説明

光学部品、光学装置

【課題】安価かつ効果的に防塵機能を付与できる光学部品を提供すること。
【解決手段】透明基材21と、前記透明基材21上に積層された親水性金属酸化物膜22と、を有する光学部品20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品と、該光学部品を用いた光学装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
光学装置、例えば被写体の光学像を電気信号に変換して出力する撮像装置においては、入光部から撮像素子に至る光路上に配置された光学部品に塵や埃等の異物が付着し、取り込まれた画像に異物が写り込むことがある。こういった光学部品は絶縁性材料で構成されており、容易に帯電して、空気中に浮遊する異物や撮像装置内部で発生する異物を引き寄せるためである。
【0003】
異物の付着は、レンズの交換や、撮像素子のクリーニング等、光学部品が大気に晒されるときに発生しやすい。また、近年、ミラーを有しないミラーレス一眼レフカメラ、メカニカルシャッターを有しないカメラ等、撮像素子等への異物の付着防止に利用されてきた機構部品のないものも多くなっている。
【0004】
異物の付着を抑制するために、例えば入光部から撮像素子までの光路を密閉する防塵構造や、ワイパーや振動ユニット等の機械的に異物を取り除く除塵装置を撮像装置に設けることが知られている。しかし、これらは高価であるのみならず、撮像装置の質量を増加させる。また、異物が付着した場合、除塵装置を用いても容易に取り除くことはできない。エアーを吹き付けて異物を除去する方法も考えられるが、異物が舞い上がり、逆に異物の付着量が増加するおそれがある。
【0005】
また、異物の付着を抑制する方法として、光学部品の内部に低表面抵抗膜を設けるとともに、表面に撥水性膜もしくは撥水撥油性膜を設けることが知られている。低表面抵抗膜は、透明性を有する導電性または半導電性の金属酸化物、具体的には五酸化アンチモン、インジウム酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、またはこれらの組み合わせからなり、乾式法、すなわち真空蒸着法等の物理蒸着法、熱CVD等の化学蒸着法により形成される。撥水性膜、撥水撥油性膜は、フッ素系樹脂からなるものとされる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、異物の付着を抑制する方法として、光学部品の例えば入光部に微細な凹凸を設けることが知られている(例えば、特許文献2参照)。微細な凹凸膜は例えばアルミナなどからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−49910号公報
【特許文献2】特開2007−183366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学部品への異物の付着を抑制するために、内部に低表面抵抗膜等を設けることが知られている。しかし、より安価かつ効果的に異物の付着を抑制する機能を付与することが求められている。例えば、インジウム酸化スズ等は屈折率が高いことから、光学設計上、赤外線反射膜、反射防止膜等の光学多層膜上に配置することは困難であると考えられる。このため、異物等との摩擦により最も帯電しやすい最表面に配置できず、必ずしも十分な防塵機能を得ることができない。
【0009】
また、光学部品の、例えば入光部に、微細な凹凸を設けることにより、異物と光学部品間に働く分子間力や接着帯電付着力を低下させて異物付着をある程度防止できることも知られている。しかし、凹凸膜の一例であるアルミナなど、可視光領域に吸収がある膜を光学多層膜上に配置することは、光学設計上、困難と考えられる。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、安価かつ効果的に防塵機能を付与できる光学部品の提供を目的とする。また、本発明は、このような光学部品を有する光学装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学部品は、透明基材と、前記透明基材上に積層された親水性金属酸化物膜と、を有することを特徴とする。また、本発明の光学装置は、上記光学部品を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学部品によれば、親水性金属酸化物膜を設けることで、安価かつ効果的に防塵機能を付与できる。また、本発明の光学装置によれば、このような光学部品を用いることで、異物の付着による不具合を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光学装置の一例を示す断面図。
【図2】本発明の光学部品の基本構成を示す断面図。
【図3】接触角の測定方法を説明するための説明図。
【図4】接触角の測定工程を示す図。
【図5】接触角の測定工程を示す図。
【図6】接触角の測定工程を示す図。
【図7】本発明の光学部品の変形例を示す断面図。
【図8】本発明の光学部品の他の変形例を示す断面図。
【図9】実施例、比較例の光学部品の透過率特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光学部品、光学装置の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、光学装置の一実施形態である撮像装置の概略構成を示す図である。
撮像装置10は、例えば、レンズ群11、視感度補正部品12、撮像素子13等を有する。また、撮像素子13は、例えば、受光部(受光チップ)13a、パッケージ部13b、およびカバーガラス13cを有し、パッケージ部13bの内部に受光部13aが収容されるとともに、パッケージ部13bの開口部を覆うようにカバーガラス13cが設けられる。
【0016】
撮像装置10に入射した光は、レンズ群11、視感度補正部品12を通して撮像素子13に入射する。本発明の光学部品は、例えば、レンズ群11、視感度補正部品12、カバーガラス13c等として用いられる。なお、本発明の光学部品は、撮像装置の光学部品に限られず、例えばプロジェクターのような投影装置、光ピックアップ等におけるレンズ群やミラー等の光学部品としても使用できる。
【0017】
図2は、光学部品の基本構成を示す断面図である。
