説明

光学部品およびその製造方法

【課題】防眩効果を有し、疲労感の低減、眼病予防にも効果的で、かつ、視認性が良好な光学部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の光学部品は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品であって、前記多層膜は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であり、前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率は、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡レンズでは、軽量で耐衝撃性に優れ、かつ染色しやすいとの利点からプラスチックレンズが多用されている。眼鏡レンズに使用されるプラスチックレンズには、表面反射を防止する目的で、その両面に反射防止膜が通常施されている。眼鏡レンズ用反射防止膜は、一般的に400nm〜700nmの可視領域全域にわたって、低い反射特性(広帯域低反射特性)特性を有する。
【0003】
眼鏡レンズ等の光学部品において、例えば特許文献1〜3に開示されているようなプラスチックの基材と、その基材上に配置される反射防止膜とを備えた光学部品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−30703号公報
【特許文献2】特開2006−251760号公報
【特許文献3】特開2007−127681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、最近の研究より、必ずしも可視領域全域にわたって低い反射特性を有することが視認性及び目の健康に対して望ましいことではないことがわかってきた。可視光線の青色領域(380〜500nm)をカットすることにより、眩しさが低減され視認性、コントラストが向上する。
また、目の健康に対して、可視光線の青色領域(380〜500nm)はエネルギーが強いため、網膜などの損傷の原因になると言われている。青色光による損傷を「ブルーライトハザード」といい、特に435〜440nm近辺が最も危険であり、この領域の光をカットすることが望ましいと言われている。
【0006】
昨今、ディスプレイの主流となっている液晶画面や、LED照明では、450nm付近の光が多く出ているため、このような青色領域の光線の制御が注目されている。可視光線の青色領域(380〜500nm)をカットする手段としては、サングラスなどの染色レンズが知られている。しかし、染色レンズでは全可視領域をカットするため、光量低下により視認性が悪くなってしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、防眩効果を有し、疲労感の低減、眼病予防にも効果的で、かつ、視認性が良好な光学部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部品は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品であって、前記多層膜は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であり、前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率は、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光学部品の製造方法は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品の製造方法であって、前記プラスチック基材を加熱する工程と、前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後、前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え、前記多層膜を形成する工程は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と、前記高屈折率層上に、この高屈折率層より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を形成する処理と、を有するとともに、前記多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率を2〜10%となるようにし、前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率が、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きくなるようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学部品によれば、良好な視認性を維持したまま充分な防眩効果が得られる。
また、本発明の光学部品の製造方法によれば、眩しさが低減され、見え易く、疲労、眼病予防にも効果的な光学特性を有した光学部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る光学部品の一例を示す模式図である。
【図2】第2実施形態に係る光学部品の一例を示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る蒸着装置の一例を示す模式図である。
【図4】実施例1に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図5】実施例2に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図6】実施例3に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図7】比較例1に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図8】実施例4に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図9】実験2に係る装用比較評価結果である。
【図10】実施例5に係る反射防止膜の分光特性図である。
【図11】実施例6に係る反射防止膜凸面の分光特性図である。
【図12】実施例6に係る反射防止膜凹面の分光特性図である。
【図13】実施例7に係る反射防止膜凸面の分光特性図である。
【図14】実施例7に係る反射防止膜凹面の分光特性図である。
【図15】実験3に係る装用比較評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態によって詳しく説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
(1) 第一の実施形態
図1は、本発明の光学部品の第一の実施形態を模式的に示す側断面図であり、図1において符号1は眼鏡レンズ用の光学部品である。
この光学部品1は、プラスチック基材2と、プラスチック基材2の凸面上に配設された無機多層膜3とを備えて構成されている。プラスチック基材2の凸面と無機多層膜3との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。
【0014】
なお、以下の説明においては、プラスチック基材2の表面(凸面)に配設されている各膜3、4について主に説明するが、実際には、プラスチック基材2の裏面(凹面)にも、表面(凸面)に形成される各膜3、4と同等の膜が形成されている。
【0015】
