0059】
(その他添加剤)
本発明に係る原反フィルムには、目的に応じて種々の化合物等を添加剤として含有させることができる。例えば、可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、光学異方性制御剤、マット剤、帯電防止剤、剥離剤、等を含有させることができる。
【0060】
前記添加剤の中で、本発明に有効に寄与するのは光学異方性制御剤であり、特にリターデーション上昇剤が光学的に複屈折性を本願目的の平面から斜め方向に発現し易くするため好ましい。リターデーション上昇剤は、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物が好ましい。芳香族化合物は、樹脂の100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用することが好ましい。そして、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環又は7員環であることが好ましく、5員環又は6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピローラ環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。これらについては、特開2004−109410号、特開2003−344655号、特開2000−275434号、特開2000−111914号、特開平12−275434号公報などに詳細が記載されている。
【0061】
(マット剤)
本発明に係る原反フィルムは、作製されたフィルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり、搬送性が悪化することを防止するために、マット剤として、微粒子を添加することが好ましい。
【0062】
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0063】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。原反フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の原反フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0064】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0065】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0066】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0067】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが原反フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明の原反フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0068】
(ハードコート層)
本発明の光学補償フィルムは、上述したように、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムを用いて製造されたものであることが好ましい。
【0069】
この場合、一つの好ましい手段として、前記原反フィルム上にハードコート層を塗設し、積層型原反フィルムとして、傾斜配向処理を施す手段を採用し得る。
【0070】
当該ハードコート層には、バインダー成分として、活性線硬化樹脂等の硬化製樹脂を含有させることにより当該ハードコート層の弾性率を制御することが好ましい。
【0071】
ここで、「活性線硬化樹脂」とは、紫外線や電子線のような活性線(「活性エネルギー線」ともいう。)照射により、架橋反応を経て硬化する樹脂を主たる成分とする樹脂をいう。
【0072】
〈活性線硬化樹脂〉
活性線硬化樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性線を照射することによって硬化させて活性線硬化樹脂層が形成される。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する樹脂が機械的膜強度(耐擦傷性、鉛筆硬度)に優れる点から好ましい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。中でも紫外線硬化型アクリレート系樹脂が好ましい。紫外線硬化型アクリレート系樹脂としては、多官能アクリレートが好ましい。該多官能アクリレートとしては、ペンタエリスリトール多官能アクリレート、ジペンタエリスリトール多官能アクリレート、ペンタエリスリトール多官能メタクリレート、およびジペンタエリスリトール多官能メタクリレートよりなる群から選ばれることが好ましい。ここで、多官能アクリレートとは、分子中に2個以上のアクリロイルオキシ基又はメタクロイルオキシ基を有する化合物である。多官能アクリレートのモノマーとしては、例えばエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチローラプロパントリアクリレート、トリメチローラエタントリアクリレート、テトラメチローラメタントリアクリレート、テトラメチローラメタンテトラアクリレート、ペンタグリセローラトリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチローラプロパントリメタクリレート、トリメチローラエタントリメタクリレート、テトラメチローラメタントリメタクリレート、テトラメチローラメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセローラトリメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、イソボロニルアクリレート等が好ましく挙げられる。これらの化合物は、それぞれ単独又は二種以上を混合して用いられる。また、上記モノマーの2量体、3量体等のオリゴマーであってもよい。
【0073】
又はドコート層には活性線硬化樹脂の硬化促進のため、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤量としては、質量比で、光重合開始剤:活性線硬化樹脂=20:100〜0.01:100で含有することが好ましい。
【0074】
光重合開始剤としては、具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等およびこれらの誘導体を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0075】
〈溶媒〉
本発明に係るハードコート層を原反フィルム上に塗布して形成(塗設)する際の塗布組成物には、溶媒として、前記熱可塑性樹脂に対する良溶媒、及び前記熱可塑性樹脂に対する貧溶媒からなる混合溶媒が用いられることが好ましい。ここで、良溶媒及び貧溶媒とは、以下に示す方法で測定した溶解性を有する溶媒を指す。
【0076】
前記熱可塑性樹脂の固形分3g相当に、溶解性を測定しようとする溶媒を全量が20gになるように加え、温度25℃にてかきまぜた場合に、均一で透明性を有し、粘度変化がなく相溶したものを、該試料に対し良溶媒であるとし、一方、にごりが認められたり、増粘、分離が認められたものを、該試料に対し貧溶媒であるとする。
【0077】
熱可塑性樹脂が、例えばポリエステル系樹脂又はポリエステルウレタン系樹脂である場合、良溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどを例示することができる。一方、貧溶媒としては、キシレン、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブタノール、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ヘキサン、精製水などを例示することができる。また、熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂である場合、良溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、キシレンなどを例示することができる。一方、貧溶媒としては、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブタノール、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ヘキサン、精製水などを例示することができる。なお、前記の良溶媒、及び精製水を除く貧溶媒は、いずれも、通常用いられる活性線硬化樹脂に対して、良溶媒である。
【0078】
本発明においては、熱可塑性樹脂に対して良溶媒及び貧溶媒は、ともに一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
また、本発明に係るハードコート層には、無機化合物又は有機化合物の微粒子を含有してもよい。
【0080】
