説明

光学部品の製造方法及び光学部品

【課題】基板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)半透過反射面に酸化シリコン膜を均一に形成し得る光学部品の製造方法、並びにこの方法により製造された光学部品を提供する。
【解決手段】光透過性光学部品12を製造する方法であって、板状部材のシリコン領域11をエッチングして凹部を形成する第1のエッチング工程と、凹部の内側面を熱酸化させて酸化シリコン膜14を形成する熱酸化工程と、酸化シリコン膜14を覆う窒化シリコン膜16を形成する窒化膜形成工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の製造方法及び光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、MEMS技術を用いてSOI(Silicon On Insulator)基板上に干渉光学系を構成した光モジュールが開示されている。これらの干渉光学系は、ビームスプリッタと、静電アクチュエータに取り付けられた可動鏡と、固定鏡とを備えており、これらはSOI基板のシリコン層および絶縁層を任意の形状にエッチングすることにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−102132号公報
【特許文献2】特開2010−170029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
干渉光学系などを構成する光学部品において、シリコン基板やシリコン層をエッチングすることによって光透過面や半透過反射面(ハーフミラー)が形成されることがある。しかしながら、例えば波長1μm付近におけるシリコンの屈折率は約3.5なので、半透過反射面におけるフレネル反射による反射率は約30%となり、干渉光学系における理想的な値である50%には遠く及ばない。また、光透過面の透過率は約70%となり、光透過面においても光の損失が発生してしまう。特に、干渉光学系においては、シリコンの波長分散に起因して光の波長に応じた光路長の補正が必要となり、その補正のための光学部品が設置されるので、該光学部品の光透過面における損失が更に加わることとなる。
【0005】
上述した問題を解決するために、光透過面には反射防止膜が設けられることが好ましく、また、半透過反射面には半透過反射膜が設けられることが好ましい。反射防止膜は、例えば窒化シリコン膜によって好適に実現され、その膜厚によって透過率を適切な値に調整することができる。また、半透過反射膜は、例えば酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とを積層することによって好適に実現され、その膜厚によって反射率を適切な値に調整することができる。しかしながら、半透過反射面が基板面に対して大きく傾斜している場合や垂直に近い場合には、半透過反射面に対して酸化シリコン膜をCVD等により均一に形成することは困難であり、このような半透過反射面に酸化シリコン膜を均一に形成し得る方法が望まれる。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、基板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)半透過反射面に酸化シリコン膜を均一に形成し得る光学部品の製造方法、並びにこの方法により製造された光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明による光学部品の製造方法は、シリコン領域を含む板状部材のシリコン領域をエッチングして凹部を形成する第1のエッチング工程と、凹部の内側面を熱酸化させて酸化シリコン膜を形成する熱酸化工程と、酸化シリコン膜を覆う窒化シリコン膜を形成する窒化膜形成工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
この製造方法では、半透過反射面となる内側面を有する凹部をシリコン領域に形成したのち、この内側面を熱酸化させて酸化シリコン膜を形成している。このような方法によれば、内側面(半透過反射面)が基板面に対して大きく傾斜している(或いは垂直に近い)場合であっても、CVDを用いた場合と異なり酸化シリコン膜を当該内側面上に均一な厚さでもって形成することができる。そして、その酸化シリコン膜を覆うように窒化シリコン膜を形成することによって、半透過反射膜を内側面上に好適に形成することができる。
【0009】
また、光学部品の製造方法は、熱酸化工程と窒化膜形成工程との間に、酸化シリコン膜の不要な部分を除去する不要部分除去工程を更に含むことを特徴としてもよい。上記製造方法において、凹部の内側面の一部のみを半透過反射面として用いる場合には、上記製造方法が不要部分除去工程を更に含むことによって、酸化シリコン膜の不要部分を除去し、所望の光学部品を作製することができる。
【0010】
また、光学部品の製造方法は、第1のエッチング工程の前に、内側面の一部に沿ったパターンを有する第1のマスクをシリコン領域上に形成し、更に、凹部の平面形状に応じた開口を有する第2及び第3のマスクをシリコン領域上及び第1のマスク上に順次形成するマスク形成工程を更に含み、第1のエッチング工程において、第3のマスクを用いてシリコン領域に対しドライエッチングを行った後、第3のマスクを除去し、熱酸化工程において、第2のマスクを用いて凹部の内側面を熱酸化させた後、第2のマスクを除去し、熱酸化工程ののち、不要部分除去工程の前に、第1のマスクを用いてシリコン領域をエッチングすることを特徴としてもよい。或いは、光学部品の製造方法は、第1のエッチング工程の前に、内側面の一部に沿ったパターンを有する第1のマスクをシリコン領域上に形成し、更に、凹部の平面形状に応じた開口を有する第2のマスクをシリコン領域上及び第1のマスク上に順次形成するマスク形成工程を更に含み、第1のエッチング工程において、第2のマスクを用いてシリコン領域に対しウェットエッチングを行い、熱酸化工程において、第2のマスクを用いて凹部の内壁面を熱酸化させた後、第2のマスクを除去し、熱酸化工程ののち、不要部分除去工程の前に、第1のマスクを用いてシリコン領域をエッチングすることを特徴としてもよい。これらのうち何れかの製造方法によれば、前述した第1のエッチング工程及び熱酸化工程を好適に実施でき、且つ、半透過反射面を有する光学部品を所望の形状に成形することができる。
【0011】
また、光学部品の製造方法は、窒化膜形成工程において、減圧化学気相成長法を用いて窒化シリコン膜を形成することを特徴としてもよい。これにより、基板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)内側面上に窒化シリコン膜を均一に形成することができる。
【0012】
また、光学部品の製造方法は、第1のエッチング工程において、凹部の内側面を、板状部材の厚さ方向に沿って形成することを特徴としてもよい。上述した製造方法によれば、このように板状部材の板面に対して垂直に近い内側面に対しても、酸化シリコン膜を均一に形成することができる。なお、上述した製造方法では、第1のエッチング工程において、シリコン領域に対してウェットエッチングを行うことにより、凹部の内側面を、板状部材の厚さ方向に対し傾斜した方向に沿って形成してもよい。
【0013】
また、本発明による光学部品は、板状部材に含まれ、エッチングにより一側面が形成されたシリコン領域と、一側面を覆う酸化シリコン膜と、酸化シリコン膜を覆う窒化シリコン膜とを備え、酸化シリコン膜は、シリコン領域に形成された凹部の内側面が熱酸化されて形成されたことを特徴とする。この光学部品によれば、板状部材の板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)半透過反射面としての一側面上に酸化シリコン膜が均一に形成された光学部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による光学部品の製造方法及び光学部品によれば、基板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)半透過反射面に酸化シリコン膜を均一に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の板状部材の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示されたII−II線に沿った断面を示す図である。
【図3】第2の板状部材の外観を示す斜視図である。
【図4】図3に示されたIV−IV線に沿った断面を示す図である。
【図5】第1の板状部材と第2の板状部材とを互いに接合した状態を示す断面図である。
【図6】可動反射鏡を駆動する静電アクチュエータの外観を示す斜視図である。
【図7】光透過性光学部品及び光反射性光学部品によって構成されるマイケルソン干渉光学系を説明するための平面図である。
【図8】第1の板状部材の製造方法におけるマスク形成工程を示す図である。
【図9】第1の板状部材の製造方法におけるマスク形成工程を示す図である。
【図10】第1の板状部材の製造方法における第1のエッチング工程を示す図である。
