説明

光学部品の洗浄装置

【課題】光学部品の洗浄装置において、超音波洗浄による光学部品の洗浄ムラの発生を抑制することができるようにする。
【解決手段】洗浄装置1を、被洗浄物Wを洗浄する洗浄液3が貯留された洗浄槽2と、超音波振動子4aおよび超音波振動子4aによる超音波振動を伝達してホーン先端面4cから放射するホーン4bを有し、洗浄液3に挿入されたホーン先端面4cの前方に超音波振動によるキャビテーションを生成するキャビテーション生成部4と、を備え、キャビテーション生成部4によって生成されたキャビテーションを被洗浄物Wに当てて洗浄を行う構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、光学部品の製造工程等で用いられる光学部品の洗浄装置において、洗浄槽内に洗浄液を満たして、洗浄する光学部品を浸漬し、洗浄液を超音波加振する洗浄装置が知られている。
このような洗浄装置では、洗浄槽内に超音波振動の定在波が形成されるため波長の2分の1おきに超音波振動が激しくなる領域が形成される。すなわち、超音波振動の強度が洗浄槽内で分布を持つことになり、洗浄槽内に汚れがよく落ちる領域とよく落ちない領域とができてしまう。このため、洗浄槽内における超音波振動の強度分布を改善する洗浄装置や洗浄方法が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、機械装置や治具等の精密加工された部品の精密洗浄を行う技術分野において、超音波を洗浄槽の底部のみならず、側部からも照射する洗浄方法および洗浄装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−271729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の光学部品の洗浄装置には上記のように洗浄槽内の場所によっては汚れが落ちにくくなるという問題があった。
例えば、特許文献1に記載の技術を用いて超音波を側部から照射することも考えられるが、特許文献1は、「洗浄槽3のサイズによっては超音波の共振周波数を変えてキャビテーションがより強力になるようにすることが可能であり」と記載されていることから分かるように、洗浄槽のサイズに応じた共振周波数の超音波を照射することで、洗浄槽内に定在波を形成する方法である。
つまり特許文献1に記載の技術によれば、従来、底部から超音波を照射することで、底部から上面に向かう高さ方向の特定の領域(2分の1波長ピッチの領域)のみにキャビテーションが発生していたところ、側部にも超音波を照射することにより水平方向の特定の領域にもキャビテーションを発生させることができる。このため、底部のみから超音波を照射する場合に比べると汚れが落ちる領域を増やすことができる。
しかし、このように超音波照射方向を増やすと、振動の重ね合わせによって定在波の分布が変化し、より多くの領域でキャビテーションを発生させることはできるものの、定在波の重ね合わせを用いる限り、洗浄槽内の超音波振動の強度分布を均一にすることはできない。したがって、洗浄槽内にはキャビテーションの発生しない領域が残り、このような領域に配置された被洗浄物は汚れが落ちにくくなるという問題がある。
また、超音波の照射方向を増やして定在波の分布を変える場合、振動の激しい領域が増えると同時に細分化されるため、複雑な分布になる。このため、キャビテーションの発生する領域に被洗浄物を確実に配置することはむずかしくなってしまうという問題がある。また、大型のレンズなどの光学部品では、キャビテーションが発生する複数の領域にまたがってレンズ面が配置されるおそれがあり、この場合、レンズ面内の洗浄ムラが残ってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、超音波洗浄による光学部品の洗浄ムラの発生を抑制することができる光学部品の洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の光学部品の洗浄装置は、光学部品を洗浄する洗浄液が貯留された洗浄槽と、超音波振動子および該超音波振動子による超音波振動を伝達して端部から放射する振動伝達部材を有し、前記洗浄液に挿入された前記振動伝達部材の端部の前方に前記超音波振動によるキャビテーションを生成するキャビテーション生成部と、を備え、該キャビテーション生成部によって生成された前記キャビテーションを前記光学部品に当てて洗浄を行う構成とする。