光学部品20は、透明基材21と、この透明基材21に積層された親水性金属酸化物膜22とを少なくとも有する。なお、親水性金属酸化物膜22は、透明基材21に直接積層されてもよいし、他の機能膜を介して間接的に積層されてもよい。透明基材21は、可視光に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、ガラス、無機結晶、有機樹脂等からなるものが挙げられる。具体的には、レンズ群11を構成するレンズ、視感度補正部品12を構成する複屈折板もしくは赤外吸収フィルタ、またはカバーガラス13c等を構成する赤外吸収機能等を有しないブランクガラス等が挙げられる。なお、撮像素子13におけるカバーガラス13cは赤外吸収フィルタであってもよく、この場合には、赤外吸収フィルタからなるカバーガラス13cを透明基材21に使用できる。他の機能膜としては、光学多層膜や透明導電膜等が挙げられる。
【0018】
親水性金属酸化物膜22は、光学部品20に防塵機能を付与するものであり、少なくとも一部が親水性を有する金属酸化物からなる。親水性を有する金属酸化物によれば、大気中の水分の吸着等により電気抵抗を低減できる。これにより、帯電を抑制し、異物の付着を抑制できる。親水性を有する金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が好適なものとして挙げられ、これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
親水性金属酸化物膜22は、大気中の水分の吸着等により電気抵抗が低減することから、大気と接触できる位置に配置されることが好ましく、通常、光学部品20の最表面に配置されることが好ましい。特に、防塵機能の効果を直接的に得る観点から、光学部品20を撮像装置10等の光学装置に装着したときに装置外側となる最表面に配置されることが好ましい。
【0020】
なお、親水性金属酸化物膜22の位置は、必ずしも光学部品20の最表面に限られない。例えば、透明基材21に他の機能膜が設けられる場合、透明基材21と該機能膜との間、また該機能膜中であってもよい。このような部分に配置したとしても、該機能膜を透過する微量の水分の吸着等により電気抵抗を低減できる。また、このような部分に配置したとしても、後述するような多孔質構造、特に中空シリカ粒子を有する多孔質構造によれば、光学特性の低下も抑制できる。
【0021】
親水性金属酸化物膜22は、親水性を有する金属酸化物からなるものであればよいが、特に多孔質構造を有することが好ましい。多孔質構造によれば、大気中の水分を効率的に吸着でき、電気抵抗を低減しやすい。これにより、帯電を抑制し、異物の付着を抑制できる。また、多孔質構造によれば、内部に空隙(空気層)を有することから、緻密な構造のものと比べて実効的な屈折率を低くできる。従って、空隙部分と金属酸化物部分との割合を調整することで、屈折率を調整でき、光学設計上も有利となる。
【0022】
多孔質構造としては、マトリックス成分(バインダ成分)により金属酸化物微粒子を結合し、全体として多孔質構造としたものが挙げられる。このような多孔質構造によれば、湿式法によって形成でき、乾式法、例えば真空蒸着法等の物理蒸着法や熱CVD等の化学蒸着法に比べて安価に形成できる。マトリックス成分は、金属酸化物が好ましく、マトリックス成分の金属酸化物と金属酸化物微粒子の金属酸化物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、マトリックス成分は、金属酸化物のみからなることが好ましいが、例えば樹脂等の成分を30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下含有してもよい。
【0023】
金属酸化物微粒子の形状は、特に限定されず、例えば球状、円筒状、直方体状等が挙げられる。その金属酸化物についても、親水性を有するものであれば特に制限されないが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が挙げられる。金属酸化物微粒子は、必ずしも1種の形状もしくは金属酸化物からなるものに限られず、2種類以上の形状もしくは金属酸化物からなるものを併用できる。
【0024】
金属酸化物微粒子の平均一次粒子径は、0.1〜1000nmが好ましく、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは10〜100nmである。このような平均一次粒子径によれば、親水性金属酸化物膜22、すなわち多孔質構造中に大気中の水分を吸着するための空隙を効果的に形成できるとともに、親水性金属酸化物膜22の透明性も良好にできる。
【0025】
金属酸化物微粒子は、内部に空隙を有する中空状のものが好適なものとして挙げられ、特に中空シリカ粒子が好適なものとして挙げられる。中空シリカ粒子は、酸化シリコンを主成分とする外殻を有し、この外殻の内部に空隙を有する。外殻は必ずしも空隙全体を覆うように形成される必要はなく、一部の空隙は外殻から露出していてもよい。中空状の場合、内部が完全に充填されたものと異なり、その外殻の肉厚調整により実効的な屈折率を調整できるために好ましい。中空シリカ粒子を有するものによれば、例えば、親水性金属酸化物膜22の屈折率を1.2〜1.4(波長550nmでの屈折率)にすることができる。
【0026】
中空シリカ粒子は外郭を貫通する空隙を有することが好ましい。外郭を貫通する空隙を有することにより、外気中の水分をより効率的に吸着できる。その水分が導電性を持つことにより電流がより効率的に流れる。その結果、帯電をより一層効率的に抑制し、防塵効果を一層向上させることができる。すなわち、外径が同程度のシリカ粒子と比較して、防塵性を良好にできる。
【0027】
中空シリカ粒子の外殻の厚さは、特に限定されず、粒径によっても異なるが、0.01〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがさらに好ましい。なお、外殻の厚さは、粒径に対して1/50〜1/3程度の厚さが好ましく、1/5〜1/3程度の厚さがより好ましい。
【0028】
また、中空シリカ粒子は、親水性金属酸化物膜22中で凝集していてもよい。例えば2〜10個程度凝集していてもよい。この場合、親水性金属酸化物膜22の強度や磨耗耐性が高まる傾向がある。また、凝集体としての粒径(以下、平均凝集粒子径ともいう)が10〜1000nmであることが好ましく、30〜700nmであることがより好ましく、60〜400nmであることがさらに好ましく、100〜200nmであることが特に好ましい。また、平均凝集粒子径が、凝集していない状態での平均粒径(平均一次粒子径)の1.5倍以上であることが好ましい。
【0029】
なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡により観察した値であり、平均凝集粒子径は、動的光散乱法により測定した値である。
【0030】
マトリックス成分を構成する金属酸化物についても、親水性を有するものであれば特に制限されないが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が好適なものとして挙げられる。
