説明

光学製品及び眼鏡

【課題】所定箇所と全体の視認性を両立・向上することができる光学製品、あるいはこれを用いた眼鏡を提供する。
【解決手段】本発明における光学製品では、S偏光光を可視領域における所定の分光透過率分布においてフィルタリングする偏光基材に対し、当該分布の極大値と、P偏光光及びS偏光光に対する可視領域における分光透過率分布の平均の極大値が、互いに異なる波長に属するように、着色が施されている。即ち、図1のものでは、S偏光透過率の極大値は、500nm付近にあるのに対し、S偏光透過率とP偏光透過率の平均の極大値は、600nm付近にある。又、この光学製品を用いて眼鏡を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズを始めとする光学製品、ないしその光学製品を用いた眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡の一例であるゴルフ用サングラスにおいては、遮光性に加え、緑色の芝目のコントラスト向上の観点から、ブラウンに着色されたカラーレンズが広く用いられている。かようなブラウンレンズにおいては、その着色により、可視領域における短波長側の光がカットされ、高い遮光性が得られる。又、その着色により、短波長域から中間波長域にかけて次第に透過率が上昇するような特性となり、グリーンの芝目のコントラストが強調される。なお、ブラウンの着色により、ユーザーに受け入れられやすい美観に優れた外観とすることもできる。
【0003】
しかし、ブラウンレンズにおいては、その着色により、芝目のみならず視界全体が赤茶けて見えてしまう。又、グリーンのコントラストが向上することと引き替えに、その鮮明さが抑制されることとなる。
【0004】
そこで、着色に対し、偏光を組み合わせることで、遮光性及び芝目の視認性と、視界全体の視認性ないし芝目の鮮明さの両立あるいは向上を図ることが考えられる。従来、着色と偏光を組み合わせたものとして、特許文献1に記載の光学積層成形品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−276150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、偏光シートに対し透明インクのカラー印刷で着色し、そのシートを用いてレンズを成型することで、特定の全光線透過率で所定色となるレンズを得ることしか開示されておらず、どのように着色と偏光を組み合わせると遮光性や芝目の視認性ないし全体の視認性の両立や向上を図れるかは開示されていない。
【0007】
又、着色と偏光を組み合わせることで、芝目と全体の視認性を両立・向上することと同様にして(ゴルフ用レンズ)、雪面と全体の視認性を両立・向上したり(ウィンター用レンズ)、液晶モニタの画面と他部分の視認性を両立・向上したり(モニタ用レンズ)する等、他の光学製品の性能の向上を具体的に図ることも考えられるが、そのようなことも当然開示されていない。
【0008】
そこで、請求項1〜6,7に記載の発明は、所定箇所と全体の視認性を両立・向上することができる光学製品、あるいはこれを用いた眼鏡を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、光学製品にあって、S偏光光を可視領域における所定の分光透過率分布においてフィルタリングする偏光基材に対し、当該分布の極大値と、P偏光光及びS偏光光に対する可視領域における分光透過率分布の平均の極大値が、互いに異なる波長又は互いに異なる波長範囲に属するように、着色が施されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、上記発明において、S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が400nm以上550nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が550nm以上の波長の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記発明において、S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が450nm以上550nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が650nm以上700nm未満の波長の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記発明において、S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が400nm以上500nