説明

光学部材、該光学部材の識別方法、識別情報再生装置及び真贋判定装置

【課題】一目では判別が困難である識別情報が強靭な形態で光学機能面へ付与された光学部材を提供する。
【解決手段】光を透過又は反射する機能を有する複数の斜面14,15を備える光学ユニット12が周期的に多数配列された光学部材10である。複数の斜面14,15のそれぞれには、面積が4μm以上0.04mm以下、深さまたは高さが1μm以上5μm以下の複数個の微小構造体1が配設されている。この微小構造体1が付与された斜面14,15に向けて光を照射して反射した反射光は、少なくとも1方向だけから光を当てて反射したそれぞれの反射光からだけでは識別用の情報としては機能せず、少なくとも2方向以上から光を照射したときに反射する各方向の反射光を読み取って演算処理することにより真贋を特定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ユニットが周期的に多数配列された光学部材、該光学部材の識別方法、識別情報再生装置及び真贋判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣、金券、クレジットカードなどには偽造防止方法として、磁気テープ、ICチップの埋め込み、ホログラムなど様々な手法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、光学用途に用いられる構造体(光学部材)のロット管理において、光学的機能の損失を最小限にするために、光学的に機能しない部分に視覚的に識別可能なマークを付与する構造が、従来より知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2では、光ディスクなどに対して、光学的機能の損失がないディスクの外周又は内周部にレーザーマーカなどでバーコードを刻印することによりロット管理が行なわれている。
【0004】
また、特許文献3には、光を透過又は反射する機能を有する複数の凹凸構造を備える光学部材において、凹凸構造としてのプリズムの頂部又は底部に、記号又は文字を識別するための微細構造をマトリックス状に配置する技術が開示されている。この特許文献3に記載の技術によれば、記号の大きさを、光学的影響を及ぼさない大きさまで小さくし、かつ非機能部分に配置することで、光学部材の一部又は全体に文字、記号等を付与することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−162795号公報
【特許文献2】特開2007−79318号公報
【特許文献3】特開2010−191093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のような偽造防止方法に用いられる磁気テープ、ICチップは広く普及しているが、強磁場にさらすと情報が消失してしまうという課題がある。また、ホログラム技術自体は偽造防止には有効であるが、ホログラムの作製工程が複雑なために安価には製造できないという課題に加え、一目で偽造防止技術としてホログラムを使っているということが分かってしまうという課題がある。
【0007】
また、特許文献2の技術のように、光学的機能の損失がない部位にレーザーマーカなどでバーコードを刻印する構造では、ディスク等の外周又は内周に光学的機能の損失がない部位を有する場合には有効に利用できるが、プリズムシートなどのような光学部材に適用するには課題がある。
【0008】
これは、このような光学部材では、光を透過又は反射する機能を有する複数の斜面を備える光学ユニットが周期的に多数配列された大面積のシート状又はフィルム状により提供され、必要により任意の面積に切断されて利用されるためである。光学機能面以外の部位へ識別すべき記号又は文字を付与する技術によれば、切断片の大きさや位置によっては、識別すべき記号又は文字が付与されない光学部材となる可能性がある。
【0009】
