説明

光学記憶媒体およびその製造法

本発明は、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーと少なくとも1つの添加剤との混合物から製造される光学記憶材料を含有し、情報、データおよび画像の記憶のために向上した特性を有する光学記憶層および光学記憶媒体、ならびにそれらの製造および使用に関する。さらに、本発明は、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤を含んで成る光学記憶材料を含有する光学セキュリティ要素にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報、データおよび画像の記憶のために向上した特性を有し、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤を含んで成る光学記憶材料を含有する光学記憶層および光学記憶媒体、ならびにそれらの製造および使用に関する。本発明は、光学セキュリティ要素にも関する。
【背景技術】
【0002】
情報およびデータの記録、保存および記憶のための光学記憶装置は、今日、例えば、単一または複数書き込み可能コンパクトディスクまたはデジダル多機能ディスク(DVD)およびレーザーカードの形態で、広く普及している。
【0003】
新規光学記憶装置の開発には、一般に2つの主要な方向があり、第一に、記憶密度および記憶容量を増加させることであり、第二に、記憶情報を不正アクセス、複写および操作から保護することである。最近、光学媒体の記憶容量を常に増加することが可能になっているが、情報およびデータの複写、改竄、操作および/または不正アクセスに対して不充分な保護機構しか存在しない。複写品または複製品の製造は、簡単な技術によって可能な場合が多い。ホログラフセキュリティ要素の場合でさえ、コンタクトプリント法によって複写が可能である(例えば、P. Hariharan: Basics of Holography. University Press Cambridge (2002) 参照)。
【0004】
これに関して、いわゆるフォトアドレス可能なポリマーが、光学記憶媒体における使用において、興味深い種類の材料であることが示されている。これはデータおよび情報の複写、複製、操作および/または不正アクセスに対して、極めて有効な特性を有する(例えば、S. Voelkening, T. Hupe, H. Juengermann; Sicherheitsanwendungen auf Basis intelligenter Speicherpolymere [Security applications based on intelligent storage polymers]; DACH Security 2005, 編者Patrick Horster; Syssec 2005; p.408-414参照)。
【0005】
フォトアドレス可能なポリマーは、光学特性、例えば、吸収、発光、反射、複屈折および散乱が、光によって誘発されて、可逆変化を受けることができる種類の材料である。そのようなポリマーは、偏光への暴露時に有向(directed)複屈折を形成する能力を特徴とする(Polymers as Electrooptical and Photooptical Active Media, V.P. Shivaev(編者)、Springer Verlag, New York 1995; Natansohnら、Chem. Mater. 1993, 403-411)。さらに、優先軸が偏光の方向の回転と同時に移動する局所複屈折を、これらのポリマーの層、例えばフィルムおよびシートに、任意の所望の点で、偏光を使用して書き込めることも知られている(K. Anderle, R. Birenheide, M. Eich, J.H. Wendorff, Makromol. Chem., Rapid Commun. 10, 477-483 (1989))。このようにして、情報をフォトアドレス可能なポリマーの層に導入することができる。
【0006】
情報の部分がフォトアドレス可能なポリマー層に連続して導入される連続書き込み方法が、例えば、DE 100 07 410 A1およびDE 42 083 28 A1に記載されている。
【0007】
書き込まれた複屈折パターンを、偏光において可視化し、読み出すことができる。この目的のために、ポリマー層を、例えば、2つの交差直線偏光子(偏光子/検光子)の間に導入することができ、ポリマーフィルム内の優先方向が偏光子に対して45°回転するようにフォトアドレス可能層が配置される。読み出しのために、偏光子、ポリマー層および検光子を含んで成る装置に、放射線を照射する。光が偏光子を通過し、直線偏光される。直線偏光が、フォトアドレス可能なポリマーの層に当たる。暴露されなかった領域は、光ビームにおいて変化を生じない。光ビームはこれらの非暴露領域を干渉されずに通過し、光をブロックする検光子に当たる。暴露領域は、通過する光ビームの(部分的)偏光解消を生じる。(部分的に)偏光解消した光の一部は、検光子を干渉されずに通過する。暴露領域は、暗いバックグラウンドに対して明るく見える。
【0008】
従って、フォトアドレス可能なポリマーをフィルムとして含有する層を、情報およびデータの記憶に使用することができる。そのようなフォトアドレス可能なポリマーの例は、アゾベンゼン官能化側鎖を有するポリマーであり、それは例えばUS-A 5173381に記載されている。偏光への暴露時に、アゾベンゼン官能化ポリマー中の光活性アゾベンゼン基は、偏光方向に垂直に配置される。
【0009】
DE 19631864 A1に記載されているフォトアドレス可能なポリマーは、主鎖および2種類の側鎖、即ちフォトクロミック側鎖およびメソゲン側鎖から成るコポリマーである。特定波長の偏光への暴露時に、フォトクロミック側鎖が刺激されて、シス-トランス-シス異性化を受け、これが次に、偏光方向に垂直な、側鎖の配向を生じる。これによって、局在複屈折を生じる。このようにして、情報を材料に書き込むことができる。フォトクロミック側鎖とメソゲン側鎖との分子相互作用によって、メソゲニック基も、いわゆる共同的有向再配向過程を受ける。メソゲニック基の再配向の結果として、再配向分子の増幅および安定化が得られる。さらに、この方法において、情報がポリマー中により長く保持される。
【0010】
DE 19720288 A1は、ホモポリマー中の側鎖間の相互作用が極めて強く、同じく共同的有向再配向過程が偏光への暴露時に生じる、フォトアドレス可能なホモポリマーを記載している。
【0011】
要約すれば、フォトアドレス可能なポリマー中の側鎖間の分子相互作用が、光によるポリマーへの情報の書き込みを可能にすることに実際に関与していると言える。分子相互作用は、ポリマー中の情報を永久的に保持することを確実にすることにも事実上関与している。従って、これらの相互作用を妨げないことが極めて重要である。
