説明

光学補償膜

【課題】 塗工膜一軸延伸により、3次元屈折率の関係がnx>ny>nzとなり位相差量の波長依存性の小さな光学補償膜を提供する。
【解決手段】マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸してなる光学補償膜であって、塗工膜の延伸軸方向をx軸とし、それと直交する方向をy軸、面外方向をz軸とし、x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、z軸方向の屈折率をnzとした際の3次元屈折率関係がnx>ny>nzであることを特徴とする光学補償膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償膜、特に液晶表示素子用の光学補償膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、マルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話からコンピューター用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。液晶ディスプレイには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられている。
【0003】
特に光学補償フィルムは、正面や斜めから見た場合のコントラスト向上、色調の補償などに大きな役割を果たしている。従来の光学補償フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィン、セルロース系樹脂の二軸延伸フィルムが用いられている。しかしながらこれらのフィルムには二軸延伸工程が必要となること、二軸延伸工程での位相差の均一性を求めることが困難となる、等の課題がある。また、特に大面積のフィルムにおいては位相差の制御を行うことがよりいっそう困難となる。
【0004】
この二軸延伸による課題を解決する方法として、塗工(コーティング)による光学補償膜の検討がなされている。
【0005】
アクロン大学のハリス及びチェンは、剛直棒状のポリイミド、ポリエステル、ポリアミド、ポリ(アミド−イミド)、ポリ(エステル−イミド)よりなる光学補償膜を提案しており(例えば特許文献1,2参照。)、これらの材料は、自発的な分子配向性を有していることから塗工により延伸工程を経ることなく位相差を発現するという特徴がある。
【0006】
更に、ポリイミドの塗工性(溶剤への溶解性)を向上したポリイミドからなる光学補償膜(例えば特許文献3参照。)、ディスコティック液晶化合物が偏光板の保護フィルムに塗工された偏光板(例えば特許文献4参照。)、等が提案されている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5344916号公報
【特許文献2】特表平10−508048号公報
【特許文献3】特開2005−070745号公報
【特許文献4】特許第2565644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3において提案された方法で用いられるポリマーは、芳香族ポリマーであることから位相差量の波長依存性が大きく、液晶表示素子の光学補償膜として用いた場合に色ずれなど画質低下の課題を有するものであった。
【0009】
また、特許文献4に提案されているディスコティック液晶化合物を用いる方法は、液晶化合物を均一に配向させることが必要となり塗工プロセスが煩雑化する、配向ムラが大きい等の課題を有するばかりか、該液晶化合物も芳香族化合物が主体となることから位相差量の波長依存性が大きいという品質上の課題も有するものであった。
【0010】
そこで、本発明は、光学特性に優れた光学補償膜を提供することを目的とするものであり、さらに詳しくは、塗工した後、一軸延伸することにより、光学補償機能を発現すると共に、その位相差量の波長依存性の小さな光学補償膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸した塗工膜であって、3次元屈折率が特定の関係にある光学補償膜が、光学補償機能を有する光学補償膜、特に液晶表示素子用の光学補償に好適な光学補償膜となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸してなる光学補償膜であって、塗工膜の延伸軸方向をx軸とし、それと直交する方向をy軸、面外方向をz軸とし、x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、z軸方向の屈折率をnzとした際の3次元屈折率関係がnx>ny>nzであることを特徴とする光学補償膜に関するものである。
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の光学補償膜は、マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸したこと特徴とする光学補償膜であり、該マレイミド系樹脂としては、例えばN−置換マレイミド重合体樹脂、N−置換マレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂等が挙げられる。
【0015】
ここでN−置換マレイミド重合体樹脂を構成するN−置換マレイミド残基単位としては、例えば下記一般式(1)で示されるN−置換マレイミド残基単位を挙げることができる。
【0016】
【化1】

(ここで、Rは、炭素数1〜18の直鎖状アルキル基,分岐状アルキル基,環状アルキル基、ハロゲン基、エーテル基、エステル基、アミド基を示す。)
一般式(1)で示されるN−置換マレイミド残基単位におけるRは、炭素数1〜18の直鎖状アルキル基,分岐状アルキル基,環状アルキル基、ハロゲン基、エーテル基、エステル基、アミド基であり、炭素数1〜18の直鎖状アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ラウリル基等が挙げられ、炭素数1〜18の分岐状アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜18の環状アルキル基としては、例えばシクロヘキシル基が挙げられ、ハロゲン基としては、例えば塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等があげられる。
【0017】