プラスチック基材2は、例えば透明なプラスチックであるアクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエ−テルサルホン樹脂ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)、ポリ塩化ビニル樹脂、ハロゲン含有共重合体、及びイオウ含有共重合体等によって形成されたものである。また、本実施形態では、プラスチック基材2の屈折率(nd)としては、例えば1.50、1.60、1.67、及び1.74のうちから選択されたものが用いられる。なお、プラスチック基材2の屈折率を1.6以上にする場合、プラスチック基材2としては、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、及びチオウレタン系樹脂等を使用することが好ましい。
また、プラスチック基材2は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。着色されたプラスチック基材2の透過率は、5〜85%であることが好ましい。
【0016】
機能性薄膜4は、前記したようにプラスチック基材2と無機多層膜3との間に配置されたもので、プラスチック基材2に接して配設されたプライマー層5と、このプライマー層5に接し、かつ無機多層膜3に接して配設されたハードコート層6とからなっている。
プライマー層5は、プラスチック基材2とハードコート層6との密着性を良好にするためのもので、密着層として機能するようになっている。また、光学部品1に対する衝撃を吸収するためのものでもあり、衝撃吸収層としても機能するようになっている。
【0017】
このプライマー層5は、ポリウレタン系樹脂を主成分とするもので、本実施形態では、ポリウレタン系樹脂に例えば無機材料の微粒子を含有させたものである。なお、プライマー層5は、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及び有機珪素系樹脂の少なくとも一種を含んでいてもよい。プライマー層5の厚み(実際の厚み)については、0.5μm以上1.0μm以下程度とするのが好ましい。
【0018】
このようなプライマー層5は、プライマー層5の形成材料液にプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上に所定の厚さで形成することができる。プライマー層5の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、前記したプライマー層5となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0019】
ハードコート層6は、プラスチック基材2を保護し、プラスチック基材2の損傷を抑制する機能を有するもので、耐擦傷性膜として機能するようになっている。
ハードコート層6は、例えばオルガノシロキサン系ハードコート層からなっている。オルガノシロキサン系ハードコート層は、オルガノシロキサン系樹脂に無機酸化物の微粒子を分散させたものである。無機酸化物としては、例えばルチル型の酸化チタンや、ケイ素、錫、ジルコニウム、及びアンチモンの酸化物が好適に用いられる。また、ハードコート層6として、例えば特公平4−55615号公報に開示されているような、コロイド状シリカ含有の有機ケイ素系樹脂であってもよい。ハードコート層6の厚み(実際の厚み)については、2μm以上4μm以下程度とするのが好ましい。
【0020】
ハードコート層6は、ハードコート層6の形成材料液に、プライマー層5を形成したプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上のプライマー層5上に所定の厚さで形成することができる。ハードコート層6の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、前記したハードコート層6となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0021】
これらプライマー層5及びハードコート層6を含む機能性薄膜4については、その屈折率と、プラスチック基材2の屈折率とがほぼ同じであれば、機能性薄膜4とプラスチック基材2との界面での反射で生じる干渉縞の発生及び透過率の低下を抑制することができる。したがって、プラスチック基材2の屈折率に応じて、機能性薄膜4の屈折率を調整するのが望ましい。機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)の屈折率の調整については、機能性薄膜4の主成分となる樹脂の種類(物性)を選択すること、あるいは、その主成分となる樹脂に添加する微粒子の種類(物性)を選択すること等によって行うことができる。
【0022】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、前記プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
【0023】
無機多層膜3は、前記プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7を有し、該高屈折率層7上に、この高屈折率層7より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を有した複層構成のもので、入射した光の反射を防止する反射防止膜としての機能を有したものである。この無機多層膜3は、本実施形態では400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であるように設計されている。
かかる平均反射率の範囲にあれば、眼鏡レンズとして使用した場合、充分な防眩効果が得られ、かつ良好な視認性を維持することができる。該波長域における平均反射率を10%以上にした場合、かかる眼鏡をかけた者は、眼鏡レンズの特に凹面からの入射光による反射にわずらわしさを感じるようになる。前記平均反射率は3〜10%であることが好ましい。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0024】
更に、無機多層膜3は、580〜780nmの波長域において反射率を1.5%以下であるように設計されることが好ましい。このような設計により、防眩効果及び視認性に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0025】
高屈折率層7は、本実施形態では、前記プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9と、該第1層9上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10と、該第2層10上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11と、からなっている。
【0026】
第1層9は、ハードコート層6に接して設けられたもので、屈折率が2.0の二酸化ジルコニウム(ZrO)からなっている。なお、第1層9を構成する高屈折率無機材料としては、ZrO以外にも、例えば二酸化チタン(TiO)や二酸化タンタル(Ta)を用いることもできる。さらには、ジルコニウム、チタン、タンタルの複数種からなる合金の酸化物によって形成することもできる。また、これら以外にも、例えば酸化アルミニウム(Al)、二酸化イットリウム(Y)、二酸化ハフニウム(HfO)、Nb(二酸化ニオブ)を用いることもできる。
【0027】