【0007】
また、本発明の光学部品の洗浄装置では、前記キャビテーション生成部を移動して、前記光学部品を前記キャビテーションに当てる移動機構を備えることが可能である。
【0008】
また、本発明の光学部品の洗浄装置では、前記洗浄液を前記洗浄槽の外部に吸引して、前記洗浄槽内に前記キャビテーション生成部からの前記超音波振動の放射方向に沿う流れを形成する洗浄液吸引部と、該洗浄液吸引部によって吸引された前記洗浄液を浄化して、前記洗浄槽に戻す洗浄液浄化部と、を備えることが可能である。
【0009】
また、本発明の光学部品の洗浄装置では、前記放射方向は、鉛直下向きとされ、前記洗浄液吸引部は、前記キャビテーション生成部の下方側に設けられ、前記洗浄液浄化部は、前記浄化後の洗浄液を、前記振動伝達部材の前記端部よりも上方に戻すことが可能である。
【0010】
また、本発明の光学部品の洗浄装置では、前記キャビテーション生成部は、2つ以上の周波数の超音波振動を伝達できるようにしたことが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学部品の洗浄装置によれば、洗浄液に挿入された振動伝達部材の端部に超音波振動を伝達して、この端部の前方に超音波振動によるキャビテーションを生成し、このキャビテーションを光学部品に当てて洗浄するため、超音波洗浄による光学部品の洗浄ムラの発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る光学部品の洗浄装置の鉛直方向に沿う模式的な断面図である。
【図2】図1におけるA視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光学部品の洗浄装置に用いるキャビテーション形成部の模式的な動作説明図である。
【図4】本発明の実施形態の変形例に係る光学部品の洗浄装置の鉛直方向に沿う模式的な断面図である。
【図5】図4におけるB視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では本発明の実施形態に係る光学部品の洗浄装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る光学部品の洗浄装置の鉛直方向に沿う模式的な断面図である。図2は、図1におけるA視図である。
【0014】
本実施形態の洗浄装置1(光学部品の洗浄装置)は、図1、2に示すように、被洗浄物Wを洗浄液3に浸漬して洗浄液3中で超音波洗浄を行うものである。
被洗浄物Wとしては、適宜の光学部品を採用することができる。光学部品の例としては、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、フィルタ等の光学素子や、ピンホール板、絞り、間隔環、光学素子を保持する鏡枠、鏡筒、ホルダ等の光学系や光学ユニットにおいて光学素子と組み合わせて用いる部材などの例を挙げることができる。
このような被洗浄物Wは、小型のものが多いため、複数のものを治具に保持した状態で洗浄液3中に浸漬する場合が多い。
以下では、一例として、被洗浄物Wがレンズ等の円板状の複数の光学部品であり、これら光学部品を、側壁部が網状で上部に開口を有する籠状に形成され、底部に被洗浄物Wを載置するため格子状の保持部11aが設けられた保持治具11に保持して洗浄を行う場合の例で説明する。具体的には、被洗浄物Wは、保持治具11の保持部11a上に3行3列の格子状に配列されている(図2参照)。なお、以下では、図2に示す被洗浄物Wの配列において、図示横方向の並びおよび並び方向を、行および行方向と称し、図示縦方向の並びおよび並び方向を、列および列方向と称する。
【0015】
洗浄装置1の概略構成は、洗浄槽2、吸引管路8A、循環ポンプ9、供給管路8B、キャビテーション生成部4、取付台6、および移動ステージ7(移動機構)を備える。
【0016】
洗浄槽2は、被洗浄物Wを洗浄する洗浄液3を貯留するもので、本実施形態では、一例として、上側に保持治具11が出し入れ可能な大きさの開口を有する洗浄槽上部2Aと、洗浄槽上部2Aの底面部を構成する洗浄槽下部2Bとを備える容器からなる。
洗浄槽上部2Aの内壁面2aによって形成される開口の形状は、本実施形態では、平面視矩形状とされている。また、内壁面2a上側には、洗浄液3を洗浄槽2内に供給するための供給口8aが設けられている。
洗浄槽下部2Bは、洗浄槽上部2Aの下端部から下方側にすぼまるように傾斜して設けられた底面2bと、洗浄液3を吸引するため底面2bの下端の中心部に設けられた吸引口2cとを備える。