また、特許文献3の技術では、識別すべき記号または文字が凹凸構造としてのプリズムの頂部又は底部に微細構造体として付与されているので、任意の大きさや形状に切断して利用できるという利点に加えて、付与された情報が破損に対して強靭であるという特徴を備えているものの、付与された記号又は文字が一目で判別できてしまうという課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、一目では判別が困難である識別情報が強靭な形態で光学機能面へ付与された光学部材、該光学部材の識別方法、識別情報再生装置及び真贋判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意研究の結果、プリズムや多角錐のような光学ユニットの斜面角度が一定となっている斜面に、光学部材としての機能面には影響を及ぼさない範囲内の情報を微細構造体による情報として設け、この面で反射した反射光を読み取ることで識別情報が得られるのではないかと考えた。例えばベースとなる光学ユニットが2つの斜面を持つプリズムの場合では、埋め込む文字や画像などをドットで表現した情報を準備し、このドット情報を適宜に二分割し、二分割した情報をプリズムのそれぞれの斜面に配置する。完成した微細構造体が付与されたプリズムの一方の斜面に光を当てて得られた反射光と、もう一方の斜面に光を当てて得られた反射光とを読み取って、各反射光から読み取った各情報を例えば加算処理することで、埋め込まれている情報を再生する構成とする。なお、ベースとなる光学ユニットが四角錐の場合は、元となる情報をランダムに4分割したものを四角錐の4つの斜面に配置し、4方向の光によって反射した4つの反射光を読み取って、各反射光から読み取った各情報を例えば加算処理することで、埋め込まれている情報を再生することができる。
【0012】
このような構成によれば、埋め込まれている情報の分割数は、偽造防止効果を高める目的で、少なくとも2つ以上が好ましい。本発明に係るベースとなる光学ユニットを構成する凹凸構造は、埋め込む情報を読み取るために凹凸構造の斜面の反射を利用するため、プリズムや多角錘のように反射面が平滑な形状が好ましい。
【0013】
すなわち本発明は、光を透過または反射する機能を有する複数の斜面を備える光学ユニットが周期的に多数配列された光学部材であって、前記複数の斜面のそれぞれには、複数個の微小構造体が周期的または非周期的に配設され、前記微小構造体が付与された斜面に向けて光を照射して反射した反射光は、識別用の情報ではあるが、少なくとも1方向だけから光を当てて反射したそれぞれの反射光からだけでは識別用の情報としては機能せず、前記微小構造体が付与された斜面のそれぞれに対して少なくとも2方向以上から光を当てたときに反射するそれぞれの反射光を読み取って演算処理することにより真贋を特定できる識別情報としては識別できることを特徴とする光学部材である。
【0014】
ここで、真贋を特定できる識別情報とは、その情報が真贋であることを確認するための確認手段の一つである。また、前記微小構造体は、面積が4μm以上0.04mm以下、深さ又は高さが1μm以上5μm以下に形成して複数配置されている。
【0015】
また、本発明は、上記の光学部材を用いた識別方法であって、前記微小構造体が付与された斜面に少なくとも2方向以上から光を当てて反射した反射光の1つだけを読み取っても前記識別用情報が確認できず、前記微小構造体が付与された斜面のそれぞれに対して少なくとも2方向以上から光を当てたときに反射する各方向の反射光を読み取って演算処理することで前記識別用情報が確認できる場合は真正品であると真偽判定をすることを特徴とする識別方法である。
【0016】
本発明において、光を透過または反射する機能を有する複数の斜面構造を備える光学部材に対して、その斜面に、真贋識別用の情報を少なくとも2分割して付与することとしたが、これは偽造防止効果を高める目的であり、複数の情報に分割することで、視認性を落とすことができ当技術が使われていることを分かりにくくし、また情報の再生法を複雑にすることができる。
【0017】
また、本発明によれば、識別には斜面での光の反射を利用するため、斜面に対して情報用の微細構造体の面積が大きいと反射を妨げてしまうため、面積が4μm以上0.04mm以下、深さまたは高さが1μm以上5μm以下の微小構造体とした。このような微小構造体とすることにより、斜面に設けても光学部材としての機能低下が実質的に無いか、若しくは光学部材としての機能低下を極力抑えることが可能となる。
【0018】
ベースとなる構造体はプリズムや多角錘など斜面が平坦である構造がよく、斜面の数が多い程元の情報の分割数が多くなるため偽造防止効果は高まるが、プリズムのような2つの斜面を持つ構造でも十分効果を発現する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光学部材において、情報として斜面に埋め込まれる微細構造体とは、面積が4μm2以上0.04mm以下、深さ又は高さが1μm以上5μm以下の微小構造体である。この大きさの埋め込み情報は、光学部材としての機能面には影響を及ぼさない形態でプリズムなどの斜面に埋め込みができる情報である。更に、本発明においては、これらの微細構造体に基づく情報は、通常の視認方法により、視認はできるが、その情報を単独で分析しても、情報が分割されているので、識別用情報としては不完全であり、識別用情報を確認することはできない。微細構造体が付与されている複数の斜面に複数の方向からの光を入射させ、その反射光を合成することでのみ埋め込んだ情報を再生できる。