〈微粒子〉
無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。特に、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等が好ましく用いられる。
【0081】
これら無機微粒子は、ハードコートフィルムの透明性を維持しつつ耐擦傷性が向上することから、表面の一部に反応性官能基を有する有機成分が被覆されたものが好ましい。表面の一部に反応性官能基を有する有機成分を被覆する方法としては、例えば、金属酸化物微粒子の表面に存在する水酸基にシランカップリング剤等の有機成分を含む化合物が反応して、表面の一部に有機成分が結合した態様、金属酸化物微粒子の表面に存在する水酸基に水素結合等の相互作用により有機成分を付着させた態様や、ポリマー粒子中に1個又は2個以上の無機微粒子を含有する態様などが挙げられる。
【0082】
また、有機粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、又はポリ弗化エチレン系樹脂粉末等を添加することができる。
【0083】
好ましい微粒子は、架橋ポリスチレン粒子(例えば、綜研化学製SX−130H、SX−200H、SX−350H)、ポリメチルメタクリレート系粒子(例えば、綜研化学製MX150、MX300)、フッ素含有アクリル樹脂微粒子が挙げられる。フッ素含有アクリル樹脂微粒子としては、例えば日本ペイント製:FS−701等の市販品が挙げられる。また、アクリル粒子として、例えば日本ペイント製:S−4000、アクリル−スチレン粒子として、例えば日本ペイント製:S−1200、MG−251等が挙げられる。
【0084】
これらの微粒子粉末の平均粒子径は特に制限されないが、0.01〜5μmが好ましく、更には、0.01〜1.0μmであることが特に好ましい。また、粒径の異なる二種以上の微粒子を含有しても良い。微粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0085】
紫外線硬化樹脂組成物と微粒子の割合は、樹脂組成物100質量部に対して、1〜400質量部となるように配合することが望ましく、更に望ましくは、50〜200質量部である。
【0086】
これらのハードコート層はグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法を用いて、ハードコート層を形成する塗布組成物を塗布し、塗布後、加熱乾燥し、UV硬化処理することで形成できる。
【0087】
塗布量はウェット膜厚として0.1〜40μmが適当で、好ましくは、0.5〜30μmである。また、ドライ膜厚としては平均膜厚0.1〜30μm、好ましくは1〜20μm、特に好ましくは6〜15μmである。
【0088】
UV硬化処理の光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。
【0089】
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は、通常5〜500mJ/cm、好ましくは5〜200mJ/cmである。
【0090】
また、活性線を照射する際には、フィルムの搬送方向に張力を付与しながら行うことが好ましく、更に好ましくは幅方向にも張力を付与しながら行うことである。付与する張力は30〜300N/mが好ましい。張力を付与する方法は特に限定されず、バックローラ上で搬送方向に張力を付与してもよく、テンターにて幅方向、又は2軸方向に張力を付与してもよい。これによって更に平面性の優れたフィルムを得ることができる。
【0091】
ハードコート層には、帯電防止性を付与するために導電剤を含んでも良く、好ましい導電剤としては、金属酸化物粒子又はπ共役系導電性ポリマーが挙げられる。また、イオン液体も導電性化合物として好ましく用いられる。
【0092】
又はドコート層には、塗布性の観点、及び微粒子の均一な分散性の観点から、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤或いはポリオキシエーテル等の非イオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤等を含有させることもできる。これらは塗布性を高める。また、これら成分は、塗布液中の固形分成分に対し、0.01〜3質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0093】
(光学補償フィルムの特徴)
本発明の光学補償フィルムは、原反フィルムに傾斜配向処理を施すことにより製造された光学補償フィルムであって、当該光学補償フィルムの面の法線方向を0°、当該法線と当該光学補償フィルムのリターデーション値の測定軸との角度を測定角度θ(0°を含む。)、当該測定角度θにおけるリターデーション値をR(θ)、当該R(θ)が最小値又は最大値を示す測定角度θを傾斜角度βとしたときに、(1)前記測定軸の方向から測定したリターデーション値R(θ)が、前記0°におけるリターデーション値を中心として、測定角度が+側と−側とで、そのリターデーション値の変化が非対称となり、前記傾斜角度βが5〜85°の範囲であり、かつ(2)当該光学補償フィルムを温度90℃での相対湿度が0%RHである環境下に1000時間保存した後の前記傾斜角βの変化率が、0.5〜1%の範囲内であることを特徴とする。
【0094】
なお、本発明においては、当該光学補償フィルムの(屈折率楕円体の)面内のリターデーション値Ro、測定角度40°におけるリターデーション値R(40)、前記傾斜角度β、及び面内遅相軸と搬送方向とのなす角度θ(「配向角θ」ともいう。)の各標準偏差が、それぞれ1nm、5nm、1°、1°以下であることが好ましい。
【0095】
また、本発明においては、前記原反フィルムが、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムであり、当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たす態様であることが好ましい。
【0096】
本発明において、「測定軸方向から計測したリターデーション値が、前記0°におけるリターデーション値を中心として、測定角度が+側と−側とで、そのリターデーション値の変化が非対称となっている」とは、例えば、各測定角度におけるリターデーション値を横軸とし、前記測定角度を縦軸としてプロットした際に得られるグラフが、図1に示すように、測定角度0°(法線)における縦軸(図において点線)を中心として非対称となるような状態をいう。
【0097】
前記測定角度は、特に制限されないが、例えば、−50〜+50°であることが好ましい。これは、実際に光学補償フィルムのサンプルを傾斜させて位相差を測定する場合、前記範囲であれば、より一層精度良く位相差を測定できるからである。なお、この測定角度は、本発明の位相差を測定する場合の条件であって、なんら本発明を限定するものではない。
【0098】
本発明において、リターデーション値の最大値又は最小値は、測定角度が+側又は側におけるリターデーション値であることが好ましい。つまり、法線(0°)方向におけるリターデーション値が、最大又は最小値とならないことが好ましい。
【0099】
本発明の光学補償フィルムにおいて、前記グラフの形状は、例えば、前記図1に示すような凹状曲線、凸状曲線、右上がり曲線、右下がり曲線があげられる。前記グラフ形状が、凹状曲線の場合は、その頂点がリターデーション値であり、凸状曲線の場合は、その頂点が最大リターデーション値となる。また、右上がり曲線の場合は、最大測定角度(例えば、+50°)における測定値が最大リターデーション値、最小測定角度(例えば、−50°)における測定値が最小リターデーション値となり、右下がり曲線の場合は、最大測定角度における測定値が最小リターデーション値、最小測定角度における測定値が最大リターデーション値となる。
【0100】
本発明において、前記測定軸は、法線および法線から傾斜した軸を含み、その傾斜方向は特に制限されず、例えば、前記法線から傾斜した軸が、前記光学補償フィルムの遅相軸方向に傾斜してもよいし、前記光学補償フィルムの進相軸方向に傾斜してもよい。
【0101】
また、本願において、光学補償フィルムの「面内のリターデーション値)Ro」、「フィルムの厚さ方向のリターデーション値Rth」は以下の式によって求めることができる。 Ro=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚さ(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚さ方向におけるフィルムの屈折率)である。
【0102】
リターデーション値(Ro)、(Rth)は自動複屈折率計を用いて測定することができる。その際に、23℃、55%RHの環境下、フィルム面に対して測定波長632nmで、測定スポット径:100μm以下、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手としては同じ位置で、搬送方向に500点の条件でθを測定し、その複屈折やリターデーション値を測定できる装置を用いることが好ましい。例えば、溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置などがある。