【0012】
記憶媒体の製造において、これまで、任意の所望形状および大きさのフォトアドレス可能なポリマーのフィルムを製造することはできなかった。
【0013】
極めて多種多様な基材への適用および付着も、常に課題を有している。しかし、光学データ媒体の分野、およびセキュリティ要素の分野における適用に関して、基材への優れた付着が絶対的に不可欠であり、フィルムは基材を曲げた場合でも剥離してはならない。
【0014】
さらに、光学用途において、フォトアドレス可能なポリマーは、いかなる引裂きも示すべきでない。しかし、これまで先行技術において最も頻繁に記載されているフォトアドレス可能なポリマーは、まさに、ポリメタクリレートのポリマー主鎖を有するポリマーであって、それは一般に高い脆性を有する。
【0015】
先行技術、例えば、DE 19720288 A1、DE 19631864 A1、DE 4434966 A1およびDE 10027153 A1は、フォトアドレス可能なポリマーのフィルムを、多くの方法によって製造でき、基材に適用できることを記載している。それにもかかわらず、明らかに、現在も困難なことは、フォトアドレス可能なポリマーによる任意所望形態の層の形成、特に、大面積の被覆である。DE 19720288 A1に記載されている例によれば、フォトアドレス可能なポリマーは溶媒に不完全に可溶であるにすぎず、基材の湿潤が不充分であり、かつ/または得られる層が不均質であり、不均一な層の厚さであった。記載されているスピン塗布(回分法)は、任意の所望形態の層の形成、特に、フォトアドレス可能なポリマーでの大面積のコーティングに適していない。
【0016】
経済的な流延法においては、規定された層厚のフィルムを、基材に適用する必要がある。この場合、パラメーター、例えば、流延溶液の粘度および表面張力を、調節する必要がある。これまでに記載された溶液は、フォトアドレス可能なポリマー自体の選択および構造変化ならびに溶液または分散液におけるフォトアドレス可能なポリマーの濃度変化を許容するにすぎないため、光学記憶媒体の製造法において困難が生じる。このように、光学記憶層の製造において、極めて狭い範囲の流延パラメーターのみを設定しうるにすぎない。さらに、流延溶液におけるフォトアドレス可能なポリマーの濃度変化によって、一方で、粘度および表面張力、および他方で、得られるフィルム中のフォトアドレス可能なポリマーの量を、互いに独立に調節することができない。
【0017】
フォトアドレス可能なポリマーの側鎖の感受性相互作用が、フォトアドレス能の関連特性に関与していることが知られているという事実により、これらの相互作用は妨げられるべきでなく、不利な影響を受けるべきでない。製造において、および得られるフィルムにおいて、ポリマーの機械的または物理的特性を向上させる添加剤が、フォトアドレス可能なポリマーの各側鎖間に挟まりうる。特に、そのような添加剤は得られるフィルムに留まりうる。従って、当業者は、これまで、特性を向上させるためにフォトアドレス可能なポリマーまたはその溶液に添加剤を添加することはできないと一般に考えていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、任意の所望形状および大きさにおける製造、ならびに多様な材料への適用を、情報の光学記憶における特性に不利な影響を与えずに行うことができる、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーを含有する向上した光学記憶材料を提供することである。本発明の他の目的は、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーを有する向上した光学記憶材料を含有する、向上した特性を有する光学記憶媒体、およびその製造法、ならびに向上した光学セキュリティ要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によれば、上記目的は、請求項1に記載の光学記憶材料、および請求項10に記載の方法、ならびに請求項17に記載の光学セキュリティ要素によって達成される。本発明によれば、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤を含有する混合物から、光学記憶材料を製造することが提示される。この混合物は、例えば、少なくとも1つの添加剤が添加された少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーを用いた溶融液、溶液または分散液であってよい。本発明によれば、光学記憶層をこの混合物から製造することができる。
【0020】
以下において、光学記憶層は、情報およびデータを光によって導入することができ、光源を使用して再び可視化および/または読み出しできる材料を意味するものとして理解される。情報およびデータは、アナログまたはデジタルであってよい。
【0021】
先行技術における理解に反して、意外にも、1つまたはそれ以上の添加剤の添加によって、極めて多種多様な基材上における、任意の所望形状および大きさの光学記憶層の製造が可能になるか、または向上するだけでなく、情報の光学記憶特性に不利な影響を与えずに、得られる光学ポリマーフィルムの機械的特性も実質的に向上しうることが見出された。
【0022】
さらに、意外にも、少なくとも1つの添加剤を、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)またはその溶液または分散物に添加することによって、得られる光学記憶層における側鎖の再配向過程が促進され、従って、書き込み過程への有益な作用も得られることも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のフォトアドレス可能なポリマーの構造式である。
【図2】種々の光学記憶フィルムの暴露曲線を示すグラフである。
【図3】図3a〜3gは、それぞれ、光学記憶層の暴露による、種々の画像の導入の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によれば、偏光への暴露時に有向複屈折を形成しうる全ての化合物を、光学記憶層用のフォトアドレス可能なポリマーとして使用できる(Polymers as Electrooptical and Photooptical Active Media, V.P. Shibaev(編者)、Spinger Verlag, New York 1995;Natansohnら、Chem. Mater. 1993, 403-411参照)。フォトアドレス可能なポリマーの例は、アゾベンゼン官能化側鎖を有する前記のポリマーである。フォトアドレス可能なポリマーの他の例は、EP 0622789 A1、DE 4434966 A1、DE 19631864 A1、DE 19620588 A1、DE 10027153 A1、DE 10027152 A1、WO 196038410 A1、US 5496670、US 5543267、WO 9202930 A1およびWO 1992002930 A1に記載されている。好ましくは、アゾベンゼン官能化ポリメタクリレートをフォトアドレス可能なポリマーとして使用する。
