説明

光学補償フィルム

【課題】本発明は、フィルムの厚み方向の屈折率が大きく、フィルム面内位相差が大きく、波長依存性が小さい等の光学特性に優れた光学補償フィルム、特に液晶表示素子用の光学補償フィルムを提供する。
【解決手段】α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzとした場合に、nz>ny≧nxの関係にあり、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの厚み方向の屈折率が大きく、フィルム面内位相差が大きく、波長依存性が小さい等の光学特性に優れた光学補償フィルム、特に液晶表示素子用の光学補償フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、マルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話からコンピューター用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。液晶ディスプレイには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられている。特に位相差フィルムは、正面や斜めから見た場合のコントラスト向上、色調の補償など大きな役割を果たしている。従来の位相差フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンが用いられているが、これらの高分子はいずれも正の複屈折を有する高分子である。ここで、複屈折の正負は下記に示すように定義される。
【0003】
延伸等で分子配向した高分子フィルムの光学異方性は、図1に示す屈折率楕円体で表すことが出来る。ここで、フィルムを延伸した場合のフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzと示す。なお、進相軸とはフィルム面内における屈折率の低い軸方向である。
【0004】
そして、負の複屈折率とは延伸方向が進相軸方向となるものであり、正の複屈折率とは延伸方向と垂直方向が進相軸方向となるものである。
【0005】
つまり、負の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向)、正の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向と直交する軸方向の屈折率が小さい(進相軸:延伸方向と直交する方向)。
【0006】
また、フィルム面内位相差(Re)は、進相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)−進相軸方向の屈折率(nx)にフィルムの厚みを掛けた値として表される。
【0007】
多くの高分子は正の複屈折性を有する。負の複屈折を有する高分子としてはアクリル樹脂やポリスチレンがあるが、アクリル樹脂は位相差の発現性が小さく、光学補償フィルムとしての特性は十分でない。ポリスチレンは、室温領域での光弾性係数が大きくわずかな応力で位相差が変化するなど位相差の安定性の課題、位相差の波長依存性が大きいといった光学特性上の課題、更に耐熱性が低いといった実用上の課題があり現状用いられていない。
【0008】
負の複屈折を示す高分子の延伸フィルムはフィルムの厚み方向の屈折率が高く、従来にない光学補償フィルムとなるため、例えばスーパーツイストネマチック型液晶(STN−LCD)や垂直配向型液晶(VA−LCD)、面内配向型液晶(IPS−LCD)、反射型液晶ディスプレイ、半透過型液晶ディスプレイなどのディスプレイの視角特性の補償用の光学補償フィルムや偏光板の視角を補償するための光学補償フィルムとして有用であり、負の複屈折を有する光学補償フィルムに対して市場の要求が強い。正の複屈折を有する高分子を用いてフィルムの厚み方向の屈折率を高めたフィルムの製造方法が提案されている。ひとつは高分子フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを接着し、その積層体を加熱延伸処理して、高分子フィルムの厚み方向に収縮力をかける処理方法(例えば特許文献1〜3参照。)である。また、高分子フィルムに電場を印加しながら面内に一軸延伸する方法が提案されている(例えば特許文献4参照。)。また、負の光学異方性を有する微粒子と透明性高分子からなる位相差フィルムが提案されている(例えば特許文献5参照。)。また、液晶性高分子フィルムを塗布し、ホメオトロピック配向させた光学補償フィルムあるいは光学補償層が提案されている(例えば特許文献6参照)。さらに、ポリビニルナフタレン、ポリビニルビフェニル、ポリビニルカルバゾールなどの芳香族ポリマーを塗布した光学補償フィルムが提案されている(例えば特許文献7、8参照)。
【0009】
【特許文献1】特許2818983号公報
【特許文献2】特開平05−297223号公報
【特許文献3】特開平05−323120号公報
【特許文献4】特開平06−088909号公報
【特許文献5】特開2005−156862号公報
【特許文献6】特開2002−333524号公報
【特許文献7】特開2001−91746号公報
【特許文献8】特開2006−221116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1〜4において提案された方法は、製造工程が非常に複雑になるため生産性に劣るといった課題がある。また位相差の均一性などの制御も従来の延伸による制御に比べると著しく難しくなる。またベースフィルムとしてポリカーボネートを使用した場合には室温での光弾性定数が大きく、わずかな応力により位相差が変化するなど位相差の安定性にも課題がある。更に位相差の波長依存性が大きいなどの課題を抱えている。
【0011】
また、特許文献5で得られる位相差フィルムは、負の光学異方性を有する微粒子を添加することにより負の複屈折を有する位相差フィルムであり、製造方法の簡便化及び経済性の観点から、微粒子を添加する必要のない位相差フィルムが求められている。特許文献6に記載の方法では液晶性高分子を均一にホメオトロピック配向させることが難しいという課題がある。また、特許文献7、8に記載の方法では、得られる膜が割れやすいことや位相差の波長分散性が大きいといった課題がある。
【0012】