【図11】第1の板状部材の製造方法における熱酸化工程を示す図である。
【図12】第1の板状部材の製造方法における熱酸化工程中の窒化膜除去を示す図である。
【図13】第1の板状部材の製造方法における第2のエッチング工程を示す図である。
【図14】第1の板状部材の製造方法における第3のエッチング工程を示す図である。
【図15】第1の板状部材の製造方法における窒化膜形成工程を示す図である。
【図16】第1の板状部材と第2の板状部材とを相互に貼り合わせる様子を模式的に示す斜視図である。
【図17】アライメントマークが一致するように第1及び第2の板状部材を位置合わせする様子を示す図である。
【図18】光透過性光学部品の一例として、干渉光学系等に用いられるビームスプリッタを模式的に示す平面図である。
【図19】波長分散を補償するための光学部材を有する干渉光学系の構成例を示す平面図である。
【図20】光透過面に形成される窒化シリコン膜の厚さを0.179μmとした場合における、各光透過面の光透過特性を示すグラフである。
【図21】半透過反射面に形成される酸化シリコン膜の厚さを0.24μmとし、その上に形成される窒化シリコン膜の厚さを0.179μmとした場合における、半透過反射面の光反射特性を示すグラフである。
【図22】一変形例として、二つの光透過性光学部品を備える干渉光学系を示す平面図である。
【図23】窒化シリコン膜の厚さを実施形態と同様とした場合における、光透過面の光透過特性を示すグラフである。
【図24】酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の厚さを実施形態と同様とした場合における、半透過反射面の光反射特性を示すグラフである。
【図25】第2変形例として、干渉光学系の構成を示す平面図である。
【図26】第3変形例に係る光透過性光学部品の構成を示す図である。
【図27】酸化シリコン膜の厚さを変化させたときの半透過反射膜の反射率の変化を示すグラフである。
【図28】第3変形例に係る光透過性光学部品を距離計測用ヘッドに応用した例を示す図である。
【図29】第4変形例に係る製造方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明による光学部品の製造方法及び光学部品の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
先ず、本発明の一実施形態に係る製造方法によって作製される光学部品を有する第1の板状部材について説明する。その後、該第1の板状部材とは別に作製される第2の板状部材について説明する。なお、第1及び第2の板状部材は、互いに張り合わされることにより、マイケルソン干渉光学系を内蔵する一つの光モジュールを構成する。
【0018】
図1及び図2は、第1の板状部材10を示す図である。図1は、第1の板状部材10の外観を示す斜視図であり、図2は、図1に示されたII−II線に沿った断面を示す図である。第1の板状部材10は、シリコン基板をエッチングすることによって作製された部材であり、主としてシリコンから成る。第1の板状部材10は、部品形成面10aと、部品形成面10aとは反対側の裏面10bとを有する。
【0019】
図1に示されるように、第1の板状部材10の部品形成面10a側には、光透過性光学部品12が形成されている。光透過性光学部品12は、シリコン基板を構成するシリコン領域11をエッチングすることにより形成された光学部品であって、所定波長の光を透過する。本実施形態の光透過性光学部品12は、略V字状といった平面形状を有しており、光学的に機能する4つの側面12a〜12dを有する。側面12aは半透過反射面(ハーフミラー)であり、使用波長範囲の光に対して例えば30%〜50%の反射率を有する。この半透過反射面は、マイケルソン干渉光学系においてビームスプリッタとして機能する。側面12b〜12dは光透過面であり、使用波長範囲の光に対して例えば90%〜99%の透過率を有する。
【0020】
図2に示されるように、光透過性光学部品12の側面12aは、シリコン領域11の側面上に形成された酸化シリコン膜14と、該酸化シリコン膜14上に形成された窒化シリコン膜16とから成る半透過反射膜13によって覆われている。側面12aにおける波長−反射特性は、酸化シリコン膜14及び窒化シリコン膜16それぞれの厚さに応じて変化する。また、光透過性光学部品12の側面12b〜12dは、シリコン領域11の側面上に形成された窒化シリコン膜16から成る反射防止膜(AR膜)にによって覆われている。側面12b〜12dにおける波長−反射特性は、窒化シリコン膜16の厚さに応じて変化する。なお、酸化シリコン膜14は、光透過性光学部品12の側面12aから光透過性光学部品12の周辺のシリコン領域11上にわたって形成されており、後述するように、シリコン領域11を熱酸化させて形成される。また、窒化シリコン膜16は、酸化シリコン膜14上および光透過性光学部品12の側面12b〜12d上を含むシリコン領域11上の全面にわたって形成されている。光透過性光学部品12の上面と窒化シリコン膜16との間には、酸化シリコン膜18が介在している。酸化シリコン膜18は、シリコン領域11をエッチングして光透過性光学部品12を形成する際に使用されたエッチングマスクである。
【0021】
第1の板状部材10の周縁部10cは、部品形成面10aに対して厚さ方向にやや突出しており、光透過性光学部品12を囲んでいる。周縁部10cには、後述する第2の板状部材との位置合わせ為の複数(本実施形態では二つ)のアライメントマーク17が形成されている。一実施例では、第1の板状部材10の一辺における周縁部10cに一つのアライメントマーク17が形成されており、第1の板状部材10の他の一辺(好適には、前記一辺と対向する辺)における周縁部10cに他の一つのアライメントマーク17が形成されている。これらのアライメントマーク17は、例えば十字状といった任意の平面形状を有しており、本実施形態では周縁部10cに形成された溝によって構成されている。
【0022】
図3及び図4は、第2の板状部材20を示す図である。図3は、第2の板状部材20の外観を示す斜視図であり、図4は、図3に示されたIV−IV線に沿った断面を示す図である。なお、図3には、第1の板状部材10と第2の板状部材20とが接合された状態における光透過性光学部品12の位置及び範囲が、一点鎖線で示されている。
【0023】
第2の板状部材20は、支持基板28上に絶縁層29及びシリコン層25が積層された、いわゆるシリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板のシリコン層25をエッチングすることによって作製された部材である。第2の板状部材20は、支持基板28が露出している主面20aと、主面20aとは反対側の裏面20bとを有する。図3に示されるように、第2の板状部材20の主面20a側には、入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24が形成されている。これらの鏡21〜24は、SOI基板のシリコン層25をエッチングすることにより形成された面上に金属膜26が成膜された光学部品であって、これらに到達した光を全反射する。なお、本実施形態では、金属膜26を蒸着する際の都合により、主面20a上にも金属膜26が形成されている。入射鏡21及び出射鏡24の各鏡面は、主面20aの法線方向に対して例えば45°といった角度で傾斜している。一方、固定反射鏡22及び可動反射鏡23の各鏡面は、主面20aの法線方向に沿っており、主面20aに対して略垂直に形成されている。入射鏡21は、主面20aの法線方向から第1の板状部材10を透過して入射した光を、光透過性光学部品12の半透過反射面である側面12aに向けて反射する。固定反射鏡22は、光透過性光学部品12の光透過面である側面12cから出射された光を、該側面12cへ向けて反射する。可動反射鏡23は、光透過性光学部品12の光透過面である側面12dから出射された光を、該側面12dへ向けて反射する。なお、可動反射鏡23は、後述する静電アクチュエータによって、入射する光の光軸に沿った方向に平行移動することができる。出射鏡24は、光透過性光学部品12の光透過面である側面12dから出射された光(干渉光)を、主面20aの法線方向に反射する。この干渉光は、第1の板状部材10を透過して光モジュールの外部へ出射される。
【0024】
第2の板状部材20の周縁部20cは、主面20aに対して厚さ方向に突出しており、光反射性光学部品である鏡21〜24を囲んでいる。周縁部10cには、前述した第1の板状部材10との位置合わせ為の複数(本実施形態では二つ)のアライメントマーク27が、第1の板状部材10のアライメントマーク17に対応する位置に形成されている。一実施例では、第2の板状部材20の一辺における周縁部20cに一つのアライメントマーク27が形成されており、第2の板状部材20の他の一辺(好適には、前記一辺と対向する辺)における周縁部20cに他の一つのアライメントマーク27が形成されている。これらのアライメントマーク27は、第1の板状部材10のアライメントマーク17と同様の平面形状を有しており、例えば周縁部20cに形成された溝によって構成される。
【0025】