【0025】
本発明によれば、添加剤は、フォトアドレス可能なポリマーまたはその溶液または分散液に添加される任意の物質を意味するものとして理解される。好ましくは、この添加は、フォトアドレス可能なポリマー、または該ポリマーの溶液または分散液の、機械的、物理的および/または化学的特性、例えば、粘性、表面張力または弾性(resilience)に影響を与えることができる。
【0026】
本発明によれば、例えば、増粘剤、可塑剤および/または界面活性物質を添加剤として使用できる。特に好ましくは、フォトアドレス可能なポリマーと同じ溶媒に可溶性の物質を、添加剤として使用する。即ち、より優れた混和性および分散であるほど、より均質な光学層を形成することができる。例えばコーティング化学からの、他の既知の添加剤を、本発明に使用することもできる。これらは、例えば、消泡剤または脱気剤であってもよい。
【0027】
本発明によれば、フォトアドレス可能なポリマーとの混合物における添加剤の濃度は、0.2〜8wt%、特に好ましくは0.4〜7wt%である。得られる乾燥フィルムにおいて、残留添加剤の比率は、1〜30wt%である。
【0028】
1つまたはそれ以上の増粘剤の添加は、好都合にも、フォトアドレス可能なポリマーの濃度とは無関係に、ポリマー、その分散物、特にポリマー溶液の粘度の調節を可能にする。このようにして、フィルム形成に有益な影響を与えることができ、実質的により均質な、フォトアドレス可能なポリマーのフィルムを得ることができる。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、ポリマーが増粘剤として使用される。これは、例えば高分子量ポリマーの添加によって、より高い粘性の溶液を調製することを可能にし、しかし、その溶液は低濃度の添加剤しか含有しない。これは、フィルムを製造するために高粘度が方法によって必要とされるが、同時に、フィルムに残留する添加剤の濃度を低く維持すべき場合に、有利である。
【0030】
得られるフィルムにおいて、高透明性およびできる限り低い複屈折をそれ自体が有するポリマーを、増粘剤として使用するのが好ましい。それにより、それらは情報およびデータの書き込みおよび読み出しを妨害または干渉しない。
【0031】
本発明に好適な増粘剤添加剤の例は、ポリエステル、ポリアクリレート、例えばPMMA、ポリエーテル、例えばポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド、ポリエーテルポリオール、例えばポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール、ポリアミド、ポリカーボネート、スチレン/アクリロニトリルコポリマー、セルロース誘導体、例えばエチルセルロース、および有機的改質シリケートであるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明によれば、架橋多成分系、例えば、イソシアネートおよびアルコール化合物から得られる2成分ポリウレタン系(PU)を使用することもできる。特に好ましくは、ポリエーテルポリオールをアルコール化合物として使用する。フォトアドレス可能なポリマーまたはその溶液または分散液と2成分PU系のような有利な組合せによって、例えば、光情報、データまたは画像を書き込むこともできる耐引掻性被膜を形成することができる。そのようなフォトアドレス可能なポリマー被膜は、プラスチック部品、金属部品、および/または複合材料を含んで成る部品(それらに限定されない)に、好都合に適用することができる。
【0033】
本発明によれば、複数の種々の増粘剤添加剤を互いに組み合わすこともできる。これは、製造中のポリマー特性およびその溶液または分散液の特性の最適調節、および得られるフィルムの特性の調節を可能にする。
【0034】
本発明の他の実施形態において、可塑剤を、フォトアドレス可能なポリマー、または少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーの溶液または分散液に添加する。本発明に好適な可塑剤は、例えば、トリメリテート、脂肪族ジカルボン酸エステル、ポリエステル、燐酸酸エステル、脂肪酸エステル、ヒドロキシカルボン酸エステル、エポキシド、スルホキシド、スルフォン、フタル酸エステルおよびその誘導体、シクロヘキサンポリカルボン酸およびその誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエーテルおよびポリエーテルポリオールであるが、これらに限定されない。可塑剤の添加は、得られるフィルムが実質的に向上した機械的特性を有するという利点を有する。即ち、このフィルムは、実質的により高い弾性およびより低い脆性であり、より少ない引裂きを示す。さらに、光学記憶層の引張り強度も、機械荷重下でさえ実質的に向上する。従って、光学記憶層の耐久性が実質的に延びる。
【0035】
本発明によれば、架橋2成分系、例えば、イソシアネートおよびアルコール化合物から得られる2成分ポリウレタン系(PU)を可塑剤として使用することもできる。この場合、特に好ましくは、ポリエーテルポリオールをアルコール化合物として使用しうる。
【0036】
本発明によれば、複数の種々の可塑剤添加剤を互いに組み合わすこともできる。これは、製造中のポリマー特性およびその溶液または分散液の特性の最適調節、および得られるフィルムの特性の調節を可能にする。
【0037】
本発明の特に好ましい実施形態において、ポリエーテルポリオールおよび/またはポリエーテルを、フォトアドレス可能なポリマーとの混合物における添加剤として使用する。これらの物質は、増粘剤および可塑剤として同時に機能し、増粘剤および可塑剤として使用しうるという利点を有する。従って、実際に、ポリマー混合物の粘度を調節することができ、かつ極めて優れたフィルム形成特性を得ることができる。それと同時に、好都合にも、向上した弾性を有するフィルムを製造することができる。本発明によって製造されたそのような光学記憶層は、さらに、実質的により大きい機械荷重に耐えることもでき、向上した引張り強度を示す。
【0038】
本発明によれば、特に好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリプロピレングリコール(PPG)を、ポリエーテルポリオール添加剤として使用する。これらは、好ましくは、2000〜100,000の粘度平均分子量を有する。
【0039】
