光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法
【課題】薄型化が可能で、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成した光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】透明材料170の内部に、屈折率変化領域150を有する光学部品100であって、屈折率変化領域150は、当該屈折率変化領域150より体積が小さく且つ透明材料170の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相150が透明材料170の内部に複数配置された領域である光学部品100。
【解決手段】透明材料170の内部に、屈折率変化領域150を有する光学部品100であって、屈折率変化領域150は、当該屈折率変化領域150より体積が小さく且つ透明材料170の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相150が透明材料170の内部に複数配置された領域である光学部品100。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品およびその製造方法に関する。特に、透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品、回折格子、および光学的ローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
超短パルスレーザー光を利用した透明材料の加工技術が向上し、特にパルス幅がフェムト秒レベルのレーザー光を利用した透明材料内部の3次元的な加工について様々な報告がなされ、例えば、特許文献1ではレーザー光照射によりガラス内部に高屈折率領域を形成し、光導波路を立体的に構成する方法が開示されている。また特許文献2にはレーザー光照射によりガラス内部に屈折率変化を3次元的に分布させ、回折光学素子を作製する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、パルスビームをレンズで集光し、焦点を走査するフェムト秒レーザー光を用いた加工が開示され、特許文献4にはレーザビームの照射に走査機構を用いずに、ガラスなどの透明材料内部に2次元、或いは3次元形状をした屈折率変化部位を一括で形成する方法が開示されている。これらの技術を利用して、光導波路、回折格子、GRINレンズ、マイクロレンズアレイを形成する可能であり、本発明者らは、これらの超短パルスレーザー光の加工技術を利用した光学ローパスフィルタを報告した(特許文献5)。
【0004】
光学ローパスフィルタは、規則正しく画素が配列された固体撮像素子を備えたデジタルカメラ等において、画像サンプリングで起こるモアレを防ぐために入射光のカットオフ周波数より高い空間周波数をカットする(細かな画像をぼかす)ために、撮像光学系に設置される光学素子である。
【0005】
上記光学的ローパスフィルタとして、水晶の複屈折を利用してカットオフ周波数より高周波をカットするものが広く知られている。従来の水晶の複屈折を利用した光学ローパスフィルタは、水晶の原料コストが高く、特に固体撮像素子を用いるカラービデオカメラでは複数枚の水晶が必要となり厚みが増すため、光学系の小型化を制限するという問題がある。また、撮像素子の高画素化に伴う水晶の薄型化により、ハンドリング性が悪化し、光学軸合わせや貼り合わせ等、製造上の難易度が高くなってきている。
【0006】
また、ガラスや樹脂などの透明基材表面に位相型回折格子を形成した光学ローパスフィルタも知られているが(特許文献6)、表面加工が煩雑であるため、表面の2次元加工に限定され、3次元加工や位相レベルを内部加工によって多値化することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−311237号公報
【特許文献2】特開2000−56112号公報
【特許文献3】特表2003−506731号公報
【特許文献4】特開2004−196585号公報
【特許文献5】特開2006−184890号公報
【特許文献6】特開平6−242404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが報告した特許文献5の光学ローパスフィルタは、パルスレーザー光により透明材料内部に2次元的または3次元的に形成された屈折率変化領域を利用した光学ローパスフィルタである。この透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学ローパスフィルタは、屈折率の異なる領域を形成し、位相的・光学的な段差を形成するもので、従来の光学ローパスフィルタの問題点を改善するものである。
【0009】
本発明は上述の透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学ローパスフィルタをさらに発展させたもので、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成した光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によると、透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品であって、前記屈折率変化領域は、当該屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が前記透明材料の内部に複数配置された領域であることを特徴とする光学部品が提供される。
【0011】
前記光学部品において、前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差は、前記異質相の体積、形状、数密度、もしくは前記異質相の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成されてもよい。
【0012】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、前記屈折率変化領域に対する前記異質相の体積比が30%以上である領域を含んでもよい。
【0013】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅は、3nm以上であってもよい。
【0014】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、当該領域の屈折率が透過波面の面内で周期的に変化してもよい。
【0015】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、光の入射方向における当該領域の厚みが、透過波面の面内で周期的に変化してもよい。
【0016】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列されてもよい。
【0017】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該複数の屈折率変化領域が互いに異なる2種以上の屈折率を有してもよい。
【0018】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該屈折率変化領域の同一領域における前記透明材料との屈折率差が領域内部で変化してもよい。
【0019】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域によって、透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させてもよい。
【0020】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域によって形成される回折格子を有してもよい。
【0021】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れか一に記載の光学部品を含む光学的ローパスフィルタが提供される。
【0022】
また、本発明の一実施形態によると、透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学部品の製法であって、パルスレーザーを照射し、前記屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異質相を形成して、当該異質相の集合により前記透明材料に屈折率変化領域を形成することを特徴とする光学部品の製造方法が提供される。
【0023】
前記光学部品の製造方法において、前記透明材料に対する前記異質相が占める体積の割合、形状、数密度、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布によって前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差を制御してもよい。
【0024】
前記光学部品の製造方法において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の体積比を30%以上にしてもよい。
【0025】
前記光学部品の製造方法において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅を3nm以上にしてもよい。
【0026】
前記光学部品の製造方法において、前記パルスレーザーの照射を重複して行う、前記パルスレーザーの照射出力を調整する、および/または前記パルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、前記異質相の体積、形状、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれかを変化させてもよい。
【0027】
前記光学部品の製造方法において、照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成した光学部品、光学的ローパスフィルタおよび光学部品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】(a)は本発明の一実施形態に係る光学部品100の斜視図であり、(b)は(a)の断面の一部領域Xの模式図である。
【図1B】従来の光学部品900の断面の一部領域の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光学部品の断面の一部領域を示す模式図であり、(a)は光学部品200を、(b)は光学部品300を示す。
【図3】本発明の一実施形態に係る光学部品の断面の一部領域を示す模式図であり、(a)は光学部品400を、(b)は光学部品500を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係る光学部品を示す模式図であり、(a)は光学部品600の一部領域の上面図を示し、(b)は(a)のAA’における光学部品600の断面の一部領域を示し、(c)は光学部品700の断面の一部領域を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品1000を、(b)は光学部品1000の断面を示す。
【図6】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品2000を、(b)は光学部品3000を、(c)は光学部品4000を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品5000を、(b)は光学部品6000を示す。
【図8】本発明の一実施形態に係る多値化回折格子の模式図であり、(a)は多値化回折格子10000を、(b)は多値化回折格子20000を示す。
【図9】本発明の一実施形態に係る多値化回折格子30000の模式図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る多光学的ローパスフィルタ10の作用を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の光学部品、光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法について、添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明の光学部品、光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0031】