図5は、第1の板状部材10と第2の板状部材20とを互いに接合した状態を示す断面図である。図5に示されるように、これらの板状部材10,20は、第1の板状部材10の光透過性光学部品12が形成された部品形成面10aと、第2の板状部材20の主面20aとが対向するように互いに接合される。このとき、光透過性光学部品12は、固定反射鏡22と出射鏡24との間に配置され、且つ、図3に示された入射鏡21と可動反射鏡23との間に配置される。また、このとき、光透過性光学部品12の上面に形成された窒化シリコン膜19と、第2の板状部材20の主面20a上に形成された金属膜26との間には、隙間が存在することが好ましい。
【0026】
ここで、図6は、可動反射鏡23を駆動する静電アクチュエータ30の外観を示す斜視図である。図6に示されるように、静電アクチュエータ30は、第2の板状部材20の主面20aに固定された第1電極31と、可動反射鏡23に固定された第2電極32とを有する。静電アクチュエータ30は、第1電極31と第2電極32との間に静電気力を発生させることにより、第2電極32を第1電極31に対して相対的に変位させるものである。
【0027】
第1電極31は、絶縁層29(図4を参照)を介して支持基板28に固定された固定部31aと、第2電極32と対向する固定部31aの側面に形成された櫛歯部31bとを有する。なお、櫛歯部31bは、該部分と支持基板28との間の絶縁層29が除去されたことにより、支持基板28に対して浮いた状態となっている。
【0028】
第2電極32は、可動反射鏡23と第1電極31との間に配置されている。第2電極32は、可動反射鏡23の鏡面に垂直な方向に延設されてその一端において可動反射鏡23を支持する支柱32aと、支柱32aの他端を支持する櫛歯部32bと、板ばねを連結した構造を有しており櫛歯部32bの両端を弾性的に支持する支持部32cとを有する。支柱32a、櫛歯部32b、及び支持部32cは、支持基板28との間の絶縁層29が除去されたことにより、支持基板28に対して浮いた状態となっている。また、支持部32cの一端は櫛歯部32bの端部を支持しており、支持部32cの他端は第2の板状部材20の周縁部20c(図3を参照)に固定されている。このような構成により、支柱32a及び櫛歯部32bは、可動反射鏡23の鏡面に垂直な方向に変位可能となっている。櫛歯部32bは第1電極31の櫛歯部31bと対向しており、櫛歯部32bの櫛歯は、櫛歯部31bの各櫛歯間に配置されている。
【0029】
第2電極32に所定の電圧が印加されると、櫛歯部32bと櫛歯部31bとの間に静電気力が働く。この静電気力は第2電極32に印加される電圧値によって定まるので、櫛歯部32bと櫛歯部31bとの間隔は、該電圧値によって制御される。すなわち、櫛歯部31b及び支柱32aによって支持された可動反射鏡23の鏡面に垂直な方向における位置は、第2電極32に印加される電圧によって制御される。
【0030】
図7は、上述した光透過性光学部品12、並びに光反射性光学部品(入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24)によって構成されるマイケルソン干渉光学系を説明するための平面図である。光モジュールの外部から第1の板状部材10を透過して被測定光Lが入射すると、入射鏡21は、部品形成面10a及び主面20aに沿った方向に被測定光Lを反射させる。被測定光Lは、光透過性光学部品12の側面12a(半透過反射面)に達する。被測定光Lのうち一部の被測定光Lは、側面12aにおいて反射し、光透過面である側面12bに入射し、光透過性光学部品12の内部を透過して光透過面である側面12cから出射する。側面12cから出射した被測定光Lは、固定反射鏡22において全反射したのち、上記と同じ光路を辿って側面12aに戻る。
【0031】
一方、被測定光Lのうち被測定光Lを除く残りの被測定光Lは、側面12aから光透過性光学部品12に入射する。この被測定光Lは、光透過性光学部品12の内部を透過して光透過面である側面12dから出射し、可動反射鏡23に到達する。そして、この被測定光Lは、可動反射鏡23において全反射したのち、上記と同じ光路を辿って側面12aに戻る。
【0032】
固定反射鏡22から側面12aに戻った被測定光Lと、可動反射鏡23から側面12aに戻った被測定光Lとは、側面12aにおいて互いに合波し、干渉光像Lとなる。干渉光像Lは、光透過性光学部品12の内部を透過して側面12dから出射し、出射鏡24に到達する。干渉光像Lは、出射鏡24において反射し、第1の板状部材10を透過して光モジュールの外部へ出射する。
【0033】
一実施例では、側面12aに対する被測定光Lの入射角、及び側面12bに対する被測定光Lの入射角は、共に45°に設定される。また、光透過性光学部品12の側面12aと側面12dとは互いに平行に設定され、側面12bと側面12cとは互いに平行に設定される。この場合、全ての側面12a〜12dにおいて、入射角及び出射角は全て45°となり、反射防止膜が同じ厚さであれば全て同一の透過特性が得られる。
【0034】
なお、被測定光L及びLそれぞれの光透過性光学部品12内での光路長が互いに等しくなるように光透過性光学部品12の形状を設計することによって、シリコン内部での波長分散による影響を効果的にキャンセルすることができる。また、干渉光学系全体における被測定光L及びLそれぞれの光路長を等しくするために、側面12aと側面12bとの間における被測定光Lの光路長、及び側面12cと固定反射鏡22との間における被測定光Lの光路長の和と、側面12dと可動反射鏡23との間における被測定光Lの光路長とは互いに等しいことが好ましい。
【0035】
続いて、本実施形態に係る光モジュールの製造方法について説明する。図8〜図15は、第1の板状部材10の製造方法における各工程を示す図であって、(a)は光透過性光学部品12に相当する領域の平面図であり、(b)は(a)に示されたB−B線に沿った断面を示す図である。
【0036】
<マスク形成工程>
まず、図8に示されるように、シリコン領域11を含む板状部材を準備する。このような板状部材としては、シリコン基板や、支持基板上に絶縁層およびシリコン層が積層されたSOI基板等が好適である。そして、シリコン領域11上に、酸化シリコン膜18を形成する。この酸化シリコン膜18は、本実施形態における第1のマスクであって、側面12a〜12dを有する光透過性光学部品12の平面形状に応じたパターン、すなわち側面12a〜12dに沿ったパターンを有する。このような酸化シリコン膜18は、後述する熱酸化工程において高温に曝されることを考慮し、例えば熱酸化や熱CVDによってシリコン領域11上の全面に酸化シリコン膜を形成したのち、通常のフォトリソグラフィ技術を用いて好適に形成される。
【0037】
次に、図9に示されるように、シリコン領域11上の全面を覆うように窒化シリコン膜41(第2のマスク)を形成する。窒化シリコン膜41は、後述する熱酸化工程において高温に曝されることを考慮し、例えば高温処理の減圧化学気相成長法(LP−CVD;Low Pressure-Chemical Vapor Deposition)によって好適に形成される。このとき、酸化シリコン膜18も窒化シリコン膜41によって覆われる。そして、図10に示されるように、開口42aを有するレジストマスク42(第3のマスク)を窒化シリコン膜41上に形成する。開口42aは、後の工程において形成されるシリコン領域11の凹部の平面形状に応じた形状を有しており、シリコン領域11の厚さ方向から見て酸化シリコン膜18と重ならないように、酸化シリコン膜18に隣接して形成される。開口42aの平面形状は例えば四角形状であり、その一辺は、酸化シリコン膜18の一辺(光透過性光学部品12の側面12aに対応する辺)18aに重なっている。そして、このレジストマスク42をエッチングマスクとして用い、窒化シリコン膜41のエッチングを行うことにより、窒化シリコン膜41に開口を形成する。
【0038】
<第1のエッチング工程>
続いて、レジストマスク42をエッチングマスクとして用い、シリコン領域11に対してドライエッチングを行う。これにより、シリコン領域11に凹部11aが形成され、同時に、凹部11aの内側面の一部として光透過性光学部品12の側面12aが形成される。なお、シリコン領域11を含む板状部材としてSOI基板を使用した場合には、絶縁層がエッチング停止層として機能するので、エッチング深さをより高精度に制御することができる。また、この工程では、ドライエッチングの方法として、例えばボッシュプロセスを用いた深堀りRIE(反応性イオンエッチング)法などを用いるとよい。この工程ののち、レジストマスク42を除去する。
【0039】
この第1のエッチング工程では、シリコン領域11に対して例えばアルカリ性エッチャントを用いたウェットエッチングを行ってもよい。そのような場合でも、エッチングにより形成される凹部11aの側面をシリコン領域11の結晶面に一致させるなどの方法によって、シリコン領域11の厚さ方向に沿った(板面に対して垂直な)凹部11aの側面を好適に形成することができる。このような結晶面としては、例えば(100)面や(111)面が好適である。なお、このようにウェットエッチングによって凹部11aを形成する場合には、エッチング前にレジストマスク42を除去し、窒化シリコン膜41をエッチングマスクとして用いても良い。