【0020】
また、本発明に係る識別方法によれば、通常の一方向のみから光が照射される状態において識別用情報が得られなく、少なくとも2方向以上から光を照射した場合であって、かつ、それらの反射光を読み取って演算処理することにより識別用情報が得られるので、真偽判定のための情報が微細構造体という視認できる情報であっても、容易に解読することはできない。
【0021】
これにより、本発明に従えば、一目では判別が困難である識別情報が強靭な形態で光学機能面へ付与された光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施の形態の一例に用いる光学部材を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の一例に用いる光学部材の構成を側面より説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の一例に用いる光学部材を説明する斜視図である。
【図4】図3の光学部材の構成を平面より説明する図である。
【図5】図3の光学部材の構成を側面より説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の一例を示す光学部材を説明する斜視図である。
【図7】図6の本発明に係る光学部材の構成を側面より説明する図である。
【図8】本発明に係る分割情報と識別情報との関係を説明する図である。
【図9】本発明に係る分割情報と識別情報との関係を説明する図である。
【図10】(a),(b)は、本発明に係る二値化された情報(分割情報)の一例を示す図である。
【図11】本発明に係る識別情報再生装置の構成を示す図である。
【図12】本発明に係る真贋判定装置の構成を示す図である。
【図13】本発明に係る光学部材に形成された複数の微小構造体の配置状態を示す電子顕微鏡写真(SEM画像)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の光学部材は、その表面の一部または全体に周期的に配列された光学ユニットを備え、その光学ユニットは、光を透過または反射する機能を有する複数の斜面を備えている。前記光学部材は、通常、板状、シート状またはフィルム状の成形体である。
【0024】
光学ユニットの反射機能を用いる場合には、材質は金属、樹脂等種々のものが利用できる。一方、光学ユニットの透過機能を用いる場合には、材質はガラス、透明樹脂等の透明材料が好適に用いられる。特に成形性に優れる点から樹脂が好ましい。アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)などが好適に用いられる透明樹脂の一例として例示される。
【0025】
光学ユニットが備える複数の斜面は、目的とする機能により適宜選択可能である。光学ユニットの好ましい一例には、プリズムまたは多角錘が例示される。光学ユニットを形成する複数の斜面は、一次元状に連続して配列されていてもよいし、隣接する光学ユニットの斜面と互いに独立して配列されていてもよい。
【0026】
一次元状に連続して配列された一例は、図1、図2に示されプリズムシート(光学部材)の場合である。図1、図2において、符号10は、光学部材としてのプリズムシートであり、このプリズムシート10は、透明基材シート11の一方の面(図において上面)に三角柱形状の単位プリズム12を、その稜線12Aが平行になるように隣接して一次元方向に多数配列してプリズム面13が形成されている。
【0027】
ここで、図1のプリズムシート10では、隣接する単位プリズム12が互いに接している例であり、また、図2のプリズムシート10では、隣接する単位プリズム12が互いに離間して配設されている例である。いずれの場合にも、単位プリズム12は、所定のピッチP12により周期的に配設されている。ここで、これらのピッチP12は、一様であるのが好ましいが異なってもよい。また、このピッチP12が一様でない場合(ピッチP12が異なる場合)であっても、規則的に配設されているのが、後述する光学部品の製造工程を考慮する場合には好ましい。
【0028】