上述した従来のような透明材料の内部に屈折率の異なる領域(以下、屈折率変化領域という)全体を一様に加工して、屈折率を変化させた光学的な段差を形成する工程は、その体積に比例してパルスレーザー加工時のエネルギー消費量、製造時間やコストが大きくなる。本発明者らは、鋭意検討した結果、少ない加工エネルギーで内部を一様に加工したのと同じ効果を得られることを見出し、本願発明に至った。この技術は、透明材料内部を加工する光学部品全般に用いることができる。本発明は、屈折率変化領域全体が一様に加工されるのではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が、透明材料の内部に複数配置された光学部品を提供する。本発明は、透明材料の内部に異質相を複数配置することにより、屈折率変化領域全体を一様に加工するのに比して加工領域が少なく、パルスレーザー加工時のエネルギー消費量、製造時間やコストを抑制するものである。
【0032】
本発明において、内部加工とは透明材料の表面から離れた位置に異質相が形成されてなり、材料表面でレーザーエネルギーが吸収される波長を利用したレーザー照射による表面改質とは異なるものである。
【0033】
図1A(a)は本実施形態に係る光学部品100の斜視図であり、図1A(b)は図1A(a)の断面の一部領域Xを示す。また、図1Bは、従来の光学部品900の断面の一部領域の模式図である。本実施形態に係る光学部品100は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置され、屈折率変化領域150を形成する。一方、従来の光学部品900において、屈折率変化領域950は、透明材料170に対して一様に屈折率が異なる。光学部品100において、異質相110は透明材料170の内部に2次元または3次元的に配置される。
【0034】
(透明材料)
本実施形態に係る光学部品100において、透明材料170には、光学部品に用いる公知の材料を用いることができ、特に、パルスレーザー照射により透明材料170の内部に異質相110を形成可能な材料を用いる。このような材料としては、例えば、SiO2系ガラス、B2O3系、P2O5系ガラス等が挙げられる。また、パルスレーザー照射により異質相110を形成可能であれば、透明材料170には樹脂等の有機材料を用いることもできる。このような有機材料としては、アクリル樹脂、PET樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る透明材料170には、表面を研磨したガラスや、表面が平坦に加工処理された有機材料を用いる。本実施形態においては、透明材料170の内部にパルスレーザーを照射するため、表面でレーザー光が乱反射するのを防ぐ必要があり、透明材料170の表面は可能な限り平坦であることが好ましい。近年の、撮像素子の高画素化に伴い、画素ピッチが狭くなっており、回折光の入射位置のズレを低減する観点から、具体的には、平坦度は10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、表面粗さは、点平均粗さRzで150Å以下であることが好ましい。
【0036】
(異質相)
本明細書において、「異質」とは、パルスレーザー照射により透明材料の一部がパルスレーザー照射前とは異なる材料の構造上の変化、元素の結合状態の変化、空孔生成、組成分布等を生じた状態を意味し、「異質相」とは、透明材料の一部を異質化することにより生じた、透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する部位を意味する。異質相の屈折率変化は、密度変化、組成変化、空洞形成、結晶化、イオンの価数変動などにより起こる。またそれらは、散乱の原因となるクラックの発生を伴わない。本実施形態に係る光学部品100において、異質相110は3nm以上の最小幅を有することが好ましい。異質相の幅が、光学部品の利用波長の1/100よりも小さい場合は、透明材料の内部に存在しても透過光に影響を与えられず、屈折率変化や位相差を実現するのが困難になるからである。
【0037】
なお、本明細書において、「可視光」は360nm〜830nmの範囲の波長を有する電磁波を意味する。また、「屈折率」は可視光、赤外光等の、本発明に係る光学ガラス部材又は光学部品等の利用光線に対する屈折率を意味する。
【0038】
異質相の最小幅は、用途によって好適なサイズが異なるが、使用する波長より小さい場合、偏光特性に悪い影響が出ることがある。本発明の光学部品を、例えば位相型光学的ローパスフィルタに用いる場合、可視光領域の偏光への影響を抑えるためには、可視光領域の長波長サイズより大きい、例えば830nmより大きいことが好ましい。一方、異質相の幅の上限は後述の屈折率変化領域より小さいものであり、屈折率変化領域の幅によって適宜変更され得る。
【0039】
異質相の屈折率の変化量(Δn)は、材料によって負もしくは正の値になる。例えば、透明材料の内部に空孔が生成される場合、当該空孔は周りより屈折率が低下した部分になる。また、多成分ガラスの場合、照射部位に形成される異質相の屈折率は、ガラスの組成によって、周りのガラスより高くなることもあれば、低くなることもある。本発明の光学部品において、所望の特性を得るための異質相の屈折率の変化量の絶対値は(|Δn|)は0.0001以上、好ましくは0.001以上、最も好ましくは0.005以上である。
【0040】
異質相110は線状、球形、楕円形、立方体、多角柱、多角錐、多面体等又は不定形状の構造を用いることができ、これらの形状の複数を組合せて用いることもできる。異質相110の最小幅は、線状の構造である場合には線の断面の径で定義され、球形、楕円形、立方体、多角柱、多角錐、多面体等又は不定形状の構造である場合には、その異質相の最大長が同じ球体の球相当径で定義される。
【0041】
(屈折率変化領域)
本発明の屈折率変化領域150は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110を複数配置した領域である。透明材料170と屈折率変化領域150との屈折率差は、屈折率変化領域150に配置された異質相110の体積、形状、数密度、もしくは異質相110の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成することができる。
【0042】
一般的に、位相(Φ;rad.)は、Φ=(ΔL×2π)/λで表される。ここで、屈折率変化領域の光路長差はΔL=Δn×Dであり、Δnは異質相の屈折率差、Dは屈折率変化領域の厚みである。従って、位相差はΔnあるいは屈折率変化領域の厚みを変えることで変化する。透過波面方向においては、位相の変化量は、透過してきた光路のΔnの変化と厚みの積算である。
【0043】
一方、屈折率変化領域を透過する面内での位相分布は、使用する光の波長サイズと位相分布のサイズによって、回折格子の回折光の振る舞いが変化する。即ち、例えば、屈折率変化領域の屈折率差を例に取ると、屈折率変化領域を構成する透明材料中の異質相が、そのサイズや個数において、使用する光の波長に対して十分緻密な場合には、屈折率変化領域は各異質相と異質相間の部位(透明材料)の体積比に基づいた平均的な屈折率差を有する領域として機能する。
【0044】
そのような平均的な屈折率差は、屈折率変化領域を構成する異質相の体積の割合、形状、数密度、もしくはレーザー照射前の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせによって変えられる。異質相の数密度は、一般的には単位体積あたりの異質相の個数という意味であり、仮に、同様の形状、体積、屈折率差の異質相が、一定の体積内に複数個存在するとき、数密度を変化させることで屈折率変化領域を透過する光の位相波面を変化させる。
【0045】
一方、異質相の体積比は、本願では、屈折率変化が認められる一定領域の体積における異質相の体積の割合を意味し、同じ体積比であっても異質相の形状、体積、屈折率差が異なり得る。また、屈折率変化が認められる一定領域とは領域全体として観察される透明材料に対する屈折率変化量|Δn|が0.00005以上である領域ということができ、好ましくは0.00008以上、より好ましくは0.0001以上である。
【0046】
屈折率変化領域150は、屈折率変化領域に対する異質相110の体積比が30%以上の領域を含むことが好ましい。このような体積比を有することにより、本実施形態に係る光学部品100は、要求される光の屈折率の変化をもたらすことができる。また、屈折率変化領域に対する異質相110の体積比は、加工領域を少なくし加工エネルギーを減らせるため、95%以下であることが好ましく、85%以下であることが好ましく、75%以下であることが最も好ましい。
【0047】
本実施形態に係る光学部品100は、異質相110を屈折率変化領域150に複数配置することにより、屈折率変化領域150全体として、従来の光学部品900の屈折率変化領域950のように屈折率を変化させるものである。本実施形態に係る光学部品100は、従来のように屈折率変化領域950全体を異質化するものではないため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域150のパターンを透明材料170内部に形成することができる。
【0048】
(屈折率変化領域の形成方法)
本実施形態に係る屈折率変化領域150は、透明材料170の一部にパルスレーザーを照射することにより形成することができる。したがって、本実施形態に係る屈折率変化領域150は、配置される異質相110の体積、形状、数密度、もしくは異質相110の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により、透明材料170と屈折率変化領域150との屈折率差を制御することができる。
【0049】
また、屈折率変化領域150においては、パルスレーザーの照射を同じ個所に重複して行う、パルスレーザーの照射出力を調整する、および/またはパルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、異質相110の透明材料170に対する屈折率変化量を変化させて、屈折率変化領域全体として、透明材料170との屈折率差を制御することができる。
【0050】
上述したように、本実施形態において、屈折率変化領域150に含まれる異質相110の体積比を30%以上にすることが好ましい。また、異質相110の最小幅を3nm以上とする。
【0051】
(パルスレーザー)
本実施形態において、パルスレーザーは、パルス幅がピコ秒(10−12s)以下のレーザーを好適に用いることができる。透明材料170がガラスである場合には、中心波長約800nm、[パルス幅100〜400fs(10−15s)]、繰り返し周波数10Hz〜100MHz、0.1〜4.0μJ程度のパルスエネルギーのフェムト秒パルスレーザーが好ましい。このようなパルスレーザー光を、例えば、倍率20倍(開口率0.45)の対物レンズ等を介して、10〜5000μmのスキャン深さ、0.005〜100mm/秒程度のスキャン速度の条件で透明材料170の内部に集光照射することにより、透明材料170と分子構造や組成分布が異なることにより屈折率差の異なる異質相110を生成できる。
【0052】
レーザー照射条件は所望する異質相の形状、屈折率変化量などによって変えることができる。例えば、1本のレーザビームをレンズで集光し、焦点位置で形成されるスポット状の異質相をステージの走査などを併用して加工する場合、パルスエネルギーは10nJ以上、好ましくは1μJ以上のイオン移動が起こせるパルスエネルギーを確保できれば特に上限はないが、繰り返し周波数は、上限が100MHz以下であると、加工時の熱の蓄積による熱歪みや望ましくないクラックの発生も抑制でき、また、ステージの速度を制御し易く、より精度の高い加工が可能となるので好ましい。繰り返し周波数の下限は、パルス間の加工の影響や加工時間を考慮して10Hz以上が好ましく、1kHz以上が最も好ましい。
【0053】
一方、パルス幅はレーザー照射により圧力波(衝撃波)が発生できる程度に短い必要があり、1ps以下が好ましく、500fs以下がより好ましく、300fs以下が最も好ましい。しかしパルス幅が短すぎると、レンズや各種光学部品の分散材料を透過あるいは反射する過程で、パルス幅が容易に広がるため取り扱いが難しくなるという問題が生じるので、10fs以上が好ましく、50fs以上がより好ましく、100fs以上が最も好ましい。