【0031】
親水性金属酸化物膜22における金属酸化物微粒子の割合は、特に限定されないが、親水性金属酸化物膜22の全体中、すなわちマトリックス成分と金属酸化物微粒子との合計量中、10〜90質量%が好ましく、15〜85質量%がより好ましく、40〜80質量%がさらに好ましい。このような範囲とすることで、多孔質構造中に大気中の水分を吸着させるための空隙を効果的に形成でき、また透明基材21、図示しない他の機能膜等との密着性も良好にできる。
【0032】
多孔質構造は、上記したマトリックス成分により金属酸化物微粒子を結合して多孔質構造としたものの他、例えば焼成により自身が消滅して空隙を形成する空隙形成物質を用いて多孔質構造としたものであってもよい。このような多孔質構造についても、湿式法によって形成でき、乾式法に比べて安価に形成できる。この多孔質構造についても、金属酸化物からなることが好ましいが、例えば有機樹脂等の成分を30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下含有してもよい。金属酸化物は、親水性を有するものであれば特に制限されないが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が好適なものとして挙げられる。
【0033】
なお、親水性金属酸化物膜22は、必ずしも単層構造に限られず、2層以上の多層構造であってもよい。多層構造としては、上記した2種の多孔質構造が交互に積層されたものであってもよいし、同一の多孔質構造であって組成の異なるものが交互に積層されたものであってもよく、特に制限されるものではない。
【0034】
親水性金属酸化物膜22の厚さは、防塵機能以外の機能や用途によっても異なるが、例えば単層構造または多層構造の全体の厚さで50〜2000nmが好ましい。厚さを50nm以上とすることで、十分な空隙を得ることにより異物の付着を抑制でき、2000nm以下とすることで、成膜性も良好にできる。また、この親水性金属酸化物膜22を、高温高湿環境下、例えば温度85℃湿度85%の環境下で1000時間放置した後、再び初期と同じ条件で分光特性を測定したときに、前後での変動を抑制するためにも、例えば単層構造または多層構造の全体の厚さで2000nm以下が好ましい。親水性金属酸化物膜22の厚さは、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0035】
また、親水性金属酸化物膜22は、2マイクロリットルの純水からなる液滴を滴下したときの接触角が15度以下であることが好ましい。ここで、測定対象となる親水性金属酸化物膜22(光学部品20)は、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下に3週間放置したものとする。また、接触角は、滴下直後に測定したものとする。このような親水性金属酸化物膜22によれば、長期的な親水性に優れており、大気中の異物の付着を効果的に抑制できる。すなわち、このような親水性金属酸化物22によれば、初期状態だけでなく、例えば3週間以上の間、良好な親水性を維持でき、大気中の異物の付着を効果的に抑制できる。
【0036】
ここで、接触角とは、一般に固層の表面上に液層が接触している場合において、固液気の3層の接点における液層表面に対する接線と固液接触面との間の角度を意味し、大きくなるほど液層が略球状となるために親水性が低くなることを意味する。
【0037】
接触角は、以下のようにして測定できる。すなわち、図3に示すように、被測定部材31に対する純水からなる液滴32の接触角θは、被測定部材31と液滴32とが接触する点33における液滴32の表面カーブに対する接線と被測定部材31の表面31sとが成す角である。
【0038】
測定装置は、例えば接触角計(協和界面科学社製、商品名:FACE CA−X型)を使用する。まず、図4に示すように、マイクロシリンジ34を用いて純水の液滴32を形成する。液滴32の量は、2マイクロリットルである。
【0039】
次に、図5に示すように、液滴32の底部を測定対象である被測定部材31の表面31sに接触させる。そして、マイクロシリンジ34を被測定部材31から離すと、被測定部材31の表面31sに図6に示すような液滴32が付着する。この状態で、液滴32の高さhと、液滴32の半径r(あるいは図2に示した液滴32の両端間の距離もしくは液滴32の直径2r)を測定する。
【0040】
接触角θは、図3に示すθ1(=arctan(r/h))の2倍に等しいことから、測定された液滴32の高さh及び半径rから、下記の式(1)を用いて接触角θの値が算出される。接触角θは、その値が大きいほど測定対象の親水性が低く、反対に小さいほど測定対象の親水性が高いことを示す。
θ= 2 arctan(r/h) ・・・(1)
【0041】
親水性金属酸化物膜22は、フッ素系材料によって表面が被覆されていることが好ましい。フッ素系材料により被覆することで、多孔質構造を維持しつつ、表面自由エネルギーを低下させ、異物の付着を抑制できる。また、撥油性の機能も得られ、液体状の汚れの付着防止や除去も可能となる。フッ素系材料による被覆の厚さは、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、例えば単分子膜であってもよい。
【0042】
フッ素系材料としては、フッ素系樹脂、例えば、炭化水素基の水素をフッ素に置き換えた、いわゆるパーフルオロアルキル基を含有する化合物、例えばパーフルオロアルキルシラン等が望ましい。このパーフルオロアルキル基を含有する化合物からなる被膜については、例えば単分子膜が好ましい。単分子膜によれば、親水性金属酸化物膜22の親水性を十分に維持できるとともに、光学特性も良好に維持しつつ、異物の付着を抑制できる。また、フッ素系材料としては、一般的な蒸着材料であるフッ化マグネシウム(MgF)も、フッ素系樹脂までの効果は得られないが、やはり異物付着防止に適している。
【0043】
フッ素系材料による被覆は、公知の方法が採用でき、例えば、ゾル−ゲル法等の湿式法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD等の化学蒸着法等が挙げられる。
【0044】
本発明の光学部品20は、表面抵抗が1×1014Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗が1×1014Ω/□を超える場合、帯電を十分に抑制できず、異物の付着を抑制できない。光学部品20の表面抵抗は、1×1014Ω/□以下であれば特に制限されないが、帯電を効果的に抑制する観点からは小さいほど好ましい。なお、表面抵抗は、光学部品20を常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下に3週間放置後、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製、商品名:ハイレスタUP MCP−HT450型)を用い、印加電圧1000Vで測定したものとする。