具体的な一般式(1)で示されるN−置換マレイミド残基単位としては、例えばN−メチルマレイミド残基単位、N−エチルマレイミド残基単位、N−クロロエチルマレイミド残基単位、N−メトキシエチルマレイミド残基単位、N−n−プロピルマレイミド残基単位、N−n−ブチルマレイミド残基単位、N−n−ヘキシルマレイミド残基単位、N−n−オクチルマレイミド残基単位、N−n−ラウリルマレイミド残基単位、N−イソプロピルマレイミド残基単位、N−イソブチルマレイミド残基単位、N−s−ブチルマレイミド残基単位、N−t−ブチルマレイミド残基単位、N−シクロヘキシルマレイミド残基単位等の1種又は2種以上が挙げられ、特に位相差が発現しやすく、溶剤への溶解性、機械的強度に優れる光学補償膜となることから、N−エチルマレイミド残基単位、N−n−ブチルマレイミド残基単位、N−イソブチルマレイミド残基単位、N−s−ブチルマレイミド残基単位、N−t−ブチルマレイミド残基単位、N−n−ヘキシルマレイミド残基単位、N−n−オクチルマレイミド残基単位が好ましい。
【0018】
具体的なN−置換マレイミド重合体樹脂としては、例えばN−メチルマレイミド重合体樹脂、N−エチルマレイミド重合体樹脂、N−クロロエチルマレイミド重合体樹脂、N−メトキシエチルマレイミド重合体樹脂、N−n−プロピルマレイミド重合体樹脂、N−n−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ヘキシルマレイミド重合体樹脂、N−n−オクチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ラウリルマレイミド重合体樹脂、N−イソプロピルマレイミド重合体樹脂、N−イソブチルマレイミド重合体樹脂、N−s−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−t−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−シクロヘキシルマレイミド重合体樹脂等の1種又は2種以上が挙げられ、特に位相差が発現しやすく、溶剤への溶解性、機械的強度に優れる光学補償膜となることから、N−エチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−イソブチルマレイミド重合体樹脂、N−s−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−t−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ヘキシルマレイミド重合体樹脂、N−n−オクチルマレイミド重合体樹脂等が好ましい。
【0019】
また、N−置換マレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂としては、例えばN−メチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−エチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−クロロエチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−メトキシエチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−n−プロピルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−n−ブチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−n−ヘキシルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−n−ラウリルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−イソプロピルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−イソブチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−s−ブチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−t−ブチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂、N−シクロヘキシルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂等を挙げることができる。
【0020】
その中でも、特に製膜時の成膜性に優れ、光学補償機能、耐熱性に優れた光学補償膜となることからマレイミド系樹脂としては、N−n−エチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ブチルマレイミド重合体樹脂、N−n−ヘキシルマレイミド重合体樹脂、N−n−オクチルマレイミド重合体樹脂、N−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の光学補償膜を構成するマレイミド系樹脂は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいてN−置換マレイミド残基単位、無水マレイン酸残基単位以外の残基単位を含有するものであってもよく、該残基単位としては、例えばスチレン残基単位、α−メチルスチレン残基単位等のスチレン類残基単位;アクリル酸残基単位;アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸ブチル残基単位等のアクリル酸エステル残基単位;メタクリル酸残基単位;メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸ブチル残基単位等のメタクリル酸エステル残基単位;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0022】
また、該マレイミド系樹脂としては、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10以上のものであることが好ましく、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れた光学補償膜となることから2×10以上2×10以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の光学補償膜を構成するマレイミド系樹脂の製造方法としては、該マレイミド系樹脂が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えばN−置換マレイミド類、無水マレイン酸、場合によってはN−置換マレイミド類と共重合可能な単量体を併用しラジカル重合あるいはラジカル共重合を行うことにより製造することができる。この際のN−置換マレイミド類としては、例えばN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−クロロエチルマレイミド、N−メトキシエチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−n−ラウリルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等の1種又は2種以上が挙げられ、共重合可能な単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0024】
