説明

光学部品の接着構造、およびその製造方法

【課題】周囲環境による接着剤の膨張または収縮の影響を受け難く、性能の低下を抑制でき、かつ接着強度が充分に確保できる光学部品の接着構造を提供する。
【解決手段】
光学部品の固定用突起部を載置した前記光学部品接着部の載置面上に、前記固定用突起部の端部の側面と同じ位置に壁面を有する溝部、または前記固定用突起部の端部の前方に溝部を形成して、前記各固定用突起部の上部より供給された接着剤が、前記固定用突起部の端部側面を濡らして、前記光学部品接着部の溝部へ流れ込み、前記溝部の壁面を続けて濡らした後で硬化されて、前記接着剤が前記固定用突起部および前記光学部品接着部の溝部の壁面を包み込む構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD(コンパクトディスク)やDVD(デジタルバーサタイルディスク)、Blu−rayディスク(登録商標)等の光記録媒体の記録,再生に用いられる光ピックアップ装置、プロジェクタなどに使用される光学部品の接着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVD等の光記録媒体の記録,再生に用いられる光ピックアップ装置、もしくは光ピックアップ装置を組み込んだ光ディスクドライブ装置では、図1(a)のようにレーザダイオード93などの発光素子からの出射光を各種レンズ95、97及びプリズム96,ミラー98等を介して対物レンズに導き、光記録媒体上で収束させる光学系と、光記録媒体からの戻り光を対物レンズ及び他各種レンズ,プリズム,ミラーを介して光出力を電気信号に変換するための光電変換素子で受光する光学系になっている。この中で、たとえば図1(b)のように各種レンズ97等の光学部品は、光ピックアップのケースに対して光学的観点から最適な位置に接着剤を用いて固定することが必要となる。
【0003】
特にレンズ接着部については、例えば図2のように、プラスチック製(例えばポリオレフィン)のレンズに固定用突起部を設け、それを平らな面におきその上に接着剤を塗布、硬化させる工程を行っている。しかし、接着剤の塗布ばらつきにより、塗布量が多くなった場合については壁面まで接着剤が流れ込み位置ずれが発生してしまう場合や、接着剤塗布量が少ない場合には、接着強度の低下による剥離が起こる可能性があることが従来では問題であった。
【0004】
なお、光ピックアップ装置に係り、先行技術文献として特許文献1〜3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−124455号公報
【特許文献2】特開平7−272302号公報
【特許文献3】特開2003−141749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光記録媒体は微細化・高密度化の方向にあり、それに対応するために必要となる光ピックアップ装置の課題について検討した。特許文献1では、ミラー接着部に溝を作り溝に接着剤を充填して接着する形状をもつ光学装置が記載されている。特許文献2では、対物レンズの接着部を溝に埋め込む構造を持つ光ピックアップ装置が記載されている。特許文献3では、突起上に光学部品を配置し、突起より下に接着剤を設ける接着構造が提案されている。
【0007】
上記従来技術では、現状の光ピックアップ装置としての性能は満足している。しかしながら、光記録媒体が微細化・高密度化された場合には光軸に対する光学部品の傾斜ずれ低減への要求等が厳しくなると考えられ、接着剤塗布作業のばらつきや接着剤はみだし部の接着剤の膨張収縮による品質ばらつきが光ピックアップ装置の記録・再生特性に及ぼす影響が懸念される。
【0008】
従来例について、光学部品であるレンズの接着部の断面図が示された図2(a)、上面図が示された図2(b)を用いて説明する。図2(a)、(b)に示すようにレンズ2の固定用突起部5をレンズ接着部3の平らな部分に乗せ、レンズ2の固定用突起部5を包み込むように接着剤A1を塗布、硬化させている。このため、レンズ2の材料とレンズ接着部3の材料の線膨張率の差によって温度変化時に、接着剤A1に応力がかかり、接着強度が弱くなってしまう可能性があった。また、接着剤の供給量のばらつきにより僅かに多すぎる場合には、図6に示すようにレンズ接着部壁面3bに接着剤が濡れ広がってしまうことがあった。レンズ2は普通2箇所以上で接着されているが、レンズ接着部壁面3bとレンズ2の固定用突起部5との間の距離cに亘る接着剤が温度変化による膨張収縮する量は大きくなり、レンズ2が動く可能性があり、レンズ2が動くことにより光軸がずれてしまうという事態が起こりうる。そして、そのような事態が起きてしまうと、光ピックアップの光学的処理性能が低下し、記録再生性能が低下する可能性があった。