【0040】
<熱酸化工程>
続いて、図11に示されるように、凹部11aの内面(内側面および底面)を熱酸化させることにより、酸化シリコン膜14を形成する。このとき、凹部11aの内面を除くシリコン領域11の表面は窒化シリコン膜41によって覆われているので、凹部11aの内面のみ熱酸化される。また、本工程では、熱酸化により形成される酸化シリコン膜14の膜厚を、完成後の光モジュールにおける酸化シリコン膜14の膜厚の2倍程度(例えば0.48μm)にしておくとよい。この工程ののち、例えば150℃〜170℃に加熱した熱リン酸液を用いて窒化シリコン膜41を除去する(図12)。熱リン酸液を用いることによって、酸化シリコン膜14及び18を残したまま窒化シリコン膜41のみを好適に除去できる。
【0041】
<第2のエッチング工程>
続いて、図13に示されるように、酸化シリコン膜18をエッチングマスクとして用い、シリコン領域11を再びエッチングすることにより、側面12aとは別の側面12b〜12dをシリコン領域11に形成する。これにより、光透過性光学部品12が形成される。なお、本工程でのエッチング方法としては、ドライエッチングおよびアルカリウェットエッチングの何れでもよい。
【0042】
<不要部分除去工程>
続いて、酸化シリコン膜14のうち不要な部分14a(図13を参照)を除去するため、例えば希フッ酸を用いたエッチングを行う。このとき、酸化シリコン膜14のうちシリコン領域11に沿っていない部分14aは、希フッ酸によって内外面の双方からエッチングされるので、シリコン領域11に沿った他の部分と比較して約2倍の速さでエッチングされる。したがって、該部分14aが完全に除去されたタイミングにおいて、他の部分(特に側面12a上の部分)は膜厚の半分程度しかエッチングされない。このような工程により、図14に示されるように、酸化シリコン膜14の不要な部分14aが除去され、酸化シリコン膜14の他の部分は残存することとなる。熱酸化により形成された直後の酸化シリコン膜14の厚さが0.48μmである場合、本工程後における酸化シリコン膜14の厚さは0.24μmである。この厚さによって半透過反射膜13の反射率が変化するので、本工程における酸化シリコン膜14の減厚分を考慮して上述した熱酸化工程を行うことが望ましい。
【0043】
なお、上述した工程では酸化シリコン膜14の不要な部分14aをエッチングによって除去したが、該部分14aの厚さによっては、ウェット処理の際の水圧によって該部分14aを折ることにより除去してもよい。
【0044】
<窒化膜形成工程>
続いて、図15に示されるように、シリコン領域11上の全面に、窒化シリコン膜16を形成する。この工程では、側面12a上の酸化シリコン膜14、および他の側面12b〜12dを少なくとも覆うように窒化シリコン膜16を形成する。これにより、反射防止膜としての窒化シリコン膜16が側面12b〜12dに形成され、同時に、半透過反射膜13の一部を構成する窒化シリコン膜16が酸化シリコン膜14上に形成される。なお、この工程では、酸化シリコン膜14上および側面12b〜12d上に窒化シリコン膜16を均一に形成する為に、高温処理の減圧化学気相成長法(LP−CVD)を用いて窒化シリコン膜16を形成することが好ましい。
【0045】
以上に説明した方法によって、第1の板状部材10が好適に作製される。一方、第2の板状部材20のうち静電アクチュエータ30以外の部分は、例えば次のようにして作製される。まず、SOI基板を準備する。このSOI基板のシリコン層の表面上に、酸化シリコン膜を形成する。次に、この酸化シリコン膜をエッチングすることにより、入射鏡21の傾斜した鏡面に対応する開口と、出射鏡24の傾斜した鏡面に対応する開口とを形成する。そして、SOI基板のシリコン層上の全域にわたって、窒化シリコン膜を形成する。この窒化シリコン膜をエッチングすることにより、入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24にそれぞれ対応する開口を形成する。
【0046】
続いて、窒化シリコン膜及び酸化シリコン膜を介して、シリコン層に対しドライエッチングを施す。このとき、SOI基板の絶縁層が露出するまでシリコン層をエッチングする。これにより、シリコン層において、入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24が形成される。そして、シリコン層の露出した側面を酸化シリコン膜によって保護したのち、窒化シリコン膜を除去する。このとき、例えば熱リン酸等を用いて酸化シリコン膜を残しつつ選択的に窒化シリコン膜をエッチングする。これにより、入射鏡21及び出射鏡24の傾斜した鏡面に対応する酸化シリコン膜の開口が再び現れ、当該部分のシリコン層が露出することとなる。その後、露出したシリコン層に対してウェットエッチングを施す。このとき、例えばアルカリエッチングによりシリコン層の露出部分を異方性エッチングする。これにより、入射鏡21及び出射鏡24の傾斜した鏡面がシリコン層に形成される。
【0047】
続いて、酸化シリコン膜を除去し、入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24の各鏡面上に金属膜26を形成する。まず、SOI基板の部品形成面を覆うようにシャドウマスクを配置する。このシャドウマスクには、入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24のそれぞれにおいて鏡面となる部分を全て含むような一つの大きな開口が形成されている。そして、このシャドウマスクを介して金属材料を物理蒸着することにより、上記各鏡面上に金属膜26を形成する。このとき、金属膜26の形成方法としては、エネルギーの高いスパッタ方式の他、抵抗蒸着やEB蒸着が好適である。こうして、第2の板状部材20が好適に作製される。
【0048】
図16は、第1の板状部材10と第2の板状部材20とを相互に貼り合わせる様子を模式的に示す斜視図である。この工程では、部品形成面10aと主面20aとが対向するように、且つ、第1の板状部材10の光透過性光学部品12と、第2の板状部材20の入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24とが図7に示された位置関係となるように、第1及び第2の板状部材10,20を相互に貼り合わせる。このとき、第1の板状部材10の周縁部10c、及び、第2の板状部材20の周縁部20cのそれぞれにアライメントマーク17,27を形成し、図17に示されるように、これらのアライメントマーク17,27が一致するように第1及び第2の板状部材10,20を位置合わせした後に、周縁部10c,20cを互いに接合するとよい。また、第1及び第2の板状部材10,20の接合方法としては、直接接合させる方法、半田を介して接合させる方法、或いは樹脂を介して接合させる方法などが好適である。
【0049】
以上に説明した、本実施形態に係る光学部品の製造方法による効果について、MEMS技術を用いた一般的な光学部品が抱える課題とともに説明する。
【0050】
MEMS技術によれば、半導体フォトリソグラフィ技術を用いた微細且つ高精度な加工が可能であり、光を波として処理するような光干渉計や回折格子等を構成する光学部品を好適に作製することができる。特に、シリコン基板やSOI基板を用いたMEMS加工では、シリコンが適度な弾性を有することから、機械的特性が良く信頼性が高いセンサやアクチュエータを作製することができ、また、シリコン結晶の異方性を利用した斜面の形成や、ボッシュプロセスなどを用いた深いトレンチの形成が可能である。このため、MEMS技術は、加速度センサ、圧力センサ、プロジェクタの画素ミラー(デジタルミラーデバイス等)、FTIR(Fourier TranformInfrared Spectrometer)分光器の為の光干渉計などを製造する為に利用される。特に、光干渉計については幅広い応用が可能であり、FTIRだけでなく、OCT(Optical Coherent Tomography)や、膜厚測定、表面粗さ測定などへの応用が可能であり、且つ、これらの計測器を小型に構成することができる。しかしながら、シリコン基板等にMEMS加工を行って種々の光学部品を作製する場合、以下に説明するような課題が存在する。
【0051】
図18は、光学部品の一例として、干渉光学系等に用いられるビームスプリッタ100を模式的に示す平面図である。このビームスプリッタ100は、半透過反射面101、光反射面103、及び光透過面104を有する。ここで、例えば波長1μm帯でのシリコンの屈折率は約3.5なので、シリコン表面におけるフレネル反射の反射率は約30%となる。すなわち、半透過反射面101に到達した光Laの30%は、半透過反射面101において反射する。なお、この反射した光Laは、図示しない可動反射鏡によって反射されて半透過反射面101へ戻り、そのうち70%が半透過反射面101を透過して光透過面104に到達する。また、光Laのうち残りの70%(La)は、半透過反射面101からビームスプリッタ100に入射し、光反射面103で反射したのち、半透過反射面101に戻る。半透過反射面101に戻った光Laの30%が半透過反射面101において再び反射し、光透過面104に到達する。そして、光透過面104に到達した光La及びLaの各70%が、光透過面104からビームスプリッタ100の外部へ出射する。