【0054】
照射するレーザーの波長は、透明材料170に吸収がなく透明な波長領域であることが好ましい。照射するガラスの透過率や特定波長の吸収の有無にも依るが、好ましくは、約200nm〜2100nm、より好ましくは、400〜1100nm、最も好ましくは、500〜900nmである。この範囲であれば、集光位置付近の光強度の高い部位のみで多光子吸収を起こし精密な加工ができるので好ましい。
【0055】
このようなパルスレーザーは、レーザー光を集光照射することにより、透明材料の内部に局所的に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を形成することができる。また、本実施形態におけるパルス幅は短いため、透明材料に対する熱的な影響が少ない。このため、加工時の熱の蓄積による熱歪みやクラックの発生も抑制でき、滑らかな形状の異質相を形成することもできる。
【0056】
また、本実施形態に係るパルスレーザー照射において、照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有することが好ましい。パルスレーザー光を複数に分割する工程とは、例えば、パルスレーザー照射装置と、透明材料170との間に所定形状の異質相110を形成するためのホログラムを配置して、透明材料170にパルスレーザー光を照射する工程である。従来は異質相110を形成する場合は、異質相110の1つ1つを加工する必要があり、加工時間が長く、異質相110の1つ1つの精度にばらつきが生じた。一方、ホログラムを利用してパルスレーザー光を複数に分割する本実施形態においては、異質相110のパターンを一括形成することが可能であるため、加工時間を短くし、且つ、高精度の異質相110のパターンを形成することができる。
【0057】
また、ホログラムを利用する加工では、異質相の形状、異質相間の間隔、場所毎の屈折率の変化量などの所望の状態になるような回折パターンが得られるようにホログラムを設計し、そのホログラムを介してレーザー照射することで実現される。そのとき、投入するパワーの調整のみで一定サイズの屈折率変化領域をステージの走査を使わずに一括で形成できる。また、前記のように設計されたホログラムを利用してステージ走査を併用する場合、異質相の間隔はあらかじめ設定されているので、異質相の間隔はステージの解像度やその送り精度に依らない、精度の高い加工を実現することができる。また、走査回数は大幅に減らすことが可能になり効率の良い加工が実現できる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る本発明の光学部品は、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成することができる。
【0059】
(異質相の変形例)
以下に、上述の実施形態で説明した異質相の変形例について説明する。図2および図3は、本発明の他の実施形態に係る光学部品の断面の一部領域の模式図である。図2(a)は光学部品200を、図2(b)は光学部品300を、図3(a)は光学部品400を、図3(b)は光学部品500を示す模式図である。
【0060】
光学部品200は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域251と、異質相110と同じ屈折率が同じで、体積が異なる異質相210が複数配置された第2の屈折率変化領域253とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品200は、第1の屈折率変化領域251と第2の屈折率変化領域253とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0061】
光学部品300は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域351と、異質相110と屈折率が同じで、形状が異なる異質相310が複数配置された第2の屈折率変化領域353とを含む。本変形例においては、異質相110を球形の構造、異質相310を立方体として示したが、異質相110及び異質相310に限定されるものではない。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品300は、第1の屈折率変化領域351と第2の屈折率変化領域353とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0062】
光学部品400は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域451と、第1の屈折率変化領域451とは異質相110の数密度が異なる第2の屈折率変化領域453とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品400は、第1の屈折率変化領域451と第2の屈折率変化領域453とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0063】
光学部品500は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域551と、異質相110とは屈折率が異なる異質相510が複数配置された第2の屈折率変化領域553とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品500は、第1の屈折率変化領域551と第2の屈折率変化領域553とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0064】
異質相のさらなる変形例を図4に示す。図4(a)は光学部品600の一部領域の上面図を示し、図4(b)は図4(a)のAA’における光学部品600の断面の一部領域を示す。光学部品600は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する線状の異質相610が平行に複数配置された第1の屈折率変化領域651と、異質相610と、異質相610と配向方向が異なる異質相630とがそれぞれ平行に複数配置された第2の屈折率変化領域653とを含む。図4(a)においては、異質相630は異質相610と直交する方法に配置しているが、必ずしも直行させる必要はない。
【0065】
図4(c)は光学部品600の変形例である光学部品700の断面の一部領域を示し、図4(a)のAA’における光学部品700の断面図を示す。図4(b)に示したように、光学部品600においては、第2の屈折率変化領域653は、異質相610と異質相630とを、透明材料170の同じ深度に配置している。一方、図4(c)に示したように、光学部品700においては、第2の屈折率変化領域753は、異質相710と異質相630とを、透明材料170の異なる深度に配置している。
【0066】
本実施形態に係る光学部品600及び光学部品700は、パルスレーザー光を用いて形成した第1の異質相を平行に複数配置し、さらに、第1の異質相とは異なる配向方向にパルスレーザー光を走査して形成した第2の異質相を平行に複数配置して第2の屈折率変化領域を形成することにより、第1の異質相のみから構成される第1の屈折率変化領域とは、領域全体として異なる屈折率を備える領域を備えることができる。
【0067】
なお、上述したように、本実施形態に係る異質相は、パルスレーザーの照射を重複して行う、パルスレーザーの照射出力を調整する、および/またはパルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、異質相110に対して組成分布を異ならせて屈折率差を調整することができる。また、ホログラムを用いてあらかじめレーザビームの強度プロファイルを調整することで、一定領域の屈折率差の分布を調整することもできる。また、便宜的に異質相を断面が円形の線状の構造として示したが、上述した異質相は、断面が楕円形、多角形又は不定形状の構造であってもよい。
【0068】
(屈折率変化領域の変形例)
上述した異質相を用いた屈折率変化領域の変形例について以下に説明する。図5および図6は、本発明の他の実施形態に係る光学部品の模式図である。図5(a)は光学部品1000の上面図(光の入射面)を、図5(b)は光学部品1000の断面図を示す模式図である。図6(a)は光学部品2000を、図6(b)は光学部品3000を、図6(c)は光学部品4000を示す模式図である。また、図7(a)は光学部品5000を、図7(b)は光学部品6000を示す模式図である。
【0069】
光学部品1000は、透明材料170の内部に連続して形成され、屈折率が透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域1051を備える。このような屈折率変化領域1151は、線状の異質相110の間隔を徐々に狭め、また徐々に広げて配置した屈折率変化領域を順次配置することにより形成することができる。したがって、所望の周期的な屈折率の変化を得られるように、屈折率変化領域1151を構成する異質相110の間隔を調整する。
【0070】
光学部品2000は、透明材料170の内部に連続して形成され、光の入射方向における厚みが、透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域2050を備える。屈折率変化領域2050は、パルスレーザー照射により形成する異質相を配置する領域を調整することにより形成することができる。したがって、光の入射方向に直交する方向に対しても、パルスレーザー照射により形成する異質相を配置する領域を調整することにより、屈折率変化領域の幅を調整することができる。
【0071】
光学部品3000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列する屈折率変化領域3051を備える。本実施形態において、屈折率変化領域3051は、透明材料170の内部に2次元または3次元的に配置することは、パルスレーザー照射の照射位置や深度を調整することにより任意に設定可能である。
【0072】
光学部品4000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、互いに異なる2種以上の屈折率を有する屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053を備える。このような屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を所定の間隔で順次配置することにより形成することができる。したがって、所望の屈折率の変化をそれぞれの屈折率変化領域に付与するように、屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053の屈折率変化領域の屈折率を調整する。
【0073】
光学部品5000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、の同一領域における透明材料170との屈折率差が領域内部で変化する屈折率変化領域5051を備える。屈折率変化領域5051は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を1つの屈折率変化領域の外側と内側の領域に配置するものである。したがって、屈折率変化領域5051は、所望の屈折率の変化をそれぞれの外側と内側の領域に付与するように調整する。
【0074】
光学部品6000は、透明材料170の内部に透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させた屈折率変化領域6051及び6053を備える。屈折率変化領域6051及び6053は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を1つの屈折率変化領域の外側と内側の領域に配置するものである。また、屈折率変化領域6051と屈折率変化領域6053とは、互いに面内位相差分布が異なる。したがって、屈折率変化領域6051及び6053は、所望の屈折率の変化をそれぞれの外側と内側の領域に付与するようにそれぞれ調整する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る光学部品は多様な形態で実施可能であって、従来のような屈折率変化領域全体を一様に加工するのではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成することができる。