ここで、このように第1層9を高屈折率無機材料(ZrO)で形成することにより、第1層9とハードコート層6との間の密着性を得ることができる。すなわち、高屈折率無機材料からなる層(ZrO)とハードコート層6との密着性(密着力)のほうが、低屈折率無機材料からなる層(SiO)とハードコート層6との密着性(密着力)よりも大きいためである。また、機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)が省略された場合においても、高屈折率層(ZrO)とプラスチック基材2との密着性(密着力)のほうが、低屈折率層(SiO)とプラスチック基材2との密着性(密着力)よりも大きいため、密着性についてより有利になる。
【0028】
第2層10は、第1層9に接して設けられたもので、屈折率が1.47の二酸化珪素(SiO)からなっている。なお、第2層10を構成する低屈折率無機材料としては、SiO以外にも、例えば屈折率が1.36のMgFを用いることができる。
【0029】
第3層11は、第2層10に接して設けられたもので、第1層9と同様に二酸化ジルコニウム(ZrO)からなっている。なお、この第3層11についても、第1層9と同様に、ZrO以外の高屈折率無機材料によって形成することもできる。
また、高屈折率層7については、前記したように第1層9、第2層10、第3層11の三層構造で形成することなく、上述した反射率についての条件を満たせば、二層、あるいは四層以上で構成することもできる。
【0030】
低屈折率層8は、前記第3層11に接して設けられたもので、前記第2層10と同様に二酸化珪素(SiO)からなっている。
【0031】
また、本実施形態では、無機多層膜3の上、すなわち前記プラスチック基材2から最も遠い無機多層膜3の最外層(低屈折率層8)の上に、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜12が設けられている。
この撥水撥油膜12は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を主成分とするもので、撥液性(撥水性、撥油性)を有するものである。すなわち、この撥水撥油膜12は、光学部品の表面エネルギーを低下させ、水やけ防止、汚れ防止の機能を発揮するとともに、光学部品表面のすべり性能を向上させ、その結果として、耐擦傷性を向上させることができる。
フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1):
【0032】
【化1】

【0033】
(式(1)中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し、Yはヨウ素又は水素を表し、Y’は水素または炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し、Rは加水分解可能な基を表し、Rは水素又は不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0〜200の整数を表し、eは0又は1を表し、sおよびtはそれぞれ0〜2の整数を表し、wは1〜10の整数を表す。)
及び下記一般式(2)〜(5):
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
(式(2)〜(5)中、Xは酸素又は二価の有機基を表し、X’は加水分解可能な基を表し、X”は二価の有機シリコーン基を表し、Rは炭素数1〜22の直鎖状又は分岐上アルキレン基を表し、qは1〜3の整数を表し、m、n、oはそれぞれ0〜200の整数を表し、pは1又は2を表し、rは2〜20の整数を表し、kは0〜2の整数を表し、zはkが0又は1である場合に0〜10の整数を表す。)
及び下記一般式(6):
【0039】
【化6】

(式(6)中、Rfは2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、Rは加水分解可能な基を表し、iは0〜2の整数を表し、jは1〜5の整数を表し、uは2又は3を表す。)
の中から選択される。
【0040】
ここで、撥水撥油膜12に優れた耐久性を付与するには、一般式(1)〜(5)の中から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物と、一般式(6)から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物とを組み合わせて用いるのが好ましい。
一般式(1)〜(5)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、ダイキン工業株式会社製オプツール−DSX、オプツール−AES4などを用いることができる。また、一般式(6)示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、信越化学工業株式会社製KY−130、KY−164などを用いることができる。
【0041】
(2) 第二の実施形態
図2は、本発明の光学部品の第二の実施形態を模式的に示す側断面図であり、図1において符号1’は眼鏡レンズ用の光学部品である。図2において、図1に示した光学部品1と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
この光学部品1’は、第一の実施形態の光学部品1の構造に加えて、プラスチック基材2の凹面上に配設された無機多層膜3’を備えて構成されている。プラスチック基材2の凹面と無機多層膜3’との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。
【0042】
無機多層膜3’は、前記プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7’を有し、該高屈折率層7’上に、この高屈折率層7’より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8’を有した複層構成のものである。
【0043】
高屈折率層7’は、本実施形態では、第一の実施形態と同様に、前記プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9’と、該第1層9’上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10’と、該第2層10’上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11’と、からなっている。
本実施形態における第1層9’、 第2層10’、 第3層11’に用いられる無機材料としては、第一の実施形態における第1層9、 第2層10、第3層11に用いられる無機材料と同様のものが挙げられる。
高屈折率層7’については、第一の実施形態における高屈折率層7と同様に、三層構造で形成することなく、二層、あるいは四層以上で構成することもできる。
【0044】
本実施形態において、無機多層膜3’は、第一の実施形態の無機多層膜3と同様に、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であるように設計されてもよい。更に、無機多層膜3’は、580〜780nmの波長域において反射率を1.5%以下であるように設計されることが好ましい。プラスチック基材2の両面上に、かかる反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、防眩効果及び視認性に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0045】
また、本実施形態において、無機多層膜3’は、従来の反射防止膜と同様であってもよい。即ち、無機多層膜3’は、380〜780nmの波長範囲における平均反射率が1.5%以下の反射防止膜であってもよい。