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極小値が400nm以上450nm未満の波長の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、上記発明において、S偏光光に係る分光透過率分布の極小値が600nm以上700nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が500nm以上550nm未満の波長の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、光学製品にあって、S偏光光をフィルタリングする偏光基材に対し、S偏光光における透過光の色調と、S偏光光及びP偏光光における透過光の色調とが異なるように着色することを特徴とするものである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、上記目的を達成するため、眼鏡にあって、上記の光学製品を用いて作成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、偏光基材を、S偏光光に対する可視領域における分光透過率分布の極大値と、P偏光光及びS偏光光に対する可視領域における分光透過率分布の平均の極大値が、互いに異なる波長に属するように着色し、あるいは、偏光基材を、S偏光光における透過光の色調と、S偏光光及びP偏光光における透過光の色調とが異なるように着色したので、所定箇所(S偏光光の発生元)と全体(S偏光光とP偏光光の双方を含む光の発生元、所定箇所以外)の視認性を両立・向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1と従来のゴルフ用サングラスの分光透過率分布を示すグラフである。
【図2】実施例1及び比較例1の解析用撮像風景の模式図である。
【図3】緑葉と枯葉の分光反射率分布を示すグラフである。
【図4】実施例3及び比較例3等の解析用撮像風景の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき説明する。なお、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
【0019】
本発明に係る光学製品では、偏光基材に着色が施されている。偏光基材は、透光性を有しており、主に電場が入射光面に垂直に振動するS偏光光をフィルタリングする偏光フィルタの機能を備えている。偏光フィルタの機能は、偏光基材の全部又は一部を吸収型偏光子としてのポリマーや複屈折性の結晶等により形成することで付与されて良いが、好適には、所定方向の偏光を反射あるいはカットする偏光膜を偏光基材に含めることで付与される。
【0020】
具体例としては、偏光基材が表レンズ基材と裏レンズ基材と偏光膜を備えており、表レンズ基材と裏レンズ基材の間に偏光膜を配置して互いに固定するレンズを挙げることができる。なお、偏光膜を複数として良く、このときに互いに異なるフィルタリングを施すものとして良いし、重ね合わせたり異なる位置に配置したりして良い。又、偏光基材に1枚のレンズ基材と偏光膜を含ませ、レンズ基材の表側及び/又は裏側に偏光膜を配置して良い。更に、偏光膜は、偏光基材の表面全体に亘っても良いし、一部を覆うものであっても良い。又更に、偏光膜における一部分と他部分とでフィルタリング特性を異ならせるようにして良い。加えて、偏光膜をブロック状とした偏光ブロックを採用しても良い。
【0021】
偏光基材による偏光のフィルタリングは、例えばグリーン系、イエロー系、あるいはブルー系である。グリーン系の偏光のフィルタリングは、可視領域(例えば400〜800ナノメートル(nm)、あるいは400〜780nmの波長領域)における中間域(例えば400〜500nm)の偏光透過率(の平均)が他の域より高いものであり、換言すれば緑色に認識される波長域における偏光透過率(の平均)が他の域より高いものである。なお、例えば併せて600〜700nmの領域で偏光透過率(の平均)が高くなる場合もあるが、この波長範囲は視感度が比較的に低いために中間域に比して問題とならない。一方、イエロー系の偏光のフィルタリングは、可視領域における短波長域(例えば400〜500nm)の偏光透過率(の平均)が他の域より低いものであり、換言すれば黄色に認識される偏光透過率分布となっているものである。他方、ブルー系の偏光のフィルタリングは、可視領域における短波長域(例えば400〜500nm)の偏光透過率(の平均)が他の域より高いものであり、換言すれば青色に認識される波長域における偏光透過率(の平均)が他の域より高いものである。
【0022】