【0103】
上述したフィルム厚さ方向の光軸の傾きは、例えば王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADHのような、一般に市販されている位相差(複屈折)測定装置を用いることで容易に測定することができる。
【0104】
より具体的には、光学フィルムをそのフィルムに対して垂直に光を透過させた場合と、例えば10°、20°とフィルム法線方向から傾斜させたときの位相差(複屈折)を測定することから求めることができる。
【0105】
測定角度40°における位相差値(リターデーション値)R(40)は、例えば王子計測機器(株)製のKOBRA−21ADHのような、一般に市販されている位相差(複屈折)測定装置を用いて位相差値を測定する際に、光学フィルムをそのフィルム面の法線方向に対して40°傾斜させたときのリターデーション値である。
【0106】
面内遅相軸と搬送方向とのなす角度θ(「配向角θ」ともいう。)とは、連続的に搬送されるフィルムの搬送方向に対する、フィルムの遅相軸方向の角度をいう。
【0107】
当該光学補償フィルムの面内のリターデーション値Ro、測定角度40°におけるリターデーション値R(40)、前記傾斜角度β、及び面内遅相軸と搬送方向とのなす角度θ(配向角θ)の各標準偏差は、以下のように計算する。
【0108】
<βの標準偏差の算出方法>
フィルム面に対して測定波長632nmで、測定スポット径:100μm、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手としては同じ位置で、搬送方向に500点を測定し、それぞれのスポットで、面内遅相軸と面内進相軸をそれぞれ傾斜軸にして、5°刻みで、−40〜40°の倒れ角で、位相差を測定する。二枚のデータをとり、その内0°を中心に対称となっている方のグラフの極値の横軸の値を読み取り、βとし、その標準偏差σ[°]をβの標準偏差と定義する。
【0109】
<θzの標準偏差の算出方法>
フィルム面に対して測定波長632nmで、測定スポット径:100μm、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手としては同じ位置で、搬送方向に500点の条件でθzを測定し、その測定値の標準偏差σ[°]をθzの標準偏差と定義する。
【0110】
<Ro標準偏差算出方法>
フィルム面に対して測定波長632nmで、測定スポット径:100μm、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手は同じ位置で、長手方向に500点を測定し、その標準偏差σ[nm]をRoの標準偏差とする、この時、入射光の偏光方向と、試料は固定の状態で測定していく(入射光と試料の遅相軸の向きを揃えたりしない)
<R(40)標準偏差算出方法>
試料を設置。長手方向を傾斜軸(固定)として、測定波長632nmで、測定スポット径:100μm、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手は同じ位置で、長手方向に500点を、40°方向位相差を測定する。その測定値の標準偏差をσ[nm]とし、R40の標準偏差とする。
【0111】
リターデーション値(Ro)、(Rth)は自動複屈折率計を用いて測定することができる。その際に、23℃、55%RHの環境下、フィルム面に対して測定波長632nmで、測定スポット径:100μm以下、測定ピッチ:0.5mm、測定点:幅手としては同じ位置で、搬送方向に500点の条件でθを測定し、その複屈折やリターデーション値を測定できる装置を用いることが好ましい。例えば、溝尻光学工業所(株)製の微小領域複屈折測定装置などがある。
【0112】
また、本発明の光学補償フィルムは、光学異方性を有しているが、当該光学異方性について、図2に基づいてより詳細に説明すると、以下の通りである。
【0113】
図2に示すように、光学補償フィルム1の光学特性を示す屈折率楕円体22において、3次元の主屈折率na、nb、ncが定義される。Y軸と主屈折率nbとのなす角を傾斜角(チルト角)23と定義され、Z方向から観察したときにフィルム上にできる垂直楕円面24の長軸nyと短軸nxが定義され、nyとnxの差と膜厚dの積(ny−nx)・dを面内のリターデーション値Roと定義する。また、屈折率楕円体の主屈折率na、nb、ncによるリターデーション値(nb−na)・dを屈折率楕円体の面内のリターデーション値roと定義する。また、((nx+ny)/2−nz)・dを厚さ方向のリターデーション値Rthと定義し、((na+nb)/2−nc)・dを複屈折率楕円体の厚さ方向のリターデーション値rthと定義する。当該位相差の測定法としては、例えば、エリプソメータ測定などの方法が挙げられる。傾斜角(チルト角)の測定法としては、上記したように、位相差の測定において、光の入射角依存性を測定し、理想屈折率楕円体のリターデーション値の入射角依存による変化の計算値を用いてカーブフィッティングから算出する方法などが挙げられる。
【0114】
通常、リターデーション値Roとしては、5〜700nm程度であり、好ましくは、50〜400nm程度である。
【0115】
(光学補償フィルムの製造方法の特徴)
本発明の光学補償フィルムの製造方法は、傾斜配向処理を施された光学補償フィルムの製造方法であって、(1)溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比n(但し、n=(V1−V2)/V1;V1、V2:一対のローラの周速、V1>V2)を、0.01〜0.05の範囲内とし、かつ、(2)前記工程を経て製膜された原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程において、当該温度勾配を、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内とし、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内とすること、により傾斜配向処理を施すことを特徴とする。
【0116】
ニップローラを用いた圧延処理ゾーンと搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンの製造工程上の順番は、上記のように圧延処理ゾーン後に、搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを配置することを要する。
【0117】
また、前記ローラの周速比nについて、周速比nが0.01未満では傾斜角度βの発現効果が少なく、前記温度勾配処理を施しても好ましい光学補償フィルムを得ることができない。また、周速比nが0.05より大きいと作製した光学補償フィルムに激しいムラが生じることになり、前記βの変化率が1%を超えてしまう。結果として該光学補償フィルムを液晶表示装置に具備したときの表示品質が著しく悪化する。
【0118】
なお、前記温度勾配は、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内であり、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内であることが好ましい。
【0119】
本発明の光学補償フィルムの製造方法は、光学軸をフィルム面法線方向から傾斜させるものであり、剪断処理(「圧延処理」ともいう。)ゾーンおいても、圧延処理によって原反フィルム内に剪断応力を発生させ歪み変形を与えることができる。
【0120】
より具体的には、フィルムの処理温度をTg(樹脂フィルムのガラス転移温度)−50℃〜Tg+150℃の範囲で、ウェブの片面に駆動ローラを接触させ、当該ウェブの反対面に回転負荷を有する追随回転ローラを接触させて、当該ウェブを搬送することでウェブに歪み変形を与え、光学軸を傾斜させる方法が好ましい。
【0121】
ここで、「回転負荷を有する追随回転ローラ」とは、図3に示すように、押出されるウェブとの接触圧力によって自由回転又は強制回転する回転ローラであって、駆動ローラによってウェブを搬送させる力が掛る面と反対の面でブレーキが掛るように反対方向に力を作用させるために使用する回転ローラをいう。これら駆動ローラ、及び回転負荷を有する追随回転ローラを一対のカレンダーローラともいう。
【0122】
回転に要する負荷は、各種のブレーキを使用することができる。ポイントとしては、負荷トルクが変動しない構造とすることが重要であり、駆動ローラを含めて、一定のトルクとなるような制御が必要である。
【0123】
また、「歪み変形を与える」とは、ローラとの接触圧力又はローラニップ圧等による剪断力をウェブに加えると共にローラでウェブを冷却させて原反フィルムを製膜し、当該原反フィルム内の屈折率等の光学的物性(「光学特性」ともいう。)の変化をもたらすような歪み変形を生じさせることをいう。
【0124】
なお、カレンダーローラでニップした後、付与された傾斜角βを維持するためフィルムを剥離張力30〜100N/m幅で剥離できるようにすることが好ましい。そのためには、駆動ローラによる張力制御を行う方法以外にも、ウェブ又は原反フィルム自身の温度を高くしたり、ウェブに微粒子を添加する手段等が挙げられる。