【0052】
しかしながら、図18に示されたビームスプリッタ100の半透過反射面101における反射率(30%)は、光干渉計としては理想的な値ではない。光干渉計において、最終的に取り出される干渉光の振幅Aは、半透過反射面101における反射率をrとすると、次の数式(1)によって表される。
【数1】


この数式(1)によれば、rが0.5(すなわち反射率50%)であるときに振幅Aが最大値(0.5)となる。これに対し、rが0.3(すなわち反射率30%)であるときには、Aは0.41となり、光利用効率が20%程度小さくなる。更に、ビームスプリッタ100から光La及びLaが出射する際にも30%の損失が生じるので、最終的な光利用効率は、41%×70%=28.7%にまで小さくなる。なお、この計算では光反射面103における反射率を100%としているが、光反射面103に金属膜を製膜できない場合には、光利用効率は更に低くなる。
【0053】
このような光利用効率の低さは、シリコンの波長分散に対する補償によって更に顕著となる。シリコンからなる光透過性光学部品の内部を透過する光の光路長は、その光の波長によって異なる。例えば、光透過性光学部品を透過する光の波長が1μm〜1.7μmの範囲内である場合、シリコンからなる光透過性光学部品の屈折率は、3.5±0.04程度の範囲内で波長に応じて変化する。ここで、図18に示されたビームスプリッタ100を例にとって説明する。光La〜Laのビーム幅を150μmと仮定すると、光La及びLaが光反射面103に遮られることなく光透過面104に向けて進む為には、半透過反射面101と光反射面103との間の光路の長さが少なくとも360μm程度必要となる。そして、光Laはこの光路を往復するので、その間の光Laの伝搬距離は720μm程度となる。結局、上記波長範囲において、720μm×±0.04=±29μm、すなわち光Laの波長毎の等価光路長に最大58μmのズレが生じてしまい、干渉光像を劣化させてしまう。なお、複素フーリエ変換を使用すれば、位相のずれ(光路長のずれと等価である)を算出できるが、アポタイジング補正等の必要性が増し、分解能劣化に繋がる為、好ましくない。
【0054】
このような理由から、波長分散を補償するための光学部材が設けられる。図19は、波長分散を補償するための光学部材を有する干渉光学系の構成例を示す平面図である。図19に示されるように、この干渉光学系120は、ビームスプリッタ121と、固定反射鏡122と、固定反射鏡122の前に設けられたシリコン製の波長分散補償部材123と、可動反射鏡124とを備えている。ビームスプリッタ121の一側面121aは光分岐面として利用され、別の側面121bは光透過面として利用される。このビームスプリッタ121の側面121aに光Lbが入射すると、この光Lbの一部(30%)であるLbは側面121aにて反射し、波長分散補償部材123の側面123aを通って固定反射鏡122に達する。この光Lbは、固定反射鏡122において反射し、波長分散補償部材123の側面123aを再び通って側面121aに戻る。一方、光Lbの他の一部(70%)であるLbは側面121aを透過し、側面121bから出射して可動反射鏡124に達する。この光Lbは、可動反射鏡124において反射し、側面121bを再び通って側面121aに戻る。側面121aに戻った光Lb及びLbは、側面121bから外部へ向けて出射する。
【0055】
図19に示された干渉光学系120によれば、光Lbの光路長と、光Lbの光路長とを等しくすることによって、上述した波長分散を補償することが可能となる。しかしながら、このように波長分散補償の為の光学部材(波長分散補償部材123)を設けると、光が通過する光透過面の数が増し、それらの光透過面を通過する毎に損失が発生するので、光利用効率は更に低下してしまう。例えば、図19に示された干渉光学系120では、光利用効率は
【数2】


となってしまう。
【0056】
以上に述べたような課題は、光透過面に反射防止膜(ARコート)を設け、光分岐面に半透過反射膜を設けることによって軽減される。例えば、図19に示された干渉光学系120の側面121b及び123aに反射率5%の反射防止膜を形成し、側面121aに反射率50%の半透過反射膜を形成した場合、光利用効率は次のように大幅に改善される。
【数3】


反射防止膜は、例えば窒化シリコン膜を、CVD等を用いて光透過面上に製膜することによって作製される。また、半透過反射膜は、例えば酸化シリコン膜と窒化シリコン膜とを、CVD等を用いて光分岐面上に積層することによって作製される。しかしながら、MEMS技術によってこのような干渉光学系を作製する場合、シリコン基板やSOI基板をエッチングして形成された側面上に反射防止膜や半透過反射膜を製膜することとなる。側面が基板面に対して大きく傾斜している場合や垂直に近い場合には、該側面に対して酸化シリコン膜をCVD等により均一に形成することは困難である。
【0057】
以上に述べた課題に対し、本実施形態による光学部品の製造方法では、半透過反射面12aとなる内側面を有する凹部11aをシリコン領域11に形成したのち、この内側面を熱酸化させて酸化シリコン膜14を形成している。このような方法によれば、内側面(半透過反射面12a)が基板面に対して大きく傾斜している(或いは垂直に近い)場合であっても、CVDを用いた場合と異なり酸化シリコン膜14を当該内側面上に均一な厚さでもって形成することができる。そして、その酸化シリコン膜14を覆うように窒化シリコン膜16を形成することによって、半透過反射膜13を内側面上に好適に形成することができる。また、本実施形態による光学部品の製造方法では、光透過性光学部品12の側面12b〜12dのそれぞれに、反射防止膜としての窒化シリコン膜16を好適に形成することができる。
【0058】
ここで、半透過反射膜13及び反射防止膜(窒化シリコン膜16)を設けることによる効果について、更に詳細に説明する。図20は、側面12b〜12dに形成される窒化シリコン膜16(屈折率1.9)の厚さを0.179μmとした場合における、各側面12b〜12dの光透過特性を示すグラフである。なお、図20において、横軸は波長(単位μm)を示し、縦軸は透過率(%)を示している。また、図中において、グラフG11はP偏光に対する光透過特性を示しており、グラフG12はS偏光に対する光透過特性を示しており、グラフG13はP偏光とS偏光とが均等に含まれる光に対する光透過特性を示している。
【0059】
また、図21は、側面12aに形成される酸化シリコン膜14(屈折率1.5)の厚さを0.24μmとし、その上に形成される窒化シリコン膜16(屈折率1.9)の厚さを0.179μmとした場合における、側面12aの光反射特性を示すグラフである。なお、図21において、横軸は波長(単位μm)を示し、縦軸は反射率(%)を示している。また、図中において、グラフG21はP偏光に対する光反射特性を示しており、グラフG22はS偏光に対する光反射特性を示しており、グラフG23はP偏光とS偏光とが均等に含まれる光に対する光反射特性を示している。
【0060】
なお、本実施形態では、各側面12b〜12dに対する入射角が45°と大きいので、図20及び図21に示されるように、光透過面(側面12b〜12d)における透過率や半透過反射面(側面12a)における反射率は、被測定光の偏光の向きに依存する。なお、分光器等において被測定光がコヒーレントでない場合には、P偏光とS偏光とが混在すると考えられるので、図8のグラフG13に示される光透過特性、及び図9のグラフG23に示される光反射特性が本来の特性に最も近いと考えられる。
【0061】
いま、比較のため、光透過性光学部品12の側面12a〜12d上に半透過反射膜13や反射防止膜(窒化シリコン膜16)が形成されていない場合を考える。この場合、側面12aの反射率は30%となり、側面12b〜12dの透過率は70%となる。したがって、光学干渉系から出力される干渉光Lの振幅は、
【数4】


となり、極めて低い値となる。
【0062】
これに対し、本実施形態では、側面12a〜12d上に半透過反射膜13または反射防止膜(窒化シリコン膜16)が形成されている。したがって、被測定光の波長が1μmまたは1.7μm(すなわち、図20及び図21において透過率及び反射率がそれぞれ最も低い波長)である場合であっても、光学干渉系から出力される干渉光Lの振幅は、
【数5】


となり、上述した比較例と較べて光利用効率が大幅に改善される。また、被測定光の波長が1.2〜1.3μm(すなわち、図20及び図21において透過率及び反射率が高い波長範囲)である場合には、干渉光Lの振幅は、
【数6】


となり、光利用効率は更に改善される。したがって、用途に応じて被測定光の波長範囲を狭めることが可能な場合には、光利用効率をより高めることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、波長分散を補償するために、被測定光Lが透過するための部分を光透過性光学部品12が有しているが、このような波長分散の補償のための構成を省くことも可能である。例えば、レーザ光といった単色光を用いる用途では、波長分散の補償は不要なので、光透過性光学部品12の側面12b及び12cを省略することができる。したがって、そのような場合には側面12b及び12cにおける反射に起因する損失を更に低減することができる。
