説明

光学製品及び眼鏡プラスチックレンズ

【課題】透過性に影響を与えず、帯電防止性に優れた光学製品を提供する。
【解決手段】光学製品としての光学レンズにおけるレンズ基部1の表裏両面にカーボンナノチューブ堆積層2が積層されており、各面における単位面積当たりのカーボンナノチューブ量が9.93E−10g/mm〜3.97E−09g/mmである帯電防止性光学レンズを提供する。さらに、前記カーボンナノチューブ堆積層2の上にハードコート層(中間層3)と反射防止膜(光学多層膜4)が積層された光学製品としての眼鏡プラスチックレンズを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性に影響を与えず、帯電防止性に優れた眼鏡レンズやカメラレンズ等の光学製品ないし眼鏡プラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
光学製品の一例としての光学レンズは、帯電するとごみや埃が付着しやすくなり、特に眼鏡レンズにおいては拭き上げの頻度が高くなる。また、ごみや埃が付着した状態で拭き上げ等を行うと、ごみや埃を巻き込み、その結果レンズ表面にキズが入ってしまう。その他の光学レンズにおいても、ごみや埃などが付着することで画像出力などへの影響が考えられる。帯電防止性を付与するための一般的な方法として、光学レンズ上に導電性を有するコート層を設けることが知られているが、可視光の吸収による着色や耐久性能などの課題を有してきた。
【0003】
これらの課題を解決するために、カーボンナノチューブを積層させる方法が知られている。例えば、特許文献1のような方法でカーボンナノチューブを積層させることにより、従来の耐久性を維持しながら、透過性に影響を与えず、帯電防止性に優れた光学部材を提供することができる。また、カーボンナノチューブ類を混合した撥水剤を真空蒸着法で薄膜を積層させる方法(特許文献2)などが知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている光学部材は、帯電防止効果はあるもののカーボンナノチューブの定着力が弱く帯電防止性の持続力に課題を有していた。また、特許文献2に開示されている方法では、積層された膜中のカーボンナノチューブが均一になるような制御が困難である。
【0005】
また、カーボンナノチューブは繊維状の物質であり、カーボンナノチューブ間に空隙が発生する可能性が高く、膜厚を物理的に測定することは困難であった。そのため、カーボンナノチューブ堆積層の制御性に課題を有してきた。特許文献3に開示されている製造方法は、カーボンナノチューブ堆積層内に含有されるカーボンナノチューブの量や比率については言及されていない。また、特許文献4では、カーボンナノチューブの開口率が言及されているが、高度な分析が必要なため作業の簡便さに課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−92949号公報
【特許文献2】特開2007−056314号公報
【特許文献3】特開2006−119351号公報
【特許文献4】特開2008−224971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、その目的は透過性に影響を与えず、帯電防止性に優れた光学製品や眼鏡プラスチックレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記の課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、下記の帯電防止性に優れた光学製品により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、光学製品にあって、光学製品基部の表裏両面にカーボンナノチューブ堆積層が積層されたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記カーボンナノチューブ堆積層にあって、各面における単位面積当たりのカーボンナノチューブ量が9.93E−10g/mm〜3.97E−09g/mmであることを特徴とするものである。なお、「E」は、その直後の数字を10のべき数とみて、その直前の数に乗算されることを示す。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記カーボンナノチューブ堆積層上に直接あるいは中間層を介して、光学多層膜が積層されたことを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の光学製品にあって、前記光学製品基部が眼鏡プラスチックレンズ基部であり、前記中間層がハードコート層であり、前記光学多層膜が反射防止膜であることを特徴とする眼鏡プラスチックレンズである。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、帯電防止剤としてカーボンナノチューブを使用することにより、透過性に影響を与えず、帯電防止性を付与することができる。また、カーボンナノチューブ堆積層上に、中間層や光学多層膜を設けることで、前記カーボンナノチューブ層を保護し、帯電防止性を持続させることができる。更に、各面における単位面積当たりのカーボンナノチューブ量をコントロールすることで、従来の耐久性を維持しながら、透過性に影響を与えず、帯電防止性に優れた光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学製品の片面における一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる実施の形態の例につき、適宜図面に基づいて説明する。なお、本発明の形態は、これらの例に限定されない。
【0016】
本発明における光学製品の一例としての帯電防止性光学レンズでは、図1に示すように、レンズ基部1の表裏両面にカーボンナノチューブ堆積層2、中間層3、光学多層膜4をこの順に積層している。なお、図1では片面のみを示しているが、反対の面も同様に(光学レンズ1を中心として対称的に)成る。また、中間層3を介入せず、帯電防止層2上に直接、光学多層膜4を積層してもよい。