このプリズム12は、二つの斜面14、15を備えている。ここで、これらの斜面14,15は、後述する微細構造体1(図6、図7参照)が占有する面積に対して十分に広い面積を有している。例えば、稜線12Aから透明基材シート11までの距離で定義される斜面の長さL12は、一般に5μmよりも長く、また、透明基材シート11から稜線12Aまでの高さh12は、一般に5μmよりも高い。また、一つのプリズム12から隣接するプリズム12までの距離により定義されるピッチP12は、10μmよりも大きく、また、斜面14と透明基材シート11の一面との成す角度により定義される傾斜角α12は、5〜85°の範囲内であり、通常20〜70°の範囲内である。
【0029】
一方、隣接する光学ユニットの斜面と互いに独立して配列された、いわゆる二次元配列された例は、四角錐状、六角錘状、又は八角錐状などの多角錘の例である。多角錘が四角錘である一例は、図3〜図5に示されている。これらの図3〜図5において、符号20は、プリズムシートであり、このプリズムシート20は、透明基材シート21の一方の面(図において上面)に四角錘状の単位プリズム22が突起状に配列されている。その突起状の頂点22Aが平面方向(二次元方向)に隣接して多数配列してプリズム面23が形成されている。
【0030】
この単位プリズム22は、図4に示すように、四つの斜面24、25、26、27を備えている。図5に示すように、頂点22Aから透明基材シート21までの距離で定義される長さL22は、一般に5μmよりも長く、また、透明基材シート21から頂点22Aまでの高さh22は、一般に5μmよりも高い。
【0031】
また、一つのプリズム22から隣接するプリズム22までの距離により定義されるピッチP22は、10μmよりも大きく、また、斜面24と透明基材シート21の一面との成す角度により定義される傾斜角α22は、5〜85°の範囲内であり、通常20〜70°の範囲内である。単位プリズム22は、図3〜図5のように互いに接していてもよいが、図2に示されるプリズムシート10の場合と同様に、単位プリズム22同士が離間されて配設されていてもよい。
【0032】
次に、一次元状に連続して配列された一例である場合を例にとり、本発明の詳細を説明する。
【0033】
図6、図7に示すように、プリズムシート10の二つの斜面14,15のそれぞれには、顕微鏡で拡大して識別可能な大きさである複数個の微小構造体1が配設されている。一つの微小構造体1の面積S1は、4μm(又は一辺2μm以上)以上0.04mm(又は一辺200μm以下)以下であり、また、その微小構造体1の深さまたは高さh1は1μm以上5μm以下である。
【0034】
本発明においては、微小構造体1が光学ユニットの機能を損なうことが無い又は少ないことが必要である。この目的のために好ましい面積S1は、0.01mm以下(または一辺100μm以下)であり、また、微小構造体1の好ましい高さまたは深さh1は2μm以下である。
【0035】
また、本発明において微小構造体1が光学ユニットの機能を損なうことが無い又は少ないことが必要であり、この目的のために占める斜面の面積に対する微小構造体の面積の割合は極めて小さく、例えば1%以下である。
【0036】
本発明においては、上記の微小構造体1を小さな点(ドット)としてその複数個をマトリクス状(ドットの集合)として配置している。これにより、微小構造体1が付与された斜面に向けて光を照射して得られる反射光は、識別用の情報源として機能する。このような微小構造体1をマトリックス状として配設させるピッチP1,P2(図6参照)は、付与する分割情報が確認できるものであるように任意に決定できる。
【0037】
図1、図2に示したピッチP12(又は図5に示したピッチP22)が一様である場合、単位プリズム12(又は22)のピッチ方向の微小構造体1が付与されるピッチP1は、単位プリズム12(又は22)のピッチP12(又はP22)と等しいか又は整数倍(例えば、同倍、2倍〜10倍)であるのが好ましい。例えば、図6に示す例では、微小構造体1が付与されるピッチP1は、単位プリズム12のピッチP12の2倍(整数倍)に設定されることにより、互いに同一方向に向けて配設される斜面14、斜面14に向けて分割情報としての情報を配設することができる。
【0038】
これに対し、単位プリズム12(又は22)の稜線12A(又は22A)方向のピッチピッチP2は、ピッチP1と同等であってもよく、また異なっていてもよい。いずれの場合もそれらの微小構造体1の複数個が小さな点(ドット)のマトリクス(ドットの集合)として配置されることにより、照射された反射光が識別可能となることは必要である。
【0039】