そこで、本発明は、フィルムの厚み方向の屈折率が大きく、フィルム面内位相差が大きく、波長依存性が小さい等の光学特性に優れた光学補償フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討した結果、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率が、特定の関係にある光学補償フィルムが、上記課題を満足することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnz(厚み方向)とした場合に、nz>ny≧nxの関係にあり、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルムに関するものである。
【0015】
以下、本発明の光学補償フィルムについて詳細に説明する。
【0016】
本発明の光学補償フィルムは、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzとした場合に、nz>ny≧nxの関係にあり、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下である光学補償フィルムである。ここで、フィルム面内の進相軸方向の屈折率nxとは、フィルム面内における最も屈折率の低い軸方向の屈折率である。そして、これらnx、ny及びnzは、例えば試料傾斜型自動複屈折計を用いることにより求めることができる。
【0017】
なお、一般的にフィルムの3次元屈折率の制御はフィルムの延伸などにより行われるため製造工程や品質の管理が複雑になったりするが、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムは未延伸でフィルムの厚み方向の屈折率が高くなるという特異な挙動を示すものである。
【0018】
位相差の波長依存性は、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比R450/R550として表すことができる。本発明のα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる光学補償フィルムでは、該R450/R550は、1.1以下であり、1.08以下が好ましく、特に1.05以下が好ましい。
【0019】
本発明のα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる光学補償フィルムは、フィルムの厚みをdとした場合、下記式(1)により示されるフィルム面外位相差(Rth)が−3〜−2000nmであることが好ましく、特に好ましくは−4〜−1000nmであり、さらに好ましくは−4〜−500nmである。
【0020】
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (1)
本発明の光学補償フィルムの厚みは、1〜250μmであることが好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。
【0021】
本発明におけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂としては、α−置換アクリル酸エステルの重合体が挙げられ、その中でも一般式(a)により示されるα−置換アクリル酸エステル残基単位50モル%以上、70モル%以上であることが好ましく、特に耐熱性及び機械特性に優れた光学補償フィルムとなることから80モル%以上、90モル%以上であることが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
(ここで、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくはハロゲン基である。Rは−(CHCOOR、−(CHCOONHR、−(CHNHR、−(CHCONHRである。RにおけるR、R、R、Rは、それぞれ炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。n、m、l、kはそれぞれ0〜3の整数である。また、RとR中のR、R、R、Rが結合した構造も含む。)
における炭素数1〜12の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられ、芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、メチルフェニル基等が挙げられ、ハロゲン基としては、例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、その中でも重合性、耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることから炭素数1〜12の直鎖状アルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基等が好ましく、特に好ましくはメチル基である。
【0024】
は−(CHCOOR、−(CHCOONHR、−(CHNHR、−(CHCONHRである。RにおけるR、R、R、Rは、それぞれ炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。n、m、l、kはそれぞれ0〜3の整数である。また、RとR中のR、R、R、Rが結合した構造も含む。
【0025】
のR、R、R、Rにおける炭素数1〜12の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられ、芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、メチルフェニル基等が挙げられ、ハロゲン基としては、例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0026】
におけるn、m、l、kはそれぞれ0〜3の整数である。
【0027】
これら一般式(a)により示されるα−置換アクリル酸エステル残基の中でも、重合性、耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることから下記一般式(b)、(c)、(d)の残基単位が好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