又、偏光基材への着色は、例えば全体として(S偏光光のフィルタリングを合わせて考慮して)ブラウン系、あるいはグリーン系となるようにするものである。ブラウン系の着色は、例えば、可視領域における短波長域及び長波長域(例えば700〜800nm)の透過率(の平均)が他の域より低く、中間域(グリーン系より長波長側、例えば500〜700nm)の透過率(の平均)が総じて高いものである。あるいは、別のブラウン系の着色として、可視領域における短波長域の透過率(の平均)が他の域より低いものであり、短波長域以外の透過率(の平均)が総じて高いものがあげられる。なお、偏光基材への着色は、偏光膜と合わせて考慮して決定可能である。即ち、最終的に、偏光基材により減光されたS偏光光と、着色により減光されたS偏光光及びP偏光光が、着色偏光基材を通過することを考慮して、着色における色の種類を決定することができる。例えば、ブルー系の偏光膜を採用する場合において、全体としてグリーン系とするとき、イエロー系の着色を合わせることとなる。
【0023】
偏光基材への着色は、好適には、偏光基材がレンズ基材と偏光膜を含む場合のレンズ基材に対する染色により行われる。レンズ基材が表裏に分かれるとき、何れか一方へ着色しても良いし、双方に着色しても良い。双方に着色する際、着色手法や分光透過率分布を互いに異ならせても良い。又、偏光フィルタ(偏光膜)自体に着色しても良く、この場合に透明なレンズ基材あるいは着色したレンズ基材等と組み合わせて良い。
【0024】
そして、このような偏光と着色の組合せにより、本発明の光学製品におけるS偏光光の分光透過率分布と、S偏光光及びP偏光光の分光透過率分布の平均が、互いに相違することとなる。従って、S偏光光の透過率の極大値と、S偏光光及びP偏光光の平均透過率の極大値が、互いに異なる波長に属することとなり、あるいは、S偏光光の透過率の極大値範囲と、S偏光光及びP偏光光の平均透過率の極大値範囲が、互いに異なる波長範囲に属することとなる。なお、互いに異なる波長範囲の場合について更に詳述すると、S偏光光の透過率の極大値が所定範囲において一定値をとり、又S偏光光及びP偏光光の平均透過率の極大値が特定範囲について別のあるいは同じ一定値をとる場合、当該所定範囲の始め及び/又は終わりの波長と、当該特定範囲の始め及び/又は終わりの波長が異なる場合を含むものである。更に、互いに異なる波長又は互いに異なる波長範囲に属することには、S偏光光の透過率の極大値、又はS偏光光及びP偏光光の平均透過率の極大値の一方のみがとある範囲で一定値をとるときが含まれる。
【0025】
具体的には、芝目や雪面、樹木等の自然物(紙や樹脂等の自然物加工品を含む)において反射した自然反射光や、液晶モニタからの光は、その殆ど全てがS偏光光であり、本発明の光学製品に入射すると、主にS偏光光をフィルタリングする偏光基材による偏光透過率分布に強く従うこととなり、その透過光のみ適宜更に着色による透過率分布の影響を受ける。
【0026】
これに対し、本発明の光学製品に直接入射する直接光を始めとする自然反射光以外の光は、S偏光光とP偏光光の双方を含む光であり、本発明の光学製品に入射すると、S偏光光は偏光透過率分布(及びその透過後における着色による透過率分布)に従うこととなるものの、P偏光光は偏光透過率分布に従わず着色による透過率分布に従うこととなり、自然反射光以外の光ではS偏光光とP偏光光が合わさっているので、S偏光光単独の場合に比較して着色による透過率分布に強く従うこととなる。
【0027】
そして、本発明では、偏光フィルタの透過光と、偏光フィルタ及び着色の透過光とで色調をずらしているため(例えばグリーン系に対するブラウン系や、イエロー系に対するブラウン系、ブルー系に対するグリーン系)、S偏光光の分光透過率分布と、S偏光光及びP偏光光の分光透過率分布が、互いに異なっており、S偏光光の透過率の極大値と、S偏光光及びP偏光光の透過率の極大値が、互いに異なる波長あるいは波長範囲に位置する。
【0028】
このように、S偏光光の透過率の分布(極大値)と、S偏光光及びP偏光光の透過率の分布(極大値)を、互いに異なるもの(波長・波長範囲)とすると、自然反射光やモニタ光の透過光と、それ以外の透過光で、見え方を相違させることができ、ゴルフ、ウィンタースポーツ、液晶モニタ等に適したものとすることができる。
【実施例1】
【0029】
次いで、本発明の好適な実施例等につき、数例説明する。なお、これら実施例等においては、可視領域を400〜780nmとする。
【0030】
実施例1に係る光学製品として、グリーンの偏光膜を、これと合わせて全体としてブラウンとなるような着色を施したほぼ同じ広さの表裏のレンズ基材で挟んだゴルフ用レンズを作成した。このような作成により、主として偏光膜及び着色の作用によるS偏光光の透過光(グリーン系)と、主として着色の作用によるP偏光光及びS偏光光を合わせた透過光とで(ブラウン系)、色調が互いに異なることとなる。