【0064】
また、本実施形態では、固定反射鏡22が光透過性光学部品12とは別に形成されているが、固定反射鏡22に代えて、反射鏡となる金属膜を光透過性光学部品12の側面12c上に形成してもよい。これにより、被測定光Lが側面12cを透過することによる損失をなくすことができ、光利用効率を更に向上することができる。なお、このような金属膜は、例えばハードマスクを用いて側面12c上のみに好適に形成される。また、この場合、側面12cの向きを、側面12bに対して平行ではなく、被測定光Lの光軸に対して垂直となるように設定するとよい。
【0065】
また、本実施形態では、光透過性光学部品12と静電アクチュエータ30とが、それぞれ別の板状部材10,20に形成されている。したがって、これらをそれぞれの板状部材10,20に形成する際、例えば不純物濃度といった基板の特性を、各光学部品に最適な特性に合わせることができる。例えば、光透過性光学部品12が形成される第1の板状部材10のシリコン領域11には不純物を添加せずに光の吸収を抑制し、また静電アクチュエータ30が形成される第2の板状部材20のシリコン層25には、適量の不純物を添加して良好な導電性を確保し、可動反射鏡23を駆動する静電アクチュエータ30といった導電性部品の電気的特性を良好にできる。
【0066】
また、本実施形態のように、酸化シリコン膜14の不要な部分14aを除去する不要部分除去工程を、熱酸化工程と窒化膜形成工程との間に更に行うことが好ましい。本実施形態のように、凹部11aの内側面の一部のみを半透過反射面12aとして用いる場合には、このような不要部分除去工程を更に行うことによって、酸化シリコン膜14の不要部分14aを除去し、所望の形状の光透過性光学部品12を作製することができる。
【0067】
また、本実施形態のように、窒化膜形成工程では、LP−CVDを用いて窒化シリコン膜16を形成することが好ましい。これにより、基板面に対して大きく傾斜した(或いは垂直に近い)半透過反射面12a上に、窒化シリコン膜16を均一に形成することができる。
【0068】
また、本実施形態では、第1の板状部材10の周縁部10cが部品形成面10aに対して厚さ方向にやや突出しており、また、第2の板状部材20の周縁部20cが、主面20aに対して厚さ方向に突出している。周縁部10c及び20cの形態はこれに限られるものではなく、例えば、周縁部10c及び20cのうち一方が突出しておらず、他方が大きく突出することによりこれらが互いに接するような形態であってもよい。特に、本実施形態のように第2の板状部材20がSOI基板から作製される場合には、絶縁層29をエッチングしてこれを除去することにより、周縁部20cにおいて支持基板28を露出させ、露出した支持基板28と第1の板状部材10の周縁部10cとを相互に接合することが好ましい。また、この場合、第1の板状部材10の光透過性光学部品12の上面を少しエッチングして周縁部10cの上面より低くしておくことにより、光透過性光学部品12と第2の板状部材20との接触を回避することが好ましい。
【0069】
(第1の変形例)
上記実施形態では、光透過性光学部品12の側面12a〜12dを一つの部材に形成しているが、光透過性光学部品の半透過反射面および光透過面は、別個の部品に形成されてもよい。図22は、上記実施形態の一変形例として、光透過性光学部品12に代わる二つの光透過性光学部品51及び52を備える干渉光学系を示す平面図である。この干渉光学系では、一方の光透過性光学部品51が、半透過反射面としての側面51aと、光透過面としての側面51bとを有する。また、他方の光透過性光学部品52は、光透過面としての側面52a及び52bを有する。
【0070】
この干渉光学系の外部から入射した被測定光Lは、光透過性光学部品51の側面51a(半透過反射面)に達する。被測定光Lのうち一部の被測定光Lは、側面51aにおいて反射し、光透過面である側面52aに入射し、光透過性光学部品52の内部を透過して光透過面である側面52bから出射する。側面52bから出射した被測定光Lは、固定反射鏡22において全反射したのち、上記と同じ光路を辿って側面51aに戻る。
【0071】
一方、被測定光Lのうち被測定光Lを除く残りの被測定光Lは、側面51aから光透過性光学部品51に入射する。この被測定光Lは、光透過性光学部品51の内部を透過して光透過面である側面51bから出射し、可動反射鏡23に到達する。そして、この被測定光Lは、可動反射鏡23において全反射したのち、上記と同じ光路を辿って側面51aに戻る。
【0072】
固定反射鏡22から側面51aに戻った被測定光Lと、可動反射鏡23から側面51aに戻った被測定光Lとは、側面51aにおいて互いに合波し、干渉光像Lとなる。干渉光像Lは、光透過性光学部品51の内部を透過して側面51bから干渉光学系の外部へ出射する。
【0073】
これらの光透過性光学部品51及び52は、上記実施形態の図8〜図15に示された方法と同様の方法によって好適に作製される。したがって、光透過性光学部品51及び52は、板状部材を介して一体となっており、且つ、一つのエッチングマスクを用いて同時に形成されるので、これらの所望の相対的位置関係を高い精度で且つ容易に実現することができる。なお、上記実施形態と同様に、被測定光の波長分散を補償する必要がない場合には、光透過性光学部品52の設置を省略することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、光透過性光学部品12の各側面12a〜12dにおける入射角または出射角を45°としているが、光透過性光学部品の各側面における入射角や出射角は、全反射臨界角より小さい範囲であれば任意の角度に設定可能である。例えば、本変形例では、側面51aに対する被測定光Lの入射角、及び側面52aに対する被測定光Lの入射角は、共に30°に設定されている。また、光透過性光学部品51の側面51aと側面51bとは互いに平行に設定され、光透過性光学部品52の側面52aと側面52bとは互いに平行に設定されている。この場合、全ての側面51a,51b,52a及び52bにおいて、入射角及び出射角は全て30°となり、45°に設定された上記実施形態と比較して偏光依存性を小さくすることができる。なお、図23は、窒化シリコン膜の厚さを上記実施形態と同様とした場合における、各側面51b,52a及び52bの光透過特性を示すグラフである。図中において、グラフG31〜G33は、それぞれP偏光、S偏光、及びP偏光とS偏光とが均等に含まれる光に対する光透過特性を示している。また、図24は、酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の厚さを上記実施形態と同様とした場合における、側面51aの光反射特性を示すグラフである。図中において、グラフG51〜G43は、それぞれP偏光、S偏光、及びP偏光とS偏光とが均等に含まれる光に対する光反射特性を示している。図23及び図24に示されるように、光透過性光学部品に対する入射角や出射角が上記実施形態より小さい場合、最終的な光利用効率は、上記実施形態と比較してそれほど大きな違いはないが、偏光依存性は小さくなっていることがわかる。
【0075】
なお、本変形例においても、固定反射鏡22に代えて、反射鏡となる金属膜を光透過性光学部品52の側面52b上に形成してもよい。これにより、被測定光Lが側面52bを透過することによる損失をなくすことができ、光利用効率を更に向上することができる。この場合、側面52bの向きを、側面52aに対して平行ではなく、被測定光Lの光軸に対して垂直となるように設定するとよい。
【0076】
(第2の変形例)
図25は、上記実施形態の第2変形例として、干渉光学系の構成を示す平面図である。本変形例に係る干渉光学系は、第1変形例と同様に、二つの光透過性光学部品53及び54を備えている。この干渉光学系の外部から入射した被測定光Lは、光透過性光学部品53の側面53a(半透過反射面)に達する。被測定光Lのうち一部の被測定光Lは、側面53aにおいて反射して側面54aに入射し、光透過性光学部品54の内部を透過して側面54bから出射する。被測定光Lは、固定反射鏡22において全反射したのち、側面53aに戻る。一方、被測定光Lのうち被測定光Lを除く残りの被測定光Lは、側面53aから光透過性光学部品53に入射する。この被測定光Lは、光透過性光学部品53の内部を透過して側面53bから出射し、可動反射鏡23において全反射したのち、側面53aに戻る。固定反射鏡22から側面53aに戻った被測定光Lと、可動反射鏡23から側面53aに戻った被測定光Lとは、側面53aにおいて互いに合波し、干渉光像Lとなる。干渉光像Lは、光透過性光学部品53の内部を透過して側面53bから干渉光学系の外部へ出射する。
【0077】
本変形例に係る干渉光学系において第1変形例と異なる点は、光透過性光学部品の光透過面の形状である。すなわち、本変形例では、光透過性光学部品53の側面53bおよび光透過性光学部品54の側面54bを凸状の曲面とし、これらの側面53b及び54bにレンズ効果を持たせることにより、被測定光L,L及び干渉光Lを集光している。
【0078】