【0017】
このような洗浄槽2において、洗浄液3は、その液面3aが、供給口8aを超える高さまで満たされている。
洗浄液3としては、被洗浄物Wを洗浄できる適宜の液体、例えば、水、有機溶剤、またはこれらに洗剤を溶解した溶液等を採用することができる。
【0018】
また、図示は省略するが、洗浄槽2の内部には、保持治具11を洗浄槽上部2A内の定位置に支持する支持する支持枠が設けられている。
【0019】
吸引管路8Aは、洗浄槽2内の洗浄液3を吸引口2cから洗浄槽2の外部に吸引するため、吸引口2cに接続された管路である。
吸引管路8Aの吸引口2cと反対側の端部には、洗浄液3を吸引管路8A内に吸引するため、例えば、空圧駆動のダイヤフラム方式の循環ポンプ9が接続されている。
供給管路8Bは、循環ポンプ9によって吸水された洗浄液3を、浄化した後に供給口8aを通して洗浄槽2内に戻すための管路であり、一端が循環ポンプ9の排水側に、他端が供給口8aに接続されている。
供給管路8Bの中間部には、供給管路8Bを流れる洗浄液3の汚れ成分、例えば、微粒子、異物などを除去する濾過フィルタ部10が設けられている。
【0020】
キャビテーション生成部4は、被洗浄物Wに当てるキャビテーションを洗浄液3内に生成するもので、超音波振動子4a、ホーン4b、および超音波発振器4dを備える。本実施形態では、キャビテーション生成部4は、被洗浄物Wが3列に配列されていることに対応して、同様な構成を有する3個のものが設置されている。
【0021】
超音波振動子4aは、超音波振動を発生するものであれば、適宜の超音波振動子を採用することができる。例えば、圧電セラミックスに高周波電圧を印加することで超音波振動を発生する構成を採用することができる。
また、超音波振動子4aは、後述する取付台6に保持するため、例えば円筒状の保護カバーに覆われており、この保護カバーの内部に振動出力面を有する圧電セラミックス等の振動子本体が収容されている。
【0022】
ホーン4bは、基端部から先端部に向けて漸次縮径する円錐台状の形状を有する金属部材であり、基端部が超音波振動子4aの振動子本体の一端部に連結されている。このため、超音波振動子4aによって振動子本体に超音波振動が発生すると、振動出力面に連結されたホーン4bの基端部から先端部に向かって超音波が伝播する。その際、ホーン4bの断面積が基端部から先端部に向かって縮小されているため、超音波振動は徐々に増幅されて最先端のホーン先端面4c(振動伝達部材の端部)に到達する。
【0023】
超音波発振器4dは、超音波振動子4aを振動させるため、周波数を調整した高周波電圧を出力する装置部である。本実施形態では、超音波振動子4aと離間した適宜位置に配置され、配線4eによって超音波振動子4aと電気的に接続されている。
また、超音波発振器4dは、例えば、被洗浄物Wの汚れの種類、汚れの程度、汚れ成分の粒径等に応じて、より効率的な洗浄が行えるように、電圧の大きさや発振周波数を変更できるようになっている。発振周波数は、複数の周波数から選択できるようになっていてもよいし、適宜の周波数幅の範囲で掃引できるようになっていてもよい。
本実施形態では、超音波発振器4dは、超音波振動子4aごとに設けられているため、各超音波振動子4aの振動出力および周波数はそれぞれ独立に設定できるようになっている。
なお、振動出力は出力の停止も可能である。このため、例えば、保持治具11上に被洗浄物Wを間引いて配置している場合などに、被洗浄物Wが配置されていない位置では、超音波振動子4aの出力を停止することができる。
【0024】
取付台6は、ホーン4bのホーン先端面4cが鉛直下向きになる状態で、各超音波振動子4aを水平方向に離間して保持する部材であり、本実施形態では、水平方向に延びる平板形状を有している。取付台6は、一端部が移動ステージ7によって支持され、これにより、洗浄槽2の上方の一定高さの位置に配置されている。
各超音波振動子4aは、超音波振動が取付台6に伝わらないように、保護カバーの部分で取付台6に保持されている。
各超音波振動子4aの保持位置は、水平方向では、保持された超音波振動子4aの配列ピッチが被洗浄物Wの3列の配列ピッチに一致するように保持位置が設定されている。
また、鉛直方向では、各ホーン先端面4cは同一高さに整列されている。
超音波振動子4aの保持位置は調整可能にしてもよい。この場合、配列ピッチが異なる保持治具11にも対応できるため好都合である。