【0031】
偏光膜は、450〜550nm内の波長(例えば500nm)にS偏光光に対する透過率の極大値があり、その他の波長の光の透過率が可視領域の両脇に近づくに従い順次低く(吸収率が順次高く)なる分光透過率特性を持っている。
【0032】
一方、着色は、次の2〜3の段階により行った。まず、レッド染料による染色を行った。この染色は、吸収率が500〜550nm内の波長においてピークとなり、その両脇で順次小さくなる特性の分散染料を、溶剤に分散させた染色液に対して、表裏のレンズ基材をそれぞれ浸漬することで行った。
【0033】
次に、イエロー染料による染色を行った。この染色は、吸収率が350〜400nm内の波長においてピークとなり、500〜550nm内の波長まで順次小さくなる特性の分散染料を、溶剤に分散させた染色液に対して、表裏のレンズ基材をそれぞれ浸漬することで行った。
【0034】
続いて、適宜色調整を行った。色調整は、前2段階の染料濃度や浸漬時間等を様々に変えて行い、レンズ全体(S偏光透過率とP偏光透過率の平均)において、400〜450nm内の波長の光の透過率が最も小さく、600nm付近において透過率の極大値を持ち、650〜700nmにかけて順次透過率が高くなる(650〜700nmの波長範囲内に極大値が位置する)分光透過率特性を得る目的で行った。
【0035】
これに対し、本発明に属さない比較例1として、当該ゴルフ用レンズと同寸で、同じ着色を施したものではあるが、偏光膜を有しない一体のブラウン系着色レンズを作成した。
【0036】
このように形成した実施例1の分光透過率分布(P偏光透過率,S偏光透過率,及びこれらの平均)と、比較例1と異なる従来の一般的なブラウン系ゴルフ用サングラスの分光透過率分布のグラフを、図1に示す。
【0037】
これら実施例1及び比較例1に対し、次のように視認性をそれぞれ確認した。即ち、デジタルスチルカメラのレンズの直前に、ゴルフ用レンズ又は着色レンズを固定した状態で、使用場面(ゴルフ場)を模した風景を撮影した。そして、撮影画像をコンピュータ(画像処理ソフトウェア)で解析した。
【0038】
ここで、カメラの露出やホワイトバランスは固定されており、その他の機能は切ってある。又、前記風景は、図2に示すようなものであり、建物の屋上面に白い箱X(紙製)と緑色の人工芝のマットG(樹脂製・自然物加工品)を置いたものである。箱Xはその側面Dに影がかかるように配置されており、当該側面Dからの光は偏光の影響を受けない。更に、画像解析は、箱Xの当該側面D及び人工芝マットG上面における各画素のR値・G値・B値の各平均値をそれぞれ算出することで行う。なお、R値は、ここでは着目画素における赤色成分の強さを0〜255の整数で表すものであり、大きいほど強く、0では成分のないことを示す。同様に、G値は、緑色成分の強さを表し、B値は、青色成分の強さを表す。そして、(R値,G値,B値)=(0,0,0)であると着目画素が真黒であることが示され、(R値,G値,B値)=(255,255,255)であると着目画素が真白であることが示される。
【0039】
視認性の確認結果を次の[表1]に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
比較例1では、ブラウンの着色により、影のかかった白い箱Xの側面Dが、真のグレーではなく茶色がかって捉えられている。即ち、B値(44)に比べ、G値が高くなっており(95)、R値が更に高くなっていて(113)、茶色がかったグレーとして認識されている。又、芝(マットG)は、G値が突出して高く(113)、緑色として認識されているが、B値が抑えられている(8)ことに対してR値が比較的に高く(65)、若干赤みを帯びたようにも捉えられ、従来のブラウンレンズにおける緑色に対するコントラスト強調の効果につながっているようである。
【0042】
なお、緑色に対するコントラスト強調の効果は、緑葉の分光反射率分布と枯葉の分光反射率分布(図3参照)が520〜700nmで大きく異なっており(520〜560nmにおいて緑葉の反射率0.15〜0.2程度に対し枯葉0.1〜0.15程度,560〜700nmにおいて緑葉の反射率0.05〜0.3程度に対し枯葉0.15〜0.4程度・内600〜680nmで同波長で0.1〜0.3の差あり)、これ以外の波長域でさほど異なっていないことに応じ発揮される。即ち、ブラウン系に着色することで、緑葉と枯葉で分光反射率分布が大きく相違する520〜700nmでの透過率を比較的に大きくし、これ以外の波長域での透過率を比較的に小さく(入射光をカット)することが可能となり、結果芝のコントラストが強調される。
【0043】