基本的に、光干渉計では被測定光を平行光として伝搬することが望ましいが、被測定光を完全な平行光とすることは原理上難しい。したがって、実際には、被測定光の光路長の範囲内において被測定光の広がり角を許容し得る程度まで小さくすることによって、平行光と見なしている。しかしながら、平行光における被測定光の広がり角とビーム径とには相関があり、広がり角を小さくする為にはビーム径を大きくする必要があるが、MEMS技術によって作製される本実施形態のような干渉光学系では、シリコン領域11の厚さによって光透過面の大きさが限られるので、ビーム径の大きさが限られてしまう。
【0079】
このような課題に対し、本変形例では、側面53b及び54bにレンズ効果を持たせているので、側面53b,54bから出射する被測定光L,L及び干渉光Lの広がり角を小さくすることができる。したがって、側面53b,54bを十分に広くできない場合であっても、干渉光学系を好適に構成することができる。
【0080】
なお、必ずしも光透過性光学部品の側面(光透過面)をレンズ状に成形する必要はなく、固定反射鏡22や可動反射鏡23の光反射面をレンズ状に成形してもよい。但し、本変形例のように光透過性光学部品の側面をレンズ状とすることにより、固定反射鏡や可動反射鏡に向けて被測定光を集光することとなるので、光利用効率をより高めることができる。
【0081】
(第3の変形例)
上述した実施形態および各変形例では、光透過性光学部品の側面(半透過反射面および光透過面)が、板状部材の厚さ方向に沿って(換言すれば、部品形成面に対して垂直に)形成されているが、光透過性光学部品の半透過反射面などの側面は、板状部材の厚さ方向に対して傾斜した方向に沿って形成されてもよい。図26は、そのような側面を有する光透過性光学部品の一例を示す図である。図26(a)は、本変形例に係る光透過性光学部品60の平面図であり、図26(b)は、図26(a)のB−B線に沿った側断面図である。
【0082】
この光透過性光学部品60は、シリコン領域61を含む板状部材(例えばシリコン基板)の表面側に形成された2つの凹部62及び63を有する。凹部62の一側面62a上には金属膜64が形成されており、側面62aは光反射面として機能する。また、凹部62の別の側面62b上には酸化シリコン膜65が形成されており、更にその上に窒化シリコン膜66が形成されている。酸化シリコン膜65及び窒化シリコン膜66は半透過反射膜67を構成し、側面62bは半透過反射面として機能する。また、凹部63の一側面63a上には、反射防止膜としての窒化シリコン膜66が形成されている。この側面63aは、光透過面として機能する。なお、酸化シリコン膜65及び窒化シリコン膜66は、シリコン領域61の裏面上にも形成されている。
【0083】
側面62a,62b及び側面63aは、シリコン領域61の厚さ方向に対して、例えば45°といった所定角度だけ傾斜している。したがって、シリコン領域61の厚さ方向から半透過反射面である側面62bに入射する光の一部は、該方向と垂直な方向(板状部材の板面方向)に反射する。また、側面62bに入射する光の残りの部分は、側面62bを透過し、シリコン領域61の裏面において反射し、更に側面63aを透過したのち、該方向に出射する。
【0084】
このような光透過性光学部品60は、上述した第1実施形態の光透過性光学部品12と同様の方法によって好適に作製されるが、凹部の形成方法が少し異なる。すなわち、本変形例の光透過性光学部品60を製造する際には、凹部62及び63の平面形状に応じた開口を有する窒化シリコン製のエッチングマスクをシリコン領域61上に形成したのち、シリコン領域61に対してウェットエッチングを行う。このウェットエッチングは、例えばアルカリエッチャントを用いた結晶異方性エッチングである。具体的には、シリコン領域61の主面の法線方向が例えば<100>方向に沿っている場合、結晶方位を考慮してエッチングマスクの開口を形成し、KOH(水酸化カリウム)にIPA(イソプロピルアルコール)を混合したエッチング液を用いてシリコン領域61をエッチングすることにより、シリコン結晶の(110)面を利用した傾斜角45°の側面62a,62b及び側面63aが形成される。また、シリコン領域61の主面の法線方向が例えば<110>方向に沿っている場合には、KOH(水酸化カリウム)やTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などのエッチング液を用いてシリコン領域61をエッチングすることにより、シリコン結晶の(100)面を利用した傾斜角45°の側面62a,62b及び側面63aが形成される。
【0085】
光透過性光学部品60の製造方法の具体例について、以下に説明する。まず、凹部62及び63の内側面に沿ったパターン(すなわち、凹部62の平面形状に応じた開口)を有する酸化シリコン製の第1のマスクをシリコン領域61上に形成し、更に、凹部62の平面形状に応じた開口を有するとともに凹部63を覆う窒化シリコン製の第2のマスクを、シリコン領域61上及び第1のマスク上に形成する(マスク形成工程)。次に、シリコン領域61に対して上述したようなウェットエッチングを行うことにより、凹部62の傾斜した側面62a及び62bを形成する。
【0086】
続いて、凹部62の内面(側面および底面)に対して熱酸化を行うことにより、凹部62の側面62a及び62bを含む内面に酸化シリコン膜65を形成する(熱酸化工程)。その後、熱リン酸を用いて第2のマスクを除去したのち、露出した第1のマスクを用いてウェットエッチングを行うことにより、凹部63の傾斜した側面63aを形成する。なお、この例では、第1のマスクが酸化シリコンからなるので、エッチャントとしてはKOHよりもTMAHの方がエッチング選択比を高くできる(酸化シリコン膜に対するエッチングレートが遅い)。したがって、TMAHを用いて傾斜面(側面63a)を形成可能なように、シリコン領域61の主面の法線方向が<110>方向に沿っていることが好ましい。
【0087】
続いて、窒化シリコン膜66をシリコン領域61上の全面に形成する(窒化膜形成工程)。そして、スプレイレジストコータを用いた露光方法により、側面62a上の金属膜64および凹部62の周囲の配線パターン68を形成する。こうして、図26に示された光透過性光学部品60が好適に作製される。
【0088】
ここで、図27は、光透過面(側面63a)において反射率が最も小さくなるように窒化シリコン膜66の厚さを設定した場合において、側面62b上の酸化シリコン膜65の厚さを変化させたときの半透過反射膜67の反射率の変化を示すグラフである。図27に示されるように、窒化シリコン膜66の厚さを光透過面のために最適化した場合においても、酸化シリコン膜65の厚さを変化させることによって、半透過反射膜67の反射率を約50%から0%に近い範囲内で任意に設定できることがわかる。
【0089】
図28は、上述した光透過性光学部品60を距離計測用ヘッドに応用した例を示す図である。図28(a)は、本変形例に係る距離計測用ヘッド70の平面図であり、図28(b)は、図28(a)のB−B線に沿った側断面図である。
【0090】
この距離計測用ヘッド70は、上述した光透過性光学部品60に加えて、面発光レーザ素子(VCSEL)71といった発光素子と、フォトディテクタ(PD)72及び73といった二つの光検出素子とを備えている。面発光レーザ素子71は、光透過性光学部品60の側面62bを覆うように凹部62上に実装されており、1μm以上1.7μm以下の波長域に含まれるレーザ光Lcを側面62bに向けて出射する。このレーザ光Lcの一部Lcは側面62bにおいて反射し、側面62aへ向かう。光Lcは、側面62aにおいてシリコン領域61の厚さ方向に反射する。フォトディテクタ72は、光透過性光学部品60の側面62aを覆うように凹部62上に実装されており、側面62aにおいて反射した光Lcを受け、この光Lcの強度に応じた電気信号(参照信号)を生成する。
【0091】
また、レーザ光Lcの残りの部分Lcは、側面62bを透過してシリコン領域61に入射し、シリコン領域61の裏面において反射する。このとき、光Lcはシリコン領域61の裏面に対して全反射臨界角以上の角度で入射するので、シリコン領域61の裏面には金属膜等は特段必要ない。その後、光Lcは、側面63aを透過してシリコン領域61の厚さ方向に出射する。この光Lcは、距離計測用ヘッド70の外部へ出射して測距対象物に到達し、測距対象物において反射して距離計測用ヘッド70に戻る。フォトディテクタ73は、光透過性光学部品60の凹部62,63を除くシリコン領域61上に実装されており、距離計測用ヘッド70に戻った光Lcを受け、この光Lcの強度に応じた電気信号(距離信号)を生成する。
【0092】
なお、レーザ光Lcから分岐される2つの光Lc,Lcのうち、光Lcは距離計測用ヘッド70から測距対象物へ投射されるので、光Lcには光Lcより大きな強度が割り当てられることが好ましい。そのため、側面62bにおける反射率が5%ないし10%となるように酸化シリコン膜65の厚さを設定することが好ましい(図27)。また、側面63aから出射した後の光Lcの光路上には、レンズ付キャップ74が配置されることが好ましい。これにより、光Lcをより遠くの測距対象物まで到達させることができる。また、距離計測用ヘッド70に戻った光Lcを、フォトディテクタ73に向けて集光することができる。
【0093】