(ここで、Rは一般式(a)における置換基と同意義を示し、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。)
【0030】
【化3】

【0031】
(ここで、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。)
【0032】
【化4】

【0033】
一般式(b)のRにおける炭素数1〜12の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられ、芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、メチルフェニル基等が挙げられ、ハロゲン基としては、例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0034】
そして一般式(b)の具体例としては、例えばイタコン酸メチル残基、イタコン酸エチル残基、イタコン酸i−プロピル残基、イタコン酸シクロヘキシル残基、イタコン酸シクロヘキシルメチル残基、イタコン酸2−エチルヘキシル残基等が挙げられる。
【0035】
一般式(c)のRにおける炭素数1〜12の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜12の環状アルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等が挙げられ、芳香族基としては、例えばフェニル基、トリル基、メチルフェニル基等が挙げられ、ハロゲン基としては、例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0036】
そして一般式(c)の具体例としては、例えばプロピルイタコンイミド残基、オクチルイタコンイミド残基、4−メチルフェニルイタコンイミド残基等が挙げられる。
【0037】
本発明におけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂として好ましく用いられる、一般式(a)により示されるα−置換アクリル酸エステル残基単位50モル%以上から成るα−置換アクリル酸エステルとしては、一般式(a)により示されるα−置換アクリル酸エステル残基単位50モル%以上、α−置換アクリル酸エステル類と他の共重合可能な単量体からなる残基単位50モル%以下からなる樹脂であり、α−置換アクリル酸エステル類と他の共重合可能な単量体からなる残基単位としては、例えばスチレン残基、α−メチルスチレン残基等のスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基等のアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基等のメタクリル酸エステル類残基等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0038】
本発明におけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂としては、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10以上であることが好ましく、特に機械特性に優れ、フィルム作製時の成形加工性に優れた光学補償フィルムとなることから2×10以上3×10以下であることが好ましい。
本発明におけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂の製造方法としては、当該α−置換アクリル酸エステル系樹脂が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えばα−置換アクリル酸エステル類、場合によってはα−置換アクリル酸エステル類と他の共重合可能な単量体を併用しラジカル重合あるいはラジカル共重合、アニオン重合、配位重合、カチオン重合により製造することができる、そのなかでもラジカル重合あるいはラジカル共重合により製造することが望ましい。
【0039】
この際のα−置換アクリル酸エステル類としては、例えばイタコン酸メチル、イタコン酸エチル、イタコン酸i−プロピル、イタコン酸シクロヘキシル、イタコン酸シクロヘキシルメチル、イタコン酸2−エチルヘキシル、プロピルイタコンイミド、オクチルイタコンイミド、4−メチルフェニルイタコンイミド、無水イタコン酸等が挙げられ、α−置換アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0040】
また、用いるラジカル重合法としては、公知の重合方法で行うことが可能であり、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれもが採用可能である。
【0041】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0042】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン(THF);アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水、N−メチルピロリドン;ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0043】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0044】
本発明の光学補償フィルム(フィルム(A))に、さらにフィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzとした場合に、ny>nx≧nzの関係にあり、フィルムの厚みをdとした場合、下記式(2)により示される波長550nmで測定したフィルム面内位相差(Re)が50nm以上のフィルム(B)からなる光学補償フィルム(以下、フィルム(C)とする)とすることができる。
【0045】
Re=(ny−nx)×d (2)
なお、前記フィルム(B)は、例えば正の複屈折性を有するポリマーを一軸延伸等することにより、3次元屈折率がny>nx≧nzの関係にあるフィルムを得ることができる。
【0046】
またフィルム(B)のポリマーとしては、正の複屈折性を有するポリマーであれば特に制限はなく、耐熱性や透明性などの点から好ましい例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体が挙げられる。