【0076】
(光学部品の用途)
上述した本発明に係る光学部品として、屈折率変化領域によって構成される回折格子を形成することができる。回折格子は、透明材料の内部に3次元的に周期配列された複数の屈折率変化領域を備える。このような回折格子として機能する光学部品に、光を入射して得られる出射光は、回折光を含む。従来は、屈折率変化領域全体を一様に加工していたが、本発明に係る回折格子は、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成して回折格子を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【0077】
(回折格子の多値化)
上述した屈折率変化領域を用いて回折格子の位相レベルの多値化を実現することができる。図8及び図9は、本実施形態に係る多値化回折格子の模式図である。図8(a)に示した多値化回折格子10000は、透明材料170の内部に第1の屈折率変化領域10510と第2の屈折率変化領域10530とが交互に配置した市松模様の回折格子である。第1の屈折率変化領域10510は、第3の屈折率変化領域10511の内部に第4の屈折率変化領域10513を配置した構造を有する。第3の屈折率変化領域10511と第4の屈折率変化領域10513とは異なる屈折率を備える。また、第2の屈折率変化領域10530は、第5の屈折率変化領域10531の内部に第6の屈折率変化領域10533を配置した構造を有する。第5の屈折率変化領域10531と第6の屈折率変化領域10533とは異なる屈折率を備える。このように面内位相差分布が異なる2つ以上の屈折率変化領域を交互に配置することにより、回折格子の多値化を実現することができる。また、本願の屈折率変化領域の形成法であれば加工部位の厚み(透過波面に対して垂直方向の断面の厚み)を一定に保つことや、部品の厚みの変化に対して柔軟に対応できる。
【0078】
図8(b)に示した多値化回折格子20000は、透明材料170の内部に第1の屈折率変化領域20511を格子状に配置し、第1の方向(図中の縦方向)に配置した第1の屈折率変化領域20511と、第1の方向と直交する第2の方向(図中の横方向)に配置した第1の屈折率変化領域20511との交差部に第2の屈折率変化領域20513を配置した3位相値の回折格子である。ここで、第1の屈折率変化領域20511と第2の屈折率変化領域20513とは、互いに異なる屈折率を備える。多値化回折格子20000は、例えば、図4で説明した線状の異質相610及び異質相630を用いて形成することができる。この場合、第2の屈折率変化領域20513は、第2の屈折率変化領域653や第2の屈折率変化領域753のように異質相の体積比(存在比および/または存在頻度)が高くなるため、屈折率を異ならせることができる。なお、格子状に配置した第1の屈折率変化領域20511の交差部に屈折率の異なる第2の屈折率変化領域20513を配置する構造であれば、異質相の形状は先に述べた実施形態の何れであってもよい。また、縦方向の屈折率変化領域の屈折率と、横方向の屈折率変化領域の屈折率とを異なるように配置することもできる。
【0079】
図9示した多値化回折格子30000は、異質相30010を用いて、図5に示した光学部品1000のような屈折率が透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域を第1の方向(図中の縦方向)と、第1の方向と直交する第2の方向(図中の横方向)とに配置した構造を有する回折格子である。以上説明したように、本実施形態に係る多値化回折格子は、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成することにより、少ない加工エネルギーで内部を一様に加工した屈折率変化領域と同じ効果を得ることができる。
【0080】
このような回折格子を備える光学部品としては、例えば、空間周波数フィルターの一つでデジタルカメラなどの撮像素子のアンチエイリアシング対策として用いられる光学的ローパスフィルタがある。図10は、本実施形態に係る光学的ローパスフィルタ10の作用を説明する模式図である。光学的ローパスフィルタ10に入射した入射光は、光学的ローパスフィルタ10の内部に配置された回折格子により、回折光を含む出射光として、例えば、4つの撮像素子50の中心部に入射する。光学的ローパスフィルタ10を形成するには、屈折率変化領域それぞれの透明材料への光の入射方向に直交する方向に対する幅は、回折光の0次光(入射光)に対して1次光のなす角度からあらかじめ設定されることが好ましい。従来の水晶を用いたローパスフィルタは、基板の厚みが画素ピッチに依存し、且つ、複数枚の基板を必要とした。また、表面レリーフ型のローパスフィルタは、表面の2次元加工に限定されるが、本発明に係るローパスフィルタ10は、透明材料の内部に屈折率変化領域を3次元加工することが可能であり、位相レベルを多値化することはもちろん、3次元的な積層も容易にできる。また、従来の屈折率変化領域全体を一様に加工する方法ではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して回折格子を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【0081】
また、本発明に係る光学部品は、これに限定されるものではなく、透明材料の内部に屈折率変化領域を形成することにより、光学的な機能を得られる部品として利用することができ、例えば、回折レンズ、ビームスプリッター、GRINレンズ、マイクロレンズアレイ、光導波路等として用いることもできる。これらの光学部品においても、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成して光導波路を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10:ローパスフィルタ、50:撮像素子100:光学部品、110:異質相、150:屈折率変化領域、170:透明材料、900:従来の光学部品、950:屈折率変化領域、200:光学部品、210:異質相、251:第1の屈折率変化領域、253:第2の屈折率変化領域、300:光学部品、310:異質相、351:第1の屈折率変化領域、353:第2の屈折率変化領域、400:光学部品、451:第1の屈折率変化領域、453:第2の屈折率変化領域、500:光学部品、510:異質相、551:第1の屈折率変化領域、553:第2の屈折率変化領域、600:光学部品、610:異質相、630:異質相、651:第1の屈折率変化領域、653:第2の屈折率変化領域、700:光学部品、710:異質相、730:異質相、751:第1の屈折率変化領域、753:第2の屈折率変化領域、1000:光学部品、1051:屈折率変化領域、2000:光学部品、2050:屈折率変化領域、3000:光学部品、3051:屈折率変化領域、4000:光学部品、4051:屈折率変化領域、4053:屈折率変化領域、5000:光学部品、5051:屈折率変化領域、6000:光学部品、6051:屈折率変化領域、6053:屈折率変化領域、10000:多値化回折格子、10510:第1の屈折率変化領域、10530:第2の屈折率変化領域、10511:第3の屈折率変化領域、10513:第4の屈折率変化領域、10531:第5の屈折率変化領域、10533:第6の屈折率変化領域、20000:多値化回折格子、20511:第1の屈折率変化領域、20513:第2の屈折率変化領域、30000:多値化回折格子、30010:異質相
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品およびその製造方法に関する。特に、透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品、回折格子、および光学的ローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
超短パルスレーザー光を利用した透明材料の加工技術が向上し、特にパルス幅がフェムト秒レベルのレーザー光を利用した透明材料内部の3次元的な加工について様々な報告がなされ、例えば、特許文献1ではレーザー光照射によりガラス内部に高屈折率領域を形成し、光導波路を立体的に構成する方法が開示されている。また特許文献2にはレーザー光照射によりガラス内部に屈折率変化を3次元的に分布させ、回折光学素子を作製する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献3には、パルスビームをレンズで集光し、焦点を走査するフェムト秒レーザー光を用いた加工が開示され、特許文献4にはレーザビームの照射に走査機構を用いずに、ガラスなどの透明材料内部に2次元、或いは3次元形状をした屈折率変化部位を一括で形成する方法が開示されている。これらの技術を利用して、光導波路、回折格子、GRINレンズ、マイクロレンズアレイを形成する可能であり、本発明者らは、これらの超短パルスレーザー光の加工技術を利用した光学ローパスフィルタを報告した(特許文献5)。
【0004】
光学ローパスフィルタは、規則正しく画素が配列された固体撮像素子を備えたデジタルカメラ等において、画像サンプリングで起こるモアレを防ぐために入射光のカットオフ周波数より高い空間周波数をカットする(細かな画像をぼかす)ために、撮像光学系に設置される光学素子である。
【0005】
上記光学的ローパスフィルタとして、水晶の複屈折を利用してカットオフ周波数より高周波をカットするものが広く知られている。従来の水晶の複屈折を利用した光学ローパスフィルタは、水晶の原料コストが高く、特に固体撮像素子を用いるカラービデオカメラでは複数枚の水晶が必要となり厚みが増すため、光学系の小型化を制限するという問題がある。また、撮像素子の高画素化に伴う水晶の薄型化により、ハンドリング性が悪化し、光学軸合わせや貼り合わせ等、製造上の難易度が高くなってきている。
【0006】
また、ガラスや樹脂などの透明基材表面に位相型回折格子を形成した光学ローパスフィルタも知られているが(特許文献6)、表面加工が煩雑であるため、表面の2次元加工に限定され、3次元加工や位相レベルを内部加工によって多値化することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−311237号公報
【特許文献2】特開2000−56112号公報
【特許文献3】特表2003−506731号公報
【特許文献4】特開2004−196585号公報
【特許文献5】特開2006−184890号公報
【特許文献6】特開平6−242404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが報告した特許文献5の光学ローパスフィルタは、パルスレーザー光により透明材料内部に2次元的または3次元的に形成された屈折率変化領域を利用した光学ローパスフィルタである。この透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学ローパスフィルタは、屈折率の異なる領域を形成し、位相的・光学的な段差を形成するもので、従来の光学ローパスフィルタの問題点を改善するものである。
【0009】
本発明は上述の透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学ローパスフィルタをさらに発展させたもので、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成した光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によると、透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品であって、前記屈折率変化領域は、当該屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が前記透明材料の内部に複数配置された領域であることを特徴とする光学部品が提供される。
【0011】
前記光学部品において、前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差は、前記異質相の体積、形状、数密度、もしくは前記異質相の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成されてもよい。