【0046】
さらに、本実施形態において、プラスチック基材2の凸面上に配設された無機多層膜3の400〜500nmの波長範囲における平均反射率は、プラスチック基材2の凹面上に配設された無機多層膜3’の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きくしてもよい。プラスチック基材2の凸面上に配設された無機多層膜3は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が5〜10%であり、プラスチック基材2の凹面上に配設された無機多層膜3’は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜4%であるように設計されることが好ましい。かかる反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、防眩効果に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。なお、プラスチック基材2の凹面上に配設された無機多層膜3’は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が3〜4%であってもよい。
【0047】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、第一の実施形態と同様に、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、前記プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0048】
次に、前記光学部品1の製造方法に基づき、本発明の光学部品の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、プラスチック基材2に対して従来と同様の方法で機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)を形成する工程と、プラスチック基材2を加熱する工程と、加熱によってプラスチック基材2を所定温度(例えば70℃)に調整した後、このプラスチック基材2上に無機多層膜3を形成する工程と、無機多層膜3上に撥水撥油膜12を形成する工程と、を備えてなる。
【0049】
無機多層膜3を形成する工程は、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とを交互に複数積層して多層構造の高屈折率層7を形成する処理と、この高屈折率層7上に、低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を形成する処理と、を有している。これら各層の形成には、真空蒸着法が好適に用いられる。
【0050】
図3は、無機多層膜3の各層を形成するための蒸着装置30の一例を示す図である。図2に示すように蒸着装置30は、第1チャンバ31と第2チャンバ32と第3チャンバ33とを備えて構成されている。これら第1、第2、第3チャンバ31、32、33は、それぞれの内部がほぼ真空に減圧され、その状態に保持されるようになっている。また、蒸着装置30は、図示しない温調手段により、第1、第2、第3チャンバ31、32、33のそれぞれの内部温度が調整可能になっている。
【0051】
蒸着装置30は、第1、第2、第3チャンバ31、32、33のそれぞれの内部空間に、保持部材34を備えている。保持部材34は、その上面(保持面)が曲面状になっており、かつ、回転可能に構成されており、この上面上に複数のプラスチック基材2を保持するようになっている。
【0052】
例えば、第1蒸着源35Aにビームを照射することにより、ZrOの蒸気を第1蒸着源35Aから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第1層9と第3層11を形成することができる。同様に、第2蒸着源35Bにビームを照射することにより、SiOの蒸気を第2蒸着源35Bから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第2層10と、低屈折率層8を形成することができる。
【0053】
すなわち、第1蒸着源35Aに対するビームの照射と第2蒸着源35Bに対するビームの照射とを交互に行うことにより、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に、高屈折率無機材料からなる層と低屈折率無機材料からなる層とを交互に形成し積層することができる。ただし、本発明では、無機多層膜3を400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であるように設計する。更に、無機多層膜3は、580〜780nmの波長域において反射率を1.5%以下であるように設計されることが好ましい。
なお、第1蒸着源35Aとして酸化ジルコニウム(ZrO)からなる蒸着源を用い、第2チャンバ32の内部空間に酸素を導入しながら第1蒸着源35Aにビームを照射し、二酸化ジルコニウム(ZrO)からなる高屈折率無機材料層を形成するようにしてもよい。
【0054】
このようにして無機多層膜3を形成したら、これの上に撥水撥油膜12を形成する。
撥水撥油膜12の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの湿式法、あるいは真空蒸着法などの乾式法がある。
湿式法の中では、ディッピング法が一般的であり、よく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を有機溶剤に溶解した液中に、無機多層膜3まで形成し光学部品を浸漬し、一定条件で引き上げ、乾燥させて成膜する方法である。有機溶剤としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、メタキシレンヘキサフルオライドなどが使用される。
【0055】
有機溶剤による希釈濃度は、0.01〜0.5重量%が好ましく、0.03〜0.1重量%がより好ましい。濃度が低すぎると十分な膜厚の撥水撥油層12が得られず、また、濃度が高すぎると塗布むらが発生しやすく、材料コストも高くなってしまう。
乾式法の中では、真空蒸着法がよく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を真空槽内で加熱して蒸発させ、撥水撥油膜12を形成する方法である。
【0056】
このようにして形成された光学部品1にあっては、無機多層膜3を400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であるように設計したので、前述したように反射特性及び視認性について、共に良好な性能を確保することができる。
また、光学部品の製造方法にあっては、このようなバランスのとれた優れた光学部品を確実に提供することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
≪実験1≫
ウレタン系合成樹脂基板上に、屈折率1.67のシリコン系ハードコート、及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し、以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0059】