【0009】
このような状況は、特許文献1〜3に記載されているような接着構造をとったとしても何れも光学部品を2箇所以上で接着・固定しており、同様に起こる可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、接着剤の塗布ばらつき等が起こったとしても、熱や湿度等の周囲環境による接着剤の膨張または収縮の影響を受けにくくし、かつ、接着強度を十分確保できる光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、ケースの光学部品が接着される部分を突起状にし、ケースの壁面との間に溝を作ることで、接着剤が溝に入り込んで、壁面に濡れ広がることを抑えた構造とする。
【0012】
また、本発明では、ケースと光学部品との間に挟まれる接着剤に、弾性率が低く接着力の強い接着剤を用い、ケースの接着部や光学部品を覆うように設ける接着剤には、弾性率が高い接着剤を用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接着剤の供給ばらつき等が起こったとしても、熱や湿度等の周囲環境による接着剤の膨張または収縮の影響が抑制され、光軸に対する光学部品の位置ずれや、接着強度の低下を抑制可能な光学部品の接着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る光ピックアップ装置の(a)構成図と(b)レンズ(光学部品)接着部の例である。
【図2】従来の光ピックアップ装置におけるレンズ(光学部品)接着部の概略図の(a)断面図と(b)上面図の例である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズ(光学部品)接着部の概略図の(a)断面図と(b)上面図の例である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズ(光学部品)接着部の概略図の断面図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズ(光学部品)接着部の概略図の断面図である。
【図6】従来の光ピックアップ装置におけるレンズ(光学部品)接着部において、接着剤の塗布量が多く、レンズが動く原因を生じている事例の(a)断面図と(b)上面図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
第1の実施例について、従来例の検討内容を踏まえて図2(a)、図2(b)、図3(a)、図3(b)、図6(a)、図6(b)を用いて説明する。同一符号は同一構成要素を示す。
【0017】
図2(a)は、従来の光ピックアップ装置で採用されているレンズ接着部3とレンズ2の固定用突起部5とを接着剤A1で接合したときの固定構造の断面図であり、図2(b)は、同固定構造の上面図である。
【0018】
レンズ2の固定用突起部5とレンズ接着部3とは、レンズ2の固定用突起部5をレンズ接着部3の上に載置・位置決めした後、上方から接着剤A1をポッティングにより供給して、レンズ2の固定用突起部5がほぼすべて接着剤A1に覆われるように塗布し、接着剤A1を硬化させる工程により、接着・固定される。
しかし、接着剤A1の塗布ばらつきにより、接着剤A1の塗布量が多くなった場合については、図6(a)、(b)に例を示すように、レンズ接着部壁面3bまで接着剤A1が濡れ拡がって付着してしまい、レンズ接着部壁面3bとレンズ2の固定用突起部5との間の距離cに相当する接着剤の柱が、
周囲環境の温度変化による膨張・収縮の程度が大きくなり、レンズ2の位置ずれへの影響が問題になることが予測された。
【0019】
図3(a)は、本実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズ接着部3に溝部3aを設けた場合のレンズ2の固定構造の概略断面図であり、図3(b)は固定構造の上面図である。本実施例では、レンズ接着部3にレンズ接着部溝部3aを設けた構造とし、レンズ接着部溝部3aより前部のレンズ接着部3の突起部6の幅aが、レンズ2の固定用突起部5の幅bよりも大きいか等しくなるような構造にしている。
【0020】
a≧bの関係とする理由は、レンズ2の固定用突起部5の上方よりポッティングにより供給された接着剤が、前記固定用突起部5の端部側面を濡らし、さらに流れ落ちて、レンズ接着部溝部壁面3cまで接着剤が回り込み易くするためである。
【0021】