【0012】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、前記屈折率変化領域に対する前記異質相の体積比が30%以上である領域を含んでもよい。
【0013】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅は、3nm以上であってもよい。
【0014】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、当該領域の屈折率が透過波面の面内で周期的に変化してもよい。
【0015】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、光の入射方向における当該領域の厚みが、透過波面の面内で周期的に変化してもよい。
【0016】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列されてもよい。
【0017】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該複数の屈折率変化領域が互いに異なる2種以上の屈折率を有してもよい。
【0018】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該屈折率変化領域の同一領域における前記透明材料との屈折率差が領域内部で変化してもよい。
【0019】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域によって、透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させてもよい。
【0020】
前記光学部品において、前記屈折率変化領域によって形成される回折格子を有してもよい。
【0021】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れか一に記載の光学部品を含む光学的ローパスフィルタが提供される。
【0022】
また、本発明の一実施形態によると、透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学部品の製法であって、パルスレーザーを照射し、前記屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異質相を形成して、当該異質相の集合により前記透明材料に屈折率変化領域を形成することを特徴とする光学部品の製造方法が提供される。
【0023】
前記光学部品の製造方法において、前記透明材料に対する前記異質相が占める体積の割合、形状、数密度、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布によって前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差を制御してもよい。
【0024】
前記光学部品の製造方法において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の体積比を30%以上にしてもよい。
【0025】
前記光学部品の製造方法において、前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅を3nm以上にしてもよい。
【0026】
前記光学部品の製造方法において、前記パルスレーザーの照射を重複して行う、前記パルスレーザーの照射出力を調整する、および/または前記パルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、前記異質相の体積、形状、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれかを変化させてもよい。
【0027】
前記光学部品の製造方法において、照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成した光学部品、光学的ローパスフィルタおよび光学部品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】(a)は本発明の一実施形態に係る光学部品100の斜視図であり、(b)は(a)の断面の一部領域Xの模式図である。
【図1B】従来の光学部品900の断面の一部領域の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光学部品の断面の一部領域を示す模式図であり、(a)は光学部品200を、(b)は光学部品300を示す。
【図3】本発明の一実施形態に係る光学部品の断面の一部領域を示す模式図であり、(a)は光学部品400を、(b)は光学部品500を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係る光学部品を示す模式図であり、(a)は光学部品600の一部領域の上面図を示し、(b)は(a)のAA’における光学部品600の断面の一部領域を示し、(c)は光学部品700の断面の一部領域を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品1000を、(b)は光学部品1000の断面を示す。
【図6】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品2000を、(b)は光学部品3000を、(c)は光学部品4000を示す。
【図7】本発明の一実施形態に係る光学部品の模式図であり、(a)は光学部品5000を、(b)は光学部品6000を示す。
【図8】本発明の一実施形態に係る多値化回折格子の模式図であり、(a)は多値化回折格子10000を、(b)は多値化回折格子20000を示す。
【図9】本発明の一実施形態に係る多値化回折格子30000の模式図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る多光学的ローパスフィルタ10の作用を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の光学部品、光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法について、添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明の光学部品、光学部品、回折格子、光学的ローパスフィルタ、およびその製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0031】
上述した従来のような透明材料の内部に屈折率の異なる領域(以下、屈折率変化領域という)全体を一様に加工して、屈折率を変化させた光学的な段差を形成する工程は、その体積に比例してパルスレーザー加工時のエネルギー消費量、製造時間やコストが大きくなる。本発明者らは、鋭意検討した結果、少ない加工エネルギーで内部を一様に加工したのと同じ効果を得られることを見出し、本願発明に至った。この技術は、透明材料内部を加工する光学部品全般に用いることができる。本発明は、屈折率変化領域全体が一様に加工されるのではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が、透明材料の内部に複数配置された光学部品を提供する。本発明は、透明材料の内部に異質相を複数配置することにより、屈折率変化領域全体を一様に加工するのに比して加工領域が少なく、パルスレーザー加工時のエネルギー消費量、製造時間やコストを抑制するものである。
【0032】
本発明において、内部加工とは透明材料の表面から離れた位置に異質相が形成されてなり、材料表面でレーザーエネルギーが吸収される波長を利用したレーザー照射による表面改質とは異なるものである。
【0033】
図1A(a)は本実施形態に係る光学部品100の斜視図であり、図1A(b)は図1A(a)の断面の一部領域Xを示す。また、図1Bは、従来の光学部品900の断面の一部領域の模式図である。本実施形態に係る光学部品100は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置され、屈折率変化領域150を形成する。一方、従来の光学部品900において、屈折率変化領域950は、透明材料170に対して一様に屈折率が異なる。光学部品100において、異質相110は透明材料170の内部に2次元または3次元的に配置される。
【0034】
(透明材料)
本実施形態に係る光学部品100において、透明材料170には、光学部品に用いる公知の材料を用いることができ、特に、パルスレーザー照射により透明材料170の内部に異質相110を形成可能な材料を用いる。このような材料としては、例えば、SiO2系ガラス、B2O3系、P2O5系ガラス等が挙げられる。また、パルスレーザー照射により異質相110を形成可能であれば、透明材料170には樹脂等の有機材料を用いることもできる。このような有機材料としては、アクリル樹脂、PET樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る透明材料170には、表面を研磨したガラスや、表面が平坦に加工処理された有機材料を用いる。本実施形態においては、透明材料170の内部にパルスレーザーを照射するため、表面でレーザー光が乱反射するのを防ぐ必要があり、透明材料170の表面は可能な限り平坦であることが好ましい。近年の、撮像素子の高画素化に伴い、画素ピッチが狭くなっており、回折光の入射位置のズレを低減する観点から、具体的には、平坦度は10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、表面粗さは、点平均粗さRzで150Å以下であることが好ましい。
【0036】
(異質相)
本明細書において、「異質」とは、パルスレーザー照射により透明材料の一部がパルスレーザー照射前とは異なる材料の構造上の変化、元素の結合状態の変化、空孔生成、組成分布等を生じた状態を意味し、「異質相」とは、透明材料の一部を異質化することにより生じた、透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する部位を意味する。異質相の屈折率変化は、密度変化、組成変化、空洞形成、結晶化、イオンの価数変動などにより起こる。またそれらは、散乱の原因となるクラックの発生を伴わない。本実施形態に係る光学部品100において、異質相110は3nm以上の最小幅を有することが好ましい。異質相の幅が、光学部品の利用波長の1/100よりも小さい場合は、透明材料の内部に存在しても透過光に影響を与えられず、屈折率変化や位相差を実現するのが困難になるからである。
【0037】
なお、本明細書において、「可視光」は360nm〜830nmの範囲の波長を有する電磁波を意味する。また、「屈折率」は可視光、赤外光等の、本発明に係る光学ガラス部材又は光学部品等の利用光線に対する屈折率を意味する。
【0038】
異質相の最小幅は、用途によって好適なサイズが異なるが、使用する波長より小さい場合、偏光特性に悪い影響が出ることがある。本発明の光学部品を、例えば位相型光学的ローパスフィルタに用いる場合、可視光領域の偏光への影響を抑えるためには、可視光領域の長波長サイズより大きい、例えば830nmより大きいことが好ましい。一方、異質相の幅の上限は後述の屈折率変化領域より小さいものであり、屈折率変化領域の幅によって適宜変更され得る。
【0039】
異質相の屈折率の変化量(Δn)は、材料によって負もしくは正の値になる。例えば、透明材料の内部に空孔が生成される場合、当該空孔は周りより屈折率が低下した部分になる。また、多成分ガラスの場合、照射部位に形成される異質相の屈折率は、ガラスの組成によって、周りのガラスより高くなることもあれば、低くなることもある。本発明の光学部品において、所望の特性を得るための異質相の屈折率の変化量の絶対値は(|Δn|)は0.0001以上、好ましくは0.001以上、最も好ましくは0.005以上である。
【0040】
異質相110は線状、球形、楕円形、立方体、多角柱、多角錐、多面体等又は不定形状の構造を用いることができ、これらの形状の複数を組合せて用いることもできる。異質相110の最小幅は、線状の構造である場合には線の断面の径で定義され、球形、楕円形、立方体、多角柱、多角錐、多面体等又は不定形状の構造である場合には、その異質相の最大長が同じ球体の球相当径で定義される。
【0041】
(屈折率変化領域)