ここで、本発明においては、この微小構造体1が付与されている斜面に対して1方向だけから光を当てて反射した反射光は、識別用の情報源ではあるが、その情報のみでは、そのままでは直ちに真贋を特定できる識別情報としては不十分である。すなわち、微小構造体1が付与されている斜面に向けて一方向からだけの光を照射して得られる反射光では識別用の情報としては機能せず、微小構造体1に向けて少なくとも2方向以上よりそれぞれ別に光を照射したときに反射するそれぞれの反射光を演算処理することにより真贋を特定できる識別情報としては識別できることが必要である。
【0040】
このような条件を満たす情報源乃至は識別情報として、照射する光の方向が2方向である場合を例にして以下に説明する。
【0041】
第1の例では、図8に示すように、識別可能な文字の例(識別情報)として「正」の字を想定する。
【0042】
そして、一方の斜面14に、「正」の字の一部(情報源=分割情報1)が反射光として読み取りできるように構成し、他方の斜面15に、「正」の字の残部(分割情報2)が反射光として読み取りできるように構成する。斜面14からの反射光から読み取られた分割情報1と、斜面15からの反射光から読み取られた分割情報2のいずれか一方の情報では、どのような文字であるかを識別することはできないが、それぞれの情報源を加算処理(分割情報1+分割情報2)することにより、正しい「正」の文字(識別情報)として識別可能となる。
【0043】
他の一例では、図9に示すように、識別可能な文字の例(識別情報)として「化」の字を想定する。
【0044】
そして、一方の斜面14に、「囮(おとり)」の字(分割情報1)が反射光として読み取りできるように構成し、他方の斜面15に、「□(おとり文字の国構え:分割情報2)」が反射光として読み取りできるように構成する。
【0045】
斜面14からの反射光からは「囮(おとり)」の文字が認識され、また、斜面15からの反射光からは「ロ(カタカナのロの文字のような図形)が認識されるが、斜面14からの反射光から読み取られた分割情報1から、斜面15からの反射光から読み取られた分割情報2を減算(分割情報1−分割情報2)することにより、図9に示すように、実際の識別情報としての「化」の文字(識別情報)が認識される。これらの各分割情報1,2は、一方だけは意味のない情報となり、真贋を模倣する者に対しての解読を困難としている。
【0046】
ここで、上記の一例では、文字を対象としたが、識別が可能であれば文字に限定されずに任意の図形であってもよいことはいうまでもない。
【0047】
また、上記した加算処理や減算処理以外にも、乗除処理を用いることができる。乗除処理の場合には、2つの斜面14,15にそれぞれ埋め込まれた識別情報(微小構造体1)としての文字や図形等の分割情報に対して、各斜面14,15に対して光を照射させてその反射光を第1、第2の各読み取り装置32a,32b(図6参照)でそれぞれ読み取った後、その読み取り情報を二値化する。第1、第2の各読み取り装置32a,32bでの二値化は、例えば、前記反射光をグリッド状に細分化されたディテクタ(不図示)で受光し電圧に変換された信号から算出したり、前記反射光をCCDカメラで受光し、得られた画像から輝度の検出有無により算出することができる。
【0048】
図10(a)は、斜面14側の反射光から得られた二値化された情報(分割情報1)の一例であり、図10(b)は、斜面15側の反射光から得られた二値化された情報(分割情報2)の一例である。
【0049】
そして、図10(a),(b)に示すような二値化された2つの情報(分割情報)を演算装置31(図11参照)で乗算又は除算する演算を行う場合、例えば、二値化された2つの情報の3隅のアライメントマーク(3隅の斜線部分)で精度よく位置合わせすることで、再現性よく演算することが可能となる。この演算によって、正しい文字や図形等の識別情報を再生することができる。なお、この演算としては、論理和(or)、排他的論理和(xor)、論理積(and)を用いることができる。
【0050】
上記したように、本発明においては前記微小構造体1が斜面14,15のそれぞれに付与されていることにより、これらの斜面14,15のそれぞれに向けて光を照射してその反射光を、識別用の情報源(分割情報)として読み取る。
【0051】
例えば、図6において、第1の照射光学投影系31aより斜面14に向けて照射された照射光L1は斜面14で反射され、その反射光は第1の読み取り装置32aにより分割情報1として読み取られる。また、第2の照射光学投影系31bにより斜面15に向けて照射された照射光L2は斜面15で反射され、その反射光は第2の読み取り装置32bにより分割情報2として読み取られる。
【0052】