【0125】
微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子が挙げられる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを上げずに、表面の摩擦係数を制御できる為好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものの使用は更にヘイズを低下できるため好ましい。
【0126】
またシランカップリング剤を添加する手段も挙げられる。シランカップリング剤としてはビニルシラン、エポキシシラン、アミノシランが挙げられるが、中でもエポキシシランは、セルロースに添加しても凝集しにくいため好ましい。
【0127】
微粒子の具体例としては、日本アエロジル(株)製 アエロジル200V、アエロジルR972Vが光学補償フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明の光学補償フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0128】
本発明の実施態様としては、前記ウェブが、前記駆動ローラと追随回転ローラの2種のローラの接触部分との間でスリップしない様にする態様であることが好ましい。このため、当該駆動ローラと追随回転ローラが、当該ウェブを挟むニップローラ対を構成する態様であることが好ましい。これにより、当該フィルムが、駆動ローラと追随回転ローラの外周面上で、スリップすることが抑えられるため、フィルム表面に擦り傷がつかない。また、当該駆動ローラと追随回転ローラからウェブに伝達される応力が安定しており、フィルム内の歪み変形量のバラツキが小さい。
【0129】
本発明においては、前記駆動ローラ又は追随回転ローラが、少なくとも一対あればよいが、複数設けられフィルム搬送経路の複数個所で前記接触を行う態様であることも好ましい。
【0130】
複数回に分けて一定量の歪み変形を形成することが、1回で歪み変形を形成するよりも安定してバラツキ量を小さくできる点で優れている。また、複数回に分けて歪み変形を与える時に、フィルムの膜厚方向で加熱する領域を部分限定して複数回の加熱位置を変更することで、フィルム厚さ方向で歪み変形量が異なる様にすることができ好ましい。
【0131】
従って、本発明の光学補償フィルムの製造方法の実施に用いられる製造装置としては、基本的には、ウェブの片面に接触する駆動ローラと当該フィルムの反対面に接触し回転負荷を有する追随回転ローラとを備え、これら2種のローラが当該フィルムを搬送する手段となりかつ当該フィルム内に歪み変形を与える手段となる態様の光学補償フィルムの製造装置であることが好ましい。
【0132】
本発明に係る光学補償フィルム内の歪み変形については、下記(1)〜(9)に示す手段によって、フィルム内の変形量のコントローラが容易であり、かつフィルムの連続搬送による生産安定性が良好である。
【0133】
(1)追随回転ローラの回転負荷の負荷量を調整する。
【0134】
(2)剪断力が掛かる部分(接触部およびその前後)のウェブ温度を調整する。
【0135】
(3)上記(2)でウェブの面方向の温度状態の調整をする。例えば、片面より加熱することで加熱しない(冷却)側と温度差を事前加熱時間も含めて調整する。
【0136】
(4)駆動ローラと回転負荷を有する追随回転ローラをローラニップ対として使用し、前記ローラニップ対を使用する数を調整する。
【0137】
(5)上記(4)で複数のローラニップ対で、追随回転ローラの回転負荷量を徐々に重くしたり、軽くしたりと調整する。
【0138】
(6)上記(4)及び(5)の複数のローラニップ対で、ローラ温度を変化させ、複数の接触部分の加熱するウェブ温度を調整する。
【0139】
(7)ローラ材質(金属、各種ゴム)の選定によりローラ変形量を調整する。
【0140】
(8)ウェブ片面に加熱手段を設け、反対面に冷却手段を設ける。
【0141】
(9)当該ウェブをせん断処理後に製膜した原反フィルムを、搬送方向に温度勾配を持たせたゾーン内に搬送させる。
【0142】
以下、本発明の光学補償フィルムの製造方法の好ましい態様例の技術的特徴について、図4(a)〜(c)を参照して、更に詳しく説明する。
【0143】
図4(a)〜(c)は、本発明に係る駆動ローラと追随回転ローラの配置例(位置的相互関係例)を示す概念図である。
【0144】
図4(a)に示す例の場合、追随回転ローラの回転負荷に、ローラの質量を使用でき、ローラ幅方向のバラツキが減少する。ローラニップ圧力によりスリップ限界を高くでき、1箇所のローラ対で強い力が伝達可能であり、1対のローラ対でのウェブ内変形量を大きくすることができる。
【0145】
図4(b)に示す例の場合、一個のローラに対して複数ローラを対とすることで製造工程を小さくできる。駆動ローラを冷却ローラとして、追随回転ローラを加熱ローラとして、フィルム片側表面のウェブ内を変形することができる。図2(c)で、前半と後半で逆のローラ配置とすることで、ローラによる当該ウェブ内の変形処理を行うと同時に冷却されることで原反フィルムが製膜される。これにより原反フィルムの両面より、フィルム内を変形させることで、フィルムの厚さ方向での変形量などを調整できる。
【0146】
なお、本発明では、ウェブは、駆動ローラと追随回転ローラに直接に接触することが好ましいが、図4(c)に示す様にウェブとローラの間にフィルムやシートやベルトを介して、フィルム内に歪み変形を与える方法も、本発明に含まれる形態である。
【0147】
更に、本発明の光学補償フィルムの製造方法は、特定のリターデーションを有するセルロースエステルフィルムを、少なくとも1対のカレンダーローラを用いて、フィルムの搬送張力(T)を0.4<T<20MPaで搬送しながら、前記カレンダーローラでニップする際の線圧pを150〜1000[kN/m]、前記カレンダーローラの2つのローラの周速比nが、0.01〜0.6、(但し、n=(V1−V2)/V1 V1、V2:1対のローラの周速、V1>V2)でウェブに剪断力をかけ、フィルムの搬送張力TをNz2係数で除した値Q=T/Nz2が、0.2<Q<40の範囲に調整しながら、圧延処理する。
【0148】
〈圧延処理の方法〉
本発明の光学補償フィルムの製造方法は、溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比n(但し、n=(V1−V2)/V1;V1、V2:一対のローラの周速、V1>V2)を、0.01〜0.05の範囲内とすることを特徴とするが、下記の要件を満たす方法により実施することが好ましい。
【0149】
〈ローラ構成材料〉
本発明に係るローラを構成する材料としては、通常知られている各種材料が使用出来る。具体的には、金属性、樹脂製もしくは弾性金属もしくはゴム被覆金属ローラもしくは金属被覆されたゴムローラなど、表面硬度か弾性率の異なるローラを組み合わせることが好ましい。
【0150】
その場合、硬い側のローラの表面材質としては、ハードクロムメッキされたもの、ニッケルメッキなどを施されたもの、セラミックスの超硬材料である、タングステン−カーバイドなどが溶射されたものなどで、剥離性がよく、かつ鏡面に研磨できる材質であることが好ましい。
【0151】
表面粗度は、0.2s以下で、特に好ましくは、0.1s以下である。
【0152】
〈圧延処理ゾーン〉
剪断処理を安定に行おうとする場合、圧延処理のゾーンの長さが重要である。圧延処理のゾーンとは、ウェブに剪断力がかかっているゾーンのことである。処理ゾーンの長さは0.5〜5000mmが好ましく、3〜3000mmがより好ましく、10〜3000mmがさらに好ましい。
【0153】
〈ローラ周速〉
前記カレンダーローラの2つのローラの周速比nは、光軸の傾斜角度を所定の範囲内にコントローラする観点から、0.01〜0.5の範囲であることが好ましい。
【0154】
ここでn=(V1−V2)/V1、V1、V2:1対のローラの周速、V1>V2である。
【0155】
〈ローラ間距離〉
カレンダーローラの2つの間隔は、光学軸を傾斜するのに必要な圧延処理ができれば特に制限はないが、製造するフィルム厚さをt(μm)、ローラ間隔をd(μm)、使用する金属ベルトなどの基材厚さをl(μm)とするとき、(t−l−150)≦d≦(t−
20)で表される範囲内にすることが好ましい。
【0156】
〈ローラ線圧〉
前記カレンダーローラでニップする際の線圧pは、1〜50[kN/m]の範囲であることが好ましい。
【0157】
10[kN/m]未満の圧着圧力であると、原反フィルムに十分な変形量を与えられないため、本発明の光軸を傾斜させることができず、一方、50[kN/m]を超える圧着圧力で圧着させると、フィルム表面に傷がつきやすくなるために好ましくない。
【0158】
〈搬送張力〉
ここで搬送張力とは、後述の図5で示す圧延処理装置の場合は、予熱ローラから第1、第2ローラまでの搬送中のウェブあるいはフィルムに掛かるウェブあるいはフィルムの断面積あたりの張力、及び、第1、第2ローラから巻き取りローラまでに掛かるウェブあるいはフィルムの断面積当たりの張力をいう。
【0159】
ウェブは、搬送張力(T)を0.4<T<20MPaで搬送しながら圧延処理する。好ましくは2<T<15Mp、更に好ましくは3<T<13MPaである。