【0047】
フィルム(B)のフィルム面内位相差(Re)は、50nm以上が好ましく、特に好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上である。
【0048】
また、フィルム(C)においては、フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとした場合、下記式(3)により示される配向パラメータ(Nz)が、−0.1〜0.95であることが好ましく、特にSTN−LCD、IPS−LCD、反射型LCD、半透過型LCDの視野角補償フィルムとする場合にはNzが0.40〜0.60であることが好ましい。
【0049】
Nz=(ny−nz)/(ny−nx) (3)
さらにフィルム(C)においては、前記式(2)により示されるフィルム面内位相差(Re)は、50〜500nmが好ましく、特に0.45〜0.55が好ましく、偏光板の視野角補償フィルムとする場合には、Nzが−0.10〜0.10が好ましく、特に−0.05〜0.05、更に0〜0.05が好ましい。更に1/4波長板では130〜140nm、1/2波長板では270〜280nmが好ましい。
【0050】
本発明の光学補償フィルムにおけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば溶液キャスト法、溶融キャスト法等の方法により製造することができる。
【0051】
溶液キャスト法は、α−置換アクリル酸エステル系樹脂を溶媒に溶解した溶液(以下、ドープと称する。)を支持基板上に流延した後、加熱等により溶媒を除去しフィルムを得る方法である。その際ドープを支持基板上に流延する方法としては、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。用いられる支持基板としては、例えばガラス基板;ステンレスやフェロタイプ等の金属基板;ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック基板などがある。このようにして得られたα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムは、支持基板から剥離して使用することもできるし、また、支持基板としてガラス基板、プラスチック基板を用いた場合は、剥離しないで積層体としてそのまま使用することもできる。
【0052】
溶液キャスト法において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜する際には、ドープの溶液粘度は極めて重要な因子であり、700〜30000cpsが好ましく、特に1000〜10000cpsであることが好ましい。また、溶融キャスト法は、α−置換アクリル酸エステル系樹脂を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法である。
【0053】
本発明の光学補償フィルムに好ましく用いられる光学補償フィルム(フィルム(A))とフィルム(B)からなる光学補償フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えばα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる未延伸フィルムと正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムを貼合する方法(以下、製造方法1とする)、α−置換アクリル酸エステル系樹脂を正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムに塗布する方法(以下、製造方法2とする)等により製造することができる。
【0054】
製造方法1、2における正の複屈折を有するフィルムは、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体等からなるフィルムが挙げられる。この正の複屈折を有するフィルムを、一軸延伸により、例えば温度150〜200℃、延伸速度10〜30mm/min.、延伸倍率30〜70%の条件により延伸し、正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムを製造することができる。
【0055】
製造方法1では、正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムを、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる未延伸フィルムに貼合することにより光学補償フィルムを製造することができる。この際の貼合方法としては、例えばロールトゥロールの連続プロセスで製造可能であり、公知の接着剤を用いて貼合することができる。
【0056】
製造方法2では、正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムに、α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる未延伸フィルムを塗布することにより光学補償フィルムを製造することができる。その結果、正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムとα−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる光学補償フィルムとなるものである。その際の塗布方法は、α−置換アクリル酸エステル系樹脂を溶媒に溶解した溶液(塗布溶液)をフィルム上に塗布後、加熱等により溶媒を除去する方法である。その際の塗布方法としては、例えばドクターブレード法、バーコーター法、グラビアコーター法、スロットダイコーター法、リップコーター法、コンマコーター法等が用いられる。工業的には薄膜塗布はグラビアコーター法、厚膜塗布はコンマコーター法が一般的である。溶液塗布において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れた塗布をするには、塗布溶液粘度は極めて重要な因子であり、10〜10000cpsが好ましく、特に10〜5000cpsであることが好ましい。本発明おけるα−置換アクリル酸エステル系樹脂の塗布厚は、フィルムの厚み方向の位相差により決められ、乾燥後1〜200μmが好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。また、フィルム(B)の表面をあらかじめ易接着処理することも可能である。