<実施例1>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.035λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.565λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.075λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.04λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.32λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.26λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第2層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第3層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第4層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.25λ、第5層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.28λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例1における分光特性を図1に示す。
【0060】
<実施例2>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.07λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.59λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.06λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.04λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.3λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.265λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第2層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第3層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第4層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.25λ、第5層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.28λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例2における分光特性を図2に示す。
【0061】
<実施例3>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.095λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.595λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.05λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.03λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.305λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.275λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第2層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第3層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第4層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.25λ、第5層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.28λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例3における分光特性を図3に示す。
【0062】
<比較例1>
凸面、凹面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第2層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第3層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第4層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.25λ、第5層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.28λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
比較例1における分光特性を図4に示す。
【0063】
実施例1〜3、比較例1における各成膜層の詳細を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
このようにして得られた光学物品の装用評価を行った。
(装用評価)
実施例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡を装用し、パソコンによるデスクワーク時に装用し、比較例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡との評価を行った。評価時の条件及び、判定項目は以下の通りである。
モニタ人数 :10名
ディスプレイ:17インチ液晶ディスプレイ
作業時間 :1時間/日
装用期間 :1週間
判定項目 :1.眩しさ 2.表示文字等の見え易さ 3.疲労感
実施例1〜3、比較例1の内、各評価項目に最も適していたものを○と評価した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
このような装用比較評価を行った結果、400〜500nmの波長範囲で平均反射率を2〜10%とする特性が前記判定項目において効果があることが確認された。下記のように400〜500nmの波長範囲で平均反射率が約6%の実施例2が、各評価項目において最も適しているとされた。
実施例1〜3、比較例1の内、実施例2が、各評価項目に最も適していたと評価した人数
1.眩しさ :4/10名
2.表示の見え易さ :5/10名
3.疲労感 :6/10名
【0068】
≪実験2≫
合成樹脂基板上に、屈折率1.67のシリコン系ハードコートを加熱硬化にて施し、以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0069】
<実施例2>
≪実験1≫の実施例2と同様の成膜条件にて成膜を行った。
【0070】