【0017】
光学レンズ、特に眼鏡プラスチックレンズにおいて拭き上げなどのメンテナンスを行う際に、表裏両面で帯電が発生してしまう。そのため、帯電防止性は片面では不十分であり、表裏両面に帯電防止性を付与することが最も好ましい。
【0018】
カーボンナノチューブ堆積層2は、レンズ基部1の表面にカーボンナノチューブ分散液を塗布し乾燥させて形成することで、カーボンナノチューブがネットワークを構成し、帯電防止性が付与される。使用するカーボンナノチューブの種類は特に限定されないが、高い透過率を得るために、シングルウォールタイプがより好ましい。また、表面処理されたカーボンナノチューブを使用してもよく、共有結合を利用したものや非共有結合を利用したものなど適宜使用できる。
【0019】
分散液に使用する溶媒は、カーボンナノチューブがうまく分散できるものであれば、特に制限はない。溶剤としては、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどを例示できる。さらに、カーボンナノチューブの分散性を向上させることを目的として、分散剤を用いることがある。分散剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などを挙げることができる。
【0020】
カーボンナノチューブ分散液を塗布する方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、バーコートなどの塗布法を用いることができる。
【0021】
カーボンナノチューブ堆積層2において、カーボンナノチューブの堆積量が多いと安定して帯電防止性を得られるが、堆積量が増えすぎると着色し透過率が低下する。前記カーボンナノチューブ堆積層2にあって、各面における単位面積当たりのカーボンナノチューブ量は、9.93E−10g/mm(グラム毎平方ミリメートル)〜3.97E−09g/mmで制御されるが、外観、光学特性および帯電防止性の観点から、9.93E−10g/mm〜2.98E−09g/mmであることが好ましく、さらに9.93E−10g/mm〜1.99E−09g/mmであることが好ましい。カーボンナノチューブ量は、分散液の濃度、塗布条件およびレンズ基部1の形状などに応じて変化する。
【0022】
レンズ基部1の両面に前記カーボンナノチューブ堆積層を塗布した場合の透過率変化量において、1.0%(パーセント)〜4.0%で制御されるが、外観や光学特性の観点から1.0%〜3.0%であることが好ましく、さらに1.0%〜2.0%であることが好ましい。透過率変化量は、レンズ基部1上のカーボンナノチューブ量によって変化する。
【0023】
光学レンズは、例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、双眼鏡レンズ、望遠鏡レンズなどが挙げられる。また、光学レンズの素材は、ガラスあるいはプラスチックであり、プラスチックとしては、例えばポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4ーメチルペンテンー1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0024】
中間層3は、例えばレンズ基部1の表面に設けられたハードコート層などが該当する。ハードコート層としては、例えば、オルガノシロキサン系、その他有機ケイ素化合物、アクリル化合物などから形成される。また、中間層3につき、ハードコート層の下層にプライマー層を設けたものとしてもよく、この場合のプライマー層は、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂から形成される。
【0025】
光学多層膜4は、一般的に真空蒸着法やスパッタ法などにより、金属酸化物からなる低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させて形成され、例えば、反射防止膜、ミラー、ハーフミラー、NDフィルター、バンドパスフィルターなどが挙げられる。金属酸化物として、例えば、二酸化ケイ素が低屈折率層となる。その他の金属酸化物として、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化イットリウム、二酸化タンタル、二酸化ハフニウムなどが挙げられ、これらはいずれも二酸化ケイ素に対して高屈折率層となる。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例および比較例を示す。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
(透過率変化量と単位面積当たりのカーボンナノチューブ量)
カーボンナノチューブ分散液が飛散しないように、レンズ基部1の片面上に均一に塗布し、乾燥して、カーボンナノチューブ堆積層2を形成したものについて、透過率変化量と単位面積当たりのカーボンナノチューブ量の算出を行い、それらの関係性が得られた。例えば、直径75mmの眼鏡レンズのレンズ基部1上に、0.0128wt%(重量パーセント)のカーボンナノチューブエタノール分散液を0.25ml(ミリリットル)滴下し、前記したように塗布した時、透過率変化量は0.7%であり、単位面積当たりのカーボンナノチューブ量は1.39E−09g/mmであった。なお、表面に膜(層)を付与される前のレンズ(光学製品)をレンズ基部1(光学製品基部)と呼び、膜の付されたレンズ基部1(光学製品基部)をレンズ(光学製品)と呼ぶ。
【0028】
(帯電防止性)
レンズ基部1の表面を不織布(小津産業株式会社製pureleaf)で10秒間擦り、その直後および初期、初期からの1分後、同2分後、同3分後のそれぞれにおいて、静電気測定器(シムコジャパン株式会社製FMX−003)で表面の帯電電位を測定した。付着試験として、前記と同様に表面を不織布で10秒間擦った後スチールウール粉に近づけることで、レンズ表面へのスチールウール粉の付着具合を観察し、帯電の程度を確認した。付着試験の欄に付着しなかった場合は「○」、付着した場合は「×」を付すことで示す。また、これらの評価をレンズ各面で行った。