【0057】
また、本発明の光学補償フィルム同士又は他の光学補償フィルムと積層することもできる。
【0058】
本発明の光学補償フィルムには、より伸度に優れた光学補償フィルムとなることから可塑剤が配合されていることが好ましい。該可塑剤としては、特に制限はなく、例えばトリクレジルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシルホスフェート)、トリキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、トリフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリブチルトリメリテート、トリ−ノルマルヘキシルトリメリテート、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリ−ノルマルオクチルトリメリテート、トリ−イソクチルトリメリテート、トリ−イソデシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;トリ(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラブチルピロメリテート、テトラ−ノルマルヘキシルピロメリテート、テトラ(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ−ノルマルオクチルピロメリテート、テトラ−イソクチルピロメリテート、テトラ−イソデシルピロメリテート等のピロメリット酸エステル系可塑剤が挙げられる。
【0059】
本発明の光学補償フィルムには、熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていることが好ましい。該酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独又は併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することが特に好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、α−アクリル酸エステル樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、特に0.5〜1重量部の範囲であることが好ましい。
【0060】
さらに、紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて配合していてもよい。
【0061】
本発明の光学補償フィルムには、発明の主旨を越えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等が配合されたものであってもよい。
【0062】
本発明の光学補償フィルムには、偏光板と積層して円あるいは楕円偏光板として用いることもできる。また、液晶表示素子の視野角改良フィルムや色補償フィルムなどの光学補償フィルムとして有用であり、円偏光板は反射防止フィルムとして用いることも可能である。さらに、液晶ディスプレイに用いられる輝度向上フィルムの視角特性を改良する光学補償フィルムとしても使用できる。
【発明の効果】
【0063】
本発明によると、液晶ディスプレイのコントラストや視角特性の改良に有効な光学補償フィルム、特に3次元屈折率より計算される配向パラメータNzが−0.05〜0.9の光学補償特性を有する光学補償フィルムを提供することができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0065】
〜数平均分子量の測定〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名HLC−802A)を用い、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶剤とし標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0066】
〜ガラス転移温度の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/min.の昇温速度にて測定した。
【0067】
〜光線透過率の測定〜
JIS K 7361−1(1997年版)に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業製、NDH5000)を用いて光線透過率の測定を行った。
【0068】
〜ヘーズの測定〜
JIS K 7136(2000年版)に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業製、NDH5000)を用いてヘーズの測定を行った。
【0069】
〜3次元屈折率の測定、フィルム面外位相差、フィルム面内位相差及び配向パラメータの計算〜
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器(株)製、商品名KOBRA−WR)を用いて仰角を変えて3次元屈折率を測定した。さらに、3次元屈折率よりフィルム面外位相差(Rth)、フィルム面内位相差(Re)及び配向パラメータ(Nz)を計算した。
【0070】
合成例1(イタコン酸ジメチル重合体(一般式(b)により示される残基単位からなるα−置換アクリル酸エステル系樹脂)の製造例)
3リットル反応器中にイタコン酸ジメチル114g、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート1.4gを仕込み重合温度70℃、重合時間6時間にてラジカル重合反応を行なった。重合終了後、得られた溶液をメタノールに沈殿させ、得られたポリマーを濾過し80℃にて乾燥し、イタコン酸ジメチル重合体を得た。得られたイタコン酸ジメチル重合体の数平均分子量は5万であった。
【0071】
合成例2(イタコン酸シクロヘキシルメチル重合体(一般式(b)により示される残基単位からなるα−置換アクリル酸エステル系樹脂)の製造例)