また、図28に示された例では、フォトディテクタ73として裏面入射型のものが用いられている。これにより、ボンディングワイヤを使用せずにフォトディテクタ73を実装することができるので、ウエハ段階での組立てが容易となり、量産性に適した距離計測用ヘッド70を提供できる。但し、フォトディテクタ73は表面入射型であっても良く、その場合、配線パターンとフォトディテクタ73の電極とがワイヤボンディングによって接続されると良い。
【0094】
また、距離計測用ヘッド70を製造する際、レンズ付キャップ74はウエハ段階で光透過性光学部品60に固定されることが好ましい。この場合、後述する第4変形例と同様の理由により、レンズ付キャップ74と光透過性光学部品60とのアライメントの精度を高めることができる。
【0095】
(第4の変形例)
上記実施形態では、光透過性光学部品12を有する第1の板状部材10と、固定反射鏡22や可動反射鏡23といった光反射性光学部品を有する第2の板状部材20とが互いに張り合わされることにより、干渉光学系が構成されている。そして、第1の板状部材10と第2の板状部材20とを接合する際に、第1の板状部材10のアライメントマーク17と、第2の板状部材20のアライメントマーク27とを用いて位置合わせしている。本変形例では、上記実施形態より更にアライメントの精度を高くすることが可能な方法について説明する。
【0096】
図29は、本変形例に係る製造方法について説明するための図である。上記実施形態では、アライメントマーク17,27を板状部材10,20の周縁部10c,20cに形成しているが、図29(a)に示されるように、複数の板状部材10,20を作製するために使用されるウエハ80,90の周縁部のそれぞれに、アライメントマーク87,97を形成してもよい。なお、図29(a)に示されるウエハ80は、シリコン領域をエッチングすることにより形成された光透過性光学部品12をそれぞれ有する複数の領域を含んでいる。また、ウエハ90は、光反射性光学部品(入射鏡21、固定反射鏡22、可動反射鏡23、及び出射鏡24)を主面90a側に有する複数の領域91を含んでいる。
【0097】
本変形例では、まず、図29(a)に示されるように、ウエハ80,90の周縁部のそれぞれに、ウエハ80,90の位置合わせの為の複数のアライメントマーク87,97を形成する。そして、図29(b)に示されるように、複数のアライメントマーク87,97の位置が互いに一致するように、ウエハ80の光透過性光学部品12が形成された部品形成面80aと、ウエハ90の主面90aとを対向させる。この状態で、ウエハ80,90を互いに接合する(図29(c))。その後、この接合後のウエハを所定の切断ライン81に沿って切断し、板状部材10,20に対応する領域を切り出すことによって(図29(d))、光モジュール99が作製される。
【0098】
通常、光学素子のアライメントでは、光学素子同士の平行な位置ずれよりも、相対角度のずれが大きな問題となる。複数の光学素子間をビームが伝搬する場合、ビーム径が広がらないように平行光を利用するので、光学素子同士の平行な位置ずれは大きな問題とならないことが多い。これに対し、相対角度のずれは、光学素子間の距離が長くなるほど大きな位置ずれを生じさせるので、光学素子の有効面からビームが外れてしまい、光利用効率が低下するおそれがある。
【0099】
本変形例では、ウエハ80,90の周縁部にアライメントマーク87,97を形成するので、複数のアライメントマーク同士の距離を極めて長くすることができる。したがって、フリップチップボンディングにおける接合精度(例えば10μm程度)が変わらない場合でも、第1の板状部材10と第2の板状部材20との相対角度のずれを顕著に低減することができる。例えば、6インチウエハを用いて、アライメントマーク87,97をそれぞれ130mm間隔で作成した場合、角度ずれはtan−1(0.02/130)=0.009°となり、殆ど無視できる大きさとなる。
【0100】
本発明による光学部品の製造方法および光学部品は、上述した実施形態及び各変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例では、本発明により製造される光学部品としてマイケルソン干渉光学系の一部品を例示したが、本発明は、干渉光学系に限らず、半透過反射面を有する様々な光学部品に適用可能である。
【符号の説明】
【0101】
10…第1の板状部材、10a…部品形成面、10c…周縁部、11…シリコン領域、12…光透過性光学部品、12a〜12d…側面、13…半透過反射膜、14…酸化シリコン膜、16,18…窒化シリコン膜、17,27…アライメントマーク、19…窒化シリコン膜、20…第2の板状部材、20a…主面、20c…周縁部、21…入射鏡、22…固定反射鏡、23…可動反射鏡、24…出射鏡、25…シリコン層、26…金属膜、28…支持基板、29…絶縁層、30…静電アクチュエータ、51〜54…光透過性光学部品、60…光透過性光学部品、61…シリコン領域、62,63…凹部、64…金属膜、65…酸化シリコン膜、66…窒化シリコン膜、67…半透過反射膜、68…配線パターン、70…距離計測用ヘッド、71…面発光レーザ素子、72,73…フォトディテクタ、74…レンズ付キャップ、80,90…ウエハ、87,97…アライメントマーク、99…光モジュール、L〜L…被測定光、L…干渉光像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン領域を含む板状部材の前記シリコン領域をエッチングして凹部を形成する第1のエッチング工程と、
前記凹部の内側面を熱酸化させて酸化シリコン膜を形成する熱酸化工程と、
前記酸化シリコン膜を覆う窒化シリコン膜を形成する窒化膜形成工程と
を含むことを特徴とする、光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記熱酸化工程と前記窒化膜形成工程との間に、前記酸化シリコン膜の不要な部分を除去する不要部分除去工程を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記第1のエッチング工程の前に、前記内側面の一部に沿ったパターンを有する第1のマスクを前記シリコン領域上に形成し、更に、前記凹部の平面形状に応じた開口を有する第2及び第3のマスクを前記シリコン領域上及び前記第1のマスク上に順次形成するマスク形成工程を更に含み、
前記第1のエッチング工程において、前記第3のマスクを用いて前記シリコン領域に対しドライエッチングを行った後、前記第3のマスクを除去し、
前記熱酸化工程において、前記第2のマスクを用いて前記凹部の前記内側面を熱酸化させた後、前記第2のマスクを除去し、
前記熱酸化工程ののち、前記不要部分除去工程の前に、前記第1のマスクを用いて前記シリコン領域をエッチングする
ことを特徴とする、請求項2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1のエッチング工程の前に、前記内側面の一部に沿ったパターンを有する第1のマスクを前記シリコン領域上に形成し、更に、前記凹部の平面形状に応じた開口を有する第2のマスクを前記シリコン領域上及び前記第1のマスク上に順次形成するマスク形成工程を更に含み、
前記第1のエッチング工程において、前記第2のマスクを用いて前記シリコン領域に対しウェットエッチングを行い、
前記熱酸化工程において、前記第2のマスクを用いて前記凹部の内壁面を熱酸化させた後、前記第2のマスクを除去し、
前記熱酸化工程ののち、前記不要部分除去工程の前に、前記第1のマスクを用いて前記シリコン領域をエッチングする
ことを特徴とする、請求項2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記窒化膜形成工程において、減圧化学気相成長法を用いて前記窒化シリコン膜を形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記第1のエッチング工程において、前記凹部の前記内側面を、前記板状部材の厚さ方向に沿って形成することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記第1のエッチング工程において、前記シリコン領域に対してウェットエッチングを行うことにより、前記凹部の前記内側面を、前記板状部材の厚さ方向に対し傾斜した方向に沿って形成することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
板状部材に含まれ、エッチングにより一側面が形成されたシリコン領域と、
前記一側面を覆う酸化シリコン膜と、
前記酸化シリコン膜を覆う窒化シリコン膜と
を備え、
前記酸化シリコン膜は、前記シリコン領域に形成された凹部の内側面が熱酸化されて形成されたことを特徴とする、光学部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−242450(P2012−242450A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109689(P2011−109689)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】