これに対し、実施例1では、箱Xの側面Dについては(R値,G値,B値)=(112,92,42)となっており、比較例1の(113,95,44)とさほど変わらない状況となっている。これは、箱Xの側面Dからの光がS偏光光のみならず偏光膜の影響を殆ど受けないP偏光光をも含み、かつ全体としてブラウンとなるように着色した影響はP偏光光にも及ぶことによる。又、芝(マットG)について、R値が比較例1から上昇しているものの(71,比較例1から6増加)、G値が比較例1から更に上昇している(121,比較例1から8増加)と共に、B値も比較例1から一層上昇しており(19,比較例1から11増加)、緑み・青みが強い状態となっている。これは、主にS偏光光となる芝の反射光がグリーンの偏光膜の影響を強く受けることによる。なお、偏光あるいは着色の極大値等の属する波長(範囲)が、実施例1に係る範囲から外れると、芝に対する視認性が比較的に良好ではなくなり、あるいは芝以外の見え方が比較的に自然でなくなる。
【0044】
よって、実施例1のゴルフ用レンズにあっては、従来のブラウンレンズ(比較例1)と同等の全体視認性を有しながら、従来に比べ芝を緑みないし青みの強い状態で視認することができるといえ、芝とそれ以外の視認性をいずれも良好な状態で両立することが可能となっている。
【0045】
なお、ゴルフ用レンズを(2枚)用いて、ゴルフ用眼鏡(ゴルフ用サングラス)を形成することができる。又、実施例1につきゴルフ用としているが、ハイキング用・アウトドアスポーツ用・アウトドアアクティビティー用・マリンスポーツ用・屋内スポーツ用等の、緑色や青色の自然物を見る他の用途に用いて良い。
【実施例2】
【0046】
実施例2に係る光学製品として、イエローの偏光膜を、これと合わせて全体としてブラウンとなるような着色を施したほぼ同じ広さの表裏のレンズ基材で挟んだスキー用レンズを作成した。このような作成により、主として偏光膜及び着色の作用によるS偏光光の透過光(イエロー系)と、主として着色の作用によるP偏光光及びS偏光光を合わせた透過光とで(ブラウン系)、色調が互いに異なることとなる。
【0047】
偏光膜は、400〜500nm内(例えば400nm)の波長のS偏光光に対する吸収率が最も高く(透過率が最も低く)、その他の波長の光の吸収率が可視領域の長波長側あるいは両脇に近づくに従い順次低く(透過率が順次高く)なる分光透過率特性を持っている。即ち、400〜500nm内の何れかの波長において、S偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極小値が位置する。なお、偏光膜に係るS偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極大値は、例えば780nmにある。
【0048】
一方、着色は、次の2〜3の段階により行った。まず、レッド染料による染色を行った。この染色は、吸収率が500〜550nm内の波長においてピークとなり、その両脇で順次小さくなる特性の分散染料を、溶剤に分散させた染色液に対して、表裏のレンズ基材をそれぞれ浸漬することで行った。
【0049】
次に、ブルー染料による染色を行った。この染色は、吸収率が600〜650nm内の波長においてピークとなり、その両脇の波長域においてそれぞれ順次小さくなる特性の分散染料を、溶剤に分散させた染色液に対して、表裏のレンズ基材をそれぞれ浸漬することで行った。
【0050】
続いて、適宜色調整を行った。色調整は、前2段階の染料濃度や浸漬時間等を様々に変えて行い、レンズ全体で、400〜450nm内の波長の光の透過率が最も小さく、650〜700nmにかけて順次透過率が高くなる分光透過率特性を得る目的で行った。即ち、400〜450nm内の何れかの波長において、S偏光光及びP偏光光に対する平均分光透過率分布における透過率の極小値が位置し、650〜700nm内の何れかの波長において、S偏光光及びP偏光光に対する平均分光透過率分布における透過率の極大値が位置する。
【0051】
これに対し、比較例2として、当該スキー用レンズと同寸で、同じ着色を施したものではあるが、偏光膜を有しない一体のブラウン系着色レンズを作成した。
【0052】
これら実施例2及び比較例2に対し、実施例1等と同様に視認性をそれぞれ確認した。ここで、風景は、実施例1と同様であるが、人工芝マットGに代えて真白に極めて近い白紙をほぼ同範囲において敷き詰めたものである。視認性の確認結果を次の[表2]に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