500ミリリットル反応器中にイタコン酸シクロヘキシルメチル19.4g、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.23g、トルエン40.0gを仕込み重合温度70℃、重合時間10時間にてラジカル重合反応を行なった。重合終了後、得られた溶液をメタノールに沈殿させ、得られたポリマーを濾過し80℃にて乾燥し、イタコン酸シクロヘキシルメチル重合体を得た。得られたイタコン酸シクロヘキシルメチル重合体の数平均分子量は6万であった。
【0072】
合成例3(4−メチルフェニルイタコンイミド重合体(一般式(c)により示される残基単位からなるα−置換アクリル酸エステル系樹脂)の製造例)
50ミリリットル反応器中に4−メチルフェニルイタコンイミド2.0g、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.04g、トルエン9.6gを仕込み重合温度60℃、重合時間1時間にてラジカル重合反応を行なった。重合終了後、得られた溶液をメタノールに沈殿させ、得られたポリマーを濾過し80℃にて乾燥し、4メチルフェニルイタコンイミド重合体を得た。得られた4メチルフェニルイタコンイミド重合体の数平均分子量は14万であった。
【0073】
合成例4(無水イタコン酸重合体(一般式(d)により示される残基単位からなるα−置換アクリル酸エステル系樹脂)の製造例)
300ミリリットル反応器中に無水イタコン酸100g、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)2.1g仕込み、重合温度75℃、重合時間4時間にてラジカル重合反応を行なった。重合終了後、得られた溶液をジエチルエーテルに沈殿させ、得られたポリマーを濾過し80℃にて乾燥し、無水イタコン酸重合体を得た。得られた無水イタコン酸重合体の数平均分子量は1万であった。
【0074】
実施例1
合成例1で得られたイタコン酸ジメチル重合体を酢酸エチルに溶解して10%溶液とし、さらにイタコン酸ジメチル重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびリン系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板(ポリエチレンテレフタレートフィルム)に流延し、80℃、120℃および150℃で各々15分乾燥した後、幅200mm、厚み17μmのフィルムを得た。
【0075】
得られたフィルムは、光線透過率90%、ヘーズ0.3でありフィルムの3次元屈折率はnx=1.4695、ny=1.4695、nz=1.4710(nz>ny=nx)であった。得られたフィルムの面内位相差は0.2nmでありフィルム面外位相差は−25.5nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.03であった。
【0076】
これらの結果から、得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償フィルムに適したものであった。
【0077】
実施例2
合成例1で得られたイタコン酸ジメチル重合体をジクロロメタンにて溶解し20%溶液とし、さらにイタコン酸ジメチル重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびリン系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部を添加した後、実施例1と同様の方法で幅200mm、厚み230μmのフィルムを得た。
【0078】
得られたフィルムは、光線透過率94%、ヘーズ0.2でありフィルムの3次元屈折率はx=1.4696、ny=1.4696、nz=1.4701(nz>ny=nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差は0.8nmでありフィルム面外位相差は−253.0nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.03であった。
【0079】
これらの結果から、得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償フィルムに適したものであった。
【0080】
実施例3
合成例2で得られたイタコン酸シクロヘキシルメチル重合体をトルエンに溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板(ポリエチレンテレフタレートフィルム)に流延し、25℃および90℃で各々15分乾燥した後、幅200mm、厚み11μmのフィルムを得た。
【0081】
得られたフィルムは、光線透過率92%、ヘーズ0.4でありフィルムの3次元屈折率はnx=1.4698、ny=1.4698、nz=1.4705(nz>ny=nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差は0.8nmでありフィルム面外位相差は−7.6nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.02あった。
【0082】
これらの結果から、得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償フィルムに適したものであった。
【0083】
実施例4
合成例2で得られたイタコン酸シクロヘキシルメチル重合体をTHFに溶解して20%溶液とし、Tダイ法によりガラス基板(厚み150μm)に流延し、25℃および60℃で各々15分乾燥した後、幅200mm、厚み156μmの積層体を得た。
【0084】
得られた積層体は、光線透過率94%、ヘーズ0.2でありフィルムの3次元屈折率はnx=1.4695、ny=1.4696、nz=1.4709(nz>ny>nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差は0.4nmでありフィルム面外位相差は−7.7nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.04あった。
【0085】
これらの結果から、得られた積層体は、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償に適したものであった。
【0086】
実施例5