これらの別々に読み取られた分割情報1,2は、それぞれ単独では識別用の情報としては機能しないが、2つの分割情報1,2から埋め込まれた識別情報や、真贋を特定するための情報源として利用される。
【0053】
図11は、本発明に係る実施の形態の識別情報再生装置30の構成を示す概略図である。この識別情報再生装置30は、第1、第2の各照射光学投影系31a,31bと、第1、第2の各読み取り装置32a,32bと、演算装置33と、表示装置34を備えている。なお、第1、第2の各照射光学投影系31a,31bと、第1、第2の各読み取り装置32a,32bは、図6に示したものと同じである。
【0054】
図11に示す識別情報再生装置30では、CCDカメラなどの第1、第2の各読み取り装置32a,32bによりそれぞれ読み取られた上記分割情報1,2は演算装置33に入力される。そして、演算装置33では、所定の演算処理(例えば、加算処理(図8の例)、減算処理(図9の例)、乗除処理(図10の例)など)が行われ、正しい文字や図形等の識別情報が再現される。そして、演算装置33の演算処理で再現された識別情報は、液晶ディスプレイなどの表示装置34に表示されることで、正しい文字や図形等の識別情報をユーザに視認させることができる。
【0055】
図12は、本発明に係る実施の形態の真贋判定装置40の構成を示す概略図である。この真贋判定装置40は、上記した識別情報再生装置30の演算装置33内に真贋を判定する真贋判定部33aを有している以外は識別情報再生装置30と同様の構成である。
【0056】
図12に示す真贋判定装置40では、CCDカメラなどの第1、第2の各読み取り装置32a,32bによりそれぞれ読み取られた上記分割情報1,2は演算装置33に入力される。そして、演算装置33では、所定の演算処理(例えば、加算処理(図8の例)、減算処理(図9の例)、乗除処理(図10の例)など)が行われ、正しい文字や図形等の識別情報が再現された後に、この再現された識別情報は、真贋判定部33aに入力される。
【0057】
そして、真贋判定部33aは、予め記憶されている真贋判定用識別情報と入力された識別情報とを比較し、両方の情報が一致していると判定した場合は、この識別情報が埋め込まれているプリズムシート(光学部材)は偽造されたものではなく正規のもの(本物)であると判定する。なお、真贋判定部33aは、予め記憶されている真贋判定用識別情報と入力された識別情報とを比較し、両方の情報が一致していないと判定した場合は、この識別情報が埋め込まれているプリズムシート(光学部材)は偽造されたもの(偽物)であると判定する。
【0058】
そして、真贋判定部33aで上記した真贋判定が行われると、この判定結果に応じて液晶ディスプレイなどの表示装置34に、例えば、「本物である」あるいは「偽物である」と表示されることで、ユーザに真贋の判定を高い精度で知らせることができる。
【0059】
このように、本発明の真贋判定装置40によれば、プリズムシート(光学部材)の各斜面に微小構造体で形成された埋め込み情報(分割情報1,2)を反射光としてそれぞれ読み込み、更に読み込んだこれらの埋め込み情報を加算処理や減算処理、もしくは乗除処理を行うことで、正しい識別情報として再生し、再生した識別情報と予め記憶されている真贋判定用識別情報とを比較して、真贋判定を行う構成である。
【0060】
従って、複数の微小な埋め込み情報(分割情報1,2)を精度よく所定位置に形成することは難しいので、偽造防止効果が高く、真贋の判定を高い精度で行うことが可能となる。また、仮に複数の埋め込み情報(分割情報1,2)をそれぞれ読み込んでも意味のない情報が得られるだけであり、見た目にはどのような真贋判定処理を行っているか分からないので、偽造防止効果が高く、真贋の判定を高い精度で行うことが可能となる。
【0061】
次に、上述した埋め込み情報(分割情報1,2)が微小構造体のマトリックスとして配設された光学部材の製造方法の好ましい一例について説明する。
【0062】
本願発明の好ましい光学部材の製造方法では、光反応性樹脂を使用した露光法が用いられる。このような、光反応性樹脂を使用した露光法による光学部材の製造方法としては既に知られている方法をそのまま用いることができる。
【0063】
このような露光法には、フォトマスクを使用して光反応性樹脂を選択的に感光させるマスク露光法、レーザ光を、任意に光強度を変えながら照射して光反応性樹脂を選択的に感光させるレーザ描画法などが知られている。本発明においては、より微細な選択を可能とするレーザ描画法を使用することが望ましい。
【0064】