【0029】
(透過率の測定)
分光光度計(日立製作所株式会社製U−4100)を用いて透過率測定を行った。
【0030】
(恒温恒湿試験)
実施例2において、摂氏60度(以下同様)で95%の環境下に7日間放置した後の性能変化の評価を行った。
【0031】
(カーボンナノチューブ堆積層の形成)
スピンコーターを用いて、カーボンナノチューブ堆積層2を形成した。カーボンナノチューブエタノール分散液(株式会社名城ナノカーボン製、0.0128wt%)を眼鏡レンズ上に滴下し、1000rpmの回転速度で30秒間回転させ、60度における15分間の乾燥により溶剤を除去し、レンズ基部1の両面にカーボンナノチューブ堆積層2を形成した。また、前記眼鏡レンズは屈折率1.6、アッベ数42の光学特性を有し、度数−2.00である。
【0032】
(ハードコート層の形成)
反応容器中にエタノール206g、メタノール分散チタニア系ゾル300g(日揮触媒化成株式会社製、固形分30%)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60g、γーグリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン30g、テトラエトキシシラン60gを滴下し、その混合液中に0.01N(規定濃度)の塩酸水溶液を滴下、撹拌して加水分解を行った。次にフロー調整剤0.5g(日本ユニカ株式会社製L−7604)および触媒1.0gを加え、室温で3時間撹拌してハードコート液を形成した。前記カーボンナノチューブ堆積層2上に、このハードコート液をスピンコート法で塗布し、風乾後、120度で1.5時間加熱硬化させて、膜厚3.0μm(マイクロメートル)のハードコート膜(中間層3)を形成した。
【0033】
(反射防止膜の形成)
前記ハードコート層付きのレンズ基部1を真空槽内にセットし、真空蒸着法によって、基板温度80度で反射防止処理を行った。この処理により形成される反射防止膜(光学多層膜4)の構成は、光学膜厚で下から二酸化ケイ素層λ/4、二酸化ジルコニウム層0.5λ/4、二酸化ケイ素層0.2λ/4、二酸化ジルコニウム層λ/4、最上層の二酸化ケイ素層λ/4の5層膜とした。ここで、λは500nmに設定した。
【0034】
(実施例1)
レンズ基部1の両面に前記カーボンナノチューブ堆積層、前記ハードコート層および前記反射防止膜を形成した。また、各面におけるカーボンナノチューブ分散液の滴下量を1.00mlとした。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、各面におけるカーボンナノチューブ分散液の滴下量を1.50mlとした。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、各面におけるカーボンナノチューブ分散液の滴下量を2.00mlとした。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、カーボンナノチューブ堆積層を形成しなかった。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、レンズ凸面のみにカーボンナノチューブ堆積層を形成し、カーボンナノチューブ分散液の滴下量を1.50mlとした。
【0039】
(比較例3)
実施例1において、各面におけるカーボンナノチューブ分散液の滴下量を0.50mlとした。
【0040】
(比較例4)
実施例1において、各面におけるカーボンナノチューブ分散液の滴下量を2.50mlとした。
【0041】
以上のようにして得られた光学レンズについて、評価を行った結果を次の[表1]や[表2]に示す。なお、[表1]におけるkVは、キロボルトである。
【0042】
【表1】

【表2】

【0043】
[表1]に示したように、比較例1〜2に対し、実施例1〜3は透過率を満足しながら、優れた帯電防止性を有している。また、比較例3においては、帯電防止性が十分に得られず、さらに比較例4においては、帯電防止性は優れているものの、透過率は十分ではなかった。また、[表2]に示すように、実施例2において、60度で95%の環境下に7日間放置した後も帯電防止性を維持していた。また、外観においては、クラック発生などもなく、カーボンナノチューブ堆積層2がない比較例1と同等であった。
【符号の説明】
【0044】
1 レンズ基部(光学製品基部)
2 カーボンナノチューブ堆積層
3 中間層(ハードコート層)
4 光学多層膜(反射防止膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学製品基部の表裏両面にカーボンナノチューブ堆積層が積層されたことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ堆積層にあって、各面における単位面積当たりのカーボンナノチューブ量が9.93E−10g/mm〜3.97E−09g/mmであることを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ堆積層上に直接あるいは中間層を介して、光学多層膜が積層されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学製品。
【請求項4】
請求項3に記載の光学製品にあって、前記光学製品基部が眼鏡プラスチックレンズ基部であり、前記中間層がハードコート層であり、前記光学多層膜が反射防止膜であることを特徴とする眼鏡プラスチックレンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−271479(P2010−271479A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122216(P2009−122216)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】