【0160】
更に、圧延処理時のセルロースエステルフィルムのウェブに対し、フィルムの搬送張力Tを前記Nz2係数で除した値Q=T/Nz2が、0.2<Q<40の範囲に制御する。圧延処理をしないフィルムの光学値Nz2と、フィルムあるいはウェブに掛けられる搬送張力Tの許容範囲には相関があり、それを示すのが上記の値Qである。即ち、フィルムあるいはウェブに掛けられる搬送張力の上限許容範囲は、Nz2が小さいほど小さくしなければならない。
【0161】
圧延処理後のカレンダーローラから剥離する際の剥離張力は、前述したように30〜100N/m幅に調整することが必要である。
【0162】
〈処理温度〉
本発明においては、前記フィルムと前記2種のローラが接触する箇所(「接触部」という。)及びその接触部の前後において、当該フィルムを加熱又は冷却する態様が好ましい。歪み変形は、フィルムのガラス転移温度の上下50℃の範囲の温度条件が生じ易く、加熱は、接触部の前で実施し、フィルム温度をガラス転移温度付近とするためであり、歪み変形量を大きくするために有効である。冷却は、接触部を通過後に実施し、フィルムに生じた歪み変形を維持固定化して変化するのを防止するために有効である。
【0163】
尚、ガラス転移温度以上の温度状態を接触部以外の搬送部分などで長時間維持することは、発生した歪み変形が変化(消失の現象も含む)するため好ましくない。また、歪み変形を付与した後、フィルムを巻き取る前工程で、短時間(1〜20分間)の間、ガラス転移温度以上の高温とする熱安定化処理は、歪み変形が長期間変動し難くなり、好ましい態様である。
【0164】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)とする。
【0165】
前記加熱は、電熱ヒーター、遠赤外線ヒーター、熱媒体による加熱など一般に知られる各種の加熱手段が利用出来、フィルムの直接加熱(接触と非接触)、駆動ローラ及び追随回転ローラを加熱することができる。
【0166】
前記冷却は、熱媒体による冷却、空気冷却、冷凍機使用など一般に知られる各種の冷却手段が使用出来、フィルムの直接冷却(接触と非接触)、駆動ローラ、追随回転ローラを冷却することができる。
【0167】
加熱温度は、目的により異なるがフィルムのガラス転移温度の±100℃が好ましい。より好ましくは、±50℃である。冷却温度は取り扱い性から、室温〜軟化点温度の範囲が好ましい。
【0168】
図5に本発明で好ましい予熱ローラを用いた圧延処理装置の模式図を示す。
【0169】
右図において送りだしローラは駆動系を持たず、次いでニップローラ兼余熱ローラがある。第1、第2ローラはそれぞれに駆動系を有するローラであり、周速差を任意に制御できるローラである。また、油圧によって第1、第2の間の圧力を制御できる構造になっている。巻き取りローラは駆動系を有するローラであり、テンションコントローラで巻取り速度、搬送張力を制御している。予熱ローラと第1、第2ローラはローラ内部にヒーターを内蔵し、ローラ表面に温度センサーが取り付けられており、センサー温度をヒーターにフィードバックしPID制御によって±1度の精度で温度コントローラする。
【0170】
(弾性率の異なる積層型原反フィルム)
本発明においては、原反フィルムに、搬送方向に対する温度勾配を設けることで傾斜配向処理を行う前に、当該原反フィルムを弾性率εの異なる二つ以上の層からなる積層型原反フィルムにする必要がある。
【0171】
当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たす積層型原反フィルムを作製することで、その後の搬送方向に対する温度勾配による傾斜配向処理によって本発明の光学補償フィルムを製造することができる。
【0172】
弾性率の異なる層として、特に本発明の記載以上の限定はしないが、ハードコート層を原反フィルムに塗設(コーティング)する方法や、例えばポリイミドなどの樹脂からなる耐熱性テープを貼合してもよい。
【0173】
あるいは、溶融共押し出し製膜法によって、原反フィルムの製膜時に弾性率の異なるウェブを共押し出しさせて弾性率の異なる積層型原反フィルムを製膜しても良い。
【0174】
(搬送方向に対する温度勾配処理)
当該原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程を有し、前記温度勾配が、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内であり、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内にする。以上の事で本発明の光学補償フィルムを製造することが出来る。
【0175】
〈光学補償フィルムの光学特性〉
本発明では、ウェブ及び原反フィルムに傾斜配向処理を施すことにより本発明の光学補償フィルムの光学特性を制御するものである。
【0176】
本発明の光学補償フィルムの屈折率楕円体の3方向の屈折率をna、nb、ncとしたときに、na≧nb>ncであり、当該光学補償フィルムの屈折率楕円体のNz1係数=(na−nc)/(na−nb)が5〜8、好ましくは5〜7の範囲である。
【0177】
該光学補償フィルムのリターデーション値は、(dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
Ro1=(na−nb)×dが5〜30nm、
Rth1=((na+nb)−nc)/2×dが50〜180nm、好ましくは130nm<Rth<180nm、更に好ましくは140nm<Rth<170nmの範囲である。
【0178】
且つ、該光学補償フィルムの前記屈折率ncのフィルム面法線方向からの傾斜角度αは5〜50°である。傾斜角度αは好ましくは10〜45°、更に好ましくは20〜40°の範囲である。
【0179】
上記リターデーション値Rth1、Rth2、傾斜角度αは前記自動複屈折率計を用いて測定することができる。
【0180】
更に、光学補償フィルムの前記屈折率ncのフィルム法線方向からの角度αのばらつきΔαが±0.01°以下であることが好ましい。これは作製した光学補償フィルムから15cm×60cmのサイズを切り出し、そこから均等に36点傾斜角αを測定したときの、その最大値と最小値の差を表す。
【0181】
また、前記リターデーション値Ro1のばらつきΔRo1が0.0008nm以下であることが好ましい。ΔRoは、距離1cm間のリターデーション値の変化量をいう。
【0182】
(偏光板)
本発明の光学補償フィルムは、偏光板保護フィルムの機能をも併せ持つ光学フィルムとして使用することができ、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて本発明に係る光学フィルムを貼合する。
【0183】
偏光子の反対面には、下記の、従来の偏光板保護フィルムとして、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC12UR、KC8UXW−H、KC8UYW−HA、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等のセルロースエステルフィルムが用いることができる。
【0184】
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
【0185】
(表示装置)
本発明の光学補償フィルムを用いることにより、種々の視認性に優れた表示装置を作製することができる。当該フィルムは、反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。
【0186】
また、芳香族ポリカーボネートフィルムは平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。
【0187】
〈液晶表示装置〉
液晶表示装置には通常二枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学補償フィルムを適用した偏光板保護フィルムは平面性・リターデーションの均一性が高いため、どの部位に配置しても優れた表示性が得られる。液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには、クリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられた偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが好ましい。また光学補償層を設けた偏光板保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光板保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することができる。
【0188】
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルを更に複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。当該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
【0189】