上記方法により、光反応性樹脂を感光させた基板を現像することにより、機能面に微小構造体からなる記号または文字を同時に有する凹凸構造を作製することができる。また、この基板にメッキを施すことにより、金型を作製し、該金型を使用して樹脂成形品を得ることで光学部材が得られる。
【0065】
また、液晶モニタや液晶TV等に用いられる導光板又はプリズムシート等の光学部材において、上記微小構造体を識別情報源として付与することにより、光学的機能を実質的に損なうことなく、文字又は記号状に識別情報源を配置し、ロット管理等に使用することができる。更に、プリズムシート、レンズアレイシート等の光学部材に対し、当発明による上記微小構造体からなる識別情報源を付与することで、真性の金型を識別し、偽造防止を図ることができる。
【実施例】
【0066】
(レジスト塗布、ベーキング)
厚み6mmのガラス基板の表面に感光性樹脂としてポジ型のレジスト(例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ社製:AZP4400)を20μmの厚さで塗布した後、ホットプレートにて(熱源から9mmのクリアランスを取って、)温度95℃で90分のベーキング処理を施す。
【0067】
(露光)
次に、感光性樹脂層であるフォトレジストにレーザ描画装置を用いて光強度を調整しながらスキャニング露光しパターニングを行う。パターン斜面の露光量の設定は、フォトレジストに与える露光量と現像時にフォトレジストを溶解する膜厚特性を用いて、直線的な斜面となるように選択して行った。
【0068】
露光後に処方にしたがい加熱、現像、リンス、乾燥処理を行うことにより、図1又は図2に示したプリズム形状を有する潜像が得られた。この潜像は、例えば、図2において、傾斜角度α12が+35°および−35°の二つの斜面14,15が25.6μmのピッチで周期的に繰り返された構造に対応するものであり、その頂点までの高さh12は7μmである。
【0069】
(埋め込み情報の露光)
そして、前記レーザ描画装置を用い、上記した2つの斜面において例えば縦40mm×横70mmの大きさのエリアのみ、光強度を調整しながら埋め込み情報(識別情報)のスキャニング露光を行う。このときの埋め込み情報の条件は、例えば、レーザ波長413nm、対物レンズNA0.7、スキャンピッチ32μm、スキャン速度1.6μm/msecの設定とした。
【0070】
埋め込み情報(識別情報)は、プリズムの場合は斜面が2つあるため、埋め込む情報を予め2つに分けておき、それぞれの斜面に別々に露光する。一つの埋め込み用情報は、2×5μmの四角形の集合体で表現し、四角形のピッチは縦方向に100μm、横方向に153.6(25.6×6)μmとした。
【0071】
(現像)
そして、露光が終わったガラス基板をアルカリ現像液に10分間浸漬し、露光された部分が溶解することでベースとなるプリズム形状と埋め込み情報である四角形の集合体が形成された。
【0072】
(電鋳)
そして、現像後の前記ガラス基板にニッケル導電膜を賦与し、電気メッキすることで埋め込みパターンを有するプリズムスタンパを作製した。このプリズムスタンパをベースプリズムの2つの斜面それぞれから観察すると、露光した際に埋め込んだ2つの情報(識別情報)を別々に識別することができた。
【0073】
(成形)
上記板状の金型から、ポリカーボネートフィルムを基材に用い、光硬化性樹脂を金型に押し付けて複製した転写フィルムを作製し、その形状を観察したところ、ピッチ25.6μm、高さ7μm、斜面角度35°のプリズム形状を転写していることを確認した。また、微細凹凸形状の転写も確認された。図13にこのプリズムの微細凹凸形状部分における形状を示す。
【0074】
上記転写フィルムを角度を変えながら反射光を読み取り装置に入射させることにより、情報源(分割情報)としての図形乃至文字情報の一部を認識できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したとおり、本発明によれば、識別用の文字、画像などを、単独では識別できない情報として複数に分割したものを視覚的に認証できない微小構造体という形態でプリズムなどの斜面に埋め込み、さらに微細構造体が付与されている複数の斜面に複数の方向からの光を入射させて得られる反射光を合成することで、埋め込んだ情報を再現できるため、使われている原理が分かりにくく偽造防止効果を高めることができる。
【0076】
また、ベースとなる光学ユニットとしてのプリズム等の平坦な斜面を有する構造体、情報となる微細構造体ともにレーザ描画法により微細かつ高精度に作製するため、入反射光の制御性、イメージの制御性が高く偽造防止に適している。
【0077】