他の特に好ましい実施形態において、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリプロピレンオキシド(PPO)を、ポリエーテル添加剤として使用する。本発明によれば、これらは、好ましくは、100,000〜500,000の粘度平均分子量を有する。
【0040】
本発明の態様において、記憶層自体を直接、記憶媒体として使用できる。フォトアドレス可能なポリマーは、例えば、自己支持フィルムまたはシートを形成することができる。
【0041】
本発明は、さらに、本発明による前記の光学記憶層を支持材に適用しうる光学記憶媒体、およびその製造法にも関する。
【0042】
好ましくは、支持材は、シートの形態である。支持物および支持材は、以下に基材とも称される。本発明によれば、基材の形、大きさまたは厚さは、好都合にも、限定されない。フォトアドレス可能なポリマーを、基材層、特に支持シートに、あらゆる既知の方法によって、例えば、溶液(本発明によれば、少なくとも1つの添加剤を含有する)から適用できる。該方法は、例えば、スピン塗布、吹付け、ナイフ塗布、浸漬コーティングまたは流延であってよい。溶液は、基材湿潤の実質的向上および基材上のフィルム形成の向上を示す。
【0043】
本発明によれば、支持体へのフィルムの適用法として、好ましくは、ギャップ塗布、ロール式ナイフ塗布、ブランケット式ナイフ塗布、浮しナイフ塗布、エアナイフ塗布、浸漬(ディップ)コーティング、流し塗、ロータリースクリーン塗布、リバースロール塗布、グラビア塗布、計量ロッド(マイヤーバー)塗布、およびスロットダイ(スロット、押出し)被覆を使用する。
【0044】
光学記憶媒層を適用することができる基材は、光データ記憶に機械的安定性を付与する。選択的にまたは付加的に、基材は、他のシステム統合のために他の機能を果たすことができる。例えば、基材は接着フィルムとして機能しうる。本発明によれば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、PC/ABSブレンド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、セルロースおよびその誘導体、ポリアミド(PA)、シクロオレフィンポリマーおよびコポリマー(COP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)またはポリイミド(PI)だけでなく、ガラスおよび金属支持層も、好適な基材材料として使用できるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の他の実施形態において、フォトアドレス可能なポリマーで被覆する前に、基材または支持シートに、反射層を付加的に供給することができる。この反射層は、光学フィルムに記憶された情報を読み出す特定の方法を向上させることができ、または選択的読み出しを可能にすることができる。そのような実施形態において、反射層は金属層であってよい。例えば、アルミニウム、チタン、金、クロム、ビスマスおよび銀のような金属、または合金を、この反射層に使用しうる。本発明によれば、アルミニウム、クロムおよび銀が好ましい。
【0046】
金属層の形成は、既知の方法、例えば、メッキ、蒸着、湿式化学適用およびスパッタリングによって行うことができる。すでに金属化されている市販の熱可塑性シートも、本発明により、支持シートとして好適である。
【0047】
他の実施形態において、反射層は多層構造の形態であってよい。この場合、必要とされるかまたは所望される反射率が、層構造内の標的多重反射によって得られる。
【0048】
フォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤を含んで成る本発明のフィルムは、好都合にも、ポリマー基材および金属性または金属化表面層の両方に優れた付着性を有する。光学記憶媒体の機械荷重容量は、これによって、有益な影響を受け、その耐久性が延びる。
【0049】
本発明の他の好ましい実施形態において、フォトアドレス可能なポリマーを有するフィルムの適用前に、基材の表面をプラズマまたはコロナ処理することができる。この方法によって、光学フィルムの付着がさらに向上しうる。
【0050】
本発明の他の態様において、フォトアドレス可能なポリマーおよび添加剤を含んで成るフィルムに、1つまたはそれ以上の外層を供給することができる。その結果、光学記憶層を、例えば、引掻きおよび/または有害な環境作用、例えば、日光、酸素、湿気および/または化学物質から保護しうる。この外層は、例えば、できる限り複屈折のない被膜またはシートまたは他の透明層の形態であってよい。
【0051】
本発明によって製造された光学記憶媒体は、アナログまたはデジタルデータおよび画像および情報の記録に使用できる。これに関して、それらは、例えば情報を書き込む際に、実質的に向上した特性を有する。それらは、向上した機械的特性、基材上の光学フィルムの向上した付着性および均質性も有する。光学記憶層は、より高い機械荷重に耐えることができ、より長期の耐久性も有する。製造工程におけるフィルム形成および/または得られる光学記憶層の特性に有益な作用をする添加剤の本発明による使用によって、光学記憶媒体の形態および特性を、実質的により可変性にすることができ、使用における各要求に適合させることができる。
【0052】
本発明のそのような光学記憶媒体は、例えば、パス(通行証)、身分証明書、チケットおよびラベルにおけるか、または製品保護の分野における、保護すべき機密データおよび情報の記憶媒体として、特に好都合に使用できる。
【0053】
本発明は、さらに、少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤の混合物から製造される本発明の光学記憶層を有する光学セキュリティ要素にも関する。本発明によれば、これは、光学記憶層の全ての実施形態および発展形態の組合せを包含する。
【0054】
光学記憶エレメントとしてのフォトアドレス可能なポリマー層の本発明による使用は、この層に肉眼で見えない複屈折パターンを書き込めるので、特に有利である。従って、例えば保護される製品の包装に、そのような光学セキュリティ機能がいったん導入されたなら、それがセキュリティ機能であることが肉眼では分からない。これにより、好都合にも、潜在的製品偽造者が、製品にセキュリティ機能が本当に付与されているかを見抜くことがより困難になる。光学セキュリティ要素の読み出し、従って、真正性試験は、偏光光学システムを使用して行うことができる。偏光光学システムを使用するだけで、ポリマー層の情報が肉眼で見え、読み出すことができる。従って、本発明による光学セキュリティ要素の偽造は、使用されている技術の知識がなく、本発明による光学記憶材料の知識がなければ、不可能である。印刷技術による単純な模造または複写は、排除される。本発明の光学記憶層は、さらに、向上した機械的、物理的および/または化学的特性も有する。