<実施例4>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.155λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.045λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.5λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.335λで積層した。積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第2層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第3層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第4層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.25λ、第5層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.28λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例4における分光特性を図5に示す。
【0071】
<比較例1>
≪実験1≫の比較例1と同様の成膜条件にて成膜を行った。
【0072】
実施例2、4、比較例1における各成膜層の詳細を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
このようにして得られた光学物品の装用評価を行った。
(装用評価)
実施例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡を装用し、パソコンによるデスクワーク時に装用し、比較例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡との評価を行った。評価時の条件及び、判定項目は以下の通りである。
モニタ人数 :20名
ディスプレイ:17インチ液晶ディスプレイ
作業時間 :1時間/日
装用期間 :1週間
判定項目 :1.眩しさ 2.表示文字等の見え易さ 3.疲労感
実施例2、4、比較例1の内、各評価項目に最も適していたものを○と評価した。○と評価したモニタ人数の合計を表4及び図6に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
このような装用比較評価を行った結果、400〜500nmの波長域において平均反射率を2〜10%とし、さらに580〜780nmの波長域において反射率を1.5%以下とすることにより、各判定においてより効果があることが確認された。
【0077】
≪実験3≫
ウレタン系合成樹脂基板上に、屈折率1.67のシリコン系ハードコート、及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し、以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0078】
<実施例5>
凸面、凹面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.10λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.10λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.205λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.16λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.335λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例5における分光特性を図10に示す。
【0079】
<実施例6>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.21λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.105λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.095λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.23λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.07λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.14λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例6における凸面の分光特性を図11に示し、凹面の分光特性を図12に示す。
【0080】
<実施例7>
凸面:レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.19λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.35λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
凹面:凸面と同様の装置、加工雰囲気、前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.11λ、第2層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.09λ、第3層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.22λ、第4層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.06λ、第5層ZrO(屈折率2.00)を光学的膜厚0.20λ、第6層SiO(屈折率1.47)を光学的膜厚0.33λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例7における凸面の分光特性を図13に示し、凹面の分光特性を図14に示す。
【0081】
実施例5〜7における各成膜層の詳細を表5に示す。
【0082】
【表5】

【0083】
このようにして得られた光学物品の装用評価を行った。
(装用評価)
実施例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡を、パソコンによるデスクワーク時に装用し評価を行った。評価時の条件及び、判定項目は以下の通りである。
モニタ人数 :20名
ディスプレイ:17インチ液晶ディスプレイ
作業時間 :1時間/日
装用期間 :2週間
判定項目 :1.眩しさ 2.表示文字等の見え易さ 3.疲労感
実施例5〜7の内、各評価項目に最も適していたものを○と評価した。○と評価したモニタ人数の合計を表6及び図15に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
このような装用比較評価を行った結果、400〜500nmの波長域において凸面の平均反射率を5〜10%、凹面の平均反射率を2〜4%とし、580〜780nmの波長域において反射率を1.5%以下とすることにより、特に眩しさ低減において効果があることが確認された。
【0086】
以上の結果から、本発明によれば、防眩効果を有し、装用による疲労感も無く、かつ、視認性が良好な光学部品及びその製造方法を提供できることが明らかである。
【符号の説明】
【0087】
1、1’…光学部品、2…プラスチック基材、3、3’…無機多層膜、4…機能性薄膜、5…プライマー層(機能性薄膜)、6…ハードコート層(機能性薄膜)、7、7’…高屈折率層、8、8’…低屈折率層、9、9’…第1層、10、10’…第2層、11、11’…第3層、12…撥水撥油膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品であって、