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することができる。ドメインの分割は、公知の方法を採用することができ、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定できる。
【0190】
偏光板は、垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることができる。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することもできる。偏光板を用いることによって本発明の効果が発現できれば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
【0191】
当該液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても高性能であるため、本発明の光学補償フィルムを用いた液晶表示装置、特に大型の液晶表示装置の表示品質は、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【0192】
《TN型液晶表示装置》
本発明の光学補償フィルムが特に好適に用いられるTN型液晶表示装置について説明する。
【0193】
当該TN型液晶表示装置としては、特に制限されない。また、さらに光源を有してもよく、光源としては、特に制限されないが、例えば、光のエネルギーが有効に使用できることから、偏光を出射する平面光源であることが好ましい。
【0194】
光学補償フィルムが特に好適に用いられるTN型液晶表示装置の例を、図6及び図7を参照して説明する。第1の偏光板13及び第2の偏光板15は、それぞれ、偏光膜2,10を二枚の偏光板保護フィルムにより挟む構造を有する(偏光膜2は第1偏光板保護フィルム1及び第2偏光板保護フィルム3により挟み、偏光膜10は第3偏光板保護フィルム9および第4偏光板保護フィルム11により挟む。)。
【0195】
第2偏光板保護フィルム3および第3偏光板保護フィルム9のRo、Rthが15≦Ro≦70、70≦Rth≦200の範囲に存在する。
【0196】
TN方式液晶セル14は、二枚のガラスセル基板4,8により挟まれた空間に液晶層6を有する。液晶層6の平均厚さが液晶セルギャップである。
【0197】
ガラスセル基板4、8には液晶を配向するための配向層5、7が設けられており、配向層にはラビング処理が施されている。そして液晶のツイスト角は対向するラビング処理の方向つまりラビング軸の成す角度と一致し、配向膜5のラビング軸(基準0°とする。)と配向膜7のラビング軸の成す角度が115±22°である。
【0198】
第1の偏光板13の透過軸(偏光膜2の透過軸と等しい。)と液晶配向層5のラビング軸の成す角度が3.5±3°であり、第2の偏光板15の透過軸(偏光膜10の透過軸と等しい。)と液晶配向層7のラビング軸の成す角度が、3.5±3°である。
【0199】
なお、第1の偏光板と第2の偏光板は、クロスニコル(互いの透過軸が90°を成す。)になるように配置される。
【0200】
本発明の光学補償フィルムは、光学補償機能と偏光板保護機能を有する、第2偏光板保護フィルム3と第3偏光板保護フィルム9として使用することが好ましい。
【0201】
また、図示しないが、第2偏光板保護フィルム3と第3偏光板保護フィルム9には、偏光板保護機能を有するセルロースエステルフィルムを使用し、本発明の光学補償フィルムは光学補償フィルムとして、図6の第2偏光板保護フィルム3とガラスセル基板4の間と、2偏光板保護フィルム9とガラスセル基板8の間の2箇所(液晶セルの両側)に設置する対応も好ましい対応である。
【実施例】
【0202】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りない限り、実施例中の「部」は「質量部」を表す。
【0203】
<原反フィルム101の作製>
80℃で6時間乾燥済み(水分率200ppm)のアセチル基の置換度1.30、プロピオニル基の置換度1.23、数平均分子量60000のセルロースアセテートプロピオネート100質量部、可塑剤を8質量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Tinuvin928(融点113℃、チバ・ジャパン株式会社製)1.2質量部、Irganox1010(チバ・ジャパン株式会社製)0.5質量部、GSY−P101(堺化学株式会社製)0.3質量部、SumilizerGS(住友化学株式会社製)0.2質量部、シーホスターKEP−30(株式会社日本触媒製)0.1質量部を真空ナウターミキサーで80℃、1Torrで3時間混合しながら更に乾燥した。
【0204】
可塑剤としては、トリメチローラプロパントリベンゾエート8.0質量部を使用した。
【0205】
得られた混合物を、二軸式押し出し機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。この際、混錬時のせん断による発熱を抑えるためニーディングディスクは用いずオールスクリュータイプのスクリューを用いた。
【0206】
得られたペレットの一部を採取・粉砕し、250℃10分における加熱質量減少を測定した。
【0207】
また、ベント孔から真空引きを行い、混錬中に発生する揮発成分を吸引除去した。なお、押出機に供給するフィーダーやホッパー、押出機ダイから冷却槽間は、乾燥窒素ガス雰囲気として、樹脂への水分の吸湿を防止した。
【0208】
セルロースエステルフィルムの製膜は、図8に示す製造装置で行った。
【0209】
第1冷却ローラ及び第2冷却ローラは直径40cmのステンレス製とし、表面にハードクロムメッキを施した。又、内部には温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて、ローラ表面温度を制御した。
【0210】
弾性タッチローラは、直径20cmとし、内筒と外筒はステンレス製とし、外筒の表面にはハードクロムメッキを施した。外筒の肉厚は2mmとし、内筒と外筒との間の空間に温度調整用のオイル(冷却用流体)を循環させて弾性タッチローラの表面温度を制御した。
【0211】
ペレット(水分率50ppm)を、1軸押出機を用いてTダイから表面温度Tr1が90℃の第1冷却ローラ上に溶融温度250℃でフィルム状に溶融押し出し85μmの原反フィルム101を得た。
【0212】
この際、溶融押出し製膜時に用いる弾性タッチローラと第1冷却ローラの周速比nが0.02になるように回転速度を調整する以外は、特開2007−38646号公報に記載の方法と同様の溶融押出し製膜方法で、製膜する(但し、n=(V1−V2)/V1 V1、V2:1対のローラの周速、V1>V2)。
【0213】
またこの際、Tダイのリップクリアランス1.5mm、リップ部平均表面粗さRa0.01μmのTダイを用いた。また、第1冷却ローラ上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチローラを線圧10kg/cmで押圧した。
【0214】
押圧時のタッチローラ側のフィルム温度は、180℃±1℃であった。(ここでいう押圧時のタッチローラ側のフィルム温度は、第1ローラ(冷却ローラ)上のタッチローラが接する位置のフィルムの温度を、非接触温度計を用いて、タッチローラを後退させてタッチローラがない状態で50cm離れた位置から幅方向に10点測定したフィルム表面温度の平均値を指す。)このフィルムのガラス転移温度Tgは135℃であった。
【0215】
なお、弾性タッチローラの表面温度Tr0は90℃、冷却ローラの表面温度Tr2は90℃とした。
【0216】
なお、弾性タッチローラ、第1冷却ローラ、第2冷却ローラの各ローラの表面温度Tr0、Tr1、Tr2は、ローラにフィルムが最初に接する位置から回転方向に対して90°手前の位置のローラ表面の温度を、非接触温度計を用いて幅方向に10点測定した平均値を各ローラの表面温度とした。
【0217】
原反フィルム101の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=0、rth=180nm、傾斜角度はβ=5°であった。また、原反フィルムの位相差発現性は1.5(180nm/120μm)であった。
【0218】
<本発明の光学補償(傾斜位相差)フィルム101>
<弾性率の異なる積層型原反フィルムの製造>
前記原反フィルム101にポリイミド粘着テープ(360A、日東電工製)を、室温で、ラミネーターを用いて貼合させた。なお、当該テープの厚さは53μmであり、引っ張り弾性率は1700MPaであった。
【0219】
<温度勾配による傾斜配向処理>
前記積層型原反フィルムを、傾斜配向ゾーンの1組のニップローラでMD方向に0.75N/cmの搬送張力をかけた状態で、図9に示すような各ゾーンを通過させた。
【0220】
その際、直径100mmのゴムローラをローラの中心同士の間隔が250mmになるように設置し、TD方向の収縮(幅手規制ローラ)を規制した。
【0221】
また、積層型原反フィルムの弾性率の低い側の面に非接触の赤外線温度計を設置し、搬送中のフィルムの弾性率の低い側の面の温度変化を観測した。
【0222】