【0045】
次に、親水性金属酸化物膜22の形成方法について説明する。
【0046】
まず、一例として、金属酸化物微粒子として中空シリカ粒子を有する親水性金属酸化物膜22の形成方法について説明する。中空シリカ粒子は、以下に示すようなコア−シェル型微粒子のコアを除去することにより製造できるが、それに限らない。
【0047】
コア−シェル型微粒子は、例えばコアとなるコア微粒子を分散媒に分散させ、その後に外殻となる前駆物質を反応させて製造する。コア微粒子としては、中空シリカ粒子の製造方法によっても異なるが、熱、酸、または光によって溶解、分解、または昇華するものが挙げられる。例えば、界面活性剤ミセル、水溶性有機重合体、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱分解性有機重合体微粒子;アルミン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛等の酸溶解性無機微粒子;硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属カルコゲナイド半導体、および酸化亜鉛等の光溶解性無機微粒子等より選ばれる1種または2種以上の混合物を使用できる。これらの中でも、コアを除去するときの作業性や生産性が良好であり、またコア除去中に中空シリカ粒子の急激な凝集を抑制でき、透明性の高い親水性金属酸化物膜22が得られることから酸化亜鉛が好ましい。
【0048】
コア微粒子は、気相法等による乾式法、液相法等による湿式法のどちらで合成されたものでもよく、単分散体であっても凝集体であってもよい。コア微粒子の大きさや形状は、特に限定されず、コア微粒子の溶解速度、中空シリカ粒子における空隙の大きさ等を考慮して適宜選択する。
【0049】
分散媒についても、特に限定されず、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類が挙げられる。分散媒は、必ずしも水を含有する必要はないが、外殻となる前駆物質を加水分解・重縮合する場合にそのまま使用できることを考慮すると、分散媒は水単独または水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0050】
分散媒へのコア微粒子の分散は、好ましくは分散剤を加えて、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ホモミキサー、ペイントシェーカー等の分散機で解膠することにより行う。このコア微粒子の分散液に、酸やアルカリ等の加水分解触媒を添加し、例えばpH8以上で外殻となる前駆物質を反応させる。これにより、コア微粒子の表面に外殻を形成し、コア−シェル型微粒子を得る。外殻となる前駆物質としては、例えば、ケイ酸、ケイ酸塩、ケイ酸アルコキサイドより選ばれる1種または2種以上の混合物が挙げられ、これらの加水分解物または重合物であってもよい。
【0051】
外殻の形成時間を短縮するために、コア微粒子の分散液の混合時のpHは9〜11が好ましく、温度は20〜100℃が好ましい。コア微粒子の分散液には、イオン強度を高めて外殻の形成を容易とするために、水酸化マグネシウム等の電解質を添加し、これらの電解質によりpHを調整することもできる。
【0052】
その後、例えばコア−シェル型微粒子内のコア微粒子を溶解させて中空シリカ粒子とする。コア微粒子は、例えばpH8以下でイオンとなって溶解する。コア微粒子がZnO微粒子の場合はZn2+イオンとなって溶解する。コア微粒子の溶解は、酸の添加、または酸性カチオン交換樹脂の使用によって実施できる。酸性カチオン交換樹脂によれば、コア微粒子の溶解が緩やかに進行することから、イオン濃度の急激な上昇を抑制し、中空シリカ粒子の急激な凝集を抑制できる。急激な凝集が起こると、凝集粒子径が大きくなりすぎ、親水性金属酸化物膜22の透明性が低下するおそれがある。
【0053】
酸性カチオン交換樹脂は、少なくともコア微粒子を溶解し、分散液のpHを8以下、好ましく6以下の範囲とするものが好ましい。ここで酸性カチオン交換樹脂の酸性度は官能基によって決まり、強酸性では−SOH基、弱酸性では−COOH基が挙げられる。酸性カチオン交換樹脂の添加量は、少なくとも発生する上記のZn2+のようなイオンの量よりも総交換容量が大きい範囲であることが好ましい。樹脂量は、必要量の1.1〜5倍の範囲が好ましい。酸性カチオン交換樹脂の添加量が多いほどコア微粒子の溶解速度が速まる傾向がある。
【0054】
溶解温度は、特に限定されず、室温であっても基本的に溶解反応が進行する。温度は、高い方が溶解反応および溶解イオン等の拡散速度が増大するために好ましく、例えば10〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。コア微粒子の溶解後、ろ過等の固液分離操作によりカチオン交換樹脂を分離して中空シリカ粒子の分散液を得ることができる。
【0055】
その後、中空シリカ粒子と、マトリックス成分となる前駆物質とを混合し、親水性金属酸化物膜22となる塗工液を調製する。マトリックス成分となる前駆物質の固形分換算量は、中空シリカ粒子の質量に対して0.05〜15倍が好ましい。このような割合とすることで、良好な多孔質構造を有するとともに、高い硬度を有する親水性金属酸化物膜22を形成できる。
【0056】
マトリックス成分となる前駆物質としては、マトリックス成分に含まれる金属の金属アルコキサイドおよび/またはその加水分解重縮合物等が挙げられる。金属アルコキサイドとしては、ケイ酸アルコキサイドが好ましく、例えばケイ酸エチルの他、パーフルオロポリエーテル基および/またはパーフルオロアルキル基等のフッ素含有官能基を含むケイ酸アルコキサイド、ビニル基およびエポキシ基より選ばれる官能基の1種または2種以上を含有するケイ酸アルコキサイドでもよい。
【0057】
パーフルオロポリエーテル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、例えばパーフルオロポリエーテルトリエトキシシラン;パーフルオロアルキル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、パーフルオロエチルトリエトキシシラン;ビニル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン;エポキシ基を含有かるケイ酸アルコキサイドとしては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