比較例2では、ブラウンの着色により、影のかかった白い箱Xの側面Dが、真のグレーではなく茶色がかって捉えられている。即ち、B値(55)に比べ、G値が高くなっており(86)、R値が更に高くなっており(106)、茶色がかったグレーとして認識されている。又、雪を模した白紙の表面は、何れの値も高く白色として認識されるものの、比較的にR値とG値が高く(209,175)、B値は134と比較的に低くなっていて、若干黄みを帯びたようにも捉えられ、従来のイエローレンズにおける白色に対するコントラスト強調や眼の保護の効果と同様の効果の発揮につながっているようである。なお、コントラスト強調や眼の保護は、短波長側(青色側)のカットにより、雪面からの青い反射を抑え、又眼球への短波長光の入射を抑えることで行われるところ、ブラウンでもイエロー同様短波長側の透過率は低減される。
【0055】
これに対し、実施例2では、箱Xの側面Dについては(R値,G値,B値)=(105,85,56)となっており、比較例1の(106,86,55)とさほど変わらない状況となっている。これは、箱Xの側面Dからの光がS偏光光のみならず偏光膜の影響を殆ど受けないP偏光光をも含み、かつ全体としてブラウンとなるように着色した影響はP偏光光にも及ぶことによる。又、白紙について、R値・G値は比較例1と変わらず(209,175)、B値が比較例1から大きく減少しており(126,比較例1から8減少)、より青みを抑えてコントラスト強調や眼の保護の効果を一層発揮させることができている。これは、主にS偏光光となる白紙表面からの反射光がイエローの偏光膜の影響を強く受けることによる。なお、偏光あるいは着色の極大値等の属する波長(範囲)が、実施例2に係る範囲から外れると、雪に対する視認性が比較的に良好ではなくなり、あるいは雪以外の見え方が比較的に自然でなくなる。
【0056】
よって、実施例2のスキー用レンズにあっては、従来のブラウンレンズ(比較例2)と同等の全体視認性を有しながら、従来に比べ雪面を青みのより抑制された状態で視認することができるといえ、雪面とそれ以外の視認性をいずれも良好な状態で両立することが可能となっている。
【0057】
なお、スキー用レンズを(2枚)用いて、スキー用サングラス(スキー用眼鏡)を形成することができるし、スキー用レンズを1枚又は複数枚用いて、スキー用ゴーグル(スキー用眼鏡)を形成することができる。又、実施例2につきスキー用としているが、スノーボード用・スノートレッキング用・ウィンタースポーツ用・ウィンターアクティビティー用・砂浜用等の、白色の自然物を見る他の用途に用いて良い。
【実施例3】
【0058】
実施例3に係る光学製品として、ブルーの偏光膜を、これと合わせて全体としてグリーンとなるような着色を施したほぼ同じ広さの表裏のレンズ基材で挟んだ液晶モニタ用レンズを作成した。このような作成により、主として偏光膜及び着色の作用によるS偏光光の透過光(ブルー系)と、主として着色の作用によるP偏光光及びS偏光光を合わせた透過光とで(グリーン系)、色調が互いに異なることとなる。なお、ブルー系の偏光膜にイエロー系の着色を合わせると、全体としてグリーン系となる。
【0059】
偏光膜は、600〜700nm内(例えば650nm)の波長のS偏光光に対する吸収率が最も高く(透過率が最も低く)、その他の波長の光の吸収率が可視領域の長波長側あるいは両脇に近づくに従い順次低く(透過率が順次高く)なる分光透過率特性を持っている。即ち、600〜700nm内の何れかの波長において、S偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極小値が位置する。なお、S偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極大値は、例えば、420nm、480nmの何れか、あるいはこれらの組合せとなる。
【0060】
一方、着色は、次のように行った。即ち、吸収率が350〜450nm内でピークとなり(透過率が最低となり)、500〜550nmまでの波長の光に対して吸収率が順次小さくなる(透過率が大きくなる)特性の分散染料を、溶剤に分散させた染色液に対して、表裏のレンズ基材をそれぞれ浸漬することで行った。即ち、可視領域(ここでは400〜800nm)では400〜450nm内の何れかの波長において、S偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極小値が位置し、500〜550nm内の何れかの波長において、S偏光光に対する分光透過率分布における透過率の極大値が位置する。
【0061】
これに対し、比較例3として、当該液晶モニタ用レンズと同寸で、同じ偏光膜を用いたものではあるが、着色を施さない表裏レンズとした偏光レンズを作成した。
【0062】
これら実施例3及び比較例3に対し、実施例1等と同様に視認性をそれぞれ確認した。ここで、風景は、図4に示すように、机上の液晶モニタ一体型パソコン(PC)の画面Mないし白色の筐体Cの全体が大きく収まるものとした。なお、画面Mにおいては、紫色の枠内に白色無地の画像が配置される状態で、表示がなされている。又、何れのレンズも装着しない場合(レンズなし)についても、同条件で撮像し、画像解析した。このような視認性の確認結果を、次の[表3]に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