また、ラジカル重合法としては、公知の重合方法で行うことが可能であり、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれもが採用可能である。
【0025】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0026】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン(THF);アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水;N−メチルピロリドン;ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0027】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0028】
本発明の光学補償膜は、該マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸したことを特徴とする膜であり、特に光学補償膜として用いる際の光学補償機能に優れたものである。一般的に二軸延伸では、3次元屈折率を制御することは非常に難しくなる。ディスプレイの表示面積が大きくなり、それに伴い光学補償膜の面積が大きくなると全ての面積を均一に制御することは困難であり歩留まり等の悪化をまねく。本発明では、特定の塗工膜を一軸延伸することにより光学補償機能に優れた、光学補償膜とすることができる。本発明の光学補償膜は、マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸してなる光学補償膜であって、塗工膜の延伸軸方向をx軸とし、それと直交する方向をy軸、面外方向をz軸とし、x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、z軸方向の屈折率をnzとした際の3次元屈折率関係がnx>ny>nzであることを特徴とする光学補償膜である。
【0029】
また、本発明の光学補償膜の面内方向の位相差量(Re)は、該マレイミド系樹脂からなる塗工膜の厚みおよび一軸延伸条件より容易に制御することが可能であり、位相差フィルムとしての適応が期待できる光学補償膜となることから、下記式(2)で示される測定波長589nmの光で測定した面内位相差量(Re)が20nm以上であることが好ましく、特に30nm以上200nm以下、更に40nm以上150nm以下が好ましい。
Re=(nx−ny)×d (2)
(ここで、dは光学補償膜の膜厚(nm)を示す。)
また、本発明の光学補償膜の面外位相差量(Rth)は、該マレイミド系樹脂からなる塗工膜の厚みおよび一軸延伸条件よりにより容易に制御することが可能であり、位相差フィルムとしての適応が期待できる光学補償膜となることから、下記式(3)で示される測定波長589nmの光で測定した面外位相差量(Rth)が30〜2000nmの範囲にあることが好ましく、特に液晶表示素子の視野角改善効果に優れたものとなることから50〜1000nm、さらに80〜400nmの範囲にあることが好ましい。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (3)
(ここで、dは光学補償膜の膜厚(nm)を示す。)
本発明の光学補償膜は、液晶表示素子に用いた際に色ずれの小さい液晶表示素子となることから位相差量の波長依存性が小さいものであることが好ましく、測定波長450nmで測定した位相差量(R450)と測定波長589nmで測定した位相差量(R589)の比で示される位相差量の波長依存性(R450/R589)が1.1以下、特に1.08以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の光学補償膜の膜厚は、優れた表面平滑性、視野角改良効果を有する光学補償膜が得られることから、1〜200μmが好ましく、特に好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜30μmである。
【0031】
本発明の光学補償膜は、液晶表示素子に用いた際に画質の特性が良好なものとなることから、光学補償膜の光線透過率は、85%以上が好ましく、特に好ましくは90%以上である。また、光学補償膜のヘーズ(曇り度)は、2以下好ましく、特に好ましくは1以下である。
【0032】
本発明の光学補償膜は、液晶表示素子に用いた際の品質の安定性から耐熱性が高いものであることが好ましく、ガラス転移温度が100℃以上好ましく、特に好ましくは120℃以上、更に好ましくは135℃以上である。
【0033】
本発明の光学補償膜は、マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸することを特徴とし、好ましい製造方法として、セルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)などのフィルム基材にマレイミド系樹脂を溶液状にして塗工し乾燥後一軸延伸する方法が挙げられる。塗工方法は、マレイミド系樹脂を溶媒に溶解した溶液をフィルム上に塗工後、加熱等により溶媒を除去した後に一軸延伸する方法である。その際の塗工方法としては、例えばドクターブレード法、バーコーター法、グラビアコーター法、スロットダイコーター法、リップコーター法、コンマコーター法等が用いられる。工業的には薄膜塗工はグラビアコーター法、厚膜塗工はコンマコーター法が一般的である。
【0034】