【0025】
移動ステージ7は、取付台6を洗浄槽2の上方で少なくとも水平方向に移動させる移動機構であり、例えば、ねじ送り機構、リニアモータなどの移動機構を採用することができる。本実施形態では、取付台6に保持された超音波振動子4aおよびホーン4bを保持治具11上の被洗浄物Wの列方向に沿う水平方向に移動できるようになっている。
また、本実施形態の場合、移動ステージ7は、取付台6を鉛直方向に昇降させる移動機構も有している。このため、各ホーン先端面4cと、保持治具11上に保持された被洗浄物Wとの間の鉛直方向の距離が可変できるようになっており、ホーン4bを液面3aに対して進退させることも可能である。
【0026】
次に、洗浄装置1の作用について、洗浄槽2の動作とともに説明する。
図3(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る光学部品の洗浄装置に用いるキャビテーション形成部の模式的な動作説明図である。
【0027】
洗浄装置1によって、被洗浄物Wを洗浄するには、まず、洗浄槽2内に、液面3aが供給口8aを超える高さまで洗浄液3を満たす。
また、循環ポンプ9を駆動して、吸引管路8Aおよび供給管路8B内で、洗浄液3が洗浄槽上部2Aの上部から吸引口2cに向かう鉛直下向きの流れが形成される。この流れは、洗浄を行う間、継続させる。
このように洗浄液3の循環を行うことにより、吸引口2cから吸引された洗浄液3は供給管路8Bの濾過フィルタ部10によって濾過される。すなわち、被洗浄物Wを洗浄することによって洗浄液3内に混入する汚れ成分等は、濾過フィルタ部10により除去され、供給口8aからは常に清浄な洗浄液3が洗浄槽2内に戻される。
【0028】
次に、被洗浄物Wが保持された保持治具11を洗浄槽2の開口から挿入し、供給口8aよりも低い洗浄槽上部2A内の定位置に配置して洗浄液3に浸漬する。このとき、取付台6は、図2に実線で示すように、保持治具11の挿入の妨げにならない位置に退避されている。
【0029】
次に、移動ステージ7を駆動して、ホーン4bを洗浄液3内に挿入して、図1に示すように、被洗浄物Wの洗浄を行うために予め設定された鉛直方向の位置にホーン先端面4cを位置合わせする。そして、移動ステージ7を駆動して、各ホーン先端面4cが、被洗浄物Wの上方に位置にするように取付台6を水平方向に移動する。
【0030】
次に、超音波発振器4dから各超音波振動子4aに高周波電圧を印加する。
これにより超音波振動子4aに超音波発振器4dの発振周波数に対応した超音波振動が発生する。超音波振動は、超音波振動子4aの振動出力面を介してホーン4bに伝播し、ホーン4bで増幅されてからホーン先端面4cに到達し、ホーン先端面4cから洗浄液3内に伝播される。
ホーン先端面4cから伝播される超音波振動は、ホーン先端面4cが超音波の進行方向に直交する平面であるため、ホーン先端面4cの法線に沿った進行波、すなわち、本実施形態では、鉛直下向きの進行波として放射される。
このとき、超音波発振器4dの出力を適宜調整することで、洗浄液3内の振動による密度変化によって、キャビテーションが発生し、図3(a)に示すように、ホーン先端面4cの近傍にキャビテーション領域Cが形成される。
【0031】
キャビテーションは、高速の流れや振動により圧力の粗密が生じる流体において、圧力の低い部分が気化して、非常に短い時間に蒸気の気泡が生まれ、また非常に短時間でつぶれて消滅する現象である。キャビテーションが被洗浄物Wに当たると、気泡がつぶれて破壊する際に発生するエネルギーによって、被洗浄物Wの表面に付着する微粒子や異物を被洗浄物Wから剥離し、被洗浄物Wの表面から除去することができる。
【0032】
さらに、超音波振動が継続されると、ホーン先端面4cでは、周囲から流入する洗浄液3によって非常に短時間のうちに、次々とキャビテーションが生成され、図3(b)に示すように、後から発生したキャビテーション領域C、…、Cが、キャビテーション領域Cを前方(鉛直下方)に押し出して行く。
【0033】
最先端のキャビテーション領域Cは、ある程度の距離まで押し出されると、超音波振動の強度が減衰するため消滅する。この結果、ホーン先端面4cの前方には、超音波発振器4dの出力に応じた一定の領域にキャビテーションが密集するキャビテーション領域Cが形成される。
超音波発振器4dの出力は、このような減衰を考慮し、キャビテーション領域Cが、保持治具11上の被洗浄物Wを覆うことができる範囲に形成されるように調整しておく。