レンズ2の固定用突起部5とレンズ接着部3を接合する際に接着剤A1を図3(a)、(b)のようにレンズ接着部3の壁面3bに触れないようにかつレンズ接着部溝部壁面3cに回りこませて、溝部壁面3cにも接着するような接着構造にすることにより、接着面積を稼ぐことによる接着強度の向上が見込まれる。また、図3(a)、(b)のように、例え接着剤A1が濡れ広がったとしても溝部3aに落ち込んで、レンズ接着部壁面3bに接着剤A1が触れる可能性が非常に小さくなるために、レンズ2の位置ずれが起き難くなる。
【0022】
仮にレンズ接着部溝部3aに接着剤A1が溢れてしまったとしても、従来例図6(a)、(b)のようにレンズ2の固定用突起部5の横での接着剤の膨張収縮は無く、溝部3aから斜め方向への接着剤A1の膨張収縮が起こるために位置ずれの可能性は小さくなる。なお、レンズ接着部溝部3aは、モールド金型を用いて製造する際、レンズ接着部3と同時に形成することができる。
【実施例2】
【0023】
第2の実施例について図4を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は、特段の事情のない限り本実施例にも適用することができる。
【0024】
図4は、本実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズの接着部の断面図を示す。これは、図2(a)、(b)に示す従来構造と形状は同じであるが、レンズ2の固定用突起部5の下に接着剤B4を塗布し、それからレンズ2の固定用突起部5をレンズ接着部3の上に載置・位置決めした後、さらにその上から接着剤A1をポッティングにより塗布した構造である。この場合に特に、接着剤A1の弾性率は接着剤B4の弾性率よりも大きいものを使用する。このような構造にすることで、図2(a)、(b)に示す従来構造と比べて接着剤B4の弾性率の低い接着剤で接着強度をさらに向上させることができる。また、接着剤B4の膨張によりレンズ2が動くことが懸念されるが、接着剤B4よりも硬い接着剤A1を使用することにより、接着剤B4に起因するレンズ2の動きを抑制することができ、第1の実施例と同様の効果が得られるようにすることが可能である。
【0025】
前記接着剤A1および接着剤B4は、例えば紫外線硬化型もしくは熱硬化型接着剤を使用する。
【0026】
本実施例によれば、弾性率の低い接着剤で接着強度を増加させることができ、かつその周りを弾性率の高い接着剤で覆うことにより、弾性率の低い接着剤の周囲環境による膨張または収縮の影響を抑制でき、光軸に対する光学部品の位置ずれを抑制可能な光ピックアップ装置を提供することができる。
【実施例3】
【0027】
第3の実施例について図5を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は、特段の事情のない限り本実施例にも適用することができる。
【0028】
図5は、本実施例に係る光ピックアップ装置におけるレンズの接着部の断面図を示す。第1、第2の実施例と同様であるが、レンズ接着部3にレンズ接着部溝部3aを設け、かつ接着剤B4をレンズ2の固定用突起部5の下面に先に塗布し、それからレンズ2の固定用突起部5をレンズ接着部3の上に載置・位置決めした後、接着剤A1でレンズ2の固定用突起部5や接着剤B4を完全に包み込むような接着構造にした例である。
【0029】
本実施例によれば、接着強度が向上し、周囲環境による接着剤の膨張または収縮の影響が抑制され、光軸に対する光学部品の位置ずれを抑制可能な光ピックアップ装置を提供することができる。
【0030】
以上、本発明に係る光ピックアップ装置についての実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えばプロジェクタのレンズのような製品にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:接着剤A、
2:レンズ、
3:レンズ接着部、
3a:レンズ接着部溝部、
3b:レンズ接着部壁面、
3c:レンズ接着部溝部壁面、
4:接着剤B、
5:レンズの固定用突起部、
6:レンズ接着部の突起部
90:光ピックアップ装置、
91:アクチュエータ部分、
92:光ピックアップケース、
93:レーザダイオード、
94:フォトダイオード、
95:補助レンズ、
96:プリズム、
97:検出レンズ、
98:ハーフミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される接着部と、前記接着部と前記壁面との間に設けられた溝部とを有し、
前記接着剤は、前記ケースの接着部と前記光学部品とを接着するとともに、前記壁面との間に間隙を有するように前記溝部内に延在することを特徴とする光学部材の接着構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記接着部は、突起状であり、