また、マトリックス成分の一部に有機樹脂を用いる場合、紫外線硬化型有機樹脂が好ましく、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0059】
塗工液は、中空シリカ粒子、マトリックス成分の前駆物質の他、塗布表面へのぬれ性を向上させるための界面活性剤を含むことができる。界面活性剤はアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれのものも使用できる。界面活性剤としては、−CHCHO−、−SO−、−NR−(Rは水素原子または有機基)、−NH−、−SOY、−COOY(Yは水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子またはアンモニウムイオン)の構造単位を有するノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0060】
ノニオン系の界面活性剤としては、例えば、アルキルポリオキシエチレンエーテル、アルキルポリオキシエチレン−ポリプロピレンエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビトールエステル、アルキルポリオキシエチレンアミン、アルキルポリオキシエチレンアミド、ポリエーテル変性のシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0061】
塗工液は、界面活性剤以外にも、必要に応じて各種添加剤を含むことができる。例えば、着色、導電、偏光、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、防汚、防曇、光触媒、抗菌、蓄光、電池、屈折率制御、撥水、撥油、指紋除去、滑り性等より選ばれる1種または2種以上の機能を付与するものを含んでもよい。
【0062】
塗工液の塗布は、例えば、ローラー塗布、手塗り、刷毛塗り、ディッピング、回転塗布、浸漬塗布、各種印刷方式による塗布、カーテンフロー、バーコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、リバースコート、ロールコート、フローコート、スプレーコート、インクジェット、ディップコート等により行うことができる。
【0063】
塗布後、塗膜を乾燥させることにより、親水性金属酸化物膜22形成できる。乾燥は、溶媒を除去できるとともに、前駆物質をマトリックス成分に変換できればよく、例えば室温〜200℃程度で保持すればよいが、より強固なものとするために、500〜700℃で1〜60分間程度の熱処理が好ましい。
【0064】
また、必要に応じて、例えば機械的強度を高めるために、紫外線や電子線等による照射を行ってもよい。さらに、密着性を高めるために、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、オゾン処理等の放電処理、水、酸やアルカリ等の化学処理、または研磨剤を用いた物理的処理を施すことができる。
【0065】
次に、金属酸化物微粒子(中空シリカ粒子)を用いない方法について説明する。
溶媒に、マトリックス成分に含まれる金属の金属アルコキサイドおよび/またはその加水分解重縮合物等と、多孔質構造の空隙を形成するための粒子状の有機物とを添加して塗工液を得る。有機物としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。塗工液には、必要に応じて、上記した界面活性剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0066】
その後、透明基材21の表面に塗工液を塗布し、乾燥させた後、200〜700℃の温度で焼成する。この焼成により、粒子状の有機物を気化させて除去できる。これにより、粒子状の有機物の位置に空隙が形成され、多孔質構造を有する親水性金属酸化物膜22を形成できる。
【0067】
次に、光学部品20の変形例について説明する。
図7は、光学部品20の変形例を示す断面図である。
この光学部品20は、第1の透明基材21aと第2の透明基材21bとを有し、第1の透明基材21aと第2の透明基材21bとが接着層23によって接着されるとともに、第2の透明基材21b上に、機能膜としての光学多層膜24、親水性金属酸化物膜22が順に積層されている。
【0068】
このように、光学部品20は、第1の透明基材21aと第2の透明基材21bとのように、2以上の透明基材21を有するものであってもよい。第1の透明基材21aは、例えば赤外吸収フィルタとでき、第2の透明基材21bは、例えば赤外吸収機能を有しないガラス基板や有機樹脂基板とできる。また、光学部品20は、透明基材21、親水性金属酸化物膜22のほかに、必要に応じて光学多層膜24を有してもよい。なお、この光学部品20は、例えば視感度補正部品として好適に使用されるものである。
【0069】
赤外吸収フィルタとしては、可視光を透過させるとともに、赤外光を吸収できるものであれば特に制限されるものではなく、例えばガラス型や有機樹脂型等が挙げられる。ガラス型としては、例えばCuOを含有するフツリン酸塩系ガラスもしくはCuOを含有するリン酸塩系ガラスが挙げられる。
【0070】
また、有機樹脂型としては、例えば有機樹脂中に赤外光を吸収する色素または顔料を分散させたものが挙げられる。有機樹脂型としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、セルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ノルボルネン系樹脂、フッ素系樹脂、もしくはこれらの共重合体等に、赤外光を吸収する色素等、例えばジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ジチオール錯体系色素、スクアリリウム系色素、酸化タングステン系色素等を分散させたものが挙げられる。
【0071】
光学多層膜24は、例えば赤外光および紫外光のカット効果を有するダイクロイック多層膜が挙げられる。光学多層膜24は、例えば赤外吸収フィルタのみでは撮像素子13の分光感度を視感度に一致させることができないことから、特定の波長領域をカットするために設けられる。光学多層膜24は、例えば以下の波長領域のカット効果を有する。すなわち、レンズ群11の青色のにじみを改善するために、400nm近傍をカットする。赤外吸収フィルタが赤色700nm近傍で緩やかな吸収、減光をするのをシャープにカットする。1000nmを超えた赤外領域にて赤外吸収フィルタの透過率が徐々に高くなるのをカットする。
【0072】