画面M部分のB値について、レンズなしに対し実施例3及び比較例3共に同程度大きくなっており、実施例3及び比較例3においてブルー偏光の効果が現れている。液晶モニタ(画面M)からの光は、その動作原理によりS偏光光となっているため、実施例3及び比較例3の偏光膜の影響を強く受ける。よって、実施例3及び比較例3においては、液晶モニタからの光を(軸方向の調整により)効率良く減光することができる。
【0065】
一方、PC筐体Cについて、B値はレンズなしよりも比較例3の方が大きくなっているが、R値・G値はレンズなしと比較例3で変化がない。従って、比較例3では、S偏光光だけではなくP偏光光も含む白色についても青みがかって見える。これに対し、実施例3では、レンズなしよりもB値・R値・G値全てにおいて同程度だけ大きくなっている。従って、実施例3では、P偏光光も含む白色について色の見えの変化は少なく、画面以外の部分の色合いが自然となる。なお、偏光あるいは着色の極大値等の属する波長(範囲)が、実施例3に係る範囲から外れると、モニタ光の減光が比較的に十分ではなくなり、あるいはモニタ以外の見え方が比較的に自然でなくなる。
【0066】
よって、実施例3の液晶モニタ用レンズにあっては、従来のPC用レンズ(比較例3)と同等のモニタ光の減光効果を得ながら、従来に比べ周辺の様子を色合いの変化のより少ない状態で視認することができるといえ、画面とそれ以外の視認性をいずれも良好な状態で両立することが可能となっている。
【0067】
なお、液晶モニタ用レンズを(2枚)用いて、液晶モニタ用サングラス(液晶モニタ用眼鏡)を形成することができる。又、実施例3につき液晶モニタ用としているが、主にS偏光光を発する他のモニタ用等に用いて良い。
【符号の説明】
【0068】
C (PC)筐体(周辺の視認)
G (人工芝)マット(所定箇所の視認)
M 画面(所定箇所の視認)
X 箱(周辺の視認)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S偏光光を可視領域における所定の分光透過率分布においてフィルタリングする偏光基材に対し、
当該分布の極大値と、P偏光光及びS偏光光に対する可視領域における分光透過率分布の平均の極大値が、互いに異なる波長又は互いに異なる波長範囲に属するように、着色が施されている
ことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が400nm以上550nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が550nm以上の波長の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が450nm以上550nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が650nm以上700nm未満の波長の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項4】
S偏光光に係る分光透過率分布の極大値が400nm以上500nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極小値が400nm以上450nm未満の波長の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項5】
S偏光光に係る分光透過率分布の極小値が600nm以上700nm未満の波長の範囲内にあり、P偏光光及びS偏光光の平均に係る極大値が500nm以上550nm未満の波長の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項6】
S偏光光をフィルタリングする偏光基材に対し、
S偏光光における透過光の色調と、S偏光光及びP偏光光における透過光の色調とが異なるように着色する
ことを特徴とする光学製品。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかに記載の光学製品を用いて作成されていることを特徴とする眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83892(P2013−83892A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225136(P2011−225136)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】