本実施形態では、循環ポンプ9によって、洗浄槽上部2Aから洗浄槽下部2Bに向かう洗浄液3の流れが形成されているため、キャビテーションが流れに沿って搬送されるとともに、ホーン先端面4cの近傍にキャビテーションが未形成の洗浄液3が次々に供給されるため、キャビテーション領域Cが成長しやすくなっている。
【0034】
このため、ホーン先端面4cが被洗浄物Wの上方に位置していると、図1に示すように、各ホーン先端面4cの前方に形成されるキャビテーション領域Cによって各被洗浄物Wが覆われる。
このようにして、キャビテーション領域C内に生じているキャビテーションが被洗浄物Wの表面に当てられる。キャビテーションが当たると、キャビテーションが有するエネルギーによって、被洗浄物Wの表面に付着している微粒子や異物が被洗浄物Wの表面から離間するため、被洗浄物Wの表面が効率的に洗浄される。
なお、図3(b)は模式化しているため、キャビテーション領域C内で層状にキャビテーション領域C、…、Cが発生するかのように図示しているが、キャビテーション領域Cでは、ホーン先端面4cで生成され、キャビテーション領域Cの先端で消滅するキャビテーションの流れが発生している。
このため、定在波によって一定の位置に生じるキャビテーションとは異なり、本実施形態では、キャビテーションが被洗浄物Wの全体に当たりさえすれば、被洗浄物W内で洗浄ムラが生じるおそれはない。
【0035】
キャビテーションに当たって、被洗浄物Wから離間した汚れ成分は、洗浄液3の流れおよび重力によって、下方に移動していく。
洗浄槽下部2Bは、下方側にすぼまる形状に傾斜されているため、洗浄液3の流速が吸引口2cに向かって加速される。このため、底面2bに落下した微粒子や異物は、底面2bに堆積したり、底面2bで跳ね返って上方に戻ったりすることなく、円滑に吸引口2cに移動して吸引管路8Aに吸引される。
【0036】
吸引管路8Aに吸引された洗浄液3は、濾過フィルタ部10によって濾過されて清浄化されてから、供給口8aを通して、洗浄槽上部2Aに戻される。このよう清浄化された洗浄液3が被洗浄物Wの上方に供給されることで、清浄な洗浄液3によってキャビテーション領域Cが形成されるため、上記と同様にして、洗浄を繰り返すことが可能となる。
【0037】
このように、吸引管路8Aおよび循環ポンプ9は、洗浄液3を洗浄槽2の外部に吸引して、洗浄槽2内にキャビテーション生成部4からの超音波振動の放射方向に沿う流れを形成する洗浄液吸引部20を構成している。
また、濾過フィルタ部10および供給管路8Bは、洗浄液吸引部20によって吸引された洗浄液3を浄化して、洗浄槽2に戻す洗浄液浄化部22を構成している。
【0038】
このようにして、行方向に配列された被洗浄物Wがそれぞれ充分に洗浄されたら、移動ステージ7によって取付台6を移動し、各ホーン先端面4cを隣の行に配列された被洗浄物Wの上方に配置して、同様に洗浄を続ける。
すべての被洗浄物Wの洗浄が終了したら、取付台6を保持治具11の上方から退避させ、保持治具11を引き上げて、被洗浄物Wを洗浄槽2の外部に取り出す。
以上で、洗浄装置1による被洗浄物Wの洗浄が終了する。
【0039】
本実施形態の洗浄装置1によれば、洗浄液3に挿入されたホーン4bの端部のホーン先端面4cに超音波振動を伝達して、ホーン先端面4cの前方に放射されたキャビテーションを生成し、このキャビテーションを被洗浄物Wに当てて洗浄するため、定在波を用いてキャビテーションを発生させる超音波洗浄に比べて、超音波洗浄による被洗浄物Wの洗浄ムラの発生を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態では、有機溶剤系の洗浄液3も好適に用いることができる。
一般的に有機溶剤系の洗浄液中では超音波の伝播が弱まると言われている。このため、従来の定在波によってキャビテーションを発生させる超音波洗浄では、超音波の伝播を強めるためには低い周波数を用いる必要があったが、周波数が低いと微粒子の除去効果が低下するという問題があった。この場合、超音波の出力を大きくして、除去効果を高めることも考えられるが、超音波振動子の電力消費量が多くなり、超音波振動子の寿命も短くなってしまうという問題があった。
これに対して、本実施形態では、ホーン先端面4cの近傍のみでキャビテーションを発生させればよく、洗浄槽2の全体に分布する定在波を発生させなくてもよい。このため、有機溶剤系の洗浄液3を用いても、従来に比べて低出力で洗浄に必要なキャビテーションを形成することができる。