前記多層膜は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜10%であり、前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率は、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きいことを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記多層膜は、580〜780nmの波長範囲における反射率が1.5%以下である請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記プラスチック基材の凹面上に380〜780nmの波長範囲における平均反射率が1.5%以下の反射防止膜が配設された請求項1又は2に記載の光学部品。
【請求項4】
前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が5〜10%であり、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜は、400〜500nmの波長範囲における平均反射率が2〜4%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項5】
前記プラスチック基材は、着色され、その透過率が5〜85%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項6】
前記プラスチック基材から最も遠い前記多層膜の最外層の上に、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜を更に備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項7】
前記フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物は、下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し、Yはヨウ素又は水素を表し、Y’は水素または炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し、Rは加水分解可能な基を表し、Rは水素又は不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0〜200の整数を表し、eは0又は1を表し、sおよびtはそれぞれ0〜2の整数を表し、wは1〜10の整数を表す。)
及び下記一般式(2)〜(5):
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式(2)〜(5)中、Xは酸素又は二価の有機基を表し、X’は加水分解可能な基を表し、X”は二価の有機シリコーン基を表し、Rは炭素数1〜22の直鎖状又は分岐上アルキレン基を表し、qは1〜3の整数を表し、m、n、oはそれぞれ0〜200の整数を表し、pは1又は2を表し、rは2〜20の整数を表し、kは0〜2の整数を表し、zはkが0又は1である場合に0〜10の整数を表す。)
及び下記一般式(6):
【化6】

(式(6)中、Rfは2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、Rは加水分解可能な基を表し、iは0〜2の整数を表し、jは1〜5の整数を表し、uは2又は3を表す。)
の中から選択される1種類以上のフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である請求項6に記載の光学部品。
【請求項8】
前記多層膜は、4層以上の多層膜である請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項9】
前記プラスチック基材と前記多層膜との間に、機能性薄膜を備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項10】
前記多層膜を構成する高屈折率材料と低屈折率材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項11】
前記高屈折率材料は、二酸化ジルコニウムを含み、前記低屈折率材料は、二酸化珪素を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項12】
眼鏡レンズ用である請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項13】
プラスチック基材と、前記プラスチック基材の凸面及び凹面からなる両面の少なくとも凸面上に配設された多層膜とを備えた光学部品の製造方法であって、
前記プラスチック基材を加熱する工程と、前記加熱によって前記プラスチック基材を所定温度に調整した後、前記プラスチック基材上に前記多層膜を形成する工程を備え、
前記多層膜を形成する工程は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に複数積層し多層構造の高屈折率層を形成する処理と、前記高屈折率層上に、この高屈折率層より低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率層を形成する処理と、を有するとともに、
前記多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率を2〜10%となるようにし、前記プラスチック基材の凸面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率が、前記プラスチック基材の凹面上に配設された多層膜の400〜500nmの波長範囲における平均反射率よりも大きくなるようにすることを特徴とする請求項1〜12のいずれかの一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項14】
前記多層膜を真空蒸着法を用いて形成する工程を含む請求項13に記載の光学部品の製造方法。
【請求項15】
前記多層膜を形成する工程は、前記多層膜を構成する層のうちの少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含む請求項13又は14に記載の光学部品の製造方法。
【請求項16】
前記イオンビームアシストは、不活性ガスと、酸素ガス、不活性ガス及び酸素ガスの混合ガスとのうちから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる請求項15に記載の光学部品の製造方法。
【請求項17】
前記不活性ガスはアルゴンである請求項16に記載の光学部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−8052(P2013−8052A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200993(P2012−200993)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2010−288319(P2010−288319)の分割
【原出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(300035870)株式会社ニコン・エシロール (51)
【Fターム(参考)】