光学多層膜24は、例えば透明基材21側から高屈折率金属酸化物と低屈折率金属酸化物とが交互に各膜厚100nm程度となるように全部で40層程度積層される。高屈折率金属酸化物は、屈折率(波長550nmでの屈折率、以下、同様)が1.9以上、好ましくは1.9〜2.5であり、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム等が好ましい。一方、低屈折率金属酸化物は、屈折率が1.5以下、好ましくは1.2〜1.5であり、例えば酸化シリコン、フッ化マグネシウム等が好ましい。光学多層膜24の最表面層は低屈折率金属酸化物、高屈折率金属酸化物のいずれでも良いが、特に酸化シリコンが好ましい。光学多層膜24の最表面層を酸化シリコンとすることで、親水性金属酸化物膜22の密着性を向上できるためである。
【0073】
光学多層膜24、すなわち高屈折率金属酸化物と低屈折率金属酸化物とは、公知の成膜方法を適用して形成でき、例えばマグネトロンスパッタリング法、電子線蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法等により形成できる。
【0074】
図8は、光学部品20の他の変形例を示す断面図である。
この光学部品20は、透明基材21上に、光学多層膜24、親水性金属酸化物膜22が順に積層されている。透明基材21は、例えば赤外吸収フィルタとすることができる。このように、光学部品20は、例えば赤外吸収フィルタ上に、光学多層膜24、親水性金属酸化物膜22が順に積層されていてもよい。なお、赤外吸収フィルタ、光学多層膜24は、図7に示す光学部品20と同様でもよい。
【0075】
以上、本発明の光学装置とその光学部品とについて、撮像装置とその光学部品を例に挙げて説明したが、撮像装置としては、ミラーレス一眼レフカメラ、メカニカルシャッターを搭載しないカメラ等、大気中の異物が撮像素子等に付着しやすいものが好適なものとして挙げられる。
【0076】
光学装置としては、必ずしも撮像装置に限られず、プロジェクターのような投影装置、光ピックアップ等も好適なものとして挙げられる。プロジェクターでは、ランプや電子回路等の放熱のために、送風装置を用いて内部に大気を循環させている。このため、内部に収容されるレンズやダイクロイックミラーへの大気中の異物の付着を完全に抑制することが難しい。また、長期間にわたって異物が付着すると、熱などにより焼き付き、その除去が困難となる。その結果、光学特性が低下し、投影画像の品質が低下する。このような光学装置における光学部品についても、上記した親水性金属酸化物膜を設けることで、大気中の異物の付着を抑制し、また付着した異物の除去も容易となる。
【0077】
また、光学装置は、親水性金属酸化物膜を有する光学部品に振動を付与する振動機構を有することが好ましい。振動機構を有することにより、親水性金属酸化物膜と併せて異物の付着を抑制し、また付着した異物の除去が容易となる。振動機構は、特に制限されないが、例えば磁石と、この磁石に対向して配置されるとともに該磁石と略同様の大きさを有する駆動用コイルとからなり、駆動用コイルに交流電圧を印加して電磁力を発生させることにより、相対的に移動させて振動を付与するものが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を参照して具体的に説明する。
【0079】
<実施例1−1>
透明基材としてのCuOを含有するフツリン酸塩系ガラスからなる赤外吸収フィルタの一方の表面に、光学多層膜として真空蒸着法によりTiO膜とSiO膜とを交互に成膜した。なお、TiO膜とSiO膜とは、TiO膜とSiO膜とを合わせて1層としたとき、合計で20層となるようにした。また、透明基材および光学多層膜は、後述するように光学多層膜上に親水性金属酸化物膜としての中空シリカ膜を形成したときに、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となるよう設計した。
【0080】
その後、光学多層膜の最表面となるSiO膜上に、親水性金属酸化物膜として、マトリックス成分により中空シリカ粒子を結合した中空シリカ膜を形成し、光学部品(視感度補正部品)を製造した。なお、中空シリカ膜は、以下に示すように形成した。
【0081】
まず、以下の手順(1)〜(2)により中空シリカゾルを得た。
【0082】
(1)容量200mlのガラス製反応容器に、エタノール60g、ZnO微粒子水分散ゾル(境化学工業社製、製品名:NANOFINE−50、平均1次粒子径20nm、平均凝集粒子径100nm、固形分換算濃度10質量%)30g、テトラエトキシシラン(SiO固形分濃度29質量%)10gを加えた後、アンモニア水溶液を添加してpH=10として、20℃で6時間撹拌して、コア−シェル型微粒子分散液(固形分濃度6質量%)100gを得た。
【0083】
(2)得られたコア−シェル型微粒子分散液に強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオン、総交換容量2.0meq/ml以上)を100g加え、1時間撹拌してpH=4となった後、ろ過により強酸性カチオン交換樹脂を除去することで、中空状SiO微粒子分散液100gを得た。当該SiO中空粒子の外殻の厚みは10nm程度、空孔径は20nm程度である。また、当該SiO微粒子は凝集体粒子であり、平均凝集粒子径100nmである。
【0084】
前記の手順で得た中空シリカゾル(0.7g、固形分濃度:15質量%)、テトラエトキシシランの硝酸部分加水分解物(2g、固形分濃度:2.25質量%)、イソプロパノール(7.3g)を室温で混合し塗工液を調整した。塗工液に含まれる中空シリカ粒子とマトリックス成分との比は、SiO換算で7:3(質量比)である。
【0085】
その後、上記した光学多層膜の最表面となるSiO膜上に、スピンコート法により塗工液を塗布した。その後、200℃で45分間の熱処理を行い、前駆物質の脱水反応を行い、親水性金属酸化物膜として中空シリカ膜を形成した。親水性金属酸化物膜の膜厚は100nmとした。なお、このようにして得られた親水性金属酸化物膜の屈折率は1.2であった。
【0086】
<実施例1−2>
親水性金属酸化物膜上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成する以外は実施例1−1と同様にして光学部品を製造した。なお、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜の形成は、真空蒸着法により行った。
【0087】
<比較例1−1>
親水性金属酸化物膜を形成しないこと以外は、実施例1−1と同様にして光学部品を製造した。なお、透明基材および光学多層膜は、親水性金属酸化物膜(中空シリカ膜)を有しない構成の光学部品を想定して、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となるよう設計した。