本発明の屈折率変化領域150は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110を複数配置した領域である。透明材料170と屈折率変化領域150との屈折率差は、屈折率変化領域150に配置された異質相110の体積、形状、数密度、もしくは異質相110の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成することができる。
【0042】
一般的に、位相(Φ;rad.)は、Φ=(ΔL×2π)/λで表される。ここで、屈折率変化領域の光路長差はΔL=Δn×Dであり、Δnは異質相の屈折率差、Dは屈折率変化領域の厚みである。従って、位相差はΔnあるいは屈折率変化領域の厚みを変えることで変化する。透過波面方向においては、位相の変化量は、透過してきた光路のΔnの変化と厚みの積算である。
【0043】
一方、屈折率変化領域を透過する面内での位相分布は、使用する光の波長サイズと位相分布のサイズによって、回折格子の回折光の振る舞いが変化する。即ち、例えば、屈折率変化領域の屈折率差を例に取ると、屈折率変化領域を構成する透明材料中の異質相が、そのサイズや個数において、使用する光の波長に対して十分緻密な場合には、屈折率変化領域は各異質相と異質相間の部位(透明材料)の体積比に基づいた平均的な屈折率差を有する領域として機能する。
【0044】
そのような平均的な屈折率差は、屈折率変化領域を構成する異質相の体積の割合、形状、数密度、もしくはレーザー照射前の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせによって変えられる。異質相の数密度は、一般的には単位体積あたりの異質相の個数という意味であり、仮に、同様の形状、体積、屈折率差の異質相が、一定の体積内に複数個存在するとき、数密度を変化させることで屈折率変化領域を透過する光の位相波面を変化させる。
【0045】
一方、異質相の体積比は、本願では、屈折率変化が認められる一定領域の体積における異質相の体積の割合を意味し、同じ体積比であっても異質相の形状、体積、屈折率差が異なり得る。また、屈折率変化が認められる一定領域とは領域全体として観察される透明材料に対する屈折率変化量|Δn|が0.00005以上である領域ということができ、好ましくは0.00008以上、より好ましくは0.0001以上である。
【0046】
屈折率変化領域150は、屈折率変化領域に対する異質相110の体積比が30%以上の領域を含むことが好ましい。このような体積比を有することにより、本実施形態に係る光学部品100は、要求される光の屈折率の変化をもたらすことができる。また、屈折率変化領域に対する異質相110の体積比は、加工領域を少なくし加工エネルギーを減らせるため、95%以下であることが好ましく、85%以下であることが好ましく、75%以下であることが最も好ましい。
【0047】
本実施形態に係る光学部品100は、異質相110を屈折率変化領域150に複数配置することにより、屈折率変化領域150全体として、従来の光学部品900の屈折率変化領域950のように屈折率を変化させるものである。本実施形態に係る光学部品100は、従来のように屈折率変化領域950全体を異質化するものではないため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域150のパターンを透明材料170内部に形成することができる。
【0048】
(屈折率変化領域の形成方法)
本実施形態に係る屈折率変化領域150は、透明材料170の一部にパルスレーザーを照射することにより形成することができる。したがって、本実施形態に係る屈折率変化領域150は、配置される異質相110の体積、形状、数密度、もしくは異質相110の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により、透明材料170と屈折率変化領域150との屈折率差を制御することができる。
【0049】
また、屈折率変化領域150においては、パルスレーザーの照射を同じ個所に重複して行う、パルスレーザーの照射出力を調整する、および/またはパルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、異質相110の透明材料170に対する屈折率変化量を変化させて、屈折率変化領域全体として、透明材料170との屈折率差を制御することができる。
【0050】
上述したように、本実施形態において、屈折率変化領域150に含まれる異質相110の体積比を30%以上にすることが好ましい。また、異質相110の最小幅を3nm以上とする。
【0051】
(パルスレーザー)
本実施形態において、パルスレーザーは、パルス幅がピコ秒(10−12s)以下のレーザーを好適に用いることができる。透明材料170がガラスである場合には、中心波長約800nm、[パルス幅100〜400fs(10−15s)]、繰り返し周波数10Hz〜100MHz、0.1〜4.0μJ程度のパルスエネルギーのフェムト秒パルスレーザーが好ましい。このようなパルスレーザー光を、例えば、倍率20倍(開口率0.45)の対物レンズ等を介して、10〜5000μmのスキャン深さ、0.005〜100mm/秒程度のスキャン速度の条件で透明材料170の内部に集光照射することにより、透明材料170と分子構造や組成分布が異なることにより屈折率差の異なる異質相110を生成できる。
【0052】
レーザー照射条件は所望する異質相の形状、屈折率変化量などによって変えることができる。例えば、1本のレーザビームをレンズで集光し、焦点位置で形成されるスポット状の異質相をステージの走査などを併用して加工する場合、パルスエネルギーは10nJ以上、好ましくは1μJ以上のイオン移動が起こせるパルスエネルギーを確保できれば特に上限はないが、繰り返し周波数は、上限が100MHz以下であると、加工時の熱の蓄積による熱歪みや望ましくないクラックの発生も抑制でき、また、ステージの速度を制御し易く、より精度の高い加工が可能となるので好ましい。繰り返し周波数の下限は、パルス間の加工の影響や加工時間を考慮して10Hz以上が好ましく、1kHz以上が最も好ましい。
【0053】
一方、パルス幅はレーザー照射により圧力波(衝撃波)が発生できる程度に短い必要があり、1ps以下が好ましく、500fs以下がより好ましく、300fs以下が最も好ましい。しかしパルス幅が短すぎると、レンズや各種光学部品の分散材料を透過あるいは反射する過程で、パルス幅が容易に広がるため取り扱いが難しくなるという問題が生じるので、10fs以上が好ましく、50fs以上がより好ましく、100fs以上が最も好ましい。
【0054】
照射するレーザーの波長は、透明材料170に吸収がなく透明な波長領域であることが好ましい。照射するガラスの透過率や特定波長の吸収の有無にも依るが、好ましくは、約200nm〜2100nm、より好ましくは、400〜1100nm、最も好ましくは、500〜900nmである。この範囲であれば、集光位置付近の光強度の高い部位のみで多光子吸収を起こし精密な加工ができるので好ましい。
【0055】
このようなパルスレーザーは、レーザー光を集光照射することにより、透明材料の内部に局所的に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を形成することができる。また、本実施形態におけるパルス幅は短いため、透明材料に対する熱的な影響が少ない。このため、加工時の熱の蓄積による熱歪みやクラックの発生も抑制でき、滑らかな形状の異質相を形成することもできる。
【0056】
また、本実施形態に係るパルスレーザー照射において、照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有することが好ましい。パルスレーザー光を複数に分割する工程とは、例えば、パルスレーザー照射装置と、透明材料170との間に所定形状の異質相110を形成するためのホログラムを配置して、透明材料170にパルスレーザー光を照射する工程である。従来は異質相110を形成する場合は、異質相110の1つ1つを加工する必要があり、加工時間が長く、異質相110の1つ1つの精度にばらつきが生じた。一方、ホログラムを利用してパルスレーザー光を複数に分割する本実施形態においては、異質相110のパターンを一括形成することが可能であるため、加工時間を短くし、且つ、高精度の異質相110のパターンを形成することができる。
【0057】
また、ホログラムを利用する加工では、異質相の形状、異質相間の間隔、場所毎の屈折率の変化量などの所望の状態になるような回折パターンが得られるようにホログラムを設計し、そのホログラムを介してレーザー照射することで実現される。そのとき、投入するパワーの調整のみで一定サイズの屈折率変化領域をステージの走査を使わずに一括で形成できる。また、前記のように設計されたホログラムを利用してステージ走査を併用する場合、異質相の間隔はあらかじめ設定されているので、異質相の間隔はステージの解像度やその送り精度に依らない、精度の高い加工を実現することができる。また、走査回数は大幅に減らすことが可能になり効率の良い加工が実現できる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る本発明の光学部品は、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成することができる。
【0059】
(異質相の変形例)
以下に、上述の実施形態で説明した異質相の変形例について説明する。図2および図3は、本発明の他の実施形態に係る光学部品の断面の一部領域の模式図である。図2(a)は光学部品200を、図2(b)は光学部品300を、図3(a)は光学部品400を、図3(b)は光学部品500を示す模式図である。
【0060】
光学部品200は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域251と、異質相110と同じ屈折率が同じで、体積が異なる異質相210が複数配置された第2の屈折率変化領域253とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品200は、第1の屈折率変化領域251と第2の屈折率変化領域253とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0061】
光学部品300は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域351と、異質相110と屈折率が同じで、形状が異なる異質相310が複数配置された第2の屈折率変化領域353とを含む。本変形例においては、異質相110を球形の構造、異質相310を立方体として示したが、異質相110及び異質相310に限定されるものではない。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品300は、第1の屈折率変化領域351と第2の屈折率変化領域353とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0062】
光学部品400は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域451と、第1の屈折率変化領域451とは異質相110の数密度が異なる第2の屈折率変化領域453とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品400は、第1の屈折率変化領域451と第2の屈折率変化領域453とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0063】
光学部品500は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相110が複数配置された第1の屈折率変化領域551と、異質相110とは屈折率が異なる異質相510が複数配置された第2の屈折率変化領域553とを含む。このような2つの屈折率変化領域を備える光学部品500は、第1の屈折率変化領域551と第2の屈折率変化領域553とにおいて、それぞれの領域全体として、異なる屈折率を備えることができる。
【0064】
異質相のさらなる変形例を図4に示す。図4(a)は光学部品600の一部領域の上面図を示し、図4(b)は図4(a)のAA’における光学部品600の断面の一部領域を示す。光学部品600は、透明材料170の内部に透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する線状の異質相610が平行に複数配置された第1の屈折率変化領域651と、異質相610と、異質相610と配向方向が異なる異質相630とがそれぞれ平行に複数配置された第2の屈折率変化領域653とを含む。図4(a)においては、異質相630は異質相610と直交する方法に配置しているが、必ずしも直行させる必要はない。