合成例3で得られた4−メチルフェニルイタコンイミド重合体をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して7%溶液とし、Tダイ法によりガラス基板(厚み150μm)に流延し、90℃および120℃で各々15分乾燥した後、幅200mm、厚み152μmの積層体を得た。
【0087】
得られた積層体は、光線透過率93%、ヘーズ0.3でありフィルムの3次元屈折率はnx=1.4692、ny=1.4695、nz=1.4714(nz>ny>nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差は0.1nmでありフィルム面外位相差は−4.1nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.02あった。
【0088】
これらの結果から、得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償フィルムに適したものであった。
【0089】
実施例6
合成例4で得られた無水イタコン酸重合体をアセトンに溶解して15%溶液とし、Tダイ法によりガラス基板(厚み150μm)に流延し、60℃で15分乾燥した後、幅200mm、厚み155μmの積層体を得た。
【0090】
得られた積層体は、光線透過率94%、ヘーズ0.2でありフィルムの3次元屈折率はnx=1.4690、ny=1.4691、nz=1.4720(nz>ny>nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差は0.1nmでありフィルム面外位相差は−14.8nmであった。また、位相差の比(R450/R550)は1.04あった。
【0091】
これらの結果から、得られた積層体は、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さいことから光学補償に適したものであった。
【0092】
比較例1
ポリカーボネート(帝人(株)製、商品名パンライトL1225)25重量%、塩化メチレンを75重量%とした塩化メチレン溶液を調整し、塩化メチレン溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、溶剤を揮発させて固化、剥離させることによりフィルムを得た。得られた剥離後のフィルムを更に100℃にて4時間、110℃から130℃にかけて10℃間隔にてそれぞれ1時間乾燥し、その後、真空乾燥機にて120℃で4時間乾燥して約90μmの厚みを有するフィルム(以下、フィルム(1)と称す。)を得た。
【0093】
得られたフィルム(1)は、ガラス転移温度(Tg)150℃であった。光線透過率90%、ヘーズ0.6、フィルムの3次元屈折率はnx=1.5830、ny=1.5830、nz=1.5830(nz=ny=nx)であった。得られたフィルムのフィルム面内位相差およびフィルム面外位相差は0nmであった。
【0094】
これらの結果から、得られたフィルムは、厚み方向の屈折率が大きくなく光学補償フィルムに適したものではなかった。
【0095】
比較例2
比較例1で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)を用いて、温度165℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し+50%延伸した。延伸したフィルム(フィルム1(c)と称す。)は、正の複屈折性を示し、フィルム面内位相差Re=(nx−ny)×dは263nmであった。3次元屈折率はnx=1.5820、ny=1.5851、nz=1.5819(nz<nx<ny)であり、配向パラメータNzは1.02であった。
【0096】
これらの結果から、得られたフィルムは、光学補償フィルムに適したものではなかった。
【0097】
比較例3
窒素雰囲気下、小型ディスパーを用いて、塩化メチレン49.6gにポリ(2−ビニルナフタレン)(アルドリッチ製、重量平均分子量:17.5万)9.0gを加え、2500rpmで1時間、室温で溶解した。得られたポリマー溶液を25μmフィルターを用いてろ過した。次に、このポリマー溶液をバーコーター法にて、厚さ188μmのPETフィルム上に塗布した後、窒素気流下で一晩風乾してPET基板上にポリ(2−ビニルナフタレン)のフィルムを作製した。
【0098】
このポリ(2−ビニルナフタレン)フィルムの一部をPET基板から剥離し、膜厚及び光学特性を測定した。乾燥後の膜厚は、58μmであった。なお、剥離の際、フィルムが脆く一部破損した。
【0099】
得られたフィルムの3次元屈折率はnx=1.6557、ny=1.6558、nz=1.6578であった。フィルム面外位相差(Rth)は−120.2、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.12であった。
【0100】
これらの結果から、得られたフィルムはnz>ny≧nxの関係にあるものの、波長依存性が大きいことから光学補償フィルムに適したものではなかった。
【0101】
比較例4
小型ディスパーを用いて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリ(9−ビニルカルバゾール)(アルドリッチ製、重量平均分子量:約110万)13.2gを加え、6000rpmで1時間、室温で溶解した。得られたポリマー溶液を25μmフィルターを用いてろ過した。次に、このポリマー溶液をバーコーター法にて、厚さ188μmのPETフィルム上に塗布した後、60℃で1時間、100℃で15分熱風乾燥することで、PET基板上にポリ(9−ビニルカルバゾール)フィルムを作製した。
【0102】
このポリ(9−ビニルカルバゾール)フィルム一部をPET基板から剥離し、膜厚及び光学特性を測定した。乾燥後の膜厚は、33μmであった。なお、剥離の際、フィルムが脆く一部破損した。
【0103】
得られたフィルムの3次元屈折率はnx=1.6819、ny=1.6820、nz=1.6926であった。フィルム面外位相差(Rth)は−350.0、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.14であった。
【0104】