各ゾーンの雰囲気温度は、前記温度が下記の実測温度になるように設定し、積層型原反フィルムを通過させた。
【0223】
この時、各地点での温度は、以下の通りだった。
T1=124℃、T2=169℃、T3=48℃、t1=0.18秒、t2=0.49秒
したがって、昇温時の温度勾配は、250℃/秒、降温時の温度勾配は−247℃/秒であった。
【0224】
ゾーン1〜3の温度制御は、次のような方法で行った。
ゾーン1:搬送中のフィルムの表裏に、熱風を吹き付けて、予熱した。
ゾーン1とゾーン2の間には、二本のローラおよび遮風板を設置し、ゾーン1とゾーン2が独立に温度制御できるようにした。
ゾーン2:まず、二本の加熱したローラの間にフィルムを接触させながら通過させた。その後、搬送中のフィルムの表裏に、熱風を吹き付けた。
ゾーン2とゾーン3の間にも、二本のローラおよび遮風板を設置し、ゾーン2とゾーン3が独立に温度制御できるようにした。
ゾーン3:二本のローラを通過した直後に、フィルムの表裏に冷風を吹き付けて、冷却した。
【0225】
冷却ゾーンを出る際のフィルム幅は予熱ゾーンに入る直前のフィルム幅に比べ2%収縮していた。なお、図9に傾斜配向処理ゾーンの模式図を示した。
【0226】
<延伸処理>
ついで、傾斜配向処理をしたフィルムを、テンターを用い、160℃でTD方向に20%(1.20倍)延伸し、本発明の光学補償(傾斜位相差)フィルム101を得た。
【0227】
<評価>
Ro、R(40)、Ro、R(40)、β、及びθを溝尻光学(株)製微小面積複屈折測定装置にて測定しRo、Rthを算出した。傾斜位相差フィルム101の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=55nm、rth=130nm、β=22°であった。Ro、R(40)、β、θの各標準偏差は、それぞれ0.5nm、1.2nm、1°、0.9°であった。
【0228】
《偏光板の作製》
〈偏光板1の作製〉
上記作製した光学補償(傾斜位相差)フィルム101および市販のセルロースエステルフィルム(コニカミノルタタックKC−8UY コニカミノルタ(株)製)を使用して、下記工程1〜5に従って偏光板101を作製した。
工程1:50℃、2mol%の水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、ついで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した。
工程2:延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製し、該偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した傾斜位相差フィルム101及び市販のセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層した傾斜位相差フィルム101と偏光子と裏面側市販のセルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約2m/分で貼合した。工程5:工程4で作製した偏光子と傾斜位相差フィルムおよび市販のセルロースエステルフィルムとを貼り合わせた試料を80℃の乾燥機中にて5分間乾燥し、偏光板101を作製した。
【0229】
《液晶表示装置の作製》
液晶パネルを以下のようにして作製し、偏光板および液晶表示装置としての特性を評価した。
【0230】
SAMSUNG製17型ディスプレイSyncMaster743BMにあらかじめ貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記作製した偏光板1を液晶セルのガラス面に貼合した。
【0231】
その際、偏光板の貼合の向きは、前記第2のセルロースエステルフィルムの面が液晶セル側となるように、かつ、予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くように行い、液晶表示装置101を作製した。
【0232】
実施例2
<原反フィルム201の作製>
実施例1と同様の方法によって、85μm、幅1500mmの原反フィルム201を得た。原反フィルム201の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=0、rth=180nm、傾斜角度はβ=5°であった。
【0233】
<延伸処理>
ついで、得られた原反フィルム201を、テンターを用い、160℃でTD方向に20%(1.20倍)延伸し、原反フィルム201(A)を得た。
【0234】
次に、下記の方法に従ってハードコート層用塗布液を、得られた原反フィルム201(A)に塗布し、フィルムA上に40μmの層厚のハードコート層を形成させた原反フィルム201(B)を作製した。
【0235】
上記作製した原反フィルム201(A)上に、下記ハードコート層塗布組成物1を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層塗布液を調製し、図10の装置を用いてダイコータにより塗布し、70℃で乾燥後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い照射部の照度が300mW/cm、照射量を0.3J/cmとして塗布層を硬化させ、更に、図10の加熱処理ゾーン7において、130℃で5分間、搬送張力300N/mで加熱処理し、ドライ膜厚18μmのハードコート層を形成し、原反フィルム201(B)を作製し、巻き取った。
【0236】
(ハードコート層組成物1)
〈フッ素−シロキサングラフトポリマーIの調製〉
以下、フッ素−シロキサングラフトポリマーIの調整に用いた素材の市販品名を示す。
【0237】
ラジカル重合性フッ素樹脂(A):セフラルコートCF−803(水酸基価60,数平均分子量15,000;セントラル硝子株式会社製)
片末端ラジカル重合性ポリシロキサン(B):サイラプレーンFM−0721(数平均分子量5,000;チッソ株式会社製)
ラジカル重合開始剤:パーブチルO(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート;日本油脂株式会社製)
硬化剤:スミジュールN3200(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット型プレポリマー;住友バイエルウレタン株式会社製)
(ラジカル重合性フッ素樹脂(A)の合成)
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、セフラルコートCF−803(1554質量部)、キシレン(233質量部)、及び2−イソシアナトエチルメタクリレート(6.3質量部)を入れ、乾燥窒素雰囲気下で80℃に加熱した。80℃で2時間反応し、サンプリング物の赤外吸収スペクトルによりイソシアネートの吸収が消失したことを確認した後、反応混合物を取り出し、ウレタン結合を介して50質量%のラジカル重合性フッ素樹脂(A)を得た。
【0238】
(フッ素−シロキサングラフトポリマーIの調製)
機械式撹拌装置、温度計、コンデンサー及び乾燥窒素ガス導入口を備えたガラス製反応器に、上記合成したラジカル重合性フッ素樹脂(A)(26.1質量部)、キシレン(19.5質量部)、酢酸n−ブチル(16.3質量部)、メチルメタクリレート(2.4質量部)、n−ブチルメタクリレート(1.8質量部)、ラウリルメタクリレート(1.8質量部)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(1.8質量部)、FM−0721(5.2質量部)、及びパーブチルO(0.1質量部)を入れ、窒素雰囲気中で90℃まで加熱した後、90℃で2時間保持した。パーブチルO(0.1部)を追加し、更に90℃で5時間保持することによって、重量平均分子量が171,000である35質量%フッ素−シロキサングラフトポリマーIの溶液を得た。
【0239】
重量平均分子量はGPCにより求めた。また、フッ素−シロキサングラフトポリマーIの質量%はHPLC(液体クロマトグラフィー)により求めた。
【0240】
下記材料を攪拌、混合しハードコート層塗布組成物1とした。
【0241】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 20.0質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50.0質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 30.0質量部
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 30.0質量部
イルガキュア184 5.0質量部
(チバ・ジャパン社製)
上記調製したフッ素−シロキサングラフトポリマーI(35質量%) 5.0質量部
シーホスターKEP−50(粉体のシリカ粒子、平均粒径0.47〜0.61μm、日本触媒株式会社製) 4.3質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 20質量部
酢酸メチル 40質量部
メチルエチルケトン 60質量部