【0055】
あらゆる既知の書き込み方法を、セキュリティ要素の光学記憶層への情報の導入に使用できる。そのような方法は、例えば、写真照射、順方向書き込み、および逆方向書き込みである。採用される書き込み方法は、特に用途に依存する。基本的に、レーザーまたは単色光源の使用は、必要とされない。光源は、フォトアドレス可能なポリマーを刺激して発色団の配向を誘導する波長を有する放射線を発するだけでよい。アゾベンゼン官能化側鎖ポリマーの場合、光源は、トランス-シス-トランス異性化を生じる波長を有する放射線を発すべきである(R. Hagen, T. Bieringer: Photoaddressable Polymer for Optical Date Storage. In: Advanced Materials, WILEY-VCH Verlag GmbH(2001), No.13/23, p.1805-1810)。最も簡単な場合、光源は、広いスペクトル域を有する白熱電球であってよい。好ましくは、プロジェクター、例えば市販のプロジェクター(ビーマー)を、任意の数の画像をセキュリティ要素の光学記憶層に投影するのに使用することができ、そのプロジェクターの前に、偏光子が直線偏光の形成のために配置されている。画像に代わるものとして、機械読み取り可能情報を光学記憶層に書き込むこともできる。これは、例えば、バーコード、マトリックスコードおよび/またはOCR(光学的文字認識)テキストであってよい。
【0056】
本発明の他の態様において、光への暴露によって、セキュリティ要素の光学記憶層にマスクを書き込むこともできる。
【0057】
本発明の他の実施形態において、集束偏光ビームを光学記憶層の表面で走査することができ、暴露を行うべき点で光源のスイッチを入れることができる。あるいは、シャッターによって光が光学記憶層に達することができる。
【0058】
本発明の態様において、光学セキュリティ要素は、それに存在する光学記憶層が透明であり、任意に、それに結合した基材および/または材料が透明であるように、設計される。次に、読み出しは既知の方法で行うことができる。これは、例えば、光学記憶層を2つの交差直線偏光子の間に導入することによって行うことができ、交差偏光子は、好ましくは、ポリマー層の優先方向に対して45°回転される。この場合、偏光光学システムは、光源(最も簡単な場合、白熱電球であってよい)、および偏光子(それらの間に光学セキュリティ要素が導入される)から成ってよい。暴露部分は、暗いバックグラウンドに対して明るく見える。または、直線偏光子を互いに平行に配置することもできる。この場合、暴露部分は、明るいバックグラウンドに対して暗く見える。同様に、2つの円偏光子を使用することもでき、それによって、ポジ表示およびネガ表示も形成できる。
【0059】
本発明の好ましい態様において、反射層を、光学記憶層の下において、光学セキュリティ要素に供給することができる。この場合、真正性試験は、セキュリティ要素のすぐ前に偏光子(直線偏光子または円偏光子)を配置し、偏光子を経た光にセキュリティ要素を暴露することによって、好都合に行うことができる。ポリマー層によって伝達され、反射層によって反射された光は、次に、偏光子を経て見ることができる。直線偏光子を使用して、暴露部分は、ポリマー層の優先方向に45°の角度において明るいバックグラウンドに対して暗く見える。好都合にも、本発明の光学セキュリティ要素の簡易な真正試験は、このように唯1つの偏光子および光源を使用することによって行われる。この実施形態の他の利点は、光学セキュリティ要素を不透明対象にも適用できることである。さらに、特に、保護される物質に関連して、光学セキュリティ要素は、容易読み出しおよび/または真正試験のために、2つの偏光子の間に配置する必要がない。これは、偽造保護を高めるための本発明の光学セキュリティ要素の使用範囲をかなり広げる。意外にも、光学セキュリティ要素を読み出せるようにするために、反射層の反射率をそれほど高くする必要がないことが見出された。従って、金属層が絶対に不可欠というわけではない。例えば透明支持シートに、いったん光学記憶層が適用されたら、支持シートの後ろの反射率(後方反射)は充分でありうる。反射率が低いほど、読み出しの間に、暴露によってより弱く導入された画像が現れる。しかし、後方反射率は、原則的に1%未満でありうる。本発明の好ましい態様において、種々の偏光方向を有する様々な画像を、暴露によって、光学記憶層に導入できる。この場合、個々の画像の画素を、好ましくは、それらがポリマー層においてオーバーラップしないように設定できる。意外にも、このようにして、いくつかの情報を光学記憶層に「順に重ねて」書き込むことができ、1つの情報を読み出す間に他の情報への妨害作用を有さずに、それらを連続して読み出しうることが見出された。従って、好都合にも、いくつかの情報(しかし、それらは同時には見えない)が、本発明の光学セキュリティ要素において、フォトアドレス可能なポリマー層内のある領域に、並んで存在できる。これにより、付加的に、本発明の光学セキュリティ要素の偽造防止特性を高めることができる。
【0060】
本発明の特に好ましい態様において、線光への暴露によって、2つの画像を光学記憶層に導入でき、2画像の暴露中の偏光方向は相互に45°回転される。この場合、光学記憶層内のいかなる画像も肉眼では見えない。2つの画像を有する光学セキュリティ要素が直線偏光子で照射され、反射光が同じ偏光子によって観測される場合、画像の1つを、偏光子が優先軸(ポリマー中のこの画像の暴露時に生じる)に対して45°で配置された場合に、検出することができる。それぞれの他の画像の場合の優先軸は、偏光子の偏光方向に平行または垂直でありうる。その結果、それぞれの他の画像は不可視のままでありうる。偏光子の45°の回転時に、先に見えた画像が消え、他の画像が現れる。このようにして、好都合にも、2つの画像を連続して可視化できる。画像は、それぞれの他の画像の読み出しの間に相互に干渉しない。
【0061】
光学セキュリティ要素の有利な態様において、暴露によって光学層に導入された1つまたはそれ以上の画像を、1つまたはそれ以上の他の画像を保持しながら意図的に消去または上書きすることができる。他の画像を形成しているピクセルが再暴露されていない間に、1つの画像を形成するピクセルを再暴露しさえすれば、選択消去を本発明によって行うことができる。本発明によれば、新しい画像を、上書きのための暴露によって導入することができ;消去のためには、ピクセルを円偏光(実施例5も参照)に暴露することができる。この有利な作用は、例えば、本発明の光学セキュリティ要素をチケットに使用した場合に、使用できる。画像の1つは、例えば、チケットの有効性に関する情報を、含有しうる。チケットの有効性確認において、例えば、この情報を消去しうるか、または他の情報を上書きしうる。
【0062】
本発明の他の態様において、光学記憶層への書き込み後に、光学保護層をポリマー層に適用できる。