使用する溶媒については特に制限はなく、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶剤;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン等の炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤;四塩化炭素、クロロフォルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等の塩素系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;N−メチルピロリドン等が挙げられ、これらは2種類以上組み合わせて用いることが出来る。溶液塗工において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れた塗工をするには、塗工溶液粘度は極めて重要な因子であり、該塗工溶液粘度は10〜10000cpsが好ましく、特に10〜5000cpsであることが好ましい。
【0035】
この際のマレイミド系樹脂の塗工厚は、塗工膜の厚み方向の位相差量により決められ、その中でも優れた表面平滑性、視野角改良効果を有する光学補償膜が得られることから、乾燥後1〜200μmが好ましく、特に好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜30μmの範囲である。
【0036】
本発明の光学補償フィルムの一軸延伸は特に制限はなく、一般には示差走査熱量計を用いて測定した塗工膜のガラス転移温度に対して−30〜50℃高い延伸温度条件のもと、延伸倍率1.1〜5倍の範囲で延伸可能である。特に位相差、光線透過率、およびヘイズといった光学特性は厚みに大きく左右されるため、厚みむらは極力小さくすることが好ましい。本発明の塗工膜の延伸では塗工膜製造時の乾燥条件を制御し溶剤を残すことにより延伸温度を低下することも可能である。また、基材フィルムから剥離して延伸することも可能であるし、基材フィルムとともに延伸することも可能である。
【0037】
本発明において採用できる一軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、カレンダーにより圧延して延伸する方法、ロール間で延伸する方法などの方法が挙げられる。
【0038】
本発明の光学補償膜は、基材フィルムから剥離し用いることもできるし、基材フィルムや他の光学フィルムとの積層体としても用いることもできる。特に他の光学フィルムとの積層体として用いる場合の他の光学フィルムとしては、透明性、強度の点からセルロース系フィルム、環状ポリオレフィンフィルムが好ましい。
【0039】
本発明の光学補償膜は、偏光板と積層して用いることもできる。
【0040】
また、本発明の光学補償膜は熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていても良い。該酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独又は併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することが特に好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、本発明の光学補償膜を構成するマレイミド系樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、特に0.5〜1重量部の範囲であることが好ましい。
【0041】
さらに、紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて配合していてもよい。
【0042】
本発明の光学補償膜は、発明の主旨を越えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等が配合されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の光学補償膜は、マレイミド系樹脂よりなる塗工膜を一軸延伸し光学補償機能を発現するものであり、その光学補償機能の制御も容易であることから液晶表示素子、特にVA−モードやOCB−モードの液晶テレビのコントラストや視角特性の改良に有効な光学補償膜として有用なものである。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0045】
〜マレイミド系樹脂の数平均分子量の測定〜
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名HLC−802A)を用い、ジメチルホルムアミドを溶剤とし標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0046】
〜ガラス転移温度の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/min.の昇温速度にて測定した。
【0047】
〜光線透過率の測定〜
透明性の一評価として、JIS K 7361−1(1997年版)に準拠して光線透過率の測定を行った。
【0048】
〜ヘーズの測定〜
透明性の一評価として、JIS K 7136(2000年版)に準拠してヘーズの測定を行った。
【0049】
〜3次元屈折率の計算〜
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器(株)製、商品名KOBRA−WR)を用いて仰角を変えて測定波長589nmの光で3次元屈折率を測定した。さらに、3次元屈折率より面内位相差量(Re)及び面外位相差量(Rth)を算出した。
【0050】
位相差量の波長依存性(R450/R589)は、測定波長450nmの光で測定した位相差量と測定波長589nmの光で測定した位相差量の比で示した。
【0051】
合成例1(N−n−エチルマレイミド重合体樹脂の製造例)
ガラス封管中に、N−n−エチルマレイミド45g、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.05gを仕込み、窒素置換後、重合温度60℃、重合時間5時間の条件にてラジカル重合反応を行なった。反応後、クロロホルムを加えポリマー溶液とした後に、過剰のメタノールと混合することにより重合体を析出させた。得られた重合体を濾過後、メタノールで十分洗浄し80℃にて乾燥し20gのN−n−エチルマレイミド重合体を得た。得られたN−n−エチルマレイミド重合体樹脂の数平均分子量は80000であった
合成例2(N−n−ブチルマレイミド重合体樹脂の製造例)
ガラス封管中に、N−n−ブチルマレイミド32.4g、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.054gを仕込み、窒素置換後、重合温度60℃、重合時間5時間の条件にてラジカル重合反応を行なった。反応後、クロロホルムを加えポリマー溶液とした後に、過剰のメタノールと混合することにより重合体を析出させた。得られた重合体を濾過後、メタノールで十分洗浄し80℃にて乾燥し20gのN−n−ブチルマレイミド重合体を得た。得られたN−n−ブチルマレイミド重合体樹脂の数平均分子量は120000であった。