【0041】
また、本実施形態では、洗浄液3を循環濾過するため、洗浄液3の消費量を抑えつつ、被洗浄物Wの洗浄効果を維持することができる。
従来の定在波によってキャビテーションを発生させる超音波洗浄では、循環濾過により洗浄液が掻き乱されたり液面が波打つ状態になると、洗浄液中での超音波の伝播が乱れるため、洗浄液の濾過を行わないようにしたり、濾過するとしても循環による洗浄液の流速を抑制したり、供給口の近傍に遮蔽板等を配置して流れを遮ったりする必要があった。このため、洗浄液の濾過量が充分でなくなったり、濾過された洗浄液を洗浄物の近傍に効率的に供給できなかったりするという問題があった。
これに対して、本実施形態では、定在波を形成することなくキャビテーションを生成するため、濾過循環による洗浄液3の流れを抑制する必要がない。このため、充分な濾過量が得られ、濾過した洗浄液3を被洗浄物Wの近傍に効率よく供給することができる。
【0042】
[変形例]
次に、本実施形態の変形例に係る光学部品の洗浄装置について説明する。
図4は、本発明の実施形態の変形例に係る光学部品の洗浄装置の鉛直方向に沿う模式的な断面図である。図5は、図4におけるB視図である。
【0043】
本変形例の洗浄装置12(光学部品の洗浄装置)は、図4、5に示すように、上記実施形態の洗浄装置1のキャビテーション生成部4のうちの2個を削除して1個とし、上記実施形態の取付台6、移動ステージ7に代えて、保持アーム16、昇降ステージ17A(移動機構)、水平移動ステージ17B(移動機構)を備える。
また、被洗浄物Wは、上記実施形態と同様に保持治具11に3行3列で配列した例を図示しているが、本変形例は、被洗浄物Wの配列はこれに限らず適宜の配列を採用することができる。また、被洗浄物Wとして、キャビテーション領域Cが覆うことができない大型の被洗浄物Wを採用してもよい。
以下、上記実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0044】
保持アーム16は、ホーン4bのホーン先端面4cが鉛直下向きになる状態で超音波振動子4aを保持するための部材であり、本実施形態では、水平方向に延びる棒状とされている。保持アーム16は、先端部が超音波振動子4aの保護カバーを保持し、基端部が昇降ステージ17Aによって支持されている。
昇降ステージ17Aは、保持アーム16を鉛直方向に移動させる移動機構であり水平移動ステージ17Bによって水平面内において移動可能に支持されている。昇降ステージ17Aの構成としては、例えば、ねじ送り機構、リニアモータなどの移動機構を採用することができる。
水平移動ステージ17Bは、昇降ステージ17Aを水平方向の2軸方向に移動させる移動機構である。水平移動ステージ17Bの構成としては、昇降ステージ17Aと同様の1軸移動機構を組み合わせた2軸移動機構を採用することができる。
【0045】
このような構成により、本変形例の超音波振動子4aおよびホーン4bは、鉛直方向および水平面内の3軸方向に移動可能に保持されている。このため、ホーン先端面4cの位置を、3軸方向の適宜の位置に移動することができる。
これにより、本変形例では、上記実施形態と同様にして、洗浄液3を濾過しつつ循環させた状態で、洗浄液3内の適宜の位置にホーン先端面4cを移動させ、ホーン先端面4cの前方にキャビテーション領域Cを形成することができる。
この結果、図4に示すように、保持治具11に保持された任意の被洗浄物Wにキャビテーション領域Cの位置を合わせて、被洗浄物Wを洗浄することができる。
したがって、本変形例では、保持治具11における被洗浄物Wの配列が格子状でない場合にも、正確に被洗浄物Wの上方にホーン先端面4cを配置することができ、効率的な洗浄を行うことができる。
また、被洗浄物Wがキャビテーション領域Cからはみ出る大きさである場合に、被洗浄物Wの配置領域の範囲でホーン先端面4cを移動させることにより、キャビテーション領域Cを移動させて、被洗浄物Wの全体を洗浄することができる。
また、ホーン先端面4cは、被洗浄物Wの上方で水平方向や鉛直方向に往復揺動させることもできる。この場合、被洗浄物Wとキャビテーション領域Cとが相対移動するため、キャビテーションの当たり方を変化させることができる。この結果、より効率的に洗浄を行うことができる。
【0046】