【0063】
本発明によれば、光学保護層は、消去および/または上書きを生じうる波長を有する光を吸収するかまたは反射するが、通過させない層を意味するものとして理解される。この光学保護層は、外層の他の保護機能を付加的に果たしうる。本発明の光学セキュリティ要素は、その場合、好都合にも、他の波長の光で読み出すことができるが、その後、不正に変更するかまたは消去することはできない。フォトアドレス可能なポリマーの暴露は可逆過程であるので、書き込まれた情報を消去および/または上書きから保護することは有用でありうる。このようにして、偽造保護のさらなる向上が得られる。
【0064】
本発明によれば、光学保護層で被覆する前または後に、光学記憶層に書き込むことができる。製造技術に関する理由から、書き込み後に、光学記憶層に光学保護層を供給するのは不利になりうる。意外にも、暴露前に、光学記憶層に光学保護層を与えうることが見出された。この場合、書き込みを、背面、即ち、保護層に向き合わない面から行うこともできる。次に、暴露面を有する光学記憶層を、保護される物質に適用しうる。
【0065】
本発明の他の態様において、光学セキュリティ要素は、光学保護層、光学記憶層および反射金属層を含んで成る系列を有する構造を有しうる。金属は、暴露のために充分な透過率を有する極めて薄い層として適用できるので、好都合にも、金属層の面からの光への暴露によって書き込みを行うことができる(実施例6も参照)。
【0066】
他の好ましい実施形態において、光学記憶層は、好ましくは、ポリマー層の優先方向に垂直および平行に偏光する波列間の位相差がλ/2またはその奇数倍になるように選択される厚さを有しうる(λ=読み取り光の波長)。従って、好都合にも、明領域と暗領域との最大コントラストが、読み出し中に生じうる。
【0067】
下記式:
【数1】

[式中、ΔL=光学距離の差;np=優先方向に平行の25℃における屈折率;ns=優先方向に垂直の25℃における屈折率;d=ポリマーフィルムの層厚さ]
に従って、位相差は、屈折率の差np-ns、および層厚さによって調節できる。屈折率の差は、暴露パラメーター(暴露時間および強度)に依存する。各光学記憶材料の屈折率の最大差が存在し、その差は、暴露層における全ての発色団が、書き込み偏光方向に垂直に配向された場合に達する(飽和挙動)。
【0068】
1つの態様において、光学記憶層が物質に直接的に適用されるように、本発明の光学セキュリティ要素を物質に結合することができる。これは、例えば、印刷、流延または他の既知の方法によって行うことができる。または、セキュリティ要素を物質と分離して製造し、次に、物質に結合することもできる。例えば、セキュリティ要素は、シート、または反射層を有する複合シートの形態であってよい。
【0069】
光学記憶媒体の種々の態様および有利な実施形態と、光学セキュリティ要素の変形との組合せも、本発明の範囲に含まれる。
【0070】
以下に、本発明を、図面に関してさらに詳しく説明するが、それらに限定するものではない。図面において、図1は、本発明のフォトアドレス可能なポリマーの構造式を示し;図2は、種々の光学記憶フィルムの暴露曲線を示し;図3a〜3gは、それぞれ、光学記憶層の暴露による、種々の画像の導入の例を示す。
【0071】
図1は、フォトアドレス可能なポリマー、即ちアゾベンゼン官能化ポリメタクリレート(その製造はWO 98/51721に記載されている)の構造式を示す。
【0072】
図2は、種々の光学記憶フィルムの暴露曲線を示す。光学記憶フィルムをグリーンレーザー光に暴露し(実施例3をも参照)、それによって複屈折をフィルムに誘導した。この複屈折を、レッドレーザーによって時間分解能で読み出した。2つの曲線が示されている。図2中、下方の曲線は、純粋なフォトアドレス可能なポリマー(PAP)の、25℃における屈折率の変化を示す。上方の曲線の場合、300,000の粘度平均分子量を有する5%のポリエチレンオキシドが、PAP層に存在している。5%の比率のPEO(粘度平均分子量300,000)を用いて、本発明の光学記憶層は、純粋PAP層より高い屈折率を達成できる。これは、添加剤を使用しない純粋PAP層と比較して、明らかな光学特性の向上である。
【0073】
図3a〜3gは、暴露による、光学記憶層への2種類の画像の導入例を示す。書き込まれる画像は、数字「1」および「2」を示す(図3(a)および3(d)参照)。「1」を有する画像が、マスクで処理され(図3(b))、それにより、それはエレメントの半分だけから成る(図3(c))。「2」を有する画像も同様にマスクで処理され(図3(e))、このマスクは、「1」を有する画像において設定されているエレメントを、「2」を有する画像において正確に除外している。これは、2つの画像を重ねた場合に明らかである。これは図3gに示されており、分かりやすくするために、「1」を有する画像が灰色にされている。
【0074】
本発明を、以下の実施例に関してさらに詳しく説明するが、それらに限定するものではない。
【0075】
実施例
以下の全ての実施例において、図1に示されているアゾベンゼン官能化ポリメタクリレート(その製造はWO 9851721に記載されている)を、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)として使用した。
【実施例1】
【0076】
PAP添加剤溶液の調製
PAP 20gを添加剤1gと共に容器に入れ、シクロペンタノン79gを添加する。混合物を70〜80℃に攪拌しながら加熱し、数分間攪拌する(環流下)。これによってオレンジ色〜濃赤色の溶液が得られ、これは1wt%の添加剤比率を有する20wt%濃度のPAP溶液である。
【0077】
表1(A、B)に示されているPAP溶液を、同様に調製する。表1(a、b)は、添加剤および添加剤量を変化させた10および20wt%PAP溶液の粘度も示している。
【0078】
表1: 種々の比率の種々の添加剤を用いたPAP溶液の粘度(CP 4/40測定システムにおいて、Bohlin InstrumentsからのCVO 120 HR粘度計で、回転粘度測定法によって測定)
【表1A】

【表1B】

【0079】
示されているパラメーター範囲において、溶液はニュートン挙動を示す。溶液の粘度が、添加剤および/または添加剤濃度の選択によって、広い範囲で変化しうる(約157mPa・sまで)ことが明らかである。これに対して、PAPの濃度だけの変化によって、約1.2mPa・s(純粋シクロペンタノン)〜12mPa・s(シクロペンタノン中の20wt%PAP溶液)のパラメーター範囲が得られるにすぎない。20wt%より大の比率を有するシクロペンタノン中PAP溶液は、安定ではなく、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)が時間経過と共に固形物として沈殿する。
【実施例2】
【0080】