【0065】
図4(c)は光学部品600の変形例である光学部品700の断面の一部領域を示し、図4(a)のAA’における光学部品700の断面図を示す。図4(b)に示したように、光学部品600においては、第2の屈折率変化領域653は、異質相610と異質相630とを、透明材料170の同じ深度に配置している。一方、図4(c)に示したように、光学部品700においては、第2の屈折率変化領域753は、異質相710と異質相630とを、透明材料170の異なる深度に配置している。
【0066】
本実施形態に係る光学部品600及び光学部品700は、パルスレーザー光を用いて形成した第1の異質相を平行に複数配置し、さらに、第1の異質相とは異なる配向方向にパルスレーザー光を走査して形成した第2の異質相を平行に複数配置して第2の屈折率変化領域を形成することにより、第1の異質相のみから構成される第1の屈折率変化領域とは、領域全体として異なる屈折率を備える領域を備えることができる。
【0067】
なお、上述したように、本実施形態に係る異質相は、パルスレーザーの照射を重複して行う、パルスレーザーの照射出力を調整する、および/またはパルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、異質相110に対して組成分布を異ならせて屈折率差を調整することができる。また、ホログラムを用いてあらかじめレーザビームの強度プロファイルを調整することで、一定領域の屈折率差の分布を調整することもできる。また、便宜的に異質相を断面が円形の線状の構造として示したが、上述した異質相は、断面が楕円形、多角形又は不定形状の構造であってもよい。
【0068】
(屈折率変化領域の変形例)
上述した異質相を用いた屈折率変化領域の変形例について以下に説明する。図5および図6は、本発明の他の実施形態に係る光学部品の模式図である。図5(a)は光学部品1000の上面図(光の入射面)を、図5(b)は光学部品1000の断面図を示す模式図である。図6(a)は光学部品2000を、図6(b)は光学部品3000を、図6(c)は光学部品4000を示す模式図である。また、図7(a)は光学部品5000を、図7(b)は光学部品6000を示す模式図である。
【0069】
光学部品1000は、透明材料170の内部に連続して形成され、屈折率が透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域1051を備える。このような屈折率変化領域1151は、線状の異質相110の間隔を徐々に狭め、また徐々に広げて配置した屈折率変化領域を順次配置することにより形成することができる。したがって、所望の周期的な屈折率の変化を得られるように、屈折率変化領域1151を構成する異質相110の間隔を調整する。
【0070】
光学部品2000は、透明材料170の内部に連続して形成され、光の入射方向における厚みが、透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域2050を備える。屈折率変化領域2050は、パルスレーザー照射により形成する異質相を配置する領域を調整することにより形成することができる。したがって、光の入射方向に直交する方向に対しても、パルスレーザー照射により形成する異質相を配置する領域を調整することにより、屈折率変化領域の幅を調整することができる。
【0071】
光学部品3000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列する屈折率変化領域3051を備える。本実施形態において、屈折率変化領域3051は、透明材料170の内部に2次元または3次元的に配置することは、パルスレーザー照射の照射位置や深度を調整することにより任意に設定可能である。
【0072】
光学部品4000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、互いに異なる2種以上の屈折率を有する屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053を備える。このような屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を所定の間隔で順次配置することにより形成することができる。したがって、所望の屈折率の変化をそれぞれの屈折率変化領域に付与するように、屈折率変化領域4051及び屈折率変化領域4053の屈折率変化領域の屈折率を調整する。
【0073】
光学部品5000は、透明材料170の内部に不連続に複数形成され、の同一領域における透明材料170との屈折率差が領域内部で変化する屈折率変化領域5051を備える。屈折率変化領域5051は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を1つの屈折率変化領域の外側と内側の領域に配置するものである。したがって、屈折率変化領域5051は、所望の屈折率の変化をそれぞれの外側と内側の領域に付与するように調整する。
【0074】
光学部品6000は、透明材料170の内部に透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させた屈折率変化領域6051及び6053を備える。屈折率変化領域6051及び6053は、上述した2つ以上の異なる屈折率を備える屈折率変化領域を1つの屈折率変化領域の外側と内側の領域に配置するものである。また、屈折率変化領域6051と屈折率変化領域6053とは、互いに面内位相差分布が異なる。したがって、屈折率変化領域6051及び6053は、所望の屈折率の変化をそれぞれの外側と内側の領域に付与するようにそれぞれ調整する。
【0075】
以上説明したように、本実施形態に係る光学部品は多様な形態で実施可能であって、従来のような屈折率変化領域全体を一様に加工するのではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能な屈折率変化領域のパターンを透明材料内部に形成することができる。
【0076】
(光学部品の用途)
上述した本発明に係る光学部品として、屈折率変化領域によって構成される回折格子を形成することができる。回折格子は、透明材料の内部に3次元的に周期配列された複数の屈折率変化領域を備える。このような回折格子として機能する光学部品に、光を入射して得られる出射光は、回折光を含む。従来は、屈折率変化領域全体を一様に加工していたが、本発明に係る回折格子は、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成して回折格子を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【0077】
(回折格子の多値化)
上述した屈折率変化領域を用いて回折格子の位相レベルの多値化を実現することができる。図8及び図9は、本実施形態に係る多値化回折格子の模式図である。図8(a)に示した多値化回折格子10000は、透明材料170の内部に第1の屈折率変化領域10510と第2の屈折率変化領域10530とが交互に配置した市松模様の回折格子である。第1の屈折率変化領域10510は、第3の屈折率変化領域10511の内部に第4の屈折率変化領域10513を配置した構造を有する。第3の屈折率変化領域10511と第4の屈折率変化領域10513とは異なる屈折率を備える。また、第2の屈折率変化領域10530は、第5の屈折率変化領域10531の内部に第6の屈折率変化領域10533を配置した構造を有する。第5の屈折率変化領域10531と第6の屈折率変化領域10533とは異なる屈折率を備える。このように面内位相差分布が異なる2つ以上の屈折率変化領域を交互に配置することにより、回折格子の多値化を実現することができる。また、本願の屈折率変化領域の形成法であれば加工部位の厚み(透過波面に対して垂直方向の断面の厚み)を一定に保つことや、部品の厚みの変化に対して柔軟に対応できる。
【0078】
図8(b)に示した多値化回折格子20000は、透明材料170の内部に第1の屈折率変化領域20511を格子状に配置し、第1の方向(図中の縦方向)に配置した第1の屈折率変化領域20511と、第1の方向と直交する第2の方向(図中の横方向)に配置した第1の屈折率変化領域20511との交差部に第2の屈折率変化領域20513を配置した3位相値の回折格子である。ここで、第1の屈折率変化領域20511と第2の屈折率変化領域20513とは、互いに異なる屈折率を備える。多値化回折格子20000は、例えば、図4で説明した線状の異質相610及び異質相630を用いて形成することができる。この場合、第2の屈折率変化領域20513は、第2の屈折率変化領域653や第2の屈折率変化領域753のように異質相の体積比(存在比および/または存在頻度)が高くなるため、屈折率を異ならせることができる。なお、格子状に配置した第1の屈折率変化領域20511の交差部に屈折率の異なる第2の屈折率変化領域20513を配置する構造であれば、異質相の形状は先に述べた実施形態の何れであってもよい。また、縦方向の屈折率変化領域の屈折率と、横方向の屈折率変化領域の屈折率とを異なるように配置することもできる。
【0079】
図9示した多値化回折格子30000は、異質相30010を用いて、図5に示した光学部品1000のような屈折率が透過波面の面内で周期的に変化する屈折率変化領域を第1の方向(図中の縦方向)と、第1の方向と直交する第2の方向(図中の横方向)とに配置した構造を有する回折格子である。以上説明したように、本実施形態に係る多値化回折格子は、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成することにより、少ない加工エネルギーで内部を一様に加工した屈折率変化領域と同じ効果を得ることができる。
【0080】
このような回折格子を備える光学部品としては、例えば、空間周波数フィルターの一つでデジタルカメラなどの撮像素子のアンチエイリアシング対策として用いられる光学的ローパスフィルタがある。図10は、本実施形態に係る光学的ローパスフィルタ10の作用を説明する模式図である。光学的ローパスフィルタ10に入射した入射光は、光学的ローパスフィルタ10の内部に配置された回折格子により、回折光を含む出射光として、例えば、4つの撮像素子50の中心部に入射する。光学的ローパスフィルタ10を形成するには、屈折率変化領域それぞれの透明材料への光の入射方向に直交する方向に対する幅は、回折光の0次光(入射光)に対して1次光のなす角度からあらかじめ設定されることが好ましい。従来の水晶を用いたローパスフィルタは、基板の厚みが画素ピッチに依存し、且つ、複数枚の基板を必要とした。また、表面レリーフ型のローパスフィルタは、表面の2次元加工に限定されるが、本発明に係るローパスフィルタ10は、透明材料の内部に屈折率変化領域を3次元加工することが可能であり、位相レベルを多値化することはもちろん、3次元的な積層も容易にできる。また、従来の屈折率変化領域全体を一様に加工する方法ではなく、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して回折格子を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【0081】