これらの結果から、得られたフィルムはnz>ny≧nxの関係にあるものの、波長依存性が大きいことから光学補償フィルムに適したものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】延伸による屈折率楕円体の変化
【符号の説明】
【0106】
nx;フィルム面内の進相軸方向の屈折率を示す。
ny;nxと直交するフィルム面内方向の屈折率を示す。
nz;フィルム面外の垂直方向の屈折率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzとした場合に、nz>ny≧nxの関係にあり、波長450nmで測定した位相差と波長550nmで測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項2】
α−置換アクリル酸エステル系樹脂が、一般式(a)により示されるα−置換アクリル酸エステル残基単位50モル%以上からなることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルム。
【化1】

(ここで、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくはハロゲン基である。Rは−(CHCOOR、−(CHCOONHR、−(CHNHR、−(CHCONHRである。RにおけるR、R、R、Rは、それぞれ炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。n、m、l、kはそれぞれ0〜3の整数である。また、RとR中のR、R、R、Rが結合した構造も含む。)
【請求項3】
α−置換アクリル酸エステル系樹脂が、下記一般式(b)、(c)、(d)の残基単位より選ばれる1種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償フィルム。
【化2】

(ここで、Rは一般式(a)における置換基と同意義を示し、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。)
【化3】

(ここで、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、もしくは芳香族基、ハロゲン基である。)
【化4】

【請求項4】
フィルムの厚みをdとした場合、下記式(1)により示されるフィルム面外位相差(Rth)が−4〜−2000nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学補償フィルム。
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (1)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光学補償フィルム(A)と、フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnzとした場合に、ny≧nx>nzの関係にあり、フィルムの厚みをdとした場合、下記式(2)により示される波長550nmで測定したフィルム面内位相差(Re)が50nm以上のフィルム(B)からなることを特徴とする光学補償フィルム。
Re=(ny−nx)×d (2)
【請求項6】
フィルムの3次元屈折率がフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny(ここでnxとnyが等しい場合は直交する任意の二軸の屈折率)、フィルム面外の垂直方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとした場合、下記式(3)により示される配向パラメータ(Nz)が−0.1〜0.95であり、上記式(1)により示されるフィルム面内位相差(Re)が50〜1000nmであることを特徴とする請求項5に記載の光学補償フィルム。
Nz=(ny−nz)/(ny−nx) (3)
【請求項7】
配向パラメータ(Nz)が0.40〜0.60であり、フィルム面内位相差(Re)が50〜500nmであることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学補償フィルム。
【請求項8】
配向パラメータ(Nz)が−0.05〜0.05であり、フィルム面内位相差(Re)が50〜500nmであることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項9】
フィルム(B)が正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項10】
フィルム(B)がポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、N−置換マレイミド・オレフィン共重合体からなるフィルムであることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項11】
フィルム(A)の厚みをdとした場合、上記式(2)により示される波長550nmで測定したフィルム(A)のフィルム面内位相差(Re)が50nm未満であることを特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項12】
α−置換アクリル酸エステル系樹脂からなる未延伸フィルムと正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムを貼合することを特徴とする請求項5〜11のいずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項13】
正の複屈折性を有するフィルムの一軸延伸フィルムに、α−置換アクリル酸エステル系樹脂を塗布することを特徴とする請求項5〜11のいずれかに記載の光学補償フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の光学補償フィルムを含むことを特徴とする液晶表示素子。

【図1】
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【公開番号】特開2010−44165(P2010−44165A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207145(P2008−207145)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】