スピン塗布による反射性ガラス支持体へのPAP溶液の適用
光学測定を行うために、溶液を反射性ガラス基材に適用して、光学記憶フィルムを作製する。この目的のために、直径20mmおよび厚さ5mmを有するTopasからの丸型レーザミラー(BK7 Al+SiO2)を使用する。被覆を、スピン塗付によって行う。この目的のために、「Karl Suess CT 60」スピンコーターを使用する。レーザミラーを装置の回転板に配置し、実施例1の溶液で被覆し、数秒間回転させる。装置の回転プログラム(加速度、回転速度および回転時間)に依存して、被覆率0.97〜1.03g/m2を有する高光学品質の透明の非晶質被膜が得られる。被覆ガラス支持体を真空キャビネットにおいて室温で24時間保管することによって、溶媒の残渣を被膜から除去する。
【実施例3】
【0081】
光学特性の測定
実施例2の試料を、直線偏光グリーン(523nm)レーザー光に暴露する。これは、物質に複屈折を誘導し、該複屈折を、レッド直線偏光ダイオードレーザー(650nm)によって、グリーンレーザーの偏光方向に45°の角度で読み出す。適切な装置が以下に記載されている:R. Hagenら、Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage, Advanced Materials, 2001, 13, No. 23, p.1805-1810。測定によって暴露曲線を得、それにおいて、物質における複屈折Δnの増加が時間の関数としてプロットされている(図2も参照)。
【実施例4】
【0082】
光学セキュリティ要素、製造および真正性試験
より優れた取扱特性のために、光学記憶材料を、シクロペンタノン中の20%濃度溶液から、厚さ100μmの市販PETフィルムに、ナイフ塗布によって適用する。層の厚さは1.6〜2μmである。
【0083】
反射において読み出される光学セキュリティ要素の場合、約0.8の光学密度を有するアルミニウム層を、PETフィルムとフォトアドレス可能なポリマーを有する層との間に導入する。この真正性が透過において試験されるセキュリティ機能の場合、金属層は不要である。
【0084】
プロジェクター(Sharp PG-MB65X XGA, DLP technology, 3000 Ansi Lumen)および下流収集レンズ(downstream collecting lens)(焦点距離100mm)を使用して、黒/白画像を、アルミニウム層が下に配置された光学記憶層に投影する。直線偏光子が、収集レンズと光学記憶層の間に存在する。フォトアドレス可能なポリマー層上の画像は、直径約2cmの大きさを有する。プロジェクターが生じる画像は、イメージフィリング(image-filling)であり、即ち、プロジェクターの1024x768画素のイメージフィールド(image field)が最大に使用され、約25%の輝度を有する。暴露は、1分間行う。それによって、肉眼で見えない光学セキュリティ要素が得られる。直線偏光子を、セキュリティ要素上に配置し、ポリマーにおける優先光学軸に対して45°回転させた場合に、暴露によって導入された画像が、偏光子を通る反射ビームにおいて明るいバックグラウンドに対して暗く見える。
【実施例5】
【0085】
2つの画像を有する光学セキュリティ要素、製造および真正性試験
「順に重なった」2つの画像を、暴露によって、アルミニウム層が下に配置された光学記憶層に導入しようとするものである。書き込まれる画像は、数字「1」および「2」を示す(図3(a)および3(d)参照)。「1」を有する画像は、マスクで処理され(図3(b))、それにより、それはエレメントの半分だけから成る(図3(c))。「2」を有する画像も同様にマスクで処理され(図3(e))、このマスクは、「1」を有する画像において設定されているエレメントを、「2」を有する画像において正確に除外している。これは、2つの画像を順に重ねた場合に明らかである。これは図3gに示されており、分かりやすくするために、「1」を有する画像が灰色にされている。
【0086】
2つの画像が、実施例1と同様に、直線偏光への暴露によって、光学記憶層に連続して導入される。第二画像の場合の偏光方向は、第一画像の場合の偏光方向に対して45°回転される。各場合に、異なる画素が2つの画像の暴露に使用されるので、第一画像は、第二画像の暴露中に上書きされず;2つの画像が、光学記憶層に並んで存在する。これは、光学セキュリティ要素に書き込まれ、肉眼で見えない複屈折パターンを生じる。読み出しのために、直線偏光子をセキュリティ要素上に配置する。直線偏光子を、各画像の優先軸に対して45°で回転させた場合に、2つの画像を読み出すことができる。それぞれの他方の画像は見えないままである。
【0087】
次に、「2」を有する画像を、選択的に消去する。この目的のために、図3eのタイプのマスクを、前記の暴露による「2」の導入と同じパラメーターでの暴露によって、セキュリティ要素に導入する。この場合に使用される偏光子は、円偏光子である。このようにして、「1」を有する画像を保持しながら、「2」を有する画像を消去する。
【実施例6】
【0088】
光学保護層を有するセキュリティ要素
光学記憶層を、厚さ200μmのポリアミド-12基材に適用する。染料を組み込んだポリウレタン被膜を、光学記憶層のフィルムに、光学保護層として適用する。ポリウレタン被膜は、アルコール成分としてのDesmophen 651 MPA(25.6wt%)およびDesmophen 670 BA(6.9wt%)、およびイソシアネート成分としてのDesmodur N3390 BA(20.8wt%)と、溶媒としてのジアセトンアルコール(34.5wt%)およびメチルエチルケトン(12.2wt%)との混合物である。数mgのオクタン酸亜鉛を触媒として添加した。被膜を光学記憶層に直接的に適用する。
【0089】
使用した染料は、CibaからのOrasol Red BLである。この染料は、ポリウレタン被膜の形成のために、イソシアネート成分を添加する前にアルコール成分に組み込まれる。被膜における染料の濃度は約5wt%である。
【0090】
染料は、使用される図1のフォトアドレス可能なポリマー中のアゾベンゼン発色団の配向を生じる波長を遮断するが、読み出しのための赤色光は通す。被膜の厚さは約2μmである。
【0091】
実施例4と同様に、セキュリティ要素を、被膜に向き合わない面から光に暴露する。予想されるように、被膜に向き合う面からの暴露はうまくいかなかった。画像は、ポリマー中の優先方向に対して45°回転させた偏光フィルムを使用して、両面から読み出すことができる。
【0092】
円偏光への均一暴露によって、被膜に向き合わない面から画像を消去することもできる。予想されるように、被膜に向き合う面からの消去はできない。
【0093】
反射層が光学記憶層の下に配置されているフィルムを使用して、全ての実験を行うことができる。その場合、画像の書き込み中に反射層を通らなければならないので、暴露時間は約10倍長く設定される。