【0088】
<比較例1−2>
光学多層膜の最表面となるSiO膜上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成する以外は比較例1−1と同様にして光学部品を製造した。
【0089】
次に、得られた光学部品について、以下に示すように、接触角の測定、および防塵試験を行った。
【0090】
(接触角)
光学部品の作製直後(20℃)、および常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間放置後に接触角を測定した。測定は、親水性金属酸化物膜の直接的な効果を評価するために、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜が設けられていないものについてのみ行った。また、測定は、対象となる表面に2マイクロリットルの純水からなる水滴を滴下し、接触角計(協和界面化学社製、商品名:FACE CA−X型)を用いて測定を行った。結果を表1に示す。なお、表中、親水性能が特に良好な15度以下を「○」、15度を超え90度以下を△と表記した。
【0091】
(防塵試験)
縦200mm×横200mm×高さ50mmのステンレス容器内に光学部品(縦30mm×横30mm×高さ1mm)と10gのコットンリンタ(購入元:日本空気清浄協会)とを入れ、5分間以上ステンレス容器を揺らした。その後、光学部品(親水性金属酸化物膜)の表面における上記コットンリンタに由来する塵の付着の程度を顕微鏡により倍率50倍で観察した。ここで、光学部品は、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間以上放置したものとした。結果を表1に示す。なお、表中、1平方mm辺りの塵付着数が10個以下を「◎」、1平方mm辺りの塵付着数が11個以上70個以下を「○」、1平方mm辺りの塵付着数が71個以上を「×」として表記した。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、親水性金属酸化物膜を有する実施例1−1、1−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。特に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成した実施例1−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。また、実施例1−1、1−2の光学部品は、作製直後だけでなく、長期的にも良好な親水性を保持でき、塵の付着を抑制できることがわかる。
【0094】
また、実施例1−1、1−2、比較例1−1、1−2の光学部品について、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下に3週間放置した後、分光光度計(日立ハイテク社製、商品名:U4100)を用いて400〜1200nmにおける透過率を測定した。図9に示すように、実施例1−1、1−2の光学部品については、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となり、設計通りの透過率特性を得られることが認められた。
【0095】
<実施例2−1>
第1の透明基材としてのCuOを含有するフツリン酸塩系ガラスで作成した赤外吸収フィルタ上の一方の面に、透明接着剤を用いて第2の透明基材としてのガラス基板を密着させるとともに、このガラス基板の赤外吸収フィルタと密着していない表面に、光学多層膜として真空蒸着法によりTiO膜とSiO膜を交互に成膜した。
【0096】
なお、TiO膜とSiO膜とは、TiO膜とSiO膜とを合わせて1層としたとき、合計で20層となるようにした。また、第1の透明基材、第2の透明基材、光学多層膜は、後述するように光学多層膜上に親水性金属酸化物膜としての中空シリカ膜を形成したときに、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となるよう設計した。
【0097】
その後、光学多層膜の最表面となるSiO膜上に、実施例1−1と同様にして親水性金属酸化物膜としての中空シリカ膜を形成して光学部品(視感度補正用光学部品)を製造した。
【0098】
<実施例2−2>
親水性金属酸化物膜上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成する以外は実施例2−1と同様にして光学部品を製造した。なお、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜の形成は、実施例1−2と同様にして行った。
【0099】
<比較例2−1>
第1の透明基材としてのCuOを含有するフツリン酸塩系ガラスで作成した赤外吸収フィルタ上の一方の面に、透明接着剤を用いて第2の透明基材としてのガラス基板を密着させるとともに、このガラス基板の赤外吸収フィルタと密着していない表面に、光学多層膜として真空蒸着法によりTiO膜とSiO膜を交互に成膜した。
【0100】
なお、TiO膜とSiO膜とは、TiO膜とSiO膜とを合わせて1層としたとき、合計で20層となるようにした。また、第1の透明基材、第2の透明基材、光学多層膜は、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となるよう設計した。
【0101】
<比較例2−2>
光学多層膜の最表面となるSiO膜上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成する以外は比較例2−1と同様にして光学部品を製造した。
【0102】
次に、光学部品について、接触角の測定、および防塵試験を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
表2から明らかなように、親水性金属酸化物膜を有する実施例2−1、2−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。特に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成した実施例2−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。また、実施例2−1、2−2の光学部品は、作製直後だけでなく、長期的にも良好な親水性を保持でき、塵の付着を抑制できることがわかる。
【0105】