前記突起の上に前記光学部材が接着されていることを特徴とする接着構造。
【請求項3】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される突起状の接着部と、とを有し、
前記接着剤は、前記光学部品及び前記突起を覆うように設けられて接着するとともに、前記壁面との間に間隙を有することを特徴とする光学部材の接着構造。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記ケースの突起は、前記光学部品よりも、前記壁面に近い側まで延在していることを特徴とする光学部材の接着構造。
【請求項5】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される接着部と、とを有し、
前記接着剤は、前記光学部品と前記接着部との間に設けられて接着する第1の接着剤と、前記第1の接着剤よりも弾性率が大きく、前記光学部品と前記接着部との間以外に設けられて当該前記光学部品と前記ケースとを接着する第2の接着剤とを有することを特徴とする光学部材の接着構造。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記接着剤は、前記光学部品と前記接着部との間に設けられて接着する第1の接着剤と、前記第1の接着剤よりも弾性率が大きく、前記光学部品と前記接着部との間以外に設けられて当該前記光学部品と前記ケースとを接着する第2の接着剤とを有することを特徴とする光学部材の接着構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記光学部品は、光を導く光学部品本体と、前記光学部品本体から突出し、前記ケースに接着される固定用突起部とを有し、
前記接着剤は、前記固定用突起部を覆うように設けられていることを特徴とする光学部品の接着構造。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光学部品の接着構造と、
光を発光する発光素子と、
光を受光する受光素子と、
対物レンズとを備え、
前記光学部品は、前記発光素子が発光した光を前記対物レンズに導くとともに、前記対物レンズが受けた光を前記受光素子に導くレンズであることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項9】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造の製造方法において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される接着部と、前記接着部と前記壁面との間に設けられた溝部とを有し、
前記光学部品を前記ケースの接着部の上に載置する工程と、
前記光学部品及び前記ケースの接着部及び溝部に、前記壁面に間隙と有するように接着剤をボッティングにより供給する工程と、
前記供給した接着剤を硬化させる工程と、
を含む接着構造の製造方法。
【請求項10】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造の製造方法において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される突起状の接着部と、とを有し、
前記光学部品を前記ケースの接着部の突起の上に載置する工程と、
前記光学部品及び前記ケースの突起を覆い、前記壁面に間隙と有するように接着剤をボッティングにより供給する工程と、
前記供給した接着剤を硬化させる工程と、
を含む接着構造の製造方法。
【請求項11】
ケースの対向する一対の壁面の間に光学部品を設け、前記ケースと前記光学部品とを接着剤で接着した光学部品の接着構造の製造方法において、
前記ケースは、前記壁面と、前記光学部品が載置されて接着される接着部と、とを有し、
前記ケースの接着部に、第1の接着剤を供給する工程と、
前記供給された第1の接着剤上に前記光学部品を載置する工程と、
前記光学部品及び前記接着部上に、前記第1の接着剤よりも弾性率が大きい第2の接着剤を供給する工程と、
前記供給された第1の接着剤及び第2の接着剤を硬化させる工程と、
を含む接着構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−97841(P2013−97841A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241062(P2011−241062)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】