【0094】
要約すれば、本発明によって、向上した特性を有する光学記憶層および光学記憶媒体、ならびにそれらの製造法を提供する。さらに、向上した特性を有し、耐偽造性であり、かつ簡単な方法で真正性を試験できる、光学セキュリティ要素も提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤の混合物から製造されることを特徴とする光学記憶層。
【請求項2】
添加剤が、増粘剤および/または可塑剤および/または界面活性物質であることを特徴とする、請求項1に記載の光学記憶層。
【請求項3】
添加剤が、ポリマーであることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学記憶層。
【請求項4】
添加剤が、ポリマエーテルまたはポリエーテルポリオールであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光学記憶層。
【請求項5】
ポリエーテルポリオールが、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールであることを特徴とする、請求項4に記載の光学記憶層。
【請求項6】
ポリエーテルポリオールが、2000〜100,000の粘度平均分子量を有することを特徴とする、請求項4または5に記載の光学記憶層。
【請求項7】
ポリエーテルが、ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドであることを特徴とする、請求項4に記載の光学記憶層。
【請求項8】
ポリエーテルが、100,000〜500,000の粘度平均分子量を有することを特徴とする、請求項4または7に記載の光学記憶層。
【請求項9】
添加剤の総量が、得られるフィルムの総重量に基づいて1〜30wt%、好ましくは1〜20wt%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の光学記憶層。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の光学記憶層が、基材に適用されていることを特徴とする光学記憶媒体。
【請求項11】
光学記憶層の厚さが、200nm〜2μm、好ましくは30nm〜5μm、特に好ましくは10nm〜50μmであることを特徴とする、請求項10に記載の光学記憶媒体。
【請求項12】
基材が、反射性であり、かつ/または付加的反射層を与えられていることを特徴とする、請求項10または11に記載の光学記憶媒体。
【請求項13】
光学記憶層に透明外層が与えられていることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の光学記憶媒体。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の光学記憶層を基材に適用することを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の光学記憶媒体の製造法。
【請求項15】
アナログおよびデジタルデータおよび情報の記録における、請求項1〜9のいずれかに記載の光学記憶層の使用。
【請求項16】
アナログおよびデジタルデータおよび情報の記録および記憶における、請求項10〜13のいずれかに記載の光学記憶媒体の使用。
【請求項17】
パス、身分証明書、チケットおよびラベル用の、特に製品保護用の記憶媒体としての、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
少なくとも1つのフォトアドレス可能なポリマーおよび少なくとも1つの添加剤の混合物から製造される光学記憶層を有する光学セキュリティ要素。
【請求項19】
光学記憶層が基材に適用されていることを特徴とする、請求項18に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項20】
基材が反射性であり、かつ/または反射層が光学記憶層の下に配置されていることを特徴とする、請求項19に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項21】
種々の偏光方向を有する複数のデータまたは画像が、偏光によって、光学記憶層に1つずつ重ねて書き込まれることを特徴とする、請求項18〜20のいずれかに記載の光学セキュリティ要素。
【請求項22】
書き込まれた複数のデータまたは画像が、オーバーラップしないように生成されることを特徴とする、請求項21に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項23】
1つまたはそれ以上のデータまたは画像を、意図的に消去または上書きしうることを特徴とする、請求項21または22に記載の光学セキュリティ要素。
【請求項24】
光学記憶層に光学保護層が与えられていることを特徴とする、請求項18〜23のいずれかに記載の光学セキュリティ要素。
【請求項25】
光学層の優先方向に垂直および平行に偏光する波列間の位相差がλ/2またはその奇数倍になるように(λ=読み取り光の波長)、光学記憶層の厚さが選択されることを特徴とする、請求項18〜24のいずれかに記載の光学セキュリティ要素。
【請求項26】
パス、身分証明書、チケットおよびラベル用の、特に製品保護用の、偽造保護としての、請求項18〜25のいずれかに記載の光学セキュリティ要素の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図3(e)】
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【図3(f)】
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【図3(g)】
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【公表番号】特表2010−515088(P2010−515088A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543365(P2009−543365)
【出願日】平成19年12月15日(2007.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011039
【国際公開番号】WO2008/080546
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(504142961)バイエル・イノヴェイション・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Innovation GmbH
【Fターム(参考)】