これにより、本発明によれば、領域全体が光学的な機能を有する機能面においても記号または文字を形成することができ、該記号または文字を用いてロット管理または複製防止を行うことができる。また、本発明に係る光学部材は、真贋判定が行える光学部材のみならず、文字が識別可能となるので、ロッド管理の代替としても利用できる。
【0078】
また、本願発明に適用可能な光学部材としては、明細書中に例示されたプリズムシートや多角錘プリズムシートに限定されずに、例えば、マイクロレンズシート、レンチキュラーシートなどに適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 微小構造体
10、20 プリズムシート(光学部材)
11、21 透明基材シート
12、22 単位プリズム
13、23 プリズム面
14、15、24〜27 斜面
30 識別情報再生装置
31a 第1の照射光学投影系
31b 第2の照射光学投影系
32a 第1の読み取り装置
32b 第2の読み取り装置
33 演算装置
33a 真贋判定部
34 表示装置
40 真贋判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過又は反射する機能を有する複数の斜面を備える光学ユニットが周期的に多数配列された光学部材であって、
前記複数の斜面のそれぞれには、複数個の微小構造体が周期的または非周期的に配設され、
前記微小構造体が付与された斜面に向けて光を照射して反射した反射光は、識別用の情報ではあるが、少なくとも1方向だけから光を当てて反射したそれぞれの反射光からだけでは識別用の情報としては機能せず、
前記微小構造体に向けて少なくとも2方向以上から光を照射したときに、反射する各方向の反射光を読み取って演算処理することにより真贋を特定できる識別情報として識別できることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記微小構造体は、面積が4μm以上0.04mm以下、深さ又は高さが1μm以上5μm以下に形成して複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
光学ユニットは、プリズム又は多角錘であって、その斜面が平坦であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学部材を用いた識別方法であって、
前記微小構造体が付与された斜面に少なくとも一方向だけから光を当てて反射した反射光を読み取っても前記識別用情報が確認できず、
前記微小構造体が付与された斜面のそれぞれに対して少なくとも2方向以上から光を当てたときに、反射する各方向の反射光を読み取って演算処理することで前記識別用情報が確認できる場合は真正品であると真偽判定をすることを特徴とする光学部材の識別方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光学部材の斜面に向けて光を照射しその反射光を読み取って識別情報を再生する識別情報再生装置であって、
前記複数の斜面に向けて照射光を照射する少なくとも二つの照射光投影系と、
前記各照射光投影系により照射されて前記複数の斜面で反射されたそれぞれの反射光を読み取る読み取り装置と、
前記読み取り装置からの信号に基づきそれぞれ予め定められた演算処理を行って前記斜面に埋め込まれている埋め込み情報を再生する演算手段と、
前記演算手段により演算された結果を表示する表示手段と、
を備えていることを特徴とする識別情報再生装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の光学部材の真贋を判定するための真贋判定装置であって、
前記複数の斜面に向けて照射光を照射する少なくとも二つの照射光投影系と、
前記各照射光投影系により照射されて前記複数の斜面で反射されたそれぞれの反射光を読み取る読み取り装置と、
前記読み取り装置からの信号に基づきそれぞれ予め定められた演算処理を行って前記斜面に埋め込まれている埋め込み情報を再生する演算手段と、
再生された前記埋め込み情報と予め記憶されている情報とを比較することで真贋を判定する真贋判定手段と、
を備えていることを特徴とする真贋判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−101257(P2013−101257A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245578(P2011−245578)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】