【0052】
合成例3(N−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂の製造例)
ガラス封管中に、N−n−オクチルマレイミド26g、無水マレイン酸2.4g、重合開始剤として、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート0.036gを仕込み、窒素置換後、重合温度60℃、重合時間5時間の条件にてラジカル重合反応を行なった。反応後、クロロホルムを加えポリマー溶液とした後に、過剰のメタノールと混合することにより重合体を析出させた。得られた重合体を濾過後、メタノールで十分洗浄し80℃にて乾燥し19gのN−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂を得た。得られたN−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂は、無水マレイン酸残基を20重量%含有するものであり、数平均分子量は140000であった。
【0053】
実施例1
合成例1で得られたN−n−エチルマレイミド重合体樹脂をクロロホルムに溶解し12%溶液とし、コーターによりシリコン処理したPETフィルム上に流延し、90℃で15分乾燥し塗工膜を得た。そして、幅100mm、厚み30μmの塗工膜とし、塗工膜のガラス転移温度(Tg)を測定したところ255℃であった。
【0054】
得られた塗工膜を剥離し270℃で1.5倍に一軸延伸した。得られた膜の膜厚は30μmであり、光線透過率92%、ヘーズ0.6であり、3次元屈折率はnx=1.5252、ny=1.5232、nz=1.5168であった。また、膜の面内位相差量(Re)は60nmであり、面外位相差量(Rth)=222nmであった。さらに位相差量の波長依存性を示すR450/R589は1.07であり、光学補償膜としての機能を有するものであった。
【0055】
実施例2
合成例2で得られたN−n−ブチルマレイミド重合体樹脂をクロロホルムに溶解し12%溶液とし、コーターによりシリコン処理したPETフィルム上に流延し、90℃で15分乾燥し塗工膜を得た。そして、幅50mm、厚み25μmの塗工膜とし、塗工膜のガラス転移温度(Tg)を測定したところ179℃であった。
【0056】
得られた塗工膜を剥離し190℃で1.5倍に一軸延伸した。得られた膜の膜厚は20μmであり、光線透過率91.6%、ヘーズ0.5であり、3次元屈折率はnx=1.5182、ny=1.5145、nz=1.5078であった。また、膜の面内位相差量(Re)は74nmであり、面外位相差量(Rth)=171nmであった。さらに位相差量の波長依存性を示すR450/R589は1.06であり、光学補償膜としての機能を有するものであった。
【0057】
実施例3
合成例3で得られたN−n−オクチルマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂をテトラヒドロフランに溶解し15%溶液とし、コーターにより環状ポリオレフィンフィルム基材上に流延し、90℃で10分乾燥し厚み75μmの塗工膜を得た。塗工膜のTgは150℃であった。得られた塗工膜を環状ポリオレフィン基材とともに160℃で1.5倍に一軸延伸した。延伸後基材フィルムから剥離し光学特性を評価した。
【0058】
得られた膜の膜厚は20μmであり、光線透過率92.2%、ヘーズ0.5であり、3次元屈折率はnx=1.5079、ny=1.5056、nz=1.5033であった。また、フィルムの面内位相差量は115nmであり、Rth=172.5nmであった。さらに位相差量の波長依存性を示すR450/R589は1.04であり、光学補償膜としての機能を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド系樹脂からなる塗工膜を一軸延伸してなる光学補償膜であって、塗工膜の延伸軸方向をx軸とし、それと直交する方向をy軸、面外方向をz軸とし、x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、z軸方向の屈折率をnzとした際の3次元屈折率関係がnx>ny>nzであることを特徴とする光学補償膜。
【請求項2】
下記一般式(1)で示されるN−置換マレイミド残基単位よりなるマレイミド系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の光学補償膜。
【化1】

(ここで、Rは、炭素数1〜18の直鎖状アルキル基,分岐状アルキル基,環状アルキル基、ハロゲン基、エーテル基、エステル基、アミド基を示す。)
【請求項3】
上記一般式(1)で示されるマレイミド残基単位及び無水マレイン酸残基単位よりなるマレイミド−無水マレイン酸共重合体樹脂よりなることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償膜。
【請求項4】
下記式(2)で示される測定波長589nmの光で測定した面内位相差量(Re)が20nm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学補償膜。
Re=(nx−ny)×d (2)
(ここで、dは光学補償膜の膜厚(nm)を示す。)
【請求項5】
下記式(3)で示される測定波長589nmの光で測定した面外位相差量(Rth)が30〜2000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学補償膜。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (3)
(ここで、dは光学補償膜の膜厚(nm)を示す。)
【請求項6】
測定波長450nmで測定した位相差量(R450)と測定波長589nmで測定した位相差量(R589)の比で示される位相差量の波長依存性(R450/R589)が、1.1以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学補償膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学補償膜からなることを特徴とする液晶表示素子用光学補償膜。

【公開番号】特開2009−156908(P2009−156908A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331825(P2007−331825)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】