また、本発明に係る光学部品は、これに限定されるものではなく、透明材料の内部に屈折率変化領域を形成することにより、光学的な機能を得られる部品として利用することができ、例えば、回折レンズ、ビームスプリッター、GRINレンズ、マイクロレンズアレイ、光導波路等として用いることもできる。これらの光学部品においても、屈折率変化領域より体積が小さく且つ透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相を、透明材料の内部に複数配置して形成して光導波路を形成するため、パルスレーザー加工時のエネルギー消費を抑制し、加工時間の短縮が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10:ローパスフィルタ、50:撮像素子100:光学部品、110:異質相、150:屈折率変化領域、170:透明材料、900:従来の光学部品、950:屈折率変化領域、200:光学部品、210:異質相、251:第1の屈折率変化領域、253:第2の屈折率変化領域、300:光学部品、310:異質相、351:第1の屈折率変化領域、353:第2の屈折率変化領域、400:光学部品、451:第1の屈折率変化領域、453:第2の屈折率変化領域、500:光学部品、510:異質相、551:第1の屈折率変化領域、553:第2の屈折率変化領域、600:光学部品、610:異質相、630:異質相、651:第1の屈折率変化領域、653:第2の屈折率変化領域、700:光学部品、710:異質相、730:異質相、751:第1の屈折率変化領域、753:第2の屈折率変化領域、1000:光学部品、1051:屈折率変化領域、2000:光学部品、2050:屈折率変化領域、3000:光学部品、3051:屈折率変化領域、4000:光学部品、4051:屈折率変化領域、4053:屈折率変化領域、5000:光学部品、5051:屈折率変化領域、6000:光学部品、6051:屈折率変化領域、6053:屈折率変化領域、10000:多値化回折格子、10510:第1の屈折率変化領域、10530:第2の屈折率変化領域、10511:第3の屈折率変化領域、10513:第4の屈折率変化領域、10531:第5の屈折率変化領域、10533:第6の屈折率変化領域、20000:多値化回折格子、20511:第1の屈折率変化領域、20513:第2の屈折率変化領域、30000:多値化回折格子、30010:異質相
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品であって、
前記屈折率変化領域は、当該屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が前記透明材料の内部に複数配置された領域であることを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差は、前記異質相の体積、形状、数密度、もしくは前記異質相の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成されることを特徴とする請求項1記載の光学部品。
【請求項3】
前記屈折率変化領域が、前記屈折率変化領域に対する前記異質相の体積比が30%以上である領域を含む請求項1または2記載の光学部品。
【請求項4】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅は、3nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の光学部品。
【請求項5】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、当該領域の屈折率が透過波面の面内で周期的に変化していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の光学部品。
【請求項6】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、光の入射方向における当該領域の厚みが、透過波面の面内で周期的に変化していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の光学部品。
【請求項7】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の光学部品。
【請求項8】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該複数の屈折率変化領域が互いに異なる2種以上の屈折率を有することを特徴とする請求項7記載の光学部品。
【請求項9】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該屈折率変化領域の同一領域における前記透明材料との屈折率差が領域内部で変化していることを特徴とする請求項7または8に記載の光学部品。
【請求項10】
前記屈折率変化領域によって、透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させることを特徴とする請求項4乃至8の何れか一に記載の光学部品。
【請求項11】
前記屈折率変化領域によって形成される回折格子を有する請求項1乃至10の何れか一に記載の光学部品。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか一に記載の光学部品を含む光学的ローパスフィルタ。
【請求項13】
透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学部品の製法であって、パルスレーザーを照射し、
前記屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異質相を形成して、当該異質相の集合により前記透明材料に屈折率変化領域を形成することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項14】
前記透明材料に対する前記異質相が占める体積の割合、形状、数密度、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布によって前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差を制御することを特徴とする請求項13記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の体積比を30%以上にすることを特徴とする請求項13または14記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅を3nm以上にすることを特徴とする請求項13乃至15の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【請求項17】
前記パルスレーザーの照射を重複して行う、前記パルスレーザーの照射出力を調整する、および/または前記パルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、前記異質相の体積、形状、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれかを変化させることを特徴とする請求項13乃至16の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【請求項18】
照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有することを特徴とする請求項13乃至17の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【請求項1】
透明材料の内部に、屈折率変化領域を有する光学部品であって、
前記屈折率変化領域は、当該屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する異質相が前記透明材料の内部に複数配置された領域であることを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差は、前記異質相の体積、形状、数密度、もしくは前記異質相の屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布により形成されることを特徴とする請求項1記載の光学部品。
【請求項3】
前記屈折率変化領域が、前記屈折率変化領域に対する前記異質相の体積比が30%以上である領域を含む請求項1または2記載の光学部品。
【請求項4】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅は、3nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の光学部品。
【請求項5】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、当該領域の屈折率が透過波面の面内で周期的に変化していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の光学部品。
【請求項6】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に連続して形成され、光の入射方向における当該領域の厚みが、透過波面の面内で周期的に変化していることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載の光学部品。
【請求項7】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、それらの複数形成された領域が2次元または3次元的に周期的に配列されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の光学部品。
【請求項8】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該複数の屈折率変化領域が互いに異なる2種以上の屈折率を有することを特徴とする請求項7記載の光学部品。
【請求項9】
前記屈折率変化領域が、透明材料内部に不連続に複数形成され、当該屈折率変化領域の同一領域における前記透明材料との屈折率差が領域内部で変化していることを特徴とする請求項7または8に記載の光学部品。
【請求項10】
前記屈折率変化領域によって、透過波面の面内位相差分布を周期的に変化させることを特徴とする請求項4乃至8の何れか一に記載の光学部品。
【請求項11】
前記屈折率変化領域によって形成される回折格子を有する請求項1乃至10の何れか一に記載の光学部品。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか一に記載の光学部品を含む光学的ローパスフィルタ。
【請求項13】
透明材料内部に屈折率変化領域を有する光学部品の製法であって、パルスレーザーを照射し、
前記屈折率変化領域より体積が小さく且つ前記透明材料の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異質相を形成して、当該異質相の集合により前記透明材料に屈折率変化領域を形成することを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項14】
前記透明材料に対する前記異質相が占める体積の割合、形状、数密度、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれか、またはそれらの組み合わせの分布によって前記透明材料と前記屈折率変化領域との屈折率差を制御することを特徴とする請求項13記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の体積比を30%以上にすることを特徴とする請求項13または14記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
前記屈折率変化領域に含まれる前記異質相の最小幅を3nm以上にすることを特徴とする請求項13乃至15の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【請求項17】
前記パルスレーザーの照射を重複して行う、前記パルスレーザーの照射出力を調整する、および/または前記パルスレーザーのスキャンスピードを調整することにより、前記異質相の体積、形状、もしくは前記異質相の透明材料に対する屈折率変化量のいずれかを変化させることを特徴とする請求項13乃至16の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【請求項18】
照射するパルスレーザー光を複数に分割する工程を有することを特徴とする請求項13乃至17の何れか一に記載の光学部品の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図7】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図7】
【公開番号】特開2013−97335(P2013−97335A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242847(P2011−242847)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】
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