なお、実施例2−1、2−2の光学部品について、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下に3週間放置した後、分光光度計(日立ハイテク社製、商品名:U4100)を用いて400〜1200nmにおける透過率を測定した。その結果、波長400〜410nmにおける透過率が10%以下、450〜530nmにおける透過率が95%以上、750〜1200nmにおける透過率が10%以下となり、設計通りの透過率特性を得られることが認められた。
【0106】
<実施例3−1>
透明基材としてのガラス基板上に、実施例1−1と同様にして親水性金属酸化物膜を形成して光学部品を製造した。
【0107】
<実施例3−2>
親水性金属酸化物膜上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成する以外は実施例3−1と同様にして光学部品を製造した。なお、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜の形成は、実施例1−1と同様にして行った。
【0108】
<比較例3−1>
透明基材としてガラス基板のみを用いて光学部品とした。
【0109】
<比較例3−2>
透明基材としてのガラス基板上に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成して光学部品を製造した。なお、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜の形成は、実施例1−2と同様にして行った。
【0110】
次に、光学部品について、接触角の測定、防塵試験を行った。結果を表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
表3から明らかなように、親水性金属酸化物膜を有する実施例3−1、3−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。特に、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成した実施例3−2の光学部品によれば、塵の付着を効果的に抑制できることがわかる。また、実施例3−1、3−2の光学部品は、作製直後だけでなく、長期的にも良好な親水性を保持でき、塵の付着を抑制できることがわかる。
【0113】
また、実施例3−1、比較例3−1の光学部品について、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間放置後、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製、商品名:ハイレスタUP MCP−HT450型)を用い、印加電圧1000Vで表面抵抗を測定した。測定は、親水性金属酸化物膜の直接的な効果を評価するために、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜が設けられていないものについてのみ行った。その結果、実施例3−1の光学部品の表面抵抗は0.6×1014 Ω/□となり、比較例3−1の光学部品の表面抵抗は1.4×1014 Ω/□となり、親水性金属酸化物膜の形成により表面抵抗値を効果的に低減できることが認められた。
【0114】
<実施例4>
実施例1−1の光学部品と同様にして実施例4の光学部品を製造し、信頼性評価を行った。信頼性評価は、まず常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間放置して400〜1200nmにおける透過率を測定した後、高温高湿槽(エスペック社製、商品名:恒温恒湿器PH−1K)を使用して温度85℃相対湿度85%の高温高湿環境下で1000時間放置する信頼性試験を行い、再び400〜1200nmにおける透過率を測定し、信頼性試験前後での透過率のスペクトル変化を比較した。透過率の測定には、分光光度計(日立ハイテク社製、商品名:U4100)を使用した。その結果、実施例4の光学部品については、信頼性試験前後における透過率のスペクトル変化がほぼ抑制されており、良好な信頼性を有することが認められた。
【符号の説明】
【0115】
10…撮像装置
11…レンズ群
12…視感度補正部品
13…撮像素子(13a…受光部、13b…パッケージ部、13c…カバーガラス)
20…光学部品
21…透明基材
22…親水性金属酸化物膜
24…光学多層膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
前記透明基材上に積層された親水性金属酸化物膜と、
を有する光学部品。
【請求項2】
前記親水性金属酸化物膜は、前記光学部品の最表面に形成されている、請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記親水性金属酸化物膜は、マトリックス成分により金属酸化物微粒子を結合してなる多孔質構造を有し、かつ前記マトリックス成分が主として金属酸化物からなる、請求項1または2に記載の光学部品。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子は、中空シリカ粒子である、請求項3に記載の光学部品。
【請求項5】
前記透明基材は、ガラス、無機結晶、および有機樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項6】
前記透明基材は、レンズ、複屈折板、赤外吸収フィルタ、またはブランクガラスである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項7】
前記透明基材上に、高屈折率金属酸化物膜と低屈折率金属酸化物膜とが交互に積層されてなる光学多層膜を有し、前記光学多層膜上に前記親水性金属酸化物膜が積層されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項8】
前記光学多層膜の前記親水性金属酸化物膜が積層される最表面層は酸化シリコンからなる、請求項7に記載の光学部品。
【請求項9】
前記親水性金属酸化物膜は、パーフルオロアルキル基を有する単分子膜により被覆されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学部品を有する光学装置。
【請求項11】
前記光学部品に振動を与える振動機構を有する、請求項10に記載の光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237941(P2012−237941A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108460(P2011−108460)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】