原反フィルム201(B)のTgは、163℃、ハードコート層のTgは、200℃であり、原反フィルムのTgがTg2となる。(Tg2+5)℃での、原反フィルムの弾性率は、70MPa、ハードコート層の弾性率は500MPaであった。弾性率比率εA/εB=70/700=0.14であった。
【0242】
<本発明の光学補償フィルム201>
実施例1で記載した<傾斜配向処理>と同様の処理を原反フィルム201(B)に行い、光学補償フィルム201を作製した。
【0243】
<評価>
ro、r(40)、Ro、R(40)、β、θ、を溝尻光学(株)製微小面積複屈折測定装置にて測定しRo、Rthを算出した。傾斜位相差フィルム201の屈折率楕円体の位相差値(リターデーション値)は、ro=53nm、rth=136nm、β=20°であった。Ro、R(40)、β、θの各標準偏差は、それぞれ0.6nm、1.5nm、0.9°、0.9°であった。
【0244】
この試料について、実施例1と同様にして評価した。
【0245】
本発明の光学補償フィルムによれば、黒表示でのムラの発生が抑制される。
【0246】
比較例1
<原反フィルム301の作製>
実施例1での原反フィルム101の作製時の、溶融共押出し製膜時に用いる2つのニップローラの周速比nを0.3になるように回転速度を調整する以外は同様の方法で、原反フィルム301を作製した。原反フィルム301の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=0、rth=180nm、傾斜角度はβ=30°であった。
【0247】
<比較としての光学補償フィルム301>
<傾斜配向ゾーン>に記載の処理は行わず、実施例1と同様の<延伸処理>を行い、傾斜位相差フィルム301を作製した。
【0248】
<評価>
ro、r(40)、Ro、R(40)、β、θを溝尻光学(株)製微小面積複屈折測定装置にて測定しro、rthを算出した。傾斜位相差フィルム301の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=50nm、rth=130nm、β=20°であった。Ro、R(40)、β、θの各標準偏差は、それぞれ3nm、8nm、4°、4°であった。
【0249】
比較例2
<原反フィルム302の作製>
比較例1での原反フィルム301の作製時の、下降温度勾配を−15℃/秒にする以外は同様の方法で、原反フィルム302を作製した。原反フィルム302の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=0、rth=180nm、傾斜角度はβ=0°であった。
【0250】
<比較としての光学補償フィルム302>
<傾斜配向ゾーン>に記載の処理は行わず、実施例1と同様の<延伸処理>を行い、傾斜位相差フィルム302を作製した。
【0251】
<評価>
ro、r(40)、Ro、R(40)、β、θを溝尻光学(株)製微小面積複屈折測定装置にて測定しro、rthを算出した。傾斜位相差フィルム302の屈折率楕円体のリターデーション値は、ro=60nm、rth=125nm、β=3°であった。Ro、R(40)、β、θの各標準偏差は、それぞれ0.6nm、1.3nm、0.7°、0.8°であった。
【0252】
(液晶表示装置の実装および斜めムラの評価)
市販のTNモード液晶表示装置の両面の光学フィルムを除去し、実施例で作製した傾斜位相差フィルムを実装した。
【0253】
次に、この液晶表示装置を黒表示にした時の、斜めから見た時のムラの官能評価を以下の方法で行った。
官能評価方法:
1.評価者:20人
2.「ムラ無し」、「微かなムラ有り」、「中程度のムラ有り」、「強いムラ有り」の4段階評価。
3.以下の基準でムラの判定を行った。
◎:微かなムラ有りと認識した人が、2人以下で且つ、中程度以上のムラ有りと認識した人が0人。
○:微かなムラ有りと認識した人が、3人以上10人以下で且つ、中程度以上のムラ有りと認識した人が0人。
△:微かなムラ有りと認識した人が、11人以上もしくは、中程度以上のムラ有りと認識した人が1人以上5人以下。
×:中程度以上のムラ有りと認識した人が6人以上。
【0254】
(画像品質評価)
上記作製した液晶表示装置を黒表示にさせて、法線方向に対して40°斜め上から目視で画像品質を官能評価した。
評価 状況
×:画面全体が激しく白い
△:画面全体が白い
○:画面全体が若干白い
◎:画面全体が白くならない
実施例に記載したフィルムの作製条件、フィルム光学値、および評価結果をまとめて表1に示した。
【0255】
【表1】

【0256】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の光学補償フィルムによれば、屈折率楕円体の率光学軸の傾斜角度、面内のリターデーション値等の光学特性の変化が殆どなく、表示ムラが発生しにくい光学補償フィルムを提供することができることが分かる。
【符号の説明】
【0257】
1R 駆動ローラ
2R 追随回転ローラ
B ベルト
F セルロースエステルフィルム
1 第1偏光板保護フィルム
2 第1偏光膜
3 第2偏光板保護フィルム
4 視認側ガラスセル基板
5 視認側液晶配向層
6 液晶層
7 バックライト側液晶配向層
8 バックライト側ガラスセル基板
9 第3偏光板保護フィルム
10 第2偏光膜
11 第4偏光板保護フィルム
13 第1の偏光板
14 TN方式液晶セル
15 第2の偏光板
16 第1の偏光板の透過軸
17 視認側液晶配向層のラビング軸
18 バックライト側液晶配向層のラビング軸
19 第2の偏光板の透過軸
送り出しローラ
予熱ローラ1
予熱ローラ2
第1ローラ
第2ローラ
巻き取りローラ
22 光学補償フィルムの光学特性を示す屈折率楕円体
23 傾斜角(チルト角)
1a 押し出し機
2a フィルター
3a スタチックミキサー
4a ダイ(厚み調整手段含む)
5a タッチローラ
6a 第1冷却ローラ
7a 第2冷却ローラ
8a 剥離ローラ
9a ダンサーローラ
10a 再加熱工程(含む、延伸工程)
11a スリッター
12a 厚み測定手段
13a エンボスリング及びバックローラ
14a 巻き取り機
15a 巻き取られたフィルム
Y 長尺フィルム
1x 繰り出しロール
2x 搬送ローラ
3x 押出しコータ
4x 対向ロール
5x 乾燥ゾーン
6x 活性光線照射ランプユニット
6xa 空冷活性光線ランプ
6xb 空冷用Air通風口
6xc N2用供給チャンバー
7x 加熱ゾーン
8x 巻き取り室
9x 巻き取りロール
10x 温風吹き出し口
12x 移動可能な台車
15x 巻き取りコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜配向処理を施された光学補償フィルムの製造方法であって、(1)溶融押出し製膜法により製造されたウェブに剪断力をかける圧延処理ゾーンを搬送する工程において、二つのローラを一対としたニップローラを用いてウェブに圧延処理を施す際の当該ニップローラの周速比n(但し、n=(V1−V2)/V1;V1、V2:一対のローラの周速、V1>V2)を、0.01〜0.05の範囲内とし、かつ、(2)前記工程を経て製膜された原反フィルムを搬送方向に温度勾配を持たせたゾーンを搬送する工程において、当該温度勾配を、温度上昇の場合には5〜500℃/秒の範囲内とし、温度下降の場合には−5〜−500℃/秒の範囲内とすること、により傾斜配向処理を施すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項2】
ウェブ及び原反フィルムに傾斜配向処理を施すことにより製造された光学補償フィルムであって、当該光学補償フィルムの面の法線方向を0°、当該法線と当該光学補償フィルムのリターデーション値の測定軸との角度を測定角度θ(0°を含む。)、当該測定角度θにおけるリターデーション値をR(θ)、当該R(θ)が最小値又は最大値を示す測定角度θを傾斜角度βとしたときに、(1)前記測定軸の方向から測定したリターデーション値R(θ)が、前記0°におけるリターデーション値を中心として、測定角度が+側と−側とで、そのリターデーション値の変化が非対称となり、前記傾斜角度βが5〜85°の範囲であり、かつ(2)当該光学補償フィルムを温度90℃での相対湿度が0%RHである環境下に1000時間保存した後の前記傾斜角βの変化率が、0.5〜1%の範囲内であることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項3】
前記原反フィルムが、弾性率εの異なる少なくとも二つ以上の層を積層してなる積層型原反フィルムであり、当該積層型原反フィルムにおいて、弾性率が相対的に低い一方の面の弾性率を弾性率εAとし、もう一方の弾性率が相対的に高い反対側の面の弾性率を弾性率εBとしたときに、当該εAとεBは、関係式:0.001<εA/εB<0.9を満たすことを特徴とする請求項2に記載の光学補償フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−64852(P2011−64852A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214161(P2009−214161)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】