なお、上記の実施形態の説明では、移動ステージ7が鉛直方向にも移動可能な場合の例で説明したが、保持治具11上の被洗浄物Wの鉛直方向の位置がキャビテーション生成部4が生成するキャビテーション領域と重なる範囲に限定されていれば、ホーン先端面4cの鉛直方向の位置を変えなくてもよいため、鉛直方向の移動機構は削除してもよい。
さらに、洗浄する被洗浄物Wの配置や最大個数が固定されている場合には、キャビテーション生成部4を最大個数分だけ用意して、各被洗浄物Wの配置位置の上方の一定位置に設けておくだけでもよい。この場合には、キャビテーション生成部4の移動機構は削除することができる。
【0047】
また、上記の実施形態および変形例の説明では、吸引管路8Aと、供給管路8Bとが連結されており、洗浄液3にキャビテーションを放射する方向に沿う流れを形成するとともに、洗浄液3を洗浄槽2内で循環して使用する構成の例で説明したが、洗浄の規模や洗浄の程度に応じて、洗浄の支障にならない場合には、洗浄液3の流れを形成しない構成や、洗浄液3を循環使用しない構成も採用することができる。
例えば、被洗浄物Wの汚れが軽度である場合や被洗浄物Wの総数が少ない場合などに用いる場合には、吸引管路8A、供給管路8Bを削除した構成としてもよい。
また、例えば、吸引管路8Aで吸引された洗浄液3は、いったん外部のタンク等に排出して、浄化設備で浄化処理を行って再使用または廃棄できるようにし、供給管路8Bからは、未使用の洗浄液3を供給する構成としてもよい。
【0048】
また、上記の実施形態で説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0049】
1、12 洗浄装置(光学部品の洗浄装置)
2 洗浄槽
2A 洗浄槽上部
2B 洗浄槽下部
2b 底面
2c 吸引口
3 洗浄液
3a 液面
4 キャビテーション生成部
4a 超音波振動子
4b ホーン(振動伝達部材)
4c ホーン先端面(振動伝達部材の端部)
4d 超音波発振器
7 移動ステージ(移動機構)
8A 吸引管路
8B 供給管路
8a 供給口
9 循環ポンプ
10 濾過フィルタ部
11 保持治具
17A 昇降ステージ(移動機構)
17B 水平移動ステージ(移動機構)
20 洗浄液吸引部
22 洗浄液浄化部
C、C、C、C キャビテーション領域
W 被洗浄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品を洗浄する洗浄液が貯留された洗浄槽と、
超音波振動子および該超音波振動子による超音波振動を伝達して端部から放射する振動伝達部材を有し、前記洗浄液に挿入された前記振動伝達部材の端部の前方に前記超音波振動によるキャビテーションを生成するキャビテーション生成部と、
を備え、
該キャビテーション生成部によって生成された前記キャビテーションを前記光学部品に当てて洗浄を行う
ことを特徴とする、光学部品の洗浄装置。
【請求項2】
前記キャビテーション生成部を移動して、前記光学部品を前記キャビテーションに当てる移動機構を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品の洗浄装置。
【請求項3】
前記洗浄液を前記洗浄槽の外部に吸引して、前記洗浄槽内に前記キャビテーション生成部からの前記超音波振動の放射方向に沿う流れを形成する洗浄液吸引部と、
該洗浄液吸引部によって吸引された前記洗浄液を浄化して、前記洗浄槽に戻す洗浄液浄化部と、を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光学部品の洗浄装置。
【請求項4】
前記放射方向は、鉛直下向きとされ、
前記洗浄液吸引部は、前記キャビテーション生成部の下方側に設けられ、
前記洗浄液浄化部は、前記浄化後の洗浄液を、前記振動伝達部材の前記端部よりも上方に戻す
ことを特徴とする請求項3に記載の光学部品の洗浄装置。
【請求項5】
前記キャビテーション生成部は、2つ以上の周波数の超音波振動を伝達できるようにした
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学部品の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−200611(P2012−200611A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64249(P2011−64249)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】